説明

炎症性腸疾患予防・治療剤

【課題】本発明の目的は炎症性腸疾患の予防・治療剤もしくは病態の悪化、即ち、緩解期から活動期への移行阻止、再燃を防止する有効成分を見出すことである。また、炎症性腸疾患の予防・治療効果と共に、安全性・嗜好性にも優れ、食事療法に用いた場合でも、患者への負担がかからないものを見出すことをも目的としている。
【解決手段】本発明は、酪酸菌とセロオリゴ糖とを有効成分とすることを特徴とする炎症性腸疾患予防・治療剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口投与することにより、炎症性腸疾患を予防および、または、治療するための炎症性腸疾患予防・治療剤に関する。具体的には、酪酸菌とセロオリゴ糖とを有効成分として含有する炎症性腸疾患の予防・治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)は、潰瘍性大腸炎及びクローン病に代表される、大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症や潰瘍を引起こす原因不明の疾患の総称であり、厚生労働省より特定疾患に指定されている。10〜20歳代の若年者に多く発症し、病気は再燃と緩解を繰り返す。ここ10年間で国内患者数が5倍と急増し、2007年現在、国内患者数は10万名を超えている。
【0003】
その原因は、腸内に棲む細菌のバランスが崩れたことが、大腸炎の発症や症状の進行に関わってくるのではないかという細菌説、人間の免疫機構が体の一部であるはずの大腸粘膜を敵と認識して攻撃し、破壊しているという自己免疫異常説が言われている。又、本疾患は北欧や米国の白人やユダヤ人に多いことから、食生活が関与しているという説や、ストレスが大きく関与している説など様々であるが、はっきりとした原因はわかっていない。
【0004】
炎症性腸疾患に対し、現在根本的な治療方法は確立されておらず、薬物療法(スルファサラジン、5−ASA(メサラジン)のサルファ剤、プレドニゾロンを中心としたステロイド剤、アザチオプリンなどの免疫抑制剤などを病期に応じて段階的に使用)および栄養療法(完全静脈栄養療法、経腸栄養療法、食事療法)が用いられている。
【0005】
軽症の患者では5−ASA製剤の飲み薬による治療が基本的なものになり、重症の患者や全身症状を伴う中等症例ではステロイドの大量療法や免疫抑制剤、その他新しい治療法を行うことになり、多くの場合急性期は入院治療が必要となる。
【0006】
5−ASA製剤には従来から用いられてきたサラゾスルファピリジン(略号:SASP、商品名:サラゾピリン)と最近発売されたメサラジン(商品名:ペンタサ)があるが、SASPによく見られる副作用としては、アレルギー症状、発疹、消化器症状、頭痛がある。
【0007】
副腎皮質ステロイドは強力な炎症抑制作用を有し、5−ASA製剤と並び潰瘍性大腸炎の治療の中心となっており、プレドニゾロンやベタメタゾンなどが主に使われている。潰瘍性大腸炎の治療においては内服、静脈内投与のほかに坐薬(商品名:リンデロン坐剤)や注腸(商品名:ステロネマ)も用いられる。さらに重症型や劇症型に対して周期的に大量のステロイドを静脈内投与するパルス療法や腸間膜動脈内注入療法なども行われている。副腎皮質ステロイドの主な副作用としては体重の増加、顔のむくみ、にきび、不眠などがあり、他に糖尿病、骨がもろくなる、感染症にかかりやすくなるなどの重篤な副作用がみられることがある。
【0008】
潰瘍性大腸炎は多くの免疫学的異常が認められることから、自己免疫性疾患であると考えられており、免疫の異常な働きを抑える免疫抑制剤を投与する治療法もある。アザチオプリン(商品名:イムラン)や6−MP(商品名:ロイケリン)という免疫抑制剤の少量投与を行う場合がある。
【0009】
又、GBF(発芽大麦から調製された食物繊維とたんぱく質を主成分とするもの)といった軽症〜中等症の潰瘍性大腸炎患者を対象にした病者用食品も販売されているが、不溶性のため患者への負荷が大きく、その効果も十分でない。
【0010】
腸内発酵により生成される短鎖脂肪酸(SCFA)は腸管運動を活発にし、便秘などが改善する作用を有する。大腸の上皮細胞はSCFAの主要な構成成分である酢酸、プロピオン酸および酪酸を主要なエネルギー源として利用する。とりわけ酪酸は、細胞増殖に深くかかわっており、大腸粘膜の粘膜防御能の維持に中心的な役割を果たしている。酪酸はTh1反応を抑え、炎症性腸疾患の治療効果を生むといった報告もある。
【0011】
このため、腸内の酪酸濃度を上昇させる試みが数多くなされてきた。例えば、オリゴ糖の一種であるラクチトールを実験飼料に5%添加し、ラットに3週間摂取させたところ、盲腸内容物に含まれる酪酸の濃度が上昇したという報告(Yanahira, S. et al.: J. Nutr. Sci. Vitaminol, 41: 83−94, 1995(非特許文献1))があるが、酪酸濃度は十分ではない。
【0012】
この様に、炎症性腸疾患に対して、現在さまざまな治療法の開発が進められているが、残念ながら、まだ根本的に治すことのできる治療法は発見されておらず、このため炎症性腸疾患を予防・治療することが大きな課題となっている。
【0013】
【非特許文献1】Yanahira, S. et al.: J. Nutr. Sci. Vitaminol, 41: 83−94, 1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、炎症性腸疾患の予防・治療剤もしくは病態の悪化、即ち、緩解期から活動期への移行阻止、再燃を防止する有効成分を見出すことである。また、炎症性腸疾患の予防・治療効果と共に、安全性・嗜好性にも優れ、食事療法に用いた場合でも、患者への負担がかからないものを見出すことをも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、数ある生菌剤の中でも酪酸を産生して整腸作用に優れる酪酸菌と、酪酸菌の基質となり酪酸産生を助長するセロオリゴ糖を共投与する事により、優れた炎症性腸疾患予防・治療効果が得られることを見出したものであり、これらを有効成分とする炎症性腸疾患予防・治療剤を提供するものである。
【0016】
すなわち本発明は、下記の〔1〕及び〔2〕を提供するものである。
〔1〕 酪酸菌1重量部に対して、セロオリゴ糖を0.05重量部以上1重量部未満の割合で含有することを特徴とする炎症性腸疾患予防・治療剤。
〔2〕 酪酸菌がクロストリジウム・ブチリカムである〔1〕記載の炎症性腸疾患予防・治療剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明の炎症性腸疾患予防・治療剤をヒトに給与すれば、大腸部位での酪酸菌を増加させ酪酸含量を高めることが出来、腸管上皮細胞を健全な状態に維持することが出来る。その結果、炎症性腸疾患の予防・治療能が高まる事に加え、大腸癌や大腸疾患の予防にもつながり、健康の維持・増進をする事が出来る。また、有効成分のひとつであるセロオリゴ糖は天然物であり、ヒトに投与しても副作用はほとんどなく、安全性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の炎症性腸疾患予防・治療剤は、プロバイオティクスとして酪酸菌を、プレバイオティクスとしてセロオリゴ糖を含有するものであり、腸管粘膜の健全な状態を維持する効果を有する。
【0019】
本発明の予防・治療剤の有効成分の第一は、酪酸菌である。一般に、プロバイオティクスとしては、ビフィズス菌(Bifidobacteriumu sp.)、乳酸菌(Lactobacillus sp.)、酪酸菌(Clostridiumu butyricum)等が用いられている。乳幼児の腸内菌叢はビフィズス菌等の有用菌が優勢であるが、加齢と共に有用菌が減少し腐敗菌の割合が増加する。このため腐敗菌の抑制や有用菌の増加を目的に、ビフィズス菌や乳酸菌など多くの種類の生菌剤がプロバイオティクスとして用いられている。しかしながら、ビフィズス菌や乳酸菌は、経口摂取しても、胃液や胆汁などの酸に耐性がなく、生きたまま腸まで届くのはごくわずかに過ぎない。又、一部定着したとしても摂取を中止すれば、腸内菌叢はまた腐敗菌優勢のフローラに戻ってしまうといった問題もある。これに対し、酪酸菌は、好気下では芽胞を形成し、経口的に投与された後、胃内において、蛋白消化液ペプシンと胃酸による低pH環境とに暴露されるが、芽胞として抵抗性のある酪酸菌は死滅することなくここを通過し、十二指腸に到達する。そこでpH中性付近まで上昇し、食物は各種の消化液により消化され、栄養に富んだ環境が作られた後、酪酸菌は発芽増殖の機会を得る。経口摂取しても、胃液や胆汁で消化されることもなく、胞子状態のまま大腸に届き、嫌気性の大腸内で発芽増殖して酪酸を産生することができる。
【0020】
本発明で用いる酪酸菌は、偏性嫌気性の芽胞形成性であり、酪酸を生成する菌であればいかなる菌種でも良い。中でもクロストリジウム属が好ましく、とりわけブチリカム種が好ましい。更に好ましくは、クロストリジウム・ブチリカムMIYAIRI(ミヤイリ)株が良い。この菌株は、1933年に千葉医科大学衛生学教室(現 千葉大学医学部)宮入近治博士により、ヒト腸管内より、腐敗菌に対して強い拮抗作用がある酪酸菌として報告された。本菌は腐敗菌をはじめとした種々の消化管病原体に対して拮抗作用を有し、BifidobacteriaやLactobacillus等の所謂腸内有用菌と共生することにより、整腸効果を発揮する。また、本菌は芽胞形成細菌であることから、製剤中における安定性および胃酸に対する抵抗性が乳酸菌群と比較し、高いことが報告されている。
【0021】
本発明において用いる酪酸菌としては、例えば、クロストリジウム・ブチリカムNIP1006、クロストリジウム・ブチリカムNIP1015、クロストリジウム・ブチリカムNIP1017、クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ588が挙げられ、中でも特に酪酸産生能が高いクロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ588(CBM588)(FERM BP−2789)が好ましい。クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ588は、通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所(日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号(郵便番号305))[現在、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1−1−1 中央第6)に改称されている。]に、1981年(昭和56年)5月1日付で寄託されており、その受託番号は、FERM BP−2789である(昭和47年5月16日に寄託された微工研菌寄第−P 1467号より移管)。
【0022】
本発明の炎症性腸疾患予防・治療剤においては、酪酸菌は、市販の生菌剤、例えばミヤリサン錠、ミヤBM錠(いずれもミヤリサン製薬(株)製)などを用いても良いし、酪酸菌を適当な培地で液体培養した後、菌体を分離しそのまま用いてもよいし、乾燥して乾燥菌体として用いてもよい。市販の生菌剤を用いる場合は、含まれる酪酸菌の純度や含有量などを考慮し、下記の菌数が含まれるよう配合量を調整する。
【0023】
本発明の予防・治療剤においては、有効成分の第2としてセロオリゴ糖を用いる。
セロオリゴ糖は、フラクトオリゴ糖などに比べ、腸内の酪酸菌に特に選択的に資化され、酪酸菌の増殖に対し効果が大きいため、酪酸の生成量増加につながる。また、酸性下での安定性も高い。従って、本発明の予防・治療剤において、プレバイオティクスとして有効に作用する。
【0024】
本発明において、セロオリゴ糖は、グルコースが2糖以上β−1,4結合したオリゴ糖である。セロオリゴ糖は通常様々な重合度のオリゴ糖の混合物であるが、単一或いは特定の範囲の重合度のもののみに精製されたものであってもよい。前記オリゴ糖の中でも、本発明においては、グルコース重合度が2〜6のセロビオース、セロトリオース、セロテトロース、セロペンタオース、セロヘキサオースのうちの少なくとも1種を豊富に含むことが好ましく、特にセロビオース、セロトリオース、およびセロテトロースのうちの少なくとも1種を豊富に含むことが好ましく、さらに、セロビオースおよびセロトリオースのうちの少なくとも1種を豊富に含むことが好ましい。具体的には、グルコース重合度が2〜6のセロオリゴ糖の含有率が、50重量%以上、特に80重量%以上、中でも90重量%以上であることが好ましい。そして更に、セロビオースの含有率が70重量%以上、好ましくは85重量%以上、より好ましくは90%重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上であることが望ましい。尚、セロオリゴ糖の立体異性については特に問わないが、一般にD体であることが多い。
【0025】
本発明で用いられるセロオリゴ糖は、公知の方法で製造することができる。例えば、化学的方法としては、発煙塩酸−濃硫酸によりセルロースを酸加水分解後、カーボンカラム等によりセロオリゴ糖を分画分取する方法(Miller,G.L,Methods in Carbohydrate Chemistry III(Academic Press),134(1963))等が知られている。
【0026】
酵素的な方法としては、アモルファスなセルロースにセルビブリオ(Cellvibrio)属に属する微生物が生産するセルラーゼを作用させ、限外濾過反応器を組み合わせることにより生成物阻害を解除してセロオリゴ糖を生成させる方法(特開平1−256394号公報参照)、セルラーゼ中のβ−グルコシダーゼを選択的に除去したセルラーゼをセルロースに作用させて、セロオリゴ糖を製造する方法(特開平5−115293号公報参照)、湿潤状態の未晒しサルファイトパルプを原料にセルラーゼを作用させる系で限外濾過装置を組み合わせ、セロビオースを含むセロオリゴ糖を作る方法(特公平8−2312号公報参照)等が知られている。
【0027】
又、糖質加リン酸分解酵素(セロデキストリンホスホリラーゼ)の逆反応を利用し、グルコース1リン酸をグルコース供与体として、セロビオースの存在下でセロオリゴ糖を製造する製法も知られている(Journal of Fermentation and Bioengineering,vol.77,No.3,239−242(1994))。
【0028】
本発明の予防・治療剤におけるセロオリゴ糖としては、上記のいずれかの方法により製造されたもののほか、市販のもの(CMS Chemicals社等)も用いることができる。本発明においては、セルロースをセルラーゼを用いてセロオリゴ糖に分解し、晶析工程などを経てグルコース重合度が2〜4のセロオリゴ糖の純度を高める方法が好適である。
【0029】
さらに、セロオリゴ糖は、酪酸菌の基質になるだけでなく、その他にも特有の生理作用を有する。例えば、脂質代謝への影響については、セロビオースを添加した高蔗糖食でラットを4週間飼育したところ、対照群と比べて体脂肪率が低下し、総コレステロールや中性脂肪も低下することが報告されている(渡辺隆司,Cellulose Commun.,5,91(1998))。また、ブロイラーや産卵鶏にセロビオースを添加した飼料を与えることにより、脂肪酸合成酵素活性が抑制され、脂肪酸分解酵素活性が上昇することが報告されている(石田藍子、村上斉、山崎誠、大塚誠、眞許勝弘、本間秀彌、金井幸雄、高田良三、日本畜産学会第103回大会講演要旨集,52(2004)、石田藍子、大塚誠、勝俣昌也、高田良三、金井幸雄、日本畜産学会第104回大会講演要旨集,69(2005))。このように、セロビオースは、酪酸菌の基質となり、酪酸の生成に効果を発揮するのみでなく、それ自体も生体内の脂質代謝に好影響を及ぼし、生活習慣病予防に役立つと考えられている。本発明の予防・治療剤においてもこれらのセロビオース特有の優れた生理作用もあわせて発揮されるものと推測される。
【0030】
また、本発明者らは、各種腸内細菌のうち、酪酸菌であるクロストリジウム属の細菌が良好にセロオリゴ糖を資化できること、特に、クロストリジウム・ブチリカムは良好にセロオリゴ糖を資化できるとともに、酪酸産生能も高いことを確認した。
【0031】
実際にヒト糞便中において、セロオリゴ糖を添加した場合に選択的に酪酸菌が増殖するかどうか観察するために、糞便懸濁液を調製し、これにコーンスターチもしくはセロオリゴ糖を添加し酪酸菌を接種、培養した結果、セロオリゴ糖添加液は、対照のコーンスターチ添加液と比較して、pHは顕著に低下し、酪酸菌が増殖していることが観察された。
【0032】
さらに、セロオリゴ糖を3日間自由に摂取させたラットに酪酸菌を投与し、その腸管内容物中の酪酸菌の菌数を調べたところ、セロオリゴ糖摂取ラットの方が非摂取ラットよりも腸内の酪酸菌の菌数の多いことが確認された。
【0033】
これらの実験結果は、消化管内においてセロオリゴ糖が常在腸内細菌により資化されず、併用した酪酸菌のみに選択的に資化されること、セロオリゴ糖と酪酸菌とを配合した組成物は、その菌数増大をもたらすことを示すものである。
【0034】
本発明の治療・予防剤は、炎症性腸疾患の予防や治療に有用である。腸としては胃・消化管であればすべて含まれる意味である。炎症性の疾患であればよく、その原因についてはウイルスなどの感染、外傷、免疫疾患等特に問わない。炎症性腸疾患の代表的なものとして潰瘍性大腸炎(大腸、盲腸、虫垂、結腸、直腸、結腸、肛門)、クローン病(小腸、大腸、直腸、胃、十二指腸など)などを挙げることができる。
【0035】
本発明の予防・治療剤における酪酸菌およびセロオリゴ糖の配合量は、患者の年齢、疾患の症状に応じて、適宜、増減が可能である。
【0036】
酪酸菌の量については、特別の制限はないが、典型的には、菌数として一日当たり1×10〜1×1010CFU(コロニー形成単位)の範囲であり、好ましくは、1×10〜1×10CFUの範囲が適当である。この投与量を目安に、一日の投与回数との関係で、本発明の予防・治療剤中の酪酸菌量を適宜調整すればよい。
【0037】
一方、セロオリゴ糖の配合量は、酪酸菌の基質となり、プレバイオティクスとして整腸作用を助長するために必要な量の範囲とすることができるが、セロオリゴ糖を過剰に摂取すると軟便を引き起こす可能性があることも考慮して定める必要がある。セロオリゴ糖の1日の最大摂取量は、体重1Kgに対し、0.36g程度とした方が好ましい。通常、本発明の予防・治療剤においては、セロオリゴ糖は、本発明の炎症性腸疾患予防・治療剤においては、セロオリゴ糖は0.1〜30重量%含有させることができ、好ましくは1.0〜10重量%が適当である。
【0038】
本発明の予防・治療剤の投与方法は、1日、1回〜3回食後に服用することが好ましいが、適宜服用することも可能である。
【0039】
本発明の予防・治療剤において、セロオリゴ糖と酪酸菌の配合比率(重量比)は、酪酸菌(乾燥菌末)1重量部に対して、セロオリゴ糖を0.05重量部以上1重量部未満、好ましくは0.2重量部以上1重量部未満が適当である。酪酸菌とセロオリゴ糖の重量比が上記の範囲を満たさない場合、セロオリゴ糖と酪酸菌との併用効果を得ることができない。
【0040】
本発明の予防・治療剤の製造は、例えば以下のような方法で行うことができる。
公知のCS培地(特開昭59−187784号公報参照)によって培養した酪酸菌を、遠心分離により固液分離し得た菌ペーストを乾燥し得た乾燥菌末に、セロオリゴ糖を添加し、練合機で均一になるまで練合する。次に真空乾燥を行う。真空乾燥の条件は、具体的には例えば、棚式真空乾燥機により50℃下、5時間、10mmHgとすることができる。得られた乾燥物を粉砕機により粉砕して該組成物を得た。このようにして、乳白色で均質な細粒状でほとんど無味無臭の組成物を得ることができる。
【0041】
本発明の炎症性腸疾患予防・治療剤は、ヒトに適用することができる。また、幼児から高齢者まですべての年齢のヒトに制限なく用いることができると共に、健康状態、体格などについても特に制限はない。
【0042】
本発明の予防・治療剤の投与方法は特に限定されないが、酪酸菌とセロオリゴ糖を混合し、下記の剤形の具体例で説明するように、錠剤、タブレット等にして経口投与してもよいし、粉状又は顆粒状にして投与してもよい。また、酪酸菌とセロオリゴ糖を個別の粉末その他の製剤として、添加または投与時には同時に利用する形としても良い。
【0043】
本発明の炎症性腸疾患予防・治療剤として、酪酸菌および成分の粉末を製剤化せずに用いることができるが、散剤、顆粒剤、細粒剤、錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、エンテリックコーティング剤等に製剤化してもよい。希釈剤には、一般の医薬品製剤に使用される賦形剤、結合剤、崩壊剤等が用いられ、これに加えて着色剤、矯味剤、安定化剤、保存剤、滑沢剤等を添加しても良い。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]大腸炎に対する酪酸菌及びセロビオースの効果
〔実験群〕
ラット(Wistar系8週齢オス(SLC))をA群、B群、C群、BT群およびコントロール群の5つの実験群に分けた。
Control群(6匹):生理食塩水
BT群(4匹):宮入菌乾燥菌末60mg
A群(4匹):宮入菌乾燥菌末60mg+セロオリゴ糖15mg
B群(4匹):宮入菌乾燥菌末60mg+セロオリゴ糖60mg
C群(4匹):宮入菌乾燥菌末60mg+セロオリゴ糖150mg
尚、宮入菌乾燥菌末、セロオリゴ糖としては、下記のものを使用した。
・宮入菌乾燥菌末:クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ588(FERM BP−2789)、生菌数1×107/60mg〜1×108/60mg
・セロオリゴ糖:セロビオース96重量%、グルコース2重量%およびセロトリオース2重量%からなるもの。
【0046】
〔投与方法〕
BT群、A群、B群、C群は、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)投与前1週間から、上記組成の投与組成物を1匹/1回/日で16日間投与した。Control群は生理食塩水を同様に投与した。すべての実験区について、3%DSS液を投与組成物の投与後7日目から、8日間自由飲水投与させ、大腸炎を誘発した。餌もすべての実験区において共通とし、マウス、ラット、ハムスター用の飼育繁殖用飼料CLEA Rodent Diet CE−2(日本クレア)を自由摂取させた。解剖後、大腸の重量、長さ、ビラン面積を測定した。尚、CLEA Rodent Diet CE−2の使用原材料は以下の通りである:大豆粕、ホワイトフィッシュミール、酵母、胚芽、大豆油、フスマ、脱脂米ヌカ、アルファルファミール、小麦粉、トウモロコシ、マイロ、ビタミン類、ミネラル類。
各実験区におけるそれぞれの結果を図1、図2、図3に示す。
【0047】
〔試験結果〕
各実験区を構成する個体の大腸の長さ、大腸の重さ、ビラン面積の測定結果は、下記のカッコ内に列挙する通りであった。また、各測定項目の、各実験区における平均値をグラフ化したものを図1、図2、図3に示す。
【0048】
大腸の長さ(cm)(図1)
Control群(14.0,16.0,14.0,16.0,15.5,17.0)
BT群(16.0,15.0,16.5,15.0)
A群(15.5,17.0,15.0,17.0)
B群(15.5,14.0,15.0,17.5)
C群(13.0,16.5,14.0,14.0)
【0049】
大腸の重さ(g)(図2)
Control群(1.30,1.67,1.69,1.95,1.59,2.26)
BT群(1.61,1.65,1.70,1.40)
A群(1.47,2.02,1.72,1.51)
B群(1.44,1.64,2.00,2.09)
C群(1.90,1.95,1.48,2.00)
【0050】
ビラン面積(cm2)(図3)
Control群(9.78,9.69,11.76,12.43,6.76,−.−)
BT群(7.34,9.78,9.39,6.98)
A群(6.83,6.50,6.39,9.04)
B群(9.97,8.61,7.77,14.26)
C群(6.39,13.93,16.47,10.12)
【0051】
一般に大腸に潰瘍が形成されると長さが縮み、重量が大きくなる。大腸の重量については、各群で有意差は見られなかったものの(図2)、大腸長さについては、A群で増加傾向が見られた(図1)。ビラン面積は、A群はControl群と比較して有意に減少しており(p<0.05)、また、他の実験群と比較して大幅に減少していた(図3)。このことから、酪酸菌(クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ588)とセロオリゴ糖との所定の重量比での組み合わせが、大腸炎の予防、治療に有効であることが実証された。
【0052】
[参考例1]宮入菌のセロオリゴ糖資化性
宮入菌(酪酸菌)のセロオリゴ糖資化性について他の腸内細菌と比較した。
供試菌株は、宮入菌(Clostridium butyricum MIYAIRI 588(FERM BP−2789))、枯草菌(Bacillus subtilis JCM 2499)、ビフィズス菌(Bifidobacterium adolescentis JCM1275)、乳酸菌(Lactobacillus casei JCM1134)の4菌株とした。
【0053】
供試培地は、下記の基礎培地にセロオリゴ糖(セロビオース96重量%、グルコース2重量%、セロトリオース2重量%)を1重量%添加しpH7.0に調整したもの(PYC培地)を用いた。
【0054】
(基礎培地)PY培地
Pepton 0.5g
Trypticase 0.5g
Yeast extract 1.0g
Salts solution 4.0ml
Distilled water 100.0ml
Hemin solution 1.0ml
Vitamin K1 0.02ml
Cysteine HCl−HO 0.05g
【0055】
前培養した各菌株を、初発菌数が約105CFU/mlとなるようにPYC培地に接種した。対照としてPY培地に接種した。宮入菌、ビフィズス菌、乳酸菌は嫌気培養し、枯草菌は好気培養と嫌気培養をした。培養温度は37℃とした。尚、各菌の前培養については、以下の通りである。宮入菌は、GAM brothに接種後、37℃で6時間培養した。枯草菌、ビフィズス菌、乳酸菌は、GAM brothに接種後、37℃で16時間培養した。
【0056】
セロオリゴ糖を代謝したときに産生される有機酸の産生量によって各菌株の資化性を比較した。培養開始から0,6,12,24,48時間後にサンプルを採取しHPLCによって有機酸を測定した。PYC培地中の有機酸から同じ培養時間のPY培地中の有機酸を引いたものを算出し、有機酸の産生量とした。表1に、それぞれ培養開始から一定時間(6時間、12時間、24時間、48時間)後の各細菌による有機酸産生量(mM)を示した。
【0057】
【表1】

【0058】
参考例2 酪酸菌の難消化性オリゴ糖類利用能
酪酸菌のさまざまな難消化性オリゴ糖類の利用能を、in vitroで検討した。
【0059】
〔試験方法〕
下記の組成からなる培地に下記のオリゴ糖類を1種類1.0g加えpH7.2に調整し、滅菌してから使用した。
【0060】
(培地組成)
・バクトペプトン 1.0g
・酵母エキス 1.0g
・Salts solution 4.0ml
・システイン 0.05g
・水 100ml
【0061】
(使用したオリゴ糖類)
・セロオリゴ糖(セロビオース96重量%、グルコース2重量%、セロトリオース2重量%)
・フラクトオリゴ糖(和光純薬工業(株))
・ガラクトオリゴ糖(オリゴメイト;ヤクルト薬品工業(株))
【0062】
〔試験方法〕
C.butyricum MIYAIRI 588(CBM588)(FERM BP−2789)のコロニーを、上記オリゴ糖類を加えた培地10mlに接種し37℃48時間嫌気培養した。培養は3回行った。そして、培養液を6000rpm 10分間遠心し、上清を0.5μmのメンブレンフィルターで濾過した後、液体クロマトグラフィー(有機酸分析システム;島津製作所)で分析した。
【0063】
〔結果〕
表2にCBM588が産生した有機酸濃度を示した。全ての培地でCBM588が増殖し有機酸を産生していた。また、有機酸の中では、フラクトオリゴ糖を添加した培地を除いてはどのオリゴ糖を添加した培地でも、酪酸が最も多く産生され、とりわけセロオリゴ糖が酪酸の産生量が一番多かった。
【0064】
【表2】

【0065】
図4に、CBM588が産生した有機酸の割合を示した。有機酸全体に占める酪酸産生量の割合は、フラクトオリゴ糖を添加した培地を除いてはどのオリゴ糖を添加した培地でも一番多く、中でもセロオリゴ糖が60%近くと突出して多かった。
【0066】
以上の結果から、CBM588は、今回使用した全ての難消化性オリゴ糖類を炭素源として利用し代謝産物である有機酸を産生することができ、特にセロオリゴ糖を炭素源とすると、他のオリゴ糖を炭素源とするよりも酪酸を多く生産することが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、実施例1における各実験区の大腸の重量の平均値を示す図である。
【図2】図2は、実施例1における各実験区の大腸の長さの平均値を示す図である。
【図3】図3は、実施例1における各実験区の大腸のビラン面積の平均値を示す図である。
【図4】図4は、参考例2におけるCBM588の有機酸の産生割合を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酪酸菌1重量部に対して、セロオリゴ糖を0.05重量部以上1重量部未満の割合で含有することを特徴とする炎症性腸疾患予防・治療剤。
【請求項2】
酪酸菌がクロストリジウム・ブチリカムである請求項1記載の炎症性腸疾患予防・治療剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−84215(P2009−84215A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256146(P2007−256146)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(502368059)日本製紙ケミカル株式会社 (86)
【出願人】(000114282)ミヤリサン製薬株式会社 (8)
【Fターム(参考)】