説明

炭化珪素焼結体の製造方法

【課題】常温下と高温下の双方の雰囲気下においても、高強度を有する炭化珪素焼結体を製造する方法を提供する。
【解決手段】アチソン炉を用いて、粒子内にシリカとカーボンの各々が全体的に分布しており、かつ、B及びPの各々の含有率が1ppm以下である、シリカとカーボンからなる粒子を加熱して、炭化珪素粉末を得る、炭化珪素粉末製造工程と、得られた炭化珪素粉末を焼結して、炭化珪素焼結体を得る、焼結工程を含む、炭化珪素焼結体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アチソン炉を用いて得られる炭化珪素粉末を用いた炭化珪素焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素焼結体は、軽量で剛性が高く、熱膨張が小さいことや、高温下でも優れた機械特性を有するため、様々な産業分野で構造材料として注目されている。
炭化珪素焼結体の製造方法としては、常圧焼結法、反応焼結法、及び加圧焼結法等が挙げられる。中でも、常圧焼結法は、緻密質、高強度、及び複雑形状の焼結体を効率的に、かつ、多量に製造することができる。
しかし、炭化珪素は共有結合性が強く、難焼結性であることから、常圧焼結法を用いて焼結体を製造するためには、炭化珪素の粉体に焼結助剤を加える必要がある。例えば、炭化珪素粉末に焼結助剤として炭素およびホウ素を添加することで、常圧下で炭化珪素の焼結体を得ることができる。
一方、焼結助剤を添加すると、製造後の焼結体の強度が、高温下において著しく低下するという問題があった。焼結助剤の添加量を減少することができれば、SiC固有の優れた性質を有し、かつ、高温下においても高強度を有する焼結体を得ることができる。
【0003】
この点、原料である炭化珪素粉末の粒径が小さければ、焼結活性が高いため、焼結助剤の量を減少させることができる。例えば、特許文献1には、積層無秩序構造を持つ平均粒径が0よりも大きく100nm以下のSiC粒子と不可避不純物とから成る被焼結粉末を焼結して成り、相対密度99.40〜99.99%、平均径10〜500nmで断面数密度が1〜70個/μmの残留ポアを有し、α−SiC構造、β−SiC構造、α−SiCとβ−SiCとの混合構造から選択される構造を有する焼結体が記載されている。
また、原料である炭化珪素粉末が高純度であれば、SiC固有の優れた性質を有する焼結体を得ることができる。
高純度、かつ、粒径の小さい炭化珪素粉末を得る方法として、気相反応法が知られている。しかし、気相反応法を用いるとコストが高くなるという問題があった。さらに、気相法で得られた炭化珪素粉末であっても、常圧焼結法で焼結を行うためには、焼結助剤(例えば、ホウ素)の添加は必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−232614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、常温下と高温下の双方の雰囲気下においても、高強度を有する炭化珪素焼結体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アチソン炉を用いて、シリカとカーボンからなる特定の粒子を加熱して、炭化珪素粉末を得た後、該炭化珪素粉末を焼結することで、前記の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]を提供するものである。
[1] アチソン炉を用いて、粒子内にシリカとカーボンの各々が全体的に分布しており、かつ、B及びPの各々の含有率が1ppm以下である、シリカとカーボンからなる粒子を加熱して、炭化珪素粉末を得る、炭化珪素粉末製造工程と、得られた炭化珪素粉末を焼結して、炭化珪素焼結体を得る、焼結工程を含む、炭化珪素焼結体の製造方法。
[2] 上記シリカとカーボンからなる粒子が、粒子内のいずれの地点においても、シリカの含有率が90質量%以下であり、かつ、カーボンの含有率が10質量%以上である、前記[1]に記載の炭化珪素焼結体の製造方法。
[3] 上記シリカとカーボンからなる粒子中の、Al、Fe、Mg、Ca、及びTiの含有率が、各々、5ppm以下、5ppm以下、5ppm以下、5ppm以下、1ppm以下である、前記[1]または[2]に記載の炭化珪素焼結体の製造方法。
[4] 上記炭化珪素粉末中の、B、P、Al、Cu、Fe、Mg、Ni、Ti、及びOの含有率が、各々、0.1ppm以下、0.1ppm以下、1.0ppm以下、0.5ppm以下、1.0ppm以下、0.5ppm以下、0.5ppm以下、1ppm以下、0.5%未満である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の炭化珪素焼結体の製造方法。
[5] 上記焼結工程において、焼結助剤として、C、B、Al、Y、及びCaからなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含有する焼結助剤を用いる、前記[1]〜[4]のいずれかに記載の炭化珪素焼結体の製造方法。
[6] 上記焼結工程における焼結が、常圧焼結、または加圧焼結によって行われる前記[1]〜[5]のいずれかに記載の炭化珪素焼結体の製造方法。
[7] 前記[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法によって得られた炭化珪素焼結体からなる成型品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、常温下と高温下の双方の雰囲気下においても、高強度を有する炭化珪素焼結体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】アチソン炉の長手方向の断面図である。
【図2】アチソン炉の長手方向に垂直な方向の断面図である。
【図3】合成例1において、得られたシリカとカーボンの混合物の写真を簡易に表した図である。
【図4】合成例1において、EPMA分析により得られた試料中のカーボンの含有率を示す写真を簡易に表した図である。
【図5】合成例1において、EPMA分析により得られた試料中のシリカの含有率を示す写真を簡易に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の炭化珪素焼結体の製造方法を詳しく説明する。
本発明の炭化珪素焼結体の製造方法は、アチソン炉を用いて、粒子内にシリカとカーボンの各々が全体的に分布しており、かつ、B及びPの各々の含有率が1ppm以下である、シリカとカーボンからなる粒子を加熱して、炭化珪素粉末を得る工程と、得られた炭化珪素粉末を焼結して、炭化珪素焼結体を得る工程を含む。
本発明の製造方法で用いられるシリカとカーボンからなる粒子は、粒子内にシリカとカーボンの各々が全体的に分布しており、かつ、ホウ素(B)及びリン(P)の各々の含有率が1ppm以下のものである。
また、上記シリカとカーボンからなる粒子中のアルミニウム(Al)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、及びチタン(Ti)の含有率は、好ましくは、各々、5ppm以下、5ppm以下、5ppm以下、5ppm以下、1ppm以下である。
上記シリカとカーボンからなる粒子は、粒子内にシリカとカーボンの各々が全体的に分布しているため、加熱時の反応性が高く、高純度の炭化珪素(SiC)粉末を得ることができる。具体的には、粒子内のいずれの地点においても、シリカの含有率が好ましくは90質量%以下、より好ましくは60〜90質量%、かつ、カーボンの含有率が、好ましくは10質量%以上、より好ましくは10〜40質量%である。また、粒子内のシリカの含有率が60〜80質量%であり、かつ、カーボンの含有率が20〜40質量%である部分が50体積%以上であるシリカとカーボンからなる粒子が好ましい。
不純物(B、P等)を上記範囲内とすることで高純度の炭化珪素粉末を製造することができる。
さらに、上記シリカとカーボンからなる粒子中の、シリカとカーボンの合計の含有率は、好ましくは99.0質量%以上、より好ましくは99.5質量%以上、特に好ましくは99.9質量%以上である。
上記シリカとカーボンからなる粒子の大きさは特に限定されるものではないが、粒子の長径が、通常、500μm以下であり、好ましくは400μm以下であり、より好ましくは300μm以下である。
上記シリカとカーボンからなる粒子の、カーボン(C)とシリカ(SiO)の混合モル比(C/SiO)は、好ましくは2.5〜4.0、より好ましくは2.8〜3.6、特に好ましくは2.9〜3.3である。該混合モル比は、炭化珪素粉末の組成に影響を与える。カーボンとシリカの混合モル比が2.5未満、または4.0を超えると、炭化珪素粉末中に未反応のシリカやカーボンが多く残存してしまうため、好ましくない。
【0011】
以下、本発明の製造方法に用いられるシリカとカーボンからなる粒子の製造方法を詳しく説明する。
なお、本明細書中において、シリカとカーボンの混合物とは、上述したシリカとカーボンからなる複数の粒子からなる集合体をいう。
さらに、以下の工程(A1)〜工程(E)中、工程(B)及び(C)は、上記シリカとカーボンからなる粒子を得るために必須の工程であるが、工程(A)は、シリカ含有鉱物を原料としてケイ酸アルカリ水溶液を調製する場合に追加される工程であり、工程(A1)、(A2)、(B1)、(D)及び(E)工程は、必須ではなく、任意で追加可能な工程である。
[工程(A1);原料水洗工程]
工程(A1)は、シリカ含有鉱物(岩石状又は粉末状)を水洗して、粘土分及び有機物を除去する工程である。水洗後のシリカ含有鉱物は、通常、フィルタープレス等を用いて、さらに脱水させる。
シリカ含有鉱物としては、珪藻土、珪質頁岩等が挙げられる。シリカ含有鉱物は、アルカリに対する溶解性が高いことが望ましい。
ここで、珪藻土とは、珪藻が海底や湖底に沈積し、長い年月の間に体内の原形質その他の有機物が分解し、非晶質シリカを主体とした珪藻殻が集積して堆積したものである。
珪質頁岩とは、珪質の生物遺骸等に由来する頁岩である。すなわち、海域には、珪質の殻を有する珪藻などのプランクトンが生息するが、このプランクトンの死骸が海底中に堆積すると、死骸中の有機物の部分は徐々に分解され、珪質(SiO;シリカ)の殻のみが残る。この珪質の殻(珪質堆積物)が、時間の経過や温度・圧力の変化などに伴い、続成作用により変質して、硬岩化することにより珪質頁岩となる。なお、珪質堆積物中のシリカは、続成作用によって、非晶質シリカから、結晶化してクリストバライト、トリデイマイトへ、さらに石英へと変化する。
【0012】
珪藻土は、主に非晶質シリカであるオパールAからなる。珪質頁岩は、オパールAより結晶化が進んだオパールCTまたはオパールCを主に含む。オパールCTとは、クリストバライト構造とトリディマイト構造からなるシリカ鉱物である。オパールCとは、クリストバライト構造からなるシリカ鉱物である。このうち、本発明では、オパールCTを主とする珪質頁岩が好ましく用いられる。
さらに、Cu−Kα線による粉末X線回折において、石英の2θ=26.6degのピーク頂部の回折強度に対するオパールCTの2θ=21.5〜21.9degの回折強度は、石英を1とした場合の比率で0.2〜2.0の範囲が好ましく、0.4〜1.8の範囲がより好ましく、0.5〜1.5の範囲が特に好ましい。該値が0.2に満たない場合には、反応性に富むオパールCTの量が少ないため、シリカの収量が低下する。一方、該値が2.0を超える場合には、オパールCTの量が石英よりはるかに多くなり、このような珪質頁岩は資源的に少なく、経済性に劣る。
なお、石英に対するオパールCTの回折強度の比率は、以下の式で求める。
石英に対するオパールCTの回折強度の比率=(21.5〜21.9degのピーク頂部の回折強度)/(26.6degのピーク頂部の回折強度)
また、珪質頁岩のCu−Kα線による粉末X線回折において、オパールCTの2θ=21.5〜21.9degの間に存在するピークの半値幅は0.5°以上が好ましく、0.75°以上がより好ましく、1.0°以上がさらに好ましい。該値が0.5°未満では、オパールCTの結晶の結合力が増大し、アルカリとの反応性が低下して、シリカの収量が減少する。ここで、半値幅とは、ピーク頂部の回折強度の1/2に位置する回折線の幅をいう。
本発明で用いる珪質頁岩は、シリカ(SiO)の含有率が70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。このような珪質頁岩を用いることにより、より高純度のシリカを低コストで製造することができる。
シリカ含有鉱物は、例えば、珪質頁岩等のシリカ含有鉱物を粉砕装置(例えば、ジョークラッシャー、トップグラインダーミル、クロスビーターミル、ボールミル等)で粉砕することによって得ることができる。
[工程(A2);原料焼成工程]
工程(A2)は、シリカ含有鉱物を300〜1000℃で0.5〜2時間焼成し、有機物を除去する工程である。
なお、工程(A1)と工程(A2)の双方を実施する場合、その順序は特に限定されない。
【0013】
[工程(A);アルカリ溶解工程]
工程(A)は、シリカ含有鉱物とアルカリ水溶液を混合して、pHが11.5以上のアルカリ性スラリーを調製し、液分中のSi濃度が10質量%以上となるように、上記シリカ含有鉱物中のSiを液分中に溶解させた後、上記アルカリ性スラリーを固液分離して、ケイ酸アルカリ水溶液と、固形分を得るアルカリ溶解工程である。
ここで、本明細書中、ケイ酸アルカリ水溶液とは、化学式中にシリカ(SiO)を含む物質を含有するアルカリ性の水溶液をいう。
シリカ含有鉱物とアルカリ水溶液を混合してなるアルカリ性スラリーのpHは、11.5以上、好ましくは12.5以上、より好ましくは13.0以上となるように調整される。該pHが11.5未満であると、シリカを十分に溶解させることができず、シリカが固形分中に残存してしまうため、得られるシリカの収量が減少する。
pHを上記数値範囲内に調整するためのアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が用いられる。
スラリーの固液比(アルカリ水溶液1リットルに対するシリカ含有鉱物の質量)は、好ましくは100〜500g/リットル、より好ましくは200〜400g/リットルである。該固液比が100g/リットル未満では、スラリーの固液分離に要する時間が増大するなど、処理効率が低下する。該固液比が400g/リットルを超えると、シリカ等を十分に溶出させることができないことがある。
スラリーは、通常、所定時間(例えば、30〜90分間)攪拌される。
攪拌後のスラリーは、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離される。液分は、Si及び他の成分(Al、Fe等の不純物)を含むケイ酸アルカリ水溶液であり、次の工程(B1)または工程(C)で処理される。液分中に含まれるSiの濃度は、10質量%以上、好ましくは10〜20質量%、より好ましくは12〜18質量%、特に好ましくは13〜16質量%である。Siの濃度が10質量%未満であると、後述する工程(C)においてゲル状のカーボン含有シリカが析出する場合があり、固液分離に時間がかかるとともに、得られるシリカとカーボンの混合物の量が低下する。
なお、本工程においてアルカリ性スラリーを得る際の液温は、エネルギーコストの観点から、5〜100℃に保持されることが好ましく、10〜80℃に保持されることがより好ましく、10〜40℃に保持されることが特に好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、処理効率を高めることができる。
【0014】
[工程(B1);不純物回収工程]
本工程は、工程(A)で得られたケイ酸アルカリ水溶液と酸を混合して、pHを10.3を超え、11.5未満であり、かつ液分中のSi濃度が10質量%以上のアルカリ性スラリーを調製し、液分中のSi以外の不純物(例えば、Al及びFe)を析出させた後、上記アルカリ性スラリーを固液分離して、ケイ酸アルカリ水溶液と、固形分を得る工程である。
なお、本工程で回収されずに液分中に残存する不純物は、工程(C)以降の工程で回収される。
本工程において、酸との混合後の液分のpHは、10.3を超え、11.5未満、好ましくは10.4以上、11.0以下、特に好ましくは10.5以上、10.8以下である。該pHが10.3以下であると、不純物(例えば、Al及びFe)と共にSiも析出してしまう。一方、該pHが11.5以上では、十分に析出せずに液分中に残存する不純物(例えば、Al及びFe)の量が多くなる。
また、酸と混合後の液分中に含まれるSiの濃度は、10質量%以上、好ましくは10〜20質量%、より好ましくは12〜18質量%、特に好ましくは13〜16質量%である。Siの濃度が10質量%未満であると、後述する工程(C)においてゲル状のカーボン含有シリカが析出する場合があり、固液分離に時間がかかるとともに、得られるシリカとカーボンの混合物の量が低下する。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸、シュウ酸等が用いられる。
pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離する。
このうち、固形分(ケーキ)は、不純物(例えば、Al及びFe)を含むものである。
液分は、Siを含むものであり、後述する工程(C)で処理される。
なお、本工程においてpH調整を行う際の液温は、エネルギーコストの観点から、5
〜100℃に保持されることが好ましく、10〜80℃に保持されることがより好ましく、10〜40℃に保持されることが特に好ましい。液温を上記範囲内とすることにより、処理効率を高めることができる。
【0015】
[工程(B);カーボン混合工程]
本工程は、液分中のSi濃度が10質量%以上のケイ酸アルカリ水溶液とカーボンを混合して、カーボン含有ケイ酸アルカリ水溶液を得る工程である。
本工程において用いられるケイ酸アルカリ水溶液は、特に限定されないが、具体的には前工程(工程(A)または工程(B1))で得られたケイ酸アルカリ水溶液、及び水ガラス等が挙げられる。
本発明で用いられる水ガラスは、市販のものを使用することができ、JIS規格により規定される1号、2号、3号の他に各水ガラスメーカーで製造販売されているJIS規格外の製品も使用することができる。
ケイ酸アルカリ水溶液中に含まれるSiの濃度は、10質量%以上、好ましくは10〜20質量%、より好ましくは12〜18質量%、特に好ましくは13〜16質量%である。Si濃度が10質量%未満であると、ゲル状のカーボン含有シリカが析出する場合があり、固液分離に時間がかかるとともに、得られるシリカとカーボンの混合物の量が低下する。
Si濃度が20質量%を超えると、ケイ酸アルカリ水溶液のハンドリング(輸送等)が悪化するとともに、不純物の除去が不十分となる場合がある。
本発明で用いられるカーボンは特に限定されるものではないが、例えば石油コークス、石炭ピッチ、カーボンブラック、各種有機樹脂等が挙げられる。
カーボンの粒度は好ましくは5mm以下であり、より好ましくは2mm以下である。粒度が5mmを超える場合、不純物の除去が不十分となる場合がある。
なお、工程(B)の前に、カーボンを上記の粒度範囲にまで粉砕する工程を含んでもよい。
混合方法は特に限定されるものではないが、ケイ酸アルカリ水溶液にカーボンを加える方法が好ましい。
工程(B)においてカーボンを混合することによって、得られるシリカとカーボンの混合物中のカーボン由来の不純物の量を大幅に低減することができる。また、後述する工程(C)において、内部にカーボンが均一に取り込まれたカーボン含有沈降性シリカを析出することができる。
【0016】
[工程(C);シリカ回収工程]
本工程は、工程(B)で得られたカーボン含有ケイ酸アルカリ水溶液と、10体積%以上の濃度の鉱酸を混合して、液分中のC及びSiを非ゲル状のカーボン含有沈降性シリカとして析出させ、沈降性シリカ含有液状物を得た後、該液状物を固液分離して、C及びSiOを含む固形分(シリカとカーボンの混合物)と、不純物を含む液分を得る工程である。
なお、カーボン含有沈降性シリカは、カーボン含有ケイ酸アルカリ水溶液と、鉱酸との混合と同時に生成する。
本工程において用いられる鉱酸は、例えば硫酸、塩酸、硝酸等が挙げられ、硫酸を用いることが薬剤コストの低減の観点から好ましい。
鉱酸の濃度は、10体積%以上、より好ましくは10〜20体積%、特に好ましくは10〜15体積%である。鉱酸の濃度が、10体積%未満の場合には、カーボン含有沈降性シリカが生成しない、あるいはカーボン含有沈降性シリカとゲル状のカーボン含有シリカの両方が生成するおそれがある。このゲル状のカーボン含有シリカが生成すると、最終生成物中の不純物の濃度が高くなる。また、20体積%を超えるとコストの面から好ましくない。
カーボン含有ケイ酸アルカリ水溶液と鉱酸の混合方法は、特に限定されるものではないが、カーボン含有沈降性シリカのみを生成させる観点から、カーボン含有ケイ酸アルカリ水溶液を鉱酸に添加する方法が好ましい。具体的には、カーボン含有ケイ酸アルカリ水溶液を鉱酸に滴下する方法や、カーボン含有ケイ酸アルカリ水溶液を、1.0mmφ以上、好ましくは4.0mmφ以上のチューブ等から、鉱酸中に直接押し出す方法等が挙げられる。
また、混合する際のpHは好ましくは1.0以下、より好ましくは0.9以下に保つことが望ましい。pHが1.0を超えるとカーボン含有シリカがゲル状で析出する場合があり、固液分離に時間がかかるとともに、得られるシリカとカーボンの混合物の量が低下する。
また、カーボン含有ケイ酸アルカリ水溶液の鉱酸中への流出速度は限定されないが、混合する際にpHが1.0を超え、かつ流出速度が大きい場合には、カーボン含有沈降性シリカが生成しない、あるいはカーボン含有沈降性シリカとゲル状のカーボン含有シリカの両方が生成するおそれがある。
本工程において、カーボン含有ケイ酸アルカリ水溶液と鉱酸を混合する際のカーボン含有沈降性シリカの析出温度は、特に限定されるものではないが、好ましくは10〜80℃、より好ましくは15〜40℃、特に好ましくは20〜30℃であり、通常、常温(例えば10〜40℃)である。80℃を超えると、エネルギーコストが上昇するとともに、設備の腐食が生じ易くなる。
上記カーボン含有ケイ酸アルカリ水溶液中のC及びSiをカーボン含有沈降性シリカとして析出させた後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、C及びSiOを含む固形分と、不純物を含む液分に分離する。得られたカーボン含有沈降性シリカはゲル状ではなく、粒子状であるため、固液分離に要する時間を短くすることができる。
工程(C)で得られたC及びSiOを含む固形分は、Al、Fe、Mg、Ca、TiB、P等の不純物が低減されたシリカとカーボンの混合物である。
また、得られたシリカとカーボンの混合物は、粒子内にシリカとカーボンの各々が全体的に分布している粒子からなるため、焼成時の反応性が高く、容易に高純度の炭化ケイ素やシリコンを得ることができる。
【0017】
なお、工程(C)において、カーボン含有ケイ酸アルカリ水溶液及び鉱酸の少なくともいずれか一方と過酸化水素を混合してもよい。
過酸化水素を混合することで、不純物(特にTi)が低減されたシリカとカーボンの混合物を得ることができる。
混合方法は特に限定されるものではなく、(1)カーボン含有ケイ酸アルカリ水溶液と過酸化水素を混合し、次いで得られた混合物と鉱酸を混合する方法、(2)鉱酸と過酸化水素を混合し、次いで得られた混合物とカーボン含有ケイ酸アルカリ水溶液を混合する方法、(3)カーボン含有ケイ酸アルカリ水溶液と鉱酸を混合し、次いで得られた混合物と過酸化水素を混合する方法、(4)カーボン含有ケイ酸アルカリ水溶液と、鉱酸と、過酸化水素を同時に混合する方法が挙げられる。中でも、工程の上流側で不純物(特にTi)の低減を図るという観点から(1)が好ましい。
過酸化水素の添加量は、炭素(C)とシリカ(SiO)の合計質量(100質量%)に対して、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは0.1〜10質量%、特に好ましくは0.1〜5質量%である。過酸化水素の添加量が0.1質量%未満では、不純物(例えばTi)の低減効果が十分ではなく、15質量%を超えると、不純物(例えばTi)の低減効果が飽和状態となる。
【0018】
工程(C)において用いられる鉱酸が硫酸である場合、工程(C)で得られた不純物を含む液分を中和処理することで、液分中の不純物を石膏として析出させ、この石膏をセメントの原料として再利用してもよい。
【0019】
[工程(D);酸洗浄工程]
工程(C)で得られたC及びSiOを含む固形分に対して、適宜、工程(D)(酸洗浄工程)を行うことができる。酸洗浄工程を行うことにより、より不純物が低減されたシリカとカーボンの混合物を得ることができる。
工程(D)は、工程(C)で得られたC及びSiOを含む固形分と酸を混合して、pHが3.0未満の酸性スラリーを調製し、上記固形分中に残存する不純物(例えば、Al、Fe)を溶解させた後、上記酸性スラリーを固液分離して、C及びSiOを含む固形分(シリカとカーボンの混合物)と、不純物(例えば、Al、Fe)を含む液分を得る工程である。
本工程における酸性スラリーのpHは、3.0未満、好ましくは2.0以下である。酸性スラリーのpHを上記範囲内に調整して酸洗浄を行うことにより、工程(C)で得られた固形分にわずかに残存するアルミニウム分、鉄分等の不純物を溶解して液分中へ移行させることができ、固形分中のC及びSiOの含有率を上昇させることができるため、さらに不純物が低減されたシリカとカーボンの混合物を得ることができる。
pHを上記数値範囲内に調整するための酸としては、硫酸、塩酸、シュウ酸等が用いられる。
pH調整後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離する。
なお、本工程においてpH調整を行う際の液温は、特に限定されるものではないが、エネルギーコストの観点から、好ましくは10〜80℃、より好ましくは15〜40℃、特に好ましくは20℃〜30℃であり、通常、常温(例えば10〜40℃)である。液温を上記範囲内とすることにより、処理効率を高めることができる。
また、酸洗浄工程後の液分を回収し、工程(C)に用いられる鉱酸、および工程(D)に用いられる酸として再利用してもよい。
【0020】
本発明では、工程(C)における過酸化水素の使用に代えて、または、工程(C)における過酸化水素の使用とともに、工程(D)において、酸と過酸化水素を混合することで、不純物(特にTi)が低減されたシリカとカーボンの混合物を得ることができる。
混合方法は特に限定されるものではなく、(1)工程(C)で得られたC及びSiOを含む固形分と過酸化水素を混合し、次いで得られた混合物と酸を混合する方法、(2)酸と過酸化水素を混合し、次いで得られた混合物と工程(C)で得られたC及びSiOを含む固形分を混合する方法、(3)工程(C)で得られたC及びSiOを含む固形分と酸を混合し、次いで得られた混合物と過酸化水素を混合する方法、(4)工程(C)で得られたC及びSiOを含む固形分と、酸と、過酸化水素を同時に混合する方法が挙げられる。中でも、工程の上流側で不純物(特にTi)の低減を図るという観点から(1)が好ましい。
過酸化水素の添加量は、炭素(C)とシリカ(SiO)の合計質量(100質量%)に対して、好ましくは0.1〜15.0質量%、より好ましくは0.1〜10.0質量%、特に好ましくは0.1〜5.0質量%である。過酸化水素の添加量が0.1質量%未満では不純物(例えばTi)の低減効果が十分ではなく、15.0質量%を超えると、不純物(例えばTi)の低減効果が飽和状態となる。
【0021】
[工程(E);水洗浄工程]
本工程は、前工程(工程(C)または工程(D))で得られたC及びSiOを含む固形分と水を混合して、スラリーを調製し、上記固形分中に残存する不純物を溶解させた後、上記スラリーを固液分離して、C及びSiOを含む固形分(シリカとカーボンの混合物)と、不純物を含む液分を得る工程である。適宜、水洗浄を行うことにより、前工程で得られた固形分にわずかに残存するナトリウム、硫黄等の不純物を溶解して液分中へ移行させることができ、固形分中のC及びSiOの含有率を上昇させることができるため、さらに不純物が低減されたシリカとカーボンの混合物を得ることができる。
水洗浄後、フィルタープレス等の固液分離手段を用いて、固形分と液分に分離する。
本工程で得られた固形分に対して、水洗浄工程をさらに行ってもよい。
また、水洗浄工程後の液分を回収し、工程(A1)、工程(A)、工程(C)、工程(D)、及び工程(E)に用いられる水として再利用してもよい。
【0022】
[他の追加しうる工程]
さらに、本発明において、工程(A)と工程(B)の間で、適宜、イオン交換処理及び/又は活性炭処理を行うことができる。
イオン交換処理及び/又は活性炭処理で回収される不純物は、ホウ素(B)、リン(P)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、ナトリウム(Na)、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、及びマグネシウム(Mg)からなる群より選ばれる一種以上である。
イオン交換処理は、キレート樹脂、イオン交換樹脂等のイオン交換媒体を用いて行なうことができる。
イオン交換媒体の種類は、除去対象元素に対する選択性を考慮して、適宜定めればよい。例えば、ホウ素を除去する場合、グルカミン基を有するキレート樹脂や、N−メチルグルカミン基を有するイオン交換樹脂等を用いることができる。
イオン交換媒体の形態は、特に限定されるものではなく、ビーズ状、繊維状、クロス状等が挙げられる。イオン交換媒体への液分の通液方法もなんら限定されるものではなく、例えばカラムにキレート樹脂またはイオン交換樹脂を充填して連続的に通液する方法などを用いることができる。
イオン交換処理及び/又は活性炭処理を行う際の液温は、各処理に用いる材料の耐用温度以下であれば、特に限定されない。
【0023】
上述の製造方法によって得られたシリカとカーボンからなる粒子を、アチソン炉を用いて加熱すると、炭化珪素が生成する。
アチソン炉を用いることで、他の電気炉等と比べて、安価にかつ大量に、しかも安全に炭化珪素粉末を製造することができる。
また、アチソン炉は、炉が大きく、非酸化性雰囲気下で反応が行われることから、他の電気炉等と比べて、不純物(B、P、O等)の含有率、特に酸素(O)の含有率の低い炭化珪素を得ることができる。
なお、上記「酸素(O)の含有率」とは、炭化珪素中に含まれる金属酸化物を構成する酸素原子の総量を示す。
上記シリカとカーボンからなる粒子をアチソン炉で加熱して得られる炭化珪素は、不純物(B、P、O等)の含有率が低く、高強度の炭化珪素焼結体を得ることができる。
さらに、上記シリカとカーボンからなる粒子は、粒子内にシリカとカーボンの各々が全体的に分布しているため、焼成時の反応性が高く、アチソン炉を用いて炭化珪素を製造する際の消費電力量を低減することができる。
【0024】
以下、本発明で用いられるアチソン炉について、図1及び図2を参照しながら説明する。
図1はアチソン炉4の長手方向の断面図であり、図2はアチソン炉4の長手方向に垂直な方向の断面図である。
アチソン炉4は大気開放型であり、炉本体5の断面が略U字状である炉であり、両端に電極芯3,3を有している。長手方向の中央部には発熱体2が電極芯3,3を結ぶように設置され、発熱体2の周りにはシリカとカーボンの混合物1が充填されている。また、炭化珪素製造用原料1は炉本体5の内部空間にかまぼこ状に収容される。
電極芯3,3間に電流を流し、発熱体2を通電加熱することで、発熱体2の周囲において下記式(1)で示される直接還元反応が起こり、炭化珪素(SiC)の塊状物が生成される。
SiO+3C → SiC+2CO (1)
上記反応が行われる温度は好ましくは1600〜3000℃、より好ましくは1600〜2500℃である。
【0025】
本発明の製造方法に用いられるアチソン炉の発熱体2の種類は特に限定されないが、電気を通すことができればよく、例えば黒鉛粉、カーボンロッドが挙げられる。発熱体中の炭素以外の不純物の含有率(B、P等の含有率の合計)は、好ましくは120ppm以下、より好ましくは70ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下、特に好ましくは25ppm以下である。発熱体中の不純物の含有率を、上記範囲内とすることで、より高純度の炭化珪素粉末を得ることができる。
発熱体の形態は、上述したように電気を通すことができればよく、粉状でも棒状でもよい。また、棒状の場合、該棒状体の形態も特に限定されず、円柱状でも角柱状でもよい。
【0026】
アチソン炉での加熱によって得られた炭化珪素の塊状物を粉砕することで、容易に粒径の小さい高純度の炭化珪素粉末を得ることができる。粉砕方法は特に限定されるものではなく、例えば、ボールミル、振動ミル等の公知の方法が用いられる。
上記炭化珪素粉末の平均粒径は、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.1μm以下、特に好ましくは0.05μm以下である。
炭化珪素粉末の平均粒径が上記範囲内であれば、焼結助剤の添加量を減らすことができると共に、より緻密で、高強度の炭化珪素焼結体を得ることができる。
なお、本明細書において、「炭化珪素粉末の平均粒径」とは、レーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、ベックマンコールター社製、「モデルLS−230」)を用いて粒子の粒径を測定し、その測定された粒子の粒径に基づいて得られた体積累積分布50%における粒径(メジアン径;d50)をいう。
得られた炭化珪素粉末は、炭化珪素の含有率が高く、またB、P、Al、Cu、Fe、Mg、Ni、Ti、Ca等の不純物の含有率が低い炭化珪素粉末である。また、得られた炭化珪素粉末は、酸素(O)の含有率が低い。
具体的には、上記炭化珪素粉末の炭化珪素(SiO)の含有率は、好ましくは99.0質量%以上、より好ましくは99.5質量%以上、特に好ましくは99.9質量%以上である。
上記炭化珪素粉末中の、B、P、Al、Cu、Fe、Mg、Ni、Ti、及びOの含有率は、質量基準で、各々、好ましくは0.1ppm以下、0.1ppm以下、1.0ppm以下、0.5ppm以下、1.0ppm以下、0.5ppm以下、0.5ppm以下、1ppm以下、0.5%未満である。
また、得られた炭化珪素粉末は、目標純度に応じて、さらに鉱酸による洗浄をすることができる。鉱酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等が使用できる。
なお、上記炭化珪素粉末はα型、β型、またはαとβの混合型のいずれでもよい。発熱体周辺の高温側ではα型の結晶が優先的に生成されるが、低温側では、β型の結晶が優先的に生成される。例えば、加熱温度を1600〜1800℃程度に調整することで、β型を多く含む炭化珪素粉末を得ることができる。
【0027】
得られた炭化珪素粉末は、金型成形、ゴム型成形、射出成形、鋳込成形、押出成形等によって、所望の形状に成型された後、各種焼結方法によって焼結されて、炭化珪素焼結体となる。また、それぞれの成形法に適した有機バインダーを成形助剤として加えても良い。
焼結方法は特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ホットプレス焼結法、または熱間等方加圧法(HIP)といった加圧焼結法、必要に応じて焼結助剤を添加した炭化珪素粉末を常圧で焼結する常圧焼結法等が挙げられる。中でも、効率的に、かつ、多量に製造することができる観点から常圧焼結法が好ましい。
【0028】
本発明の製造方法では、必要に応じて炭化珪素粉末に焼結助材を添加しても良い。焼結助剤を添加することで、焼結温度を低下させることができる。
焼結助剤としては、C、B、Al、Y、及びCaからなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含有する焼結助剤を用いることができる。
具体的には、例えば、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y)、酸化カルシウム(CaO)、及びランタノイド元素の酸化物、スピネルなどの複合酸化物、並びに、窒化アルミニウム(AlN)などの窒化物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である。
焼結助剤の添加量は炭化珪素粉末100質量部に対して、好ましくは2〜20質量部、より好ましくは3〜15質量部である。該量が2質量部未満であると、焼結温度低下の効果が少なく、焼結が不十分となる場合がある。該量が20質量部を超えると、得られた焼結体の強度、特に高温下での強度の低下が起こる場合がある。
【0029】
本発明の製造方法で得られた焼結体は、常温下(例えば25℃)で400MPa以上の曲げ強度を有する。また、高温下(例えば1000〜1500℃)において、大きな曲げ強度を維持することができる。
上述した炭化珪素粉末を成型して焼結した炭化珪素の成形品は、例えば、ハンド、真空チャック、ベルジャースペイサー等の半導体製造装置部材、ウェハーボード、マザーボード等の熱処理用治具、露光装置部材、熱交換機、フィルタ等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[分析方法]
(1)B(ホウ素)及びP(リン)の含有率の分析方法
土壌中のB(ホウ素)の分析方法(BUNSEKI KAGAKU VOL47,No7,pp451−454参照)であるアルカリ溶融法によるICP−AES分析に基づいて分析を行った。
具体的には、試料1gおよびNaCO4gを白金ルツボに入れた後、この白金ルツボを電気炉内に載置して700℃で1時間加熱した。次いで1時間ごとに、白金ルツボ内の混合物を撹拌しながら、800℃で4時間加熱し、さらに1000℃で15分間加熱した。加熱後の混合物(融成物)に50質量%のHCl20mlを添加し、ホットプレートを用いて、140℃で10分間融成物をくずしながら溶解した。水を加えて100mlにメスアップした後、ろ過を行い、得られた固形分に対して、ICP−AES分析を行った。
(2)B及びP以外の元素(Al、Cu、Fe、Mg、Ca、Ni、及びTi)の含有率の分析方法
「JIS R 1616」に記載された加圧酸分解法によるICP−AES分析に基づいて測定した。
(3)酸素(O)の含有率をLECO社製の「TCH−600」を用いて測定した。
【0031】
[合成例1]
水ガラス溶液(富士化学(株)製:SiO/NaO(モル比)=3.20)140gに、水35gを加えて混合し、Si濃度10質量%の水ガラス溶液を得た。
得られた水ガラス溶液にカーボン(東海カーボン社製:平均粒径1mm)を27.0g加えて混合し、カーボン含有水ガラス溶液を得た。
得られたカーボン含有水ガラス溶液66.2gを硫酸濃度10.7体積%の硫酸(水165.6mlに濃硫酸20mlを混合したもの)200g中に滴下し、常温(25℃)下でカーボン含有沈降性シリカを析出させた後、減圧下でブフナー漏斗を用いて固液分離し、C及びSiOを含む固形分(カーボン含有沈降性シリカ)33.9gと、不純物を含む液分232.3gを得た。なお、pHは滴下終了時まで1.0以下に保った。
得られたC及びSiOを含む固形分(カーボン含有沈降性シリカ)に対して、常温(25℃)下で硫酸濃度10.7体積%の硫酸を200g添加してpHが3.0未満のスラリーとした。このスラリーを固液分離した後に、得られた固形分を、蒸留水を用いて水洗した。その後、水洗した固形分を105℃で1日乾燥させ、シリカとカーボンの混合物(粒子の集合体)21.3gを得た。
得られたシリカとカーボンの混合物中の不純物(ホウ素(B)、リン(P)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ニッケル(Ni)、及びチタン(Ti))の濃度を、上述した分析方法を用いて測定した。その結果を表1に示す。
得られたシリカとカーボンの混合物を乾燥させた後の、CとSiOの合計量は99.99質量%であり、Siの回収率は97.0%であった。
【0032】
【表1】

【0033】
さらに、得られたシリカとカーボンの混合物を、EPMAを用いて観察するとともに、該混合物を構成する粒子中のカーボンまたはシリカの分布状態を分析した。装置としては、電子線マイクロアナライザー(日本電子社製、商品名「JXA−8100」)を用いて、加速電圧15kV、プローブ径0.5μm、ピクセルサイズ1μm、ピクセル数400×400の条件で分析を行った。
図3にシリカとカーボンの混合物の写真を簡易に表した図を示す。
図4及び5に、シリカとカーボンの混合物表面の写真を簡易に表した図を示す。各図の右上の数値は、混合物を構成する粒子に含まれるシリカまたはカーボンの質量%であり、数値が大きいほど、含有率が高いことを示している。
【0034】
[実施例1]
合成例1に記載した方法を用いて製造した、シリカとカーボンの混合物160kg、及び発熱体用黒鉛を、図1及び2に記載されたアチソン炉(アチソン炉の内寸;長さ1000mm、幅500mm、高さ500mm)の中へ収容した後、約1600℃で約10時間通電加熱を行い、β型の炭化珪素の塊状物20.0kgを生成させた。
発熱体用黒鉛としては分解黒鉛(カーボンブラックを3000℃で熱処理したもの)を使用した。
得られた炭化珪素の塊状物をボールミルを用いて、平均粒径が0.2μmとなるまで粉砕し、炭化珪素粉末Aを得た。得られた炭化珪素粉末中の不純物(B、P、Al、Cu、Fe、Mg、Ni、Ti、及びO)の含有率を、上述した分析方法を用いて測定した。結果を表2に示す。
上記炭化珪素粉末A95質量部に、焼結助剤として、αアルミナ粉末(平均粒径0.3μm)2.5質量部、および、Y粉末(平均粒径1.6μm)2.5質量部を加えて混合した。得られた混合物にエタノール、およびポリビニルアルコールを加えて混合し、乾燥後、成形用型に充填し、150MPaの等方静水圧力下で10分間成形した。
得られた成形体を、アルゴンガス(純度99.999%)雰囲気下、焼結温度2100℃、及び圧力500kgf/cmで1時間、加圧焼結を行い、炭化珪素焼結体(4×3×40mm)を得た。
得られた炭化珪素焼結体の、25℃、800℃、1000℃、1200℃、及び1400℃の雰囲気下における曲げ強度を「JIS R 1601」に従って3点曲げ強度試験を行い、測定した。結果を表3に示す。
【0035】
[比較例1]
アチソン炉で製造された市販のα型の炭化珪素粉末を、ボールミルを用いて、平均粒径が0.2μmとなるまで粉砕し、炭化珪素粉末Bを得た。得られた炭化珪素粉末中の不純物(B、P、Al、Cu、Fe、Mg、Ni、Ti、及びO)の含有率を、上述した分析方法を用いて測定した。結果を表2に示す。
上記炭化珪素粉末B95質量部に、焼結助剤として、αアルミナ粉末(平均粒径0.3μm)2.5質量部、および、Y粉末(平均粒径1.6μm)2.5質量部を加えて混合した。得られた混合物にエタノール、およびポリビニルアルコールを加えて混合し、乾燥後、成形用型に充填し、150MPaの等方静水圧力下で10分間成形した。
得られた成形体を、アルゴンガス(純度99.999%)雰囲気下、焼結温度2100℃、及び圧力500kgf/cmで1時間、加圧焼結を行い、炭化珪素焼結体(4×3×40mm)を得た。
得られた炭化珪素焼結体の、25℃、800℃、1000℃、1200℃、及び1400℃の雰囲気下における曲げ強度を「JIS R 1601」に従って3点曲げ強度試験を行い、測定した。結果を表3に示す。
【0036】
[実施例2]
合成例1に記載した方法を用いて製造した、シリカとカーボンの混合物160kg、及び発熱体用黒鉛を、図1及び2に記載されたアチソン炉(アチソン炉の内寸;長さ1000mm、幅500mm、高さ500mm)の中へ収容した後、約2500℃で約10時間通電加熱を行い、α型の炭化珪素の塊状物20.0kgを生成させた。
発熱体用黒鉛としては分解黒鉛(カーボンブラックを3000℃で熱処理したもの)を使用した。
得られた炭化珪素の塊状物を、ボールミルを用いて、平均粒径が0.2μmとなるまで粉砕し、炭化珪素粉末Cを得た。得られた炭化珪素粉末中の不純物(B、P、Al、Cu、Fe、Mg、Ni、Ti、及びO)の含有率を、上述した分析方法を用いて測定した。結果を表2に示す。
上記炭化珪素粉末C97.9質量部に、焼結助剤として、ホウ素(平均粒径1μm以下の非晶質粉末)0.6質量部、および、フェノール樹脂1.5質量部を加えて混合した。得られた混合物にエタノール、およびポリビニルアルコールを加えて混合し、乾燥後、成形用型に充填し、150MPaの等方静水圧力下で10分間成形した。
得られた成形体を、1気圧のアルゴンガス(純度99.999%)雰囲気下、焼結温度2100℃で1時間、常圧焼結を行い、炭化珪素焼結体(4×3×40mm)を得た。
得られた炭化珪素焼結体の、25℃、800℃、1000℃、1200℃、及び1400℃の雰囲気下における曲げ強度を「JIS R 1601」に従って3点曲げ強度試験を行い、測定した。結果を表4に示す。
【0037】
[比較例2]
比較例1で使用した炭化珪素粉末B97.9質量部に、焼結助剤として、ホウ素(平均粒径1μm以下の非晶質粉末)0.6質量部、および、フェノール樹脂1.5質量部を加えて混合した。得られた混合物にエタノール、およびポリビニルアルコールを加えて混合し、乾燥後、成形用型に充填し、150MPaの等方静水圧力下で10分間成形した。
得られた成形体を、1気圧のアルゴンガス(純度99.999%)雰囲気下、焼結温度2100℃で1時間、常圧焼結を行い、炭化珪素焼結体(4×3×40mm)を得た。
得られた炭化珪素焼結体の、25℃、800℃、1000℃、1200℃、及び1400℃の雰囲気下における曲げ強度を「JIS R 1601」に従って3点曲げ強度試験を行い、測定した。結果を表4に示す。
【0038】
[実施例3]
実施例2で使用した炭化珪素粉末C97.3質量部に、焼結助剤として、ホウ素(平均粒径1μm以下の非晶質粉末)0.6質量部、および、フェノール樹脂1.5質量部、窒化アルミニウム(平均粒径1μm以下の結晶質粉末)0.6質量部を加えて混合した。得られた混合物にエタノール、およびポリビニルアルコールを加えて混合し、乾燥後、成形用型に充填し、150MPaの等方静水圧力下で10分間成形した。
得られた成形体を、アルゴンガス(純度99.999%)雰囲気下、焼結温度1800℃、200MPaで1時間、熱間静水圧焼結を行い、炭化珪素焼結体(4×3×40mm)を得た。
得られた炭化珪素焼結体の、25℃、800℃、1000℃、1200℃、及び1400℃の雰囲気下における曲げ強度を「JIS R 1601」に従って3点曲げ強度試験を行い、測定した。結果を表5に示す。
【0039】
[比較例3]
比較例1で使用した炭化珪素粉末B97.3質量部に、焼結助剤として、ホウ素(平均粒径1μm以下の非晶質粉末)0.6質量部、および、フェノール樹脂1.5質量部、AlN(平均粒径1μm以下の結晶質粉末)0.6質量部を加えて混合した。得られた混合物にエタノール、およびポリビニルアルコールを加えて混合し、乾燥後、成形用型に充填し、150MPaの等方静水圧力下で10分間成形した。
得られた成形体を、アルゴンガス(純度99.999%)雰囲気下、焼結温度1800℃、200MPaで1時間、熱間静水圧焼結を行い、炭化珪素焼結体(4×3×40mm)を得た。
得られた炭化珪素焼結体の、25℃、800℃、1000℃、1200℃、及び1400℃の雰囲気下における曲げ強度を「JIS R 1601」に従って3点曲げ強度試験を行い、測定した。結果を表5に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
【表5】

【符号の説明】
【0044】
1 シリカとカーボンの混合物(シリカとカーボンからなる粒子の集合体)
2 発熱体用黒鉛
3 電極芯
4 アチソン炉
5 炉本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アチソン炉を用いて、粒子内にシリカとカーボンの各々が全体的に分布しており、かつ、B及びPの各々の含有率が1ppm以下である、シリカとカーボンからなる粒子を加熱して、炭化珪素粉末を得る、炭化珪素粉末製造工程と、
得られた炭化珪素粉末を焼結して、炭化珪素焼結体を得る、焼結工程を含む、炭化珪素焼結体の製造方法。
【請求項2】
上記シリカとカーボンからなる粒子が、粒子内のいずれの地点においても、シリカの含有率が90質量%以下であり、かつ、カーボンの含有率が10質量%以上である、請求項1に記載の炭化珪素焼結体の製造方法。
【請求項3】
上記シリカとカーボンからなる粒子中の、Al、Fe、Mg、Ca、及びTiの含有率が、各々、5ppm以下、5ppm以下、5ppm以下、5ppm以下、1ppm以下である、請求項1または2に記載の炭化珪素焼結体の製造方法。
【請求項4】
上記炭化珪素粉末中の、B、P、Al、Cu、Fe、Mg、Ni、Ti、及びOの含有率が、各々、0.1ppm以下、0.1ppm以下、1.0ppm以下、0.5ppm以下、1.0ppm以下、0.5ppm以下、0.5ppm以下、1ppm以下、0.5%未満である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化珪素焼結体の製造方法。
【請求項5】
上記焼結工程において、焼結助剤として、C、B、Al、Y、及びCaからなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含有する焼結助剤を用いる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭化珪素焼結体の製造方法。
【請求項6】
上記焼結工程における焼結が、常圧焼結、または加圧焼結によって行われる請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭化珪素焼結体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法によって得られた炭化珪素焼結体からなる成型品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−107783(P2013−107783A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251934(P2011−251934)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】