説明

炭化装置

【課題】木製樽の胴体部の内面を炭化する作業の容易化に好適な炭化装置を提供する。
【解決手段】木製樽の胴体部5の内面6を炭化させる炭化装置100は、胴体部5をその軸がほぼ水平になるように支持し胴体部5を当該軸の周りで回転駆動する回転機構10と、回転機構10によって支持されている胴体部5の開口部7を通して胴体部5の内面6に火炎を放射するバーナー20と、回転機構10によって支持されている胴体部5の開口部7を通して胴体部5の内面6に消火液を散布する消火部30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製樽の胴体部の内面を炭化させる炭化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイスキー、ワイン、焼酎等の貯蔵および熟成のために木製樽が使用される。木製樽は、1つの胴体部の両端に鏡板(円板状の板)を嵌め込んで構成されうる。胴体部および鏡板の内面は、バーナーの火炎によって炭化されることがある。新規に木製樽を製造する際には、胴体部に鏡板を嵌め込む前に、胴体部および鏡板のそれぞれ内面となる面が炭化されうる。使用された木製樽を再生する際には、木製樽を分解した後に、胴体部および鏡板の内面が再び炭化されうる。
【0003】
なお、この出願に係る発明とは構成が大きく異なるが、木製樽の内面を炭化させる技術を開示した文献として、特許文献1がある。特許文献1には、木樽の開口部より多数の加熱した金属又はセラミックのボールを木樽の内部に投入し、木樽を回転・揺動させることにより木樽の内面を加熱して木樽の内面を炭化させることが開示されている。
【特許文献1】特開平6−40437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
木製樽の胴体部の内面を軸方向および周方向の全体にわたって均一にバーナーの火炎によって炭化させる作業には相当な熟練を要するし、作業者によるばらつきも生じうる。
【0005】
本発明は、上記のごとき課題認識を契機としてなされたものであり、例えば、木製樽の胴体部の内面を炭化する作業の容易化に好適な炭化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、木製樽の胴体部の内面を炭化させる炭化装置に係り、前記炭化装置は、前記胴体部をその軸がほぼ水平になるように支持し前記胴体部を当該軸の周りで回転駆動する回転機構と、前記回転機構によって支持されている前記胴体部の開口部を通して前記胴体部の内面に火炎を放射するバーナーと、前記回転機構によって支持されている前記胴体部の開口部を通して前記胴体部の内面に消火液を散布する消火部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、例えば、木製樽の胴体部の内面を炭化する作業の容易化に好適な炭化装置を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。
【0009】
図1〜図3は、本発明の好適な実施形態の炭化装置100の概略構成を示す図である。炭化装置100は、木製樽の胴体部5の内面6を炭化させるために使用される。木製樽は、例えば、ウイスキー、ワイン、焼酎等の貯蔵および熟成のために使用されうる。木製樽の材料には、樫が使われることが多い。木製樽は、1つの胴体部5の両端に鏡板(円板状の板)を嵌め込んで構成されうる。胴体部5は、一般的に、中央部が膨らんだ円筒形状(いわゆる樽形状)を有しうる。
【0010】
炭化装置100は、例えば、回転機構10と、バーナー20と、消火部30とを備えうる。回転機構10は、木製樽の胴体部5をその軸Aがほぼ水平になるように支持し胴体部5を軸Aの周りで回転駆動する。バーナー20は、図2に例示的に示すように、回転機構10によって支持されている胴体部5の開口部7を通して胴体部5の内面6に火炎23を放射する。消火部30は、図3に例示的に示すように、回転機構10によって支持されている胴体部5の開口部7を通して胴体部5の内面6に消火液33を散布する。消火液は、典型的には水であるが、他の液体であってもよい。
【0011】
回転機構10によって胴体部5をその軸Aがほぼ水平になるように支持して軸Aの周りで回転駆動することによって、胴体部5を軸Aの方向および周方向の全体にわたって均一に炭化させることができる。一方、軸Aが鉛直方向に向いている場合や斜めに向いている場合には、胴体部5の内面に不均一な温度分布が形成され易い。また、胴体部5を回転させない場合には、胴体部5の内面6にバーナー20によって均一な温度分布を与える必要があるが、これを実現することは難しいので、結果として内面6を均一に炭化処理することは難しい。
【0012】
更に、回転機構10によって胴体部5をその軸Aがほぼ水平になるように支持して軸Aの周りで回転駆動することは、消火部30による速やかな消火を可能にする。特に、中央部が膨らんだ円筒形状(いわゆる樽形状)を有する胴体部5を処理する場合には、図3に例示的に示すように胴体部5の内側に消火液が溜まるので、少量の消火液で速やかに胴体部5の内面6から発生する炎を消火することができる。
【0013】
回転機構10は、例えば、支持するべき胴体部5の側面に沿った円錐台形状の複数のローラ12を有しうる。複数のローラ12の少なくとも1つは、回転駆動源によって回転駆動され、これによって胴体部5が回転駆動されうる。
【0014】
バーナー20の火炎吹出部21および消火部30の消火液吹出部31は、台車等の支持体60によって支持されうる。バーナー20の火炎吹出部21には、管路22およびバルブ82を通してガスが供給されうる。火炎吹出部21には、不図示の点火装置が設けられている。消火部30の消火液吹出部31には、管路32およびバルブ84を通して消火液が供給されうる。
【0015】
支持体60は、例えば、車輪62を有し、移動が自在になっている。支持体60は、更にカメラ50を支持するように構成されうる。カメラ50は、回転機構10によって支持された胴体部5の内面6を撮像しうる。カメラ50で撮像される画像から抽出される特徴は、炭化の進捗を示しうる。したがって、カメラ50で撮像される画像から抽出される特徴は、例えば、バーナー20による胴体部5の内面6の加熱(即ち、バーナー20からの火炎の放射)を停止させるためのトリガを与えうる。
【0016】
炭化装置100は、それによる炭化処理の全部又は一部を自動化し、又は作業者を補助するために、制御部40を備えることが好ましい。制御部40は、例えば、バーナー20による火炎23の放射の停止に応じて消火部30に消火液33を散布させる。制御部40は、例えば、バーナー20による火炎23の放射の停止後に所定時間が経過した時に消火部30に消火液33を散布させるように構成されうる。バーナー20による火炎23の放射の停止は、作業者からの指令または作業者による操作に応じてなさてもよいし、制御部40による判断(例えば、カメラ50で撮像される画像に基づく判断)によってなされてもよい。
【0017】
制御部40は、例えば、消火部30による消火液33の散布の後に回転機構10による胴体部5の回転駆動を停止させる。制御部40は、例えば、消火部30による消火液33の散布の後に所定時間が経過した時に回転機構10による胴体部5の回転駆動を停止させるように構成されうる。
【0018】
炭化装置100は、作業者の存在を確認するセンサ90を更に備えることが好ましい。この場合において、制御部40は、作業者が存在することをセンサ90が示していない場合にはバーナー20から火炎を放射させないように構成されることが好ましい。センサ90は、例えば、作業者が足で踏むスイッチを含み、該スイッチがオンされているときに作業者が存在することを示すように構成されうる。
【0019】
制御部40は、バーナー20から火炎を放射させて胴体部5の内面6を炭化させている状態においてカメラ50で撮像された画像の特徴に基づいてバーナー20からの当該火炎の放射を停止させるように構成されることが好ましい。図4は、カメラ50によって撮像される胴体部5の内面の画像52を模式的に示す図である。図5は、図4は、カメラ50によって撮像される炎9を含む胴体部5の内面の画像54を模式的に示す図である。図5は、胴体部5の内面に沿ったリング状の炎9を模式的に示している。
【0020】
回転機構10によって胴体部5を回転駆動なしながらバーナー20から放射される火炎23によって胴体部5の内面6を加熱しつづけると、内面6の全周にわたってほぼ同時に着火して、内面6に沿ったリング状の炎9が発生する。このような状態が確認されたことに応じてバーナー20からの火炎の放射を停止させ、更に消火部30による消火液の散布を行うことによって、適正な炭化状態が得られた時点で胴体部5の内面6の炭化を速やかに停止させることができる。そこで、制御部40は、胴体部5の内面6に沿ったリング状の炎9が現れたことに応じてバーナー20からの火炎23の放射を停止させるように構成されることが好ましい。
【0021】
図6は、本発明の好適な実施形態の炭化装置100による炭化処理の流れを例示的に示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理の全部が制御部40によって制御されうるが、一部は作業者による操作にしたがってもよい。
【0022】
まず、炭化処理の開始にあたって、胴体部5がその軸Aをほぼ水平ににして回転機構10の上(ローラ12)に配置される。制御部40は、例えば、炭化処理の開始を指示する作業者による操作に応じて、ステップS10において、回転機構10に胴体部5の回転駆動を開始させる。これは、例えば、制御部40が回転機構10に対して回転開始の指示を送ることにより、又は、制御部40が回転機構10に対して電力を供給することによりなされうる。
【0023】
ステップS20では、制御部40は、センサ90から提供される情報に基づいて、作業者が存在するかどうかを判断し、作業者が存在する場合にはステップS30に処理を進め、そうでない場合には、センサ90が作業者の存在を示すまで待機する。
【0024】
ステップS30では、制御部40は、バルブ82を開状態にしてバーナー20にガスを供給するとともに不図示の点火装置によってバーナー20を点火(即ち、火炎を放射)させる。
【0025】
ステップS40では、制御部40は、センサ90から提供される情報に基づいて、作業者が存在するかどうかを判断し、作業者が存在する場合にはステップS50に処理を進め、一方、そうでない場合には、ステップS60に処理を進めてバルブ82を閉状態にすることによってバーナー20からの火炎の放射を停止させる。
【0026】
ステップS50では、制御部40は、胴体部5の内面6の炭化を停止させるかどうか、即ち、バーナー20からの火炎の放射を停止させるかどうかを判断し、停止させる場合にはステップS60に処理を進め、停止させない場合にはステップS40に処理を戻す。具体的には、制御部40は、カメラ50によって撮像された画像から抽出される特徴に基づいてバーナー20からの火炎の放射を停止させることを決定することができる。より具体的には、制御部40は、カメラ50によって撮像された画像の中に胴体部5の内面6に沿ったリング状の炎9が現れたことを検出し、それに応じてバーナー20からの火炎の放射を停止させることを決定することができる。
【0027】
ステップS60では、制御部40は、バルブ82を閉状態にすることによってバーナー20からの火炎の放射を停止させる。
【0028】
ステップS70では、制御部40は、ステップS60の実行の後に所定時間が経過するのを待ち、又は、ステップS60の実行の直後に、バルブ84を一定時間にわたって開状態にすることによって消火部30から胴体部5の内面6に対して消火液33を散布させる。これにより、胴体部5の内面6から炎が出ている場合にはそれが消火され、また、炎が出ていない場合にはその後の出火が防止される。ステップS70は、回転機構10によって胴体部5の回転駆動されている状態でなされるので、胴体部5の内面6に対してその全周にわたって速やかに消火液が散布される。
【0029】
ステップS80では、制御部40は、ステップS70の実行(消火液の散布)の終了後に所定時間が経過するのを待ち、又は、ステップS70の実行の終了直後に、回転機構10による胴体部5の回転駆動を停止させる。
【0030】
以上のような炭化処理の流れによれば、作業者が不在であればバーナー20が点火されることはなく、また、バーナー20が点火された後においては、作業者の存在が認識されない場合には、バーナー20からの火炎の放射が停止され、消火部30によって消火液が散布され、回転機構10による回転駆動が停止される。例えば、バーナー20の点火の後に作業者が転倒した場合や作業場所を離れた場合には、それに応じてバーナー20からの火炎の放射が停止され、消火液が散布され、回転駆動が停止される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の好適な実施形態の炭化装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の好適な実施形態の炭化装置の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の好適な実施形態の炭化装置の概略構成を示す図である。
【図4】カメラによって撮像される胴体部の画像を模式的に示す図である。
【図5】カメラによって撮像される胴体部の画像を模式的に示す図である。
【図6】本発明の好適な実施形態の炭化装置による炭化処理の流れを例示的に示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0032】
5 胴体部
6 内面
7 開口部
9 炎
10 回転機構
12 ローラ
20 バーナー
21 火炎吹出部
22 管路
23 火炎
30 消火部
31 消火液吹出部
32 管路
33 消火液
40 制御部
50 カメラ
52、54 画像
60 支持体
62 車輪
82、84 バルブ
90 センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製樽の胴体部の内面を炭化させる炭化装置であって、
前記胴体部をその軸がほぼ水平になるように支持し前記胴体部を当該軸の周りで回転駆動する回転機構と、
前記回転機構によって支持されている前記胴体部の開口部を通して前記胴体部の内面に火炎を放射するバーナーと、
前記回転機構によって支持されている前記胴体部の開口部を通して前記胴体部の内面に消火液を散布する消火部と、
を備えることを特徴とする炭化装置。
【請求項2】
前記バーナーによる火炎の放射の停止に応じて前記消火部に消火液を散布させる制御部を更に備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の炭化装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記消火部による消火液の散布の後に前記回転機構による前記胴体部の回転駆動を停止させる、
ことを特徴とする請求項2に記載の炭化装置。
【請求項4】
作業者の存在を確認するセンサと、
作業者が存在することを前記センサが示していない場合には前記バーナーから火炎を放射させない制御部と、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の炭化装置。
【請求項5】
前記センサは、作業者が足で踏むスイッチを含み、
前記センサは、前記スイッチがオンされているときに作業者が存在することを示す、
ことを特徴とする請求項4に記載の炭化装置。
【請求項6】
前記回転機構によって支持された前記胴体部の内面を撮像するカメラと、
前記カメラで撮像された画像の特徴に基づいて前記バーナーからの火炎の放射を停止させる制御部と、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の炭化装置。
【請求項7】
前記回転機構によって支持された前記胴体部の内面を撮像するカメラと、
前記カメラで撮像された画像に前記胴体部の内面に沿ったリング状の炎が現れたことに応じて前記バーナーからの火炎の放射を停止させる制御部と、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の炭化装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記バーナーによる火炎の放射を停止させた後に前記消火部に消火液を散布させる、
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の炭化装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記消火部による消火液の散布の後に前記回転機構による前記胴体部の回転駆動を停止させる、
ことを特徴とする請求項8に記載の炭化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−12690(P2010−12690A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174897(P2008−174897)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)