説明

炭素化炉および炭素化炉の運転方法

【課題】熱分解ガスをスムーズに排気する炭素化炉及びその運転方法を提供する。
【解決手段】耐炎化繊維Fが炉内で炭素化されてなる酸化繊維の走行方向に沿って形成される、互いに対向する2つの側壁5,6に設けられる1つ以上の排気口15,16が、炉長方向において前記出口壁4側に、かつ前記酸化繊維の走行高さより高い領域に偏倚し、前記側壁の出口壁側端部から前記排気口の出口壁側端部までの距離は、炉長方向において、炭素化炉1の炉長の20%の範囲内に位置する炭素化炉。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素繊維の製造に際し、耐炎化繊維を焼成して炭素化する炭素化炉に関する。
【背景技術】
【0002】
ピッチ系やポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維は、耐炎化繊維を焼成して炭素化することで製造することができる。
【0003】
耐炎化繊維は、束ねられたストランド形態の原料繊維を、200〜300℃の酸化性雰囲気下で延伸又は収縮を行いながら焼成したものである。炭素繊維は、耐炎化繊維を不活性ガスの雰囲気下400℃以上の炭素化炉に導き、焼成することにより、製造される。
【0004】
従来の炭素化炉として、直方体の炉本体を有する炭素化炉が知られている。図2は、従来の炭素化炉の一例を示す図であり、(A)は、その平面図であり、(B)は、その側面図であり、(C)は、その正面図である。図2によれば、炭素化炉1’の炉本体2は、耐炎化繊維Fが炉内に導入される入口壁3と、入口壁3に対向し、入口壁3から導入された耐炎化繊維Fを炭素化して生成される炭素繊維Gが炉外へ排出される出口壁4とを備える。
【0005】
耐炎化繊維Fは、入口壁3に設けられた入口3aから導入される。炉内に導入された耐炎化繊維Fは、炉内を水平に走行しながら炭素化処理される。炭素化処理は、必要に応じて多段で行われ、例えば、第一炭素化処理として不活性ガス雰囲気下、400〜800℃で焼成された後、第二炭素化処理として1000℃以上で焼成される。炭素化処理されて得られる炭素繊維Gは、出口壁4に設けられた出口4aから炭素化炉1’の炉外へ排出される。
【0006】
炭素化処理により、耐炎化繊維Fは10〜40質量%がガス化され、シアン化水素、アンモニア、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、気化したタール等の熱分解ガスを発生する。
【0007】
気化したタール等を含む熱分解ガスは、耐炎化繊維Fが酸化されてなる酸化繊維の走行方向に沿って炉本体2の内部に広がる。炉本体2の上壁8には、排気口15、16が設けられる。排気口15、16には、接続ダクト12a、12bを介して排気ダクト13a、13bが接続されている。熱分解ガスを含む炉内ガスは、排気口15、16から、接続ダクト12a、12b、及び排気ダクト13a、13bを通過して炉外に排出される。
【0008】
しかし、大量に発生する熱分解ガスを完全に排出することは困難であり、熱分解ガスの一部が炉内に滞留する。滞留する熱分解ガスは、炭素化炉の内壁等に触れ、その一部は凝縮してタール等の液状異物になり、炭素化炉1’の内壁に付着する。
【0009】
耐炎化繊維Fがシリコーンオイル等のサイズ剤でオイル処理されている場合は、シリコーンオイル等が熱分解されて、シリカパウダー等の固体状異物が発生する。この固体状異物の一部は、炭素化炉の内壁に付着する液状異物の表面に付着する。その結果、炭素化炉1’の内壁に、タール等の液状異物とシリカパウダー等の固体状異物を含む固液混合異物が堆積する。
【0010】
内壁に堆積する固液混合異物は、堆積量が増えると高密度になる。高密度の固液混合異物が、特に上壁8の内壁に一定量以上堆積すると、上壁8の内壁から炉内を走行する耐炎化繊維Fの上に固液混合異物が落下し、耐炎化繊維Fを汚染する。また、耐炎化繊維F上に落下した固液混合異物は、耐炎化繊維Fの品質を低下させるばかりでなく、耐炎化繊維Fを切断するおそれもある。すなわち、炭素化炉1’の内壁における固液混合異物の堆積は、製品率低下の原因になる。
【0011】
このような耐炎化繊維汚損の問題を解決するために、種々の解決手段が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0012】
特許文献1に開示される炭素化炉は、上壁に、複数の排気口あるいはスリット状の排気口を設ける。この炭素化炉は、該排気口を、炉内の温度設定が最高温度となる位置等に配置し、該排気口の繊維走行方向の前後角部を円弧状とすることにより、円滑に炉内ガスを排気口へ導く。
【0013】
しかしこの炭素化炉は、タール成分が最も多量に発生する位置に排気口を設けるため、タール成分が上壁の排気口近辺に付着しやすい。従って、度々排気口を清掃する必要がある。
【0014】
特許文献2には、複数の耐炎化繊維束をシート状に配列した耐炎化繊維束シートを炭素化処理する炭素化炉が開示される。この炭素化炉の排気口は、耐炎化繊維束シートの走行方向に対し垂直な方向において、上部となる位置以外の位置、具体的には、下壁に設けられる。かかる構造においても、炭素化炉の上壁側に滞留する熱分解ガスが全く存在しないわけではない。
【特許文献1】特開2002−294521号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2007−262602号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者は、鋭意検討するうち、タール成分等の炉内壁面への付着は、炭素化処理に伴い発生する熱分解ガスが炉内で滞留することが原因である、と考えた。本発明の目的とするところは、炭素化処理により発生する熱分解ガスの排出性を向上させて、炉内の熱分解ガスの滞留状態を改善し、炭素化処理により発生する固液混合異物による耐炎化繊維汚損を防止する炭素化炉、及びその運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
[1]耐炎化繊維が炉内に導入される入口を備える入口壁と、前記入口壁に対向し、前記耐炎化繊維を炉内で炭素化して生成される炭素繊維が、炉外へ排出される出口を備える出口壁と、前記炉内で前記耐炎化繊維が酸化されてなる酸化繊維が前記入口から前記出口へ向って炉長方向に走行する走行方向に沿って形成される上壁及び底壁と、前記酸化繊維の走行方向に沿って形成される、互いに対向する2つの側壁と、を有する内部中空の炭素化炉であって、前記各側壁には、1つ以上の排気口が、前記炉長方向において前記出口壁側で、かつ前記酸化繊維の走行高さより高い領域に偏倚して設けられ、前記排気口の出口壁側端部と前記側壁の出口壁側端部との、前記炉長方向における距離が、前記炭素化炉の炉長の20%以内である炭素化炉。
[2]前記排気口の周縁に、長手方向の一の端部が接続される接続ダクトを備え、前記排気口、または前記接続ダクトに、炉内ガスの流量を調整する調整弁が取付けられてなる、[1]の炭素化炉。
[3]前記接続ダクトの、前記排気口の周縁に接続される側の一の端部の断面形状が、前記排気口の形状と同じである、[2]の炭素化炉。
[4]前記接続ダクトは、前記一の端部と反対側の他の端部が、前記一の端部より高くなるように設置され、前記底壁に対する傾斜角が、20°〜60°である[2]又は[3]の炭素化炉。
[5]耐炎化繊維を炭素化処理することにより発生する熱分解ガスを含む炉内ガスを、炉外へ排出するダクトを接続した、[1]の炭素化炉の運転方法であって、前記ダクト内を通過する炉内ガスの平均流速を10〜20m/秒に制御する、炭素化炉の運転方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の炭素化炉は、耐炎化繊維の炭素化処理に伴い発生する熱分解ガスの炉内での滞留状態を改善する。これにより本発明は、炉内で滞留する熱分解ガス成分が固液混合異物となって炉内壁面に堆積する堆積量を少なくし、固液混合異物が炭素化炉の上壁内壁から耐炎化繊維上に落下して、耐炎化繊維を汚損することを防止することができる。その結果、良好な品質の炭素繊維の製品率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図1を参照して本発明を詳細に説明する。図1は本発明の炭素化炉の一例を示す概略図であり、(A)は、その平面図であり、(B)は、その側面図であり、(C)は、その正面図である。図2に図示する従来の炭素化炉1’と共通する箇所については、図1の符号をそのまま用いる。図1(A)および図1(B)では、耐炎化繊維Fの炉壁で遮蔽されて視認できない部分を点線で示し、炉内の耐炎化繊維Fの走行状態をわかりやすくしている。なお、以下の説明において、「耐炎化繊維」とは、炉本体2内で耐炎化繊維Fが酸化されてなる酸化繊維を意味する場合がある。
【0019】
炭素化炉1の炉本体2において、耐炎化繊維Fが炉内に導入される入口壁3と、入口壁3に対向する出口壁4との間の距離を、炉長Ltとする。入口壁3から出口壁4へ向って走行する耐炎化繊維Fを挟んで互いに対向する側壁5と側壁6との間の距離を、炉幅Lwとする。炉本体2は、公知の形状であればいずれの形状でもよいが、一般的な形状として、図1では、炉幅Lwに対し、炉長Ltが長い直方体の炉本体2を図示する。
【0020】
入口壁3には、底壁7に対し垂直な炉高(Hf)方向の中央部分に、耐炎化繊維Fが炉内へ導入される入口3aが設けられる。出口壁4の、入口3aと対応する部分には、炉内で耐炎化繊維Fを炭素化して生成される炭素繊維Gを炉外へ排出する出口4aが設けられる。入口3aおよび出口4aの形状としては、炉幅Lw方向に長いスリット形状が例示される。
【0021】
糸条の耐炎化繊維ストランドFを炭素化処理する場合、複数本の耐炎化繊維ストランドF(図1では8本)を炉幅Lw方向に配列する。入口3aから炉内に導入された耐炎化繊維ストランドFは、炉長Lt方向を入口3aから出口4aに向って走行する。その走行方向は、炉本体の底壁7に平行で、かつ、炉本体2の側壁5、6に平行である。
【0022】
耐炎化繊維ストランドFは、炉内を走行しながら、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で焼成されて炭素化される。焼成温度は400℃以上である。
【0023】
炭素化処理は二段の炭素化炉で行われてもよい。前段の第一炭素化炉は、入口壁側から出口壁側に向かうに従って、400〜800℃に昇温される。後段の第二炭素化炉の焼成温度は1000℃以上である。熱分解ガスは、第一炭素化炉の温度領域で多量に発生する傾向がある。従って本発明の炭素化炉1は、第一炭素化炉として用いられることが好ましい。
【0024】
耐炎化繊維ストランドFが炭素化処理されるに伴い、炉本体2内では熱分解ガスが発生する。熱分解ガスは、耐炎化繊維ストランドFの走行方向に従って、すなわち、炉長Lt方向を入口壁3側から出口壁4側へ向って流れる。熱分解ガスは、出口壁4の内壁に到達すると、さらに出口壁4内壁に沿って上壁8内壁および側壁5、6内壁へ向かう。上記の熱分解ガスの流れでは、熱分解ガスが大量に発生する場合、出口壁4内壁と、上壁8内壁と、側壁5内壁とが接する角部9a、あるいは出口壁3内壁と、上壁8内壁と、側壁6内壁とが接する角部9bに、熱分解ガスが滞留しやすい。「角部」とは、出口壁3内壁と、上壁8内壁と、側壁5内壁、あるいは側壁6内壁とが接する領域と、その領域近傍を意味する。
【0025】
本発明は、角部9aの側壁5側と、角部9bの側壁6側に、それぞれ1個以上の排気口10、11を設ける。
【0026】
排気口10、11は、炉長Lt方向において出口壁4側で、かつ耐炎化繊維ストランドFの走行高さRより高い領域に偏倚して設けられる。排気口10、11は、出口壁4側端部と、側壁5、6の出口壁4側端部との、炉長Lt方向における距離Ls(図示せず)が、それぞれ前記炭素化炉の炉長Ltの20%以内になるように設けられることが好ましい。
【0027】
これにより本発明は、出口壁4内壁に沿って上壁8内壁および側壁5、6内壁へ向かう炉内ガスのガス流れが、自然に排気口10、11へと向う。従って、出口壁4内壁に到達した炉内ガスを、上壁8内壁に到達する前に、速やかに排気口10、11から排出することができ、簡便に角部9a、9bにおける炉内ガスの滞留状態を改善することができる。
【0028】
図1(B)は、1個の排気口10が設けられる側壁5を図示する。図1(B)によれば、排気口10の出口壁4側端部10aは、側壁5の最も出口壁4側にあり、すなわち、側壁5の出口壁4側端部5aから排気口10の出口壁4側端部10aまでの距離Ls(図示せず)は、炭素化炉1の炉長Ltの0%である。排気口10の上壁8側端部10bは、側壁5の最も上壁8側にある。排気口10は、炉長Lt方向において出口壁4側に、かつ炉高Hf方向において耐炎化繊維Fの走行高さRより高い領域に偏倚する。
【0029】
排気口10の炉長Lt方向の長さは特に限定されないが、炉本体2の炉長Lt全体の5〜20%の範囲内で適宜設けられることが好ましい。5%より短い場合、排気口10が小さくなるため、排ガスを十分に排出できないおそれがある。20%を超える長さの場合、排気口10の出口壁4側端部10aの位置にもよるが、排気口10が出口壁4側に偏倚しない場合がある。その場合、角部9aで集中的に炉内ガスを排気することができず、排気しきれなかった炉内ガスが、角部9aに滞留するおそれや、角部9aから上壁8に向って拡散するおそれがある。
【0030】
図示しないが、角部9bの側壁6側には、同様に排気口11が設けられる。側壁5に設けられる排気口10と、側壁6に設けられる排気口11とは、互いに対応する位置に設けられることが好ましい。
【0031】
図1(A)および図1(C)によれば、排気口10、11の周縁には、それぞれ接続ダクト12a、12bの長手方向の一の端部が接続され、接続ダクト12a、12bの、排気口10、11と接続する一の端部の反対側の他の端部には、排気ダクト13a、13bが接続される。排気口10、11から排出される熱分解ガスを含む炉内ガスは、接続ダクト12a、12b、および排気ダクト13a、13bを通過して、熱分解ガス処理装置(不図示)へ送られる。
【0032】
接続ダクト12a、12bを通過する炉内ガスの流量は、調整弁14a、14bを用いて調整される。調整弁14a、14bは、公知のものを用いることができ、排気口の開口率を調節できるものが好ましい。
【0033】
調整弁は、排気口10、11に取付けられる他、接続ダクト12a、12bの長手方向において、排気口10、11周縁に接続される側の任意の位置に取付けられることが好ましい。
【0034】
調整弁の開口率は、運転付け時に、70〜100%の範囲内で調節されることが好ましく、80〜100%の範囲内で調節されることがより好ましい。
【0035】
接続ダクト12a、12bを通過する炉内ガスの平均流速は、熱分解ガスの発生量に応じて制御される。好ましい平均流速としては、10〜20m/秒であり、更に好ましくは、15〜20m/秒である。平均流速が10m/秒より遅いと、炉本体2内で、熱分解ガスが滞留を起すおそれがある。炉内ガスの平均流速は、排気口10、11等に取付けられた調整弁14a、14bを用いて、炉内ガスの流量を調整することにより制御されることが好ましい。
【0036】
排気口10、11の形状は特に限定されないが、調整弁14a、14bを用いて開口率を調整する場合、容易性の観点から、矩形であることが好ましい。
【0037】
接続ダクト12a、12bの、排気口10、11と接続する端部の断面形状は、気密性保持のため、排気口10、11の形状と一致させることが好ましい。
【0038】
接続ダクト12a、12bの種類は、特に限定されるものではないが、排気口10、11の形状が矩形である場合、対応する形状の接続断面を有する接続ダクト12a、12bとして、角筒が選択されることが好ましい。
【0039】
排気口10と排気口11の寸法は、炉内ガスの流量を簡便に調整する観点から、同一であることが好ましい。
【0040】
接続ダクト12a、12bは、長手方向において排気口10、11の周縁に接続される側の一の端部と反対側の他の端部が、該一の端部より高くなるように設置される。接続ダクト12aと底壁7との傾斜角はそれぞれ20°〜60°であることが好ましく、30°〜60°であることが更に好ましい。接続ダクト12bと底壁7との傾斜角は、接続ダクト12aの傾斜角と一致することが好ましい。
【0041】
排気ダクト13a、13bは、炉本体2に接続される接続ダクト12a、12bを介して、炉本体2に接続される。図1(A)および図1(C)に示すように、排気ダクト13aは、炉本体2の上壁8の上側かつ側壁5の外側に配置され、排気ダクト13bは、炉本体2の上壁8の上側かつ側壁6の外側に配置される。
【0042】
接続ダクト12a、12bを、上記の傾斜角で設置することにより、炉本体2の排気口10、11と、排気ダクト13a、13bとを最短距離で接続することができる。これにより、排気口10、11から排出された炉内ガスを、速やかに排気ダクト13a、13b内へと排気させることができる。
【0043】
接続ダクト12a、12bが上記の傾斜角の範囲を外れて設置される場合、炉外へ排出されたガスの通過経路が迂遠になるため、接続ダクト12a、12bや排気ダクト13a、13bの途中で、ガスが滞留して、熱分解ガスのスムーズな排出を妨げるおそれがある。
【0044】
接続ダクト12a、12b内の温度は200℃以上であることが好ましい。200℃より低い場合、接続ダクト12a、12b内で熱分解ガスが冷却されて凝縮固化する。その場合、接続ダクト12a、12b内で凝縮した熱分解ガス成分が固液混合異物となって接続ダクト12a、12b内に付着したり、排気口10、11を閉塞したりするおそれがあり好ましくない。
【0045】
以上の構成により、炉本体2内で発生した熱分解ガスを含む炉内ガスは、形成されるガス流れに従って、炉本体2の上壁8内壁に到達する前に、スムーズに排気口10、11から排気される。接続ダクト12a、12bを所定の傾斜角で設置して、排気口10、11と排気ダクト13a、13bとを最短距離で接続することにより、一層スムーズに熱分解ガスを含む炉内ガスを排気することができる。
炉内ガスがスムーズに排気されることにより、炉内ガスに含まれる熱分解ガスが炉本体2の内壁に触れることが少なくなり、熱分解ガスに由来する固液混合異物の、内壁、特に上壁8内壁における堆積量を低減させることができる。その結果、該固液混合異物の付着による耐炎化繊維ストランドの汚染や切断、劣化を防止でき、良好な品質の炭素繊維の製品率を向上させることができる。
【0046】
なお、本発明において、排気口の配置、形状、数は図1に示す形態に限られない。図3は、本発明の炭素化炉の他の例であり、(A)は、その平面図であり、(B)は、その側面図であり、(C)は、その正面図である。炭素化炉100には、図1の排気口10、11とは異なる楕円形の排気口110、111が、側壁5、6に1個ずつ設けられる。
【0047】
図3(B)によれば、排気口110、111は、炉長Lt方向において出口壁4側に、かつ耐炎化繊維Fの走行高さRより高い領域に偏倚する。炭素化炉100は、排気口110の出口壁4側端部110aが、側壁5の出口壁4側端部5aからやや離れている。側壁5の出口側4端部5aから排気口110の出口壁4側端部110aまでの距離Lsは、炭素化炉100の炉長Ltの20%以内である。
【0048】
図4は本発明の炭素化炉の更に他の例であり、(A)は、その平面図であり、(B)は、その側面図であり、(C)は、その正面図である。図4に図示される炭素化炉300は、側壁5には、3個の排気口301、302、303が設けられ、側壁6には、3個の排気口304、305、306が設けられる。
【0049】
図4(B)によれば、炭素化炉300の側壁5には、出口壁4側から入口壁5へ向って炉長Lt方向に、排気口301、302、303が配列され、排気口303が側壁5の出口壁4側端部5aから最も離れている。側壁5の出口壁4側端部5aから、排気口303の出口壁4側端部303aまでの距離Lsは、炭素化炉300の炉長Ltの20%以内である。側壁6にも同様に、3つの排気口304、305、306が、炉長Lt方向に配列される。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の炭素化炉を実施例及び比較例を用いて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
図1に示す本発明の炭素化炉1を用いて炭素繊維を製造した。この炭素化炉1の炉本体2の外寸は、炉幅Lwが4000mm、炉長Ltが7000mm、炉高Hfが600mmである。
【0051】
炉本体2の側壁5側には、矩形の排気口10が設けられる。排気口10は、側壁5において最も出口壁4側かつ最も上壁8側に偏倚する。側壁5の出口壁4側端部5aから排気口10の出口壁4側端部10aまでの距離Lsは、炭素化炉1の炉長Ltの0%である。
【0052】
排気口10の寸法は、600mm(炉長Lt方向長さ)×150mm(炉高Hf方向長さ)であり、この炉長Lt方向長さは、炭素化炉1の炉長Ltの8.6%である。
【0053】
側壁6の、側壁5に設けられた排気口10に対応する位置には、排気口10と同じ形状の排気口11が設けられる。
【0054】
炉本体2の側壁5、6には、接続ダクト12a、12bを介して排気ダクト13a、13bが接続される。
【0055】
排気ダクト13a、13bは、直径300mmの丸筒である。炉本体2の上壁8の上方において、排気ダクト13aは側壁5の外側に、排気ダクト13bは側壁6の外側に、それぞれ炉本体2内の耐炎化繊維ストランドFの走行方向に平行に設置される。
【0056】
各接続ダクト12a、12bは、断面寸法600mm×150mmで長さ2000mmの角筒である。各接続ダクト12aは、それぞれ長手方向の一の端部が、排気口10の周縁に隙間なく接続される。各接続ダクト12aは、該一の端部の反対側の他の端部が、該一の端部より高くなるようにして、底壁7に対し30°の角度に傾斜して設置される。他の端部は排気ダクト13aに接続される。接続ダクト12bも、同様に設置して、排気ダクト13bを排気口11に接続する。
【0057】
接続ダクト12a、12bは、排気口10、11の周縁に接続される一の端部近傍に、ダンパー14a、14bを備える。ダンパー14a、14bは、接続ダクト12a、12b内の熱分解ガスの流速を調整する。本実施例では、ダンパー14a、14bにより排気口10、11の開口率を80%に調節し、接続ダクト12a、12b内の熱分解ガスの平均流速を10〜15m/秒とした。
【0058】
接続ダクト12a、12b内および排気ダクト13a、13b内の温度は250℃以上とした。
【0059】
以上の構成の炭素化炉1において、ラインスピード150m/時間、生産量0.4t/dayで14日間の運転を実施して、良好な品質の炭素繊維を得た。このとき発生した熱分解ガスは、排気口10、11から接続ダクト12a、12bに入り、更に排ガスダクト13a、13bを通って系外に排ガスとして排出された。
【0060】
14日間の運転終了後、炉本体2内、接続ダクト12a、12b内、及び排ガスダクト13a、13b内に、タール、シリカパウダーなどの異物付着は殆ど見られなかった。
【0061】
良好な品質の炭素繊維の製品率について、10本に束ねられた炭素繊維ストランドの長さ100m当たりの固液混合異物による汚染箇所が0.5箇所未満の炭素繊維を良好な品質の炭素繊維とし、製造された炭素繊維全量に対する前記良好な品質の炭素繊維の質量比で評価した。本実施例の製品率は97%であった。
[比較例1]
図2に示す炭素化炉1’を用いて炭素繊維を製造した。この炭素化炉1’の炉本体2の外寸は、炉幅Lwが4000mm、炉長Ltが7000mm、炉高Hfが600mmである。
【0062】
炉本体2の上壁8には、直径300mmの円形の排気口15、16が設けられる。排気口15、16は、いずれも円中心が上壁8の出口壁4側端部8aから300mm内側にあり、炉幅Lw方向に一列に配設される。排気口15は、円中心が、上壁8の側壁5側端部8bから1000mm内側に設けられている。排気口16は、円中心が、上壁8の側壁6側端部8cから1000mm内側に設けられる。
【0063】
炉本体2の上壁8には、接続ダクト12a、12bを介して排気ダクト13a、13bが接続される。
【0064】
各排気ダクト13a、13bは、直径300mmの丸筒である。排気ダクト13aは、炉本体2の上壁8の上方で排気口15に重なる領域に、炉本体2内の耐炎化繊維ストランドFの走行方向に平行に設置される。排気ダクト13bは、同様に、排気口16に重なる領域に設置される。
【0065】
各接続ダクト12a、12bは、直径300mm、長さ1000mmの円筒である。上記の炉本体2と排気ダクト13a、13bの位置関係において、接続ダクト12a、12bは、炉本体2の底壁7に対して傾斜角90°で設置される。
【0066】
以上の構成の炭素化炉1’において、実施例と同様の運転を14日間実施して、良好な品質の炭素繊維を得た。このとき発生した熱分解ガスは、排気口15、16から接続ダクト12a、12bに入り、更に排ガスダクト13a、13bを通って系外に排ガスとして排出された。
【0067】
14日間の運転終了後、炉本体2内、接続ダクト12a、12b内、及び排ガスダクト13a、13b内には、タール、シリカパウダーなどの異物付着が見られた。製品率は92%であった。
[比較例2]
比較例2に用いる炭素化炉は、実施例1で用いる炭素化炉と同様であるが、排気口の出口面側端部と側壁の出口面側端部との、炉長方向における距離Lsが1450mmである点が異なる。この距離Ls(1450mm)は、炉長Lt(7000mm)の20.7%であり、実施例1の炭素化炉と比較して、排気口が出口壁側から離れた位置に設けられている。
【0068】
上記の炭素化炉を用いて、実施例1と同条件で運転を実施した。14日間の運転終了後、炉本体2内、及び接続ダクト12a、12b内には、タールの付着が見られた。製品率は92%であった。
[比較例3]
接続ダクト12a、12bを、底壁7に対して傾斜角15°で設置した以外は、実施例1と同条件で運転を実施した。
【0069】
14日間の運転終了後、炉本体2内、及び接続ダクト12a、12b内には、タールの付着が見られた。製品率は94%であった。
【0070】
上記に示した比較例1〜3は、いずれも炉内にタールの付着が見られた。各比較例において、実施例よりも製品率が低くなった原因は、炭素化炉の内壁に付着したタールが、炉内を走行する耐炎化繊維に落下したことにあると推測される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の炭素化炉の一例を示す概略図であり、(A)は、その平面図であり、(B)は、その側面図であり、(C)は、その正面図である。
【図2】従来の炭素化炉の一例を示す概略図であり、(A)は、その平面図であり、(B)は、その側面図であり、(C)は、その正面図である。
【図3】本発明の炭素化炉の他の一例を示す概略図であり、(A)は、その平面図であり、(B)は、その側面図であり、(C)は、その正面図である。
【図4】本発明の炭素化炉の更に他の一例を示す概略図であり、(A)は、その平面図であり、(B)は、その側面図であり、(C)は、その正面図である。
【符号の説明】
【0072】
1 炭素化炉
1’ 炭素化炉
2 炉本体
3 炉本体の入口壁
3a 入口
4 炉本体の出口壁
4a 出口
5、6 炉本体の側壁
5a 側壁の出口壁側端部
5b 側壁の上壁側端部
7 炉本体の底壁
8 炉本体の上壁
8a 上壁の出口壁側端部
8b、8c 上壁の側壁側端部
9a、9b 角部
10、11 排気口
10a 排気口の出口壁側端部
10b 排気口の上壁側端部
12a、12b 接続ダクト
13a、13b 排気ダクト
14a、14b ダンパー(調整弁)
15、16 排気口
100 炭素化炉
110、111 排気口
110a 排気口の出口壁側端部
300 炭素化炉
301、302、303、304、305、306 排気口
303a 排気口303の出口壁側端部
Lt 炭素化炉の炉長
Lw 炭素化炉の炉幅
Hf 炭素化炉の炉高
Ls 側壁の出口壁側端部から排気口の出口壁側端部までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐炎化繊維が炉内に導入される入口を備える入口壁と、前記入口壁に対向し、前記耐炎化繊維を炉内で炭素化して生成される炭素繊維が、炉外へ排出される出口を備える出口壁と、前記炉内で前記耐炎化繊維が酸化されてなる酸化繊維が前記入口から前記出口へ向って炉長方向に走行する走行方向に沿って形成される上壁及び底壁と、前記酸化繊維の走行方向に沿って形成される、互いに対向する2つの側壁と、を有する内部中空の炭素化炉であって、前記各側壁には、1つ以上の排気口が、前記炉長方向において前記出口壁側で、かつ前記酸化繊維の走行高さより高い領域に偏倚して設けられ、前記排気口の出口壁側端部と前記側壁の出口面側端部との、前記炉長方向における距離が、前記炭素化炉の炉長の20%以内である炭素化炉。
【請求項2】
前記排気口の周縁に、長手方向の一の端部が接続される接続ダクトを備え、前記排気口、または前記接続ダクトに、炉内ガスの流量を調整する調整弁が取付けられてなる、請求項1に記載の炭素化炉。
【請求項3】
前記接続ダクトの、前記排気口の周縁に接続される側の一の端部の断面形状が、前記排気口の形状と同じである、請求項2に記載の炭素化炉。
【請求項4】
前記接続ダクトは、前記一の端部と反対側の他の端部が、前記一の端部より高くなるように設置され、前記底壁との傾斜角が、20°〜60°である請求項2又は請求項3に記載の炭素化炉。
【請求項5】
耐炎化繊維を炭素化処理することにより発生する熱分解ガスを含む炉内ガスを、炉外へ排出するダクトを接続した、請求項1に記載の炭素化炉の運転方法であって、前記ダクト内を通過する炉内ガスの平均流速を10〜20m/秒に制御する、炭素化炉の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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