説明

炭素陽極の製造方法

【課題】炭素電極の原料として低品質な仮焼石油コークスを使用することができ、かつ、熱膨張係数が低く、高品質な炭素陽極を得ることができる炭素陽極の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム精錬用の炭素陽極の製造方法であって、溶剤を用いて石炭を改質して、改質炭である無灰炭を製造する無灰炭製造工程と、前記無灰炭を炭素化処理して無灰炭コークスとする炭素化工程と、前記無灰炭コークスと、生石油コークスを仮焼して得られた仮焼石油コークスと、を混合して炭素材料とする炭素材料製造工程と、前記炭素材料を加熱処理して炭素陽極とする炭素陽極製造工程と、を含み、前記炭素材料製造工程において、前記炭素材料の粒度配合として、粒径が0.25mm以上の粒部を、前記無灰炭コークスと前記仮焼石油コークスとで構成し、粉径が0.25mm未満の粉部を、2.0質量%以上の硫黄を含有する前記仮焼石油コークスで構成するように混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナを電気分解して金属アルミニウムを製造する、所謂ホール・エルー法で使用される炭素陽極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素陽極は、電気分解によりアルミナを還元する、すなわちアルミナからの酸素と反応し、その電気化学等量に応じて消耗する。この電気化学的な理論消耗の他、電解浴中では、電解により発生したCOにより炭素陽極下部が酸化消耗され(CO酸化消耗と呼ばれる)、かつ陽極上部では空気中の酸素と接するために酸化消耗される(Air酸化消耗と呼ばれる)。
【0003】
前記したCO酸化消耗は、炭素陽極中の金属不純物、特にNa,Ca等の触媒作用により増加する。また、Air酸化消耗も、炭素陽極中の金属不純物、特にNi,V等の触媒作用により増加する。ここで、理論消耗である電解消耗は定常消耗であるが、CO酸化消耗およびAir酸化消耗は異常消耗であり、陽極の変則的な消耗を強いるため、その消耗を示す数字以上に陽極へのダメージは大きい。これら炭素陽極中の金属不純物は、単に酸化消耗の触媒作用としてだけではなく、製出した金属アルミニウムの不純物としても忌避される。
【0004】
また、炭素陽極には数質量%の硫黄が存在するが、これがアルミニウム精錬中にSO(Xは1以上の整数、以下同じ)の形で大気中に放出されることから、労働衛生上および環境上の問題となっている。そのため、原料となるコークス中の硫黄量は少なければ少ない方が良いが、原料の原油中の硫黄含有率に規定されるため、任意に減じることは困難である。
【0005】
ここで、炭素陽極の製造方法としては、一般に骨材としての仮焼石油コークスと、粘結材としてのバインダーピッチとを適量ずつ混練し、所定の寸法に成形した後、最高温度1000〜1300℃程度に焼成して製造するプリベイクド式と、混練物を成形後、焼成せずに、そのまま電解槽上部のケース中に投入し、電解炉の熱にて自焼するゼーダーベルク式の2つの方法がある。いずれの方式においても、主たる構成物は骨材である仮焼石油コークスであり、炭素陽極はその仮焼石油コークスの品質の影響を大きく受ける。
【0006】
仮焼石油コークスは、一般には石油精製工程で発生する蒸留残渣や、接触分解残渣油、石油化学工程で発生するナフサ分解油等の石油系重質油を遅延コークス化炉にて500℃前後で熱分解し、これにより得られる生石油コークスを1100〜1400℃で仮焼して製造される。近年、石油需要の増加、良質原油の不足により、従来は使用されなかった高硫黄および高金属不純物の原油まで使用されるようになったことから、仮焼石油コークスの硫黄量、金属不純物量は増加の一途である。また、硫黄量が2.0質量%未満の低硫黄である仮焼石油コークスの量的不足の問題が発生している。そして、このような仮焼石油コークスの品質劣化が、直接に炭素陽極の品質劣化を引き起こしている。
【0007】
そこで、近年におけるアルミニウム精錬用炭素陽極に用いる骨材としての仮焼石油コークスの品質劣化、あるいは、良質な仮焼石油コークスの不足の状況の中、無灰化溶剤改質石炭である無灰炭(ハイパーコール)(例えば、特許文献1参照)から製造されたコークス状炭素材(無灰炭コークス:以下、適宜、HPCCという)が注目されている。HPCCは、その低硫黄量、低金属不純物量の点で陽極用骨材として極めて有望な材料と考えられる。
【0008】
ここで、無灰炭とは、石炭を溶剤で抽出処理し、この溶剤に溶ける成分だけを分離して、その後、溶剤を除去することによって製造されたものである。この無灰炭は、構造的には、縮合芳香環が2ないし3個の比較的低分子量の成分から、5、6環程度の高分子量成分まで広い分子量分布を有する。また、無灰炭は、灰分が溶剤には溶けないため、実質的に灰分を含まず、加熱下で高い流動性を示し、熱流動性に優れる。石炭の中には粘結炭のように400℃前後で熱可塑性を示すものもあるが、無灰炭は、一般的に、原料石炭の品位に関わらず200〜300℃で溶融する(軟化溶融性がある)。そこで、この特性を生かしてコークス製造用バインダーとしての応用開発が進められており、また、近年においては、この無灰炭を炭素材料の原料として用いることで炭素材料を製造することが試みられている。
【0009】
しかし、近年のSOに関する環境問題に対応するために、骨材として低硫黄量のHPCCを使用すると、その高純度性とは逆に、熱処理後の成形体(熱処理成形体、すなわち炭素陽極)では、耐CO酸化性が劣化する(詳細は後記する)。なお、CO酸化消耗が起きにくい性質を耐CO酸化性、Air酸化消耗が起きにくい性質を耐Air酸化性という。
さらに、HPCCを骨材として使用すると、熱処理成形体の熱膨張係数(Coefficient of Thermal Expansion: CTE)が、仮焼石油コークスを使用した場合に比べて高くなる。仮焼石油コークスを使用した場合よりも高いCTEであると、炭素陽極として使用した場合に、電解使用時の熱応力によるクラックの発生が危惧される。一方、高硫黄、かつ高金属不純物である低品質な仮焼石油コークスは、アルミニウム精錬用での需要とは無関係に石油精製側の都合で大量に生産され、その処理に困る状態となっている。
【0010】
そこで、低硫黄、かつ高純度(低金属不純物)のHPCCが使用でき、かつ大量に発生する高硫黄、かつ高金属不純物である低品質な仮焼石油コークスが有効に使用できれば、枯渇するアルミニウム精錬用炭素陽極に用いる高品質なコークスへの対応のみならず、大量に発生する低品質な仮焼石油コークスの処理も可能となる一石二鳥の解決策となる。
【0011】
なお、HPCCのみならず、低硫黄の良質な仮焼石油コークスでは、熱処理成形体とした場合、後記するように、硫黄によるNaの触媒作用の抑制効果の観点でむしろ耐CO酸化性が劣化することが良くある。
ここで、バインダーピッチは、熱処理成形体中では粒部よりも表面積の多い粉部の骨材との接触が多く、バインダーピッチとして単独で存在するよりもバインダーピッチと粉部のコークスとが一体となったマトリクスとして存在する。従って、硫黄によるバインダーピッチ中のNaの触媒作用に対する抑制効果は、粒部コークス中の硫黄よりも粉部コークス中の硫黄の方がより効果的に発揮されることになる。この現象を利用して、高硫黄コークスを粉部に、低硫黄コークスを粒部に使用することで、熱処理成形体全体の耐CO酸化性を向上させ、かつ熱処理成形体全体の硫黄量を、高硫黄コークスのみを使用する時よりも低減させることが提案されている(非特許文献1参照)。
この混合(ブレンド)方法を利用して、HPCCと高硫黄コークスを混合し、粒部をHPCC、粉部を高硫黄コークスとした炭素陽極を製造する方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−26791号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Minimizing Impact of Low Sulfur Coke on anode Quality, Angelique Adams et al, Light Metal 2009, p957-962
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、このような方法では、以下に示す問題がある。
この混合方法を利用してHPCCを粒部に、高硫黄コークスを粉部に使用すれば、耐CO酸化性は改善できるものの、後記するように、熱処理成形体のCTEが高くなってしまうという問題がある。
【0015】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、炭素電極の原料として低品質な仮焼石油コークスを使用することができ、かつ、熱膨張係数が低く、高品質な炭素陽極を得ることができる炭素陽極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る炭素陽極の製造方法は、アルミニウム精錬用の炭素陽極の製造方法であって、溶剤を用いて石炭を改質して、改質炭である無灰炭を製造する無灰炭製造工程と、前記無灰炭を炭素化処理して無灰炭コークスとする炭素化工程と、前記無灰炭コークスと、生石油コークスを仮焼して得られた仮焼石油コークスと、を混合して炭素材料とする炭素材料製造工程と、前記炭素材料を加熱処理して炭素陽極とする炭素陽極製造工程と、を含み、前記炭素材料製造工程において、前記炭素材料の粒度配合として、粒径が0.25mm以上の粒部を、前記無灰炭コークスと前記仮焼石油コークスとで構成し、粉径が0.25mm未満の粉部を、2.0質量%以上の硫黄を含有する前記仮焼石油コークスで構成するように混合することを特徴とする。
【0017】
このような製造方法によれば、粒部を無灰炭コークスと仮焼石油コークスとで構成することで、炭素陽極のCTEが抑制される。さらに無灰炭コークスを使用することで、炭素陽極の硫黄量や金属不純物量を低減させることができる。
また、粉部を2.0質量%以上の硫黄を含有する仮焼石油コークスで構成することで、バインダーコークス中のNaの触媒作用が抑制され、CO酸化消耗が抑制される。さらに、2.0質量%以上の硫黄を含有する仮焼石油コークスを使用することで、大量に発生する低品質な仮焼石油コークスの処理も可能となる。
【0018】
また、本発明に係る炭素陽極の製造方法は、前記無灰炭製造工程における、石炭を改質することによる無灰炭の製造を、石炭と非水素供与性溶剤とを混合したスラリーを加熱して、前記非水素供与性溶剤に可溶な石炭成分を抽出した後、この抽出後のスラリーを液部と非液部とに分離し、前記液部から、前記非水素供与性溶剤を分離することにより行うことが好ましい。
このような製造方法によれば、より高効率、かつ安価に無灰炭を製造することができる。
【0019】
そして、本発明に係る炭素陽極の製造方法は、前記炭素陽極製造工程において、プリべイクド式、または、ゼーダーベルク式により炭素陽極とすることを特徴とする。
このような製造方法では、プリべイクド式により、炭素材料の成形体を焼成して炭素陽極とすることができる。また、ゼーダーベルク式により、炭素材料の成形体を焼成せずに、電解炉の熱にて自焼させて炭素陽極とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る炭素陽極の製造方法によれば、炭素陽極の熱膨張係数を低くすることができると共に、高品質な炭素陽極とすることができる。また、低品質な仮焼石油コークスを使用することができるため、大量に発生する低品質な仮焼石油コークスの処理も可能となる。さらに、硫黄による環境問題に対応することができ、また、酸化消耗を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明に係る炭素陽極の製造方法ついて詳細に説明する。
炭素陽極の製造方法は、アルミニウム精錬用の炭素陽極の製造方法であり、無灰炭製造工程と、炭素化工程と、炭素材料製造工程と、炭素陽極製造工程と、を含むものである。
以下、各工程について説明する。
【0022】
<無灰炭製造工程>
無灰炭製造工程は、溶剤を用いて石炭を改質して、改質炭である無灰炭を製造する工程である。
なお、本発明でいう無灰炭とは、石炭を溶剤抽出し、灰分と非溶解性の石炭成分を除去することにより製造されたものである。この無灰炭は、灰分が極めて少なく(灰分濃度1.0質量%以下)、水分は概ね0.5質量%以下である。
【0023】
無灰炭を得る方法は、公知の方法を用いることができ、溶剤種や製造条件は、石炭の性状や無灰炭コークスの原料としての設計を鑑みて、適宜選択されるものである。典型的な方法は、石炭に対して大きな溶解力を持つ溶媒、多くの場合、芳香族溶剤(水素供与性あるいは非水素供与性の溶剤)と石炭を混合して、それを加熱し、石炭中の有機成分を抽出する、という方法である。しかし、より高効率、かつ安価に無灰炭を得るため、例えば、次の方法により無灰炭を製造することが好ましい。その方法では、まず、石炭と非水素供与性溶剤とを混合した混合物(スラリー)を加熱して、前記非水素供与性溶剤に可溶な石炭成分を抽出する。次に、抽出後のスラリーを液部と非液部とに分離し、前記液部から、前記非水素供与性溶剤を分離することにより無灰炭を製造する。
【0024】
無灰炭の原料とする石炭(以下、原料石炭ともいう)は、劣質炭を使用することが好ましい。安価な劣質炭を使用することにより、無灰炭をさらに安価に製造することができるため、さらに経済性の向上を図ることができる。しかし、用いる石炭は、劣質炭に限るものではなく、必要に応じて、瀝青炭を使用しても良い。
【0025】
なお、ここでの劣質炭とは、非微粘結炭、一般炭、低品位炭(褐炭、亜瀝青炭等)等の石炭をいう。低品位炭には、例えば、褐炭、亜炭、亜瀝青炭等がある。また、例えば、褐炭には、ビクトリア炭、ノースダコタ炭、ベルガ炭等があり、亜瀝青炭には、西バンコ炭、ビヌンガン炭、サマランガウ炭等がある。低品位炭は前記例示のものに限定されず、多量の水分を含有し、脱水することが望まれる石炭は、いずれも本発明のいう低品位炭に含まれる。なお、石炭はできるだけ小さい粒子に粉砕しておくのが好ましく、粒径1mm以下とするのが好ましい。また、石炭と溶剤との混合は、例えば、固液分離装置の石炭スラリー調製槽で行う。
【0026】
非水素供与性溶剤は、主に石炭の乾留生成物から精製した、例えば2環芳香族を主とする溶剤である石炭誘導体である。この非水素供与性溶剤は、加熱状態でも安定であり、石炭との親和性に優れているため、溶剤に抽出される可溶成分(ここでは石炭成分)の割合(以下、抽出率ともいう)が高く、また、蒸留等の方法で容易に回収可能な溶剤である。非水素供与性溶剤の主たる成分としては、2環芳香族であるナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、トリメチルナフタレン等が挙げられ、その他、非水素供与性溶剤の成分としては、脂肪族側鎖をもつナフタレン類、アントラセン類、フルオレン類、また、これにビフェニルや長鎖脂肪族側鎖をもつアルキルベンゼンが含まれる。
【0027】
非水素供与性溶剤を使用して加熱抽出することにより、石炭の抽出率を高めることができる。また、極性溶剤とは違い、容易に溶剤を回収することができるため、溶剤を循環使用しやすい。さらに、高価な水素や触媒等を用いる必要がないため、安価なコストで石炭を可溶化して無灰炭を得ることができ、経済性の向上を図ることができる。
【0028】
溶剤に対する石炭濃度は、原料石炭の種類にもよるが、乾燥炭基準で10〜50質量%の範囲が好ましく、20〜35質量%の範囲がより好ましい。溶剤に対する石炭濃度が10質量%未満であると、溶剤の量に対し、溶剤に抽出する石炭成分の割合が少なくなり、経済的ではない。一方、石炭濃度は高いほど好ましいが、50質量%を超えると、調製したスラリーの粘度が高くなり、スラリーの移動や後記する液部と非液部との分離が困難となりやすい。
【0029】
スラリーの加熱温度は、300〜450℃の範囲とするのが好ましい。加熱温度をこの範囲とすることにより、石炭を構成する分子間の結合が緩み、緩和な熱分解が起こり、抽出率が最も高くなる。加熱温度が300℃未満であると、石炭を構成する分子間の結合を弱めるのに不十分となりやすく、抽出率が向上しにくい。一方、450℃を超えると、石炭の熱分解反応が非常に活発になり、生成した熱分解ラジカルの再結合が起こるため、抽出率が向上しにくく、また、石炭の変質が起こりにくくなる。なお、好ましくは、300〜400℃である。
【0030】
加熱時間(抽出時間)は、溶解平衡に達するまでの時間が規準であるが、それを実現することは経済的に不利である。従って、石炭の粒子径、溶剤の種類等の条件によって異なるので一概には言えないが、通常は10〜60分程度である。加熱時間が10分未満であると、石炭成分の抽出が不十分となりやすく、一方、60分を超えても、それ以上抽出が進行しないため、経済的ではない。
【0031】
非水素供与性溶剤に可溶な石炭成分の抽出は、不活性ガスの存在下で行うことが好ましい。雰囲気ガスとして酸素を用いた場合には、スラリーに含まれる成分等が酸素に接触すると、発火する恐れがあるため危険であり、また、雰囲気ガスとして水素を用いた場合には、コストが高くなるためである。
用いる不活性ガスとしては、安価な窒素を用いることが好ましいが、特に限定されるものではない。また、圧力は、抽出の際の温度や用いる溶剤の蒸気圧にもよるが、1.0〜2.0MPaが好ましい。圧力が溶剤の蒸気圧より低い場合には、溶剤が揮発して液相に閉じ込められず、抽出できない。溶剤を液相に閉じ込めるには、溶剤の蒸気圧より高い圧力が必要となる。一方、圧力が高すぎると、機器のコスト、運転コストが高くなり、経済的ではない。
【0032】
このようにして石炭成分を抽出した後のスラリーを液部と非液部とに分離する。
ここで、液部とは、溶剤に抽出された石炭成分を含む溶液をいい、非液部とは、溶剤に不溶な石炭成分(灰分を含む石炭すなわち灰炭)を含む溶質をいう。
【0033】
スラリーを液部と非液部とに分離する方法としては、各種の濾過方法や遠心分離による方法が一般的に知られている。しかしながら、濾過による方法ではフィルタの頻繁な交換が必要であり、また、遠心分離による方法では未溶解石炭成分による閉塞が起こりやすく、これらの方法を工業的に実施するのは困難である。従って、流体の連続操作が可能であり、低コストで大量の処理にも適している重力沈降法を用いることが好ましい。重力沈降法は、固液分離装置を用いて行うことができる。これにより、重力沈降槽の上部からは、溶剤に抽出された石炭成分を含む溶液である液部(以下、上澄み液ともいう)を、重力沈降槽の下部からは溶剤に不溶な石炭成分を含む溶質である非液部(以下、固形分濃縮液ともいう)を得ることができる。
【0034】
そして、この液部から、非水素供与性溶剤を分離することにより、無灰炭を得る。
上澄み液(液部)から溶剤を分離する方法は、一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)等を用いることができ、上澄み液からは、実質的に灰分を含まない無灰炭を得ることができる。この無灰炭は、灰分含有量が1.0質量%以下と、灰分をほとんど含まず、水分は概ね0.5質量%以下であり、また原料石炭よりも高い発熱量を示す。従って、この無灰炭を炭素化することで、極めて灰分濃度の低い高純度の無灰炭コークスを得ることができる。
【0035】
<炭素化工程>
炭素化工程は、前記無灰炭を炭素化処理して無灰炭コークスとする工程である。この炭素化工程により無灰炭が炭素化され、炭素材料の原料である無灰炭コークスが得られる。
【0036】
炭素化処理の方法や条件は、特に限定されるものではなく、公知の技術を用いて行うことができる。典型的には、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気中で、800〜1300℃で蒸し焼きにして加熱処理し、炭素に変える。また、昇温速度は、0.1〜5℃/分とすればよい。この炭素化処理は熱間静水圧プレス装置等を用いて、加圧下で行ってもよい。また、必要により、アスファルトピッチやタール等のバインダー成分を添加してもよい。さらに、加熱処理した無灰炭を適当に成形してから、炭素化工程に供してもよい。炭素化に用いる熱処理炉の形式にも特に制約はなく、公知のものを用いることができる。例えば、ポット炉、リードハンマー炉、キルン、ロータリーキルン、シャフト炉、あるいは室炉等を挙げることができる。しかし、これらに限定されるものではなく、この他のものを用いてもよい。
【0037】
<炭素材料製造工程>
炭素材料製造工程は、前記無灰炭コークスと、生石油コークスを仮焼して得られた仮焼石油コークスと、を混合して炭素材料とする工程である。
【0038】
仮焼石油コークスの製造は従来公知の方法で行えばよく、前記したとおり、一般には石油精製工程で発生する蒸留残渣や、接触分解残渣油、石油化学工程で発生するナフサ分解油等の石油系重質油を遅延コークス化炉にて500℃前後で熱分解し、これにより得られる生石油コークスを1100〜1400℃で仮焼して製造する。なお、仮焼石油コークスは、従来から一般的なコークスとして市販されていることから、市販の仮焼石油コークスを用いてもよい。
ここで、本発明では、仮焼石油コークスについて、2.0質量%以上の硫黄を含有するものを低品質な仮焼石油コークスとし、2.0質量%未満の硫黄を含有するものを高品質な仮焼石油コークスとする。
【0039】
そして、炭素材料製造工程においては、炭素材料の粒度配合として、粒径が0.25mm以上の粒部を、前記無灰炭コークスと前記仮焼石油コークスとで構成し、粉径が0.25mm未満の粉部を、2.0質量%以上の硫黄を含有する前記仮焼石油コークスで構成するように混合する。混合は、一般的な混合機を用いればよい。
【0040】
[粒部]
炭素陽極の骨材の粒度において、一般的に概ね直径0.25mm以上のものを粒部ということから、本発明では、直径(粒径)が0.25mm以上のものを粒部とする。なお、上限については、一般的には8mm未満である。
ここで、前記のとおり、HPCCの熱処理成形体のCTE(すなわち、HPCCのCTE)は、仮焼石油コークスの熱処理成形体のCTE(すなわち、仮焼石油コークスのCTE)よりもが高いが、仮焼石油コークスより高いCTEの熱処理成形体は、炭素陽極として使用した場合、熱応力によるクラック発生等が危惧される。
そこで、この粒部においては、HPCCの他、HPCCよりもCTEの低い仮焼石油コークスを用い、これらを混合して粒部を構成する。
【0041】
熱処理成形体のCTEは、構成する骨材において、所定のCTEを有するそれぞれの骨材(コークス)の配合量に応じた加成性で決まるわけではなく、粒部に使用したコークスのCTEの影響を強く受けることが知られている。従って、HPCCを粒部に、仮焼石油コークスを粉部に使用した場合、両者の混合割合に応じたCTEになるのではなく、粒部に使用したHPCCを、骨材として全量使用した場合とほぼ同じCTEとなってしまう。そこで粒部にHPCCのみを使用するのではなく、HPCCと、HPCCよりもCTEの低い仮焼石油コークスとを混合することとする。
【0042】
混合割合は、HPCCと仮焼石油コークスとのCTEによるが、HPCCおよび仮焼石油コークスのそれぞれのCTEと、これらの混合割合から計算した両者の加成性に基づくCTEが5×10−6/K以下であれば実用上差し支えない。そして、これを満足するため、粒径0.25mm以上の粒部のうち、無灰炭コークスの占める割合は、25〜75質量%であることが好ましい。無灰炭コークスの占める割合を25質量%以上とすることで、低硫黄、かつ低金属不純物の無灰炭コークスの割合が少なすぎず、炭素陽極における硫黄や金属不純物の含有量が高くなりにくい。一方、75質量%以下とすることで、無灰炭コークスの割合が多すぎず、炭素陽極のCTEが高くなりにくい。
なお、粒部に用いる仮焼石油コークスは、高品質、低品質のどちらでもよく、粉部に用いる高硫黄な仮焼石油コークスの割合を考慮して決定すればよい。
【0043】
[粉部]
炭素陽極の骨材の粒度において、一般的に概ね直径0.25mm未満のものを粉部ということから、本発明では、直径(粉径)が0.25mm未満のものを粉部とする。なお、下限については規定されるものではない。
この粉部においては、仮焼石油コークスとしては、2.0質量%以上の硫黄を含有するものを用いる。
【0044】
HPCCは、それ自身はNaを殆ど含まないが、成形体を製造する際に使用するバインダーピッチには、ある程度のNa、例えば約200ppmのNaが含まれている。バインダーピッチは、焼成後にバインダーコークスとなり、骨材コークスに対しマトリクス的な形で存在する。
ここで、CO酸化においては、Naの少ない骨材コークスはそれ程CO酸化消耗しなくても、Naの多いバインダーコークスはその触媒作用から大きなCO酸化消耗を示す。そうすると、骨材コークスは消耗しなくても、マトリクスであるバインダーコークスの消耗により、骨材コークスの粒がマトリクスから崩落する形で骨材コークスが消耗し、平均的なCO酸化消耗以上に見かけ上の消耗を増大させることが知られている。一方、骨材コークス中の硫黄は、SOを発生させる等、環境問題上は有害な原子であるが、コークス中のNaが示す酸化触媒的作用に対しては抑制効果があることが知られている。従って、ある程度硫黄量のある仮焼石油コークスは、このバインダーコークス中のNaに対する触媒作用の抑制効果を発揮し、CO酸化消耗を抑制する。一方、硫黄量の少ないHPCCはこの抑制効果が少なく、熱処理成形体としての耐CO酸化性に劣る。そのため、粉部には硫黄量の多い仮焼石油コークスを用いる必要がある。なお、粉部に高硫黄コークスを使用するのは前記従来技術で説明したとおりである。
【0045】
ここで、本発明では2.0質量%以上の硫黄を含有する仮焼石油コークスを用いる。このような仮焼石油コークスを用いることで、バインダーコークス中のNaに対する触媒作用抑制効果を十分に発揮させることができ、熱処理成形体としての耐CO酸化性が向上する。さらには、低品質な仮焼石油コークスの使用により、大量に発生する低品質な仮焼石油コークスの処理も可能となる。なお、触媒作用抑制効果をさらに向上させるため、あるいは、より低品質な仮焼石油コークスを原料として使用するため、硫黄量は3.0質量%以上でもよい。一方、炭素陽極中の硫黄量を低減させる観点から、上限は7.0質量%が好ましい。そして、全体に占める粒部の割合は、後記する成形体(生成形体)の成形性や充填性から決定されるが、通常は60〜80質量%である。
【0046】
なお、粒度は、乾式篩を用いる方法により測定することができる。また、CTEは、例えば、ISO 14420に準じて、20〜300℃の温度条件として測定することができる。
【0047】
<炭素陽極製造工程>
炭素陽極製造工程は、前記炭素材料を加熱処理して炭素陽極とする工程である。
【0048】
炭素材料を加熱処理する際には、まず、炭素材料粉末を塊状に成形して成形体(生成形体)とする(成形工程)。
前記炭素材料粉末の成形は公知の方法により行うことができる。例えば、成形機において、圧縮成形を行うことで成形することができる。なお、微粉砕して高圧プレスすれば比較的容易に成形体を得ることができる。
ここで、成形する際には、粘結材としてバインダーピッチを適量混合する。生成形体中におけるバインダーピッチの割合は、10〜20質量%が好適である。さらに炭素繊維等の適当な充填材や、無灰炭製造工程で副生する形質分や残渣炭等を添加混合して用いてもよい。
【0049】
そして、このようにして成形された成形体を加熱処理する。
加熱処理の方法や条件は、特に制限はなく、公知の技術を用いて行うことができる。
例えば、電気炉において、生成形体を最高温度1000〜1300℃程度に焼成して製造するプリベイクド式や、生成形体を焼成せずに、そのまま電解槽上部のケース中に投入し、電解炉の熱にて自焼するゼーダーベルク式により炭素陽極とする。
【0050】
以上説明したように、本発明の炭素陽極の製造方法は、無灰炭製造工程、炭素化工程、炭素材料製造工程、炭素陽極製造工程を含むものである。しかし、本発明を行うにあたり、前記各工程に悪影響を与えない範囲において、前記各工程の間あるいは前後に、他の工程を含めてもよい。例えば、無灰炭製造工程の後に、無灰炭製造工程で製造された無灰炭を加熱処理する無灰炭加熱工程を含めてもよい。
【0051】
無灰炭は、製造されたままの状態では、一般に膨張性が激しいが、加熱処理することで、それを抑制することができる。無灰炭の加熱処理の方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法で行うことができる。例えば、加熱炉において、真空、高圧や、不活性雰囲気中で、無灰炭を350〜500℃、好ましくは、380〜460℃に加熱する。必要な処理時間は、無灰炭の性状や、処理温度により異なるが、概ね10分から5時間の範囲である。
【0052】
また、無灰炭の加熱処理は、無灰炭製造工程で石炭の改質に使用した溶剤と同じ溶剤の存在下で行うことが好ましい。すなわち、無灰炭を溶剤と混合し、スラリー状にして加熱処理する。無灰炭に対する溶剤の量は特に限定されるものではないが、適度な粘度のスラリーとする観点から、例えば、溶剤に対する無灰炭濃度が、乾燥炭基準で10〜50質量%、好ましくは、20〜35質量%の範囲とすればよい。また、前記溶剤に抽出された石炭成分である液部を、それから溶剤を分離することなく、そのまま加熱することによって、ここで言う無灰炭の加熱処理を行ってもよい。なお、加熱処理後の無灰炭から溶剤を分離する方法は、一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)等を用いることができる。
【0053】
溶剤を用いることで、無灰炭をそのまま加熱するよりも伝熱効率が高くなり、均一な加熱が可能となる。さらに、石炭の改質に使用した溶剤と同じ溶剤を使用することで、製造コストを下げることができる。なお、無灰炭の加熱処理に用いる溶剤としては、アルキルナフタレンやアントラセン油等が好適なものとして挙げられる。
【0054】
その他、例えば、原料石炭を粉砕する石炭粉砕工程や、ごみ等の不要物を除去する除去工程や、無灰炭を乾燥させる無灰炭乾燥工程等を含めてもよい。
【実施例】
【0055】
次に、本発明に係る炭素陽極の製造方法について、実施例、比較例を挙げて具体的に説明する。
まず、以下の方法により無灰炭から無灰炭コークス(HPCC)を製造し、このHPCCと、市販の高硫黄コークスを用いて試作した小型炭素焼成成形体について以下の試験を行った。
【0056】
[無灰炭の製造]
まず、以下の方法により、無灰炭を製造した。
瀝青炭であるコークス製造用原料炭を原料石炭とし、この原料石炭5kgに対し、4倍量(20kg)の溶剤(1−メチルナフタレン(新日鉄化学社製))を混合してスラリーを調製した。このスラリーを1.2MPaの窒素で加圧して、内容積30Lのオートクレーブ中370℃、1時間の条件で抽出した。このスラリーを同一温度、圧力を維持した重力沈降槽内で上澄み液と固形分濃縮液とに分離し、上澄み液から蒸留法で溶剤を分離・回収して、無灰炭を得た。
【0057】
[炭素化処理]
次に、以下の方法により、この無灰炭を炭素化処理した。
無灰炭を粒径1mm以下に粉砕し、その5gを内径20mmの石英試験管に、かさ密度0.8g/ccとなるように詰めた。次に、窒素雰囲気中3℃/分で1000℃まで昇温し、この温度に30分保持して炭素化し、炭化物(HPCC)を得た。
【0058】
この炭化物(HPCC)、および、仮焼石油コークスである市販の高硫黄コークスについて、S,V,Ni,Naの各含有量、耐CO酸化性、耐Air酸化性を調べた。
S,V,Ni,Naの各含有量は、ISO 12980に準じて蛍光X線により測定した。CO酸化性については、ISO 12981.1に準じて、Air酸化性については、ISO 12982.1に準じて、減少した質量の割合(質量減)を測定することで評価した。
これらの結果を表1に示す。なお、耐Air酸化性における「525℃」は、測定温度であり、「質量%」は、質量減少である。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示すように、HPCCは、市販の高硫黄コークスに比べ、S,V,Ni,Naの各含有量が低く、それに相応してコークス単味での耐CO酸化性、耐Air酸化性とも良好な値を示した。
【0061】
次に、このようにして得られたHPCCと、市販の高硫黄コークスを用いて、以下の方法により小型炭素焼成成形体を試作して、炭素陽極としての特性を調べた。
【0062】
<実施例>
[炭素材料の製造]
HPCCおよび市販の高硫黄コークスを粉砕して、それぞれ以下の粒度配合に調整した。粒度は実機陽極をモデルとした。なお、粒度は、乾式篩を用いる方法により測定した。
(1)粒径が0.25mm以上0.5mm未満:14質量%,(2)粒径が0.5mm以上1mm未満:14質量%,(3)粒径が1mm以上2mm未満:14質量%,(4)粒径が2mm以上4mm未満:14質量%,(5)粒径が4mm以上8mm未満:14質量%,(6)粉径が0.25mm未満の粉:30質量%
【0063】
そして、粒部として、0.25mm以上8mm未満のHPCCを35質量%(前記(1)〜(5)の粒径のものを半分ずつ使用)、かつ0.25mm以上8mm未満の高硫黄コークスを35質量%(前記(1)〜(5)の粒径のものを半分ずつ使用)、粉部として、高硫黄コークスを30質量%(前記(6)のものを使用)、を混合して炭素材料とした。
【0064】
[炭素陽極の製造]
この炭素材料に、市販のバインダーピッチを、バインダーピッチ量が13〜17質量%(内割り)の範囲となるように混合し、最終ぺースト温度が約170℃となる混捏をした後、直径50mm、長さ100mmのモールドにて40MPaの圧力にて成形し、生成形体を得た。
市販のバインダーピッチは、軟化点(メトラー法 ISO 5490):113℃,キノリン不溶分(ISO 6731):8.4質量%,トルエン不溶分(ISO 6376):27.7質量%,S分(ISO 12980):0.47質量%,Na分(ISO 12980):202ppmである。
【0065】
次に、この生成形体を直径1〜2mmのパッキングコークスを充填したカプセルに垂直に入れ、電気炉にて下記温度条件にて熱処理し焼成成形体を得た。
≪熱処理条件≫
20〜150℃ 100℃/時間
150℃超〜300℃ 10℃/時間
300℃超〜1100℃ 50℃/時間
1100℃ 20時間保持
【0066】
<比較例>
前記実施例と同様にして前記粒度配合に調整したHPCCおよび市販の高硫黄コークスについて、比較例1では、HPCCのみを用い、比較例2では、市販の高硫黄コークスのみを用い、比較例3では、実施例の炭素材料について粉部の半分をHPCCに置換したものを用いて、前記実施例と同様の方法で焼成成形体を得た。
このようにして製造した各焼成成形体について、以下の特性について調べた。
【0067】
[成分含有量]
成分含有量については、S,V,Ni,Naの各含有量を、ISO 12980に準じて蛍光X線により測定した。
【0068】
[熱膨張係数]
熱膨張係数(CTE)は、ISO 14420に準じて、20〜300℃の温度条件として測定した。
【0069】
[耐CO酸化性]
耐CO酸化性については、ISO 12988.1に準じて、960℃に7時間保持し、200リットル/時間の条件でCOを流入し、減少した質量の割合(質量減)を測定することで評価した。なお、表中の実施例において、合計が100.1質量%となっているのは、四捨五入により、数値が0.1ずれたためである。
【0070】
[耐Air酸化性]
耐Air酸化性については、ISO 12989.1に準じて、400℃から、15℃/時間の昇温速度で550℃まで昇温し、その間、200リットル/時間の条件で空気を流入し、減少した質量の割合(質量減)を測定することで評価した。
これらの結果を表2に示す。なお、表中の「一般石油コークス使用時の典型値」は、一般的な石油コークスを使用したアノードの典型値を示している。
【0071】
【表2】

【0072】
表2に示すように、実施例は本発明の要件を満足するため、各特性評価において優れていた。すなわち、市販の高硫黄コークス(比較例2)に比べ、硫黄含有量が低く、耐CO酸化性、耐Air酸化性にも優れていた。さらに、CTEは一般石油コークス使用アノードと同等であった。
【0073】
一方、比較例1〜3は、本発明の要件を満足しないため、以下の結果となった。
比較例1は、硫黄含有量は1質量%未満と低いものの、CTEが高硫黄コークス(比較例2)より高かった。これは無灰炭中のO,N等のへテロ原子が、コークス化時に急激なラジカル反応を起こし、コークス組織をCTEの高いファインモザイク化したためと考えられる。また、耐Air酸化性は単味コークス同様、高硫黄コークスよりも優れた値を示したが、耐CO酸化性は単味コークスでは優れていたのに対し、焼成成形体では高硫黄コークスより劣る結果となった。
比較例2は、CTEは低いものの、硫黄含有量が高く、2質量%を超えた。また、比較例1、3に比べ、耐CO酸化性は優れていたが、耐Air酸化性は劣った。
比較例3は、硫黄含有量は高硫黄コークスに比べ、低かったものの2質量%を超えた。また、高硫黄コークスに比べ、耐Air酸化性は優れていたが、耐CO酸化性は劣った。
【0074】
以上、本発明に係る炭素陽極の製造方法について、実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することができることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、従来、環境問題によりアルミニウム精錬用の炭素陽極の材料には不適とされていた高硫黄コークスをHPCCとブレンドすることにより使用することができる。また、低硫黄、かつ低金属不純物の良質な石油コークスが枯渇している中、それに代わる低硫黄、かつ低金属不純物の高品質コークスとしてHPCCを使用することができる。
そして本発明により製造された炭素陽極は、低硫黄、かつ低金属不純物の高品質なものとなり、硫黄による環境問題にも対応でき、かつCTEが低く、耐CO酸化性、耐Air酸化性にも優れたものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム精錬用の炭素陽極の製造方法であって、
溶剤を用いて石炭を改質して、改質炭である無灰炭を製造する無灰炭製造工程と、
前記無灰炭を炭素化処理して無灰炭コークスとする炭素化工程と、
前記無灰炭コークスと、生石油コークスを仮焼して得られた仮焼石油コークスと、を混合して炭素材料とする炭素材料製造工程と、
前記炭素材料を加熱処理して炭素陽極とする炭素陽極製造工程と、を含み、
前記炭素材料製造工程において、前記炭素材料の粒度配合として、粒径が0.25mm以上の粒部を、前記無灰炭コークスと前記仮焼石油コークスとで構成し、粉径が0.25mm未満の粉部を、2.0質量%以上の硫黄を含有する前記仮焼石油コークスで構成するように混合することを特徴とする炭素陽極の製造方法。
【請求項2】
前記無灰炭製造工程における、石炭を改質することによる無灰炭の製造を、石炭と非水素供与性溶剤とを混合したスラリーを加熱して、前記非水素供与性溶剤に可溶な石炭成分を抽出した後、この抽出後のスラリーを液部と非液部とに分離し、前記液部から、前記非水素供与性溶剤を分離することにより行うことを特徴とする請求項1に記載の炭素陽極の製造方法。
【請求項3】
前記炭素陽極製造工程において、プリべイクド式により炭素陽極とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の炭素陽極の製造方法。
【請求項4】
前記炭素陽極製造工程において、ゼーダーベルク式により炭素陽極とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の炭素陽極の製造方法。

【公開番号】特開2011−157606(P2011−157606A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21630(P2010−21630)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000002129)住友商事株式会社 (42)
【Fターム(参考)】