説明

点火プラグ

【課題】小径化された点火プラグにおいて、脚長部及びテーパ部の境界における絶縁体の割れをより確実に防止し、優れた耐久性を実現する。
【解決手段】点火プラグ1は、絶縁碍子2と、主体金具3とを備える。絶縁碍子2は、先端部に位置する脚長部10と、脚長部10の後端から後端側に延び、後端側に向けて拡径するテーパ部11とを具備する。主体金具3は、径方向内側に突出し、テーパ部11が係止される係止面17Sを有する段部17と、段部17の外周側に位置する雄ねじ部19と
を具備し、雄ねじ部19のねじ径がM12以下とされる。脚長部10とテーパ部11との境界を通り軸線CL1と直交する断面における、絶縁碍子2の断面積をB(mm2)とし、係止面17Sの先端を通り軸線CL1と直交する断面における、主体金具3の断面積をC(mm2)としたとき、2.80≦C/B≦3.50を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関等に使用される点火プラグに関する。
【背景技術】
【0002】
点火プラグは、例えば、内燃機関(エンジン)等の燃焼装置に取付けられ、燃焼室内の混合気への着火のために用いられる。また、点火プラグは、軸孔を有する絶縁体と、前記軸孔の先端側に挿通される中心電極と、絶縁体の外周に設けられる主体金具と、主体金具の先端部に接合され、中心電極との間で火花放電間隙を形成する接地電極とを備えている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
加えて、絶縁体は、その先端部に形成され、燃焼室内に露出する脚長部と、当該脚長部の後端から後端側に延び、その外径が後端側に向けて拡径するテーパ部とを備えている。そして、主体金具の内周に突出形成された段部に対して前記テーパ部が直接又は間接的に係止されることで、絶縁体が主体金具に係止されている。
【0004】
さらに近年では、点火プラグの小型化(小径化)が要請されており、それに伴い絶縁体の小径化が要求されている。このような小径化された絶縁体においては、その肉厚が比較的小さなものとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−108478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、環境規制の強化に対応すべく、ダウンサイジング化や高過給・高圧縮化等を図った高効率エンジンが提案されている。このようなエンジンにおいては、その動作時に、点火プラグに対して非常に大きな振動が加わるとともに、点火プラグはより高温に加熱される。そして、このような高効率エンジンにおいては、次の理由により、前記脚長部及びテーパ部の境界部における絶縁体の割れが生じてしまいやすい。
【0007】
すなわち、内燃機関の動作(振動)に伴い点火プラグに衝撃が加わった際には、絶縁体のうち、特に外径が急激に変化する部位に対して応力が加わる。そのため、外径が急激に変化する前記脚長部及びテーパ部の境界部には応力が集中的に加わる。ここで、高効率エンジンにおいては、絶縁体がより過熱されやすく、絶縁体に加わる応力も大きい。従って、前記境界部が過熱されることで、当該境界部の機械的強度が低下した状態となりやすく、この状態で、前記境界部に対して大きな応力が加わることにより、前記境界部において絶縁体の割れが生じてしまいやすい。
【0008】
さらに、絶縁体の熱は、前記テーパ部から前記主体金具の段部へと伝導することにより、エンジン側へと引かれる。そのため、テーパ部及びその近傍に位置する部位は、より急速に冷却されやすい。一方で、上述のように、高効率エンジンにおいては、絶縁体がより高温に加熱される。そのため、テーパ部及びその近傍に位置する部位に対して、大きな熱衝撃が加わることとなる。その結果、テーパ部の近傍に位置し、かつ、比較的薄肉の(機械的強度が比較的低い)脚長部及びテーパ部の境界部においては、大きな熱衝撃が加わることにより、絶縁体の割れが生じてしまうおそれがある。
【0009】
そして、上述のような境界部における絶縁体の割れは、小径化され、絶縁体が比較的薄肉となる点火プラグにおいて、特に懸念される。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、小径化された点火プラグにおいて、脚長部及びテーパ部の境界部の過熱を防止するとともに、前記境界部に加わる熱衝撃を緩和することで、前記境界部における絶縁体の割れをより確実に防止し、優れた耐久性を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0012】
構成1.本構成の点火プラグは、軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、
前記軸孔の先端側に挿設される中心電極と、
前記絶縁体の外周に配設された筒状の主体金具とを備え、
前記絶縁体は、
先端部に位置する脚長部と、
当該脚長部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記軸線方向後端側に向けて拡径するテーパ部とを具備し、
前記主体金具は、
径方向内側に突出し、前記テーパ部が直接的又は間接的に係止される係止面を有する段部と、
当該段部の外周側に位置し、燃焼装置の取付穴に螺合するための雄ねじ部と
を具備する点火プラグであって、
前記雄ねじ部のねじ径がM12以下であり、
前記脚長部と前記テーパ部との境界を通り前記軸線と直交する断面における、前記絶縁体の断面積をB(mm2)とし、
前記係止面の先端を通り前記軸線と直交する断面における、前記主体金具の断面積をC(mm2)としたとき、
2.80≦C/B≦3.50
を満たすことを特徴とする。
【0013】
上記構成1によれば、雄ねじ部のねじ径がM12以下とされており、点火プラグは小径化されている。そのため、脚長部及びテーパ部の境界部における絶縁体の割れがより懸念される。
【0014】
この点、上記構成1によれば、脚長部とテーパ部との境界を通り軸線と直交する断面における、絶縁体の断面積をB(mm2)とし、係止面の先端を通り軸線と直交する断面における、主体金具の断面積をC(mm2)としたとき、C/B≦3.50を満たすように構成されている。すなわち、前記境界部の受熱量に相当する断面積Bに対して、絶縁体の熱を燃焼装置へと伝導する際の熱引き経路の長さに相当する断面積Cが過度に大きなものとならないように構成されている。従って、前記境界部の熱を燃焼装置へと速やかに伝導することができ、前記境界部の過熱をより確実に抑制することができる。その結果、前記境界部の機械的強度が低下してしまうことをより確実に防止でき、応力が加わった際の絶縁体割れを効果的に防止することができる。
【0015】
一方で、前記断面積Cを過度に小さくした場合(絶縁体の熱を燃焼装置へと伝導する際の熱引き経路の長さが極端に短い場合)には、前記境界部が極めて急激に冷却されてしまう。そのため、前記境界部に大きな熱衝撃が加わることとなり、前記境界部において絶縁体の割れが発生してしまうおそれがある。
【0016】
この点、上記構成1によれば、2.80≦C/Bを満たすように構成されている。そのため、前記境界部が急激に冷却されてしまうことを防止でき、前記境界部に加わる熱衝撃を緩和することができる。その結果、熱衝撃による、前記境界部における絶縁体の割れをより確実に防止することができる。
【0017】
以上のように、上記構成1によれば、脚長部及びテーパ部の境界部において、過熱による機械的強度の低下抑制、及び、熱衝撃の緩和の双方をより確実に図ることができる。その結果、前記境界部における絶縁体の割れを効果的に抑制することができ、優れた耐久性を実現することができる。
【0018】
構成2.本構成の点火プラグは、上記構成1において、前記絶縁体は、
前記テーパ部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記脚長部よりも大径の中胴部と、
当該中胴部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記軸線方向後端側に向けて外径が拡径する拡径部とを具備し、
前記中胴部と前記拡径部との境界を通り前記軸線と直交する断面における、前記絶縁体の断面積をA(mm2)とし、前記点火プラグの質量をM(g)としたとき、M/A≦1.40(g/mm2)を満たすことを特徴とする。
【0019】
上述の通り、振動等による衝撃が加わった際には、絶縁体のうち外径が急激に変化する部位に対して応力が加わる。そのため、外径が急激に変化する、中胴部及び拡径部の境界部に対しても応力が集中的に加わる。この境界部においては、過熱や大きな熱衝撃の付与等は生じにくいものの、応力の集中により絶縁体の割れが生じてしまうおそれがある。
【0020】
この点、上記構成2によれば、点火プラグの質量をM(g)とし、中胴部と拡径部との境界を通り軸線と直交する断面における、絶縁体の断面積をA(mm2)としたとき、M/A≦1.40(g/mm2)を満たすように構成されている。すなわち、衝撃が加わった際には、中胴部及び拡径部の境界部に対して、質量Mに対応する応力が加わるところ、前記境界部の機械的強度に相当する断面積Aが十分に大きなものとされているため、前記応力に対して前記境界部が十分に抗することができる。その結果、中胴部及び拡径部の境界部における絶縁体の割れをより確実に防止することができ、上記構成1により奏される脚長部及びテーパ部の境界部における絶縁体の割れ抑制効果と相俟って、一層優れた耐久性を実現することができる。
【0021】
構成3.本構成の点火プラグは、上記構成1又は2において、前記絶縁体は、
前記テーパ部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記脚長部よりも大径の中胴部と、
当該中胴部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記軸線方向後端側に向けて外径が拡径する拡径部と
当該拡径部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記中胴部よりも大径の大径部と、
当該大径部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記軸線方向後端側に向けて外径が縮径する縮径部とを具備し、
前記軸線を含む断面において、前記大径部の外形線と前記縮径部の外形線との境界点、及び、前記中胴部の外形線と前記拡径部の外形線との境界点を結ぶ直線を直線L1とし、前記中胴部の外形線と前記拡径部の外形線との境界点、及び、前記脚長部の外形線と前記テーパ部の外形線との境界点を結ぶ直線を直線L2とし、前記直線L1と前記直線L2とのなす角のうち小なる角の角度をGとしたとき、G≧163°を満たすことを特徴とする。
【0022】
上記構成3によれば、G≧163°を満たすように構成されており、絶縁体のうち中胴部から拡径部にかけての部位において、その外径が緩やかに変化するように構成されている。従って、中胴部及び拡径部の境界部に加わる応力を分散させることができる。その結果、中胴部及び拡径部の境界部における絶縁体の割れをより一層確実に抑制することができ、更なる耐久性の向上を図ることができる。
【0023】
構成4.本構成の点火プラグは、上記構成1乃至3のいずれかにおいて、前記軸線に沿った前記脚長部の長さをK(mm)とし、前記点火プラグの質量をM(g)としたとき、(M/B)×K≦25.0(g/mm)を満たすことを特徴とする。
【0024】
上記構成4によれば、脚長部の長さをK(mm)とし、点火プラグの質量をM(g)としたとき、(M/B)×K≦25.0(g/mm)を満たすように構成されている。すなわち、絶縁体に衝撃が加わった際には、脚長部及びテーパ部の境界部に対して、質量M及び長さKの積に対応する応力が加わるところ、(M/B)×K≦25.0を満たすように、前記境界部の機械的強度に相当する断面積Bが十分に大きくされている。そのため、前記応力に対して前記境界部が十分に抗することができる。従って、脚長部及びテーパ部の境界部における絶縁体の割れをより一層確実に抑制することができ、耐久性をより一層向上させることができる。
【0025】
構成5.本構成の点火プラグは、上記構成1乃至4のいずれかにおいて、前記絶縁体は、
前記テーパ部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記脚長部よりも大径の中胴部と、
当該中胴部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記軸線方向後端側に向けて外径が拡径する拡径部とを具備するとともに、
前記軸孔内には、ガラス粉末を含むガラス粉末混合物が焼成されてなり、前記絶縁体と前記中心電極及び前記端子電極のうちの少なくとも一方とを固定するガラスシール部が設けられ、
前記ガラスシール部の後端は、前記中胴部及び前記拡径部の境界よりも前記軸線方向先端側に位置することを特徴とする。
【0026】
中心電極等と絶縁体とを固定するために、軸孔内にガラスシール部を設けることがある。ここで、ガラスシール部は、ガラス粉末混合物を焼成することにより形成され、焼成時には、その外周に位置する絶縁体に対して熱応力が加わる。このとき、ガラスシール部の外周に中胴部及び拡径部の境界部が位置していると、当該境界部は、応力の集中に抗すべく、高い機械的強度が要求される部位であるにも関わらず、熱応力の影響により、その機械的強度が低下してしまうおそれがある。
【0027】
この点、上記構成5によれば、ガラスシール部の後端が、中胴部及び拡径部の境界よりも軸線方向先端側に位置するように構成されている。すなわち、前記境界の内周側にガラスシール部が配置されないように構成されている。従って、焼成時において、ガラスシール部からの熱応力が、中胴部及び拡径部の境界部に対して加わらないようにすることができる。その結果、前記境界部の強度低下をより確実に抑制することができ、ひいては前記境界部における絶縁体の割れを一層効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】点火プラグの構成を示す一部破断正面図である。
【図2】主体金具に対する絶縁碍子の係止部分等を示す拡大断面図である。
【図3】脚長部からテーパ部にかけての外形線が湾曲している場合における、脚長部及びテーパ部の境界を説明するための拡大断面図である。
【図4】中胴部及び拡径部等を示す拡大断面図である。
【図5】角度Gを説明するための絶縁碍子の拡大断面図である。
【図6】中胴部から湾曲部にかけての外形線が湾曲している場合における、中胴部及び湾曲部の境界を説明するための拡大断面図である。
【図7】脚長部の長さK等を示す絶縁碍子先端部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、点火プラグ1を示す一部破断正面図である。尚、図1では、点火プラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側を点火プラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0030】
点火プラグ1は、筒状をなす絶縁体としての絶縁碍子2、当該絶縁碍子2の外周に配置される筒状の主体金具3などから構成されるものである。
【0031】
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、先端側から順に、脚長部10と、テーパ部11と、中胴部12と、拡径部13と、大径部14と、縮径部15と、後端側胴部16とを備えている。
【0032】
脚長部10は、絶縁碍子2の先端部に形成されており、少なくともその先端側の外径が軸線CL1方向後端側に向けて徐々に拡径するように構成されている。テーパ部11は、脚長部10の後端から軸線CL1方向後端側に延び、その外径が軸線CL1方向後端側に向けて拡径するように構成されている。中胴部12は、テーパ部11の後端から軸線CL1方向後端側に延び、脚長部10よりも大径で、かつ、軸線CL1方向に沿って一定の外径を有するように構成されている。拡径部13は、中胴部12の後端から軸線CL1方向後端側に向けて延び、その外径が軸線CL1方向後端側に向けて拡径するように構成されている。大径部14は、拡径部13の後端から軸線CL1方向後端側に向けて延び、中胴部12よりも大径で、かつ、軸線CL1方向に沿って一定の外径を有するように構成されている。縮径部15は、大径部14の後端から軸線CL1方向後端側に向けて延び、その外径が軸線CL1方向後端側に向けて縮径するように構成されている。後端側胴部16は、縮径部15の後端から軸線CL1方向後端側に向けて延び、その大部分が軸線CL1に沿って一定の外径を有するように構成されている。
【0033】
加えて、絶縁碍子2のうち、脚長部10の先端部と後端側胴部16の最先端部以外の部位とは、主体金具3の外部に露出しており、テーパ部11や中胴部12、大径部14等は、主体金具3の内部に収容されている。また、絶縁碍子2は、前記テーパ部11にて主体金具3に係止されている。
【0034】
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って延びる軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿設されている。当該中心電極5は、熱伝導性に優れる金属〔例えば、銅や銅合金、純ニッケル(Ni)など〕からなる内層5Aと、Niを主成分とするNi合金からなる外層5Bとを備えている。また、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、その先端部分が絶縁碍子2の先端から突出している。
【0035】
加えて、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
【0036】
さらに、軸孔4内の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状をなす導電性の抵抗体7が配設されている。また、軸孔4内における抵抗体7の両端側には、導電性物質やガラス粉末などを含むガラス粉末混合物が、圧縮状態で焼成されてなる導電性のガラスシール部8が設けられている。ガラスシール部8により、絶縁碍子2と中心電極5及び端子電極6とが固定されるとともに、中心電極5及び端子電極6が電気的に接続されている。
【0037】
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その内周には、径方向内側に突出する段部17が形成されている。段部17は、前記テーパ部11が直接又は間接的に係止される係止面17Sを備えており、本実施形態では、円環状の板パッキン18を介して、テーパ部11が係止面17Sに対して間接的に係止されている。尚、テーパ部11及び段部17間に前記板パッキン18を設けることで、燃焼室内の気密性が保持され、燃焼室内に晒される絶縁碍子2の脚長部10と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
【0038】
さらに、主体金具3の外周面には、点火プラグ1を燃焼装置(例えば、内燃機関や燃料電池改質器等)の取付孔に螺合するための雄ねじ部19が形成されており、当該雄ねじ部19は、その少なくとも一部が前記段部17の外周側に位置している。また、雄ねじ部19の後端側には座部20が外周側に向けて突出形成されており、雄ねじ部19後端のねじ首21にはリング状のガスケット22が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を燃焼装置に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部23が設けられている。また、主体金具3の後端部には、径方向内側に向けて屈曲する加締め部24が設けられている。
【0039】
さらに、絶縁碍子2は、主体金具3に対してその後端側から先端側に向かって挿入され、自身のテーパ部11が板パッキン18を介して段部17に係止された状態で、主体金具3の後端側の開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部24を形成することで主体金具3に固定されている。
【0040】
また、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材25,26が介在され、リング部材25,26間には滑石(タルク)27の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン18、リング部材25,26及び滑石27を介して絶縁碍子2を保持している。
【0041】
また、主体金具3の先端部には、略中間部分にて曲げ返された棒状の接地電極28が接合されている。加えて、接地電極28の先端部と中心電極5の先端部との間には、火花放電間隙29が形成されており、当該火花放電間隙29において、軸線CL1にほぼ沿った方向で火花放電が行われるようになっている。
【0042】
さらに、本実施形態では、点火プラグ1の小型化(小径化)を図るべく、主体金具3が小径化されており、前記雄ねじ部19のねじ径がM12以下とされている。そして、主体金具3の小径化に伴い、主体金具3の内周に配置される絶縁碍子2も小径化されており、絶縁碍子2は比較的薄肉に形成されている。
【0043】
ところで、点火プラグ1に対して振動等による衝撃が加わった際には、主体金具3を介して絶縁碍子2に応力が伝わり、絶縁碍子2のうち特に外径が急激に変化する部位に対して大きな応力が加わる。そのため、外径が急激に変化する脚長部10及びテーパ部11の境界部31には、応力が集中的に加わる。そして、燃焼装置の動作に伴い、前記境界部31が過熱され、境界部31の機械的強度が低下した状態となっているときに、絶縁碍子2に対して応力が加わると、上述のように絶縁碍子2が比較的薄肉であることも相俟って、前記境界部31において絶縁碍子2の割れが生じてしまうことが懸念される。
【0044】
そこで、本実施形態では、過熱による強度低下に起因する前記境界部31における絶縁碍子2の割れを防止すべく、図2に示すように、脚長部10とテーパ部11との境界を通り軸線CL1と直交する断面における、絶縁碍子2の断面積をB(mm2)とし、係止面17Sの先端を通り軸線CL1と直交する断面における、主体金具3の断面積をC(mm2)としたとき、C/B≦3.50を満たすように構成されている。
【0045】
一方で、前記断面積Cを過度に小さくした場合(絶縁碍子2の熱を燃焼装置側へと伝導する際の熱引き経路の長さが極端に短い場合)には、前記境界部31が極めて急激に冷却されることとなる。そのため、境界部31に大きな熱衝撃が加わることとなり、境界部31において絶縁碍子2の割れが発生してしまうことが懸念される。
【0046】
この点を鑑みて、本実施形態では、境界部31に加わる熱衝撃を緩和すべく、2.80≦C/Bを満たすように構成されている。
【0047】
尚、前記断面積Cは、雄ねじ部19における谷部分の外径を直径とする円の面積から、係止面17Sの先端の内径を直径とする円の面積を減算することにより算出することができる。
【0048】
また、図3に示すように、軸線CL1を含む断面において、脚長部10からテーパ部11にかけて外形線が湾曲線状とされている場合、脚長部10及びテーパ部11の境界(後述する境界点P3)とあるのは、前記断面において、それぞれ次述する仮想直線VL1と仮想直線VL2との交点CP1をいう。尚、仮想直線VL1とあるのは、脚長部10の外形線のうち前記湾曲線状の部位の直先端側に位置する直線状の外形線を軸線CL1方向後端側に向けて延長してなる直線をいう。また、仮想直線VL2とあるのは、テーパ部11の外形線のうち前記湾曲線状の部位の直後端側に位置する直線状の外形線を軸線CL1方向先端側に向けて延長してなる直線をいう。
【0049】
加えて、上述の通り、絶縁碍子2に衝撃が加わった際には、絶縁碍子2のうち特に外径が急激に変化する部位に対して大きな応力が加わることから、中胴部12及び脚長部13の境界部32における絶縁碍子2の割れも懸念される。
【0050】
この点、本実施形態では、前記境界部32における絶縁碍子2の割れを防止すべく、点火プラグ1の質量をM(g)とし、図4に示すように、中胴部12と拡径部13との境界を通り軸線CL1に直交する断面における、絶縁碍子の断面積をA(mm2)としたとき、M/A≦1.40(g/mm2)を満たすように構成されている。
【0051】
さらに、境界部32に加わる応力の低減を図るべく、図5(図5では、絶縁碍子2のみを示す)に示すように、それぞれ次述する直線L1と直線L2とのなす角のうち小なる角度をGとしたとき、G≧163°を満たすように構成されている。尚、直線L1とあるのは、軸線CL1を含む断面において、大径部14の外形線と縮径部15の外形線との境界点P1、及び、中胴部12の外形線と拡径部13の外形線との境界点P2を結ぶ直線をいう。また、直線L2とあるのは、軸線CL1を含む断面において、前記境界点P2、及び、脚長部10の外形線とテーパ部11の外形線との境界点P3を結ぶ直線をいう。
【0052】
尚、図6に示すように、軸線CL1を含む断面において、中胴部12から拡径部13にかけて外形線が湾曲線状とされている場合、中胴部12及び拡径部13の境界(境界点P2)とあるのは、前記断面において、それぞれ次述する仮想直線VL3及び仮想直線VL4の交点CP2をいう。ここで、仮想直線VL3とあるのは、中胴部12の外形線のうち前記湾曲線状の部位の直先端側に位置する直線状の外形線を軸線CL1方向後端側に向けて延長してなる直線をいう。また、仮想直線VL4とあるのは、拡径部13の外形線のうち前記湾曲線状の部位の直後端側に位置する直線状の外形線を軸線CL1方向先端側に向けて延長してなる直線をいう。
【0053】
さらに、軸線CL1を含む断面において、大径部14から縮径部15にかけての外形線が湾曲線状とされている場合、前記境界点P1とあるのは、大径部14の外形線のうち前記湾曲線状の部位の直先端側に位置する直線状の外形線を軸線CL1方向後端側に向けて延長してなる仮想直線と、縮径部15の外形線のうち前記湾曲線状の部位の直後端側に位置する直線状の外形線を軸線CL1方向先端側に向けて延長してなる仮想直線との交点をいう。
【0054】
加えて、本実施形態では、衝撃が加わった際における、前記境界部31における絶縁碍子2の割れを一層確実に防止すべく、図7に示すように、軸線CL1に沿った脚長部10の長さをK(mm)としたとき、(M/B)×K≦25.0(g/mm)を満たすように構成されている(尚、上述の通り、Mは、点火プラグ1の質量であり、Bは、脚長部10とテーパ部11との境界を通り軸線CL1と直交する断面における、絶縁碍子2の断面積である)。
【0055】
併せて、前記境界部32の機械的強度を高め、当界部32における絶縁碍子2の割れを一層確実に防止するために、本実施形態では、図1に示すように、前記ガラスシール部8の後端が、中胴部12及び拡径部13の境界(境界部32)よりも軸線CL1方向先端側に位置するように構成されている。すなわち、前記境界部32の内周側にガラスシール部8が配置されないように構成されている。
【0056】
以上詳述したように、本実施形態によれば、C/B≦3.50を満たすように構成されている。すなわち、前記境界部31の受熱量に相当する断面積Bに対して、絶縁碍子2の熱を燃焼装置へと伝導する際の熱引き経路の長さに相当する断面積Cが過度に大きなものとならないように構成されている。従って、前記境界部31の熱を燃焼装置へと速やかに伝導することができ、絶縁碍子2の過熱をより確実に抑制することができる。その結果、前記境界部31における絶縁碍子2の機械的強度が低下してしまうことをより確実に防止でき、応力が加わった際における絶縁碍子2の割れを効果的に防止することができる。
【0057】
一方で、本実施形態においては、2.80≦C/Bを満たすように構成されているため、前記境界部31が急激に冷却されてしまうことを防止できる。その結果、境界部31に加わる熱衝撃を緩和することができる。その結果、熱衝撃による、前記境界部31における絶縁碍子2の割れをより確実に防止することができる。
【0058】
以上のように、本実施形態によれば、脚長部10及びテーパ部11の境界部31において、過熱による機械的強度の低下抑制、及び、熱衝撃の緩和の双方をより確実に図ることができる。その結果、前記境界部31における絶縁体の割れを効果的に抑制することができ、優れた耐久性を実現することができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、(M/B)×K≦25.0(g/mm)を満たすように構成されている。すなわち、絶縁碍子2に衝撃が加わった際には、前記境界部31に対して、質量M及び長さKの積に対応する応力が加わるところ、(M/B)×K≦25.0を満たすように、前記境界部31の機械的強度に相当する断面積Bが十分に大きくされている。そのため、前記応力に対して前記境界部31が十分に抗することができる。従って、前記境界部31における絶縁碍子2の割れをより一層確実に抑制することができ、耐久性をより一層向上させることができる。
【0060】
また、本実施形態では、M/A≦1.40(g/mm2)を満たすように構成されている。すなわち、衝撃が加わった際には、中胴部12及び拡径部13の境界部32に対して、質量Mに対応する応力が加わるところ、前記境界部32の機械的強度に相当する断面積Aが十分に大きなものとされている。そのため、前記応力に対して前記境界部32が十分に抗することができる。その結果、前記境界部32における絶縁碍子2の割れをより確実に防止することができ、上述した前記境界部31における絶縁碍子2の割れ抑制効果と相俟って、一層優れた耐久性を実現することができる。
【0061】
加えて、G≧163°を満たすように構成されており、絶縁碍子2のうち中胴部12から拡径部13にかけての部位において、その外径が緩やかに変化するように構成されている。従って、境界部32に加わる応力を分散させることができる。その結果、境界部32における絶縁碍子2の割れをより一層確実に抑制することができ、更なる耐久性の向上を図ることができる。
【0062】
併せて、ガラスシール部8の後端が、中胴部12及び拡径部13の境界よりも軸線CL1方向先端側に位置するように構成されており、前記境界の内周側にガラスシール部8が配置されないように構成されている。従って、焼成時において、ガラスシール部8からの熱応力が、境界部32に対して加わらないようにすることができる。その結果、境界部32の強度低下をより確実に抑制することができ、ひいては前記境界部32における絶縁碍子2の割れを一層効果的に防止することができる。
【0063】
次いで、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、雄ねじ部のねじ径をM10又はM12とした上で、前記断面積B,C(mm2)を種々変更することにより、C/Bの値を変更した点火プラグのサンプルを作製し、各サンプルに対して実機冷熱試験及び熱間衝撃試験を行った。
【0064】
実機冷熱試験の概要は次の通りである。すなわち、サンプルを所定のエンジンに取付けた上で、プレイグニッション(早期着火)が発生するまで燃焼室内を加熱し、次いで、エンジンをアイドリング状態とする冷熱サイクルを繰り返しで10回行った。その後、サンプルの絶縁碍子を観察し、絶縁碍子(特に、脚長部とテーパ部との境界部)における割れの有無を確認した。
【0065】
また、熱間衝撃試験の概要は次の通りである。すなわち、サンプルを、エアーにより内部が空冷される所定のブッシュに取付けた。その上で、バーナーにてサンプルの絶縁碍子の先端部(火花放電間隙の近傍に位置する部位)を900℃に加熱しつつ、JIS B8031に規定された耐衝撃性試験に準じる衝撃試験(衝呈22mm)を行い、サンプルに対して1時間に亘って衝撃を加えた。その後、サンプルの絶縁碍子を観察し、絶縁碍子(特に、脚長部とテーパ部との境界部)における割れの有無を確認した。
【0066】
表1に、ねじ径をM10としたサンプルにおける両試験の試験結果を示し、表2に、ねじ径をM12としたサンプルにおける両試験の試験結果を示す。尚、C/Bを同一としたサンプルを20本ずつ用意し、各試験においては、C/Bを同一とした10本のサンプルに対して試験を行った。そして、10本のサンプルの全てにおいて、絶縁碍子の割れが確認されなかった場合には、「○」の評価を下し、一方で、10本のサンプルのうち少なくとも1本において、絶縁碍子の割れが確認された場合には、「×」の評価を下すこととした。また、表1及び表2には、参考として、前記係止面の先端における主体金具の内径D1、脚長部とテーパ部との境界における絶縁碍子の外径D2、及び、軸孔の先端側開口径D3を示す。加えて、各サンプルともに、工具係合部の対辺寸法を14mmとした。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
表1及び表2に示すように、C/Bを2.80未満としたサンプルは、実機冷熱試験による冷熱サイクルの繰り返しにより絶縁碍子に割れが生じ得ることが分かった。これは、脚長部及びテーパ部の境界部とエンジンとの間の距離が小さかったため、アイドリング時に前記境界部が急激に冷却されてしまい、境界部に大きな熱衝撃が加わってしまったことによると考えられる。
【0070】
また、C/Bを3.50よりも大きくしたサンプルは、熱間衝撃試験を行った際に、絶縁碍子の割れが生じ得ることが確認された。これは、脚長部及びテーパ部の境界部とエンジンとの間の距離が大きかったため、前記境界部の熱をエンジン側へと速やかに引くことができず、前記境界部が過熱され、その強度低下を招いてしまったためであると考えられる。
【0071】
これに対して、2.80≦C/B≦3.50を満たすサンプルは、両試験において絶縁碍子の割れが生じることなく、優れた耐久性を有することが明らかとなった。
【0072】
上記両試験の結果より、脚長部及びテーパ部の境界部の過熱を防止するとともに、前記境界部に加わる熱衝撃を緩和することにより、脚長部及びテーパ部の境界部における絶縁碍子の割れを効果的に防止するためには、2.80≦C/B≦3.50を満たすことが好ましいといえる。
【0073】
次に、主体金具のねじ径をM10又はM12とした上で、前記質量M(g)及び前記断面積A(mm2)を変更することにより、M/A(g/mm2)の値を種々異なるものとし、かつ、角度G(°)を種々変更した点火プラグのサンプルを作製し、各サンプルに対して落下試験を行った。
【0074】
落下試験の概要は次の通りである。すなわち、サンプルを所定のブッシュに取付けた状態で、2.5mの高さから落下させた。その後、サンプルの絶縁碍子を観察し、絶縁碍子(特に、中胴部と拡径部との境界部)における割れの有無を確認した。
【0075】
表3〜表5に、ねじ径をM10としたサンプルの試験結果を示し、表6〜表8に、ねじ径をM12としたサンプルの試験結果を示す。尚、M/A及び角度Gを同一としたサンプルを10本ずつ用意し、各サンプルに対して落下試験を行った。そして、10本のサンプルの全てにおいて、絶縁碍子の割れが確認されなかった場合には、割れ抑制効果に極めて優れるとして「◎」の評価を下し、10本のサンプルのうち1〜5本のサンプルで、絶縁碍子の割れが確認された場合には、優れた割れ抑制効果を有するとして「○」の評価を下すこととした。一方で、10本のサンプルのうち6〜10本のサンプルで、絶縁碍子の割れが確認された場合には、割れ抑制効果にやや劣るとして「△」の評価を下すこととした。また、表3〜表8には、参考として、前記中胴部の外径D4、及び、軸孔のうちガラスシール部が配置された部位の内径D5を示す。加えて、各サンプルともに、工具係合部の対辺寸法を14mmとした。さらに、ねじ径をM10としたサンプルは、C/Bを3.38とし、ねじ径をM12としたサンプルは、C/Bを3.21とした。
【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
【表7】

【0081】
【表8】

【0082】
表3〜表8に示すように、M/A≦1.40を満たすサンプルは、中胴部及び拡径部の境界部における絶縁碍子の割れ抑制効果に優れることが分かった。これは、中胴部及び拡径部の境界部における機械的強度に相当する断面積Aが、落下時に前記境界部に加わる応力に相当する点火プラグの質量Mに対して十分に大きくされたため、前記応力に対して前記境界部が十分に抗することができたことに起因すると考えられる。
【0083】
さらに、G≧163°を満たすサンプルも、絶縁碍子の割れ抑制効果に優れることが明らかとなった。これは、中胴部から拡径部にかけて、その外径が緩やかに変化するように構成されたことで、落下時に前記境界部に加わる応力が分散したためであると考えられる。
【0084】
また特に、M/A≦1.40及びG≧163°の双方を満たすサンプルは、極めて優れた割れ抑制効果を有することが確認された。
【0085】
上記試験の結果より、中胴部及び拡径部の境界部における絶縁碍子の割れをより効果的に防止し、一層優れた耐久性を実現するという観点から、M/A≦1.40又はG≧163°を満たすことがより好ましく、M≦1.40及びG≧163°の双方を満たすことがより一層好ましいといえる。
【0086】
次いで、主体金具のねじ径をM10又はM12とした上で、前記質量M(g)、前記断面積B(mm2)、及び、脚長部の長さK(mm)を変更することにより、(M/B)×K(g/mm)の値を種々異なるものとした点火プラグのサンプルを作製し、各サンプルに対して、落下距離を2.5mから3.0mに変更した上述の落下試験を行った。尚、当該試験においては、脚長部とテーパ部との境界部における割れの有無を確認した。
【0087】
表9〜表11に、ねじ径をM10としたサンプルの試験結果を示し、表12〜表14に、ねじ径をM12としたサンプルの試験結果を示す。尚、(M/B)×Kを同一としたサンプルを10本ずつ用意し、各サンプルに対して落下試験を行った。そして、10本のサンプルの全てにおいて、絶縁碍子の割れが確認されなかった場合には、割れ抑制効果に極めて優れるとして「○」の評価を下し、一方で、10本のサンプルのうち少なくとも1本で、絶縁碍子の割れが確認された場合には、割れがやや生じやすいとして「△」の評価を下すこととした。また、表9〜表14には、参考として、前記内径D1、外径D2、開口径D3、断面積C、及び、C/Bを示す。加えて、各サンプルともに、工具係合部の対辺寸法を14mmとし、角度Gを163°とし、M/A≦1.40とした。
【0088】
【表9】

【0089】
【表10】

【0090】
【表11】

【0091】
【表12】

【0092】
【表13】

【0093】
【表14】

【0094】
表9〜表14に示すように、(M/B)×K≦25.0を満たすサンプルは、高さ3.0mの距離から落下させ、より大きな衝撃が加えられたにも関わらず、脚長部及びテーパ部の境界部における絶縁碍子の割れを効果的に抑制できることが分かった。これは、前記境界部の機械的強度に相当する断面積Bが十分に大きくされたことで、質量Mや長さKの積に対応する応力に対して十分に抗することができる程度の強度が、前記境界部に備わることとなったことに起因すると考えられる。
【0095】
上記試験の結果より、脚長部及びテーパ部の境界部における絶縁碍子の割れをより効果的に防止し、さらに優れた耐久性を実現すべく、(M/B)×K≦25.0を満たすように構成することが一層好ましいといえる。
【0096】
次に、中胴部及び拡径部の境界を基準とし、軸線方向先端側を+側、軸線方向後端側を−側として、軸線内におけるガラスシール部の配置位置を変更することで、前記境界からガラスシール部の後端までの距離X(mm)を種々異なるものとした点火プラグのサンプルを作製し、各サンプルについてベンディング試験を行った。
【0097】
ベンディング試験の概要は次の通りである。すなわち、点火プラグを所定の試験台に対して固定した上で、JIS B8031に規定された絶縁体曲げ強度試験に基づいて、絶縁碍子の後端部に対して荷重を加え、中胴部及び拡径部の境界部において絶縁碍子の割れが生じる際の荷重(破壊荷重)を計測した。
【0098】
表15に、当該試験の試験結果を示す。尚、サンプルは、ねじ径をM10又はM12とし、ねじ径をM10としたサンプルはC/Bを3.33とし、ねじ径をM12としたサンプルはC/Bを3.21とした。また、各サンプルともに、M/A≦1.40、及び、(M/B)×K≦25.0を満たすように構成した。
【0099】
【表15】

【0100】
表15に示すように、距離Xをプラスとしたサンプル、すなわち、ガラスシール部の後端が、中胴部及び拡径部の境界よりも先端側に位置し、前記境界の内側にガラスシール部が配置されていないサンプルは、破壊荷重がより大きなものとなり、優れた機械的強度を有することが分かった。これは、ガラスシール部を焼成する際に生じる熱応力が、中胴部及び拡径部の境界部に加わってしまうことをより確実に防止できたことによると考えられる。
【0101】
上記試験の結果より、中胴部及び拡径部の境界部における機械的強度をより向上させ、耐久性を一層高めるためには、ガラスシール部の後端が、中胴部及び拡径部の境界よりも軸線方向先端側に位置するように構成することが好ましいといえる。
【0102】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0103】
(a)上記実施形態において、点火プラグ1は、火花放電間隙29において火花放電を生じさせることで、燃料ガスへと着火するものであるが、本発明の技術思想を適用可能な点火プラグの構成はこれに限定されるものではない。従って、例えば、絶縁碍子の先端部にキャビティ部(空間)を有し、キャビティ部において生成されたプラズマを噴出することで、燃料ガスへと着火する点火プラグ(プラズマジェット点火プラグ)に対して、本発明の技術思想を適用することとしてもよい。
【0104】
(b)上記実施形態では、燃焼室内において高気密性を確保すべく、滑石27が設けられている。これに対して、滑石27を備えることなく、燃焼室内において高気密性を確保可能な点火プラグに対して本発明の技術思想を適用することとしてもよい。従って、例えば、ガスケット22を備えず、テーパ状に形成された座部20の先端面がエンジンヘッドに対して直接的に接触するタイプ(コニカルシートタイプ)の点火プラグや、リング部材25,26や滑石27を備えず、熱加締めにより形成された加締め部24が、絶縁碍子2の縮径部15に対して直接的に接触するタイプ(熱加締めタイプ)の点火プラグに対して、本発明の技術思想を適用することとしてもよい。
【0105】
(c)上記実施形態では、主体金具3の先端部に、接地電極28が接合される場合について具体化しているが、主体金具の一部(又は、主体金具に予め溶接してある先端金具の一部)を削り出すようにして接地電極を形成する場合についても適用可能である(例えば、特開2006−236906号公報等)。
【0106】
(d)上記実施形態では、工具係合部23は断面六角形状とされているが、工具係合部23の形状に関しては、このような形状に限定されるものではない。例えば、Bi−HEX(変形12角)形状〔ISO22977:2005(E)〕等とされていてもよい。
【符号の説明】
【0107】
1…点火プラグ
2…絶縁碍子(絶縁体)
3…主体金具
4…軸孔
5…中心電極
8…ガラスシール部
10…脚長部
11…テーパ部
12…中胴部
13…拡径部
14…大径部
15…縮径部
17…段部
17S…係止面
19…雄ねじ部
CL1…軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、
前記軸孔の先端側に挿設される中心電極と、
前記絶縁体の外周に配設された筒状の主体金具とを備え、
前記絶縁体は、
先端部に位置する脚長部と、
当該脚長部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記軸線方向後端側に向けて拡径するテーパ部とを具備し、
前記主体金具は、
径方向内側に突出し、前記テーパ部が直接的又は間接的に係止される係止面を有する段部と、
当該段部の外周側に位置し、燃焼装置の取付穴に螺合するための雄ねじ部と
を具備する点火プラグであって、
前記雄ねじ部のねじ径がM12以下であり、
前記脚長部と前記テーパ部との境界を通り前記軸線と直交する断面における、前記絶縁体の断面積をB(mm2)とし、
前記係止面の先端を通り前記軸線と直交する断面における、前記主体金具の断面積をC(mm2)としたとき、
2.80≦C/B≦3.50
を満たすことを特徴とする点火プラグ。
【請求項2】
前記絶縁体は、
前記テーパ部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記脚長部よりも大径の中胴部と、
当該中胴部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記軸線方向後端側に向けて外径が拡径する拡径部とを具備し、
前記中胴部と前記拡径部との境界を通り前記軸線と直交する断面における、前記絶縁体の断面積をA(mm2)とし、前記点火プラグの質量をM(g)としたとき、M/A≦1.40(g/mm2)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の点火プラグ。
【請求項3】
前記絶縁体は、
前記テーパ部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記脚長部よりも大径の中胴部と、
当該中胴部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記軸線方向後端側に向けて外径が拡径する拡径部と
当該拡径部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記中胴部よりも大径の大径部と、
当該大径部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記軸線方向後端側に向けて外径が縮径する縮径部とを具備し、
前記軸線を含む断面において、前記大径部の外形線と前記縮径部の外形線との境界点、及び、前記中胴部の外形線と前記拡径部の外形線との境界点を結ぶ直線を直線L1とし、前記中胴部の外形線と前記拡径部の外形線との境界点、及び、前記脚長部の外形線と前記テーパ部の外形線との境界点を結ぶ直線を直線L2とし、前記直線L1と前記直線L2とのなす角のうち小なる角の角度をGとしたとき、G≧163°を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の点火プラグ。
【請求項4】
前記軸線に沿った前記脚長部の長さをK(mm)とし、前記点火プラグの質量をM(g)としたとき、(M/B)×K≦25.0(g/mm)を満たすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の点火プラグ。
【請求項5】
前記絶縁体は、
前記テーパ部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記脚長部よりも大径の中胴部と、
当該中胴部の後端から前記軸線方向後端側に延び、前記軸線方向後端側に向けて外径が拡径する拡径部とを具備するとともに、
前記軸孔内には、ガラス粉末を含むガラス粉末混合物が焼成されてなり、前記絶縁体と前記中心電極及び前記端子電極のうちの少なくとも一方とを固定するガラスシール部が設けられ、
前記ガラスシール部の後端は、前記中胴部及び前記拡径部の境界よりも前記軸線方向先端側に位置することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の点火プラグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−114762(P2013−114762A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257033(P2011−257033)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】