説明

無人搬送車

【課題】SLAM技術を用いた無人搬送車であっても、古典的な誘導方法で走行する無人搬送車と同様に簡単な方法で走行制御の破綻を監視することができる無人搬送車を提供すること。
【解決手段】SLAM技術を用いて現在位置を求め、求められた現在位置を基に、予め設定されている経路データ123に沿って走行し、経路データ123と無人搬送車1の現在位置とのずれを補正するための旋回角θ及び無人搬送車1の進路方向が目標位置に向くための操舵角ρを無人搬送車1が経路データ123に沿って走行するように補正しながら制御する制御手段10と、制御手段10による補正量の変動を監視するとともに、補正量が外乱によって制御可能な範囲を逸脱したときに走行を停止する監視手段11とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無人搬送車に関し、特に、走行の制御方法を改良した無人搬送車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場の生産ラインや倉庫等において、省人化や搬送の正確性を向上させるため、自動制御で、目標走行経路上を自動的に走行させ、荷物の積み降ろしを行う無人搬送車(AGV:Automatic Guided Vehicle)が導入されている。
このような無人搬送車の目標走行経路の誘導方式としては、床面に敷設した反射テープを光学的な反射光を検知し、反射テープに沿って走行する光学誘導式、磁気テープの静磁界を磁気検出センサで検出する磁気誘導式、床に敷設した誘導線に数kHzの電流を流し、誘導線に生じる交流磁界の周波数を選択して検出する電磁誘導式等がある(例えば、特許文献1〜2参照。)。
【0003】
そして、これらの誘導動式を採用する無人搬送車の特徴として、光学テープからの反射の有無、磁気テープの磁界の有無、誘導線の磁界の有無といった軌道に追従しているかを明確に判定し、追従していない場合には脱線したものとみなし無人搬送車を停止する処理が組み込まれているが、走行経路内に光学テープや磁気テープの設置が必要となり、走行の自由度が低く、また、走行ルートの変更に際しては、光学テープや磁気テープの再設置が必要となるという問題があった。
【0004】
また、レーザ距離計等の計測手段を使用し、地図情報と計測結果から自己の位置を推定して走行する技術(自己位置推定と環境地図作製を同時に行う技術(SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術))が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
このSLAM技術を用いたロボットや無人搬送車は、自己の位置が推定できる範囲において、走行制御が行われており、位置推定から位置と姿勢を制御するコントローラが、車体制御に対して車体の走行速度や操舵角度を指令し、車体制御は指令されたとおりに走行速度と操舵を制御するものである。
【0006】
一般に、産業用に使用する無人搬送車では、限定された走行エリア内を決められた経路データに沿って走行する必要があり、曲線やゆるい角度で交差する直線を除き、高速で走行することが望まれ、走行中に無人搬送車が経路から逸脱した場合には、無人搬送車を即時に停止する必要がある。
しかしながら、このようなSLAM技術を用いたロボットや無人搬送車は、直線走行を前提としたものではなく、任意空間の自由な移動を想定しているため、特許文献1〜2に開示されているような無人搬送車の脱線を検知して無人搬送車を停止するといった判定情報が存在しないという問題があった。
【0007】
また、無人搬送車が、経路から逸脱し、走行制御が破綻する要因としては、無人搬送車の故障を除き、床面の水や油分の汚れによる摩擦係数の変化、床面の傾斜、路面の荒れ、車輪の汚れ、磨耗等が挙げられ、これら多種多様な外乱要因による影響は無人搬送車が高速に走行しているときほど顕著に表れる。
このため、SLAM技術を用いた無人搬送車の制御においても、従来の古典的な誘導方法を用いた無人搬送車に採用されているような簡単な方法で無人搬送車を即時に停止することができる、走行制御の破綻を監視する技術を導入することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−231609号公報
【特許文献2】特開平04−101205号公報
【特許文献3】特開2005−242409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の無人搬送車の有する問題点に鑑み、SLAM技術を用いた無人搬送車であっても、古典的な誘導方法で走行する無人搬送車と同様に簡単な方法で走行制御の破綻を監視することができる無人搬送車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の無人搬送車は、物体までの距離を測定可能なセンサにより周辺に存在する物体までの距離を計測して、走行エリア内に存在する物体の位置情報を含む地図データと前記計測により得られる計測データとをマッチングすることによって、現在位置を求め、前記求められた現在位置を基に、予め設定されている経路データに沿って走行する無人搬送車において、経路データと無人搬送車の現在位置とのずれを補正するための旋回角及び無人搬送車の進路方向が目標位置に向くための操舵角を無人搬送車が経路データに沿って走行するように補正しながら制御する制御手段と、該制御手段による補正量の変動を監視するとともに、前記補正量が外乱によって制御可能な範囲を逸脱したときに走行を停止する監視手段とを備えてなることを特徴とする。
【0011】
この場合において、前記監視手段は、無人搬送車の角速度及び横方向加速度の値を監視するとともに、前記角速度又は横方向加速度の値が外乱によって制御可能な範囲を逸脱したときに走行を停止するようにすることができる。
【0012】
また、前記監視手段は、無人搬送車の角速度及び横方向加速度の値並びに前記地図データと計測データとのマッチング過程で得られる内部状態量を監視し、内部状態量に対する前記角速度又は横方向加速度の値が外乱によって制御可能な範囲を逸脱したときに走行を停止するようにすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の無人搬送車によれば、経路データと無人搬送車の現在位置とのずれを補正するための旋回角及び無人搬送車の進路方向が目標位置に向くための操舵角を無人搬送車が経路データに沿って走行するように補正しながら制御する制御手段と、該制御手段による補正量の変動を監視するとともに、前記補正量が外乱によって制御可能な範囲を逸脱したときに走行を停止する監視手段とを備えるようにしたから、走行制御が破綻した初期段階で急激に増加する走行制御の補正量の変動が、予め設定した許容範囲を超えたことで走行停止することで、無人搬送車の暴走に対する安全性を大幅に向上することができる。
【0014】
また、前記監視手段は、無人搬送車の角速度及び横方向加速度の値を監視するとともに、前記角速度又は横方向加速度の値が外乱によって制御可能な範囲を逸脱したときに走行を停止するようにすることにより、特定の車輪の摩擦が低下し、車体が旋回する際に生じるコーナリングフォースがアンバランスとなって車体に旋回モーメントが発生するケースで顕著に影響が出る角速度と、床の傾斜と摩擦の低下により車体が横方向に流されるケースで顕著に影響の出る横方向加速度との値を監視することにより、走行制御の破綻する外乱として発生頻度の高い、特定の車輪の摩擦が低下による車体が横方向に流されるケース及び床の傾斜と摩擦の低下により車体が横方向に流されるケースによる走行制御の破綻を早期に検知して走行を停止することができる。
また、角速度はジャイロセンサで、横方向加速度は加速度センサにより直接計測することができ、異常検知に必要な演算周期と演算精度が、位置推定を行う制御手段において十分でない場合にも走行制御の破綻を早期に検知し、無人搬送車を停止することができる。
【0015】
また、前記監視手段は、無人搬送車の角速度及び横方向加速度の値並びに前記地図データと計測データとのマッチング過程で得られる内部状態量を監視し、内部状態量に対する前記角速度又は横方向加速度の値が外乱によって制御可能な範囲を逸脱したときに走行を停止するようにすることにより、内部状態量を加味したより精度の高い走行制御の破綻監視を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の無人搬送車を使用する搬送システムを示す概略図である。
【図2】同無人搬送車の制御手段を示すブロック図である。
【図3】同無人搬送車の走行制御を説明する概略図である。
【図4】同無人搬送車の監視手段が走行を制御する制御手段の補正量を監視、検出する制御系のブロック線図である。
【図5】同無人搬送車の走行制御中に外乱が発生した場合において、床面との摩擦係数が一定であり正常に走行制御がなされている場合と、コーナリングフォースが遠心力に釣り合うだけ発生しなくなった状態における旋回遠心力の値を示すグラフである。
【図6】走行制御の破綻を監視する指標に対する走行制御の破綻状態を示すグラフで、(a)は操舵角指令の絶対値を指標とした場合を、(b)は遠心操作力の値を指標とした場合を、(c)は横方向偏差の値を指標とした場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の無人搬送車の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0018】
図1〜図6に、本発明の無人搬送車の一実施例を示す。
【0019】
この無人搬送車1は、無人搬送システムSに使用させる搬送車で、無人搬送システムSは、図1に示すように、無人搬送車1の他に、ホストコンピュータ2及び運行管理コンピュータ3を有している。なお、ホストコンピュータ2の上に上位ホストコンピュータ(図示省略)を設置することもできる。
ホストコンピュータ2は、LAN(Local Area Network)やWAN(Wide Area Network)等のネットワーク5を介して運行管理コンピュータ3と接続されており、運行管理コンピュータ3を介して、無人搬送車1から送られた計測データ121等から地図データ122を作成したり、ユーザによる経路データ123の作成を行ったりする。
運行管理コンピュータ3は、無人搬送車1から送られた計測データ121等から、ホストコンピュータ2と同様に地図データ122を作成したり、無線親局4を介した無線LAN等の無線通信によるデータの送受信によって、無人搬送車1に対して走行指示を送信したり、無人搬送車1からの状態報告を受信したりするものである。
【0020】
そして、この無人搬送車1は、物体までの距離を測定可能なセンサ20により周辺に存在する物体までの距離を計測して、走行エリア内に存在する物体の位置情報を含む地図データ122と計測により得られる計測データ121とをマッチングすることによって、現在位置を求め、求められた現在位置を基に、予め設定されている経路データ123に沿って走行するもので、経路データ123と無人搬送車1の現在位置とのずれを補正するための旋回角θ及び無人搬送車1の進路方向が目標位置に向くための操舵角ρを無人搬送車1が経路データ123に沿って走行するように補正しながら制御する制御手段10と、制御手段10による補正量の変動を監視するとともに、補正量が外乱によって制御可能な範囲を逸脱したときに走行を停止する監視手段11とを備えている。
また、無人搬送車1は、制御手段10、監視手段11、レーザ距離センサ等からなる物体までの距離を測定可能なセンサ20の他に、プログラマブルコントローラ30、操舵輪40、走行輪50、タッチパネルディスプレイ60及び無線子局70を有している。
【0021】
制御手段10は、無人搬送車1の動作を制御する装置で、経路データ123と無人搬送車1の現在位置とのずれを補正するための旋回角θ及び無人搬送車1の進路方向が目標位置Poに向くための操舵角ρを無人搬送車1が経路データ123に沿って走行するように補正しながら制御するものである。
【0022】
センサ20は、物体までの距離を測定可能なセンサであり、レーザや、ミリ波などを発射し、その反射光を検知して障害物までの距離を測定するセンサであり、走行エリアA内に存在する物体の位置情報を含む地図データ122とセンサ20の計測により得られる計測データ121とをマッチングすることによって、現在位置を求め、求められた現在位置を基に、予め設定されている経路データ123に沿って無人搬送車1は走行するものである。
また、センサ20は、無人搬送車1の180度以上計測可能な位置に取り付けられ、180度以上のレンジで回転することができ、所定の角度毎にレーザを発射することができるようになっている。
プログラマブルコントローラ30は、操舵角ρをパラメータとして制御される操舵輪40及び速度をパラメータとして制御される走行輪50の制御を行う装置である。
タッチパネルディスプレイ60は、無人搬送車1の各種設定や、保守などを行う際の情報入出力装置である。
無線子局70は、無線親局4から送信される通信データを受信し、制御手段10へ伝達する装置である。
【0023】
制御手段10は、図2に示すように、ROM(Read Only Memory)等のプログラムメモリ110と、RAM(Random Access Memory)等のデータメモリ(記憶部)120と、図示しないCPU(Central Processing Unit)とを有している。
データメモリ120には、センサ20によって計測した計測データ121、地図データ122及び経路データ123が格納されている。
計測データ121は、センサ20により測定した走行エリア内にある障害物までの距離に関するデータである。
地図データ122は、計測データ121に基づき、認識処理された結果作成され、ホストコンピュータ2、運行管理コンピュータ3又は図示しない地図データ作成用パソコンによって作成され、無線親局4を介した無線LANによるデータ通信によって、送信された地図情報であり、無人搬送車1が走行する走行エリアの地図情報である。
経路データ123は、地図データ122上に作成された無人搬送車1の走行を予定している経路情報である。なお、経路データ123は、地図データ122の作成同様、ユーザがホストコンピュータ2などで実行されている地図データ122を参照して編集ソフトウェアにより作成されるものである。
経路データ123は、ホストコンピュータ2、運行管理コンピュータ3又は図示しない地図データ作成用パソコンから無人搬送車1へ送られることによってデータメモリ120に格納される。なお、経路データ123には、各場所における無人搬送車1の速度情報などが含まれている。
【0024】
プログラムメモリ110には、無人搬送車1の走行を制御するための各プログラムが格納されており、これらのプログラムが実行されることにより、情報を処理する処理部111を具現化している。
処理部111は、座標変換部112、データ取得部113、計測データ取得部114、マッチング部115、位置推定部116、走行経路決定部117、走行制御部118及び停止制御部119を含んでいる。
【0025】
座標変換部112は、ホストコンピュータ2から取得した作業指示に含まれている目的番地を地図データ122で定義されている(すなわち、走行エリアに設定されている)座標に変換するものである。ここで、番地とは、無人搬送車1が走行する走行エリアにおける所定の場所である。
データ取得部113は、データメモリ120から経路データ123や、地図データ122などの各種データを取得する。
計測データ取得部114は、リモコンによる手動運転時や、無人搬送車1の走行制御時に、センサ20で収集された計測データ121を取得する。
マッチング部115は、無人搬送車1の走行制御時にセンサ20から送られた計測データ121と、地図データ122とをマッチングさせるようにしている。
位置推定部116は、マッチング部115によるマッチング結果を基に、無人搬送車1の現在位置を推定するものである。
【0026】
走行経路決定部117は、経路データ123に含まれている無人搬送車1の速度情報と、位置推定部116で推定された現在位置に基づいて、経路上における次の移動先位置を決定する。また、無人搬送車1の経路からのずれから、操舵角ρを算出する機能を有している。
走行制御部118は、経路データ123に含まれている速度情報や、走行経路決定部117が算出した操舵角ρを無人搬送車1のプログラマブルコントローラ30へ指示するものである。
停止制御部119は、無人搬送車1が目的番地に達したか否かを判定し、達していれば無人搬送車1を停止させるとともに、後述する監視手段11によって走行制御の破綻が確認された信号に基づいて無人搬送車1を緊急停止させるものである。
【0027】
無人搬送車1を走行させるためには、無人搬送車1をオンライン投入(自動運転)する前に地図データ122と経路データ123を作成して、無人搬送車1に記憶させる必要がある。以下、地図データ122と経路データ123の作成手順について説明する。
【0028】
地図データ122の作成は、手動コントローラ又はリモコン(リモートコントローラ)等でユーザが無人搬送車1を低速運転して、センサ20によって計測データ121を収集する。
このとき、センサ20(本実施例においては、レーザ距離センサ)は、レーザ発射部を、例えば0.5度ずつ、180度(又は180度以上)回転させて、30ms周期でレーザ光を発射する。これは、無人搬送車1が1cmから10cm程度進む毎に180度分の計測を行っていることになる。
センサ20は、発射したレーザ光の反射光を受光し、レーザ光が発射されてから受光するまでの時間を基に障害物までの距離を算出する。
計測データ取得部114は、算出した障害物までの距離に関するデータを計測データ121としてデータメモリ120に格納する。なお、計測データ121は、一定時間毎に収集される。
【0029】
走行エリア内におけるすべての計測データ121を収集後、計測データ121は、無線LAN等による通信又は外部インタフェース等を介して、ホストコンピュータ2、運行管理コンピュータ3又は図示しない地図データ作成用パソコンに出力される。
そして、ユーザが、ホストコンピュータ2、運行管理コンピュータ3又は図示しない地図データ作成用パソコン上で稼動している地図作製ソフトウェアを操作することで、出力された計測データ121に基づく地図データ122を作成する。
具体的には、収集した各計測データ121を重ね合わせることで地図データ122を作成するようにしている。
作成された地図データ122は、無線LAN等による通信又は外部インタフェース等を介して無人搬送車1に送られ、データメモリ120に格納される。
【0030】
監視手段11は、制御手段10による補正量の変動を監視するとともに、補正量が外乱によって制御可能な範囲を逸脱したときに走行制御部118に停止信号を送信し、無人搬送車1の走行を停止するようにしている。
この監視手段11によって、走行中に制御手段10による操舵角ρ等の補正制御が破綻し、無人搬送車1が経路データ123から逸脱した場合に、即時に無人搬送車1を停止させることができる。
【0031】
次に、この無人搬送車1の制御手段10による走行制御方法と、監視手段11による走行制御の破綻を検知するための監視方法を説明する。
【0032】
まず、制御手段10による走行制御方法として、図3に示すように、現在位置Pc(xc,yc)にある無人搬送車1が、当該時刻における目標位置Po(xo,yo)に移動する状況を想定し、本実施例においては、無人搬送車1の走行すべき仮想の軌道がx軸上に存在し、x軸に沿って走行するように制御する場合を例にして説明する。
【0033】
現在位置Pc(xc,yc)にある無人搬送車1は、車体がx軸に対して角度θ(旋回角θ)だけ傾いているとともに、x軸上から距離ycだけ離れている。
このため、制御手段10は、無人搬送車1を目標位置Po(xo,yo)に向けるための操舵角ρと車体をx軸と平行に向けるための旋回角θとの偏差をフィードバック制御することによって走行を制御するようにしている。
【0034】
そして、無人搬送車1の走行中、無人搬送車1の車体には、車体の速度方向に対する旋回角θを時間で微分した車体の角速度と走行速度に比例した遠心力が作用する。
一方、車体の方向を変える操舵は操舵角ρにより車体に横滑り方向の力が発生し、横滑りの角度に比例したコーナリングフォース(遠心力に抗って車体の姿勢を保とうとする力)が発生することで、遠心力とコーナリングフォースの釣り合いが取れ、釣り合った状態で無人搬送車1は移動する。
コーナリングフォースは、床面と車輪の摩擦が維持できる範囲で操舵により車体の姿勢を制御することができるが、床面や車輪の水や油による汚損で滑りやすくなった場合(外乱が大きい場合)には、コーナリングフォースが遠心力に釣り合うだけ発生しなくなり、横滑りが増加する。
【0035】
制御手段10は、この横滑りによる制御偏差を補正すべく制御量を増加させるように設定されているが、床面の状況等、外乱が大きく横滑りを止めることができない場合には、制御手段10による走行制御が破綻する。
また、外乱による横滑りが一時的なもので、コーナリングフォースと遠心力との釣り合い状態が復元した場合、既に一時的な横滑りに対応するために操舵角ρが一時的に大きくなり、大きく制御した操舵角ρを通常状態に復帰させるために無人搬送車1が蛇行する現象が発生し、走行制御が破綻する場合がある。図5に示すグラフは、無人搬送車1の走行制御中に外乱が発生した場合において、床面との摩擦係数が一定であり正常に走行制御がなされている場合と、コーナリングフォースが遠心力に釣り合うだけ発生しなくなった状態における旋回遠心力の値を示す(図5に示すグラフでは、コーナリングフォースが遠心力に釣り合うだけ発生しなくなった状態は、約17秒後にスリップによって走行制御が破綻している。)。
監視手段11は、この走行制御の破綻を監視するものであるが、具体的には、以下の値を検出し、その値が設定している正常な範囲を逸脱した場合に、無人搬送車1の走行を停止するようにしている。
【0036】
(1)操舵角指令の絶対値
本来は直線の軌道を高速で走行する際に外乱を補正するとしても操舵は極端に大きく舵をきる必要はない。
監視手段11では、操舵角ρの絶対値の許容できる範囲を設定し、この範囲を指標として使用し、正常な範囲を記憶する監視手段11によって監視し、正常な範囲を逸脱した場合に脱線とみなし無人搬送車1を停止する(図6(a)参照(運転開始から約17秒後に走行制御が破綻している。))。
無人搬送車1の操舵は機械的な可動範囲が決められているが、高速で走行する場合は機械的な稼動範囲よりも小さな範囲で操舵操作をすることが好ましく、運転状況に応じ、直線経路での操舵操作を行う範囲と、カーブ等の曲線経路では、その曲率半径に応じて操舵操作を行う範囲を設定することで、直線経路だけでなく曲線経路に対しても操舵操作の指令の範囲(操舵角ρの絶対値の許容できる範囲)を設定し、この範囲を逸脱した場合に脱線とみなし無人搬送車1を停止することができる。
【0037】
(2)操舵遠心力
操舵角ρの指令を時間で微分(角速度を求め)し、走行速度との積を計算する。この値は横滑り角をゼロとした操舵に起因する遠心力に比例する。
この値を指標として使用し、正常な範囲を記憶する監視手段11によって監視し、正常な範囲を逸脱した場合に脱線とみなし無人搬送車1を停止する(図6(b)参照(運転開始から約17秒後に走行制御が破綻している。))。
実際の無人搬送車1の挙動は、操作遠心力だけを単独で計測することはできないが、監視手段11によって、制御手段10による走行制御の制御量(操舵角ρ、旋回角θ、走行速度等)の変化を監視し、制御量の変化に応じて要因を限定し、その要因に対しての異常監視を行うことで、小さな値で異常の初期段階の状態を検出し、異常を検知して無人搬送車1を停止することができる。
【0038】
(3)旋回遠心力
無人搬送車1の現在位置の推定は、地図データ122とセンサ20の計測により得られる計測データ121とをマッチングすることによって行われ、地図データ122に対する無人搬送車1の旋回角θを内部データとして演算している場合、この値を時間で微分(角速度を求め)し、走行速度との積を計算する。
この値は車体の旋回に起因する遠心力に比例するとみなせるため、この値を指標として使用し、正常な範囲を記憶する監視手段11によって監視し、正常な範囲を逸脱した場合に脱線とみなし無人搬送車1を停止する。
【0039】
(4)遠心力
無人搬送車1の旋回における角速度をジャイロセンサ12で計測する。
ジャイロセンサは車体の位置推定に使用しないため、安価な圧電素子に生じるコリオリ力を計測する振動ジャイロセンサやガスレートジャイロセンサ、光ファイバの中を伝達する右周りの光と左周りの光の位相差を検出ファイバジャイロセンサなどで車体の旋回角速度を直接計測し、角速度と走行速度の積を計算する。
この値は遠心力に比例するため、この値を指標として使用し、正常な範囲を記憶する監視手段11によって監視し、正常な範囲を逸脱した場合に脱線とみなし無人搬送車1を停止する。
【0040】
(5)横方向偏差
現在位置と目標位置のY座標に着目し、この偏差の絶対値を指標として使用し、正常な範囲を記憶する監視手段11によって監視し、正常な範囲を逸脱した場合に脱線とみなし無人搬送車1を停止する(図6(c)参照(運転開始から約17秒後に走行制御が破綻している。))。
横方向偏差は従来の誘導線を用いた無人搬送車の脱線を判断する評価指標に近いもので、無人搬送車1の走行した軌跡から容易に評価できる指標であり、再現性のある指標となる。
【0041】
(6)横方向力
横方向の加速度をY軸方向の偏差の2階微分として計算し、無人搬送車1の総質量の積を計算する。この値は車体の横方向の力に比例するため、この値を指標として使用し、正常な範囲を記憶する監視手段11によって監視し、正常な範囲を逸脱した場合に脱線とみなし無人搬送車1を停止する。
【0042】
(7)横方向力測定値
無人搬送車1の横方向に働く加速度を加速度センサ13で直接測定する。
ストレインゲージやMEMSチップ、圧電素子を使用した比較的安価な加速度センサを使用し、この測定値と無人搬送車1の総質量の積を計算する。この値は車体の横方向の力に比例するため、この値を指標として使用し、正常な範囲を記憶する監視手段11によって監視し、正常な範囲を逸脱した場合に脱線とみなし無人搬送車1を停止する。
【0043】
上記(1)〜(7)の値を、監視手段11で監視、検出する制御系をブロック線図にして図4に示す。なお、ブロック線図の中のsはラプラス演算子を示す。
位置推定系のSLAM内部データから演算で求める指標と直接センサで観測する角速度、横方向加速度から導出される指標((4)遠心力及び(7)横方向力測定値)の組み合わせで従来の誘導線を用いた無人搬送車の脱線に相当する異常を判定するようにしている。
なお、説明を簡単にするため無人搬送車1をx軸に沿って走行するものとして説明したが、車体の旋回角θで座標(x,y)を
x’=cosθ×x−sinθ×y
y’=sinθ×x+cosθ×y
と座標変換することで任意の方向の座標(x’,y’)に対してもこの考え方は適用できる。
【0044】
上記(1)〜(7)で説明した複数の指標の値は、床面のスリップ等、外乱の発生によって、走行制御が破綻したあと、急激に増加する。
従来の光学誘導式や磁気誘導式では、走行制御の破綻を検知するためのセンサの有効検出範囲が比較的広く、例えば、磁気誘導式の場合は50mm程度、光学誘導式では100mm程度のセンサの有効検出範囲があり、この範囲を逸脱したときに走行制御が破綻し脱線したものとみなしていた。
しかし、本実施例における、監視手段11による監視方法では、走行制御が破綻した初期段階でそれぞれの指標が急激に増加するため、走行制御が破綻した早期に無人搬送車1の走行を停止することができるため、無人搬送車1の暴走に対する安全性の向上することができる。
ここで複数の方法を用いる理由は、如何なる外乱要因によって走行制御が破綻するかが特定できないことと、外乱要因の発生状況を特定できないため、複数の指標を設定しそれぞれを組み合わせて用いることが好ましいからである。
外乱の発生により無人搬送車1がスリップしたときは、制御手段10によって操舵輪40を操作しても、操舵輪40に横滑りが生じ、車体は走行方向の慣性モーメントによって直進するケースでは、(2)操作遠心力の値が顕著に増加する現象が現れる。
【0045】
特に、特定車輪の摩擦が低下し、車体に旋回のコーナリングフォースのアンバランスで車体に旋回モーメントが発生するケースでは、角速度による影響が顕著になる。
また、床の傾斜と摩擦の低下により車体が横方向に流されるケースでは、車体の横方向加速度に顕著になる。
【0046】
このため、上記(4)及び(7)で説明したとおり、角速度はジャイロセンサ12で、横方向加速度は加速度センサ13により直接計測するようにし、監視手段11が、無人搬送車1の角速度及び横方向加速度の値を監視するとともに、角速度又は横方向加速度の値が外乱によって制御可能な範囲を逸脱したときに走行を停止するようにすることができる。
これによって、異常検知に必要な演算周期と演算精度が、SLAM技術による位置推定を行う制御手段10において十分でない場合でも、走行制御の破綻を早期に検知し、無人搬送車1を停止させることができる。
さらに、この場合、監視手段11が、無人搬送車1の角速度及び横方向加速度の値並びに地図データ122と計測データ121とのマッチング過程で得られる内部状態量を監視し、内部状態量に対する角速度又は横方向加速度の値が外乱によって制御可能な範囲を逸脱したときに走行を停止するようにすることにより、内部状態量を加味したより精度の高い走行制御の破綻監視を行うことができる。
【0047】
監視手段11の指標として、位置や角度の指標(指標(1)、指標(5))は小さな量が累積し、大きな量に達したときに検出される性質があるため、検出までに時間はかかるが、小さな変化の累積を検出することできる。
それに対し、速度や加速度、力を監視の指標(指標(2)〜(4)、指標(6)〜(7))にすると、大きな値が一瞬で発生するような異常事態を初期段階で検出することができる利点がある。
【0048】
また、上述した監視方法では、無人搬送車1が直線軌道を走行している場合を前提としているが、(5)の横方向偏差に関しては、曲線軌道(カーブ)にも適用できる。
曲線軌道を走行中は走行速度を低下して運転しているため、直線軌道の走行時とは条件が異なるが、カーブの曲率と走行速度に応じた閾値を設定することで適用範囲を拡大することができる。
【0049】
以上、本発明の無人搬送車について、複数の実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、各実施例に記載した構成を適宜組み合わせる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の無人搬送車は、走行制御の破綻を簡単な方法で検知することができるという特性を有していることから、SLAM技術を用いた無人搬送車の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 無人搬送車
10 制御手段
11 監視手段
12 ジャイロセンサ
13 加速度センサ
121 計測データ
122 地図データ
123 経路データ
θ 旋回角
ρ 操舵角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体までの距離を測定可能なセンサにより周辺に存在する物体までの距離を計測して、走行エリア内に存在する物体の位置情報を含む地図データと前記計測により得られる計測データとをマッチングすることによって、現在位置を求め、前記求められた現在位置を基に、予め設定されている経路データに沿って走行する無人搬送車において、経路データと無人搬送車の現在位置とのずれを補正するための旋回角及び無人搬送車の進路方向が目標位置に向くための操舵角を無人搬送車が経路データに沿って走行するように補正しながら制御する制御手段と、該制御手段による補正量の変動を監視するとともに、前記補正量が外乱によって制御可能な範囲を逸脱したときに走行を停止する監視手段とを備えてなることを特徴とする無人搬送車。
【請求項2】
前記監視手段は、無人搬送車の角速度及び横方向加速度の値を監視するとともに、前記角速度又は横方向加速度の値が外乱によって制御可能な範囲を逸脱したときに走行を停止するようにしたことを特徴とする請求項1記載の無人搬送車。
【請求項3】
前記監視手段は、無人搬送車の角速度及び横方向加速度の値並びに前記地図データと計測データとのマッチング過程で得られる内部状態量を監視し、内部状態量に対する前記角速度又は横方向加速度の値が外乱によって制御可能な範囲を逸脱したときに走行を停止するようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の無人搬送車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−45298(P2013−45298A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182871(P2011−182871)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】