説明

無垢床材の熱処理方法と無垢床材

【課題】熱処理によって高い寸法安定性が付与されながら、表面の色調は処理前と同じである無垢床材を得る。
【解決手段】無垢床材10に電磁波を照射して内層部の少なくとも中央部の温度を170℃〜250℃の範囲に維持することにより内層部のみを熱分解させて変色12させる。この熱処理を行うと、当該無垢床材の寸法安定性は改善され、表面の色調は処理前の無垢床材の表面色調がそのまま維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に床暖房用に用いられる無垢床材に対して寸法安定化処理を施すための熱処理方法と寸法安定化処理が施された無垢床材に関する。
【背景技術】
【0002】
自然木から製材した無垢材は、他の木質材料よりも残留応力を多く持っており、吸放湿による曲がりや狂いが大きく、建築用あるいは家具用材料などとして無垢材を使用したときに、無視できない狂いが発生する場合がある。床暖房で用いられる床材は繰り返しの温度変化を受け寸法変化が起きやすいことから、無垢床材を床暖房用の床材として用いることはあまり行われない。
【0003】
木質材の寸法変化を抑制するための寸法安定化処理として、PEG処理のように木質材を薬剤中に浸漬する化学的処理や、木質材を加熱してミクロフィブリル(セルロース)とマトリックス(ヘミセルロース、リグニン)に熱化学的な変化(熱分解)を与える熱処理等が行われる。例えば、特許文献1には、熱盤間に木質材を密封状態で挟持し、該木質材をその状態で高周波加熱して、木質材中の水分を加圧水蒸気化させることで木質材の寸法安定化処理を行う熱処理方法が記載されている。特許文献2には、木質材を圧縮した状態で該木質材に高周波加熱処理を施すことにより寸法安定性を付与するようにした熱処理方法が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平6−238615号公報
【特許文献2】特開2001−252909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既に提案されている熱処理方法によって、無垢材に対しても寸法安定性を付与することができる。しかし、特許文献1に記載の方法は被処理材を密封状態で保持しておくことが必要であり、処理装置が全体として幾分複雑となっている。特許文献2に記載の方法も、被処理材を圧縮状態に維持するための装置を必要し、やはり、処理装置が全体として複雑となっている。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、使用時に寸法変化が生じやすい床暖房用の無垢床材に対して、より簡単な装置でもって、寸法安定化処理を施すことのできる熱処理方法と、その方法により寸法安定化処理が施された無垢床材とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、多くの研究と実験とを行うことにより、無垢材に対して電磁波を照射していわゆる内部加熱を行い、無垢材の持つ残留応力を緩和する軟化処理行うことで、従来考えられていたように、熱処理の間、無垢床材を密封状態に維持するあるいは圧縮状態に維持することを行わなくても、所要の寸法安定性を付与することができるという新たな事実を知見した。同時に、無垢材は加熱により変色が生じるが、電磁波の強度と照射時間を制御することにより、無垢材の表層部に変色を生じさせることなく、所要の寸法安定化処理を終えることができることも知見した。
【0008】
本発明は、上記の知見を無垢床材の寸法安定化処理に適用したものであり、本発明による無垢床材の熱処理方法は、無垢床材に電磁波を照射して内層部の少なくとも一部の温度を170℃〜250℃の範囲に維持することにより内層部のみを熱分解させて変色させ、それにより当該無垢床材の寸法安定化処理を行うことを特徴とする。
【0009】
本発明において、内層部の加熱温度が170℃未満の場合には、無垢材の軟化が充分でなく残留応力の緩和が進行しないことから、充分な寸法安定性が得られない場合があるので好ましくない。内層部の加熱温度が250℃を超える場合には、木材の熱分解が激しくなり強度低下を招くので好ましくない。
【0010】
無垢床材に上記の熱処理を施すことにより、当該無垢床材に対して、無処理のものと比較して高い寸法安定性を付与することができると同時に、処理後の無垢床材の表層部の色調は、処理前の状態(すなわち、無垢床材が本来持っていた色調)がほぼそのまま維持される。そのために、本発明による熱処理方法が施された無垢床材は、温度変化の繰り返しにより吸放湿を繰り返しても寸法変化が起こりにくい床暖房用床材として効果的に用いられる。また、無垢材が持つ色調を無垢床材の表層部に維持することができるので、そのままで高い意匠性を呈することができる。さらに、表層部には軟化や分解を伴うような高温の熱処理が施されないので、表層部の曲げ強度はそのまま維持することができ、無垢床材全体の曲げ強度をほぼ処理前と同様の値に維持することができる。
【0011】
本発明の方法において、加熱温度を170℃〜250℃の範囲に維持する領域が無垢床材の中央部を含むことは好ましく、それにより、無垢床材全体にわたってより均一な寸法安定化処理が進行する。
【0012】
本発明において加熱源として電磁波を用いるのは、物質に電磁波を照射すると物質内部で熱エネルギーに変換されて、物質は内部加熱を起こし、その物質が開放空間に置かれている場合には、通常の場合、当該物質の内層部が表層部よりも高い温度に加熱されることによる。また、本発明において電磁波とは、従来から高周波加熱あるいはマイクロ波加熱などとして用いられている電磁波を総称しており、より具体的には、周波数が1〜300MHzの高周波、特に好ましくは、13.56MHz,27.12MHz、40.14MHzの高周波、さらには、300MHz〜300GHzのマイクロ波、より好ましくは2450MHzのマイクロ波が挙げられる。
【0013】
前記したように、一般に木質材はミクロフィブリル(セルロース)とマトリックス(ヘミセルロース、リグニン)で構成されており、加熱により特にマトリックスに熱分解が起こり軟化する。材内部に乾燥や成長等での在留応力が残っている場合には、マトリックスが軟化した際に解放される。応力フリーな状態を保って養生すれば、材内部の残留応力が少ない材料ができ、環境が変化しても曲がり等の寸法変化が少なくなる。そのような軟化は、樹種によっても異なるが、通常、140℃程度を超えると開始する。
【0014】
また、本発明者らの実験では、オークやビーチのような無垢材は、ほぼ170℃前後までに加熱されると変色が起こる。この変色も、多くの要因から引き起こされるが、セルロース主鎖の切断(熱分解現象)が起こり、その接合切断による重合度低下(軟化現象)と共に、水、一酸化炭素、二酸化炭素などを放出し、カルボニル、カルボキシル、ヒドロペルオキシドなどが生成されるようになって、目視的にも黒色化あるいは褐色化するといわれており、さらに260℃のような高い温度になると、酸化分解による炭化物中の炭素含有量が急に大きくなり、木炭生成の方向に転じて、強度が低下する。
【0015】
図7aは、オークとビーチにおける動的熱機械測定値を10Hzの周波数で測定した結果であり、ビーチ材の重合度低下(軟化)は180℃付近から大きくなり、210〜230℃でピークとなっている。また、オーク材での重合度低下(軟化)は170℃付近から大きくなり、200〜220℃でピークとなっている。また、図7bは、オークとビーチにおける熱分解による重量変化を示しており、ビーチは240℃付近、オークは230℃付近から分解が激しくなることがわかる。本発明において、無垢床材の内層部の少なくとも一部の温度を170℃〜250℃の範囲に維持することとしたのは、上記の理由によるものであり、この温度範囲に無垢床材を保持することにより、加熱された領域に変色が生じると共に、無垢床材に寸法安定性が付与される。
【0016】
内層部の少なくとも一部の温度を170℃〜250℃の範囲に維持する時間は、照射する電磁波の強度、樹種や無垢床材の初期含水率などによって、変化する。維持時間が短いと十分な寸法安定性が得られず、長すぎると、前記のように、内層部が250℃を超える温度になって、炭化が進行し無垢床材の強度低下を引き起こす。従って、本発明においては、予備的実験を行いながら、表層部に変色が発生しない範囲で、より長い維持時間を設定することとなる。
【0017】
本発明において、無垢床材に電磁波を照射して加熱処理するには、公知の電磁波加熱処理装置を適宜用いることができる。被処理材である無垢床材を外部加熱できるような熱盤を備えた電磁波加熱処理装置を用いることもできる。
【0018】
本発明において「無垢床材の内層部」の言葉は、表層部を除いた当該無垢床材の内層部分のすべてを指すものとして用いている。また、「熱分解させて変色」の言葉は、従来木材の技術分野で用いられていると同じ意味で用いており、前記したように、加熱によりヘミセルロース、セルロース、リグニンなどに熱分解と軟化が生じ、熱分解の結果として発生する変色のすべてを指している。
【0019】
なお、熱盤などを用いて無垢床材を外部加熱する場合、無垢材は熱伝導率が低いために熱が内層部に伝わりにくく、厚みのある材の場合には、表層部と内層部とで温度差が生じやすい。外部加熱により内層部の少なくとも一部を170℃〜250℃の温度まで加熱して熱分解を生じさせると、表層部は通常それ以上の温度となりがちであり、表層部の炭化が進行してもろさが出てしまうと共に、変色も大きくなる。一方、外部加熱で熱分解による変色が生じない温度に表層部を加熱すると、内層部の加熱が進行しないために、十分な寸法安定性が得られない。そのような不都合を、本発明による熱処理方法では解決している。
【0020】
本発明による無垢床材の熱処理方法において、電磁波を照射する前の工程として、無垢床材の表層部を100℃〜170℃の範囲で外部加熱する処理を行うようにしてもよい。外部加熱の方法は任意であるが、100℃〜170℃の温度に加熱した熱盤の間に被処理無垢床材を挟持して、熱盤からの熱により加熱することが実際的である。上下の熱盤の温度は同じであってもよく、異なっていてもよい。無垢床材の表層部を予め100℃〜170℃の温度に加熱しておくことにより、電磁波での加熱処理時間を短縮できると共に、表層部でのヘミセルロースの熱分解が進行して、無垢床材の寸法安定性はさらに向上する。しかし、その温度範囲では、表層部に変色は生じない。
【0021】
本発明による無垢床材の熱処理方法において、電磁波を照射する工程を、外部加熱により無垢床材の表層部を100℃〜170℃の範囲に維持した状態で行うようにしてもよい。この場合も、上下の熱盤の温度は同じであってもよく、異なっていてもよい。この処理は、被処理無垢床材を外部加熱できるような熱盤を備えた電磁波加熱処理装置を用いることにより、容易に行うことができる。この方法によっても、無垢床材の表層部が100℃〜170℃の温度に加熱されるので、ヘミセルロースの熱分解が進行して、無垢床材の寸法安定性はさらに向上する。しかし、その温度範囲では、表層部に変色は生じないので、処理後の無垢床材の意匠性が低下することはない。さらに、電磁波で発生する熱の放熱が抑えられるので、内層部をより均一に熱分解させることが可能となり、寸法安定性は一層向上する。
【0022】
本発明は、また、上記の熱処理方法で製造される無垢床材も開示する。すなわち、本発明による無垢床材は、基本的に、加熱による熱分解処理が進行して内層部の少なくとも一部が変色し、表層部には熱分解処理に起因する変色が生じていないことを特徴とする。より具体的には、熱分解処理が電磁波を照射することによって施されたことを特徴とする上記床暖房用の無垢床材あり、電磁波として高周波、特に13.56MHzの高周波を照射することによって熱分解処理が施されたことを特徴とする床暖房用の無垢床材である。
【0023】
さらに本発明は、無垢床材に電磁波を照射して内層部の少なくとも一部の温度を170℃〜250℃の範囲に維持することにより内層部の少なくとも一部を熱分解処理が進行して内層部の少なくとも一部が変色し、表層部には熱分解処理に起因する変色が生じていないことを特徴とする床暖房用の無垢床材をも開示する。
【0024】
上記方法の発明において説明したよう、本発明による無垢床材は、寸法安定性に優れると同時に、表層面は処理前の無垢床材の表層面と同じ色調を保持しており、高い意匠性が確保される。そのために、本発明による無垢床材は、特に床暖房用床材の基材として用いるのに好適となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、熱処理によってマトリックス(ヘミセルロース、リグニン)が軟化して残留応力が解放され、それにより寸法安定性が改善されながら、基材表面の色調をそのまま保持している無垢床材が得られる。本発明による無垢床材は床暖房用の床材として特に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態に基づき説明する。図1は熱処理前の無垢床材の一例を示しており、図2は熱処理工程を説明するための図である。また、図3は熱処理終了後の無垢床材を模式的に示している。図4は図3に示した無垢床材に実加工を施した状態の2つの例を示している。
【0027】
最初に、図1に示すように、例えばビーチ材からなる適宜の大きさの無垢床材10を用意する。図示の例では矩形状の無垢床材10となっているが、所要に電磁波を照射できる形状であれば、その形状は任意である。
【0028】
次の工程で、無垢床材10に加熱処理を施す。図示の例では、上下の熱盤21,22を備えた電磁波加熱処理装置20を用いており、熱盤21,22には外部加熱源としてヒーター23,23が備えられる。熱盤21,22は図示しない高周波発生回路に接続していて、所要周波数の電磁波(高周波)を発生する一対の電極板としての機能も果たすようになっている。
【0029】
ヒーター23により、熱盤21,22を例えば100℃〜170℃の温度に予熱しておき、下熱盤22の上に無垢床材10を置く。上熱盤21を下降して、図2bに示すように、無垢床材10に密着させ、一定時間、その状態に保持する。それにより、少なくとも無垢床材10の表層部分はほぼ100℃〜170℃の温度に予備加熱される。しかし、木材の熱伝導性は低く、中心部まで同じ温度には加熱されがたい。なお、この予備加熱工程は省略することができる。100℃〜170℃の温度に予備加熱された領域では、熱分解が進行するが、加熱温度が低いために、変色することはない。
【0030】
所要に無垢床材10を予備加熱した後、無垢床材10に例えば13.56MHzの高周波(電磁波)を照射する。照射している間、ヒーター23による外部加熱を継続して行ってもよく、外部加熱を停止してもよい。高周波の照射により、無垢床材10の内層部は次第に昇温していき、170℃〜250℃の範囲内の予め定めた温度となったときに、高周波の照射量を低減するか出力を低下させて、それ以上に昇温しないようにし、170℃〜250℃の温度範囲内の予め定めた温度に一定時間保持する。それにより、熱分解が進行すると共に、昇温した領域の変色も進行する。170℃〜250℃の温度範囲での熱分解によって、無垢床材10の寸法安定化処理が進行する。その間も、無垢床材10の表層部は100℃〜170℃の温度に維持されるので、変色することはない。無垢床材10の表層部に変色が生じる前に、電磁波の照射を停止する。電磁波の照射を停止する時点は、予め実験的に求めておく。
【0031】
上熱盤21を上昇させて、熱処理後の木質板10を取り出す。図3に示すように、熱処理後の無垢床材10の内層部は、図に斜線で示すように熱分解に起因して変色した領域12となっており、表層部は当初の無垢材の色調がそのまま残っている。後の実施例で示すように、このようにして熱処理された無垢床材は寸法安定性が大きく向上している。
【0032】
図4は、上記のようにして作られた無垢床材10の周囲に実加工を施した床材11を示している。この例で、無垢床材10の短手方向の木口面は切り落とされ、長辺側には雄実13と雌実14を形成されている。このような加工を施すことにより、周囲に熱分解により変色した部分(領域)12が現れるが、その部分は、床材11を床下地に敷き詰めるときに人の目に触れることはないので、不都合はない。また、表面には基材として用いて無垢材の表面の色調がそのまま残っているので、高い寸法安定性を備え、かつ高意匠性を備えた、特に床暖房用床材に適した無垢床材を得ることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例と比較例により本発明を説明する。
[実施例1]
試験体の無垢床材として、厚さ30mm×幅83mm×長さ1840mmのビーチ柾目材を用意し、それを厚さ方向で半割して厚さ12mm×幅83mm×長さ1840mmのペアの試験体とした。一方の試験体について、図2に示した形態のヒーターを持つ熱盤を備えた電磁波加熱処理装置を用いて、周波数13.56MHzの高周波(電磁波)を照射して熱処理を行った。光ファイバーセンサーにより無垢床材の中心部の温度を実際に測定した。
熱処理は、試験体を上下の熱盤温度を100℃にセットして熱盤間に試験体を挟持した後、ワット密度3.7W/cmで高周波を照射した。高周波15秒間照射、5秒間照射なしのサイクルを7分間に亘り繰り返した。中心部の最高到達温度は230℃であった。
【0034】
[実施例1−1]
熱処理後の無垢床材に対して、図4に示したような普通実加工を行い、それを温水パイプを備えた温水マットの上に敷き詰めて、実験用の温水暖房床構造を構築した。敷き詰めた無垢床材の表面は無垢材の地肌色がほぼそのまま現れていた。施工後、20℃65%RHの環境に1週間放置した後、温水マットへの80℃温水の通湯を1100時間連続した。1100時間通湯後における、隣接する無垢床材の長辺間の複数点における隙間変動量を次式により求め、その平均隙間変動量を算出したところ、0.50mmであった。
式:隙間変動量=1100時間通湯後の隙間量−通湯前の隙間量
【0035】
[比較例1]
実施例1で用いたペアの試験体の他方の試験体を用い、熱処理を行うことなく、同じ無垢床材を加工した。それを用いて実施例1−1と同様に実験用の温水暖房床構造を構築した。施工後、温水マットへの80℃温水の通湯を1100時間連続した。1100時間通湯後における、隣接する無垢床材の長辺間の平均隙間変動量を実施例1−1と同様にして測定したところ、1.17mmであった。
【0036】
[考察]
実施例1−1と比較例1とから、本発明による熱処理を施した無垢床材は未処理のものと比較して高い寸法安定性が得られていることがわかる。また、本発明による無垢床材の表面は無垢材の地肌色がほぼそのまま現れており、高い意匠性も得られる。
【0037】
[実施例2]
実施例1で用いたペアの試験体の一方の試験体を用い、各試験体について、実施例1と同様に加熱処理を行った。ただし、無垢床材の中心部での最高到達温度が、220℃、205℃、190℃の3種類となるように高周波加熱を制御した。
熱処理後の各無垢床材に対して、図5に示す形状の実加工を施し、それを用いて、実施例1−1と同様に3種の実験用の温水暖房床構造を構築した。すべてにおいて、敷き詰めた無垢床材の表面は無垢材の地肌色がほぼそのまま現れていた。
施工後、20℃65%RHの環境に1週間放置した後、温水マットへの80℃温水の通湯を1100時間連続した。1100時間通湯後における、隣接する無垢床材の長辺間に形成される図5での斜め隙間hの変動量を、複数点において次式により測定し、その平均値を斜め隙間平均変動量として算出したところ、220℃処理の無垢床材で構築した温水暖房床構造での斜め隙間平均変動量は0.13mm、205℃処理の無垢床材で構築した温水暖房床構造での斜め隙間平均変動量は0.28mm、190℃処理の無垢床材で構築した温水暖房床構造での斜め隙間平均変動量は0.28mmであった。
斜め隙間変動量=1100時間通湯後の斜め隙間量−通湯前の斜め隙間量
【0038】
[考察]
実施例2での無垢床材は、いずれにおいても、比較例1における無処理の無垢床材での平均隙間変動量1.17mmよりも小さい値となっており、本発明による無垢床材では高い寸法安定性が得られていることが示される。
【0039】
[実施例3]
試験体の無垢床材として、厚さ30mm×幅83mm×長さ1840mmのビーチ柾目材を複数本用意し、それを厚さ方向で半割して厚さ12mm×幅83mm×長さ1840mmのペアの試験体とした。一方の試験体について、図2に示した形態のヒーターを持つ熱盤を備えた電磁波加熱処理装置を用い、100℃〜170℃の範囲で外部加熱する処理を300秒行った後、周波数13.56MHzの高周波(電磁波)を15秒間照射、15秒間照射なしのサイクルを5分間に亘り繰り返して熱処理を行った。光ファイバーセンサーにより無垢床材の中心部の温度を実際に測定したところ、最高到達温度は205℃であった。
【0040】
熱処理済みの試験体の表面は無垢材の地肌色がほぼそのまま現れていた。熱処理済みの試験体を表1に記載した環境下に連続しておき、各時点での曲がりを次のようにして測定し、最大曲がり変動量を求めた。その結果を表1に示した。なお、表1での最大曲がり変動量は複数本の平均値である。
【0041】
【表1】

a.曲がり量の測定:試験体の片側にガイドを当て、ガイドの材との間の隙間を測定して曲がり量とした。
b.曲がり変動量:20℃65%で2週間放置した平衡状態を基準とし、そこからどれだけ変化したかを曲がり変動量として次式により求めた。
曲がり変動量(mm)=各環境下での曲がり量(mm)−20℃65%平衡状態での曲がり量(mm)
【0042】
なお、曲がり量は、各材について複数点で測定し、また、両側面で測定した。そして、それぞれについて前記曲がり変動量を計算し、その最大値を表1に最大曲がり変動量(mm)として示した。
【0043】
[比較例2]
実施例3で用いたペアの試験体の他方の試験体を用い、加熱処理を行うことなく、実施例3と同様にして最大曲がり変動量を測定した。その結果を表1に比較材として示した。
【0044】
[評価]
表1に示すように、本発明による熱処理を施した試験体(実施例材)は、放湿処理を行った後でも最大曲がり変動量の値は、比較材と比較して小さくなっており、寸法安定性に優れた材となっていることがわかる。
【0045】
[実施例4]
実施例1と同様にして処理した熱処理後の無垢床材を20℃65%RHで調湿し、表2に示す環境下で段階的に放湿し、各環境下での含水率(%)の変化を測定した。その結果を表2に示した。
【0046】
【表2】

【0047】
また、各時点での曲がり量を実施例3と同様にして測定し、最大曲がり変動量を計算した。その結果を、含水率の変化とともに図6のグラフに処理材として示した。なお、表2での含水率および図6での最大曲がり変動量は複数本の平均値である。
【0048】
[比較例3]
実施例4で用いたペアの試験体の他方の試験体を用いて、加熱処理を行うことなく、実施例4と同様にして最大曲がり変動量を測定した。その結果を上記表2に比較材として、および図6にブランクとして示した。
【0049】
[評価]
表2および図6に示すように、本発明による熱処理を施した試験体は、この実施例においても、放湿処理を行った後でも最大曲がり変動量の値は、比較材と比較して小さくなっており、寸法安定性に優れた材となっていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】熱処理前の無垢床材の一例を示す図。
【図2】熱処理工程を説明するための図。
【図3】熱処理終了後の無垢床材を模式的に示す図。
【図4】図3に示した無垢床材に実加工を施した状態を示す図。
【図5】実施例2での実の形状を示す図。
【図6】実施例4および比較例3での含水率の変化と最大曲がり変動量を示すグラフ。
【図7】木材の熱に対する特性を説明するためのグラフ。
【符号の説明】
【0051】
10…無垢床材、12…熱分解に起因して変色した領域、11b…床材、13…雄実、14…雌実、15…溝、20…電磁波加熱処理装置、21…上熱盤、22…下熱盤、23…ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無垢床材の熱処理方法であって、無垢床材に電磁波を照射して内層部の少なくとも一部の温度を170℃〜250℃の範囲に維持することにより内層部の少なくとも一部を熱分解させて変色させ、それにより当該無垢床材の寸法安定化処理を行うことを特徴とする無垢床材の熱処理方法。
【請求項2】
170℃〜250℃の範囲に維持する領域が無垢床材の中央部を含むことを特徴とする請求項1に記載の無垢床材の熱処理方法。
【請求項3】
電磁波を照射する前の工程として、無垢床材を100℃〜170℃の範囲で外部加熱する処理を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の無垢床材の熱処理方法。
【請求項4】
電磁波を照射する工程を、外部加熱により無垢床材の表層部を100℃〜170℃の範囲に維持した状態で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の無垢床材の熱処理方法。
【請求項5】
電磁波として13.56MHzの高周波を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の無垢床材の熱処理方法。
【請求項6】
加熱による熱分解処理が進行して内層部の少なくとも一部が変色し、表層部には熱分解処理に起因する変色が生じていないことを特徴とする床暖房用の無垢床材。
【請求項7】
請求項6に記載の床暖房用の無垢床材であって、電磁波を照射することによって熱分解処理が施されたことを特徴とする床暖房用の無垢床材。
【請求項8】
請求項7に記載の床暖房用の無垢床材であって、高周波を照射することによって熱分解処理が施されたことを特徴とする床暖房用の無垢床材。
【請求項9】
請求項8に記載の床暖房用の無垢床材であって、13.56MHzの高周波を照射することによって熱分解処理が施されたことを特徴とする床暖房用の無垢床材。
【請求項10】
無垢床材に電磁波を照射して内層部の少なくとも一部の温度を170℃〜250℃の範囲に維持することにより内層部の少なくとも一部で熱分解処理が進行して内層部の少なくとも一部が変色し、表層部には熱分解処理に起因する変色が生じていないことを特徴とする床暖房用の無垢床材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−137290(P2008−137290A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326182(P2006−326182)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000000413)永大産業株式会社 (243)
【Fターム(参考)】