説明

無塩アルコール発酵調味液及びその製造方法

【課題】無塩でありながら十分な香味ないし香気を有する調味液を提供することを目的とする。
【解決手段】8〜18%(容量/容量)のアルコール濃度を有する仕込アルコール溶液、麹およびアルコール発酵可能な酵母を含む仕込混合物を、20℃以下の温度でアルコール発酵する工程を有する、無塩アルコール発酵調味液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無塩アルコール発酵調味液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
醤油の醸造には、麹の高塩濃度条件でのアルコール発酵が用いられており、アルコール発酵により特徴的な香気を有するようになる。アルコール発酵はエステル類,アルコール類,アルデヒド化合物,フラノン類など香味に大きく影響する(非特許文献1)。既存品の無塩調味液は麹をアルコール存在下で分解・熟成させたものであり、食塩による酵素の活性阻害が無いため旨味成分のグルタミン酸に代表されるアミノ酸が豊富であるが、発酵過程で産生する発酵香気に乏しい欠点があった。
【特許文献1】特開平6-125735号公報
【特許文献2】特許第3827300号
【特許文献3】特開平11-127812号公報
【特許文献4】特許第3227893号
【特許文献5】特許第3065695号
【非特許文献1】布村伸武,佐々木正興:醤研,24,209(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、無塩でありながら十分な香味ないし香気を有する調味液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、発酵型無塩調味液の製造条件について検討を重ねた結果、無塩かつ高アルコール濃度下で、かつ、20℃以下の低温下にアルコール発酵を行うことで、無塩でありながら十分に実用に耐える調味液が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
本発明は、以下の無塩調味液及びその製造方法に関する。
項1. 4〜18%(容量/容量)のアルコール濃度を有する仕込アルコール溶液、麹およびアルコール発酵可能な酵母を含む仕込混合物を、20℃以下の温度でアルコール発酵する工程を有する、無塩アルコール発酵調味液の製造方法。
項2. 前記仕込混合物が、高全窒素分含量及び/又は高浸透圧の仕込混合物である、項1に記載の方法。
項3. 高アミノ酸含量又は高浸透圧の仕込混合物が、アルコール発酵後又は熟成後の無塩調味液を含み、該無塩調味液を含む仕込混合物を用いてアルコール発酵を行う再仕込み工程を有する、項2に記載の方法。
項4. 高全窒素分含量の仕込混合物が、高アミノ酸含量及び/又は高ペプチド含量の仕込混合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
項5. アルコール発酵可能な酵母が、Saccharomyces cerevisiae及びZygosaccharomyces rouxiiからなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1〜4のいずれかに記載の方法。
項6. 麹由来のタンパク質を加水分解して得られるアミノ酸及びペプチド成分及びペンタン酸を有し、全窒素分含量が0.2〜5%(重量/容量)、エタノール濃度が0〜15%(重量/容量)、かつ、以下の(1)〜(5)の少なくとも1つの条件を満足する、無塩アルコール発酵調味液:
(1)3-methylbutyl formateが2ppm以上、かつ、3-methylbutyl formate/pentanoic acidの比が30以上
(2)1-nonen-3-olが0.1ppm以上、かつ、1-nonen-3-ol/pentanoic acidの比が1以上
(3)2-methyl-propanoic acidが0.1ppm以上、かつ、2-methyl-propanoic acid/pentanoic acidの比が0.5以上
(4)p-guaiacolが0.1ppm以上、かつ、p-guaiacol/pentanoic acidの比が0.8以上
(5)HEMFが1ppm以上、かつ、HEMF/pentanoic acidの比が1以上
項7. 項1〜5のいずれかに記載の方法により得ることができる、項6に記載の無塩調味液。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高血圧予防・改善のための機能性調味液を得ることができる。本発明の調味液は、既存品に比べ調味液としてより醤油ないし味噌らしい風味を実生産可能な方法で付与し、発酵型の無塩醤油様調味液の実用化を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明において、無塩調味液は、20℃以下の低温下で、高アルコール含量の仕込混合物を用い、麹にアルコール発酵可能な酵母を作用させて製造することができる。
【0008】
本発明の好ましい実施形態において、無塩調味液は、高全窒素分含量及び/又は高浸透圧、かつ、高アルコール含量の仕込アルコール溶液を用い、麹にアルコール発酵可能な酵母を作用させて製造することができる。
【0009】
本明細書において「普通仕込」とは、麹とアルコールと水の混合物に酵母を添加したものを仕込混合物とし、アルコール発酵させる工程を有する製造方法を指すものである。
【0010】
「再仕込」とは、麹とアルコールと水と既存品の無塩調味液の混合物に酵母を添加したものを仕込混合物とし、アルコール発酵させる工程を有する製造方法を意味する。「再仕込」においては、仕込時に既存品の無塩調味液の代わり無塩アルコール発酵調味液を用いてもよい。
【0011】
麹菌としては、Aspergillus oryzaeとAspergillus sojaeが好ましいものとして例示できるが、これらの他に、Aspergillus awamori, Aspergillus saitoi, Aspergillus usamii, Aspergillus shirousamii, Aspergillus kawachii, Aspergillus nakazawai, Aspergillus inuii, Aspergillus nigerなどのAspergillus属、Monascus anka、Monascus purpureusなどのMonascus属、Rhizopus japonicus、Rhizopus delemar、Rhizopus javanicus、Rhizopus tonkinensis、Rhizopus oligosporusなどのRhizopus属、Mucor rouxiiなどのMucor属などのカビが挙げられる。
【0012】
麹は、アルコールとアルコール発酵可能な酵母の存在下でアルコール発酵される。
【0013】
アルコール発酵可能な酵母とは、2〜18%(V/V)のアルコールを含む培養液で培養したときに、アルコール濃度を増加させることができる酵母を意味し、具体的には、Saccharomyces cerevisiaeとZygosaccharomyces rouxiiが好ましく例示されるが、これら以外にSaccharomyces cerevisiae var. ellipsoideus、Saccharomyces cerevisiae Hansen、Saccharomyces carlsbergensis Hansen 、Saccharomyces uvarum、Saccharomyces formosensis、Sacchromyces rouxiiなどのSaccharomyces属、Schizosaccharomyces pombeなどのSchizosaccharomyces属、Saccharomycodes ludwigiiなどのSaccharomycodes属、Kluyveromyces fragilisなどのKluyveromyces属、Kloeckera apiculataなどのKloeckera属、Candida versatilis、Candida etchellsiiなどのCandida属酵母、Torulopsis versatilis、Torulopsis etchellsiiなどのTorulopsis酵母などが挙げられる。添加する酵母は、圧搾酵母、乾燥酵母、酵母培養液などアルコール発酵に支障が無ければ使用できその形態は問わない。
【0014】
アルコール発酵に使用される仕込混合物は、高全窒素分含量を有する仕込混合物、あるいは、高浸透圧の仕込混合物が使用される。ここで、窒素分としては、アミノ酸、ペプチド、タンパク質が挙げられ、アミノ酸、ペプチドの割合が多い仕込混合物が好ましい。従来、アルコール発酵は麹に水とアルコールが添加され、アミノ酸、ペプチド、タンパク質などの窒素分は加えられていない。一方、本発明の好ましい実施形態では、アルコール発酵の仕込混合物に対し窒素分を増加させる。具体的には、アミノ酸ないしペプチドあるいはこれらの混合物をアルコール発酵液に添加してもよく、タンパク質の分解の進んだ麹を窒素分が高濃度になるように添加しても良く、あるいは、アルコール発酵後の窒素分を含む無塩調味液を用いてアルコール発酵をさらに行う再仕込みを行って窒素分高含有の仕込混合物としてもよい。高浸透圧の仕込混合物としては、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖分、繊維質などが多く含まれている仕込混合物が挙げられ、麹にアミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖分、繊維質などの成分を加えてもよく、麹が高濃度に含まれる仕込混合物であってもよい。麹はタンパク質、デンプンなどの高分子が分解されてアミノ酸、ペプチド、糖分が多く含まれているので、麹を高含有するアルコール発酵用仕込混合物は、高全窒素分含量と高浸透圧の両方の仕込混合物に相当する。
【0015】
本明細書において、「高全窒素分含量」とは、全窒素分含量が0.2%(W/V)以上、好ましくは全窒素含有量が0.2〜5.0%(重量/容量)、より好ましくは0.2〜2%(W/V)の仕込混合物を意味する。
【0016】
なお、無塩調味液を凍結乾燥などにより粉末にすると、無塩調味料(粉末)の全窒素分含量は0.15〜17.5g/100g(重量/重量))程度になり、このような無塩調味料は本発明に包含される。
【0017】
本明細書において、「高浸透圧」とは、全窒素分含量が0.2%(W/V)以上、好ましくは0.2〜2%(W/V)の仕込混合物に相当する浸透圧を有する仕込混合物を意味する。高浸透圧の仕込混合物としては、高可溶性固形分含有仕込混合物,高溶質濃度の仕込混合物、高水分活性の仕込混合物、低水分含有の仕込混合物が挙げられる。浸透圧は、アルコール濃度にも影響されるので、アルコール濃度が高ければ、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖分、繊維質などの溶質の量が少なくても高浸透圧の仕込混合物とすることができる。
【0018】
本発明の仕込混合物に添加可能な無塩調味液は、発酵型、無発酵型いずれも使用可能であるが、発酵型が好ましい。
【0019】
仕込アルコール溶液のアルコールの含有量は、容量(V/V)で4〜18%、好ましくは6〜14%、より好ましくは8〜12%である。アルコール濃度が低すぎると雑菌が繁殖(腐敗)してpHが低下することがある。また、アルコール濃度が高すぎると、アルコール発酵のために加えた酵母の活動が弱くなり、アルコール発酵の際の風味や香味の向上、原料臭の除去などの効果が弱くなる。
【0020】
仕込みアルコール溶液は、アルコールと水からなっていてもよく、さらに無塩調味液や、窒素分、糖分、繊維質などを加えて全窒素分含量ないし浸透圧を高くしてもよい。
【0021】
本明細書において、「アルコール」は、「エタノール」の意味で通常用いられる。
【0022】
仕込混合物は、麹と仕込アルコール溶液と、アルコール発酵可能な酵母から基本的に構成される。麹と仕込アルコール溶液の配合比率は、麹1kgあたり1.3〜2.7Lの仕込アルコール溶液を用いることが好ましい。アルコール発酵可能な酵母は、仕込混合物あたり10〜10個/g台程度用いられる。
【0023】
麹のアルコール発酵は、高塩濃度の水溶液中で行われていた。高塩濃度溶液の発酵であれば、雑菌の繁殖がなく、アルコールの産生量も多くなり、発酵は十分に進行する。一方、8%以上の高いアルコール濃度の仕込アルコール溶液では、発酵条件にもよるが、発酵が十分に進行せず、アルコール発酵による風味・香味の向上効果は限られたものになる。実際、4%、あるいは6%のアルコール濃度の場合には、雑菌の繁殖が抑制できず、仕込混合物のpHは急速に低下する。また、アルコール濃度が18%を超えると、アルコール発酵が起こらなくなる。そして、アルコール発酵時の温度が高すぎると、発酵が円滑に進行せず、原料臭も残ることがある。アルコール発酵の際の仕込混合物の温度は、20℃以下が挙げられ、具体的には10〜20℃程度、好ましくは15〜20℃程度が挙げられる。一般的に、アルコールの濃度が高くなるにつれて温度を高くすることができる。発酵温度が25℃を超えると、pHが急速に低下し、腐敗が進行しやすくなる。
【0024】
高アルコール濃度の仕込混合物の発酵は、弱く発酵した仕込混合物に麹を加え、アルコール濃度を所定の範囲に調整して再仕込みすると格段に向上することを本発明者は見出した。理論に拘束されることを望むものではないが、この理由について本発明者は以下のように考えている。再仕込みをすると、アミノ酸、ペプチドを多く含む発酵仕込混合物にさらにアミノ酸、ペプチドを多く含む麹が加えられることによりアミノ酸・ペプチドの濃度(すなわち仕込混合物の浸透圧)がさらに上昇することになる。この浸透圧の上昇が酵母を活性化し、発酵が進行しやすくなったものと考えられる。また、再仕込みをすると、雑菌の増殖が抑制的になり酸の生産が遅れ、酵母がアルコール発酵しやすい環境が持続することも考えられる。発酵仕込混合物の浸透圧を上昇させるには、麹の濃度を高くすることや、アミノ酸ないしペプチドを多く含むタンパク分解物を仕込混合物に加えることも好ましい。アルコール発酵仕込混合物の再仕込みによるアルコール発酵の発酵促進効果は、浸透圧の上昇から予測されるよりも大きいため、特に好ましい。アルコール発酵が進行するほどアルコール濃度の上昇が起こるので、アルコール濃度の調整を行う。
【0025】
再仕込みは、1回のみでもよいが、2回又は3回繰り返すことで、風味向上などの効果がより増強される。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、麹を含む仕込混合物全体に対する麹の濃度は、3〜50%(重量/容量)程度、好ましくは6〜45%程度である。
【0027】
アルコール発酵は、20℃以下の低温で発酵させるのが、風味、味、香りなどの向上に有効であるので、低温発酵性酵母を用いるのが好ましい。
【0028】
本発明の方法で得られた無塩調味液は、香気成分が以下のいずれかの条件を満足する点で、従来の醤油あるいは無塩調味液と相違している。
(1)3-methylbutyl formateが2ppm以上、かつ、3-methylbutyl formate/pentanoic acidの比が30以上
(2)1-nonen-3-olが0.1ppm以上、かつ、1-nonen-3-ol/pentanoic acidの比が1以上
(3)2-methyl-propanoic acidが0.1ppm以上、かつ、2-methyl-propanoic acid/pentanoic acidの比が0.5以上
(4)p-guaiacolが0.1ppm以上、かつ、p-guaiacol/pentanoic acidの比が0.8以上
(5)HEMFが1ppm以上、かつ、HEMF/pentanoic acidの比が1以上
具体的には、上記に示すように、3-methylbutyl formate、1-nonen-3-ol、2-methyl-propanoic acid、p-guaiacol、HEMFの含有量がアルコール存在下での発酵により増強され、これらは、麹の発酵物に比較的一定の量で含まれているpentanoic acidに対する比率としても増強されている。
【0029】
HEMFは、本醸造醤油に特有の香気成分であり、本発明の好ましい実施形態の無塩調味液は、醤油の風味が増強された調味液である。この他、p-guaiacolは醤油に含まれる香気成分であり、3-methylbutyl formate、1-nonen-3-ol、2-methyl-propanoic acidも香気成分であるので、これらの香気成分が増強されることにより、本発明の無塩調味液は特有の風味、香味等が増強されていると考えられる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明する。
本明細書において「普通仕込」とは、麹とアルコールと水の混合物に酵母を添加したものを仕込混合物とし、アルコール発酵させる工程を有する製造方法をさすものである。「再仕込」とは、麹とアルコールと水と既存品の無塩調味液の混合物に酵母を添加したものを仕込混合物とし、アルコール発酵させる工程を有する製造方法を意味する。また、「再仕込」においては、仕込時に既存品の無塩調味液の代わり無塩アルコール発酵調味液を用いても同様である。
【0031】
実施例1から6
1 実験材料と方法
酵母:酵母は福岡県醤油醸造協同組合保存のZygosaccharomyces rouxii とSaccharomyces cerevisiae を用いた。酵母の培養は、無塩醤油様調味液5.5%とグルコース5%からなる培地(TN 0.2,pH 5.2)にて30℃・3日間振盪培養した。
【0032】
麹:常法に従い、脱脂大豆と小麦からなる原料にAspergillus oryzaeまたはAspergillus sojaeを接種し培養して醤油麹を得た。
【0033】
小仕込試験:表1に小仕込試験及びパイロットスケールの試醸の仕込量と配合、表2、表3、表4(アルコール濃度を変えた結果)に結果を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
実施例7から12、比較例1から2
アルコール、水、麹分解物(アミノ酸、ペプチド等含有)、酵母を任意に混合し酵母を含む異なるアルコール濃度の仕込アルコール溶液を用いて醤油麹を仕込んだ。発酵速度の速い酵母(S. cerevisiae)を用いた諸味は、仕込アルコール溶液の全窒素分が0.6以下で旺盛に発酵した。
【0037】
一方、発酵速度の遅い酵母(Z. roxii)を用いた諸味は、窒素分0.6以上で発酵した。これによって醤油様の発酵香が発酵物に付加され不快な原料臭をマスキングするとともに、食欲をそそる調味液に適した無塩醸造調味液を製造することができた。アルコール濃度を変えた結果を表3、図1、図2に、各麹菌と酵母の組み合わせの際のアルコール発酵物(全窒素分1.7%)のアミノ酸組成を以下の表4に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
発酵速度の速い酵母(S. cerevisiae)を用いた諸味は、仕込アルコール溶液の全窒素分を1.4%とするとアルコール濃度が4-8%でも発酵した。また、全窒素分を1.2%とするとアルコール濃度が8%でも発酵した。発酵速度の速い酵母(S. cerevisiae)を添加した場合、華やかな香りになった。
【0040】
一方、発酵速度の遅い酵母(Z. roxii)を用いた諸味は、仕込アルコール溶液の全窒素分を1.4%とするとアルコール濃度が4-8%でも発酵した。また、全窒素分を1.2%とするとアルコール濃度が8%でも発酵した。特に、仕込アルコール溶液のアルコール濃度8%で窒素分1.2%とすると安定して旺盛な発酵が認められた。これによって醤油様の発酵香が発酵物に付加され不快な原料臭をマスキングするとともに、食欲をそそる調味液に適した無塩醸造調味液を製造することができた。
【0041】
【表4】

【0042】
実施例13
無塩調味液の火入条件の検討: 醤油醸造において火入工程は、(I)殺菌・酵素失活による品質の安定化、(II)色・香・味の調熟、(III)おりの除去を目的としている。特に色・香・味の調熟の観点に注目する。火入した無塩調味液は香りと味を総合的に3段階(“優”を1点、“可”を2点、“劣”を3点)しその平均点を求めた。その結果、無塩醤油様調味液の60℃・60分次いで85℃・30分とする二段火入が最も評点が高く、無塩調味液の火入条件はこの条件に決定した。次に、同条件で表1の発酵型無塩醤油様調味液の火入れを行った。
【0043】
火入れ調整した発酵型無塩醤油様調味液の官能評価結果を表5に示す。火入れの際に、各無塩醤油様調味液のアルコール濃度は2.5%程度、全窒素分は醤油JAS規格で「特選」相当の1.70を目安に和水調整した。火入した発酵型無塩調味液は、それぞれ所望の窒素濃度に調整され、アルコール濃度、直接還元糖分は同規格の濃口本醸造醤油とほぼ同じ値であった。また、旨味成分の1つであるグルタミン酸量は、比較的高い値を示している(「特選」濃口本醸造醤油グルタミン酸/全窒素:600-700mg%)。一方、官能評価では、発酵過程のない従来品に比べ香味の点で補強されていた。また、従来品に感じられる原料臭は感じられなかった。
【0044】
以上のように、無塩調味液のアルコール発酵のための醸造条件を設定して、火入条件を検討することによって、発酵過程のない従来品に比べ品質を向上させることができた。
【0045】
【表5】

【0046】
実施例14:香気成分の特定
以下のサンプル1〜3について、香気成分を測定した。
1 S.cerevisiae 普通仕込
2 S.cerevisiae 再仕込
3 Z.rouxii 再仕込
香気成分の測定は、以下の手順に従い行った。
・各サンプル100 mlをPorapak Qを充填したカラムに吸着させ、脱イオン水で夾雑物を洗浄
・エーテル100 mlで抽出
・無水硫酸ナトリウムを適量加え脱水(1h)
・脱水後1%シクロヘキサノールを内標準として50μl加え、43℃の水浴にて濃縮
・更に窒素ガスをあてながら250μl程まで濃縮
・GC-MSに1μl供し、分析
各サンプル抽出処理の間にはメタノール、脱イオン水で洗浄操作をした。
【0047】
抽出前、抽出後、濃縮後サンプルは冷蔵保存した。
【0048】
サンプルNo.10のみ元のサンプルは冷凍保存した。
【0049】
内標準:5 ppm (50μl / 100 ml) 1%シクロヘキサノール

GC-MS分析条件
INJ TEMP 230 ℃
INI TEMP 60 ℃
INI TIME 0 min
RPOG RATE 4 ℃/min
FIN TEMP 230 ℃
FIN TIME 20 min
結果を以下の表6に示す。
【0050】
【表6】

【0051】
実施例15〜17
以下の条件で、アルコール発酵の酵母としてSaccharomyces cerevisiae、麹として実施例1〜6と同じ醤油麹を用い、アルコール発酵を行った。アルコール発酵は、醤油麹に仕込アルコール溶液と酵母を加え、所定の温度で行い、発酵終了後に布で濾過して無塩調味液とした。仕込み液のpHは、約6.5であった。アルコール発酵の条件及び結果を表7に示す。
【0052】
【表7】

【0053】
全窒素含量を増加させていない実施例12〜14でも発酵は進行するが、得られた発酵物の風味、香味などは仕込み液の全窒素分を高めた実施例1〜10の無塩調味液の方が優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】異なるアルコール濃度の仕込アルコール溶液で仕込んだ諸味のpH推移。酵母は、S. cerevisiae。
【図2】異なるアルコール濃度の仕込アルコール溶液で仕込んだ諸味のpH推移。酵母は、Z. rouxii。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4〜18%(容量/容量)のアルコール濃度を有する仕込アルコール溶液、麹およびアルコール発酵可能な酵母を含む仕込混合物を、20℃以下の温度でアルコール発酵する工程を有する、無塩アルコール発酵調味液の製造方法。
【請求項2】
前記仕込混合物が、高全窒素分含量及び/又は高浸透圧の仕込混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高アミノ酸含量又は高浸透圧の仕込混合物が、アルコール発酵後又は熟成後の無塩調味液を含み、該無塩調味液を含む仕込混合物を用いてアルコール発酵を行う再仕込み工程を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
高全窒素分含量の仕込混合物が、高アミノ酸含量及び/又は高ペプチド含量の仕込混合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
アルコール発酵可能な酵母が、Saccharomyces cerevisiae及びZygosaccharomyces rouxiiからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
麹由来のタンパク質を加水分解して得られるアミノ酸及びペプチド成分及びペンタン酸を有し、全窒素分含量が0.2〜5%(重量/容量)、エタノール濃度が0〜15%(重量/容量)、かつ、以下の(1)〜(5)の少なくとも1つの条件を満足する、無塩アルコール発酵調味液:
(1)3-methylbutyl formateが2ppm以上、かつ、3-methylbutyl formate/pentanoic acidの比が30以上
(2)1-nonen-3-olが0.1ppm以上、かつ、1-nonen-3-ol/pentanoic acidの比が1以上
(3)2-methyl-propanoic acidが0.1ppm以上、かつ、2-methyl-propanoic acid/pentanoic acidの比が0.5以上
(4)p-guaiacolが0.1ppm以上、かつ、p-guaiacol/pentanoic acidの比が0.8以上
(5)HEMFが1ppm以上、かつ、HEMF/pentanoic acidの比が1以上
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法により得ることができる、請求項6に記載の無塩調味液。

【図1】
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【図2】
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