説明

無線で読み出し可能なデータ収集要素を備えた主軸

本発明は、工作物加工用の工具を受容する工具受容部を備えた、工作機械の主軸に関し、特に、電動機を収容するためのケーシングと、電動機により駆動可能な軸とを備えたモータ主軸に関する。主軸の作動データおよび/または状態データを記録するための少なくとも1つのデータ収集要素が設けられ、データ収集要素は無線チップとして構成され、且つ読み取り要素を介して無線で読み出し可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部に記載の構成を備えた主軸に関するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
本発明の課題は、記録された作動データおよび/または状態データを特に有利に読み出し可能であるような、工作機械の主軸を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0003】
この課題は、請求項1の前提部に記載の構成と特徴部に記載の構成とを備えた主軸により解決される。本発明の有利な実施態様は従属項2−9で実現される。
【0004】
本発明による主軸では、無線チップとして構成され、読み取り要素を介して無線で読み出し可能なデータ収集要素が設けられている。これにより、データ収集要素の読み出しを行なうためにケーブル接続を必要としない。
【0005】
有利な実施態様によれば、無線チップは固有のエネルギー供給源を有しておらず、読み出しの際に、読み取り要素の無線波を介して無線チップに適当なエネルギーを供給するように構成されている。この場合、無線チップは受動性RFID(Radio-Frequency-Identfikation-Detektor)要素として構成されている。
【0006】
RFID要素の場合、読み書き器が電磁波を放射し、したがって電磁場を生成させる(無線送信器)。特殊なタグ、いわゆるトランスポンダを備えた対象物がこの電磁場内にあれば、対象物は受信器として振舞う。トランスポンダはアンテナコイルを介してエネルギーを吸収し(誘導)、これを、マイクロチップに記憶されているデータを読み書き器へ送り返すために利用する。受動性RFID要素は固有のエネルギー源を有しておらず、読み書き器と同様に受信器としても送信器としても作動する。このようにして読み書き器によって受信されたデータは、転送して更なるデータ電子処理に使用することができる。
【0007】
本発明の他の実施態様では、読み取り器は携帯型読み取り器であってよい。携帯型読み取り器は主軸の利用者または主軸の修理、保守の担当者が使用し、外部から主軸付近に挿入し、主軸内のデータ収集要素としての無線チップで該データ収集要素のデータが読み出される。
【0008】
無線チップとして、固有のエネルギー供給源を持たないチップ要素を使用すれば、データ収集要素に工作機械の側から、または工作機械の制御部から適宜エネルギーを供給する必要はない。したがって、工作機械とまだ結合されていない主軸または工作機械とまだ完全には接続されていない主軸を、そのデータ収集要素に関し読み出すこともできる。
【0009】
本発明の他の実施態様によれば、主軸は、同様に主軸内部に配置されている無線チップを読み出すことができるように組み込んだ読み取り器を有することがができる。
【0010】
したがって、データ収集要素の読み出しのために読み取り器またはデータ読み出し要素との間でケーブル接続する必要はない。
【0011】
特に有利な実施態様では、主軸内部に、同様に主軸内部にデータ収集要素として形成された、すなわち無線チップとして形成された要素と無線波でエネルギー供給なしに通信して、無線チップ内の収集データを読み出す読み取り器が設けられる。
【0012】
このようなケーブルなしのデータ収集要素により、主軸の構成および組み立てが容易になる。
【0013】
他の有利な実施態様によれば、読み取り器は工作機械の機械制御部と接続可能である。携帯型読み取り器の場合には、これはケーブルなしでまたはケーブルを用いて行なうことができる。主軸に組み込まれている読み取り器の場合には、工作機械の機械制御部との接続、特にケーブル接続が行なわれる。
【0014】
他の有利な実施態様によれば、読み取り器は、特定の主軸、特に該読み取り器が組み込まれている主軸の無線チップを読み出すために使用される。さらに、1個の読み取り器を介して1個または複数個の他の主軸の読み出しも行なうことができる。これにより、1個の読み取り器により複数個の主軸とこれに装着されたデータ収集要素との読み出しを行なうことができる。したがってわずかなコストで、たとえば複数個の工作機械を設置した機械室内で、複数個の主軸から複数個のデータ収集要素の読み出しを行なうことができる。有利には、無線チップが、外部の読み取り器のみを通じて読み出し可能で、主軸に組み込んだ読み取り器を通じては読み出し不能であるようなデータ領域を有しているのがよい。この実施態様では、主軸はその無線チップにより、主軸に組み込んだ読み取り器によって読み出され、その際特定のデータ領域のみが読み出される。無線チップの他のデータ領域は外部にいる人間(たとえば保守担当者、利用者)の携帯型読み取り器によって読み出される。さらに、1つの主軸の内部にある種々の無線チップを別個に読み出すために、或いは、複数個の主軸の複数個の無線チップを読み出すために、読み取り要素は複数個の選択可能な別個の無線信号をたとえば種々の無線チャネルに有していてよい。このため、主軸に組み込まれている読み取り要素と工作機械の機械制御部との接続を行なって、別個の無線信号を選択するために読み取り要素の制御を行う。
【0015】
したがって、無線チップ内部の情報へのアクセスは、機械制御部側から制御され、或いは、携帯型読み取り器の利用者によって制御され、どのデータが誰のためにアクセス可能であるかを決定することができる。
【0016】
1個のデータ収集要素により、主軸の製造者のデータ(たとえば通し番号、出荷日、保証情報、性能データ、パワー/トルクおよび回転数特性、CNC制御用パラメータセットなど)を記憶させることができ、たとえば保守時に現場で読み出すことができる。場合によっては、主軸の内部センサ処理との関連で、故障前の最後の状態データを記憶させることができる(このためには、場合によっては固有のエネルギー供給源を備えた能動性RFIDを使用することができる)。
【0017】
主軸の利用者(たとえばエンドユーザー)は主軸のRFID要素のための読み取り器を所有しているのが一般的であるので、たとえばインターネットを用いて遠隔診断用の付加データを送ることができる。この場合には常にデータを交換する必要はなく、必要な場合だけデータ交換を行なえばよい。
【0018】
エンドユーザーは、主軸製造者とデータ交換を行なうためのRFID要素を使用することができ、すなわちエンドユーザーは使用場所と機械ナンバーとをRFID要素にメモすることができる。このようなデータを用いて主軸製造者はエンドユーザーのもとでのエラー要因とマシーントラブルとを早期に認識し、ユーザーにこのエラー要因を指示して工場でメンテナンスを行なうよう促すことができる。
【0019】
主軸は2個または複数個のRFID要素を備えていてよく、1個のRFID要素は主軸製造者の内部データ(上書き不能な最初のデータ領域)のためにだけ使用し、1個または複数個のRFID要素はエンドユーザーおよび主軸製造者が上書きできるようにすることができる。
【0020】
ただ1つのRFID要素が上書き可能な第1のデータ領域と上書き不能な第2のデータ領域とを有するようにしてもよい。
【0021】
主軸製造者のもとで主軸を最終組み立てする場合、RFID要素を適当な前記データ(サービスデータ)で補強してもよい。主軸製造者のもとで保管する場合は、この主軸の保管場所と製造状態とを自動的に検出して、出荷処理および販売処理のために適宜使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態を添付の図面を用いて詳細に説明する。
図1は公知の主軸1の断面図である。この主軸1はケーシング2を備え、ケーシング2内には電動機3が収容されている。電動機3は、軸受4と5で支持されている軸6であって図示していない工具を受容するための締め付け固定要素7を備えた前記軸6を駆動する。主軸1は、軸6内に組み込まれるデータ収集要素8または軸6にたとえば該軸6を周回するように延在して取り付けられるデータ収集要素8を有している。データ収集要素8は無線チップとして構成されている。軸6が回転すると、回転するデータ収集要素8は主軸1の読み取り器9によって読み出すことができる(データ収集要素8の一方向および/または二方向の読み出し、および/または、メモリを組み込んだデータ収集要素8の記述)。読み取り器9はデータ処理用および/またはデータ記憶用の他の要素10とたとえばケーブル接続されている。他の要素10は工作機械の機械制御部(図示せず)に対するインターフェースを有することができる。
【0023】
データ収集要素8は特に固有の給電部を有しておらず、データ収集要素8は、読み取り器9が送られてきた無線波でもってデータ収集要素8に必要なエネルギーを提供することで読み取られる。この種の無線データ収集要素8を取り付けることのできる部品は、たとえば該部品の回転のために、或いは、スペースのために、ケーブル接続される要素では達成できないような部品である。
【0024】
データ収集要素8を用いると、たとえばモータ温度、軸受温度および/または締め付け状態(軸6内部で締め付けられている或いは締め付けられていない引張り棒11の位置)のようなデータを収集することができる。
【0025】
図2aは他の読み取り器9’を示している。この読み取り器9’は図1の主軸1の電動機3のステータ12内に(たとえばそのコイルヘッド内に)組み込まれている。対応する読み出し可能なデータ収集要素8’(たとえば温度データ用のデータ収集要素)は電動機3のロータ15内に組み込むことができ、該ロータとともに回転する。さらに、これとは択一的にまたはこれに加えて、ステータ13の外部にして主軸1のケーシング2の内部に配置される他の読み取り器9”を設けることができる。
【0026】
図2bは、たとえば軸受4または5の定置の外レース15内に他の読み取り器9’を組み込んだ他の実施形態を示すもので、他方軸受4または5の回転する内レース16内には他のデータ収集要素8が設けられている。
【0027】
図2cによれば、主軸1の定置のケーシング2内に他の読み取り器9を設けることができる。この読み取り器9は、軸受4または5の回転する内レース16内に、他のデータ収集要素8のための無線リンクを有している。
【0028】
図3は読み取り器9の取り付けの他の実施形態を示している。この読み取り器9は、主軸1の第1のアッセンブリ(たとえば主軸のケーシング2)内に取り付けられ、第1のアッセンブリは主軸1の第2のアッセンブリと取り外し可能に結合することができる。
【0029】
第2のアッセンブリ(ここでは軸受カバー)はデータ収集要素8を有している。これにより、複数個のアッセンブリの境界部18を越えて大域的に、読み取り器9とデータ9とデータ収集要素8との間でのデータの通信または読み出しを行なうことができる。
【0030】
主軸1の取り付け取り外しは簡単であり、蝋付け、プラグ結合、ケーブルの差込みは必要ない。したがってケーブル破損やアースエラーの危険がない。主軸1内部での無線による障害のないデータ伝送が可能になる。
【0031】
図4は、工作機械21内に収容されている、データ収集要素8を備えたケーシング2を有する主軸1を示している。たとえば主軸1の制御、保守、または監視のために人が利用する携帯用の読み取り器9”を主軸1の近くに運び入れて、主軸1の内部にあるデータ収集要素8を無線で読み出すことができる。
【0032】
これにより、1つの主軸1内で特に複数個の無線チップの読み出しを行なうことができる。さらに、複数個の異なる主軸1の読み出しを異なる無線チップを用いて行なうことができる。この携帯可能な読み取り器は手持ちバージョンとして利用者が使用することができる。さらに、主軸1の作動空間内(たとえば機械室内部)にこの種の外部の読み取り器9”を取り付けて、複数個の主軸内に収容されている複数個の無線チップの読み出しを規則的に行い、たとえば機械中央制御室に送って評価を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】機械制御部を備えた工作機械に組み込み可能な主軸の断面図である。
【図2a】図1の第1の詳細図である。
【図2b】図1の第2の詳細図である。
【図2c】図1の第3の詳細図である。
【図3】図1の主軸の他の実施態様の断面図である。
【図4】外部の読み取り器によって読み出し可能なデータ収集要素を有する、工作機械に収容された主軸の断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 主軸
2 ケーシング
3 電動機
4 軸受
5 軸受
6 軸
7 締め付け固定要素
8 データ収集要素
9 読み取り器/読み取り要素
10 データを収集するための要素
11 引張り棒
12 ステータ
13 ロータ
15 外レース
16 内レース
17 軸受カバー
18 境界部
19 工作機械

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物加工用の工具を受容する工具受容部を備えた、工作機械の主軸であって、特に、電動機を収容するためのケーシングと、電動機により駆動可能な軸とを備えたモータ主軸であって、主軸の作動データおよび/または状態データを記録するための少なくとも1つのデータ収集要素が設けられている前記主軸において、
データ収集要素(8)が無線チップとして構成され、且つ読み取り要素(9)を介して無線で読み出し可能であることを特徴とする主軸。
【請求項2】
無線チップが固有のエネルギー供給源を有しておらず、読み出しの際に、読み取り要素(9)の無線波を介して無線チップに適当なエネルギーを供給するようにしたことを特徴とする、請求項1に記載の主軸。
【請求項3】
主軸(1)が、該主軸(1)の内部で無線チップを読み出すように主軸に組み込んだ読み取り要素(9)を有していることを特徴とする、請求項1または2に記載の主軸。
【請求項4】
読み取り要素(9)が工作機械(19)の機械制御部と接続可能であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一つに記載の主軸。
【請求項5】
読み取り要素(9)が、同じ主軸(1)の無線チップを読み出すために、且つ隣接する複数個の主軸の複数個の無線チップを読み出すために設けられていることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一つに記載の主軸。
【請求項6】
主軸(1)の内部で無線チップを読み出すための外部の読み取り要素(9”)が設けられていることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか一つに記載の主軸。
【請求項7】
無線チップが、外部の読み取り要素(9”)のみを通じて読み出し可能で、主軸に組み込んだ読み取り要素(9)を通じては読み出し不能であるようなデータ領域を有していることを特徴とする、請求項6に記載の主軸。
【請求項8】
主軸(1)が複数個の無線チップを有し、これらの無線チップの一部は内部の読み取り要素(9)を通じて読み出し可能で、一部は外部の読み取り要素(9”)を通じて読み出し可能であることを特徴とする、請求項6または7に記載の主軸。
【請求項9】
読み取り要素(9,9”)が異なる無線チップを別個に読み出すための複数個の選択可能な別個の無線信号を有していることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか一つに記載の主軸。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−507663(P2009−507663A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530313(P2008−530313)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【国際出願番号】PCT/DE2006/001404
【国際公開番号】WO2007/031048
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(506320738)パウル ミュラー ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー ウンターネーメンスベタイリグンゲン (11)
【Fターム(参考)】