説明

無線機および無線機の動作クロック周波数制御方法

【課題】ビート妨害を有効な無線信号と誤認する事態を回避する。
【解決手段】無線機100は、任意の周波数における受信信号を検波して検波信号を生成する検波部118と、検波信号のうち、所定周波数以上のスケルチノイズを抽出するノイズHPF132と、スケルチノイズの電圧が所定閾値以上であるか否かを判断するノイズ判断部140と、スケルチノイズの電圧が所定閾値以上であると判断されると、検波信号を抑圧するスイッチ142と、スケルチノイズの電圧が所定閾値未満であると判断されると、当該無線機の動作クロック周波数を変更するCPU200aとを備え、ノイズ判断部は、周波数制御部が動作クロック周波数を変更すると、ノイズ抽出部が新たに抽出したスケルチノイズの電圧が所定閾値以上であるか否かを判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信に用いられる無線機および無線機の動作クロック周波数制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数変調(FM:Frequency Modulation、以下単にFMという)方式を用いた無線機では、無線機自体の内部クロック信号が、電気信号に回り込んで、誤った信号を検出してしまうビートによる受信妨害(以下、単にビート妨害と呼ぶ。)が生じることがあった。例えば、任意の周波数で受信を試みる場合、有効な無線信号(RF信号)を受信していないにもかかわらず、ビート妨害を、無線信号を受信していると誤認してしまい、スケルチ(SQL:Squelch)が開いてしまう場合がある。したがって、ユーザは、有効な無線信号を受信しているのか、単にビート妨害が生じているだけなのかを、スピーカから出力される音声を耳で聞いて自ら判断しなければならなかった。
【0003】
そこで、製造時に、信号を受信する周波数毎のRSSI(Received Signal Strength Indicator:受信信号強度)を検出し、RSSIが所定値を超えていたら、ビート妨害が生じているものとみなしクロック周波数をずらす技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−25049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の無線通信機を用いて信号の受信を試みる場合、ビート妨害が発生する周波数ではクロック周波数が変更されるため、ユーザは、ビート妨害に惑わされず有効な無線信号の有無を判断することができる。しかし、RSSIを用いてビート妨害の影響を確認しているため、ビート妨害による信号が低レベルの場合、他のノイズ信号に埋もれてしまってビート妨害を検出することができなくなる。この場合、無線機を使用する際に、クロック周波数が適切に変更されないおそれもあり、ユーザは、やはりスピーカから出力される音声を耳で聞いて、有効な無線信号の有無を確認しなければならなかった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、ビート妨害による信号を有効な無線信号と誤認する事態を回避することが可能な、無線機および無線機の動作クロック周波数制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の無線機は、任意の周波数における受信信号を検波して検波信号を生成する検波部と、検波信号のうち、所定周波数以上のスケルチノイズを抽出するノイズ抽出部と、スケルチノイズの電圧が所定閾値以上であるか否かを判断するノイズ判断部と、スケルチノイズの電圧が所定閾値以上であると判断されると、検波信号を抑圧する抑圧部と、スケルチノイズの電圧が所定閾値未満であると判断されると、当該無線機の動作クロック周波数を変更する周波数制御部とを備え、ノイズ判断部は、周波数制御部が動作クロック周波数を変更すると、ノイズ抽出部が新たに抽出したスケルチノイズの電圧が所定閾値以上であるか否かを判断することを特徴とする。
【0008】
上記動作クロック周波数は、複数のクロック回路において独立して設定され、周波数制御部は、複数のクロック回路の動作クロック周波数をそれぞれ変更してもよい。
【0009】
上記無線機は、ノイズ抽出部が新たに抽出したスケルチノイズの電圧が所定閾値以上であるとノイズ判断部が判断した場合に、そのときの動作クロック周波数の状態と任意の周波数とを関連付けたクロック情報を記憶する記憶部をさらに備えてもよい。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の無線機の動作クロック周波数制御方法は、任意の周波数における受信信号を検波して検波信号を生成し、検波信号のうち、所定周波数以上のスケルチノイズを抽出し、スケルチノイズの電圧が所定閾値以上であるか否かを判断し、スケルチノイズの電圧が所定閾値以上であると判断すると、検波信号を抑圧し、スケルチノイズの電圧が所定閾値未満であると判断すると、当該無線機の動作クロック周波数を変更し、さらに、新たに抽出したスケルチノイズの電圧が所定閾値以上であるか否かを判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の無線機は、ビート妨害を有効な無線信号と誤認する事態を回避することが可能となる。こうして、ユーザは、ビート妨害に惑わされずに有効な無線信号を受信していること、または、その周波数を送信に利用できることを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態における無線機の電気的な構成を示した機能ブロック図である。
【図2】中央制御部の詳細な構成を説明するための説明図である。
【図3】スケルチノイズとRSSIそれぞれを用いたビート妨害の検出を説明するための説明図である。
【図4】スケルチノイズとRSSIそれぞれを用いた対象信号の検出の実験例を示す説明図である。
【図5】中央制御部における動作クロック周波数を切り換えるための他の構成を説明するための説明図である。
【図6】第1の実施形態における無線機の動作クロック周波数制御方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】第2の実施形態における無線機の電気的な構成を示した機能ブロック図である。
【図8】第2の実施形態における無線機の動作クロック周波数制御方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
FM方式の無線機では、無線機自体を動作させるクロック信号の影響でビート妨害が生じることがあった。そのため、有効な無線信号を受信していないにもかかわらず、ビート妨害による信号(以下、ビート信号と称す)を有効な無線信号と誤認してしまい、スケルチが開いてしまう場合がある。ユーザは、信号を受信しているのか、単にビート妨害が生じているだけなのかをスピーカから出力された音声を耳で聞いて判断しなければならなかった。
【0015】
そこで、ユーザが耳で確認するといった煩わしい作業を伴うことなく、ビート妨害の影響を自動的に判断することができる無線機を提案する。以下、第1の実施形態と第2の実施形態に分けて無線機100、無線機400について具体的に説明する。
【0016】
(第1の実施形態:無線機100)
図1は、無線機100の電気的な構成を示した機能ブロック図である。無線機100は、アンテナ110と、RF回路112と、操作部114と、中央制御部116と、検波部118と、出力アンプ120と、音声出力部122と、音声入力部126と、入力アンプ128と、ノイズHPF132と、ノイズアンプ134と、整流回路136と、平滑化回路138と、ノイズ判断部140と、スイッチ142とを含んで構成される。
【0017】
無線通信やFM放送等の無線信号がアンテナ110を通じて受信されると、RF回路112は、受信信号のうち、操作部114を通じたユーザの操作入力に従って中央制御部116が指示する任意の周波数における受信信号を抽出し、検波部118は、その抽出した受信信号を検波(復調)して検波信号を生成する。本実施形態において、受信信号は、アンテナ110を通じて受信した無線信号である。ただし、RF回路112においては、まだ、無線信号と後述するビート妨害による信号とは区別がつかないため、ビート妨害による信号も受信信号に含まれることとする。
【0018】
また、中央制御部116は、後述する複数のCPUおよびそれぞれのCPUに付随する複数のクロック回路で構成され、クロック信号に基づいて計算された制御信号で無線機100全体を制御する。
【0019】
検波部118によって生成された検波信号は、出力アンプ120で増幅されスピーカやヘッドホンといった音声出力部122に出力される。音声出力部122は、検波信号に応じて空気を振動させることで音声を出力する。
【0020】
音声入力部126はマイクロホン等で構成され、音声等の空気振動を音声信号に変換し入力アンプ128を通じてRF回路112に出力する。RF回路112は、入力アンプ128が増幅して出力した音声信号に基づき、中央制御部116が指示する任意の周波数に対応する搬送波を変調して送信信号を生成しアンテナ110に出力する。アンテナ110は送信信号を無線信号として他の無線機等に送信する。
【0021】
ノイズHPF132は、ノイズ抽出部として機能し、検波部118によって生成された検波信号のうち、予め設定された所定周波数(例えば3kHz)以上のノイズとみなすことができる帯域成分(以下、単にスケルチノイズという。)を抽出する。ノイズHPF132によって抽出されたスケルチノイズはノイズアンプ134を通じて増幅され、整流回路136で整流された後、平滑化回路138によって平滑化される。
【0022】
ノイズ判断部140は、平滑化回路138によって平滑化されたスケルチノイズの電圧が所定閾値以上であるか否かを判断する。スイッチ142は、抑圧部として機能し、スケルチノイズの電圧が所定閾値以上であると、当該無線機100において有効な無線信号が受信されていないと判断し、ノイズ判断部140の制御信号に従って検波信号を抑圧、本実施形態においては遮断する。したがって、スケルチノイズの電圧が所定閾値以上であると、スイッチ142が開状態となり、出力アンプ120で増幅された検波信号が音声出力部122に出力されないので、ユーザは、不要なノイズを聞かなくて済む。ここでは、ノイズ判断部140が、スイッチ142を開状態とすることを「スケルチを閉じる」と、スイッチ142を閉状態とすることを「スケルチを開く」と表現する。
【0023】
ところで、上述したようにFM方式の無線機100ではビート妨害が生じることがあるため、有効な無線信号を受信していないにもかかわらず、ビート信号を有効な無線信号と誤認してしまい、スケルチが開いてしまう場合があった。そこで、本実施形態の無線機100は、ビート妨害による誤判断を回避する機能を備える。以下、かかる機能を備える中央制御部116について説明する。
【0024】
図2は、中央制御部116を説明するための説明図である。図2(a)は、中央制御部116、特にCPU200a〜200cとクロック回路202a〜202cとの接続例を示し、図2(b)は、中央制御部116によるクロック回路202a〜202cのON/OFF制御のパターンを示す。
【0025】
中央制御部116は、CPU200a〜200c、クロック回路202a〜202cで構成される。クロック回路202a〜202cは、それぞれ、水晶振動子204a〜204c、スイッチングトランジスタ206a〜206c、キャパシタ208a〜208c、キャパシタ210a〜210c、キャパシタ212a〜212cで構成される。クロック回路202aを例に挙げると、スイッチングトランジスタ206aのベースはCPU200aに接続され、コレクタはキャパシタ212aに接続され、エミッタは接地されている。水晶振動子204aの一端は、キャパシタ210a、212aとCPU200aに接続され、他端はCPU200aとキャパシタ208aに接続されている。キャパシタ208a、210aの残りの一端は接地されている。
【0026】
CPU200aは、スイッチングトランジスタ206aのベースに印加する電圧をオン/オフすることで、スイッチングトランジスタ206aのコレクタとエミッタ間の通電をオン/オフし、キャパシタ212aをキャパシタ210aに並列接続させるか否かを切り換える。
【0027】
このような構成により、CPU200aは、クロック回路202aが発生するクロック信号の動作クロック周波数を変更できる。同様に、CPU200aは、スイッチングトランジスタ206b、206cのベースに電圧をかけるか否かを制御してクロック回路202b、202cが発生するクロック信号の動作クロック周波数を変更できる。
【0028】
このように、CPU200(本実施形態においてCPU200a)は周波数制御部として機能し、ノイズ判断部140によってスケルチノイズの電圧が所定閾値未満であると判断されると、当該無線機100の動作クロック周波数を変更する。
【0029】
各CPU200a〜200cの動作クロック周波数は、それぞれスイッチングトランジスタ206a〜206cのベースに電圧が印加されるか否かによって異なり、その組み合わせは、例えば、図2(b)に示すようにパターン番号220が0〜7である8つのパターンとなる。図2(b)において、ONはスイッチングトランジスタ206a〜206cのベースへ電圧が印加されている状態、OFFはベースへ電圧が印加されていない状態を示す。
【0030】
ノイズ判断部140は、CPU200aが動作クロック周波数をいずれかのパターンから他のパターンに変更すると、ノイズHPF132が新たに抽出したスケルチノイズの電圧が所定閾値以上であるか否かを判断する。そして、ノイズ判断部140が、スケルチノイズの電圧が所定閾値未満であると判断すると、CPU200aは、当該無線機100の動作クロック周波数をさらに他のパターンに変更し、ノイズ判断部140が、スケルチノイズの電圧が所定閾値以上であると判断すると、CPU200aは、受信信号がビート信号であったと判断して動作クロックの変更を停止する。このとき、ノイズ判断部140は、スイッチ142を開状態として(スケルチを閉じて)検波信号を遮断する。こうしてCPU200aは、スケルチノイズの電圧が所定閾値以上と判断されるまで、スイッチングトランジスタ206a〜206cのベースへの電圧の印加状態を制御して、8つのパターンに沿って、順次、動作クロック周波数を変更する。8つのパターンを2回繰り返してもすべてスケルチノイズの電圧が所定閾値未満となってしまった場合、有効な無線信号を受信しているか、またはビート妨害を回避できなかったものとして、CPU200aは、パターン番号220を0に設定して動作クロック周波数の変更を終了する。
【0031】
また、ここでは、ノイズ判断部140がスケルチノイズの電圧が所定閾値以上であると判断すると、CPU200aが動作クロックの変更をすぐに停止するとし、ビート妨害回避処理の短縮化を図っているが、スケルチノイズの電圧が所定閾値以上となったとしても、8つのパターンの動作クロック周波数すべてについてスケルチノイズの電圧を測定し、電圧が最も高かったパターンを動作クロック周波数として選択して、ビート妨害回避処理を終了するとしてもよい。こうして、ビート妨害の影響を最小限にすることが可能となる。
【0032】
さらに、ここでは、8つのパターンを2回繰り返し、スケルチノイズの電圧がすべて所定閾値未満となってしまった場合、有効な無線信号があるとみなして動作クロック周波数の変更を終了するとしているが、かかる場合に限られず、同一周波数に留まっている間、連続的に、または、定期的にビート妨害回避処理を実行してもよい。
【0033】
例えば、無線機100が十分に強力かつ有効な無線信号を受信しているときには、上記の8パターンを2回繰り返しても(ビート妨害回避処理を行っても)、スケルチノイズの電圧は所定閾値以上となることはないので、CPU200aは、パターン番号220を0に設定して動作クロック周波数の変更を一旦終了する。しかし、それ以後も連続的に、または、定期的に当該ビート妨害回避処理を実行することで、この十分に強力かつ有効な無線信号が小さくなった、または、無くなったタイミングで、ノイズ判断部140は、スケルチノイズの電圧が所定閾値以上となるパターンを探すことができる。こうして、強力な受信信号に埋もれているビート妨害も事後的に回避することが可能となる。
【0034】
上述したように、動作クロック周波数は、複数のクロック回路202a〜202cで独立して設定され、CPU200aは、複数のクロック回路202a〜202cが生成するクロック信号の動作クロック周波数をそれぞれ変更する。無線機100が、独立して動作クロック周波数を変更可能な複数のクロック回路202a〜202cを備える構成により、それぞれが動作クロック周波数を2値間でしか変更できない場合であっても、クロック回路202a〜202cの数を指数とする、2の累乗の組み合わせパターンが選択可能となり、ビート妨害の影響を回避できる確率を飛躍的に高めることができる。
【0035】
このように、CPU200aが動作クロック周波数を変更する構成により、任意の周波数における検波信号が、有効な無線信号であるかビート信号であるかを自動的に判断可能となり、例えば、他の無線機に無線信号を送信しようと、空いている周波数を探して任意の周波数にチューニングする場合において、ビート信号を有効な無線信号と誤認したり、放送されているFM放送等を受信しようとスキャンを行った場合において、ビート信号を有効な無線信号と誤認してスキャンが停止してしまったりする事態を回避できる。
【0036】
ところで、スケルチノイズの電圧によらず、RSSIを用いてビート妨害の影響を回避する手段も考えられる。しかし、ビート信号が低レベルの場合、RSSIを用いても他のノイズ信号に埋もれてしまってビート妨害が検出できないおそれがある。無線機100は、ビート妨害の影響の確認にスケルチノイズの電圧を用いるため、RSSIを用いる場合に比べて、ビート妨害によるより小さな信号まで確実に検出することができる。その理由を図3および図4を用いて説明する。
【0037】
図3は、スケルチノイズとRSSIそれぞれを用いたビート妨害の検出を説明するための説明図である。図3において、横軸は信号レベルを、左側の縦軸はノイズ抑圧比(Noise Rate)を、右側の縦軸はRSSIをそれぞれ示す。
【0038】
スケルチノイズ(図3中SQL)は、検波後の所定周波数以上のノイズ成分であり、このノイズ成分は検波前のノイズ成分によって生じるため、検波前のノイズ成分とノイズ抑圧比の変化が一致する。ここでは、スケルチノイズは、ノイズ抑圧比として表し、ビート妨害やその他のすべての外乱によるノイズである外乱ノイズのレベルをN、検出の対象となる信号である対象信号(本実施形態においてはビート信号)のレベルをSとすると、スケルチノイズはN/(S+N)で表される。
【0039】
また、RSSIは、(S+N)/Nが用いられ(S/N比)、その信号レベルの範囲が広いため、通常、対数値として検出され、Log((S+N)/N)で表される。
【0040】
図3において、ノイズのレベルを1(N=1)として正規化したとき、信号のレベルを0〜10000に変化させた場合における、スケルチノイズおよびRSSIの変化を比較できる。外乱ノイズのレベルを正規化しているため、どのような外乱ノイズのレベルであっても、スケルチノイズとRSSIの相対的な関係は図3に示されるものとなる。
【0041】
スケルチノイズでは、例えば、対象信号のレベルが0.01から0.1に増えた場合に、スケルチノイズの値は1.0から0.9に変化し、レンジ(大凡0〜1.0)のうち約10%も変化したこととなる。これに対して、RSSIでは、例えば、対象信号のレベルが0.01から0.1に増えた場合に、RSSIの値は、ほぼ0から変化せず、レンジ(大凡0〜4.0)に対して、かかる変化があったことを把握するための閾値を設定するのが困難である。
【0042】
また、対象信号が他のレベル0.1〜1に着目すると、スケルチノイズは大凡0.5〜0.9程度とレンジに対して約40%の変化量があるのに対して、RSSIだと大凡0.04〜0.3程度とレンジに対して約10%未満の変化量しかない。このことから、スケルチノイズを用いれば、その変化量が大きいため対象信号を精度よく検出できることがわかる。また、対象信号のレベルが0.1〜1程度の範囲では、RSSIは0付近の値となるため、測定誤差等の影響を受ける可能性があるが、スケルチノイズはレンジのなかで比較的高い数値で検出されるので、より高精度に対象信号の有無を判断することができる。
【0043】
このように、RSSIが変化しない対象信号のレベルであっても、スケルチノイズであれば著しい変化があり、その変化を検出することは容易である。すなわち、RSSIに比べて、スケルチノイズの方が、ビート妨害の検出に優れている。
【0044】
図4は、スケルチノイズとRSSIそれぞれを用いた対象信号の検出の実験例を示す説明図である。例えば、VHF(Very High Frequency)帯を2系統、UHF(Ultra High Frequency)帯を2系統、それぞれVHFとVHF、VHFとUHF、UHFとUHFの組合せで2波同時受信が可能な無線機を用いて、対象信号(ここでは無線信号)のレベルを変化させながらスケルチノイズ(ノイズ抑圧比)とRSSIを測定した。図4に示すように、対象信号がより低いレベル(例えば、−136dBm〜−128dBm)の場合、破線で示すRSSIの測定結果に比べて、実線で示すスケルチノイズの測定結果の方が、測定された電圧値やその変化が大きくその変化を容易に検出できることがわかる。
【0045】
このように、本実施形態の無線機100は、ビート妨害の発生の判定にスケルチノイズを用いるため、ビート信号のレベルが低い場合においてもそのビート信号が他の外乱ノイズに埋もれ難く、精度よくビート妨害による誤認を回避できる。
【0046】
図5は、中央制御部116における動作クロック周波数を切り換えるための他の構成を説明するための説明図である。中央制御部116は、図5(a)に示すように、1組のCPU200とクロック回路202のみで構成され、クロック回路202は、キャパシタ280a〜208d、水晶振動子282の他に、2以上のスイッチングトランジスタ284c、284dを備えてもよい。かかる構成により、CPU200は、スイッチングトランジスタ284c、284dのベースへの電圧の印加を制御することで、4以上の動作クロック周波数で切り換えることが可能となる。
【0047】
また、図5(b)に示すように、中央制御部116は、CPU200と、キャパシタ280a〜280c、水晶振動子282、トランジスタ288を含むクロック回路202の他にD/A変換部290を備え、CPU200がD/A変換部290を通じてクロック回路202のトランジスタ288のベースに印加する電圧をリニアに変化させることで、動作クロック周波数をリニアに変化させることもできる。
【0048】
上述したように、本実施形態の無線機100によれば、ビート信号を有効な無線信号として誤認する事態を回避することが可能となる。
【0049】
(動作クロック周波数制御方法)
続いて、無線機100を用いた動作クロック周波数制御方法について説明する。図6は、第1の実施形態における無線機100の動作クロック周波数制御方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【0050】
操作部114を通じたユーザの操作入力によって信号を送受信する周波数が変更されると(S300におけるYES)、CPU200aは、パターン番号220が0の状態に動作クロック周波数を変更し(S302)、検波部118は、検波信号を生成し(S304)、ノイズHPF132は、スケルチノイズを抽出する(S306)。ノイズ判断部140は、スケルチノイズの電圧が所定閾値未満であるか否かを判断し(S308)、スケルチノイズの電圧が所定閾値以上の場合(S308におけるNO)、ビート妨害は生じていない、またはその影響を回避したものと判断し、周波数変更判定ステップS300に戻る。周波数変更判定ステップS300では、ユーザによる周波数の変更入力待ちとなる(S300におけるNO)。
【0051】
スケルチノイズの電圧が所定閾値未満であって(S308におけるYES)、パターン番号が8でない場合(S310におけるNO)、CPU200aは、パターン番号に1を加算して次のパターン番号のパターンの状態に動作クロック周波数を変更し(S312)、検波信号生成ステップS304に戻る。
【0052】
パターン番号が8である場合(S310におけるYES)、すでに2度試したパターン番号220のパターンがあるか(2周目であり2周目フラグが立っているか)否かを判断する(S314)。まだ2周目ではない場合(S314におけるNO)、2周目であることを示す2周目フラグを立て(S316)、検波信号生成ステップS304に戻る。すでに1度ずつ試して2周目に入っている場合、すなわち2週目フラグが立っていると(S314におけるYES)、パターン番号220を0に設定し(S318)、有効な無線信号を受信しているか、ビート妨害の影響を回避できなかったものとして、周波数変更判定ステップS300に戻る。
【0053】
このように、上述した動作クロック周波数制御方法を用いることで、ビート信号を有効な無線信号として誤認する事態を回避することができる。
【0054】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態の無線機100ではビート妨害の影響を回避することが可能となったが、ビート妨害の影響を回避できたパターン番号220(動作クロック周波数)に関して、後から特段利用することはしなかった。第2の実施形態では、かかるパターン番号220を利用して、さらに効率的にビート妨害の影響を回避することができる無線機400について説明する。
【0055】
(無線機400)
図7は、第2の実施形態における無線機400の電気的な構成を示した機能ブロック図である。図7に示すように、無線機400は、アンテナ110と、RF回路112と、操作部114と、中央制御部116と、検波部118と、出力アンプ120と、音声出力部122と、音声入力部126と、入力アンプ128と、ノイズHPF132と、ノイズアンプ134と、整流回路136と、平滑化回路138と、ノイズ判断部140と、スイッチ142と、記憶部450とを含んで構成される。また、中央制御部116は、CPU200a〜200cおよびクロック回路202a〜202cで構成される。上述した第1の実施形態における構成要素として既に述べた、アンテナ110と、RF回路112と、操作部114と、中央制御部116と、検波部118と、出力アンプ120と、音声出力部122と、音声入力部126と、入力アンプ128と、ノイズHPF132と、ノイズアンプ134と、整流回路136と、平滑化回路138と、ノイズ判断部140と、スイッチ142と、CPU200a〜200cと、クロック回路202a〜202cとは、実質的に機能が同一なので重複説明を省略し、ここでは、構成が相違する、記憶部450を主に説明する。
【0056】
記憶部450は、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、不揮発性RAM(Random Access Memory)等で構成され、動作クロック周波数の状態を示すパターン番号220のいずれかと、送受信する周波数とを関連付け、クロック情報として記憶する。
【0057】
ユーザが操作部114を通じてクロック情報の新規登録または更新の操作入力を行うと、検波部118は、予め設定された周波数毎に、または、予め設定された周波数間隔で、受信信号を検波して検波信号を生成する。記憶部450は、中央制御部116の制御指令に基づいて、ノイズHPF132が新たに抽出したスケルチノイズの電圧が所定閾値以上であるとノイズ判断部140が判断した場合に、そのときのパターン番号220と、そのパターン番号220を抽出したときの受信信号の周波数とを記憶する。
【0058】
その後、ユーザがチューニングを行う場合、CPU200aは、記憶部450に記憶されているクロック情報を参照して、そのときの周波数と関連付けられたパターン番号220に示される動作クロック周波数の状態となるようにスイッチングトランジスタ206a〜206cのベースの電圧の印加のON/OFFを制御する。
【0059】
また、例えば、予め周波数に所定幅を設定しておくことで、ユーザが設定した周波数にパターン番号220が関連付けられていなかったとしても、その周波数の前後の所定幅に含まれる周波数に関連付けられたパターン番号220が記憶されていれば、CPU200aは、そのパターン番号220をユーザが設定した周波数のパターン番号220として動作クロック周波数を変更するとしてもよい。
【0060】
このようにクロック情報を記憶する記憶部450を備える構成により、一度、クロック情報を記憶させた周波数については、環境が大きく変化しない限り次回の利用時に記憶部450に記憶された周波数を用いることが可能となり、再度のビート妨害判定処理を要さず、短時間で有効な無線信号の有無を判断することができる。
【0061】
また、中央制御部116は、クロック情報の新規の登録または更新の際、周波数毎に、スケルチノイズの電圧が所定閾値以上となるまでではなく、8つのパターンの動作クロック周波数すべてについてスケルチノイズの電圧をノイズ判断部140に測定させ、電圧が最も高かったパターンをクロック情報として記憶部450に記憶させてもよい。かかる構成により、選択肢のうち、ビート妨害の影響が最も小さい動作クロック周波数を記憶部450に記憶させておくことができる。
【0062】
上述した無線機400では、一度ビート妨害判定処理を実行してしまえば、無線機400のビート妨害の影響は変化しないので、その後は記憶部450を参照するだけで、短時間でビート妨害の影響を回避することが可能となる。
【0063】
(動作クロック周波数制御方法)
続いて、無線機400を用いた動作クロック周波数制御方法について説明する。図8は、第2の実施形態における無線機400の動作クロック周波数制御方法の処理の流れを示すフローチャートである。特に、図8(a)は、クロック情報の登録方法を示し、図8(b)は、クロック情報を用いた動作クロック周波数制御方法を示す。
【0064】
図8(a)に示すように、ユーザが操作部114を通じてクロック情報の新規登録または更新の操作入力をすると(S500におけるYES)、中央制御部116は、例えば、予め設定された周波数のうち、1つ目の周波数を選択する(S502)。続くパターン番号初期設定ステップS302からパターン番号初期回帰設定ステップS318までの処理は、図6において説明した処理と実質的に等しいため説明は省略する。
【0065】
電圧判定ステップS308においてスケルチノイズの電圧が所定閾値以上である場合(S308におけるNO)、またはパターン番号初期回帰設定ステップS318の後、中央制御部116は、そのときの動作クロック周波数の状態を示すパターン番号220と、そのパターン番号220を抽出したときの受信信号の周波数と、を示すクロック情報を記憶する(S504)。そして、中央制御部116は、まだクロック情報を登録または更新していない周波数があるか否かを判断し(S506)、まだクロック情報を登録または更新していない周波数がある場合(S506におけるYES)、予め設定された周波数のうち、次の周波数を選択し(S508)、パターン番号初期設定ステップS302に戻る。クロック情報を登録または更新していない周波数がない場合(S506におけるNO)、登録操作判断ステップS500に戻る。
【0066】
図8(b)に示すように、操作部114を通じたユーザの操作入力によって信号を送受信する周波数が変更されると(S520におけるYES)、CPU200aは、記憶部450に記憶されているクロック情報からその周波数を含むクロック情報を抽出し(S522)、CPU200aは、そのクロック情報に含まれるパターン番号220に基づいて、動作クロック周波数を変更する(S524)。
【0067】
以上、説明した動作クロック周波数制御方法では、ビート妨害判定処理を実行したときのクロック情報を記憶しておき(図8(a))、後にそのクロック情報を用いて(図8(b))、ビート妨害の影響が小さい状態で当該無線機400を利用することが可能となる。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0069】
なお、本明細書の動作クロック周波数制御方法の各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、無線通信に用いられる無線機および無線機の動作クロック周波数制御方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
100 …無線機
118 …検波部
132 …ノイズHPF(ノイズ抽出部)
140 …ノイズ判断部
142 …スイッチ(抑圧部)
200a …CPU(周波数制御部)
202 …クロック回路
450 …記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の周波数における受信信号を検波して検波信号を生成する検波部と、
前記検波信号のうち、所定周波数以上のスケルチノイズを抽出するノイズ抽出部と、
前記スケルチノイズの電圧が所定閾値以上であるか否かを判断するノイズ判断部と、
前記スケルチノイズの電圧が前記所定閾値以上であると判断されると、前記検波信号を抑圧する抑圧部と、
前記スケルチノイズの電圧が前記所定閾値未満であると判断されると、当該無線機の動作クロック周波数を変更する周波数制御部と、
を備え、
前記ノイズ判断部は、前記周波数制御部が前記動作クロック周波数を変更すると、前記ノイズ抽出部が新たに抽出したスケルチノイズの電圧が前記所定閾値以上であるか否かを判断することを特徴とする無線機。
【請求項2】
前記動作クロック周波数は、複数のクロック回路において独立して設定され、
前記周波数制御部は、前記複数のクロック回路の動作クロック周波数をそれぞれ変更することを特徴とする請求項1に記載の無線機。
【請求項3】
前記ノイズ抽出部が新たに抽出したスケルチノイズの電圧が前記所定閾値以上であると前記ノイズ判断部が判断した場合に、そのときの動作クロック周波数の状態と前記任意の周波数とを関連付けたクロック情報を記憶する記憶部をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の無線機。
【請求項4】
任意の周波数における受信信号を検波して検波信号を生成し、
前記検波信号のうち、所定周波数以上のスケルチノイズを抽出し、
前記スケルチノイズの電圧が所定閾値以上であるか否かを判断し、
前記スケルチノイズの電圧が前記所定閾値以上であると判断すると、前記検波信号を抑圧し、
前記スケルチノイズの電圧が前記所定閾値未満であると判断すると、当該無線機の動作クロック周波数を変更し、
さらに、新たに抽出したスケルチノイズの電圧が前記所定閾値以上であるか否かを判断することを特徴とする無線機の動作クロック周波数制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−234292(P2011−234292A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105295(P2010−105295)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】