説明

無線端末のアンテナ反射損測定方法および測定装置

【課題】無線端末のアンテナ反射損を精度よく測定する。
【解決手段】電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球型の結合器20の長軸上の一方の焦点位置F1に反射損Ltが既知の基準送信アンテナ11を配置し、他方の焦点位置F2に受信アンテナ15を配置した状態で、変位法を用いて受信電力が最大となる位置における第1の受信電力PROを求め、同配置で且つ受信アンテナ15を電波吸収体で覆った状態で受信電力が最大となる位置における第2の受信電力PRAを求める。また、基準送信アンテナ11の代わりに無線端末を配置して同様の処理を行い、電波吸収体が無いときの第3の受信電力PEOと、有るときの第4の受信電力PEAを求め、以下の演算、
=(PEO−PEA)−[(PRO−PRA)−Lt] (dB)
によって、無線端末のアンテナ反射損Lを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話等に代表される無線端末のアンテナ反射損を精度よく求めるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ユビキタス社会の到来で、近年、高機能携帯電話を筆頭に無線タグ、UWB(Ultra Wide Band)やBAN(Body
Area Network)デバイスなどの小形無線端末が急激に増大している。これらの無線端末は、小形化や低コスト化などの理由から従来の無線機のような測定端子を有しないものが多い。また最近では、MIMO(Multi
In Multi Out)通信に代表されるように実使用状態で携帯機の性能を測定する必要が強まってきた。
【0003】
これらの無線端末に対しては、実際に電波を飛ばして空間で全放射電力(TRP)や全放射感度(TRS)などの送受信性能を測定する、所謂OTA(Over The Air)測定が求められる。
【0004】
OTA測定には電波無反射室を用いるのが一般的であるが、設備コストが高く、測定時間も長い。そのほか、ランダムフィールド法に基づく電波反射箱を用いる方法もあるが、レーリーフェージング環境の実現が容易でなく、また多量の統計データを取得するため測定時間もかかる。さらに時間変化する信号のリアルタイム測定ができないという問題もある。
【0005】
これらの問題を解決するために本願出願者等は、電波を反射する金属壁で覆われた楕円球空間を内部に有し、その楕円の一方の焦点近傍から放射された電波を他方の焦点位置に集中させることができる楕円球型の結合器を用いて、無線端末の全放射電力等を測定する技術を提案している(特許文献1、2)。
【0006】
この楕円球型の結合器を用いた場合、一方の焦点位置近傍から送信された電波が他方の焦点位置に近傍に集まって受信されるが、その電波が受信側で全て吸収されるわけではなく、再び金属壁で反射して送信側の焦点位置に戻りさらに金属壁で反射して受信側に入力されるという動作が繰り返される現象(多重反射現象)が生じる。
【0007】
この多重反射によって間隔を開けて受信側に入力される電波同士が干渉し、その位相が合わないと送信電波が正しく受信されなくなって測定困難になるが、送信側と受信側の距離を調整して受信電力を最大とすることで、結果的に受信側の多重反射波の位相合わせを行い、測定可能な状態にしていた。
【0008】
つまり、楕円球型の結合器を用いた測定方式では多重反射を前提とし、結合器内の送信側機器と受信側機器との間で最大の結合度が得られるように間隔を調整する方法(以下、変位法と呼ぶ)を用いて、端末の全放射電力等を高感度に測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2009/041513
【0010】
【特許文献2】国際公開WO2009/136638
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、各種無線端末は、小型化、薄型化に加えて多アンテナ化、多周波化が進み、その結果、端末のアンテナは筐体内の限られた空間に収容せざるを得なくなっている。このような状況ではアンテナの理想的な設計が難しく、放射効率の低下や反射損の増大が避けられない。特に、このようなアンテナでは、不整合による反射損が大きくなるのでそれを定量的に把握することが重要となり、その測定に前記した楕円球型の結合器を用いることが考えられる。
【0012】
ところが、上記のように多重反射を前提とし、変位法を用いて送受信間の結合度を得る測定モード(多重反射利用モード)の場合に変位法で求めた最大結合位置では、結合器によって供試器(無線端末)も含めて整合がとられてしまうため、供試器が本来有している不整合が補償されてしまい、アンテナ反射損の測定が困難であった。
【0013】
本発明は、この問題を解決して、無線端末のアンテナ反射損を精度よく測定できる測定方法および測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明の無線端末のアンテナ反射損測定方法は、
電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点位置に反射損Ltが既知の基準送信アンテナを配置して所定電力の信号を供給し、他方の焦点位置に受信アンテナを配置し、両アンテナの位置を前記楕円長軸に沿って変位させて、前記受信アンテナの受信電力が最大となる位置における受信電力を求めて第1の受信電力PROとして記憶する段階と、
前記楕円球状の空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点位置に前記基準送信アンテナを配置して前記所定電力の信号を供給し、他方の焦点位置に電波吸収体で覆われた前記受信アンテナを配置し、両アンテナの位置を前記楕円長軸に沿って変位させて、前記受信アンテナの受信電力が最大となる位置における受信電力を求め第2の受信電力PRAとして記憶する段階と、
前記楕円球状の空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点位置に試験対象の無線端末のアンテナ部が位置するように配置して該無線端末から規定電力の電波を発射させ、他方の焦点位置に前記受信アンテナを配置し、前記無線端末と前記受信アンテナの位置を前記楕円長軸に沿って変位させて、前記受信アンテナの受信電力が最大となる位置における受信電力を求め第3の受信電力PEOとして記憶する段階と、
前記楕円球状の空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点位置に前記無線端末のアンテナ部が位置するように配置して該無線端末から前記規定電力の電波を発射させ、他方の焦点位置に前記電波吸収体で覆われた前記受信アンテナを配置し、前記無線端末と前記受信アンテナの位置を前記楕円長軸に沿って変位させて、前記受信アンテナの受信電力が最大となる位置における受信電力を求め第4の受信電力PEAとして記憶する段階とを含み、
以下の演算、
=(PEO−PEA)−[(PRO−PRA)−Lt] (dB)
によって、前記無線端末のアンテナ反射損Lを算出することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の無線端末のアンテナ反射損測定装置は、
電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間を有し、該空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点位置に反射損Ltが既知の基準送信アンテナ(11)または測定対象の無線端末(10)の保持し、その保持物を前記楕円長軸に沿って移動させるための機構が設けられ、他方の焦点位置に受信アンテナンテナ(15)の保持し、該受信アンテナを前記楕円長軸に沿って移動させるための機構が設けられた結合器(20)と、
前記結合器の内部に保持された前記基準送信アンテナに所定電力の信号を供給する信号発生手段(40)と、
前記受信アンテナの受信電力を測定する受信電力測定手段(50)と、
前記結合器の前記一方の焦点位置に前記基準送信アンテナが保持されて前記所定電力の信号が供給され、且つ他方の焦点位置に前記受信アンテナが配置された状態で、両アンテナの位置が前記楕円長軸に沿って変位されたときに得られる前記受信アンテナの最大受信電力を第1の受信電力PROとして記憶する第1の受信電力記憶手段(61)と、
前記結合器の前記一方の焦点位置に前記基準送信アンテナが保持されて前記所定電力の信号が供給され、且つ他方の焦点位置に電波吸収体で覆われた前記受信アンテナが配置された状態で、両アンテナの位置が前記楕円長軸に沿って変位されたときに得られる前記受信アンテナの最大受信電力を第2の受信電力PRAとして記憶する第2の受信電力記憶手段(62)と、
前記結合器の前記一方の焦点位置に試験対象の無線端末のアンテナ部が位置するように配置されて該無線端末から規定電力の電波が発射され、且つ他方の焦点位置に前記受信アンテナが配置された状態で、前記無線端末と前記受信アンテナの位置が前記楕円長軸に沿って変位されたときに得られる前記受信アンテナの最大受信電力を第3の受信電力PEOとして記憶する第3の受信電力記憶手段(63)と、
前記結合器の前記一方の焦点位置に前記無線端末のアンテナ部が位置するように配置されて該無線端末から前記規定電力の電波が発射され、且つ他方の焦点位置に前記電波吸収体で覆われた前記受信アンテナが配置された状態で、前記無線端末と前記受信アンテナの位置が前記楕円長軸に沿って変位されたときに得られる前記受信アンテナの最大受信電力を第4の受信電力PEAとして記憶する第4の受信電力記憶手段(64)と、
前記第1〜第4の受信電力を用いた以下の演算、
=(PEO−PEA)−[(PRO−PRA)−Lt] (dB)
を行い、前記無線端末のアンテナ反射損Lを算出する反射損算出手段(65)とを備えている。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明では、電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状空間内の長軸上の一方の焦点位置に反射損Ltが既知の基準送信アンテナを配置し、他方の焦点位置に受信アンテナを配置した状態で、前記変位法を用いて受信電力が最大となる位置における第1の受信電力PROを求め、同配置で且つ受信アンテナを電波吸収体で覆った状態で、変位法を用いて受信電力が最大となる位置における第2の受信電力PRAを求める。また、基準送信アンテナの代わりに試験対象の無線端末を配置し、上記同様の処理を行い、電波吸収体が無いときの第3の受信電力PEOと、電波吸収体が有るときの第4の受信電力PEAを求め、
以下の演算、
=(PEO−PEA)−[(PRO−PRA)−Lt] (dB)
によって、無線端末のアンテナ反射損Lを算出している。
【0017】
上記演算で、第1の受信電力と第2の受信電力の差(PRO−PRA)には、電波吸収体による減衰分と基準送信アンテナの既知の反射損Lt(0の場合も含む)とが含まれ、第3の受信電力と第4の受信電力の差(PEO−PEA)には、電波吸収体による減衰分と無線端末のアンテナの反射損とが含まれているから、上式のように第1の受信電力と第2の受信電力の差(PRO−PRA)から基準送信アンテナの反射損Ltを差し引いて電波吸収体による減衰分を求め、これを第3の受信電力と第4の受信電力の差(PEO−PEA)から差し引くことで、無線端末のアンテナの反射損Lを正確に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の基本動作を説明するための図
【図2】楕円球型の結合器の寸法図
【図3】整合アンテナと不整合アンテナを用いたときの透過率の差を示す図
【図4】測定手順とシステムの構成を示す図
【図5】測定手順とシステムの構成を示す図
【図6】測定手順とシステムの構成を示す図
【図7】測定手順とシステムの構成を示す図
【図8】上記測定手順によって得られる受信電力の関係を示す図
【図9】電波吸収体の吸収率と受信電力との関係を示す図
【図10】電波吸収体使用時の供試器の定在波比と受信電力との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
本発明では、上記した多重反射状態で前記変位法を用いて測定を行う多重反射モード(以下、Aモードという)と、電波吸収体を用いて多重反射を抑圧した状態で前記変位法による測定を行う多重反射抑圧モード(以下、Bモードという)とを併用して、無線端末のアンテナの反射損を求めている。
【0020】
Aモードでは、楕円球型結合器の長軸焦点の一方に試験対象の無線端末を配置し、他方に受信アンテナを配置して、前記多重反射が定常的に起きている状態で、前記変位法により両者を100パーセント結合状態とし、無線端末からの全放射電力を受信アンテナで抽出できるようにする。
【0021】
また、Bモードでは、受信アンテナを電波吸収体を覆うことで、多重反射を抑圧している。このBモードの場合、理想的には無線端末から放射された一次波のみが電波吸収体で吸収減衰を受けた後、受信アンテナにより受信され、それ以降の多重反射は電波吸収体を複数回通過することにより無視できる大きさまで減衰するという点を利用している。
【0022】
そして、無線端末のアンテナに不整合があると、Bモードの測定では不整合状態が保持されて電波が受信されるが、Aモードでは、不整合が補償されて整合状態で電波が受信される。本発明は、この不整合状態の受信電力と、整合状態の受信電力との差が、無線端末のアンテナの反射損に等しくなるという知見に基づくものである。
【0023】
以下、これを確かめるためのシミュレーションについて説明する。
図1は、シミュレーションモデルを示しており、電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間を有する結合器20の長軸径2a=4000mm、離心率eを図2のように、0.3、0.4、0.5の3種類に変化させている。シミュレーシュンの収束を早くするためと実際の現象に近づけるために、壁面の導電率σとして2×10S/mを与えている。この結合器20の長軸上の焦点F1、F2に1.47GHzのダイポール型の送受信アンテナANT1、ANT2を、その長さ方向が長軸(z軸)に沿った、所謂コリニア配置としている。
【0024】
上記モデルで、送信側のアンテナANT1として、整合(VSWR=1)したアンテナと不整合(VSWR=3.2)のアンテナを用い、送信側のアンテナANT1に時刻t=0にインパルス信号を与え、受信側のアンテナANT2の電流の応答を観測し、受信インパルス応答から最初に観測される一次波の電流を抽出し、その電流から電力を求める。
【0025】
図3は、前記した整合、不整合のアンテナを用いたときの透過係数(S21)を示すグラフであり、横軸は離心率である。この結果から、離心率が小さい程、透過係数が大きくなるが、整合アンテナと不整合アンテナとの差はいずれの離心率でも1.38dBであり、この値はVSWR=3.2の反射損の理論値1.39dBと非常に近いことがわかる。
【0026】
つまり、インパルス応答の一次波を抽出すればもともとの反射損に応じた受信電力を測定できることがわかる。この一次波抽出のために、前記したように電波吸収体を用いて、多重反射を抑圧したBモードの測定を行う。
【0027】
以下、実際の測定手順について説明する。実際の測定では、図4〜図7に示す4つの状態に関して行う。
【0028】
図4は、結合器20の長軸上の一方の焦点F1に、供試器の代わりに用いる基準となる基準送信アンテナ11を配置し、他方の焦点F2に受信アンテナ15を配置する。ここで両アンテナ11、15は自由空間中で整合がとれているものとし、具体的にはアンテナエレメントとケーブルが一直線となるスリーブ型のダイポールアンテナを用いている。特に受信アンテナ15をスリーブ型にすることで、円筒状の電波吸収体の穴にアンテナエレメントを通すことでケーブルに邪魔されずに簡単に装着できる(電波吸収体の形状を工夫すれば標準的なダイポールアンテナも使用できる)。
【0029】
なお、結合器20の基本構造は、上記したように楕円をその長軸を中心に回転して得られる楕円球状の空間を、電波を反射させる金属壁(金属板、金属網あるいは導電性塗料膜等)で囲む構造であれば任意でよい。
【0030】
ただし、実際には、アンテナや無線端末などを取り替えたり、その保持位置を調整する必要がある。そのために必要な最大の開口面が得られるように、楕円球空間を形成する金属による隔壁体を、楕円長軸に沿った平面で上下あるいは前後に切断して2分し、半楕円球状の一方の隔壁体を他方の隔壁体に被せる構造が現実的となる。
【0031】
また、結合器20には、基準送信アンテナ11および受信アンテナ15を結合器20の内部に保持するとともに、楕円長軸に沿って任意の距離移動させることができる保持・移動機構33、34が設けられている。この保持・移動機構33、34の構造も任意であるが、電波を低損失に通過させる材料(ゴムや合成樹脂材)を用い、結合器外部からの制御あるいは手動操作で、長軸方向にスライド移動できるものでよい。
【0032】
上記配置で基準送信アンテナ11に対して信号発生器40から所定電力Poの信号を供給し、両アンテナの位置を長軸中心Oを中心にして長軸に沿って対称に変化させ、受信アンテナ15の受信電力が最大となるときの第1の受信電力PRO(全放射電力TRP:以下同様)を測定手段としてのスペクトルアナライザ50によって検出し、これをコンピュータ構成の演算処理部60の第1の受信電力記憶手段(メモリ)61に記憶する。
【0033】
図5は、図4の構成で、受信アンテナ15を電波吸収体30で覆った状態として、前記同様に両アンテナの位置を長軸中心Oを中心にして長軸に沿って対称に変化させ、受信アンテナ15の受信電力が最大となるときの第2の受信電力PRAをスペクトルアナライザ50によって検出し、演算処理部60の第2の受信電力記憶手段62に記憶する。
【0034】
また、図6は、図4の構成で、基準送信アンテナ11の代わりに、試験対象の無線端末(供試器)10を保持・移動機構33に保持させて、前記同様に無線端末10と受信アンテナ15の位置を長軸中心Oを中心にして長軸に沿って対称に変化させ、受信アンテナ15の受信電力が最大となるときの第3の受信電力PEOをスペクトルアナライザ50によって検出し、演算処理部60の第3の受信電力記憶手段63に記憶する。
【0035】
図7は、図6の構成で、受信アンテナ15を電波吸収体30で覆った状態として、前記同様に無線端末10と受信アンテナ15の位置を長軸中心Oを中心にして長軸に沿って対称に変化させ、受信アンテナ15の受信電力が最大となるときの第4の受信電力PEAをスペクトルアナライザ50によって検出し、演算処理部60の第4の受信電力記憶手段64に記憶する。
【0036】
なお、図4〜図7に示した測定の順番は任意であり、図4、図5の測定によって得られる第1、第2の受信電力については、最初に一度求めておけば、試験される無線端末が変わる毎に測定する必要はなく、測定系の基準パラメータとして定常的に使用できる(ただし、結合器20、受信アンテナ15、電波吸収体30等の測定系の構造が変わった場合には、その環境で再度求める必要がある。
【0037】
上記測定により、第1〜第4の受信電力が得られた段階で、図7に示しているように、演算処理部60の反射損算出手段65により、次の演算、
=(PEO−PEA)−(PRO−PRA) (dB)
を行うことで、無線端末10のアンテナの反射損Lを求めることができる。
【0038】
ここで、図8に示すように、整合された反射損無しの基準送信アンテナ11を使用した状態で、Aモードにより求めた第1の受信電力PROとBモードにより求めた第2の受信電力PRAの差ΔRは、受信アンテナ15を覆った電波吸収体30によって生じるロスである。
【0039】
また、基準送信アンテナ11の代わりに反射損をもつ無線端末(供試器)を用いた状態で、Aモードにより求めた第3の受信電力PEOとBモードにより求めた第4の受信電力PEAとの差ΔEは、無線端末のアンテナの反射損Lと、電波吸収体30を用いたことによるロスΔRとの和に相当している。
【0040】
したがって、上記演算、即ち、(ΔE−ΔR)を行うことで、測定系のロスΔRが相殺されて、無線端末のアンテナの反射損Lを求めることができる。
【0041】
なお、上記測定法は、前記したように整合アンテナと不整合アンテナとの差が、不整合のVSWR値から得られる反射損の理論値に一致する点の他に、AモードとBモードの受信電力の差が電波吸収体によるロスに依存する点、さらに、Bモードにおいて、無線端末の不整合が反映された送信電力が受信アンテナ15で受信される点を前提状態としているが、これについては以下の測定により確かめられている。
【0042】
その測定には、結合器20として長軸径760mm、離心率0.3のものを用い、基準送信アンテナ11および受信アンテナ15として中心周波数1.47GHzの前記したスリーブ型のダイポールアンテナを用い、電波吸収体30として、カーボン含浸ウレタン材からなり、直径132mm、長さ180mmの円筒形で電波吸収率が異なる3種類のもの(吸収体A〜Cと記す)を用いている。また、基準送信アンテナ11への信号供給電力は10dBmである。
【0043】
図9は、前記図4に示したAモードと、図5に示したBモードで3種類の電波吸収体を用いて前記変位方を用いて得られた受信電力の測定結果である。
【0044】
この測定結果から、電波吸収体を用いたBモードでは、Aモードの測定結果の曲線がほぼその形状を保って吸収量に応じて低下していることがわかる。各曲線のピークなる位置は等しく、この測定例ではΔz=20.4mmになっている。つまりAモードとBモードで得られる受信電力の差は、電波吸収体によって測定系に生じるロスに依存している。
【0045】
このグラフからそれぞれの吸収体A〜Cの吸収減衰量がわかり、吸収体Aの減衰量は7.5dB、吸収体Bの減衰量は12dB、吸収体Cの減衰量は40dBとなっている。
【0046】
図10は、図7に示したモデルで電波吸収体30として吸収体Aを用いた場合の測定結果であり、無線端末のモノポールアンテナが整合している状態、VSWR=3の状態、VSWR=5の状態を示している。
【0047】
この測定結果から、いずれの変位位置においても、受信電力はVSWR(定在波比)が大きくなるにつれて低下していることがわかり、前術したように、Bモードでは無線端末(供試器)の不整合が正しく反映された送信電力が受信されているといえる。
【0048】
図10のグラフから、最大受信位置(Δz=−53mm)において、整合状態とVSWR=3状態の受信電力差は1.28dB、整合状態とVSWR=5状態の受信電力差は2.66dBと読み取れるが、それぞれの理論値は1.25dBと2.55dBであるから、上記測定結果の誤差は0.1dB程度と少ないことが確かめられている。
【0049】
なお、ここでは、基準送信アンテナ11と無線端末(供試器)に対する電波吸収体による吸収減衰が等しいと仮定しているが、それが成立するためには、両者の指向性が同一である必要がある。一般に小型無線端末では水平面内無指向性で垂直面内は8の字指向性に近いので、上記のようにダイポール型の基準送信アンテナを用いていれば指向性は近似しているといえるが、無線端末の指向がより複雑な場合には、それに合わせて無線端末と同様な筐体とアンテナを有する構造のものを基準送信アンテナとして用いればよい。
【0050】
前記実施形態では、基準送信アンテナ11が整合している、即ち、反射損が0の場合であったが、反射損がある場合でもその値が既知であれば、上記4つの異なる状態による測定で得られた4つの受信電力により、無線端末のアンテナの反射損を算出することができる。
【0051】
その場合、基準送信アンテナ11の既知の反射損Ltは、図8の基準送信アンテナ使用時のグラフにおいて、第1受信電力PROと第2受信電力PRAの差ΔRに含まれることになるので、実際の電波吸収体30の減衰損失ΔR′は(ΔR−Lt)に等しい。
【0052】
したがって、この基準送信アンテナ11の反射損Ltを考慮した場合の無線端末のアンテナの反射損Lは、
=ΔE−ΔR′
=(PEO−PEA)−[(PRO−PRA)−Lt] (dB)
の演算で求めることができる。
【0053】
上記式で、基準送信アンテナ11の反射損Ltが0(即ち、整合している)とすれば前述の式に等しいから、0を含めて反射損が既知の基準送信アンテナ11を用いればよいことがわかる。
【符号の説明】
【0054】
10……無線端末(供試器)、11……基準送信アンテナ、15……受信アンテナ、20……結合器、30……電波吸収体、33、34……保持・移動機構、40……信号発生器、50……スペクトルアナライザ、60……信号処理部、61……第1の受信電力記憶手段、62……第2の受信電力記憶手段、63……第3の受信電力記憶手段、64……第4の受信電力記憶手段、65……反射損算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点位置に反射損Ltが既知の基準送信アンテナを配置して所定電力の信号を供給し、他方の焦点位置に受信アンテナを配置し、両アンテナの位置を前記楕円長軸に沿って変位させて、前記受信アンテナの受信電力が最大となる位置における受信電力を求めて第1の受信電力PROとして記憶する段階と、
前記楕円球状の空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点位置に前記基準送信アンテナを配置して前記所定電力の信号を供給し、他方の焦点位置に電波吸収体で覆われた前記受信アンテナを配置し、両アンテナの位置を前記楕円長軸に沿って変位させて、前記受信アンテナの受信電力が最大となる位置における受信電力を求め第2の受信電力PRAとして記憶する段階と、
前記楕円球状の空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点位置に試験対象の無線端末のアンテナ部が位置するように配置して該無線端末から規定電力の電波を発射させ、他方の焦点位置に前記受信アンテナを配置し、前記無線端末と前記受信アンテナの位置を前記楕円長軸に沿って変位させて、前記受信アンテナの受信電力が最大となる位置における受信電力を求め第3の受信電力PEOとして記憶する段階と、
前記楕円球状の空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点位置に前記無線端末のアンテナ部が位置するように配置して該無線端末から前記規定電力の電波を発射させ、他方の焦点位置に前記電波吸収体で覆われた前記受信アンテナを配置し、前記無線端末と前記受信アンテナの位置を前記楕円長軸に沿って変位させて、前記受信アンテナの受信電力が最大となる位置における受信電力を求め第4の受信電力PEAとして記憶する段階とを含み、
以下の演算、
=(PEO−PEA)−[(PRO−PRA)−Lt] (dB)
によって、前記無線端末のアンテナ反射損Lを算出することを特徴とする無線端末のアンテナアンテナ反射損測定方法。
【請求項2】
電波を反射させる金属壁で囲まれた楕円球状の空間を有し、該空間内の前記楕円長軸上の一方の焦点位置に反射損Ltが既知の基準送信アンテナ(11)または測定対象の無線端末(10)の保持し、その保持物を前記楕円長軸に沿って移動させるための機構が設けられ、他方の焦点位置に受信アンテナンテナ(15)の保持し、該受信アンテナを前記楕円長軸に沿って移動させるための機構が設けられた結合器(20)と、
前記結合器の内部に保持された前記基準送信アンテナに所定電力の信号を供給する信号発生手段(40)と、
前記受信アンテナの受信電力を測定する受信電力測定手段(50)と、
前記結合器の前記一方の焦点位置に前記基準送信アンテナが保持されて前記所定電力の信号が供給され、且つ他方の焦点位置に前記受信アンテナが配置された状態で、両アンテナの位置が前記楕円長軸に沿って変位されたときに得られる前記受信アンテナの最大受信電力を第1の受信電力PROとして記憶する第1の受信電力記憶手段(61)と、
前記結合器の前記一方の焦点位置に前記基準送信アンテナが保持されて前記所定電力の信号が供給され、且つ他方の焦点位置に電波吸収体で覆われた前記受信アンテナが配置された状態で、両アンテナの位置が前記楕円長軸に沿って変位されたときに得られる前記受信アンテナの最大受信電力を第2の受信電力PRAとして記憶する第2の受信電力記憶手段(62)と、
前記結合器の前記一方の焦点位置に試験対象の無線端末のアンテナ部が位置するように配置されて該無線端末から規定電力の電波が発射され、且つ他方の焦点位置に前記受信アンテナが配置された状態で、前記無線端末と前記受信アンテナの位置が前記楕円長軸に沿って変位されたときに得られる前記受信アンテナの最大受信電力を第3の受信電力PEOとして記憶する第3の受信電力記憶手段(63)と、
前記結合器の前記一方の焦点位置に前記無線端末のアンテナ部が位置するように配置されて該無線端末から前記規定電力の電波が発射され、且つ他方の焦点位置に前記電波吸収体で覆われた前記受信アンテナが配置された状態で、前記無線端末と前記受信アンテナの位置が前記楕円長軸に沿って変位されたときに得られる前記受信アンテナの最大受信電力を第4の受信電力PEAとして記憶する第4の受信電力記憶手段(64)と、
前記第1〜第4の受信電力を用いた以下の演算、
=(PEO−PEA)−[(PRO−PRA)−Lt] (dB)
を行い、前記無線端末のアンテナ反射損Lを算出する反射損算出手段(65)とを備えた無線端末のアンテナ反射損測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−19856(P2013−19856A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155543(P2011−155543)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、総務省、電波資源拡大のための委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)