説明

無線通信システム

【課題】同じ時間に同じ周波数を用いて送受信を行うことができる技術を提供する。
【解決手段】送信部101から出力された送信信号は、送信アンテナ102から送信波301として放射される。受信アンテナ103には、相手局からの受信希望波303が入力される。また、受信アンテナ103には、送信波301の一部が、アンテナ間アイソレーションにより自局送信干渉波302として、また、不図示の反射物等に反射した反射波304として入力される。受信アンテナ103で受信された受信波は、受信部104を介して受信信号としてキャンセル部105に入力される。キャンセル部105は、送信部101から送信信号を取得して、受信信号に含まれる自局の送信信号を打ち消すようにキャンセル処理を行うことで、送受信を同時間及び同周波数で行う場合に自局の受信側における自局の送信信号の干渉を最小限に抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信と送信に同一周波数帯を用いて双方向通信する無線機からなる無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線通信において、自局の送受信を同じ周波数及び同じ時間軸で行うと、自局の送信系の信号が自局の受信系に入力されてしまい、受信系に干渉を与えて通信できない状態になる。
【0003】
そのため、通常、送信周波数と受信周波数とをそれぞれ別の周波数に分けて送受信を行うFDD(Frequency Division Duplex)や、一つの周波数を送信と受信とで時間分割して行うTDD(Time Division Duplex)等により、送信系と受信系との干渉を無くすようにして無線通信が行われている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−229784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、無線周波数は有限であり、近年、無線通信に用いる周波数の不足が問題となっており、周波数帯域を確保することが困難になってきている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、FDDによる無線通信だと周波数リソースを送信と受信とで2倍必要としてしまい、一方、TDDによる無線通信だと時間分割により送受信する情報量が少なくなり通信速度が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、同じ時間に同じ周波数を用いて送受信を行うことができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の無線通信システムは、受信と送信に同一周波数帯を用いて双方向通信する無線機からなる無線通信システムであって、前記無線機は、通信相手となる無線機から送信された信号を受信する受信部と、前記通信相手となる無線機に信号を送信する送信部と、前記送信部から送信した信号に基づき、前記受信部で受信した信号に含まれる自己が送信した信号をキャンセルするキャンセル部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、同じ時間に同じ周波数を用いて送受信を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る実施形態の無線機Xの構成を示す機能ブロック図である。
【図2】図1に示す受信希望波303に基準信号が含まれる信号構成例を示すイメージ図である。
【図3】図1に示す受信希望波303がCDMA方式である場合の例を示すイメージ図である。
【図4】図1に示す受信希望波303がFDMA方式である場合の例を示すイメージ図である。
【図5】本発明に係る実施形態の無線機Yの構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0012】
図1は、本実施形態の無線機Xの構成を示す機能ブロック図である。無線機Xは、送信部101と送信アンテナ102と受信アンテナ103と受信部104とキャンセル部105とを備えている。
【0013】
送信信号は、送信部101で生成され、送信波301として送信アンテナ102から放射される。
【0014】
受信アンテナ103には、他の無線機より送信された電波であり、送信波301と同じ周波数の受信希望波303が受信信号として入力される。なお、このとき、送信アンテナ102による送信と受信アンテナ103による受信とは同時に行われている。そのため、受信アンテナ103には、送信アンテナ102と受信アンテナ103とのアンテナ間アイソレーションにより、送信波301の一部が回りこんだ自局送信干渉波302も受信信号として入力される。そのため、このままでは、無線機Xは、自局送信干渉波302が影響して、正常に受信(復調)することができない。
【0015】
そこで、キャンセル部105によって、自局送信干渉波302のキャンセル処理を行う。キャンセル部105には、受信部104によって受信アンテナ103の受信信号に対し所定の受信処理がされた受信信号が入力されている。ここで、送信波301をTx(t)、アンテナ間アイソレーションをISO、遅延時間をΔtとする。アンテナ間アイソレーションを示すISO([dB])は、アンテナの特性や空間の特性により、周波数偏差等の個別特性を含むものである。この場合、自局送信干渉波302は、送信波Tx(t)に対してわずかに遅れた信号であり、ISO×Tx(t−Δt)で示される。そして、受信希望波303をRx(t)とすると、受信アンテナ103に入力される信号は、次式で示される。
【0016】
受信アンテナ103に入力される信号=Rx(t)+ISO×Tx(t−Δt) ・・・(1)
【0017】
キャンセル部105は、送信部101から送信信号、すなわち受信希望波Rx(t)と同時間に送信された送信波Tx(t)を取得して、受信部104から取得した受信信号と送信信号とを比較する。キャンセル部105は、アンテナ間アイソレーションの伝播路特性であるISOを推定すると共にΔtを調整して、自局送信干渉波302を打ち消すようにキャンセル処理を行う。具体的には、例えば、キャンセル部105は、受信信号の振幅・位相と図示しない記憶部に記憶した送信信号の振幅・位相との相関を取って直接波や遅延波を分離し、ISOを推定する。
また、キャンセル部105は、相関結果に基づいてΔtを求める。
キャンセル部105は、記憶した送信信号と上記ISOとΔtを用い、自局送信干渉波302に対して同振幅・逆位相のキャンセル信号を生成し、このキャンセル信号と受信信号とを合成することで自局送信干渉波302を打ち消す。Δtによる遅延は、図示しないデジタル遅延回路を使用して実現する。
これにより、キャンセル部105から出力される信号は、自局送信干渉波302が取り除かれて、受信希望波303であるRx(t)のみとなり、正常に受信可能な受信信号となる。なお、キャンセル部105の後段には不図示の復調部が備えられており、復調部により、キャンセル部105でキャンセル処理された受信信号の復調が行われるものとする。
【0018】
他の構成例を以下に示す。実環境では、送信波301が不図示の反射物等に反射することによって生じる反射波304も受信アンテナ103に入力される。ここで、反射波304の遅延を含む伝達関数をRH(i)とすると、アンテナ間アイソレーションによる自局送信干渉波302も反射波304と同等とみなすことができる。このことから、受信アンテナ103に入力される信号は、次式で示すことができる。
【0019】
【数1】

【0020】
キャンセル部105は、受信信号に個々の反射波を抽出するフィルタをかけて、反射波毎に伝達関数を推定する手法を用いたり、反射波を一括して抽出するフィルタをかけて、各反射波の伝播路特性を一つの伝達関数として推定する手法を用いたり等して、伝達関数部分を推定する。そして、キャンセル部105は、例えば、推定した伝達関数部分と送信部101から取得する送信信号とにより反射波304に対し同振幅・逆位相のキャンセル信号を生成して受信信号と合成することで、反射波304を打ち消すようにキャンセル処理を行う。これにより、キャンセル部105から出力される信号は、受信希望波303であるRx(t)のみとなり、正常に受信可能な受信信号となる。
【0021】
なお、他の無線機から送信される送信信号、即ち受信希望波303には、受信側で受信希望波303を取得しやすくするために、同期信号や受信側で既知の信号等の基準信号が挿入されていてもよい。例えば、図2に示すように、他の無線機、即ち相手局からの送信信号は、時間分割され、基準信号501と自由送信区間502とで構成されてもよい。キャンセル部105は、既知の信号である基準信号501に基づいて、相手局の送信時における基準信号501の位相振幅情報に対する、実際に受信した基準信号501の受信位相振幅によって、伝播特性等による位相振幅変動量を取得することができる。これにより、キャンセル部105は、受信した基準信号501の位相振幅変動量に基づいて受信希望波303の位相振幅を補正することで、受信信号から受信希望波303を分離させることができる。キャンセル部105は、自局の送信信号による干渉波(自局送信干渉波302や反射波304等)をキャンセルしやすくなり、キャンセル処理の精度を向上させることができる。
【0022】
なお、図3に示すように無線機Xの通信方式は、CDMA(Code Division Multiple Access)方式であってもよい。基準信号501は、拡散符号により受信希望波303に多重される。この場合でも、キャンセル部105は、実際に受信した基準信号501の受信位相振幅の位相振幅変動量により伝播路特性を推定することができるので、同じ伝播路特性を有する受信希望波303を基準信号501に基づいて特定して受信信号から分離しやすくなり、キャンセル処理における推定や精度を向上させることができる。また、図4に示すように無線機Xの通信方式は、FDMA(Frequency Division Multiple Access)方式であってもよい。この場合、基準信号501は、受信希望波303の周波数帯におけるいずれかの場所に挿入されていればよい。同様に、キャンセル部105は、受信した基準信号501の受信位相振幅の位相振幅変動量により伝播路特性を推定することができるので、同じ伝播路特性を有する受信希望波303を基準信号501に基づいて特定して受信信号から分離しやすくなり、キャンセル処理に伴う推定や精度を向上させることができる。
【0023】
なお、本実施形態では、送信アンテナ102と受信アンテナ103とがそれぞれ1本ずつ別体で構成される例を挙げて説明したが、送信アンテナ102と受信アンテナ103とは、それぞれ複数本ずつあってもよい。また、送信アンテナ102と受信アンテナ103とは一体として構成されてもよい。例えば、図5は、送信アンテナと受信アンテナとが一体として構成された無線機Yの構成を示す機能ブロック図である。ここでは、図1の無線機Xと同様の機能には同一の符号を付してその説明を省略し、無線機Xと異なる箇所について説明する。
【0024】
図5では、無線機Yには、図1に示す送信アンテナ102と受信アンテナ103とに代わるものとして、送受信共用アンテナ112が設けられている。また、無線機Yには、送信部101からの送信信号を送受信共用アンテナ112に出力し、送受信共用アンテナ112からの受信信号を受信部104に出力するサーキュレータ111が設けられている。この場合、サーキュレータ111が設けられることにより、サーキュレータ111のアイソレーション量によって、自局の送信信号が自局の受信系に影響を与える。そのため、サーキュレータ111のアイソレーション量を考慮する必要があるが、上記処理と同様に、キャンセル部105により、送信部101から取得する送信信号に基づいて、受信信号における自局の送信信号の干渉をキャンセルすることで、正常に受信可能な受信信号を生成させることができる。なお、サーキュレータ111は、送受信を一つのアンテナで行えるようにするものであればよく、例えば、方向性結合器や分配器等で構成されてもよい。
【0025】
このように、本実施形態では、自局が送信する電波と自局が受信する電波とを同じ周波数、同じ時間軸で使用した場合に、自局の送信信号が自局の受信系に入力されたとしても、自局の受信系で自局の送信信号をキャンセルして干渉を最小限に抑えることができる。そのため、本実施形態では、FDDのように周波数リソースが送信と受信とで2倍必要であったり、TDDのように通信速度が低下したりするような問題が発生しない。これにより、本実施形態では、同じ周波数及び同じ時間で自局の送受信を行うことができ、通信速度を低下させずに周波数効率を向上させることができる。
【0026】
以上、本実施形態を概説すると、
(1)本実施形態の無線通信システムは、受信と送信に同一周波数帯を用いて双方向通信する無線機からなる無線通信システムであって、前記無線機は、通信相手となる無線機から送信された信号を受信する受信部と、前記通信相手となる無線機に信号を送信する送信部と、前記送信部から送信した信号に基づき、前記受信部で受信した信号に含まれる自己が送信した信号をキャンセルするキャンセル部とを備えたことを特徴とする。
(2)(1)に記載の前記キャンセル部は、前記受信信号に含まれる基準信号により、前記送信信号の干渉をキャンセルしてもよい。
(3)(1)又は(2)に記載の前記送信アンテナと前記受信アンテナとは、一体として構成されてもよい。
【0027】
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々様々に変更が可能であることは言うまでもない。なお、上記実施形態において、同様の機能を示す構成には、同一の符号を付してある。
【符号の説明】
【0028】
101:送信部
102:送信アンテナ
103:受信アンテナ
104:受信部
105:キャンセル部
111:サーキュレータ
112:送受信共用アンテナ
301:送信波
302:自局送信干渉波
303:受信希望波
304:反射波
X,Y:無線機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信と送信に同一周波数帯を用いて双方向通信する無線機からなる無線通信システムであって、
前記無線機は、
通信相手となる無線機から送信された信号を受信する受信部と、
前記通信相手となる無線機に信号を送信する送信部と、
前記送信部から送信した信号に基づき、前記受信部で受信した信号に含まれる自己が送信した信号をキャンセルするキャンセル部と、
を備えたことを特徴とする無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−115561(P2013−115561A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259143(P2011−259143)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】