説明

無菌器具と培養器との接続方法、無菌器具ユニット、培養済物質の製造方法及びサンプリング方法

【課題】異種微生物等の汚染のリスクを低減することができる無菌器具と培養器との接続方法及び無菌器具ユニットを提供する。
【解決手段】無菌器具ユニット1は、培養器90に投入される又は採取された培養物質Cを貯留する無菌器具50と、無菌器具50と培養器90とを連絡する主流路形成部材11、12、35と、主流路開閉手段17と、培養器90と主流路開閉手段17との間の主流路Paから分岐した枝流路形成部材21、22と、枝流路開閉手段27とを有する。無菌器具50と培養器90との接続方法は、両開閉手段17、27が開の状態で無菌器具ユニット1をオートクレーブし、主流路開閉手段17を閉にし、主流路形成部材11を培養器90に接続し、培養器90、主流路形成部材11の内部、及び枝流路Pbを蒸気滅菌し、枝流路開閉手段27を閉にし、主流路開閉手段17を開にすることで、無菌器具50を培養器90へ無菌的に接続することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無菌器具と培養器との接続方法、無菌器具ユニット、培養済物質の製造方法及びサンプリング方法に関し、特に異種微生物等の汚染のリスクを低減することができる無菌器具と培養器との接続方法、無菌器具ユニット、培養済物質の製造方法及びサンプリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物や動植物細胞等(以下「微生物等」という。)の培養においては、培養をスタートする際に培養器に種菌(シード)等を接種するため、あるいは、培養器内部の培養液をサンプリングする際に培養液を採取するために、培養器に投入される又は培養器から採取された培養物質を貯留する器具(無菌器具)と培養器との接続が行われる。微生物等の培養においては、目的としているもの以外の異種の微生物等が培養器に侵入して培養器内が汚染されると、異種微生物等に占拠されてしまい、目的を果たせなくなることから、無菌器具と培養器との接続は異種微生物等による汚染が発生しない対策が求められる。
【0003】
汚染防止対策として、内径の小なる培養液採取管の一端をスチーム流通管の先端より突出せしめ、該培養液採取管の他の一端を該採取管の外径より大であり、かつスチーム滅菌に必要な温度まで昇温可能なスチーム流量を通過せしめるのに十分な断面積を与える内径を有するスチーム流通管内に収容してなる培養液採取装置を培養槽に装着し、該培養液採取装置にスチームを流通せしめて該採取装置の内部を殺菌せしめたのち、内径大なる管材に接続している管材を取りはずし、次いで該内径大なる管材中に収容されている試料採取配管を通じて試料を採取する培養液採取方法がある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2670326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の培養液採取装置を用いた培養液採取方法では、内径大なる管材中に収容されている試料採取配管を測定計測手段等に連絡するための配管に接続する際に、異種微生物等の汚染が生じるおそれがある。
【0006】
本発明は上述の課題に鑑み、異種微生物等の汚染のリスクを低減することができる無菌器具と培養器との接続方法、無菌器具ユニット、培養済物質の製造方法及びサンプリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に係る無菌器具と培養器との接続方法は、例えば図1及び図2に示すように、培養器90に投入される又は培養器90から採取された培養物質Cを貯留する無菌器具50と、無菌器具50に形成された培養物質Cの出入口51と、培養器90に形成された培養物質Cの出入口91と、を連絡する主流路Paを形成する主流路形成部材11、12、35と、主流路Paを閉塞する状態と開放する状態とを切り替える主流路開閉手段17と、培養器90と主流路開閉手段17との間の主流路Paから分岐した枝流路Pbを形成する枝流路形成部材21、22と、枝流路Pbを閉塞する状態と開放する状態とを切り替える枝流路開閉手段27と、を有する無菌器具ユニット1を、主流路開閉手段17及び枝流路開閉手段27が開の状態で、オートクレーブするオートクレーブ工程(St2)と;オートクレーブされた無菌器具ユニット1の主流路開閉手段17を閉にする主流路閉塞工程(St4)と;主流路閉塞工程(St4)の後、主流路形成部材11を培養器90に接続する主流路接続工程(St6)と;主流路接続工程(St6)の後、培養器90の内部、培養器90と主流路開閉手段17との間の主流路Pa、及び枝流路Pbを蒸気滅菌する蒸気滅菌工程(St7)と;蒸気滅菌工程(St7)の後、枝流路開閉手段27を閉にする枝流路閉塞工程(St8)と;枝流路閉塞工程(St8)の後、主流路開閉手段17を開にする主流路開放工程(St9)とを備える。
【0008】
このように構成すると、オートクレーブ工程により滅菌された無菌器具及び無菌器具から主流路開閉手段までの主流路の滅菌状態を維持したまま主流路と培養器とを接続することができ、その後に蒸気滅菌工程を行うことで、培養器から主流路へ流出した蒸気で培養器と主流路開閉手段との間の主流路を蒸気滅菌することができるので、無菌器具を培養器へ無菌的に接続することができる。
【0009】
また、本発明の第2の態様に係る無菌器具と培養器との接続方法は、例えば図1及び図2に示すように、上記本発明の第1の態様に係る無菌器具と培養器との接続方法において、オートクレーブ工程(St2)の前に、主流路形成部材11の培養器90に接続される端部である主流路接続端11e、及び枝流路形成部材21、22の主流路Paと接続した端部とは反対側の端部である枝流路開放端22e、を閉塞する端部閉塞工程(St1)と;オートクレーブ工程(St2)の後、無菌器具ユニット1を放冷する放冷工程(St3)と;主流路閉塞工程(St4)の後で、主流路接続工程(St6)の前に、主流路接続端11e及び枝流路開放端22eの閉塞を解除する端部閉塞解除工程(St5)とを備える。
【0010】
このように構成すると、端部閉塞工程を備えるので、放冷工程中の無菌器具ユニットの内部の汚染を防ぐことができる。
【0011】
また、本発明の第3の態様に係る無菌器具ユニットは、例えば図1に示すように、培養器90に投入される又は培養器90から採取された培養物質Cを貯留する無菌器具50と;無菌器具50に形成された培養物質Cの出入口51と、培養器90に形成された培養物質Cの出入口91と、を連絡する主流路Paを形成する主流路形成部材11、12、35と;主流路Paを閉塞する状態と開放する状態とを切り替える主流路開閉手段17と;培養器90と主流路開閉手段17との間の主流路Paから分岐した枝流路Pbを形成する枝流路形成部材21、22と;枝流路Pbを閉塞する状態と開放する状態とを切り替える枝流路開閉手段27とを備える。
【0012】
このように構成すると、無菌器具ユニットをオートクレーブした後に主流路開閉手段を閉にして培養器に接続することで、滅菌された無菌器具及び無菌器具から主流路開閉手段までの主流路の滅菌状態を維持したまま主流路と培養器とを接続することが可能となり、その後に培養器から主流路へ蒸気を流して培養器と主流路開閉手段との間の主流路を蒸気滅菌することにより、無菌器具を培養器へ無菌的に接続することができるので、無菌器具と培養器とを無菌的に接続するのに適した無菌器具ユニットとなる。
【0013】
また、本発明の第4の態様に係る無菌器具ユニットは、例えば図1に示すように、上記本発明の第3の態様に係る無菌器具ユニット1において、枝流路Pbが分岐した部分と主流路開閉手段17との間の主流路Paの距離が、主流路開閉手段17を閉じ、かつ、枝流路開閉手段27を開けた状態で、主流路形成部材11の培養器90に接続される端部である主流路接続端11eから蒸気を供給したときに、主流路接続端11eから主流路開閉手段17までの間の主流路Pa及び枝流路Pbを蒸気滅菌することができる長さに構成されている。
【0014】
このように構成すると、滅菌不良箇所が生じることを防ぐことができる。
【0015】
また、本発明の第5の態様に係る培養済物質の製造方法は、例えば図1及び図2に示すように、上記本発明の第1の態様又は第2の態様に係る無菌器具と培養器との接続方法により無菌器具50と培養器90とを接続する器具接続工程(〜St9)と;器具接続工程(〜St9)の後、無菌器具50内に貯留されている培養物質Cを培養器90に投入する投入工程(St10)と;培養器90に投入された培養物質Cを培養器90内で培養する培養工程とを備える。
【0016】
このように構成すると、異種微生物等に汚染されることなく培養物質を培養して培養済物質を製造することができる。
【0017】
また、本発明の第6の態様に係るサンプリング方法は、例えば図4(D)を参照して示すと、上記本発明の第1の態様又は第2の態様に係る無菌器具と培養器との接続方法により無菌器具50Dと培養器90(例えば図1参照)とを接続する器具接続工程と;器具接続工程の後、培養器90(例えば図1参照)内で培養されている培養物質Cを無菌器具50D内に採取する採取工程とを備える。
【0018】
このように構成すると、異種微生物等に汚染されることなく培養物質を採取することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、オートクレーブにより滅菌された無菌器具及び無菌器具から主流路開閉手段までの主流路の滅菌状態を維持したまま主流路と培養器とを接続することができ、その後に蒸気滅菌を行うことで、培養器から主流路へ流出した蒸気で培養器と主流路開閉手段との間の主流路を蒸気滅菌することができるので、無菌器具を培養器へ無菌的に接続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(A)は本発明の第1の実施の形態に係る無菌器具ユニットの概略構成図、(B)は無菌器具ユニットの主流路と枝流路との接続部まわりの部分断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る無菌器具と培養器との接続方法の手順を示すフローチャートである。
【図3】無菌器具ユニット内部の無菌部分を示す部分断面図である。
【図4】無菌器具の変形例を示す概念図である。(A)は第1の変形例、(B)は第2の変形例、(C)は第3の変形例、(D)は第4の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一又は相当する部材には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0022】
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る無菌器具ユニット1を説明する。図1(A)は無菌器具ユニット1の概略構成図、図1(B)は無菌器具ユニット1の主流路Paと枝流路Pbとの接続部まわりの部分断面図である。無菌器具ユニット1は、培養器90に種菌(シード)を接種するために用いられるユニットであり、枝付きバルブ10と、枝なしバルブ20と、軟質チューブ35と、無菌器具50とを備えている。以下の説明では、種菌(シード)や培養液(サンプル)等、培養器90で培養される物質を「培養物質」ということとする。本実施の形態では、培養器90は、商業生産スケールの培養に用いられるもので、オートクレーブすることができない(オートクレーブする装置へ入れることができない)寸法や容量(例えば50リットル〜5万リットル)である。
【0023】
枝付きバルブ10は、本実施の形態ではダイヤフラムバルブが用いられている。ダイヤフラムバルブは、ダイヤフラム(隔膜)で流体を仕切り、バルブを開閉する弁体及び弁棒が流路を形成する面(流路の外周面)を貫通していない構造を有する、気密性に優れたバルブである。枝付きバルブ10は、培養器90に接続される上流管11と、上流管11と同一の軸線上に延びる下流管12と、上流管11及び下流管12の軸線に対して直交する方向に延びる枝管13と、枝管13の軸線が延びる方向に往復移動が可能な弁体18と、弁体18の移動に伴って移動するダイヤフラム19とを有している。上流管11と下流管12とは、枝管13を介して接続されている。弁体18及びダイヤフラム19は、枝管13に対し、上流管11及び下流管12を挟んで反対側に設けられている。枝付きバルブ10は、上流管11の開口端11e、下流管12の開口端、及び枝管13の開口端の、3つの開口端を除き、外部と連通する部分を有していない。なお、「上流管」及び「下流管」は、枝付きバルブ10の部位を区別するために便宜上呼称するものであり、枝付きバルブ10の内部を流体が流れる際に必ず上流管11側から下流管12側に流れることを意味するものではなく、状況に応じて、上流管11側から下流管12側に流れる場合も、下流管12側から上流管11側に流れる場合もある。
【0024】
下流管12と枝管13との接続部には、弁体18側に隆起した堰15が形成されている。ダイヤフラム19は、弁体18の往復移動により、堰15に対して接触及び離れることができるようになっている。枝付きバルブ10は、ダイヤフラム19が堰15から離れているときは開の状態であり、ダイヤフラム19が堰15に接触しているときは閉の状態である。弁体18及びダイヤフラム19は、枝付きバルブ10を開閉することができるので、両者をまとめて開閉部17ということとする。枝付きバルブ10は、ダイヤフラム19が堰15から離れているときは上流管11、下流管12、及び枝管13の内部が相互に連通し、ダイヤフラム19が堰15に接触しているときは上流管11及び枝管13の内部は連通するがこれらと下流管12とは連通しないように構成されている。枝付きバルブ10は、閉の状態のとき、上流管11及び枝管13の内部がL字型に連通することとなり、流体が滞留する部分(デッドレッグ)が存在しない構成になっている。枝付きバルブ10は、オートクレーブに使用可能な材質で構成されている。
【0025】
枝なしバルブ20は、本実施の形態ではダイヤフラムバルブが用いられている。枝なしバルブ20は、枝付きバルブ10と比較して、枝管13に相当する構成が設けられていない点を除き、枝付きバルブ10と同様に構成されている。枝なしバルブ20は、枝付きバルブ10の上流管11、下流管12、堰15、開閉部17(弁体18、ダイヤフラム19)に相当する構成として、上流管21、下流管22、堰25、開閉部27(弁体28、ダイヤフラム29)を有している。枝なしバルブ20は、ダイヤフラム29が堰25から離れているとき(開の状態)は上流管21及び下流管22の内部が相互に連通し、ダイヤフラム29が堰25に接触しているとき(閉の状態)は上流管21及び下流管22の内部が連通しないように構成されている。枝なしバルブ20は、オートクレーブに使用可能な材質で構成されている。
【0026】
軟質チューブ35は、枝付きバルブ10と無菌器具50とを接続する、可撓性の部材である。軟質チューブ35は、可撓性のない部材で代替することも可能であるが、本実施の形態では、枝付きバルブ10と無菌器具50との接続の自由度を高める観点、及びオートクレーブするときにコンパクトにまとめられるようにする観点から、用いられている。なお、本明細書において、用語「オートクレーブ」を動詞として用いているときは、内部を高圧力にすることが可能な耐圧性の装置や容器を用いて対象物を加圧しながら加熱することを意味している。軟質チューブ35は、オートクレーブへの耐性、及び上述の可撓性を勘案して、シリコーンゴム製のものを採用するのが望ましい。軟質チューブ35は、枝付きバルブ10と接続するための、端部に差し込まれる接続部材35jを有している。
【0027】
無菌器具50は、本実施の形態では、オートクレーブ可能な液体の培養物質Cが貯留されたボトル52を主要部として構成されている。無菌器具50は、軟質チューブ35に接続されるノズル51と、培養物質Cを貯留するボトル52と、エアフィルター53と、エアフィルター用チューブ54とを含んで構成されている。ノズル51は、無菌器具50に形成された培養物質Cの出入口として機能する。ボトル52は、ガラス、耐熱プラスチック、ステンレス等の、オートクレーブが可能な材料で形成されている。ボトル52には、培養物質Cを出し入れする開口を閉塞する栓52sが設けられている。栓52sには、ノズル51及びエアフィルター用チューブ54が、隙間なく(密閉を維持した状態で)貫通している。
【0028】
無菌器具50のエアフィルター53は、オートクレーブを行う際のボトル52内の圧力上昇の防止や、ボトル52内に貯留されている培養物質Cを培養器90に投入する際にボトル52内が陰圧になることを防止する等の目的で、ボトル52内部の圧力を調節するために設けられている。エアフィルター53は、ボトル52内に外気(空気)が入る際に、培養物質Cを汚染しうる外気中の菌がボトル52内に侵入しないようにする観点から孔径が決定され、本実施の形態では概ね0.10μm〜0.45μmの孔径のものが用いられている。エアフィルター53は、栓52sを貫通するフィルター用チューブ54に、ボトル52の外側で取り付けられている。エアフィルター53及びフィルター用チューブ54は、オートクレーブに使用可能な材料で形成されている。
【0029】
無菌器具ユニット1は、枝付きバルブ10の枝管13と枝なしバルブ20の上流管21とが接続され、枝付きバルブ10の下流管12と軟質チューブ35の一端とが接続部材35jを介して接続され、軟質チューブ35の他端と無菌器具50とがノズル51を介して接続されて構成されている。無菌器具ユニット1は、枝付きバルブ10の上流管11の端部である上流管端11e、及び枝なしバルブ20の下流管22の端部である下流管端22eが、開口となっている。
【0030】
上述のように構成された無菌器具ユニット1は、枝付きバルブ10の上流管端11eが培養器90に対して培養物質Cが出入りする培養器出入口91に接続されたときに、枝付きバルブ10の上流管11、下流管12、及び軟質チューブ35の内部が、培養器出入口91と無菌器具50のノズル51とを連絡する主流路Paとなる。換言すれば、枝付きバルブ10の上流管11、下流管12、及び軟質チューブ35は、主流路形成部材に相当する。他方、枝付きバルブ10の枝管13、枝なしバルブ20の上流管21及び下流管22の内部が、枝流路Pbとなる。換言すれば、枝付きバルブ10の枝管13、枝なしバルブ20の上流管21及び下流管22は、枝流路形成部材に相当する。枝流路Pbは、主流路Paから分岐している。また、枝付きバルブ10の開閉部17は、主流路Paを開閉することができ、主流路開閉手段に相当する。枝なしバルブ20の開閉部27は、枝流路Pbを開閉することができ、枝流路開閉手段に相当する。
【0031】
次に図2及び図3を参照して本発明の第2の実施の形態に係る無菌器具50と培養器90との接続方法を説明する。以下の接続方法の説明において、無菌器具ユニット1の構成に言及しているときは適宜図1を参照することとする。図2は、無菌器具50と培養器90との接続方法の手順を示すフローチャートである。図3は、無菌器具ユニット1内部の無菌部分を示す部分断面図である。本実施の形態に係る無菌器具50と培養器90との接続方法は、典型的には無菌器具ユニット1を用いて行われる。したがって、以下の接続方法の説明により、無菌器具ユニット1の作用も明らかになる。
【0032】
まず、無菌器具ユニット1の上流管端11e及び下流管端22eを、シリコ栓等のオートクレーブすることができる培養栓Sを用いて閉塞する(端部閉塞工程、St1、図3(A)参照)。培養栓Sとして、多孔質の発泡シリコン樹脂製のものを用いると、通気性を有しつつ内部の無菌性を保つことができるので好適である。培養栓Sを用いて上流管端11e及び下流管端22eを閉塞するのは、後述するオートクレーブした後の放冷中に無菌器具ユニット1内部の汚染を防ぐためである。端部閉塞工程(St1)の際、枝付きバルブ10及び枝なしバルブ20が開となっていることを確認し、開になっていない場合は共に開にする。
【0033】
端部閉塞工程(St1)の後、無菌器具ユニット1全体をオートクレーブする(オートクレーブ工程、St2)。オートクレーブ工程(St2)により、無菌器具ユニット1の内部の主流路Pa及び枝流路Pbのすべて、並びに外側が滅菌される。オートクレーブ工程(St2)により滅菌した後、無菌器具ユニット1を放冷する(放冷工程、St3)。ここでいう放冷とは、オートクレーブした後の無菌器具ユニット1の温度を、常温又はその近辺まで下げることである。放冷工程(St3)中、上流管端11e及び下流管端22eが培養栓Sで閉塞されているので、内部の主流路Pa及び枝流路Pbの汚染を回避することができる。
【0034】
放冷工程(St3)が終了したら、まず、枝付きバルブ10を閉とし(主流路閉塞工程、St4)、次いで、上流管端11e及び下流管端22eから培養栓Sを外す(端部閉塞解除工程、St5、図3(B)参照)。端部閉塞解除工程(St5)により、上流管端11eから堰15までの主流路Paである上流主流路PaU、及び枝流路Pbの無菌性が崩れるが、堰15から無菌器具50までの主流路Paである下流主流路PaLの無菌性は維持されている。端部閉塞解除工程(St5)の後、枝付きバルブ10の上流管端11eを培養器出入口91に接続する(主流路接続工程、St6)。これにより、培養器90に無菌器具ユニット1が接続されることとなる。枝付きバルブ10を培養器90に接続したら、培養器90の内部を蒸気滅菌する(蒸気滅菌工程、St7)。すると、培養器90内の蒸気Vは、培養器90から流出して、上流主流路PaUを通り、枝流路Pbを流れ、下流管端22eから抜けて行く(図3(C)参照)。蒸気Vが上流主流路PaU及び枝流路Pbを流れることにより、上流主流路PaU及び枝流路Pbが滅菌される。このとき、上流主流路PaUから枝流路Pbの分岐部分に流体の滞留が生じ得る部分(デッドレッグ)が存在しない(枝付きバルブ10は、枝流路Pbが分岐した部分と開閉部17との間の主流路Paの距離が蒸気滅菌することができる長さに構成されている)ので、滅菌が適切にされない部分が生じることを回避することができる。
【0035】
蒸気滅菌工程(St7)の終了後、枝なしバルブ20を閉にする(枝流路閉塞工程、St8)。これにより、上流主流路PaU及び枝なしバルブ20の堰25までの上流管21内の枝流路Pbの無菌状態が維持される。枝流路閉塞工程(St8)の後、枝付きバルブ10を開にする(主流路開放工程、St9、図3(D)参照)。これにより、主流路Pa全体が無菌状態のまま、無菌器具50と培養器90とが連絡することとなる。換言すれば、培養器90、枝付きバルブ10、軟質チューブ35、無菌器具50が、無菌的に接続されることとなる。無菌器具50と培養器90とが無菌的に接続されたら、軟質チューブ35にチューブポンプを接続することにより、ボトル52内の培養物質Cは、吸引されて培養器90に投入される(St10)。培養器90に投入された培養物質は、培養器90内で培養され、培養済物質となる。
【0036】
以上で説明したように、本実施の形態に係る無菌器具50と培養器90との接続方法によれば、工業生産スケールの培養において、無菌器具50と培養器90とを、他の微生物等に汚染されることなく無菌状態で接続することができる。これにより、無菌器具50内に貯留されている培養物質Cを他の微生物等に汚染されることなく培養器90に投入することができる。あるいは、無菌器具50を適切なものに代えることにより、培養器90で培養中の培養物質Cのサンプルを、無菌状態で採取することができる。特に、培養器90で培養される培養物質Cが増殖速度の遅いもの(例えば動植物の細胞等)である場合、培養物質Cよりも増殖速度が速い異種の微生物等が1個でも培養系内に侵入すると、この異種の微生物等に占拠されてしまうことになり、このような汚染が発生すると、培地等のそれまでにかかった費用が無駄になるだけでなく、生産計画が狂う等、多大な損害が生じることとなるが、本実施の形態によれば、増殖速度の遅い培養物質Cについても、異種微生物等に汚染されることなく、培養器90への接種やサンプルの採取を行うことができる。なお、本実施の形態は、ヨーグルトのような増殖速度が速い培養物質Cについても、異種微生物等に汚染されることなく、培養器90への接種やサンプルの採取を行うことができることはいうまでもない。
【0037】
次に図4を参照して、本発明の第1の実施の形態の変形例に係る無菌器具ユニットを説明する。以下に説明する変形例に係る無菌器具ユニットは、無菌器具ユニット1(図1参照)の無菌器具50(図1参照)に相当する構成が異なっているが、その他の構成(枝付きバルブ10、枝なしバルブ20、軟質チューブ35等)は無菌器具ユニット1と同様であるため、主に無菌器具について説明する。
【0038】
図4(A)は、第1の変形例に係る無菌器具50Aの概略構成を示す図である。無菌器具50Aは、管がL字型に曲げられて形成されたL字管55で構成されている。L字管55は、典型的には、軟質チューブ35に接続できる外径のステンレス管が曲げ加工されて形成されている。L字管55は、軟質チューブ35に差し込まれて接続されている。無菌器具50Aは、別途培養物質Cが保存された容器(不図示)に、L字管55が投入されて利用される。無菌器具50Aは、別途の容器(不図示)に投入される前の、軟質チューブ35に接続された状態で、図2に示すフローが行われる。なお、図2に示すフロー中、オートクレーブ工程(St2)が終了したら、L字管55が外気に直接触れることを回避するため、オートクレーブバッグに入れておくとよい。無菌器具50Aと培養器90とが無菌的に接続され、別途の容器(不図示)に保存されている培養物質Cを培養器90に投入する際は(St10)、以下の手順で行われる。まず、L字管55及び別途の容器(不図示)をクリーンベンチに入れる。次に、L字管55を覆うオートクレーブバッグを、雑菌汚染がないように、クリーンベンチ中で取り除く。そして、別途の容器(不図示)を、雑菌汚染がないように、クリーンベンチ中で開け、別途の容器(不図示)にL字管55を投入する。その後、軟質チューブ35にチューブポンプを接続することで、別途の容器(不図示)内の培養物質Cを無菌的に培養器90に投入することができる。
【0039】
図4(B)は、第2の変形例に係る無菌器具50Bの概略構成を示す図である。無菌器具50Bは、無菌器具50A(図4(A)参照)の構成に加え、L字管55と軟質チューブ35との間に、無菌ろ過フィルター58が挿入配置された接続チューブ56が設けられている。つまり、無菌器具50Bは、L字管55と、接続チューブ56と、無菌ろ過フィルター58とを含んで構成されている。接続チューブ56は、軟質チューブ35に接続されている。無菌ろ過フィルター58は、オートクレーブに使用可能な材質で構成されている。無菌器具50Bは、培養器90に投入する液体の培養物質Cが、オートクレーブすることはできないが無菌ろ過は可能な場合の利用に適している。無菌器具50Bは、軟質チューブ35に接続された状態で、図2に示すフローが行われる。図2に示すフローを行うことにより、無菌器具50Bと培養器90とが無菌的に接続されたら、滅菌されていない培養物質Cが貯留された容器(不図示)にL字管55を投入し、軟質チューブ35にチューブポンプを接続する。これにより、容器(不図示)内の培養物質Cは、L字管55から吸引され、無菌ろ過フィルター58でろ過されて無菌状態になったうえで、培養器90に投入される(St10)。培養器90に投入された培養物質は、培養器90内で培養され、培養済物質となる。
【0040】
図4(C)は、第3の変形例に係る無菌器具50Cの概略構成を示す図である。無菌器具50Cは、概ね、無菌器具50(図1(A)参照)の構成と、無菌器具50B(図4(B)参照)の構成とが組み合わされて構成されている。具体的には、無菌器具50Cは、ボトル52の栓52sに隙間なく貫通したノズル57が、無菌器具50(図1(A)参照)の構成に加えて設けられており、ボトル52の外側でノズル57に接続チューブ56が接続されて構成されている。無菌器具50Cは、培養器90に投入する液体の培養物質Cが、オートクレーブすることはできないが無菌ろ過は可能な場合であり、かつ、培養物質Cを培養器90に一度に投入せずに、培養条件のコントロールに伴ってセンサー・コントローラ等と接続して断続的に投入する場合の利用に適している。無菌器具50Cは、軟質チューブ35に接続された状態で、図2に示すフローが行われる。図2に示すフローを行うことにより、無菌器具50Cと培養器90とが無菌的に接続されたら、滅菌されていない培養物質Cが貯留された容器(不図示)にL字管55を投入し、軟質チューブ35にチューブポンプを接続する。これにより、容器(不図示)内の培養物質Cは、L字管55から吸引され、無菌ろ過フィルター58でろ過されて無菌状態になったうえで、ボトル52に貯留される。ボトル52に貯留された培養物質Cは、接続されたセンサー・コントローラ等による制御により、培養条件のコントロールに伴って、断続的に培養器90に投入される(St10)。培養器90に投入された培養物質は、培養器90内で培養され、培養済物質となる。
【0041】
図4(D)は、第4の変形例に係る無菌器具50Dの概略構成を示す図である。第4の変形例は、培養器90から培養液(サンプル)を抜き取るために用いられるユニットに適用されるものである。無菌器具50Dは、サンプリングバッグ59で構成されている。サンプリングバッグ59は、オートクレーブに使用可能な材質で形成されている。無菌器具50Dは、培養器90内で培養されている培養物質Cを採取する場合の利用に適している。無菌器具50Dは、軟質チューブ35に接続された状態で、図2に示すフローが培養物質Cの投入(St10)を除いた主流路開放工程(St9)まで行われる。主流路開放工程(St9)までの図2に示すフローを行うことにより、無菌器具50Dと培養器90とが無菌的に接続されることとなる。無菌器具50Dは、図2に示すフロー中、主流路開放工程(St9)において枝付きバルブ10を開にすると、培養器90内が通常陽圧化されているため、主流路Paの連通に伴って、培養物質Cがサンプリングバッグ59に流入することとなる。これにより、培養器90内の培養物質Cを、サンプリングバッグ59に無菌的に採取できる。なお、サンプリングバッグ59の数は、サンプリングの回数に合わせて複数個接続することもできる。
【0042】
以上の説明では、枝付きバルブ10及び枝なしバルブ20がダイヤフラムバルブであるとしたが、ダイヤフラムバルブ以外のバルブを用いてもよい。この場合、気密性に優れ、かつ、オートクレーブ可能なバルブを用いることが好ましい。
【0043】
以上の説明では、枝付きバルブ10に枝なしバルブ20を接続して主流路Paから分岐する枝流路Pbを形成することとしたが、枝付きバルブ10に代えて、枝なしバルブ20と同じ構成のバルブを設け、その上流側にチーズ(分岐付き管継手)を設けることにより、主流路Paから分岐する枝流路Pbを形成してもよい。このとき、枝流路Pbが分岐する部分から、主流路を形成する枝なしバルブの堰までの距離が、図2に示すフローにおける蒸気滅菌工程(St7)が行われた際に、蒸気滅菌されない部分が生じないような長さとなるように、換言すれば流体が滞留する部分が生じない(デッドレッグが生じない)長さとなるように構成されることが好ましい。しかしながら、図1(A)に示すように、枝付きバルブ10に枝なしバルブ20を接続して主流路Paから分岐する枝流路Pbを形成することとすれば、流体が滞留する部分(デッドレッグ)が存在しないことから好ましい。
【符号の説明】
【0044】
1 無菌器具ユニット
10 枝付きバルブ
11 上流管
11e 上流管端
17 開閉部
18 弁体
19 ダイヤフラム
20 枝なしバルブ
22 下流管
22e 下流管端
27 開閉部
28 弁体
29 ダイヤフラム
35 軟質チューブ
50 無菌器具
51 ノズル
90 培養器
91 培養器出入口
C 培養物質
Pa 主流路
Pb 枝流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養器に投入される又は培養器から採取された培養物質を貯留する無菌器具と、
前記無菌器具に形成された前記培養物質の出入口と、前記培養器に形成された前記培養物質の出入口と、を連絡する主流路を形成する主流路形成部材と、
前記主流路を閉塞する状態と開放する状態とを切り替える主流路開閉手段と、
前記培養器と前記主流路開閉手段との間の前記主流路から分岐した枝流路を形成する枝流路形成部材と、
前記枝流路を閉塞する状態と開放する状態とを切り替える枝流路開閉手段と、
を有する無菌器具ユニットを、前記主流路開閉手段及び前記枝流路開閉手段が開の状態で、オートクレーブするオートクレーブ工程と;
オートクレーブされた前記無菌器具ユニットの前記主流路開閉手段を閉にする主流路閉塞工程と;
前記主流路閉塞工程の後、前記主流路形成部材を前記培養器に接続する主流路接続工程と;
前記主流路接続工程の後、前記培養器の内部、前記培養器と前記主流路開閉手段との間の前記主流路、及び前記枝流路を蒸気滅菌する蒸気滅菌工程と;
前記蒸気滅菌工程の後、前記枝流路開閉手段を閉にする枝流路閉塞工程と;
前記枝流路閉塞工程の後、前記主流路開閉手段を開にする主流路開放工程とを備える;
無菌器具と培養器との接続方法。
【請求項2】
前記オートクレーブ工程の前に、前記主流路形成部材の前記培養器に接続される端部である主流路接続端、及び前記枝流路形成部材の前記主流路と接続した端部とは反対側の端部である枝流路開放端、を閉塞する端部閉塞工程と;
前記オートクレーブ工程の後、前記無菌器具ユニットを放冷する放冷工程と;
前記主流路閉塞工程の後で、前記主流路接続工程の前に、前記主流路接続端及び前記枝流路開放端の閉塞を解除する端部閉塞解除工程とを備える;
請求項1に記載の無菌器具と培養器との接続方法。
【請求項3】
培養器に投入される又は培養器から採取された培養物質を貯留する無菌器具と;
前記無菌器具に形成された前記培養物質の出入口と、前記培養器に形成された前記培養物質の出入口と、を連絡する主流路を形成する主流路形成部材と;
前記主流路を閉塞する状態と開放する状態とを切り替える主流路開閉手段と;
前記培養器と前記主流路開閉手段との間の前記主流路から分岐した枝流路を形成する枝流路形成部材と;
前記枝流路を閉塞する状態と開放する状態とを切り替える枝流路開閉手段とを備える;
無菌器具ユニット。
【請求項4】
前記枝流路が分岐した部分と前記主流路開閉手段との間の前記主流路の距離が、前記主流路開閉手段を閉じ、かつ、前記枝流路開閉手段を開けた状態で、前記主流路形成部材の前記培養器に接続される端部である主流路接続端から蒸気を供給したときに、前記主流路接続端から前記主流路開閉手段までの間の前記主流路及び前記枝流路を蒸気滅菌することができる長さに構成された;
請求項3に記載の無菌器具ユニット。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の無菌器具と培養器との接続方法により前記無菌器具と前記培養器とを接続する器具接続工程と;
前記器具接続工程の後、前記無菌器具内に貯留されている培養物質を前記培養器に投入する投入工程と;
前記培養器に投入された培養物質を前記培養器内で培養する培養工程とを備える;
培養済物質の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の無菌器具と培養器との接続方法により前記無菌器具と前記培養器とを接続する器具接続工程と;
前記器具接続工程の後、前記培養器内で培養されている培養物質を前記無菌器具内に採取する採取工程とを備える;
サンプリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−106579(P2013−106579A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255048(P2011−255048)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【Fターム(参考)】