説明

無電解複合めっき液用分散剤

【課題】炭素系複合材を含有する無電解複合めっき液の分散安定性及びめっき液寿命を向上させることができ、且つ、優れた外観を有するめっき皮膜を得ることができる無電解複合めっき液用分散剤を提供する。
【解決手段】例えばジアリルアミンのハロゲン化水素塩を代表とするグループの第1の化合物、例えばジアリルアミンの硫酸塩を代表とするグループの第2の化合物及び、例えばメチル(メタ)アクリレートを代表とするグループの化合物の群から選択される少なくとも2種のグループの化合物を共重合せしめることにより得られたカチオン性ポリマーを含有しており、炭素系複合材を無電解複合めっき液中に分散せしめるための分散剤であること、を特徴とする無電解複合めっき液用分散剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解複合めっき液用分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解複合めっきは、無電解めっきの利点及び複合めっきの利点を併せ持つ有用な技術として、様々な分野において利用されている。無電解めっきはめっき液に含まれる還元剤を用いためっき方法であり、電解めっきのように通電を必要としないため、めっき液中における電流や電圧の分布等を考慮する必要がないといった利点や、複雑な形状の基材に対して均一な厚さでめっきができる、プラスティックやセラミックス等の不導体にもめっきができるといった利点を有する。また、複合めっきは、めっき液中にナノレベルの複合材を混入させてめっき皮膜中に前記複合材と金属とを同時に共析させるめっき方法であり、複合材が持つ硬度特性、耐摩耗性、潤滑性、耐食性、熱伝導性、導電性、強度特性、反発性、摺動性(潤滑性)、復元力(反発力)等の新たな機能をめっき皮膜に対して付与することができるといった利点を有する。
【0003】
従来から、無電解複合めっきにおいては、複合材をめっき液中に安定に分散させ、均一なめっき皮膜を得ることを目的として、様々な界面活性剤が分散剤として用いられている。また、無電解複合めっきにおいては、めっきの進行に伴って無電解複合めっき液中に老化副生成物である無機塩等が蓄積され、金属と複合材との共析能力の低下やめっき液の分散安定性の低下がひきおこされてめっき液寿命が短くなるという問題を有しているため、このような問題を解消することを目的としても、様々な界面活性剤が用いられている。しかしながら、無電解複合めっきにおいて界面活性剤を含有するめっき液を使用すると、めっき皮膜の外観不良(光沢斑、色調斑、共析斑、均一析出斑等)がひきおこされるといった問題を有していた。
【0004】
そこで、めっき液寿命を向上させたり、優れた外観を有するめっき皮膜を得ることを目的とした技術として、例えば、特開2000−204482号公報(特許文献1)には、複合材として4フッ化エチレン樹脂(PTFE)等のフッ素樹脂を用いる場合に、2個以上のエチレンオキサイド基を有するとともに、アルキル基又はフッ素置換アルキル基もしくはアルケニル基を有する4級アンモニウム塩からなるカチオン性の界面活性剤を分散剤として用いるめっき方法が開示されている。
【0005】
また、複合めっきのめっき液中に混入させる複合材としては、皮膜の硬度や耐摩耗性の著しい向上が期待でき、さらに、皮膜に対する優れた熱伝導性の付与が期待できるという観点から、カーボンナノファイバー等の炭素系複合材に注目が集まっており、このような炭素系複合材を用いた複合めっきについての検討が行われている。例えば、特開2008−50668号公報(特許文献2)には、電解めっきにおいて、硬質微粒子及びカーボンナノファイバーを複合材として用い、ポリアクリル酸を分散剤として用いる方法が開示されている。さらに、特開2007−231414号公報(特許文献3)には、電解めっきにおいて、炭素ナノチューブを複合材として用い、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)等を分散剤として用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−204482号公報
【特許文献2】特開2008−50668号公報
【特許文献3】特開2007−231414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法によれば、めっきの進行に伴う共析能力の低下を抑制できることが同文献には記載されている。しかしながら、特許文献1に記載のめっき液の分散安定性は未だ不十分であり、特に複合材として炭素系複合材を用いた場合には、その分散安定性が著しく低下するという問題があることを本発明者らは見出した。また、特許文献2〜3に記載されているめっき液においてもその分散安定性は未だ不十分であり、特許文献2〜3に記載されているような界面活性剤を用いて炭素系複合材を用いた無電解複合めっきを行うと、めっき液寿命が短くなったり、めっき皮膜の外観不良がひきおこされるといった問題があることを本発明者らは見出した。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、炭素系複合材を含有する無電解複合めっき液の分散安定性及びめっき液寿命を向上させることができ、且つ、優れた外観を有するめっき皮膜を得ることができる無電解複合めっき液用分散剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、無電解複合めっき液用分散剤において、特定の化合物から選択される少なくとも2種の化合物の共重合により得られたカチオン性ポリマーを含有せしめることにより、特に、炭素系複合材を含有する無電解複合めっき液の分散安定性を向上させることができ、さらに、めっき処理が進行してもめっき液の分散安定性の低下を十分に抑制することができるためにめっき液寿命を長くすることができることを見出した。また、このような分散剤を用いた無電解複合めっきにより得られためっき皮膜は、優れた外観を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の無電解複合めっき液用分散剤は、
下記一般式(1):
【0011】
【化1】

【0012】
[式(1)中、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基及び炭素数2〜4のアルケニル基からなる群から選択されるいずれか1つを示し、Xはハロゲンイオンを示す。]
で表わされる第1の化合物、下記一般式(2):
【0013】
【化2】

【0014】
[式(2)中、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基及び炭素数2〜4のアルケニル基からなる群から選択されるいずれか1つを示し、Zm−はハロゲンイオンを除くm価のアニオンを示す。]
で表わされる第2の化合物、及び下記一般式(3):
【0015】
【化3】

【0016】
[式(3)中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を示し、Rは炭素数1〜3のアルキル基又はフェニル基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは0〜30の整数を示す。]
で表わされる第3の化合物からなる群から選択される少なくとも2種の化合物(但し、全ての化合物が第1の化合物である場合、全ての化合物が第2の化合物である場合、及び、全ての化合物が第3の化合物である場合、を除く)を共重合せしめることにより得られたカチオン性ポリマーを含有しており、
炭素系複合材を無電解複合めっき液中に分散せしめるための分散剤であること、
を特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の無電解複合めっき液用分散剤としては、前記カチオン性ポリマーが、前記第1の化合物のうちの少なくとも1種と、前記第2の化合物のうちの少なくとも1種及び/又は前記第3の化合物のうちの少なくとも1種と、を共重合せしめることにより得られたものであることが好ましい。
【0018】
また、本発明の無電解複合めっき液用分散剤としては、前記カチオン性ポリマーが、前記第1の化合物のうちの少なくとも1種と、前記第2の化合物のうちの少なくとも1種と、前記第3の化合物のうちの少なくとも1種と、を共重合せしめることにより得られたものであることが好ましい。さらに、前記共重合において、前記第1の化合物と前記第2の化合物との仕込み比(第1の化合物の仕込み時の全質量:第2の化合物の仕込み時の全質量)が、1:0.1〜0.5であり、且つ、前記第1の化合物と前記第3の化合物との仕込み比(第1の化合物の仕込み時の全質量:第3の化合物の仕込み時の全質量)が、1:0.005〜0.1であること、がより好ましい。
【0019】
なお、本発明によって上記目的が達成されるようになる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明において、本発明に係る特定の化合物(第1〜第3の化合物)の共重合によって得られた特定のカチオン性ポリマーは、めっき液中における炭素系複合材の保護コロイドの形成に適した特定の構造を有しており、特定のカチオン性及び特定のHLB値を併せ持つカチオン性ポリマーであると本発明者らは推察する。従って、前記特定のカチオン性ポリマーを含有する本発明の無電解複合めっき液用分散剤を用いることにより、無電解複合めっき液中において炭素系複合材を安定して分散せしめることができるという性能及び被処理基材表面において優れた外観を有するめっき皮膜を得ることができるという性能の2つの相反する性能がいずれも発揮されると本発明者らは推察する。
【0020】
また、本発明の無電解複合めっき液用分散剤を用いることにより、無電解複合めっき液中において炭素系複合材を安定して分散せしめることができるため、分散安定性が良好な、めっき液寿命の長い無電解複合めっき液を得ることが可能となる。さらに、本発明の無電解複合めっき液用分散剤を含有する無電解複合めっき液を使用することにより、めっき皮膜の外観不良の発生が十分に抑制されるため、種々の被処理基材に対して、めっき金属中に炭素系複合材が均一に分散されており、外観が良好である複合めっきを施すことが可能となると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、炭素系複合材を含有する無電解複合めっき液の分散安定性及びめっき液寿命を向上させることができ、且つ、優れた外観を有するめっき皮膜を得ることができる無電解複合めっき液用分散剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0023】
本発明の無電解複合めっき液用分散剤は、第1の化合物、第2の化合物及び第3の化合物からなる群から選択される少なくとも2種の化合物(但し、全ての化合物が第1の化合物である場合、全ての化合物が第2の化合物である場合、及び、全ての化合物が第3の化合物である場合、を除く)を共重合せしめることにより得られたカチオン性ポリマーを含有することを特徴とする。
【0024】
本発明に係る第1の化合物は、下記一般式(1)で表わされる化合物である。
【0025】
【化4】

【0026】
前記式(1)中、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基及び炭素数2〜4のアルケニル基からなる群から選択されるいずれか1つを示す。前記アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルケニル基の炭素数が前記上限を超える場合には、分散剤をめっき浴に相溶させることが困難となる。前記炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基が挙げられる。前記炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、1−メチル−1−ヒドロキシエチル基、1−メチル−2−ヒドロキシエチル基が挙げられる。前記炭素数2〜4のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基が挙げられる。これらの中でも、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、R及びRとしては、それぞれメチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0027】
前記式(1)中、Xはハロゲンイオンを示す。前記ハロゲンイオンとしては、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンが挙げられ、これらの中でも、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、塩素イオン又は臭素イオンであることが好ましい。
【0028】
本発明に係る第1の化合物としては、例えば、ジアリルアミンのハロゲン化水素塩、及びアルキル(炭素数1〜4)ハライド反応物;ジアリルアルキル(炭素数1〜4)アミンのハロゲン化水素塩、及びアルキル(炭素数1〜4)ハライド4級塩が挙げられる。これらの中でも、前記第1の化合物としては、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、ジアリルアミンの塩酸塩、臭酸塩、メチルクロライド反応物、メチルブロマイド反応物、エチルクロライド反応物、及びエチルブロマイド反応物;ジアリルメチルアミンの塩酸塩、臭酸塩、メチルクロライド4級塩、メチルブロマイド4級塩、エチルクロライド4級塩、及びエチルブロマイド4級塩;ジアリルエチルアミンの塩酸塩、臭酸塩、メチルクロライド4級塩、メチルブロマイド4級塩、エチルクロライド4級塩、及びエチルブロマイド4級塩であることが好ましい。このような第1の化合物としては、具体的には、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルメチルエチルアンモニウムクロライド、ジアリルジエチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムブロマイド、ジアリルメチルエチルアンモニウムブロマイド、ジアリルジエチルアンモニウムブロマイド等が挙げられ、これらの中でも、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルジメチルアンモニウムブロマイドであることが好ましい。
【0029】
前記第1の化合物は、例えば、ジアリルアミン又はジアリルアルキルアミンと、ハロゲン化アルキルとを、モル比(ジアリルアミン又はジアリルアルキルアミンのモル数:ハロゲン化アルキルのモル数)が1:0.8〜1.2となるように混合し、50〜130℃において反応せしめることにより得ることができる。前記モル比としては、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、1:0.9〜1.1であることがより好ましく、1:0.95〜1.05であることがさらに好ましく、1:1であることが特に好ましい。
【0030】
また、前記第1の化合物は、例えば、苛性ソーダの存在下において、ジアルキルアミンと、アリルハライドとをモル比(ジアルキルアミンのモル数:アリルハライドのモル数)が1:1.8〜2.2となるように混合し、10〜100℃において反応せしめることによっても得ることができる。前記モル比としては、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、1:1.9〜2.1であることがより好ましく、1:1.95〜2.05であることがさらに好ましく、1:2であることが特に好ましい。
【0031】
さらに、前記第1の化合物としては、例えば、DADMAC(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ダイソー株式会社製)等の市販品を用いてもよい。本発明に係る第1の化合物は、このような前記式(1)で表わされる化合物であればよく、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0032】
本発明に係る第2の化合物は、下記一般式(2)で表わされる化合物である。
【0033】
【化5】

【0034】
前記式(2)中、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基及び炭素数2〜4のアルケニル基からなる群から選択されるいずれか1つを示す。前記アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アルケニル基の炭素数が前記上限を超える場合には、分散剤をめっき浴に相溶させることが困難となる。前記炭素数1〜4のアルキル基、前記炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基及び前記炭素数2〜4のアルケニル基としては、前記第1の化合物において例示したものが挙げられる。これらの中でも、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、R及びRとしては、それぞれメチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0035】
前記式(1)中、Zm−はハロゲンイオンを除くm価のアニオンを示す。このようなアニオンとしては、ハロゲンイオン以外のアニオンであり、且つ、第四級アンモニウム化合物と対イオンを形成することができるアニオンであればよい。前記アニオンとしては、特に制限されず、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グルコン酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸等の一価又は多価のカルボン酸イオン;アルキルリン酸イオン;アルキル硫酸イオン;硫酸水素イオン;硫酸イオン;硝酸イオン;リン酸2水素イオン;リン酸1水素イオンが挙げられる。これらのアニオンの中でも、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、Zm−としては、アルキル硫酸イオンであるメトサルフェート(CHSO)、エトサルフェート(CHCHSO);硫酸水素イオン;硫酸イオンであることが好ましく、メトサルフェート(CHSO)、硫酸水素イオン、硫酸イオンであることがより好ましい。
【0036】
本発明に係る第2の化合物としては、例えば、ジアリルアミンの硫酸塩、及びジアルキル(炭素数1〜4)硫酸塩;ジアリルアルキル(炭素数1〜4)アミンの硫酸塩、及びジアルキル(炭素数1〜4)硫酸4級塩が挙げられる。これらの中でも、前記第2の化合物としては、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、ジアリルアミンの硫酸塩、ジメチル硫酸塩、及びジエチル硫酸塩;ジアリルメチルアミンの硫酸塩、ジメチル硫酸4級塩、及びジエチル硫酸4級塩;ジアリルエチルアミンの硫酸塩、ジメチル硫酸4級塩、及びジエチル硫酸4級塩であることが好ましい。このような第2の化合物としては、具体的には、ジアリルアミンサルフェート、ジアリルメチルアミンメトサルフェート、ジアリルエチルアミンエトサルフェート、ジアリルメチルアミンサルフェート、ジアリルジメチルアンモニウムメトサルフェート、ジアリルメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、ジアリルエチルアミンサルフェート、ジアリルメチルエチルアンモニウムメトサルフェート、ジアリルジエチルアンモニウムエトサルフェート等が挙げられ、これらの中でも、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、ジアリルジメチルアンモニウムメトサルフェート、ジアリルメチルエチルアンモニウムメトサルフェート、ジアリルメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、ジアリルジエチルアンモニウムエトサルフェートであることが好ましい。本発明に係る第2の化合物は、このような前記式(2)で表わされる化合物であればよく、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0037】
前記第2の化合物は、例えば、ジアリルアミン又はジアリルアルキルアミンと、ジアルキル(炭素数1〜4)硫酸とを、モル比(ジアリルアミン又はジアリルアルキルアミンのモル数:ジアルキル硫酸のモル数)が1:0.8〜1.2となるように混合し、50〜130℃において反応せしめることにより得ることができる。前記モル比としては、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、1:0.9〜1.1であることがより好ましく、1:0.95〜1.05であることがさらに好ましく、1:1であることが特に好ましい。
【0038】
本発明に係る第3の化合物は、下記一般式(3)で表わされる化合物である。
【0039】
【化6】

【0040】
前記式(3)中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を示す。前記アルキレン基の炭素数が前記上限を超える場合には、分散剤をめっき浴に相溶させることが困難となる。前記炭素数2〜4のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられる。これらの中でも、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、Rとしては、エチレン基、プロピレン基であることが好ましく、エチレン基であることがより好ましい。
【0041】
前記式(3)中、Rは炭素数1〜3のアルキル基又はフェニル基を示す。前記アルキル基の炭素数が前記上限を超える場合には、めっき液の分散安定性が低下する。前記炭素数1〜3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基を挙げることができる。これらの中でも、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、Rとしては、メチル基であることが好ましい。また、前記式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示す。このようなRとしては、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、メチル基であることが好ましい。
【0042】
前記式(3)中、nはORで表わされるオキシアルキレン基の付加モル数であり、0〜30の整数を示す。nの値が前記上限を超える場合には、めっき液の分散安定性が低下する。このようなnとしては、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、0〜23であることが好ましく、5〜20であることがより好ましく、7〜12であることが特に好ましい。
【0043】
本発明に係る第3の化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソプロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、本発明において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの両方を指す。これらの中でも、前記第3の化合物としては、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、メチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートであることが好ましく、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートであることがより好ましく、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートであることがさらに好ましい。
【0044】
また、本発明に係る第3の化合物としては、メチルメタクリレート(和光純薬製)、メチルアクリレート(和光純薬製)、NKエステルM−90G(メトキシポリエチレングリコール(8モル)メタクリレート、新中村化学工業株式会社製)、NKエステルM−230G(メトキシポリエチレングリコール(23モル)メタクリレート、新中村化学工業株式会社製)、NKエステルPHE−1G(フェノキシエチレングリコールメタクリレート、新中村化学工業株式会社製)、NKエステルAM−90G(メトキシポリエチレングリコール(8モル)アクリレート、新中村化学工業株式会社製)、NKエステルAM−130G(メトキシポリエチレングリコール(13モル)アクリレート、新中村化学工業株式会社製)等の市販品を用いてもよく、これらの中でも、めっき液の分散安定性がより向上し、めっき皮膜の外観がより優れる傾向にあるという観点から、メチルメタクリレート(和光純薬製)、NKエステルM−90G(メトキシポリエチレングリコール(8モル)メタクリレート、新中村化学工業株式会社製)、NKエステルM−230G(メトキシポリエチレングリコール(23モル)メタクリレート、新中村化学工業株式会社製)、NKエステルAM−90G(メトキシポリエチレングリコール(8モル)アクリレート、新中村化学工業株式会社製)を用いることが好ましく、NKエステルM−90G(メトキシポリエチレングリコール(8モル)メタクリレート、新中村化学工業株式会社製)、NKエステルAM−90G(メトキシポリエチレングリコール(8モル)アクリレート、新中村化学工業株式会社製)を用いることがより好ましい。
【0045】
本発明に係る第3の化合物は、このような前記式(3)で表わされる化合物であればよく、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0046】
本発明に係るカチオン性ポリマーは、前記第1の化合物、前記第2の化合物及び前記第3の化合物からなる群から選択される少なくとも2種の化合物を共重合せしめることにより得られたカチオン性のポリマーであればよいが、共重合される全ての化合物が第1の化合物である場合、共重合される全ての化合物が第2の化合物である場合、及び、共重合される全ての化合物が第3の化合物である場合は除く。なお、本発明において、カチオン性のポリマーとは、分子中に4級アンモニウム基及び/又は3級アンモニウム基の酸塩を含有するポリマーのことをいう。
【0047】
本発明において、前記第1の化合物を前記共重合に用いる場合には、下記一般式(4)又は(5):
【0048】
【化7】

【0049】
【化8】

【0050】
[式(4)〜(5)中、R、R及びXは、上記式(1)中のR、R及びXとそれぞれ同義である。]
で表わされる構造単位を持つポリマーが得られる。
【0051】
また、本発明において、前記第2の化合物を前記共重合に用いる場合には、下記一般式(6)又は(7):
【0052】
【化9】

【0053】
【化10】

【0054】
[式(6)〜(7)中、R、R及びZm−は、上記式(2)中のR、R及びZm−とそれぞれ同義である。]
で表わされる構造単位を持つポリマーが得られる。
【0055】
さらに、本発明において、前記第3の化合物を前記共重合に用いる場合には、下記一般式(8):
【0056】
【化11】

[式(8)中、R、R、R及びnは、上記式(3)中のR、R、R及びnとそれぞれ同義である。]
で表わされる構造単位を持つポリマーが得られる。
【0057】
本発明に係るカチオン性ポリマーとしては、前記構造単位の配列は特に制限されず、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であっても、ランダム・ブロック交互共重合体であってもよい。
【0058】
本発明に係るカチオン性ポリマーとしては、めっき浴中における複合材の分散性が向上する傾向にあるという観点から、前記第1の化合物のうちの少なくとも1種と、前記第2の化合物のうちの少なくとも1種及び/又は前記第3の化合物のうちの少なくとも1種と、を共重合せしめることにより得られたものであることが好ましい。中でも、めっき浴中における複合材の分散性がより向上する傾向にあるという観点から、前記第1の化合物としてジアリルジアルキルアンモニウムハライドを用い、前記第2の化合物としてジアリルジアルキルアンモニウムアルキルサルフェートを用い、これらを組み合わせて共重合せしめることにより得られたものであることがより好ましい。
【0059】
また、本発明に係るカチオン性ポリマーとしては、めっき浴中における複合材の分散性がさらに向上する傾向にあるという観点から、前記第1の化合物のうちの少なくとも1種と、前記第2の化合物のうちの少なくとも1種と、前記第3の化合物のうちの少なくとも1種と、を共重合せしめることにより得られたものであることがさらに好ましい。中でも、めっき浴中における複合材の分散性が特に向上する傾向にあるという観点から、前記第1の化合物としてジアリルジアルキルアンモニウムハライドを用い、前記第2の化合物としてジアリルジアルキルアンモニウムアルキルサルフェートを用い、前記第3の化合物のうちの少なくとも1種と組み合わせて共重合せしめることにより得られたものであることがより好ましい。
【0060】
前記共重合の方法としては、特に制限されないが、例えば、前記第1の化合物、前記第2の化合物及び前記第3の化合物からなる群から選択される少なくとも2種の化合物を、水を含む溶媒中に混合し、重合開始剤を添加して50〜95℃において30分〜24時間ラジカル重合反応せしめる方法が挙げられる。前記重合開始剤としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化ベンゾイル(BPO)等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などのアゾ化合物等のラジカル重合開始剤を用いることができる。これらの重合開始剤としては、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記共重合としては、重合率が95%以上であることが好ましく、ほぼ100%であることがより好ましい。
【0061】
本発明において、前記第1の化合物と前記第2の化合物とを組み合わせて前記共重合に用いる場合、その仕込み比(第1の化合物の仕込み時の全質量:第2の化合物の仕込み時の全質量)としては、1:0.05〜1.0であることが好ましく、1:0.1〜0.5であることがより好ましい。前記第2の化合物の仕込み時の全質量が前記下限未満である場合には、めっき液の分散安定性が低下し、めっき皮膜の光沢が悪化する傾向にある。他方、前記上限を超えて前記第2の化合物を仕込んでも、めっき液の分散安定性やめっき皮膜の外観はそれ以上向上しない傾向にある。
【0062】
本発明において、前記第1の化合物と前記第3の化合物とを組み合わせて前記共重合に用いる場合、その仕込み比(第1の化合物の仕込み時の全質量:第3の化合物の仕込み時の全質量)としては、1:0.005〜0.2であることが好ましく、1:0.005〜0.1であることがより好ましい。前記第3の化合物の仕込み時の全質量が前記下限未満である場合には、めっき液の分散安定性が低下し、めっき皮膜の光沢が悪化する傾向にある。他方、前記上限を超えて前記第3の化合物を仕込んでも、めっき液の分散安定性やめっき皮膜の外観はそれ以上向上しない傾向にある。
【0063】
本発明において、前記第2の化合物と前記第3の化合物とを組み合わせて前記共重合に用いる場合、その仕込み比(第2の化合物の仕込み時の全質量:第3の化合物の仕込み時の全質量)としては、1:0.05〜0.2であることが好ましい。前記第3の化合物の仕込み時の全質量が前記下限未満である場合には、めっき液の分散安定性が低下し、めっき皮膜の光沢が悪化する傾向にある。他方、前記上限を超えて前記第3の化合物を仕込んでも、めっき液の分散安定性やめっき皮膜の外観はそれ以上向上しない傾向にある。
【0064】
本発明において、前記第1の化合物と前記第2の化合物と前記第3の化合物とを組み合わせて前記共重合に用いる場合、その仕込み比としては、前記第1の化合物と前記第2の化合物との仕込み比(第1の化合物の仕込み時の全質量:第2の化合物の仕込み時の全質量)が、1:0.1〜0.5であり、且つ、前記第1の化合物と前記第3の化合物との仕込み比(第1の化合物の仕込み時の全質量:第3の化合物の仕込み時の全質量)が、1:0.005〜0.1であることが好ましい。前記第2の化合物及び/又は前記第3の化合物の仕込み時の全質量が前記下限未満である場合には、めっき液の分散安定性が低下し、めっき皮膜の光沢が悪化する傾向にある。他方、前記上限を超えて前記第2の化合物及び/又は前記第3の化合物を仕込んでも、めっき液の分散安定性やめっき皮膜の外観はそれ以上向上しない傾向にある。
【0065】
また、本発明に係るカチオン性ポリマーとしては、第1の化合物、第2の化合物及び第3の化合物からなる群から選択される化合物(但し、全ての化合物が第1の化合物である場合、全ての化合物が第2の化合物である場合、及び、全ての化合物が第3の化合物である場合、を除く)のみを共重合せしめることにより得られたものであることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、他の化合物をさらに共重合せしめることにより得られたものであってもよい。このような他の化合物としては、共重合可能な化合物であればよく、例えば、アクリルニトリル、アクリルアミド、ビニルアミン塩、ビニルピロリドン、側鎖に第4級アンモニウム塩基を有するビニル単量体、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル類が挙げられる。
【0066】
前記側鎖に第4級アンモニウム塩基を有するビニル単量体としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート4級化物、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート4級化物、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート4級化物、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート4級化物、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート4級化物、ジエチルアミノブチル(メタ)アクリレート4級化物、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート4級化物、ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレート4級化物、ジプロピルアミノブチル(メタ)アクリレート4級化物、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド4級化物、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド4級化物、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド4級化物、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド4級化物、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド4級化物、ジエチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド4級化物、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド4級化物、ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド4級化物、ジプロピルアミノブチル(メタ)アクリルアミド4級化物が挙げられる。なお、本発明において、(メタ)アクリルアミドとはアクリルアミドとメタクリルアミドの両方を指す。
【0067】
前記アクリル酸エステル類としては、本発明に係る第3の化合物以外の(メタ)アクリレート等が挙げられ、例えば、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0068】
本発明に係るカチオン性ポリマーを得る共重合において、このような他の化合物を前記第1の化合物、前記第2の化合物及び前記第3の化合物からなる群から選択される化合物と共に共重合せしめる場合、その仕込み量(質量)としては、前記第1の化合物、前記第2の化合物及び前記第3の化合物からなる群から選択される化合物の全仕込み量(質量)に対して、30質量%以下であることが好ましい。
【0069】
本発明に係るカチオン性ポリマーの重量平均分子量としては、10,000〜500,000であることが好ましく、50,000〜300,000であることがより好ましい。重量平均分子量が前記下限未満である場合には、炭素系複合材をめっき液中に安定に分散せしめる効果が低下し、分散剤が多く必要になる傾向にある。他方、前記上限を超える場合には、分散剤が奏する分散効果よりもカチオン性ポリマーの凝集性が強まり、めっき液中の炭素系複合材が凝集される傾向にある。なお、本発明において、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定し、重量平均分子量が既知のプルラン(標準物質)のGPCによる測定結果から得られた検量線を用いて換算することにより求められる。
【0070】
本発明の無電解複合めっき液用分散剤としては、前記カチオン性ポリマーのうち、1種を単独で含有していても2種以上を組み合わせて含有していてもよく、本発明に係るカチオン性ポリマーをそのまま本発明の無電解複合めっき液用分散剤として用いてもよいが、分散剤の取り扱い及び分散剤のめっき浴への展開が容易になる傾向にあるという観点から、本発明に係るカチオン性ポリマーを適宜溶媒に溶解又は分散せしめて本発明の無電解複合めっき液用分散剤として用いることが好ましい。
【0071】
前記溶媒としては、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、へキシレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ブチルグリコール、ソルフィット等の親水性溶剤と水との混合溶媒等が挙げられる。前記溶媒を用いる場合、前記カチオン性ポリマーの含有量としては、無電解複合めっき液用分散剤の全質量に対して10〜40質量%であることが好ましい。含有量が前記下限未満である場合には、分散剤が多く必要となり経済的に不利となる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、分散剤の粘度が高くなり、取り扱いが困難となる傾向にある。
【0072】
また、本発明の無電解複合めっき液用分散剤としては、本発明の効果を損なわない範囲で、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤、溶剤等をさらに含有していてもよい。
【0073】
本発明の無電解複合めっき液用分散剤は、炭素系複合材を無電解複合めっき液中に分散せしめるための分散剤であることを特徴とする。本発明の無電解複合めっき液用分散剤を炭素系複合材とともに無電解複合めっき液中に含有せしめることにより、前記炭素系複合材が安定に分散され、分散安定性に優れた無電解複合めっき液を得ることができる。
【0074】
前記炭素系複合材としては、例えば、ナノダイヤモンド、カーボンナノファイバー、フラーレン等が挙げられる。これらの炭素系複合材としては、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
前記ナノダイヤモンドとしては、通常入手可能な多結晶タイプ、単結晶タイプ、クラスタータイプのものを用いることができる。このようなナノダイヤモンドとしては、市販品を用いることができ、例えば、SCMファインダイヤ(住石マテリアルズ株式会社製)が挙げられる。また、前記ナノダイヤモンドとしては、ダイヤモンド微粒子の表面に親水性ポリマー又はイオン性基を導入したものを用いてもよい。前記ダイヤモンド微粒子の表面に親水性ポリマーが導入されたナノダイヤモンドは、例えば、ダイヤモンド微粒子をポリエチレングリコール含有アゾ系ラジカル開始剤で処理することにより得ることができる。前記ダイヤモンド微粒子の表面にイオン性基が導入されたナノダイヤモンドは、例えば、ダイヤモンド微粒子をイオン性基含有アゾ系ラジカル開始剤で処理することにより得ることができる。
【0076】
前記カーボンナノファイバーとしては、市販品を用いることができ、例えば、カーボンナノファイバー(昭和電工製、繊維径:150nm)が挙げられる。
【0077】
前記炭素系複合材の平均粒径(炭素系複合材が粒状の場合)又は平均繊維径(炭素系複合材が繊維状の場合)としては、1〜50,000nmであることが好ましく、5〜1,000nmであることがより好ましく、10〜500nmであることがさらに好ましい。前記炭素系複合材の平均粒径又は平均繊維径が前記下限未満である場合には、めっき皮膜に対して、炭素系複合材の有する硬度特性、耐摩耗性及び高熱伝導性等の機能を十分に付与することが困難となる傾向にある。他方、前記上限を超える場合には、めっき液中に炭素系複合材を安定に分散せしめることが困難となる傾向にある。
【0078】
前記炭素系複合材のめっき液中における濃度としては、0.1〜100g/Lであることが好ましく、0.5〜50g/Lであることがより好ましく、1〜20g/Lであることがさらに好ましい。前記炭素系複合材の濃度が前記下限未満である場合には、めっき皮膜に対して、炭素系複合材の有する硬度特性、耐摩耗性及び高熱伝導性等の機能を十分に付与することが困難となる傾向にある。他方、前記上限を超える場合には、めっき液中に炭素系複合材を安定に分散せしめることが困難となる傾向にある。
【0079】
本発明の無電解複合めっき液用分散剤を用いる無電解複合めっき液としては、本発明の無電解複合めっき液用分散剤及び前記炭素系複合材の他に、金属イオン、金属イオンの錯化剤、還元剤を必須成分として含有する無電解複合めっき液が挙げられる。
【0080】
前記金属イオンとしては、例えば、ニッケルイオン、スズイオン、金イオン、銀イオン、銅イオン、鉄イオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、クロムイオン、コバルトイオン、パラジウムイオン、白金イオン、ロジウムイオンが挙げられる。これらの金属イオンとしては、例えば、硫酸塩、塩酸塩、有機酸塩等の水溶性金属塩を用いることができる。前記金属イオンのめっき液中における濃度としては、0.1〜100g/Lであることが好ましく、1〜70g/Lであることがより好ましく、1〜50g/Lであることがさらに好ましい。前記金属イオンの濃度が前記下限未満である場合には、優れた性能(光沢性、耐摩耗性等)を有するめっき皮膜を得ることが困難となる傾向にある。他方、前記上限を超える場合には、コストが高くなり経済的に不利となる傾向にある。
【0081】
前記錯化剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、グルタル酸、フタル酸等のモノ又はジカルボン酸;乳酸、クエン酸、リンゴ酸等のオキシカルボン酸;EDTA、グリシン、アラニン等のアミノカルボン酸等の酸;又はこれらの水溶性塩が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、前記錯化剤としては、金属錯化力の強いキレート剤であるという観点からは、クエン酸、リンゴ酸、EDTA;及びこれらの水溶性塩を用いることが好ましく、めっき皮膜の外観及び付きまわり性がより良好となり、pH緩衝性に優れるという観点からは、マロン酸、乳酸、コハク酸;及びこれらの水溶性塩を用いることが好ましい。
【0082】
前記錯化剤のめっき液中における濃度としては、1〜100g/Lであることが好ましく、5〜50g/Lであることがより好ましく、10〜40g/Lであることがさらに好ましい。前記錯化剤の濃度が前記下限未満である場合には、優れた性能を有するめっき皮膜を得ることが困難となる傾向にある。他方、前記上限を超えて錯化剤を用いても、めっき皮膜の性能はそれ以上向上せず、コストが高くなり経済的に不利となる傾向にある。
【0083】
前記還元剤としては、例えば、次亜リン酸又はその塩、水素化ホウ素化合物、ヒドラジン、アミノボラン、ジメチルアミノボラン、ジエチルアミノボラン;及びこれらの誘導体等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記還元剤のめっき液中における濃度としては、1〜100g/Lであることが好ましく、5〜70g/Lであることがより好ましく、10〜50g/Lであることがさらに好ましい。前記還元剤の濃度が前記下限未満である場合には、優れた性能を有するめっき皮膜を得ることが困難となる傾向にある。他方、前記上限を超えて還元剤を用いても、めっき皮膜の性能はそれ以上向上せず、コストが高くなり経済的に不利となる傾向にある。
【0084】
また、本発明の無電解複合めっき液用分散剤を用いる無電解複合めっき液としては、本発明の効果を損なわない範囲で、安定剤、反応促進剤、pH緩衝材、pH調整剤、光沢剤、平滑剤、励起剤、ピンホール防止剤、付きまわり改善剤、界面活性剤等の様々な添加剤をさらに含有していてもよい。
【0085】
前記無電解複合めっき液としては、どのような方法で調製されてもよく、前記調製方法としては、例えば、前記金属イオン、前記錯化剤、前記還元剤及び必要に応じて前記添加剤を含有する溶媒(以下、場合により、これらをまとめて無電解めっき液という。)と前記炭素系複合材と、本発明の無電解複合めっき液用分散剤とを一度に混合・撹拌する方法や、前記無電解めっき液と前記炭素系複合材とを混合した液に、本発明の無電解複合めっき液用分散剤を添加して混合・撹拌する方法や、本発明の無電解複合めっき液用分散剤と前記炭素系複合材とをあらかじめ均一に混合した後、前記無電解めっき液中に添加して混合・撹拌する方法や、本発明の無電解複合めっき液用分散剤を予め無電解めっき液に添加し、その後前記炭素系複合材を添加して分散させる方法が挙げられる。なお、前記溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、へキシレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ブチルグリコール、ソルフィット、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0086】
本発明の無電解複合めっき液用分散剤の前記無電解複合めっき液における含有量としては、本発明に係るカチオン性ポリマーが、前記無電解複合めっき液の全質量に対して0.01〜1質量%となる含有量であることが好ましく、0.05〜0.8質量%となる含有量であることがより好ましく、0.05〜0.5質量%となる含有量であることがさらに好ましい。前記含有量が前記下限未満である場合には、めっき液の分散安定性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、めっき皮膜の外観が不良となる傾向にある。
【0087】
本発明の無電解複合めっき液用分散剤を含有する無電解複合めっき液を使用し、被処理基材に無電解複合めっきを施すことにより、前記被処理材の表面に優れた外観を有するめっき皮膜を得ることができる。前記被処理基材としては、無電解めっきを施すことが可能なものであればよく、特に制限されず、例えば、金属、プラスチック、セラミックス等が挙げられる。
【0088】
前記無電解複合めっきの方法としては、適宜公知の無電解複合めっき方法を採用することができ、例えば、液温を60〜100℃、pHを3〜7に調整した無電解複合めっき液に、被処理基材を30〜90分程度浸漬させることにより、前記被処理基材の表面に複合めっき皮膜を形成する方法が挙げられる。前記pHを調整する方法としては、塩酸、硫酸、スルファミン酸、硝酸等の酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニウム水溶液等のアルカリをpH調整剤として無電解複合めっき液に添加する方法が挙げられる。
【0089】
前記無電解複合めっきにおいては、めっきを効率よく施すことができ、より優れた外観及び性能を有するめっき皮膜を得られる傾向にあるという観点から、めっき液を撹拌したり、被処理基材を揺動等させることがこのましい。このようなめっき液の撹拌や基材の揺動の方法としては、適宜公知の方法を採用することができる。また、無電解複合めっきにおいては、めっき処理の進行に伴って金属イオンが還元剤により金属に還元され、炭素系複合材が金属と共に共析するため、めっき液中の金属イオン濃度、還元剤濃度、及び炭素系複合材濃度が低下し、pH濃度が変化する。そのため、前記無電解複合めっきにおいては、連続的に又は一定時間毎に無電解複合めっき液中に前記金属イオンとなる水溶性金属塩、前記還元剤、前記炭素系複合材及び必要に応じてpH調整剤等を補給して、これらの濃度を初期濃度の範囲に近い範囲内に維持することが好ましい。
【実施例】
【0090】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例におけるカチオン性ポリマーの重量平均分子量の測定、及び、各実施例及び比較例において得られた分散剤の評価はそれぞれ以下の方法により行った。
【0091】
<重量平均分子量の測定>
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(ゲルろ過カラム:「Tskgelα−3000」(東ソー製)、移動層:0.3Mトリエタノールアミン−リン酸(pH2.9)、検出基:RI、温度:40℃、流速:1.0ml/分)を用いて測定し、重量平均分子量が既知のプルラン(標準物質)のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる測定結果から得られた検量線を用いて換算することにより、各分散剤に含有されるカチオン性ポリマーの重量平均分子量を求めた。
【0092】
<分散剤の評価>
[分散安定性評価]
先ず、分散剤として各実施例及び比較例において得られた分散剤を、複合材としてナノダイヤモンド(住石マテリアルズ製、粒径:0.1μm未満)を用い、前記分散剤、前記複合材、硫酸ニッケル、次亜リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム及びクエン酸ナトリウムとを、溶媒をイオン交換水として、下記のめっき液組成で全量が200mlとなるように調製し、これを超音波分散機(UD−201、トミー製作所製)を用いて、室温(25℃)において10秒間混合することにより、めっき液(pH5.0)を得た。
【0093】
めっき液組成
硫酸ニッケル 25g/L
次亜リン酸ナトリウム 20g/L
酢酸ナトリウム 10g/L
クエン酸ナトリウム 10g/L
複合材 1g/L
分散剤 0.5質量%(比較例6においては2質量%)
(カチオン性ポリマー又は有効成分の含有量:0.1質量%)
pH 5.0。
【0094】
次いで、このめっき液を(i)室温(25℃)において24時間静置した場合及び(ii)温度90℃において3時間静置した場合について、めっき液の分散状態を肉眼で観察し、それぞれ下記の基準:
6:分散性が良好であり、めっき液が均一である
5:めっき液中に微粒子が認められるが、分散性は良好であり、めっき液が均一である
4:めっき液表面と容器との間に析出物が若干認められるが、分散性は良好である
3:めっき液に分離が若干認められるが、沈殿は認められない
2:めっき液に分離及び沈殿が認められる
1:めっき液の分離が大きくはっきりとしており、沈殿が多く認められる
に従って評価した。
【0095】
[めっき液寿命評価及びめっき外観評価]
先ず、複合材として、カーボンナノファイバー(昭和電工製、繊維径:150nm)を用いたこと以外は上記[分散安定性評価]と同様にしてめっき液を得た。次いで、このめっき液にステンレス鋼(SUS304、15cm×3cm×1mm)を浸漬し、めっき液を撹拌しながら、温度90℃において、30分間めっき処理を行った。めっき処理後のめっき液の分散状態を肉眼で観察し、それぞれ上記[分散安定性評価]と同様の基準に従って評価した。また、めっき処理表面の光沢を肉眼で観察し、それぞれ下記の基準:
6:めっき処理表面全体に光沢がある
5:めっき処理表面の一部にくもり部分が認められ、光沢が弱い部分も一部に認められる
4:めっき処理表面にくもり部分が多く認められ、光沢が弱い部分も多く認められる
3:めっき処理表面全体の光沢が弱いか、又は、光沢が全くない部分が一部に認められる
2:めっき処理表面全体に全く光沢がない
1:めっき処理表面全体に全く光沢がなく、ざらつきが認められる
に従って評価した。
【0096】
(実施例1)
先ず、還流装置付き四つ口反応装置に、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(「DADMAC」、ダイソー株式会社製、65質量%水溶液)50質量部及びジアリルジメチルアンモニウムメトサルフェート(65質量%水溶液)5質量部を仕込み、窒素気流下、温度80℃において撹拌しながら、重合開始剤として過硫酸ナトリウム0.4質量部を水3質量部に溶解したものを4時間かけて滴下した。なお、滴下開始から1時間後には水を30質量部加えて一旦希釈し、その後引き続き前記重合開始剤の滴下を続けた。滴下終了後、同温度においてさらに4時間撹拌を続けた。次いで、撹拌終了後、水を93質量部さらに加えて希釈し、カチオン性ポリマーを19.9質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、176,000であった。なお、前記ジアリルジメチルアンモニウムメトサルフェート(65質量%水溶液)は、ジアリルメチルアミン(1モル)とジメチル硫酸(1モル)とを約70℃において3時間反応させ、水で希釈して65質量%としたものを使用した。
【0097】
(実施例2)
ジアリルジメチルアンモニウムメトサルフェート(65質量%水溶液)の仕込み量を10質量部とし、撹拌終了後に加えた希釈水を105質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、カチオン性ポリマーを19.9質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、170,000であった。
【0098】
(実施例3)
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(65質量%水溶液)の仕込み量を40質量部とし、ジアリルジメチルアンモニウムメトサルフェート(65質量%水溶液)の仕込み量を20質量部とし、撹拌終了後に加えた希釈水を135質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、カチオン性ポリマーを19.9質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、100,000であった。
【0099】
(実施例4)
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(65質量%水溶液)の仕込み量を52質量部とし、ジアリルジメチルアンモニウムメトサルフェート(65質量%水溶液)の仕込み量を2.6質量部とし、撹拌終了後に加えた希釈水を94質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、カチオン性ポリマーを19.7質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、178,000であった。
【0100】
(実施例5)
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(65質量%水溶液)の仕込み量を30質量部とし、ジアリルジメチルアンモニウムメトサルフェート(65質量%水溶液)の仕込み量を30質量部とし、撹拌終了後に加えた希釈水を105質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、カチオン性ポリマーを19.9質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、120,000であった。
【0101】
(実施例6)
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(65質量%水溶液)の仕込み量を60質量部とし、ジアリルジメチルアンモニウムメトサルフェート(65質量%水溶液)5質量部に代えてメトキシポリエチレングリコール(8モル)メタクリレート(「NKエステルM−90G」、新中村化学工業株式会社製)0.2質量部を仕込み、撹拌終了後に加えた希釈水を105質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、カチオン性ポリマーを19.9質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、213,000であった。
【0102】
(実施例7)
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(65質量%水溶液)の仕込み量を59質量部とし、メトキシポリエチレングリコール(8モル)メタクリレートの仕込み量を1質量部とし、撹拌終了後に加えた希釈水を108質量部としたこと以外は実施例6と同様にして、カチオン性ポリマーを19.7質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、300,000であった。
【0103】
(実施例8)
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(65質量%水溶液)の仕込み量を52質量部とし、メトキシポリエチレングリコール(8モル)メタクリレートの仕込み量を3.4質量部とし、撹拌終了後に加えた希釈水を100質量部としたこと以外は実施例6と同様にして、カチオン性ポリマーを19.9質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、325,000であった。
【0104】
(実施例9)
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(65質量%水溶液)の仕込み量を52質量部とし、メトキシポリエチレングリコール(8モル)メタクリレートの仕込み量を6.8質量部とし、撹拌終了後に加えた希釈水を115質量部としたこと以外は実施例6と同様にして、カチオン性ポリマーを19.8質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、355,000であった。
【0105】
(実施例10)
ジアリルジメチルアンモニウムメトサルフェート(65質量%水溶液)の仕込み量を52質量部とし、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(65質量%水溶液)50質量部に代えてメトキシポリエチレングリコール(8モル)メタクリレート3.4質量部を仕込み、撹拌終了後に加えた希釈水を101質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、カチオン性ポリマーを19.8質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、280,000であった。
【0106】
(実施例11)
ジアリルジメチルアンモニウムメトサルフェート(65質量%水溶液)の仕込み量を10質量部とし、さらにメトキシポリエチレングリコール(8モル)メタクリレート0.16質量部を仕込み、撹拌終了後に加えた希釈水を105質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、カチオン性ポリマーを19.9質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、174,000であった。
【0107】
(実施例12)
メトキシポリエチレングリコール(8モル)メタクリレートの仕込み量を0.65質量部とし、撹拌終了後に加えた希釈水を108質量部としたこと以外は実施例11と同様にして、カチオン性ポリマーを19.8質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、175,000であった。
【0108】
(実施例13)
メトキシポリエチレングリコール(8モル)メタクリレートの仕込み量を1.7質量部とし、撹拌終了後に加えた希釈水を110質量部としたこと以外は実施例11と同様にして、カチオン性ポリマーを20.0質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、170,000であった。
【0109】
(実施例14)
メトキシポリエチレングリコール(8モル)メタクリレートの仕込み量を3.3質量部とし、撹拌終了後に加えた希釈水を120質量部としたこと以外は実施例11と同様にして、カチオン性ポリマーを19.7質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、178,000であった。
【0110】
(実施例15)
メトキシポリエチレングリコール(8モル)メタクリレートの仕込み量を6.5質量部とし、撹拌終了後に加えた希釈水を130質量部としたこと以外は実施例11と同様にして、カチオン性ポリマーを20.0質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、185,000であった。
【0111】
(実施例16)
メトキシポリエチレングリコール(8モル)メタクリレート0.16質量部に代えてメトキシポリエチレングリコール(23モル)メタクリレート(「NKエステルM−230G」、新中村化学工業株式会社製)0.85質量部を仕込み、撹拌終了後に加えた希釈水を110質量部としたこと以外は実施例11と同様にして、カチオン性ポリマーを19.7質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、162,000であった。
【0112】
(実施例17)
メトキシポリエチレングリコール(8モル)メタクリレート0.16質量部に代えてメチルメタクリレート(和光純薬製)0.85質量部を仕込み、撹拌終了後に加えた希釈水を110質量部としたこと以外は実施例11と同様にして、カチオン性ポリマーを19.7質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、182,000であった。
【0113】
(実施例18)
ジアリルジメチルアンモニウムメトサルフェート(65質量%水溶液)5質量部に代えてジアリルメチルエチルアンモニウムエトサルフェート(65質量%水溶液)10質量部を仕込み、撹拌終了後に加えた希釈水を105質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、カチオン性ポリマーを19.9質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、112,000であった。なお、前記ジアリルメチルエチルアンモニウムエトサルフェート(65質量%水溶液)は、ジアリルメチルアミン(1モル)とジエチル硫酸(1モル)とを約80℃において3時間反応させ、水で希釈して65質量%としたものを使用した。
【0114】
(実施例19)
メトキシポリエチレングリコール(8モル)メタクリレート0.16質量部に代えてメトキシポリエチレングリコール(9モル)アクリレート(「NKエステルAM−90G」、新中村化学工業株式会社製)1.7質量部を仕込み、撹拌終了後に加えた希釈水を110質量部としたこと以外は実施例11と同様にして、カチオン性ポリマーを20.0質量%含有する淡黄色で液状の無電解複合めっき液用分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、160,000であった。
【0115】
(比較例1)
先ず、液温を90〜95℃に調整したラウリルジメチルアミン(「ファーミンDMC」、花王株式会社製)の60質量%水分散液(ラウリルジメチルアミン:1モル)に、モノクロル酢酸ソーダの40質量%水溶液(モノクロル酢酸ソーダ:1.1モル)を滴下しながら、同温で3時間反応させた。次いで、水を加えて希釈し、pHを5〜6に調整してラウリルジメチルカルボベタイン(有効成分)を20.0質量%含有する淡黄色で液状の分散剤を得た。
【0116】
(比較例2)
ココナットトリメチルアンモニウムクロライド(「コータミン24P」、花王株式会社製、有効成分27質量%)に水を加えて希釈し、有効成分を20質量%としたものを分散剤として用いた。
【0117】
(比較例3)
先ず、ココナットアミン(「ファーミンCS」、花王株式会社製)1モルに、定法に従ってエチレンオキサイド10モルを付加し、ココナットアミンエチレンオキサイド10モル付加物を得た。次いで、この付加物の60質量%水分散液(ココナットアミンエチレンオキサイド10モル付加物:1モル)を90〜95℃に調整し、ここにモノクロル酢酸ソーダの40質量%水溶液(モノクロル酢酸ソーダ:1.1モル)を滴下しながら、同温で3時間反応させた。その後水を加えて希釈し、pHを5〜6に調整してココナットアミンエチレンオキサイド10モル付加物のカルボベタイン(有効成分)を20.0質量%含有する淡黄色で液状の分散剤を得た。
【0118】
(比較例4)
先ず、70℃以下において、98%硫酸(硫酸:1.35モル)中にナフタレン1モルを添加して撹拌溶解した後、加温して150〜160℃において3時間反応させた。次いで、100℃以下に冷却し、これに80℃の熱水を加えて90質量%の水溶液とした後、90〜95℃において37%ホルムアルデヒド溶液(ホルムアルデヒド:0.9モル)を添加し、加圧下120〜125℃において2時間反応させた。反応後に冷却した後、水を加えて希釈し、さらにアンモニア水を用いてpHが8.5になるように中和し、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物(有効成分)を20.0質量%含有する黒色で液状の分散剤を得た。
【0119】
(比較例5)
ラウリルスルホン酸ナトリウム(和光純薬製)に水を加えて希釈し、ラウリルスルホン酸ナトリウム(有効成分)の20質量%水溶液を分散剤として用いた。
【0120】
(比較例6)
部分ケン化型PVA(「ポリビニルアルコール1000」、和光純薬製)に水を加えて希釈し、部分ケン化型PVA(有効成分)の5質量%水溶液を分散剤として用いた。
【0121】
(比較例7)
ポリアクリル酸系重合体(「アロンSD−10」、東亞合成株式会社製、有効成分40質量%)に水を加えて希釈し、ポリアクリル酸系重合体(有効成分)の20質量%水溶液を分散剤として用いた。
【0122】
(比較例8)
先ず、還流装置付き四つ口反応装置に、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(65質量%水溶液)60質量部を仕込み、窒素気流下、温度80℃において撹拌しながら、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド(「V−50」、和光純薬製)0.14質量部を水3質量部に溶解したものを2時間かけて滴下した。なお、滴下開始から1時間後には水を30質量部加えて一旦希釈し、その後引き続き前記開始剤の滴下を続けた。滴下終了後、同温度においてさらに6時間撹拌を続けた。次いで、撹拌終了後、水を105質量部さらに加えて希釈し、カチオン性ポリマーを19.8質量%含有する淡黄色で液状の分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、184,000であった。
【0123】
(比較例9)
先ず、還流装置付き四つ口反応装置に、ジアリルジメチルアンモニウムメトサルフェート(65質量%水溶液)60質量部を仕込み、窒素気流下、温度80℃において撹拌しながら、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド(「V−50」、和光純薬製)0.14質量部を水3質量部に溶解したものを2時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度においてさらに6時間撹拌を続けた。次いで、撹拌終了後、水を135質量部加えて希釈し、カチオン性ポリマーを19.8質量%含有する淡黄色で液状の分散剤を得た。重合率はほぼ100%であった。また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、54,000であった。
【0124】
各実施例及び比較例において得られた分散剤について、分散安定性評価、並びに、めっき液寿命評価及びめっき外観評価を行った。実施例1〜19において得られた結果を各カチオン性ポリマーの共重合に用いた化合物の質量比及びカチオン性ポリマーの重量平均分子量とともに表1〜4に示す。また、分散剤を用いなかったこと以外は上記[分散安定性評価]と同様にして得られためっき液について、分散安定性評価、並びに、めっき液寿命評価及びめっき外観評価を行った。得られた結果を各比較例において得られた結果とともに表5に示す。
【0125】
【表1】

【0126】
【表2】

【0127】
【表3】

【0128】
【表4】

【0129】
【表5】

【0130】
表1〜5に示した結果から明らかなように、本発明の分散剤は、無電解複合めっき液に含有せしめることにより無電解複合めっき液中に炭素系複合材を安定に分散せしめることができ、無電解複合めっき液の分散安定性及びめっき液寿命を向上させることができることが確認された。また、本発明の分散剤を含有する無電解複合めっき液を用いることにより、優れた外観を有するめっき皮膜を得ることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0131】
以上説明したように、本発明によれば、炭素系複合材を含有する無電解複合めっき液の分散安定性及びめっき液寿命を向上させることができ、且つ、優れた外観を有するめっき皮膜を得ることができる無電解複合めっき液用分散剤を提供することが可能となる。
【0132】
また、本発明の分散剤によれば、無電解複合めっき液中に炭素系複合材を安定に分散せしめることができるため、複合材が炭素系複合材である無電解複合めっき液の分散剤として有用である。さらに、本発明の分散剤を含有する無電解複合めっき液は、優れた分散安定性を有し、液寿命が長く、無電解複合めっきに用いることにより良好な複合めっき皮膜を得ることができる。従って、ナノ材料、特に炭素系複合材と金属との複合化が可能となり、前記ナノ材料が有する熱伝導性、導電性、強度特性、摺動性(潤滑性)、復元力(反発力)等の特性と金属特性とを併せ持つ複合素材の提供が可能となり、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

[式(1)中、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基及び炭素数2〜4のアルケニル基からなる群から選択されるいずれか1つを示し、Xはハロゲンイオンを示す。]
で表わされる第1の化合物、下記一般式(2):
【化2】

[式(2)中、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基及び炭素数2〜4のアルケニル基からなる群から選択されるいずれか1つを示し、Zm−はハロゲンイオンを除くm価のアニオンを示す。]
で表わされる第2の化合物、及び下記一般式(3):
【化3】

[式(3)中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を示し、Rは炭素数1〜3のアルキル基又はフェニル基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは0〜30の整数を示す。]
で表わされる第3の化合物からなる群から選択される少なくとも2種の化合物(但し、全ての化合物が第1の化合物である場合、全ての化合物が第2の化合物である場合、及び、全ての化合物が第3の化合物である場合、を除く)を共重合せしめることにより得られたカチオン性ポリマーを含有しており、
炭素系複合材を無電解複合めっき液中に分散せしめるための分散剤であること、
を特徴とする無電解複合めっき液用分散剤。
【請求項2】
前記カチオン性ポリマーが、前記第1の化合物のうちの少なくとも1種と、前記第2の化合物のうちの少なくとも1種及び/又は前記第3の化合物のうちの少なくとも1種と、を共重合せしめることにより得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の無電解複合めっき液用分散剤。
【請求項3】
前記カチオン性ポリマーが、前記第1の化合物のうちの少なくとも1種と、前記第2の化合物のうちの少なくとも1種と、前記第3の化合物のうちの少なくとも1種と、を共重合せしめることにより得られたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の無電解複合めっき液用分散剤。
【請求項4】
前記共重合において、
前記第1の化合物と前記第2の化合物との仕込み比(第1の化合物の仕込み時の全質量:第2の化合物の仕込み時の全質量)が、1:0.1〜0.5であり、且つ、
前記第1の化合物と前記第3の化合物との仕込み比(第1の化合物の仕込み時の全質量:第3の化合物の仕込み時の全質量)が、1:0.005〜0.1であること、
を特徴とする請求項3に記載の無電解複合めっき液用分散剤。

【公開番号】特開2013−28845(P2013−28845A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166412(P2011−166412)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【出願人】(391015638)アイテック株式会社 (16)
【Fターム(参考)】