説明

焼成鉛筆芯

【課題】焼成鉛筆芯に用いられている可塑剤は、合成樹脂との相溶性や、移行性の問題で焼成芯体の構造が不均一になり、曲げ強さと濃度のばらつきの要因であった。より曲げ強さと濃度のばらつきが小さい焼成鉛筆芯を提供する。
【解決手段】少なくとも黒鉛と含塩素樹脂とを配合材料として使用する焼成鉛筆芯において、一酸化炭素とエチレンを含む共重合体を配合材料として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも黒鉛と含塩素樹脂と気孔形成材とを配合材料とし、混練、細線状に押出成形後、焼成温度まで熱処理を施し得られる焼成鉛筆芯に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な焼成鉛筆芯は、黒鉛や合成樹脂、カーボンブラック、無定形シリカ等の焼成後に残る骨格形成成分と、フタル酸エステル等の可塑剤、メチルエチルケトン等の溶剤、更にステアリン酸塩、ステアリン酸などの焼成により気化して、芯体に気孔を形成する気孔形成成分とを配合し、これらの配合材料を分散混合および混練して、細線状に押出成形した後、焼成温度まで熱処理を施し、得られた焼成芯体の気孔中に必要に応じて油状物を含浸させて完成する。
【0003】
押出成形時の芯径を種々選択することにより目的の芯径の芯体を得ることができ、また配合や焼成温度を変えることなどにより、目的の筆記濃度(硬度)の芯体を得ることもできるが、目的とする筆記濃度(硬度)を満足しつつ、筆記時に加わる力や落下した際の衝撃などで折れない強さとの両立が求められる。
【0004】
焼成鉛筆芯の主材は前述したように、黒鉛と合成樹脂であるが、合成樹脂は熱処理で炭化物となることで、黒鉛を固定する結合材としての役割をする。特に、含塩素樹脂は、成形性やコスト等の使い易さの面からも好まれて焼成鉛筆芯の材料として使われている。ここで、合成樹脂を成形し易くするために可塑剤が併用される。例えば、合成樹脂が含塩素樹脂の場合にはフタル酸エステルなどの可塑剤が、ポリビニルアルコール等の水溶性樹脂の場合には水などの可塑剤が好ましく併用されている。
また、可塑剤は、熱処理時に分解することで、焼成鉛筆芯体中に油状物が入る気孔を形成する。一般に芯体中の気孔率が少なければ、骨格成分が堅牢になり、折れにくい芯体となるが、反面、筆記時に摩耗し難くなり筆跡濃度が薄いものとなり易く、気孔率が多くなれば、骨格成分が脆弱となって折れ易い芯となるが、筆記時の摩耗量が増えるため、筆跡濃度が濃いものとなり易い。このように、芯体の折れ難さと筆跡濃度とには負の相関がある。この負の相関を改善し、筆記濃度のわりに曲げ強さが大きい焼成鉛筆芯を得るため、使用する可塑剤に関する様々な発明があり、例えば、可塑剤として安息香酸とグリコールとのエステルを焼成鉛筆芯に使用し、配合材料の分散性を向上させる方法(特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−105248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の可塑剤を鉛筆芯の配合材料として使用することで、配合材料全体の分散性が向上し、確かに折れ難さは向上する。しかし、特許文献1で示されているのは、JIS S 6005に準じて測定した結果であり、これは、鉛筆芯数十本の曲げ強さを測定した平均値が向上するものであり、一本一本の芯の折れ難さや筆跡の濃度は考慮されていない。従来より焼成鉛筆芯に使われている一般的な可塑剤であるフタル酸エステル等は、含塩素樹脂との相溶性が高くなく、混練後も偏在した状態になってしまうものと推察され、これを成形すると一本一本の芯に細分化された場合には個々の芯で折れ難さや筆跡濃度が一定しないバラツキのある芯の集合体ができてしまうものであった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、少なくとも黒鉛と含塩素樹脂と気孔形成材とを配合材料とし、混練、細線状に押出成形後、焼成温度まで熱処理を施し得られる焼成鉛筆芯において、前記気孔形成材として、少なくとも一酸化炭素とエチレンを含む共重合体を使用した焼成鉛筆芯を要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
一酸化炭素とエチレンを含む共重合体は、分子中に極性の高い一酸化炭素単位を有しており、分子中で電子の偏りがある為に分子の持つエネルギーは非常に高い。すなわち、分子運動が活発である。また、含塩素樹脂は電子吸引により電子が豊富になった塩素原子とそれにより電子の不足した水素原子を有するため、同じく分子中で電子の偏りがある為、分子の持つエネルギーは非常に高く、分子運動が活発である。よって、一酸化炭素を含む共重合体と含塩素樹脂とは、互いに結び付きが強く、分子レベルで相溶する。エチレン部分は、一酸化炭素部分と同様に、熱処理によってほぼ100%気化するので、含塩素樹脂中に気孔を形成する成分となると共に、気孔となる部分の全体的な容積を確保する。よって、これらの混合物に熱処理を施すと、含塩素樹脂が熱処理されることで形成される炭化物中の、一酸化炭素とエチレンを含む共重合体が熱分解し形成する気孔は、一酸化炭素とエチレンを含む共重合体と含塩素樹脂が分子レベルで相溶していることに起因して細かく分布が均一なものとなり、結果として、均一な構造の焼成鉛筆芯が得られる。
また、一本の芯体としてみた時には、気孔が細かく均一であるので、骨格成分が緻密に絡み合い、折れ難い芯体でありながら、細かい気孔によって摩耗し易く濃い筆跡を得ることができるものと推察される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における含塩素樹脂は、熱処理で炭化物となり黒鉛同士を芯体として固定・結合させる働きをするもので、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩素化パラフィン等の単独重合体、及びエチレン−塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体等の塩化ビニルと他の重合性モノマーとの共重合体、並びに後塩素化塩化ビニル重合体等の塩化ビニルの単独及び共重合体を改質したものなどを例示することができる。これらの含塩素樹脂を単独又は二種以上併用して使用されうる。
【0010】
一酸化炭素とエチレンを含む共重合体は、加熱溶融させて含塩素樹脂に相溶させると、含塩素樹脂は可塑化状態になる。このため、一酸化炭素とエチレンを含む共重合体は含塩素樹脂の固体可塑剤として機能する。
【0011】
本発明における一酸化炭素とエチレンを含む共重合体として、更に不飽和エステルを有するエチレン−不飽和エステル−一酸化炭素の三元共重合体とすることもできる。不飽和エステル成分単位としては、具体的には、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸のアルキルエステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどのメタクリル酸のアルキルエステル類、さらに酢酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類が例示される。これら一酸化炭素とエチレンを含む共重合体は単独又は二種以上併用して使用されうる。
市販品の具体例としては、エチレン−アクリル酸エステル−一酸化炭素共重合体としてはエルバロイHP553(三井・デュポンポリケミカル(株)製)、エチレン―酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体としては、エルバロイ741、エルバロイ742(三井・デュポンポリケミカル(株)製)等が挙げられる。
【0012】
本発明で使用する一酸化炭素とエチレンを含む共重合体は含塩素樹脂の可塑剤としての働きを考慮し、焼成鉛筆芯を使用するにあたり細線状に押し出し成形する際の成形温度との兼ね合いで、成形体の柔軟性、可塑化度合い等を、鑑み適宜設定すればよいが、概ね含塩素樹脂に対して15%以上のが好ましい。
使用量が15%以下の場合、従来の可塑剤と併用することで成型できるが、一酸化炭素とエチレンを含む共重合体と従来の可塑剤が偏在した状態になってしまい、一本一本の芯に細分化されて曲げ強さや濃度にバラツキが生じてしまう場合がある。
【0013】
上記以外の使用材料としては、従来用いられている焼成鉛筆芯の構成材料を限定なく用いることができ、また、従来公知の製造方法を限定なく用いて製造することができる。
具体的には、黒鉛としては鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土壌黒鉛、人造黒鉛などの無機体質材が挙げられる。黒鉛以外のとしては窒化硼素、タルク、雲母、葉片状シリカ、無定形シリカ、カーボンブラックなどの無機体質材や無機添加剤も用いることが出来る。合成樹脂としては含塩素樹脂(有機結合材)の他に、ポリ酢酸ビニル、フラン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、尿素樹脂などの有機結合材を必要に応じて含塩素樹脂(有機結合材)と併用できる。更に、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジブチル(DBP)などの従来公知の可塑剤、メチルエチルケトン、水などの溶剤、ステアリン酸塩などの安定剤、ステアリン酸などの滑材なども併用できる。
これら配合材料をニーダー、ヘンシェルミキサー、3本ロールなどで均一分散させた後に細線状に成形し、空気中で300℃前後までの熱処理を施し、更に非酸化雰囲気中で800℃〜1300℃の焼成処理を施し焼成鉛筆芯を得る。その後必要に応じて、シリコーン油、流動パラフィン、スピンドル油、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタンワックス、カルナバワックスといった油状物を含浸させて製造する。
【実施例】
【0014】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0015】
<実施例1>
ポリ塩化ビニル 30重量部
黒鉛 45重量部
エチレン―酢酸ビニル―一酸化炭素共重合体(商品名:エルバロイ742、三井・デュポ
ンポリケミカル(株)製) 10重量部
ステアリン酸塩 2重量部
ステアリン酸 2重量部
メチルエチルケトン 30重量部
上記材料をヘンシェルミキサーによる分散混合処理、3本ロールによる混練処理をした後、細線状に押出成形し、空気中で室温から300℃まで約10時間かけて昇温し、300℃で約1時間保持する加熱処理をし、更に、密閉容器中で1000℃を最高とする焼成処理を施し、冷却後、流動パラフィンを含浸させて、呼び径0.7の鉛筆芯を得た。
【0016】
<実施例2>
ポリ塩化ビニル 30重量部
黒鉛 45重量部
エチレン―酢酸ビニル―一酸化炭素共重合体(商品名:エルバロイ742、三井・デュポ
ンポリケミカル(株)製) 4重量部
フタル酸エステル 6重量部
ステアリン酸塩 2重量部
ステアリン酸 2重量部
メチルエチルケトン 30重量部
上記材料を用い、実施例1と同様にして、呼び径0.7の鉛筆芯を得た。
【0017】
<実施例3>
実施例1において、ポリ塩化ビニルをポリ塩化ビニリデンに変更した以外は、実施例1と同様にして、呼び径0.7の鉛筆芯を得た。
【0018】
<実施例4>
ポリ塩化ビニル 15重量部
ポリ塩化ビニリデン 15重量部
黒鉛 45重量部
エチレン―酢酸ビニル―一酸化炭素共重合体(商品名:エルバロイ742、三井・デュポンポリケミカル(株)製) 10重量部
ステアリン酸塩 2重量部
ステアリン酸 2重量部
メチルエチルケトン 30重量部
上記材料を用い、実施例1と同様にして、呼び径0.7の鉛筆芯を得た。
【0019】
<実施例5>
ポリ塩化ビニル 30重量部
黒鉛 45重量部
エチレン―アクリル酸エステル―一酸化炭素共重合体(商品名:エルバロイHP553、三井・デュポンポリケミカル(株)製) 10重量部
ステアリン酸塩 2重量部
ステアリン酸 2重量部
メチルエチルケトン 30重量部
上記材料を用い、実施例1と同様にして、呼び径0.7の鉛筆芯を得た。
【0020】
<実施例6>
実施例5において、ポリ塩化ビニルをポリ塩化ビニリデンに変更した以外は、実施例1と同様にして、呼び径0.7の鉛筆芯を得た。
【0021】
<実施例7>
ポリ塩化ビニル 30重量部
黒鉛 45重量部
エチレン−メタクリル酸メチル−一酸化炭素共重合体 10重量部
ステアリン酸塩 2重量部
ステアリン酸 2重量部
メチルエチルケトン 30重量部
上記材料を用い、実施例1と同様にして、呼び径0.7の鉛筆芯を得た。
【0022】
<実施例8>
実施例7において、ポリ塩化ビニルをポリ塩化ビニリデンに変更した以外は、実施例1と同様にして、呼び径0.7の鉛筆芯を得た。
【0023】
<実施例9>
ポリ塩化ビニル 30重量部
黒鉛 45重量部
エチレン―酢酸ビニル―一酸化炭素共重合体(商品名:エルバロイ742、三井・デュポンポリケミカル(株)製) 5重量部
エチレン―アクリル酸エステル―一酸化炭素共重合体、商品名:エルバロイHP553、三井・デュポンポリケミカル(株)製) 5重量部
ステアリン酸塩 2重量部
ステアリン酸 2重量部
メチルエチルケトン 30重量部
上記材料を用い、実施例1と同様にして、呼び径0.7の鉛筆芯を得た。
【0024】
<比較例1>
ポリ塩化ビニル 30重量部
黒鉛 45重量部
フタル酸エステル 10重量部
ステアリン酸塩 2重量部
ステアリン酸 2重量部
メチルエチルケトン 30重量部
上記材料用いて、実施例1と同様にして、呼び径0.7の鉛筆芯を得た。
【0025】
<比較例2>
ポリ塩化ビニル 15重量部
ポリ塩化ビニリデン 15重量部
黒鉛 45重量部
フタル酸エステル 10重量部
ステアリン酸塩 2重量部
ステアリン酸 2重量部
メチルエチルケトン 30重量部
上記材料用いて、実施例1と同様にして、呼び径0.7の鉛筆芯を得た。
【0026】
<比較例3>
比較例1において、フタル酸エステルをジプロピレングリコールジベンゾエート(安息
香酸とグリコールのエステル:可塑剤)を10重量部としたこと以外、実施例1と同様にして、呼び径0.7の鉛筆芯を得た。
【0027】
<比較例4>
比較例2において、フタル酸エステルをジプロピレングリコールジベンゾエート(安息
香酸とグリコールのエステル:可塑剤)を10重量部としたこと以外、実施例1と同様にして、呼び径0.7の鉛筆芯を得た。
【0028】
以上、各実施例及び比較例で得た鉛筆芯各々100本ずつについて、JIS S 6005に準じて曲げ強さと筆跡濃度測定した。尚、曲げ強さと濃度については、ばらつきの評価として標準偏差σも算出した。その結果を表1に示す。
【0029】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも黒鉛と含塩素樹脂とを配合材料として使用する焼成鉛筆芯において、一酸化炭素とエチレンを含む共重合体を配合材料として使用することを特徴とする焼成鉛筆芯。
【請求項2】
前記、一酸化炭素とエチレンを含む共重合体がエチレン−不飽和エステル−一酸化炭素共重合体である請求項1記載の焼成鉛筆芯。
【請求項3】
前記、一酸化炭素とエチレンを含む共重合体がエチレン−アクリル酸メチル−一酸化炭素共重合体、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル−一酸化炭素共重合体である請求項1記載の焼成鉛筆芯。

【公開番号】特開2012−46718(P2012−46718A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19314(P2011−19314)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】