説明

熱サイクル装置

【課題】小型化に適した熱サイクル装置を提供すること。
【解決手段】反応液と、反応液とは比重が異なり、かつ、反応液とは混和しない液体とが充填され、反応液が対向する内壁に沿って移動する流路を含む反応容器を装着する装着部と、装着部に反応容器を装着した場合に、流路に対して、反応液が移動する方向に温度勾配を形成する温度勾配形成部と、装着部及び温度勾配形成部を、重力の作用する方向に対して水平成分を有し、かつ、装着部に反応容器を装着した場合に流路を反応液が移動する方向に対して垂直な成分を有する回転軸で回転させる駆動機構と、を含み、回転軸に垂直な平面に投影した場合に、回転軸から流路内の点までの最長距離が、流路内の2点間を結ぶ最長距離よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子の利用技術の発展により、遺伝子診断や遺伝子治療など遺伝子を利用した医療が注目されている他、農畜産分野においても品種判別や品種改良に遺伝子を用いた手法が多く開発されている。遺伝子を利用するための技術として、PCR(Polymerase Chain Reaction)法などの技術が広く普及している。今日では、PCR法は生体物質の情報解明において必要不可欠な技術となっている。
【0003】
PCR法は、増幅の対象とする核酸(標的核酸)及び試薬を含む溶液(反応液)に熱サイクルを施すことで、標的核酸を増幅させる手法である。熱サイクルは、2段階以上の温度を周期的に反応液に施す処理である。PCR法においては、2段階又は3段階の熱サイクルを施す手法が一般的である。
【0004】
PCR法では一般に、チューブや生体試料反応用チップ(バイオチップ)と称する、生化学反応を行うための容器を使用する。しかしながら従来の手法においては、必要な試薬等の量が多く、また反応に必要な熱サイクルを実現するために装置が複雑化したり、反応に時間がかかったりするという問題があった。そのため微少量の試薬や検体を用いてPCRを精度よく短時間で行うためのバイオチップや反応装置が必要とされていた。
【0005】
このような問題を解決するために、特許文献1には、反応液と、反応液と混和せず反応液よりも比重の小さい液体とが充填された生体試料反応用チップを、水平方向の回転軸の周りに回転させることで、反応液を移動させて熱サイクルを施す生体試料反応装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−136250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された生体試料反応装置は、回転軸に対して対称な温度分布を有する装置に生体試料反応用チップを装着し、回転させるため、生体試料反応用チップの長さに対して2倍以上の回転半径が必要であり、装置の小型化には限界があった。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、小型化に適した熱サイクル装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本形態に係る熱サイクル装置は、反応液と、前記反応液とは比重が異なり、かつ、前記反応液とは混和しない液体とが充填され、前記反応液が対向する内壁に沿って移動する流路を含む反応容器を装着する装着部と、前記装着部に前記反応容器を装着した場合に、前記流路に対して、前記反応液が移動する方向に温度勾配を形成する温度勾配形成部と、前記装着部及び前記温度勾配形成部を、重力の作用する方向に対して垂直な成分を有し、かつ、前記装着部に前記反応容器を装着した場合に前記流路を前記反応液が移動する方向に対して垂直な成分を有する回転軸で回転させる駆動機構と、を含み、前記回転軸に垂直な平面に投影した場合に、前記回転軸から前記流路内の点までの最長距離が、前記流路内の2点間を結ぶ最長距離よりも小さい。
【0010】
本形態によれば、回転軸は、重力の作用する方向に対して垂直な成分を有し、かつ、装着部に反応容器を装着した場合に反応容器の流路を反応液が移動する方向に対して垂直な成分を有するため、駆動機構が装着部を回転させることによって、装着部に装着される反応容器の流路内の重力の作用する方向における最下点又は最上点の位置が変化する。これにより、温度勾配形成部によって温度勾配が形成された流路内を反応液が移動する。したがって、反応液に対して熱サイクルを施すことができる。また、本形態によれば、回転軸に垂直な平面に投影した場合に、回転軸から反応容器の流路内の点までの最長距離が、反応容器の流路内の2点間を結ぶ最長距離よりも小さいため、駆動機構による回転半径を小さくできる。したがって、小型化に適した熱サイクル装置を実現できる。
【0011】
(2)この熱サイクル装置は、前記駆動機構は、前記装着部に前記反応容器を装着した場合に、前記装着部及び前記温度勾配形成部を、第1の配置と、前記流路内において重力の作用する方向における最下点の位置が前記第1の配置とは異なる第2の配置との間で回転させ、前記第1の配置から前記第2の配置へと回転させる場合と、前記第2の配置から前記第1の配置へと回転させる場合とで、反対方向に前記装着部及び前記温度勾配形成部を回転させてもよい。
【0012】
本形態によれば、駆動機構が、第1の配置から第2の配置へと回転させる場合と、第2の配置から第1の配置へと回転させる場合とで、反対方向に装着部及び温度勾配形成部を回転させるため、回転によって生じる装置の配線の捩れを低減するための特別な機構が不要となる。したがって、小型化に適した熱サイクル装置を実現できる。
【0013】
(3)この熱サイクル装置は、前記装着部は、前記反応容器をそれぞれ装着する第1の装着部及び第2の装着部を含み、前記第1の装着部に装着される前記反応容器における前記反応液が移動する方向と、前記第2の装着部に装着される前記反応容器における前記反応液が移動する方向とが平行であってもよい。
【0014】
本形態によれば、第1の装着部に装着される反応容器における反応液が移動する方向と、第2の装着部に装着される反応容器における反応液が移動する方向とが平行であるため、駆動機構によって装着部が回転させられた場合に、第1の装着部に装着される反応容器における反応液と、第2の装着部に装着される反応容器における反応液とは、同一のタイミングで移動する。したがって第1の装着部に装着される反応容器と第2の装着部に装着される反応容器とに対して、同一のタイミングで同一の時間条件の熱サイクルを施すことができる。
【0015】
(4)この熱サイクル装置は、前記回転軸に垂直な平面に投影した場合に、前記第1の装着部と前記第2の装着部とが異なる位置にあってもよい。
【0016】
本形態によれば、回転軸に垂直な平面に投影した場合に、第1の装着部と第2の装着部とが異なる位置にあることにより、第1の装着部と第2の装着部との相対的な配置を、回転軸方向から見た奥行き方向以外の配置とすることもできる。これにより、回転軸方向から見た奥行き方向の装置の大きさを節約できる。したがって、小型化に適した熱サイクル装置を実現できる。
【0017】
(5)この熱サイクル装置は、前記回転軸に垂直な平面に投影した場合に、前記回転軸が、前記第1装着部と前記第2装着部とに挟まれる領域にあってもよい。
【0018】
本形態によれば、回転軸に垂直な平面に投影した場合に、回転軸が、第1の装着部と第2の装着部とに挟まれる領域にあるので、装着部が第1の装着部と第2の装着部とを含んでいる場合においても、駆動機構による回転半径を小さくできる。したがって、小型化に適した熱サイクル装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1(A)は、第1実施形態に係る熱サイクル装置1の蓋50を閉じた状態を表す斜視図、図1(B)は、第1実施形態に係る熱サイクル装置1の蓋50を開けた状態を表す斜視図。
【図2】第1実施形態に係る熱サイクル装置1の本体10の分解斜視図。
【図3】図1(A)のA−A線を通り回転軸Rに垂直な面における断面を模式的に示す断面図。
【図4】第1実施形態に係る熱サイクル装置1に装着される反応容器100の構成を表す断面図。
【図5】図5(A)は、第1の配置における、図1(A)のA−A線を通り回転軸Rに垂直な面における断面を模式的に示す断面図、図5(B)は、第2の配置における図1(A)のA−A線を通り回転軸Rに垂直な面における断面を模式的に示す断面図。
【図6】第1実施形態に係る熱サイクル装置1の熱サイクル処理手順例を説明するためのフローチャート。
【図7】図7(A)は、第2実施形態に係る熱サイクル装置2の蓋50を閉じた状態を表す斜視図、図7(B)は、第2実施形態に係る熱サイクル装置2の蓋50を開けた状態を表す斜視図。
【図8】図7(A)のB−B線を通り回転軸Rに垂直な面における断面を模式的に示す断面図。
【図9】第2実施形態に係る熱サイクル装置2に装着される反応容器100aの構成を表す断面図。
【図10】第1実施例における熱サイクルの手順を示すフローチャート。
【図11】第2実施例における熱サイクルの手順を示すフローチャート。
【図12】第2実施例における反応液140bの組成を示す表。
【図13】図13(A)は、第1実施例における蛍光測定の結果を示す表、図13(B)は、第2実施例における蛍光測定の結果を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0021】
1.第1実施形態に係る熱サイクル装置の全体構成
図1(A)は、第1実施形態に係る熱サイクル装置1の蓋50を閉じた状態を表す斜視図、図1(B)は、第1実施形態に係る熱サイクル装置1の蓋50を開けた状態を表す斜視図である。図2は、第1実施形態に係る熱サイクル装置1の本体10の分解斜視図である。図3は、図1(A)のA−A線を通り回転軸Rに垂直な面における断面を模式的に示す断面図である。図3において、矢印gは重力の作用する方向を表す。
【0022】
第1実施形態に係る熱サイクル装置1は、反応液140と、反応液140とは比重が異なり、かつ、反応液140とは混和しない液体130とが充填され、反応液140が対向する内壁に沿って移動する流路110を含む反応容器100(詳細は「3.第1実施形態に係る熱サイクル装置に装着される反応容器の構成」の項で後述される)を装着する装着部11と、装着部11に反応容器100を装着した場合に、流路110に対して、反応液140が移動する方向(詳細は「3.第1実施形態に係る熱サイクル装置に装着される反応容器の構成」の項で後述される)に温度勾配を形成する温度勾配形成部30と、装着部11及び温度勾配形成部30を、重力の作用する方向に対して水平成分を有し、かつ、装着部11に反応容器1を装着した場合に流路110を反応液140が移動する方向に対して垂直な成分を有する回転軸Rで回転させる駆動機構20と、を含む。
【0023】
図1(A)に示される例では、熱サイクル装置1は、本体10と駆動機構20とを含んで構成されている。図2に示されるように、本体10は、装着部11及び温度勾配形成部30を含んで構成されている。
【0024】
装着部11は、反応容器100を装着する構造である。図1(B)及び図2に示される例では、熱サイクル装置1の装着部11は、反応容器100を差し込んで装着するスロット構造である。図2に示される例では、装着部11は、後述される、第1加熱部12の第1ヒートブロック12b、スペーサー14及び第2加熱部13の第2ヒートブロック13bを貫通する穴に反応容器100を差し込む構造となっている。本体10に設けられる装着部11の数は複数であってもよく、図1(B)に示される例では、20個の装着部11が本体10に設けられている。また、図2及び図3に示される例では、装着部11が温度勾配形成部30の一部として構成されているが、駆動機構20を動作させた場合に両者の位置関係が変化しない限り、装着部11と温度勾配形成部30とは別の部材として構成されていてもよい。
【0025】
なお、本実施形態においては、装着部11がスロット構造である例を示したが、装着部11は反応容器100を保持できる構造であればよい。例えば、反応容器100の形状に合わせた窪みに反応容器100をはめ込む構造や、反応容器100を挟んで保持する構造を採用してもよい。
【0026】
温度勾配形成部30は、装着部11に反応容器100を装着した場合に、流路110に対して、反応液140が移動する方向に温度勾配を形成する。ここで、「温度勾配を形成する」とは、所定の方向に沿って温度が変化する状態を形成することを意味する。したがって、「反応液140が移動する方向に温度勾配を形成する」とは、反応液140が移動する方向に沿って温度が変化する状態を形成することを意味する。「所定の方向に沿って温度が変化する状態」は、例えば、所定の方向に沿って温度が単調に高く又は低くなっていてもよいし、所定の方向に沿って、温度が高くなる変化から低くなる変化へ、又は、低くなる変化から高くなる変化へ、途中で変化していてもよい。図2に示される例では、温度勾配形成部30は、第1加熱部12及び第2加熱部13を含んで構成されている。熱サイクル装置1の本体10においては、第1加熱部12が底板17から相対的に近い側、第2加熱部13が底板17から相対的に遠い側に配置されている。また、第1加熱部12と第2加熱部13との間にはスペーサー14が設けられている。熱サイクル装置1の本体10においては、第1加熱部12、第2加熱部13及びスペーサー14は、その周囲をフランジ16、底板17及び固定板19で固定されている。なお、所望の反応精度が確保できる程度に温度勾配が形成される限り、温度勾配形成部30に含まれる加熱部の数は任意である。例えば、温度勾配形成部30を1つの加熱部で構成することにより、使用する部材の数を減らすことができるので、製造コストを削減できる。
【0027】
第1加熱部12は、装着部11に反応容器100を装着した場合に、反応容器100の第1領域111を第1の温度に加熱する。図3に示される例では、第1加熱部12は、本体10において、反応容器100の第1領域111を加熱する位置に配置されている。
【0028】
第1加熱部12は、熱を発生させる機構と、発生した熱を反応容器100に伝える部材とを含んでもよい。図2に示される例では、第1加熱部12は、熱を発生させる機構としての第1ヒーター12aと、発生した熱を反応容器100に伝える部材としての第1ヒートブロック12bを含んで構成されている。
【0029】
熱サイクル装置1においては、第1ヒーター12aはカートリッジヒーターであり、導線15によって図示しない外部電源に接続される。第1ヒーター12aとしてはこれに限らず、カーボンヒーター、シートヒーター、IHヒーター(電磁誘導加熱器)、ペルチェ素子、加熱液体、加熱気体などを使用できる。第1ヒーター12aは第1ヒートブロック12bに挿入されており、第1ヒーター12aが発熱することで第1ヒートブロック12bが加熱される。第1ヒートブロック12bは、第1ヒーター12aから発生した熱を反応容器100に伝える部材である。熱サイクル装置1においては、第1ヒートブロック12bは、アルミニウム製のブロックである。カートリッジヒーターは温度制御が容易であるので、第1ヒーター12aをカートリッジヒーターとすることで、第1加熱部12の温度を容易に安定させることができる。したがって、より正確な熱サイクルを実現できる。
【0030】
ヒートブロックの材質は熱伝導率、保温性、加工しやすさ等の条件を考慮して適宜選択できる。例えば、アルミニウムは熱伝導率が高いので、第1ヒートブロック12bをアルミニウム製とすることで、反応容器100を効率よく加熱できる。また、ヒートブロックに加熱ムラが生じにくいので、精度の高い熱サイクルを実現できる。また、加工が容易なので第1ヒートブロック12bを精度よく成型でき、加熱の精度を高めることができる。したがって、より正確な熱サイクルを実現できる。なお、ヒートブロックの材質は、例えば銅合金を使用してもよく、複数の材質を組み合わせてもよい。
【0031】
第1加熱部12は、装着部11に反応容器100を装着した場合に、反応容器100に接触していることが好ましい。これにより、第1加熱部12によって反応容器100を加熱した場合に、第1加熱部12の熱を反応容器100に安定して伝えることができるので、反応容器100の温度を安定させることができる。本実施形態のように、装着部11が第1加熱部12の一部として形成されている場合には、装着部11が反応容器100と接触することが好ましい。これにより、第1加熱部12の熱を反応容器100に安定して伝えることができるので反応容器100を効率よく加熱できる。
【0032】
第2加熱部13は、装着部11に反応容器100を装着した場合に、反応容器100の第2領域112を、第1の温度とは異なる第2の温度に加熱する。図3に示される例では、第2加熱部13は、本体10において、反応容器100の第2領域112を加熱する位置に配置されている。第2加熱部13は、第2ヒーター13a及び第2ヒートブロック13bを含む。第2加熱部13の構成は、加熱される反応容器100の領域及び加熱する温度が第1加熱部12と異なる以外は、第1加熱部12と同様である。なお、第1加熱部12と第2加熱部13とで異なる加熱機構を採用してもよい。また、第1ヒートブロック12bと第2ヒートブロック13bとが異なる材質であってもよい。
【0033】
なお、第2加熱部13の代わりに第2領域112を冷却する冷却部を設けてもよい。冷却部としては、例えばペルチェ素子を使用できる。これにより、例えば、反応容器100の第1領域111からの熱によって第2領域112の温度が低下しにくい場合にも、流路110に所望の温度勾配を形成できる。また、例えば、加熱と冷却を繰り返す熱サイクルを反応液140に施すことができる。
【0034】
また、図2及び図3に示されるように装着部11が温度勾配形成部30の一部として構成されている場合には、装着部11を反応容器100に密着させる機構を設けてもよい。装着部11を反応容器100に密着させる機構は、反応容器100の少なくとも一部を装着部11に密着させることができればよい。例えば、本体10や蓋50に設けたバネによって反応容器100を装着部11の一方の壁面に押し付けてもよい。これにより、温度勾配形成部30の熱を反応容器100にさらに安定して伝えることができるので、反応容器100の温度をさらに安定させることができる。
【0035】
第1加熱部12及び第2加熱部13の温度は、図示しない温度センサー及び後述される制御部によって制御されてもよい。第1加熱部12及び第2加熱部13の温度は、反応容器100が所望の温度に加熱されるように設定されることが好ましい。本実施形態においては、第1加熱部12を第1の温度に、第2加熱部13を第2の温度に制御することで、反応容器100の第1領域111を第1の温度に、第2領域112を第2の温度に加熱できる。なお、第1加熱部12及び第2加熱部13の温度は、反応容器100の第1領域111及び第2領域112が所望の温度に加熱されるように制御されていればよい。例えば、反応容器100の材質や大きさを考慮することで、第1領域111及び第2領域112の温度をより正確に所望の温度に加熱できる。また、本実施形態における温度センサーは熱電対である。なお、温度センサーとしてはこれに限らず、例えば測温抵抗体やサーミスタを使用してもよい。
【0036】
駆動機構20は、装着部11及び温度勾配形成部30を、重力の作用する方向に対して垂直な成分を有し、かつ、装着部11に反応容器1を装着した場合に流路110を反応液140が移動する方向に対して垂直な成分を有する回転軸Rで回転させる機構である。
【0037】
「重力の作用する方向に対して垂直な成分を有する」方向は、「重力の作用する方向に対して平行な成分」と「重力の作用する方向に対して垂直な成分」とのベクトル和で表した場合における、重力の作用する方向に対して垂直な成分を有する方向である。
【0038】
「流路110を反応液140が移動する方向に対して垂直な成分を有する」方向は、「流路110を反応液140が移動する方向に対して平行な成分」と「流路110を反応液140が移動する方向に対して垂直な成分」とのベクトル和で表した場合における、流路110を反応液140が移動する方向に対して垂直な成分を有する方向である。
【0039】
第1実施形態に係る熱サイクル装置1においては、駆動機構20は、装着部11及び温度勾配形成部30を、同一の回転軸Rで回転させている。また、本実施形態においては、駆動機構20は図示しないモーター及び駆動軸を含み、駆動軸と本体10のフランジ16とが接続されて構成されている。駆動機構20のモーターを動作させると、駆動軸を回転軸Rとして本体10が回転される。回転軸Rと装着部11との位置関係については、「2.回転軸と装着部との位置関係」の項で詳述される。なお、駆動機構20としては、モーターに限らず、例えばハンドル、ぜんまい等を採用できる。
【0040】
熱サイクル装置1は、図示しない制御部を含んでいてもよい。制御部は、駆動機構20及び温度勾配形成部30のうち、少なくとも1つを制御する。制御部による制御例については、「4.熱サイクル装置の熱サイクル処理手順例」の項で詳述される。制御部は、専用回路により実現して後述される制御を行うように構成されていてもよい。また、制御部は、例えばCPU(Central Processing Unit)がROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の記憶装置に記憶された制御プログラムを実行することによりコンピューターとして機能し、後述される制御を行うように構成されていてもよい。この場合、記憶装置は、制御に伴う中間データや制御結果などを一時的に記憶するワークエリアを有していてもよい。
【0041】
熱サイクル装置1の本体10は、図2及び図3に示されるように、第1加熱部12と第2加熱部13との間にスペーサー14が設けられている。スペーサー14は、第1加熱部12又は第2加熱部13を保持する部材である。スペーサー14を設けることにより、第1加熱部12と第2加熱部13との間の距離を、より正確に定めることができる。すなわち、反応容器100の第1領域111及び第2領域112に対する第1加熱部12及び第2加熱部13の位置を、より正確に定めることができる。
【0042】
スペーサー14の材質は必要に応じて適宜選択できるが、断熱材であることが好ましい。これにより、第1加熱部12及び第2加熱部13の熱が相互に及ぼす影響を少なくできるので、第1加熱部12及び第2加熱部13の温度制御が容易になる。スペーサー14が断熱材である場合には、装着部11に反応容器100を装着した場合に、第1加熱部12と第2加熱部13との間の領域において反応容器100を囲むようにスペーサー14が配置されることが好ましい。これにより、反応容器100の第1加熱部12と第2加熱部13との間の領域からの放熱を抑制できるので、反応容器100の温度がより安定する。本実施形態においては、スペーサー14は断熱材であり、図3に示される例では、装着部11はスペーサー14を貫通して構成されている。これにより、第1加熱部12及び第2加熱部13によって反応容器100を加熱した場合に、反応容器100の熱が逃げにくくなるので、第1領域111及び第2領域112の温度をより安定させることができる。
【0043】
熱サイクル装置1の本体10は、固定板19を含んでいてもよい。固定板19は、装着部11、第1加熱部12及び第2加熱部13を保持する部材である。図1(B)及び図2に示される例では、固定板19は、フランジ16に嵌め合わされて構成されている。また、固定板19には、第1加熱部12、第2加熱部13及び底板17が固定されている。固定板19によって本体10の構造がより強固になるので、本体10が破損しにくくなる。
【0044】
熱サイクル装置1は、蓋50を含んでいてもよい。図1(A)及び図3に示される例では、蓋50は、装着部11を覆うように設けられている。蓋50が装着部11を覆うことで、第1加熱部12によって加熱をした場合に、熱サイクル装置1から外部への放熱を抑制できるので、熱サイクル装置1内の温度を安定させることができる。蓋50は、固定部51によって本体10に固定されてもよい。本実施形態においては、固定部51は磁石である。なお、固定部51としてはこれに限らず、例えば、蝶番やキャッチクリップを採用してもよい。図1(B)及び図2に示される例では、本体10の蓋50が接触する面の一部には磁石が設けられている。図1(B)及び図2には示されていないが、蓋50にも、本体10の磁石が接触する位置に磁石が設けられており、蓋50で装着部11を覆うと、磁力によって蓋50が本体10に固定される。これにより、駆動機構20によって本体10を駆動した場合に蓋50が外れたり動いたりすることを防止できる。したがって、蓋50が外れることで熱サイクル装置1内の温度が変化することを防止できるので、より正確な熱サイクルを後述する反応液140に施すことができる。
【0045】
本体10は、気密性の高い構造であることが好ましい。本体10が気密性の高い構造であると、本体10内部の空気が本体10の外部に逃げにくいので、本体10内の温度がより安定する。本実施形態においては、図2に示されるように、2個のフランジ16、底板17、2枚の固定板19、及び蓋50によって、本体10内部の空間が密閉される。
【0046】
また、固定板19、底板17、蓋50、フランジ16は断熱材を用いて構成されることが好ましい。これにより、本体10から外部への放熱をさらに抑制できるので、本体10内の温度をより安定させることができる。
【0047】
熱サイクル装置1は、反応容器100を第1加熱部12及び第2加熱部13に対して所定の位置に保持する構造を含むことが好ましい。これにより、第1加熱部12及び第2加熱部13によって反応容器100の所定の領域を加熱できる。より具体的には、反応容器100を構成する流路110の、第1領域111を第1加熱部12によって、第2領域112を第2加熱部13によって、加熱できる。本実施形態においては反応容器100の位置を定める構造は底板17である。図3に示されるように、反応容器100が底板17に接触する位置まで差し込まれると、第1加熱部12及び第2加熱部13に対して反応容器100を所定の位置に保持できる。
【0048】
なお、反応容器100の位置を定める構造は所望の位置に反応容器100を保持できるものであればよい。反応容器100の位置を定める構造は、熱サイクル装置1に設けられた構造であっても、反応容器100に設けられた構造であっても、両方の組み合わせであってもよい。例えば、螺子、差込式の棒、反応容器100に突出部を設けた構造、装着部11と反応容器100とが嵌合する構造を採用できる。螺子や棒を用いる場合には、螺子の長さやねじ込む長さ、棒を差込む位置を変更することで、熱サイクルの反応条件や反応容器100の大きさ等に合わせて保持する位置を調節できるようにしてもよい。
【0049】
熱サイクル装置1は、本体10の温度を一定に保つ機構を有してもよい。これにより、反応容器100の温度がより安定するので、より正確な熱サイクルを反応液140に施すことができる。本体10を保温する機構としては、例えば恒温槽を採用できる。
【0050】
図2及び図3に示されるスペーサー14及び固定板19は、透明であってもよい。これにより、透明な反応容器100を熱サイクル処理に使用した場合に、装置の外部から反応液140が移動する様子を観察できる。したがって、熱サイクル処理が適切に行われているか否かを、目視により確認できる。したがって、ここでの「透明」の程度は、これらの部材を熱サイクル装置1に採用して熱サイクル処理を行った場合に、反応液140の移動が視認できる程度であればよい。
【0051】
熱サイクル装置1の内部を観察するためには、スペーサー14を透明にして固定板19を無くしても、固定板19を透明にしてスペーサー14を無くしても、スペーサー14と固定板19の両方を無くしてもよい。観察者と観察対象の反応容器100の間に存在する部材が少ないほど、物体による光の屈折の影響が少なくなるので、内部の観察が容易になる。また、スペーサー14及び固定板19の少なくとも一方をなくすことにより、部材が少なくなるため、製造コストを削減できる。
【0052】
本実施形態においては、熱サイクル装置1が蓋50を含む例を示したが、蓋50は無くてもよい。これにより、使用する部材の数を減らすことができるので、製造コストを削減できる。
【0053】
本実施形態においては、熱サイクル装置1が底板17を含む例を示したが、図8に示されるように、底板17は無くてもよい。これにより、使用する部材の数を減らすことができるので、製造コストを削減できる。
【0054】
2.回転軸と装着部との位置関係
次に、図3を参照しながら、回転軸Rと装着部11との位置関係について説明する。熱サイクル装置1において、回転軸Rに垂直な平面に投影した場合(換言すれば、回転軸Rに垂直な平面で熱サイクル装置1を切断する断面視において)、回転軸Rから流路110内の点までの最長距離(図3においては距離d1)が、流路110内の2点間を結ぶ最長距離(図3においては距離d2)よりも小さい。
【0055】
図3は、図1(A)のA−A線を通り回転軸Rに垂直な面における断面を模式的に示す断面図であるので、距離d1及び距離d2に関しては、熱サイクル装置1の本体10を回転軸Rに垂直な平面に投影した図と実質的に等価である。したがって、以下では図3を用いて距離d1及び距離d2を説明する。
【0056】
距離d1は、熱サイクル装置1が投影された回転軸Rに垂直な平面内において、流路110内から選択される点のうち、回転軸Rから、回転軸Rからの距離が最長となる点までの距離を表す。距離d2は、熱サイクル装置1が投影された回転軸Rに垂直な平面内において、流路110内から選択される2点のうち、選択された2点間を結ぶ距離が最長となる2点間の距離を表す。図3においては、流路110の断面は長方形であるので、距離d1は回転軸Rを表す点から該長方形の右下角の点までの距離であり、距離d2は該長方形の対角線の長さに相当する。したがって、距離d1は距離d2よりも小さく構成されている。
【0057】
本実施形態によれば、回転軸Rは、重力の作用する方向に対して垂直な成分を有し、かつ、装着部11に反応容器100を装着した場合に反応容器100の流路110を反応液140が移動する方向に対して垂直な成分を有する軸であるため、駆動機構20が装着部11を回転させることによって、装着部11に装着される反応容器100の流路110内の重力の作用する方向における最下点又は最上点の位置が変化する。これにより、温度勾配形成部30によって温度勾配が形成された流路110内を反応液140が移動する。したがって、反応液140に対して熱サイクルを施すことができる。また、本実施形態によれば、回転軸Rに垂直な平面に投影した場合に、回転軸Rから反応容器100の流路110内の点までの最長距離d1が、反応容器100の流路110内の2点間を結ぶ最長距離d2よりも小さいため、駆動機構20による回転半径を小さくできる。したがって、小型化に適した熱サイクル装置を実現できる。
【0058】
図3に示すように、熱サイクル装置1において、装着部11は、反応容器100をそれぞれ装着する第1の装着部11a及び第2の装着部11bを含み、第1の装着部11aに装着される反応容器100における反応液140が移動する方向と、第2の装着部11bに装着される反応容器100における反応液140が移動する方向とが平行であってもよい。ここで「平行」とは、完全に平行な状態のみならず、熱サイクル装置として所望の精度が確保できる程度に平行に近い状態を含む。装着部11が3つ以上の反応容器100を装着できる構成である場合には、第1の装着部11a及び第2の装着部11bは、装着部11のうち、任意に選択された2つの反応容器100を装着する部分であってもよい。
【0059】
本実施形態によれば、第1の装着部11aに装着される反応容器100における反応液140が移動する方向と、第2の装着部11bに装着される反応容器100における反応液140が移動する方向とが平行であるため、駆動機構20によって装着部11が回転軸Rで回転させられた場合に、第1の装着部11aに装着される反応容器100における反応液140と、第2の装着部11bに装着される反応容器100における反応液140とは、同一のタイミングで移動する。換言すれば、2つの反応液140が移動を開始する時刻を同期させることができる。したがって、第1の装着部11aに装着される反応容器100と第2の装着部11bに装着される反応容器100とに対して、同一のタイミングで同一の時間条件の熱サイクルを施すことができる。なお、ここでの「同一」の程度は、反応の精度に影響が無い程度の範囲である。
【0060】
図3に示すように、熱サイクル装置1において、回転軸Rに垂直な平面に投影した場合に、第1の装着部11aと第2の装着部11bとが異なる位置にあってもよい。
【0061】
本実施形態によれば、回転軸Rに垂直な平面に投影した場合に、第1の装着部11aと第2の装着部11bとが異なる位置にあることにより、第1の装着部11aと第2の装着部11bとの相対的な配置を、回転軸R方向から見た奥行き方向以外の配置とすることもできる。これにより、回転軸R方向から見た奥行き方向の装置の大きさを節約できる。したがって、小型化に適した熱サイクル装置を実現できる。
【0062】
図3に示すように、熱サイクル装置1において、回転軸Rに垂直な平面に投影した場合に、回転軸Rが、第1の装着部11aと第2の装着部11bとに挟まれる領域にあってもよい。換言すれば、熱サイクル装置1において、回転軸Rに垂直な平面で熱サイクル装置1を切断する断面視において、回転軸Rが、第1の装着部11aと第2の装着部11bとの間に位置していてもよい。
【0063】
本実施形態によれば、回転軸Rに垂直な平面に投影した場合に、回転軸Rが、第1の装着部11aと第2の装着部11bとに挟まれる領域にあるので、装着部11が第1の装着部11aと第2の装着部11bとを含んでいる場合においても、駆動機構20による回転半径を小さくできる。したがって、小型化に適した熱サイクル装置を実現できる。
【0064】
3.第1実施形態に係る熱サイクル装置に装着される反応容器の構成
図4は、第1実施形態に係る熱サイクル装置1に装着される反応容器100の構成を表す断面図である。図4において、矢印gは重力の作用する方向を表す。
【0065】
反応容器100は、反応液140と、反応液140とは比重が異なり、かつ、反応液140とは混和しない液体130(以下、「液体130」という)とが充填され、反応液140が対向する内壁に沿って移動する流路110を含む。本実施形態においては、液体130は、反応液140よりも比重が小さく、かつ、反応液140とは混和しない液体である。なお、液体130として、例えば、反応液140とは混和せず、かつ、反応液140よりも比重が大きい液体を採用してもよい。図4に示される例では、反応容器100は流路110及び封止部120を含む。流路110には、反応液140と、液体130とが充填され、封止部120によって封止されている。
【0066】
流路110は、対向する内壁に沿って反応液140が移動するように形成されている。ここで、流路110の「対向する内壁」とは、流路110の壁面の、向かい合う位置関係にある2つの領域を意味する。「沿って」とは、反応液140と流路110の壁面との距離が近い状態を意味し、反応液140が流路110の壁面に接触する状態を含む。したがって、「対向する内壁に沿って反応液140が移動する」とは、「流路110の壁面の、向かい合う位置関係にある2つの領域の両方に対して距離が近い状態で、反応液140が移動する」ことを意味する。換言すれば、流路110の対向する2つ内壁間の距離は、反応液140が該内壁に沿って移動する程度の距離である。
【0067】
反応容器100の流路110がこのような形状であると、流路110内を反応液140が移動する方向を規制できるので、流路110内を反応液140が移動する経路をある程度規定できる。これにより、流路110内を反応液140が移動する所要時間を、ある程度の範囲に制限できる。したがって、流路110の対向する2つ内壁間の距離は、流路110内を反応液140が移動する時間のバラツキによって生じる、反応液140に対して施される熱サイクル条件のバラツキが、所望の精度を満たせる程度、すなわち、反応の結果が所望の精度を満たせる程度であることが好ましい。より具体的には、流路110の対向する2つの内壁間の反応液140が移動する方向に対して垂直な方向における距離が、反応液140の液滴が2つ以上入らない程度であることが望ましい。
【0068】
図4に示される例では、反応容器100の外形は円柱状であり、中心軸に沿う方向(図4における上下方向)を長手方向とする流路110が形成されている。流路110の形状は、流路110の長手方向に対して垂直な方向の断面、すなわち流路110のある領域における反応液140が移動する方向に対して垂直な断面(これを流路110の「断面」とする)が円形となる円柱状である。したがって、反応容器100においては、流路110の対向する内壁は、流路110の断面の中心を挟んで対向する流路110の壁面上の2点を含む領域である。また、「反応液140が移動する方向」は、流路110の長手方向となる。
【0069】
なお、流路110の断面の形状は円形に限らず、多角形や楕円形など、対向する内壁に沿って反応液140が移動できる限り任意である。例えば、反応容器100の流路110の断面が多角形の場合には、「対向する内壁」は、流路110に内接する断面が円形の流路を仮定した場合に、該流路の対向する内壁であるものとする。すなわち、流路110に内接する、断面が円形の仮想流路の対向する内壁に沿って反応液140が移動するように流路110が形成されていればよい。これにより、流路110の断面が多角形の場合にも、第1領域111と第2領域112との間を反応液140が移動する経路をある程度規定できる。したがって、反応液140が第1領域111と第2領域112との間を移動する所要時間を、ある程度の範囲に制限できる。
【0070】
反応容器100の第1領域111は、第1加熱部12によって第1の温度に加熱される、流路110の一部の領域である。第2領域112は、第2加熱部13によって第1の温度とは異なる第2の温度に加熱される、第1領域111とは異なる流路110の一部の領域である。図4に示される例では、第1領域111は、流路110の長手方向における一方の端部を含む領域であり、第2領域112は、流路110の長手方向における他方の端部を含む領域である。図4に示される例では、流路110のうち封止部120に相対的に遠い側の端部を含む点線で囲まれた領域が第1領域111であり、流路110のうち封止部120に相対的に近い側の端部を含む点線で囲まれた領域が第2領域112である。本実施形態に係る熱サイクル装置1は、温度勾配形成部30の第1加熱部12が反応容器100の第1領域111を第1の温度に加熱し、温度勾配形成部30の第2加熱部13が反応容器100の第2領域112を第2の温度に加熱することにより、反応容器100の流路110に対して、反応液140が移動する方向に温度勾配を形成する。
【0071】
流路110には、液体130と、反応液140とが充填されている。液体130は、反応液140とは混和しない、すなわち混ざり合わない性質であるため、図4に示されるように、反応液140は液体130の中に液滴の状態で保持されている。反応液140は、液体130よりも比重が大きいため、流路110の重力の作用する方向における最下部の領域に位置している。液体130としては、例えば、ジメチルシリコーンオイル又はパラフィンオイルを使用できる。反応液140は、反応に必要な成分を含む液体である。反応がPCRである場合には、反応液140には、PCRによって増幅されるDNA(標的核酸)、DNAを増幅するために必要なDNAポリメラーゼ、並びにプライマー等が含まれる。例えば、液体130としてオイルを用いてPCRを行う場合には、反応液140は上記の成分を含む水溶液であることが好ましい。
【0072】
4.熱サイクル装置の熱サイクル処理手順例
次に、第1実施形態に係る熱サイクル装置1の熱サイクル処理手順例について説明する。以下では、駆動機構20が、装着部11に反応容器100を装着した場合に、装着部11及び温度勾配形成部30を、第1の配置と、流路110内において重力の作用する方向における最下点の位置が第1の配置とは異なる第2の配置との間で回転させる制御を例にとり説明する。
【0073】
図5(A)は、第1の配置における、図1(A)のA−A線を通り回転軸Rに垂直な面における断面を模式的に示す断面図、図5(B)は、第2の配置における図1(A)のA−A線を通り回転軸Rに垂直な面における断面を模式的に示す断面図である。図5(A)及び図5(B)において、白抜き矢印は本体10の回転方向、矢印gは重力の作用する方向を表す。
【0074】
図5(A)に示されるように、第1の配置は、流路110のうち封止部120に相対的に遠い側の端部が重力の作用する方向における最下点となる配置である。すなわち、第1の配置は、装着部11に反応容器100を装着した場合に、反応容器100の第1領域111を、重力の作用する方向における流路110の最下部に位置させる配置である。図5(A)に示される例では、第1の配置では、液体130よりも比重が大きい反応液140は第1領域111に存在する。したがって、反応液140は第1の温度の下に置かれる。
【0075】
図5(B)に示されるように、第2の配置は、流路110のうち封止部120に相対的に近い側の端部が重力の作用する方向における最下点となる配置である。すなわち、第2の配置は、装着部11に反応容器100を装着した場合に、反応容器100の第2領域112を、重力の作用する方向における流路110の最下部に位置させる配置である。図5(B)に示される例では、第2の配置では、液体130よりも比重が大きい反応液140は第2領域112に存在する。したがって、反応液140には第2の温度の下に置かれる。
【0076】
このように、駆動機構20が、装着部11及び温度勾配形成部30を、第1の配置と、第1の配置とは異なる第2の配置との間で回転させることにより、反応液140に対して熱サイクルを施すことができる。
【0077】
駆動機構20は、第1の配置から第2の配置へと回転させる場合と、第2の配置から第1の配置へと回転させる場合とで、反対方向に装着部11及び温度勾配形成部30を回転させてもよい。これにより、回転によって生じる導線15などの配線の捩れを低減するための特別な機構が不要となる。したがって、小型化に適した熱サイクル装置を実現できる。また、第1の配置から第2の配置へと回転させる場合の回転数、及び、第2の配置から第1の配置へと回転させる場合の回転数は、1回転未満(回転角度が360°未満)であることが好ましい。これにより、配線が捩れる程度を軽減できる。
【0078】
次に、熱サイクル処理の例としてシャトルPCR(2段階温度PCR)を行う場合を例にとり、第1実施形態に係る熱サイクル装置1の熱サイクル処理手順例についてより具体的に説明する。シャトルPCRは、高温と低温の2段階の温度処理を繰り返し反応液に施すことにより、反応液中の核酸を増幅させる手法である。高温の処理においては2本鎖DNAの解離が、低温の処理においてはアニーリング(プライマーが1本鎖DNAに結合する反応)及び伸長反応(プライマーを始点としてDNAの相補鎖が形成される反応)が行われる。一般に、シャトルPCRにおける高温は80℃から100℃の間の温度、低温は50℃から75℃の間の温度である。各温度における処理は所定時間行われ、高温に保持する時間は低温に保持する時間よりも短いことが一般的である。例えば、高温が1秒から10秒程度、低温が10秒から60秒程度としてもよく、反応の条件によってはこれよりも長い時間又は短い時間であってもよい。なお、使用する試薬の種類や量によって、適切な時間、温度及びサイクル数(高温と低温を繰り返す回数)は異なるので、試薬の種類や反応液140の量を考慮して適切なプロトコルを決定した上で反応を行うことが好ましい。
【0079】
図6は、第1実施形態に係る熱サイクル装置1の熱サイクル処理手順例を説明するためのフローチャートである。
【0080】
まず、反応容器100を装着部11に装着する(ステップS100)。本実施形態では、液体130が充填された流路110に反応液140を導入後、封止部120によって封止された反応容器100を装着部11に装着する。反応液140の導入は、マイクロピペットやインクジェット方式の分注装置等を用いて行うことができる。本実施形態においては、装着部11に反応容器100を装着した状態においては、第1加熱部12は第1領域111を含む位置において、第2加熱部13は第2領域112を含む位置において反応容器100に接している。本実施形態においては、図5(A)に示されるように、反応容器100を底板17に接触するように装着することで、第1加熱部12及び第2加熱部13に対して反応容器100を所定の位置に保持できる。なお、本実施形態においては、反応容器100を装着部11に装着した直後においては、装着部11及び温度勾配形成部30の配置は第1の配置となっているものとする。
【0081】
ステップS100の後に、温度勾配形成部30により、反応容器100の流路110に対して温度勾配を形成する(ステップS102)。本実施形態においては、第1加熱部12及び第2加熱部13が反応容器100を加熱することによって、反応容器100の流路110に対して温度勾配を形成する。第1加熱部12と第2加熱部13とは、反応容器100の異なる領域を異なる温度に加熱する。すなわち、第1加熱部12は第1領域111を第1の温度に加熱し、第2加熱部13は第2領域112を第2の温度に加熱する。これにより、流路110の第1領域111と第2領域112との間には、第1の温度と第2の温度との間で温度が変化する温度勾配が形成される。本実施形態においては、第1の温度は、熱サイクル処理において目的とする反応に適した温度のうち相対的に高い温度であり、第2の温度は、熱サイクル処理において目的とする反応に適した温度のうち、相対的に低い温度である。したがって本実施形態のステップS102においては、第1領域111から第2領域112へ向けて温度が低くなる温度勾配が形成される。本実施形態の熱サイクル処理はシャトルPCRであるので、第1の温度は2本鎖DNAの解離に適した温度、第2の温度はアニーリング及び伸長反応に適した温度とすることが好ましい。
【0082】
ステップS102における装着部11及び温度勾配形成部30の配置は第1の配置であるので、ステップS102において反応容器100を加熱すると、反応液140は第1の温度に加熱される。したがって、ステップS102においては、反応液140に対して第1の温度における反応が開始される。
【0083】
ステップS102の後に、第1の配置において、第1の時間が経過したか否かを判定する(ステップS104)。本実施形態においては、図示しない制御部が第1の時間が経過したか否かを判定する。第1の時間は、第1の配置に装着部11及び温度勾配形成部30を保持する時間である。本実施形態において、ステップS100で反応容器100を装着した後に熱サイクル装置1を作動させた場合には、ステップS100で反応容器100を装着した後において、最初に実行されるステップS104では、熱サイクル装置1を作動させてからの時間が第1の時間に達したか否かを判定してもよい。第1の配置においては、反応液140は第1の温度に加熱されるので、第1の時間は、目的とする反応において反応液140を第1の温度で反応させる時間とすることが好ましい。本実施形態においては、2本鎖DNAの解離に必要な時間とすることが好ましい。
【0084】
ステップS104において、第1の時間が経過していないものと判定した場合(ステップS104でNOの場合)には、第1の配置を保持する(ステップS106)。ステップS106の後、ステップS104において、第1の時間が経過したものと判定するまで、ステップS104とステップS106とを繰り返す。
【0085】
ステップS104において、第1の時間が経過したものと判定した場合(ステップS104でYESの場合)には、駆動機構20により、装着部11及び温度勾配形成部30を第1の配置から第2の配置へ回転させる(ステップS108)。本実施形態の熱サイクル装置1においては、制御部の制御によって駆動機構20が本体10を回転駆動することにより、装着部11及び温度勾配形成部30を、同一の回転軸Rで第1の配置から第2の配置へ回転させる。本実施形態においては、駆動軸を回転軸Rとして、モーターによってフランジ16を回転駆動すると、フランジ16に固定されている装着部11及び温度勾配形成部30が回転される。回転軸Rは、反応液140が移動する方向に対して垂直な成分を有する方向の軸であるので、モーターの動作によって駆動軸が回転すると、装着部11及び温度勾配形成部30が回転される。図5(A)及び図5(B)に示される例では、駆動機構20は、回転軸Rで本体10を180°回転させる。
【0086】
ステップS108において、装着部11及び温度勾配形成部30の配置が、第1領域111と第2領域112との重力の作用する方向における位置関係が第1の配置とは逆である第2の配置になるので、反応液140は重力の作用によって第1領域111から第2領域112へと移動する。装着部11及び温度勾配形成部30の配置が第2の配置に達した場合に、制御部が駆動機構20の動作を停止すると、装着部11及び温度勾配形成部30の配置が第2の配置に保持される。
【0087】
ステップS108の後に、第2の配置において、第2の時間が経過したか否かを判定する(ステップS110)。本実施形態においては、図示しない制御部が第2の時間が経過したか否かを判定する。本実施形態においては、第2領域112はステップS102において第2の温度に加熱されているので、ステップS110においては、ステップS108で装着部11及び温度勾配形成部30の配置が第2の配置に達してからの時間が第2の時間に達したか否かを判定してもよい。第2の時間は、第2の配置に装着部11及び温度勾配形成部30を保持する時間である。第2の配置においては、反応液140は第2の温度に加熱されるので、第2の時間は、目的とする反応において反応液140を第2の温度で反応させる時間とすることが好ましい。本実施形態においては、アニーリングと伸長反応に必要な時間とすることが好ましい。
【0088】
ステップS110において、第2の時間が経過していないものと判定した場合(ステップS110でNOの場合)には、第2の配置を保持する(ステップS112)。ステップS112の後、ステップS110において、第2の時間が経過したものと判定するまで、ステップS110とステップS112とを繰り返す。
【0089】
ステップS110において、第2の時間が経過したものと判定した場合(ステップS110でYESの場合)には、熱サイクルの回数が所定のサイクル数に達したか否かを判定する(ステップS114)。本実施形態においては、図示しない制御部が熱サイクルの回数が所定のサイクル数に達したか否かを判定する。具体的には、ステップS110の手順が、所定回数完了したか否かを判定する。本実施形態においては、ステップS110が完了した回数は、ステップS110で「YES」と判定された回数で判定される。ステップS104からステップS110までの一連の手順が1回行われると、反応液140に熱サイクルが1サイクル施されるので、ステップS110が完了した回数を、熱サイクルのサイクル数とすることができる。したがって、ステップS114により、目的とする反応に必要な回数の熱サイクルが反応液140に施されたか否かを判定できる。
【0090】
ステップS114において、熱サイクルの回数が所定のサイクル数に達していないものと判定した場合(ステップS114でNOの場合)には、駆動機構20により、装着部11及び温度勾配形成部30を第2の配置から第1の配置へ回転させる(ステップS116)。本実施形態の熱サイクル装置1においては、制御部の制御によって駆動機構20が本体10を回転駆動することにより、装着部11及び温度勾配形成部30を、同一の回転軸Rで第2の配置から第1の配置へ回転させる。本実施形態においては、駆動軸を回転軸Rとして、モーターによってフランジ16を回転駆動すると、フランジ16に固定されている装着部11及び温度勾配形成部30が回転される。回転軸Rは、反応液140が移動する方向に対して垂直な成分を有する方向の軸であるので、モーターの動作によって駆動軸が回転すると、装着部11及び温度勾配形成部30が回転される。図5(A)及び図5(B)に示される例では、駆動機構20は、回転軸Rで本体10を180°回転させる。
【0091】
ステップS116の後に、再びステップS104を行う。ステップS116の後にステップS104を行う場合には、装着部11及び温度勾配形成部30の配置が第1の配置に達してからの時間が第1の時間に達したか否かを判定してもよい。
【0092】
ステップS114において、熱サイクルの回数が所定のサイクル数に達したものと判定した場合(ステップS114でYESの場合)には、熱サイクル処理を終了する。
【0093】
なお、ステップS108とステップS116とで、装着部11及び温度勾配形成部30を、駆動機構20によって反対方向に回転させてもよい。これにより、回転によって生じる導線15などの配線の捩れを低減するための特別な機構(例えば、スリップリング)が不要となる。したがって、小型化に適した熱サイクル装置を実現できる。
【0094】
また、ステップS108とステップS116とで、同じ方向への回転を複数回行った後に、反対方向へ同じ回数回転させてもよい。これにより、配線に生じた捩れを解消できるので、回転によって生じる導線15などの配線の捩れを低減するための特別な機構(例えば、スリップリング)が不要となる。したがって、小型化に適した熱サイクル装置を実現できる。
【0095】
本実施形態に係る熱サイクル装置1においては、第1の配置及び第2の配置において反応容器100を保持する時間の長さが反応液140を加熱する時間に相当する。したがって、熱サイクル処理において反応液140を加熱する時間を容易に制御できる。
【0096】
また、本実施形態の熱サイクル装置1は、第1の時間が経過した場合に第1の配置から第2の配置へ、第2の時間が経過した場合に第2の配置から第1の配置へ、装着部11及び温度勾配形成部30の配置を切換える。これにより、反応液140は第1の温度に第1の時間、第2の温度に第2の時間加熱されるので、反応液140を加熱する時間をより正確に制御できる。したがって、より正確な熱サイクルを反応液140に施すことができる。
【0097】
上述の熱サイクル処理手順例においては、第1の温度及び第2の温度は熱サイクル処理の開始から終了まで一定としたが、第1の温度及び第2の温度のうち少なくとも一方を処理の途中で変更してもよい。すなわち、温度勾配形成部30は、複数パターンの温度勾配を形成できるように構成されていてもよい。第1の温度及び第2の温度は、制御部が温度勾配形成部30を制御することによって変更できる。したがって、温度勾配形成部30を構成するヒーターの数を増やしたり、装置の構造を複雑にしたりすることなく、例えば逆転写PCR(RT−PCR、反応の概要は「6.実施例」の項で後述される)のような、2種類以上の温度の組み合わせを必要とする反応を行うことができる。
【0098】
上述の熱サイクル処理手順例においては、駆動機構20の回転によって装着部11及び温度勾配形成部30の配置を切換える場合の回転角度が180°である例を示したが、回転角度は、流路110内の温度勾配に対して、反応液140が存在する位置を変化させることができる角度であればよい。例えば、回転角度が180°未満であれば、反応液140の移動速度が遅くなる。したがって、回転角度を調節することで、反応液140が第1の温度と第2の温度との間を移動する時間を調節できる。すなわち、反応液140の温度が第1の温度と第2の温度との間で変化する時間を調節できる。
【0099】
5.第2実施形態に係る熱サイクル装置及び装着される反応容器の構成
図7(A)は、第2実施形態に係る熱サイクル装置2の蓋50を閉じた状態を表す斜視図、図7(B)は、第2実施形態に係る熱サイクル装置2の蓋50を開けた状態を表す斜視図である。図8は、図7(A)のB−B線を通り回転軸Rに垂直な面における断面を模式的に示す断面図である。図9は、第2実施形態に係る熱サイクル装置2に装着される反応容器100aの構成を表す断面図である。図8及び図9において、矢印gは重力の作用する方向を表す。以下においては第1実施形態に係る熱サイクル装置1とは異なる構成について詳述し、第1実施形態に係る熱サイクル装置1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0100】
図7(A)及び図7(B)に示されるように、熱サイクル装置2の本体10においては、第1加熱部12が底板17から相対的に遠い側、第2加熱部13が底板17から相対的に近い側に配置されている。換言すると、図8に示されるように、第1加熱部12が蓋50から相対的に近い側、第2加熱部13が蓋50から相対的に遠い側に配置されている。
【0101】
図7(A)及び図7(B)に示されるように、熱サイクル装置2は蛍光検出器40を含んでもよい。これにより、例えばリアルタイムPCRのような蛍光検出を伴う用途に熱サイクル装置2を使用できる。蛍光検出器40の数は検出が問題なく行える限り任意である。図7(A)及び図7(B)に示される例では、1個の蛍光検出器40をスライド22に沿って移動させて蛍光検出を行う。蛍光検出を行う場合には、装着部11の内部を蛍光検出できる測定窓18を本体10の第2加熱部13側に設けることが好ましい。これにより、蛍光検出器40と、反応液140との間に存在する部材を少なくすることができるので、より適切な蛍光測定ができる。図8に示される例では、蓋50から遠い側に設けられた第2加熱部13に測定窓18が設けられている。これにより、低温側(アニーリング及び伸長反応を行う温度)で蛍光測定を行うリアルタイムPCRにおいて適切な蛍光測定ができる。蓋50の側から蛍光測定を行う場合には、封止部120や蓋50が測定に影響を与えない設計とすることが好ましい。
【0102】
第2実施形態に係る熱サイクル装置2においては、反応容器100aと装着部11とが勘合するように構成されている。反応容器100aと装着部11とが勘合する構造は、例えば図8及び図9に示されるように、反応容器100aに設けた突出部113を、装着部11に設けた凹部60にはめ込む構造が採用できる。これにより、温度勾配形成部30に対する反応容器100aの向きを一定に保つことができる。したがって、熱サイクルの途中で反応容器100aの向きが変化することを抑制できるので、反応液140に与えられる温度環境をより精密に制御できる。したがって、より正確な熱サイクルを反応液140に施すことができる。
【0103】
熱サイクル装置2は、図7(A)及び図7(B)に示されるように、操作部25を含んでもよい。操作部25はUI(ユーザーインターフェイス)であり、熱サイクル条件を設定するための操作を受け付ける機器である。操作部25を操作することにより、熱サイクル条件として、例えば、第1の温度、第2の温度、第1の時間、第2の時間、及び熱サイクルのサイクル数のうち、少なくとも1つを設定できるように構成されていてもよい。操作部25は制御部と機械的又は電子的に連動しており、操作部25での設定が制御部の制御に反映される。これにより、反応液140に施される熱サイクル条件を変更できるので、所望の熱サイクルを反応液140に施すことができる。操作部25は、上記のいずれかの項目を個別に設定できるものであっても、例えば事前に登録した複数の熱サイクル条件の中から1つを選択すると、必要な項目を制御部が設定するものであってもよい。図7(A)及び図7(B)に示される例では、操作部25はボタン式であり、項目別にボタンを押すことで熱サイクル条件を設定できる。
【0104】
熱サイクル装置2は、図7(A)及び図7(B)に示されるように、表示部24を含んでもよい。表示部24は表示装置であり、熱サイクル装置2に関する各種情報を表示する。表示部24は、操作部25で設定される熱サイクル条件や熱サイクル処理中に計測された時間や温度を表示してもよい。例えば、操作部25を操作して設定を行う場合には入力された条件を表示したり、熱サイクル処理中には温度センサーによって測定された温度、第1の配置又は第2の配置において経過した時間、熱サイクルを施したサイクル数を表示したりしてもよい。また、熱サイクル処理が終了した場合や、装置に何らかの異常が発生した場合にも、その旨を表示してもよい。さらに、音声による通知を行ってもよい。表示や音声による通知を行うことで、熱サイクル処理の進行や終了を装置の使用者が容易に把握できる。
【0105】
第1実施形態においては、スペーサー14と固定板19とが別個の部材である例を示したが、図8に示されるように、スペーサー14と固定板19とが一体に形成されていてもよい。また、底板17とスペーサー14、あるいは底板17と固定板19とが一体に形成されていてもよい。
【0106】
熱サイクル装置2の内部を観察するためには、図7(A)、図7(B)及び図8に示されるように、本体10aに観察窓23を設けてもよい。観察窓23は、例えば、スペーサー14又は固定板19に形成された穴やスリットであってもよい。図8に示される例では、観察窓23は固定板19と一体に形成された透明なスペーサー14に設けられた凹部である。観察窓23を設けることで、観察者と観察対象の反応容器100aの間に存在する部材の厚みを少なくできるので、内部の観察が容易になる。
【0107】
第2実施形態に係る熱サイクル装置2においても、「4.熱サイクル装置の熱サイクル処理手順例」の項で述べられた熱サイクル処理手順例が適用できる。上述の処理手順例においては、第1の温度、第2の温度、第1の時間、第2の時間、熱サイクルのサイクル数及び駆動機構20の動作を制御部によって制御する例を示したが、これらの項目のうち少なくとも1つを使用者が制御することも可能である。使用者が第1の温度又は第2の温度を制御する場合は、例えば温度センサーによって測定された温度を表示部24で表示し、使用者が操作部25を操作して温度を調節してもよい。使用者が熱サイクルのサイクル数を制御する場合、所定回数に達した場合に使用者が熱サイクル装置1を停止させてもよい。サイクル数の計数は、使用者が行っても、熱サイクル装置2が計数を行ってサイクル数を表示部24に表示してもよい。
【0108】
使用者が第1の時間又は第2の時間を制御する場合には、所定の時間に達したか否かを使用者が判断し、熱サイクル装置2に装着部11及び温度勾配形成部30の配置を切換えさせる。すなわち、図6におけるステップS104及びステップS110と、ステップS108及びステップS116の少なくとも一部を使用者が行ってもよい。熱サイクル装置1とは連動しないタイマーを用いて必要な時間を計測しても、熱サイクル装置2の表示部24に経過した時間を表示してもよい。配置の切換えは、操作部25(UI)を操作することで行っても、駆動機構20にハンドルを採用して手動で行ってもよい。
【0109】
6.実施例
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0110】
6−1.第1実施例;シャトルPCR
本実施例においては、第2実施形態に係る熱サイクル装置2を用いた、蛍光測定を伴うシャトルPCRを説明するが、第1実施形態に係る熱サイクル装置1を用いてもよい。図10は、第1実施例における熱サイクルの手順を示すフローチャートである。図6と比較すると、ステップS200、ステップS202、ステップS204、ステップS206及びステップS208を含む点が異なっている。また、本実施例における蛍光検出器40は、FLE1000(日本板硝子社製)である。
【0111】
本実施例の反応容器100aは外形が円柱状であり、内径2mm、長さ25mmの円柱状の流路110を有する。反応容器100aは100度以上の耐熱性を有するポリプロピレン樹脂で形成されている。流路110内には、液体130として、ジメチルシリコーンオイル(KF−96L−2cs、信越シリコーン社製)が約130μl充填されている。本実施例の反応液140aは、ヒトβアクチンDNA1μl(DNA量は10コピー/μl)、PCRマスターミックス(GeneAmp Fast PCR Master Mix (2x)、Applied Biosystems社製、「GeneAmp」は登録商標)10μl、プライマー及びプローブ(Pre-Developed TaqMan Assay Reagents Human ACTB、Applied Biosystems社製、「TaqMan」は登録商標)1μl、PCR Water(Water, PCR Grade、Roche Diagnostics社製8μlの混合物である。DNAは、市販のTotal RNA (qPCR Human Reference Total RNA、Clontech社製)から逆転写したcDNAを使用した。
【0112】
まず、マイクロピペットを用いて1μlの反応液140aを流路110に導入した。反応液140aは水溶液であるので、上述のジメチルシリコーンオイルとは混和せず、液体130中に直径約1.5mmの球形をした液滴の状態となった。また、上述のジメチルシリコーンオイルの比重は25℃で約0.873であるので、反応液140a(比重約1.0)は重力の作用する方向における流路110の最下部に位置した。次いで流路110の一方の端部を栓で封止して、熱サイクル処理を開始した。
【0113】
まず、本実施例の反応容器100aを、熱サイクル装置2の装着部11に装着する(ステップS100)。本実施例においては、上述の反応容器100aを14本使用した。ステップS100の完了直後の装着部11及び温度勾配形成部30の配置は第2の配置であり、反応液140aは第2領域112に、すなわち第2加熱部13の側に位置している。ステップS100の後、蓋50によって装着部11を覆い、熱サイクル装置2を作動させると、蛍光検出器40により蛍光測定が行われる(ステップS200)。熱サイクル装置2は、第2の配置において、測定窓18と蛍光検出器40とが対向する。したがって、第2の配置において蛍光検出器40を動作させると、測定窓18を介して蛍光測定が行われる。本実施例においては、スライド22に沿って蛍光検出器40を移動させることで、複数の反応容器100aに対して順次測定を行った。ステップS200において、全ての反応容器100aの測定が完了することでステップS200を完了する。本実施例においては、全ての測定窓18に対して蛍光測定が完了することでステップS200を完了する。
【0114】
ステップS200の後、駆動機構20により、装着部11及び温度勾配形成部30を第2の配置から第1の配置へ回転させる(ステップS202)。これにより、反応液140aが第1領域111に移動する。
【0115】
ステップS202の後、温度勾配形成部30により、反応容器100aの流路110に対して温度勾配を形成する(ステップS102)。本実施例においては、第1の温度は95℃、第2の温度は66℃とする温度勾配を形成する。これにより、反応容器100aの第1領域111から第2領域112へ向けて、95℃から66℃へと温度が低くなる温度勾配が形成される。ステップS102の開始時点においては、反応液140aは第1領域111にあるので95℃に加熱される。
【0116】
ステップS102の後、第1の配置において第3の時間が経過したか否かを判定する(ステップS204)。本実施例の反応容器100aの大きさであれば、加熱開始から温度勾配が形成されるまでの時間は無視できる程度であるので、加熱開始と同時に、経過時間の計測を開始してもよい。本実施例における第3の時間は10秒であり、その間に反応容器100a内でPCRのホットスタートが行われる。すなわち、第3の時間はホットスタートに必要な時間である。ホットスタートは、反応液140aに含まれるDNAポリメラーゼを熱によって活性化させ、DNAの増幅が可能な状態にする処理である。ステップS204で第3の時間が経過していないものと判定した場合(ステップS204でNOの場合)には、第1の配置を保持する(ステップS206)。ステップS206の後、ステップS204において、第3の時間が経過したものと判定するまで、ステップS204とステップS206とを繰り返す。
【0117】
ステップS204で第3の時間が経過したものと判定した場合(ステップS204でYESの場合)には、第1の配置においてさらに第1の時間が経過したか否かを判定する(ステップS104)。本実施例における第1の時間は1秒である。すなわち、95℃で2本鎖DNAを解離させる処理が1秒間行われる。ステップS204及びステップS104では、ともに反応液140aが第1の温度に置かれるので、ステップS204に続いてステップS104を行う場合には、実質的にポリメラーゼの活性化とDNAの解離とが並行に進行する。ステップS104で第1の時間が経過していないものと判定した場合(ステップS104でNOの場合)には、第1の配置を保持する(ステップS106)。ステップS106の後、ステップS104において、第1の時間が経過したものと判定するまで、ステップS104とステップS106とを繰り返す。
【0118】
ステップS104で第1の時間が経過したものと判定した場合(ステップS104でYESの場合)には、駆動機構20により、装着部11及び温度勾配形成部30を第1の配置から第2の配置へ回転させる(ステップS108)。これにより、反応液140aは重力の作用によって流路110の95℃の領域から66℃の領域へと移動する。本実施例においては、ステップS108における回転に要する時間は3秒であり、この間に反応液140aが第2領域112へと移動する。駆動機構20は制御部による制御によって、第2の配置に達した場合に回転動作を停止する。
【0119】
ステップS108の後に、第2の配置において第2の時間が経過したか否かを判定する(ステップS110)。本実施例における第2の時間は15秒である。すなわち、66℃でのアニーリングと伸長反応が15秒間行われる。ステップS110で第2の時間が経過していないものと判定した場合(ステップS110でNOの場合)には、第2の配置を保持する(ステップS112)。ステップS112の後、ステップS110において、第1の時間が経過したものと判定するまで、ステップS110とステップS112とを繰り返す。
【0120】
ステップS110で第2の時間が経過したものと判定した場合(ステップS110でYESの場合)には、熱サイクルのサイクル数が所定のサイクル数に達したか否かを判定する(ステップS114)。本実施例における所定のサイクル数は50回である。すなわち、ステップS104及びステップS110で「YES」と判定した回数が50回に達したか否かを判定する。
【0121】
ステップS114において、熱サイクルの回数が所定のサイクル数に達していないものと判定した場合(ステップS114でNOの場合)には、駆動機構20により、装着部11及び温度勾配形成部30を第2の配置から第1の配置へ回転させる(ステップS116)。これにより、反応液140aは重力の作用によって流路110の66℃の領域から95℃の領域へと移動する。駆動機構20は制御部による制御によって、第1の配置に達した場合に回転動作を停止する。ステップS116の後、再度ステップS104が実行される。すなわち、2回目の熱サイクルが開始される。
【0122】
ステップS114において、熱サイクルの回数が所定のサイクル数に達したものと判定した場合(ステップS114でYESの場合)には、蛍光検出器40により、蛍光測定を行う(ステップS208)。ステップS208での具体的な処理は、ステップS200と同様である。ステップS208の後、温度勾配形成部30による加熱を停止して熱サイクル処理を完了する。
【0123】
図13(A)は、第1実施例における蛍光測定の結果を示す表である。熱サイクル処理を施す前の蛍光輝度(強度)を「反応前」、熱サイクルを所定回数施した後の蛍光輝度を「反応後」として示した。輝度変化率(%)は次の式(1)で算出した値である。
【0124】
(輝度変化率)=100×{(反応後)−(反応前)}/(反応前)・・・(1)
【0125】
本実施例で使用したプローブはTaqManプローブである。このプローブは核酸が増幅されると検出される蛍光輝度が増加する性質を有する。図13(A)に示す通り、熱サイクル処理を行う前と比較して、熱サイクル処理を行った後では反応液140aの蛍光輝度は増加した。算出された輝度変化率は核酸が十分に増幅されたことを示す値であり、本実施例の熱サイクル装置2によって核酸が増幅されたことが確認できた。
【0126】
本実施例においては、まず、反応液140aを95℃に1秒間保持し、駆動機構20によって本体10を半回転させることで66℃に15秒間保持できる。再度駆動機構20によって本体10を半回転させることで、再び反応液140aを95℃に保持できる。すなわち、駆動機構20によって装着部11及び温度勾配形成部30の配置を切換えることにより、第1の配置及び第2の配置に所望の時間反応液140aを保持できる。したがって、熱サイクル処理において第1の時間と第2の時間が異なる場合にも、加熱する時間を容易に制御できるので、所望の熱サイクルを反応液140aに施すことができる。
【0127】
本実施例においては、第1の温度における加熱時間が1秒、第2の温度における加熱時間が15秒、反応液140aが第1領域111と第2領域112の間を移動するのに要する時間が3秒(往復で6秒)であるので、1サイクルの所要時間は22秒である。したがって、サイクル数が50回である場合には、ホットスタートを含めて約19分で熱サイクルを完了できる。
【0128】
6−2.第2実施例;1step RT−PCR
本実施例においては、第2実施形態に係る熱サイクル装置2を用いた、蛍光測定を伴う1step RT−PCRを説明するが、第1実施形態に係る熱サイクル装置1を用いてもよい。図11は、第2実施例における熱サイクルの手順を示すフローチャートである。図6と比較すると、ステップS300、ステップS302、ステップS304、ステップS306、ステップS308、ステップS310、ステップS312、ステップS314及びステップS316を含む点が異なっている。また、本実施例における蛍光検出器40は、2104 EnVision マルチラベルカウンター(PerkinElmer 社製)である。なお、以下の説明においては、第1実施例と異なる点を中心に説明する。
【0129】
RT−PCR(reverse transcription‐polymerase chain reaction)は、RNAの検出又は定量を行うための手法である。逆転写酵素を用いて45℃でRNAを鋳型としてDNAへの逆転写を行い、逆転写によって合成されたcDNAをPCRによって増幅する。一般的なRT−PCRでは、逆転写反応の工程とPCRの工程とは独立しており、逆転写の工程とPCRの工程との間で、容器を交換したり、試薬を追加したりする。これに対し1step RT−PCRは、専用の試薬を用いることで逆転写及びPCRの反応を連続して行う。本実施例は1step RT−PCRを例とするので、第1実施例のシャトルPCRの処理と本実施例の処理とを比較すると、逆転写を行うための処理(ステップS304からステップS310まで)及びシャトルPCRへ移行するための処理(ステップS314)が行われる点が異なっている。
【0130】
本実施例の反応容器100bは、反応液140bに含まれる成分が異なる以外は、第1実施例と同様である。図12は、第2実施例における反応液140bの組成を示す表である。本実施例では、反応液140bとして、1step RT−PCR用の市販のキット(One Step SYBR PrimeScript PLUS RT-PCR kit、タカラバイオ社製、「SYBR」及び「PrimeScript」は登録商標)を図12の組成に調製したものを使用した。なお、図12の「Takara Ex Taq」は登録商標である。
【0131】
まず、本実施例の反応容器100bを、熱サイクル装置2の装着部11に装着する(ステップS100)。本実施例においては、上述の反応容器100bを3本使用した。ステップS100の後、蓋50によって装着部11を覆い、熱サイクル装置2を作動させると、蛍光検出器40により蛍光測定が行われる(ステップS300)。
【0132】
ステップS300の後、温度勾配形成部30により、反応容器100bの流路110に対して第1の温度勾配を形成する(ステップS302)。本実施例においては、第1の温度は95℃、第2の温度は42℃とする温度勾配を形成する。これにより、反応容器100bの第1領域111から第2領域112へ向けて、95℃から42℃へと温度が低くなる温度勾配が形成される。ステップS302の開始時点においては、反応液140bは第2領域112にあるので42℃に加熱される。
【0133】
ステップS302の後、第2の配置において第4の時間が経過したか否かを判定する(ステップS304)。本実施例の反応容器100bの大きさであれば、加熱開始から温度勾配が形成されるまでの時間は無視できる程度であるので、加熱開始と同時に、経過時間の計測を開始してもよい。本実施例における第4の時間は300秒であり、その間に反応容器100b内でRNAからDNAへの逆転写が行われる。すなわち、第4の時間は、反応容器100b内でRNAからDNAへの逆転写が行われるために必要な時間である。ステップS304で第4の時間が経過していないものと判定した場合(ステップS304でNOの場合)には、第2の配置を保持する(ステップS306)。ステップS306の後、ステップS304において、第4の時間が経過したものと判定するまで、ステップS304とステップS306とを繰り返す。
【0134】
ステップS304で第4の時間が経過したものと判定した場合(ステップS304でYESの場合)には、駆動機構20により、装着部11及び温度勾配形成部30を第2の配置から第1の配置へ回転させる(ステップS308)。これにより、反応液140bは重力の作用によって流路110の42℃の領域から95℃の領域へと移動する。本実施例においては、ステップS308における回転に要する時間は3秒であり、この間に反応液140bが第1領域111へと移動する。駆動機構20は制御部による制御によって、第1の配置に達した場合に回転動作を停止する。
【0135】
ステップS308の後、第1の配置において第5の時間が経過したか否かを判定する(ステップS310)。本実施例における第5の時間は10秒である。第1領域111は95℃に加熱されているので、ステップS308によって第1領域111へ移動した反応液140bは95℃に加熱される。反応液140bが95℃で10秒間加熱されることによって、反応液140bに含まれる逆転写酵素が失活する。すなわち、第5の時間は、反応液140bに含まれる逆転写酵素を失活させるために必要な時間である。ステップS310で第5の時間が経過していないものと判定した場合(ステップS310でNOの場合)には、第1の配置を保持する(ステップS312)。ステップS312の後、ステップS310において、第5の時間が経過したものと判定するまで、ステップS310とステップS312とを繰り返す。
【0136】
ステップS310で第5の時間が経過したものと判定した場合(ステップS310でYESの場合)には、温度勾配形成部30により、反応容器100bの流路110に対して第2の温度勾配を形成する(ステップS314)。本実施例においては、第1の温度は95℃、第2の温度は60℃とする温度勾配を形成する。これにより、反応容器100bの第1領域111から第2領域112へ向けて、95℃から60℃へと温度が低くなる温度勾配が形成される。これにより、第1領域111が95℃、第2領域112が60℃となるので、反応容器100bの流路110にシャトルPCRに適した温度勾配が形成される。
【0137】
ステップS314の後、第1の時間が経過したか否かを判定する(ステップS104)。ステップS104において、ステップS314が完了してから経過した時間が、第1の時間に達したか否かを判定してもよい。例えば、ステップS104において、温度センサーで反応容器100bの温度を測定し、所望の温度に達した時点でステップS314が完了したものとしてもよい。本実施例においては、温度の変更に要する時間が無視できる程度であるので、ステップS314の開始と同時に、経過時間の計測を開始する。ステップS116に続いて行われる場合のステップS104は、第1実施例と同様である。
【0138】
本実施例におけるステップS106からステップS116までの処理は、熱サイクル処理の具体的な反応条件が異なる以外は第1実施例と同様である。第1の時間を5秒、第2の時間を30秒、所定のサイクル数を40回として、ステップS104からステップS116を繰り返すことにより、シャトルPCRが行われる。
【0139】
ステップS114において、熱サイクルの回数が所定のサイクル数に達したものと判定した場合(ステップS114でYESの場合)には、蛍光検出器40により、蛍光測定を行う(ステップS316)。ステップS316での具体的な処理は、ステップS300と同様である。ステップS316の後、温度勾配形成部30による加熱を停止して熱サイクル処理を完了する。
【0140】
図13(B)は、第2実施例における蛍光測定の結果を示す表である。熱サイクル処理を施す前の蛍光輝度(強度)を「反応前」、熱サイクルを所定回数施した後の蛍光輝度を「反応後」として示した。輝度変化率(%)は上述した式(1)で算出した値である。
【0141】
本実施例で使用したプローブはSYBR Green Iである。このプローブも、核酸増幅に伴い検出される蛍光輝度が増加する。図13(B)に示される通り、熱サイクル処理を行う前と比較して、熱サイクル処理を行った後では反応液140の蛍光輝度は増加した。算出された輝度変化率は核酸が十分に増幅されたことを示す値であり、本実施例の熱サイクル装置2によって核酸が増幅されたことが確認できた。
【0142】
本実施例においては、加熱温度を途中で変更することにより変更された温度に反応液140bを加熱できる。したがって、第1実施例(シャトルPCR)と同様の効果に加えて、加熱部の数を増やしたり、装置の構造を複雑にしたりすることなく、加熱温度の異なる処理を1台の装置で行うことができるという効果を得ることができる。さらに、反応液140bを第1の配置及び第2の配置において反応容器100bを保持する時間を変更することで、装置や反応容器の構造を複雑にすることなく、途中で加熱時間を変更する必要のある反応を行うことができる。
【0143】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、複数を適宜組み合わせることが可能である。
【0144】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0145】
1,2 熱サイクル装置、10,10a 本体、11 装着部、11a 第1の装着部、11b 第2の装着部、12 第1加熱部、12a 第1ヒーター、12b 第1ヒートブロック、13 第2加熱部、13a 第2ヒーター、13b 第2ヒートブロック、14 スペーサー、15 導線、16 フランジ、17 底板、18 測定窓、19 固定板、20 駆動機構、21 軸受け、22 支持棒、23 観察窓、24 表示部、25 操作部、30 温度勾配形成部、40 蛍光検出器、50 蓋、60 凹部、100,100a,100b 反応容器、110 流路、111 第1領域、112 第2領域、113 突出部、120 封止部、130 液体、140,140a,140b 反応液、R 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応液と、前記反応液とは比重が異なり、かつ、前記反応液とは混和しない液体とが充填され、前記反応液が対向する内壁に沿って移動する流路を含む反応容器を装着する装着部と、
前記装着部に前記反応容器を装着した場合に、前記流路に対して、前記反応液が移動する方向に温度勾配を形成する温度勾配形成部と、
前記装着部及び前記温度勾配形成部を、重力の作用する方向に対して垂直な成分を有し、かつ、前記装着部に前記反応容器を装着した場合に前記流路を前記反応液が移動する方向に対して垂直な成分を有する回転軸で回転させる駆動機構と、
を含み、
前記回転軸に垂直な平面に投影した場合に、前記回転軸から前記流路内の点までの最長距離が、前記流路内の2点間を結ぶ最長距離よりも小さい、熱サイクル装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱サイクル装置において、
前記駆動機構は、
前記装着部に前記反応容器を装着した場合に、前記装着部及び前記温度勾配形成部を、第1の配置と、前記流路内において重力の作用する方向における最下点の位置が前記第1の配置とは異なる第2の配置との間で回転させ、
前記第1の配置から前記第2の配置へと回転させる場合と、前記第2の配置から前記第1の配置へと回転させる場合とで、反対方向に前記装着部及び前記温度勾配形成部を回転させる、熱サイクル装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱サイクル装置において、
前記装着部は、前記反応容器をそれぞれ装着する第1の装着部及び第2の装着部を含み、
前記第1の装着部に装着される前記反応容器における前記反応液が移動する方向と、前記第2の装着部に装着される前記反応容器における前記反応液が移動する方向とが平行である、熱サイクル装置。
【請求項4】
請求項3に記載の熱サイクル装置において、
前記回転軸に垂直な平面に投影した場合に、前記第1の装着部と前記第2の装着部とが異なる位置にある、熱サイクル装置。
【請求項5】
請求項4に記載の熱サイクル装置において、
前記回転軸に垂直な平面に投影した場合に、前記回転軸が、前記第1の装着部と前記第2の装着部とに挟まれる領域にある、熱サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−179002(P2012−179002A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43598(P2011−43598)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】