説明

熱伝導性エラストマー組成物

【課題】 耐熱性に優れ、熱伝導性が良好であり、柔軟性があって対象物との密着性が良く、電気絶縁性があり、耐湿性が良好で劣化しにくく、成形性が良好である熱伝導性エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】 ブロック共重合体(Z)の水素添加物であり、重量平均分子量15万〜40万、スチレン系単量体の含有割合が20〜50質量%である水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)100質量部と、動粘度が40℃において50〜500cStのゴム用軟化剤250〜600質量部と、オレフィン系樹脂1〜60質量部と、上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)と上記ゴム用軟化剤と上記オレフィン系樹脂との合計の100体積部に対して、表面被覆水酸化アルミニウム、および/または、表面被覆酸化マグネシウムを60〜230体積部と、を混合し、ショアA硬度を40未満とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として電気、電子機器に搭載される発熱性部材の冷却に使用される放熱用部材としての熱伝導性エラストマー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばコンピューターの中央処理装置(CPU)等に使用されるパワートランジスタ、ドライバー集積回路(IC)等の電気、電子機器用部材は発熱性部材であり、近年これら部材の高密化によって発熱量が増大し、上記発熱性部材に対する放熱対策が重要視されている。
上記発熱性部材に対する放熱対策としては、現在、上記発熱性部材から放熱性ハウジング等の冷却部材への熱伝導率を向上せしめるため、上記発熱性部材と上記冷却部材との間にスペーサーとして放熱用部材が使用されている。上記放熱用部材は上記発熱性部材から上記冷却部材への伝熱効率を高めるために、上記発熱性部材と上記冷却部材の双方に対して密着性が良好な材料を使用しなければならない。
密着性の低い材料を上記放熱用部材(スペーサー)の材料として使用した場合には、上記発熱性部材と上記スペーサーとの間、あるいは上記冷却部材と上記スペーサーとの間に空気層が形成される結果となり、上記空気層は熱伝導性が低いためにスペーサーである上記放熱用部材の熱伝導効率を大幅に低下させてしまう。
上記発熱性部材と上記放熱用部材との間、あるいは上記冷却部材と上記放熱用部材との間の密着性を向上せしめる手段としては、上記放熱用部材の材料として柔軟性のある材料を選択することが考えられる。
上記放熱性材料の主材料としては、合成樹脂が使用されているが、従来から柔軟性のある合成樹脂材料としてシリコーンゴムが多用されている。上記シリコーンゴムは柔軟性を有するから、上記発熱性部材と上記冷却部材との双方に密着性を有する。しかし上記シリコーンゴムは低分子シロキサンを発生させるので電気回路の接触不良等をひき起こすと云う問題点がある。そのため上記低分子シロキサンの発生を抑制する対策が進められているが、まだ充分効果のある対策は提供されていない。また該シリコーンゴムは架橋ゴムであるため、熱可塑性がなく、リサイクルが不可能であると云う問題点もある。
【0003】
上記放熱用部材は、上記したように主材料として合成樹脂を使用するが、該合成樹脂は熱伝導性が低いので、一般に熱伝導性を付与するために熱伝導性フィラーが添加されている。
上記熱伝導性フィラーとしては、導電系と絶縁系とがあり、導電系としては銅、ニッケル等の金属系フィラーやグラファイト等の炭素系フィラー等が知られており、絶縁系としては、酸化マグネシウム、アルミナ等の金属酸化物やシリカが知られている。上記放熱用部材の熱伝導性フィラーとしては、特に絶縁系フィラーが使用されている。
特許文献1には、熱伝導性フィラーとして酸化マグネシウム粉末の使用が開示されているが、酸化マグネシウム粉末は潮解性を有しており、高温、高圧の雰囲気下では吸水し、放熱用部材の電気絶縁性を低下させ、該放熱用部材の劣化を引き起こすという問題点があり、上記問題点を解決する手段として、本件特許文献では酸化マグネシウム粉末の表面にシラン系化合物をコーティングして吸水性を改良している。しかしこの方法では、シラン系化合物のコーティング被覆膜の機械的強度が弱く、例えばプレッシャークッカー試験を行うと、該コーティング被覆膜が破れて劣化し、吸水性が復元してしまう。
特許文献2には、熱伝導性フィラーとして吸水性の低いアルミ粉末の使用が開示されているが、アルミナは硬度が高いために、特に材料を射出成形する場合、スクリューや金型が上記金型によって激しく摩耗されると云う問題点がある。
特許文献3には充填材(熱伝導性フィラー)としてタングステン粉末の使用が開示されているが、タングステンは遷移金属ために電気伝導性が高い。そのために本発明のような放熱用部材に充填材としてタングステンのような遷移金属粉末を使用すると、部材の電気伝導性が高くなり、本発明の対象である電機・電子機器用部材のような電機絶縁性が要求されるものには使用出来ないと云う問題点がある。
【0004】
更に上記電気、電子機器用部材は発熱体であるから、それに使用される放熱用部材としては、安全性の観点から高い難燃性が要求される。このために放熱用部材の材料には難燃性付与のために難燃剤が添加される。上記難燃剤としては、ハロゲン系、ノンハロゲン系があり、ハロゲン系では臭素系、塩素系難燃剤等が知られ、ノンハロゲン系ではリン酸塩等のハロゲン非含有リン系難燃剤、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物が知られている。近年では環境への負荷を低減する観点から、ノンハロゲン系難燃剤が多く使用されている。
特許文献4には難燃剤として金属水酸化物である水酸化アルミニウムが使用されているが、高い難燃性を部材に付与するには、該金属水酸化物を多量に添加する必要があり、そのために得られる組成物の成形性が低下し、また得られた成形物が硬くなり、柔軟性が失われると云う問題点がある。
特許文献5には、難燃剤としてリン系難燃剤の使用が開示されているが、リン系難燃剤は湿度に対して不安定であり、高湿度下では加水分解を起こしてしまい、得られる成形物に変色、ブリードアウト等の問題が生ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−106865号公報
【特許文献2】特許第3176416号公報
【特許文献3】特許第4119840号公報
【特許文献4】特開2007−302906号公報
【特許文献5】特開2008−127481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、柔軟性に富み、したがって発熱性部材と冷却部材との双方に密着性が良く、熱伝導性に優れており、またリサイクル可能であり、かつ電気回路の接触不良等を引き起こす原因となる低分子化合物も存在せず、また吸湿性、吸水性も少なく、良好な電気絶縁性が確保されている放熱用部材等の成形物の材料として有用なエラストマー組成物を提供することにあり、更なる本発明の課題は、上記エラストマー組成物として、成形性のよい、かつ特に射出成形する場合にスクリューや金型を損傷しない、また難燃性が高く、かつ難燃剤がブリードアウトを起こさないような成形物を与えるエラストマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、スチレン系単量体からなる重合体のブロック単位(S)と、共役ジエン化合物からなる重合体のブロック単位(B)と、からなるブロック共重合体(Z)の水素添加物であり、重量平均分子量15万〜40万、スチレン系単量体の含有割合が20〜50質量%である水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)100質量部と、動粘度が40℃において50〜500センチストークス(cSt)のゴム用軟化剤250〜600質量部と、オレフィン系樹脂1〜60質量部と、上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)と上記ゴム用軟化剤と上記オレフィン系樹脂との合計の100体積部に対して、水酸化アルミニウムを有機系カップリング剤で表面被覆してなる表面被覆水酸化アルミニウム、および/または、マグネシアクリンカーを無機物および/または有機物で表面被覆してなる表面被覆酸化マグネシウム、を60〜230体積部と、を混合した組成物であり、ショアA硬度(HsA)が40未満であることを特徴とする熱伝導性エラストマー組成物を提供するものである。
上記表面被覆水酸化アルミニウム、および/または、表面被覆酸化マグネシウムは、耐湿試験による吸水率が1.5質量%未満であり、かつ新モース硬度が10未満であることが望ましい。
上記オレフィン系樹脂の融点が130〜170℃の範囲にあり、かつショアA硬度(HsA)が90未満であることが望ましい。
上記オレフィン系樹脂として、融点が130℃〜170℃の範囲にあり、かつショアA硬度(HsA)が90未満のものと、荷重たわみ温度が80℃〜140℃のものと、を使用することが望ましい。
上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)100質量部に対して、更に金属石鹸1〜80質量部を添加したものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
〔作用〕
上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)は、熱可塑性であるから、リサイクルが可能であり、また射出成形等の熱成形も容易である。上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)の重量平均分子量(Mw)が15万未満のものを使用した場合には、得られる成形物の耐熱性が悪化し、該成形物に対して長期耐熱試験を行うと、変形を生じるようになる。更に軟化剤保持性が悪くなり、成形物において該軟化剤がブリードし易くなり、該成形物表面にベタツキが生じる。一方、Mwが40万を越えたものを使用した場合には、組成物の熱溶融物の流動性が低下し、成形性が悪化する。
なお重量平均分子量の測定方法については、後記する。
スチレン系単量体の含有割合が20質量%未満のものを使用した場合には、得られる成形物の耐熱性が悪化し、該成形物に対して長期耐熱試験を行うと、変形を生じるようになる。一方、スチレン系単量体の含有割合が50質量%を越えたものを使用した場合には、得られる成形物の柔軟性が乏しくなり、ゴム弾性が無くなる。
【0009】
ゴム用軟化剤は、組成物に柔軟性を付与し、発熱性部材や冷却部材に対する密着性を向上させる成分であるが、動粘度が40℃で50センチストークス(cSt)に満たないものを使用した場合には、得られる組成物を成形する際にガスの発生が著しくなり、成形物にブリードを生じやすくなる。また動粘度が40℃で500cStを越えるものを使用した場合には、得られる成形物表面のベタツキが顕著になり、取り扱いに支障を生じて作業性が低下する。
上記ゴム用軟化剤の添加量が、上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)100質量部に対して600質量部を越えた場合には、得られる成形物において上記ゴム用軟化剤が表面にブリードしてきて、該成形物表面のベタツキが顕著になり、一方上記ゴム用軟化剤の添加量が上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)100質量部に対して250質量部未満の場合には、組成物が塊状になりにくく、成形不可能となる。
【0010】
オレフィン系樹脂は、成形物に適度な硬さと剛性と耐熱性とを与える成分であるが、融点が130℃〜170℃の範囲のものを使用すると、耐熱性および成形性の点で望ましい組成物が得られ、かつショアA硬度が90未満のものを選択すると、得られる成形物に対して望ましい柔軟性が付与される。
上記オレフィン系樹脂の添加量が、上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)100質量部に対して60質量部を越えると、得られる成形物が硬くなり、柔軟性が乏しくなる。一方、添加量が上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)100質量部に対して1質量部未満の場合には、成形物に適度な硬さ、剛性、耐熱性を付与することが出来なくなる。
本発明の組成物にあっては、上記融点が130℃〜170℃の範囲で、かつショアA硬度(HsA)が90未満のオレフィン系樹脂は、単独で使用されてもよいが、更に上記オレフィン系樹脂と荷重たわみ温度が80℃〜140℃のオレフィン系樹脂とを併用すると、耐熱性の高い成形物を与える組成物となる。
なお上記オレフィン系樹脂において、融点はJIS K 7121に準拠して測定を行ったものとし、硬度はJIS K 6253Aに準拠して測定を行ったものとし、荷重たわみ温度はJIS K 6921−2に準拠して測定を行ったものとする。
【0011】
本発明においては、成形に際してスクリューや金型を損傷しないような熱伝導性フィラーとして、表面被覆水酸化アルミニウムおよび/または表面被覆酸化マグネシウムを使用する。
上記表面被覆水酸化アルミニウムは、耐湿性と組成物中での分散性を付与するという観点から、有機カップリング剤で水酸化アルミニウムに表面被覆を施すことによって得られたものである。
上記表面被覆酸化マグネシウムは、耐湿性と組成物中での分散性を付与するという観点から、無機物および/または有機物でマグネシアクリンカーに表面被覆を施すことによって得られたものである。なお、該マグネシアクリンカーは、マグネシア原料(酸化マグネシウムを主成分とする原料)を高温(1600℃以上)で焼成することで、主成分である酸化マグネシウム(マグネシア)を不活性化した焼塊(クリンカー)である。
上記熱伝導性フィラーとして、単独での吸水率が1.5質量%以上のものを使用した場合には、成形物が劣化したり、該成形物の絶縁性が低下したりする。更に成形時にスクリューや金型を確実に損傷しないようにするため、上記熱伝導性フィラーには新モース硬度が10未満のものを使用することが望ましい。
【0012】
上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)と、上記ゴム用軟化剤と、上記オレフィン系樹脂と、をそれぞれ所定量で混合し、これらの混合物が100体積部に対し、上記表面被覆水酸化アルミニウムおよび/または上記表面被覆酸化マグネシウムを60〜230体積部、熱伝導性フィラーとして混合した本発明の熱伝導性エラストマー組成物は、好適な柔軟性を獲得するという観点から、ショアA硬度(HsA)が40未満とされる。ショアA硬度(HsA)が40を超える場合、熱伝導性エラストマー組成物が好適な柔軟性を獲得することができず、上記の発熱性部材や冷却部材等といった対象物との密着性が悪くなる。
【0013】
本発明の組成物に金属石鹸を添加すると、上記熱伝導性フィラーの組成物への分散性が向上する。また組成物の柔軟性も改良される。上記金属石鹸の添加量が、上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)100質量部に対して1〜80質量部の範囲に設定することが望ましく、上記金属石鹸の添加量が80質量部を越えると、成形時のガス化による成形不良、得られる成形物に該金属石鹸のブリードアウトによる外観不良等の不具合が発生し、上記金属石鹸の添加量が1質量部未満の場合には、上記金属石鹸のフィラー分散効果が発揮出来なくなる。
【0014】
〔効果〕
本発明では、耐熱性に優れ、熱伝導性が良好であり、かつ柔軟性があり発熱性部材や冷却部材等のような対象物と密着性が良く、更に電気絶縁性があり、耐湿性も良好で劣化しにくく、かつ成形に使用されるスクリューや金型を摩耗させず、射出成形性に優れ、また熱可塑性であるからリサイクルすることが可能である熱伝導性エラストマー組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を以下に詳細に説明する。
〔水添熱可塑性スチレン系エラストマー〕
本発明の熱伝導性エラストマー組成物(以下、単に「組成物」と云う)に使用する水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)とは、スチレン系単量体からなる重合体のブロック単位(S)(以下単に重合体ブロック単位(S)ともいう)と、共役ジエン化合物からなる重合体のブロック単位(B)(以下単に重合体ブロック単位(B)ともいう)とからなるブロック共重合体(Z)であって、上記ブロック共重合体(Z)中の共役ジエン化合物を主体とする重合体のブロック単位(B)は、一部または全部が水素添加されている。
上記スチレン系単量体からなる重合体のブロック単位(S)とは、例えばスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t(ターシャリー)−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等のスチレン系単量体からなる重合体のブロックである。
上記共役ジエン化合物からなる重合体のブロック単位(B)とは、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン等の共役ジエン系化合物を主体とする重合体のブロックである。
本発明が使用する上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)としては、熱可塑性スチレン系エラストマー(TPS)の他に、例えばスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)等が例示される。
本発明の水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)で有用なものとしては、上記重合体ブロック単位(S)を2個以上、および上記重合体ブロック単位(B)を1個以上有するブロック共重合体(Z)の水素添加物であり、その中でも1個の重合体ブロック単位(B)の両端に各1個(合計2個)の重合体ブロック単位(S)が結合したブロック共重合体(Z)に水素添加することによって重合体ブロック単位(B)の構成単位であるブタジエンをエチレンおよびブチレンに転化せしめたSEBSが、耐熱性の点からみて望ましい水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)である。
上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)には、本発明の目的を逸脱しない限り、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、ピリジン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム(SIR)、スチレン−エチレン共重合体、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン(SBS)、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン(SIS)、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリブタジエン−ポリ(α−メチルスチレン)(α−MeSBα−MeS)、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリイソプレン−ポリ(α−メチルスチレン)、エチレン−プロピレン共重合体(EP)、スチレン−クロロプレンゴム(SCR)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)共重合体等の他のエラストマーまたは合成ゴムの若干量が添加されてもよい。
【0016】
(重量平均分子量)
本発明においては、上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)として、重量平均分子量(Mw)が15万〜40万の範囲のものを使用する。
重量平均分子量(Mw)が15万未満の場合、耐熱性が悪いので長期耐熱試験を行うと変形を生じやすくなり、また軟化剤の保持性が悪くなって軟化剤がブリードしやすくなり、組成物にベタツキが発生する恐れがある。重量平均分子量(Mw)が40万を超える場合、成形時の溶融物の流動性が低下して成形性が悪くなり、また組成物のゴム弾性が低下してしまう。
上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)の重量平均分子量(Mw)としては、下記するゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法による測定値を用いる。
[GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)法によるポリスチレン換算分子量測定]
・測定条件
a)測定機器:SIC Autosampler Model 09
Sugai U−620 COLUMN HEATER
Uniflows UF−3005S2B2
b)検出器 :MILLIPORE Waters 410
Differential Refractometer
c)カラム :Shodex KF806M×2本
d)オーブン温度:40℃
e)溶離液 :テトラヒドロフラン(THF) 1.0ml/min
f)標準試料:ポリスチレン
g)注入量 :100μl
h)濃度 :0.020g/10ml
i)試料調整:2,6−ジ−t−ブチル−p−フェノール(BHT)が0.2重量%添加されたTHFを溶媒として、室温で攪拌して溶解させた。
j)補正 :検量線測定時と試料測定時とのBHTのピークのずれを補正して、分子量計算を行った。
上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)は、1種のみを用いてもよく、重量平均分子量(Mw)や1,2−ビニル結合量等が異なる2種以上を併用することも可能である。
【0017】
(スチレン系単量体の含有割合)
本発明においては、上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)として、スチレン系単量体の含有割合が20〜50質量%のものを使用する。
スチレン系単量体の含有割合が20質量%に満たない場合、耐熱性が悪くなり長期耐熱試験を行なうと変形を生じる。スチレン系単量体の含有割合が50質量%を超える場合、得られる上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)のゴム弾性が低下し、発熱体や冷却部品等への密着性が悪くなる。
【0018】
(1,2−ビニル結合量)
上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)を構成する共役ジエン化合物からなるブロック共重合体(Z)において、1,2−ビニル結合量の割合は、50質量%未満であることが望ましい。1,2−ビニル結合割合が50質量%未満の場合には、組成物にベタツキが出にくくなる。
【0019】
(tanδの温度依存性)
本発明に使用する望ましい水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)の貯蔵弾性率(E’)とtanδの温度依存性について説明する。なお、ここでいう貯蔵弾性率(E’)とtanδは、昇温速度3℃/分、周波数11Hzの条件下における動的粘弾性測定によるものである。
動的粘弾性測定において貯蔵弾性率E’は、複素弾性率Eおよび損失弾性率E”と、
=E’+iE”
の関係を有し、tanδ(損失係数)は、
tanδ=E”/E’
である。
上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)として望ましいものは、貯蔵弾性率のグラフの転移域とtanδのピークとから、−50℃近辺にガラス転移点(Tg)があり、更に貯蔵弾性率のグラフにおいて、転移域を過ぎてゴム域が0℃〜150℃と広い範囲にわたり、それに対応してtanδも0℃〜100℃の範囲でブロードな山を有し、該山のなだらかな頂上部分は20℃〜50℃近辺に存在し、この範囲に二次的なガラス転移点が存在すると思われる。
上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)の機械的物性の温度依存性からみて、上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)は望ましい柔軟性を有する温度域が広範囲にわたり、したがって柔軟ではあるが、高温でもベタツキがない、耐熱性に富むエラストマーであると云える。
このような水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)として特に有用なものは、熱可塑性スチレン系エラストマー(TPS)であるセプトンKL−J3341(商品名、クラレ社製)である。
なお、上記tanδの温度依存性は、以下の条件による測定結果をプロットして得られたグラフからの考察によるものである。
測定機:ARES−RDS(ティー・エイ・インスツルメント社製)
振動周波数:30Hz
昇温速度:5℃/min
試験温度:−50℃から100℃
試験片:トーションプレート(肉厚2mm、長さ40mm、幅10mm)
【0020】
〔ゴム用軟化剤〕
本発明では、放熱用部材として組成物の柔軟性を高め、発熱性部材に対する密着性を向上させるための材料として、ゴム用軟化剤を使用する。
本発明において使用されるゴム用軟化剤としては、非芳香族系のオイルが使用され、例えばパラフィン系オイル、ナフテン系オイルが使用されるが、本発明の水添熱可塑性スチレン系エラストマーと良好な相溶性を示すパラフィン系オイルは望ましいゴム用軟化剤である。
上記ゴム用軟化剤としては、動粘度が40℃で50〜500センチストークス(cSt)の範囲であるものを使用する。動粘度が40℃で50cStに満たない場合には、組成物を成形する際にガスの発生が著しくなり、ブリードが発生しやすくなる。また動粘度が40℃で500cStを超えると、成形品のベタツキが激しくなり、作業性が低下する。
【0021】
〔オレフィン系樹脂〕
本発明では、組成物を混練して調製する際につなぎの役割を果たし、更に組成物に耐熱性と適度な剛性および成形時の溶融物の流動性を付与する材料として、オレフィン系樹脂を使用する。
本発明に使用するオレフィン系樹脂として代表的なものは、ポリプロピレンである。上記ポリプロピレンとしては、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレン共重合体、ポリプロピレンにポリエチレンやエチレン−プロピレン共重合体を添加した変性ポリプロピレン等が含有される。
本発明に使用するオレフィン系樹脂としては、JIS K 7121に準拠して測定した融点が130℃〜170℃の範囲にあり、かつJIS K 6253Aに準拠して測定したショアA硬度(HsA)が90未満のものを使用することが望ましい。オレフィン系樹脂として融点が130℃〜170℃の範囲のものを使用すると、耐熱性および成形性の点で望ましい組成物が得られ、かつショアA硬度が90未満のものを選択すると、得られる成形物に対して望ましい柔軟性が付与される。
また本発明に使用するオレフィン系樹脂としては、JIS K 6921−2に準拠して測定した荷重たわみ温度が80℃〜140℃の範囲のものを用いると、耐熱性の点でより望ましい。荷重たわみ温度が80℃未満のものでは、成形品に変形が生じるおそれがある。
上記オレフィン系樹脂には、上記融点を満たし、かつ上記硬度を満たすものと、上記荷重たわみ温度を満たすものと、を使用することが望ましい。この場合、上記融点を満たし、かつ上記硬度を満たすとともに、上記荷重たわみ温度を満たすオレフィン系樹脂を単独で使用してもよく、また上記融点を満たし、かつ上記硬度を満たすオレフィン系樹脂と、上記荷重たわみ温度を満たすオレフィン系樹脂と、を併用してもよい
【0022】
〔熱伝導性充填材〕
本発明の組成物には、熱伝導性を向上させるという観点から、熱伝導性充填材を配合する。
上記熱伝導性充填材には、水酸化アルミニウムを有機系カップリング剤で表面被覆してなる表面被覆水酸化アルミニウム、および/または、マグネシアクリンカーを無機物および/または有機物で表面処理してなる表面被覆酸化マグネシウムが使用される。
【0023】
(表面被覆水酸化アルミニウム)
上記表面被覆水酸化アルミニウムに用いる水酸化アルミニウムとしては、ソーダ成分(NaO)含有量がなるべく少ないもの(例えば0.4質量%未満含有するもの)が望ましい。ソーダ成分の含有量が少ない水酸化アルミニウムは分解温度が高く、吸湿性が小さく、かつ絶縁性が高く、望ましい材料である。
上記水酸化アルミニウムを被覆するために使用される有機カップリング剤としては、チタン酸テトライソプロピル、チタン酸テトラブチル、チタン酸テトラ(2−エチルヘキシル)、チタン酸テトラステアリル等のチタン酸エステルや、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のSi(OR)部分とビニル基、アミノ基、エポキシ基等の有機官能基との二つの基を有するケイ素化合物(シランカップリング剤)等が例示される。
上記カップリング剤は上記有機官能基を一分子中に2個以上含んだものであってもよい、また上記カップリング剤は2種以上混合使用されてもよい。
【0024】
(表面被覆酸化マグネシウム)
上記表面被覆酸化マグネシウムに用いるマグネシアクリンカーは、例えば下記の方法で製造される。
(1) 海水、苦汁等マグネシウム含有原料に苛性ソーダ等のアルカリ物質を投入して水酸化マグネシウムスラリーを調製する。
(2) 上記マグネシウムスラリーをろ過し、例えば120℃×10時間の条件で乾燥する。
(3) 乾燥物(水酸化マグネシウム)を600〜1000℃で仮焼して軽焼マグネシア(酸化マグネシウム)を得る。
(4) 上記軽焼マグネシアをロータリーキルン等によって1600℃以上、望ましくは1800〜2100℃で死焼することで不活性化して、マグネシアクリンカーを得る。
上記酸化マグネシウムを1600℃以上で焼成して表面不活性のマグネシアクリンカーを得ることを死焼という。ここにマグネシアクリンカーとは上記死焼によってマグネシア(酸化マグネシウム)成分が溶融して塊状(焼塊:クリンカー)になったものをいう。
上記仮焼において、焼成温度が1200℃を超えると、得られる酸化マグネシウムの活性が大幅に低下する。更に上記死焼において、焼成温度が1600℃以上で酸化マグネシウムが不活性化し、即ち酸や水蒸気との反応性がなくなり、かつ大結晶化する。
上記のようにマグネシアクリンカーは死焼によって不活性化、大結晶化しているから優れた耐湿性と熱伝導性を有する。
上記マグネシアクリンカーの表面被覆に使用される無機物としては、例えばアルミニウム化合物、ケイ素化合物、チタン化合物が例示され、上記無機物は2種以上混合使用されてもよい。上記無機物には例えば、酸化物、窒化物、ホウ化物等のセラミック系化合物、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等の塩、水酸化物等がある。
上記マグネシアクリンカーの表面被覆に使用される有機物としては、上記水酸化アルミニウム被覆に使用した有機カップリング剤、シランカップリング材、有機合成樹脂等が例示される。上記有機物は2種以上混合使用されてもよい。
上記マグネシアクリンカーは、上記無機物および/または有機物で表面処理して表面被覆酸化マグネシウムとすることにより、耐湿性、分散性が向上する。
【0025】
(吸水率)
本発明において使用される上記熱伝導性充填材は、耐湿試験による(耐湿試験後の)吸水率が1.5質量%未満であることが望ましい。吸水率が1.5質量%以上の熱伝導性充填材を組成物に添加すると、該組成物中のエラストマーの劣化や絶縁性の低下が起こる。
上記耐湿試験による吸水率は、下記のようにして測定される。
熱伝導性充填材10gをシャーレに入れ、90℃×90RH%の条件下の恒温槽内に静置、48時間後の質量変化を電子天秤によって測定し、下記の式で質量変化率(吸水率)を計算する。
質量変化率(質量%)=試験後の熱伝導性充填材の質量/試験前の熱伝導性充填材の質量×100
【0026】
(硬度)
本発明に使用する上記熱伝導性充填材は、新モース硬度が10未満であることが望ましい。上記熱伝導性充填材の新モース硬度が10未満であれば、組成物を用いた成形時における混練機や成形装置の摩耗を抑制することができる。
ここに新モース硬度とは、硬さの異なる15種類の標準鉱物で固体表面を順次ひっかき、そのときの傷の有無により1〜15の数値で表した硬さである。新モース硬度10未満とは、ざくろ石でひっかくと傷がつくことを示す。
【0027】
(その他)
本発明に使用する上記熱伝導性充填材は、一種類を単独で用いる場合に比べ、粒径が異なる二種類以上を所定の比率で混合して用いる場合の方が、柔軟性の保持及び良好な熱伝導性を発揮させるという観点から、望ましい。
【0028】
〔第3成分〕
上記成分以外にも所望により、本発明の特徴を損なわない範囲において、必要に応じて他の配合成分を配合することができる。望ましい第3成分としては、本発明の組成物を押出成形、射出成形等によって成形する際、溶融物の張力が向上して延展性を向上させる加工助剤がある。更に該加工助剤は組成物の難燃性を向上させるという点でも望ましい第3成分である。上記加工助剤として代表的なものは、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、高分子量特殊アクリル樹脂等のポリオレフィン用改質剤である。上記加工助剤を添加すると、本発明の組成物の溶融物の延展性や張力が向上して伸び易くなるから、該溶融物に引張り力を及ぼしても切れにくくなる。その結果、例えば押出成形によってシートやフィルムを成形する際、形状が維持されるので成形不良が起こりにくくなる。
その他の第3成分としては、例えばタルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、燐酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、アルミナ、シリカ、珪藻土、ドロマイト、石膏、焼成クレー、アスベスト、マイカ、ケイ酸カルシウム、ベントナイト、ホワイトカーボン、カーボンブラック、鉄粉、アルミニウム粉、石粉、高炉スラグ、フライアッシュ、セメント、ジルコニア粉等の無機充填材や、リンター、リネン、サイザル、木粉、ヤシ粉、クルミ粉、でん粉、小麦粉、米粉等の有機充填材や、木綿、麻、羊毛等の天然繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ビスコース繊維、アセテート繊維等の有機合成繊維や、アスベスト繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維、ウィスカー繊維等の繊維充填材や、色素、顔料、カーボンブラックなどの着色剤や、あるいは、帯電防止剤、導電性付与剤、老化防止剤、難燃剤、防炎剤、撥水剤、撥油剤、防虫剤、防腐剤、ワックス類、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、DBP、DOP、熱安定剤、キレート剤、分散剤等の各種添加剤を添加してもよい。
また、本発明の組成物は、本発明の特徴を損なわない範囲であれば、他のポリマーをブレンドして使用することも可能である。
【0029】
(金属石鹸)
上記第3成分で挙げた各種添加剤の中でも特に分散剤は、本発明に使用する樹脂等と熱伝導性充填材等との相溶性を向上させるので、分散が良くなり柔軟性に優れた成形体を得ることができる。上記分散剤としては、金属石鹸を用いることができ、該金属石鹸は、高級脂肪酸の金属塩であり、高級脂肪酸として、ステアリン酸、1,2−ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、ラウリン酸等が例示され、金属としてマグネシウム、カルシウム、リチウム、バリウム、ナトリウム、亜鉛等が例示される。これら金属石鹸の中でも、流動性が極めて良好であり、融点が160℃以下であるため混練時に分散しやすいステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウムを使用することが特に望ましい。
【0030】
〔配合〕
本発明の組成物は、以下の(a)〜(d)を混合したものである。
(a)上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)が100質量部。
(b)上記ゴム用軟化剤が250〜600質量部。
(c)上記オレフィン系樹脂が1〜60質量部。
(d)上記(a),(b),(c)の合計の100体積部に対し、上記熱伝導性充填材が60〜230体積部。
また本発明の組成物は、所望なれば、以下の(e)を混合してもよい。
(e)上記金属石鹸が1〜80質量部。
【0031】
上記ゴム用軟化剤の添加量が、上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)(以下エラストマーと云う)100質量部に対し、600質量部を超える場合、上記組成物を用いて得られた成形物の表面に該ゴム用軟化剤がブリードしてしまい、ベタツキが顕著に発生する。また上記ゴム用軟化剤の添加量が、エラストマー100質量部に対し、250質量部未満の場合、上記組成物を用いた成形時における溶融物の流動性が殆んどなく、成形が不可能となる。
上記オレフィン系樹脂の添加量が、上記エラストマー100質量部に対し、1質量部に満たない場合、該オレフィン系樹脂によるつなぎの作用が不充分となり、混練中に混練物がまとまりにくくなって、くずれやすくなるので成形が不可能となる。またオレフィン系樹脂の添加量が60質量部を超える場合、上記組成物を用いて得られた成形物のゴム弾性が乏しく(低く)なり、発熱性部材等の対象物に対する密着性が悪くなる。
上記エラストマーと、ゴム用軟化剤と、オレフィン系樹脂との合計の100体積部に対し、上記熱伝導性充填材の配合量が60体積部に満たない場合、組成物の熱伝導率が低くなり、また上記熱伝導性充填材の配合量が230体積部を超える場合、上記組成物を用いて得られた成形物が硬くなるので、ゴム弾性が低くなる。
また上記金属石鹸の添加量が、上記エラストマー100質量部に対し、1質量部に満たない場合、上記金属石鹸が分散剤としての効果を発揮できなくなるおそれがあり、また80質量部を超える場合、ブリードアウトによる外観不良やガスの発生による成形不良が生じるおそれがある。
【0032】
上記(a)〜(d)、あるいはさらに(e)の各材料は、例えばバンバリーミキサー等の混合装置によって混合され、混合物は、通常、押出機によって溶融混練してストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによってペレットに切断する。得られたペレットは、通常、射出成形、押出成形によって所定の成形品とする。また、混練した組成物をルーダー等でペレットにし成形加工原料とすることもできる。
【0033】
上記のようにして製造された組成物は、ショアA硬度(HsA)が40未満である。該組成物の硬さがHsA40以上であると発熱体や冷却部品への密着性が不充分となる。
更に上記組成物の熱伝導率は1.0W/m・K以上であり、吸湿試験後の体積抵抗率は1.0×1010Ω・cm以上の絶縁性を有し、かつ変形のないことが望ましい。
また上記組成物の難燃性については、UL規格、HB(試料厚さ1.0mm)以上であることが望ましく、HB未満であると燃焼速度が速く、充分な難燃性を有しているとはいえない。
【0034】
以下に、本発明を更に具体的に説明するための実施例および比較例を記載する。
(実施例1〜24、比較例1〜18)
〔材料〕
下記の材料を使用した。
1.水添熱可塑性スチレン系エラストマー(TPS)
(1)セプトンKL−J3341(表中は「KL−J3341」と記載)〔商品名、クラレ社製〕、TPS、スチレン系単量体の含有量:40質量%
(2)G1651H〔商品名、クレイトンポリマージャパン(株)製〕、SEBS、スチレン系単量体の含有量:33%、Mw:29万、1,2−ビニル結合量:37質量%
(3)G1641〔商品名、クレイトンポリマージャパン(株)製〕、SEBS、スチレン系単量体の含有量:30質量%、Mw:45万、1,2−ビニル結合量:37質量%
(4)セプトン4055(表中は「4055」と記載)〔商品名、クラレ社製〕、SEEPS、スチレン系単量体の含有量:30質量%、1,2−ビニル結合量:37質量%
(5)RP6935〔商品名、クレイトンポリマージャパン(株)製〕、スチレン系単量体の含有量:58質量%、Mw:23.2万
(6)G1650〔商品名、クレイトンポリマージャパン(株)製〕、スチレン系単量体の含有量:29%、Mw:11万、1,2−ビニル結合量:37質量%
2.ゴム用軟化剤
(1)PW90〔商品名、出光石油化学(株)製〕、動粘度(40℃):84.0cSt
(2)PW380〔商品名、出光石油化学(株)製〕、動粘度(40℃):383.4cSt
3.オレフィン系樹脂
(1)ノティオPN2060(表中は「PN2060」と記載)〔商品名、三井化学(株)製〕、ポリプロピレン系エラストマー、ショアA硬さ(ASTM D2240):82、融点:159℃、MFR(230℃):6g/10min、TMA(荷重2Kg/cmにおける針(1mmφ)進入軟化温度):120℃
(2)PX600A〔商品名、サンアロマー(株)製〕、ポリプロピレン(ブロックタイプ)、融点:161℃(出願人がJIS K7123に準拠して測定)、曲げ弾性率:1600MPa、MFR(230℃):5g/10min、荷重たわみ温度:105℃
(3)PH943B〔商品名、サンアロマー(株)製〕、ポリプロピレン(ブロックタイプ)、曲げ弾性率:470MPa、MFR(230℃):21g/10min、荷重たわみ温度:60℃
4.熱伝導性充填材(フィラー)
(1)RF−50−HR〔商品名、宇部マテリアルズ(株)製〕、マグネシアクリンカー(死焼温度1800℃以上)、平均粒径50μm、シランカップリング剤による表面被覆、吸水率0.2%、被覆層の新モース硬度7
(2)BF083T〔商品名、日本軽金属(株)製〕、水酸化アルミニウム、平均粒径10μm、有機チタネート系化合物による表面被覆、吸水率0.2%、ソーダ成分0.08%
(3)パイロキスマ5301K(表中は「5301K」と記載)〔商品名、協和化学工業(株)製〕、酸化マグネシウム、平均粒径2μm、シランカップリング剤による表面被覆、吸水率0.4%
(4)U99NC〔商品名、宇部マテリアルズ(株)製〕、表面焼成マグネシアクリンカー(高温処理酸化マグネシウム粉末)、平均粒径7μm、表面処理なし、吸水率2%以上
(5)アルナビーズCBA30S(表中は「CB−A30S」と記載)〔商品名、昭和電工(株)製〕、アルミナ、平均粒径28μm、表面処理なし、新モース硬度12、吸水率0.1%以上
(6)パイロライザーHG(表中は「HG」と記載)〔商品名、旭硝子(株)製〕、水酸化アルミニウム、平均粒径1.2μm、硝酸アンモニウムによる表面被覆、吸水率2%以上
(7)UC−95H〔商品名、宇部マテリアルズ(株)製〕、酸化マグネシウム、平均粒径3.3μm、表面処理なし、吸水率2%以上
5.加工助剤
メタブレンA−3000〔商品名、三菱レイヨン(株)製〕、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン(アクリル変性PTFE)
6.分散剤(金属石鹸)
SM−1000〔商品名、堺化学工業株式会社製〕、ステアリン酸マグネシウム
【0035】
実施例1〜6の配合は表1に、実施例7〜12の配合は表2に、実施例13〜18の配合は表3に、比較例1〜6の配合は表4に、比較例7〜12の配合は表5に、比較例13〜14の配合は表5に示した。
【0036】
〔組成物のベース材の製造条件〕
ゴム用軟化剤、フィラー以外の材料をドライブレンドし、これにゴム用軟化剤を含浸させて混合物を作製する。その後、混合物を下記の条件において押出機で溶融混練して、組成物のベース材(ペレット)を製造する。
押出機・・・KZW32TW−60MG−NH(商品名、(株)テクノベル製)
シリンダー温度・・・180〜220℃
スクリュー回転数・・・300rpm
【0037】
〔組成物の製造条件〕
上記のようにして製造した上記組成物のベース材(ペレット)をブラベンダープラストグラフに投入し、加熱溶融した後上記フィラーを投入して混練を行ない、組成物(熱伝導性エラストマー組成物)を製造する。
Brabender Plastograph(ブラベンダープラストグラフ、商品名、Brabender社製)
槽温度・・・160℃
ローター回転数・・・100rpm
混練時間・・・11min
【0038】
〔組成物を用いた成形体の成形条件〕
射出成形機・・・100MSIII−10E(商品名、三菱重工業(株)製)
射出成形温度・・・170℃
射出圧力・・・30%
射出時間・・・10sec
金型温度・・・40℃
上記条件で厚さ2mm、幅125mm、長さ125mmのプレートと、厚さ6mm、幅25mm、長さ125mmのバーとを作製した。
【0039】
〔熱伝導率の測定用試料作製〕
プレス機・・・40ton電動油圧成形機
加熱温度・・・上型:195℃、下型:200℃
加熱時間・・・2分
プレス圧・・・5MPa
冷却時間・・・2分
上記条件で厚さ0.5mmおよび1.0mm、幅200mm、長さ200mmのプレートを打ち抜いて熱伝導率、接触熱抵抗の測定用試料を作製した。
【0040】
〔成形性の評価用試料作製〕
ロール機・・・NS−155(J)型(商品名、NISHIMURA製)
ロール温度・・・50℃
ロール時間・・・5min
上記条件で厚さ1.0mm、幅125mm、長さ40mmのシートを作製し、成形性を評価した。
【0041】
〔評価方法〕
実施例1〜24、比較例1〜14のそれぞれについて下記の評価を行った。なお、各物性の評価結果は、実施例1〜5は表1、実施例6〜10は表2、実施例11〜15は表3、実施例16〜20は表4、実施例21〜25は表5に示し、比較例1〜5は表6、比較例6〜10は表7、比較例11〜13は表8に示した。
(1)硬さ測定:厚さ6mmの試験片を用いJIS K 6253Aに準拠して行った。
(2)熱伝導率:レーザーフラッシュ法により熱拡散率を測定(温度19〜30℃)(JIS R 1611)
DSCにより比熱を測定(JIS K 7123に準拠)
水中置換法により比重を測定(JIS K 7112に準拠)
上記測定結果を基に、次の通りに熱伝導率を算出した。
熱伝導率=熱拡散率×比熱×比重
試料:直径10mm、厚さ1.0mmの円盤
(3)耐湿性:試料(射出成形機にて作製した80.0mm×80.0mm×1.0mmのプレート)を80℃×85%RHの恒温槽内に静置、500時間後の体積抵抗率、変形を次の通り評価した。なお表中で「IM」は、何らかの理由で測定が不可能であったこと(impossible to measure)を示す。
・体積抵抗率 ○:1.0×1010Ω・cm以上、×:1.0×1010Ω・cm未満
・変形 ◎:変形なし、○:わずかに変形、△:変形、×:激しく変形
(4)難燃性(UL規格):UL規格に準拠して行なった。
(5)スクリュー摩耗性:ブラベンダープラストグラフによる混練後に目視で判断し、次の通り評価した。
○:摩耗していない、△:若干摩耗している、×:摩耗が激しい
(6)成形性:上記ロール機を用いたシートの成形時におけるロールや金型の汚れを目視で判断し、次の通り評価した。
◎:汚れがない、○:汚れが少ない、△:汚れている、×:汚れが激しい
【0042】
〔必要性能〕
(1)硬さ(HsA):40未満(硬すぎると発熱体との密着性が悪くなる)。
(2)熱伝導率:1.0W/m・K以上(熱伝導率が低いと、熱伝達効率が低下し、充分な放熱効果を得ることができない。)
(3)耐湿性:耐湿試験後に体積抵抗率が1.0×1010Ω・cm以上、および変形なきこと(体積抵抗率が低いと絶縁性を有しているとはいえない)。
(4)難燃性:HB(試料厚さ1.0mm)以上であること(HB未満であると、燃焼速度が速いため充分な難燃性を有しているとはいえない)。
(5)スクリュー摩耗性:○であること(射出成形、押出成形等でスクリューが摩耗しないこと)。
(6)成形性:×でないこと(ロールや金型の汚れが激しくないこと)。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【0049】
【表7】

【0050】
【表8】

【0051】
実施例1〜25の試料はいずれもHsAが40未満で優れた柔軟性を有するとともに、良好な密着性を示し、熱伝導率が1.0W/m・K以上で優れた熱伝導性を有し、また耐湿試験後の体積抵抗率が1.0×1010Ω・cm以上であり、かつ変形もないか、あるいはわずかである。更に難燃性においてもHB以上の優れた難燃性を示し、スクリュー摩耗性もなかった。また実施例1〜14、実施例16〜24は、良好な成形性を示した。
ゴム用軟化剤の添加量を570質量部(上限は600質量部)とした実施例15は、成形性において極僅かな汚れがみられた。
金属石鹸の添加量が80質量部を超えた(100質量部)実施例25は、実施例1〜24に比べ、激しくはないが汚れがあったので、成形性が若干劣るものとなった。
一方、1600℃以上で死焼されていない酸化マグネシウムをシランカップリング剤で表面被覆したフィラー(パイロキスマ5301K)を使用した比較例1、表面被覆のないマグネシアクリンカーであるフィラー(U99NC)を使用した比較例2、無機物(硝酸アンモニウム)により表面被覆された水酸化アルミニウムであるフィラー(パイロライザーHG)を使用した比較例3、表面処理のない酸化マグネシウムであるフィラー(UC−95H)を使用した比較例5は、いずれも耐湿試験で試料にひび割れが生じてしまい、体積抵抗率の測定が不可能となった。また比較例1、比較例2、比較例5は、HsAが40以上になり、柔軟性が悪いものとなった。
表面被覆処理がされていないアルミナであるフィラー(アルナビーズCB−A30S:新モース硬度が10以上(12))を使用した比較例4は、スクリューに著しい摩耗が見られ、更に摩耗によって削られた機器表面の金属粉が組成物に混入したのが原因と思われる該組成物の着色が確認された。
フィラーの配合量が230体積部を超えた(250体積部)比較例6、9は、HsAが40以上になり、柔軟性が悪いものとなった。
フィラーを配合しなかった(配合量が0体積部)比較例7は、熱伝導率が1.0W/m・K未満(0.1W/m・K)で熱伝導性が悪く、難燃性も悪い。
フィラーの配合量が60体積部に満たない(40体積部)の比較例8は、熱伝導率が1.0W/m・Kに満たないので熱伝導性が悪く、難燃性も悪い。
重量平均分子量11万(<15万)のG1650を使用した比較例10は、耐湿試験において激しい変形が見られた。
ゴム用軟化剤の添加量が600質量部を超えた(650質量部)比較例11は、成形性が悪いものとなった。
荷重たわみ温度が80℃に満たない(60℃)オレフィン系樹脂を使用した比較例12は、若干ではあるがHsAが40を超え(44)、柔軟性に劣るものとなった。
オレフィン系樹脂の添加量が60質量部を超えた(80質量部)比較例13は、HsAが40を超え(42)、柔軟性に劣るものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のエラストマー組成物は、優れた柔軟性と良好な熱伝導性を有し、かつ対象物に対する密着性も良く、さらに成形性にも優れているので、電子部品等の放熱用部材に有用であるから産業上利用可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系単量体からなる重合体のブロック単位(S)と、共役ジエン化合物からなる重合体のブロック単位(B)と、からなるブロック共重合体(Z)の水素添加物であり、重量平均分子量15万〜40万、スチレン系単量体の含有割合が20〜50質量%である水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)100質量部と、
動粘度が40℃において50〜500センチストークス(cSt)のゴム用軟化剤250〜600質量部と、
オレフィン系樹脂1〜60質量部と、
上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)と上記ゴム用軟化剤と上記オレフィン系樹脂との合計の100体積部に対して、
水酸化アルミニウムを有機系カップリング剤で表面被覆してなる表面被覆水酸化アルミニウム、
および/または、
マグネシアクリンカーを無機物および/または有機物で表面被覆してなる表面被覆酸化マグネシウム、
を60〜230体積部と、
を混合した組成物であり、
ショアA硬度(HsA)が40未満である
ことを特徴とする熱伝導性エラストマー組成物。
【請求項2】
上記表面被覆水酸化アルミニウム、および/または、上記表面被覆酸化マグネシウムは、耐湿試験による吸水率が1.5質量%未満であり、かつ新モース硬度が10未満である
請求項1に記載の熱伝導性エラストマー組成物。
【請求項3】
上記オレフィン系樹脂の融点が130〜170℃の範囲にあり、かつショアA硬度(HsA)が90未満である
請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性エラストマー組成物。
【請求項4】
上記オレフィン系樹脂として、
融点が130℃〜170℃の範囲にあり、かつショアA硬度(HsA)が90未満のものと、
荷重たわみ温度が80℃〜140℃のものと、
を使用する
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の熱伝導性エラストマー組成物。
【請求項5】
上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)は、昇温速度3℃/分、周波数11Hzの条件下における動的粘弾性測定によるtanδ(損失係数)の温度依存性を示す曲線が−50℃近辺でピークを有し、かつ20℃〜50℃の範囲でブロードな山を有する
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の熱伝導性エラストマー組成物。
【請求項6】
上記水添熱可塑性スチレン系エラストマー(E)100質量部に対して、更に金属石鹸1〜80質量部を添加した
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の熱伝導性エラストマー組成物。



【公開番号】特開2012−246336(P2012−246336A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116901(P2011−116901)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】