説明

熱可塑性ウレタン樹脂分散体の製造方法

【目的】 溶融性、柔軟性および耐久性の優れた熱可塑性ウレタン樹脂粉末を得ることができる熱可塑性樹脂ウレタン樹脂分散体の製造方法を提供する。
【構成】 水および分散安定剤の存在下で、イソシアネート基を有するウレタン樹脂とブロックされた鎖伸長剤を反応させて、熱可塑性樹脂ウレタン樹脂分散体を得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は熱可塑性ウレタン樹脂分散体の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、熱溶融性、柔軟性、耐久性に優れたスラッシュ成形や粉体塗料の他、成形材料等に有用な粉体を得ることのできる、熱可塑性ウレタン樹脂分散体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】スラッシュ成形法は、複雑な形状(アンダーカット、深絞り等)の製品が容易に成形できること、肉厚が均一にできること、材料の歩留まり率が良いことから、近年、自動車の内装材等を中心にした用途に広く利用されており、主に軟質のポリ塩化ビニル(以下PVCという)粉末がこのような用途に使用されている。しかし、軟質化されたPVCは低分子の可塑剤を多量に含有するため、長期間の使用において、可塑剤の揮発により車両のフロントガラス等に油膜を形成(フォギング)して運転者の視認性を阻害したり、成形物表面への可塑剤の移行による艶消し効果やソフト感の消失、さらにはPVCの経時的劣化による黄変の問題があった。また、低分子可塑剤を用いずにソフト感を与えるものとして、PVCに柔軟性のある熱可塑性ポリウレタン樹脂を配合して変性したものが知られている(例えば特公昭53−29705号、特公昭59−39464号、特公昭60−30688号各公報)。しかし、いずれにおいても主体樹脂がPVCであるため、成形物の経時的劣化の問題は依然として解決されていない。前記の問題点を改善するために、最近ポリウレタン樹脂のみを使って所望の物性のものを得ようとする試みも行われている(例えば特開平2−38453号公報)が、有機溶媒中で合成するため高コストで、環境的にも問題がある。このような問題を改善するために水中でウレタン樹脂粉末を作る方法も提案されている(特開平3−97712号公報)。この方法においてはポリアミンなどの鎖伸長剤の使用を記載しているが、このような鎖伸長剤では粒子内部にまで到達することが困難であり、そのため粒子内部に未反応物が残るものであった。また、この方法ではイソシアネート基と分散媒の水との反応が発生し、高分子量化したポリウレタン樹脂が生成しやすいために、この方法で製造した樹脂粉末は成形時にほとんど熱溶融せず、その結果スラッシュ成形に有用でない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記の問題点が改善された、熱溶融性、柔軟性、および耐久性の優れた熱可塑性ウレタン樹脂粉末を得ることのできる熱可塑性ウレタン樹脂分散体の製造方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、熱溶融性、柔軟性、耐久性に優れ、かつ低コスト化を実現できる熱可塑性ウレタン樹脂分散体の製造法を見いだし、本発明に到達した。すなわち本発明は、水および分散安定剤(A)の存在下で、イソシアネート基を有するウレタン樹脂(B)と、ブロックされた鎖伸長剤(C)とを反応させることを特徴とする熱可塑性ウレタン樹脂分散体の製造方法である。
【0005】本発明において使用される分散安定剤(A)は保護コロイドとしての作用を有し、非水溶性または水溶性のいずれでもよいが、実質的に非水溶性が好ましい。さらに好ましいのは、熱可塑性ウレタン樹脂分散体中の分散粒子径の点から、非水溶性分散剤のうち実質的に非乳化性のものである。
【0006】非水溶性分散安定剤としては、ウレタン樹脂(B)と親和性を有する部分(A1)と、親水性を有する部分(A2)から構成されており、(A1)と(A2)の結合形態は特に限定されないが、エステル結合、ウレタン結合が好ましく、特にウレタン結合が好ましい。例えば(A1)を構成する化合物、(A2)を構成する化合物およびジイソシアネート、またはジカルボン酸無水物を混合攪拌しながら加熱することにより分散安定剤を作成することができる。
【0007】(A1)を構成する化合物はウレタン樹脂(B)に用いられたポリオールと同一または近似の構造を有するものが好ましく、その数平均分子量は通常500〜10,000である。
【0008】(A1)を構成する化合物は溶解パラメーター(以下SP値と略記)が通常8〜12のものが使用でき、ウレタン樹脂(B)に用いられた後記ポリオール(B2)とのSP値差が0.5以下のものが特に好ましい。(SP値の計算方法はPolymer Engineering and Science,Feburuary,1974,Vol.14,No.2 P.147〜154による)SP値および分子量が上記の範囲外では水中での(B)の分散が困難になる。
【0009】(A1)を構成する化合物としてはエステル基、オキシアルキレン基(炭素数2個以上)、あるいは不飽和炭化水素基等を有するポリオール化合物が挙げられ、具体的にはエステル基を有するものとしては、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。オキシアルキレン基を有するものとしては、ポリエチレンポリオール、ポリプロピレンポリオール、等が挙げられる。不飽和炭化水素基を有するものとしては、ポリブタジエンポリオール等が挙げられる。これらのうちで好ましいものはエステル基を有するものである。前記ポリオールにおいて、水酸基数は2のものが好ましいが、水酸基数が2より大きなものについても、(A1)を構成する化合物に対して20重量%以下であれば使用することができる。
【0010】前記ポリエステルポリオールとしては■低分子ポリオールとポリカルボン酸との縮重合によるものおよび■ラクトンの開環重合によるものが挙げられる。
【0011】該低分子ポリオールとしては、例えば脂肪族低分子ジオール類[エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなど];環状基を有する低分子ジオール類[例えばm−またはp−キシリレングリコール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物など]等が挙げられる。
【0012】また、ポリカルボン酸としては、例えば脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸など)、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸など)およびこれらの2種以上の併用が挙げられる。
【0013】また、ラクトンとしてはγ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンなどが挙げられる。
【0014】(A1)を構成する化合物の具体例としては、ポリエチレンアジペートポリオール(SP値=10.9)、ポリエチレンブチレンアジペートポリオール(SP値=10.7)、ポリブチレンヘキシレンアジペートポリオール(SP値=10.3)、ポリジエチレングリコールイソフタレートポリオール(SP値=10.8)、ビスフェノールAのPO2モル付加物とテレフタル酸の縮重合物(SP値=10.1)ビスフェノールAのPO2モル付加物とフマル酸の縮重合物(SP値=10.1)、ポリε−カプロラクトンポリオール(SP値=10.2)、ポリプロピレンポリオール(SP値=8.7)、ポリテトラメチレンポリオール(SP値=9.0)、ポリヘキサメチレンポリカーボネートポリオール(SP値=9.8)、ポリブタジエンポリオール(SP値=8.6)などが挙げられる。
【0015】(A2)を構成する化合物としては、オキシエチレン単位が通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上含む数平均分子量が通常500〜10,000、好ましくは1,000〜6,000のポリオキシアルキレングリコールが挙げられる。具体的にはポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンプロピレングリコール、ポリエチレングリコールPO(プロピレンオキシド)、EO(エチレンオキシド)ランダム付加物(PO、EOの割合は、重量比で80/20〜20/80)等が挙げられる。これらのうち好ましいのはポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールPO、EOランダム付加物である。
【0016】(A1)と(A2)の割合は、重量比で通常20/80〜80/20、好ましくは30/70〜70/30である。(A1)のSP値、(A1)および(A2)の割合および分子量が上記の範囲外では水中でのウレタン樹脂(B)の分散性が悪く均一な分散体が得られない。
【0017】(A1)と(A2)を結合する基は特に限定されないが、例えば、ウレタン基およびエステル基が挙げられる。
【0018】ウレタン基を介して(A1)と(A2)を結合する例(非水溶性分散安定剤)としては、例えば(A1)、(A2)およびジイソシアネートを混合攪拌しながら加熱することにより分散安定剤を作成する方法が例示できる。該ジイソシアネートとしては、■炭素数(NCO基中の炭素を除く)2〜12の脂肪族ジイソシアネート[エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート等];■炭素数(NCO基中の炭素を除く)4〜15の脂環式ジイソシアート[イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート等];■炭素数(NCO基中の炭素を除く)8〜12の芳香族/脂肪族ジイソシアネート[キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等];■芳香族ジイソシアネート[トリレンジイソシアネート、ジエチルベンゼンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、 ナフチレンジイソシアネート等]および/またはこれらの変性物(カーボジイミド基、ウレトジオン基、ウレトイミン基および/またはウレア基を有するジイソシアネート);およびこれらの2種以上の併用が挙げられる。
【0019】エステル基を介して(A1)と(A2)を結合する例(非水溶性分散安定剤)例としては、例えば(A1)、(A2)およびジカルボン酸無水物を混合攪拌しながら加熱することにより分散剤を作成する方法が例示できる。該ジカルボン酸無水物の具体例としては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、アゼライン酸、マレイン酸、フマル酸など)の酸無水物、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸など)の酸無水物およびこれらの2種以上の併用が挙げられる。
【0020】(A)のうち水溶性分散安定剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系水溶性樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩類、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、第三燐酸塩類等があげられ、これらのうちでポリビニルアルコールが好ましい。
【0021】本発明において用いられるウレタン樹脂(B)は、イソシアネート基濃度(以下NCO%と略記)が1〜50重量%のプレポリマーである。このうち好ましいものはNCO%1〜10重量%のものである。(B)の数平均分子量は、通常500〜100000、好ましくは5000〜30000のものが用いられる。
【0022】ウレタン樹脂(B)を製造するためのポリイソシアネート(B1)としては、■炭素数(NCO基中の炭素を除く)2〜12の脂肪族ポリイソシアネート[エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート等];■炭素数(NCO基中の炭素を除く)4〜15の脂環式ポリイソシアート[イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート等];■炭素数(NCO基中の炭素を除く)8〜12の芳香族/脂肪族ポリイソシアネート[キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等];■芳香族ポリイソシアネート[トリレンジイソシアネート、ジエチルベンゼンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、 ナフチレンジイソシアネート等]および/またはこれらの変性物(カーボジイミド基、ウレトジオン基、ウレトイミン基および/またはウレア基を有するジイソシアネート);およびこれらの2種以上の併用が挙げられる。官能基数が3以上のポリイソシアネートの使用量はジイソシアネートに対して30重量%以下である。必要に応じてジイソシアネートとともにイソシアネート基数が3以上のポリイソシアネートを使用することができる。該ポリイソシアネートの使用量はジイソシアネートに対して30重量%以下である。
【0023】これら(B1)として例示したもののうち、好ましいものは脂肪族ジイソシアネートおよび脂環式ジイソシアネートであり、特に好ましいものはヘキサメチレンジイソシアネート(以下、HDIと略記)、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略記)およびジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下、水添MDIと略記)である。
【0024】ウレタン樹脂(B)を製造するためのポリオール(B2)としてはポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、シリコンポリオール、ポリブタジエンポリオール、フッ素含有ポリオール、ポリマーポリオール、グリシジル基含有ポリオールおよびこれらの混合物が挙げられる。これらのうち好ましいものはポリエステルポリオールであり、特に好ましいものは水酸基数が2であるポリエステルジオールである。必要に応じてポリエステルジオールとともに水酸基数が3以上のポリオールを使用することができる。該ポリオールの使用量はジオールに対して30重量%以下である。(B2)の数平均分子量は通常100〜10000、好ましくは500〜3000である。
【0025】ポリエーテルポリオールとしては、2個以上の活性水素原子を有する化合物(たとえば多価アルコール、多価フェノールなど)にアルキレンオキサイドが付加した構造の化合物およびそれらの混合物があげられる。これらのうち好ましい物は、異種のアルキレンオキサイド、例えばPOとEOがブロック状に付加したポリエーテルポリオールである。
【0026】上記多価アルコールとしてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−および1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどのアルキレングリコール、および環状基を有するジオール(たとえば、特公昭45−1474号公報明細書に記載のもの)などの多価アルコールが挙げられる。多価フェノールとしてはピロガロール、ハイドロキノン、フロログルシンなどの単環多価フェノール;ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンなどのビスフェノール類などが挙げられる。これらのうち好ましいものは多価アルコールである。
【0027】アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド(以下EOと略記)、プロピレンオキサイド(以下POと略記)、1,2−、1,3−、1,4あるいは2,3−ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド等、およびこれらの2種以上の併用(ブロックまたはランダム付加)が挙げられる。これらのうち好ましいものはEOとPOの併用であって、ブロック付加の形で用いることがさらに好ましい。
【0028】ポリエステルポリオールとしては、例えば■低分子ポリオールとポリカルボン酸との縮合重合によるもの、■ラクトンの開環重合によるものおよびこれらの2種以上の混合物、混合変成体が挙げられる。
【0029】該低分子ポリオールとしては、例えば脂肪族低ジオール類[エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなど];環状基を有するジオール類[例えば特公昭45−1474号公報に記載のもの:1,4−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、m−またはp−キシリレングリコールなど]等およびこれらの2種以上の併用が挙げられる。
【0030】該ポリカルボン酸の具体例としては、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、アゼライン酸、マレイン酸、フマル酸など)、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸など)およびこれらの2種以上の併用が挙げられる。
【0031】上記■のラクトンとしてはγ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンなどが挙げられる。
【0032】本発明において使用される、ブロックされた鎖伸長剤(C)は、2個以上の活性水素基を有する化合物(C1)において、その活性水素基がブロック(封鎖)された化合物を示し、例えばポリカルボン酸、ポリアミン、アミン系ポリオール、アルカノールアミンのブロック化物が挙げられる。このうち好ましいのは、活性水素基を2個有する化合物のブロック化物であって、例えばジカルボン酸、ジアミンをブロックしたものが挙げられる。これらのうち好ましいのは、ジアミンをブロックしたものである。必要に応じて活性水素基を3個以上有するもののブロック化物を使用することができる。この場合の活性水素基を3個以上有するもののブロック化物の使用量は、活性水素基を2個有するもののブロック化物の30重量%以下である。
【0033】(C)に使われる該ポリカルボン酸としては(B2)の項で説明した脂肪族ジカルボン酸および芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0034】(C)に使われる該ポリアミンとしては、芳香族ジアミン[ジエチルトルエンジアミン、2,4または2,6−ジメチルチオトルエンジアミン等]、脂環式ジアミン[4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシル、ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、等]および脂肪族ジアミン[1,2−エチレンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン]が挙げられる。これらのうち好ましいものは脂環式ジアミンである。
【0035】ポリカルボン酸をブロックするためのブロック化剤としては、モノまたはジカルボン酸が挙げられる。それらは、脂肪族、脂環族、芳香族のいずれでもよい。具体的には、(B2)の項で説明したジカルボン酸が挙げられる。
【0036】ポリアミンをブロックするためのブロック化剤としては、アセトン、メチルエチルケトン(以下MEKと略記)、メチルイソブチルケトン(以下MIBKと略記)、等のケトン化合物が挙げられる。これらのうち好ましいのはアセトン、MEKである。
【0037】ポリカルボン酸をブロックする方法としては、ポリカルボン酸とモノカルボン酸または同種または異種のポリカルボン酸とを、必要により脱水剤の存在下で反応させて酸無水物にする方法が例示できる。
【0038】ポリアミンをブロックする方法としては特に限定されず公知の方法を用いてよく、例えば、ジアミンとケトン化合物の混合物を加熱し、生成した水を除去する方法が例示できる。
【0039】本発明において必要により重合停止剤(E)を用いて熱可塑性ウレタン樹脂の分子量を調整することができる。(E)としては1価のアルコール[メチルアルコール、エチルアルコール、セロソルブ、フェノール等]}およびモノアミン{ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン等}が挙げられ、これらのうちモノアミンが好ましい。
【0040】本発明の熱可塑性ウレタン樹脂分散体の製造において、以下の熱可塑性樹脂存在下で行ってもよい。熱可塑性樹脂としては、、熱可塑性(メタ)アクリル酸(共)重合体、熱可塑性ポリエステル樹脂およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。該熱可塑性樹脂を含有させることにより、熱溶融性の一層の向上を達成することができる。
【0041】(メタ)アクリル酸(共)重合体としては(メタ)アクリル酸の重合体および該酸とコモノマーから構成される共重合体があげられる。コモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーおよび該モノマー以外のエチレン性不飽和単量体およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0042】(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば■アルキル(メタ)アクリレート[メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート等];■複素環式(メタ)アクリレート[テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等];■ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート[ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等];■ヒドロキシポリオキシアルキレン(オキシアルキレン基の炭素数2〜4)(メタ)アクリレート[ヒドロキシポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ヒドロキシポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート等];■アルコキシ(アルコキシ基の炭素数は好ましくは1〜4)アルキル(アルキル基の炭素数は好ましくは2〜3)(メタ)アクリレート[メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等];■アミノ基含有(メタ)アクリレート[ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等];およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち好ましいのは、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートである。
【0043】(メタ)アクリル酸エステルモノマー以外のエチレン性不飽和単量体としては、■有機酸ビニルエステル[酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等];■不飽和多塩基酸エステル[マレイン酸エステル、フマル酸エステル、イタコン酸エステル等];■芳香族ビニルモノマー[スチレン、p−メチルスチレン、ビニルピリジン等];■その他のラジカル重合性単量体[(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等];およびこれらの2種以上の混合物があげられる。これらのうち好ましいのは、芳香族ビニルモノマー、(メタ)アクリロニトリルである。
【0044】前記熱可塑性ポリエステル樹脂としては、(B2)の項で説明したジカルボン酸およびグリコールからなるポリエステル樹脂が挙げられられる。
【0045】これら熱可塑性樹脂のうち好ましいものはアルキルまたはヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの(共)重合体である。該共重合体を構成するコモノマーとしては芳香族ビニルモノマーおよびその他のラジカル重合性単量体があげられ、これらのうち好ましいのはスチレンおよび(メタ)アクリロニトリルである、該コモノマーの割合は(メタ)アクリレート共重合体に対して通常20〜80重量%である。該熱可塑性樹脂の数平均分子量は、特に限定されないが通常1000〜100万、好ましくは1万〜50万である。
【0046】該熱可塑性樹脂は(B)、(B1)、(B2)のいずれかに含有させて、分散体を製造することが好ましい。該熱可塑性樹脂の含有量は、熱可塑性ウレタン樹脂粉末100重量部に対し、通常0〜100重量部、好ましくは0〜50重量部である。
【0047】該熱可塑性樹脂を(B)、(B1)あるいは(B2)に含有させる方法としては、例えば(メタ)アクリル酸(共)重合体を例に取ると(B)、(B1)または(B2)の存在下で、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリレートを必要によりラジカル重合開始剤を用いて共重合を行う方法が例示できる。また、予め合成した(メタ)アクリル酸(共)重合体を必要により有機溶媒存在下で(B)、(B1)または(B2)と混合してもよい。
【0048】次に本発明の熱可塑性ウレタン樹脂分散体の製造法について説明する。例えば■(C)を含有した(B)を、(A)を含有する水中で分散機で分散し、(B)を水および/または(C)と反応させ製造法■あらかじめ混合された(C)と(E)を含有した(B)を、(A)を含有する水中で分散機で分散し、(B)を水および/または(C)と(E)と反応させ製造法■あらかじめ混合された(B)と(E)に(C)を含有させたものを、(A)を含有する水中で分散機で分散し、(B)を水および/または(C)と(E)と反応させ製造法■(C)を含有した(B)と熱可塑性樹脂の混合物を、(A)を含有する水中で分散機で分散し、(B)を水および/または(C)と反応させ製造法■あらかじめ混合された(C)と(E)を含有した(B)と熱可塑性樹脂の混合物を、(A)を含有する水中で分散機で分散し、(B)を水および/または(C)と(E)と反応させ製造法■あらかじめ混合された(B)と熱可塑性樹脂と(E)に(C)を含有させたものを、(A)を含有する水中で分散機で分散し、(B)を水および/または(C)と(E)と反応させ製造法
【0049】バッチ方式による各工程における条件を例示すると、(A)の使用量は水100重量部に対し通常0.01〜5重量部、好ましくは0.1〜3重量部である。この範囲外では好ましい粒度の樹脂粉末や分散体が得られない。また、(B)100重量部に対する(A)と水からなる分散安定剤液の使用量は、通常50〜1000重量部、好ましくは100〜1000重量部である。この範囲外では(B)の分散状態が悪く、そのため好ましい粒度の樹脂粉末が得られない。必要により(B)を低粘度化するために40〜100℃に加温してもよく、またエステル系溶剤、ケトン系溶剤、塩素系溶剤、芳香族溶剤等の溶剤を添加してもよい。
【0050】本発明における鎖伸長剤(C)の使用量は(B)のイソシアネート基1当量に対し、通常0.5〜1.5当量、好ましくは0.7〜1.2当量である。この範囲外では良好な機械的物性を有する樹脂粉末が得られない。また、反応停止剤(E)の使用量は(B)のイソシアネート基1当量に対し通常0.03〜0.4当量、好ましくは0.05〜0.3当量である。この範囲外では良好な機械的物性が得られない。
【0051】(A)含有水中への(B)の分散の方法としては特に限定されず低速せん断式、高速せん断式、摩擦式、高圧ジェット式、超音波式等の公知の設備が使用できる。 このうち好ましい物は高速せん断式である。高速せん断式分散機を使用した場合、回転数は特に限定はないが、通常1000〜30000rpm、好ましくは2000〜10000rpmである。分散時間は特に限定はないが、通常0.1〜5分である。回転数や分散時間がこの範囲外では好ましい粒度の樹脂粉末が得られない。
【0052】(B)と、(C)および(E)との反応時間は特に限定はないが、通常反応温度が30℃であれば、1時間〜40時間、好ましくは5時間〜20時間である。この範囲外では樹脂粉末の熱溶融性および機械強度が悪くなる。本発明の製法において、反応温度は通常0〜80℃、好ましくは20〜60℃である。反応温度が80℃を超えると分散した樹脂粉末同士の合一が発生する。
【0053】この分散体をプレスフィルター、スパクラーフィルター、遠心分離器等の公知の設備を使用して濾過し、得られた粉末を乾燥することにより熱可塑性ウレタン樹脂粉末が得られる。得られた粉末を乾燥するには、循風乾燥機、スプレードライヤー、流動層式乾燥機等の公知の設備を用いて行うことができる。
【0054】本発明における分散体から得られる樹脂粉末には必要に応じ、公知の顔料、離型剤、染料、耐候性安定剤、滑剤、可塑剤、カップリング剤、耐熱安定剤、難燃剤等を添加してもよい。これらの添加方法については特に限定されず、分散体の製造中に添加しても良い。
【0055】本発明の製造方法によって得られる熱可塑性ウレタン樹脂粉末または熱可塑性樹脂含有熱可塑性ウレタン樹脂粉末をスラッシュ成形用として用いる場合、粉末の平均粒子径は通常10〜300μmであり、かつ安息角が通常40度以下の粉末を用いることが好ましい。平均粒子径が10μm未満では、粉末が飛散し作業環境が悪化し、300μmを超えると成形物表面にピンホールが多く発生するようになる。また、安息角が40度を超えると粉体の流動性が低下して成形性が悪化し、成形物の膜厚が不均一になる。尚、ここで言う平均粒子径はプロセス用粒度分布計測システムTSUB−TEC300(日本鉱業株式会社製)にて求めることができる。また、安息角はパウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)にて求めることができる。
【0056】熱可塑性ウレタン樹脂粉末または熱可塑性樹脂含有熱可塑性ウレタン樹脂粉末のメルトフローレートは30g以上/10分(200℃、2.16Kg荷重)、好ましくは30〜1000g/10分である。この範囲外では適度な流動性が得られず満足する成形物ができない。
【0057】
【実施例】以下実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の記載において「部」は重量部、「%」は重量%を示す。
【0058】製造例1攪拌棒および温度計をセットした4つ口フラスコに、ポリカプロラクトンポリオール(分子量2000)787部、ポリエーテルジオール(分子量4000、EO含量50重量%、PO含量50重量%)800部を仕込み、120℃で減圧脱水した。脱水後の水分は0.05%であった。次いでHDI55.5部、水添MDI65.5部およびジブチル錫ジラウレート0.6部を添加し80℃で5時間反応を行った。得られた生成物を[分散安定剤1]とする。
【0059】製造例2[分散安定剤1]1部を水100部に分散し、乳白色の液体を得た。これを[分散液1]とする。
【0060】製造例3ポリビニルアルコール[「PVA−235」、(株)クラレ製]1部を水100部に溶解した。これを[分散液2]とする。
【0061】製造例4攪拌棒および温度計をセットした4つ口フラスコに、ヒドロキシル価が56のポリカプロラクトンジオール[「プラクセルL220AL」、ダイセル化学工業(株)製]2000部を投入し3mmHgの減圧下で110℃に加熱して1時間脱水を行った。続いてIPDI457部を投入し、110℃で10時間反応を行い末端にイソシアネート基を有するウレタン樹脂を得た。該ウレタン樹脂の遊離イソシアネート含量は3.6%であった。これを[ウレタン樹脂1]とする。
【0062】製造例5攪拌棒および温度計をセットした4つ口フラスコに、ヒドロキシル価が56の「プラクセルL220AL」2000部を投入し3mmHgの減圧下で110℃に加熱して1時間脱水を行った。続いてIPDI457部を投入し、110℃で10時間反応を行い末端にイソシアネート基を有するウレタン樹脂を得た。更に、このウレタン樹脂に、メチルアクリレート1052部、スチレン500部とアゾビスイソバレロニトリル(以下、AIVNと略す)3部を添加し、70〜110℃で3時間重合した。該ポリメチルアクリレート含有ウレタン樹脂の遊離イソシアネート含量は1.2%であった。これを[ウレタン樹脂2]とする。
【0063】製造例6攪拌棒および温度計をセットした4つ口フラスコに、エチレンジアミン50部とMIBK50部を仕込み、50℃で5時間反応を行った。得られたケチミン化合物を[鎖伸長剤1]とする。
【0064】製造例7攪拌棒および温度計をセットした4つ口フラスコに、ジエチレントルエンジアミン(以下DETDAと略記)300部とMEK70部を仕込み、30℃で10時間反応を行った。得られたケチミン化合物を[鎖伸長剤2]とする。
【0065】実施例1ビーカー内に[ウレタン樹脂1]50部と[鎖伸長剤1]6部とを混合しておき、[分散液1]250部を添加した後、ウルトラディスパーザー(ヤマト科学製)を使用し、回転数9000rpmで1分間混合した。混合後、攪拌棒および温度計をセットした4つ口フラスコに混合液を投入し、50℃で10時間反応を行った。次いでブロッキング防止剤[「サイロイド978」、富士デヴィソン化学製]1部および耐光安定剤[「DIC−TBS」、大日本インキ化学工業製]0.5部を加え、濾別、乾燥を行い樹脂粉末(F1)を調製した。
【0066】実施例2ビーカー内に[ウレタン樹脂2]50部と[鎖伸長剤1]4部とを混合しておき、[分散液1]250部を添加した後、ウルトラディスパーザー(ヤマト科学製)を使用し、回転数9000rpmで1分間混合した。以下実施例1と同様にして樹脂粉末(F2)を得た。
【0067】実施例3実施例2において[分散液1]の代わりに[分散液2]を使用した以外は実施例1と同様にして、樹脂粉末(F3)を得た。
【0068】実施例4実施例2において[鎖伸長剤1]4部の代わりにあらかじめ混合した[鎖伸長剤2]3部とジーnーブチルアミン0.3部を使用した以外は実施例1と同様にして、樹脂粉末(F4)を得た。
【0069】比較例1実施例1の[鎖伸長剤1]の代わりにイソホロンジアミン(以下IPDAと略記)を使用したところ、ウレタン樹脂1とIPDAを混合した直後に伸長反応が完結して樹脂化し、分散剤1への分散ができず樹脂粉末(F5)は得られなかった。
【0070】比較例2[ウレタン樹脂1]50部に[分散液1]250部を添加した後、ウルトラデスパーザー(ヤマト科学製)を使用し、回転数9000rpmで1分間混合した。混合後、攪拌棒および温度計をセットした4つ口フラスコに混合液を投入した後、DETDA5部を投入し、50℃で10時間反応を行った。次いでブロッキング防止剤[「サイロイド244」、富士デヴィソン化学製]1部および耐光安定剤[「DIC−TBS」、大日本インキ化学工業製]0.5部を加え、脱水、乾燥を行い樹脂粉末(F6)を得た。
【0071】物性測定例1実施例1〜4および比較例2で得た樹脂粉末(F1)〜(F4)と(F6)を260℃に加熱した金型に接触させ熱溶融後、水冷し成形シートを作成し破断強度および伸び率(JIS K6301)を測定した。その結果を表1に示す。なお、樹脂粉末(F6)は溶融せずシート物性を測定することができなかった。
【0072】


【0073】物性測定例2実施例1〜4および比較例で得た樹脂粉末(F1)〜(F4)、(F6)および市販のPVCを260℃に加熱した金型に接触させるをフィルムを形成した。次にウレタンフォーム形成成分を添加し発泡密着させた後、120℃の循風乾燥器内で500時間熱処理した。このようにして生成された成形品からウレタンフォームをとり除き、各成形品の破断伸び率(JIS K6301)の測定ならびに変色度合の観察を行った。その結果を表2に示す
【0074】


なお、変色度合の判定基準は以下の通りである。(目視判定)
○:変色無し、△:僅かに変色、×:著しく変色
【0075】物性測定例3物性測定例2に記載の各ラッシュ成形品をブラックパネル温度83℃のカーボンアークフェードメーター内で400時間処理した。処理後成形品からウレタンフォームをとり除き、各成形品の伸び率(JIS K6301)の測定および変色度合のを観察を行った。その結果を第3表に示す
【0076】


【0077】
【発明の効果】本発明の方法は以下の効果を有する。
1.水中で容易に熱可塑性ウレタン樹脂分散体を製造できるので、それを粉体化する事により、従来の製法に比べ低コストの熱可塑ウレタン樹脂粉末を製造できる。
2.イソシアネート基含有ウレタン樹脂と水との反応を抑制できるので、従来の製法に比べ熱溶融性に優れた熱可塑性ウレタン樹脂粉末を製造できる。
3.柔軟性で耐久性のあるフィルムを与える熱可塑性ウレタン樹脂粉末を製造できる。
上記効果を奏することから、本発明の方法にから得られる樹脂粉末は自動車の内装材等の各種成形材料として極めて有用である。また粉体塗料および各種ホットメルト接着剤への応用も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水および分散安定剤(A)の存在下で、イソシアネート基を有するウレタン樹脂(B)とブロックされた鎖伸長剤(C)とを反応させることを特徴とする熱可塑性ウレタン樹脂分散体の製造方法。
【請求項2】 分散安定剤(A)が、ウレタン樹脂(B)と親和性を有する部分(A1)と親水性を有する部分(A2)から構成されており、該部分(A1)が8〜12の溶解パラメーターを有する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】 (C)がケチミン化合物(D)である請求項1〜2いずれか記載の製造方法。
【請求項4】 (C)が反応性停止剤(E)を含有する請求項1〜3のいずれか記載の製造方法。

【公開番号】特開平8−120041
【公開日】平成8年(1996)5月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−120513
【出願日】平成6年(1994)5月9日
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)