説明

熱線遮断膜

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は耐久性、特に耐湿性や耐酸性の優れた熱線遮断膜に関する。
【0002】
【従来の技術】基体表面に酸化物膜、Ag膜、酸化物膜を順に積層した3層からなる膜、または酸化物膜、Ag膜、酸化物膜、Ag膜、酸化物膜を順次積層した5層からなる膜等の(2n+1)層(n≧1)からなる膜は、Low−E(Low−Emissivity)膜と呼ばれる熱線遮断膜であり、かかるLow−E膜を形成したガラスは、Low−Eガラスと呼ばれている。
【0003】これは、室内からの熱線を反射することにより室内の温度低下を防止できる機能ガラスであり、暖房負荷を軽減する目的でおもに寒冷地で用いられている。また、太陽熱の熱線遮断効果も有するため、自動車の窓ガラスにも採用されている。透明でありかつ導電性を示すため、電磁遮蔽ガラスとしての用途もある。導電性プリント等からなるバスバー等の通電加熱手段を設ければ、通電加熱ガラスとして用いることができる。
【0004】おもなLow−Eガラスとしては、ZnO/Ag/ZnO/ガラスという膜構成を有するものがげられる。しかし、このような膜では、耐擦傷性、化学的安定性などの耐久性に欠けるため、単板で使うことができず、合わせガラスまたは複層ガラスにする必要があった。

【0005】
特に耐湿性にも問題があり、空気中の湿度や合わせガラスとする場合の中間膜に含まれる水分により、白色斑点や白濁を生じる。また、ZnOは耐酸性も不十分であるため、空気中の酸性物質によって劣化する不安があった。このようなことから、単板での保管やハンドリングに注意を要していた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、従来技術が有していた上記の欠点を解決し、耐久性、特に耐湿性や耐酸性の優れた熱線遮断膜を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、上述の課題を解決すべくなされたものであり、基体上に酸化物膜、金属膜、酸化物膜、と交互に積層された(2n+1)層(n≧1)からなる熱線遮断膜において、基体から見て、基体から最も離れた金属膜(A)の反対側に形成された酸化物膜(B)は、酸化亜鉛を主成分とする膜を少なくとも1層有する膜であり、酸化亜鉛の結晶系が六方晶であり、該熱線遮断膜のCuKα線を用いたX線回折法による六方晶酸化亜鉛の(002)回折線の回折角2θ(重心位置)の値が33.88°以上35.00°以下であることを特徴とする熱線遮断膜を提供する。
【0008】以下に酸化物膜(B)について説明する。
【0009】上述のように、従来のLow−Eガラス(膜構成:ZnO/Ag/ZnO/ガラス)の場合、単板で室内放置すると、空気中の湿気により白色斑点や白濁を生じる。

【0010】
白色斑点や白濁の存在する膜を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより、膜の表面にひびわれやしわの存在、及び膜の剥離の存在が確認された。
【0011】この膜の剥離部について、AgおよびZnの各元素について元素分析を行ったところ、Agは剥離の有無にかかわらずほぼ一定量存在するのに対して、Znは剥離部で検出量がほぼ半分になっていた。つまり、剥離は最上層のZnO層とAg層の界面で起きていることがわかった。
【0012】次に、耐湿試験(50℃、相対湿度95%雰囲気中、6日間放置)前後の試料をCuKα線を用いたX線回折法で調べた。六方晶酸化亜鉛の(002)回折線、立方晶Agの(111)回折線について、回折角2θ(ピークの重心位置)、結晶面間隔d、積分幅I.W.をそれぞれ表1に示す。
【0013】X線回折法におけるピークのずれの程度により内部応力による格子歪の程度を検出することができる。ZnO(b)/Ag/ZnO(a)/ガラスという試料の場合、最上層のZnO(b)によるピークが、ZnO(a)によるピークの5〜15倍の強さで検出されるため、試料全体におけるX線回折法のZnOのピークは、若干ZnO(a)による影響があるかもしれないが、ほとんど最上層の六方晶ZnO(b)によるピークと考えてい。
【0014】
【表1】


【0015】表1より、耐湿試験前のLow−E膜のZnOの(002)回折線は、ZnO粉末の2θ=34.44°と比較するとかなり位置がずれている。これは、結晶歪の存在を示唆している。この結晶歪は、膜の内部応力によるものと考えられる。耐湿試験前サンプルでは、結晶面間隔d002 =2.650Åとなっており、ZnO粉末のd002 =2.602Åと比較すると1.8%大きい。このことから、結晶がかなり大きな圧縮応力を受けていることがわかる。耐湿試験後のサンプルでは、d002 =2.641Åとなっており、やや結晶歪が小さくなっている。これは、最上層の六方晶ZnOの内部応力が、ひび、しわ、剥離により一部緩和されたことと対応している。
【0016】Agの(111)回折線に関しては、耐湿試験後の積分幅が小さくなっていることから、耐湿試験を施すことにより、Agが粒成長すると考えられる。
【0017】つまり、白濁発生のメカニズムは、最上層のZnO膜が内部応力に耐えきれず、Ag膜との界面から剥離、破損し、次に銀の劣化、即ち粒径が増大し、かかる破損した表面および大きな銀粒子により光が散乱されて白濁して見えるものと考えられる。表1の例では、内部応力は圧縮応力であるが、内部応力には圧縮応力と引張応力の2種類があり、いずれも膜破損の原因となると考えられる。以上のことから、湿気による白濁を抑えるためには、最上層ZnO膜の内部応力低減が有効であることを見出した。
【0018】図1に本発明の熱線遮断膜の代表例の断面図を示す。図1(a)は、3層からなる熱線遮断膜の断面図、図1(b)は、(2n+1)層からなる熱線遮断膜の断面図である。1は基体、2は酸化物膜、3は金属膜、4は内部応力の低い酸化物膜(B)である。本発明における基体1としては、ガラス板の他、プラスチック等のフィルムや板も使用できる。
【0019】酸化物膜(B)の内部応力は、成膜条件により大きく異なり、低内部応力の膜を成膜するときは、成膜条件を精密に制御する必要がある。膜の内部応力を低減化できる傾向を示す方法としては、成膜時(特にスパッタリング法による場合)の成膜雰囲気の圧力(スパッタ圧力)を高くする、成膜中に基板加熱を施す等、成膜条件を変える方法や、成膜後に加熱処理を施す方法等が挙げられる。それぞれの具体的な条件は、成膜装置に応じて選べばよく特に限定されない。
【0020】酸化物膜(B)の膜材料としては、特に限定されない。1層でもよいし、多層でもよい。例えば、本発明の熱線遮断膜を内側にしてプラスチック中間膜を介してもう1枚の基体と積層して合わせガラスとする場合に、かかるプラスチック中間膜との接着力の調整、もしくは、耐久性向上の目的で中間膜と接する層として、100Å以下の酸化物膜(例えば、酸化クロム膜)を形成する場合があるが、このような膜を含めて2層以上の構成とすることもできる。
【0021】酸化物膜(B)を構成する具体的な膜としては、特に限定されない。例えば、ZnOを主成分とする膜、SnO2 を主成分とする膜、TiO2 を主成分とする膜、これらの2種以上を含む積層膜などが挙げられる。これらの膜に、酸化状態でZn2+よりイオン半径の小さい他の元素を添加すると、成膜条件によりかなりのバラツキがあるが、その膜の内部応力を低減できる傾向がある。
【0022】特に、酸化物膜(B)を構成するZnO膜に関しては、上述のように、六方晶酸化亜鉛の内部応力と、CuKα線を用いたX線回折による回折角2θ(重心位置)とがほぼ対応している。酸化亜鉛を主成分とする膜の結晶系は六方晶である。本発明の熱線遮断膜の耐久性向上のためには、熱線遮断膜のCuKα線を用いたX線回折において、六方晶酸化亜鉛の(002)回折線の回折角2θ(重心位置)が33.88°から35.00°までの間の値、特に、34.00°から34.88°までの値であることが好ましい。回折角2θが34.44°以下の値は圧縮応力、34.44°以上の値は引張応力を示す。
【0023】ZnO膜に、酸化状態でZn2+よりイオン半径の小さい他の元素を添加(ドープ)する場合にも、成膜条件により異なるが、内部応力を低減できる傾向があり、かかる元素としては、Al、Si、B、Ti、Sn、Mg、Cr等が挙げられる。したがってこれらのうちから少なくとも1種をドープしたZnOを主成分とする膜も、ZnO膜と同様に使用できる。ドープ量は、Al、Si、B、Ti、Sn、Mg、Crのうち少なくとも1種を、Znとの合計量に対して、原子比で10%以上としても、内部応力低減効果は変わらないことが多いので、10%以下程度で十分である。このような、他の元素をドープしたZnO膜についても、六方晶酸化亜鉛の(002)回折線の回折角2θ(重心位置)に関して、ZnO膜と同様のことがいえる。
【0024】酸化物膜(B)の膜厚は、特に限定されないが、熱線遮断膜全体の色調、可視光透過率を考慮すると、200〜700Åが望ましい。
【0025】酸化物膜(B)を酸素含有雰囲気中で反応性スパッタリングにより成膜する場合は、金属膜(A)の酸化を防ぐために、まず金属膜(A)上に酸素の少ない雰囲気中で薄い金属膜もしくは酸化不充分な金属酸化物膜を形成するのが望ましい。この薄い金属膜は、酸化物膜(B)の成膜中に酸化されて酸化物膜となる。したって上述の酸化物膜(B)の好ましい膜厚は、かかる薄い金属膜が酸化されてできた酸化物膜の膜厚も含んだ膜厚である。本明細書において、金属膜3上に形成する酸化物膜に関しても、同様である。
【0026】酸化物膜(B)としては、高内部応力の膜と低内部応力の膜を組み合わせて2層以上の構成とした多層膜を用いることもできる。低内部応力の膜としては、成膜条件によるが、比較的、7.0×109 dyn/cm2 以下の内部応力の低い膜が形成しやすい、SnO2 膜が挙げられる。具体的な例としては、ZnO/SnO2 /ZnOや、SnO2 /ZnO/SnO2 のような3層系や、ZnO/SnO2 /ZnO/SnO2 /ZnOや、SnO2 /ZnO/SnO2 /ZnO/SnO2 のような5層系、あるいは同様に交互に積層した7層系、9層系など、ZnO膜と、SnO2 膜を交互に積層したものが挙げられる。酸化亜鉛1層の膜厚は200Å以下、好ましくは180Å以下とするのがよい。特に好ましくは100Å以下として上記5層系で構成するのが望ましい。成膜時の生産性を考慮すると、各層の成膜速度に比例した膜厚に調整して全体で450Å程度の上記5層系の積層膜が好ましい。
【0027】この場合、これらの積層膜を有する酸化物膜(B)全体の内部応力、1.1×1010dyn/cm2 以下であることが好ましい。
【0028】このように、酸化物膜(B)として高内部応力の膜と低内部応力の膜を組み合わせて2層以上の構成とした多層膜を用いる場合、合計200〜700Åであることが好ましい。積層数及び1層の膜厚は、装置に応じて選べばく特に限定されない。また、各層の膜厚がそれぞれ異なってもい。
【0029】酸化物膜(B)1層(450Å)の内部応力、および、ガラス/ZnO(450Å)/Ag(100Å)の上に同様の酸化物膜(B)(450Å)をスパッタリング法により形成した熱線遮断膜の六方晶酸化亜鉛の(002)回折線の回折角2θ(重心位置)と、かかる熱線遮断膜の耐湿性の関係を表2に示す。
【0030】
【表2】


【0031】耐湿性は、50℃、相対湿度95%の雰囲気中に6日間放置するという試験を行い、評価した。

【0032】
評価基準は、膜の端部付近に白濁がなく、直径1mm以上の白色斑点が現れなければ○、膜の端部付近に白濁がなく、直径1〜2mmの白色斑点が現れたものを△、膜の端部付近に白濁が現れたものまたは直径2mm以上の白色斑点が現れたものを×とした。

【0033】
Al、Si、B、Ti、Sn、Mg、Crのドープ量は、すべて、Znとの総量に対して原子比で4%である。

【0034】
サンプル2は、サンプル1より、成膜時の雰囲気の圧力を高くしたもの、サンプル3は、サンプル1より、成膜時の基板温度を高くしたもの、サンプル4は、成膜した後に加熱したものである。

【0035】
表2より、熱線遮断膜の耐湿性は、膜材料や、単層、多層によらず、内部応力や、ZnOの(002)回折線の回折角2θ(重心位置)によることがわかる。

【0036】
酸化物膜(B)以外の酸化物膜2の材料は、特に限定されない。ZnO、SnO2 、TiO2 、これらの2種以上を含む積層膜、これらに他の元素を添加した膜等が使用できるが、さらに、生産性を考慮すると、ZnO、SnO2 、ZnOSnO2 を交互に2層以上積層させた膜、Al、Si、B、Ti、Sn、Mg、Crのうち少なくとも一つをZnとの総量に対し合計10原子%以下添加したZnO膜が好ましい。
【0037】色調、可視光透過率を考慮すると、酸化物膜2は200Å〜700Åであることが望ましい。積層膜の場合、合計200Å〜700Åであればよく、それぞれの層の膜厚は限定されない。

【0038】
特に、酸化物膜、金属膜、酸化物膜、金属膜、酸化物膜、という5層構成、あるいは5層以上の膜構成の熱線遮断膜の場合、最外層の酸化物膜(B)以外の酸化物膜2内部応力1.1×1010dyn/cm2 以下であることが望ましい。
【0039】本発明における金属膜3としては、Ag、またはAu、Cu、Pdのうちの少なくとも一つを含むAgを主成分とする膜などの、熱線遮断性能を有する膜が使用できる。金属膜3は、かかる熱線遮断性能を有する金属膜の他に、各種の機能を有する金属層を有していてもよい。例えば、熱線遮断性能を有する金属膜と酸化物膜(B)や酸化物膜2との間の接着力を調整する金属層や、熱線遮断性能を有する金属膜からの金属の拡散防止機能を有する金属層等が挙げられる。

【0040】
これらの機能を有する金属層を構成する金属の例としては、Zn、Al、Cr、W、Ni、Tiや、これらのうち2種以上の金属の合金等が挙げられる。
【0041】これらの金属層を含む金属膜3全体の膜厚としては、熱線遮断性能及び可視光透過率等とのかねあいを考慮して、50Å〜150Å、特に100Å程度が適当である。
【0042】
【実施例】(実施例1)
直流スパッタリング法により、ガラス基板上に、Ar:O2 =2:8の6.5×10-3Torrの雰囲気中で、AlをZnとの総量に対してAlを3.0原子%含む金属をターゲットとして、AlドープZnO膜を450Å形成し、次いで、Arのみの6.5×10-3Torrの雰囲気中で、Agをターゲットとして、Ag膜を100Å形成し、次いで雰囲気を変えずに、AlをZnとの総量に対して3.0原子%添加した金属をターゲットとして、20Å程度のごく薄いAlドープZn膜を形成し、最後に、Ar:O2 =2:8の6.5×10-3Torrの雰囲気中で、AlをZnとの総量に対して3.0原子%添加した金属をターゲットとして、上記Ag膜上にAlドープZnO膜を形成した。
【0043】AlドープZnO膜の成膜中に、AlドープZn膜が酸化雰囲気中で酸化されてAlドープZnO膜となったので、Ag膜上に形成されたAlドープZnO膜の総膜厚は、450Åであった。成膜中の基板温度は室温、スパッタ電力密度は、AlドープZnO膜の成膜時には2.7W/cm2 、Ag膜の成膜時には、0.7W/cm2 であった。
【0044】得られた熱線遮断膜をX線回折法で調べたところ、ZnOの(002)回折線の回折角2θ(重心位置)は34.12°であった。同様の条件で作製したAlドープZnO膜1層(450Å)の内部応力は6.2×109 dyn/cm2 であった。
【0045】上記熱線遮断膜について、50℃、相対湿度95%の雰囲気中に6日間放置するという耐湿試験を行った。耐湿試験後の外観は、ごく微小の斑点は見られたものの、目立った白色斑点及び白濁は観察されず良好であった。耐湿試験後の膜表面のSEM写真において、膜表面に、ひびわれ、しわ、剥離はほとんど観察されなかった。
【0046】上記熱線遮断膜を形成したガラスを、膜を内側にして、プラスチック中間膜を介してもう1枚のガラス板と積層して合わせガラスとした。かかる合わせガラスについても同様の耐湿試験を行った。耐湿試験14日目でも白濁や斑点は全く生じていなかった。
【0047】(実施例2)
RF(高周波)スパッタリング法により、ガラス基板上にZnO膜、Ag膜、AlドープZnO膜をそれぞれ450Å、100Å、450Åの膜厚で、順次積層させて、熱線遮断膜を作成した。ターゲットは、それぞれ、ZnO、Ag、Al23 を含むZnO(ZnO 98重量%、Al23 2重量%)を用い、Arガスによりスパッタリングをった。スパッタ圧力は1.8×10-3Torr、基板温度は室温、RFスパッタ電力密度は3W/cm2 であった。
【0048】得られた熱線遮断膜をX線回折法で調べたところ、ZnOの(002)回折線の回折角2θ(重心位置)は34.00°であった。上記と同様の条件で作製したAlドープZnO膜の内部応力は6.2×109 dyn/cm2 であった。以上の膜について、上記実施例1と同様の耐湿試験を行った。試験後の膜は、ごく微小の班点は存在するが、目立った白色斑点及び白濁は見られず、耐湿性は良好であった。
【0049】(実施例3)
上記実施例2と同様の方法により、ZnO/SnO2 /ZnO/SnO2 /ZnO/Ag/ZnO/ガラスという膜構成のLow−E膜を作製した。Agは100Å、Agとガラスの間のZnOは450Å、Agの上のZnOおよびSnO2 膜はいずれも90Åであった。ZnO及びAgはZnO及びAgターゲットをArガスでスパッタリングし、SnO2 はSnO2 ターゲットをAr2 との混合ガスでスパッタリングして得た。スパッタ圧力、基板温度、ZnO及びAg成膜の際のスパッタ電力は上記実施例と同様である。SnO2 成膜の際はスパッタ電力密度は1W/cm2 、Ar:O2 ガス流量比は8:2であった。
【0050】上記と同様の条件で作製した、ZnO/SnO2 /ZnO/SnO2 /ZnO膜の内部応力は9.2×109 dyn/cm2 であった。ここで得た熱線遮断膜の耐湿性は、上記実施例と同様良好であった。
【0051】(実施例4)
上記実施例3と同様の方法により、ZnO/SnO2 /ZnO/SnO2 /ZnO/Ag/ZnO/SnO2 /ZnO/SnO2 /ZnO/ガラスという膜構成の熱線遮断膜を作製した。Agは100Å、ZnOおよびSnO2 膜はいずれも1層90Åであった。ターゲット及びスパッタリングガス、スパッタ圧力、基板温度、パワー密度は実施例3と同様であった。
【0052】この条件で作製した、ZnO/SnO2 /ZnO/SnO2 /ZnO膜の内部応力は9.2×109 dyn/cm2 であった。得られた熱線遮断膜の耐湿性は、上記実施例と同様良好であった。
【0053】(実施例5)
上記実施例2と同様の方法により、ガラス基板上にZnO膜、Ag膜、ZnO膜をそれぞれ450Å、100Å、450Åの膜厚で、順次積層させた。ターゲットは、ZnO、Agを用い、Arガスによりスパッタリングをった。スパッタ圧力、基板温度、スパッタ電力密度は実施例2と同様である。成膜後の膜をN2 雰囲気中400℃で1時間加熱処理をった。
【0054】加熱処理後の熱線遮断膜をX線回折法で調べたところ、ZnO(002)回折線の回折角2θ(重心位置)は34.42°であった。この熱線遮断膜の耐湿性は、上記実施例と同様良好であった。
【0055】(比較例1)
上記実施例と同様の方法により、ガラス基板上にZnO膜、Ag膜、ZnO膜それぞれ450Å、100Å、450Åの膜厚で、順次積層させた。ターゲットは、ZnO、Agを用い、Arガスによりスパッタリングをった。スパッタ圧力、基板温度、スパッタ電力密度は実施例2と同様である。
【0056】得られた熱線遮断膜をX線回折法で調べたところ、ZnO(002)回折線の回折角2θ(重心位置)は33.78°であった。この条件で作製したZnO膜の内部応力は1.5×1010dyn/cm2 であった。
【0057】耐湿試験後の熱線遮断膜は、全面がうすく白濁しており、直径1mm以上のはっきりした白色斑点もかなり見られた。耐湿試験後のSEM写真によれば、膜表面全体にわたって、ひびわれがひろがっており、膜の破損が著しいことがわかった。
【0058】上記熱線遮断膜を形成したガラスを、膜を内側にして、プラスチック中間膜を介してもう1枚のガラス板と積層して合わせガラスとした。かかる合わせガラスについても同様の耐湿試験を行った。耐湿試験14日目には白濁や斑点がはっきり認められた。
【0059】(実施例6)
Zn、Sn、Agの金属ターゲットをそれぞれ用いて、Ag膜はアルゴン雰囲気中で直流スパッタリング法により、SnO2 膜、ZnO膜は酸素含有雰囲気中で反応性直流スパッタリング法により、ZnO/SnO2 /ZnO/SnO2 /ZnO/Ag/ZnO/SnO2 /ZnO/SnO2 /ZnO/ガラスという膜構成の熱線遮断膜を作製した。Agは100Å、ZnO、SnO2 はいずれも1層90Åであった。かかる熱線遮断膜付きガラスの可視光線透過率は86%、エミッシビティは0.06であった。
【0060】この熱線遮断膜付きガラスを1規定の塩酸に浸漬するという耐酸性試験を行った。浸漬後2分までは変化がなかったが、3分後には、膜の端から一部茶色っぽく変色しはじめ、5分後には、膜の一部に剥離している部分が見られた。
【0061】(比較例2)
Zn、Agの金属ターゲットをそれぞれ用いて、Ag膜はアルゴン雰囲気中で直流スパッタリング法により、ZnO膜は酸素含有雰囲気中で反応性直流スパッタリング法により、ZnO/Ag/ZnO/ガラスという膜構成の熱線遮断膜を作製した。Agは100Å、ZnOは450Åであった。かかる熱線遮断膜付きガラスの可視光線透過率は86%、エミッシビティは0.06であった。
【0062】この熱線遮断膜付きガラスを1規定の塩酸に浸漬するという耐酸性試験を行った。浸漬直後から膜が剥離し始め、5分後には、熱線遮断膜が全部ガラスから剥離し、消失した。
【0063】
【発明の効果】本発明による熱線遮断膜は、耐湿性および耐酸性が著しく改善されている。このため、単板での取扱が容易になると考えられる。また単板での室内長期保存可能になる。さらに、自動車用、建築用熱線遮断ガラスの信頼性向上につながる。また、合わせガラスとした際にも中間膜が含有している水分によって劣化することがないので、自動車用、建築用等の合わせガラスの耐久性が向上する。
【0064】本発明の熱線遮断膜は、金属膜を有しているため、熱線遮断性能とともに導電性もある。したがって、本発明の熱線遮断膜は、この導電性を利用して、種々の技術分野に使用できる。例えば、エレクトロニクス分野においては、電極として(太陽電池の電極などにも使用できる)、また、通電加熱窓においては、発熱体として、窓や電子部品においては、電磁波遮蔽膜として、使用できる。場合によっては、本発明の熱線遮断膜は、基体の上に、各種の機能を有する膜を介して形成することもできる。このような場合には、本発明の熱線遮断膜の各膜の最適膜厚を選択するなどにより、その用途に応じて、光学性能を調節できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による熱線遮断膜をガラス上に形成した熱線遮断ガラスの一例の断面図
【符号の説明】
1 基体
2 酸化物膜
3 金属膜
4 酸化物膜(B)

【特許請求の範囲】
【請求項1】基体上に酸化物膜、金属膜、酸化物膜、と交互に積層された(2n+1)層(n≧1)からなる熱線遮断膜において、基体から見て、基体から最も離れた金属膜(A)の反対側に形成された酸化物膜(B)は、酸化亜鉛を主成分とする膜を少なくとも1層有する膜であり、酸化亜鉛の結晶系が六方晶であり、該熱線遮断膜のCuKα線を用いたX線回折法による六方晶酸化亜鉛の(002)回折線の回折角2θ(重心位置)の値が33.88°以上35.00°以下であることを特徴とする熱線遮断膜。
【請求項2】CuKα線を用いたX線回折法による六方晶酸化亜鉛の(002)回折線の回折角2θ(重心位置)の値が34.00°以上34.88°以下である求項1記載の熱線遮断膜。
【請求項3】前記金属膜(A)はAgを主成分とする金属膜である請求項1または2記載の熱線遮断膜。

【図1】
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【特許番号】特許第3053668号(P3053668)
【登録日】平成12年4月7日(2000.4.7)
【発行日】平成12年6月19日(2000.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−191063
【出願日】平成3年7月5日(1991.7.5)
【公開番号】特開平4−357025
【公開日】平成4年12月10日(1992.12.10)
【審査請求日】平成10年7月6日(1998.7.6)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【参考文献】
【文献】特開 平3−218821(JP,A)
【文献】特開 平3−187734(JP,A)