説明

燃料電池の構造体

【課題】「横縞型」の燃料電池の構造体であって、支持基板が外力を受けた場合において支持基板が変形し難く、且つ、燃料極を埋設する支持基板の凹部にクラックが発生することを抑制すること。
【解決手段】燃料ガス流路11が内部に形成された平板状の支持基板10の主面に、電気的に直列に接続された複数の発電素子部Aが所定の間隔をおいて配置される。支持基板10の主面には、複数の凹部12が所定の間隔をおいて形成される。各凹部12は、周方向に閉じた4つの側壁と、底壁とで画定された直方体状の窪みである。各凹部12に、対応する発電素子部Aの燃料極20が埋設される。燃料ガス流路11の壁面と凹部12の底壁との距離(t2)に対する、凹部12の深さ(t1)の割合(t1/t2)が、0.07〜11.5である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、「ガス流路が内部に形成された電子伝導性を有さない多孔質の支持基板」と、「前記支持基板の表面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ、燃料極、固体電解質、及び空気極が積層されてなる複数の発電素子部」と、「1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、隣り合う前記発電素子部の一方の燃料極と他方の空気極とを電気的に接続する電子伝導性を有する1つ又は複数の電気的接続部」とを備えた固体酸化物形燃料電池の構造体が知られている(例えば、特許文献1、2を参照)。このような構成は、「横縞型」とも呼ばれる。
【0003】
以下、支持基板の形状に着目する。特許文献1に記載の「横縞型」の固体酸化物形燃料電池の構造体では、支持基板が円筒状を呈している。円筒状の支持基板の表面(円筒面)には、燃料極を埋設するための複数の「環状溝」が軸方向の複数の箇所においてそれぞれ形成されている(図3を参照)。従って、支持基板において「環状溝」が形成された部分の外径が小さくなっている。このことに起因して、この構造体は、支持基板に曲げ方向やねじり方向の外力が加えられた場合に変形し易い構造であるといえる。
【0004】
また、特許文献2に記載の「横縞型」の固体酸化物形燃料電池の構造体では、支持基板が長手方向を有する平板状を呈している。平板状の支持基板の主面(平面)には、燃料極等を埋設するための「長手方向に延び且つ長手方向に開放された長溝」が形成されている(図3(b)を参照)。従って、支持基板において「長溝」が形成された部分の厚さが小さくなっている。
【0005】
加えて、「長溝」は、長手方向に直交する幅方向の両端部において長手方向に延びる側壁を有する一方で、長手方向の両端部において幅方向に延びる側壁を有していない。即ち、「長溝」は、その周方向に閉じた側壁を有していない。従って、支持基板において「長溝」を囲む枠体が形成されていない。これらのことに起因して、この構造体は、特に支持基板にねじり方向の外力が加えられた場合に変形し易い構造であるといえる。以上のことから、「横縞型」の燃料電池の構造体において、支持基板が外力を受けた場合における支持基板の変形を抑制することが望まれていたところである。
【0006】
また、一般に、上述のような燃料電池の構造体は、積層された成形体を酸素含有雰囲気で焼成することによって作製される。このため、通常、燃料極に含まれる金属の出発原料として、その金属の酸化物が使用される。仮に金属そのものが出発原料とされても、係る焼成により、燃料極中の金属(例えば、Ni)が金属酸化物(例えば、NiO)となる。これらの酸化物の導電性は極めて低い。従って、燃料極の導電性を獲得するため、その後、支持基板側から還元性の燃料ガスを高温下で流して金属酸化物を還元する(即ち、金属に戻す)処理(還元処理)が行われる。上述のように支持基板の凹部に燃料極が埋設される構成においては、この還元処理により発生する燃料極の収縮等に起因して、支持基板の凹部の近傍にクラックが発生し易いという問題があった。係るクラックの発生を抑制することも望まれていたところである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−106916号公報
【特許文献2】特開2008−226789号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明は、「横縞型」の燃料電池の構造体であって、支持基板が外力を受けた場合において支持基板が変形し難く、且つ、燃料極を埋設する支持基板の凹部にクラックが発生することを抑制できるものを提供することを目的とする。
【0009】
本発明に係る燃料電池の構造体は、ガス流路が内部に形成された電気絶縁性を有する平板状の多孔質の支持基板と、前記平板状の支持基板の主面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ「少なくとも燃料極、固体電解質、及び空気極が積層されてなる複数の発電素子部」と、1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、隣り合う前記発電素子部の一方の燃料極と他方の空気極とを電気的に接続する電子伝導性を有する1つ又は複数の電気的接続部とを備える。即ち、この構造体は、「横縞型」の燃料電池の構造体である。
【0010】
本発明に係る燃料電池の構造体の特徴は、前記平板状の支持基板の主面における前記複数の箇所に、前記支持基板の材料からなる底壁と全周に亘って前記支持基板の材料からなる周方向に閉じた側壁とを有する第1凹部がそれぞれ形成され、前記各第1凹部に、対応する前記発電素子部の燃料極(の全体)がそれぞれ埋設されたことにある。
【0011】
このように、本発明に係る「横縞型」の燃料電池の構造体では、燃料極を埋設するための各第1凹部が周方向に閉じた側壁を有している。換言すれば、支持基板において各第1凹部を囲む枠体がそれぞれ形成されている。従って、この構造体は、支持基板が外力を受けた場合に変形し難い構造であるといえる。
【0012】
更には、前記ガス流路の壁面と前記第1凹部の底壁との距離(t2)に対する、前記第1凹部の深さ(t1)の割合(t1/t2)が、0.07〜11.5であることにある。これによれば、そうでない場合と比べて、上述した「支持基板の凹部の近傍におけるクラックの発生」が十分に抑制され得る(詳細は後述する)。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る燃料電池の構造体を示す斜視図である。
【図2】図1に示す燃料電池の構造体の2−2線に対応する断面図である。
【図3】図1に示す支持基板の凹部に埋設された燃料極及びインターコネクタの状態を示した平面図である。
【図4】図1に示す燃料電池の構造体の作動状態を説明するための図である。
【図5】図1に示す燃料電池の構造体の作動状態における電流の流れを説明するための図である。
【図6】図1に示す支持基板を示す斜視図である。
【図7】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第1段階における図2に対応する断面図である。
【図8】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第2段階における図2に対応する断面図である。
【図9】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第3段階における図2に対応する断面図である。
【図10】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第4段階における図2に対応する断面図である。
【図11】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第5段階における図2に対応する断面図である。
【図12】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第6段階における図2に対応する断面図である。
【図13】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第7段階における図2に対応する断面図である。
【図14】図1に示す燃料電池の構造体の製造過程における第8段階における図2に対応する断面図である。
【図15】還元処理による燃料極の収縮に起因して支持基板の凹部にクラックが発生することを説明するための図である。
【図16】値t1、t2を説明するための図である。
【図17】本発明に係る燃料電池の構造体の第1変形例の図2に対応する断面図である。
【図18】本発明に係る燃料電池の構造体の第2変形例の図2に対応する断面図である。
【図19】本発明に係る燃料電池の構造体の第3変形例の図2に対応する断面図である。
【図20】本発明に係る燃料電池の構造体の第4変形例の図3に対応する断面図である。
【図21】支持基板がNiを含まない材料で構成され、燃料極がNiを含む材料で構成される場合におけるNiの分布の様子を説明するための図である。
【図22】支持基板の「燃料極との界面の近傍部分」におけるNi濃度の分布を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(SOFC)の構造体を示す。このSOFCの構造体は、長手方向(x軸方向)を有する平板状の支持基板10の上下面(互いに平行な両側の主面(平面))のそれぞれに、電気的に直列に接続された複数(本例では、4つ)の同形の発電素子部Aが長手方向において所定の間隔をおいて配置された、所謂「横縞型」と呼ばれる構成を有する。
【0015】
このSOFCの構造体の全体を上方からみた形状は、例えば、長手方向の辺の長さが50〜500mmで長手方向に直交する幅方向(y軸方向)の長さが10〜100mmの長方形である。このSOFCの構造体の全体の厚さは、1〜5mmである。このSOFCの構造体の全体は、厚さ方向の中心を通り且つ支持基板10の主面に平行な面に対して上下対称の形状を有する。以下、図1に加えて、このSOFCの構造体の図1に示す2−2線に対応する部分断面図である図2を参照しながら、このSOFCの構造体の詳細について説明する。図2は、代表的な1組の隣り合う発電素子部A,Aのそれぞれの構成(の一部)、並びに、発電素子部A,A間の構成を示す部分断面図である。その他の組の隣り合う発電素子部A,A間の構成も、図2に示す構成と同様である。
【0016】
支持基板10は、電子伝導性を有さない多孔質の材料からなる平板状の焼成体である。後述する図6に示すように、支持基板10の内部には、長手方向に延びる複数(本例では、6本)の燃料ガス流路11(貫通孔)が幅方向において所定の間隔をおいて形成されている。本例では、各凹部12は、支持基板10の材料からなる底壁と、全周に亘って支持基板10の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。
【0017】
支持基板10は、例えば、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とY(イットリア)とから構成されてもよいし、MgO(酸化マグネシウム)とMgAl(マグネシアアルミナスピネル)とから構成されてもよい。
【0018】
支持基板10は、「遷移金属酸化物又は遷移金属」と、絶縁性セラミックスとを含んで構成され得る。「遷移金属酸化物又は遷移金属」としては、NiO(酸化ニッケル)又はNi(ニッケル)が好適である。遷移金属は、燃料ガスの改質反応を促す触媒(炭化水素系のガスの改質触媒)として機能し得る。
【0019】
また、絶縁性セラミックスとしては、MgO(酸化マグネシウム)、又は、「MgAl(マグネシアアルミナスピネル)とMgO(酸化マグネシウム)の混合物」が好適である。また、絶縁性セラミックスとして、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)、Y(イットリア)が使用されてもよい。
【0020】
このように、支持基板10が「遷移金属酸化物又は遷移金属」を含むことによって、改質前の残存ガス成分を含んだガスが多孔質の支持基板10の内部の多数の気孔を介して燃料ガス流路11から燃料極に供給される過程において、上記触媒作用によって改質前の残存ガス成分の改質を促すことができる。加えて、支持基板10が絶縁性セラミックスを含むことによって、支持基板10の絶縁性を確保することができる。この結果、隣り合う燃料極間における絶縁性が確保され得る。
【0021】
支持基板10の厚さは、1〜5mmである。以下、この構造体の形状が上下対称となっていることを考慮し、説明の簡便化のため、支持基板10の上面側の構成についてのみ説明していく。支持基板10の下面側の構成についても同様である。
【0022】
図2及び図3に示すように、支持基板10の上面(上側の主面)に形成された各凹部12には、燃料極集電部21の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極集電部21は直方体状を呈している。各燃料極集電部21の上面(外側面)には、凹部21aが形成されている。各凹部21aは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。周方向に閉じた側壁のうち、長手方向に沿う2つの側壁は支持基板10の材料からなり、幅方向に沿う2つの側壁は燃料極集電部21の材料からなる。
【0023】
各凹部21aには、燃料極活性部22の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極活性部22は直方体状を呈している。燃料極集電部21と燃料極活性部22とにより燃料極20が構成される。燃料極20(燃料極集電部21+燃料極活性部22)は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。各燃料極活性部22の幅方向に沿う2つの側面と底面とは、凹部21a内で燃料極集電部21と接触している。
【0024】
各燃料極集電部21の上面(外側面)における凹部21aを除いた部分には、凹部21bが形成されている。各凹部21bは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。周方向に閉じた側壁のうち、長手方向に沿う2つの側壁は支持基板10の材料からなり、幅方向に沿う2つの側壁は燃料極集電部21の材料からなる。
【0025】
各凹部21bには、インターコネクタ30が埋設(充填)されている。従って、各インターコネクタ30は直方体状を呈している。インターコネクタ30は、電子伝導性を有する緻密な材料からなる焼成体である。各インターコネクタ30の幅方向に沿う2つの側面と底面とは、凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。
【0026】
燃料極20(燃料極集電部21及び燃料極活性部22)の上面(外側面)と、インターコネクタ30の上面(外側面)と、支持基板10の主面とにより、1つの平面(凹部12が形成されていない場合の支持基板10の主面と同じ平面)が構成されている。即ち、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の主面との間で、段差が形成されていない。
【0027】
燃料極活性部22は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とGDC(ガドリニウムドープセリア)とから構成されてもよい。燃料極集電部21は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、NiO(酸化ニッケル)とY(イットリア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とCSZ(カルシア安定化ジルコニア)とから構成されてもよい。燃料極活性部22の厚さは、5〜30μmであり、燃料極集電部21の厚さ(即ち、凹部12の深さ)は、50〜500μmである。
【0028】
このように、燃料極集電部21は、電子伝導性を有する物質を含んで構成される。燃料極活性部22は、電子伝導性を有する物質と酸化性イオン(酸素イオン)伝導性を有する物質とを含んで構成される。燃料極活性部22における「気孔部分を除いた全体積に対する酸化性イオン伝導性を有する物質の体積割合」は、燃料極集電部21における「気孔部分を除いた全体積に対する酸化性イオン伝導性を有する物質の体積割合」よりも大きい。
【0029】
インターコネクタ30は、例えば、LaCrO(ランタンクロマイト)から構成され得る。或いは、(Sr,La)TiO(ストロンチウムチタネート)から構成されてもよい。インターコネクタ30の厚さは、10〜100μmである。
【0030】
燃料極20及びインターコネクタ30がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタ30が形成されたそれぞれの部分の長手方向中央部を除いた全面は、固体電解質膜40により覆われている。固体電解質膜40は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な材料からなる焼成体である。固体電解質膜40は、例えば、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、LSGM(ランタンガレート)から構成されてもよい。固体電解質膜40の厚さは、3〜50μmである。
【0031】
即ち、燃料極20がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面の全面は、インターコネクタ30と固体電解質膜40とからなる緻密層により覆われている。この緻密層は、緻密層の内側の空間を流れる燃料ガスと緻密層の外側の空間を流れる空気との混合を防止するガスシール機能を発揮する。
【0032】
なお、図2に示すように、本例では、固体電解質膜40が、燃料極20の上面、インターコネクタ30の上面における長手方向の両側端部、及び支持基板10の主面を覆っている。ここで、上述したように、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。
【0033】
固体電解質膜40における各燃料極活性部22と接している箇所の上面には、反応防止膜50を介して空気極60が形成されている。反応防止膜50は、緻密な材料からなる焼成体であり、空気極60は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。反応防止膜50及び空気極60を上方からみた形状は、燃料極活性部22と略同一の長方形である。
【0034】
反応防止膜50は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O(ガドリニウムドープセリア)から構成され得る。反応防止膜50の厚さは、3〜50μmである。空気極60は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSF=(La,Sr)FeO(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O(ランタンニッケルフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO(ランタンストロンチウムコバルタイト)等から構成されてもよい。また、空気極60は、LSCFからなる第1層(内側層)とLSCからなる第2層(外側層)との2層によって構成されてもよい。空気極60の厚さは、10〜100μmである。
【0035】
なお、反応防止膜50が介装されるのは、SOFC作製時又は作動中のSOFC内において固体電解質膜40内のYSZと空気極60内のSrとが反応して固体電解質膜40と空気極60との界面に電気抵抗が大きい反応層が形成される現象の発生を抑制するためである。
【0036】
ここで、燃料極20と、固体電解質膜40と、反応防止膜50と、空気極60とが積層されてなる積層体が、「発電素子部A」に対応する(図2を参照)。即ち、支持基板10の上面には、複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが、長手方向において所定の間隔をおいて配置されている。
【0037】
各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図2では、右側の)発電素子部Aのインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極60、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の上面に、空気極集電膜70が形成されている。空気極集電膜70は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。空気極集電膜70を上方からみた形状は、長方形である。
【0038】
空気極集電膜70は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSC=(La,Sr)CoO(ランタンストロンチウムコバルタイト)から構成されてもよい。或いは、Ag(銀)、Ag−Pd(銀パラジウム合金)から構成されてもよい。空気極集電膜70の厚さは、50〜500μmである。
【0039】
このように各空気極集電膜70が形成されることにより、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(図2では、右側の)発電素子部Aの燃料極20(特に、燃料極集電部21)とが、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」を介して電気的に接続される。この結果、支持基板10の上面に配置されている複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが電気的に直列に接続される。ここで、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」が、前記「電気的接続部」に対応する。
【0040】
なお、インターコネクタ30は、前記「電気的接続部」における前記「緻密な材料で構成された第1部分」に対応し、気孔率は10%以下である。空気極集電膜70は、前記「電気的接続部」における前記「多孔質の材料で構成された第2部分」に対応し、気孔率は20〜60%である。
【0041】
以上、説明した「横縞型」のSOFCの構造体に対して、図4に示すように、支持基板10の燃料ガス流路11内に燃料ガス(水素ガス等)を流すとともに、支持基板10の上下面(特に、各空気極集電膜70)を「酸素を含むガス」(空気等)に曝す(或いは、支持基板10の上下面に沿って酸素を含むガスを流す)ことにより、固体電解質膜40の両側面間に生じる酸素分圧差によって起電力が発生する。更に、この構造体を外部の負荷に接続すると、下記(1)、(2)式に示す化学反応が起こり、電流が流れる(発電状態)。
(1/2)・O+2e→O2− (於:空気極60) …(1)
+O2−→HO+2e (於:燃料極20) …(2)
【0042】
発電状態においては、図5に示すように、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、電流が、矢印で示すように流れる。この結果、図4に示すように、このSOFCの構造体全体から(具体的には、図4において最も手前側の発電素子部Aのインターコネクタ30と最も奥側の発電素子部Aの空気極60とを介して)電力が取り出される。
【0043】
(製造方法)
次に、図1に示した「横縞型」のSOFCの構造体の製造方法の一例について図6〜図14を参照しながら簡単に説明する。図6〜図14において、各部材の符号の末尾の「g」は、その部材が「焼成前」であることを表す。
【0044】
先ず、図6に示す形状を有する支持基板の成形体10gが作製される。この支持基板の成形体10gは、例えば、支持基板10の材料(例えば、CSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、押し出し成形、切削等の手法を利用して作製され得る。以下、図6に示す7−7線に対応する部分断面を表す図7〜図14を参照しながら説明を続ける。
【0045】
図7に示すように、支持基板の成形体10gが作製されると、次に、図8に示すように、支持基板の成形体10gの上下面に形成された各凹部に、燃料極集電部の成形体21gがそれぞれ埋設・形成される。次いで、図9に示すように、各燃料極集電部の成形体21gの外側面に形成された各凹部に、燃料極活性部の成形体22gがそれぞれ埋設・形成される。各燃料極集電部の成形体21g、及び各燃料極活性部22gは、例えば、燃料極20の材料(例えば、NiとYSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
【0046】
続いて、図10に示すように、各燃料極集電部の成形体21gの外側面における「燃料極活性部の成形体22gが埋設された部分を除いた部分」に形成された各凹部に、インターコネクタの成形体30gがそれぞれ埋設・形成される。各インターコネクタの成形体30gは、例えば、インターコネクタ30の材料(例えば、LaCrO)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
【0047】
次に、図11に示すように、複数の燃料極の成形体(21g+22g)及び複数のインターコネクタの成形体30gがそれぞれ埋設・形成された状態の支持基板の成形体10gにおける長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタの成形体30gが形成されたそれぞれの部分の長手方向中央部を除いた全面に、固体電解質膜の成形膜40gが形成される。固体電解質膜の成形膜40gは、例えば、固体電解質膜40の材料(例えば、YSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法、ディッピング法等を利用して形成される。
【0048】
次に、図12に示すように、固体電解質膜の成形体40gにおける各燃料極の成形体22gと接している箇所の外側面に、反応防止膜の成形膜50gが形成される。各反応防止膜の成形膜50gは、例えば、反応防止膜50の材料(例えば、GDC)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0049】
そして、このように種々の成形膜が形成された状態の支持基板の成形体10gが、空気中にて1500℃で3時間焼成される。これにより、図1に示したSOFCの構造体において空気極60及び空気極集電膜70が形成されていない状態の構造体が得られる。
【0050】
次に、図13に示すように、各反応防止膜50の外側面に、空気極の成形膜60gが形成される。各空気極の成形膜60gは、例えば、空気極60の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0051】
次に、図14に示すように、各組の隣り合う発電素子部について、一方の発電素子部の空気極の成形膜60gと、他方の発電素子部のインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極の成形膜60g、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の外側面に、空気極集電膜の成形膜70gが形成される。各空気極集電膜の成形膜70gは、例えば、空気極集電膜70の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0052】
そして、このように成形膜60g、70gが形成された状態の支持基板10が、空気中にて1050℃で3時間焼成される。これにより、図1に示したSOFCの構造体が得られる。なお、この時点では、酸素含有雰囲気での焼成により、燃料極20(集電部21+活性部22)中のNi成分が、NiOとなっている。従って、燃料極20(集電部21+活性部22)の導電性を獲得するため、その後、支持基板10側から還元性の燃料ガスが流され、NiOが650〜1000℃で1〜10時間に亘って還元処理される。なお、この還元処理は発電時に行われてもよい。以上、図1に示したSOFCの構造体の製造方法の一例について説明した。
【0053】
(支持基板の凹部近傍におけるクラックの発生の抑制)
上記実施形態のように、燃料極20が支持基板10の凹部12に埋設された構成では、上述した還元処理の際、図15に示すように、凹部12の近傍(特に、凹部12の底壁と側壁との境界部)にてクラックが発生し易いことが判明した。このクラックは、還元処理の際、図15に示すように燃料極20が平面方向(x−y軸方向)及び厚さ方向(z軸方向)において収縮する(図中の矢印を参照)ことによって、凹部12の底壁と側壁との境界部近傍において引張応力が作用することに起因するものと考えられる。本発明者は、この問題に対処するために種々の実験等を重ねた。
【0054】
以下、図2、及び図15に示すように、「凹部12の深さ」をt1と定義し、「ガス流路11の壁面(円筒面)と凹部12の底壁(平面)との距離(以下、「壁間距離」と呼ぶ)」をt2と定義する。なお、凹部12の深さが底面の位置によって変動する場合には、各凹部12について、「凹部12の深さ」とは、その変動範囲の平均値であっても最大値であってもよい。深さt1は、複数の「凹部12の深さ」の平均値であっても最大値であってもよい。また、壁間距離t2は、各凹部12についての「ガス流路11の壁面(円筒面)と凹部12の底壁(平面)との最短距離」の平均値であっても最大値であってもよい。
【0055】
本発明者は、上述したクラック発生が、値(t1/t2)と強い相関があることを見出した。以下、このことを確認した試験について説明する。
【0056】
(試験)
この試験では、上記実施形態(図1、図2等を参照)について、支持基板10の材質、燃料極集電部21の材質、及び、値t1、t2(値(t1/t2))の組み合わせが異なる複数のサンプルが作製された。具体的には、表1に示すように、27種類の水準(組み合わせ)が準備された。各水準に対して5個のサンプル(N=5)が作製された。
【0057】
【表1】

【0058】
各サンプル(図1に示す燃料電池)にて使用された支持基板10は、支持基板10の強度を同程度とするため、気孔率が40%±5%になるように作製された。気孔率の制御は、支持基板への造孔材の添加量を調整することで行われた。各サンプルの支持基板10の長さ(x軸方向の寸法)、幅(y軸方向の寸法)、厚さ(z軸方向の寸法)はそれぞれ、200mm、50mm、3.0mmとされた。各凹部12は、図6と同様に直方体状の窪みであり、長さ(x軸方向の寸法)、幅(y軸方向の寸法)がそれぞれ、12mm、40mmのものが使用された。燃料ガス流路11の断面形状は、直径Dが0.5〜1.5mmの円形とされ、燃料ガス流路11、11間のピッチ(中心軸間の距離)P(図1を参照)は12〜30mmとされた。
【0059】
各サンプルについて上述した還元処理が行われた。そして、還元処理後の各サンプルについて、上述したクラックの有無が判定された。この判定は、以下の手順で実行された。先ず、各サンプルに対してエポキシ樹脂を滴下しながら真空引きがなされ、多孔体である支持基板の内部に樹脂を含浸させて支持基板が硬化させられた。次に、各サンプルが「燃料極12を含み且つ厚さ方向に沿う平面」で切断され、得られた断面が鏡面研磨された。そして、支持基板と燃料極集電部の接合領域を目視、又は顕微鏡(具体的には、光学顕微鏡、走査型電時化微鏡)等を通して観察することによって、クラックの有無が判定された。
【0060】
加えて、この試験では、各サンプルの抵抗の評価も合わせて実行された。具体的には、還元処理後の各サンプルの燃料極集電部の抵抗が直流4端子法にて測定された。この抵抗測定値が燃料電池全体の抵抗への寄与率が大きい(25%より大きい)値であると判定された場合が「×」、この抵抗測定値が燃料電池全体の抵抗への寄与率が小さい(25%以下)値であると判定された場合が「○」と判定された。これらの結果は、表1に示すとおりである。
【0061】
表1から理解できるように、値t1/t2が11.5以下であると、上述したクラックが発生し難い。これは、支持基板において最も薄い部分の厚さt2が燃料極集電部の厚さt1に比べて相対的に大きくなることによって、還元処理時に発生する燃料極集電部の寸法変化による歪みに対して支持基板が強度的に耐え得るようになることに基づく、と考えられる。一方、値t1/t2が0.07未満であると、この燃料極集電部の抵抗の燃料電池全体の抵抗への寄与率が大きくなる。これは、燃料極集電部の厚さが小さくなることによって燃料極集電部内を電流が通過する際の面積が減少し、燃料極集電部の抵抗が大きくなることに基づく、と考えられる。以上より、そのため、値t1/t2は、0.07〜11.5の範囲が好ましい。
【0062】
なお、この結果は、凹部12の平面形状(支持基板12の主面に垂直の方向からみた形状)が長方形の場合、並びに、燃料ガス流路11の断面形状が円形の場合に対応するが、凹部12の平面形状が楕円形、長穴等であっても、燃料ガス流路11の断面形状が楕円形、四角等であっても同じ結果が得られることが既に確認されている。
【0063】
(作用・効果)
以上、説明したように、上記本発明の実施形態に係る「横縞型」のSOFCの構造体では、支持基板10の上下面に形成されている、燃料極20を埋設するための複数の凹部12のそれぞれが、全周に亘って支持基板10の材料からなる周方向に閉じた側壁を有している。換言すれば、支持基板10において各凹部12を囲む枠体がそれぞれ形成されている。従って、この構造体は、支持基板10が外力を受けた場合に変形し難い。
【0064】
また、支持基板10の各凹部12内に燃料極20及びインターコネクタ30等の部材が隙間なく充填・埋設された状態で、支持基板10と前記埋設された部材とが共焼結される。従って、部材間の接合性が高く且つ信頼性の高い焼結体が得られる。
【0065】
更には、値t1/t2(図2、図15を参照)が0.07〜11.5の範囲内であることによって、燃料極集電部21の抵抗の燃料電池全体の抵抗への寄与率が十分に小さい範囲内にて、上述した「支持基板の凹部の近傍におけるクラックの発生」が十分に抑制され得る。
【0066】
また、インターコネクタ30が、燃料極集電部21の外側面に形成された凹部21bに埋設され、この結果、直方体状のインターコネクタ30の幅方向(y軸方向)に沿う2つの側面と底面とが凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。従って、燃料極集電部21の外側平面上に直方体状のインターコネクタ30が積層される(接触する)構成が採用される場合に比べて、燃料極20(集電部21)とインターコネクタ30との界面の面積を大きくできる。従って、燃料極20とインターコネクタ30との間における電子伝導性を高めることができ、この結果、燃料電池の発電出力を高めることができる。
【0067】
また、上記実施形態では、平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに、複数の発電素子部Aが設けられている。これにより、支持基板の片側面のみに複数の発電素子部が設けられる場合に比して、構造体中における発電素子部の数を多くでき、燃料電池の発電出力を高めることができる。
【0068】
また、上記実施形態では、固体電解質膜40が、燃料極20の外側面、インターコネクタ30の外側面における長手方向の両側端部、及び支持基板10の主面を覆っている。ここで、燃料極20の外側面とインターコネクタ30の外側面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。
【0069】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、図6等に示すように、支持基板10に形成された凹部12の平面形状(支持基板10の主面に垂直の方向からみた場合の形状)が、長方形になっているが、例えば、正方形、円形、楕円形、長穴形状等であってもよい。
【0070】
また、上記実施形態においては、各凹部12にはインターコネクタ30の全体が埋設されているが、インターコネクタ30の一部のみが各凹部12に埋設され、インターコネクタ30の残りの部分が凹部12の外に突出(即ち、支持基板10の主面から突出)していてもよい。
【0071】
また、上記実施形態において、凹部12における底壁と側壁とのなす角度θが90°になっているが、図17に示すように、角度θが90〜135°となっていてもよい。また、上記実施形態においては、図18に示すように、凹部12における底壁と側壁とが交差する部分が半径Rの円弧状になっていて、凹部12の深さに対する半径Rの割合が0.01〜1となっていてもよい。
【0072】
また、上記実施形態においては、平板状の支持基板10の上下面のそれぞれに複数の凹部12が形成され且つ複数の発電素子部Aが設けられているが、図19に示すように、支持基板10の片側面のみに複数の凹部12が形成され且つ複数の発電素子部Aが設けられていてもよい。
【0073】
また、上記実施形態においては、燃料極20が燃料極集電部21と燃料極活性部22との2層で構成されているが、燃料極20が燃料極活性部22に相当する1層で構成されてもよい。
【0074】
加えて、上記実施形態においては、図3に示すように、燃料極集電部21の外側面に形成された凹部21bが、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、周方向に閉じた側壁(支持基板10の材料からなる長手方向に沿う2つの側壁と、燃料極集電部21の材料からなる幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みとなっている。この結果、凹部21bに埋設されたインターコネクタ30の幅方向に沿う2つの側面と底面とが凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。
【0075】
これに対し、図20に示すように、燃料極集電部21の外側面に形成された凹部21bが、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、全周に亘って燃料極集電部21の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みであってもよい。これによれば、凹部21bに埋設されたインターコネクタ30の4つの側面の全てと底面とが凹部21b内で燃料極集電部21と接触する。従って、燃料極集電部21とインターコネクタ30との界面の面積をより一層大きくできる。従って、燃料極集電部21とインターコネクタ30との間における電子伝導性をより一層高めることができ、この結果、燃料電池の発電出力をより一層高めることができる。
【0076】
ところで、上記実施形態では、燃料極20(集電部21、活性部22)全体が、Niを含む材料(例えば、集電部21はNi−Y系、活性部22はNi−YSZ系)で構成され、支持基板10全体も、Niを含む材料(例えば、MgO−NiO−Y系)で構成されている(例えば、表1を参照)。なお、燃料極及び支持基板において、Niは、上述した還元処理後の状態では主としてNiとして存在し、還元処理前の状態(酸素雰囲気での焼成後の状態)では主としてNiOとして存在する。
【0077】
燃料極20がNiを含む材料で構成されるのは、Niが上記(2)式で表される燃料極での化学反応を促進する触媒(所謂、水素触媒)として機能すること、並びに、Niが電子伝導性を有することに基づく。即ち、燃料極内にNiが含まれることによって、燃料極(特に、活性部)における上記(2)式に関する反応抵抗が低減され得、且つ、燃料極(特に、集電部)そのものの導電性が向上し得る。
【0078】
支持基板10がNiを含む材料で構成されるのは、Niが燃料ガスを改質する機能(例えば、都市ガスを水素ガスに変換する機能)を有することに基づく。即ち、支持基板内にNiが含まれることによって、支持基板の燃料ガス流路に導入される燃料ガス中に「改質器で改質され得なかった未改質分」が含まれる場合に、その未改質分が、燃料極活性部に到達する前に支持基板の内部で確実に改質され得る。この結果、燃料ガスの利用率が向上し得る。
【0079】
これに対し、(燃料極全体がNiを含む材料で構成され、且つ)支持基板がNiを含まない材料で構成される態様も考えられる。即ち、この態様では、燃料極集電部のサイズを大きく(厚く)して燃料極集電部中に含まれるNiの量を多くすることによって、上記未改質分を、燃料極活性部に到達する前に、支持基板に代えて燃料極集電部の内部で確実に改質することができる。上述した「支持基板内にNiが含まれる態様」では、支持基板の全体にNiを分散させる必要があり、支持基板内に含まれるNiの量が比較的大きくなり易い。これに対し、上述した「支持基板内にNiが含まれない態様」では、上記未改質分の改質に実際に必要な量だけ燃料極集電部にNiを含ませることができ、Niの使用量を低減することができる。この結果、SOFC全体の製造コストを低減することができる。
【0080】
以下、上述した「支持基板内にNiが含まれない態様」について考察する。この態様では、上述のように、燃料極集電部のサイズを大きく(厚く)する必要がある。ここで、支持基板の主面上に燃料極集電部の層が積層される構成(即ち、燃料極集電部が支持基板に埋設されない構成)では、支持基板の主面上において、燃料極集電部の厚さ分に対応する大きな段差が形成される。従って、支持基板の外周を固体電解質膜で覆うと、燃料極集電部に対応する箇所において固体電解質膜に大きな段差が形成される。このことに起因して、固体電解質膜の焼成時に固体電解質膜の段差部分にクラックが発生し易い、という問題が発生する。
【0081】
これに対し、図21に示すように、上記実施形態では、燃料極20(集電部21)が支持基板10の主面に形成された凹部に埋設される。この構成では、燃料極集電部21のサイズ(厚さ)に応じて凹部のサイズ(深さ)を調整することによって、支持基板10の主面と燃料極20の外側面との間での段差の発生を回避できる。従って、支持基板10の外周を覆う固体電解質膜が平坦化され得、上述したクラックの発生が抑制され得る。以上のことから、上記実施形態は、上述した「支持基板内にNiが含まれない態様」を実現するあたり、低コスト化、並びに、固体電解質膜のクラック発生の抑制の観点から、非常に有効な態様である、といえる。
【0082】
以下、上記実施形態において、支持基板がNiを含まない材料で構成され且つ燃料極がNiを含む材料で構成される場合における、支持基板の「燃料極との界面の近傍部分」におけるNi濃度の分布について付言する。図21において、微細なドットで示す領域は、Niが含まれる領域を示す。なお、上述したように、Niは、上述した還元処理後の状態では主としてNiとして存在し、還元処理前の状態(酸素雰囲気での焼成後の状態)では主としてNiOとして存在する。
【0083】
図21から理解できるように、Niは、燃料極20(集電部21、活性部22)内に分布するのみならず、支持基板10における「燃料極21(集電部21)との界面の近傍部分」にも分布している。支持基板10における前記界面近傍部分以外の残りの部分には、Niが分布していない。図22に示すように、支持基板10の前記界面近傍部分では、「界面からの距離」が大きくなるにつれて「Niの濃度」が小さくなる。「Niの濃度」がゼロになる位置の「界面からの距離」(図22の値Zを参照)は、30μm程度である。
【0084】
図22に示すようにNiの濃度分布が傾斜するのは、焼成前の状態にて(燃料極20全体がNiを含む材料(例えば、集電部21はNi−Y系、活性部22はNi−YSZ系)で構成され且つ)支持基板10全体がNiを含まない材料(例えば、MgO−Y系)で構成されても、その後の焼成時に、燃料極20内のNiの一部が燃料極20側から支持基板10側に向かって拡散していくことに基づく。図22に示すようにNiの濃度分布が傾斜することにより、支持基板10と燃料極20との間の界面での剥離の発生が抑制される効果が期待され得る。これは、Niの濃度分布の傾斜に起因して前記界面近傍部分における熱膨張係数差も傾斜化されること、並びに、前記還元処理による「NiOのNiへの還元時」の燃料極20の寸法変化による歪の発生が緩和されること、に基づく。
【0085】
なお、以上は、「燃料極20(集電部21、活性部22)、及び、支持基板10における前記界面近傍部分に分布し、且つ、支持基板10における前記界面近傍部分以外の残りの部分には分布しない金属」として、Niが挙げられているが、係る金属としては、燃料ガスを改質する機能(例えば、都市ガスを水素ガスに変換する機能)を有する限りにおいて、Fe、Cu、Niのうち1種類以上の遷移金属が使用されてもよい。
【符号の説明】
【0086】
10…支持基板、11…燃料ガス流路、12…凹部、20…燃料極、21…燃料極集電部、21a、21b…凹部、22…燃料極活性部、30…インターコネクタ、40…固体電解質膜、50…反応防止膜、60…空気極、70…空気極集電膜、A…発電素子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流路が内部に形成された平板状の多孔質の支持基板と、
前記平板状の支持基板の主面における互いに離れた複数の箇所にそれぞれ設けられ、少なくとも燃料極、固体電解質、及び空気極が積層されてなる複数の発電素子部と、
1組又は複数組の隣り合う前記発電素子部の間にそれぞれ設けられ、隣り合う前記発電素子部の一方の燃料極と他方の空気極とを電気的に接続する1つ又は複数の電気的接続部と、
を備えた燃料電池の構造体において、
前記平板状の支持基板の主面における前記複数の箇所に、前記支持基板の材料からなる底壁と全周に亘って前記支持基板の材料からなる周方向に閉じた側壁とを有する第1凹部がそれぞれ形成され、
前記各第1凹部に、対応する前記発電素子部の燃料極がそれぞれ埋設され、
前記ガス流路の壁面と前記第1凹部の底壁との距離(t2)に対する、前記第1凹部の深さ(t1)の割合(t1/t2)が、0.07〜11.5である、燃料電池の構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池の構造体において、
前記支持基板の材料は、MgO、MgAl、NiO、Ni,Y、CaZrOのうち1種類以上を含む、燃料電池の構造体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池の構造体において、
前記燃料極の材料は、NiO又はNi、Y、CaZrO、イットリア安定化ジルコニアのうち1種類以上を含む、燃料電池の構造体。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の燃料電池の構造体において、
前記各電気的接続部は、緻密な材料で構成された第1部分と、前記第1部分と接続され且つ多孔質の材料で構成された第2部分とで構成され、
前記埋設された各燃料極の外側面に、前記燃料極の材料からなる底壁と全周に亘って前記燃料極の材料からなる周方向に閉じた側壁とを有する第2凹部がそれぞれ形成され、
前記各第2凹部に、対応する前記電気的接続部の前記第1部分がそれぞれ埋設された、燃料電池の構造体。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の燃料電池の構造体において、
前記支持基板の前記第1凹部に埋設された燃料極は、Fe、Cu、Niのうち1種類以上の遷移金属を含む材料で構成され、
前記支持基板における前記第1凹部に埋設された燃料極との界面の近傍部分は、前記遷移金属を含む材料で構成され、前記支持基板における前記界面近傍部分以外の残りの部分は、前記遷移金属を含まない材料で構成された、燃料電池の構造体。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池の構造体において、
前記支持基板の界面近傍部分における前記遷移金属の濃度は、前記界面から遠ざかるにつれて小さくなる、燃料電池の構造体。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の燃料電池の構造体において、
前記遷移金属は、Niである、燃料電池の構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−110090(P2013−110090A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−128780(P2012−128780)
【出願日】平成24年6月6日(2012.6.6)
【特許番号】特許第5066630号(P5066630)
【特許公報発行日】平成24年11月7日(2012.11.7)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】