説明

燃料電池用セパレータおよび燃料電池スタック

【課題】従来の燃料電池用セパレータを使用した燃料電池スタックにおける、ガスリークと出力密度の低下という問題点を同時に解決し、気密性および出力密度が高い燃料電池スタックおよびそれに用いる燃料電池用セパレータを提供する。
【解決手段】燃料電池用セパレータにおいて、2つ以上の貫通孔がガス導入路で接続されたユニットを片面に3つ以上備え、それらのユニットの少なくとも一つの貫通孔と、他のユニットの少なくとも一つの貫通孔とが、他面に備えられた前記ガス流路で接続されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータおよびそれを用いた燃料電池スタックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、例えばアノードに水素のような燃料ガスと、カソードに空気のような酸化剤ガスとを供給して、電気化学反応を起こさせることによって電力を発生させる装置である。たとえば、固体高分子形燃料電池(PEFC)の単セルは、膜/電極接合体(MEA:Membrane−Electrode Assembly)、ガス拡散層、およびガス流路が形成されたセパレータを含む。このMEAは、固体高分子膜の両面に電極(アノードおよびカソード)を接合したものである。
【0003】
大きな電力を発生させる場合には、単セルを複数積層した燃料電池スタックを用いる。燃料電池スタックは、一般に、両端からエンドプレート等を用いて、積層した単セルを圧迫することによって構成される。PEFCの各電極における電気化学反応の一例をつぎに示す。
【0004】
アノード:H→2H+2e
カソード:1/2O+2H+2e→H
全反応:H+1/2O→H
このような反応を効率よく進めるためには、燃料電池のアノードおよびカソードに、燃料ガスおよび酸化剤ガスをそれぞれ均一に供給する必要がある。そのため、セパレータには燃料ガスまたは酸化剤ガスを流すためのガス流路が形成されている。ガス流路とは、酸化剤ガス流路または燃料ガス流路の総称である。ガス流路は一般に、セパレータに形成された溝によって構成される。
【0005】
さらに、燃料電池スタックに用いるセパレータにはマニホールドとして使用される貫通孔がある。マニホールドには、燃料ガスあるいは酸化剤ガスに用いるための反応ガスマニホールドと、冷却水に用いる冷却水用マニホールドなどがある。この反応ガスマニホールドを通って、外部から導入した燃料ガスあるいは酸化剤ガスが各セルのガス流路に分配される。一方、各セルのガス流路から排出されたガスは、別の反応ガスマニホールドを通って燃料電池スタックから排出される。
【0006】
さらに、燃料電池スタックの温度制御および発生した熱の利用のために、各セル間または数セルごとに、冷却水等の冷媒を流すための冷却水流路がセパレータに形成されている。この冷却水流路は、セパレータのガス流路がある面とは反対側の面に形成されることが多い。
【0007】
燃料電池の出力電力は負荷変動に応じて増減させる必要があるので、ガスの利用率を一定にするためには燃料ガスおよび酸化剤ガスの流量を大きく変化させなければならない。ところが、上記のような従来の燃料電池では、高出力運転用に設計されたガス流路の場合には、低出力運転においてフラッディング現象にともなうガス分配性の低下が、逆に低出力運転用に設計されたガス流路の場合には、高出力運転において圧力損失が増大するという問題がそれぞれ発生する。
【0008】
なお、フラッディング現象とは、ガス流路、ガス拡散層またはMEAに、生成した水または加湿によって供給された水が滞留し、ガスの流通や拡散が阻害されることによってセル電圧が低下することを言う。
【0009】
例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3では、それぞれガス流路の一部をセパレータの裏面に形成することによってガスリークを防ぐ構造の燃料電池スタックが提案されている。また、特許文献4では、長方形のセパレータの長辺方向に形成されたガス流路が重力方向に折り返す構造のサーペンタイン流路を形成することによって、自動車等の車体に搭載する場合に実用的であり、かつ十分な発電性能が得られる燃料電池スタックを提案している。
【0010】
なお、サーペンタイン流路とは、サーペンタインフロー(セルの面内でガスの流れ方向を何回か反対方向に変えて流す方法)形の燃料電池に用いるガス流路のことを言う。
【0011】
また、非特許文献1では、これらの問題点を解決するための可変ガス流路機能を備えた燃料電池スタックが提案されている。このスタックでは、出力電力の変化にともなうガス流量の増減にしたがって、反応ガスマニホールドおよびガス流路を選択することができるので、ガス流量の少ない場合のフラッディング現象と、ガス流量の多い場合の圧力損失の増大とを同時に防ぐことが可能となる。
【0012】
【特許文献1】特開2001−148252号公報
【特許文献2】特開2002−298875号公報
【特許文献3】特開2002−83614号公報
【特許文献4】特開2000−311696号公報
【非特許文献1】水谷、人見、安田、山地、第43回電池討論会要旨集、P518−519、1D17(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
燃料電池に、ガス流路可変機能を備えることによって、ガス流量の少ない場合のフラッディング現象と、ガス流量の多い場合の圧力損失の増大とを同時に防ぐことが可能になったが、この燃料電池に用いる燃料電池用セパレータは、反応ガスマニホールドとして用いる貫通孔とガス流路とがセパレータの同じ面で直結されているので、その貫通孔の周囲にガスシールをするための閉じた平面がない構造であった。この構造のため、従来の燃料電池用セパレータを使用した燃料電池スタックでは気密性が低いことによるガスリークが問題となった。
【0014】
さらに、ガス流路可変機能を備えた燃料電池スタックに用いる燃料電池用セパレータでは、その機能を備えない燃料電池スタックに用いるものと比べて反応ガスマニホールドとして用いる貫通孔の数が多いので、電極周囲の面積が増大して燃料電池スタックの出力密度を低下させることが問題となった。
【0015】
本発明は、従来の燃料電池用セパレータを使用した燃料電池スタックにおける、ガスリークと出力密度の低下という問題点を同時に解決し、気密性および出力密度が高い燃料電池スタックおよびそれに用いる燃料電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1の発明の燃料電池用セパレータは、2つ以上の貫通孔がガス導入路で接続されたユニットを片面に3つ以上備え、それらのユニットの少なくとも一つの貫通孔と、他のユニットの少なくとも一つの貫通孔とが、他面に備えられた前記ガス流路で接続されていることを特徴とする。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1記載の燃料電池用セパレータにおいて、ガス流路によって3つのユニットが接続されることを特徴とする。
【0018】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の燃料電池用セパレータにおいて、ガス導入路で結ばれた2つ以上の貫通孔で構成されるユニットを3つ以上備えた面に冷却水流路を備えることを特徴とする。
【0019】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の燃料電池用セパレータにおいて、ガス流路が屈曲部を備えることを特徴とする。
【0020】
請求項5の発明の燃料電池スタックは、本発明の燃料電池用セパレータを備えることを特徴とする。
【0021】
請求項6の発明の燃料電池スタックは、上記燃料電池スタックにおいて、ユニットに含まれる貫通孔の、ユニットを備えない面側の開口面が、ガス拡散電極面と接していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明の燃料電池用セパレータは、反応ガスマニホールドとして用いる貫通孔の周囲に閉じた平面があり、電極周囲の面積が小さいため、この燃料電池用セパレータを用いることにより、ガス流路可変機能を備える場合であっても気密性および出力密度が高い燃料電池スタックを製作することができる。
【0023】
請求項2の発明の燃料電池用セパレータは、ガス流路によって互いに接続された3つのユニットを備えるために、気密性が高く、貫通孔の数を少なくすることができる。
【0024】
請求項3または請求項4の燃料電池用セパレータは、ガス流路がサーペンタインフロー形であり、反応ガスマニホールドとして用いる貫通孔の位置を自由に設定できるので、ガス流路可変機能を備えた場合であっても小形な燃料電池スタックを製作することができる。
【0025】
請求項5の発明の燃料電池スタックは、気密性に優れ、出力密度が高い。
【0026】
請求項6の発明の燃料電池スタックは、電極周囲の面積の低減と、ガス利用率の向上とをはかることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1、図2および図3は、本発明における燃料電池用セパレータの構造の一例を第三角法で示した模式図である。図1は酸化剤ガスに用いるガス流路を備えたカソード側セパレータの構造の一例、図2は酸化剤ガスに用いるガス流路を備えたカソード側セパレータの構造の他の例、図3は燃料ガスに用いるガス流路を備えたアノード側セパレータの構造の一例を示す。
【0028】
図1〜図3において、1a、1b、1c、21a、21b、21cはいずれもガス導入路、2a、2b、2c、3a、3b、3c、8a、8b、8c、9a、9b、12a、12b、12c、18a、18b、18c、19a、19b、23a、23b、23cはいずれも貫通孔、5a、5b、5c、15a、15b、25a、25bはいずれもガス流路、4a、4b、4c、24a、24b、24cはいずれもユニット、6および16は冷却水流路、7は屈曲部を示す。
【0029】
まず、本発明の燃料電池用セパレータの構造を、図1に示したカソード側セパレータを例にあげて説明する。図1は酸化剤ガスに用いるガス流路を備えたカソード側セパレータの構造の一例を示したもので、図1(ア)は2つ以上の貫通孔がガス流路で接続されたユニットを3つ以上備える面の構造を、図1(イ)は、図1(ア)のX−X’断面構造を、図1(ウ)はひとつのユニットの貫通孔と別のユニットの貫通孔とを接続するガス流路を2つ以上備える面の構造をそれぞれ示す。
【0030】
図1(ア)において、点線で囲んだ4a、4bおよび4cはユニットを示し、1a、1bおよび1cはユニットに含まれるガス導入路を示し、2a、2b、2c、3a、3bおよび3cはユニットに含まれる貫通孔を示す。ユニット4aでは、貫通孔2aと貫通孔3aとがガス導入路1aで接続されており、ユニット4bでは、貫通孔2bと貫通孔3bとがガス導入路1bで接続されており、ユニット4cでは、貫通孔2cと貫通孔3cとがガス導入路1cで接続されている。なお、図1(ア)において、6は、ユニット4a、4bおよび4cを備える面に設けられた冷却水流路を示す。
【0031】
図1(ウ)において、5aは、ユニット4aに含まれる貫通孔3aとユニット4bに含まれる貫通孔3bとを接続するガス流路を示し、5bは、ユニット4cに含まれる貫通孔3cとユニット4bに含まれる貫通孔3bとを接続するガス流路を示す。また、図1(ウ)において、7はガス流路5aおよび5bの屈曲部を示す。
【0032】
図1(ア)、(イ)、(ウ)において、貫通孔8a、8bおよび8cは燃料ガス用マニホールドに用いる貫通孔であり、貫通孔9aおよび9bは冷却水用マニホールドであり、図1はカソード側セパレータであるため、ガス流路5a、5b、ガス導入路1a、1b、1c、ユニット4a、4b、4c、貫通孔2a、2b、2c、3a、3b、3cには酸化剤ガスが流れる。
【0033】
図1(イ)に示すように、反応ガスマニホールドとして使用する貫通孔2aから供給された酸化剤ガスは、ガス導入路1aを通って、貫通孔3aからセパレータの反対側の面に達し、ガス流路5aに流れ、ガス流路5aに接しているガス拡散電極で反応に使われる。
【0034】
本発明の燃料電池用セパレータでは、貫通孔2a、2bおよび2cを備えたユニット4a、4b、4cの周囲に、図1(ア)および(ウ)の点線で示したように、閉じた平面が形成されるので、このセパレータを積層して燃料電池スタックを製作した場合には、それらの貫通孔を反応ガスマニホールドとして使用することによって、気密性を向上させることができる。
【0035】
また、本発明の燃料電池用セパレータは、備えられた3つのユニット4a、4bおよび4cに含まれる貫通孔2a、2bおよび2cをガス供給マニホールドまたはガス排出マニホールドとして使用することによって、ガス流路可変機能を備えた燃料電池スタックを製作することができる。
【0036】
例えば、ガス流量の少ない低出力で燃料電池スタックを運転する場合には、貫通孔2bを使用せず、貫通孔2aをガス供給マニホールドとして、また貫通孔2cをガス排出マニホールドとして、それぞれ使用することによって、ガス流路5aと5bとを直列に用いてガスを流すことができる。この場合、ガス流速が高いので、フラッディング現象にともなう燃料電池スタックの出力低下がおこりにくい。
【0037】
また、ガス流量の多い高出力で燃料電池スタックを運転する場合には、貫通孔2aおよび貫通孔2cをガス供給マニホールドとして、また貫通孔2bをガス排出マニホールドとして、それぞれ使用することによって、ガス流路5aと5bとを並列に用いてガスを流すことができる。この場合、ガス流路の長さが短くなるので、圧力損失を低くすることができる。
【0038】
本発明の燃料電池用セパレータを使用した燃料電池スタックでは、ユニット4aの貫通孔3aとユニット4bの貫通孔3bとの間を接続するガス流路5a、およびユニット4bの貫通孔3bとユニット4cの貫通孔3cとの間を接続するガス流路5bが、それぞれガス拡散電極と接する。また、本発明のセパレータは、ユニット4aと4bとがガス流路5aによって、およびユニット4bと4cとがガス流路5bによってそれぞれ接続されている。したがって、本発明の燃料電池用セパレータにおいては、ガス流路5aと5bとの接点部分に貫通孔3bを設け、ガス流路5aおよび5bと貫通孔3bとを接続することが好ましい。
【0039】
本発明における貫通孔とは、燃料電池用セパレータの片面から他面に貫通した孔である。燃料電池スタックを製作した際に反応ガスマニホールドとして用いる貫通孔(例えば図1(ア)の2a)は、ガス流路(図1(ウ)の5a)に接続していない。ガス導入路(図1(ア)の1a)と貫通孔3aとは、反応ガスマニホールドとして用いる貫通孔(図1(ア)の2a)とガス流路(図1(ウ)の5a)との間にガスを流すための役目を果たす。
【0040】
燃料電池用セパレータでは、反応ガスマニホールドとして用いる貫通孔(例えば図1(ア)の2a)に接続されているものをガス導入路(図1(ア)の1a)、反応ガスマニホールドとして用いる貫通孔(図1(ア)の2a)に接続されていないものをガス流路(図1(ウ)の5a)として区別することができる。燃料電池スタックにおいて、ガス導入路(図1(ア)の1a)は電極と接さない。ガス導入路(図1(ア)の1a)およびガス流路(図1(ウ)の5a)には、セパレータに形成された溝を用いることができる。
【0041】
ユニット(例えば図1(ア)の4a)は、2つ以上の貫通孔(図1(ア)の2aと3a)と、それらの貫通孔を結ぶガス導入路(図1(ア)の1a)とで構成される。そのユニットに含まれる貫通孔は、3つ以上であってもよい。つまり、片面にあるガス流路に接続された貫通孔が、1つのユニットに複数含まれていてもよいし、反応ガスマニホールドとして用いる貫通孔が1つのユニットに複数含まれていてもよい。
【0042】
また、1つのユニット(例えば図1(ア)の4a)には、他面にあるガス流路(図1(ウ)の5a)に接続された貫通孔(図1(ア)の3a)と反応ガスマニホールドとして用いる貫通孔(図1(ア)の2a)との両方が含まれる。さらに、ユニットに含まれるガス導入路(図1(ア)の1a)、または他面にあるガス流路(図1(ウ)の5a)は、複数本の集合体であってもよい。つまり、他面にあるガス流路が、複数並行して形成されたガス流路であってもよい。
【0043】
図1(ア)に示すように、本発明の燃料電池用セパレータは、ユニット4a、4bおよび4cを備えた面に、冷却水流路6を備える。本発明の燃料電池用セパレータを積層した燃料電池スタックは、図1(ア)および(ウ)中の貫通孔9aおよび9bを冷却水用マニホールドとして用いる。この冷却水流路に最適な温度の冷却水等を流すことによって、燃料電池スタックの温度を制御することが可能になる。このような冷却水流路は、全てのセパレータに設ける必要はないが、少なくとも数セル毎に設置することが温度分布の最適化の面から好ましい。
【0044】
本発明の燃料電池用セパレータでは、一定圧力でガスを流した場合にほぼ同じ量のガスが流れるようにするために、図1(ウ)中のガス流路5aの長さとガス流路5bの長さとの最小値がその長さの最大値の90%以上であることが好ましい。ここで、ガス流路の長さとは、ガスが流れる貫通孔間のガス流路の長さを指す。
【0045】
また、本発明の燃料電池セパレータには、そのガス流路5aおよび5bに屈曲部7がそれぞれ備えられる。このような屈曲部が備えられたサーペンタインフロー形のガス流路とすることにより、反応ガスマニホールドとして用いる貫通孔の位置を自由に設定できるので、ガス流路可変機能を備えた場合であっても小形の燃料電池スタックを製作することができる。
【0046】
本発明の燃料電池スタックは、アノード側セパレータ、カソード側セパレータの両方またはいずれか一方に本発明の燃料電池用セパレータを使用したものである。また、本発明の燃料電池スタックは、ユニットに含まれる貫通孔の一方、すなわち、マニホールドとして用いない方の貫通孔の、ユニットを備えない面側の開口面が、ガス拡散電極と接しているので、マニホールドとして用いない貫通孔を電極周囲に設ける必要がなく、電極周囲の余分な面積を低減することができ、かつガス拡散層周囲を短絡するようなガスの流れが抑制され、ガス利用率を向上させることができる。
【0047】
さらに、図1中のガス流路5aおよびガス流路5bとが直結されているので、ガス流路5aからガス流路5bにスムーズにガスを流すことができる。
【0048】
ここで、開口面がガス拡散電極と接している貫通孔とは、本発明の燃料電池用セパレータを使用して燃料電池スタックを製作した場合に、ユニットを備えない面に設けられたガス流路と接続された貫通孔の開口面が、スタックの積層方向からみて、電極面内にあることを指す。
【0049】
図2は、酸化剤ガスに用いるガス流路を備えたカソード側セパレータの構造の他の例を示したもので、図2(ア)は2つ以上の貫通孔がガス流路で接続されたユニットを3つ以上備える面の構造を、図2(イ)は、図2(ア)のX−X’断面構造を、図2(ウ)はひとつのユニットの貫通孔と別のユニットの貫通孔とを接続するガス流路を2つ以上備える面の構造をそれぞれ示す。
【0050】
図1のセパレータとの違いは、図2においては、ユニット4a、4bおよび4cには、貫通孔3a、3bおよび3cが、それぞれ複数設けられていることである。図2に示したように、1つのユニットに含まれる貫通孔が複数であっても、図1に示した貫通孔が1個である場合と同様の効果を得ることが可能である。
【0051】
図3は燃料ガスに用いるガス流路を備えたアノード側セパレータの構造の一例を示したもので、図3(ア)は2つ以上の貫通孔がガス流路で接続されたユニットを3つ以上備える面の構造を、図3(イ)は、図3(ア)のX−X’断面構造を、図3(ウ)はひとつのユニットの貫通孔と別のユニットの貫通孔とを接続するガス流路を2つ以上備える面の構造をそれぞれ示す。
【0052】
図3(ア)において、点線で囲んだ24a、24bおよび24cはユニットを示し、21a、21bおよび21cはユニットに含まれるガス導入路を示し、18a、18b、18c、23a、23bおよび23cはユニットに含まれる貫通孔を示す。ユニット24aでは、貫通孔18aと貫通孔23aとがガス導入路21aで接続されており、ユニット24bでは、貫通孔18bと貫通孔23bとがガス導入路21bで接続されており、ユニット24cでは、貫通孔18cと貫通孔23cとがガス導入路21cで接続されている。なお、図3(ア)において、6は、ユニット24a、24bおよび24cを備える面に設けられた冷却水流路を示す。
【0053】
図3(ウ)において、25aは、ユニット24aに含まれる貫通孔23aとユニット24bに含まれる貫通孔23bとを接続するガス流路を示し、25bは、ユニット24cに含まれる貫通孔23cとユニット24bに含まれる貫通孔23bとを接続するガス流路を示す。また、図3(ハ)において、17は、ガス流路25aおよび25bの屈曲部を示す。
【0054】
図3(ア)、(イ)、(ウ)において、貫通孔12a、12bおよび12cは酸化剤ガス用マニホールドに用いる貫通孔であり、貫通孔19aおよび19bは冷却水用マニホールドである。図3はアノード側セパレータであるため、ガス流路25a、25b、ガス導入路21a、21b、21c、ユニット24a、24b、24c、貫通孔18a、18b、18c、23a、23b、23cには燃料ガスが流れる。
【0055】
図3(イ)に示すように、反応ガスマニホールドとして使用する貫通孔18aから供給された燃料ガスは、ガス導入路21aを通って、貫通孔23aからセパレータの反対側の面に達し、ガス流路25aに流れ、ガス流路25aに接しているガス拡散電極で反応に使われる。
【0056】
図3のセパレータは、アノード側に用いたこと以外の機能は、図1のカソード側セパレータと同じである。
【0057】
図4は、従来の燃料電池用セパレータの片面の構造を示す模式図である。図4において、32a、32b、32c、38a、38b、38c、39aおよび39bは貫通孔、35aおよび35bはガス流路である。このセパレータは、図4に示した面とガス拡散電極とが接することで、ガス流路可変機能を備えた燃料電池スタックに用いることができる。
【0058】
図4に示したように、従来の燃料電池用セパレータは、貫通孔32a、32bおよび32cと、それらの貫通孔を結ぶガス流路35aおよび35bとを備える。また、図4において、38a、38bおよび38cは上記のガス流路とは異なる種類のガスに用いる貫通孔、39aおよび39bは冷却水に用いる貫通孔をそれぞれ示す。
【0059】
図4に示したように、従来の燃料電池用セパレータでは、反応ガスマニホールドとして用いる貫通孔32a、32bおよび32cが、ガス流路35aおよび35bと、セパレータの同じ面で直接接続されているので、貫通孔32a、32bおよび32cの周囲に閉じた平面が存在しない。このため、この燃料電池用セパレータを使用した燃料電池スタックは、反応ガスマニホールドとして用いる貫通孔32a、32bおよび32cからのガスリークが発生しやすい。
【0060】
また、ガス流路可変機能を備え、かつガス流路35aおよび35bのそれぞれの長さを同じにするためには、貫通孔32bを大きくせざるをえない。そのため、電極周囲の面積が大きくなるので、この燃料電池用セパレータを用いた燃料電池スタックの出力密度を高めることができない。
【0061】
本発明のセパレータは、アルカリ形燃料電池、りん酸形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、固体電解質形燃料電池あるいはPEFC等に適用することができるが,作動温度が低くフラッディング現象がおこりやすいいことから、特にPEFCに適用すると効果が顕著に表れる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を好適な実施例を用いて説明する。
【0063】
[実施例1]
まず、固体高分子膜にアノードとカソードとを加熱圧着することによってMEAを製作した。このアノードとカソードとの大きさはいずれも230cm、また白金量は0.5mg/cmとした。つづいて、本発明の燃料電池用セパレータでMEAのカソード側およびアノード側から挟持して単セルを構成した。その単セルを3組積層して両端からエンドプレートで圧迫することによって、実施例1の燃料電池スタックAを製作した。
【0064】
カソード側セパレータには図1に示したもの、アノード側セパレータには図3に示したものをそれぞれ使用した。MEAとセパレータの間には、ガス拡散層としてのカーボンペーパーを用いた。全てのセパレータにおいて、ガス流路の溝幅を1mm、溝深さを0.5mmとし、全てのセパレータ間およびセパレータとエンドプレートとの間をO−リングを用いてシールした。
【0065】
[比較例1]
まず、固体高分子膜にアノードとカソードとを加熱圧着することによってMEAを製作した。このアノードとカソードとの大きさはいずれも230cm、また白金量は0.5mg/cmとした。つづいて従来の燃料電池用セパレータを2枚用い、MEAのカソード側およびアノード側から挟持して単セルを構成した。その単セルを3組積層して両端からエンドプレートで圧迫することによって、比較例1の燃料電池スタックBを製作した。
【0066】
カソード側セパレータおよびアノード側セパレータには図4に示したものを使用した。MEAとセパレータの間には、ガス拡散層としてのカーボンペーパーを用いた。全てのセパレータにおいて、ガス流路の溝幅を1mm、溝深さを0.5mmとし、全てのセパレータ間およびセパレータとエンドプレートとの間をO−リングを用いてシールした。
【0067】
[試験結果]
本発明による実施例1の燃料電池スタックAおよび比較例1の燃料電池スタックBのガスリーク試験をおこなった。この試験では、燃料ガス側に窒素ガスを導入した状態で、酸化剤ガス側からのガスリーク量を測定した。図5に、窒素ガスの導入圧力に対するガスリーク量を示す。図5において、記号○は実施例1の燃料電池スタックAの圧力とガスリーク量の関係を示し、記号△は比較例1の燃料電池スタックBの圧力とガスリーク量の関係を示す。
【0068】
図5より、従来の燃料電池スタックは、窒素ガスの圧力の増大にともなってガスリーク量が増大しているのに対して、本発明の燃料電池スタックは、窒素ガスの圧力によらず、ガスリークが確認されなかった。これは、本発明の燃料電池スタックに使用した本発明の燃料電池用セパレータでは、反応ガスマニホールドとして用いる貫通孔の周囲に閉じた平面があるので、確実なシール性を保てたためである。このことから、本発明の燃料電池スタックおよび、それに用いた本発明の燃料電池用セパレータが、気密性の向上に有効であることが明らかになった。
【0069】
つづいて、燃料ガスとして水素、酸化剤ガスとして空気を用いて、実施例1の燃料電池スタックAおよび比較例1の燃料電池スタックBの電流―電圧特性を測定した。図6に電流―電圧特性を、図7に電流―出力密度特性を示す。なお、図6および図7において、記号○は本発明による実施例1の燃料電池スタックAの特性、記号△は比較例1の燃料電池スタックBの特性を示す。
【0070】
これらの燃料電池では、80℃の密閉水槽中でバブリングすることによって加湿した水素と空気とをアノードとカソードとにそれぞれ供給した。この燃料電池の運転温度は80℃とした。開回路状態を除き、それぞれの電流密度でのガス流量を、水素の利用率が60%、空気の利用率が40%となるように変化させた。
【0071】
図6より、本発明による実施例1の燃料電池スタックAと比較例1の燃料電池スタックBとの性能は同レベルであることがわかり、図7より、本発明の実施例1の燃料電池スタックAは、比較例1の燃料電池スタックBよりも出力密度が高いことがわかった。
【0072】
本発明の燃料電池用セパレータを使用した実施例1の燃料電池スタックAは、比較例1の燃料電池スタックBよりも16%の小形化によって出力密度が向上したためである。すなわち、燃料電池スタックAおよびBでは、どちらも同じ数の反応ガスマニホールドを備え、かつガス流路可変機能を備えているが、本発明の燃料電池スタックAの体積は,ガス導入路で結ばれた2つ以上の貫通孔で構成されるユニットを片面に3つ以上備え、それらのユニットに含まれる貫通孔のいずれかが、他のユニットの貫通孔と、他面にあるガス流路により接続された燃料電池用セパレータを使用したので、比較例1の燃料電池用スタックBの体積と比較して約16%低減させることができた。
【0073】
これらの結果から、本発明の燃料電池用セパレータを用いた燃料電池スタックは、ガス流路可変機能を備え、かつ気密性が高く小形なものであることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の燃料電池用カソード側セパレータの構造の一例を示す模式図。
【図2】本発明の燃料電池用カソード側セパレータの構造の他の例を示す模式図。
【図3】本発明の燃料電池用アノード側セパレータの構造の一例を示す模式図。
【図4】従来の燃料電池用セパレータの片面の構造を示す模式図。
【図5】燃料電池スタックにおける、圧力とガスリーク量の関係を示す図。
【図6】燃料電池の電流−平均セル電圧特性を示す図。
【図7】燃料電池の電流−出力密度特性を示す図。
【符号の説明】
【0075】
1a、1b、1c、21a、21b、21c ガス導入路
2a、2b、2c、3a、3b、3c、8a、8b、8c、9a、9b、12a、12b、12c、18a、18b、18c、19a、19b、23a、23b、23c 貫通孔
5a、5b、5c、15a、15b、25a、25b ガス流路
4a、4b、4c、24a、24b、24c ユニット
6、16 冷却水流路
7 屈曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の貫通孔がガス導入路で接続されたユニットを片面に3つ以上備え、それらのユニットの少なくとも一つの貫通孔と、他のユニットの少なくとも一つの貫通孔とが、他面に備えられた前記ガス流路で接続されていることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
ガス流路によって3つのユニットが接続されることを特徴とする請求項1記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
ユニットを3つ以上備えた面に冷却水流路を備えることを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
ガス流路が屈曲部を備えることを特徴とする請求項1乃至3記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項5】
請求項1乃至4記載の燃料電池用セパレータを備えることを特徴とする燃料電池スタック。
【請求項6】
ユニットに含まれる貫通孔の、ユニットを備えない面側の開口面が、ガス拡散電極面と接していることを特徴とする請求項5記載の燃料電池スタック。


























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−24388(P2006−24388A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199373(P2004−199373)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000004282)日本電池株式会社 (48)
【Fターム(参考)】