説明

燃焼排ガス処理装置及び湿式集塵機排水処理方法

【課題】燃焼排ガスの処理に際し、次亜塩素酸ソーダの使用量を大幅に低減し、トリハロメタン類等の生成を抑制し、オゾン触媒塔に加わる負荷も低減し、装置及び運転コストを抑制する。
【解決手段】燃焼排ガス中の水溶性成分等を捕集する湿式集塵機2と、湿式集塵機に導入される燃焼排ガスに添加するオゾンを生成するオゾン生成装置14と、湿式集塵機に導入される燃焼排ガスに添加する次亜塩素酸ソーダを生成する次亜塩素酸ソーダ生成装置13と、湿式集塵機を通過した燃焼排ガス中のNOx及び/又は残留性有機汚染物質を分解して除去する触媒塔と、湿式集塵機からのスラリーを固液分離する固液分離機6、7と、固液分離された液体中の水銀を吸着する水銀吸着塔8と、固液分離された液体中の微量溶解成分を分解処理するオゾン触媒塔9と、水銀吸着塔及び/又はオゾン触媒塔からの排水を湿式集塵機に戻す循環ルート11とを備える燃焼排ガス処理装置1等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ごみ焼却炉、セメント焼成設備等の燃焼排ガスを処理する燃焼排ガス処理装置、及びこのような燃焼排ガス処理装置等に用いられる湿式集塵機から排出される液体を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみ等を焼却する焼却炉からの燃焼排ガス中には、SOx、NOx等に加え、微量の毒性の強い残留性有機汚染物質が含まれている。この残留性有機汚染物質等を除去するため、種々の技術が提案されている。しかし、残留性有機汚染物質等の除去に活性炭等の吸着剤を用いると、残留性有機汚染物質を吸着した活性炭が廃棄物として排出されるため、使用済みの活性炭を処分する必要がある。また、都市ごみ焼却炉等ではNOxを低減するために脱硝剤を使用しているが、脱硝剤の使用量が多いと運転コストが高騰するという問題もあった。
【0003】
また、近年、リサイクル資源活用の要請に応え、セメント焼成設備には、種々のリサイクル資源が原料系及び焼成系に投入されているが、今後、リサイクル資源の投入量が増加し続けると、上記都市ごみ焼却炉等と同様、有害物質の排出量の増加、及び運転コストの増加が懸念される。特に、セメント焼成設備で発生する燃焼排ガスは多量であるため、燃焼排ガスに含まれる有害物質が微量であっても、有害物質を除去するための設備は大規模なものとなり、設備コスト及び運転コストの増大に繋がる可能性がある。
【0004】
そこで、本出願人は、特許文献1において、都市ごみ焼却炉、セメントキルン等に適用することができ、使用済みの活性炭を処分する必要がなく、NOxを含む有害物質を効率よく低減することができ、設備コスト及び運転コストを低減することのできる燃焼排ガス処理装置及び処理方法を提案した。
【0005】
この燃焼排ガス処理装置は、図2に示すように、セメント焼成設備51の後段に配設された電気集塵機32と、燃焼排ガス中の水溶性成分及びダストを捕集する湿式集塵機33と、再加熱器37と、NOx等を分解して除去する触媒塔38と、熱回収器39と、湿式集塵機33から排出されたスラリーを固液分離する固液分離機42と、固液分離機42で分離された液体中の水銀を吸着する水銀吸着塔43と、水銀が除去された液体を処理する排水処理設備44等で構成される。
【0006】
上記燃焼排ガス処理装置31において、セメントキルン52からの燃焼排ガスGは、電気集塵機32にもたらされ、燃焼排ガスG中のほとんどのダストが回収された後、湿式集塵機33に導入される。ここで、燃焼排ガスG中の水溶性成分及び残存ダストを捕集し、後段の触媒塔38の寿命に大きな影響を与えるダスト、水銀(Hg)等を除去する。
【0007】
湿式集塵機33で発生した洗煙水又はスラリーは、循環液槽35及びポンプ36を介して循環し、燃焼排ガスGと液体との接触が充分に行われ、酸化剤生成装置45から供給された次亜塩素酸ソーダ等による水銀等の酸化、並びに水溶性成分及びダストの回収が行われる。
【0008】
水溶性成分、ダスト等が除去された燃焼排ガスGは、ミストセパレーター34から再加熱器37に導入されて加熱された後、触媒塔38に導入される。再加熱器37の入口側には、触媒塔38において用いる脱硝剤としてのアンモニア(NH3)を注入する。触媒塔38において、燃焼排ガスG中のNOx、残留性有機汚染物質が分解される。触媒塔38から排出された燃焼排ガスGは、熱回収器39、ファン40及び煙突41を経て大気に放出される。
【0009】
一方、循環液槽35から排出されたスラリーSは、固液分離機42によって固液分離され、分離された液体中の水銀は、クロロ錯イオン(HgCl42-)として水に溶解し、これを水銀吸着塔43で吸着した後、系外で処理する。水銀が除去された液体は、排水処理設備44で処理され、湿式集塵機33で再利用したり、セメントキルン52の燃焼排ガスGの冷却等に利用することもできる。
【0010】
しかし、上記特許文献1に記載の燃焼排ガス処理装置及び処理方法において、湿式集塵機33は、燃焼排ガスG中の水分を凝縮、回収する作用も有する。そのため、水銀を除去した後の排水処理設備44からの排水は、例えば、セメントキルン排ガスの減温や調湿に利用することのできる水量を超え、余剰となる場合が生ずることが判明した。そこで、この余剰水の処理法が求められていた。
【0011】
また、上記に加え、水銀等を酸化した後、酸化された水銀等を湿式集塵機において吸収するため、湿式集塵機33の循環水にオゾンを添加した場合には、排ガス中のNOが酸化されてNO2となり、かえって臭気を増加させるという問題もあった。
【0012】
そこで、上記問題を解決するため、本出願人は、特許文献2において、燃焼排ガスを処理する際に、系外への排水を最小限に抑え、排ガス中のNOx等を効率的に低減することのできる燃焼排ガス処理装置及び処理方法を提案した。
【0013】
この燃焼排ガス処理装置は、図3に示すように、図示しないセメント焼成設備の後段に配設された電気集塵機等から排出された燃焼排ガスG中の水溶性成分及びダストを捕集する湿式集塵機62と、ミストセパレーター63と、循環液槽64と、ポンプ65と、循環液槽64から排出されたスラリーSに含まれるスラッジSL1を沈降除去するための沈降装置66と、沈降装置66から排出されたスラリーSを固液分離してスラッジSL2を排出するろ過フィルタ67と、ろ過フィルタ67から排出された液体中の水銀を吸着する水銀吸着塔68と、液体中の微量溶解成分を分解処理するオゾン触媒塔69と、オゾン触媒塔69に供給するオゾンを発生させるオゾン発生装置70と、オゾン触媒塔69の排水Wを湿式集塵機62に戻す循環ルート71と、循環ルート71上に配置され、排水W中の塩を濃縮して電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置73に供給するための塩濃縮膜72と、湿式集塵機62へ導入される燃焼排ガスGに添加する次亜塩素酸ソーダを発生させる電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置73とで構成される。
【0014】
上記構成により、セメントキルンからの燃焼排ガスGは、電気集塵機等において、燃焼排ガスG中のダストが回収された後、湿式集塵機62に導入される。湿式集塵機62において、燃焼排ガスG中の水溶性成分及びダストを捕集し、後段の触媒塔の寿命に大きな影響を与えるダスト、水銀(Hg)等を除去する。
【0015】
湿式集塵機62で発生した洗煙水又はスラリーは、循環液槽64及びポンプ65を介して循環し、燃焼排ガスGと液体との接触が充分に行われ、電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置73から供給された次亜塩素酸ソーダによる水銀等の酸化、並びに水溶性成分及びダスト等の回収を効率よく行うことができる。硫酸ミストは、湿式集塵機62に導入されたダストに含まれるCaOによって石膏に転換することができるが、CaOの量が不足する場合には、ポンプ65の入口側等に水酸化カルシウム(Ca(OH)2)又は酸化カルシウム(CaO)を供給する。水溶性成分、ダスト等が除去された燃焼排ガスGは、ミストセパレーター63から図示しない触媒塔へ導かれ、NOx、残留性有機汚染物質が分解される。
【0016】
一方、循環液槽64から排出されたスラリーSは、沈降装置66においてスラッジSL1が除去され、ろ過フィルタ67においてスラッジSL2が除去される。ろ過フィルタから排出された液体に含まれる水銀は、水銀吸着塔68で吸着され、さらに、オゾン触媒塔69において、液体中の微量溶解成分がN2、CO2、水等に分解処理される。
【0017】
水銀、NOx等が除去されたオゾン触媒塔69からの排水Wは、循環ルート71を介して湿式集塵機62に戻される。排水Wは、次亜塩素酸ソーダを用いて水銀を酸化した際に発生する塩化ナトリウムを含む。そこで、排水Wを塩濃縮膜72に供給し、塩濃縮膜72で濃縮することにより濃縮した塩化ナトリウムが得られるとともに、電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置73に影響を及ぼすスケール成分(Ca、Mg等)を排除することができる。この塩化ナトリウムを電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置73に供給し、次亜塩素酸ソーダの製造に利用することができる。これによって、薬剤費を低減するとともに、排水Wをセメントへ添加した場合のセメント中の塩素量を低減することができる。尚、塩濃縮膜72からの排水Wは、湿式集塵機62に戻されて湿式集塵に利用される。
【0018】
ところで、燃焼装置から排出される排ガス処理装置として、特許文献3には、塩化水銀がSO2等により金属水銀に還元され、排ガス中に飛散することを防止し、排ガス中の水銀を効果的に除去するため、排ガス中の水銀を触媒の存在下にて塩化水銀に変換する水銀酸化工程と、スクラバーにて、排ガスを吸収液と接触させて排ガス中から水銀成分を吸収除去する接触工程と、スクラバーへ空気の通気又は酸化剤の添加を行い、空気の通気量又は酸化剤の添加量を調整して、吸収液の酸化還元電位を制御する制御工程とを有し、特に、制御工程において、燃焼装置の負荷又はスクラバー出口の水銀濃度の少なくともいずれか一を検出して、空気通気量又は酸化剤添加量を制御する排ガス中の水銀除去方法等が提案されている。
【0019】
【特許文献1】WO2005/005025号公報
【特許文献2】特開2006−305510号公報
【特許文献3】特開2004−313833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかし、上記特許文献2に記載の燃焼排ガス処理装置及び処理方法において、排ガス中の水銀を処理するためには、次亜塩素酸ソーダが大量に必要となり、また、残塩管理工程が存在しないため、過剰塩素と排ガス中の有機成分との反応により環境ホルモンの一種であるトリハロメタン類の生成が促進されるおそれがあるとともに、後段のオゾン触媒塔に加わる負荷も大きくなるという問題があった。
【0021】
さらに、次亜塩素酸ソーダ発生装置へ供給する濃縮塩の量も増加するため、洗煙水の処理量も増加し、処理装置を大型化するか、処理装置を複数基設置することが必要となり、装置コスト及び運転コストが増加するという問題があった。
【0022】
また、硫酸ミストを石膏に転換するための水酸化カルシウム又は酸化カルシウムが、循環液槽内から湿式集塵機へ汲み上げられる循環水に供給されるため、循環水のpH上昇により、該循環水に添加される次亜塩素酸ソーダの機能低下を招くおそれもあった。
【0023】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、燃焼排ガスを処理するにあたって、次亜塩素酸ソーダの使用量を大幅に低減し、トリハロメタン類の生成を抑制し、オゾン触媒塔に加わる負荷の低減等を図ることにより、装置コスト及び運転コストを抑制することが可能な燃焼排ガス処理装置及び湿式集塵機排水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するため、本発明は、燃焼排ガス処理装置であって、燃焼排ガス中の水溶性成分及びダストを捕集する湿式集塵機と、該湿式集塵機に導入される燃焼排ガスに添加するオゾンを生成するオゾン生成装置と、前記湿式集塵機に導入される燃焼排ガスに添加する次亜塩素酸ソーダを生成する次亜塩素酸ソーダ生成装置と、前記湿式集塵機を通過した燃焼排ガス中のNOx及び/又は残留性有機汚染物質を分解して除去する触媒塔と、前記湿式集塵機から排出されたスラリーを固液分離する固液分離機と、該固液分離機で分離された液体中の水銀を吸着する水銀吸着塔と、前記固液分離機で分離された液体中の微量溶解成分を分解処理するオゾン触媒塔と、前記水銀吸着塔及び/又はオゾン触媒塔からの排水を前記湿式集塵機に戻す循環ルートとを備えることを特徴とする。
【0025】
そして、本発明によれば、燃焼排ガスを処理するにあたって、次亜塩素酸ソーダ及びオゾンを併用するため、燃焼排ガス中の水銀をオゾンによって効率よく除去することにより、次亜塩素酸ソーダの使用量を低減することができる。これによって、トリハロメタン類等の有害物質の生成を抑制し、オゾン触媒塔に加わる負荷を低減することができる。また、オゾンのみを使用した場合に、排ガス中のNOが酸化されてNO2となり、臭気が増加することを防止することもできる。
【0026】
さらに、次亜塩素酸ソーダの使用量の低減により、次亜塩素酸ソーダ発生装置へ供給する濃縮塩の量も低減することができるため、洗煙水の処理量も低減することができ、装置コスト及び運転コストを抑制することができる。
【0027】
また、循環ルートを介して水銀吸着塔及び/又はオゾン触媒塔からの排水を湿式集塵機に戻すことができるため、系外への排水を最小限に抑えることができる。この際、排水の循環使用により、固液分離機で分離された液体中の微量溶解成分が濃縮するが、オゾン触媒塔によってこれらの溶解成分を除去することができる。
【0028】
前記燃焼排ガス処理装置において、前記湿式集塵機を通過した燃焼排ガス中の水銀濃度を測定し、該水銀濃度に応じて前記湿式集塵機に導入される燃焼排ガスに添加するオゾンの量を調整することができる。燃焼排ガス中の水銀濃度が高い場合には、酸化剤の中でも特に水銀の酸化に効果的なオゾンの添加量を増加し、効率よく水銀を除去することができる。
【0029】
また、前記燃焼排ガス処理装置において、前記水銀吸着塔から排出された洗煙水中の残留遊離塩素濃度を測定し、該塩素濃度に応じて前記湿式集塵機に導入される燃焼排ガスに添加する次亜塩素酸ソーダの量を調整することができる。これにより、前記塩素濃度が高い場合には、次亜塩素酸ソーダの添加量を減少することによって、次亜塩素酸ソーダの過剰添加による有害物質の副生を防止し、前記塩素濃度が低い場合には、次亜塩素酸ソーダの添加量を増加し、水溶性成分及びダスト等を効率よく除去することができる。
【0030】
前記燃焼排ガス処理装置において、前記循環ルートを介して前記湿式集塵機に戻される排水の少なくとも一部を前記次亜塩素酸ソーダ生成装置に導く給水ルートを備えることができる。これによって、循環ルートを介して塩化ナトリウムを含む排水を次亜塩素酸ソーダ生成装置で有効利用することができる。
【0031】
前記燃焼排ガス処理装置において、前記循環ルートに設置され、該循環ルートを流れる排水から塩化ナトリウムを濃縮して前記次亜塩素酸ソーダ生成装置に供給する塩濃縮膜を備えることができる。これによって、湿式集塵機に戻す排水の一部を系外に放出するような場合でも、排水に含まれる塩化ナトリウムを有効利用することができる。
【0032】
また、本発明は、湿式集塵機排水処理方法であって、次亜塩素酸ソーダ及びオゾンを添加した燃焼排ガス中の水溶性成分及びダストを捕集する湿式集塵機から排出されたスラリーを固液分離し、分離された液体中の水銀を吸着するとともに、分離された液体中の微量溶解成分を分解し、前記水銀の吸着後、及び前記微量溶解成分の分解後の液体を前記湿式集塵機に戻すことを特徴とする。
【0033】
そして、本発明によれば、上述のように、燃焼排ガスに次亜塩素酸ソーダ及びオゾンを添加するため、燃焼排ガス中の水銀をオゾンによって効率よく除去し、次亜塩素酸ソーダの使用量を低減することができ、トリハロメタン類等の有害物質の生成を抑制し、オゾン触媒塔に加わる負荷を低減することができる。また、オゾンのみを使用した場合に、排ガス中のNOが酸化されてNO2となり臭気が増加することを防止することもできる。さらに、水銀吸着後、及び前記微量溶解成分の分解後の液体を湿式集塵機に戻すため、系外への排水を最小限に抑えることができる。
【0034】
前記湿式集塵機排水処理方法において、前記水銀の吸着後、及び前記微量溶解成分の分解後の液体の少なくとも一部を、該湿式集塵機の循環水に添加する次亜塩素酸ソーダの製造に利用することができる。排水には塩化ナトリウムが含まれるので、これを次亜塩素酸ソーダの生成に有効利用することができる。
【0035】
前記湿式集塵機排水処理方法において、前記水銀の吸着後、及び前記微量溶解成分の分解後の液体の少なくとも一部を系外に排水し、前記水銀の吸着後、及び前記微量溶解成分の分解後の液体から製造した塩化ナトリウムを、該湿式集塵機の循環水に添加する次亜塩素酸ソーダの製造に利用することができる。これによって、排水を系外に放出しながら、排水中の塩化ナトリウムを有効利用することができる。
【0036】
前記微量溶解成分の分解をオゾン触媒塔で行うことができる。特に、二酸化マンガンを触媒として用いることにより、NOx、ダイオキシン類(DXNs)やポリ塩化ビフェニール(PCB)等の残留性有機汚染物質(POPs)、揮発性有機化合物(VOC)、臭気物質等をN2、CO2、水等に分解することができる。
【0037】
また、前記湿式集塵機から排出され、該湿式集塵機に戻されることのない洗煙水又はスラリーに水酸化カルシウム又は酸化カルシウムを供給し、硫酸ミストを石膏に転換することができる。これにより、湿式集塵機の循環水と上記薬剤とが接触しなくなるため、循環水のpHが上昇するおそれがなく、循環水に添加される次亜塩素酸ソーダの機能(酸化力)を低下させることなく、硫酸ミストを石膏に転換することができる。
【発明の効果】
【0038】
以上のように、本発明によれば、燃焼排ガスを処理するにあたって、次亜塩素酸ソーダの使用量を大幅に低減し、トリハロメタン類等の生成を抑制し、オゾン触媒塔に加わる負荷も低減し、装置コスト及び運転コストを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
図1は、本発明にかかる燃焼排ガス処理装置の一実施の形態を示し、この燃焼排ガス処理装置1は、図示しないセメント焼成設備の後段に配設された電気集塵機等から排出された燃焼排ガスG中の水溶性成分及びダストを捕集する湿式集塵機2と、ミストセパレーター3と、循環液槽4と、ポンプ5と、循環液槽4から排出されたスラリーSに含まれるスラッジSL1を沈降除去するための沈降装置6と、沈降装置6から排出されたスラリーSを固液分離してスラッジSL2を排出するろ過フィルタ7と、ろ過フィルタ7から排出された液体中の水銀を吸着する水銀吸着塔8と、液体中の微量溶解成分を分解処理するオゾン触媒塔9と、オゾン触媒塔9に添加するオゾンを生成するオゾン生成装置10と、オゾン触媒塔9の排水Wを湿式集塵機2に戻す循環ルート11と、循環ルート11上に配置され、排水W中の塩を濃縮して電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置13に供給するための塩濃縮膜12と、湿式集塵機2へ導入される燃焼排ガスGに添加する次亜塩素酸ソーダを生成する電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置13と、湿式集塵機2へ導入される燃焼排ガスGに添加するオゾンを生成するオゾン生成装置14等で構成される。
【0040】
湿式集塵機2は、燃焼排ガスG中の水溶性成分及びダストを捕集するために備えられ、後段の図示しない触媒塔の寿命に大きな影響を与えるダスト、硫酸ミスト、塩化水素(HCl)、水銀(Hg)等を除去する。
【0041】
湿式集塵機2の下方には、循環液槽4が設けられ、さらに、循環液槽4内の集塵ダストスラリーの一部を湿式集塵機2に戻すためのポンプ5が配置される。また、循環液槽4の下流側には、ミストセパレーター3が配置される。
【0042】
沈降装置6は、湿式集塵機2の循環液槽4から排出されたスラリーSに含まれるスラッジSL1を沈降除去するために備えられる。また、ろ過フィルタ7は、沈降装置6から排出されたスラリーSを固液分離する。
【0043】
水銀吸着塔8は、沈降装置6及びろ過フィルタ7を経て導入された液体中の水銀を吸着する。
【0044】
オゾン触媒塔9には、オゾン生成装置10によって生成されたオゾンが添加され、二酸化マンガン触媒のもとで、NOx、ダイオキシン類(DXNs)やポリ塩化ビフェニール(PCB)等の残留性有機汚染物質(POPs)、揮発性有機化合物(VOC)、臭気物質等をN2、CO2、水等に分解除去する。
【0045】
循環ルート11は、オゾン触媒塔9からの排水Wを塩濃縮膜12を介して湿式集塵機2に戻すために備えられる。また、循環ルート11には、系外に排水Wを放出するルートを併設する。循環ルート11上には、塩濃縮膜12が設けられ、排水W中の塩化ナトリウム(NaCl)を濃縮して電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置13で利用することができる。また、この塩濃縮膜12によって、電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置13に影響を及ぼすスケール成分(Ca、Mg等)を排除することもできる。
【0046】
オゾン生成装置14は、燃焼排ガスGに含まれる水銀等を酸化するための酸化剤としてのオゾン(O3)を生成し、湿式集塵機2へ導入される燃焼排ガスGに添加するために備えられる。オゾン生成装置10によるオゾンの燃焼排ガスGへの添加量は、水銀濃度計15によって測定された燃焼排ガスG中の水銀濃度によって制御される。
【0047】
水銀濃度計15は、ミストセパレーター3から排出されたガス中の水銀濃度を測定し、この水銀濃度が高い場合には、オゾン生成装置10からのオゾンの添加量を増加させ、水銀濃度が低い場合には、オゾンの添加量を減少させる。
【0048】
電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置13は、燃焼排ガスGに含まれる水銀等を酸化するための酸化剤としての次亜塩素酸ソーダ(NaClO)を生成するために備えられる。この次亜塩素酸ソーダは、湿式集塵機2の循環スラリーに添加される。電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置13は、循環スラリーに含まれる硝酸性窒素等をN2に分解することもできる。尚、電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置13からの次亜塩素酸ソーダの添加量は、残塩濃度計16によって測定された塩素濃度によって制御される。
【0049】
残塩濃度計16は、水銀吸着塔から排出された洗煙水中の残留遊離塩素濃度を測定し、この塩素濃度が高い場合には、電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置13からの次亜塩素酸ソーダの添加量を減少させる。
【0050】
ミストセパレーター3の下流側には、触媒塔(不図示)が備えられ、この触媒塔は、NH3等を用いて燃焼排ガスG中のNOx及び残留性有機汚染物質を分解して除去するため、例えば、ハニカム状に構成される。
【0051】
次に、上記構成を有する燃焼排ガス処理装置1の動作について、図1を参照しながら説明する。尚、以下の説明においては、燃焼排ガス処理装置1によってセメントキルンの燃焼排ガスを処理する場合を例にとって説明する。
【0052】
図示しないセメントキルンからの燃焼排ガスGは、図示しない電気集塵機等にもたらされ、燃焼排ガスG中のダストが回収された後、湿式集塵機2に導入される。湿式集塵機2において、燃焼排ガスG中の水溶性成分及びダストを捕集し、後段の触媒塔の寿命に大きな影響を与えるダスト、水銀(Hg)等を除去する。
【0053】
湿式集塵機2で発生した洗煙水又はスラリーは、循環液槽4及びポンプ5を介して循環し、燃焼排ガスGと液体との接触が充分に行われ、電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置13及びオゾン生成装置14から各々供給された次亜塩素酸ソーダ及びオゾンによる水銀等の酸化、並びに水溶性成分及びダスト等の回収を効率よく行うことができる。
【0054】
ここで、水銀濃度計15は、図示しない触媒塔へ導かれる燃焼排ガスGの水銀濃度を測定し、オゾン生成装置14からのオゾン添加量を制御する。すなわち、測定された水銀濃度が高い場合には、オゾンの添加量を増加し、水銀濃度が低い場合には、オゾンの添加量を減少させるように制御する。これにより、次亜塩素酸ソーダの使用量を低減することができる。但し、オゾン添加量を増加させると、燃焼排ガスG中のNO濃度が高い場合には、NO2が増加して臭気を増加させることがあるため、この点を考慮してオゾン添加量を調整する必要がある。
【0055】
一方、硫酸ミストは、湿式集塵機2に導入されたダストに含まれるCaOによって石膏に転換することができるが、CaOの量が不足する場合には、循環液槽4から排出された洗煙水又はスラリーに水酸化カルシウム(Ca(OH)2)又は酸化カルシウム(CaO)を供給する。水溶性成分、ダスト等が除去された燃焼排ガスGは、ミストセパレーター3から図示しない触媒塔へ導かれ、NOx、残留性有機汚染物質が分解される。尚、循環液槽4から排出された洗煙水又はスラリーに水酸化カルシウム(Ca(OH)2)等を添加するのは、循環スラリーに添加される次亜塩素酸ソーダと、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)等との接触を避け、循環スラリーのpHの上昇を抑制し、次亜塩素酸ソーダの機能低下を招くことなく、硫酸ミストの石膏への転換を促進するためである。
【0056】
循環液槽4から排出されたスラリーSは、沈降装置6においてスラッジSL1が除去され、ろ過フィルタ7においてスラッジSL2が除去される。ろ過フィルタから排出された液体に含まれる水銀は、水銀吸着塔8で吸着され、さらに、オゾン触媒塔9において、液体中の微量溶解成分がN2、CO2、水等に分解処理される。
【0057】
ここで、残塩濃度計16によって、水銀吸着塔から排出された排水の塩素濃度を測定し、電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置13からの次亜塩素酸ソーダの添加量を制御する。すなわち、塩素濃度が高い場合には、次亜塩素酸ソーダの添加量を減少させることによって、次亜塩素酸ソーダの過剰添加による有害物質の副生を防止する。
【0058】
水銀、NOx等が除去されたオゾン触媒塔9からの排水Wは、循環ルート11を介して湿式集塵機2に戻される。排水Wは、次亜塩素酸ソーダを用いて水銀を酸化した際に発生した塩化ナトリウムを含む。そこで、排水Wを塩濃縮膜12に供給し、塩濃縮膜12で濃縮することにより、濃縮された塩化ナトリウムが得られるとともに、電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置13に影響を及ぼすスケール成分(Ca、Mg等)を排除することができる。この塩化ナトリウムを電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置13に供給し、次亜塩素酸ソーダの製造に利用することができる。これによって、薬剤費の低減、及び排水Wをセメントへ添加した場合のセメント中の塩素量の低減を図ることができる。尚、塩濃縮膜12からの排水Wは、湿式集塵機2に戻して湿式集塵に利用する。
【0059】
尚、塩濃縮膜12を設けずに、循環ルート11からの排水Wの一部を直接電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置13に導入することも可能である。さらに、循環ルート11からの排水Wの一部を系外に排出してもよい。
【0060】
また、上記実施の形態においては、湿式集塵機2から独立して電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置13を設けたが、循環液槽4に直接電極等を設け、湿式集塵機2と電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置13とを一体化することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明にかかる燃焼排ガス処理装置の一実施の形態を示すフローチャートである。
【図2】従来の燃焼排ガス処理装置の一例を示すフローチャートである。
【図3】従来の燃焼排ガス処理装置の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0062】
1 燃焼排ガス処理装置
2 湿式集塵機
3 ミストセパレーター
4 循環液槽
5 ポンプ
6 沈降装置
7 ろ過フィルタ
8 水銀吸着塔
9 オゾン触媒塔
10 オゾン生成装置
11 循環ルート
12 塩濃縮膜
13 電解式次亜塩素酸ソーダ生成装置
14 オゾン生成装置
15 水銀濃度計
16 残塩濃度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼排ガス中の水溶性成分及びダストを捕集する湿式集塵機と、
該湿式集塵機に導入される燃焼排ガスに添加するオゾンを生成するオゾン生成装置と、
前記湿式集塵機に導入される燃焼排ガスに添加する次亜塩素酸ソーダを生成する次亜塩素酸ソーダ生成装置と、
前記湿式集塵機を通過した燃焼排ガス中のNOx及び/又は残留性有機汚染物質を分解して除去する触媒塔と、
前記湿式集塵機から排出されたスラリーを固液分離する固液分離機と、
該固液分離機で分離された液体中の水銀を吸着する水銀吸着塔と、
前記固液分離機で分離された液体中の微量溶解成分を分解処理するオゾン触媒塔と、
前記水銀吸着塔及び/又はオゾン触媒塔からの排水を前記湿式集塵機に戻す循環ルートとを備えることを特徴とする燃焼排ガス処理装置。
【請求項2】
前記湿式集塵機を通過した燃焼排ガス中の水銀濃度を測定し、該水銀濃度に応じて前記湿式集塵機に導入される燃焼排ガスに添加するオゾンの量を調整することを特徴とする請求項1に記載の燃焼排ガス処理装置。
【請求項3】
前記水銀吸着塔から排出された洗煙水中の残留遊離塩素濃度を測定し、該塩素濃度に応じて前記湿式集塵機に導入される燃焼排ガスに添加する次亜塩素酸ソーダの量を調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の燃焼排ガス処理装置。
【請求項4】
前記循環ルートを介して前記湿式集塵機に戻される排水の少なくとも一部を前記次亜塩素酸ソーダ生成装置に導く給水ルートを備えることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の燃焼排ガス処理装置。
【請求項5】
前記循環ルートに設置され、該循環ルートを流れる排水から塩化ナトリウムを濃縮して前記次亜塩素酸ソーダ生成装置に供給する塩濃縮膜を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の燃焼排ガス処理装置。
【請求項6】
次亜塩素酸ソーダ及びオゾンを添加した燃焼排ガス中の水溶性成分及びダストを捕集する湿式集塵機から排出されたスラリーを固液分離し、
分離された液体中の水銀を吸着するとともに、分離された液体中の微量溶解成分を分解し、
前記水銀の吸着後、及び前記微量溶解成分の分解後の液体を前記湿式集塵機に戻すことを特徴とする湿式集塵機排水処理方法。
【請求項7】
前記水銀の吸着後、及び前記微量溶解成分の分解後の液体の少なくとも一部を、該湿式集塵機の循環水に添加する次亜塩素酸ソーダの製造に利用することを特徴とする請求項6に記載の湿式集塵機排水処理方法。
【請求項8】
前記水銀の吸着後、及び前記微量溶解成分の分解後の液体の少なくとも一部を系外に排水し、前記水銀の吸着後、及び前記微量溶解成分の分解後の液体から製造した塩化ナトリウムを、該湿式集塵機の循環水に添加する次亜塩素酸ソーダの製造に利用することを特徴とする請求項6又は7に記載の湿式集塵機排水処理方法。
【請求項9】
前記微量溶解成分の分解をオゾン触媒塔で行うことを特徴とする請求項6、7又は8に記載の湿式集塵機排水処理方法。
【請求項10】
前記湿式集塵機から排出され、該湿式集塵機に戻されることのない洗煙水又はスラリーに水酸化カルシウム又は酸化カルシウムを供給し、硫酸ミストを石膏に転換することを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の湿式集塵機排水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−132413(P2008−132413A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319526(P2006−319526)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】