説明

爪切り

【解決手段】上刃板1における刃部5の外側刃面7及び内側刃面8と下刃板2における刃部6の外側刃面7及び内側刃面8とのうち、それらの外側刃面7には刃付け時に研削処理による研削面10を設け、その研削処理後に刃部5,6を含む刃板1,2の全体に電解研磨処理または化学研磨処理を施した。
【効果】刃部5,6を鋭利化したり刃部5,6の表面粗さを小さくしたりして、刃部5,6の切れ味を向上させたり刃部5,6を含む刃板1,2の全体の美観を向上させたりすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は爪切りにおいてその刃部の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に記載の爪切りでは、基端部で互いに固着された上刃板及び下刃板の先端部付近に形成された支持孔に支軸が挿入されて上刃板上でその支軸の上端部に対し押圧操作てこがピンにより支持され、この押圧操作てこを上刃板上に倒した不使用状態から、この押圧操作てこを上刃板上から起こした状態で使用する。一般的に、この上刃板の先端部と下刃板の先端部とには研削処理により刃付けされた尖端縁を有する刃部が形成されることが多い。
【特許文献1】特開平6−253926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1では、研削処理により刃部を鋭利化して刃部の切れ味を向上させることができる。しかし、その刃部の切れ味や美観の向上には改善の余地がある。
この発明は爪切りにおいて刃部の切れ味や美観を向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
後記実施形態の図面(図1〜4)の符号を援用して本発明を説明する。
請求項1の発明にかかる爪切りにおいては、相対向する両刃部5,6の噛み合いによりその両刃部5,6間の爪を切断することができ、その両刃部5,6のうち少なくとも一方の刃部5,6に電解研磨処理または化学研磨処理を施した。請求項1の発明では、刃部5,6に対する電解研磨処理または化学研磨処理により、さらに刃部5,6を鋭利化したり刃部5,6の表面粗さを小さくしたりして、刃部5,6の切れ味や美観をより一層向上させることができる。
【0005】
請求項1の発明を前提とする請求項2の発明においては、前記両刃部5,6で噛み合い方向Zに対し直交する厚さ方向Xの両側に設けた刃面7,8間でその厚さ方向X及び噛み合い方向Zに対し直交する幅方向Yに沿って延びる尖端縁9を形成し、その両刃部5,6の両刃面7,8のうちいずれかの刃面7に研削処理を施して研削面10を設けるとともに、その各刃面7,8とこの尖端縁9とに電解研磨処理または化学研磨処理を施した。請求項2の発明では、電解研磨処理または化学研磨処理の前に行う研削処理により、尖端縁9の形成を容易に行うことができる。
【0006】
請求項1または請求項2の発明を前提とする請求項3の発明においては、両刃板1,2をその基端部1a,2aで互いに固着してその刃板1,2に弾性を持たせ、前記刃部5,6をこの両刃板1,2の先端部1b,2bに形成し、押圧操作てこ13に対する操作により、両刃板1,2をその弾性力に抗して互いに接近させて両刃部5,6を互いに噛み合わせるとともに、両刃板1,2の弾性力で両刃部5,6を互いに離間させるようにした。請求項3の発明では、このような構造の爪切りにおいて、刃部5,6に対する電解研磨処理または化学研磨処理により、刃部5,6の切れ味や美観を向上させることができる。
【0007】
請求項3の発明を前提とする請求項4の発明においては、前記電解研磨処理または化学研磨処理を両刃部5,6に対し同時に施した。請求項4の発明では、両刃部5,6に対する電解研磨処理または化学研磨処理を効率的に行うことができる。
【0008】
請求項4の発明を前提とする請求項5の発明においては、前記両刃板1,2の刃部5,6を互いに離した状態でその両刃部5,6に電解研磨処理または化学研磨処理を施した。請求項5の発明では、刃部5,6の尖端縁9が露出するので、尖端縁9に対する電解研磨または化学研磨の未処理部分をなくすことができる。
【0009】
次に、請求項以外の技術的思想について実施形態の図面の符号を援用して説明する。
請求項2から請求項5のうちいずれかの請求項の発明を前提とする第6の発明においては、刃部5,6の研削面10で生じる研削条痕の方向は尖端縁9の延設方向Yに沿う。第6の発明では、研削条痕による凹凸が尖端縁9でその延設方向Yへ生じない。
【0010】
請求項2から請求項5のうちいずれかの請求項の発明または第6の発明を前提とする第7の発明においては、前記研削処理を両刃部5,6の刃面7に対し同時に施した。第7の発明では、両刃部5,6の刃面7に対する研削処理を効率的に行うことができる。
【0011】
請求項3から請求項5のうちいずれかの請求項の発明、または第6の発明または第7の発明を前提とする第8の発明においては、前記刃部5,6を含む刃板1,2の全体に電解研磨処理または化学研磨処理を施した。第8の発明では、刃部5,6を含む刃板1,2の全体の美観を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、爪切りにおいて刃部5,6の切れ味や美観を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態にかかる爪切りについて図面を参照して説明する。
図1(a)に示す上刃板1と下刃板2とはプレス加工された金属板(例えばステンレス鋼)であって、そのプレス加工により、この上刃板1及び下刃板2の基端部1a,2aに引掛孔3が形成され、この上刃板1及び下刃板2の先端部1b,2bが折曲されるとともにそれらの先端部1b,2bの付近に支持孔4が形成される。そのプレス加工後に、この引掛孔3よりも先端側でそれらの基端部1a,2aが互いに点溶接されて固着される。
【0014】
図1(a)に示すように前記上刃板1の先端部1bと下刃板2の先端部2bとを互いに接触させた状態で、それらの先端部1b,2bの外側に対し研削ベルト(両送りローラ間に掛け渡したもの)を当てがって研削処理を同時に施すと、図1(b)に示すように、それらの先端部1b,2bに刃付けされた刃部5,6が同時に形成される。その研削処理後、図1(c)に示すように上刃板1と下刃板2とを互いに拡げると、それらの刃部5,6が互いに離れる。それらの刃部5,6においては、図1(c)(d)に示すように、上下両刃板1,2の折曲部分から先端側で、噛み合い方向Zに対し直交する厚さ方向Xの両側に外側の刃面7と内側の刃面8とが設けられるとともに、これらの刃面7,8間でその厚さ方向X及び噛み合い方向Zに対し直交する幅方向Yに沿って延びる尖端縁9が形成される。前記研削ベルトの回転方向は尖端縁9の延設方向(幅方向Y)に沿うため、外側の刃面7に形成された研削面10で生じる研削条痕の方向は尖端縁9の延設方向(幅方向Y)に沿う。
【0015】
前記研削処理後、図1(c)に示すように上刃板1の刃部5と下刃板2の刃部6とを互いに離した状態でこれらの刃部5,6を含む上刃板1及び下刃板2の全体に電解研磨処理を同時に施すと、図1(e)(f)に示すように特に外側の刃面7には前記研削面10に対し電解研磨処理を施した研磨面11が生じる。例えば、図1(c)に示す状態で複数組の上刃板1及び下刃板2をプラス電極に接続するとともに、電極板をマイナスに接続し、これらの上刃板1及び下刃板2の引掛孔3を引掛けた状態でこれらの上刃板1及び下刃板2の全体を液槽に入れてそれらを同時に一回の電解研磨で処理する。その際、リン酸と硫酸とを主成分とする混合液を利用し、リン酸:硫酸=95:5〜55:45(体積%)に設定することができ、硫酸の混合割合よりもリン酸の混合割合を大きくすることが好ましい。また、電圧を約200V、電流を約15A、研磨時間を約3分に設定して電解研磨処理を行ったが、電圧を100〜200V、電流を5〜30A、研磨時間を15秒〜5分に設定してもよい。この電解研磨処理条件に応じて前記混合液に対し添加剤を加えたり水や他の液体を加えたりしてもよい。この電解研磨処理後に、これらの上刃板1及び下刃板2を洗浄して乾燥する。
【0016】
図4に示す爪切りにおいては、図1(e)に示す上刃板1及び下刃板2の支持孔4に支軸12が挿入されて上刃板1上でその支軸12の上端部に対し押圧操作てこ13がピン14により支持されている。図4(a)(b)に示すようにこの押圧操作てこ13を上刃板1上に倒した不使用状態から、図4(c)に示すようにこの押圧操作てこ13を上刃板1上から起こした状態で使用する。
【0017】
本実施形態は下記の効果を有する。
* 図2(a)は、図1(c)(d)に示すように研削処理のみにより刃付けされた刃部5,6の尖端縁9を拡大した電子顕微鏡写真である。図2(b)は、図1(e)(f)に示すように研削処理による刃付け後に電解研磨処理を施した刃部5,6の尖端縁9を拡大した電子顕微鏡写真である。これらを単に目視して比較しただけでも、図2(a)の尖端縁9よりも図2(b)の尖端縁9が鋭利化されていることが明らかに分かる。
【0018】
* この電解研磨処理により、加工時に上刃板1及び下刃板2の全体に生じたバリ、特に尖端縁9のバリを除去することもできる。
* 図1(c)(d)に示すように研削処理のみにより刃付けされた刃部5,6の外側刃面7(研削面10)についての表面粗さと、図1(e)(f)に示すように研削処理による刃付け後に電解研磨処理を施した刃部5,6の外側刃面7(研磨面11)についての表面粗さとを比較する。それぞれの表面粗さを測定した結果、研削面10のRa(算術平均粗さ)が1.0μmであることに対し研磨面11のRa(算術平均粗さ)が0.5μmになり、研削面10のRy(最大高さ)が2.3μmであることに対し研磨面11のRy(最大高さ)が1.2μmになり、研削面10のRz(十点平均粗さ)が1.4μmであることに対し研磨面11のRz(十点平均粗さ)が0.6μmになった。従って、いずれの値も半分程度に低下し、研削面10よりも研磨面11が滑面になっていることが分かる。また、図1(c)(d)に示すように研削処理のみにより刃付けされた刃部5,6の内側刃面8(研削未処理面)についての表面粗さと、図1(e)(f)に示すように研削処理による刃付け後に電解研磨処理を施した刃部5,6の内側刃面8(研削未処理面に施した研磨面)についての表面粗さとを比較した場合も、内側刃面8(研削未処理面)よりも内側刃面8(研削未処理面に施した研磨面)が滑面になる。
【0019】
* 図3は、図1(c)(d)に示すように研削処理のみにより刃付けされた刃部5,6の切れ味と、図1(e)(f)に示すように研削処理による刃付け後に電解研磨処理を施した刃部5,6の切れ味とを比較したグラフであって、実際に爪を切断する際に刃部5,6に生じる荷重を時間経過とともに測定した。その結果、図1(c)(d)の刃部5,6による切断時の最大荷重が約1.96kgfになるとともに、図1(e)(f)の刃部5,6による切断時の最大荷重が約1.63kgfになり、その最大荷重については研削処理後に電解研磨処理を施した場合の方が研削処理のみを施した場合よりも約17%低下していることが分かる。従って、軽い力で爪を切ることができる。
【0020】
前記実施形態以外にも例えば下記のように構成してもよい。
・ 上下両刃板1,2の刃部5,6(上下両刃板1,2の折曲部分から先端側部分)のみを浸漬して電解研磨処理を行う。
【0021】
・ 電解研磨処理を上下両刃板1,2のうちいずれかの刃板のみに行う。
・ 電解研磨処理を上下両刃板1,2の刃部5,6のうちいずれかの刃部のみに行う。
・ 研削処理を上下両刃板1,2の刃部5,6の外側刃面7及び内側刃面8に行う。
【0022】
・ 研削処理を上下両刃板1,2の刃部5,6の内側刃面8のみに行う。
・ 研削処理を上下両刃板1,2の刃部5,6のうちいずれかの刃部の外側刃面及び内側刃面または外側刃面のみまたは内側刃面のみに行う。
【0023】
・ 電解研磨処理に代えて、化学研磨処理を行う。また、電解研磨処理や化学研磨処理の前処理または後処理としてショットブラストやバレル研磨やバフ研磨を行ってもよい。
・ ステンレス鋼に対する化学研磨処理では、過塩素酸若しくは縮合リン酸系の研磨液を用いる。その他の金属に対する化学研磨処理では、例えば塩酸や硝酸や硫酸を含んだ液または王水を研磨液として用いてもよい。
【0024】
・ 電解研磨処理及び化学研磨処理において液組成や混合比率や濃度や液温や攪拌の有無などの条件を変更することにより、上下両刃板1,2の全体が光を反射する反射面(光沢面)になるようにしたり、上下両刃板1,2の全体が光を反射しない非反射面(非光沢面)になるようにしたり、上下両刃板1,2の一部が反射面(光沢面)になるとともに上下両刃板1,2の他部が非反射面(非光沢面)になるようにすることもできる。
【0025】
・ 電解研磨処理及び化学研磨処理の際に行うマスキングにより、腐食による文字や記号や模様などを上下両刃板1,2に表示するようにしてもよい。
・ 前述した研削処理による刃付けを省略し、プレス加工のみにより上刃板1と下刃板2に刃部5,6を設けて図1(b)の状態にする。その後、電解研磨処理または化学研磨処理を行うことにより、刃部5,6の尖端縁9を仕上げる。
【0026】
・ 図1(e)に示す上刃板1において刃部5と基端部1aとの間の全長は約85mmであるが、1回の電解研磨処理で取り扱う爪切りの数や電解研磨条件を爪切りのサイズに応じて変更してもよい。
【0027】
・ 図示しないが、両刃板をX状に交差させた所謂ニッパ式の爪切りにおいて、前述した爪切りと同様に、電解研磨処理または化学研磨処理や研削処理を施してもよい。
・ 図示しないが、刃部5,6と基端部1a,2aとの間の中央部よりも刃部5,6側寄りで上下両刃板1,2を互いに点溶接する。
【0028】
・ 上刃板1及び下刃板2については、ステンレス鋼以外に、低炭素鋼を用いて浸炭処理したり、チタンを用いたりしてもよい。
・ 電解研磨処理後、上刃板1及び下刃板2にメッキやイオンプレーティングによる表面処理を施すと、それらの表面処理層の密着性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)は本実施形態にかかる爪切りにおいて刃部に研削処理を施す前の上下両刃板を示す側面図であり、(b)は同じく刃部に研削処理を施した上下両刃板を示す側面図であり、(c)は(b)の上下両刃板を互いに拡げた状態を示す側面図であり、(d)は(c)の刃部の刃面を示す部分拡大正面図であり、(e)は本実施形態にかかる爪切りにおいて研削処理後の刃部に電解研磨処理を施した上下両刃板を示す側面図であり、(f)は(e)の刃部の刃面を示す部分拡大正面図である。
【図2】(a)は図1(c)の刃部の尖端縁を示す電子顕微鏡写真であり、(b)は図1(e)の刃部の尖端縁を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】図1(c)の上下両刃板と図1(e)の上下両刃板の切断性能を比較して示すグラフである。
【図4】(a)は本実施形態にかかる爪切りにおいて押圧操作てこを刃板上に倒した不使用状態を示す側面図であり、(b)は同じく平面図であり、(c)は本実施形態にかかる爪切りにおいて押圧操作てこを刃板上から起こした使用状態を示す側面図である。
【符号の説明】
【0030】
1…上刃板、1a…上刃板の基端部、1b…上刃板の先端部、2…下刃板、2a…下刃板の基端部、2b…下刃板の先端部、5…上刃板の刃部、6…下刃板の刃部、7…刃部の外側刃面、8…刃部の内側刃面、9…刃部の尖端縁、10…刃面の研削面、11…刃面の研磨面、13…押圧操作てこ、X…刃部の厚さ方向、Y…刃部の幅方向、Z…刃部の噛み合い方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対向する両刃部の噛み合いによりその両刃部間の爪を切断することができる爪切りにおいて、その両刃部のうち少なくとも一方の刃部に電解研磨処理または化学研磨処理を施したことを特徴とする爪切り。
【請求項2】
前記両刃部で噛み合い方向に対し直交する厚さ方向の両側に設けた刃面間でその厚さ方向及び噛み合い方向に対し直交する幅方向に沿って延びる尖端縁を形成し、その両刃部の両刃面のうちいずれかの刃面に研削処理を施して研削面を設けるとともに、その各刃面とこの尖端縁とに電解研磨処理または化学研磨処理を施したことを特徴とする請求項1に記載の爪切り。
【請求項3】
両刃板をその基端部で互いに固着してその刃板に弾性を持たせ、前記刃部をこの両刃板の先端部に形成し、押圧操作てこに対する操作により、両刃板をその弾性力に抗して互いに接近させて両刃部を互いに噛み合わせるとともに、両刃板の弾性力で両刃部を互いに離間させるようにしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の爪切り。
【請求項4】
前記電解研磨処理または化学研磨処理を両刃部に対し同時に施したことを特徴とする請求項3に記載の爪切り。
【請求項5】
前記両刃板の刃部を互いに離した状態でその両刃部に電解研磨処理または化学研磨処理を施したことを特徴とする請求項4に記載の爪切り。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−28333(P2009−28333A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195939(P2007−195939)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000001454)株式会社貝印刃物開発センター (123)