説明

牽引治療装置

【課題】
頸椎と腰椎の牽引治療に用いられる牽引治療装置において、患者への頸椎装具の装着の有無を判断する頸椎装具装着検出手段を設け、頸椎装具装着の有無に応じて常に適切な牽引モードで牽引治療が行えるようにすることで、より安全に牽引治療が行えるようにした牽引治療装置を提供すること。
【解決手段】
患者の頸椎を牽引する頸椎牽引手段50を有する牽引治療装置1において、患者への頸椎装具36の装着の有無を検出する頸椎装具装着検出手段65を設け、前記頸椎装具装着検出手段65の検出結果に従い前記牽引治療装置1の牽引治療条件の設定、及び/又は牽引治療動作が制御されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頸椎と腰椎の牽引治療に用いられる牽引治療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すように、1台で頸椎と腰椎の治療を行うことができる牽引治療装置が知られている。
【0003】
しかしながら、上記特許文献1の牽引治療装置では、頸椎と腰椎の牽引のいずれを行うかの選択について安全機能が搭載されていないため、選択を誤って意図しない治療が行われる可能性があり、非常に危険である。
【0004】
特に、一般に腰椎牽引治療時の牽引力値に比べて小さい牽引力値を設定して牽引治療を行う頸椎牽引治療においては、誤って腰椎牽引治療動作が選択され過大な牽引力値が頸部に作用すると、頸部に過度の負担を及ぼしひいては頸部に損傷を与える可能性が高く、非常に危険であり、意図しない治療が行われないようにするための安全機能の搭載が切に望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−345882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたもので、頸椎と腰椎の牽引手段を有する牽引治療装置において、患者への頸椎装具の装着の有無を検出する頸椎装具装着検出手段を設け、頸椎装具装着の有無に応じて常に適切な牽引治療が行えるように制御することで、より安全性、操作性に優れた牽引治療装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、患者の頸部を牽引する頸椎牽引手段を有する牽引治療装置において、患者への頸椎装具の装着の有無を検出する頸椎装具装着検出手段を設け、前記頸椎装具装着検出手段の検出結果に従い前記牽引治療装置の牽引治療条件の設定、及び/又は牽引治療動作が制御されることを特徴とする牽引治療装置である。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の牽引治療装置において、前記頸椎装具装着検出手段が前記頸椎装具の装着を検出した場合は、牽引治療に係る牽引力値が所定の閾値以上に至ると牽引動作を停止し、及び/又は所定の閾値以上の牽引力値を治療条件として設定できないように制御されることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の牽引治療装置において、患者の腰部を牽引する腰椎牽引手段が設けられ、前記頸椎装具装着検出手段が前記頸椎装具の装着を検出しない場合は頸椎牽引モードでの牽引動作を行わず、及び/又は前記頸椎装具装着検出手段が前記頸椎装具の装着を検出した場合は腰椎牽引モードで牽引動作を行わないように制御されることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の牽引治療装置において、患者の腰部を牽引する腰椎牽引手段が設けられ、前記頸椎装具装着検出手段が前記頸椎装具の装着を検出した場合は自動的に頸椎牽引モードに設定し、前記頸椎装具の装着を検出しない場合には自動的に腰椎牽引モードに設定するように制御されることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4記載の牽引治療装置において、前記頸椎装具の装着操作に係る荷重の変動を検出する荷重変動検出手段を備え、前記荷重変動検出手段の検出値により前記頸椎装具の装着の有無を検出することを特徴とする
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項1乃至4記載の牽引治療装置において、前記頸椎装具の位置を検出する頸椎装具位置検出手段を備え、前記頸椎装具位置検出手段の検出値により頸椎装具の装着の有無を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、患者の頸部を牽引する頸椎牽引手段を有する牽引治療装置において、患者への頸椎装具の装着の有無を検出する頸椎装具装着検出手段を設け、前記頸椎装具装着検出手段の検出結果に従い前記牽引治療装置の牽引治療条件の設定、及び/又は牽引治療動作が制御される構成であるから、人為的な操作ミスにより患者が所望しない牽引治療が行われることなく常に適切な牽引治療が行われるようになり、患者の安全が確保されると共に操作者も安全確保に係るストレスから開放されるので、患者と操作者共に安心して牽引治療装置を使用することができる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の牽引治療装置において、前記頸椎装具装着検出手段が前記頸椎装具の装着を検出した場合は、牽引治療に係る牽引力値が所定の閾値以上に至ると牽引動作を停止し、及び/又は所定の閾値以上の牽引力値を治療条件として設定できないように制御される構成であるから、過大な牽引力値が頸部に作用し、頸部に過度の負担を及ぼしひいては頸部に損傷を与えるような危険性がなく、患者と操作者共に安心して牽引治療装置を使用することができる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、請求項1又は2記載の牽引治療装置において、患者の腰部を牽引する腰椎牽引手段が設けられ、前記頸椎装具装着検出手段が前記頸椎装具の装着を検出しない場合は頸椎牽引モードでの牽引動作を行わず、及び/又は前記頸椎装具装着検出手段が前記頸椎装具の装着を検出した場合は腰椎牽引モードで牽引動作を行わないように制御される構成であるから、人為的ミスにより腰椎の頸椎牽引治療を行う際に誤って頸椎牽引モードで治療を開始する、或いは頸椎の牽引治療を行う際に誤って腰椎牽引モードで治療を開始してしまい、患者に重篤な危害が生じたり装置が損傷してしまうようなことがなく安全である。特に、腰椎牽引治療時の牽引力値に比べて小さい牽引力値(例えば10〜20kg)を設定して牽引治療を行う頸椎牽引治療において、誤って腰椎牽引治療動作が選択され過大な牽引力値(例えば40kg)が頸部に作用し、頸部に過度の負担を及ぼしひいては頸部に損傷を与えるような危険がないので、患者と操作者共に安心して牽引治療装置を使用することができる。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、請求項1又は2記載の牽引治療装置において、患者の腰部を牽引する腰椎牽引手段が設けられ、前記頸椎装具装着検出手段が前記頸椎装具の装着を検出した場合は自動的に頸椎牽引モードに設定し、前記頸椎装具の装着を検出しない場合には自動的に腰椎牽引モードに設定するように制御される構成であるから、腰椎と頸椎の牽引治療の選択において人為的ミスの発生がなく、ひいては患者の安全が確保され、患者と操作者共に安心して牽引治療装置を使用することができる。
【0017】
請求項5記載の発明によれば、請求項1乃至4記載の牽引治療装置において、前記頸椎装具の装着操作に係る荷重の変動を検出する荷重変動検出手段を備え、前記荷重変動検出手段の検出値により前記頸椎装具の装着の有無を検出する構成であるから、頸椎装具を患者に装着するために、頸椎装具を牽引手段と接続し、移動させ、患者に装着するといった治療開始前の準備作業全般に係る荷重の変動を荷重変動検出手段で検出することにより確実に頸椎装具の装着の有無を検出できる。特に、荷重変動検出手段が頸椎牽引力検出手段も兼ね備えている場合には、頸椎装具の装着の有無と牽引治療時の牽引力の検出を一つの検出手段で行え、装置の構成が複雑化することなく、また価格が高騰することなく、安全性、操作性に優れた牽引治療装置を実現することができる。
【0018】
請求項6記載の発明によれば、請求項1乃至4記載の牽引治療装置において、前記頸椎装具の位置を検出する頸椎装具位置検出手段を備え、前記頸椎装具位置検出手段の検出値により頸椎装具の装着の有無を検出する構成であるから、頸椎装具の自重が極めて軽量である等の原因で荷重の変動による頸椎装具装着の検出が難しい場合であっても、前記頸椎装具の位置を検出することにより確実かつ簡便に頸椎装具装着の検出を行うことができ、安全性、操作性に優れた牽引治療装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る牽引治療装置1を前方から見た斜視図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係る牽引治療装置1の背部から見た斜視図である。
【図3】本発明の第一の実施形態に係る牽引治療装置1の巻取機構部43を示す斜視図である。
【図4】本発明の第一の実施形態に係る牽引治療装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第一の実施形態に係る制御例を示すフローチャート図である。
【図6】本発明の第一の実施形態に係る制御例を示すフローチャート図である。
【図7】本発明の第二の実施形態に係る牽引治療装置1の巻取機構部43を示す斜視図である。
【図8】本発明の第二の実施形態に係る牽引治療装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の第二の実施形態に係る制御例を示すフローチャート図である
【図10】本発明の第二の実施形態に係る制御例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1乃至6に第一の実施形態を示す。牽引治療装置1は、床面にアジャスター23を介して載置される基台部21と、基台部21により傾動可能に支持され患者が着座する椅子部3等を主たる構成要素とする椅子型牽引治療装置であり、起立状態の椅子部3に患者を移乗させ、椅子部3を倒伏状態にした後に腰椎又は頸椎の牽引治療を行うものである。
【0021】
図1及び図2に示すように、椅子部3は、患者の下体部を支持する下体シート部4と、患者の上体を支持する背もたれシート部10とを有し、基台部21に支軸24にて軸着され、椅子部傾動手段19としての電動アクチュエータ2の伸縮動作に伴って椅子部3の傾動動作が行われる。
【0022】
電動アクチュエータ2のシリンダ部2aは底面部が基台部21の底板(図示省略)上に軸着されており、ロッド部2b先端は牽引フレーム22に枢着されている。図2において伸長状態のロッド部2bを収縮動作させると椅子部3全体が倒伏する方向(後方向)へ傾動動作する。
【0023】
図2に示すように、椅子部3の背面側には、下体シート部4、背もたれシート部10及び脇装具32等の構成部材をスライド可能に支持する牽引フレーム22が設けられる。この牽引フレーム22の内側には、端面が略C字形状に形成される左右一対の背もたれシートレール11及び脇装具レール34が配設され、更に、牽引フレーム22の下部には、左右一対の座部レール7が牽引フレーム22に対して所定角度をなして配設される。
【0024】
図1に示すように、下体シート部4は、患者の腰部から下肢に及ぶ下半身を支持する座部5と、下肢受け部6と、患者の腰部の裏側から左右側にかけての部位をサポートするよう略U字形状の腰部サポート部材52と、帯状部材29aで形成され患者の腰部に取着する腰装具29を有する。更に、図2に示すように、下体シート部4は、座部支持部材8により支持され、座部支持部材8が牽引フレーム22の下方に設けられた左右一対の座部レール7に沿って移動可能に設けられる。座部支持部材8には、座部レール7内を摺動する座部ローラ9が複数配設されている。
【0025】
図2に示すように、背もたれシート部10を支持する背もたれシート支持部材12側面には背もたれシートローラ13が複数配設され、この背もたれシートローラ13は端面が略C字形状の背もたれシートレール11内に嵌合しており、これにより背もたれシート部10が背もたれシートレール11に移動可能に構成されている。
【0026】
牽引フレーム22の上端中央部には、頸椎牽引治療を行うに際し患者の頭部に装着する頸椎装具36を支持する頸椎装具支持部37が設けられ、頸椎装具支持部37は、頸椎アーム38、滑車40・40、索体42、巻取機構部43、頸椎牽引力検出手段51としての頸椎用ロードセル55等で構成される。頸椎用ロードセル55は頸椎牽引治療時に頸椎装具36を介して患者の頸椎に加わる牽引力値を検出する他、頸椎装具装着検出手段65(即ち荷重変動検出手段70)として頸椎牽引治療を開始する前に検出値の変動を検出することにより、患者の頭部への頸椎装具の装着の有無を検出するものである。
【0027】
頸椎アーム38は、背もたれシート部10後方から患者の頭上前方付近にわたって延在するように基部が牽引フレーム22の中央上端に固設されている。頸椎アーム38には、ベルト状の索体42の繰り出し及び巻取りをガイドする滑車40・40が頸椎アーム38の前後端部に各々配設されるとともに、頸椎アーム38の背面位置には索体42を巻き取る巻取機構部43が頸椎用ロードセル55を介して牽引フレーム22に固定されている。尚、頸椎アーム38は、調節ノブ20の操作によって頸椎アーム38の長さを調整することが可能である。
【0028】
索体42の一端は巻取機構部43の巻取ドラム44に止着され、他端には頸椎牽引用ハンガー41が吊り下げ可能に構成される。図1に示すように、頸椎牽引用ハンガー41には、患者の頭部に装着する頸椎装具36が引っ掛けられる。
【0029】
図3に示すように、巻取機構部43は、巻取ドラム44が巻取ドラム軸48で軸着され、巻取ドラム軸48の一端には、索体42を常時巻き取る方向に巻取ドラム44を付勢するぜんまいバネ45が設けられ、他端には頸椎牽引治療中に巻取ドラム44の回動を固定する巻取固定機構46(具体的には電磁ブレーキ47)が設けられている。腰椎牽引を行うことが選択されている際、又は頸椎牽引動作中は、基本的に巻取固定機構46により巻取ドラム44の回動は不能になっているが、頸椎牽引治療を開始する前に、使用者により意図的に頸椎牽引を行う設定がなされるか、或いは、頸椎装具36を患者に装着するために索体42が一定以上の力で引っ張られて頸椎牽引力検出手段51がこれを検知し、自動的に頸椎牽引を行うことが設定された場合には、巻取固定機構46による固定機能が解除され索体42の繰り出し及び巻取りが可能な状態となる。
【0030】
図1及び図2に示すように、下体シート部4の裏側位置には、下体シート部4を座部レール7に沿って往復移動可能にする腰椎牽引手段27としての電動アクチュエータ17や腰椎牽引力検出手段28としての腰椎用ロードセル30等の構成部材が設けられている。
【0031】
牽引フレーム22には電動アクチュエータ17の推力値を検出する腰椎用ロードセル30の一端が固着され、腰椎用ロードセル30の他端には電動アクチュエータ17のシリンダ部17aの底部が軸着される。電動アクチュエータ17のロッド部17bは、座部レール7の延在方向と略平行状に前後方向に延在し、先端部が座部支持部材8に軸着されている。従って、ロッド部17bを伸縮させると、座部ローラ9が座部レール7内周に沿って転動し、座部5が滑らかに往復移動する。
【0032】
また、電動アクチュエータ17は、患者の頭部に頸椎装具36を装着し、巻取固定機構46を機能させて巻取ドラム44の回動を不能にし、患者の腰部を腰装具29で下体シート部4に固定した状態で、下体シート部4を腰装具29と頸椎装具36が離間する方向に移動させることで頸椎牽引治療を行う頸椎牽引手段50としての機能も兼ね備えている。
【0033】
腰椎用ロードセル30は、腰装具29を患者の腰部に装着するとともに脇装具32を脇下に挟み込んだ状態で、下体シート部4を背もたれシート部10から離間する方向へ移動させた際に、腰装具29を介して患者の腰部に作用する腰椎牽引力を検出するものである。また、腰椎用ロードセル30は椅子部3に着座した患者の体重値を検出し、さらには、脇装具32を脇下に当接する位置まで上昇させ、脇装具32で患者の脇下を支持した際に、体重値の変化量を脇装具32に加わる押圧力として検出する。
【0034】
背もたれシート部10の裏面には、腰椎牽引治療の際に用いる脇装具位置制御装置60が設けられ、脇装具位置制御装置60は、左右一対の脇アーム33と、脇アーム33を回動させる脇アーム駆動部61としての電動アクチュエータ59と、脇アーム33の回動をガイド及び制限するガイド部62とで構成される。脇アーム33の先部に患者の脇に当接し脇部位を支持する脇装具32が取着される。脇アーム33の基部は脇アーム支持部材35に軸着される。また、脇アーム33には、ピン64が背もたれシート部10方向に向かって突設され、このピン64は脇アーム支持部材35に穿設される長穴16に挿通されている。
【0035】
図2に示すように、牽引フレーム22には脇アーム33に向かって延在するガイド部62が設けられている。このガイド部62には付勢部材14が設けられ、脇装具32を患者の脇腹の近傍で適宜範囲(具体的には左右脇装具32の間のスペースが350mm前後の位置)に遊動させ、患者が移乗直後に自分の意志や感覚で最適な位置に脇装具32を脇に引き寄せて装着できるように脇アーム33を弾力支持している。
【0036】
脇アーム支持部材35は背もたれシート部10の裏面の位置にあって、脇アーム支持部材35の側面には複数の転動ローラ18が回転可能に設けられており、脇アーム支持部材35は脇装具レール34に沿って移動可能とされている。
【0037】
電動アクチュエータ59のロッド部59b先端は脇アーム支持部材35に軸着され、シリンダ部59aは牽引フレーム22に軸着されている。ロッド部59bを伸縮動作させると、脇アーム33が脇装具レール34に沿って移動するとともに背もたれシート部10の面方向に回動する。
【0038】
牽引治療装置1には、図2に示すように牽引フレーム22右側面の上方位置から右方向へ突出した支持アーム31に対して角度調節自在に支持される操作パネル部26が設けられている。図4に示すように、操作パネル部26には、腰椎牽引モードと頸椎牽引モードのいずれか一方を選択するモード選択手段57としての牽引モード切替設定部39、頸椎牽引力値及び腰椎牽引力値を直接入力し設定する牽引力設定部49、牽引治療時間を設定する治療時間設定部56が設けられている。尚、牽引モード切替設定部39は、使用者の操作により牽引モードを設定することもできるが、頸椎装具装着検出手段65により頸椎装具が装着されていることを検出した場合には、自動的に頸椎牽引モードに設定される。また、牽引力設定部49には、一般的に頸椎牽引力値としては3〜25kg範囲の値が、腰椎牽引力値としては5〜60kg範囲の値が患者の体重や症状に応じて適宜入力設定されるが、頸椎牽引モードが選択されている際、或いは頸椎装具装着検出手段65により頸椎装具が装着されていることを検出している際には、25kg以上の牽引力値を入力することができないようになっている。また、図示及び詳細な説明は省略するが、牽引の持続時間を設定する持続時間設定部、牽引の休止時間を設定する休止時間設定部、牽引治療開始・停止スイッチ等の各種スイッチも操作パネル部26に設けられる。
【0039】
牽引治療装置1の制御部25は、牽引力設定部49にて入力設定された頸椎牽引力値及び腰椎牽引力値をそれぞれ記憶する頸椎牽引力記憶部53及び腰腰椎牽引力記憶部54を有しており、各記憶部に記憶された牽引力値と、腰椎用ロードセル30や頸椎用ロードセル55にて検出された値と逐次比較し、電動アクチュエータ17(腰椎牽引手段27・頸椎牽引手段50)、電動アクチュエータ59(脇アーム駆動部61)等の動作を制御する。
更に、制御部25は、頸椎用ロードセル55にて検出された値が頸椎牽引力記憶部53に記憶されている所定の閾値を超過すると頸椎装具を装着したと判断する頸椎装具装着判断部68を有しており、頸椎装具36の装着の有無に応じて、牽引治療条件の設定、牽引治療動作を制御する。
【0040】
また、制御部25には、施療者等が所望する牽引モードと異なるモードで牽引動作が開始されていないかどうかを検出する機能が備えられている。具体的には、頸椎牽引モードで牽引治療を行うべきところを腰椎牽引モードで、或いは、腰椎牽引モードで牽引治療を行うべきところを頸椎牽引モードで牽引治療が開始されてしまうという場合である。
【0041】
そこで、制御部25の比較判断部58にて、腰椎牽引動作が行われている際に、頸椎用ロードセル55にて検出される検出値を頸椎牽引力値として常時監視し、この頸椎牽引力値が設定閾値(例えば、3kg)に至ったことを比較判断部58が認識すると、頸椎牽引モードで牽引治療を行うべきところを腰椎牽引モードで牽引治療動作が開始されたと判断し、腰椎牽引動作を停止する。腰椎牽引動作が行われる際は、患者の頭部には頸椎装具36が装着されないため、頸椎用ロードセル55にて頸椎牽引力値は検出されることはないからである。
【0042】
また、比較判断部58は、頸椎牽引動作が行われている際に、腰椎用ロードセル30にて検出される検出値を腰椎牽引力値として常時監視しており、この腰椎牽引力値から頸椎用ロードセル55にて検出した頸椎牽引力値を減算した値が設定閾値(例えば、30kg)に至ったことを比較判断部58が認識すると、腰椎牽引モードで牽引治療を行うべきところを頸椎牽引モードで牽引治療が開始されたと判断し、頸椎牽引動作を停止する。脇装具32を脇下に挟み込んだ状態で頸椎牽引を開始すると、頸椎用ロードセル55にて頸椎牽引力値が検出される前(頸椎に牽引力がかかる前)に、患者の脇下が脇装具32によって支持され、この支持状態において電動アクチュエータ17のロッド部17bが伸長し続けることになり腰椎に過度の牽引力がかかり非常に危険な事態が想定されるので、これを防止するためである。
【0043】
上述した意図しない牽引モードでの牽引動作を検出した場合には、牽引動作を停止すると同時に、牽引治療装置1の内部に設けた不図示のスピーカーやブザー等により報知音を鳴動させて施療者等に牽引モードが適切に選択されていない旨を報知する。尚、図1中、63は座部5に取付けられる座部カバー、15は牽引フレーム22に固着された肘置き具である。
【0044】
以下、牽引治療装置1の動作について説明する。最初に患者の頸椎を牽引治療する際の動作を説明する。医師等の施療者は、操作パネル部26の牽引モード切替設定部39を操作し頸椎牽引モードを選択した後、牽引力設定部49にて頸椎牽引力値を、治療時間設定部56にて治療時間を入力設定する。頸椎牽引モードが選択されると、脇装具32が初期位置にある状態で脇アーム駆動部61の電動アクチュエータ59の作動が固定され脇装具32が患者の所望する位置に装着できないようにして、脇装具32を使用できないようにする。
【0045】
患者の腰部に腰装具29を巻き回し先端部同士を重ね合わせ結合し、患者を下体シート部4へ固定保持する。索体42の先端に頸椎ハンガー41を引掛け、この頸椎ハンガー41に頸椎装具36を吊り下げる。この時、巻取固定機構46が作用しており巻取ドラム44の回動は不能とされているが、頸椎装具36を患者に装着するために索体42を一定以上の力で引っ張り頸椎牽引力検出手段51がこれを検知すると、制御部25は牽引モード自動判定を開始する(図5のS1)。牽引モード自動判定が開始されると、制御部25に頸椎用ロードセル55の検出値が入力され(S2)、制御部25に設けられた頸椎装具装着判断部68はこの検出値が設定閾値を超過するか否かを監視する(S3)。検出値が設定閾値を超過すると頸椎装具装着と判断し(S4)、牽引モード設定の適否を判断する(S5)。頸椎牽引モードに設定されている場合は、牽引モード自動判定を終了し(S8)治療開始(S9)段階に移行するが、人為的操作ミス等により牽引モード切替設定部39の設定が適切でない場合には自動的に頸椎牽引モードに設定する(S6)。
【0046】
自動的に頸椎牽引モードに設定された場合には、制御部25は、自動的に牽引モード設定を変更した旨と、牽引力値を確認し再入力する旨をアナウンスや不図示の表示手段(例えば警告灯、牽引力値表示の点滅、液晶パネルへのアナウンス表示など)により施療者や患者に報知した後、牽引力値等の治療条件の再設定操作(S7)が行われるまで牽引治療開始の操作を受付けないように制御するとともに、牽引力設定部49には25kg以上の牽引力値を入力することができないように制御される。治療条件の再設定操作(S7)が行われると、牽引モード自動判定を終了し(S8)、治療開始(S9)段階に移行する。
【0047】
牽引モード自動判定を終了すると、巻取固定機構46の固定が解除され索体42は繰り出し可能な状態となった後に索体42を引き出し、頸椎装具36を患者の頭部に装着する。背もたれシート部10の面と索体42の延在面とのなす仰角が略30°になるように調節ノブ20を操作し頸椎アーム38の長さを適宜調整する。尚、巻取ドラム44は後述する椅子部3の倒伏方向へのリクライニング動作が完了するまでは回動可能な状態に維持されている。
【0048】
施療者は頸椎牽引治療の準備が完了したら、安全を確認した後、不図示の牽引治療開始スイッチを操作して(図6のS13)牽引治療を開始する。制御部25は、牽引モードの設定状況を判断し(S14)、頸椎牽引モードに設定されている場合は巻取固定機構46を作動させて巻取機構部43の回動を固定する(S15)。その後、制御部25は、頸椎装具装着判断部68で頸椎用ロードセル55の検出値(S16)が設定閾値を超過するか否かを監視(S17)し、適切なモードで牽引治療が開始された場合は牽引治療動作を開始し(S18)、不適切なモードで牽引治療が開始された場合は牽引治療動作を停止する(S21)。
【0049】
牽引治療動作が開始されると、椅子部3のリクライニング動作に先立って、まず電動アクチュエータ17が収縮動作し下体シート部4が移乗位置から牽引開始位置まで移動し、その後、電動アクチュエータ2のロッド部2bが収縮動作し椅子部3全体が倒伏する。椅子部3が所定倒伏位置に至ると、リクライニング動作が停止する。
【0050】
所定倒伏位置にてリクライニング動作が停止すると、電磁ブレーキ47が機能し自動的に巻取ドラム44の回動が固定され索体42の繰り出し及び巻き取りが不能となる。続いて、制御部25が、電動アクチュエータ17のロッド部17bを伸長動作させ、座部レール7に沿って下体シート部4を背もたれシート部10と離間する方向へ移動させることにより頸椎装具36を介して患者の頸部に牽引力を作用させる。
【0051】
このとき、頸椎用ロードセル55の検出する頸椎牽引力値と腰椎用ロードセル30の検出する腰椎牽引力値は制御部25に入力され、制御部25は比較判断部58において、腰椎牽引力値から頸椎牽引力値を減算した値が設定閾値(例えば30kg)を超過するか否かを監視している。頸椎装具36が患者の頭部に装着され、頸椎牽引モードによる頸椎の牽引治療動作が行われている場合は、腰椎牽引力値から頸椎牽引力値を減算した値は設定閾値を超過することはないので、比較判断部58は頸椎牽引モードが適切に選択され頸椎牽引動作が適正に行われていると判断し、頸椎牽引動作を継続する。
【0052】
制御部25は、頸椎用ロードセル55の検出する頸椎牽引力値と牽引力設定部49にて入力設定された設定頸椎牽引力値とを逐次比較し、頸椎用ロードセル55の検出する頸椎牽引力値が設定頸椎牽引力値に合致するよう電動アクチュエータ17のロッド部17bの伸長動作に係る制御を行い、頸椎牽引力値が設定頸椎牽引力値に合致すると、ロッド部17bの伸長動作を停止する。
【0053】
また、不図示の持続時間設定部にて設定された持続時間が終了すると、牽引開始位置から牽引位置までの下体シート部4の移動量の略1/2の移動量だけロッド部17bを収縮動作させて下体シート部4を復帰移動させ、この位置にて牽引の休止動作(=弛緩動作)を行う。頸椎牽引治療は、治療時間設定部56により設定された治療時間が経過するまでこの牽引動作と休止動作を繰り返し行う。尚、初回の弛緩動作時には下体シート部4を牽引開始位置まで復帰移動させるとともに電磁ブレーキ47の機能を解除し、ぜんまいバネ45で索体42を巻取ドラムに巻き取ることで索体42の橈みを取り除くようになっている。
【0054】
治療時間が経過し、治療終了時間が到来したことを制御部25が認識すると、ロッド部17bの収縮動作の制御を行い、下体シート部4を牽引開始位置まで復帰移動させるとともに、電子ブレーキ47の機能を解除し巻取ドラム44の回動を許容した後、椅子部3を起立方向へリクライニング動作させて頸椎牽引動作を終了する。
【0055】
万が一、頸椎牽引力値が設定閾値を超過した場合は、装置の異常等が原因で頸椎牽引モードにて牽引動作を行うところを誤って腰椎牽引モードが選択された状態で牽引治療動作が開始された、即ち、頸椎装具36を装着して腰椎牽引モードで牽引治療を開始したと比較判断部58が判断し、制御部25は腰椎牽引モードが誤って選択されている旨を施療者や患者に音声でアナウンスした後、電動アクチュエータ17の動作を停止して腰椎牽引動作を停止する。腰椎牽引動作の停止後、上述したように椅子部3を起立方向へリクライニング動作させて腰椎牽引を終了する。
【0056】
次に、患者の腰椎を牽引治療する際の動作について説明する。操作パネル部26の牽引モード切替設定部39は、索体42が引き出される操作が行われない限り常時腰椎牽引モードが選択された状態になっており、施療者は、操作パネル部26の牽引モード切替設定部39が腰椎牽引モードになっていることを確認した後、牽引力設定部49にて腰椎牽引力値を、治療時間設定部56にて治療時間を入力設定する。設定が終わった後、患者を椅子部3に移乗させる。この時、脇アーム33はガイド部62に設けられた付勢部材14により弾性支持されており、脇装具32は移乗待機位置において所定範囲に遊動可能な状態にあるので、患者は座部5に着座した後、必要に応じ脇装具32を脇腹の近くに(=体幹と両腕の間に)位置させることができる。尚、前の牽引治療終了後に自動的に腰椎牽引モードに切り替えが行われない構成の装置であっても、制御部25は、操作パネル部26の牽引力設定部49等の各種治療条件設定操作がなされたり、不図示の体重検出手段により患者が牽引装置に着座したことを検知するなど、腰椎牽引治療の準備操作状況を検知することにより牽引モード自動判定を開始し(図5のS1)、制御部25に頸椎用ロードセル55の検出値が入力され(S2)、制御部25に設けられた頸椎装具装着判断部68がこの検出値が設定閾値を超過するか否かを監視し(S3)、検出値が設定閾値以下であれば頸椎装具未装着と判断し(S10)、牽引モード設定の適否を判断する(S11)。腰椎牽引モードに設定されている場合は牽引モード自動判定を終了し(S8)、治療開始(S9)段階に移行するが、人為的操作ミス等により牽引モード切替設定部39の設定が適切でない場合には自動的に腰椎牽引モードに設定する(S12)。
【0057】
自動的に腰椎牽引モードに設定された場合には、制御部25は、自動的に牽引モード設定を変更した旨と、牽引力値を確認し再入力する旨をアナウンスや不図示の表示手段(例えば警告灯、牽引力値表示の点滅、液晶パネルへのアナウンス表示など)により施療者や患者に報知した後、牽引力値等の治療条件の再設定操作(S7)が行われるまで牽引治療開始の操作を受付けないように制御する。治療条件の再設定操作(S7)が行われると、牽引モード自動判定を終了し(S8)、治療開始(S9)段階に移行する。
【0058】
患者の腰部に腰装具29を巻き付け、下体シート部4に固定した後、不図示の牽引治療開始スイッチを操作して(図6のS13)牽引治療を開始する。制御部25は、牽引治療開始の操作がなされた後も頸椎装具装着判断部68で頸椎用ロードセル55の検出値(S19)が設定閾値を超過するか否かを監視(S20)し、適切なモードで牽引治療が開始された場合は牽引治療動作を開始し(S18)、不適切なモードで牽引治療が開始された場合は牽引治療動作を停止する(S21)。
【0059】
牽引治療動作が開始されると、頸椎牽引治療の動作と同様に、電動アクチュエータ2のロッド部2bを収縮動作させて椅子部3を倒伏方向へリクライング動作させる。制御部25は、腰椎牽引治療の開始直前に、電動アクチュエータ59のロッド部59b(脇アーム駆動部61)を収縮制御することにより、患者の脇下に脇装具32が軽く当接するように脇装具32を上昇移動させる。例えば、腰椎用ロードセル30の検出値が所定値(2kg程度)減少するとロッド部59bの収縮作動を停止し、脇装具32のセッティングを完了する。
【0060】
電動アクチュエータ17のロッド部17bを伸長動作させ、座部レール7に沿って下体シート部4を背もたれシート部10と離間する方向へ移動させることにより腰装具29を介して患者の腰部に牽引力を作用させる。
このとき、頸椎用ロードセル55の検出する頸椎牽引力値と腰椎用ロードセル30の検出する腰椎牽引力値は制御部25に入力され、制御部25は比較判断部58において、頸椎牽引力値が設定閾値(例えば3kg)を超過するか否かを監視する。腰椎牽引モードが適正に選択され腰椎牽引治療が行われている際は、頸椎装具36が患者の頭部に装着されないため、頸椎用ロードセル55において頸椎牽引力値は検出されず、従って、頸椎牽引力値が設定閾値を超過することはない。このとき、比較判断部58は腰椎牽引モードが適切に選択され腰椎牽引動作が適正に行われていると判断し、腰椎牽引動作を継続する。
【0061】
制御部25は、腰椎用ロードセル30の検出する腰椎牽引力値と牽引力設定部49にて入力設定された腰椎牽引力値とを逐次比較し、腰椎用ロードセル30の検出する腰椎牽引力値が設定腰椎牽引力値に合致するよう電動アクチュエータ17のロッド部17bの伸長動作に係る制御を行い、腰椎牽引力値が設定腰椎牽引力値に合致すると、ロッド部17bの伸長動作を停止する。治療時間設定部56により設定された治療時間が経過するまで、腰椎牽引動作と休止動作を繰り返し行い、治療終了時間が到来したことを制御部25が認識すると、ロッド部17bの収縮動作の制御を行い、下体シート部4を牽引開始位置まで復帰移動させ、続いて、電動アクチュエータ59のロッド部59bを伸長動作させて脇アーム33を下方移動させ、脇装具32を初期位置へ戻す。その後、椅子部3を起立方向へリクライニング動作させて腰椎牽引動作を終了する。
【0062】
万が一、腰椎牽引力値から頸椎牽引力値を減算した値が設定閾値を超過した場合は、装置の異常等が原因で腰椎牽引モードにて牽引動作を行うところを誤って頸椎牽引モードが選択されて牽引動作を開始した、即ち、脇装具32を脇下に挟み込んで頸椎牽引モードで牽引治療を開始したと比較判断部58が判断し、制御部25は頸椎牽引モードが誤って選択されている旨を施療者や患者に音声でアナウンスした後、電動アクチュエータ17の動作を停止して頸椎牽引動作を停止する。頸椎牽引動作の停止後、上述したように椅子部3を起立方向へリクライニング動作させて頸椎牽引を終了する。
【0063】
次に、図7乃至図10を用いて第二の実施形態を説明する。第一の実施形態では、頸椎牽引力検出手段51の検出値の変動により頸椎装具装着の検出を行う構成であったが、第二の実施形態は、この構成を採用せずに、頸椎装具位置検出手段66の検出値の変動により頸椎装具装着の検出を行う構成としたものである。特に、第二の実施形態は、頸椎牽引力検出手段51の検出値の変動により頸椎装具装着の検出を行うことが困難である場合であっても確実に頸椎装具装着の検出を行うことができる。
【0064】
図7に示すように、巻取機構部43には、頸椎装具位置検出手段66として、巻取ドラム44の回転数または回転角度、及び回転方向を検出する回転量検出手段67が巻取ドラム軸48と連動して回動するように設けられる。回転量検出手段67は、頸椎装具36が使用されず、頸椎アーム38の先端まで引き上げられている状態を初期位置と認識し、頸椎装具36を患者の頭部に装着するために索体が引き出されることにより巻取ドラム44が回動すると、その回転数または回転角度、及び回転方向の変動を検出するようになっている。
【0065】
尚、頸椎装具位置検出手段66は、回転量検出手段67に限定されることなく、例えば、図示は省略するが、頸椎アーム38の先端に頸椎装具36が初期位置にあることを認識するセンサーやスイッチ類を設ける、或いは索体42や巻取ドラム44等、頸椎装具36の装着操作に伴って位置が変動するものに設けられたマーカー等の移動や変位量を検出するセンサーを設けるなど、頸椎装具36が初期位置にあるかないか、或いは頸椎装具36を患者の頭部に装着するために必要な位置まで索体が引き出されたことを検出することにより頸椎装具の装着の有無を検出するように構成してもよい。また、回転量検出手段67は、光、磁気等を利用して回転数、角速度等のパラメータにより巻取ドラムの回転量を検出するものであり、センサーの種類や構成を限定するものではない。
【0066】
第二の実施形態においては、図8に示す通り、制御部25には頸椎装具位置記憶部69が設けられ、頸椎装具装着判断部68で回転量検出手段67の検出値と頸椎装具位置記憶部69に記憶されている閾値とを比較し、回転量検出手段67の検出値が閾値を超過すると頸椎装具36が装着されたと判断し、頸椎装具36の装着の有無に応じて、牽引治療条件の設定、牽引治療動作を制御する。
【0067】
頸椎牽引治療を行う際には、第一の実施形態と同様、頸椎牽引治療を行う準備として、頸椎装具36を患者に装着するために索体42を一定以上引き出されたことを回転量検出手段67が検知すると、制御部25は牽引モード自動判定を開始する(図9のS1)。牽引モード自動判定が開始されると、制御部25に頸椎装具の位置として回転量検出手段67の検出値が入力され(S22)、制御部25に設けられた頸椎装具装着判断部68はこの検出値が設定閾値を超過するか否かを監視する(S23)。検出値が設定閾値を超過すると頸椎装具装着と判断し(S4)、牽引モード設定の適否を判断する(S5)。頸椎牽引モードに設定されている場合は、牽引モード自動判定を終了し(S8)治療開始(S9)段階に移行するが、人為的操作ミス等により牽引モード切替設定部39の設定が適切でない場合には自動的に頸椎牽引モードに設定する(S6)。
【0068】
自動的に頸椎牽引モードに設定された場合には、制御部25は、自動的に牽引モード設定を変更した旨と、牽引力値を確認し再入力する旨をアナウンスや不図示の表示手段により施療者や患者に報知した後、牽引力値等の治療条件の再設定操作(S7)が行われるまで牽引治療開始の操作を受付けないように制御するとともに、牽引力設定部49には25kg以上の牽引力値を入力することができないように制御される。治療条件の再設定操作(S7)が行われると、牽引モード自動判定を終了し(S8)、治療開始(S9)段階に移行する。
【0069】
施療者は頸椎牽引治療の準備が完了したら、安全を確認した後、不図示の牽引治療開始スイッチを操作して(図10のS13)牽引治療を開始する。制御部25は、牽引モードの設定状況を判断し(S14)、頸椎牽引モードに設定されている場合は巻取固定機構46を作動させて巻取機構部43の回動を固定する(S15)。その後、制御部25は、頸椎装具装着判断部68で回転量検出手段67の検出値(S24)が設定閾値を超過するか否かを監視(S25)し、適切なモードで牽引治療が開始された場合は牽引治療動作を開始し(S18)、不適切なモードで牽引治療が開始された場合は牽引治療動作を停止する(S21)。
【0070】
腰椎牽引治療を行う際にも、第一の実施形態と同様、前の牽引治療終了後に自動的に腰椎牽引モードに切り替えが行われない構成の装置であっても、制御部25は、操作パネル部26の牽引力設定部49等の各種治療条件設定操作がなされたり、不図示の体重検出手段により患者が牽引装置に着座したことを検知するなど、腰椎牽引治療の準備操作状況を検知することにより牽引モード自動判定を開始し(図9のS1)、制御部25に回転量検出手段67の検出値が入力され(S22)、制御部25に設けられた頸椎装具装着判断部68がこの検出値が設定閾値を超過するか否かを監視し(S23)、検出値が設定閾値以下であれば頸椎装具未装着と判断し(S10)、牽引モード設定の適否を判断する(S11)。腰椎牽引モードに設定されている場合は、牽引モード自動判定を終了し(S8)、治療開始(S9)段階に移行するが、人為的操作ミス等により牽引モード切替設定部39の設定が適切でない場合には自動的に腰椎牽引モードに設定する(S12)。
【0071】
自動的に腰椎牽引モードに設定された場合には、制御部25は、自動的に牽引モード設定を変更した旨と、牽引力値を確認し再入力する旨をアナウンスや不図示の表示手段により施療者や患者に報知した後、牽引力値等の治療条件の再設定操作(S7)が行われるまで牽引治療開始の操作を受付けないように制御する。治療条件の再設定操作(S7)が行われると、牽引モード自動判定を終了し(S8)、治療開始(S9)段階に移行する。
【0072】
患者の腰部に腰装具29を巻き付け、下体シート部4に固定した後、不図示の牽引治療開始スイッチを操作して(図10のS13)牽引治療を開始する。制御部25は、牽引治療開始の操作がなされた後も頸椎装具装着判断部68で回転量検出手段67の検出値(S26)が設定閾値を超過するか否かを監視(S27)し、適切なモードで牽引治療が開始された場合は牽引治療動作を開始し(S18)、不適切なモードで牽引治療が開始された場合は牽引治療動作を停止する(S21)。
【0073】
本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更が可能であることは言うまでもない。
【0074】
例えば、頸椎装具装着検出手段65は頸椎装具36の患者への装着が完了したことを検出することのみに限定されるものではなく、頸椎装具36を患者に装着するために、頸椎装具36を索体42に吊り下げる等により牽引手段と接続し、移動させ、患者に装着するといった治療開始前の準備作業全般に係る各種パラメータの変動を検出することを含むものである。従って、頸椎装具装着検出手段65は上述の実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態として、頸椎装具36自体に頸椎装具36が装着されたことをスイッチ類や圧力センサー等を設けて電気的に検出する、或いは頸椎装具36の装着感を向上させたり治療部位の温熱効果を得るための流体を頸椎装具36に送り込むポンプや制御装置を設けて、その作動の有無や装着時の流体の圧力の変動を検出する、或いは頸椎の治療部位の温熱効果を得るための温熱手段を設けてその作動の有無や温度の変動を検出する等により、治療開始前の準備作業として頸椎装具36の装着の有無を検出するような構成を含むものである。
【0075】
また、本実施形態では、頸椎装具36を患者に装着するために索体42を一定以上の力で引っ張り頸椎牽引力検出手段51が検知すると自動的に頸椎牽引モードに設定されるように構成しているが、頸椎装具36が索体42に吊り下げられて頸椎装具36の自重を検出する、或いは腰装具29を索体42に吊り下げて腰椎牽引治療を行う装置であれば、頸椎装具36と腰装具29の自重の違いを検出することによって、頸椎と腰椎のいずれの牽引治療を行うかを検出するようにしてもよい。
【0076】
更に、本実施形態では、頸椎装具36を患者に装着するために索体42が所定の閾値以上に引き出されたことを頸椎装具位置検出手段66が検知すると自動的に頸椎牽引モードに設定されるように構成しているが、腰装具29を索体42に吊り下げて腰椎牽引治療を行う装置であれば、牽引治療を行う前の準備として索体42を所定の位置に設けられた滑車40等に掛けまわす際に、頸椎と腰椎の牽引治療のそれぞれにおいて索体42を掛けまわすルートの違いによって索体42が引き出される長さが異なる場合にその差異を検出する、或いは頸椎装具36と腰装具27の初期位置を個々に検出するセンサー類を設けてそれぞれの初期位置を検出することによって、頸椎と腰椎のいずれの牽引治療を行うかを検出するようにしてもよい。
【0077】
その他、上述した実施形態においては、牽引装置自体を椅子型としたが、頸椎牽引機能を搭載していれば牽引装置はベッド型、或いは患者を搭載するシート部を除く牽引ユニット単体でもよい。また、牽引装置自体に施療者等が腰椎と頸椎牽引のいずれを行うかを選択する牽引モード切替設定部39が設けられていない装置や、対象疾患等により頸椎牽引と腰椎牽引を使い分ける牽引ユニット単体であっても、牽引力検出手段の荷重変動や頸椎装具36の移動量を上述した実施形態の構成で検出することにより、頸椎装具36の装着の有無を検出するようにしても良い。また、本実施形態では、頸椎装具36を索体42に吊り下げて牽引治療を行う構成としたが、特許文献1の実施形態のように、頸椎牽引手段50として頸椎装具36自体を直接移動させるための駆動源(例えばアクチュエータなど)を設けて頸椎牽引治療を行うように構成し、頸椎装具36や駆動源、及びその周辺に頸椎装具装着検出手段65としての荷重センサーや移動量検出センサーを設け、頸椎装具36や駆動源自体に作用する荷重の変動、或いは移動量を検出することにより、頸椎装具36の装着の有無を検出するように構成してもよい。更に、回転量検出手段67をどのように設けるかについても限定されるものではなく、例えば、頸椎装具36を直接移動させる駆動源に回転量検出手段67を設け、駆動源自体の物理的変位や電流・電圧・抵抗等の電気的パラメータ等の変動を検出するなどの構成としても本発明の目的を達成できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、頸椎及び腰椎の牽引治療に用いられる牽引治療装置に適用できるものであり、産業上の利用可能性は高いものである。
【符号の説明】
【0079】
1 牽引治療装置
3 椅子部
4 下体シート部
10 背もたれシート部
17 電動アクチュエータ
25 制御部
27 腰椎牽引手段
28 腰椎牽引力検出手段
29 腰装具
30 腰椎用ロードセル
36 頸椎装具
39 牽引モード切替設定部
50 頸椎牽引手段
51 頸椎牽引力検出手段
53 頸椎牽引力記憶部
55 頸椎用ロードセル
65 頸椎装具装着検出手段
66 頸椎装具位置検出手段
68 頸椎装具装着判断部
69 頸椎装具位置記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の頸部を牽引する頸椎牽引手段を有する牽引治療装置において、患者への頸椎装具の装着の有無を検出する頸椎装具装着検出手段を設け、前記頸椎装具装着検出手段の検出結果に従い前記牽引治療装置の牽引治療条件の設定、及び/又は牽引治療動作が制御されることを特徴とする牽引治療装置。
【請求項2】
前記頸椎装具装着検出手段が前記頸椎装具の装着を検出した場合は、牽引治療に係る牽引力値が所定の閾値以上に至ると牽引動作を停止し、及び/又は所定の閾値以上の牽引力値を治療条件として設定できないように制御されることを特徴とする請求項1記載の牽引治療装置。
【請求項3】
患者の腰部を牽引する腰椎牽引手段が設けられ、前記頸椎装具装着検出手段が前記頸椎装具の装着を検出しない場合は頸椎牽引モードでの牽引動作を行わず、及び/又は前記頸椎装具装着検出手段が前記頸椎装具の装着を検出した場合は腰椎牽引モードで牽引動作を行わないように制御されることを特徴とする請求項1又は2記載の牽引治療装置。
【請求項4】
患者の腰部を牽引する腰椎牽引手段が設けられ、前記頸椎装具装着検出手段が前記頸椎装具の装着を検出した場合は自動的に頸椎牽引モードに設定し、前記頸椎装具の装着を検出しない場合には自動的に腰椎牽引モードに設定するように制御されることを特徴とする請求項1又は2記載の牽引治療装置。
【請求項5】
前記頸椎装具の装着操作に係る荷重の変動を検出する荷重変動検出手段を備え、前記荷重変動検出手段の検出値により前記頸椎装具の装着の有無を検出することを特徴とする請求項1乃至4記載の牽引治療装置。
【請求項6】
前記頸椎装具の位置を検出する頸椎装具位置検出手段を備え、前記頸椎装具位置検出手段の検出値により頸椎装具の装着の有無を検出することを特徴とする請求項1乃至4記載の牽引治療装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−11013(P2012−11013A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150692(P2010−150692)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000103471)オージー技研株式会社 (109)
【Fターム(参考)】