説明

獣毛繊維構造体の顔料染色方法及び該方法により得られた獣毛繊維構造体

【課題】顔料の固着率が高く、摩擦や洗濯に対しての堅牢性に優れ、かつ良好な風合いで均一に染色することができる。
【解決手段】水系分散媒に顔料成分を均一に分散させて顔料の着色組成物を調製する工程と、織物、編み物又は不織布により作製されたシート状の獣毛繊維構造体を着色組成物に浸漬する工程と、着色組成物に浸漬した獣毛繊維構造体を拡幅状態でニップロールにより脱液して獣毛繊維構造体を構成する繊維に着色組成物を浸透させる工程と、脱液した獣毛繊維構造体を拡幅状態で乾燥させることで獣毛繊維構造体を構成する繊維に着色組成物を均一に染着させる工程とを含み、獣毛繊維構造体を着色組成物に浸漬する工程の前に、獣毛繊維構造体を構成する繊維の表皮疎水層を除去することによる親水化処理を行う工程を更に含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣毛繊維構造体への顔料染色方法及び該方法により得られた獣毛繊維構造体に関するものであり、更に詳しくは、衣料やインテリア、産業資材の素材として用いられる織物、編み物又は不織布により作製されたシート状の獣毛繊維構造体、糸状の獣毛繊維構造体への効率的な着色を目的とした獣毛繊維構造体の顔料染色方法及び該方法により得られた獣毛繊維構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維の染色は、着色という観点からファッション性、装飾性、更には隠蔽性などの面で重要な技術分野である。繊維の染色には、従来から染料が使われてきており、獣毛繊維においても酸性染料、反応染料などが使われている。繊維の染色技術は、ほぼ確立されており、染料及び助剤の開発などにより、堅牢性の高い着色がなされている。
【0003】
しかし、同じ獣毛繊維であっても、前工程での工程履歴や仕上げの種類、獣毛繊維そのものの種類によって、染料の種類を選定しなければならないことや、複数の助剤を選定して用いなければならないことによる不合理性、膨大な量の水中に高温でかつ長時間運動を与えながら獣毛繊維を浸し続けることによる繊維自身へのダメージ及び膨大なエネルギーコストについての課題が残されている。
【0004】
一方、インクジェット方法を用いた染色も普及しつつあるが、このインクジェット方法では、染色の前工程として滲み防止コート、後工程としてスチーミングによる固着処理が必要となってしまうため、工程が煩雑となり、他にも、着色が表面に限定されてしまうため、反転によって部分的に着色側が裏に回り込んで、全体的に色相濃度が淡くなったり白抜けが生じたりする問題もあった。また、無地染めには現状の染色速度では消費者の要求に対応できず、更には、素材の形状が狭く限定されてしまう欠点も有していた。
【0005】
これらのことから、上記従来の染料を用いた染色方法に替わる方法として、顔料を用いて常温で行う連続染色の方法が注目されている。この顔料を用いた染色方法は、バインダを介して顔料を物理的に繊維に固着させる方法であるため、上記従来の染料を用いた染色方法に比べて、長時間加熱をすることや物理的な作用を繰り返す必要がなく、繊維に大きなダメージを与えることもない。
【0006】
しかし、現状における獣毛繊維への顔料を用いた染色方法では、顔料溶液が浸透し難い繊維に対しては固着率が低く、着色が薄くなり、更に強固な皮膜が形成し難いため、摩擦や洗濯に対する堅牢度が低いという問題を有していた。
【0007】
その結果、顔料を用いて染色した獣毛繊維を家庭で洗濯した際に、顔料が獣毛繊維から脱落して、一緒に洗濯した他の洗濯物に顔料が付着して汚染したり、顔料を用いて染色した獣毛繊維からなる衣料と、他の衣料とを重ね着した場合に、摩擦によって重ね着した前後の他の衣料を汚してしまうというクレームが生じていた。
【0008】
繊維の種類の中でも獣毛繊維は、表面構造が複雑であり、しかも表面が疎水性であるため顔料の固着率が低く、堅牢度に問題を来すほか、染色ムラも生じやすく、ムラが許容できる用途に限定されるなどの現状にある。このような問題を防ぐために、バインダの含有割合を増やすことも考えられたが、繊維の風合いが硬くなってしまうという別の問題が生じてしまっていた。
【0009】
そこで、両親媒性化合物によって形成された2分子膜に有機顔料が内包されてなることを特徴とする顔料複合体が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1では、2分子膜によって有機顔料が内包された顔料複合体が繊維構造物に吸尽されることにより、良好な風合いで繊維構造物を染色させており、高い染色堅牢度が得られている。
【特許文献1】特開平11−12485号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に示される顔料複合体を用いて獣毛繊維を染色する方法では、顔料を分散染料と同様に水に均一分散させて、加熱させることにより繊維の内部に拡散させ、吸着させることを目的としているので、通常の染料染色の場合以上に温度と時間がかかり、エネルギーコストの点及び繊維構造物への熱によるダメージの点で問題があった。
【0011】
本発明の目的は、顔料の固着率が高く、摩擦や洗濯に対しての堅牢性に優れ、かつ良好な風合いで均一に染色し得る、獣毛繊維構造体の顔料染色方法及び該方法により得られた獣毛繊維構造体を提供することにある。
本発明の別の目的は、従来の染料を使用した染色方法に比べて、製造工程における水の使用量及びエネルギコストが低く、染色対象である繊維自身のダメージが小さい、獣毛繊維構造体の顔料染色方法及び該方法により得られた獣毛繊維構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る発明は、水系分散媒に顔料成分を均一に分散させて顔料の着色組成物を調製する工程と、織物、編み物又は不織布により作製されたシート状の獣毛繊維構造体を着色組成物に浸漬する工程と、着色組成物に浸漬した獣毛繊維構造体を拡幅状態でニップロールにより脱液して獣毛繊維構造体を構成する繊維に着色組成物を浸透させる工程と、脱液した獣毛繊維構造体を拡幅状態で乾燥させることで獣毛繊維構造体を構成する繊維に着色組成物を均一に染着させる工程とを含み、獣毛繊維構造体を着色組成物に浸漬する工程の前に、獣毛繊維構造体を構成する繊維の表皮疎水層を除去することによる親水化処理を行う工程を更に含むことを特徴とする獣毛繊維構造体の顔料染色方法である。
請求項2に係る発明は、水系分散媒に顔料成分を均一に分散させて顔料の着色組成物を調製する工程と、糸状の獣毛繊維構造体を着色組成物に浸漬する工程と、着色組成物に浸漬した獣毛繊維構造体を糸状でニップロールにより脱液して獣毛繊維構造体を構成する繊維に着色組成物を浸透させる工程と、脱液した獣毛繊維構造体を糸状で乾燥させることで獣毛繊維構造体を構成する繊維に着色組成物を均一に染着させる工程とを含み、獣毛繊維構造体を着色組成物に浸漬する工程の前に、獣毛繊維構造体を構成する繊維の表皮疎水層を除去することによる親水化処理を行う工程を更に含むことを特徴とする獣毛繊維構造体の顔料染色方法である。
請求項1又は2に係る発明では、獣毛繊維構造体を着色組成物に浸漬する工程の前に、獣毛繊維構造体を構成する繊維の表皮疎水層を除去することによる親水化処理を行うことで、後に続く着色組成物への浸漬等の工程において、表皮疎水層が除去された獣毛繊維構造体に対して着色組成物が外部拡散に作用し、表面に均一に着色組成物が染み込むことで、強固で薄い皮膜が形成される。従って、顔料の固着率が高く、摩擦や洗濯に対しての堅牢性に優れ、かつ良好な風合いで均一に染色することができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、親水化処理を行う工程が、獣毛繊維構造体を塩素系酸化剤に接触させる酸化処理によって行われる獣毛繊維構造体の顔料染色方法である。
請求項3に係る発明では、上記獣毛繊維構造体を塩素系酸化剤に接触させる酸化処理は、獣毛繊維構造体の繊維最外層を構成する分子中に含まれるペプチド結合とジスルフィド結合の双方を開裂することが可能であるため、効果的に表皮疎水層を除去することができる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3いずれか1項に係る発明であって、親水化処理を行う工程が、この工程後における獣毛繊維構造体を構成する繊維の表皮疎水層を含むスケールによる凹凸落差が0.5μm未満であり、かつ親水性がJIS L−1096に準拠した滴下法により20秒未満になるように行われる獣毛繊維構造体の顔料染色方法である。
請求項4に係る発明では、親水化処理を行う工程の後における獣毛繊維構造体が上記測定範囲内であれば、顔料の固着率、摩擦や洗濯、汗に対しての堅牢性、着色の均一性をそれぞれ確実に向上させることができる。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、着色組成物を構成する顔料成分が、平均粒子径が10〜200nmの顔料粒子と平均粒子径が10〜200nmのバインダポリマーの双方を少なくとも含む獣毛繊維構造体の顔料染色方法である。
請求項5に係る発明では、着色組成物を構成する顔料成分として、上記範囲内の平均粒子径の顔料粒子と上記範囲内の平均粒子径のバインダポリマーの双方を含むことで、顔料が染着した獣毛繊維製品の摩擦抵抗増加による堅牢度低下がより少なくなり、かつ、良好な発色濃度、耐光性が得られる。
【0016】
請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明であって、着色組成物を構成する顔料成分に含まれるバインダポリマーが、アクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ウレタン系、酢酸ビニル系及びオレフィン系からなる群より選ばれた少なくとも1種である獣毛繊維構造体の顔料染色方法である。
請求項6に係る発明では、バインダポリマーが上記種類からなる群より選ばれた少なくとも1種のポリマーであれば、顔料粒子とバインダポリマーとが繊維表面に被覆層を形成するため、堅牢度をより向上することができる。
【0017】
請求項7に係る発明は、請求項1ないし6いずれか1項に記載の方法により染色された獣毛繊維構造体である。
請求項7に係る発明では、上記方法により染色された獣毛繊維構造体は、顔料が均一に、かつ良好な堅牢度で固着し、深い色相が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の獣毛繊維構造体の顔料染色方法では、獣毛繊維構造体を着色組成物に浸漬する工程の前に、獣毛繊維構造体を構成する繊維の表皮疎水層を除去することによる親水化処理を行うため、後に続く着色組成物への浸漬等の工程において、表皮疎水層が除去された獣毛繊維構造体に対して着色組成物が外部拡散に作用し、表面に均一に着色組成物が染み込むことで、強固で薄い皮膜が形成されるので、顔料の固着率が高く、摩擦や洗濯に対しての堅牢性に優れ、かつ良好な風合いで均一に染色することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の獣毛繊維構造体の顔料染色方法は、シート状又は糸状の獣毛繊維構造体に対して、顔料の着色組成物を均一に染着させることにより、獣毛繊維構造体を顔料によって染色するものである。
【0020】
本発明の方法に用いる獣毛繊維構造体の種類は、メリノウールやラムウール、タスマニアウール、サウスダウンウール、シロップシャーウール、ハムプシャーウール、オックスフォードウール、ドーゼットホーンウール、チュビオットウール、ウェルシュウール、ラドナーウール、ハードウィックウール、カムバックウール、コリデールウール、ポルオスウール、コースウール、シェットランドウール、バーリウール、テンダーウール、ブレークインウール、ケンピウール、ブラックウール、ピーセス、ベリース、スキンウール等のいわゆる羊毛繊維が典型的な構造体として挙げられるが、その他の種類としてはアルパカやモヘア、アンゴラ、カシミア等が挙げられる。
【0021】
また、上記種類の獣毛繊維構造体と、コットンやシルク、リネン、ラミー、レーヨン、ポリノジック、アセテート、ポリエステル、ポリウレタン、ナイロン、アクリル、ビニロン等他の種類の繊維とを組合せた構造体を用いてもよい。
【0022】
本発明の方法に用いる獣毛繊維構造体の形状は、織物、編み物又は不織布により作製されたシート状、並びに糸状である。織物としては、平織り、綾織り、朱織り、ドビー織り、ジャガード織り等が挙げられる。編み物としては、シングル編み、ダブル編み、パール編み等が挙げられる。不織布としては、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、ニードルパンチ法、ステッチボンド法、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、エアレイ法等が挙げられる。
【0023】
本発明の獣毛繊維構造体の顔料染色方法における特徴ある構成は、獣毛繊維構造体を着色組成物に浸漬する工程の前に、獣毛繊維構造体を構成する繊維の表皮疎水層を除去することによる親水化処理を行う工程を更に含むところにある。このような親水化処理によって獣毛繊維構造体を構成する繊維の表皮疎水層を除去することにより、後に続く着色組成物への浸漬等の染色において、表皮疎水層が除去された獣毛繊維構造体に対して着色組成物が外部拡散に作用し、表面に均一に着色組成物が染み込むことで、強固で薄い皮膜が形成される。従って、顔料の固着率が高く、摩擦や洗濯、汗に対しての堅牢性に優れ、かつ均一に染色することができる。
【0024】
本発明の方法に用いる獣毛繊維構造体は、アミノ酸で構成されたタンパク質を主成分としており、多くのジスルフィド結合とペプチド結合を有している。獣毛繊維構造体の最外層はケラチン質を多く含むタンパク質で構成されており、繊維最外層が疎水性脂質であるため、この繊維最外層を化学的に分解する方法、物理的に削り落とす方法、疎水性物質で溶解除去させる方法のいずれかを用いなければ、容易に親水化されない。
【0025】
獣毛繊維構造体の表皮疎水層を除去することによる親水化処理として考えられる方法としては、塩素系酸化剤を用いた酸化処理、酸素系酸化剤による酸化処理、還元処理、放電処理、スパッタエッチング処理、セラミックスの表面付着処理、樹脂加工、界面活性剤処理、タンパク質分解酵素による処理などが挙げられる。これらの方法の中で、表皮疎水層を除去することの可能な方法は、塩素系酸化剤を用いた酸化処理、酸素系酸化剤による酸化処理、スパッタエッチング処理、タンパク質分解酵素による処理である。
【0026】
しかしながら、酸素系酸化剤による酸化処理では、ジスルフィド結合だけの開裂に留まるため、表皮疎水層を完全に除去するには至らず、損傷を与える程度である。また、スパッタエッチング処理では、放電エネルギによって物理的に表皮疎水層の端の部分から削り落とすが、表皮疎水層をほぼ完全に除去するにはかなりの時間がかかり、表皮疎水層以外の獣毛繊維構造体内部も損傷してしまう。更に、タンパク質分解酵素による処理は、ある程度の時間をかけることで表皮疎水層を完全に除去できるが、タンパク質分解酵素は獣毛繊維の内部から先に分解して表皮疎水層を含むスケールを内側から剥離させるため、表皮疎水層が完全に除去されるまでには内部の損傷が激しくなり、繊維の強度を著しく低下させてしまう。
【0027】
よって、ここでの親水化処理を行う工程は、獣毛繊維構造体の繊維最外層を構成する分子中に含まれるペプチド結合とジスルフィド結合の双方を開裂することが可能な、獣毛繊維構造体を塩素系酸化剤に接触させる酸化処理によって行われることが、効果的に表皮疎水層を除去することができるため、好適である。使用する塩素系酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが挙げられる。
【0028】
塩素系酸化剤に次亜塩素酸ナトリウムを用いる方法は、防縮加工において一般にクロイ法として知られている方法である。具体的には、次亜塩素酸ナトリウム水溶液と硫酸水溶液を適度な比率で混ぜ合わせ、この混合液を獣毛繊維構造体に噴霧又は浸漬或いはその両方を行うものである。このような処理方法により、獣毛繊維構造体の表皮疎水層を短時間にほぼ完全に除去することができる。
【0029】
また、塩素系酸化剤にジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを用いる方法は、防縮加工において一般にDCCA法として知られている方法である。具体的には、処理対象である獣毛繊維構造体の重量などから親水化処理に必要とされる濃度を算出し、この算出した濃度範囲に調製されたジクロロイソシアヌル酸ナトリウム水溶液を用意する。続いてこのジクロロイソシアヌル酸ナトリウム水溶液中に、獣毛繊維構造体を浸漬して水溶液を攪拌することにより行われるものである。このジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを用いた処理方法は、次亜塩素酸ナトリウムを用いた処理方法に比べて処理時間的に劣るが、時間等の条件をコントロールすることで、獣毛繊維構造体の表皮疎水層をほぼ完全に除去することができる。
【0030】
また、亜硫酸塩による脱塩素処理は、塩素系酸化剤による酸化処理によって分解した表皮疎水層及びそれを含むスケールを溶解除去することができるため、上記塩素系酸化剤を用いた酸化処理に、亜硫酸塩による脱塩素処理を併用することが好ましい。
【0031】
なお、獣毛繊維構造体の表皮疎水層を除去することによる親水化処理方法は、上記塩素系酸化剤を用いた酸化処理と、過マンガン酸塩、過酸化水素、モノ過硫酸及びその塩類等等による酸素系酸化剤による酸化処理、コロナ放電、アーク放電、グロー放電による放電処理、タンパク質分解酵素を用いた酵素処理及びリン系化合物や亜流酸塩などによる還元処理からなる群より選ばれた少なくとも1種とを適度に併用することによって、表皮疎水層をより完全に除去することができるため、本発明の目的に対して更に効果的である。
【0032】
表皮疎水層を除去することによる親水化処理を行うことによって、顔料の着色組成物が繊維表面に浸透し、繊維の1本1本に薄い均一な皮膜を形成するため顔料が固着し易くなり、着色濃度の向上とともに洗濯に対する固着耐久性や摩擦に対する固着耐久性などを示す、いわゆる堅牢性が向上する。この効果を最大限に生かすためには、スケールの大部分を除去することが望ましい。
【0033】
そのため、本発明では親水化処理の程度の指標として、獣毛繊維構造体のスケールによる凹凸落差と親水性による測定を行うことが好ましい。上記測定値が所望の範囲内であれば、親水化処理を行う工程を施した後の獣毛繊維構造体のスケールの大部分を除去しているか否かを確認できる。
【0034】
具体的には、親水化処理を行う工程を施した後の獣毛繊維構造体を構成する繊維の表皮疎水層を含むスケールによる凹凸落差が0.5μm未満であり、かつ親水性がJIS L−1096に準拠した滴下法により20秒未満であれば、スケールの大部分が除去されていることが確認でき、上記測定範囲を満たすように親水化処理が施された繊維は、顔料の固着率、摩擦や洗濯、汗に対しての堅牢性、着色の均一性をそれぞれ確実に向上させることができる。獣毛繊維構造体のスケールによる凹凸落差とは、スケール層の厚さとスケール−スケール間又はスケール−皮質層間に存在する僅かな隙間を合わせたものである。スケールによる凹凸落差については、共焦点レーザー顕微鏡によって、容易に確認することができる。またJIS L−1096に準拠した滴下法による親水性については、机上で水と時計を使用することで容易に測定することができる。
【0035】
表皮疎水層を除去することによる親水化処理を行った獣毛繊維構造体は、顔料の着色組成物に浸漬される。ここで使用する顔料の着色組成物は、水系分散媒に顔料成分を均一に分散させることにより調製される。水系分散媒としては、水や水性溶媒等が挙げられる。着色組成物を構成する顔料成分には、顔料粒子及びバインダポリマーの双方が含まれる。
【0036】
着色用色素成分である顔料粒子としては、水系分散媒に分散可能で、かつ有彩色を有する全ての無機系顔料及び有機系顔料が挙げられる。また、樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料等も使用することができる。無機系顔料としては、例えば、金属粉や金属含有化合物粉等が挙げられる。また、有機系顔料としては、例えば、アゾレーキ顔料や不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、染料レーキ顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料等が挙げられる。
【0037】
より具体的には、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、チタンブラック、鉄黒、黒鉛、銅クロムブラック、コバルトブラック、べんがら、酸化クロム、コバルトブルー、酸化鉄黄、ビリジアン、カドミウムエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、群青、バライト粉、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、真鍮粉等の無機系顔料、アニリンブラック、ペリレンブラック、シアニンブラック、樹脂エマルションを黒染料で着色した疑似顔料、C.I.ピグメントブルー1、同ブルー15、同ブルー17、同ブルー27、同レッド5、同レッド22、同レッド38、同レッド48、同レッド49、同レッド53、同レッド57、同レッド81、同レッド104、同レッド146、同レッド245、同イエロー1、同イエロー3、同イエロー4、同イエロー12、同イエロー13、同イエロー14、同イエロー17、同イエロー34、同イエロー55、同イエロー74、同イエロー83、同イエロー95、同イエロー166、同イエロー167、同オレンジ5、同オレンジ13、同オレンジ16、同バイオレット1、同バイオレット3、同バイオレット19、同バイオレット23、同バイオレット50、同グリーン7等の有機系顔料が挙げられる。本発明の方法においては、上記種類の顔料を単独で又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0038】
本発明の方法に用いる着色組成物中の顔料粒子は、平均粒子径が10〜200nmの範囲の粒子を使用することが好適である。顔料粒子の平均粒子径を上記範囲内としたのは、着色組成物中に平均粒子径が200nmを越える顔料粒子が存在すると、染色後の繊維構造体表面の凹凸が大きくなって、摩擦抵抗が増し、摩擦堅牢度が低下する傾向があるためである。また着色組成物中に平均粒子径が10nm未満の顔料粒子が存在すると、発色濃度、耐光性等が低下する傾向があるためである。このうち、顔料粒子の平均粒子径は、20〜100nmが特に好ましい。
【0039】
顔料粒子の平均粒子径を主として200nm以下の粒子に調整する方法としては、顔料粒子に、水及び水性溶媒、必要に応じて湿潤剤や濡れ剤、分散安定剤等を添加し、一般に用いられる剪断力付与型分散機を用いて混合する方法が挙げられる。例えば、撹拌型のデゾルバー、ホモミキサー、ヘンシェルミキサー、メデア型のボールミル、サンドミル、アトライター、ペイントシェーカー、メデアレス型の3本ロール、5本ロール、ジェットミル、ウォータージェットミル、超音波分散機等を用い、所定の時間粉砕分散処理することにより、主として上記範囲以下の粒子径を有する顔料粒子を得ることができる。
【0040】
上記分散機により顔料粒子を粉砕分散した後は、必要に応じて粗大粒子、微細粒子を分離して除去することにより、所望の平均粒子径を有する顔料粒子をより確実に得ることができる。所望の範囲外の粒子径の顔料粒子を分離除去する方法としては、静止沈降法、遠心沈降法、フィルター除去法等が挙げられる。
【0041】
本発明の方法に用いる着色組成物中の顔料粒子は微細であるため、外的要因、着色加工時等に再凝集して、目的の性能を低下させてしまうおそれがある。この再凝集を防止するため、顔料粒子の表面を親水性処理しておくことが好ましい。このような親水性処理としては、例えば、顔料粒子を界面活性剤や水溶性ポリマーを含む分散剤と接触させることで、顔料粒子表面に水酸基、カルボキシル基、アミノ基等の親水基を付与することにより安定性を向上させる方法が挙げられる。分散剤に含まれる界面活性剤としては、アルキルカルボン酸エステル、アルキル硫酸エステル、アルキルリン酸エステル等のアニオン系界面活性剤、脂肪族アンモニウム塩等のカチオン系活性剤、アルキルエーテル、脂肪酸エステルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン系界面活性剤が挙げられる。また分散剤に含まれる水溶性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、アクリル類(例えば、低分子のポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等)、ポリマレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸等とスチレンのコポリマー、ポリアミド、ロジン変性マレイン酸等の高分子系分散剤が挙げられる。また、水酸化ナトリウム等を用いたアルカリ処理、クロム酸等の酸化剤を用いた処理、低温プラズマ処理等のトポケミカル的な手法を用いることによっても、顔料粒子表面を親水性処理することができる。親水性処理によって付与される親水基の中でも、水酸基やカルボキシル基は、繊維構造体への染色時に、バインダポリマー及び架橋剤との架橋反応をし易く、堅牢度向上効果が期待される点で特に好ましい。
【0042】
本発明の方法に用いる着色組成物中の顔料粒子は、組成物全体に対して0.1〜15質量%の割合で含まれることが好適である。顔料粒子の含有割合が0.1質量%未満では良好な発色が得られない傾向があり、15質量%を越えると摩擦堅牢度が低下する傾向があるためである。このうち、顔料粒子の含有割合は組成物全体に対して0.5〜10質量%の割合で含まれることが特に好ましい。
【0043】
本発明の方法に用いる着色組成物中のバインダポリマーは、平均粒子径が10〜200nmの範囲の粒子を使用することが好適である。バインダポリマーの平均粒子径を上記範囲内としたのは、着色組成物中に平均粒子径が200nmを越えるバインダポリマーが存在すると、バインダポリマーで形成される被覆層が厚肉化し、繊維構造体の風合いが低下し、また顔料粒子のバインダ力が低下して摩擦堅牢度が低下する傾向があるためである。また着色組成物中に平均粒子径が10nm未満のバインダポリマーが存在すると、粒子同士の凝集により組成液自体が不安定になる傾向があるためである。このうち、バインダポリマーの平均粒子径を10〜100nmの範囲内に調整すると、バインダポリマーで形成される被覆層のマイクロコート化が可能となり、繊維構造体の風合いを維持することができ、顔料粒子のバインダ力も向上するため、特に好ましい。
【0044】
本発明の方法に用いる着色組成物中のバインダポリマーは、ガラス転移温度が10℃以下であれば、室温で均一な被膜化が可能で、強度低下が抑制できるため好適である。室温(20℃±10℃)の作業環境下で、ガラス転移温度が10℃を越えるバインダポリマーを使用した着色組成物を用いて、本発明の染色方法を行った場合、獣毛繊維構造体へのバインダポリマーの被膜化が不十分となって、被覆層に空隙部が多数構成され、この空隙部はその後、加熱しても残存し、バインダポリマー被覆層の強度が低下する傾向がある。このうち、バインダポリマーのガラス転移温度は5℃以下が特に好ましい。
【0045】
バインダポリマーの種類は、上記物性を満たすものであれば特に制限されない。このうち、アクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ウレタン系、酢酸ビニル系及びオレフィン系からなる群より選ばれた少なくとも1種であれば、顔料粒子とバインダポリマーとが繊維表面に被覆層を形成するため、堅牢度をより向上することができる。具体的には、一般に入手できるポリマー、例えば、アクリルポリマーやアクリルスチレンコポリマー、アクリルウレタンコポリマー、アクリルマレイン酸コポリマー、アクリルブタジエンコポリマー、アクリル酢酸ビニルコポリマー、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリウレタン、ポリオレフィン等が挙げられる。
【0046】
なお、本発明の着色組成物において、バインダポリマーを単独で使用した場合には、被膜強度、堅牢度が不足することがある。この場合は、顔料粒子やバインダポリマー中の水酸基、カルボキシル基などと架橋反応することが可能な架橋剤を使用することによって、堅牢度を向上させることができる。本発明の方法において、適用可能な反応としては、メチロール基と水酸基との脱水縮合反応や、グリシジル基と水酸基とのエポキシ開環重合反応、イソシアネート基と、水酸基、カルボキシル基とのウレタン反応、オキサゾリン基とカルボキシル基とのアミドエステル反応、カルボジイミド基と水酸基及びカルボキシル基とのカルバモイルアミド反応及びイソウレア反応、シラノール基と水酸基との縮合脱水反応、金属アルコキシド基と水酸基による脱水縮合反応、多官能メチロール基と水酸基とのメラミン縮合反応、ダイアセトンアクリルアミドとヒドラジドと水酸基による還元脱水反応等が挙げられる。これらの水性架橋剤を着色組成物中に配合して加熱すると、顔料及びバインダポリマーの水酸基、カルボキシル基が架橋して3次元ネットワーク構造が形成され、堅牢度が向上する。
【0047】
また、本発明の方法に用いるバインダポリマーは、エマルションやデスパージョン等の形態で使用することができる。
【0048】
本発明の方法に用いる着色組成物中のバインダポリマーは、組成物全体に対して0.5〜20質量%の割合で含まれることが好適である。バインダポリマーの含有割合が0.5質量%未満ではバインダ能力が不足し、摩擦堅牢度が低下する傾向があり、20質量%を越えると繊維自身の風合いが損なわれる傾向があるためである。このうち、バインダポリマーの含有割合は組成物全体に対して1〜10質量%の割合で含まれることが特に好ましい。
【0049】
また、本発明の方法に用いる着色組成物は、上記顔料粒子やバインダポリマーの他にも、使用用途に併せて、分散剤や浸透剤、沈降防止剤、増粘剤等を更に添加してもよい。
【0050】
上記着色組成物に浸漬した獣毛繊維構造体がシート状である場合は、このシート状の獣毛繊維構造体を拡幅状態でニップロールにより脱液して獣毛繊維構造体を構成する繊維の表面及び繊維の中にまで着色組成物を浸透させる。ニップロールのニップ圧は、通常0.9〜10MPaの範囲で行われる。獣毛繊維構造体のシートの厚みや着色組成物の浸透状態により、また使用する着色組成物の種類などによってニップ圧は適宜変動させることにより脱液するが、ニップ圧が高すぎると顔料の染着率が低くなるだけでなく、繊維を傷めることにもなり、逆にニップ圧が低すぎるとシートの内部にまで着色組成物が浸透しなくなるため、これらの要素も併せて考慮してニップ圧を設定する必要がある。
【0051】
次に、この状態で脱液した獣毛繊維構造体を拡幅状態で乾燥させることで獣毛繊維構造体を構成する繊維に着色組成物を均一に染着させる。拡幅状態での獣毛繊維構造体の乾燥は、シリンダ乾燥機、コンベア乾燥機、テンター乾燥機などの装置を使用することができ、電気熱の他にボイラー熱、遠赤外線、マイクロ波、直火熱などの熱源を利用しても良い。この工程での乾燥は、獣毛繊維構造体に染着させた着色組成物の揮発分、即ち水分を揮発させるために行うものである。乾燥温度は80〜105℃であることが好ましい。
【0052】
また、この乾燥工程の後に、更に熱処理を加えても良い。この更なる熱処理を施すことで、着色組成物に含まれるバインダを硬化させる効果がある。この更なる熱処理の条件としては、130〜190℃の温度で20〜180秒間保持することが好ましい。
【0053】
本発明の方法では、上記浸漬工程、脱液による浸透工程、乾燥により染着工程を複数回繰り返すことにより染色しても良い。
【0054】
なお、獣毛繊維構造体が糸状である場合には、着色組成物に浸漬した獣毛繊維構造体を糸状でニップロールにより脱液して獣毛繊維構造体を構成する繊維の表面及び繊維の中にまで着色組成物を浸透させ、次に、この状態で脱液した獣毛繊維構造体を糸状で乾燥させることで獣毛繊維構造体を構成する繊維に着色組成物を均一に染着させることにより、行われる。
【0055】
このように、本発明の獣毛繊維構造体の顔料染色方法では、上記各工程を経ることにより、顔料の固着率が高く、摩擦や洗濯に対しての堅牢性に優れ、かつ良好な風合いで均一に染色することができる。
【0056】
更に、本発明の方法は顔料を用いた染色方法であるため、従来の染料を用いた染色方法のような膨大な量の水中に高温でかつ長時間運動を与えながら繊維を浸し続ける方法とは異なり、染色工程における水の使用量及びエネルギコストが低く、かつ繊維自身のダメージも小さくすることができる。
【0057】
上記顔料染色方法により染色された本発明の獣毛繊維構造体は、顔料が均一に、かつ良好な堅牢度で固着し、深い色相が得られる。
【実施例】
【0058】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
十分に精練(毛焼き、洗浄)をしたメリノウール80%及びポリエステル繊維20%からなる混紡糸の織布を用意した。この混紡糸の織布を、塩素濃度5%の次亜塩素酸ナトリウム溶液と5%硫酸溶液とを混合した溶液に浸漬した。浸漬した後の混紡糸の織布を亜硫酸ナトリウムによって脱塩素処理し、PH7緩衝溶液に約1日間浸けておいた後、脱水して乾燥させた。このときの織布の親水性は、JIS L−1096に準拠した滴下法により測定したところ、5秒であった。また、表皮疎水層を含むスケールによる凹凸落差は0.14μmであった。
次に、混紡糸の織布を青色顔料(銅フタロシアニンブルー、CI. Pigment Blue15、平均粒子径90nm)5質量%とアクリル系のバインダ(平均粒子径95nm、Tg<10℃)10質量%の割合となるように調製された水分散液に浸漬させた。次に、浸漬後の混紡糸の織布を拡幅状態でニップロールであるマングルで絞り、拡幅状態で乾燥した。その後、150℃で2分間の熱処理をし、セミデカタイジングにてセットを行った。
【0059】
<実施例2>
実施例1と同一の混紡糸の織布を用意し、この混紡糸の織布をジクロロイソシアヌル酸ナトリウム水溶液中に浸漬して水溶液を攪拌した。続いて、混紡糸の織布に対してタンパク質分解酵素による処理を行った。このときの織布の親水性は、JIS L−1096に準拠した滴下法により測定したところ、11秒であった。また、表皮疎水層を含むスケールによる凹凸落差は0.45μmであった。
次に、混紡糸の織布を青色顔料(銅フタロシアニンブルー、CI. Pigment Blue15、平均粒子径90nm)5質量%とアクリル系のバインダ(平均粒子径95nm、Tg<10℃)10質量%の割合となるように調製された水分散液に浸漬させた。次に、浸漬後の混紡糸の織布を拡幅状態でニップロールであるマングルで絞り、拡幅状態で乾燥した。その後、150℃で2分間の熱処理をし、セミデカタイジングにてセットを行った。
【0060】
<比較例1>
毛焼きを行い、モノゲンを用いて十分に精練をしたメリノウール80%及びポリエステル繊維20%からなる混紡糸の織布を用意した。このときの織布の親水性は、JIS L−1096に準拠した滴下法により測定したところ、30分以上であった。また、表皮疎水層を含むスケールによる凹凸落差は0.99μmであった。
次に、混紡糸の織布を青色顔料(銅フタロシアニンブルー、CI. Pigment Blue15、平均粒子径90nm)5質量%とアクリル系のバインダ(平均粒子径95nm、Tg<10℃)10質量%の割合となるように調製された水分散液に浸漬させた。次に、浸漬後の混紡糸の織布を拡幅状態でニップロールであるマングルで絞り、拡幅状態で乾燥した。その後、150℃で2分間の熱処理をし、セミデカタイジングにてセットを行った。即ち、この比較例1で染色した織布には、親水化処理は施していない。
【0061】
<比較試験1>
実施例1,2及び比較例1で染色された織布について、以下の評価試験を行った。
【0062】
色相濃度(K/S)は、コニカミノルタ社製の分光測色計CM−508dを用いて最大反射率(R)を測定し、クベルカームンクの式(K/S=(1−R)2/2R)により評価した。風合いは、3名のモニターによる手触りで試験を行い、着色前の風合いと比べて変化が少なければ「○」、多ければ「×」と判定し、3名とも「○」であれば、総合判定を「○」、2名が「○」であれば総合判定を「△」とし、それ以外を「×」とした。染色ムラは、3名のモニターによる目視試験を行い、染色ムラが見られなければ「○」、見られれば「×」と判定し、3名とも「○」であれば、総合判定を「○」、2名が「○」であれば総合判定を「△」とし、それ以外を「×」とした。乾摩擦堅牢度は、JIS L−0849に準拠した綿白布汚染により評価した。湿摩擦堅牢度は、JIS L−0849に準拠した綿白布汚染により評価した。洗濯堅牢度は、JIS L−0844(A−2)に準拠した変退色により評価した。ドライクリーニング堅牢度は、JIS L−0860に準拠した変退色により評価した。その結果を次の表1にそれぞれ示す。
【0063】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系分散媒に顔料成分を均一に分散させて顔料の着色組成物を調製する工程と、
織物、編み物又は不織布により作製されたシート状の獣毛繊維構造体を前記着色組成物に浸漬する工程と、
前記着色組成物に浸漬した獣毛繊維構造体を拡幅状態でニップロールにより脱液して前記獣毛繊維構造体を構成する繊維に前記着色組成物を浸透させる工程と、
前記脱液した獣毛繊維構造体を拡幅状態で乾燥させることで前記獣毛繊維構造体を構成する繊維に前記着色組成物を均一に染着させる工程と
を含み、
前記獣毛繊維構造体を前記着色組成物に浸漬する工程の前に、前記獣毛繊維構造体を構成する繊維の表皮疎水層を除去することによる親水化処理を行う工程を更に含む
ことを特徴とする獣毛繊維構造体の顔料染色方法。
【請求項2】
水系分散媒に顔料成分を均一に分散させて顔料の着色組成物を調製する工程と、
糸状の獣毛繊維構造体を前記着色組成物に浸漬する工程と、
前記着色組成物に浸漬した獣毛繊維構造体を糸状でニップロールにより脱液して前記獣毛繊維構造体を構成する繊維に前記着色組成物を浸透させる工程と、
前記脱液した獣毛繊維構造体を糸状で乾燥させることで前記獣毛繊維構造体を構成する繊維に前記着色組成物を均一に染着させる工程と
を含み、
前記獣毛繊維構造体を前記着色組成物に浸漬する工程の前に、前記獣毛繊維構造体を構成する繊維の表皮疎水層を除去することによる親水化処理を行う工程を更に含む
ことを特徴とする獣毛繊維構造体の顔料染色方法。
【請求項3】
親水化処理を行う工程が、獣毛繊維構造体を塩素系酸化剤に接触させる酸化処理によって行われる請求項1又は2記載の獣毛繊維構造体の顔料染色方法。
【請求項4】
親水化処理を行う工程が、この工程後における獣毛繊維構造体を構成する繊維の表皮疎水層を含むスケールによる凹凸落差が0.5μm未満であり、かつ親水性がJIS L−1096に準拠した滴下法により20秒未満になるように行われる請求項1ないし3いずれか1項に記載の獣毛繊維構造体の顔料染色方法。
【請求項5】
着色組成物を構成する顔料成分が、平均粒子径が10〜200nmの顔料粒子と平均粒子径が10〜200nmのバインダポリマーの双方を含む請求項1又は2記載の獣毛繊維構造体の顔料染色方法。
【請求項6】
着色組成物を構成する顔料成分に含まれるバインダポリマーが、アクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ウレタン系、酢酸ビニル系及びオレフィン系からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項5記載の獣毛繊維構造体の顔料染色方法。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれか1項に記載の方法により染色された獣毛繊維構造体。

【公開番号】特開2008−196088(P2008−196088A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34411(P2007−34411)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(391058598)艶金興業株式会社 (5)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【出願人】(598143871)株式会社デンエンチョウフ・ロマン (4)
【Fターム(参考)】