説明

現像ブレード

【課題】 実用的な範囲でシリコーンゴムの柔軟さを損なうことなく摩擦係数を下げてすべり易くして、ゴムの磨耗量を減少させ、現像ブレードの耐刷性を向上させる。
【解決手段】 本発明におけるブレード部材は、シリコーンゴムを主成分として構成されており、このシリコーンゴムの表面に摩擦係数を低減させるためのコーティング膜が形成されてなるように構成されている。コーティング膜として、特に、好ましいのは、F−DLC膜およびパリレン樹脂膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現像ブレードに係り、特にレーザプリンタ、複写機、ファクシミリ等の電子写真画像形成装置の現像装置に用いられる現像ブレード関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成プロセスを用いた画像形成装置では、感光体ドラム上に形成された潜像を現像するための現像装置を備えている。
【0003】
現像装置としては、例えば、図5に示されるように、ホッパー72、現像ローラ73、回動可能な攪拌板74、現像ブレード75を備えてなる構造の現像装置71が知られている(特許文献1)。
【0004】
このような現像装置71においては、ホッパー72内の現像剤76が攪拌板74により現像ローラ73に供給され、現像ブレード75と現像ローラ73との摩擦帯電により現像ローラ73の周面上に現像剤が薄層で均一に担持される。そして、潜像が形成されている感光体ドラム77に現像ローラ73から現像剤76が移行して現像が行われる。
【0005】
現像ブレード75としては、例えば、金属製の支持部材82の端側部に沿って弾性部材からなるブレード部材84が形成された構造のものが知られている。
【0006】
現像プレート75のブレード部材84に用いられる弾性部材は、例えば、シリコーンゴムから形成されている。このようなシリコーンゴムからなる弾性部材を形成するに際しては、シリコーンゴムに架橋剤(硬化剤)を混合し、このものを金型のキャビティ内に注入した後に硬化させることにより、所定の形状の弾性部材が成形される。
【0007】
従来より、シリコーンゴムは、その柔軟性、耐熱性、耐久性等の優れた物性をそのまま生かすため、およびシリコーンゴムが備える不活性の特性ゆえに、その表面に特殊な処理を行なうという試みはなされていなかった。
【0008】
【特許文献1】特開2003−43812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、弾性部材からなるブレード部材84の耐刷性を向上させることは、製品の品質を長期に亘って確実に保証できることに繋がり、極めて重要なファクターであると言える。
【0010】
このような実状のもとに本発明は、創案されたものであり、その目的は、実用的な範囲でシリコーンゴムの柔軟さ等の物性を損なうことなく摩擦係数を下げてすべり易くして、ゴムの磨耗量を減少させ、現像ブレードの耐刷性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するために、本発明の現像ブレードは、支持部材の端側部にブレード部材を有する現像ブレードであって、前記ブレード部材は、シリコーンゴムを主成分として構成されており、このシリコーンゴムの表面に摩擦係数を低減させるためのコーティング膜が形成されているように構成される。
【0012】
また、本発明の現像ブレードの好ましい態様として、前記コーティング膜は、F−DLC(Flexible Diamond like Carbon)膜として構成される。
【0013】
また、本発明の現像ブレードの好ましい態様として、前記F−DLC膜は、プラズマ洗浄によりシリコーンゴム表面を水素ラジカルで暴露させ、しかる後、メチル基で暴露することにより形成されてなるように構成される。
【0014】
また、本発明の現像ブレードの好ましい態様として、前記F−DLC膜は、その厚さが0.01〜1μmとなるように構成される。
【0015】
また、本発明の現像ブレードの好ましい態様として、前記コーティング膜は、パリレン(Parylene)樹脂膜から構成される。
【0016】
また、本発明の現像ブレードの好ましい態様として、前記パリレン(Parylene)樹脂膜は、モノマーであるパラキシレンを蒸着室において蒸気化させ、シリコーンゴム表面と接触させて重合を開始させた高分子膜として構成される。
【0017】
また、本発明の現像ブレードの好ましい態様として、前記パリレン(Parylene)樹脂膜は、その厚さが0.2〜1μmとなるように構成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の現像ブレードにおけるブレード部材は、シリコーンゴムを主成分として構成されており、このシリコーンゴムの表面に摩擦係数を低減させるためのコーティング膜が形成されてなるように構成されているので、実用的な範囲でシリコーンゴムの柔軟さ等の物性を損なうことなく摩擦係数を下げてすべり易くして、ゴムの磨耗量を減少させ、現像ブレードの耐刷性を向上させることができる。
【0019】
また、摩擦係数を下げてすべり易くすることにより、付随的な効果として、現像ロールと現像ブレードの接触による力を小さくすることができ、駆動モータの小型化による省エネルギー化や、装置のコンパクト化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明は、例えば、図1に示されるように支持部材82の端側部にブレード部材84を有する現像ブレード75に関するものであって、その要部は、ブレード部材84の構成にある。
【0021】
本発明の要部であるブレード部材84は、シリコーンゴムを主成分として構成されており、このシリコーンゴムの表面に摩擦係数を低減させるためのコーティング膜が形成されている。
【0022】
本発明で用いられるブレード部材84の形状は、特に制限されるものではなく、例えば、図1〜図3に示されているいずれのブレード部材84の形状としてもよい。支持部材82としては、例えば、ステンレス鋼、バネ用リン青銅などの金属基板を適宜選定して用いればよい。セラミック基板や樹脂基板とすることもできる。
【0023】
ブレード部材84の主成分であるシリコーンゴムとしては、例えば、液状シリコーンゴムと硬化剤との混合物が例示できる。また、いわゆるミラブル型のシリコーンゴムであってもよい。
【0024】
以下、シリコーンゴムの表面に摩擦係数を低減させるためのコーティング膜について、詳細に説明する。
【0025】
F−DLC膜
本発明で使用されるコーティング膜の好適なものの一つとして、F−DLC(Flexible Diamond like Carbon)膜が挙げられる。
【0026】
F−DLC膜の形成工程は、例えば以下の手順で行なわれる。
【0027】
・プラズマ洗浄
真空槽中でプラズマを発生させ、活性が高くてエッチング効果のある水素ラジカルで被コーティング部材であるシリコーンゴムの表面を暴露させる。この時、シリコーンゴムの表面に存在しているOH、O、CmHnOなどは、水素ラジカルと反応してガスとなり、シリコーンゴム表面から脱離し、シリコーンゴム表面に存在する炭素のフリーボンドが確保され、この部分が水素(H)と結合する。
【0028】
・F−DLC膜の形成
上記の水素ラジカルによるシリコーンゴム表面の洗浄が完了した後、この洗浄面を、活性の高いメチル基(プラズマ化されたもの)で暴露すると、シリコーンゴム表面に存在する水素は、メチル基と反応してメタンとなって脱離する。そして、シリコーンゴム表面の炭素のフリーボンドにメチル基が反応し、この繰り返しでF−DLC膜が形成される。
【0029】
このようにして形成されたF−DLC膜の厚さは、0.01〜1μmとされる。この厚さが、0.01μm未満であると、現像ブレードの耐刷性を十分に向上させることができなくなる傾向があり、この一方で、厚さが1μmを超えると、シリコーンゴム本来の物性に悪影響を与える傾向が生じてしまう。
【0030】
パリレン(Parylene)樹脂膜
本発明で使用されるコーティング膜の好適なものの一つとして、パリレン(Parylene)樹脂の膜が挙げられる。
【0031】
パリレンは、パラキシリレン系樹脂の総称であり、以下に記載される構造式Iおよび構造式IIで示されるような組成を好適例として挙げることができる。
【0032】
【化1】

【0033】
上記構造式I(poly-monochloro-para-xylene)において、重合度nは5000以上とされる。
【0034】
【化2】

【0035】
上記構造式II(poly-para-xylene)において、重合度nは5000以上とされる。
【0036】
パリレン樹脂をコーティングする方法としては、例えば以下のプロセスが用いられる。
【0037】
まず、最初に原料ダイマー(粉末・パラキシレン2量体)を気化室に入れて、加熱する。加熱蒸発したダイマーは高温の熱分解室に導入され、この熱分解室で反応性の高いラジカルなモノマーであるパラキシレンが生成される。モノマーであるパラキシレンは、蒸着室において蒸気化され、ここでシリコーンゴム表面と接して重合を開始し、高分子膜となりパリレン樹脂膜(コーティング膜)が形成される。
【0038】
このようにして形成されたパリレン樹脂膜の厚さは、0.2〜1μmとされる。この厚さが、0.2μm未満であると、現像ブレードの耐刷性を十分に向上させることができなくなる傾向があり、この一方で、厚さが1μmを超えると、シリコーンゴム本来の物性に悪影響を与える傾向が生じてしまう。
【実施例】
【0039】
以下、具体的な実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0040】
(実験例1)
液状シリコーンゴムを硬化させて主成分であるシリコーンゴム成形体を作製し、このシリコーンゴム成形体の表面に、厚さ0.5μmのF−DLC膜を上述した製造プロセスを用いて形成した。
【0041】
このようにして作製したサンプルI−2(本発明)を用いて、(1)硬さ(Duro-A):JIS 6253、(2)引っ張り強さ:JIS 6251、および(3)伸び:JIS 6251を、それぞれ、求めた。
【0042】
また、実際に現像ブレードとして機能する形態のものを作製し、このものを電子写真画像形成装置の現像装置に組み込んで実際の稼動実験を行なった。稼動実験の結果、問題なしと判断の場合には符号「○」を、問題有りと判断の場合には、符号「×」として示した。
【0043】
なお、比較サンプル(サンプルI−1)は、シリコーンゴム成形体のみのものであり、F−DLC膜のコーティングがないものとした。これについても上記の特性を評価した。
【0044】
結果を下記表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示される結果より、シリコーンゴム成形体の上に成膜されたF−DLC膜は、現像ブレードとしての機能を果たす上では特に問題が生じないことが確認された。
【0047】
次いで、上記表1におけるサンプルI−1(比較例)の構成で作製した試料と、サンプルI−2(本発明:F−DLC膜有り)の構成で作製した試料を用いて、下記の要領で摩擦磨耗試験を実施した。
【0048】
摩擦磨耗試験
測定装置の概略図面を図6に示した。
【0049】
図6に示されるように試料ディスクを回転ステージに固定し、上部より固定された試料ボールを接触させた。この際、試料ボールおよびボール固定に使用する治具類は、ジンバルにより全体のバランスを調整することで、試料ボールにかかる垂直荷重は取り除くように設定した。試料ボールに上部に負荷ウエイトをのせ、試料ボールを介して試料に荷重ウエイト分の垂直荷重を印加させた。回転ステージの中心から試料ボールの位置を設定した距離ずらした後に、ステージを回転させることで試料上に設定した距離を半径とする円周上を試料ボールをすべらせ、この時、試料と試料ボールの間に生じる摩擦力を荷重センサで計測するようにした。
【0050】
測定条件は、
・負荷荷重:50g
・設定半径:3mm
・回転速度:15rpm
・線速度:4.71mm/secとした。
【0051】
結果を図7のグラフに示した。図7に示される結果より、サンプルI−2(本発明:F−DLC膜有り)は、時間の経過に対して摩擦係数がある程度低いまま維持されていることがわかる。
【0052】
次いで、サンプルI−1(比較例)の構成で作製した試料と、サンプルI−2(本発明:F−DLC膜有り)の構成で作製した試料を用いて、下記の要領で回転式磨耗試験を行なった。
【0053】
回転式磨耗試験
測定手法の概略構成を図8に示した。
【0054】
実験手順は以下のとおりとした。
【0055】
(1)試料をウエイトに固定して保持させる。
(2)ウエイトは定荷重の100gとする。
(3)回転盤に研磨紙#2400を固定する。
(4)試料を定荷重100gで、研磨紙が固定された回転盤の上に乗せて回転盤を150rpmで30分間回転させて試料を研磨させ、試料の研磨程度を評価する。
【0056】
試験前および後の形状を表面粗さ形状測定器で測定し、前後における差を研磨量とした。試料形状は、長さ4.5mm×幅10mm×厚さ1.5mmとした。
【0057】
結果を下記表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2に示される結果より、サンプルI−2(本発明:F−DLC膜有り)は、耐摩擦性が極めて優れていることがわかる。
【0060】
(実験例2)
液状シリコーンゴムを硬化させて主成分であるシリコーンゴム成形体を作製し、このシリコーンゴム成形体の表面に、厚さ0.5μmのパリレン樹脂(構造式Iのもの)を上述した製造プロセスに従って形成した。
【0061】
このようにして作製したサンプルII−2(本発明)を用いて、(1)硬さ(Duro-A):JIS 6253、(2)引っ張り強さ:JIS 6251、および(3)伸び:JIS 6251を、それぞれ、求めた。
【0062】
また、実際に現像ブレードとして機能する形態のものを作製し、このものを電子写真画像形成装置の現像装置に組み込んで実際の稼動実験を行なった。稼動実験の結果、問題なしと判断の場合には符号「○」を、問題有りと判断の場合には、符号「×」として示した。
【0063】
なお、比較サンプル(サンプルI−1)は、上述のごとくシリコーンゴム成形体のみのものである。
【0064】
結果を下記表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3に示される結果より、シリコーンゴム成形体の上に成膜されたパリレン樹脂膜は、現像ブレードとしての機能を果たす上では特に問題が生じないことが確認された。
【0067】
次いで、上記表1におけるサンプルI−1(比較例)の構成で作製した試料と、サンプルII−2(本発明:パリレン樹脂膜有り)の構成で作製した試料を用いて、すでに実験例1で説明した要領で摩擦磨耗試験を実施した。
【0068】
結果を図9のグラフに示した。図9に示される結果より、サンプルII−2(本発明:パリレン樹脂膜有り)は、時間の経過に対して摩擦係数が極めて低いまま維持されていることがわかる。
【0069】
次いで、サンプルI−1(比較例)の構成で作製した試料と、サンプルII−2(本発明:パリレン樹脂膜有り)の構成で作製した試料を用いて、すでに実験例1で説明した要領で回転式磨耗試験を行なった。
【0070】
【表4】

【0071】
表4に示される結果より、サンプルII−2(本発明:パリレン樹脂膜有り)は、耐摩擦性が極めて優れていることがわかる。
【0072】
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。すなわち、本発明におけるブレード部材は、シリコーンゴムを主成分として構成されており、このシリコーンゴムの表面に摩擦係数を低減させるためのコーティング膜が形成されてなるように構成されているので、実用的な範囲でシリコーンゴムの柔軟さを損なうことなく摩擦係数を下げてすべり易くして、ゴムの磨耗量を減少させ、現像ブレードの耐刷性を向上させることができる。また、摩擦係数を下げてすべり易くすることにより、現像ロールと現像ブレードの接触による力を小さくすることができ、駆動モータの小型化による省エネルギー化や、装置のコンパクト化を図ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
電子写真画像形成装置の現像装置に用いられる現像ブレードの製造に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の現像ブレードの一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の現像ブレードの他の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の現像ブレードの他の一例を示す斜視図である。
【図4】図3の平面図である。
【図5】現像装置の構造の一例を示す図である。
【図6】摩擦磨耗試験の測定装置を説明するための概略図面である。
【図7】摩擦磨耗試験の結果を示すグラフである。
【図8】回転式磨耗試験の測定手法を説明するための概略構成図である。
【図9】摩擦磨耗試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0075】
75…現像ブレード
82…支持部材
84…ブレード部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材の端側部にブレード部材を有する現像ブレードであって、
前記ブレード部材は、シリコーンゴムを主成分として構成されており、このシリコーンゴムの表面に摩擦係数を低減させるためのコーティング膜が形成されてなることを特徴とする現像ブレード。
【請求項2】
前記コーティング膜は、F−DLC(Flexible Diamond like Carbon)膜である請求項1に記載の現像ブレード。
【請求項3】
前記F−DLC膜は、プラズマ洗浄によりシリコーンゴム表面を水素ラジカルで暴露させ、しかる後、メチル基で暴露することにより形成されてなる請求項1または請求項2に記載の現像ブレード。
【請求項4】
前記F−DLC膜は、その厚さが0.01〜1μmである請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の現像ブレード。
【請求項5】
前記コーティング膜は、パリレン(Parylene)樹脂膜である請求項1に記載の現像ブレード。
【請求項6】
前記パリレン(Parylene)樹脂膜は、モノマーであるパラキシレンを蒸着室において蒸気化させ、シリコーンゴム表面と接触させて重合を開始させた高分子膜である請求項5に記載の現像ブレード。
【請求項7】
前記パリレン(Parylene)樹脂膜は、その厚さが0.2〜1μmである請求項6に記載の現像ブレード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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