説明

生クリームの製造方法

【課題】脂肪浮上(クリーミング)が抑制され、かつ、フェザリングが生じにくいことを特徴とする生クリームを提供する。
【解決手段】平均粒子径が2.7〜3.3μmであることを特徴とする生クリームの製造方法であって、以下の1)〜5)の工程:
1)原料乳から乳脂肪含量が35〜46質量%の分離クリームを調製する工程、
2)調製した分離クリームを均質圧X(MPa)にて均質する第一の均質化工程、
3)第一の均質化をした分離クリームを殺菌する工程、
4)殺菌した分離クリームを均質圧Y(MPa)にて均質する第二の均質化工程、
5)第二の均質化をした分離クリームを冷却して生クリームを製造する工程、
を含み、下記式:
(式1)0.5≦X/(X+Y)≦0.67
を満たす方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平均粒子径が2.7〜3.3μmであることを特徴とする生クリームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クリームは、牛乳等の乳から脂肪分を分離したものであって、長年、飲食品の原料として親しまれてきた。
クリームとは、成分規格上、乳脂肪含量(以下、脂肪率ということがある。)が18%以上のものを指す。クリームには、乳等省令(乳及び乳製品の成分規格等に関する省令)により、「生乳、牛乳、又は特別牛乳から乳脂肪分以外の成分を除去したもの」として定義されるクリーム(以下、生クリーム)と、クリームに植物油脂、乳化剤、安定剤等の添加物を加え、操作性や保形性を向上させた合成クリームがある。
生クリームは乳化剤や安定剤等を含有しないことから、口溶けが良く、風味が良好であるという特徴を有している。また、近年は高級志向に伴い、生クリームを使用したパンやケーキ、さらには産地を限定した生クリームを使用した飲食品も多い。このように、近年の健康ブームからも生クリームは天然の食品素材として好適である。
【0003】
一方、合成クリームは、生クリームの保存時や使用時の取り扱いにくさを改善し、物性を向上させたクリームである。合成クリームは、取り扱いやすく物性も良好であるという特徴を有しているが、乳化剤や安定剤を含有するために独特の風味や糊感を有する。
従来、天然の乳脂肪を主成分とする乳化物を200kg/cm以上で高圧乳化処理することからなる水中油型乳化物の製造方法が開示されている(特許文献1)。
また、140ppm以上の尿素を含有していることを特徴とする起泡性水中油型乳化物が開示されている(特許文献2)。
【0004】
さらには、ミセル状蛋白質を含有し、油滴のメジアン径が0.3〜5.0μmであり、油脂含量が20〜60重量%の水中油型乳化物の製造方法であって、原料となる水中油型乳化物に含まれる油滴のメジアン径を段階的に小さくしてゆき、該油滴の最終メジアン径を0.3〜5.0μmの範囲の所望の粒径とすることを特徴とする水中油滴型乳化物の製造方法が開示されている(特許文献3)。
【0005】
さらに、原料乳を分離して得られる乳脂肪含量が40〜46質量%の分離クリームを殺菌する殺菌工程と、前記殺菌工程の後に前記分離クリームを均質化する均質化工程と、さらに前記殺菌工程の前に前記分離クリームを均質化する均質化工程を有することを特徴とする生クリームの製造方法が開示されている(特許文献4)。
【0006】
【特許文献1】特開平7−177858
【特許文献2】特開2001−61410
【特許文献3】特開2006−304782
【特許文献4】特開2007−259831
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
乳化剤や安定剤を一切使用しない生クリームを製造するにあたっては、脂肪層と水層が分離して脂肪層が浮上するクリーム浮上(クリーミング)がしやすいという問題点があった。
特に、生クリーム中の脂肪率が高くなると、通常の均質化ではクリーム浮上を抑制することに十分ではなく、保存性の良好な生クリームを製造することは困難であった。
【0008】
また、コーヒーに添加するようなコーヒー用クリーム(コーヒークリーム)を製造する場合、コーヒーが高温かつ酸性であることもあって、乳脂肪の脂肪分がコーヒーの表面に浮上するオイルオフや、乳脂肪と乳蛋白質が凝集反応して羽毛状または細かい凝固物が生じるフェザリング現象が起こりやすいという問題点もあった。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明者らは鋭意検討した結果、生クリームの製造段階で、殺菌工程の前後に均質化処理の工程を実施し、その際の均質圧を、殺菌工程前の第一の均質化工程の均質圧が、殺菌工程後の第二の均質化工程の均質圧と同じか、それよりも高い均質圧に設定することによって、平均粒子径が2.7〜3.3μmの生クリームを製造することができ、当該生クリームは従来の生クリームに比して、クリーム浮上やフェザリングが顕著に改善されていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の課題は、乳脂肪含量が35〜46質量%である比較的に乳脂肪含量が高い生クリームの製造において、クリーム浮上やフェザリングが改善された生クリームの製造方法を提供すること、特にフェザリングが改善されたコーヒー用クリームの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための本願第一の発明は、生クリームの製造方法であって、以下の構成を採用している。
【0012】
すなわち、本発明は、平均粒子径が2.7〜3.3μmであることを特徴とする生クリームの製造方法であって、以下の1)〜5)の工程:
1)原料乳から乳脂肪含量が35〜46質量%の分離クリームを調製する工程、
2)調製した分離クリームを均質圧X(MPa)にて均質する第一の均質化工程、
3)第一の均質化をした分離クリームを殺菌する工程、
4)殺菌した分離クリームを均質圧Y(MPa)にて均質する第二の均質化工程、
5)第二の均質化をした分離クリームを冷却して生クリームを製造する工程、
を含み、下記式1:
【0013】
(式1)0.5≦X/(X+Y)≦0.67
を満たす方法、である。
【0014】
本発明は、前記の方法で製造した生クリームが以下の6)及び7):
6)5℃で18日間静置した後のクリーム浮上率が2.5質量%以下であること、
7)85℃で保温された1.5質量%のコーヒー液に添加した際にフェザリングの発生が抑制されること、
を満たすことを好ましい態様としている。
また、前記課題を解決するための本願第二の発明は、上記した製造方法で製造される生クリームである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、クリーム浮上(クリーミング)が抑制され、コーヒー液に添加したときにフェザリングを生じにくいという効果を有する生クリームの製造方法を提供することができ、特に乳脂肪含量は35〜46質量%の生クリームの製造の際に顕著な効果が発揮されるのである。
【0016】
本発明の生クリームは、従来の生クリームよりも乳化安定性、耐熱性、耐酸性が顕著に高く、取り扱いの制限が少ないことから、調理等の作業の自由度が増し、飲食品等に広く利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0018】
[生クリームの製造方法]
本発明は、原料乳から乳脂肪含量が35〜46質量%の分離クリームを調製し、調製した分離クリームを均質圧X(MPa)にて均質する第一の均質化工程を行い、次いで、第一の均質化をした分離クリームを殺菌し、その後、殺菌した分離クリームを均質圧Y(MPa)にて均質する第二の均質化工程を行い、第二の均質化をした分離クリームを冷却して生クリームを製造する方法である。
ここで、前記第一の均質化処理を行う際の均質圧Xと、第二の均質化処理を行う際の均質圧Yとの均質圧の比率には、以下の式1で示される関係が満たされるものである。
【0019】
(式1)0.5≦X/(X+Y)≦0.67
【0020】
前記の方法により製造される生クリームは、平均粒子径が2.7〜3.3μmであるという特徴を有するものである。
また、本発明で製造される生クリームは、以下のa)及びb)の効果を有するものとして製造されることが好ましい。
a)5℃で18日間静置した後のクリーム浮上率が2.5質量%以下であること。
b)85℃で保温された1.5質量%のコーヒー液に添加した際にフェザリングの発生が抑制されること。
【0021】
[分離クリームを調製する工程]
前記本発明に係る生クリームの製造方法では、牛乳、生乳、特別牛乳等の原料乳から分離した、乳脂肪含量が35〜46質量%の分離クリームを用いて生クリームを製造する。
乳脂肪含量が35質量%未満の生クリームについては、特に規定はなく、本発明の方法と同様に実施して、クリーム浮上のない生クリームを製造することができる。
なお、乳脂肪含量が46質量%を超える生クリームについても、本発明の方法を適用することが可能であるが、殺菌工程前に均質化工程を行う際、粘度が高くなりやすくなるという傾向がある。
すなわち、本発明の生クリームの製造方法では、乳脂肪含量が35〜46質量%のときに、本発明の製造方法の効果を最大限に発揮することができるのである。
【0022】
[分離クリームを均質化する工程]
前記本発明に係る生クリームの製造方法では、均質化処理を殺菌工程の前後に2回に分けて実施するという特徴を有するものであって、特に、第一の均質化処理を行う際の均質圧X(MPa)と、第二の均質化処理を行う際の均質圧Y(MPa)との均質圧の比率には、以下の式1で示される関係が満たされるものである。
【0023】
(式1)0.5≦X/(X+Y)≦0.67
【0024】
すなわち、本発明において、殺菌工程前の第一の均質化工程の均質圧は、殺菌工程後の第二の均質化工程の均質圧と同じか、それよりも高い均質圧であること(X≧Y)を特徴とするものである。
ここで、従来の均質化工程では、殺菌工程の前後に均質化工程を設けた生クリームの製造方法は知られていたものの、殺菌工程前の均質化工程は、乳化されている分離クリームの乳化を強化するための予備的な均質であるとされ、比較的弱い均質圧で均質することが一般に実施されている状況であった。このため、殺菌工程前の第一の均質化工程における均質圧α(MPa)と、殺菌工程後の第二の均質化工程における均質圧β(MPa)の関係は、以下の式2を満足する条件で均質化処理されていることが公知であった。
【0025】
(式2)α<β
【0026】
[第一の均質化工程]
本発明に係る第一の均質化する工程とは、原料乳から分離された分離クリームを均質化する工程である。
均質化の方法としては、例えば、分離クリームをプレート加熱機等により所定の均質化温度になるように加温し、ホモジナイザー等の均質機を用いて均質化する方法等が用いられる。
分離クリームの加温には、プレート式加熱機、バッチ式加熱機等が用いられる。中でも、分離クリームの加温効率の点から、プレート式加熱機を用いることが好ましい。
【0027】
前記均質化温度は、60〜100℃とすることが好ましく、60〜90℃とすることがより好ましく、70〜90℃とすることがさらに好ましい。
均質化温度を60℃以上とすることにより、分離クリームの均質化効率が向上する。また、均質化温度を90℃以下とすることにより、作業性が向上し、生クリームの風味が向上する。さらに、均質化温度を70〜90℃とすることにより、クリーム浮上(クリーミング)の抑制効果がより向上する。なお、均質化温度を100℃以下とすると、生クリームの風味に加熱臭や酸化臭が抑制されることから、好ましい。
【0028】
また、分離クリームの均質化には、ホモジナイザー等の均質機が用いられる。また、マイクロフルイダイザー、コロイドミル等を用いても良い。中でも、分離クリームの均質化効率及び処理能力の点から、ホモジナイザーを用いることが好ましく、その中でも二段均質機を用いることが好ましい。分離クリームの均質化においては、均質化圧力を制御することが非常に重要であり、本発明の特徴的な部分である。
例えば、均質化工程の均質圧X(MPa)は、2〜8MPaが好ましく、3〜7MPaがより好ましく、3〜4MPaが最も好ましい。
また、均質機として二段均質機を用いる場合は、均質圧X(MPa)を全圧とすることが好ましく、2次圧を0.5〜1.0MPaとすることが好ましい。
なお、第一の均質化する工程は、直後に殺菌工程を有していてもよく、第一の均質化する工程と殺菌工程の間に別の工程が入っても良い。
【0029】
[殺菌工程]
第一の均質化をした分離クリームは、次いで殺菌処理される。殺菌方法は、例えば、高温短時間殺菌法(HTST)、超高温殺菌法(UHT)等が用いられるが、殺菌効率と風味の点から、超高温殺菌法が好ましい。
殺菌温度と処理時間は、例えば高温短時間殺菌法(HTST)の場合は82〜85℃で10秒〜5分が好ましく、超高温殺菌法(UHT)の場合は120〜135℃で2〜30秒であることが好ましい。
【0030】
[第二の均質化工程]
本発明に係る第二の均質化する工程では、前記殺菌工程で殺菌された分離クリームを均質化処理する工程を意味する。本発明においては、前記第一の均質化工程と合わせ、殺菌処理の前後で分離クリームを均質化することにより、クリーム浮上(クリーミング)の抑制効果が得られる。
均質化の方法としては、第一の均質化する工程と同様に実施することが可能であり、例えばプレート加熱機等により所定の均質化温度になるように加温し、ホモジナイザー等の均質機を用いて均質化する方法等が用いられる。また、加温には、プレート式加熱機、バッチ式加熱機等が用いられる。中でも、分離クリームの加温効率の点から、プレート式加熱機を用いることが好ましい。
【0031】
さらに、第二の均質化する工程における均質化温度は、60〜100℃とすることが好ましく、60〜90℃とすることがより好ましく、70〜90℃とすることがさらに好ましい。均質化温度を60℃以上とすることにより、分離クリームの均質化効率が向上する。
また、均質化温度を90℃以下とすることにより、作業性が向上し、生クリームの風味が向上する。また、均質化温度を70〜90℃とすることにより、クリーム浮上(クリーミング)の抑制効果がより向上する。なお、均質化温度を100℃以下とすると、生クリームの風味に加熱臭や酸化臭が抑制されることから、好ましい。
【0032】
また、分離クリームの均質化には、ホモジナイザー等の均質機が用いられる点で、第一の均質化する工程と共通の均質機(ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー、コロイドミル等)を使用することが可能である。
【0033】
本発明の第二の均質化工程の均質圧Y(MPa)は、前記式1の関係を満たすことが好ましい。具体的には、第一の均質化する工程の均質圧Xに応じて、第二の均質化工程の均質圧Yを設定することができ、均質圧Yは1〜8MPaがより好ましく、1.6〜7MPaがさらに好ましく、1.6〜4MPaが最も好ましい。また、均質機として二段均質機を用いる場合は、均質圧X(MPa)を全圧とすることが好ましく、2次圧を0.5〜1.0MPaとすることが好ましい。
なお、第二の均質化する工程は、殺菌工程の直後であってもよく、殺菌工程と第二の均質化する工程の間に他の工程を有していてもよい。
【0034】
[冷却して生クリームを製造する工程]
前記第二の均質化処理を行った分離クリームは、均質化直後に冷却される。冷却温度は、0〜10℃であることが好ましく、0〜5℃であることが好ましい。
冷却には、プレート式冷却機、チューブラー式冷却機等が用いられる。なかでも、冷却効率の高いプレート式冷却機を用いることが好ましい。冷却された分離クリームは、エージングタンク又は冷蔵庫で貯蔵され、エージングされる。
【0035】
エージングの温度は、0〜10℃であることが好ましく、0〜5℃であることが好ましい。また、エージングに費やす時間は、好ましくは数時間〜十数時間であり、より好ましくは8〜12時間である。これにより、生クリーム中の脂肪分等の結晶化が進行し、生クリームの品質が安定する。
このようにして製造された生クリームは、適宜充填機で充填され、生クリーム製品として出荷される。
上記した本発明の製造方法で得られる生クリームは、クリーム浮上率が抑制され、さらにコーヒー液に添加した際にフェザリングが抑制されるという効果を有している。
【0036】
[平均粒子径]
本発明における生クリームの平均粒子径は、製造した生クリームを含む試料をレーザー回折式粒子分布測定装置等を使用して、生クリームの平均粒子径を測定することができる。
本発明における生クリームの平均粒子径の測定は、例えば、測定試料の生クリームを0.01g計量し、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、商品名:LA−950V2)を使用して、循環流量5、撹拌速度2の条件で測定したときの平均粒子径(粒度累積分布の50%に相当する粒子径の値)を測定することによって行うことができる。
本発明の製造方法により製造される生クリームは、前記の平均粒子径の測定方法において、平均粒子径が2.7〜3.3μmであることを特徴としている。
【0037】
[クリーム浮上率]
本発明におけるクリーム浮上率は、クリーム浮上(クリーミング)の程度、言い換えれば、生クリーム中に存在する脂肪分(脂肪球)の非均質性を示すものであり、下記の式3により表すことができる。
【0038】
(式3)クリーム浮上率(質量%)=(脂肪層(クリーム層)の質量/生クリームの全質量)×100
【0039】
上記式3において、「脂肪層(クリーム層)の質量」とは、生クリーム表面に浮上してできた白色、黄白色の濃厚な脂肪層(クリーム層)の質量を意味する。
具体的には、生クリーム1kgを1L容器の紙パックに充填し、5℃に設定した冷蔵庫で18日間静置して保存した後、目開き0.355mmのふるいにかけ、該ふるい上に回収された質量を脂肪層(クリーム層)の質量とする。こうして求められた脂肪層の質量と生クリームの全質量(1kg)から、本発明におけるクリーム浮上率を求めることができる。
【0040】
[コーヒーテスト]
本発明では、フェザリングの評価方法としてコーヒーテストを実施することができる。本発明におけるコーヒーテストとは、まず、市販のインスタントコーヒーを湯に溶解して1.5質量%濃度のコーヒー液とした後、85℃に昇温する。このコーヒー液100mLに5gの生クリームを添加したときのフェザリングの度合いを目視し、下記の評価基準に基づいて評価した。目視による評価点は、2回評価した点数の平均値から求める。
【0041】
評価基準:0点(フェザリングを認めない)、
0〜1点(フェザリング様の白色物が表面にある)、
1〜2点(軽いフェザリングを認める)、
2〜5点(かなりのフェザリングを認める)
なお、フェザリングは、生クリーム中の脂肪球の粒子径による影響も大きいため、本評価方法においては、試料である生クリームの平均粒子径(50体積%径)がほぼ同じものを用いて評価を行った。
【0042】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
[実施例1]
(乳脂肪含量40質量%の生クリームの製造)
生乳をディスク型クリームセパレータ(ウエストファリアー製)を用いて、分離温度53℃の条件下で分離処理し、乳脂肪率40質量%の分離クリームを得た。続いて、分離クリームを、プレート式加熱機で80℃まで加熱して、二段均質機(三丸機械製)で全圧3MPa、2次圧1MPaの条件で均質化処理を行った(第一の均質化工程)。
次いで、均質化された分離クリームを、UHT装置(森永エンジニアリング製、連続式プレート殺菌機)で120℃、15秒間の条件で殺菌し、前記UHT装置内のプレート冷却機で80℃まで冷却した。さらに、加熱殺菌され、80℃に冷却された分離クリームを二段均質機(三丸機械製)を用いて全圧2MPa、2次圧1MPaの条件で均質化処理を行った(第二の均質化工程)。最後に、第二の均質化のされた分離クリームを冷却して、生クリームを得た。
製造した生クリームは、クリーム浮上が抑制され、コーヒー液に添加してもフェザリングが抑制された良好な品質を有していた。
【0044】
次に本発明の効果を説明するための試験例を示す。なお、本試験例において、均質圧とは二段均質機の全圧を示し、2次圧はすべての試験例において1MPaに設定されている。
【0045】
[試験例1]
本試験は、殺菌工程の前後の均質圧と、製造品である生クリームの性状との関係を検討することを目的とした。
(1)試料の調製
生乳をディスク型クリームセパレータ(ウエストファリアー製)を用いて、分離温度53℃の条件下で分離処理を行うことにより、乳脂肪率45質量%の分離クリームを得た。
【0046】
(2)試験方法
分離クリームをプレート式加熱機により、80℃まで加熱した。続いて、第一の均質化工程において、80℃に加熱された分離クリームを、二段均質機(三丸機械製)を用いて表1に示す均質圧にて均質化処理を行った。次いで、殺菌工程において、前記分離クリームに対して、UHT装置(森永エンジニアリング製、連続式プレート殺菌機)により120℃、15秒間の殺菌を行った。
その後、上記殺菌工程で殺菌された分離クリームを、前記UHT装置内のプレート冷却機により、80℃まで冷却した。そして、第二の均質化工程において、加熱殺菌され、80℃に冷却された分離クリームを二段均質機(三丸機械製)を用いて表1に示す均質圧にて均質化処理を行った。
【0047】
(3)評価方法
異なる均質圧で製造した生クリームに対して、平均粒子径の測定、クリーム浮上率の測定、コーヒーテストによるフェザリングの評価を行い、均質化工程における均質圧、及び殺菌工程前後の均質圧の比率との関係を評価した。
【0048】
[平均粒子径]
平均粒子径は、試料溶液の生クリームを0.01g分取し、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、商品名:LA−950V2)を使用して、循環流量5、撹拌速度2の条件で測定したときの平均粒子径(粒度累積分布の50%に相当する粒子径の値)を測定した値を用いた。
【0049】
[クリーム浮上率]
製造した生クリーム1kgを1L容量の紙パックに充填し、5℃に設定した冷蔵庫にて18日間静置して保存した。保存後、紙パックに充填された生クリーム表面に浮上してできた堅い黄白色のクリーム層を、目開き0.355mmのふるいにかけて回収し、質量を測定した。そして、前記の式3によりクリーム浮上率(質量%)を求めた。
【0050】
[コーヒーテスト]
本発明では、フェザリングの評価方法としてコーヒーテストを行った。コーヒーテストは、まず、市販のインスタントコーヒーを湯に溶解して1.5質量%濃度のコーヒー液とした後、85℃に昇温した。このコーヒー液100mLに5gの生クリームを添加して、発生したフェザリングについて目視評価した。
目視評価は下記の評価基準に基づいて実施し、評価点は2回ずつ試験して評価した点数の平均値から求めた。
【0051】
評価基準:0点(フェザリングを認めない)、
0〜1点(フェザリング様の白色物が表面にある)、
1〜2点(軽いフェザリングを認める)、
2〜5点(かなりのフェザリングを認める)
なお、フェザリングは、生クリーム中の脂肪球の粒子径による影響も大きいため、本評価方法においては、脂肪球の平均粒子径(50体積%径)がほぼ同じものを用いて評価を行った。本試験では、平均粒子径が3.0〜3.5μmのものを用いた。
【0052】
[均質圧の比率]
均質圧の比率とは、第一の均質化工程の均質圧(第一の均質圧と記載することがある)X(MPa)と第二の均質化工程の均質圧(第二の均質圧と記載することがある)Y(MPa)の総和に占める第一の均質化工程の均質圧X(MPa)の比率を示す数値であって、具体的には下記の式4で求めることができる。
【0053】
(式4)均質圧の比率=X/(X+Y)
【0054】
(4)結果
本試験の結果は表1に示されるとおりである。
試験試料1では、第一の均質圧を3MPa、第二の均質圧を3MPaとしたとき、クリーム浮上率が2.0質量%に抑制されていた。また、フェザリングの評価点も0.8とフェザリングの発生が相当程度抑制されていた。第一の均質圧を4MPa、第二の均質圧を2MPaとした試験試料2でも、クリーム浮上率が1.9質量%、フェザリングの評価点が1.0と良好な結果が得られた。さらに、第一の均質圧を3MPa、第二の均質圧を2MPaとした試験試料3においても、クリーム浮上率が2.3質量%、フェザリングの評価点が0.7と良好な結果が得られた。
【0055】
一方、対照試料1では第一の均質圧を2MPa、第二の均質圧を2MPaとしたところ、クリーム浮上率が2.7%と高くなった。対照試料1の均質圧の比率は0.50であるが、平均粒子径が3.5μmであったことから、クリーム浮上率が高くなった。また、第一の均質圧を2MPaとし、第二の均質圧を4MPaとした対照試料2では、フェザリングの評価点が高くなった。
【0056】
従って、均質圧の比率が0.5〜0.67であるものが特に好ましいことが明らかになった。よって、本発明の生クリームの製造方法では、均質圧の比率とともに、生クリームの平均粒子径が3.3μm以下であることが好ましい条件であることが明らかになった。
【0057】
【表1】

【0058】
[試験例2]
本試験は、試験例1の試験方法によって、平均粒子径の小さい生クリームについて殺菌工程の前後の均質圧と、製造品である生クリームの性状との関係を検討することを目的とした。
(1)試料の調製
試験例1で用いた乳脂肪率45質量%の分離クリームを使用した。
【0059】
(2)試験方法
第一の均質化工程の均質圧X(MPa)と第二の均質化工程の均質圧Y(MPa)の設定値を除き、試験例1と同様の方法で試験した。
【0060】
(3)評価方法
異なる均質圧で製造した生クリームに対して、試験例1と同様の方法によって、平均粒子径の測定、クリーム浮上率の測定、コーヒーテストによるフェザリングの評価を行い、均質化工程における均質圧、及び殺菌工程前後の均質圧の比率との関係を評価した。
評価方法は、試験例1と同様の方法を用いた。
本試験では、生クリームの平均粒子径が2.5〜2.7μmのものを用いた。
試験例2の均質圧の条件は表2の通りである。
【0061】
(4)結果
本試験の結果は表2に示されるとおりである。
試験試料4では、第一の均質圧を4MPa、第二の均質圧を3MPaとしたとき、クリーム浮上率が1.7質量%に抑制されていた。また、フェザリングの評価点も2.0とフェザリングの発生が相当程度抑制されていた。そして、試験試料4の均質圧の比率は0.57であった。
【0062】
一方、対照試料3〜6では、クリーム浮上率は試験例と同様に抑制されていたが、フェザリングの発生は抑制されず、評価点が3.0〜4.0と高くなった。対照試料5では均質圧の比率は0.5であるが、平均粒子径が2.5μmと小さいものであった。
【0063】
表2の試験試料4の結果から、均質圧の比率は0.57であるときにクリーム浮上率の結果及びフェザリングの評価点が良好であり、このときの平均粒子径は2.7μmであることが明らかとなった。
また、試験例1及び2の両試験の結果から、平均粒子径が2.7〜3.3μmの生クリームの製造方法において、第一の均質化工程の均質圧X(MPa)と第二の均質化工程の均質圧Y(MPa)は前記式1を満たす場合において、クリーム浮上及びフェザリングの発生の抑制された良好な生クリームを製造できることが明らかになった。
【0064】
【表2】

【0065】
[試験例3]
本試験は、試験例1の試験方法によって、脂肪含有率の低い生クリームについて殺菌工程の前後の均質圧と、製造品である生クリームの性状との関係を検討することを目的とした。
(1)試料の調製
生乳をディスク型クリームセパレータ(ウエストファリアー製)を用いて、分離温度53℃の条件下で分離処理を行うことにより、乳脂肪率35質量%の分離クリームを得た。
【0066】
(2)試験方法
第一の均質化工程の均質圧X(MPa)と第二の均質化工程の均質圧Y(MPa)の設定値を除き、試験例1と同様の方法で試験した。
【0067】
(3)評価方法
異なる均質圧で製造した生クリームに対して、試験例1と同様の方法によって、平均粒子径の測定、クリーム浮上率の測定、コーヒーテストによるフェザリングの評価を行い、均質化工程における均質圧、及び殺菌工程前後の均質圧の比率との関係を評価した。
評価方法は、試験例1と同様の方法を用いた。
本試験では、生クリームの平均粒子径が2.7μmのものを用いた。
試験例3の均質圧の条件は表3の通りである。
【0068】
(4)結果
本試験の結果は表3に示されるとおりである。
試験試料5では、第一の均質圧を4MPa、第二の均質圧を4MPaとしたとき、クリーム浮上率が1.5質量%に抑制されていた。また、フェザリングの評価点も1.5とフェザリングの発生が相当程度抑制されていた。そして、試験試料5の均質圧の比率は0.5であった。また、試験試料6では第一の均質圧を5MPa、第二の均質圧を3MPaとしたが、試験試料5と同様の良好な結果が得られた。このときの均質圧の比率は0.63であった。
【0069】
一方、対照試料8では、クリーム浮上率は試験例と同様に抑制されていたが、フェザリングの抑制が十分ではなく、評価点が2.5と高くなった。
【0070】
表3の結果より、脂肪含有率が35質量%の場合においても、前記試験例1や試験例2の結果で明らかとなった脂肪含有率45質量%の結果と同様の効果が発揮されることが判明した。
【0071】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の生クリームの製造方法は、クリーム浮上が少なく、フェザリングの抑制された生クリームを製造できることから、飲食品等の原材料や製品として広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が2.7〜3.3μmであることを特徴とする生クリームの製造方法であって、以下の1)〜5)の工程:
1)原料乳から乳脂肪含量が35〜46質量%の分離クリームを調製する工程、
2)調製した分離クリームを均質圧X(MPa)にて均質する第一の均質化工程、
3)第一の均質化をした分離クリームを殺菌する工程、
4)殺菌した分離クリームを均質圧Y(MPa)にて均質する第二の均質化工程、
5)第二の均質化をした分離クリームを冷却して生クリームを製造する工程、
を含み、下記式:
(式1)0.5≦X/(X+Y)≦0.67
を満たす方法。
【請求項2】
前記の方法で製造した生クリームが以下の6)及び7):
6)5℃で18日間静置した後のクリーム浮上率が2.5質量%以下であること、
7)85℃で保温された1.5質量%のコーヒー液に添加した際にフェザリングの発生が抑制されること、
を満たすことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法で製造される生クリーム。

【公開番号】特開2011−211925(P2011−211925A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81176(P2010−81176)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】