説明

生体物質および化学物質の光学的測定方法および光学的測定装置

【課題】 生体組織中の生体物質および化学物質を非侵襲的または侵襲的に迅速、簡便に、かつ高精度の測定装置を提供する。
【解決手段】 プラスチックを断面が円形または楕円形の棒状体に成形してなるハウジングと
前記ハウジングの内部の一方側から長手方向にバッテリー11、演算処理部6、信号処理部5を隣接して配置し;
信号処理部5の上部に表示部7を設置し;
隣接して点灯回路部8および隣接して測定用スイッチ15を設置し;
前記点灯回路部8に隣接して2種以上のLED1、レンズ系9および2種以上の受光部4を間隔を設けて固定した軽金属製円筒を配置し;
受光部4と反射板13の間に指挿入部を設け;
前記反射板13の背後に隣接して信号処理装置5を配置し;
さらに、前記装置各要素はプラスチックの充填により固定してなることを特徴とする生体物質等の非侵襲性光学的測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液、細胞その他の生体組織内に含有される生体物質および化学物質の光学的測定方法および光学的測定装置に関するものであり、さらに詳しくは、血液、血清、細胞液、唾液、間質液、涙、汗、尿、その他の体液、細胞、血球、リンパ球、その他の生体組織内に含有され、紫外領域(200〜380nm)、可視領域(380〜780nm)、近赤外領域(780〜2500nm)および赤外領域(2500〜5000nm)のいずれかの領域に光吸収を有する生体物質および化学物質(本明細書において、これらの物質を総称して「生体物質等」ということがある。)を対象とし、発光素子および回折格子からの光を利用して迅速な検出、定性および定量分析を行なう光学的測定方法および非侵襲性または侵襲性光学的測定装置に関するものである。
なお、本明細書において、「発光素子」は、半導体発光素子に属するものであり、発光ダイオードおよびレーザーダイオードを包含するものとして用いる。
【0002】
本発明によれば、前記の如き生体物質等の定性および定量分析を介して、微小ガン、リュウマチ因子、アルツハイマー等の痴呆症、糖尿病、高血圧、脳検査等の診断に有用な分析情報を提供することができ、また、測定結果を用いることにより症状を予見、診断し、病態の進行の把握に寄与することができる。
【背景技術】
【0003】
従来、生体物質の光学的測定方法として、開発されている非侵襲的な検出および診断に用いられる定性および定量方法は、血液中のヘモグロビンを対象としたものが実用化されているにすぎない(例えば、特開2002−107291号公報参照。)。
【0004】
また、血液等を試料とする血液成分の侵襲的な検出および診断に頻度高く一般に用いられる測定方法であっても、
(1)診断に要する時間が長いという難点がある。短かくても数10分または数10分以上を要するものが多く、長いものは一昼夜を要する診断もある。
また、
(2)近年、診断の多項目化が進んでおり、そのため多量(例えば、通常の診断で5ml採血用真空ガラス管が2〜3本必要となる。)の採血が行なわれているが、採血には痛みを伴なうばかりでなく、感染のおそれが生じるため、その防止の対策が必要となる。また、採血器具および診断後のキットの廃棄等の医療廃棄物も大量産生するという問題も生ずる。
さらに、
(3)生体組織内の生体物質等を対象とする診断の操作が多段階となり、かつ操作が複雑であるため、熟練を要する方法が多く、その結果、測定精度に難点を包蔵するものが多い。
(4)前記の如き状況から従来採用されている生体組織内に含有される生体物質等の測定方法は、通常、長時間を要し、しかも高コストとなることが避けられない。
【0005】
しかしながら、かかる問題点を背景に、例えば、特許文献1(特開平11−64218号公報)には、生体組織中の体液成分の濃度、または血液、細胞液、唾液等の体液中のコレステロール、中性脂肪、アルブミン等の成分の濃度の定量方法として、1480〜1880nmの波長領域にわたる近赤外領域におけるCH基、OH基およびNH基由来の光の吸収を利用した方法が提案されており、被測定物質の吸光スペクトルを利用するものであるが、やはり長時間を要し、また操作が煩雑のものであり、迅速な検出、定性および定量が可能な段階には達していない。
【0006】
また、特許文献2(特開平5−176917号公報)によれば、波長380〜1320nmの近赤外光を用いて人体内のグルコース濃度を非侵襲的に測定する光学的測定方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、前記の特許文献1に記載の方法と同様に迅速な診断を行なう点については解決されていない。
【0008】
また、前記の如き提案は、いずれも近赤外光を利用したものであり、体液その他生体組織中に含有される可視領域および紫外領域での生体物質を含めた広範囲の生体物質等の検出、定性および定量分析については開示がなく、もちろん示唆するものもない。
【0009】
かかる状況下において、体液または生体組織内の前記の如き各種の生体物質の迅速かつ簡便で正確な光学的測定方法であって、侵襲的測定のほか非侵襲的測定が可能な測定方法の開発が切望されてきた。
【0010】
【特許文献1】特開平11−64218号公報
【特許文献2】特開平5−176917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の課題は、前記の如き事情に鑑み、前記問題点を解消させるねらいから、紫外領域(200〜380nm)、可視領域(380〜780nm)、近赤外領域(780〜2500nm)および赤外領域(2500〜5000nm)のいずれかの領域に光吸収帯をもつ生体物質等の定性分析および定量分析を迅速かつ簡便に行なうことができ、現場において前記生体物質等の測定が可能な光学的測定方法を提供することにあり、また、特に人体内の末梢血管および生体組織等を対象とする生体物質等の可能な光学的測定装置であって、外科的な侵襲的方法でしか検出および診断ができなかった生体の異常細胞、成分、血液中の異常の判別を可能とした光学的測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者は、前記の課題を解決するため、鋭意検討を重ねたところ、体液および生体組織内の微量な生体物質等が有する吸光による信号をとらえ、増幅することにより多変量解析を可能とし、さらに、所望の生体物質等以外の生体物質の信号を排除し、適正化すれば定量的に可能であることに着目し、被測定物質の光吸収波長領域に適合させた発光波長の発光素子を用いることによりかかる課題を容易に達成できることを見出し、これらの知見に基いて本発明の完成に到達した。
【0013】
すなわち、本発明によれば、体液、細胞その他の生体組織中に含有される生体物質および化学物質の検出、定性および定量が可能な光学的測定方法であり、
体液、細胞その他の生体組織内に含有される生体物質および化学物質の検出、定性および定量が可能な光学的測定方法であって、
【0014】
1)紫外領域、可視領域、近赤外領域および赤外領域を含むいずれかの波長領域
に少なくとも一つの光吸収帯を有する前記生体物質および化学物質を含有す
る被測定対象物に対し、
前記生体物質および化学物質の光吸収帯が属する波長領域に適合する波長の
光を放出する1種または2種以上の発光素子を用いることにより該放出光を
照射する工程と、
2)前記照射工程において照射され、前記被測定対象物を透過または反射した光
を1種または2種以上の受光素子により受光し、電気信号に変換する受光工
程とを、少なくとも含むことを特徴とする生体物質および化学物質の光学的
測定方法
が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、
体液、細胞その他の生体組織中に含有される生体物質および化学物質の検出、定性および定量が可能な光学的測定装置であって、
【0016】
1)紫外領域、可視領域、近赤外領域および赤外領域を含むいずれかの波長領域に
おいて、前記生体物質または化学物質が有する少なくとも一つの光吸収帯に適
合するように選択された波長の光を放出する1種または2種以上の発光素子に
より発光する発光手段と、
2)前記発光手段から発せられた光を集光する集光手段と、
3)前記集光手段により集光された光を被測定対象物上に集光し照射する集光・照
射手段と、
4)前記集光・照射手段により照射され前記被測定対象物を透過または反射した光
を受光する1種または2種以上の受光素子からなる受光手段と、
5)前記受光手段の出力信号を光電変換する信号処理手段と、
6)前記信号処理手段により光電変換された検出信号に基づいて、交差検証法およ
び部分最小二乗法により、吸光度スペクトルを解析・演算することにより生体
物質等を検出、定性または定量する生体物質等濃度算出手段および前記算出結
果の表示手段とを少なくとも備えることを特徴とする体液、細胞その他生体組
織中に含有される生体物質および化学物質の非侵襲性または侵襲性光学的測定
装置
が提供される。
【0017】
本発明は、前記の如く、体液、細胞その他の生体組織中に含有される生体物質等の光学的測定方法および該光学的測定方法を実現するものとして構成された光学的測定装置に関するものであるが、さらに好ましい実施の態様として次の1)〜9)に掲げるものを包含する。
【0018】
1)前記被測定対象物が、人体から採取された血液、尿、間質液、唾液、涙または
汗である前記生体物質等の光学的測定方法。
2)前記被測定対象物が、人体から採取した細胞、組織、血球またはリンパ球であ
る前記生体物質等の光学的測定方法。
3)前記発光素子が同一波長を有する二個以上の発光ダイオードの組合せである前
記生体物質等の光学的測定方法。
4)前記発光素子が、前記生体物質の光吸収帯に適合する発光波長を有するもので
あって、互いに異なるピーク波長を有する二種以上の発光ダイオードの組合せ
である前記生体物質等の光学的測定方法。
5)血液中のグルコース濃度を測定する場合において、1560nm、1570n
m、1580nmおよび1590nmのピーク波長をそれぞれ連続的に有する
互いに異なる発光ダイオードまたはレーザーダイオードを同時に使用する前記
生体物質等の光学的測定方法。
6)前記被測定対象物が、生体物質の呈色反応生成物に、さらに第二の呈色反応に
より共役された呈色反応生成物を含む生体組織である前記生体物質等の光学的
測定方法。
7)前記被測定対象物が指、腕、耳朶、唇その他の体表組織の皮下の末梢血管また
は組織であり、ヘモグロビン類、血清アルブミン、チトクローム類、フラビン、
カロチン、クレアチニン、ビリルビン、総コレステロールおよび遊離コレステ
ロール等のコレステロール類、中性脂肪、尿酸、トリグリセライド 、リン脂
質または微小ガン組織を対象とする生体物質等の前記非侵襲性光学的測定装置。
8)前記被測定対象物が、呈色試薬、酵素、抗体等との反応により生成した染色物
である生体物質等の前記非侵襲性光学的測定装置。
9)前記被測定対象物が、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(GOT)、アラニン
アミノ基転移酵素(GPT)、グルタミルペプチド転移酵素(γ−GTP)、酸性
およびアルカリ性ホスファターゼ、乳酸脱水素酵素、スーパーオキシドジスム
ターゼ、クレアチンホスホキナーゼ、ロイシンアミノペプチダーゼ、コリンエ
ステラーゼ、血中アミラーゼ、ビスフェノール類、ダイオキシン、ポリ塩化ビ
ニール類、フタル酸類、コカイン、モルヒネならびに麻薬類と呈色試薬、酵素
または抗体との反応生成物、その他の疾病検査物質である前記生体物質等の侵
襲性光学的測定装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以上説明したように、体液、細胞その他の生体組織中に含有される生体物質および化学物質の迅速、簡便であり、かつ高精度の光学的測定方法を提供するものであり、(1)測定時間が1秒以下と短縮することができ、(2)最小検体量でよく、(3)検出反応が単純化され、(4)極めて効果的に低コスト化を図ることができ、(5)簡便性を有し、(6)かつ非侵襲的な測定を可能とするなどの効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に係る光学的測定方法の対象とする生体物質および化学物質は、体液、細胞その他生体組織中に本来含有される成分または外部から付着、侵入した生体物質等であり、いずれであっても測定上差し支えがない。
【0021】
体液は、生体組織内に含まれる種々の機能的に異なった液体を総称したものであり、細胞外液および細胞内液に区分されるが、本明細書においては、具体的には、血液、血清、間質液、細胞透過液(消化管内液、膀胱内液、腺組織内の分泌液等。)、唾液、涙、汗、尿等を包含したものである。
また、前記生体組織は、正常細胞のほか、ガン細胞等の異常細胞をも含むものとして使用される。
【0022】
本発明に係る光学的測定方法において、体液、細胞その他の生体組織は、被測定対象物として用いられ、該被測定対象物中に含有される生体物質および化学物質が検出、定性および定量の対象とされる。
かかる生体物質等の光学的測定に際しては、主として次の四種の形態において行なうことができる。
【0023】
すなわち、第一の形態は、皮膚の上から行なう非侵襲的測定に関するものであり、直接測定が可能な生体物質として次のものを例示することができる。下表に示すように各生体物質は、それぞれの測定に利用可能な波長を採用することにより測定することができる。
【0024】
【表1】

【0025】
また、生体物質等の非侵襲的測定においては、被測定対象物として皮下の末梢血管を静脈および動脈を問わず対象とすることができ、指、腕、耳朶、唇、その他の体表組織等を用いることができる。
また、体液、細胞その他の生体組織内に侵入し含有する化学物質であって、非侵襲的測定が可能なものとして次のものを例示することができる。
【0026】
【表2】

等を挙げることができる。
【0027】
本発明に係る非侵襲性光学的測定方法によれば、前記生体物質は、微量でも測定が可能であり、nmol〜μmol程度まで定量することができる。
なお、前記生体物質等の試料の採取による侵襲的測定は、当然のことながら、迅速かつ高精度で行なうことができる。また、TNT化薬、ダイオキシン等のガスクロストグラフィーなどで長時間(例えば、10〜60分)を要する検出も短時間(約1秒以下)で可能である。
【0028】
第二の形態は、人体から採取した血液、尿、間質液、唾液、涙、汗等の体液に含有される生体物質等の測定に関するものであり、特に、呈色試薬、酵素または抗体等との反応を利用することにより得られる反応生成物について検知、定性および定量の可能な生体物質等として、次に挙げるものを例示することができる。
【0029】
アスパラギン酸アミノ基転移酵素(GOT)、
アラニンアミノ基転移酵素(GPT)、
グルタミルペプチド転移酵素(γ−GTP)、
酸性およびアルカリ性ホスファターゼ、
乳酸脱水素酵素、
スーパーオキシドジスムターゼ、
クレアチンホスホキナーゼ、
ロイシンアミノペプチダーゼ、
コリンエステラーゼ、
血中アミラーゼ、
トリグリセライド、
リン脂質、
尿素、
ビリルビン、
ガン細胞
およびその他の呈色による疾病検査物質
等を挙げることができる。
【0030】
前記の如き生体物質の呈色反応生成物を利用することにより、生体物質自体として性質上光学的測定ができないものであっても測定が可能となり、さらに、測定精度を向上させることができる。また、該呈色反応生成物の吸収帯の波長が小さく、これに適合するピーク波長をする発光ダイオード等の発光素子を提供できない場合には、該呈色反応生成物を第二の呈色反応に共役させることにより得られる第2次呈色反応生成物を提供することにより光学的測定を行なうことができる。
【0031】
かかる呈色反応を行なわせるために用いられる呈色試薬を表3に例示する。
呈色反応は、生体物質(または化学物質)に呈色試薬を加えることにより得られる呈色反応生成物を被測定対象物とする。
【0032】
また、酵素を用いる場合は、生体物質または化学物質に酵素を加えることにより得られる生成物または二つ以上の反応に少なくとも一回の酵素作用を利用することができる。
さらに、抗体を使用する場合は、生体物質または化学物質に該当抗体を加えることにより得られる呈色反応生成物またはこれらの反応の組合せによる呈色反応を利用する。
【0033】
【表3】

【0034】
また、第三の形態は、人体から採取した細胞、組織、血球、リンパ球等の生体の一部に含有される生体物質等の測定に関するものであり、異常組織の呈色試薬、酵素または抗体との反応生成物、例えば微小ガンの色素マーカーによる染色生成物等を測定するものである。
【0035】
具体的には、生体の画像診断機器(MRI等)でも検出の不能な微小ガンをトルイジン・ブルー、FGG等の色素により染色し、またはこれらの色素を抗体に結合させることにより選択的に検出を可能にし、非侵襲的に外部からその存在を感知するものである。
【0036】
さらに、第四の形態としては、外部より生体組織に侵入した化学物質であって、紫外領域から赤外領域にわたり光学的吸収活性を有するか、または呈色反応により光学的吸収活性を有するものの測定に関するものであり、例えば、コカイン、モルヒネ、ダイオキシン等を測定するものである。
【0037】
【表4】

【0038】
次に、本発明に係る生体物質等の光学的測定方法に用いられる発光素子について説明する。発光素としては発光ダイオードまたはレーザーダイオードを用いることができる。
発光ダイオード(以下「LED」と略称することがある。)は、半導体のpn接合ダイオードのうち、電流を流すことにより光を発するものであり、基本構造としては、ホモ接合、シングルへテロ接合、ダブルヘテロ接合のものを挙げることができる。従来から赤外領域、可視領域および紫外領域にわたる発光波長を有する多種のLED結晶材料が開発されている。
【0039】
本発明に係る生体物質等の光学的測定方法に好適な発光ダイオードのLED結晶材料としては、生体物質等の吸収帯をカバーするように組成比率を調整することによりピーク波長を制御したものを選択することができる。これらのなかで主としてGaAs、GaP、GaN、InP、InNおよびこれらの混晶により波長制御されたもの、例えばInGaN、GaAsP、InGaP、GaAlInN等が挙げられる。具体的には、波長1000nm以上の領域をカバーするものとしてGaAsに適当な割合のInを加えたGaInAs、さらにPを添加したGaInAsPが挙げられ、組成を調整することにより調製された特定の波長を有するものを選択することができる。また、1000nm以下の領域をカバーするものとしてGaAs(ピーク波長;900nm)、GaAsにAlを加えたGaAlAs(660〜850nm)、GaAsP(630〜580nm)、GaP(700nm)、GaN(400nm)、InGaN(400nm〜700)等を例示することができる。
【0040】
前記の如き結晶材料のなかでヘモグロビンの測定には、特に、GaP(Zn−O)等が好適であり、また、チトクローム類についてはGaAlAs等が、GOT、GPTについてはGaP(N)等が好適である。
【0041】
また、レーザーダイオード(LD)は、化合物半導体にpn接合を設け、活性層としたものであり、本発明の光学的測定方法においては、生体物質等の吸収帯をカバーできるピーク波長を有するもの、例えばGaAlAs、GaInAsP等各種レーザーダイオードから選択することができる。
【0042】
本発明に係る生体物質等の光学的測定方法における照射工程においては、生体物質等の光吸収帯と合致または適合するピーク波長を有する発光素子を選択し、前記被測定対象物に対し、その放出光を照射するものであるが、さらに好適な形態として以下の構成からなる照射システムが採用することが重要である。
【0043】
すなわち、第1の照射方式は、同一波長領域の同種または異種の発光素子を2個以上同時に使用するものである。例えば、具体的には血中グルコースの測定の際に、1580nmのピーク波長を有するLEDを2個以上同時に発光させ、被測定対象物を照射する。
【0044】
また、第2の照射方式は、生体物質等の吸収帯をカバーできるように2種以上のそれぞれ互いに異なる連続的なピーク波長を有する発光素子を同時に使用する形態である。具体的には、血中グルコースの測定において、1560nm、1570nm、1580nmおよび1590nmの4種のピーク波長を有する発光ダイオードまたはレーザーダイオードを同時に使用し、被測定対象物を照射する。
【0045】
さらに、第三の照射方式は、生体物質等の吸収帯をカバーできるように、2種以上のそれぞれ互いに異なる非連続的なピーク波長を有する発光素子を配置し、同時に使用する形態のものである。具体的には、血中グルコースの測定において、1580nmおよび2140nmの非連続的なピーク波長を有する発光ダイオードまたはレーザーダイオードを同時に使用するものである。
【0046】
かかる照射方式を採用することにより、特に第1の方式によれば、照射光の強度を増加・維持することができ、また、第2および第3のシステムによれば、温度ドリフトの回避および測定条件の変動の抑制を図ることができ、これらの効果に伴ない、さらに安定的な高精度の測定を達成することができる。
【0047】
特に発光素子の発熱に伴なう温度ドリフトなど近赤外光では温度の差によるピーク波長の移動が生じることを防止するために好適であり、例えば、グルコースの近赤外領域での吸収ピークの一つは波長1580nmにあるが、1560nm、1580nmおよび1590nmの三種のピーク波長の異なる発光ダイオードまたはレーザーダイオードを用いることが、温度ドリフトを回避するには有効である。
【0048】
次に本発明に係る光学的測定方法における受光工程は、前記発光工程により被測定対象物に照射され、該被測定対象物を透過または反射した光を受光素子で受光し、電気信号を発信し、次の信号処理工程に供給するものである。受光素子は、分光感度特性の異なる2種以上の半導体からなる伝導材料が好ましく、通常、CdS、Si、GaAsS、InS、PbS、InSb、PbSe、Ge等を挙げることができるが、発光波長500nm領域ではCdS、CdSeが、900nm領域ではSi、GaAs、1000〜2000nm領域ではGaInAs、2000〜3000nmではPbSe、PbS等が選択される。また、受光手段にダイオードアレイを用い、各波長を同時に測定する場合に、アレイ上で複数の波長を測定することが可能であり、かつ同波長におけるノイズ除去に用いて比較することも可能である。
【0049】
本発明に係る光学的測定方法によれば、前記受光素子から出力される電気信号は、信号処理工程に供され、その検出信号を生体物質等の濃度算出工程に供され、吸光スペクトルを解析演算され測定値が算出される。
【0050】
次に、本発明に係る生体物質等の光学的測定装置について説明する。
該光学的測定装置は、1)発光手段、2)集光・照射手段、3)受光手段、4)信号処理手段、5)生体物質等濃度算出手段、および6)測定値表示手段とを少なくとも備えたものであり、具体的には図1に示す如く構成されたものであり、同図に沿って説明する。
【0051】
1)発光手段1は、発光ダイオードおよびレーザーダイオードからなるものであり、
点灯回路8からLED1に点灯開始信号を送り、電流を流すことにより光1’
を放出する。点灯回路8は、制御回路9の信号により作動する。
2)集光・照射手段2は、平凸レンズからなるものであり、前記発光手段1にて放
出された光1’を試料3上に集光させる機能を有する。試料3は、血液試料の
場合、ガラスセルが用いられる。
3)受光手段4は、試料3を透過した光を受光素子により受光し光電変換し信号を
出力する機能を有し、生体物質等の吸収極大領域の吸光密度の変化を信号処理
手段5に送信する。
4)信号処理手段5において、受光手段4の出力・信号が受信され、光電変換(A
/D変換)され、生体物質等濃度算出手段6に入力される。
5)生体物質等濃度算出手段6では、前記信号処理手段5により光電変換された検
出信号に基づいて吸光スペクトルを解析し、吸光変化は二次微分処理され、交
差検証法、部分最小二乗法などの多変量解析からその濃度が算出される。該出
力信号が表示手段7へ供給され、測定値として表示される。
【0052】
さらに好適な光学的測定装置は、図5に例示する発光・照射・受光構造を有するものであり、発光手段1が、互いに異なる2種以上のピーク波長を有する発光ダイオードまたはレーザーダイオードを同図に示すように平列に配置してなるものである。図中、発光手段1は、中心に生体物質等の最大吸収帯に合致するピーク波長を有する発光ダイオードを配置し、その同図にピーク波長が互いに連続的または非連続的に異なる2種以上の発光ダイオードを配置したものである。
また、受光手段4は、図5に示すように互いに分光感度特性の異なる2種以上の受光素子を平列に配置してなるものである。
【0053】
本発明に係る非侵襲性光学的測定装置の具体例としては、図6に、図5の発光・照射・受光システムを利用したものを例示する。
すなわち、プラスチックを成形してなる外観が長さ175mm、直径25mmの円筒状のハウジングおよび該ハウジング内に装置各部を埋設してなるものであって、前記ハウジングの内部の一方側から長手方向へバッテリー11、演算部6、信号処理部5を隣接して配置する。信号処理部5の上部には表示部7を配置する。信号処理部5に隣接して点灯回路8および該点灯回路8に接続して測定用スイッチ15を配置する。点灯回路8に隣接して2種以上のLED1、レンズ系9および受光素子4を所定の間隔を設けて固定したアルミ製円筒を配置する。受光素子4およびセラミック板13の間に指挿入部を設置し、該セラミック板13に隣接して信号処理装置5を配置する。
これらの装置各部およびデバイスは装填後、各部の周囲および空隙にプラスチックを充填して固定する。かかるプラスチック充填により振動、熱等の外部からの測定に対する妨害要因を防止することができる。
【0054】
このようにして構成された装置の使用方法として指挿入部に指を挿入し、スイッチ15を押すと2種以上の波長が連続的に異なる発光ダイオード1から放出された光は、光路14に沿い集光レンズ系9により集光され、穴44を通過し、反射板13の前に挿入された指を透過し、反射された光が受光素子4で受光されその出力が、信号処理部5で光電変換され、生体物質等濃度算出部6で吸光スペクトル解析により、吸光変化が部分最小二乗法等の多変量解析によりその濃度が算出され、表示部7で測定値として表示される。
図7は、本発明に係る非侵襲性光学的測定装置の使用状態を示す説明図である。同図によれば、左手指を指挿入部に挿入し、測定値が装置右側の表示部に表示されていることが示されている。
【実施例】
【0055】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明する。もっとも本発明はかかる実施例等により限定されることはない。
【0056】
実施例1
市販のグルコースを健常人から採取した血液中に0.1〜1mmolの濃度で溶解させて、10mg/ml〜50mg/mlの濃度の異なる4種の測定用試料を調製した。
各試料について和光純薬工業社製「グルコースCIIテストワコー」によりグルコース呈色反応4−アミノアンチピリンおよびフェノール吸収波長505nmにおける吸光度を測定し、図2に示す横軸に表示した。同一の各試料について本発明に係る光学的測定方法により市販の赤外ダイオード(浜松フォトニクス社製L8254)を光源として用いて、同一条件で比吸光度を測定し、同図の縦軸に表示した。測定に要した時間は、試料調製後グルコースCII「テストワコー」による従来方法では1試料について5〜10分であったのに対し、本発明による測定方法では1秒以下であった。
また、図2に示すように、本発明に係る光学的測定方法による測定結果は、前記グルコースCII「テストワコー」による測定結果とほぼ一致し、高精度であり実用品と比較しても遜色のないことがわかった。
【0057】
実施例2
市販の青色発光ダイオード(日亜化学工業社製青色LEDNSPB500S)によりGOT(アスパラギン酸アミノ基転移酵素)の測定反応における還元型NADの酸化作用を還元型FADに脱水素酵素の作用を利用して転化することにより、450nm近傍における吸光変化としてGOTを定量した。測定結果を図3に示す。実施例1と同様の手順であるが横軸には表示したGOT UV「テストワコー」による測定値と比較したところ本発明による測定方法の高精度が実証された。
【0058】
実施例3
軽度の糖尿病患者を含む健常人20人について、ピーク波長1570nm、1580nmおよび2140nmの各市販発光ダイオードを各2個並列に配置した図5に示す発光・照射・受光構造を搭載した図6の光学的測定装置を用いてグルコース濃度を測定した。この場合、指を装置下部から挿入し固定した。
次に、同時に同一人からそれぞれ採血し、グルコースCII「テストワコー」を用いてグルコース濃度を測定した。その測定結果を図4の横軸に示す。
前記測定装置の操作は、先ず、測定用スイッチ15を押し、点灯回路8から各発光ダイオード1に同時に通電することにより放出した光を組合せレンズ系9で集光し、指に照射し、6個の集光素子4で指の末梢血管から反射した散乱反射光をとらえた。算出値を図4の縦軸に示す。この結果から温度ドリフトも回避でき、相関関数が80%以上に向上した。比較のために、発光ダイオード1種のみで測定したところ相関係数が50%に達せず、本発明に係る測定装置によれば測定精度が著しく高いことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る光学的測定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】グルコースについて本発明に係る測定方法による測定結果と従来の「グルコースCIIテストワコー」を用いた測定結果との関係図である。
【図3】GOT(アスパラギン酸アミノ基転移酵素)について本発明に係る測定方法による測定結果とGOT−UV「テストワコー」を用いる測定方法による測定結果との関係図である。
【図4】本発明に係る非侵襲性光学的測定装置により測定した血中グルコース濃度の多変量解析による算出値と「グルコースCIIテストワコー」による測定結果との関係図である。
【図5】本発明に係る光学的測定装置の発光・照射・受光構造の一形態を示す説明図である。
【図6】本発明に係る非侵襲性光学的測定装置の内部構造の一形態を示す説明図である。
【図7】図6の本発明に係る非侵襲性光学的測定装置の一使用状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0060】
1.LED
2.平凸レンズ
3.試料
4.受光素子
5.信号処理装置
6.演算装置
7.表示装置
8.点灯回路
9.レンズ系
10.指先挿入部
11.バッテリー
12.充填プラスチック
13.セラミックス板
14.光路
15.測定用スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックを断面が円形または楕円形の棒状体に成形してなるハウジングおよび該ハウジング内に装置各要素を埋設してなる非侵襲性光学的測定装置であって、
前記ハウジングの内部の一方側から長手方向にバッテリー11、演算処理部6、信号処理部5を隣接して配置し;
信号処理部5の上部に表示部7を設置し;
前記信号処理部5に隣接して点灯回路部8および該点灯回路部8に隣接して測定用スイッチ15を設置し;
前記点灯回路部8に隣接して2種以上のLED1、レンズ系9および2種以上の受光部4を所定の間隔を設けて固定した軽金属製円筒を配置し;
受光部4と反射板13の間に指挿入部を設け;
前記反射板13の背後に隣接して信号処理装置5を配置し;
前記各要素間はそれぞれ必要な連結をし;
さらに、前記装置各要素はプラスチックの充填により固定してなることを特徴とする生体物質および化学物質の非侵襲性光学的測定装置。
【請求項2】
前記ハウジングの長さが170〜220mmであり、断面が円形の場合の直径または楕円形の場合の長軸が25〜33mmである請求項1記載の非浸襲性光学的測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−51826(P2008−51826A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287953(P2007−287953)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【分割の表示】特願2003−15446(P2003−15446)の分割
【原出願日】平成15年1月23日(2003.1.23)
【出願人】(301000505)株式会社バイオス医科学研究所 (10)
【Fターム(参考)】