説明

生体試料測定装置及び測定方法

【課題】環境温度に関わらず、高い精度で基質濃度を測定できる生体試料測定装置及び測定方法の提供
【解決手段】血液中のグルコースと反応して電子を発生させる酵素が付着された第1電極と、第2電極とが、試料空間を離間して配置されている。EEPROMは、データテーブルを記憶している。データテーブルは、血液中のグルコース濃度C、上記反応に基づく電位差E、及び第1電極及び上記第2電極を介して血液に電圧Vが印加されたときに流れる電流Iが対応付けられている。制御部は、上記反応における第1電極と第2電極との間の電位差を測定し、第1電極と第2電極との間に電圧Vを印加して、第1電極及び第2電極を介して流入する電流値を測定し、測定された電位差、及び測定された電流値に基づき、データテーブルからグルコース濃度Cを検索する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中の基質濃度を測定可能な生体試料測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料中の特定の物質の濃度を正確に測定することは、医学的な観点から重要な課題である。中でも、血液中のグルコース濃度、すなわち血糖値の測定は、糖尿病の予防や治療のために頻繁に行われており、特に重要度が高い。
【0003】
糖尿病の治療においては、例えば、インスリン療法がある。インスリンは血糖値をコントロールする薬物として知られている。この療法においては、糖尿病の治療薬であるインスリンが糖尿病患者に投与される。インスリンを投与する必要性は、糖尿病患者の血糖値に基づいて判断される。このため、糖尿病患者にとって、血糖値の把握が必須である。よって、糖尿病患者が、家庭において簡単に扱える簡易型の自己血糖測定装置の開発が盛んに行われている。
【0004】
上述されたような簡易型の自己血糖測定装置において、バイオセンサを用いた方法が知られている(特許文献1〜4)。バイオセンサには、酵素が利用される。酵素の特異的な反応を利用して、血液中のグルコースが定量される。グルコースの定量法には、グルコースをグルコースオキシターゼ(以下、「GOD」と略されることがある。)によってグルコン酸に分解するGOD法と、グルコースをグルコースデヒドロゲナーゼ(以下、「GDH」と略されることがある。)によって、グルコノラクトンに分解するGDH法と、が知られている。
【0005】
酵素は、バイオセンサの電極対の作用極に付着されている。酵素がグルコースを特異的に分解するときに、電子が発生する。発生した電子は、電極対の作用極に移動する。この電子の動きにより、バイオセンサの電極対に電流が流される。この電流が血糖測定装置に検知されて血液中のグルコースの含有量が算出される。つまり、血糖値が得られる。また、電子を運ぶ電子メディエータが電極対に付着されることにより、安定した測定値が得られる。電子メディエータとして、例えば、フェリシアン化カリウム、ヘキサアンミンルテニウムやキノン誘導体類等の有機化合物、又は有機−金属錯体などが挙げられる。
【0006】
グルコースに対する酵素の活性は、環境温度の影響を受ける。このため、測定が行われる環境によっては、測定結果に誤差が生じてしまうことがある。この問題を解決するため、複数の温度センサから得られた温度の情報に基づいて、測定結果に対する補償を行う測定器が知られている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−97877号公報
【特許文献2】特開2005−43280号公報
【特許文献3】特開2005−37335号公報
【特許文献4】特開2002−107325号公報
【特許文献5】特開2010−25926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献5に記載されたような複数の温度センサを有する構成では、測定器が複雑化、大型化、及び高コスト化することになる。また、簡易型の自己血糖測定装置においては、温度センサを配置する位置が特に問題となる。以下、詳細に説明する。
【0009】
一般的な簡易型の自己血糖測定装置では、バイオセンサは棒形状に構成され、自己血糖測定装置本体のスロットに対して着脱可能になっている。つまりバイオセンサが使い捨てになっている。使い捨ての形態で提供されるバイオセンサは、簡易に構成されて低価格であることが望ましい。しかしながら、バイオセンサに温度センサが設けられた場合、バイオセンサの構造が複雑化して、バイオセンサは高価なものになる。
【0010】
一方、自己血糖測定装置本体に温度センサが設けられた場合、バイオセンサの電極対と温度センサとの距離が遠くなるため、電極対周辺の環境温度と温度センサが示す環境温度とが相違することがある。これにより、測定結果に対する補償が正確に行われないことがある。特に、温度センサは、筐体の内部という熱が籠もりやすい環境にあり、さらには電子回路による発熱の影響を受けるため、測定結果に対する補償の精度は更に低下する。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、環境温度に関わらず、高い精度で基質濃度を測定できる生体試料測定装置及び測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1) 本発明に係る生体試料測定装置は、生体試料中の基質と反応して電子を発生させる酵素が付着された第1電極と、上記第1電極に対して、上記生体試料を導入可能な試料空間を離間されて設けられた第2電極と、上記生体試料中の基質濃度を示す第1データ、上記反応に基づく上記第1電極と上記第2電極との間の電位差の推定値を示す第2データ、及び上記第1電極及び上記第2電極を介して上記生体試料に第1レベルの電圧が印加されたときに流れる電流の推定値を示す第3データが対応付けられたデータテーブルを記憶する記憶部と、上記第1電極、上記第2電極、及び上記記憶部とそれぞれ電気的に接続された制御部と、を備えている。上記制御部は、上記酵素の反応における上記第1電極と上記第2電極との間の電位差を測定する第1制御と、上記第1電極と上記第2電極との間に第1レベルの電圧を印加して、上記第1電極及び上記第2電極を介して流入する電流値を測定する第2制御と、上記第1制御によって測定された電位差と対応する上記第2データ、及び上記第2制御によって測定された電流値と対応する上記第3データに基づき、上記データテーブルから上記第1データを検索する第3制御と、を実行する。
【0013】
本発明における生体試料測定装置とは、生体試料中の基質濃度に基づく固有の電気信号を発生させ、基質濃度に関する情報を被験者に認識可能とするものである。生体試料とは、生物の体内から採取された物質であり、例えば、血液が挙げられる。基質には、生体試料として血液が使用される場合は、例えば、グルコース、糖化アルブミン、糖化ヘモグロビン等が挙げられる。また、生体試料として唾液が使用される場合は、例えば、唾液アミラーゼが挙げられる。また、生体試料として尿が使用される場合は、例えば、アルブミン(変性したものおよび断片化されたものを含む)が挙げられる。
【0014】
試料空間に生体試料が導入されると、第1電極に付着された酵素が基質と反応し、その反応によって電子が発生し、この電子が第1電極に移動する。第2電極としてはたとえば銀−塩化銀電極などの参照電極(基準電極)が用いられ、第1電極と第2電極を電位差計で接続すると、電極間に電位差が観測される。制御部は、第1制御において、第1電極と第2電極との間の電位差を測定する。
【0015】
また、制御部は、第2制御において、第1電極と第2電極との間に電圧を印加して、流入した電流値を測定する。電源から第1電極に、第2電極に対して正の電圧が印加されると、第1電極から電源を介して第2電極に電子が移動し、第2電極において試料溶液の水素イオン、酸素、または未反応のメディエータが還元される。これによりこの電子の移動は、制御部により、第2制御において、電流値として測定される。
【0016】
ある基質濃度において、酵素と基質との反応によって上記第1電極と上記第2電極との間に発生する電位差は、環境温度に依存する。同様に、第1電極及び第2電極を介して上記生体試料に電圧が印加された場合に流れる電流値も環境温度に依存する。ここで、これらの電位差及び電流値の温度依存特性を利用して、環境温度及び生体試料中の基質濃度を特定することが可能である。
【0017】
以下、詳細に説明する。例えば、第1制御において電位差Eが得られた場合、電位差Eに対応する環境温度Tと基質濃度Cの組の候補は限定される。同様に、第2制御において電流Iが得られた場合、電流Iに対応する環境温度Tと基質濃度Cの組の候補は限定される。この2つの組の候補の中から、環境温度T及び基質濃度Cが共に一致する組を発見すれば、それらの値が実際の環境温度、及び生体試料中の基質濃度となる。つまり、電位E及び電流Iが確定すれば、基質濃度Cが定まることになる。
【0018】
記憶部のデータテーブルには、生体試料中の基質濃度(第1データ)と、当該基質濃度の生体試料から、上記方法によって得られる電位(第2データ)及び電流値(第3データ)とが対応付けられている。制御部は、第3制御において、第1制御で測定された電位に対応する第2データ、及び第2制御で測定された電流値に対応する第3データに基づいて、データテーブルから第1データを検索し、当該第1データから生体試料中の基質濃度を特定する。
【0019】
本構成によると、温度センサを用いずに測定値に対する温度の影響を排除することができる。つまり、簡易な構成によって、高精度な測定が可能となる。
【0020】
(2) 上記データテーブルは、上記第1データ、上記第2データ、及び上記試料空間の環境温度を示す第4データが対応付けられた第1テーブルと、上記第1データ、上記第3データ、及び上記第4データが対応付けられた第2テーブルと、を有していてもよい。
【0021】
このように、データテーブルは複数のテーブルから構成されていてもよい。
【0022】
(3) 上記制御部は、上記制御部は、上記第3制御において、上記第1制御によって測定された電位差と対応する上記第2データに基づき、上記第1データ及び上記第4データの組の候補を上記第1テーブルから検索し、上記第2制御によって測定された電流値と対応する上記第3データに基づき、上記第1データ及び上記第4データの組の候補を上記第2テーブルから検索し、上記第1テーブルから検索された上記組の候補、及び上記第2テーブルから検索された上記組の候補から、上記第1データ及び上記第2データが共に一致する組を検索して、当該組のうちの第1データから上記生体試料中の基質濃度を特定してもよい。
【0023】
基質濃度を示す第1データの検索は、2つのテーブルを参照する上記のような手続に基づいて行われてもよい。
【0024】
(4) 上記データテーブルにおける上記第2データは、上記試料空間に上記生体試料が導入されてから、第1時間経過後における電位差の推定値を示し、上記データテーブルにおける上記第3データは、上記試料空間に上記生体試料が導入された時点を基準として、第2時間経過後に上記第1電極及び上記第2電極を介して上記生体試料に第1レベルの電圧の印加が開始された場合において、第3時間経過後に上記第1電極及び上記第2電極に流れる電流の推定値を示す。上記制御部は、上記試料空間に上記生体試料が導入されたことを検知する検知手段を有している。上記制御部は、上記検知手段によって、上記試料空間に上記生体試料が導入されたことを検知してから第1時間経過後に上記第1制御を実行し、上記検知手段によって、上記試料空間に上記生体試料が導入されたことを検知してから第2時間経過後に上記第2制御における電圧の印加を実行し、上記検知手段によって、上記試料空間に上記生体試料が導入されたことを検知してから第3時間経過後に上記第2制御における電流の測定を実行する。
【0025】
第1制御によって測定される電位差は、試料空間に生体試料が導入されてからの時間に依存する。また、第2制御によって測定される電流値は、さらに、電極間への電圧の印加が開始されてからの時間に依存する。本構成では、試料空間に生体試料が導入されてから、予め決められた時間に基づいて第1制御及び第2制御が実行されるため、精度の高い測定が可能となる。
【0026】
(5) 上記酵素は、グルコースを分解するものであってもよく、上記第1電極には、電子メディエータが更に付着されていてもよい。
【0027】
グルコースを分解する酵素が使用されることで、血液を生体試料として、血糖値の測定が可能となる。また、第1電極に電子メディエータが付着されることで、安定した測定結果を得ることができる。
【0028】
(6) 本発明に係る生体試料中の基質濃度測定方法は、生体試料中の基質と反応して電子を発生させる酵素が一方に付着された電極対の間に生体試料を導入する第1ステップと、上記酵素の反応における上記電極対の間の電位差を測定する第2ステップと、上記電極対の間に電圧を印加して、出力された電流値を測定する第3ステップと、コンピュータが、上記生体試料中の基質濃度を示す第1データ、上記酵素の反応における上記第1電極と上記第2電極との間の電位差の推定値を示す第2データ、及び上記電極対を介して上記生体試料に第1レベルの電圧が印加されたときに流れる電流の推定値を示す第3データが対応付けられたデータテーブルから、上記第2ステップによって測定された電位差と対応する上記第2データ、及び上記第3ステップによって測定された電流値と対応する上記第3データに基づき、上記第1データを検索する第4ステップと、を含む。
【0029】
本発明は、上記のような生体試料中の基質濃度測定方法と解することもできる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る生体試料測定装置及び測定方法によると、環境温度に関わらず高い精度で生体試料中の基質濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る血糖測定装置10の外観斜視図である。
【図2】図2は、血糖測定装置10の機能ブロック図である。
【図3】図3は、バイオセンサ12の外観斜視図である。
【図4】図4は、バイオセンサ12の分解図である。
【図5】図5は、EEPROM33に記憶されるデータテーブル81の内容を示す図である。
【図6】図6は、血糖値の測定のために制御部23が行う制御の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は、バイオセンサ12の試料空間72に血液80が導入された様子を示す図である。
【図8】図8は、血糖測定装置10の変形例において、EEPROM33に記憶されるデータテーブル88の内容を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、適宜図面が参照されて、本発明の好ましい実施形態が説明される。なお、以下に説明される実施形態では、生体試料が血液であり、生体試料中の特定成分がグルコースである態様、いわゆる血糖測定装置を用いた測定の態様を挙げているが、この態様は本発明の一例に過ぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で、本発明の実施形態が適宜変更できることは言うまでもない。
【0033】
[血糖測定装置10の概略構成]
図1に示されるように、血糖測定装置10(本発明の生体試料測定装置の一例)は、本体11に対してバイオセンサ12が着脱自在に構成されたものである。本体11は、薄平な箱形状である。本体11には、ディスプレイ13及び3つの操作ボタン14A,14B,14Cが設けられている。ディスプレイ13は、後述される表示部21の一部をなすものであり、血糖測定装置10の操作に必要な各種の文字や画像を表示するためのものである。操作ボタン14A,14B,14Cは、後述される操作部22の一部をなすものであり、操作者(以下、糖尿病患者とも称される。)に押下されることによって、所定の操作信号を発生させる。
【0034】
本体11の側面にはセンサ挿入口15が設けられている。センサ挿入口15は、バイオセンサ12が挿入されて保持されるためのものである。同図には現れていないが、センサ挿入口15の奥には電極が設けられており、その電極を通じて後述される本体11の制御部23とバイオセンサ12とが電気的に接続される。バイオセンサ12は、測定対象の生試料である血液が導入され、血液中のグルコース(本発明の基質の一例)に化学的な反応を生じさせるものである。グルコースの化学的な反応によって生じた電流が、制御部23によって電気的に処理された結果、ディスプレイ13には、血液中のグルコース濃度、即ち血糖値が表示される。
【0035】
続けて、血糖測定装置10の詳細な構成が説明される。
【0036】
図2に示されるように、血糖測定装置10は、表示部21と、操作部22と、制御部23と、センサ部24とに機能的に大別される。表示部21、操作部22、及びセンサ部24は、バス25を通じて、制御部23と電気信号を送受信可能に接続されている。表示部21、操作部22、制御部23、及びセンサ部24を構成する電子回路が、薄平な箱形状の筐体に収容されたものが本体11である。表示部21、操作部22、制御部23、及びセンサ部24は、共通の電子基板上に一体に形成されていてもよい。上述されたバイオセンサ12は、センサ挿入口15に装着された状態でセンサ部24の一部をなすものである。なお、図2においては、各部に駆動用の電力を供給する電源系が省略されている。血糖測定装置10を構成する各部の詳細が以下に説明される。
【0037】
[表示部21]
表示部21は、上述されたディスプレイ13と、制御部23に電気的に接続されてディスプレイ13の表示を制御する周辺回路26とを有する。ディスプレイ13は、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイである。制御部23及び周辺回路26からの制御により、ディスプレイ13には文字や画像が表示されうる。例えば、ディスプレイ13には、糖尿病患者が、血糖測定装置10の操作に使用する文字や図形が表示される。ディスプレイの表示は、制御部23及び周辺回路26からの制御によって動的に変化するものである。例えば、関連する操作のまとまりごとに表示が切り換えられてもよい。糖尿病患者は、操作ボタン14A,14B,14Cの押下により、各表示内容に適した操作を行ったり、表示内容を他の機能に対応したものに切り換えることができる。糖尿病患者は、ディスプレイ13の表示を確認しながら操作ボタン14A,14B,14Cを操作することで、血糖値の測定を開始したり、測定された血糖値をディスプレイ13に表示させることができる。
【0038】
[操作部22]
操作部22は、本体11に設けられた操作ボタン14A,14B,14Cと、各操作ボタン14A,14B,14Cの押下に対応した所定の操作信号を発生させる周辺回路27とを有する。糖尿病患者は、操作画面を確認しながら操作ボタン14A,14B,14Cを押下する。例えば、操作ボタン14Cが操作画面上のカーソル移動のための入力を受け付け、操作ボタン14Bがキャンセルのための入力を受け付け、操作ボタン14Aが決定のための入力を受け付ける。また、操作ボタン14A,14B,14Cには、特定の機能を直接呼び出すためのショートカットが割り当てられていてもよい。各操作画面において、操作ボタン14A,14B,14Cが所定の順序で押下されることで、操作部22は、各種の操作信号を出力する。操作信号を受けて、制御部23は操作信号に応じた各種制御を実行する。なお、操作ボタン14A,14B,14Cの数などは適宜設計されるものである。また、操作ボタン14A,14B,14Cは、必ずしも互いに独立した押釦スイッチである必要はない。例えば、感圧式又は静電式のタッチパネルセンサーがディスプレイ13に重畳されて、操作ボタン14A,14B,14C及びディスプレイ13は、タッチパネルディスプレイとして構成されてもよい。
【0039】
[センサ部24]
センサ部24は、上述されたバイオセンサ12と、本体11の内部に設けられ、センサ挿入口15に挿入されたバイオセンサ12と電気的に接続される周辺回路28とを有している。センサ部24は、バイオセンサ12で生じた電気信号を必要に応じて整形及び加工して制御部23に送信する。また、センサ部24は、制御部23の制御に基づき、バイオセンサ12の電極間に規定の電圧を印加することができる。バイオセンサ12の詳細な構成が以下に説明される。
【0040】
[バイオセンサ12]
図3,4に示されるように、バイオセンサ12は、前後方向92を長手方向、左右方向93を短手方向、上下方向91を厚み方向とする概ね平板形状を呈している。バイオセンサ12は、第1基板30と、第1電極41と、第2電極42と、スペーサ50と、第2基板60と、を有する。これらは、上側から順に、第2基板60、スペーサ50、第1電極41及び第2電極42、第1基板30の順序で、上下方向91に積層されて一体にされている。ここで、第1基板30、スペーサ50、及び第2基板60は、それぞれ絶縁性の材料によって構成されている。
【0041】
前後方向92におけるバイオセンサ12の後端側から、第1電極41及び第2電極42が上方に露出されている。バイオセンサ12は、後端側からセンサ挿入口15に挿入される。その際、第1電極41及び第2電極42の露出された部分が、それぞれセンサ挿入口15の奥に設けられた電極(不図示)と接触する。これにより、第1電極41及び第2電極42は、センサ部24を通じて制御部23と電気的に接続される。
【0042】
前後方向92におけるバイオセンサ12の前端側には、スペーサ50の一部が凹条に切り取られた領域(間欠部51)が存在している。間欠部51を介して上下方向91に対向する第1電極41と第2電極42との間に、試料空間72が形成されている。試料空間72は、試料としての血液が導入される空間である。第1電極41及び第2電極42は、それぞれ試料空間72に露出されている。血液は、間欠部51によってバイオセンサ12の前端に開口された導入口71から導入される。試料空間72に導入された血液は、第1電極41及び第2電極42とそれぞれ接触した状態となる。なお、第1基板30には、血液の導入時に、試料空間72の空気を外部に逃がすための通気口61が開口されている。
【0043】
第1電極41が試料空間72に露出された部分には、血液中のグルコースを分解する酵素が固定化されている。この酵素として、GODやGDHが挙げられる。また、これらの酵素に加えて、補酵素や電子メディエータが固定化されていてもよい。このような補酵素として、例えば電子伝達体として働くピロロキノリンキノンやニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、フラビンアデニンジヌクレオチド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸などが挙げられる。また、電子メディエータとして、例えば、ルテニウムやオスミニウム、モリブデン、タングステン、鉄、コバルト等の遷移金属を含む化合物が挙げられる。これら酵素等の固定化は、酵素等が含まれる溶液が第1電極41に塗布されて乾燥することで実現されている。
【0044】
[制御部23]
制御部23(本発明の制御部及びコンピュータの一例)は、各種の制御や演算を行うためのCPU31(Central Processing Unit)、データを一時的に記憶するRAM32(Random Access Memory)、及び装置の電源が切られた後も保持すべきデータを記憶するEEPROM33(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)などを有している。これらがASIC34(Application Specific Integrated Circuit)及びバス25を介して、表示部21、操作部22、及びセンサ部24とそれぞれ電気的に接続されている。制御部23は、EEPROM33に記憶されたプログラムに基づいてCPU31が演算を行うことで、各部の動作を制御するものである。また、制御部23は、EEPROM33に記憶されたプログラムに基づいて時間のカウントを行うタイマ機能を有している。時間のカウントは、たとえば、制御部23の回路が有するシステムクロックに基づいて行われてもよい。他にも、制御部23は、必要に応じてCPU31を補助するコプロセッサやALUなどを備えていてもよい。
【0045】
操作ボタン14A,14B,14Cの押下に基づく操作部22からの操作信号に応じて、制御部23は、EEPROM33に記憶された各種のプログラムをRAM32にロードして実行する。EEPROM33に記憶されたプログラムの一例は、血糖値の測定を実行するプログラムある。血糖値の測定を実行するプログラムは、センサ部24からの電気信号に基づき、制御部23が血糖値を演算するための規定の制御を行うものである。演算された血糖値は、所定の表示方法によってディスプレイ13に表示される。血糖値の測定を実行するプログラムに基づいて制御部23が行う制御の詳細については後述される。
【0046】
血糖値の測定を実行するプログラムは、血糖測定装置10の全体動作を制御する下位のモジュール群を利用するものである。モジュールの一例として、ディスプレイ13の表示を制御するモジュール、操作部22からの操作信号を解釈するモジュール、及びバス25による通信制御のためのモジュールなどがある。これらのモジュールは、必要に応じて当業者が適宜設計できるものであるため、詳細は省略される。
【0047】
[データテーブル81]
また、EEPROM33は、血糖値の測定を実行するプログラムに基づいて参照されるデータテーブル81を記憶している。図5に示されるように、データテーブル81は、第1テーブル82と第2テーブル83とによって構成されている。第1テーブル82においては、環境温度T(本発明の第4データの一例)と、グルコース濃度C(本発明の第1データの一例)と、電位差E(本発明の第2データの一例)とが対応付けられている。第2テーブル83においては、環境温度Tと、グルコース濃度Cと、電流I(本発明の第3データの一例)とが対応付けられている。これらのデータテーブルは、たとえば、RDBMS(Relational DataBase Management System)によって管理される関係データベースとして構築されていてもよい。
【0048】
第1テーブル82及び第2テーブル83に記憶される環境温度Tは、それぞれ試料空間72の環境温度を示している。また、グルコース濃度Cは、試料空間72に導入される血液中のグルコース濃度、すなわち血糖値を示している。環境温度T及びグルコース濃度Cは、通常の測定時に想定される範囲の値が、一定の値ごとに記憶されている。図5の例においては、環境温度Tは、283Kから300Kまでの値が1Kごとに記憶されていている。また、グルコース濃度Cは、20mg/dlから600mg/dlまでの値が1mg/dlごとに記憶されている。ただしこれらの値は一例であり、機器の設計上の要件に応じて当業者が適宜変更してもよい。第1テーブル82及び第2テーブル83は、環境温度Tとグルコース濃度Cとの直積によってレコードが構成されている。
【0049】
血糖値の測定の際、試料空間72に血液が導入されると、酵素とグルコースとの反応によって、第1電極41及び第2電極42の間に電位差が発生する。ここで、血液が導入されてから所定時間経過後の電位差は、導入された血液中のグルコース濃度及び環境温度に依存する。第1テーブル82に記憶される電位差Eは、環境温度Tにおいて、グルコース濃度Cの血液が試料空間72に導入されてから時間t1(本発明の第1時間の一例)経過後の電極間の電位差の推定値である。ここでt1は、当業者が設定した値であり、全ての電位差Eの算出に共通の値が使用される。電位差が発生するより詳細な理由、及びその推定値の算出法は、後述される。
【0050】
試料空間72に血液が導入された後、第1電極41及び第2電極42の間に電圧が印加されると、メディエータが放出する電子によって。第1電極41及び第2電極42に電流が流れる。ここで、血液が導入されてから所定時間経過後に電圧が印加された場合の電流は、導入された血液中のグルコース濃度C及び環境温度Tに依存する。第2テーブル83に記憶される電流Iは、環境温度Tにおいて、グルコース濃度Cの血液が試料空間72に導入された時点を基準として、時間t2(本発明の第2時間の一例)経過後に電極間に電圧V(本発明の第1レベルの電圧の一例)の印加が開始された場合において、時間t3(本発明の第3時間の一例,t2<t3)経過後に各電極に流れる電流の推定値である。ここで電圧Vは、当業者が設定した値であり、全ての電流Iの算出に共通の値が使用される。電流が流れるより詳細な理由、及びその推定値の算出法は、後述される。
【0051】
[第1電極41及び第2電極42におけるグルコースの反応]
試料空間72におけるグルコースの反応が、以下に詳細に説明される。試料空間72に血液が導入されると、第1電極41に固定化された酵素がグルコースと反応する。たとえば、酵素としてGODが使用される場合、GODがグルコースを酸化させ、グルコン酸と電子を発生させる。この電子が電子メディエータを介して第1電極41に移動する。第2電極としてはたとえば銀−塩化銀電極などの参照電極(基準電極)が用いられ、第1電極と第2電極を電位差計で接続すると、第1電極41及び第2電極42の間に電位差が観測される。この電位差は第1電極の自然電位、あるいは開回路電位とよばれる。
【0052】
このときの第1電極41の自然電位EWEは、以下の数1によって表現される。
【0053】
【数1】

【0054】
数1は、ネルンスト式と呼ばれ、酸化還元反応における電極の電位を示す式である。ここで、E0は基準電位(式量電位)である。Rはガス定数(8.31J/(K・mol))である。Fはファラデー定数(96500C/mol)である。Tは絶対温度(K)である。cOは第1電極における酸化体濃度であり、本実施形態では、予め第1電極上に塗布された酸化型メディエータの溶解物、たとえばフェリシアンイオンの濃度である。cRは第1電極における還元体濃度であり、本実施形態では、酵素から電子を受け取った還元型メディエータ、たとえばフェロシアンイオンの濃度である。なお、cO,cRは、共に時間tに依存する。nは、還元型メディエータ1分子から第1電極に移動する電子数である。
【0055】
つまり、数1に基づいて、任意の時間における電極間の電位を算出することが可能である。当業者は、試料空間72に血液が導入されてから時間t1経過後における、それぞれの環境温度T及びグルコース濃度Cに対応する電位差E(本発明の第2データ)を算出して、第1テーブル82のレコードを作成する。
【0056】
また、制御部23によって、第1電極41及び第2電極42の間に電圧が印加されると、フェロシアンイオンは再び酸化され、フェリシアンイオンに戻る。この際、電子が放出されて第1電極41及び第2電極42に電流が流れる。
【0057】
このときに流れる電流Iは、電子メディエータの酸化還元電流であり、以下の数2によって表現される。
【0058】
【数2】

【0059】
数2は、コットレル式と呼ばれ、酸化還元反応により電極に流れる電流を示す式である。ここで、tは電圧印加開始からの経過時間(s)である。nは還元型メディエータ1分子から第1電極に移動する電子数である。Fはファラデー定数(96500C/mol)である。Aは電極の表面積(cm2)である。cは第1電極における還元型メディエータの濃度(mol/cm3)である。Dは試料空間に導入された試料溶液中における、電子メディエータの拡散係数(cm2/s)である。Dは温度依存性を有する。πは円周率である。
【0060】
第2テーブル83に予め記憶される電流Iは、数2を用いて以下の方法で算出することができる。温度Tに設定された環境下において、表面積Aが既知の第1電極に、濃度cの還元型メディエータを生成するように予めグルコース濃度を調整した試験液を導入する。適切に設定された反応時間(上述のt2)を経過した後、第1電極にメディエータの式量電位Eより十分に正の電圧を印加し、設定時間t(s)(上述のt3−t2)を経過した時点の電流Iを測定する。このITを数2の左辺におくと、数2は拡散係数Dについての方程式となり、これを解くことにより、温度Tにおける拡散係数Dが得られる。必要な温度範囲の各Tにおいて得られたDを数2に代入し、さらに既知の前記パラメータn、F、A、前記設定時間t、必要な濃度範囲の各cを代入することにより、必要な温度範囲の各T、必要な濃度範囲の各cにおける電流Iの推定値(本発明の第3データ)が算出される。
【0061】
前記拡散係数Dは、必要な温度範囲において可能な限り細かい温度間隔で得ることが望ましいが、より粗い温度間隔で得られた各値から、それらに近似的にフィッティングする関数を導出し、当該関数に基づいて所望の温度間隔でのDを得るようにしても良い。このような関数は、たとえば、得られた各値に対して、最小二乗法などに基づくフィッティングアルゴリズムを適用することで導出することができる。
【0062】
当業者は、試料空間72に血液が導入された時点を基準として時間t2経過後に電圧Vが電極間に印加された状況を想定し、時間t3経過後におけるそれぞれの環境温度T及びグルコース濃度Cに対応する電流Iを算出して、第2テーブル83のレコードを作成する。
【0063】
ただし、各テーブルに使用される電位差E及び電流Iは、理論上の計算によって算出される他、実験的な方法によって決定されてもよい。たとえば、当業者は、異なるグルコース濃度の試料を用いて、環境温度を順次変化させながら上記の反応を再現し、電位差及び電流を測定してもよい。
【0064】
[血糖値の測定]
上述されたように、制御部23は、血糖値の測定を実行するプログラムに基づいて、血糖値の測定のための制御を実行する。その制御の詳細が、図6のフローチャートを参照しながら以下の詳細に設定される。なお、以下で説明される制御は必ずしも全てがプログラムに基づいて実行される必要はなく、少なくとも一部が、結線論理(Wired Logic)に基づいて実行されてもよい。
【0065】
血糖値の測定を開始する前に、糖尿病患者は、バイオセンサ12を血糖測定装置10のセンサ挿入口15に挿入する。これにより、第1電極41及び第2電極42の一部が、それぞれセンサ挿入口15の内部の接点と接触し、第1電極41及び第2電極42がそれぞれ制御部23と電気的に接続された状態となる。
【0066】
制御部23は、バイオセンサ12が挿入されたと判断したことに基づき、EEPROM33のプログラム(血糖値の測定を実行するプログラム)をRAM32にロードして実行する。これにより、図6のフローチャートの制御が開始される。バイオセンサ12の挿入を制御部23が認識可能とするため、センサ挿入口15には、機械式、光学式、又は電気式のセンサが設けられていてもよい。
【0067】
まず、制御部23は、測定に必要な回路などを起動させて測定のための準備をする(S1)。つまり、血糖測定装置10を血糖値の測定が可能な状態に移行させる。また、制御部23は、第1電極41及び第2電極42の間に検知用の微弱な電圧を印加して、当該電圧に基づく電流を繰り返し測定する(S2,S3)。制御部23は、この電流に基づいて試料空間72に血液が導入されていないかを監視する。
【0068】
糖尿病患者が試料空間72に血液を導入していない段階では、第1電極41及び第2電極42の間は開放された状態となっているため、電流は検知されない(S3:No)。その間、制御部23は監視状態を維持する。
【0069】
糖尿病患者は、血液を試料空間72に導入する際、手の平などを針で刺通して血液を滲出させる。糖尿病患者は、血糖測定装置10を保持し、この滲出した血液に対して、バイオセンサ12の導入口71を接触させる。血液は、毛細管作用によって導入口71から試料空間72に導入される。なお、糖尿病患者が血液を試料空間72に導入する行為が、本発明の第1ステップの一例である。
【0070】
図7に示されるように、試料空間72に導入された血液80は、第1電極41及び第2電極42にそれぞれ接触した状態となる。これにより電極間が通電状態となり、制御部23に微弱な電流が流入する(S3:Yes)。制御部23は、当該電流に基づいて、試料空間72に血液が導入されたと判断し、検知用の電圧の印加を停止する。つまり、監視状態を中断する。
【0071】
制御部23は、監視状態を中断すると同時に時間のカウントを開始し、カウント中はフローチャートの制御を停止する(S5)。上述されたグルコースの反応は、血液80が第1電極41に接触された段階で開始されるため、カウントと並行して反応が促進され、第1電極41及び第2電極42の間に電位差が生じる。時間のカウントがt1に達したとき、制御部23は、第1電極41及び第2電極42の間の電位差を測定する(S6)。その際、制御部23は、得られた電位差の値を所定の形式に丸めることで、第1テーブル82に記憶された電位差Eのうち、最も値が近いものと一致させる。制御部23は、得られた電位差を一時的にRAM32に記憶させる。ここで、時間t1は、第1テーブル82の電位差Eを決定する際に用いられた値と同じものである。t1の値は、血糖測定装置10の製造時にEEPROM33に記憶されている。なお、S6の制御が本発明の第1制御及び第2ステップの一例である。
【0072】
制御部23は、時間t1が経過した後も時間のカウントを継続する(S7)。時間のカウントがt2に達したとき、制御部23は、第1電極41及び第2電極42の間に電圧Vの印加を開始する(S8)。この電圧によって、上述されたフェロシアンイオンの酸化反応が促進される。制御部23は、カウントがt3に達したときに、第1電極41及び第2電極42に流れる電流を測定する(S9,S10)。その際、制御部23は、得られた電流の値を所定の形式に丸めることで、第2テーブル83に記憶された電流Iのうち、最も値が近いものと一致させる。制御部23は、得られた電流を一時的にRAM32に記憶させる。ここで、時間t2及び電圧Vは、第2テーブル83の電流Iを決定する際に用いられた値と同じものである。時間t2及び電圧Vの値は、血糖測定装置10の製造時にEEPROM33に記憶されている。この電流を測定した後、制御部23は、電圧Vの印加を停止する(S11)。なお、S8,S10の制御が本発明の第2制御及び第3ステップの一例である。
【0073】
続けて、制御部23は、第1テーブル82を参照し、電位差Eが、S6の制御で測定された電位差と一致するレコードを検索する(S12)。この条件を満たすレコードは、複数存在する可能性がある。以下、この問い合わせによって第1テーブル82から抽出されたレコードの集合を第1候補レコード84とする。また、制御部23は、第2テーブル83を参照し、電流Iが、S10の制御で測定された電流と一致するレコードを検索する(S13)。この条件を満たすレコードは、複数存在する可能性がある。以下、この問い合わせによって第2テーブル83から抽出されたレコードの集合を第2候補レコード85とする。
【0074】
図5には、S12,S13の制御で抽出された第1候補レコード84及び第2候補レコード85の一例が示されている。同図では、S6の制御で電位差293mvが測定され、S10の制御で電流15.16mAが測定された場合の例が示されている。つまり、第1候補レコード84として、電位差Eが293mvのレコードが抽出されており、これに該当するレコードは3件である。また、第2候補レコード85として、電流Iが15.16mAのレコードが抽出されており、これに該当するレコードは3件である。
【0075】
制御部23は、第1候補レコード84及び第2候補レコード85の間で、環境温度T及びグルコース濃度Cが共に一致するレコードを検索する(S14)。この条件を満たすレコードはそれぞれの候補レコードに1件ずつ存在する。以下、この問い合わせによって第1候補レコード84から抽出されたレコードを第1目的レコード86、第2候補レコード85から抽出されたレコードを第2目的レコード87とする。
【0076】
図5には、S14の制御で抽出された第1目的レコード86及び第2目的レコード87の一例が示されている。同図の例において、第1候補レコード84及び第2候補レコード85の間で環境温度T及びグルコース濃度Cが共に一致するレコードは、環境温度Tが283K、グルコース濃度Cが100mg/dLのレコードのみである。この条件を満たすように、各候補レコードから抽出されたレコードが、それぞれ第1目的レコード86及び第2目的レコード87である。なお、S12〜S14の制御が、本発明の第3制御及び第4ステップの一例である。
【0077】
制御部23は、第1目的レコード86及び第2目的レコード87が示すグルコース濃度Cを、測定された血糖値として、表示部21を通じてディスプレイ13に表示させる(S15)。糖尿病患者は、ディスプレイ13を視認して血糖値を確認することができる。なお、糖尿病患者が血糖値を事後的に確認可能とするために、血糖値はEEPROM33に記憶されてもよい。
【0078】
[実施形態の作用効果]
本実施形態によると、第1テーブル82と第2テーブル83とが環境温度T及びグルコース濃度Cによって対応付けられるため、温度センサを用いずに血糖値の測定値に対する温度の影響を排除することができる。つまり、簡易な構成によって、高精度な血糖値の測定が可能となる。
【0079】
第1テーブル82に記憶される電位差E、及び第2テーブル83に記憶される電流Iの値は、理論に基づく計算の他、実験によって決定することもできる。つまり、当業者は、各テーブルを容易に構成することができる。
【0080】
また、測定される電極間の電位差及び電流値は、試料空間72に血液が導入されてからの時間によって変化することがある。本構成では、試料空間72に血液が導入されてから、時間t1が経過した後に電極間の電位差が測定され、また、時間t2が経過した後に電極間に電圧が印加されて電流が測定される。したがって、第1テーブル82に記憶された電位差E、及び第2テーブル83に記憶された電流Iの値を、実際の測定によって得られる値に近づけることができる。つまり、より高精度な血糖値の測定が可能となる。
【0081】
また、酵素に加えて、第1電極41に電子メディエータが付着されることで、より安定した測定が実現される。
【0082】
[変形例1]
上述された実施形態では、第1テーブル82及び第2テーブル83によってデータテーブル81が構成されていたが、本変形例では、データテーブルが1つのテーブルによって構成されており、第1テーブル82及び第2テーブル83が1つのテーブルとして纏められたものがデータテーブル88としてEEPROM33に記憶される。本変形例に係るデータテーブル88の詳細が以下に説明される。
【0083】
上述された実施形態は、S6の制御によって測定された電位差と、S10の制御によって測定された電流とに基づいて、制御部23が第1テーブル82及び第2テーブル83をそれぞれ参照して、血糖値を特定するものであった。ここで、電位差E及び電流Iが決定されるとグルコース濃度Cは一意に定まるため、電位差E及び電流Iを主キー、グルコース濃度Cを従属キーとするデータテーブル88を作成することが可能である。データテーブル88のレコードは、第1テーブル82及び第2テーブル83の間で、環境温度T及びグルコース濃度Cが共に一致する全てのレコードの組み合わせを抽出することで得ることができる。データテーブル88の作成は、たとえば、SQL(Structured Query Language)などのデータベース操作言語を用いて行うことができる。
【0084】
データテーブル88の一例が、図8に示される。データテーブル88において、電位差E及び電流Iが主キーである、つまり、電位差E及び電流Iが共に同じ値のレコードはデータテーブル88内に存在しない。なお、同図の例では、データテーブル88は、環境温度Tを保持していないが、従属キーとして保持していてもよい。本変形例において、制御部23は、上述された実施形態におけるS12〜S14の制御を実行する代わりに、データテーブル88を参照する。その際、制御部23は、S6の制御で測定された電位差を電位差Eに、S10の制御で測定された電流を電流Iにそれぞれ対応させてレコードを検索する。制御部23は抽出されたレコードのグルコース濃度Cを血糖値として、表示部21を通じてディスプレイ13に表示させる。
【0085】
本変形例では、データテーブル88が1つに纏められているため、テーブルの参照量が少なくなり、血糖値がディスプレイ13に表示されるまでの時間を短くすることができる。
【0086】
[その他の変形例]
また、上述された実施形態では、血糖値の測定後、血糖値のみがディスプレイ13に表示されたが、第1目的レコード86及び第2目的レコード87が示す環境温度Tが併せて表示されてもよい。
【0087】
また、血糖測定装置10は、必ずしも上述された実施形態のような携帯型に構成されている必要はなく、たとえば、病院などに設置することを前提とした据え置き型に構成されていてもよい。また、バイオセンサ12は、必ずしも着脱自在である必要はなく、第1電極41及び第2電極42の形状なども、機器の要請に応じて適宜変更することができる。
【0088】
また、上述された図6のフローチャートは一例であり、同様の機能を有するものであれば、細部の制御の順序などが多少異なっていてもよい。
【0089】
また、上述された実施形態は、本発明において、生体試料として血液、基質としてグルコースが使用された例が示されたものであるが、本発明の生体試料は唾液、汗、尿、又は血漿などであってもよく、基質は、生体試料中の任意の成分であってもよい。酵素やメディエータは、測定される基質に応じて適宜最適なものが使用される。
【符号の説明】
【0090】
10・・・血糖測定装置(生体試料測定装置)
23・・・制御部
41・・・第1電極
42・・・第2電極
72・・・試料空間
81・・・データテーブル
82・・・第1テーブル
83・・・第2テーブル
88・・・データテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の基質と反応して電子を発生させる酵素が付着された第1電極と、
上記第1電極に対して、上記生体試料を導入可能な試料空間を離間されて設けられた第2電極と、
上記生体試料中の基質濃度を示す第1データ、上記反応に基づく上記第1電極と上記第2電極との間の電位差の推定値を示す第2データ、及び上記第1電極及び上記第2電極を介して上記生体試料に第1レベルの電圧が印加されたときに流れる電流の推定値を示す第3データが対応付けられたデータテーブルを記憶する記憶部と、
上記第1電極、上記第2電極、及び上記記憶部とそれぞれ電気的に接続された制御部と、を備え、
上記制御部は、
上記酵素の反応における上記第1電極と上記第2電極との間の電位差を測定する第1制御と、
上記第1電極と上記第2電極との間に第1レベルの電圧を印加して、上記第1電極及び上記第2電極を介して流入する電流値を測定する第2制御と、
上記第1制御によって測定された電位差と対応する上記第2データ、及び上記第2制御によって測定された電流値と対応する上記第3データに基づき、上記データテーブルから上記第1データを検索する第3制御と、を実行する生体試料測定装置。
【請求項2】
上記データテーブルは、
上記第1データ、上記第2データ、及び上記試料空間の環境温度を示す第4データが対応付けられた第1テーブルと、
上記第1データ、上記第3データ、及び上記第4データが対応付けられた第2テーブルと、を有する請求項1に記載の生体試料測定装置。
【請求項3】
上記制御部は、上記第3制御において、
上記第1制御によって測定された電位差と対応する上記第2データに基づき、上記第1データ及び上記第4データの組の候補を上記第1テーブルから検索し、
上記第2制御によって測定された電流値と対応する上記第3データに基づき、上記第1データ及び上記第4データの組の候補を上記第2テーブルから検索し、
上記第1テーブルから検索された上記組の候補、及び上記第2テーブルから検索された上記組の候補から、上記第1データ及び上記第2データが共に一致する組を検索して、当該組のうちの第1データから上記生体試料中の基質濃度を特定する請求項2に記載の生体試料測定装置。
【請求項4】
上記データテーブルにおける上記第2データは、上記試料空間に上記生体試料が導入されてから、第1時間経過後における電位差の推定値を示し、
上記データテーブルにおける上記第3データは、上記試料空間に上記生体試料が導入された時点を基準として、第2時間経過後に上記第1電極及び上記第2電極を介して上記生体試料に第1レベルの電圧の印加が開始された場合において、第3時間経過後に上記第1電極及び上記第2電極に流れる電流の推定値を示し、
上記制御部は、
上記試料空間に上記生体試料が導入されたことを検知する検知手段を有しており、
上記検知手段によって、上記試料空間に上記生体試料が導入されたことを検知してから第1時間経過後に上記第1制御を実行し、
上記検知手段によって、上記試料空間に上記生体試料が導入されたことを検知してから第2時間経過後に上記第2制御における電圧の印加を実行し、
上記検知手段によって、上記試料空間に上記生体試料が導入されたことを検知してから第3時間経過後に上記第2制御における電流の測定を実行する請求項1から3のいずれかに記載の生体試料測定装置。
【請求項5】
上記酵素は、グルコースを分解するものであり、
上記第1電極には、電子メディエータが更に付着された請求項1から4のいずれかに記載の生体試料測定装置。
【請求項6】
生体試料中の基質と反応して電子を発生させる酵素が一方に付着された電極対の間に生体試料を導入する第1ステップと、
上記酵素の反応における上記電極対の間の電位差を測定する第2ステップと、
上記電極対の間に電圧を印加して、出力された電流値を測定する第3ステップと、
コンピュータが、上記生体試料中の基質濃度を示す第1データ、上記酵素の反応における上記第1電極と上記第2電極との間の電位差の推定値を示す第2データ、及び上記電極対を介して上記生体試料に第1レベルの電圧が印加されたときに流れる電流の推定値を示す第3データが対応付けられたデータテーブルから、上記第2ステップによって測定された電位差と対応する上記第2データ、及び上記第3ステップによって測定された電流値と対応する上記第3データに基づき、上記第1データを検索する第4ステップと、を含む生体試料中の基質濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−83587(P2013−83587A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224555(P2011−224555)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)