説明

生分解性プラスチック分解酵素の製造方法及びこれに使用されるPseudozymaantarctica

【課題】自然界から単離された、安全性の確認されている微生物を用い、遺伝子組み換え技術を用いずに生分解性プラスチック分解酵素を大量生産する技術を開発すること。
【解決手段】キシロースを含有する培地中でPseudozyma antarcticaを培養することを特徴とする生分解性プラスチック分解酵素の製造方法によれば、遺伝子組み換え技術を用いずに生分解性プラスチック分解酵素を大量に生産することができる。このように、大量に生産された生分解性プラスチック分解酵素は、圃場に敷設された生分解性マルチフィルムを分解するために使用でき、安全且つ効率的に生分解性マルチフィルムを分解することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、生分解性マルチフィルム等の農業資材を、環境に大きな負荷を与えずに分解するために使用され、遺伝子組み換え技術を用いずに行われる、生分解性プラスチック分解酵素の製造方法、及びこの製造方法に使用されるPseudozyma antarcticaに関する。
【背景技術】
【0002】
マルチ栽培技術は、地中の温度の上昇や雑草の防除、地面の保湿などにより作物の育成を促進する効果が高く、日本の畑作に欠かせない栽培技術である。マルチ栽培に使用されるマルチフィルムの国内使用量は現在、年間約4万トン程度となっており、近年では、生分解性のマルチフィルムも開発されている。ここで、マルチフィルムは、圃場に薄く且つ広く敷設されるものであるため、マルチフィルムの圃場からの回収には多くの労力と費用が必要であった。生分解性マルチフィルムを使用することにより、マルチフィルムの圃場からの回収と処分に要する労力とコストを削減し、省力的な農法が実現可能となる。このため、国内の農業就業者の老齢化と働き手の不足が深刻な日本では、生分解性マルチフィルムが他の国に先駆けて導入されており、従来の生分解性を有さないマルチフィルム(例えば、ポリエチレン製マルチフィルム)と、生分解性マルチフィルムの価格差が小さくなるにつれて、流通量も年々増加している。
2006年の全世界における生分解性マルチフィルムの流通量は1150トン程度で、その後も徐々に増加して2009年度には約1.5倍の1700トン程度となったと推計されており、今後も流通量は更に増加することが予測される。また、マルチフィルムメーカーでは、国内で使用されている、生分解性を有さないポリエチレン製マルチフィルムの約7割程度が、今後、生分解性マルチフィルムに置き換えられていくと見込んでいる。更に、マルチフィルムの使用量が、全世界の8割を超えている中国でもポリエチレン製マルチフィルム残渣の問題が顕著化しており、生分解性マルチフィルムの分解を制御する技術の開発が急がれている。
【0003】
ここで、生分解性マルチフィルムの普及を促進するにあたっては、農業資材に必要とされる十分な強度を有する生分解性マルチフィルムを、使用後において効率的に分解可能な技術を開発することが求められている。
生分解性プラスチックを分解するための技術については、これまで、土壌、汚泥、又は空気中に浮遊する埃などから採取された微生物や、Pseudozyma属の葉面酵母(Pseudozyma antarctica)や無胞子不完全菌目に属する糸状菌が、生分解性プラスチック分解酵素を分泌することを見出している(特許文献1から5)。これらの菌類を使用して圃場に薄く且つ広く敷設される生分解性マルチフィルムを効率的に分解するため、生分解性プラスチックに対する分解活性がより高い酵素液を用いることや、大量の生分解性プラスチック分解酵素を生産することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−261102号公報
【特許文献2】特開2004−075905号公報
【特許文献3】特開2005−304388号公報
【特許文献4】特開2008−237212号公報
【特許文献5】特開2010−099066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生分解性プラスチック分解酵素の大量生産は、遺伝子組み換え技術を使用した手法により行われることがある。しかしながら、遺伝子組み換え技術は、遺伝子組み換え体の流出防止のための、生産や安全性評価のコストが必要であるため、実際の農業現場において採用することは難しい。従って、自然界から単離された、安全性の確認されている微生物を用い、遺伝子組み換え技術を用いずに生分解性プラスチック分解酵素を大量生産する技術を開発することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、キシロースを含有する培地中でPseudozyma antarcticaを培養することにより、遺伝子組み換え技術を使用せずに生分解性プラスチック分解酵素を大量に生産できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0007】
本発明の第一の態様は、キシロースを含有する培地中でPseudozyma antarcticaを培養することを特徴とする生分解性プラスチック分解酵素の製造方法である。
本発明の第二の態様は、受託番号FERM P-22155のPseudozyma antarcticaである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、キシロースを含有する培地中でPseudozyma antarcticaを培養するため、遺伝子組み換え技術を用いずに生分解性プラスチック分解酵素を大量に生産することができる。このように大量に生産された生分解性プラスチック分解酵素は、圃場に敷設された生分解性マルチフィルムを分解するために使用でき、安全且つ効率的に生分解性マルチフィルムを分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】FMM培地中の成分の濃度を変動させたときの生分解性プラスチック分解酵素の酵素活性の変化(A)とPseudozyma antarcticaの菌体量の変化(B)を示す図面である。
【図2】培地中に加える炭素源の種類の違いによる生分解性プラスチック分解酵素の酵素活性の変化を示す図面である。
【図3】培地中に加える炭素源の種類の違いによる生分解性プラスチック分解酵素の酵素活性の変化を示す図面である。
【図4】大容量ジャーファーメンター中、キシロースを含む培地でPseudozyma antarcticaを培養した際の生分解性プラスチック分解酵素の活性の経時変化(A)と、生分解性プラスチック分解酵素の量(SDS-PAGE、CBB染色)の経時変化(B)を示す図面である。
【図5】大容量ジャーファーメンター中、キシロースを含む培地でPseudozyma antarcticaを半回分培養した際の生分解性プラスチック分解酵素の酵素活性の変化と菌体量の変化を示す図面である。
【図6】各種バイオマスを添加した条件でPseudozyma antarctciaを培養した際の、生分解性プラスチック分解酵素の酵素活性を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
<生分解性プラスチック分解酵素の製造方法>
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法は、遺伝子組み換え技術を用いず、キシロースを含有する培地中でPseudozyma antarcticaを培養することを特徴とする。
【0012】
[Pseudozyma antarctica]
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法においては、葉面酵母であるPseudozyma antarcticaを使用する。Pseudozyma antarcticaとしては、研究施設等において提供されている株や、自然界から単離された株等、任意の株を使用することができる。具体的には、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターにおいて提供されているPseudozyma antarctica JCM10317株や、茨城県において採取された稲籾から単離された受託番号FERM P-22155のPseudozyma antarcticaを使用することができるが、特に、グルコース存在下においても生分解性プラスチック分解酵素を大量に発現可能な受託番号FERM P-22155のPseudozyma antarcticaを使用することが好ましい。
[培地]
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法においては、キシロースを含有する培地を使用する。キシロースを含有する培地としては、葉面酵母の培養に適し、炭素源としてキシロースを含有する限りにおいて特に限定されるものではなく、合成培地、半合成培地、及び天然培地のいずれをも使用することができる。これらの培地に添加する成分としては、動植物組織の抽出物/加水分解物を用いてもよいし、化学的に合成された、窒素、リン、ミネラル、及び/又は炭素を含む化合物を用いてもよい。
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法に使用する培地としては、Pseudozyma antarcticaの培養に特に適しているという点で、FMM培地(Fungal Minimum Medium)を用いることが好ましく、特に、炭素源として、グルコース及びキシロース、好ましくはキシロースのみを含有するFMM培地を用いることが特に好ましい。
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法に使用する培地に含まれるキシロースの含有量は、2質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上8質量%以下であることが更に好ましい。キシロースの含有量を上記の範囲内のものとすることにより、生分解性プラスチック分解酵素を効率的に生産誘導し、Pseudozyma antarcticaの生育状態を良好なものとすることができる。
また、本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法に使用する培地が、キシロース及びグルコースを含む場合には、グルコースの含有量は、1質量%以上4質量%以下であることが好ましく、1質量%以上2質量%であることが更に好ましい。また、キシロース及びグルコースの合計量は、2質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上8質量%以下であることが更に好ましい。
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法に使用する培地は、酸又は塩基で、pHを5.0以上8.0以下、好ましくは5.5以上7.0以下に調整することが好ましい。pHの調整に使用される酸又は塩基は、特に限定されるものではないが、培地への窒素源の供給も兼ねて、アンモニア水を用いてpHを調整することが好ましい。
【0013】
ここで、本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法に使用できる培地において使用できるキシロースとしては、試薬として市販されているキシロースのみではなく、バイオエタノールを製造する過程で、草本系又は木質系バイオマス原料中のヘミセルロースに由来するキシロース溶液等、キシロース以外の化学物質の製造過程において副産物として生成されるキシロースを含むキシロース溶液も用いることができる。
このようなバイオマス原料の分解産物に由来するキシロース溶液を用いることにより、間伐材や廃材、農産物の非可食部(例えば、小麦ふすま、米ぬか、稲わら、麦わら、トウモロコシ茎部、サトウキビバガス、ソルガムバガス等)等の資材を有効に活用して生分解性プラスチック分解酵素の生産を行うことができる。特に、現在のバイオエタノール生産技術においては、バイオマスの糖化液中のグルコースを利用してエタノールを生産することができるものの、ヘミセルロースに由来するキシロースは、バイオエタノールの生産に用いることができないため、キシロースを多く含む蒸留廃液が多量に排出されていた。本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法によれば、これら、キシロースを多く含む蒸留廃液も有効活用することができるため、経済的に生分解性プラスチック分解酵素を生産することができる。
バイオマス原料の分解産物に由来するキシロース溶液には、キシロース以外にも、微量のグルコースを含んでいるが、特に、本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法においては、キシロース以外の炭素源が含まれていたとしても、Pseudozyma antarcticaが生分解性プラスチック分解酵素を生産することができるため、このようなキシロース溶液であっても、生分解性プラスチック分解酵素の製造方法に好適に用いることができる。
なお、本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法において、培地にバイオマス原料の分解産物に由来するキシロース溶液を用いる場合、グルコース存在下における生分解性プラスチック分解酵素の生産能に特に優れる、受託番号FERM P-22155のPseudozyma antarcticaを用いることが好ましい。
【0014】
[培養条件]
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法において、Pseudozyma antarcticaを培養する条件は、葉面酵母の培養条件として従来公知の培養条件を採用することができる。具体的には、25℃以上32℃以下の好気的条件で、24時間以上の前培養を行った後、同様の温度で72時間以上培養する条件を挙げることができる。Pseudozyma antarcticaを前培養する際の培地は、従来公知の培地を使用することができるが、通常は、YM培地(Yeast extract Malt extract medium)等の天然培地を使用することが好ましい。
Pseudozyma antarcticaの培養に当たっては、生分解性プラスチック分解酵素を含む培養液をより効率的に得るために、半回分培養又は連続培養を行うことが好ましい。即ち、本発明においては、キシロースを含む培地中でPseudozyma antarcticaを一定時間培養した後、Pseudozyma antarcticaの培養液を一定割合で回収し、培養装置に残った培養液に、回収した培養液の量と同量のキシロースを含む培地を添加して更にPseudozyma antarcticaを培養する方法、及びキシロースを含む培地中でPseudozyma antarcticaを培養しながら、一定の速度でPseudozyma antarcticaの培養液を回収し、培養液を回収する速度と同じ速度でキシロースを含む培地を追加する方法もまた提供される。
Pseudozyma antarcticaの培養に当たって、半回分培養を行う場合、培養液へ新たな培地を追加した後、24時間以上48時間以下の間、培養することが好ましい。培養時間を上記の通り設定することにより、Pseudozyma antarcticaの増殖速度や得られる培養液中の酵素濃度を高く維持することができる。また、半回分培養の1回の培養後に抜き取る培養液の量は、全培養液の50%以上80%以下であることが好ましい。
Pseudozyma antarcticaの培養に当たって、連続培養を行う場合、培養液への培地の追加と培養液の回収は、0.25v/(v/d)以上0.75V/(v/d)以下の速度で行うことが好ましい。斯かる速度で新たな培地を追加し、培養液を回収することにより、培養液中の酵素濃度を高く維持しつつ、Pseudozyma antarcticaの増殖速度を高く維持することができる。
Pseudozyma antarcticaの培養に用いる培養装置は、特に限定されないが、大量培養が可能であり、温度、通気量、pH等の培養条件を一定に保つことができるという点から、ジャーファーメンターを用いることが好ましい。
【0015】
[生分解性プラスチック分解酵素の分離・精製]
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法においては、Pseudozyma antarcticaを培養することにより得られた培養液を、そのまま、生分解性プラスチックの分解に使用してもよいが、生分解性プラスチック分解酵素を含む溶液の保存性を向上させるためには、Pseudozyma antarcticaを含む培養液から、Pseudozyma antarcticaの菌体を分離することが好ましい。Pseudozyma antarcticaの培養液から菌体を分離するには、遠心分離や加圧ろ過など、従来公知の方法を採用することができる。なお、遠心分離によりPseudozyma antarcticaの菌体を除去した場合、上清に微量の菌体が混入する可能性があるため、保存性を更に向上するためには、遠心分離の後、更にろ過滅菌等を行うことが好ましい。ろ過滅菌を行うに際して使用するメンブランフィルターの孔径は、0.45μm以下であることが好ましい。また、菌体を分離した生分解性プラスチック分解酵素の溶液に対して、更に限外ろ過等の処理を行うことにより、生分解性プラスチック分解酵素を高濃度で含有する酵素液を得ることができる。
本発明の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法においては、必要に応じて、生分解性プラスチック分解酵素を精製してもよい。その場合、陰イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等、タンパク質の精製方法として従来公知の精製方法を採用することができる。
なお、本発明でいう、生分解性プラスチック分解酵素とは、生分解性プラスチックの分解能を有する限りにおいて、特に限定されるものではないが、クチナーゼであることが好ましい。
【実施例】
【0016】
以下、本発明について実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に挙げる実施例に何ら限定されるものではない。
【0017】
<実施例1;生分解性プラスチック分解酵素の産生に好適な培養条件の選択1>
三角フラスコを用い、Pseudozyma antarcticaが生分解性プラスチック分解酵素を産生する際の、好適な条件の選定を行った。培養条件の選定に使用した株は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターにおいて提供されているPseudozyma antarctica JCM10317株、及び茨城県において採取された稲籾から単離された受託番号FERM P-22155のPseudozyma antarcticaであった。
まず、生分解性プラスチック分解酵素の産生に好適な培地の条件を検討するため、FMM培地中の各種栄養素の濃度を変更した改変FMM培地を作成し、各培地中で、Pseudozyma antarctica JCM10317株の生分解性プラスチック分解酵素の産生能を検討した。具体的には、前培養として、Pseudozyma antarctica JCM10317株を表1に示すYM培地中、30℃で24時間培養した後、表2に示すFMM培地の各成分のうち、KH2PO4、MgSO4・7H2O、Yeast Extractの濃度を、表2に記載された濃度の範囲で変更した改変FMM培地に、炭素源として8質量%のグリセロールを添加した培地を、100mL容の三角フラスコ中に20mL用意し、これに前培養液200μLを接種して、30℃、200rpmで96時間まで培養した。
次いで、20mM Tris-HCl緩衝液(pH6.8)に660nmにおける吸光度が0.65となるようにPBSAエマルジョンを懸濁させた懸濁液1.9mLを内径10mmの試験管に入れ、上記の培養により得られた培養上清を100μL加えて、30℃、180rpmで15分間振とう処理して吸光度の減少を測定した。1分あたり吸光度を1.0減少させる酵素量を1Uとした。
KH2PO4、MgSO4・7H2O、Yeast Extractの濃度を、通常用いたれるFMM培地の濃度(KH2PO4について0.02%、MgSO4・7H2Oについて0.02%、Yeast Extractについて0.1%)に対して、それぞれ、1倍量、3倍量、又は5倍量に変更した培地を使用して得られた酵素液のPBSA分解活性を図1(A)に、Pseudozyma antarctica JCM10317株の乾燥菌体重量を図1(B)に示す。
表1:YM培地の組成

表2:FMM培地の組成

【0018】
図1から明らかなように、KH2PO4、MgSO4・7H2O、Yeast Extractの濃度を、それぞれ、通常のFMM培地に用いられる量の3倍量にした改変FMM培地(A)では、通常のFMM培地を用いた場合に比べ、培養後96時間の酵素活性が、約2倍(通常のFMM培地における生分解性プラスチック分解酵素の酵素活性0.23U/mLに比べ、0.42U/mL)となった。一方、KH2PO4、MgSO4・7H2O、Yeast Extractの濃度を、それぞれ、通常のFMM培地に用いられる量の5倍量にした改変FMM培地(B)では、培養後96時間後の生分解性プラスチック分解酵素の酵素活性は0.54U/mL程度で、改変FMM培地(A)で培養した際の生分解性プラスチック分解酵素の酵素活性と大きく変わらなかった。
【0019】
<実施例2;生分解性プラスチック分解酵素の産生に好適な培養条件の選択2>
Pseudozyma antarcticaにおいて、生分解性プラスチック分解酵素の生産誘導に関与する炭素源を特定するため、図2に示す10種類の炭素源を添加した改変FMM培地(A)を用いて、炭素源の種類が生分解性プラスチック分解酵素の産生能に与える影響を調べた。
Pseudozyma antarctica JCM10317株をYM培地中、30℃で24時間培養した後、図2に示した10種類の炭素源を、濃度が8質量%となるようにそれぞれ添加した、この炭素源添加改変FMM培地(A)60mLを300mLの三角フラスコに入れて、上記前培養液600μLを接種し、30℃、撹拌速度200rpmで培養した。
培養液を遠心分離して得られた培養上清100μLについて、実施例1と同様に酵素活性を測定した。結果を図2に示す。
図2から明らかなように、炭素源としてキシロースを用いたときに、生分解性プラスチック分解酵素の産生が亢進し、高い酵素活性を有する酵素液を得られることが分かった。
【0020】
<実施例3;生分解性プラスチック分解酵素の産生に特に好適な株の選定>
8質量%のグルコース又はキシロースを添加した改変FMM培地(A)を用い、実施例2と同様の条件下、Pseudozyma antarctica JCM10317株と、受託番号FERM P-22155のPseudozyma antarctica(GB4(1)Wと表示)を96時間培養した。
各培養液を遠心分離して得られた培養上清100μLについて、実施例1と同様に生分解性プラスチック分解酵素の酵素活性を測定した。結果を図3に示す。
図3に見られるように、受託番号FERM P-22155のPseudozyma antarcticaの生分解性プラスチック分解酵素の産生量は、Pseudozyma antarctica JCM10317株の生分解性プラスチック分解酵素の産生量に比較して有意に高く、受託番号FERM P-22155のPseudozyma antarcticaが、生分解性プラスチック分解酵素の産生に特に適していることが分かった。
【0021】
<実施例4;大容量での生分解性プラスチック分解酵素の生産>
5L容のジャーファーメンターに、表3に示した組成の培地3Lを加え、受託番号FERM P-22155のPseudozyma antarcticaを実施例1記載の条件と同様の条件でYM培地で培養した前培養液30mLを接種して、30℃、撹拌速度500rpm、通気量8LPMで培養を行った。高泡形成による培養液の流出を防止するため、消泡剤(商品名「信越シリコーンKM-72F」、信越化学工業株式会社製)を60mL添加した。
窒素源の追加とpHの調整のため、培地にアンモニア水を滴下してpHを6.0に調整した。培養開始24時間後から、表4に示した組成の流加培地を0.5L/dの速度で流加した。
流加培地の添加の開始から24時間毎に所定量の培養液を回収し、培養液を遠心分離して得られた培養上清100μLについて、実施例1と同様に酵素活性を測定すると共に、得られた培養液中の乾燥菌体重量を測定した。結果を図4に示す。
図4から明らかなように、流加培地の添加に伴い生分解性プラスチック分解酵素の酵素活性は増加していき、流加培地の添加開始から120時間後には約21U/mL(比活性からの推定濃度0.3g/L)の酵素を生産できた。
表3:ジャーファーメンター用培地

表4:生分解性プラスチック分解酵素生産誘導用流加培地

※ディフコ社製
【0022】
<実施例5;半回分培養による生分解性プラスチック分解酵素の生産>
実施例4では、約21U/mL(約0.3g/L)の酵素を生産できたが、前培養で十分な量の菌体を確保するために1.5日程度の時間を要するため、前培養を含めた全過程を通じた酵素生産速度は0.06g/L/dである。この酵素生産速度を向上させるため、培養後の培養液の一部を利用して、更に生分解性プラスチック分解酵素の生産を行う半回分培養により生分解性プラスチック分解酵素の培養を行った。
5Lのジャーファーメンターに表3に示した組成の培地を3L加え、YM培地中、実施例1と同様の条件で前培養した受託番号FERM P-22155のPseudozyma antarcticaの前培養液30mLを添加し、30℃、撹拌速度500rpm、通気量8LPMで培養を行った。高泡形成による培養液の流出を防止するため、消泡剤(商品名「信越シリコーンKM-72F」、信越化学工業株式会社製)を50倍希釈で添加した。
培地には、窒素源の追加とpHの調整のため、アンモニア水を滴下してpHを6.0に調整した。培養開始24時間後から、表4に示した組成の流加培地を0.5L/dで流加した。
流加培地の添加開始後72時間の時点で2Lの培養液を回収し、残る1Lの培養液に対して、表3に記載の組成の培地を2L添加し、流加培地の流加を更に継続して培養を続けた。以後、24時間ごとに2Lの培養液の回収と2Lの培地の添加を計7回行った。
得られた培養液について、実施例1に示した方法と同様の方法により、生分解性プラスチック分解酵素の酵素活性を測定し、菌体の乾燥重量の測定も行った。結果を図4に示す。
各培養液から得られた培養上清中の酵素活性は、平均して14U/mL(約0.2g/L)となり、酵素生産速度は0.2g/L/dとなった。
【0023】
<実施例6;草本系バイオマスを利用した生分解性プラスチック分解酵素の生産>
実施例1から5においては、キシロースを単独の炭素源として添加した培地において生分解性プラスチック分解酵素の生産を行ったが、本実施例では、草本系バイオマスを添加して培養中にこれを分解し、キシロース以外にもグルコース等の炭素源が存在するキシロース溶液を提供して生分解性プラスチック分解酵素の生産を行った。
まず、300mL容の三角フラスコに小麦ふすまを2.5g、水を50mL加え、121℃で15分間加温加圧滅菌した。これに、硝酸ナトリウム0.01g、硝酸アンモニウム0.01g、おから0.15g、米ぬか0.1gを加えた培地をそれぞれ用意し、必要に応じて、小麦ふすま中のセルロースの加水分解を補助する機能を有するアクレモニウムセルラーゼを加えた。
実施例1と同様の条件で得られたYM培地による前培養液600μLを各培地に加え、30℃、撹拌速度200rpmで培養した。
得られたそれぞれの培養上清100μLについて、実施例1と同様に酵素活性を測定した。結果を図6に示す。
図6から明らかなように、小麦ふすまのみを加えた培地においても生分解性プラスチック分解酵素の酵素活性は96時間で0.95U/mLとなったものの、硝酸ナトリウムの添加により、この酵素活性が1.05U/mLまで増加し、更にセルラーゼを加えることにより1.25U/mLまで増加した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシロースを含有する培地中でPseudozyma antarcticaを培養することを特徴とする生分解性プラスチック分解酵素の製造方法。
【請求項2】
培地が、更にグルコースを含有する請求項1の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法。
【請求項3】
培地が、バイオマス原料の分解産物に由来するキシロース溶液を含有する請求項1又は2の生分解性プラスチック分解酵素の製造方法。
【請求項4】
生分解性プラスチック分解酵素が、クチナーゼである請求項1から3のいずれかの生分解性プラスチック分解酵素の製造方法。
【請求項5】
Pseudozyma antarcticaを半回分培養で培養する請求項1から4のいずれかの生分解性プラスチック分解酵素の製造方法。
【請求項6】
Pseudozyma antarcticaが、受託番号FERM P-22155のPseudozyma antarcticaである請求項1から5のいずれかの生分解性プラスチック分解酵素の製造方法。
【請求項7】
受託番号FERM P-22155のPseudozyma antarctica。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−48563(P2013−48563A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186786(P2011−186786)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月5日 社団法人日本農芸化学会発行の「日本農芸化学会 2011年度大会講演要旨集」に発表
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【Fターム(参考)】