説明

生分解性プラスチック資材の分解を促進する方法

【課題】効率的に生分解性プラスチック資材を分解することができる、生分解性プラスチック資材を分解する方法、及び生分解性プラスチック資材分解剤を提供すること。
【解決手段】生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を、生分解性プラスチック資材の表面に適用する工程を含む生分解性プラスチック資材を分解する方法においては、吸水剤として高分子吸水剤を使用しているため、長期間に亘って効率的に生分解性プラスチック資材を分解することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物により産生される生分解性プラスチック分解酵素を用いて、生分解性プラスチック資材、好ましくは生分解性マルチフィルムに代表される生分解性農業資材を分解する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチ栽培技術は、地中の温度の上昇や雑草の防除、地面の保湿などにより作物の育成を促進する効果が高く、日本の畑作に欠かせない栽培技術である。マルチ栽培に使用されるマルチフィルムの国内使用量は現在、年間約4万トン程度となっており、近年では、生分解性のマルチフィルムも開発されている。生分解性マルチフィルムを使用することにより、省力的な農法を実現可能であるため、国内の農業就業者の老齢化と働き手の不足が深刻な日本では、他の国に先駆けて生分解性マルチフィルムが導入され、従来の生分解性を有さないマルチフィルム(例えば、ポリエチレン製マルチフィルム)と、生分解性マルチフィルムの価格差が小さくなるにつれて、流通量も年々増加している。
2006年の全世界における生分解性マルチフィルムの流通量は1150トン程度で、その後も徐々に増加して2009年度には約1.5倍の1700トン程度となったと推計されており、今後も流通量は更に増加することが予測される。また、マルチフィルムメーカーでは、国内で使用されている、生分解性を有さないポリエチレン製マルチフィルムの約7割程度が、今後、生分解性マルチフィルムに置き換えられていくと見込んでいる。更に、マルチフィルムの使用量が、全世界の8割を超えている中国でもポリエチレン製マルチフィルム残渣の問題が顕著化しており、生分解性マルチフィルムの分解を制御する技術の開発が急がれている。
生分解性マルチフィルムの処理方法に関しては、例えば、特許文献1に、廃棄すべき生分解性樹脂を、該生分解性樹脂の分解能を有する微生物又は/及び酵素、並びに、保水剤を含有する水性分解処理液に接触させて分解することを特徴とする生分解性樹脂の分解処理方法が開示されている。特許文献1の生分解性樹脂の分解処理方法によれば、生分解性樹脂の使用期間終了後において、生分解性樹脂の分解を促進して短期間での分解を可能とすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−124678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の分解処理方法において実際に使用されている保水剤はグリセリンであるため、生分解性樹脂の表面に均一に塗布することが難しい上、圃場で実際に使用された場合、雨などにより保水剤が洗い流される可能性もあり、生分解性樹脂の表面に、長期間に亘って生分解性樹脂の分解能を有する微生物や酵素を付着させておくことが難しい。このため、特許文献1の分解処理方法を用いた場合には、実際に生分解性マルチフィルムが使用される圃場において、効率的に生分解性樹脂を十分に分解できないこともあった。
従って、本発明は、効率的に生分解性プラスチック資材を分解することができる、生分解性プラスチック資材を分解する方法、及び生分解性プラスチック資材分解剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を行った。その結果、生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を、生分解性プラスチック資材の表面に適用することにより、高い効率で生分解性プラスチック資材を分解できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0006】
本発明の第一の態様は、生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を、生分解性プラスチック資材の表面に適用する工程を含む生分解性プラスチック資材を分解する方法である。
本発明の第二の態様は、生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を含む、生分解性プラスチック資材分解剤である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の生分解性プラスチック資材を分解する方法においては、吸水剤として高分子吸水剤を使用しているため、長期間に亘り、効率的に生分解性プラスチック資材を分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】生分解性マルチフィルムに生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を適用し、1.5日が経過した後のマルチフィルムの様子を示す図面である。
【図2】生分解性マルチフィルムに生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を適用し、7日が経過した後のマルチフィルムの様子を示す図面である。
【図3】生分解性マルチフィルムに生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を適用し、1日から35日が経過した後のマルチフィルムの様子を示す図面である。
【図4】生分解性マルチフィルムに生分解性プラスチック分解酵素を適用し、9日が経過した後のマルチフィルムの様子を示す図面である。
【図5】生分解性マルチフィルムに生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を適用し、1.5日から7日が経過した後のマルチフィルムの様子を示す図面である。
【図6】生分解性マルチフィルムに生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水材を適用し、10日が経過した後のマルチフィルムの様子を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
<生分解性プラスチック資材を分解する方法>
本発明の生分解性プラスチック資材を分解する方法は、生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を、生分解性農業資材の表面に適用する工程を含む。
(生分解性プラスチック分解酵素)
生分解性プラスチック分解酵素としては、生分解性プラスチックを分解する酵素として従来公知の酵素を使用することができ、例えば、リパーゼ、クチナーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼ、リゾホスホリパーゼ、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、ペプチターゼ、セリンハイドロラーゼ、セルラーゼ、キチナーゼ、キシラナーゼ、ペクチナーゼ等の加水分解酵素;及びペルオキシターゼ、モノオキシゲナーゼ、ジオキシゲナーゼ、ラッカーゼ等の酸化還元酵素を挙げることができ、リパーゼ、クチナーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼ、及びアミラーゼが好ましい。
本発明の生分解性プラスチック資材を分解する方法は、これらの生分解性プラスチック分解酵素を単離して、生分解性プラスチック資材の表面に適用するための組成物中に含有させ、当該組成物を生分解性プラスチック資材の表面に適用してもよいが、これらの生分解性プラスチック分解酵素を産生する微生物やその培養液を、生分解性プラスチック資材の表面に適用してもよい。
【0010】
上記の生分解性プラスチック分解酵素を産生する微生物としては、特に限定されるものではないが、例えば、シュードモナス(Pseudomonas)属、シュードザイマ(Pseudozyma)属、クリプトコッカス(Cryptococcus)属、バクテロイデス(Bacteroides)属、ムコール(Mucor)属、フミコラ(Humicola)属、テルモミセス(Thermomyces)属、タラロミセス(Talaromyces)属、ケトミウム(Chaetomium)属、トルラ(Torula)属、スポロトリクム(Sporotrichum)属、マルブランケア(Malbranchea)属、アシドボラックス(Acidovorax)属等の微生物を挙げることができ、好ましくはPseudozyma antarcticaを使用することができる。また、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに寄託された、受託番号NITE P-573である糸状菌を使用してもよい。特に、Pseudozyma antarctica、受託番号NITE P-573である糸状菌、又はそれらの培養液の混合物を、生分解性プラスチック資材の表面に適用することが最も好ましい。
生分解性プラスチック資材の表面に適用するための組成物中の、生分解性プラスチック分解酵素の含有量は、特に限定されるものではないが、上記組成物1mL中、0.1単位以上20単位以下の生分解性プラスチック分解酵素を含有していることが好ましく、0.3単位以上10単位以下の生分解性プラスチック分解酵素を含有していることが更に好ましい。
また、生分解性プラスチック資材の表面に適用するための組成物中に、生分解性プラスチック分解酵素を産生する微生物を含有させる場合、当該微生物の存在量は、104以上1010個/m2以下であることが好ましく、106以上109個/m2以下であることが更に好ましい。上記組成物に、生分解性プラスチック分解酵素やこれを産生する微生物を上記の範囲内で含有させることにより、生分解性プラスチック資材を効率的に分解することができる。
【0011】
なお、生分解性プラスチック分解酵素の活性は、以下の方法により測定することができる。
まず、内径10mmの試験管に、20mMのTris−HCl緩衝液(pH6.8)1730μLと、基質として、所定量のPBSAエマルジョンEM−301溶液を水に溶解した水溶液30μLと、を添加して混合し、更に必要に応じて100mM 塩化カルシウム溶液40μLを添加する。
次いで、生分解性プラスチック分解酵素を産生する微生物の培養液を得て、遠心分離により微生物を除去した後、上清200μLを得て、上記試験管中に添加する。上清を添加した混合液をボルテックスで撹拌し、濁度計を用いて660nmにおける透過率を測定する。その後、30℃において、220rpmで試験管を振とうしながら、混合時及び混合後15分の透過率を求める。濁度計により得られた透過率を以下の式(1)により吸光度に変換し、得られた吸光度から以下の式(2)により酵素活性を求める。
t=−log(X/100) ・・・(1)
C=(A0−A15)×10/15[U/ml/min] ・・・(2)
【0012】
(式中、Atは時間t(min)における吸光度を示し、Xは透過率を示し、Cは酵素活性を示し、A0及びA15は、それぞれ混合時及び混合後15分における吸光度を示す。)
【0013】
(高分子吸水剤)
本発明の生分解性プラスチック資材を分解する方法は、生分解性プラスチック資材の表面に、上記生分解性プラスチック分解酵素のほかに、高分子吸水剤を適用する。
高分子吸水剤としては、特に限定されるものではないが、好ましくは、十分な水保持能力を有し、水を保持した状態で生分解性プラスチック資材の表面に粘着し、雨等により洗い流されない性質を有する高吸水性ポリマー、デンプン誘導体、カルボキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、多糖誘導体、ポリアミノ酸架橋体、及び青果物の廃棄物を原料とする吸水材等を挙げることができる。これらの中でも、カルボキシアルキルセルロースが好ましく、カルボキシメチルセルロースが特に好ましい。これらの高分子吸水剤を生分解性プラスチック資材の表面に適用することにより、高分子吸水剤が水と生分解性プラスチック分解酵素を含有した状態で長時間、生分解性プラスチック資材の表面に維持され、生分解性プラスチック資材の分解を容易にすることができる。
なお、高分子吸水剤の性状は如何なる性状であってもよく、特に限定されないが、特に粉体のものが、生分解性プラスチック資材表面への均一な塗布が可能であるという点で好ましい。
【0014】
特に、本発明の発明者らは、生分解性プラスチック資材の表面に従来適用されていた保水剤であるグリセロールと比較して、本発明の高分子吸水剤を使用した場合に、生分解性プラスチック資材の分解速度が顕著に向上することを見出した。即ち、以下の実施例に示されるように、本発明の生分解性プラスチック分解酵素と、高分子吸水剤を、圃場に敷設された生分解性マルチフィルムに適用した場合、僅か7日ですきこみが可能な状態にまで生分解性マルチフィルムが分解された。このような急速な分解は、従来知られていた方法では、実現できなかったものであり、本発明の生分解性プラスチック資材を分解する方法は、このような点において顕著な効果を有する。
高分子吸水剤の使用量は、生分解性プラスチック分解酵素を含む組成物100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下であることが好ましく、10質量部以上30質量部以下であることが更に好ましい。また、高分子吸水剤の分子量は、10000以上100000以下であることが好ましく、10000以上20000以下であることが好ましい。高分子吸水剤の使用量及び分子量を上記の範囲内のものとすることにより、生分解性プラスチック分解酵素が、生分解性プラスチック資材を効果的に分解することができる。
【0015】
なお、本発明においては、生分解性プラスチック分解酵素と、高分子吸水剤とを、予め混合して均一な組成物とした後に、生分解性プラスチック資材の表面に適用してもよく、生分解性プラスチック分解酵素と、高分子吸水剤とを、別々に生分解性プラスチック資材の表面に適用してもよい。
【0016】
(生分解性プラスチック資材)
ここで、本発明において、「生分解性プラスチック」とは、「使用時は従来の石油由来のプラスチックと同様の機能を有し、使用後は自然界の土中や水中の微生物により、最終的に水や二酸化炭素に分解されるプラスチック」を指し、具体的には、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、並びにポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリ乳酸、ポリブチレンアジペート・テレフタレート、及びポリウレタン等のポリエステルを挙げることができる。
特に、本発明の生分解性プラスチック資材を分解する方法において、好適に分解される生分解性プラスチック素材としては、ポリカプロラクトン(PCL)、並びにコハク酸系ポリエステルである、ポリブチレンサクシネート(PBS)及びポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)を挙げることができる。
また、生分解性プラスチック資材としては、特に限定されるものではないが、生分解性プラスチックを用いたマルチフィルム、ポット、シート、紐、ネット、トンネルフィルム、ハウスフィルム、畦シート、発芽シート、植生マット、育苗床、植木鉢、食器、食品系の容器、袋等、及びこれらのプラスチック資材の製造過程で生産される端材を挙げることができる。本発明の生分解性プラスチック資材を分解する方法は、これらの中でも、生分解性プラスチックを用いたマルチフィルム、ポット、シート、紐、ネット、トンネルフィルム、ハウスフィルム、畦シート、発芽シート、植生マット、育苗床、植木鉢、苗用クリップ等の生分解性農業資材に適用することが好ましく、特に生分解性マルチフィルムに適用することが好ましい。
本発明の生分解性プラスチック資材を分解する方法を生分解性マルチフィルムに適用する場合、適用の形態は特に限定されない。例えば、生分解性マルチフィルムが圃場に設置された状態で、生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を、生分解性マルチフィルムの表面に適用してもよく、生分解性マルチフィルムを圃場から回収した後に、生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を、生分解性マルチフィルムの表面に適用してもよいが、生分解性マルチフィルムが圃場に設置された状態で、生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を、生分解性マルチフィルムの表面に適用することが好ましい。
【0017】
(生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を、生分解性プラスチック資材の表面に適用する工程)
生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤は、任意の方法によって生分解性プラスチック資材の表面に適用してもよい。例えば、生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤は生分解性プラスチック資材の形状に応じて、その表面に塗布、散布、又は噴霧すればよい。
生分解性プラスチック分解酵素と高分子吸水剤は、生分解性プラスチック資材の表面に別々に適用してもよく、同時に適用しても良い。例えば、本発明においては、高分子吸水剤を生分解性プラスチック資材の表面に塗沫した後、生分解性プラスチック分解酵素を含む溶液を散布してもよいし、高分子吸水剤と生分解性プラスチック分解酵素とを含む混合液を、生分解性プラスチック資材の表面に適用してもよい。
生分解性プラスチック資材の表面に適用される高分子吸水剤の量は、高分子吸水剤が適用される生分解性農業資材の表面の表面積1m2当たり、1g以上100g以下であることが好ましく、10g以上30g以下であることが更に好ましい。
生分解性プラスチック資材の表面に生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を接触させる時間は、適用する環境の気温によって適宜調整することが好ましいが、例えば、適用する環境の気温が19℃以上30℃以下である場合には、3時間から20日の間、接触させることが好ましく、6時間から7日の間、接触させることが更に好ましい。特に、生分解性プラスチック資材が生分解性農業資材である場合においては、上記の期間に亘り、生分解性プラスチック資材の表面に上記生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を接触させ、生分解性農業資材をすき込み可能な程度まで分解が進行した場合は、農業機械などを用いて生分解性農業資材を土壌中にすき込み、土壌中の細菌などの助けを借りて更に生分解性農業資材を分解することが好ましい。
【0018】
<生分解性プラスチック資材分解剤>
本発明は、生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を含む、生分解性プラスチック資材分解剤にも関する。当該生分解性プラスチック資材分解剤において、生分解性プラスチック分解酵素、高分子吸水剤は、上記生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤の項において説明したものと同様のものを用いることができ、単離された生分解性プラスチック分解酵素に代えて、生分解性プラスチック分解酵素を産生する微生物を含有させても良い。
生分解性プラスチック分解酵素やこれを産生する微生物の種類及び使用量、高分子吸水剤の種類及び添加量、高分子吸水剤の分子量についても、上記の生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤に適用される条件と、同様の条件を適用することができる。
【0019】
本発明の、生分解性プラスチック資材分解剤によれば、生分解性プラスチック資材、特に生分解性マルチフィルム等の生分解性農業資材を、効率的に分解することができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
<実施例1>
圃場に敷設した昭和電工株式会社製PBS(商品名:ビオノーレ1001Gフィルム)製のマルチフィルム(試作品)に、高分子吸水材として、カルボキシメチルセルロースをマルチフィルム1m2あたり28g塗沫した後、受託番号NITE P-573である糸状菌を以下の表1に示す糸状菌用誘導型酵素生産培地で7日間培養した後、菌体を除去した培養液を、マルチフィルム1m2あたり400mL散布した。1.5日後のマルチフィルムの様子を図1左欄の写真に示す。また、カルボキシメチルセルロースに代えて、高吸水性ポリマー(三洋化成工業社製、「サンフレッシュST−500D」、アクリル酸重合体部分塩架橋物)を塗沫し、1.5日経過した写真を図1右欄の写真に示す。
表1 糸状菌用誘導型酵素生産培地

*ビオノーレエマルジョン EM-301(PBSA)昭和電工株式会社
【0021】
写真中に示される紐で区切られたマルチフィルムの3区画のうち、左の区画は無処理のもの、中央の区画は糸状菌の培養液を塗布し、カルボキシメチルセルロース又は高吸水性ポリマーを塗沫したもの、右の区画は糸状菌の培養液のみを塗布したものを示す。また、カルボキシメチルセルロースと、高吸水性ポリマーを塗沫して、7日が経過したマルチフィルムの様子を、それぞれ、図2の左欄の写真と、右欄の写真に示す。
図1及び2より明らかなように、上記糸状菌の培養液と、カルボキシメチルセルロース又は高吸水ポリマーとを併せて適用した場合、1.5日後までに生分解性マルチフィルムが迅速に分解し(分解されたフィルムの面積で7.4%)、7日後にはすき込み可能な状態にまで分解が進行した(分解されたフィルムの面積で16.1%)。
同様に、PBSA製マルチフィルム、PBS製マルチフィルム、及びPBS/PBSA混合マルチフィルムに、上記糸状菌の培養液と、カルボキシメチルセルロース又は高吸水性ポリマーを塗沫した後、1日、16日、及び35日経過した後のマルチフィルムの様子を図3に示す。図3中、Aは水のみを散布した対照、Bは培養液のみを散布した対照、Cは糸状菌の培養液を散布し、カルボキシメチルセルロースを塗沫したもの、Dは糸状菌の培養液を散布し、高吸水性ポリマーを塗沫したものを示す。
【0022】
<実施例2>
上記糸状菌の培養液に代えて、菌体を除去したPseudozyma antarcticaの培養液(図4、左欄)、及び菌体を除去した上記糸状菌の培養液とPseudozyma antarcticaの培養液の1:1での混合液(図4、右欄)を、PBS製マルチフィルム(図4、左欄)又はPBS/PBSA混合マルチフィルム(図4、右欄)の表面に散布した点以外は、実施例1と同様に試験を行った。散布後9日後のマルチフィルムの様子を図4に示す。
【0023】
<実施例3>
昭和電工株式会社製PBS(商品名:ビオノーレ1001Gフィルム)製のマルチフィルム(試作品)に代えて、タキイ種苗株式会社製、PBS/PBSA混合マルチフィルム(商品名:ビオマルチ)を用いた点以外は、実施例1と同様の手法により、生分解性マルチフィルムの分解の様子を観察した。なお、高分子吸水剤としては、カルボキシメチルセルロースのみを用いた。結果を図5に示す。図5中、上欄は無処理の生分解性マルチフィルムを、中央欄は酵素液及びカルボキシメチルセルロースを適用後1.5日の生分解性マルチフィルムを、下欄は酵素液及びカルボキシメチルセルロースを適用後7日の生分解性マルチフィルムを示す。なお、本実施例において、酵素液とカルボキシメチルセルロースを適用した後、1.5日後に分解された生分解性マルチフィルムの面積は2.9%であり、7日後に分解された生分解性マルチフィルムの面積は15.6%であった。
【0024】
図1から5より明らかなように、生分解性プラスチック分解酵素の酵素液を散布し、高分子吸水剤を塗沫した生分解性マルチフィルムでは、短期間で生分解性マルチフィルムをすき込み可能な程度まで分解されている。生分解性マルチフィルムのこのような迅速な分解は、高分子吸水剤を塗沫していないマルチフィルムでは確認されなかった。
【0025】
<実施例4>
菌体を除去した受託番号NITE P-573である糸状菌の培養液400mLに、1質量%となるようにカルボキシメチルセルロースを溶解させ、タキイ種苗株式会社製、PBS/PBSA混合マルチフィルム(商品名:ビオマルチ)の表面に塗布した。他の実験の条件は、実施例1と同様の条件とした。散布後10日後のマルチフィルムの様子を図6に示す。
【0026】
図6から明らかなように、生分解性プラスチック分解酵素の酵素液と、高分子吸水剤との混合液を適用した生分解性マルチフィルムにおいても、生分解性プラスチック分解酵素の酵素液と、高分子吸水剤とを、別々に適用した場合と同様に、生分解性プラスチックの分解が促進されていることが分かる。
【0027】
<参考例1>
黒ボク土乾燥土を2mmメッシュで篩いにかけ、うち50gを口径9cmのシャーレに入れた。シャーレに17.69gの滅菌水を加え、水分が土壌の最大容水量の80%になるように調整した。ここに、5cm×5cmの正方形に切断した昭和電工株式会社製PBSAフィルム(商品名:ビオノーレ3001Gフィルム)を乗せた。
次いで、Pseudozyma antarctica JCM10317株を6%グリセロールを含む酵母用誘導型酵素産生培地(表2参照)に接種し、200rpm、30℃で4日間振とう培養することにより、PBSAエマルジョンの分解活性を指標とする酵素活性が0.63Uの培養液を得た。この培養液から、遠心分離及び口径0.45μmのニトロセルロース膜による濾過により、菌体を除去し、ろ液Aを用意した。この培養液及びろ液Aを、黒ボク土上に載せたPBSAフィルムに、フィルム一枚あたり0.5mL塗布し、シャーレに蓋をして25℃で14時間静置した。その後、PBSAフィルムを回収し、水洗して乾燥させた後、重量を測定して、重量の減少率を求めた。
比較のため、同様の実験を、ろ液Aを121℃で5分間煮沸した煮沸ろ液、20mMトリス−塩酸緩衝液(pH6.8)についても行った。結果を表3に示す。
なお、実験においては、各試料を3系列分用意し、データは3系列の試料の平均値として求めた。
【0028】
表2 酵母用誘導型酵素生産培地

表3

【0029】
参考例1によれば、Pseudocyma antarctica JCM10317株の菌体を含む培養液、及び当該菌体を含まないろ液Aとで、ほぼ、同様の効果が得られていることが分かる。即ち、本発明においても、菌体を含む培養液と、菌体を含まないろ液とで、その効果に大きな違いがないことが予測される。
なお、PBSAフィルムに代えて、生分解性プラスチック製の紐を用いた実験においても同様の結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を、生分解性プラスチック資材の表面に適用する工程を含む生分解性プラスチック資材を分解する方法。
【請求項2】
生分解性プラスチック分解酵素が、受託番号NITE P-573である糸状菌により産生される酵素、Pseudozyma antarcticaにより産生される酵素、又はそれらの混合物である請求項1の生分解性農業資材を分解する方法。
【請求項3】
生分解性プラスチック分解酵素が、受託番号NITE P-573である糸状菌又はPseudozyma antarcticaの培養液に由来するものである請求項2の生分解性プラスチック資材を分解する方法。
【請求項4】
高分子吸水剤が、高吸水性ポリマー、デンプン誘導体、カルボキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、多糖誘導体、ポリアミノ酸架橋体、及び青果物の廃棄物を原料とする吸水材からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1から3のいずれかの生分解性プラスチック資材を分解する方法。
【請求項5】
生分解性プラスチック資材が生分解性農業資材である請求項1から4のいずれかの生分解性プラスチック資材を分解する方法。
【請求項6】
生分解性農業資材が生分解性マルチフィルムである請求項5のいずれかの生分解性プラスチック資材を分解する方法。
【請求項7】
生分解性マルチフィルムが圃場に設置された状態で、生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を、生分解性マルチフィルムの表面に適用する請求項6の生分解性プラスチック資材を分解する方法。
【請求項8】
生分解性マルチフィルムを圃場から回収した後に、生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を、生分解性マルチフィルムの表面に適用する請求項6の生分解性プラスチック資材を分解する方法。
【請求項9】
高分子吸水剤を生分解性プラスチック資材の表面に塗沫した後、生分解性プラスチック分解酵素を含む溶液を散布する請求項1から8のいずれかの生分解性プラスチック資材を分解する方法。
【請求項10】
生分解性プラスチック分解酵素及び高分子吸水剤を含む、生分解性プラスチック資材分解剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−23643(P2013−23643A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161763(P2011−161763)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【Fターム(参考)】