説明

生分解性衛生用品

【課題】 安全性が高く、安価で、外観が良好な、従来の非生分解性衛生用品と同等以上の性能を有する生分解性衛生用品を提供する。
【解決手段】 フィルム、不織布及び吸水材から主として構成される衛生用品であって、上記フィルム、不織布及び吸水材が生分解性を有する素材から成り、吸水材がイエローインデックス値40%以下のカルボキシアルキルセルロース誘導体の放射線架橋物であることを特徴とする生分解性衛生用品であり、用いられる吸収材が、1時間に自重の30倍以上の0.9質量%塩化ナトリウム水溶液を吸水し、且つ吸水した量の80%以上を保水することができ、且つ吸水後のゲル強度が2×10-5N/mm2以上を有するカルボキシアルキルセルロース誘導体の放射線架橋物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、紙おむつや尿取りパッド、生理用ナプキン、失禁パットなどの使い捨て衛生材料に好適に用いられる吸水材とフィルム、不織布から成る尿又は血液を吸水して保持し、生分解性を有する衛生用品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
吸水材を用いた使い捨て衛生用品は、現在でも多くのメーカーが漏れ防止、防臭、通気性、風合い改善などを目的として、その構造や構成、吸水材の性能などの改良を行い、多数の特許が出願されている。紙おむつや生理用品は基本的に、透水性シート(トップシート)と不透水性シート(バックシート層)との間に吸水材とセルロースフラフなどから成る吸収コア部を備え、且つ紙おむつではそのウェスト部分或いは太股付け根部分には吸収体の介在されていないエンドトラップ部を形成するとともに、このエンドトラップ部に弾性伸縮部材を介在してギャザーを形成し、紙おむつを着用者の腰周りや太股周りにフィットさせ、漏れ、ズレを防止しているものである。さらに局所的に尿が偏在し吸水材への速やかな吸収が損なわれて尿や軟便が外部へ漏れることを防止し、尿や軟便を吸収コア全体に均一に拡散させることを目的としたアクィジション層とトランスポート層と呼ばれる多重層構造不織布をトップシートと吸収コア部の間に備えたものや、吸収コア部からバックシート層への漏れを防止するためのサージマネジメント層と呼ばれる不織布を装備したものが多くなっている。また例えば紙おむつ装着中のムレを防止することを目的として、バックシートには不透水性でありながら通気性を有するフィルムが用いられるなどの改良がなされている。
【0003】
近年、このような紙おむつに使用されている吸収コア内の吸水材としては、架橋ポリアクリル酸部分中和物(例えば、特許文献1、2)、澱粉−アクリロニトリル共重合体の部分加水分解物(例えば、特許文献3)、澱粉−アクリル酸グラフト共重合体(例えば、特許文献4)、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体の加水分解物(例えば、特許文献5)、架橋イソブチレン−無水マレイン酸共重合体(例えば、特許文献6)などの合成高分子系吸水材が知られている。
【0004】
またこのような衛生用品はその実質的な能力(吸水、保水能)以外にも、安全性や清潔性に加えて「外観」が必要とされており、白色に近い色の素材で構成されたものが求められている。
【0005】
一方で合成高分子系吸水材は生分解性を有しないため、使用後の廃棄が問題である。現状としては、これらの合成高分子系吸水材を含む衛生用品を廃棄時に焼却処理する方法と埋め立てする方法が行われているが、焼却炉で処理する方法では、地球の温暖化や酸性雨の原因となるガスの発生源となることが指摘されている。埋め立て処理する方法では、容積がかさばる、腐らないため地盤が安定しない、土壌中にいつまでも合成高分子が残留する等の問題がある。すなわち、これらの樹脂は化石燃料由来であるために分解性に乏しく、焼却すれば地球温暖化ガスの発生源となり、水中や土壌中では半永久的に存在するので、廃棄物処理における環境保全を考えると非常に重大な問題である。
【0006】
近年、「地球にやさしい素材」として生分解性ポリマーが注目されており、これを吸水材、フィルム、不織布として使用することが提案されている。生分解性を有する吸水材としては、例えばカルボキシメチルセルロース架橋体(例えば、特許文献7、8)、澱粉架橋体(例えば、特許文献9、10)、ポリアミノ酸架橋体(例えば、特許文献11〜15)、ガラクトマンナン−多価金属イオン架橋体(例えば、特許文献16)などが知られている。
【0007】
紙おむつや衛生用品のバックシートを構成する素材としてはポリエチレンやポリプロピレン、ポリエステルから成るフィルムがその優れた不透水性から使用されてきた。透水性のトップシートやアクィジション層、トランスポート層などの透水層を構成する素材としてはセルロース、レーヨン、ポリエチレンなどから成る不織布が、その優れた肌触り感から使用されてきた。しかしセルロース、レーヨン以外のこれら構成成分は生分解性を有していないため、使用後廃棄物の土壌埋め立ての際には土壌中に残存してしまうので、前述の非生分解性吸水材と同様の問題が提起されている。このような状況から全ての構成部分が生分解性を有する素材から成る衛生用品の開発が期待されていた。
【0008】
生分解性を有する不透水性フィルムとしてはいわゆる生分解性プラスチックがあり、その主なものはポリ乳酸系重合体、デンプン−ポリカプロラクトン共重合体、コハク酸エステル系重合体、ポリ−3−ヒドロキシブチレート−3−ヒドロキシバリレート共重合体、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸重合体、ポリ−ε−カプロラクトン重合体、ポリブチレンサクシネート重合体、ポリエステルアミド重合体などが知られている。生分解性を有する不織布としてはセルロース、レーヨンから成る不織布が知られている。
【0009】
ところで、非生分解性の合成高分子系吸水材と比較した場合、前述した生分解性を有する吸水材は吸水性能が低く、コストも高いためほとんど使用されておらず、また黄色に着色したものが多いため衛生用品としては外観に劣り、紙おむつや生理用品に全く使われていなかった。このため、生分解性のフィルムや不織布を用いて生分解性衛生用品の一部を製造できるにも関わらず、実用化されていなかった。
【0010】
本発明者らもガラクトマンナンや他の多糖類をホウ素イオン及び三価以上の多価金属イオンで架橋して成る生分解性吸水材を、例えば特許文献17や18で報告しており、またこのような吸水材を用いた生分解性衛生用品を特許文献19で報告しているが、吸水材が淡黄色に着色しており、従来の非生分解性衛生用品に比べて外見上でさらに改善が求められていた。
【特許文献1】特開昭55−84304号
【特許文献2】米国特許4625001号
【特許文献3】特開昭46−43995号
【特許文献4】特開昭51−125468号
【特許文献5】特開昭52−14689号
【特許文献6】米国特許4389513号
【特許文献7】米国特許4650716号
【特許文献8】特開2001−2703号
【特許文献9】特開昭55−15634号
【特許文献10】特許2744926号
【特許文献11】特開平7−224163号
【特許文献12】特開平7−309943号
【特許文献13】特開平8−59820号
【特許文献14】特開平8−504219号
【特許文献15】特開平9−169840号
【特許文献16】特開平8−59891号
【特許文献17】特開2002−265672号
【特許文献18】特開2003−17390号
【特許文献19】特開2002−35037号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記のような問題を解決し、安全性が高く、安価で、外観が良好な、従来の非生分解性衛生用品と同等以上の性能を有する生分解性衛生用品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意研究した結果、全ての構成素材が生分解性を有しており、特定の条件下で製造した生分解性吸水材を用いた衛生用品が、従来の非生分解性衛生用品に比べて同等以上の吸水能と外観を有すること、その衛生用品が土壌中やコンポスト中において優れた生分解性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、フィルム、不織布及び吸水材から主として構成される衛生用品であって、上記フィルム、不織布及び吸水材が生分解性を有する素材から成り、吸水材がイエローインデックス値40%以下のカルボキシアルキルセルロース誘導体の放射線架橋物であることを特徴とする生分解性衛生用品を要旨とするものであり、好ましくは、カルボキシアルキルセルロース誘導体の平均エーテル置換度が0.5以上であることを特徴とするものであり、また、この生分解性衛生用品は、吸水材が、1時間に自重の30倍以上の0.9質量%塩化ナトリウム水溶液を吸水し、且つ吸水した量の80%以上を保水することができ、且つ吸水後のゲル強度が2×10-5N/mm2以上を有するカルボキシアルキルセルロース誘導体の放射線架橋物であることを特徴とする生分解性衛生用品である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、全ての素材が生分解性の素材を用いて、血液や尿などの体液に対して優れた吸収能を有し、且つ安全性が高く、外観が良好な衛生用品が製造できる。また原料が植物原料由来の生分解性素材を使用した場合には、燃焼や埋め立てによって発生する二酸化炭素は実質上ゼロ(カーボンニュートラル概念)となるので、地球温暖化の防止や環境負荷の低減にも大きく貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の生分解性衛生用品は、主に(a)不透水性フィルム部分、(b)不織布部分、(c)吸収コア部分から構成されるものである。
【0016】
前記構成部分(a)の不透水性フィルムは、主に衛生用品のバックシート層に用いられるものであり、適度な可とう性、強度、熱寸法安定性、透明性、溌水性、通気性、耐熱性を有する生分解性プラスチックフィルムが用いられる。このフィルムに使用される生分解性プラスチックの具体例としては、例えば、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、脂肪族二価アルコールおよび脂肪族二塩基酸を組み合わせて製造できる生分解性を有する脂肪族ポリエステル系重合体が挙げられる。
【0017】
脂肪族ポリエステル系重合体に用いられる脂肪族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、グリコール酸、乳酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などが挙げられる。さらに脂肪族ヒドロキシカルボン酸の環状エステル、例えば乳酸の二量体であるラクタイド、グリコール酸の二量体であるグリコライド、6−ヒドロキシカプロン酸の環状エステルであるε−カプロラクトンなどが挙げられる。これらは単独でまたは二種以上併せて用いることができる。
【0018】
脂肪族二価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオールなどが挙げられる。これらは単独でまたは二種以上併せて用いることができる。
【0019】
脂肪族二塩基酸の具体例としては、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸などが挙げられる。これらの脂肪族二塩基酸は単独でまたは二種以上併せて用いることができる。
【0020】
その他の生分解性プラスチックの例として、上記脂肪族ポリエステル系重合体に一部テレフタル酸および/またはイソフタル酸が共重合された半脂肪族ポリエステル系重合体、上記脂肪族ポリエステルに脂肪族ジアミンや脂肪族アミノカルボン酸、ラクタム類が共重合されたポリエステルアミド系重合体、デンプン系重合体、ポリビニルアルコール系重合体、セルロースアセテート系重合体などが挙げられる。
【0021】
これらの重合体には目的に応じて各種添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、熱安定剤、難燃剤、離型剤、無機添加剤、結晶核剤、耐電防止剤、顔料、アンチブロッキング剤を添加することができる。
【0022】
これらの生分解性プラスチックの中でも、安全性、コスト的な観点から、好ましくはポリ乳酸系重合体が用いられる。ポリ乳酸系重合体とは、ポリ乳酸(ホモポリマー)の他、生分解性を有するポリ乳酸を主体とするコポリマー及び混合物を含むものである。ポリ乳酸を形成する乳酸としてはL-乳酸、D-乳酸、DL−乳酸及びこれらの混合物のいずれでもよい。またこれらの乳酸より得られたポリ乳酸を互いに混合して用いてもよい。さらに共重合や他の柔軟な生分解性ポリマーの混合、または生分解性の可塑剤の混合などにより必要に応じて伸度、弾性を調整することができる。これらの可塑剤としては生分解性があって且つポリ乳酸との相溶性に優れるものが好適に用いられる。例として、1価または多価脂肪酸エステル系可塑剤、1価または多価脂肪族アルコールエステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤、脂肪族ポリエステル系可塑剤などが挙げられる。
【0023】
ポリ乳酸系重合体を得るための方法は公知の方法を用いればよく、例えば乳酸を脱水縮合、又は乳酸の環状エステルを開環重合する方法が用いられる。また分子量増大を目的として少量の鎖延長剤、例えばジイソシアネート化合物、ジエポキシ化合物、酸無水物などを使用してもよい。ポリ乳酸系重合体は、質量平均分子量が1万〜100万の範囲が好ましく、これより分子量が小さいと実用に供し得る引っ張り強度を有するフィルムが得られず、これより分子量が大きいと、溶融粘度が高くなりフィルム化が困難になる。
【0024】
生分解性プラスチックフィルムを得る方法としては特に制限がなく、公知の成形方法によりフィルム状に成形される。T−ダイ成形法、インフレーション成形法、カレンダー成形法、熱プレス成型法などにより、フィルム状に成形する方法が挙げられる。またこれらのフィルムは少なくとも一方向に延伸されていてもよい。延伸法として特に制限はないが、ロール延伸法、テンター法、インフレーション法などが挙げられる。
【0025】
フィルムの厚さは適度な強度と可とう性を有する範囲であれば特に限定されないが5〜300μmが好ましく、10〜100μmが更に好ましい。これらの生分解性プラスチックからなるフィルムは風合いの観点から適度な可とう性と柔らかさを持っていることが望ましい。このようなフィルムとしてはフィルムの引張破断伸度が100%以上、引張弾性率が1000MPa以下のものが好ましく、200%以上、600MPa以下のものがさらに好ましい。
【0026】
さらに生分解性プラスチックフィルムの通気性を向上させるためにポリ乳酸重合体に無機及び有機充填材を添加することも可能である。無機充填材としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、珪酸白土などが挙げられ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シルカ、珪藻土、チタン、ゼオライトが好ましい。また有機充填材としては木粉、パルプ粉などのセルロース粉末が挙げられる。充填材の平均粒径としては30μm以下のものが好ましく、10μm以下のものがさらに好ましく、0.7〜5μmのものが特に好ましい。粒径が大きすぎるとフィルムの気孔の緻密性が悪くなり、小さすぎると樹脂への分散性が悪くなる。平面状の未延伸シートにしたあと、縦方向に一軸延伸することにより、または縦及び横方向に二軸延伸することによりフィルムは多孔化し通気性を有するフィルムとなる。
【0027】
前記構成部分(b)の不織布は、主に衛生用品の通液性に優れるトップシート、アクィジション層、トランスポート層とサージマネジメント層などに用いられるものであり、適度な可とう性、強度、透水性、耐熱性、肌触りを有する生分解性繊維から成る不織布であれば特に限定されるものではない。例えば、セルロース繊維の他、レーヨン、ポリ乳酸系重合体、デンプン−ポリカプロラクトン共重合体、コハク酸エステル系重合体、ポリ3−ヒドロキシブチレート−3−ヒドロキシバリレート共重合体、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸系重合体、ポリ−ε−カプロラクトン系重合体、ポリブチレンサクシネート系重合体、ポリエステルアミド系重合体などから選ばれる1種以上の樹脂成分を単独又は複合紡糸した繊維から成る不織布が挙げられる。
【0028】
トップシート、アクィジション層やトランスポート層に用いる不織布は、通液性に優れ、あまり嵩張らないものが望ましく、その密度は0.01〜1g/cm3が好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.2g/cm3である。また目付けは1〜50g/m2が好ましく、さらに好ましくは5〜20g/m2である。目付けが50g/m2以上では通液性が悪くなる。一方、吸収コアとバックシートの間に挟むサージマネジメント層では、尿や軟便がバックシートに漏れることを防ぐために、通液性があまり優れない方が好ましく、用いる不織布の目付けは繊度により変わるが概ね20〜200g/m2が好ましい。
【0029】
前記構成部分(c)の吸収コア部は、吸水材とセルロースフラフなどから構成され、衛生用品において目的とする液体を速やかに吸収しゲル化して、加圧しても水分がゲル内に保持されるものである必要がある。従来、吸水材としては粉末状や繊維状のポリアクリル酸系樹脂などの非生分解性合成高分子が使用されてきたが、これらは生分解性を全く有しないため、本発明では吸水材として用いることはできない。
【0030】
本発明において、吸水材は、イエローインデックス値が40%以下のカルボキシアルキルセルロース誘導体の放射線架橋物である。
【0031】
本発明において使用するカルボキシアルキルセルロース誘導体としては、セルロースのヒドロキシル基の水素が、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシプロピル基により置換されたものであり、好ましいカルボキシアルキルセルロースは、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロースである。上記カルボキシアルキルセルロースは、カルボキシル基の20%以上、好ましくは40%以上がアルカリ金属塩、アンモニウム塩又はアミン塩である。アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等が挙げられ、好ましくはナトリウム塩である。塩を形成する比率が上記範囲未満であると水と均一な混合物ないし水溶液が形成されにくくなる。塩を形成する比率の上限は特になく、100%塩を形成してもよい。
【0032】
上記カルボキシアルキルセルロース誘導体は、平均重合度には特に制限はないが、実用上例えば、10〜2,000、好ましくは50〜1,000、さらに好ましくは200〜800程度である。
【0033】
また、カルボキシアルキルセルロース誘導体の平均エーテル化度(セルロースのヒドロキシル基の水素を前記カルボキシアルキル基で置換する置換度のことをいう。)は、0.5以上であり、好ましくは0.8以上、さらに好ましくは1.1以上であり、最大3である。平均エーテル化度が0.5未満では、十分な架橋が起こらない。
【0034】
本発明において原料として使用されるカルボキシアルキルセルロース誘導体は、公知の方法で製造したものが使用できる。例えば、カルボキシアルキルセルロースは、スラリー法(高液倍率法)やニーダー法(低液倍率法)などの種々の方法、例えば、セルロースとアルカリとを反応させてアルカリセルロースを生成させる工程(マーセル化工程又はアルセル化工程)及び、アルカリセルロースとモノクロロ酢酸との反応によりカルボキシメチルセルロース、またはアクリル酸エステルとの反応後エステルの加水分解によりカルボキシエチルセルロースを生成させる工程(カルボキシアルキル化工程)とで構成された方法により製造できる。
【0035】
本発明において、放射線を照射する際のカルボキシアルキルセルロース誘導体と水との混合比率は、カルボキシアルキルセルロース誘導体100質量部に対して水100〜1,500質量部が好ましく、さらに好ましくは500〜900質量部である。通常、希薄なカルボキシアルキルセルロース誘導体水溶液に放射線を照射した場合、架橋よりも分解が優先する。しかし高固形分濃度のカルボキシアルキルセルロース水溶液(ペースト状)では水から生じたヒドロキシラジカルが生成し、このラジカルを介して架橋が進行すると考えられる。カルボキシアルキルセルロース誘導体と水との混合状態は均一な状態が好ましい。水の混合比率が上記範囲を越える場合は、架橋が不充分であったり、架橋物(ゲル)を乾燥する際に多大なエネルギーを要するので不経済である。また上記範囲未満の場合には、ヒドロキシラジカルの発生が少なく架橋が進行しなかったり、目標とする性能の吸水材を得ることができない。
【0036】
本発明で使用する水としては、市水、工業用水、脱気水、脱イオン水、ゲルろ過水、蒸留水等が挙げられ、放射線による架橋を阻害したり、吸水材の外観や安全性を損なうような化合物やイオンを含まないことが好ましい。
【0037】
本発明に係る放射線照射処理に使用される放射線源としては、α線、β線、γ線、X線、電子線、紫外線等を使用することができるが、コバルト60からのγ線、電子線、X線がより好ましく、中でも該γ線や電子加速器の使用による電子線照射処理が架橋構造導入には便利である。
【0038】
本発明において、照射する放射線の量は、カルボキシアルキルセルロース誘導体のエーテル化度、分子量、水との混合比率や酸素雰囲気によって左右されるため一概には規定できないが、得られる吸水材が1時間に自重の30倍以上の0.9質量%塩化ナトリウム水溶液を吸水し、吸水した量の80%以上を保水することができ、且つ吸水後のゲル強度が2×10-5N/mm2以上を有する性能を損なうものでなければよい。
【0039】
このような条件を満たす放射線の照射量はγ線換算で概ね1〜50kGyであり、好ましくは5〜20kGyであり、さらに好ましくは8〜15kGyである。放射線の照射量が上記範囲未満では架橋しても吸水後のゲルが目標のゲル強度を得られないので、例えばそれらを含む衛生用品の装着時に吸水後のゲルが皮膚に付着して不快感を感じたり、或いは衛生用品からゲルが漏れ出したりするので実用化できるものではない。また上記範囲を超えた場合では架橋が進みすぎ、吸水能や保水能が著しく低下し、衛生用品の吸水材として使用できなくなる。
【0040】
また本発明におけるカルボキシアルキルセルロース誘導体架橋体(ゲル)の乾燥方法は吸水性能を損なわず、イエローインデックス値が40%以下であれば特に限定しない。例えば、凍結乾燥、減圧乾燥、熱風乾燥などの他、溶媒置換法(親水性揮発性有機溶媒を接触させ、ゲル中の一部又は全部の水分を溶媒中に脱水させ、固形物内の水分を溶媒に置換してから乾燥する方法)がある。ここで使用する親水性揮発性有機溶媒は特に制限されないが、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等の低級アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類等を挙げることができるが、コストや安全性の面からメタノール、エタノール、iso−プロピルアルコールなどの低級アルコール類が好ましい。
【0041】
好ましい乾燥方法はコストの安価な熱風乾燥であるが、80℃以上で乾燥した場合には褐色に着色することが多く、好ましくは80℃未満での熱風乾燥、さらに好ましくは70℃未満での熱風乾燥である。褐色の着色が著しい場合、その基本的な吸水性能はなんら損なわれていないとしても衛生用品の用途には不適当であり実用化は困難である。吸水材粒子の黄色や褐色はイエローインデックス値にて数値化される。現在市販されているポリアクル酸塩ではイエローインデックスが15%以下のものが多く、特に衛生用品用途では白色のものが使用者に清潔感を与えるため好まれる。少なくとも目視上で使用者に不快感を与えないためのイエローインデックス値は40%以下であり、好ましくは30%、さらに好ましくは20%以下である。
【0042】
乾燥後の吸水材の形状は特に限定されるものではないが、使用する目的に合わせて種々の形状とすることができる。例えば、顆粒状、シート状、粉末状、断片状、薄片状、棒状、線状などである。これらの形状はカルボキシアルキルセルロース水溶液(ゾル)を目的の形状に成形してから架橋、乾燥してもよいし、また架橋後のゲルを成形してから乾燥してもよく、さらには乾燥後に成形してもよい。吸収コアに用いられる吸水材の形状は目標とする吸水性能などを損なわない範囲であれば粉末状、繊維状、フィルム状、シート状などいずれでもよい。
【0043】
こうして得られる吸水材に、さらに必要に応じて、消臭剤、香料、各種の無機粉末、発泡剤、顔料、染料、抗菌剤、親水性短繊維、可塑剤、粘着剤、界面活性剤、肥料、酸化剤、還元剤、水、塩類等を添加し、これにより吸水材に種々の機能を付与してもよい。無機粉末としては、水性液体等に対して不活性な物質、例えば、各種の無機化合物の微粒子、粘土鉱物の微粒子等が挙げられる。
【0044】
吸収コアを構成する吸水材とセルロースフラフとの混合比は特に限定されず、場合によってはセルロースフラフを含まなくてもよい。セルロースフラフを混合する場合の混合比は、5/95〜95/5が好ましく、30/70〜70/30がさらに好ましい。
【0045】
一枚の衛生用品の吸収コアに含まれる吸水材の量は衛生用品の種類によって異なるが、例えば紙おむつの場合は1〜20gが好ましく、5〜12gがさらに好ましい。また例えば女性用生理用品の場合は0.1〜5gが好ましく、0.5〜1.5gがさらに好ましい。
【0046】
粘着シートは、生理用品を装着するために下着に接着したり、紙おむつが外れないように腰部分でバックシートの前後を接着するために用いられる。粘着シートは、基材としての生分解性プラスチックフィルム部分と粘着剤部分とから構成される。基材としての生分解性フィルムは、前記(a)で用いた生分解性プラスチックのフィルムが用いられ、好ましくは強度に優れる点でポリ乳酸重合体の延伸フィルムが好ましい。粘着剤は、生分解性を有するものであれば特に限定されないが、例えば天然ゴム、イソプレンゴムなどのゴム成分をベース材とし、天然ロジンの粘着付与剤を添加した粘着剤組成物を使用することができる。基材の上に粘着剤組成物を塗布する方法としては、公知の塗布方法、例えばロールコーター法、浸漬法、ハケ塗り法、スプレー法などが挙げられる。粘着剤の厚さとしては2〜200μmが好ましい。
【0047】
また紙おむつや尿取りパッドの場合、股部や腰部からの尿や軟便の漏れを防止するために、股部や腰部に該当する紙おむつバックシートやトップシート部分に、天然ゴムを主成分とした生分解性伸縮素材を用いたギャザーを装備することも可能である。
【0048】
以上の構成部分(a)〜(c)を公知のホットメルト接着或いは熱接着などの方法により相互に接着、固定し、衛生用品を製造することができる。また場合によっては漏れ防止や装着者の運動性向上を目的として紙おむつや尿取りパッドの肢周りに生分解性素材によってギャザー(弾性部)などを装備してもよい。本明細書中で記述する紙おむつには、幼児に排尿・排便の躾をする際に用いられるパンツ型紙おむつも含まれる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。なお、吸水材の特性は、下記の方法により測定した。
〔吸水量の測定〕
吸水量の測定は、ティーバッグ法にて0.9質量%塩化ナトリウム水溶液を用いて行った。すなわち、250メッシュのナイロン製ティーバッグに吸水材1gを入れ、1Lの0.9質量%塩化ナトリウム水溶液にティーバッグを1時間浸し、ティーバッグを引き上げ、10分間水切りを行った後、その質量を測定した。吸水材の吸水量は、1時間水に浸した吸水材が入っていないティーバッグの質量をブランクとし、吸水して膨潤した吸水材が入ったティーバッグの質量から、膨潤前の吸水材の質量とブランクの質量を減じた値を、膨潤前の吸水材の質量で除した値を吸水量(g/g樹脂)とした。
【0050】
〔保水量の測定〕
上記(1)の1時間吸水量測定試験において質量を測定した後のティーバッグ(吸水ゲルの入ったもの)を1500rpm、5分間遠心分離し、遠心後のティーバッグ(吸水ゲルの入ったもの)の質量を測定する。1時間水に浸した吸水材が入っていないティーバッグの遠心後の質量をブランクとし、吸水して膨潤した吸水材が入ったティーバッグの遠心後の質量から、膨潤前の吸水材の質量とブランクの質量を減じた値を、膨潤前の吸水材の質量で除した値を保水量(g/g樹脂)とした。
【0051】
〔ゲル強度の測定〕
ゲル強度の測定は、予め測定して得た吸水倍率に従って200〜1,000μmに篩い分けた吸水材粒子を攪拌しながら0.9質量%塩化ナトリウム水溶液に浸して1時間吸水させ、サイエンティフィク社のレオメトリック SR−5000を用いて1Hz、室温にて粘弾性G*を測定し、その数値をゲル強度とした。
【0052】
〔イエローインデックスの測定〕
乾燥して得られた200-1000μmの粒子を色差計(日本電色工業:Z−Σ90 カラーメジャーリングシステム)を用い、イエローインデクス値を測定した。
【0053】
実施例1
融点が118℃の1,4−ブタンジオールとコハク酸から合成されるポリブチレンサクシネート重合体をウレタン結合により高分子量化した重合体(昭和高分子社製、ビオノーレ)を鞘成分、融点が165℃のポリ乳酸重合体を芯成分とし、溶融押し出し機において芯鞘型複合紡糸用金型を用いて、前記樹脂製分を210℃に加熱溶解し、多数の微細孔から押し出しし、紡糸した。芯鞘成分の混合比は芯成分/軸成分が40/60で行った。紡出されたフィラメント群をエジェクターにより高速エアーで引き取りながら延伸して開繊し、移動するワイヤー製捕集用支持体上に捕集・堆積させウェブを形成させた。得られた長繊維フィラメントの平均繊度は1.5dtex、目付けは15g/m2、密度は0.1g/cm3であった。このウェブの上を110℃に加熱した凹凸ロールと平滑ロールの間に導入し、線圧30kg/cmで凹凸ロールの凸部に対応する部分を融着することにより、生分解性の透水性スパンボンド不織布を得た。また前述と同様の方法を用いて、平均繊度が1.5dtex、目付けが60g/m2の生分解性スパンボンド不織布を得た。
【0054】
φ45mmの口径を有する2軸混練機ホッパー口よりポリ乳酸原料として(A)質量平均分子量20万のポリ乳酸重合体(カーギルダウポリマーズ社製、EcoPLA4030D)を74質量部、およびアンチブロッキング剤として(B)平均粒子径3μmのシリカ(富士シリシア社製、サイリシア)10質量部、および(C)エルカ酸アミド(日本油脂社製、アルフローP10)1質量部をそれぞれ質量式フィーダーにより計量しながら投入した。また可塑剤として(D)両末端がメトキシ封鎖された平均分子量400のポリエチレングリコール(三洋化成社製、サンファインDM400)15質量部をシリンダーの途中より液体定量ポンプにより定量的に注入した。温度180℃〜190℃の条件で(A)から(D)を溶融混練した後、ストランド状に押し出された組成物を水浴中にて冷却、ペレット状にカッティングした。このようにして得られたポリ乳酸組成物のペレットを40℃、減圧下で8時間乾燥した。乾燥後のペレットをφ50mmの口径を有する単軸押出機を用い、温度180℃で溶融させ、Tダイからシート状に押し出してキャスティングロールで急冷し、厚さ25μmの未延伸シートを得た。このようにして得られたフィルムを220%延伸して得たフィルムの引張弾性率をJISK6732に準じて測定したところ550Mpaであった。
【0055】
前述と同様の方法を用いて厚さ200μmの生分解性フィルムを得、この表面片面に天然ゴムをベース材とし、天然ロジンの粘着付与剤を添加した粘着剤組成物をロールコーター法で20μm厚に塗布することにより、生分解性の粘着シートを得た。
【0056】
カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセル社製、平均エーテル化度1.3)20gを水80gとハイブリッドミキサー(キーエンス社製)を用いて充分に混練し、固形分濃度20質量%の均一なゾルを得た。このゾルを厚さ2cmになるようナイロン袋に入れ、8kGyの照射量になるようにガンマ線を照射して架橋・ゲル化させた。得られたゲルを裁断して70℃にて熱風乾燥し、得られた乾燥物をワンダークラッシュミル(大阪ケミカル社製)で1mm以下に細破砕し吸水材を得た。これを分級して200-1000μmの範囲の吸水材について吸水量、保水量、ゲル強度(ゲル粘弾性G*)、イエローインデックス値の測定を行った。その結果、本実施例の吸水材は、吸水量が42g/g、保水量が37g/g、ゲル強度が5.2×10-4N/mm2、イエローインデックス値は35%であった。またナイロンバッグからのゲル漏れは全く認められず、吸水後のゲルは全て粒子状で存在し、粒子間に粘着性も認められなかった。この吸水材とセルロースフラフとの混合比率を20/80とし、生分解性吸収コアを作成した。
【0057】
上記の不透水性フィルムをバックシート、目付け15g/m2の不織布をトップシート及びトランスポート層、粉末状吸水材10gとセルロースフラフから成る吸収コア、目付け60g/m2の不織布をサージマネジメント層、粘着シートをバックシートの片側両端に装備できるように融着法によって相互に接着させ、繊維状天然ゴムによってギャザーを股部と腰部に装備させ、構成素材が全て生分解性素材から成る紙おむつを作成した。
【0058】
本紙おむつを成人20人に対して装着し、その外観や肌触り、風合いを官能試験したところ、外観や肌触り、風合いが従来の非生分解性紙おむつに比べて同等以上であり、また尿や軟便の漏れもなく、従来の非生分解性紙おむつに比べて何ら劣ることないことが確認された。
【0059】
本紙おむつを28℃、水分含量30%の土壌中に埋設し、3ヶ月後、6ヶ月後、1年後の分解状況をモニタリングしたところ、以下の結果となった。
【0060】
3ヶ月後:紙おむつの形状はそのまま残っていたが吸収コア部分のみが完全に分解されていた。6ヶ月後:紙おむつの形状は崩壊していたがフィルムや不織布の断片は土中に確認された。1年後:紙おむつの断片もすべて土中で目視によっては確認できなかった。
【0061】
また、60℃にて残飯、魚カス、野菜屑などから成る水分含量60%のコンポスト中に本紙おむつを投入し、コンポスト試験を行ったところ、開始2週間後には本紙おむつの形状は崩壊し、4週間後には断片もコンポスト中には確認できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム、不織布及び吸水材から主として構成される衛生用品であって、上記フィルム、不織布及び吸水材が生分解性を有する素材から成り、吸水材がイエローインデックス値40%以下のカルボキシアルキルセルロース誘導体の放射線架橋物であることを特徴とする生分解性衛生用品。
【請求項2】
吸水材が、1時間に自重の30倍以上の0.9質量%塩化ナトリウム水溶液を吸水し、且つ吸水した量の80%以上を保水することができ、且つ吸水後のゲル強度が2×10-5N/mm2以上を有するカルボキシアルキルセルロース誘導体の放射線架橋物であることを特徴とする請求項1記載の生分解性衛生用品。
【請求項3】
カルボキシアルキルセルロース誘導体の平均エーテル置換度が0.5以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の生分解性衛生用品。

【公開番号】特開2006−102227(P2006−102227A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293941(P2004−293941)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【出願人】(000004097)日本原子力研究所 (55)
【Fターム(参考)】