説明

生分解性農業用マルチフィルム補修テープ

【課題】土壌中において生分解が可能であり、且つ動的な被着面である生分解性農業用マルチフィルムの破断箇所に貼り付けられることが予定されたテープであって、生分解性農業用マルチフィルムに対するテープの粘着性が良好であり、また望ましいテープ強度が示され、且つ手切れ性が良く、畑などの現場において使用感の良好な、生分解性農業用マルチフィルム補修テープを提供する。
【解決手段】脂肪族ポリエステルから構成される生分解性フィルムを基材とし、上記基材の一方の面に生分解性の粘着性樹脂を積層してなる粘着層を備える生分解性農業用マルチフィルム補修テープであって、上記基材を構成する脂肪族ポリエステルとして、少なくとも芳香族脂肪族ポリエステルが含有されており、且つ、該芳香族脂肪族ポリエステルと芳香族以外の脂肪族ポリエステルとの配合比が、質量比で100:0〜20:80であり、生分解性農業用マルチフィルムに対する粘着強度が1N/cm以上であり、引張破断強度が4N/cm以上であり、エレメンドルフ引裂強度が0.2N/cm以上であり、且つ、長手方向引張伸び率が100%以上300%以下であることを特徴とする生分解性農業用マルチフィルム補修テープを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性農業用マルチフィルムを補修するための補修テープに関し、より詳細には、生分解性である脂肪族ポリエステルから構成される生分解性の基材と生分解性の粘着層とを備える、生分解性農業用マルチフィルム補修テープに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、土壌の温度を一定に保持して野菜等の植物の生育を促し、また日光を遮断することによって雑草の生育の防除を行うために、畑などの土壌表面の一部を合成樹脂製の農業用マルチフィルムで覆う手法が採用されている。該農業用マルチフィルムは、植物が成育し、または作物の収穫された後は除去されて破棄されるものである。近年は、この農業用マルチフィルムの除去及び廃棄の労力を削減するために、作物の収穫後、畑を耕す際に、土壌と一緒に該農業用マルチフィルムを鋤き込んで土壌中で生分解させることが可能な生分解性の農業用マルチフィルム(以下、「生分解性農業用マルチフィルム」という)が開発されている(例えば特許文献1)。
【0003】
上述する生分解性農業用マルチフィルムは、使用後に土壌に鋤き込まれて生分解されるという長所を有しているが、この生分解性の特質のため、畑などで使用されている最中にも生分解が進行し、使用期間中、特に後半において、ちょっとした衝撃や強風などの影響によって部分的に破断してしまう場合がある。破断した箇所をそのままにしておくと、地温が維持されず、またフィルムの隙間から雑草が生育し、あるいはまた風雨などを受けて上記破断した箇所を起点として破断部分が拡大してしまうことがある。したがって、破断箇所は早期に補修することが望まれる。
【0004】
上記生分解性農業用マルチフィルムの破断箇所の補修を行う手段として、従来公知の一般的な非生分解性の粘着テープを用いることが可能である。
【0005】
また別の手段として、従来公知の農業用生分解性のテープを、上記生分解性農業用マルチフィルムの補修用テープとして用いることも可能である。従来公知の農業用生分解性のテープとしては、生分解性結束テープ(下記特許文献2)が知られている。該生分解性結束テープは、植物の茎や枝を支持具に結びつけるテープ状の結束具であって、主成分が生分解性脂肪族ポリエステルからなる原料を用い、これをシート状に形成した後、その長手方向に延伸倍率1.5〜6.0の範囲で延伸して得たフィルムを基材フィルムとして、その片面に粘着層を設けたものである。特許文献2では、上記生分解性結束テープは、上記好ましい延伸倍率の範囲において、所望の耐候性劣化を延伸倍率の高低で調節する可能であることが開示されている。
【0006】
あるいはまた、従来公知の農業用生分解性のテープの別の例として、植物の茎を支柱へ固定することなどを目的とした生分解性自着テープ(下記特許文献3)が知られている。該生分解性自着テープは、基材片面に粘着剤層を有する自着テープにおいて、自己の糊面同士を貼り合せた時の粘着力である自着力が2.0N/10mm以上であり、SUS板に対する粘着力が0.2N/10mm以下であることを特徴としている。
【0007】
【特許文献1】特開2005−192465号公報
【特許文献2】特開平9−266729号公報
【特許文献3】特開2006−299101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記生分解性農業用マルチフィルムの破断箇所を補修するために、従来公知の一般的な非生分解性の合成樹脂製テープを用いた場合、該生分解性農業用マルチフィルム使用後において該フィルムを土壌中に鋤き込んだ際に、非生分解性の合成樹脂製の補修テープが土壌中に残留してしまい問題であった。
【0009】
一方、特許文献2または3に例示される生分解性のテープを生分解性農業用マルチフィルムの補修用テープとして代用した場合には、生分解性農業用マルチフィルムの破断箇所に貼り付けられたこれらテープを、該生分解性農業用マルチフィルムと共に土壌に鋤き込むことにより、土壌中で生分解することが可能である。ただし生分解性農業用マルチフィルムを補修するためのテープとして、上述する従来の生分解性テープを代用すると、使用感が不良と感じられる問題点が散見された。これら問題点は、主として、上述する従来の生分解性テープが、植物の茎や枝を支持具に固定するためのものであって、生分解性農業用マルチフィルムのように風雨に晒された際に多方向に動きをみせる動的な被着面への使用が予定されているものではないということに寄与すると考えられた。
【0010】
上記問題点についてより具体的に述べると、第一には、上述する従来の農業用生分解性テープは、合成樹脂製の生分解性農業用マルチフィルムに対する粘着性が補償されておらず、風雨に晒されて埃や土が表面に付着した生分解性農業用マルチフィルム面に貼り付けようとすると、望ましい粘着性が発揮されない場合があるということが挙げられる。
【0011】
第二の問題点としては、テープ強度が弱く、生分解性農業用マルチフィルムの破断箇所に貼り付けられたテープが、該生分解性農業用マルチフィルム使用期間中に破断してしまい、繰り返しの補修が必要となる場合があることが挙げられる。本発明者は、良好なテープ強度を得るために、好適な引張破断強度を示すテープを選択することを検討したが、引張破断強度が好適な数値範囲内にあると思われるテープであっても、生分解性農業用マルチフィルムの破断箇所に貼り付けた後、該生分解性農業用マルチフィルムが使用されている期間中に、容易に切れてしまうものがあることがわかった。
【0012】
またさらに、被着面が動的であるか静的であるかにかかわらず、畑などにおいてテープを使用する際には、はさみなどの切断用具を用いずに手で容易に幅方向に切断可能であることが望ましいが、上述に例示する従来の農業用生分解性テープには、手切れ性を良好にするという観点での改良が示されておらず、手切れ性の改善が求められた。
【0013】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、土壌中において生分解が可能であり、且つ動的な被着面である生分解性農業用マルチフィルムの破断箇所に貼り付けられることが予定されたテープであって、生分解性農業用マルチフィルムに対するテープの粘着性が良好であり、また望ましいテープ強度が示され、且つ手切れ性が良く、畑などの現場において使用感の良好な、生分解性農業用マルチフィルム補修テープを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、
(1)脂肪族ポリエステルから構成される生分解性のフィルムを基材とし、上記基材の一方の面に生分解性の粘着性樹脂を積層して形成される粘着層を備える、生分解性農業用マルチフィルム補修テープであって、上記基材を構成する脂肪族ポリエステルとして、少なくとも芳香族脂肪族ポリエステルが含有されており、且つ、該芳香族脂肪族ポリエステルと芳香族脂肪族ポリエステル以外の脂肪族ポリエステルとの配合比が、質量比で100:0〜20:80であり、生分解性農業用マルチフィルムに対する粘着強度が1N/cm以上であり、引張破断強度が4N/cm以上であり、エレメンドルフ引裂強度が0.2N/cm以上であり、且つ、長手方向引張伸び率が100%以上300%以下であること、を特徴とする生分解性農業用マルチフィルム補修テープ、
(2)上記芳香族脂肪族ポリエステルとしてポリブチレンアジペートテレフタレートを用い、且つ、上記芳香族脂肪族ポリエステル以外の脂肪族ポリエステルとしてポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)またはポリヒドロキシ酪酸のいずれか1つあるいは2つ以上を用いることを特徴とする上記(1)に記載の生分解性農業用マルチフィルム補修テープ、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の生分解性農業用マルチフィルム補修テープは、生分解性農業用マルチフィルムの破断箇所を補修するために該破断箇所に貼られた場合に、該生分解性農業用マルチフィルムの使用期間中はテープ自身が破断することのない優れたテープ強度を示す。即ち、畑などで用いられる生分解性農業用マルチフィルムは、風雨などの影響によりその表面が不規則的に動くが、本発明の生分解性農業用マルチフィルム補修テープであれば、その不規則的な動きに影響されることなく、該生分解性農業用マルチフィルムの使用期間中、その補修箇所をしっかりと補償した状態で維持することができる。
【0016】
そして、上記生分解性農業用マルチフィルムの使用が終了し、田畑などの土壌に鋤き込まれる際には、本発明の補修テープも同時に土壌中に鋤き込み、土壌中で生分解させることができる。
【0017】
しかも、本発明の補修テープは、長手方向引張伸び率が100%以上300%以下であって手切れ性が良く、使用時にはさみなどを用いずとも、容易に手で幅方向に切ることができるので、非常に作業性が良い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の生分解性農業用マルチフィルム補修テープ(以下、単に「補修テープ」ともいう)は、脂肪族ポリエステルから構成される生分解性フィルムを基材とし、上記基材の一方の面に生分解性の粘着性樹脂を積層してなる粘着層を備える、生分解性農業用マルチフィルム補修テープであり、上記基材を構成する脂肪族ポリエステルとして、少なくとも芳香族脂肪族ポリエステルが含有されている。
上記基材には、上記芳香族脂肪族ポリエステル以外の脂肪族ポリエステルが配合されてもよく、この場合、芳香族脂肪族ポリエステルと、該芳香族脂肪族以外の脂肪族ポリエステルとの配合比は、質量比で100:0〜20:80である。
また本発明の補修テープは、生分解性農業用マルチフィルムの破断箇所を補修するという目的のため、生分解性農業用マルチフィルムに対する粘着強度、引張破断強度、エレメンドルフ引裂強度及び、長手方向引張伸び率がそれぞれ特定の範囲に限定されるものである。以下に、本発明の最良な形態についてより詳細に説明する。
【0019】
(基材について)
本発明の補修テープにおける基材は、脂肪族ポリエステルから構成される。そして上記脂肪族ポリエステルとして、特に芳香族脂肪族ポリエステルが含有されていることが重要である。芳香族脂肪族ポリエステルが含有されることにより、補修テープに良好な柔軟性が付与され、その結果、後述する所望の長手方向引張伸び率やエレメンドルフ引裂強度が得られやすくなる。即ち、基材に芳香族脂肪族ポリエステルが含有されることにより、強度に優れ、使用感の良い補修テープを得ることが可能となる。
【0020】
上記基材の厚みは、特に限定されるものではなく、用いられる基材材料などを勘案して適宜決定してよいが、一般的には、10μm以上70μm以下であることが望ましく、10μm以上50μm以下であることがより望ましい。基材の厚みが10μm未満であると、補修テープの強度が充分に得られない虞がある。特に基材が薄すぎる場合には、本発明において所望の引張破断強度が得られない虞、あるいは使用期間中からテープの形状が維持できない程度に生分解性がすすみ、テープの一部に裂け目や孔が生じる虞がある。一方、基材の厚みが70μmを超えると、使用後、生分解性農業用マルチフィルムと共に土壌中に鋤き込まれた際に、生分解される速度が遅くなる傾向にある。
【0021】
脂肪族ポリエステルの配合比率:
本発明の基材を構成する脂肪族ポリエステルは、芳香族脂肪族ポリエステルのみから成形してもよいし、あるいは芳香族脂肪族ポリエステルと、芳香族脂肪族ポリエステル以外の脂肪族ポリエステルとを混合して用いることもできる。芳香族脂肪族ポリエステルと、芳香族脂肪族ポリエステル以外の脂肪族ポリエステルとの配合比率は、質量比において、100:0〜20:80である。
【0022】
芳香族脂肪族ポリエステル:
上記芳香族脂肪族ポリエステル系樹脂としては、アジピン酸およびテレフタル酸からなるジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールからなるジオール成分との重縮合物を、多官能イソシアネート化合物で高分子化した芳香族脂肪族ポリエステル系樹脂が好ましい。その他のジオール成分としては、2,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等をあげることができる。より具体的に言えば、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)などを挙げることができる。
【0023】
芳香族脂肪族ポリエステル以外の脂肪族ポリエステル:
上記芳香族脂肪族ポリエステル以外の脂肪族ポリエステル系樹脂としては、コハク酸からなるジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオールからなるジオール成分との重縮合物を、多官能性イソシアネート化合物で高分子化した脂肪族ポリエステル系樹脂が好ましい。その他のジカルボン酸成分としては、アジピン酸、セバシン酸、イタコン酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。また、その他のジオール成分としては、2,3−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等をあげることができる。より具体的には、例えば、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)またはポリヒドロキシ酪酸などを挙げることができる。
【0024】
その他の添加剤:
また基材を構成する材料としては、上述する脂肪族ポリエステル以外にも、必要に応じて適宜、他の添加剤を用い、これを基材に含有させることができる。添加剤の例としては、例えば、着色剤、無機充填剤、有機充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、加水分解防止剤、帯電防止剤、可塑剤などを加えることができる。これらの添加剤の添加量は特に限定されるものではなく、本発明の所望とする物性を阻害することのない範囲において適宜決定することができる。
【0025】
(粘着層について)
本発明の補修テープは、上述する基材の一方の面に、粘着層を備える。本発明の補修テープは、該粘着層を介して生分解性農業用マルチフィルムに貼られるため、該粘着層は、生分解性農業用マルチフィルムに対して良好な粘着力が発揮されることが必要である。またその用途から、使用後は、生分解性農業用マルチフィルムと一緒に土壌中に鋤き込まれるため、生分解性農業用マルチフィルム、あるいは補修テープ基材と同様に、粘着層を構成する粘着剤についても生分解性を示すものであることが望まれる。より具体的には、粘着層構成する粘着剤として、ロジン系、テルペン系、天然ゴム系などの生分解性の粘着性樹脂を用いることができる。粘着剤は、基材面に対し、乾燥重量において10g/m以上200g/m以下で塗布されることが一般的である。
【0026】
(製造方法について)
本発明の補修テープの製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、上述する基材を構成する材料を用いて、インフレーション法、T−ダイ押出法、カレンダー法、キャスティング法などの従来公知の方法により基材を成形し、次いで、基材の一方の面側に粘着剤をロールコーター法などにより塗布して粘着層を形成して製造することができる。
また補修テープの形態についても特に限定されるものではないが、例えば、基材と粘着層とからなる補修テープをロール状に巻き取ったロールテープ状とすることができる。ロールに巻き取った際に、粘着層と重なる基材表面とが接着してしまい、使用時に剥離性が悪くなる虞がある場合には、粘着層と基材表面との間にセパレータを設けることが望ましい。
【0027】
(テープの特性について)
次に、本発明の補修テープが備える特性について説明する。本発明の補修テープは、生分解性農業用マルチフィルムの破断箇所を補修することを目的とするテープであって、使用後には該生分解性農業用マルチフィルムとともに土壌に鋤き込まれて生分解されるものである。したがって、上記用途を勘案していくつかの備えるべき特性が存在する。
【0028】
生分解性農業用マルチフィルムに対する粘着強度:
本発明の補修テープは、上述のとおり生分解性農業用マルチフィルムの破断箇所に貼り付けられることを目的とするため、特に生分解性農業用マルチフィルムに対する粘着性が充分であること必要がある。そこで本発明の補修テープでは、生分解性農業用マルチフィルムに対する粘着強度が1N/cm以上であることを特定するものである。上記粘着強度が1N/cm未満であると、表面に泥や埃などが付着した生分解性農業用マルチフィルムの表面に貼り付けられた際に、簡単に剥離してしまい、生分解性農業用マルチフィルム使用期間中、補修した状態を維持することができない虞がある。
一方、上記粘着強度の上限は特に制限されるものではない。ただし、あまり粘着強度が高すぎると、たとえば生分解性農業用マルチフィルムの破断箇所から少しずれた場所に補修テープを貼り付けてしまい、すぐに剥がして正しい場所に貼りなおしたい場合などにおいて、補修テープを該フィルムから剥がした際に、該フィルムが伸びて破れるなどしてフィルムを痛めてしまう虞がある。かかる観点からは、補修テープの上記粘着強度の上限は、2.5N/cm以下が好ましく、2.0N/cm以下であることがより好ましい。尚、上記生分解性農業用マルチフィルムに対する粘着強度は、以下のとおり測定される。
【0029】
まず生分解性農業用マルチフィルム(ビオフレックスマルチ アキレス(株)社製)10cm×30cmを準備し、水平面に固定する。一方、幅寸法1cmの補修テープを長さ10cmにカットしたものを試験片として作成する。次に、該試験片の一端を把持部分として1cm残し、上記マルチフィルム略中央に貼り付ける。そして上記把持部分を剥離試験器の把持具で挟み、剥離速度200mm/分、剥離角度180度で1cm剥離させた際に要した力(N)を測定することによって、マルチフィルムに対する粘着強度が測定される。尚、同一の補修テープより作成した試験片3ヶについてそれぞれ上述の方法で粘着強度を測定し、それらの平均値をもって、該補修テープの生分解性農業用マルチフィルムに対する粘着強度とする。
【0030】
引張破断強度:
次に、本発明の特性の1つである引張破断強度について説明する。本発明の補修テープは少なくとも長さ方向において4N/cm以上であることが必要である。本発明において引張破断強度を規定するのは、動的な被着面に対して貼られた補修テープにおいて良好な強度を実現することを趣旨とする。
上記引張破断強度が4N/cm未満であると、使用時(即ちフィルムに貼る際)、あるいは生分解性農業用マルチフィルムに貼り付けた後、破断し易く、補修テープとして充分なテープ強度が得られない虞がある。
【0031】
本発明において述べる引張破断強度は、JIS K 6781(農業用ポリエチレンフィルム)に準じて測定される。より詳しく述べると、幅1cmの補修テープを試験片として用い、試験環境温度23℃の温度条件下において、補修テープの長さ方向の両端を間隔4cmとなるようにつかみ具で保持し、引張速度500mm/分で長さ方向に引張り、試験片の破断時の強度を測定することにより補修テープの引張破断強度を得ることができる。尚、引張破断強度を測定する際には、同一の補修テープより作成した試験片3ヶについてそれぞれ上述の方法で破断強度を測定し、それらの平均値をもって、該補修テープの引張破断強度とする。
【0032】
エレメンドルフ引裂強度:
また本発明の補修テープは、エレメンドルフ引裂強度が0.2N/cm以上であることが重要である。本発明においてエレメンドルフ引裂強度を規定するのは、引張破断強度を特定するのと同様に、動的な被着面に対して貼られた補修テープにおいて良好な強度を実現することを趣旨とする。即ち、テープの一般的な強度として望ましい引張破断強度を示すことだけでは補修テープの良好な強度を保証することは困難であり、使用期間中に生分解性である補修テープ自体の生分解が進行し、その一部において裂け目や孔が生じた場合であっても、それら裂け目や孔を起点として容易にテープが裂けることなく、所定期間、補修テープとしての役割を果たすことができることを保証することを趣旨とするものである。補修テープにおいてエレメンドルフ引裂強度が0.2N/cmを下回ると、小さな裂け目や孔の存在によっても、補修テープが引裂かれる虞がある。
【0033】
上記エレメンドルフ引裂強度は、JIS K 7128−2(プラスチック―フィルム及びシートの引裂強さ試験方法―第2部:エレメンドルフ引裂法)に準じて測定することができる。より詳細には、補修テープを作成するために成形された基材層と粘着層の2層からなるフィルムを、該フィルムの成形方向に垂直な方向に短片をとり、一方、フィルムの成形方向に平行な向きに長辺をとり、短辺63mm×長辺75mmの長方形にカットして試験片を作成する。そして試験環境温度23℃の温度条件下において、上記試験片3ヶについて、フィルム長手方向(成形方向)の引裂強度を測定し、それらの平均値をもって、該補修テープのエレメンドルフ引裂強度とする。
【0034】
長手方向伸び率:
また本発明の補修テープではその手切れ性を良好なものとするために、長手方向引張伸び率が100%以上300%以下であることが重要である。上記長手方向伸び率は、上述する引張破断強度と同様に、JIS K 6781に準じて測定される。より詳しく述べると、幅1cmの補修テープを試験片として用い、試験環境温度23℃下において、補修テープ長さ方向の両端を間隔L4cmとなるようつかみ具で保持し、引張速度500mm/分で長さ方向に引張破断したときのつかみ具間の距離Lを測定し、
長手方向伸び率(%)=(L−L0 )/L0 ×100
として長手方向伸び率(%)を算出することができる。尚、長手方向伸び率(%)は、同一の補修テープから作成した試験体3ヶについて同条件にて測定した数値の平均を算出し、これを本発明の長手方向伸び率(%)とする。上記長手方向伸び率に関する記載における「テープの長さ方向」とは、ロール状に巻き取られたテープの巻取り方向を意味する。
なお、長手方向伸び率は例えば無機系の充填剤の配合量によって適宜調整することが可能である。
【0035】
生分解性:
本発明の補修テープは、生分解性フィルムを基材とし、上記基材の一方の面に生分解性の粘着性樹脂を積層してなる粘着層を備えるものである。「生分解される」というときには、厳密には土壌中の微生物により、一定の時間で生分解され、炭酸ガスと水に加水分解されることをいう。この加水分解されるまでの時間は、基材を構成する樹脂の分子構造などにより異なり、一般的には、直鎖状の構造を有する樹脂の方が短時間で分解されることが知られるため、目的に応じて構成材料を選択する必要がある。ただし、本発明においては、生分解性の目安として、生分解性農業用マルチフィルムに貼り付けて、屋外で2ヶ月間放置し、その後、該フィルムとともに土壌中に埋設し、1ヶ月後に観察した際に、補修テープの初期の形状が維持されておらず、引っ張ったときに、ほとんど伸びがない状態であれば、良好な生分解性を有すると評価することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
ポリブチレンアジペートテレフタレート(エコフレックス:BASF社製)(以下、単に「PBAT」ともいう)100質量部に対してタルク15質量部を混合し、インフレーション成形機で、厚み20μm、幅40cmの基材を作成した。次いで、天然ゴム100重量部をトルエン溶剤中で溶解し粘着剤を調製し、ロールコーター法により上記基材の一方の面側に該粘着剤を、乾燥重量で30g/mとなるよう塗布して補修テープを作成し、実施例1とした。
【0038】
(実施例2)
基材の構成材料として、PBAT100質量部を用いるかわりに、PBAT70質量部とポリブチレンサクシネート(ビオノーレ#1001:昭和高分子社製)(以下、単に「PBS」ともいう)30質量部を用いたこと以外は実施例1と同様に補修テープを作成し、実施例2とした。
【0039】
(実施例3)
PBAT30質量部、およびPBS70質量部を用いたこと以外は、実施例2と同様に補修テープを作成し、実施例3とした。
【0040】
(実施例4)
基材の厚みを10μmにしたこと以外は実施例1と同様に補修テープを作成し、実施例4とした。
【0041】
(実施例5)
基材の厚みを50μmにしたこと以外は実施例1と同様に補修テープを作成し、実施例5とした。
【0042】
(実施例6)
天然ゴム100質量部に粘着付与剤としてスーパーエステルA−100(荒川化学社製)を30質量部加えて、トルエン溶剤中で溶解したこと以外は実施例1と同様に補修テープを作成し、実施例6とした。
【0043】
(実施例7)
天然ゴム100質量部に粘着付与剤としてスーパーエステルA−100(荒川化学社製)を10質量部加えて、トルエン溶剤中で溶解したこと以外は実施例1と同様に補修テープを作成し、実施例7とした。
【0044】
(比較例1及び2)
基材の厚みを5μmまたは80μmにしたこと以外は実施例1と同様に補修テープを作成し、それぞれ比較例1、比較例2とした。
【0045】
(比較例3)
PBAT100質量部のかわりに、PBS100質量部を用いたこと以外は実施例1と同様に補修テープを作成し、比較例3とした。
【0046】
(比較例4)
PBAT100質量部のかわりに、PLA100質量部を用い、且つタルクを用いなかったこと以外は実施例1と同様に補修テープを作成し、比較例4とした。
【0047】
(比較例5)
タルクを用いなかったこと以外は実施例1と同様に補修テープを作成し、比較例5とした。
【0048】
(比較例6)
天然ゴム100質量部に炭酸カルシウム30質量部を加えてトルエン溶剤中で溶解したこと以外は実施例1と同様に補修テープを作成し、比較例6とした。
【0049】
(実施例及び比較例の評価)
上述のとおり作成した実施例1〜7及び比較例1〜6について、40cm幅のフィルムにおいて、幅方向において10mm幅に裁断し、且つ各測定試験にあわせて長さ方向(フィルム形成方向)において適当な長さに裁断し、生分解性農業用マルチフィルムに対する粘着強度、引張破断強度、長手方向引張伸び率について上述の記載にしたがって測定した。またエレメンドルフ引裂強度については、40cm幅のフィルムから幅方向に63mm×長さ方向(フィルム成形方向)に75mmとなるよう裁断して試験片を作成し、測定試験に供した。測定結果については、表1にまとめて記載した。
【0050】
また実施例1について、下記のとおり粘着性、手切れ性、生分解性を評価した。そして評価結果を、表1にまとめて記載した。また、実施例2〜7、及び比較例1〜6についても同様に評価し、その結果を表1にあわせて記載した。
【0051】
粘着性の評価:
生分解性農業用マルチフィルム(ビオフレックスマルチ アキレス(株)社製)10cm×30cmを準備し、水平面に固定した。一方、実施例1のテープを幅5cm×長さ5cmにカットして試験片を作成した。そして該試験体の一端を把持部分として1cm残し、上記フィルム略中央に貼り付けた。次いで貼り付けた状態で5分間放置した後、手で上記把持部分をつまんで、略180度折り返した方向に引張り、粘着性の官能試験を行った。そして以下のとおり評価した。
補修テープがマルチフルムに充分に粘着しており、且つ、剥がしてもマルチフィルムに損傷がない・・・・○
強固に粘着しており、剥がすとマルチフィルムに伸びて破断が生じる・・・・・・・△
充分に粘着しておらずほとんど抵抗を感じずに剥がすことができる・・・・・・・・×
【0052】
手切れ性の評価:
実施例1を幅方向に手で切断するときの作業性について官能試験を行い、以下のとおり評価した。
手で容易に切断することができる・・・・・・・・・・・・・・・○
補修テープが伸長し、まっすぐ切断することができない・・・・・×
【0053】
生分解性の評価:
生分解性農業用マルチフィルム(ビオフレックスマルチ アキレス(株)社製))10cm×10cmを準備し、実施例1を5cm×5cmにカットして試験片を作成し、該試験片を、上記マルチフィルムの略中央に貼り付け試験体を作成した。そして実施例1側を表側として、該試験体を2ヶ月間屋外放置した後、畑の土壌表面から約5cmの深さに埋設した。そして1ヶ月後に土壌中の試験体を掘り出し、その状態を観察し、以下のとおり評価した。
補修テープの生分解が進行し、引っ張ってもほとんど伸びながく、あるいは容易に破断する・・・・○
補修のテープの形状が保たれており、引っ張ると強度、あるいは伸びが残っている・・・・・・・・×
【0054】
表1に示される上記測定及び上記評価の結果をみると、実施例1〜実施例7は、粘着強度、引張破断強度、エレメンドルフ引裂強度、長手方向引張伸びのいずれにおいても、本発明の所望の範囲の数値を示しており、実施例6の粘着性以外は、粘着性、手切れ性、生分解性が全て良好であった。実施例6の粘着性については、粘着強度が2.5N/cmと高かったため、補修テープである実施例6がマルチフィルムに対し強固に密着し、剥がす際に、マルチフィルムが伸びて、その一部が破断したことを表す。
【0055】
一方、比較例1は、引張破断強度が3N/cmと小さく、マルチフィルムに貼り付けられた後、その使用期間中に破断などの虞があることが推察された。また比較例2は、生分解性が不良であり、生分解性の補修テープを提供するという本発明の趣旨から逸脱する。比較例3及び4は、エレメンドルフ引裂強度が小さく、使用時において生じた小さな切れ目や孔の存在により破断する虞があることが推察された。比較例5は、長手方向引張伸びが本発明の所望の範囲を大きく上回り、その結果、手切れ性が不良であった。比較例6は、粘着強度が小さく、マルチフィルムに対する粘着力が充分ではなかった。
【0056】
上記実施例、及び比較例の測定及び評価から、脂肪族ポリエステルから構成される基材を有する生分解性の補修テープにおいて、粘着強度、引張破断強度、エレメンドルフ引裂強度、長手方向引張伸びのいずれもが本発明の特定する良好な範囲に含まれることによって、生分解性農業用マルチフィルムを補修するための優れた補修テープを提供することができることが示された。
【0057】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステルから構成される生分解性のフィルムを基材とし、上記基材の一方の面に生分解性の粘着性樹脂を積層して形成される粘着層を備える、生分解性農業用マルチフィルム補修テープであって、
上記基材を構成する脂肪族ポリエステルとして、少なくとも芳香族脂肪族ポリエステルが含有されており、且つ、該芳香族脂肪族ポリエステルと芳香族脂肪族ポリエステル以外の脂肪族ポリエステルとの配合比が、質量比で100:0〜20:80であり、
生分解性農業用マルチフィルムに対する粘着強度が1N/cm以上であり、
引張破断強度が4N/cm以上であり、
エレメンドルフ引裂強度が0.2N/cm以上であり、且つ、
長手方向引張伸び率が100%以上300%以下であること、
を特徴とする生分解性農業用マルチフィルム補修テープ。
【請求項2】
上記芳香族脂肪族ポリエステルとしてポリブチレンアジペートテレフタレートを用い、且つ、上記芳香族脂肪族ポリエステル以外の脂肪族ポリエステルとしてポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)またはポリヒドロキシ酪酸のいずれか1つあるいは2つ以上を用いることを特徴とする請求項1に記載の生分解性農業用マルチフィルム補修テープ。

【公開番号】特開2009−77646(P2009−77646A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248715(P2007−248715)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】