説明

生物学的変換方法によるアルカンジオールの製造方法

【課題】 種々の物質のキラル・ビルディング・ブロックおよびプラスチック原料として利用可能なアルカンジオールの生物学的変換による新規な製造方法の提供。
【解決手段】 HO-(CH2-n-1-CH(OH)-(CH2)n-H (I)
(式(I)中、ωは、6ないし12の整数を表わし、nは1ないし2の整数を表わす)
で表わされるアルカンジオールの製造方法。出発原料である直鎖アルカノールのω-n位を水酸化し、対応するアルカンジオールに変換する能力を有するCYP107L2遺伝子もしくはその改変体を含む形質転換体またはその調製物を、出発原料とインキュベーション処理し、その処理液から目的物であるアルカンジオールを採取する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な化合物のキラル・ビルディング・ブロックおよびプラスチック原料として利用可能なアルカンジオールの生物学的変換による製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,10-ドデカンジオールは光安定性ポリウレタン-尿素エラストマーの合成材料の一つとしての用途などが示唆されており、また、1,11-ドデカンジオールは有害生物防除剤であるハロアルケン系化合物の合成材料としての用途などが報告されている。従って、これらの光学活性ドデカンジオールは、種々の物質のキラル・ビルディング・ブロックとしての用途が期待でき、また、アルカンジオールの用途にプラスチック原料があることから、上記の光学活性ドデカンジオールは、新たな特徴を有するプラスチックの原料としての可能性があると考えられる。
【0003】
これまで直鎖脂肪酸の亜末端酸化反応(ω-1酸化、ω-2酸化など)については比較的多くの報告がなされている。しかし直鎖アルカノールについては、例えば、カエルあるいはテンジクネズミの肝臓ミクロソーム由来のP450による1-ドデカノール等のω-1酸化(非特許文献1及び2参照)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のP450による1-ドデカノール等のω-1、ω-2、ω-3酸化(非特許文献3参照)、白色腐朽菌Phanerochaete chrysosporiumによる1-ドデカノールのω-1からω-6酸化(非特許文献4参照)など、数例の報告がなされているに過ぎない。さらに、これらの(1,ω-n)-ドデカンジオールの光学純度や絶対配置は明らかにされていない。
【0004】
一方、放線菌の一種であるストレプトミセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)は、抗生物質アベルメクチンを生産することで知られており、全DNAの塩基配列が決定されている(非特許文献5参照)。その中に多くのP450遺伝子が含まれており、本願明細書の配列表に配列番号1として示されるCYP107L2もその1つである。
【0005】
また放線菌由来のP450遺伝子を大腸菌エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)中で効率的に発現させるツールとして発現ベクターpT7NS-camAB(pET11aにプチダレドキシン還元酵素をコードするcamAとプチダレドキシンをコードするcamBが連結されている)が知られている(特許文献1参照)。
【非特許文献1】Yoshiro Miura: ω- and (ω-1)-Hydroxylation of 1-dodecanol by frog liver microsomes Lipids, Vol.16 (1981) 721-725
【非特許文献2】Yoshiro Miura, Harumi Hisaki, Werner Siems, and Sen-ichi Oda: Hydroxylation of fatty acids and alcohols by hepatic Microsomal cytochrome P-450 system from the Mongolian gerbil Lipids, Vol.22 (1987) 987-993
【非特許文献3】Yoshiro Miura and Armand J. Fulco: ω-1, ω-2 and ω-3 Hydroxylation of long-chain fatty acids, amides and alcohols by a soluble enzymes system from Bacillus megaterium Biochimica et Biophysica Acta Vol.388 (1975) 305-317
【非特許文献4】Fumiko Matsuzaki and Hiroyuki Wariishi: Functional diversity of cytochrome P450s of the white-rot fungus Phanerochaete chrysosporium Biochem. Biophys. Res. Commun., Vol.324 (2004) 387-393
【非特許文献5】Haruo Ikeda, Jun Ishikawa, Akiharu Hanamoto, Mayumi Shinose, Hisashi Kikuchi, Tadayoshi Shiba, Yoshiyuki Sakaki, Masahira Hattori, and Satoshi Omura: Complete genome sequence and comparative analysis of the industrial microorganism Streptomyces avermitilis. Nat. Biotechnol., Vol.21 (2003) 526-531
【特許文献1】国際公開第03/087381
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、直鎖アルカノールを出発原料とした生物学的変換によるアルカンジオールの新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため、広範な生物群から集められた多くの水酸化酵素遺伝子(P450遺伝子)を組み込んだ組換え体について直鎖アルカノールをアルカンジオールに変換することのできる菌株の分離を試みていた。その結果、放線菌の一種であるストレプトミセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)由来のP450遺伝子を組み込んだ菌株が前記変換能を有することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
より具体的には、本発明者らは現在までにシトクロームP450の大腸菌における発現ライブラリーを構築し、その微生物変換への応用について研究してきた。その一環として、上記シトクロームP450発現ライブラリーを用いて、例えば、1-ドデカノールを酸化し、対応するドデカンジオールを生成するシトクロームP450を探索した。その結果、亜末端酸化体である1,10-ドデカンジオールおよび1,11-ドデカンジオールを生成するシトクロームP450を見出して本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]式(I)、
HO-(CH2-n-1-CH(OH)-(CH2)n-H (I)
(式(I)中、ωは、6ないし12の整数を表わし、nは1ないし2の整数を表わす)
で表わされるアルカンジオールの製造方法であって、
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるCYP107L2遺伝子を含む形質転換体、もしくは
CYP107L2遺伝子の改変体を含み、かつ、式(II)、
HO-(CH2)ω-H (II)
(式(II)中、ωは、式(I)について定義したのと同義である)
で表わされるアルカノールのω−n位を水酸化する能力を有する形質転換体の存在下で、または前記形質転換体の調製物の存在下で、式(II)で表わされるアルカノールをインキュベーションする工程、および
(2)インキュベーション処理液から式(I)で表わされるアルカンジオールを採取する工程、
を含む前記製造方法。
[2]前記形質転換体は、宿主が、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)に属する微生物である[1]に記載の製造方法。
[3]前記改変体が、CYP107L2遺伝子において1から数個の塩基の欠失、置換および/または付加を有する塩基配列を有し、式(II)で表わされるアルカノールのω−n位を水酸化する能力を有するタンパク質をコードする塩基配列を有するDNAである[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記改変体が、以下のタンパク質をコードするDNAである[1]または2]に記載の製造方法。
(A)CYP107L2遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるタンパク質であり、かつ、式(II)で表わされるアルカノールのω−n位を水酸化する能力を有するタンパク質、
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有するアミノ酸配列を有し、式(II)で表わされるアルカノールのω−n位を水酸化する能力を有するタンパク質;または
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、式(II)で表わされるアルカノールのω−n位を水酸化する能力を有するタンパク質
[5]前記形質転換体の調製物が、培養菌体であるか、あるいは培養菌体をホモジナイズした調製物である[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記形質転換体は、フェレドキシン遺伝子とフェレドキシン還元酵素遺伝子をさらに有する[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記形質転換体は、プチダレドキシン還元酵素をコードするcamAとプチダレドキシンをコードするcamBをさらに有する[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[8]ωが6または12である[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]式(I)で表わされるアルカンジオールの立体配置がR体である[1]〜[88]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生物学的変換方法によって、直鎖アルカノールからアルカンジオールを合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明は、式(I)、
HO-(CH2-n-1-CH(OH)-(CH2)n-H (I)
(式(I)中、ωは、6ないし12の整数を表わし、nは1ないし2の整数を表わす)で表わされるアルカンジオールの製造方法である。ωは、6、7、8、9、10、11または12であり、好ましくは6または12である。nは1または2であり、好ましくは1である。
【0012】
本発明の方法は、
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるCYP107L2遺伝子を含む形質転換体、もしくは
CYP107L2遺伝子の改変体を含み、かつ、式(II)、
HO-(CH2)ω-H (II)
(式(II)中、ωは、式(I)について定義したのと同義である)
で表わされるアルカノールのω−n位を水酸化する能力を有する形質転換体の存在下で、または前記形質転換体の調製物の存在下で、式(II)で表わされるアルカノールをインキュベーションする工程、および
(2)インキュベーション処理液から式(I)で表わされるアルカンジオールを採取する工程、
を含む。
【0013】
式(II)におけるωは、式(I)について定義したのと同義であり、好ましくは6または12である。式(II)で表されるアルカノールは、市販品として容易に入手できる。
【0014】
本発明では、CYP107L2遺伝子もしくはその改変体を含む形質転換体、またはそれらの調製物の存在下で、式(II)で表わされるアルカノールをインキュベーションする。
【0015】
CYP107L2遺伝子は、配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなる。CYP107L2遺伝子は実施例に記載した参考文献Aに記載され、さらに実施例に記載した参考文献Bには、cyp8として記載されている。CYP107L2遺伝子(cyp8)は、ストレプトミセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)由来のP450遺伝子である。
【0016】
前記改変体は、例えば、CYP107L2遺伝子において1から数個の塩基の欠失、置換および/または付加を有する塩基配列を有し、式(II)で表わされるアルカノールのω−n位を水酸化する能力を有するタンパク質をコードする塩基配列を有するDNAであることができる。
【0017】
CYP107L2遺伝子の説明における「1から数個の塩基の欠失、置換および/または付加を有する塩基配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から60個、好ましくは1から30個、より好ましくは1から20個、さらに好ましくは1から10個、特に好ましくは1から5個程度を意味する。
【0018】
さらに前記改変体は、例えば、以下のタンパク質をコードするDNAであることもできる。
(A)CYP107L2遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるタンパク質であり、かつ、式(II)で表わされるアルカノールのω−n位を水酸化する能力を有するタンパク質、
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有するアミノ酸配列を有し、式(II)で表わされるアルカノールのω−n位を水酸化する能力を有するタンパク質;または
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、式(II)で表わされるアルカノールのω−n位を水酸化する能力を有するタンパク質
【0019】
CYP107L2遺伝子の説明における「ストリンジェンな条件下でハイブリダイズする」とは、DNAをプローブとして使用し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味し、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNAまたは該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0Mの塩化ナトリウム存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2×SSC溶液(1×SSC溶液は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNA等を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、モレキュラークローニング第2版等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0020】
ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げられ、例えば80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
【0021】
配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質は、CYP107L2水酸化酵素であり、配列表の配列番号1に記載の塩基配列によりコードされる。
【0022】
CYP107L2遺伝子の説明における「1から数個のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有するアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。
【0023】
CYP107L2遺伝子の説明における「配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列」における相同性は、80%以上であれば特に限定されないが、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上である。
【0024】
本発明のCYP107L2遺伝子の取得方法は特に限定されない。本明細書中の配列表の配列番号1に記載した塩基配列および配列番号2に記載したアミノ酸配列の情報に基づいて適当なプローブやプライマーを調製し、それらを用いてストレプトミセス・アベルミティリス(Streptomyces avermitilis)に属する微生物のDNAライブラリーをスクリーニングすることにより本発明のCYP107L2遺伝子を単離することができる。DNAライブラリーは、本発明のCYP107L2遺伝子を発現している微生物から常法により作製することができる。
【0025】
PCR法により本発明のCYP107L2遺伝子を取得することもできる。上記した微生物由来のDNAライブラリーを鋳型として使用し、配列番号1に記載した塩基配列を増幅できるように設計した1対のプライマーを用いてPCRを行う。PCRの反応条件は適宜設定することができ、例えば、94℃で30秒間(変性)、55℃で30秒〜1分間(アニーリング)、72℃で2分間(伸長)からなる反応工程を1サイクルとして、例えば30サイクル行った後、72℃で7分間反応させる条件などを挙げることができる。次いで、増幅されたDNA断片を、大腸菌等の宿主で増幅可能な適切なベクター中にクローニングすることができる。
【0026】
上記したプローブまたはプライマーの調製、DNAライブラリーの構築、DNAライブラリーのスクリーニング、並びに目的遺伝子のクローニングなどの操作は当業者に既知であり、例えば、Molecular Cloning: A laboratory Mannual,2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor,NY., 1989(以下、モレキュラークローニング第2版と略す)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38,John Wiley & Sons(1987-1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0027】
CYP107L2遺伝子において1から数個の塩基の欠失、置換および/または付加を有する塩基配列を有するDNA、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAなどの、CYP107L2遺伝子の改変体は、配列番号1に記載の塩基配列および配列番号2に記載のアミノ酸配列の情報に基づいて、化学合成、遺伝子工学的手法または突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法で作製することができる。
【0028】
例えば、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を有するDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的手法等を用いて行うことができる。遺伝子工学的手法の1つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラークローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0029】
本発明においては、CYP107L2遺伝子またはその改変体を電子伝達関連タンパク質をコードするDNA(camAおよびcamBなど)と共に担持する自律複製性または組み込み複製性の組み換えプラスミドを構築し、そのプラスミドを用いて形質転換体を調製することができる。プラスミドは、適当なベクター中にCYP107L2遺伝子またはその改変体を電子伝達関連タンパク質をコードするDNA(camAおよびcamBなど)と共に挿入することで構築することができる。用いるベクターの種類は特に限定されず、例えば、自立的に複製するベクター(例えばプラスミド等)でもよいし、あるいは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。
【0030】
好ましくは、本発明で用いるベクターは発現ベクターである。発現ベクターにおいて本発明の遺伝子は、転写に必要な要素(例えば、プロモーター等)が機能的に連結されている。プロモーターは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
【0031】
細菌細胞で作動可能なプロモーターとしては、バチルス・ステアロテルモフィルス・マルトジェニック・アミラーゼ遺伝子(Bacillus stearothermophilus maltogenic amylase gene)、バチルス・リケニホルミス・α−アミラーゼ遺伝子(Bacillus licheniformis alpa-amylase gene)、バチルス・アミロリケファチエンス・BANアミラーゼ遺伝子(Bacillus amyloliquefaciens BAN amylase gene)、バチルス・サブチリス・アルカリプロテアーゼ遺伝子(Bacillus subtilis alkaline protease gene)もしくはバチルス・プミルス・キシロシダーゼ遺伝子(Bacillus pumilus xylosidase gene)の各プロモーター、またはファージ・ラムダのPRもしくはPLプロモーター、大腸菌のlac、trpもしくはtacプロモーターなどが挙げられる。
【0032】
哺乳動物細胞で作動可能なプロモーターの例としては、SV40プロモーター、MT−1(メタロチオネイン遺伝子)プロモーター、またはアデノウイルス2主後期プロモーターなどがある。昆虫細胞で作動可能なプロモーターの例としては、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーター、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモーター、バキュウロウイルス即時型初期遺伝子1プロモーター、またはバキュウロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモーター等がある。酵母宿主細胞で作動可能なプロモーターの例としては、酵母解糖系遺伝子由来のプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモーター、TPI1プロモーター、ADH2−4cプロモーターなどが挙げられる。糸状菌細胞で作動可能なプロモーターの例としては、ADH3プロモーターまたはtpiAプロモーターなどがある。
【0033】
また、上記遺伝子は必要に応じて、適切なターミネーターに機能的に結合されてもよい。また組み換えベクターは更に、ポリアデニレーションシグナル(例えばSV40またはアデノウイルス5E1b領域由来のもの)、転写エンハンサー配列(例えばSV40エンハンサー)などの要素を有していてもよい。また、組み換えベクターは更に、該ベクターが宿主細胞内で複製することを可能にするDNA配列を具備してもよく、その一例としてはSV40複製起点(宿主細胞が哺乳類細胞のとき)が挙げられる。
【0034】
組み換えベクターはさらに選択マーカーを含有してもよい。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)またはシゾサッカロマイセス・ポンベTPI遺伝子等のようなその補体が宿主細胞に欠けている遺伝子、または例えばアンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシンもしくはヒグロマイシンのような薬剤に対する耐性遺伝子を挙げることができる。本発明の遺伝子、プロモーター、および所望によりターミネーターおよび/または分泌シグナル配列をそれぞれ連結し、これらを適切なベクターに挿入する方法は当業者に周知である。
【0035】
上記組み換えベクターを組み込む宿主微生物については、特に制限はないが、ストレプトミセス(Streptomyces)属などの放線菌およびエッシェリヒア(Escherichia)属などの細菌を好適な例として挙げることができる。目的遺伝子の宿主微生物への導入方法については特に制限はなく、例えば、宿主微生物がストレプトミセス属に属する微生物の場合には、コンピテントセル法、接合法またはエレクトロポレーション法などを採用することができる。具体的な方法については、Genetic Manipulation of Streptomyces : A Laboratory Manual. John Innes Foundation, Norwich, 1985などに記載されている。また宿主微生物がエッシェリヒア(Escherichia)属等の細菌の場合には、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌のフェレドキシン遺伝子およびフェレドキシン還元酵素遺伝子と共に組み込むことが好ましく、具体的な方法については、WO03/087381などに記載されている方法を利用できる。あるいは、実施例に記載のように、プチダレドキシン還元酵素をコードするcamAとプチダレドキシンをコードするcamBを連結することもできる。一般にシトクロームP450の活性発現には電子伝達関連タンパク質が必要であり、プチダレドキシン還元酵素およびプチダレドキシンはそれぞれフェレドキシン還元酵素およびフェレドキシンとしての機能を有している。
【0036】
このようにして調製した形質転換体を培地で培養し、増殖した形質転換体またはその菌体調製物の存在下で、原料である前記式(II)で表される直鎖アルカノールがインキュベーション処理される。この処理は前記形質転換体を培養する際に、その培養液中に原料の直鎖アルカノールを添加して行うか、あるいは場合により前記菌株の培養菌体を、例えばそのまま、もしくはホモジナイズした調製物の懸濁液中に前記原料を添加し、インキュベーションして行うこともできる。
【0037】
培養液への原料の添加は、培養前または培養開始後一定期間経過したときのいずれの時期に行ってもよい。前記培養菌体は前記の形質転換体を栄養源含有培地に接種し、好気的に培養することにより製造できる。このような培養菌体の調製物を用意するための菌株の培養および基質が添加された状態で行われる形質転換体の培養は、原則的には一般微生物の培養方法に準じて行うことができるが、通常は液体培養による振とう培養、通気攪拌培養などの好気的条件下で実施するのが好ましい。
【0038】
培養に用いられる培地としては、形質転換体が利用できる栄養源を含有する培地であればよく、各種の合成培地、半合成培地、天然培地などいずれも利用可能である。培地組成としては炭素源としてのグルコース、マルトース、キシロース、フルクトース、シュークロース、スターチ、デキストリン、グリセリンなどを単独または組合せて用いることができる。
【0039】
窒素源としては、ペプトン、肉エキス、大豆粉、カゼイン、アミノ酸、麦芽エキス、酵母エキス、尿素等の有機窒素源、硝酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の無機窒素源を、単独または組合せて用いることができる。その他、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、塩化コバルトなどの塩類、ビタミン類も必要に応じ添加して使用することができる。なお、培養中発泡が著しいときは、公知の各種消泡剤を適宜培地中に添加することもできる。
【0040】
培養条件は、上記形質転換体が良好に生育し得る範囲内で適宜選択することができる。通常、pH6.0〜8.0、25〜30℃で2〜8日程度培養する。上述した各種の培養条件は、使用する微生物の種類や特性、外部条件等に応じて適宜変更でき、最適条件を選択できる。
【0041】
また、培養菌体調製物は、培養終了後、遠心分離または濾過により分離した菌体またはホモジナイズした菌体を適当な溶液に懸濁して調製する。菌体の懸濁に使用できる溶液は、前記した培地であるか、あるいはトリス-酢酸、トリス-塩酸、コハク酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどの緩衝液を単独または混合したものである。緩衝液のpHは、好ましくは6.0〜9.0、さらに好ましくは7.0〜8.5である。
【0042】
基質となる式(II)で表わされる直鎖アルカノールは、そのまま、あるいは水溶性有機溶媒、例えばエタノールなどに希釈して培養液または菌体の懸濁液に添加することができ、その添加量は、例えば、培養液の場合、培養液1リットル当り0.2〜2gが好ましい。基質添加後は、1〜3日間、好ましくは1日間、振とうあるいは通気攪拌などの操作を行い、反応を進行させることにより基質である直鎖アルカノールを目的の式(I)で表わされるアルカンジオールに変換することができる。
【0043】
こうして生成した、目的のアルカンジオールを反応混合物から単離するには、種々の既知精製手段を選択、組合せて行うことができる。例えば、疎水性吸着樹脂への吸着・溶出や、酢酸エチル、n-ブタノール等を用いた溶媒抽出、シリカゲル等によるカラムクロマトグラフィー法、あるいは薄層クロマトグラフィー、逆相カラムを用いた分取用高速液体クロマトグラフィー等を、単独あるいは適宜組合せ、場合により反復使用することにより、分離精製することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明について具体例を挙げてより詳細に説明するが、本発明をこれらの例に限定することを意図するものではない。なお、下記の例中のパーセント(%)は、特に断りのない限り、質量パーセントを示す。
【0045】
<実施例1> CYP107L2遺伝子により形質転換された大腸菌BL21(DE3)株の作製
CYP107L2は、放線菌Streptomyces avermitilis ATCC31267(=MA-4680)株が有するシトクロームP450の一つである(参考文献A、B)。本株はそのゲノムDNAの全配列が明らかにされており(参考文献B、非特許文献5)、CYP107L2遺伝子の配列情報も参考文献Bから取得した。なお、CYP107L2遺伝子は参考文献Bではcyp8と表記され、そのIDはSAV1987である。
【0046】
CYP107L2遺伝子のクローニングは、Streptomyces avermitilis ATCC31267株のゲノムDNAを鋳型として、その配列情報から作製したプライマーSA107L2-1F(5'- CGGCATATGGGGAATGTGATCGACCTG(配列番号3)、下線部は制限酵素NdeI認識部位)およびSA107L2-2R(5'- GCACTAGTCTACCAGCGCACCGGGAGCCG(配列番号4)、下線部は制限酵素SpeI認識部位)を用いたPCRにより行なった。その条件は次の通りである:(1)95℃で3分、(2)98℃で20秒、(3)63℃で30秒、(4)68℃で2分、(5)ステップ(2)〜(4)を20回、(6)72℃で5分。
【0047】
約1200bpの増幅産物をQIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社)にて精製し、精製産物を制限酵素NdeIとSpeIで消化した。この消化産物を、同様に消化した発現ベクターpT7NS-camAB(参考文献C、pET11aにプチダレドキシン還元酵素をコードするcamAとプチダレドキシンをコードするcamBが連結されている)にライゲーションした。なお、一般にシトクロームP450の活性発現には電子伝達関連タンパク質が必要であり、プチダレドキシン還元酵素およびプチダレドキシンはその機能を有している。
【0048】
得られたライゲーション産物(pCyp8-camAB)で大腸菌DH5αを形質転換し、この形質転換体をLB液体培地(終濃度50μg/mlのcarbenicillinを含む)で培養した。培養菌体から発現ベクターpCyp8-camABをQIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社)を用いて抽出し、これにより大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
【0049】
[参考文献]
(A)David C. Lamb, Haruo Ikeda, David R. Nelson, Jun Ishikawa, Tove Skaug, Colin Jackson, Satoshi Omura, Michael R. Waterman, and Steven L. Kelly: Cytochrome P450 complement (CYPome) of the avermectin-producer Streptomyces avermitilis and comparison to that of Streptomyces coelicolor A3(2) Biochem. Biophys. Res. Commun., Vol.307 (2003) 610-619
(B)http://avermitilis.ls.kitasato-u.ac.jp
(C)国際公開第03/087381
【0050】
<実施例2> CYP107L2遺伝子の発現した大腸菌BL21(DE3)株の調製
CYP107L2遺伝子で形質転換した大腸菌BL21(DE3)株の培養は、終濃度50μg/mlのcarbenicillinを加えたM9α培地(組成は表1および表2)を用いて行った。
この培地2mlを用いて一昼夜の前培養(30℃、200rpm)を行ない、前培養物0.25mlを培地25ml(250mlの三角フラスコ内)に加えて2.5時間回転振とう培養した(37℃、200rpm)。次いで、22℃下120rpmで20分間培養し、80mg/ml 5-アミノレブリン酸25μlと100mM IPTG 25μlを添加して20〜24時間回転振とう培養した(22℃、120rpm)。培養後、遠心分離(4℃、3500rpm、10分)して大腸菌を集菌し、5mlのCV緩衝液(組成は表3)に懸濁した。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
<実施例3> CYP107L2遺伝子を発現した大腸菌BL21(DE3)株による1-ドデカノールの変換
<実施例2>で調製した当該大腸菌の懸濁液150μl、CV2緩衝液(組成は表4)1.3ml、基質である1-ドデカノール2μlを混合し、この混合液を28℃下220rpmで20時間反応させた。また、CYP107L2遺伝子(cyp8)、プチダレドキシン還元酵素遺伝子(camA)、プチダレドキシン遺伝子(camB)の3遺伝子を含んでいないベクターpET11aで形質転換した大腸菌BL21(DE3)株を、同様に1-ドデカノールと反応させ、これを空試験とした。反応は300μlの2M HClを添加して停止させ、続いて、1mlの飽和塩化ナトリウム水溶液と1mlの酢酸エチルを加えた。これを10分間室温で撹拌した後、遠心分離(23℃、3500rpm、10分)して上層の酢酸エチル相を回収しGC-MS分析に供した。GC-MS装置はPerkinElmer社のTurboMass Gold型を使用し、その操作条件は次の通りである。
・カラム:SPB-5キャピラリーカラム(SUPELCO社、内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μ m)
・キャリアガス:ヘリウム(20ml/分で、19:1のスプリット)
・カラム温度:140℃で20分、30℃/分で290℃
・検出器:EI+、250℃
・注入口温度:260℃
・注入量:1μl
【0055】
【表4】

【0056】
1-ドデカノール変換反応産物のGC-MS分析の結果、主な産物として保持時間19.03分と19.25分のピークを示す物質が検出された(図1)。これらは空試験では検出されず、また、分子の両末端に水酸基を有する1,12-ドデカンジオール(保持時間22.09分)とは保持時間で異なっていた。なお、保持時間7.79分の最も大きなピークは基質である1-ドデカノールである。
【0057】
<実施例4> 1-ドデカノール変換反応産物の精製および構造解析
<実施例3>で記述したGC-MS分析における保持時間19.03分と19.25分のピークを示す物質を次のように精製し、NMR分析を行なって構造を解析した。
<実施例3>の変換反応系をスケールアップして得られた1-ドデカノール変換培養液(遠心分離後の上清460ml相当)の酢酸エチル抽出液(465ml)をぼう硝乾燥した後、減圧濃縮、真空乾燥を経て残渣(67.3mg)を得た。これを分取用薄層クロマトグラフィーを用い、トルエン-酢酸エチル=1/1の展開溶媒にて分離し、水を噴霧することより撥水した部分を分取して、GC-MS分析における保持時間19.03分の物質(9.1mg)と保持時間19.25分の物質(8.0mg)をそれぞれ精製した。次に、これらの精製標品を1H-NMR測定し、以下に示した各々の化学シフト値から、GC-MS分析における保持時間19.03分の物質は1,10-ドデカンジオール(ω-2水酸化体)で、保持時間19.25分の物質は1,11-ドデカンジオール(ω-1水酸化体)であると構造を決定した。さらに、各精製標品をGC-MS分析し、それらの質量スペクトル(m/z 40〜210)を得た(図2および図3)。
【0058】
〇1,10-ドデカンジオール(ω-2水酸化体)
Rf値:0.41(トルエン-酢酸エチル=1/1)
1H-NMR (500MHz,CDCl3):3.63(2H,t,J=6.5Hz,-CH2OH),3.52(1H,m,-CH(OH)-),1.27-1.62(18H,m,-(CH2)-x9),0.94(3H,t,J=7.5Hz,-CH3)
13C-NMR(125MHz,CDCl3):73.4,63.1,37.0,32.8,30.2,29.7,29.6,29.5,29.4,25.73,25.65,9.9ppm
〇1,11-ドデカンジオール(ω-1水酸化体)
Rf値:0.37(トルエン-酢酸エチル=1/1)
1H-NMR(500MHz,CDCl3):3.79(1H,m,-CH(OH)-),3.64(2H,t,J=6.5Hz,-CH2OH),1.57(2H,m),1.27-1.48(16H,m,-(CH2)-x8),1.19(3H,d,J=6.0Hz,-CH3)
13C-NMR(125MHz,CDCl3):68.5,63.4,39.7,33.1,30.0,29.91,29.90,29.8,29.7,26.09,26.07,23.8ppm
【0059】
<実施例5> CYP107L2遺伝子を発現した大腸菌BL21(DE3)株による1-ヘキサノールの変換
炭素数6の1-ヘキサノールを基質として<実施例3>に従ってCYP107L2遺伝子を発現した大腸菌BL21(DE3)株と反応させた。その変換反応産物をGC-MS分析した結果、主な産物として保持時間4.46分のピークを示す物質が検出された(図4)。この物質は保持時間および質量スペクトル(図5)が1,5-ヘキサンジオールの市販標品と一致した。従って、CYP107L2遺伝子を発現した大腸菌BL21(DE3)株は1-ヘキサノールから1,5-ヘキサンジオールを生成した。但し、GC-MS分析におけるカラム温度は<実施例3>に記載のものとは異なり次のように行った:100℃で20分、30℃/分で280℃まで昇温。
【0060】
<実施例6> 安息香酸10-ヒドロキシドデシル(ω-2のベンゾイルエステル体)および安息香酸11-ヒドロキシドデシル(ω-1のベンゾイルエステル体)の製造
<実施例3>の変換反応系をスケールアップして得られた1-ドデカノール変換培養液(遠心分離後の上清110ml相当)の酢酸エチル抽出液をぼう硝乾燥した後、減圧濃縮、真空乾燥を経て31.5mgの残渣を得た。これを分取用薄層クロマトグラフィー上、トルエン-酢酸エチル=1/1の展開溶媒にて分離し、ω-1アルコール体およびω-2アルコール体の混合物(3.4mg)を得た。これらを光学純度測定のためにベンゾイルエステルに導いた。混合物をピリジン(0.3ml)に溶解し、氷冷下、塩化ベンゾイル(10μl)を加え、0℃で30分間攪拌した。反応液にトルエン(2ml)を加え、3mol/l 塩酸(2ml)、水(2ml)で順次洗浄した。有機層をぼう硝乾燥した後、減圧濃縮、真空乾燥を経て9.9mgの残渣を得た。これを分取用薄層クロマトグラフィー上、ヘキサン-酢酸エチル=1/1の展開溶媒にて分離し、安息香酸10-ヒドロキシドデシル(0.9mg)および安息香酸11-ヒドロキシドデシル(0.6mg)をそれぞれ得た。
【0061】
光学純度の測定は光学活性体分離カラムにより以下の条件でおこなった。
分析条件
カラム:ダイセルCHIRALPAK AD-RH;サイズ:7.5 x 4.6mmID;移動層:75%メタノール;カラム温度:40℃;流速:0.5ml/min;検出波長:230nm
【0062】
〇安息香酸10-ヒドロキシドデシル(ω-2体のベンゾイルエステル)
光学純度:78%ee;Rf値:0.23(ヘキサン-酢酸エチル=1/1)
1H-NMR(500MHz,CDCl3):7.42-8.07(5H,m,Ph),4.32(2H,t,J=6.0Hz,-CH2OBz),3.53(1H,m,-CH(OH)-),1.78(2H,m),1.28-1.67(16H,m,-(CH2)-x8),0.94(3H,t,J=7.5Hz,-CH3)
13C-NMR(125MHz,CDCl3):166.7(C=O),132.8(Ph),129.5(Ph),128.3(Ph),73.4(-CH(OH)-),65.1(-CH2OH),37.0(-CH2-),30.2(-CH2-),29.7(-CH2-),29.53(-CH2-),29.46(-CH2-),29.3(-CH2-),28.7(-CH2-),26.0(-CH2-),25.6(-CH2-),9.9(-CH3)
〇安息香酸11-ヒドロキシドデシル(ω-1体のベンゾイルエステル):
光学純度:40%ee;Rf値:0.18(ヘキサン-酢酸エチル=1/1)
1H-NMR(500MHz,CDCl3):7.42-8.06(5H,m,Ph),4.31(2H,m,-CH2OBz),3.80(1H,m,-CH(OH)-),1.77(2H,m),1.28-1.67(16H,m,-(CH2)-x8),1.19(3H,d,J=6.1Hz,-CH3)
【0063】
<実施例7> 1,10-ドデカンジオール(ω-2体)の立体配置の決定
(1)1-ベンゾイルオキシ-10-{(S)-α-メトキシ-α-(トリフルオロメチル)フェニルアセトキシ}ドデカンの調製
安息香酸10-ヒドロキシドデシル(3.1mg,0.0106mmol,光学純度:78%)を塩化メチレン(1ml)に溶解し、4,4-ジメチルアミノピリジン(2.6mg,0.0212mmol)および(-)-α-メトキシ-α-(トリフルオロメチル)フェニルアセチルクロライド(3.0μl,0.0159mmol)を加え、室温で30分間攪拌した。反応液を直接シリカゲル薄層クロマトグラフィー(展開液:ヘキサン:酢酸エチル=10/1)で精製し、表題化合物(4.8mg,収率89%,ジアステレオマーの混合物)を得た。
【0064】
主成分の1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ8.05(2H,d,J=8.5Hz,Ph),7.56-7.39(8H,overlapped,Ph),5.05(1H,m,-CH(OMTPA)-),4.32(2H,t,J=6.5Hz,-CH2OBz),3.56(3H,s,MeO-),1.76(2H,m,H-2),1.55(2H,m,H-11),1.43(2H,m),1.36-1.23(14H,ovelapped),0.81(3H,t,J=7.5Hz,12-CH3)
19F-NMR(470MHz,内部標準C6F6:-163ppm):主成分のCF3のピーク -72.554ppm,副成分のCF3のピーク -72.608ppm
【0065】
(2)1-ベンゾイルオキシ-10-{(R)-α-メトキシ-α-(トリフルオロメチル)フェニルアセトキシ}ドデカンの調製
上記と同様にして安息香酸10-ヒドロキシドデシルおよび(+)-α-メトキシ-α-(トリフルオロメチル)フェニルアセチルクロライドとの反応により表題化合物を調製した。
【0066】
主成分の1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ8.05(2H,d,J=8.5Hz,Ph),7.56-7.39(8H,overlapped,Ph),5.04(1H,m,-CH(OMTPA)-),4.32(2H,t,J=6.5Hz,-CH2OBz),3.57(3H,s,MeO-),1.76(2H,m,H-2),1.67(2H,m,H-11),1.43(2H,m),1.36-1.15(14H,ovelapped),0.92(3H,t,J=7.5Hz,12-CH3)
19F-NMR(470MHz,内部標準C6F6:-163ppm):主成分のCF3のピーク -72.608ppm,副成分のCF3のピーク -72.554ppm
【0067】
(3)立体配置の決定
1H-NMRにおいて主成分の(S)-MTPAエステルのδ値(ppm)から(R)-MTPAエステルのδ値(ppm)を引いた差分(Δδ)は、12-CH3が-0.11、11-CH2が-0.12とΔδ<0であった。シグナルの重なりのため9-CH2,8-CH2がΔδ>0であることを確認できなかったが、定法によりMTPAを上側で手前、α水素を下側で手前とし、Δδがマイナスのプロトングループ(12-CH3,11-CH2)を右側に置くと主成分の10位の立体配置はR配置であると推定される。
さらに、旧Mosher法を適用すると
ΔF=δS-δR=-72.554-(-72.608)=+0.054>0
となり、R体であることが支持される。
【0068】
<実施例8> 1,11-ドデカンジオール(ω-1体)の立体配置の決定
(1)1-ベンゾイルオキシ-11-{(S)-α-メトキシ-α-(トリフルオロメチル)フェニルアセトキシ}ドデカンの調製
安息香酸11-ヒドロキシドデシル(5.2mg,0.0178mmol,光学純度:40%)を塩化メチレン(1ml)に溶解し、4,4-ジメチルアミノピリジン(4.3mg,0.0356mmol)および(-)-α-メトキシ-α-(トリフルオロメチル)フェニルアセチルクロライド(5.0μl,0.0267mmol)を加え、室温で30分間攪拌した。反応液を直接シリカゲル薄層クロマトグラフィー(展開液:ヘキサン:酢酸エチル=10/1)で精製し、表題化合物(7.2mg,収率80%,ジアステレオマーの混合物)を得た。
【0069】
1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ8.05(2H,d,J=8.0Hz,Ph),7.56-7.38(8H,overlapped,Ph),5.13(1H,m,-CH(OMTPA)-),4.32(2H,t,J=7.0Hz,-CH2OBz),3.57(minor)&3.55(main)(3H,overlapped,MeO-),1.77(2H,m),1.69-1.16(16H,ovelapped)
主成分の末端メチル基はδ1.25、副成分の末端メチル基はδ1.33である。
19F-NMR(470MHz,内部標準C6F6:-163ppm):主成分のCF3のピーク -72.722ppm,副成分のCF3のピーク -72.756ppm
【0070】
(2)1-ベンゾイルオキシ-11-{(R)-α-メトキシ-α-(トリフルオロメチル)フェニルアセトキシ}ドデカンの調製
上記と同様にして安息香酸11-ヒドロキシドデシルおよび(+)-α-メトキシ-α-(トリフルオロメチル)フェニルアセチルクロライドとの反応により表題化合物を調製した。
【0071】
1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ8.05(2H,d,J=8.5Hz,Ph),7.56-7.38(8H,overlapped,Ph),5.15(1H,m,-CH(OMTPA)-),4.32(2H,t,J=7.0Hz,-CH2OBz),3.57(main)&3.55(minor)(3H,overlapped,MeO-),1.77(2H,m),1.71-1.15(16H,ovelapped)
主成分の末端メチル基はδ1.33、副成分の末端メチル基はδ1.25である。
19F-NMR(470MHz,内部標準C6F6:-163ppm):主成分のCF3のピーク -72.756ppm,副成分のCF3のピーク -72.722ppm
【0072】
(3)立体配置の決定
1H-NMRにおいて主成分の(S)-MTPAエステルのδ値(ppm)から(R)-MTPAエステルのδ値(ppm)を引いた差分(Δδ)は、12-CH3が-0.08でΔδ<0であった。シグナルの重なりのため10-CH2,9-CH2がΔδ>0であることを確認できなかったが、定法によりMTPAを上側で手前、α水素を下側で手前とし、Δδがマイナスのプロトングループ(12-CH3)を右側に置くと主成分の11位の立体配置はR配置であると推定される。
旧Mosher法によっても、
ΔF=δS-δR=-72.722-(-72.756)=+0.034>0
となり、R体であることが支持される。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、アルカンジオールの製造分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】CYP107L2遺伝子を発現させた大腸菌BL21(DE3)株による1-ドデカノールの変換反応産物のガスクロマトグラム。
【図2】1,10-ドデカンジオール精製標品の質量スペクトル。
【図3】1,11-ドデカンジオール精製標品の質量スペクトル。
【図4】CYP107L2遺伝子を発現させた大腸菌BL21(DE3)株による1-ヘキサノールの変換反応産物のガスクロマトグラム。
【図5】保持時間4.46分の物質の質量スペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)、
HO-(CH2-n-1-CH(OH)-(CH2)n-H (I)
(式(I)中、ωは、6ないし12の整数を表わし、nは1ないし2の整数を表わす)
で表わされるアルカンジオールの製造方法であって、
(1)配列表の配列番号1に記載の塩基配列からなるCYP107L2遺伝子を含む形質転換体、もしくは
CYP107L2遺伝子の改変体を含み、かつ、式(II)、
HO-(CH2)ω-H (II)
(式(II)中、ωは、式(I)について定義したのと同義である)
で表わされるアルカノールのω−n位を水酸化する能力を有する形質転換体の存在下で、または前記形質転換体の調製物の存在下で、式(II)で表わされるアルカノールをインキュベーションする工程、および
(2)インキュベーション処理液から式(I)で表わされるアルカンジオールを採取する工程、
を含む前記製造方法。
【請求項2】
前記形質転換体は、宿主が、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)に属する微生物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記改変体が、CYP107L2遺伝子において1から数個の塩基の欠失、置換および/または付加を有する塩基配列を有し、式(II)で表わされるアルカノールのω−n位を水酸化する能力を有するタンパク質をコードする塩基配列を有するDNAである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記改変体が、以下のタンパク質をコードするDNAである請求項1または2に記載の製造方法。
(A)CYP107L2遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされるタンパク質であり、かつ、式(II)で表わされるアルカノールのω−n位を水酸化する能力を有するタンパク質、
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、
(C)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有するアミノ酸配列を有し、式(II)で表わされるアルカノールのω−n位を水酸化する能力を有するタンパク質;または
(D)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、式(II)で表わされるアルカノールのω−n位を水酸化する能力を有するタンパク質
【請求項5】
前記形質転換体の調製物が、培養菌体であるか、あるいは培養菌体をホモジナイズした調製物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記形質転換体は、フェレドキシン遺伝子とフェレドキシン還元酵素遺伝子をさらに有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記形質転換体は、プチダレドキシン還元酵素をコードするcamAとプチダレドキシンをコードするcamBをさらに有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
ωが6または12である請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
式(I)で表わされるアルカンジオールの立体配置がR体である請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−209213(P2007−209213A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29964(P2006−29964)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、生物機能を活用した生産プロセスの基盤技術開発/微生物遺伝資源ライブラリーの開発、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(000001915)メルシャン株式会社 (48)
【出願人】(390027214)社団法人北里研究所 (20)
【Fターム(参考)】