説明

生薬試料中の残留農薬の精製方法

【課題】生薬試料において農薬の添加回収率を維持しつつ、夾雑物の除去率を高めることができる生薬試料中の残留農薬の精製方法を提供する。
【解決手段】次の工程:
(i)生薬試料を、アセトニトリルと水の容量比が1:1〜19:1であるアセトニトリル水溶液で抽出する工程、
(ii)抽出後のアセトニトリル水溶液におけるアセトニトリルと水の容量比を2:3〜3:2に調整する工程、及び
(iii)前記工程(ii)によりアセトニトリルと水の容量比が調整された溶液をカラムクロマトグラフィーに付す工程
を含む生薬試料中の残留農薬の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生薬試料中の残留農薬を精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、農産物の生産性を高めるために種々の農薬が使用されてきた。近年、農産物中の残留物質への関心が高まり、残留物質の測定が重視されてきている。これに対応する形で、厚生労働省でも、農産物中に残存する残留物質に関する基準を設定しようとしている(非特許文献1)。
【0003】
非特許文献1には、一斉試験法として「GC/MSによる農薬等の一斉試験法(農産物)」が記載されており、果実、野菜、ハーブ、茶及びホップの場合の試験溶液の調製の抽出工程について、以下のように記載されている。
【0004】
「果実、野菜及びハーブの場合は、試料20.0gを量り採る。茶及びホップの場合は、試料5.00gに水20mLを加え、15分間放置する。
これにアセトニトリル50mLを加え、ホモジナイズした後、吸引ろ過する。ろ紙上の残留物にアセトニトリル20mL加え、ホモジナイズした後、吸引ろ過する。得られたろ液を合わせ、アセトニトリルを加えて正確に100mLとする。
抽出液20mLを採り、塩化ナトリウム10g及び0.5mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)20mLを加え、振とうする。静置した後、分離した水層を捨てる。アセトニトリル層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、無水硫酸ナトリウムをろ別した後、ろ液を40℃以下で濃縮し、溶媒を除去する。残留物にアセトニトリル及びトルエン(3:1)混液2mLを加えて溶かす。」
【0005】
本発明者らがカラムクロマトグラフィーに付すアセトニトリル水溶液におけるアセトニトリルと水の割合を検討したところ、農薬の添加回収率だけを考えると容量比で2:3が最適であったが、生薬によっては容量比2:3では夾雑物が多く分析が困難となることがあった。
【非特許文献1】食安発第0124001号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知、別添「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、生薬試料において農薬の添加回収率を維持しつつ、夾雑物の除去率を高めることができる生薬試料中の残留農薬の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)次の工程:
(i)生薬試料を、アセトニトリルと水の容量比が1:1〜19:1であるアセトニトリル水溶液で抽出する工程、
(ii)抽出後のアセトニトリル水溶液におけるアセトニトリルと水の容量比を2:3〜3:2に調整する工程、及び
(iii)前記工程(ii)によりアセトニトリルと水の容量比が調整された溶液をカラムクロマトグラフィーに付す工程
を含む生薬試料中の残留農薬の精製方法。
(2)生薬試料が生薬又は漢方製剤である前記(1)に記載の方法。
(3)生薬試料がソヨウ、センナ、ビワヨウ、カンキョウ、サイシン、サンショウ、キョウカツ、ゼンコ、チョウジ、モッコウ、リョウキョウ及びワキョウカツから選ばれる前記(1)に記載の方法。
(4)残留農薬がピレスロイド系農薬である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、農薬の添加回収率を維持しつつ、夾雑物の除去率を高めることができ、通常の精製法でみられる夾雑物の混入を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の対象となる生薬としては、例えばソヨウ、センナ、ビワヨウ、カンキョウ、サイシン、サンショウ、キョウカツ、ゼンコ、チョウジ、モッコウ、リョウキョウ、ワキョウカツ、アキョウ、イレイセン、インチンコウ、ウイキョウ、エンゴサク、オウギ、オウゴン、オウバク、オウレン、オンジ、ガイヨウ、カシュウ、カッコン、カッセキ、カロコン、カロニン、カンゾウ、キキョウ、キクカ、キジツ、キッソウコン、キョウニン、クジン、ケイガイ、ケイヒ、コウカ、コウジン、コウブシ、コウベイ、コウボク、ゴシツ、ゴシュユ、ゴボウシ、ゴマ、ゴミシ、サイコ、サンザシ、サンシシ、サンシュユ、サンソウニン、サンヤク、カンジオウ、ジコッピ、シコン、シツリシ、シャクヤク、シャゼンシ、ジュクジオウ、シュクシャ、ショウキョウ、ショウバク、ショウマ、シンイ、セッコウ、センキュウ、センコツ、センタイ、ソウジュツ、ソウハクヒ、ソボク、ダイオウ、タイソウ、タクシャ、チクジョ、チクセツニンジン、チモ、チャヨウ、チョウトウコウ、チョレイ、チンピ、テンナンショウ、テンマ、テンモンドウ、トウガシ、トウキ、トウニン、トウヒ、トコン、トチュウ、ドッカツ、ニンジン、ニンドウ、バイモ、バクガ、バクモンドウ、ハッカ、ハマボウフウ、ハンゲ、ビャクゴウ、ビャクシ、ビャクジュツ、ビンロウジ、ブクリョウ、ブシ、フンマツアメ、ボウイ、ボウフウ、ボクソク、ボタンピ、ボレイ、マオウ、マシニン、モクツウ、ヨクイニン、リュウガンニク、リュウコツ、リュウタン、レンギョウ、レンニク、好ましくはソヨウ、センナ、ビワヨウ、カンキョウ、サイシン、サンショウ、キョウカツ、ゼンコ、チョウジ、モッコウ、リョウキョウ、ワキョウカツが挙げられる。
【0010】
本発明において精製対象となる農薬としては、特に制限はなく、例えば、テフルトリン、シネリンI、シネリンII、シハロトリン、シペルメトリン、ジャスモリンI、ジャスモリンII、ピレトリンI、ピレトリンII、フルシトリネート、フルバリネート、デルタメトリン、アクリナトリン、ペルメトリンI、ペルメトリンII、シフルトリン、シラフルオフェン、フェンバレレート、エスフェンバレレート、フィプロニル、ビフェントリン、フェンプロパトリン、トラロメトリン等のピレスロイド系農薬;ジクロラン、ブロモブチド、クロメトキシニル、スウェップ、ジクロフルアニド、クロルフェンソン、ビフェノックス、シフルトリン、フルバリネート、テフルトリン、プロピザミド、ジコホール、ビナパクリル、クロルベンジレート、キントゼン、エンドスファン、プロシミドン、クロルプロピレート、ブロモプロピレート、テトラジホン、ハルフェンプロックス、フルオロイミド、クロロフェネトール、ホルペット、エンドリン等の有機塩素系農薬;メトラクロール、トリアジメノール、キノメチオネート、パクロブトラゾール、プレチラクロル、フルシラゾール、プロピコナゾール、レナシル、テニルクロール、アセタミプリド、フルトラニル、メフェナセット、フェナリモル、ビテルタノール、ピリダベン、ピリミジフェン、EPTC、エスプロカルブ、ペンジメタリン、ミクロブタニル、トリシクラゾール、シプロコナゾール、メプロニル、テブコナゾール、イプロジオン、テブフェンピラド、ピリプロキシフェン、ジフェノコナゾール、イミベンコナゾール、トリフルラリン、メトリブジン、トリクラミド、ヘキサコナゾール、エトキサゾール、シハロホップブチル、カフェンストロール等の含窒素系農薬;ピペロニル・ブトキシド等のメチレンジオキシ系農薬;アラクロール等のアセトアニリド系農薬;ブチレート、イソプロカルブ、ジエトフェンカルブ、メチオカルブ、クロロプロファム、ピリミカーブ、チオベンカルブ、ピリブチカルブ、ベンダイオカルブ、エチオフェンカルブ、フェノブカルブ、カルバリル等のカーバメート系農薬;ジメチピン、ベンフレセート等の有機硫黄系農薬が挙げられる。
【0011】
本発明における抽出工程においては、生薬の特性(水分含量が10%以下である)の点から、抽出溶媒としてアセトニトリルと水の容量比が1:1〜19:1であるアセトニトリル水溶液を用いる。アセトニトリル水溶液におけるアセトニトリルと水との割合は、容量比で、好ましくは7:3〜9:1、更に好ましくは4:1である。アセトニトリル水溶液の使用量は、試料1g当たり、通常8〜12mL、好ましくは9〜11mLである。抽出に際して、試料及び溶媒の混合順序には制限はなく、予めアセトニトリル水溶液を調製した後、試料と混合してもよく、また試料と、アセトニトリル及び水の一方を混合した後、他方の溶媒を加えてもよい。
試料の使用量は、特に制限はないが、通常1〜4gである。
【0012】
次いで、試料と溶媒との混合物を十分に振盪する。その後、前記混合物を遠心分離し、上清をとる。好ましくは、残留物に前記アセトニトリル水溶液を添加し(残留物1g当たり、通常10〜30mL、好ましくは15〜25mL)、振盪後、遠心分離して上清をとる操作を1回以上繰り返し、得られた上清を合わせる。
【0013】
本発明においては、抽出後のアセトニトリル水溶液(前記上清)に水を加えて、当該溶液におけるアセトニトリルと水の容量比を2:3〜3:2に調整する。この処理を行うことにより、夾雑物の混入を防ぐことができる。ここで加える水の添加量は、試料1g当たり、通常6〜20mL、好ましくは9〜15mLである。
【0014】
本発明においては、農薬の回収率を向上させる点から、前記のようにして得られた抽出液のpHを3.5〜4.5に調整することが好ましい。前記pHは、更に好ましくは3.8〜4.2、最も好ましくは4.0である。pH調整するために用いる溶液としては特に制限はないが、通常リン酸水溶液、酢酸水溶液、ギ酸水溶液、パラトルエンスルホン酸水溶液等の酸性水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性水溶液等を単独で又は組み合わせて用いる。pH調整後のアセトニトリル水溶液におけるアセトニトリルと水の容量比は、好ましくは2:3〜3:2、更に好ましくは9:11〜11:9である。
【0015】
本発明においては、前記のようにしてpH調整された溶液をカラムクロマトグラフィーに付す。
【0016】
本工程で用いるカラムクロマトグラフィーとしては、特に制限はなく、例えばC18カラムクロマトグラフィー、PSAカラムクロマトグラフィー、グラファイトカーボンブラック(GCB)カラムクロマトグラフィー、SAX/PSAカラムクロマトグラフィー、フロリジルカラムクロマトグラフィー等を単独で又は組み合わせて行うことができる。
【0017】
本発明に従えば、通常の精製法では夾雑物の混入が多く分析が困難である生薬試料においても農薬の添加回収率を維持しつつ、夾雑物の除去率を高めることができるので、本発明方法により前処理された試料を、例えばGC/MSD(質量分析計付きガスクロマトグラフ装置)により分析することにより、生薬中の残留農薬を高精度で分析することができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0019】
(実施例1及び比較例1)
1.試料秤量
50mLのスリ栓付き遠沈管にソヨウ粉末2.0g(1.95〜2.04g)を精密に量り取った。
【0020】
2.抽出
2−1.遠沈管にアセトニトリル/水混液(容量比4:1)20mLを加えた。
2−2.遠沈管に栓をして、下記条件にて振盪した。
振盪時間:10分、振盪速度:200回/分
2−3.振盪後、下記条件にて遠心分離した。
回転速度:3000rpm、遠心時間:5分
2−4.綿栓をした漏斗を100mL三角フラスコの上に載せ、アセトニトリル/水混液(容量比4:1)約2mLで洗浄した。
2−5.綿栓をした漏斗を200mL三角フラスコの上に載せ、遠沈管を傾け、上清を漏斗に移した。
2−6.遠沈管中の試料についてもう一度2−1〜3の操作を行った。2−5の漏斗に移し、先の抽出液と合わせた。
【0021】
3.抽出液のpH調整
3−1.2−6の漏斗を水10mLで洗い込む。漏斗をはずした後、抽出液に水15mL(実施例1)又は30mL(比較例1)を加え、よく混和した。
3−2.pH試験紙を用いて、3−1の抽出液のpHを測定したところ、pHは約5.7であった。
前記抽出液に、10%リン酸水溶液、又は飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて、pHを4に調整した。
【0022】
4.C18(5g)−PSA−GCBカラム処理
(C18カートリッジ下準備)
4−1.C18(5g)カートリッジに注射針を取り付け、組立式漏斗台に載せ、下部にビーカーを置いた。カートリッジ上部にアセトニトリル20mLを加えた。カートリッジ上部の溶媒がなくなったら、水20mL、水/アセトニトリル混液(容量比3:2)20mLを順次加えた。
【0023】
(農薬の吸着)
4−2.3−2の調整液をC18(5g)カートリッジに加えた。アダプターをつけたリザーバーカートリッジをC18(5g)カートリッジに取り付け、リザーバーカートリッジに3−2の調整液約65mL(実施例1)又は約80mL(比較例1)を加えた。C18(5g)カートリッジ上部の調整液がなくなったら、アダプターをつけたリザーバーカートリッジを外し、シリンジを用いてC18(5g)カートリッジ内の溶媒を押し出した。通導した液は廃棄した。
4−3.PSAカートリッジに注射針を取り付け、組立式漏斗台に載せ、下部にビーカーを置いた。カートリッジ上部にアセトニトリル10mLを加えた。通導した液は廃棄した。
【0024】
(GCBカートリッジ下準備)
4−4.GCBカートリッジに注射針を取り付け、組立式漏斗台に載せ、下部にビーカーを置いた。カートリッジ上部にヘキサン10mL、アセトン10mL、アセトニトリル10mLを順次加えた。通導した液は廃棄した。
4−5.100mL三角フラスコに無水硫酸ナトリウム大さじ3杯を加えた。
【0025】
(吸着させた農薬の溶出)
4−6.4−2のC18(5g)カートリッジにアダプターをつけたリザーバーカートリッジを取り付けた。C18(5g)カートリッジの下に4−3のPSAカートリッジを、PSAカートリッジの下に4−4のGCBカートリッジを置いた。GCBカートリッジの下に4−5の100mL三角フラスコを置いた。
4−7.アセトニトリル50mLを量り取り、C18(5g)カートリッジ上部のリザーバーカートリッジに加えた。
4−8.C18(5g)カートリッジ上部の溶媒がなくなったら、アダプターをつけたリザーバーカートリッジを外し、シリンジを用いてC18(5g)カートリッジ内の溶媒を押し出した。
4−9.PSAカートリッジ上部の溶媒がなくなったら、シリンジを用いてカートリッジ内の溶媒を押し出し、カートリッジを取り外した。
【0026】
5.脱水剤分離
5−1.ひだ折り濾紙を載せた漏斗を100mL三角フラスコの上に載せ、アセトニトリル約5mLで洗浄した。
5−2.ひだ折り濾紙を載せた漏斗を200mLナス型フラスコの上に載せた。
5−3.4−9の溶出液をひだ折り濾紙を載せた漏斗に移した。4−9の100mL三角フラスコにアセトニトリル約5mLを加え洗浄した。同操作を更に2回行った。
【0027】
6.溶出液濃縮
6−1.5−3の溶出液を、ロータリーエバポレーターを用い乾固まで減圧濃縮した。
6−2.6−1の濃縮液にヘキサン5mLを加え、2mLまで減圧濃縮した。
【0028】
7.SAX/PSA−フロリジル(1g)カラム処理
(フロリジルカートリッジ下準備)
7−1.SAX/PSAカートリッジに注射針を取り付け、組立式漏斗台に載せ、下部にビーカーを置いた。カートリッジ上部にヘキサン10mLを加えた。カートリッジ上部の溶媒がなくなったら、酢酸エチル10mL、ヘキサン10mLを順次加えた。通導した液は廃棄した。
7−2.フロリジル(1g)カートリッジに注射針を取り付け、組立式漏斗台に載せ、下部にビーカーを置いた。カートリッジ上部にヘキサン10mLを加えた。カートリッジ上部の溶媒がなくなったら、酢酸エチル10mL、ヘキサン10mLを順次加えた。通導した液は廃棄した。
【0029】
(SAX/PSAカートリッジ下準備)
7−3.7−1のSAX/PSAカートリッジの下に7−2のフロリジル(1g)カートリッジを、フロリジル(1g)カートリッジの下にビーカーを置いた。
7−4.6−2の濃縮液にヘキサン2mLを加え、超音波洗浄器を用いて均一に分散させた。パスツールピペットを用いてSAX/PSAカートリッジ上部に加えた。
7−5.7−4の200mLナス型フラスコにヘキサン4mLを加えた。超音波洗浄器を用いて均一に分散させ、SAX/PSAカートリッジ上部に加えた。同操作をもう一度行った。通導した液は廃棄した。
7−6.フロリジル(1g)カートリッジ上部の溶媒がなくなったら、フロリジル(1g)カートリッジ下部に100mLナス型フラスコを置いた。SAX/PSAカートリッジ上部にヘキサン/酢酸エチル混液(3:1)30mLを加えた。
7−7.SAX/PSAカートリッジ上部の溶媒がなくなったら、シリンジを用いてカートリッジ内の溶媒を押し出し、カートリッジを取り外した。
7−8.フロリジル(1g)カートリッジ上部の溶媒がなくなったら、シリンジを用いてカートリッジ内の溶媒を押し出した。
【0030】
8.溶出液濃縮
8−1.7−8の溶出液を、ロータリーエバポレーターを用い40℃以下で約2mLまで減圧濃縮した。
8−2.8−1の濃縮液にアセトン5mLを加え、約1mLまで減圧濃縮した。同操作をもう一度行った。
【0031】
9.分析試料調製
9−1.8−2の濃縮液を2mLメスフラスコに移し、0.01%ポリエチレングリコールアセトンを用いて2mLに定容した。
9−2.パスツールピペットを用い、メスフラスコ内をよく撹拌した。
9−3.バイアル瓶に試料溶液を約1mL入れ、キャップをセットした。
9−4.クリンパーを用いて、キャップを閉じた。
【0032】
10.GC/MSD測定
以下の条件にしたがって、GC/MSDによる分析を行った。
検出器:MSD
カラム:DB−1MS 長さ15m,内径0.25mm,膜厚0.25μm
カラム温度:100℃(2min hold) - (20℃/min) - 194℃ - (5℃/min) -220℃- (15℃/min) - 300℃(5.77min hold)
注入口温度:250℃
インターフェース:300℃
注入量:2.0μL
注入方法:パルスドスプリットレス
パルス圧:20.0psi
パルス時間:1.00min
キャリアガス:ヘリウム
平均線速度:63cm/sec
【0033】
11.選択イオンモニタリング(SIM)の設定と対象農薬のイオン設定
対象農薬の溶出順序から定量用イオンとフラグメントイオン(クォリファイアイオン1及び2)を選定した。
SIMの設定と対象農薬のイオン設定を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
分析結果を表2に示す。シペルメトリンは異性体の混合物であり検出法あるいは使用機器等の測定条件により確認されるピーク数が異なり、今回の測定条件においては4種のピークが検出される。そのため、それぞれをシペルメトリンI、シペルメトリンII、シペルメトリンIII、シペルメトリンIVとしている。また、フェンバレレートについても同様に異性体の混合物であり、今回の測定条件では2種のピークが検出されるため、フェンバレレートI、フェンバレレートIIとしている。
【0036】
【表2】

【0037】
(判定基準)
(a)回収率が70〜120%を示すものを適用可能と判断した。
前記範囲外の回収率には取り消し線を付した。
(b)クォリファイアイオン判定:
ターゲットイオン(定量分析を行うときに検量線を作成し、定量するイオン;定量用イオン)、クォリファイアイオン(Qualifier ion;定量分析を行うときに本当にその物質であるかどうかを確認するためターゲットイオンとの比率を計算するためのイオン)1(確認用イオン1)及びクォリファイアイオン2(確認用イオン2)が確認できる場合を「○」、ターゲットイオンと、クォリファイアイオン1又はクォリファイアイオン2が確認できる場合を「△」として表2に示した。また、ターゲットイオンが確認できない場合及びターゲットイオンは確認できたがクォリファイアイオン1及びクォリファイアイオン2ともに確認できなかった場合を「×」として示した。
【0038】
表2から、実施例1及び比較例1は、添加回収率においていずれも良好な結果が得られたが、ブランクのクォリファイアイオン判定において、実施例1の方が「△」が少なく、夾雑物の混入が少ないことがわかる。シペルメトリンIIについては、生薬由来の夾雑物のピークが同じ位置で検出されるため実施例のBlankクォリファイアが○となっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程:
(i)生薬試料を、アセトニトリルと水の容量比が1:1〜19:1であるアセトニトリル水溶液で抽出する工程、
(ii)抽出後のアセトニトリル水溶液におけるアセトニトリルと水の容量比を2:3〜3:2に調整する工程、及び
(iii)前記工程(ii)によりアセトニトリルと水の容量比が調整された溶液をカラムクロマトグラフィーに付す工程
を含む生薬試料中の残留農薬の精製方法。
【請求項2】
生薬試料が生薬又は漢方製剤である請求項1記載の方法。
【請求項3】
生薬試料がソヨウ、センナ、ビワヨウ、カンキョウ、サイシン、サンショウ、キョウカツ、ゼンコ、チョウジ、モッコウ、リョウキョウ及びワキョウカツから選ばれる請求項1記載の方法。
【請求項4】
残留農薬がピレスロイド系農薬である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2009−53165(P2009−53165A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222818(P2007−222818)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000003665)株式会社ツムラ (43)