説明

産業向けヒートポンプ導入解析装置

【課題】エネルギーシステムにヒートポンプを導入した場合のエネルギー効率を解析する解析装置を提供する。
【解決手段】情報取得部102は、与熱系の用役に供給される与熱熱量およびその与熱温度の情報と、受熱系の用役に供給される受熱熱量および受熱温度の情報と、を取得する。組合せ抽出部106は、与熱系および受熱系の情報にもとづいて、ヒートポンプにより受熱系が取得した水または蒸気を昇温して与熱系に供給する与熱系と受熱系との用役の組合せを抽出する。エネルギー効率算出部110は、それぞれの組合せについてヒートポンプを導入した場合におけるエネルギーシステムのエネルギー効率を算出する。最適組合せ算出部112は、エネルギー効率算出部110により算出した組合せについてのエネルギー効率にもとづいて与熱系と受熱系の最適な組合せを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーシステムのエネルギー効率を解析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはエネルギーと物質を生産したり消費したりする化学プラント等の工場設備や市街地等の地区内において、エネルギーと物質の回収・再利用を最適化する技術が開示されている。この技術によるとエネルギー系および物質系のそれぞれの対象系が複合的に最適化される。また非特許文献1には、熱回収システムにおいて熱量と温度に着目して省エネルギーの改善ポテンシャルを解析する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4168195号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】巽浩之および松田一夫、「ピンチテクノロジー(省エネルギー解析の手法と実際)」、財団法人・省エネルギーセンター
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、化学工場や石油プラント等のエネルギーシステムにおいて排熱を有効に利用して、エネルギー効率を高めようとする試みがある。エネルギーシステムの個々の要素技術においてエネルギー効率を高めることはすでに実行されているため、個々の要素技術に着目してもエネルギー効率を高める余地は少ない。
【0006】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、エネルギーシステムにヒートポンプを導入した場合のエネルギー効率を解析する解析装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は、用役によって与熱をされる与熱系、および用役によって受熱をされる受熱系を有するエネルギーシステムのエネルギー効率を解析する解析装置であって、少なくとも一つ以上の与熱系の用役に供給される与熱熱量およびその与熱温度の情報と、少なくとも一つ以上の受熱系の用役に供給される受熱熱量および受熱温度の情報と、を取得する情報取得部と、情報取得部が取得した情報を保持する保持部と、保持部に保持される与熱系および受熱系の情報にもとづいて、ヒートポンプにより受熱系が取得した水または蒸気を昇温して与熱系に供給する与熱系と受熱系との用役の組合せを抽出する組合せ抽出部と、それぞれの組合せについてヒートポンプを導入した場合におけるエネルギーシステムのエネルギー効率を算出するエネルギー効率算出部と、エネルギー効率算出部により算出した組合せについてのエネルギー効率にもとづいて与熱系と受熱系の最適な組合せを算出する最適組合せ算出部と、を備える。
【0008】
この態様によると、エネルギーシステムにヒートポンプを導入した場合のエネルギー効率の改善を解析することができる。また大規模なエネルギーシステムにおいてもヒートポンプをどこに導入すればエネルギー的に効果的か算出することができ、ヒートポンプの導入による新たな省エネルギーの余地を見出すことができる。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を装置、方法、システム、コンピュータプログラム、コンピュータプログラムを格納した記録媒体などの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る解析装置によれば、エネルギーシステムにヒートポンプを導入した場合のエネルギー効率を解析できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る解析装置がエネルギー効率を解析するエネルギーシステムを示す概略図である。
【図2】実施形態に係る解析装置がエネルギー効率を解析するエネルギーシステムのSSSP解析図である。
【図3】実施形態に係る解析装置の機能および構成を示すブロック図である。
【図4】実施形態に係る解析装置における一連の処理を示すフローチャートである。
【図5】エネルギー効率の算出処理のフローチャートである。
【図6】与熱系と受熱系との熱量の過不足を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において本発明に係る各実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0013】
図1は、実施形態に係る解析装置がエネルギー効率を解析するエネルギーシステム10を示す概略図である。エネルギーシステム10とは、与熱システムおよび受熱システムを有する工場や所定の地域であって、工場の集合体であってもよい。ここで与熱系とは、エネルギーシステム10において用役によって加熱される、すなわち熱を与えられる熱交換器をいう。受熱系とは、エネルギーシステム10において用役によって冷却される、すなわち熱を受ける熱交換器および蒸気回収装置をいう。つまり与熱系は加熱を要求するシステムであり、受熱系は冷却を要求する、または蒸気回収のためのシステムである。用役とは、与熱系または受熱系に供給する蒸気や温水等の熱をいう。
【0014】
このエネルギーシステム10には温度が高い順に高圧蒸気経路18、中圧蒸気経路19、低圧蒸気経路21、および冷却水経路22が設けられ、それぞれに所定の温度の蒸気または水が流通している。
【0015】
ボイラー12は高圧蒸気経路18に所定の温度および熱量の蒸気を供給する。タービン14および第1プロセス15aは高圧蒸気経路18から蒸気を受け取り、蒸気を使用して中圧蒸気経路19に排出する。タービン14には、発電機16および復水器17が接続される。自家発電をする発電機16は発電した電力を電力会社26に売るか、またはエネルギーシステム10内で発電した電力を用いる。また高圧蒸気経路18から中圧蒸気経路19に蒸気が送られる。
【0016】
第2プロセス15bは中圧蒸気経路19から蒸気を受け取り、蒸気を使用して低圧蒸気経路21に排出する。また、第3プロセス15cは中圧蒸気経路19から蒸気を受け取り使用する。第4プロセス15dは低圧蒸気経路21から蒸気を受け取り使用する。冷却塔から送られた冷却水経路22には冷却水が循環する。冷却水はたとえば60℃の温水である。
【0017】
このエネルギーシステム10にはヒートポンプ20が一つ導入された例を示しており、ヒートポンプ20は冷却水経路22の冷却水を昇温して中圧蒸気経路19内の温度に合わせた蒸気を供給する。ヒートポンプ20は、電力会社26から買った電力もしくは工場で自家発電した電力を使用する。これにより第3プロセス15cにヒートポンプ20から蒸気が供給される。
【0018】
このエネルギーシステム10からヒートポンプ20を除いたエネルギーシステムと比較すると、ヒートポンプ20を用いることで電力使用量は増加する。一方、第3プロセス15cはヒートポンプ20から蒸気が供給されるため、高圧蒸気経路18から中圧蒸気経路19に送るべき蒸気の量は少なくてすむ。そのため、ボイラー12から供給する蒸気を減少させ、ボイラー12の燃料の使用量を減少させることができる。一方、ボイラー12の燃料使用量が減少すると、高圧蒸気経路18の蒸気が減少し、発電機16の発電量が減少する。またタービン14から中圧蒸気経路19に抽気される蒸気も減少する。
【0019】
つまり、エネルギーシステム10にヒートポンプ20を導入したことで、ボイラー12の燃料使用量は減少したものの、ヒートポンプ20の電力使用量は増加し、発電機16の自家発電量も減少する。したがって、ヒートポンプ20を導入することによる効果は、これらの外部から入出したエネルギーを総合して算出される。図1に示すエネルギーシステム10は概略を示すもので、実際の工場では第3プロセス15cや第4プロセス15dは数十〜数百基設けられる場合があり、そのようなエネルギーシステム10でヒートポンプ20をどこに導入すればエネルギーシステム10全体のエネルギー上の効果が改善するか解析することは非常に難しい。実施形態の解析装置によれば、どこにヒートポンプ20を導入すればエネルギー効率を最大化できるか解析することができる。
【0020】
図2は、実施形態に係る解析装置がエネルギー効率を解析するエネルギーシステムのSSSP解析図である。SSSP(Site Source and Sink Profile)解析とは非特許文献1に記載の解析法であり、エネルギーシステム全体から用役によってプロセスの与熱および受熱を行っている熱交換器のデータを収集し、与熱操作および受熱操作ごとに用役およびプロセスの熱複合線をプロットしたものである。図2の縦軸は温度℃を示し、横軸は熱量毎時MW(メガワット)を示す。中心線Cから図面左側にはプロセス30の用役31による受熱のプロットを示し、図面右側にはプロセス32の用役33による与熱のプロットを示す。
【0021】
図2には、所定のエネルギーシステムにおいてどのような与熱および受熱の要求があるか記載される。与熱側の用役33はプロセス32を加熱するために消費され、受熱側の用役31はプロセス30が持つ熱を蒸気や冷却水に捨てていることを示す。この図を用いてたとえば受熱側で回収した用役31を与熱側の用役33として利用できるか検討できる。ヒートポンプ20を用いない場合であれば、受熱側の用役31の温度Tcが与熱側の用役33の温度Th以上であれば組み合わせて、受熱側の熱を与熱側に利用することが可能である。
【0022】
しかしながらヒートポンプ20を用いた場合、受熱側の用役31の温度Tcが与熱側の用役33の温度Thより低ければヒートポンプ20を導入することが可能である。たとえばTc3はTh1、Th2、Th3およびTh4と、Tc2はTh2、Th3およびTh4と組合せは複数有り、組合せの自由度は大きく、組合せの選択肢は非常に多い。実施形態の解析装置を用いることでヒートポンプ20をいずれに導入すればエネルギーシステムのエネルギー効率を改善できるか解析できる。なおエネルギー効率は、外部から加えたエネルギーに対して有効利用できるエネルギーの比である。
【0023】
図3は、実施形態に係る解析装置100の機能および構成を示すブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0024】
解析装置100は、情報取得部102、リスト保持部104、組合せ抽出部106、組合せ保持部108、エネルギー効率算出部110、最適組合せ算出部112、図示部116および表示部118を備える。
【0025】
解析装置100は、入力装置200およびモニタ300に接続される。情報取得部102は入力装置200から受け取った情報を取得し、その情報をリスト保持部104に送出する。リスト保持部104は、情報取得部102から受け取った情報を保持する。たとえば、入力装置200に入力される情報は、少なくとも与熱系の用役の与熱熱量および与熱温度、受熱系の用役の受熱熱量および受熱温度である。このように熱交換器の熱量および温度に着目することで、エネルギーシステム10の場所の制限を受けずに解析できる。そのため、最初に対象工場群全体のエネルギーシステムの効率を最大化する組合せを求めて、ヒートポンプ20の導入効果が高い工場の組合せを絞り、次に、実際の工場間の配置に合わせて、対象工場を絞り、再度解析を行い、ヒートポンプ20の導入位置を絞っていく検討が可能である。例えば、仮に第1工場、第2工場、第3工場の三つの工場の熱交換器の情報を取得すれば、まず第1工場、第2工場、第3工場の3つの工場にヒートポンプ20を導入した場合を解析し、次にエネルギー効率を最大化する組合せのあった第1工場と第3工場のみを解析したり、隣接する第1工場と第2工場のみに絞って解析したりすることができる。
【0026】
リスト保持部104は、与熱系の用役の熱量および温度の情報をリストにして保持し、受熱系の用役の熱量および温度の情報をリストにして保持する。
【0027】
組合せ抽出部106は、リスト保持部104が保持する与熱系および受熱系の情報にもとづいて、ヒートポンプ20により受熱系の蒸気または水を昇温して与熱系に供給できる与熱系の用役と受熱系の用役との組合せを抽出する。具体的に組合せ抽出部106は、受熱系の用役の温度が与熱系の用役の温度より低い与熱系と受熱系の用役の組合せを全て抽出する。組合せ保持部108は組合せ抽出部106が抽出した組合せを保持する。
【0028】
エネルギー効率算出部110は、組合せ抽出部106が保持するそれぞれの組合せについて、ヒートポンプ20により受熱系が取得した水および蒸気を昇温して与熱系に供給した場合におけるエネルギーシステム10のエネルギー効率を算出する。エネルギー効率算出部110は、与熱熱量を削減した場合における省エネルギー効果と、受熱系の排熱をヒートポンプ20により与熱系の温度まで昇温した場合の成績係数と、を算出し、与熱系の省エネルギー効果および与熱系の成績係数にもとづいてエネルギーシステム10のエネルギー効率を算出する。これにより組合せ抽出部106により抽出した与熱系と受熱系の用役の組合せに、ヒートポンプ20を導入した場合のエネルギーシステム10のエネルギー効率が算出できる。
【0029】
エネルギー効率算出部110は、エネルギーシステム10が与熱系において加熱された蒸気を用いて自家発電をする場合に、ヒートポンプ20の導入による自家発電の発電量の減少をエネルギーシステム10のエネルギー効率に算入する。これによりエネルギーシステム10にヒートポンプ20を導入した場合の解析において精度良くエネルギー効率の変化を算出することができる。
【0030】
最適組合せ算出部112は、エネルギー効率算出部110により算出した各組合せについてのエネルギー効率にもとづいて与熱系と受熱系の用役の最適な組合せを算出する。最適な組合せとは、エネルギー効率を最もよくするための組合せである。
【0031】
最適組合せ算出部112は最適な複数の組合せを算出してよい。たとえば、最適組合せ算出部112は、最もエネルギー効率のよい用役の第1の組合せを選択し、その受熱系の受熱熱量をヒートポンプ20により全て昇温して与熱系の用役に供給する場合を演算する。すると、ヒートポンプ20が昇温した熱量が、第1の組合せの与熱系の用役に供給したあとに余ることがある。最適組合せ算出部112はその余った熱量を2番目以降にエネルギー効率のよい組合せの与熱系に供給することを検討する。最適組合せ算出部112は、2番目以降にエネルギー効率のよい第2の組合せの与熱系の用役の与熱温度がヒートポンプ20により昇温した温度より低ければ、余った熱量を供給するとして、第1の組合せおよび第2の組合せを最もエネルギー効率のよい用役の組合せとして導出する。また第2の組合せに供給した熱量が余れば、最適組合せ算出部112はさらに第3の組合せの与熱系の用役に供給する処理を実行してよい。そして最適組合せ算出部112は、第1、第2および第3の組合せを最適解として算出する。このように、逐次的に処理してもよく、EXCEL(商標もしくは登録商標)のソルバー機能等により一括して最適化処理を実行してもよい。
【0032】
図示部116は、与熱系と受熱系との熱量の過不足を視覚的に示すためのデータを作成する。表示部118は、最適組合せ算出部112および図示部116から受け取った情報をモニタ300に送出し、モニタ300に表示させる。
【0033】
図4は、実施形態に係る解析装置100における一連の処理を示すフローチャートである。まず情報取得部102は、入力装置200から入力された与熱系の用役の与熱熱量および与熱温度の情報と、受熱系の用役の受熱熱量および受熱温度の情報を受け取り(S10)、その情報をリスト保持部104に送る。なお、情報取得部102は、入力装置200から他の情報も取得する。たとえば情報取得部102は、図1に示すエネルギーシステム10において、各ボイラー12の燃料のエクセルギー効率および発電機16の発電効率の情報を取得する。
【0034】
リスト保持部104は、与熱系の用役の与熱熱量および与熱温度の情報と、受熱系の用役の受熱熱量および受熱温度をリストにして保持する(S12)。組合せ抽出部106は、リスト保持部104から与熱系および受熱系の情報のリストを受け取り、そのリストにもとづいて受熱系の用役の受熱温度が与熱系の用役の与熱温度より低い与熱系と受熱系の用役の組合せを全て抽出する(S14)。エネルギーシステム10においてヒートポンプ20は受熱系が取得した水または蒸気を昇温して与熱系に供給するので、組合せ抽出部106によりヒートポンプ20を導入可能な箇所を抽出することができる。このように、SSSP解析を用いて、与熱および受熱の熱交換器の熱量と温度に着目することでヒートポンプを導入可能な箇所を容易に抽出することができる。いままで想定していなかった新たな温度の熱を回収できる可能性を見出すことができる。なお、ヒートポンプ20の圧縮には限界があるため、組合せ抽出部106は与熱温度と受熱温度の差が所定の閾値以上であれば、与熱温度が受熱温度より高くても抽出しなくてよい。
【0035】
組合せ保持部108は、組合せ抽出部106が抽出した各組合せを保持する。エネルギー効率算出部110は、組合せ保持部108が保持する各組合せのエネルギー効率を算出する処理を実行する(S16)。エネルギー効率の算出処理では各ボイラー12の加熱効率、各ボイラー12の燃料のエクセルギー効率、発電機16の発電効率および電力会社の発電効率が用いられて算出される。なお、エネルギー効率算出部110が算出するエネルギー効率は、エネルギーの代わりに燃料のエクセルギーをも考慮に入れた、より厳密なエクセルギーで評価することもできる。エクセルギーとはエネルギーのうち有効に利用できるエネルギーをいう。つまり解析装置100は、エネルギーシステムのエネルギー効率およびエクセルギー効率のいずれでも解析できる。
【0036】
最適組合せ算出部112は、エネルギー効率算出部110により算出された各組合せのエネルギー効率にもとづいて、ヒートポンプ20を導入した場合に最適なエネルギー効率の組合せを算出する(S18)。以上により、エネルギーシステム10のどの箇所にヒートポンプ20を導入したら最もエネルギー効率を改善できるか解析することができる。
【0037】
なおヒートポンプ20の導入によりヒートポンプ20からの蒸気量が増すため、導入前のエネルギーシステム10においてボイラー12で供給していた蒸気量は減少する。これにより、抽気復水発電による抽気量が減少し、その自家発電量が減少する。これはエネルギーシステム10の電力需要が電力会社が供給する系統電力に依存する型になることを意味する。自家発電より電力会社の発電の方が発電効率がはるかに高いため、省エクセルギーおよび二酸化炭素の削減の大幅な効果を有する。さらにヒートポンプ20はエネルギーシステム10内の未利用熱を、わずかの電力で用いることができるためエネルギーシステム10のエネルギー効率を大きく改善することが可能である。
【0038】
このヒートポンプ20を大規模なエネルギーシステム10において、どこに導入すれば効果的か判断するのは非常に困難である。またエネルギーシステム10の個別の要素技術に着目しても省エネルギーの余地を見出すことは難しいが、実施形態の解析装置100によりヒートポンプ20の導入による省エネルギーの余地を見出すことができる。
【0039】
図5は、エネルギー効率の算出処理のフローチャートである。エネルギー効率算出部110は、リスト保持部104から与熱系および受熱系の情報を取得する(S20)。
【0040】
エネルギー効率算出部110は、与熱系において、用役の与熱熱量を所定量だけ削減した場合の省エネルギー効果に関する指標値を算出する(S22)。以下では、この省エネルギー効果に関する指標値は、1MWの与熱熱量の削減に対して、何MWのエクセルギーが削減できるかを示す。エネルギー効率算出部110は、エネルギー効率算出部110はボイラー12の加熱効率、ボイラー12の燃料のエクセルギー効率、発電機16の発電効率を用いて算出する。たとえばエネルギー効率算出部110は、1MWだけ用役の与熱熱量を削減した場合において、ボイラー12の燃料の減少量、自家発電減少量を算出して、省エネルギー効果に関する指標値を算出する。
【0041】
次に、エネルギー効率算出部110は受熱系において取得した水または蒸気を与熱温度までヒートポンプ20で昇温した場合の成績係数を算出する(S24)。成績係数は、エネルギーの消費効率を示唆するものである。具体的にエネルギー効率算出部110は、まず理想成績係数ICOPを算出する。与熱温度Th[K(ケルビン)]と受熱温度Tc[K(ケルビン)]を用いて理想成績係数ICOPを式1により算出する。
ICOP=Th/(Th−Tc) ・・・ 式1
この式から、与熱温度と受熱温度の差が小さければ理想係数が高くエネルギーの消費効率がよいことがわかる。
【0042】
エネルギー効率算出部110は、理想成績係数ICOPからヒートポンプの理論効率から実質効率への変換係数EIRを用いて実質成績係数RCOPを式2により算出する。
RCOP=ICOP×EIR ・・・ 式2
【0043】
次に、エネルギー効率算出部110は、実質成績係数RCOPにもとづいてヒートポンプの電力消費係数CEEを式3により算出する(S26)。
CEE=1/(RCOP−1) ・・・ 式3
これにより、受熱側の単位熱量当りの蒸気を与熱温度まで昇温するために必要な電力を算出できる。
【0044】
次に、エネルギー効率算出部110は、ヒートポンプの電力消費係数CEEおよび発電機16の発電効率CGEにもとづいて単位熱量当りの自家発電量PEGを式4により算出する(S28)。
PEG=(1+CEE)/(1−CGE)×CGE ・・・ 式4
これにより、ヒートポンプ20から供給される熱量に対して単位熱量当りの自家発電量を算出できる。
【0045】
次に、エネルギー効率算出部110は、ヒートポンプの電力消費係数CEE、発電機16の発電効率CGE、およびボイラー12の燃料のエクセルギー効率FEにもとづいてボイラー12の燃料の省エクセルギー量FCEを式5により算出する(S30)。
FCE={(1+CEE)/(1−CGE)/CGE}×FE ・・・ 式5
これにより、ヒートポンプ20から供給される熱量に対して単位熱量当りのボイラー12の燃料の省エクセルギー量を算出できる。
【0046】
最後に、エネルギー効率算出部110は、ヒートポンプ20の電力消費係数CEE、エネルギーシステム10の自家発電量PEG、ボイラー12の燃料の省エクセルギー量FCEにもとづいて組合せのエクセルギー効率を式6により算出する(S32)。
エクセルギー効率=FCE−(PEG+CEE)/EP/FEP ・・・式6
なおEPは電力会社の発電効率を、FEPは電力会社の使用燃料のエクセルギー効率を示す。
【0047】
以上により、所定の組合せのエネルギー効率を算出できる。エネルギー効率算出部110は、エネルギー効率の算出処理を組合せ抽出部106により抽出された全ての組合せに対して実行する。
【0048】
ところでエネルギーシステム10において温度が比較的低い使用先のない回収熱が余ることがあり、多くはそのまま捨てられる。しかしながら近年開発が進んでいる低位熱用のランキンサイクル発電やカリーナ発電などの低位熱発電に用いることは可能である。そこでエネルギー効率算出部110は、最適な組合せのヒートポンプ20をエネルギーシステム10に導入して発生した余剰熱を低位熱発電に利用した場合のエネルギーシステム10のエネルギー効率を算出してよい。この場合エネルギー効率の算出処理に、低位熱発電による発電量の増加に応じた自家発電量または系統電力からの購入電力量の削減をエクセルギー効率の算出に組み入れる。これにより、省エネルギーの余地をより多く見出すことができる。
【0049】
図6は、与熱系と受熱系との熱量の過不足を示す図である。縦軸はカルノーファクターを示し、横軸はエンタルピーMWを示す。図6は、ヒートポンプ20の導入効果の高い箇所を視覚的に示すEUGCC(Exergy Utility Grand Composite Curve)である。
【0050】
図6には、同じカルノーファクター区分の与熱側の用役の熱量を統合した与熱複合線64と、同じカルノーファクター区分の受熱側の用役の熱量を統合した受熱複合線66とが記載される。与熱複合線64と受熱複合線66が接する箇所、すなわち両方の熱量の差がゼロとなる箇所をピンチポイント68とする。ピンチポイント68の上側は熱が不足している領域を示し、ピンチポイント68の下側は熱が余っている領域を示す。カルノーファクターはカルノー効率に関する指標値である。
【0051】
つまり、図6を見ると、受熱複合線66の熱を与熱複合線64まで移動させて、エネルギー効率を改善する余地があると推定できる。与熱複合線64の下端を基準62とし、受熱複合線66から基準62に熱を移動するヒートポンプの場合、基準62と受熱複合線66との間が離れすぎるとヒートポンプ20のエネルギー効率が低くなり、ヒートポンプ20の導入の効果は低くなる。縦軸をカルノーファクターとした図では、与熱複合線64と受熱複合線66の間の領域がヒートポンプの理論所要動力とほぼ等しくなる。図中の領域60、領域61および領域63のうち領域63がヒートポンプ20の導入効果が高い箇所であると視覚的に推定できる。
【0052】
図示部116は与熱系と受熱系との熱量の過不足を視覚的に示すデータを作成する。具体的に図示部116は、保持部が保持する与熱系の与熱温度および受熱系の受熱温度の情報にもとづいてカルノー効率を算出し、そのカルノー効率での与熱系と受熱系との熱量の差を示すデータを作成する。最適な組合せを算出する処理を実行する前に、図示部116により熱量の過不足を視覚的に表すことで、ヒートポンプ20の導入効果が高いであろう箇所に解析対象を絞ることができ、ヒートポンプ20の導入検討を効率的に行うことができる。また、最適組合せ算出部112により算出された結果の妥当性も確認できる。
【0053】
図6では縦軸をカルノーファクターで示したが、縦軸を温度で区分して作成してもよい。縦軸の指標を温度とすると、縦軸が与熱系および受熱系の各用役の温度と対応しているため、図面の解釈が容易となる。一方、カルノー効率を指標値に取るとヒートポンプ20に必要な理論所要動力が図上の面積として近似できるので、ヒートポンプ20に必要な動力の視覚的な理解が容易にできる。
【0054】
以上、実施の形態にもとづき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎないことはいうまでもなく、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0055】
10 エネルギーシステム、 12 ボイラー、 14 タービン、 15 プロセス、 16 発電機、 17 復水器、 18 高圧蒸気経路、 19 中圧蒸気経路、 20 ヒートポンプ、 21 低圧蒸気経路、 22 冷却水経路、 100 解析装置、 102 情報取得部、 104 リスト保持部、 106 組合せ抽出部、 108 組合せ保持部、 110 エネルギー効率算出部、 112 最適組合せ算出部、 116 図示部、 118 表示部、 200 入力装置、 300 モニタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
用役によって与熱をされる与熱系、および用役によって受熱をされる受熱系を有するエネルギーシステムのエネルギー効率を解析する解析装置であって、
少なくとも一つ以上の前記与熱系の用役の与熱熱量およびその与熱温度の情報と、少なくとも一つ以上の前記受熱系の用役の受熱熱量および受熱温度の情報と、を取得する情報取得部と、
前記情報取得部が取得した情報を保持する保持部と、
前記保持部に保持される前記与熱系および前記受熱系の情報にもとづいて、ヒートポンプにより前記受熱系が取得した水または蒸気を昇温して前記与熱系に供給する前記与熱系と前記受熱系との用役の組合せを抽出する組合せ抽出部と、
それぞれの前記組合せについてヒートポンプを導入した場合における前記エネルギーシステムのエネルギー効率を算出するエネルギー効率算出部と、
前記エネルギー効率算出部により算出した前記組合せについてのエネルギー効率にもとづいて前記与熱系と前記受熱系の最適な組合せを算出する最適組合せ算出部と、を備えることを特徴とする解析装置。
【請求項2】
前記エネルギー効率算出部は、与熱熱量を削減した場合における省エネルギー効果に関する指標値と、前記受熱系が取得した水または蒸気をヒートポンプにより前記与熱系の与熱温度まで昇温した場合の成績係数と、を算出し、前記省エネルギー効果に関する指標値および前記成績係数にもとづいて前記エネルギーシステムのエネルギー効率を算出することを特徴とする請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記エネルギー効率算出部は、前記エネルギーシステムが前記与熱系において加熱された蒸気を用いて自家発電をする場合、ヒートポンプの導入による自家発電の発電量の減少を前記エネルギーシステムのエネルギー効率に算入することを特徴とする請求項1または2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記エネルギー効率算出部は、前記最適な組合せのヒートポンプを前記エネルギーシステムに導入して生じた余剰熱を低位熱発電に利用した場合の前記エネルギーシステムのエネルギー効率を算出することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の解析装置。
【請求項5】
前記与熱系と前記受熱系との熱量の過不足を視覚的に示すためのデータを作成する図示部を備え、
前記図示部は、前記保持部が保持する前記与熱系の与熱温度および前記受熱系の受熱温度の情報にもとづいてカルノー効率に関する指標値を算出し、そのカルノー効率に関する指標値での前記与熱系と前記受熱系との熱量の差を示すデータを作成することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−29233(P2013−29233A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164398(P2011−164398)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【出願人】(503142980)有限会社シミュレーション・テクノロジー (2)