説明

用時分散型製剤

本発明は、少量の水に溶いた場合でも適度な粘性と流動性とを兼ね備え、経口投与が可能な用時分散型製剤であり、NGチューブによる投与も容易な用時分散型製剤を提供する。詳しくは、医薬成分を含む平均粒子径5mm以下の主薬顆粒及び増粘剤を含有する用時分散型製剤であって、服用時に水を加えて分散させ、NGチューブを通して投与することが可能な用時分散型製剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は少量の水に溶いた場合でも適度な粘性と流動性とを兼ね備え、NGチューブによる投与も容易な用時分散型製剤に関する。
従来技術
腸溶性、苦味マスク、安定性確保等の機能を付与する必要のある薬剤を製剤化する際には、通常は、コーティング処理した錠剤、コーティング処理した顆粒剤(コーティング顆粒剤)、コーティング顆粒を詰めたカプセル剤が広く用いられている。
小児用の製剤としては、液剤、水溶性の顆粒剤、散剤等が広く用いられているが、これらの製剤では(1)上述の通り、腸溶性、苦味マスク、安定性確保等の機能を付与することが困難なこと、及び(2)小児の場合には錠剤やカプセル剤では服用し難いことから、コーティング顆粒剤が広く用いられている。このコーティング顆粒剤は、水と共に服用するもので、ある程度成長した小児(例えば2歳以上)であれば、成人の場合と同様に予めコーティング顆粒剤を口の中に含ませてその後に水を飲ませたり、あるいは、コーティング顆粒剤を水に分散させた後にそのまま飲んだりすることによって問題なく服用させることができる。
【発明の開示】
しかし、乳幼児の場合には、予めコーティング顆粒剤を口の中に含ませてその後に水を飲ませるのは困難である。また、コーティング顆粒剤を水を用いて用時溶解又は分散して服用する場合には、以下のような問題が発生する。
(1)コーティング顆粒は水の底に顆粒が沈んでしまうため、投与しづらい。
(2)コーティング顆粒を服用させる際に加える水の量が少ない場合には流動性が悪いため服用させにくい。
(3)コーティング顆粒を服用させる際に加える水の量が多い場合には、流動性の問題は解決されるが、乳幼児は胃内の容量が小さく、加えることのできる水の量は限られてしまう。
(4)また、生後約1ヶ月以内の乳幼児に対して、鼻に通したNGチューブ(Nasogastric Tube:経鼻胃管チューブ)を用いて投与することもあるが、コーティング顆粒を含んだそのまま水に溶いた状態ではサラサラしすぎており、投与しにくい。
そこで、少量の水に溶いた場合でも適度な粘性と流動性とを兼ね備え、NGチューブによる投与も容易な用時分散型製剤が待ち望まれていた。
そこで、本発明の発明者らはかかる課題を解決するべく、鋭意検討し、本発明を完成させた。本発明の目的は、少量の水に溶いた場合でも適度な粘性と流動性とを兼ね備え、NGチューブによる投与も容易な用時分散型製剤を提供することにある。
本発明は、医薬成分を含む平均粒子径2mm以下の主薬顆粒、及び増粘剤を含有する用時分散型製剤であって、服用時に水を加えて分散させ、NGチューブを通して投与することが可能な用時分散型製剤である。
本発明は、医薬成分を含む平均粒子径2mm以下の主薬顆粒及び増粘剤を含有する用時分散型製剤を服用時に水を加えて分散し、NGチューブを通して投与する方法に関する。
発明の詳細な説明
本発明の用時分散型製剤とは、服用時に水を加えて分散させることにより水中に薬剤が分散した状態となる製剤をいう。本発明の用時分散型製剤は、医薬成分を含んだ主薬顆粒と増粘剤とを一定の比率にて混合して分包化したものであり、香料、甘味剤、プラセボ顆粒を加えてもよい。また、用時分散型製剤は、医薬成分を含んだ主薬顆粒と増粘剤を含む粉末・顆粒を別々に分包して、服用時に合一して服用してもよい。ここで、主薬顆粒とは、医薬成分を含んだ顆粒であり、プラセボ顆粒とは、主薬顆粒の増量剤であり、服用時の取り扱い性を向上させるために用いられる。
本発明に用いられる薬効成分は、固体状、粉末状、結晶状、油状、溶液状など何れの形態のものでもよく、例えば、胃腸薬、滋養強壮保健薬、解熱鎮痛消炎薬、向精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬、催眠鎮静薬、鎮痙薬、制酸剤、鎮咳去痰剤、歯科口腔用薬、抗ヒスタミン剤、強心剤、不整脈用剤、利尿剤、血圧降下剤、血管収縮剤、冠血管拡張剤、末梢血管拡張剤、利胆剤、抗生物質、化学療法剤、糖尿病用剤、骨粗しょう症用剤、骨格筋弛緩薬などから選ばれた1種または2種以上の成分が用いられる。胃腸薬には、例えば、プロトンポンプインヒビター、防御因子強化薬、H2ブロッカー、ジアスターゼ、含糖ペプシン、ロートエキス、リパーゼAP、ケイヒ油などの健胃消化剤、塩化ベルベリン、耐性乳酸菌、ビフィズス菌などの整腸剤などが含まれる。制酸剤としては、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウムなどが挙げられる。滋養強壮保健薬には、例えば、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE(酢酸d−α−トコフェロールなど)、ビタミンB1(ジベンゾイルチアミン、フルスルチアミン塩酸塩など)、ビタミンB2(酪酸リボフラビンなど)、ビタミンB6(塩酸ピリドキシンなど)、ビタミンC(アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウムなど)、ビタミンB12(酢酸ヒドロキソコバラミンなど)などのビタミン、カルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラル、タンパク、アミノ酸、オリゴ糖、生薬などが含まれる。解熱鎮痛消炎薬としては、例えば、アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、エテンザミド、塩酸ジフェンヒドラミン、dl−マレイン酸クロルフェニラミン、リン酸ジヒドロコデイン、ノスカピン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸フェニルプロパノールアミン、カフェイン、セラペプターゼ、塩化リゾチーム、トルフェナム酸、メフェナム酸、ジクロフェナクナトリウム、フルフェナム酸、サリチルアミド、アミノピリン、ケトプロフェン、インドメタシン、ブコローム、ペンタゾシンなどが挙げられる。向精神病薬としては、例えば、アモキサピン、クロルプロマジン、スルピリド、レセルピンなどが挙げられる。抗不安薬としては、例えば、エチゾラム、ブロマゼパム、クロルジアゼポキシド、ジアゼパムなどが例示される。抗うつ薬としては、例えば、塩酸イミプラミン、マプロチリン、塩酸クロミプラン、アンフェタミンなどが挙げられる。催眠鎮静薬としては、例えば、フルニトラゼパム、トリアゾラム、エスタゾラム、ニトラゼパム、ジアゼパム、フェノバルビタールナトリウムなどが挙げられる。鎮咳去痰剤としては、例えば、塩酸エプラジノン、塩酸クロペラスチン、臭化水素酸デキストロメトルファン、テオフィリン、グァヤコールスルホン酸カリウム、グアイフェネシンなどが挙げられる。歯科口腔用薬としては、例えば、クロラムフェニコール、オキシテトラサイクリン、トリアムシノロンアセトニド、塩酸クロルヘキシジン、リドカインなどが挙げられる。抗ヒスタミン剤としては、例えば、塩酸アゼラスチン、フマル酸クレマスチン、塩酸ジフェンヒドラミン、プロメタジン、塩酸イソチペンジル、dl−マレイン酸クロルフェニラミンなどが挙げられる。強心剤としては、例えば、ジギトキシン、塩酸エチレフリンなどが挙げられる。不整脈用剤としては、例えば、塩酸メキシレチン、塩酸プロカインアミド、ジソピラミド、塩酸プロプラノロール、ピンドロールなどが挙げられる。利尿剤としては、例えば、トリクロルメチアジド、イソソルビド、フロセミドなどが挙げられる。血圧降下剤としては、例えば、塩酸アロチノロール、塩酸デラプリル、カプトプリル、フマル酸ビソプロロール、臭化ヘキサメトニウム、塩酸ヒドララジン、塩酸ラベタロール、メチルドーパなどが挙げられる。血管収縮剤としては、例えば、メチル硫酸アメジニウム、塩酸フェニレフリンなどが挙げられる。冠血管拡張剤としては、例えば、塩酸カルボクロメン、モルシドミン、塩酸ベラパミルなどが挙げられる。末梢血管拡張剤としては、例えば、シンナリジンなどが例示される。利胆剤としては、例えば、ウルソデスオキシコール酸、デヒドロコール酸、トレピブトンなどが例示される。抗生物質には、例えば、セファクロル、セファレキシン、アモキシシリン、ファロペネムナトリウム、塩酸ピブメシリナム、塩酸セフォチアムなどのセフェム系、ペネム系およびカルバペネム系抗生物質などが含まれる。糖尿病用剤としては、例えば、グリベンクラミド、トルブタミド、ボグリボーズなどが挙げられる。骨粗しょう症用剤としては、例えば、メナテトレノン、イプリフラボンなどが挙げられる。
本発明において、医薬成分としては、プロトンポンプインヒビターが好ましい。
本発明において特に好ましい医薬成分としては、下記の式1にて表されるプロトンポンプインヒビターと呼ばれるベンズイミダゾール系化合物である。

であり、RおよびRは同じかまたは異なっていて、水素、メトキシ及びジフルオロメトキシから選択され、Rは水素およびナトリウムから選択され、R、RおよびRは同じかまたは異なっていて、水素、メチル、メトキシ、メトキシプロポキシおよびトリフルオロエトキシから選択される。
本発明におけるベンズイミダゾール系化合物の好ましい例としては、ラベプラゾール、オメプラゾール及びその光学異性体であるエスメプラゾール、パントプラゾール、ランソプラゾールであり、それら薬理学上許容される塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩等を挙げることができる。各化合物の構造式を式2に示す。

本発明において、主薬顆粒とは、医薬成分を含有する顆粒であって、機能性高分子を含有する顆粒である。例えば、医薬成分を含有する顆粒に機能性高分子の皮膜を施したコーティング顆粒、あるいは、機能性高分子と医薬成分とを混合状態で含有する顆粒(マトリックス顆粒)等が挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
機能性高分子とはpH、器官、服用後の経過時間などの所望の条件下で溶解または崩壊することによって顆粒中に含まれる医薬成分の放出を制御するための高分子をいい、特に限定されることはない。また、この機能性高分子により被覆された層のことを機能性皮膜という。機能性高分子の一例としては、胃溶性高分子、腸溶性高分子、徐放性高分子などが挙げられる。胃溶性高分子としては、例えばヒドロキシプルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタクリレートコポリマーが挙げられるが、本発明ではこれらに限定されることなく任意に選択して用いてもよい。腸溶性高分子としては、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、メタクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーLDなどが挙げられるが、本発明ではこれらに限定されることなく任意に選択して用いてもよい。徐放性高分子としては、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、メタアクリル酸コポリマーS、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーRS、エチルセルロースなどが挙げられるが、本発明ではこれらに限定されることなく任意に選択して用いてもよい。なお、機能性高分子は単独成分であっても、複合成分を混合して使用してもよい。
本発明における主薬顆粒がコーティング顆粒の場合には、通常の造粒物に機能性高分子をコーティングしたり、核物質(シード)に機能性高分子をコーティングしたりすることにより製造することができる。また、機能性高分子を含有する皮膜を複数コーティングしてもよく、この場合、ある機能性高分子を含有する皮膜上に異なる機能性高分子を含有する皮膜を直接コーティングしても、機能性高分子を含有する皮膜どうしの間に中間皮膜を有していてもよい。
造粒によって製造する際には、医薬成分に賦形剤、安定化剤等の添加剤を混合、造粒、整粒し、これに機能性皮膜をコーティングすることによって得ることができるが、医薬成分を含まない状態で造粒し、その後に医薬成分をコーティングすることによっても得ることができる。
核物質にコーティングして製造する際に用いられる核物質は、その表面に主薬成分、添加剤等を層状に吸着、塗布して顆粒状とするための芯となる物質で、その素材は特に限定されず、市販の球状顆粒を用いてもよいし、種々の添加剤を混合、造粒、整粒した球状顆粒を用いてもよい。シードの成分は、特に限定されないが、マンニトール、クロスポビドン等の主薬等とは反応性の低い物質を用いるのがよい。核物質の形状は通常は球状のものが用いられ、その平均粒子径は約80μm〜800μm程度のものであればよく、好ましくは100μm〜700μm、より好ましくは100μm〜500μm程度がよい。核物質としては、例えばノンパレル103(フロイント社製)ノンパレル108(フロイント社製)、セルフィア(旭化成社製)を用いるのがよい。
本発明における主薬顆粒がマトリックス顆粒である顆粒とは、機能性高分子と医薬成分とを混合状態で存在させた顆粒である。機能性高分子と医薬成分とを混合して、必要に応じて賦形剤、安定化剤等の添加剤を混合して、造粒、整粒しても良いし、圧力等を加えて成型した顆粒でもよい。造粒方法は、例えば、湿式造粒、乾式造粒、押し出し造粒、溶融造粒等が挙げられるが、特に限定されない。
主薬顆粒の粒子径としては、内径が5mmのNGチューブを通過する程度の直径を有していればよく、例えば50μm〜4900μm程度であればよく、好ましくは100μm〜800μm、より好ましくは200μm〜500μm、更に好ましくは200μm〜400μm程度がよい。
本発明において、主薬成分、機能性皮膜を層積する際には、水溶性高分子、水不溶性高分子、水分散性高分子を使用することができる。水溶性高分子化合物は、特に限定されないが、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、ポリビニルアルコール(PVA)等を用いるのがよいが、望ましくはHPCである。HPCは、例えばHPC−L(日本曹達社製)を用いるのがよい。また、本発明では、クロスポビドンを用いることもできる。使用されるクロスポビドンは、例えばCL、CLM(BASF社製)、INF−10、XL−10、XL(アイエスピー・ジャパン社製)があるが、粒径のより細かなポリプラスドンINF−10(アイエスピー・ジャパン社製)または、より過酸化物含有量の少ないクロスポビドンXLを用いるのがよく、酸化の影響を受けやすい主薬には、クロスポビドンXLが良い。
本発明において使用することができる水不溶性高分子としては、例えばエチルセルロース、ブチルセルロース、セルロースアセテート、ポリビニルアセテート、セルロースプロピオネート、ボリビニルブチレート、オイドラギッドRS(ローム・ファーマ社製:アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル重合体)等が挙げられるがこれらには限定されることなく任意に選択して使用することができる。
本発明における主薬顆粒がマトリックス顆粒である顆粒とは、機能性高分子と医薬成分とを混合状態で存在させた顆粒である。機能性高分子と医薬成分とを混合して、必要に応じて賦形剤、安定化剤等の添加剤を混合して、造粒、整粒しても良いし、圧力等を加えて成型した顆粒でもよい。造粒方法は、例えば、湿式造粒、乾式造粒、押し出し造粒、溶融造粒等が挙げられるが、特に限定されない。
本発明において、増粘剤としては、任意に選択して用いることができ、例えばメチルセルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル(Propylene Glycol Alginate:製品名キミロイド、株式会社 キミカ製)、キサンタンガム、精製ゼラチン、HPC、HPMC、PVA、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)、マクロゴール、ポビドンを用いることができるが、これらに限定されるわけではない。HPCはHPC−M,HPC−Lを用いるのがよい。メチルセルロースとしてはメトローズSM(信越化学製)を、CMC−Naとしてはセロゲン(第一工業製薬製)HPMCとしてはメトローズ65SH(信越化学製)をそれぞれ用いることができる。これらの増粘剤のうち、アルギン酸プロピレングリコールエステル、及びメチルセルロースを用いるのが好ましい。甘味剤としては、任意に選択して用いることができるが、例えば、アスパルテーム、ステビア、還元麦芽糖水アメ、キシリトール、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、サッカリン、サッカリンナトリウム、精製白糖、D−ソルビトール、乳糖、白糖又はマルチトールを用いることができる。
本発明においては、主薬顆粒の増量剤として、また服用時の取り扱い性を向上させるために、プラセボ顆粒を混合して用いることができる。プラセボ顆粒としては、特に限定されないが、主薬顆粒と同程度の大きさ・密度を有する顆粒を用いるのが望ましく、その処方は特に限定されず、また、プラセボ顆粒中に増粘剤を含有させてもよい。プラセボ顆粒は、例えば以下のようにして製造することができる。マンニット、クロスポビドン、クエン酸および軽質無水ケイ酸を混合・解砕した後、精製水で造粒、乾燥した後、整粒する。
本発明においては、任意の香料を選択して用いることができるが、例えば、ストロベリーフレーバー、オレンジエキス、バニラフレーバー、ミントフレーバー等を用いることができる。
本発明の用時分散型製剤は、1)主薬顆粒と増粘剤とを混合して、2)主薬顆粒、プラセボ顆粒及び増粘剤とを混合して調整することができる。顆粒と増粘剤の配分比は、顆粒1重量部に対して増粘剤を0.5〜50重量部とするのがよく、好ましくは1〜10重量部程度がよい。プラセボ顆粒を混合する際の主薬顆粒とプラセボ顆粒との配合比は、主薬顆粒1重量部に対してプラセボ顆粒を1〜400重量部とするのがよく、好ましくは3〜300重量部とするのがよい。一包中の用時分散型製剤の量は、通常0.1〜20gであり、好ましくは、0.3〜10gである。分散のために用いる水の量は、通常は1〜100ml、好ましくは2〜50ml程度がよい。水に分散させた際の動粘度は、通常は10〜1500mPa・s、好ましくは15〜1000mPa・s程度、さらに好ましくは50〜600mPa・sがよい。
本発明において使用することができる水不溶性高分子としては、例えばエチルセルロース、ブチルセルロース、セルロースアセテート、ポリビニルアセテート、セルロースプロピオネート、ボリビニルブチレート、オイドラギッドRS(ローム・ファーマ社製:アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル・メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル重合体)等が挙げられるがこれらには限定されることなく任意に選択して使用することができる。
本発明で用いる主薬顆粒は、医薬成分としてプロトンポンプインヒビターを用いる際には、例えば以下のようにして製造することができるが、これに限定されるものではない。
(1)核物質にクロスポビドンをコーティングして吸着顆粒とする、(2)続いて水酸化ナトリウム及びベンズイミダゾール化合物をコーティングして主薬吸着顆粒とする、(3)続いてエチルセルロース、HPC−L、ステアリン酸マグネシウムをコーティングしアンダーコート顆粒とする、(4)続いてヒドロキシプロピルメチルセルロース、モノグリセライド、タルク、酸化チタンをコーティングし腸溶性顆粒として主薬顆粒を得る。
前記(1)の吸着顆粒を製造する際には、例えば、エタノールまたは水にHPC、HPMCなどの水溶性高分子を溶解させ、クロスポビドンを分散させて分散液とした後、核物質にコーティングする。コーティングする手段としては、例えばCF、流動層造粒コーティング機、ワースター型流動層造粒コーティング機を用いるのがよい。クロスポビドン層を形成させた後の吸着顆粒の粒径としては、通常は50〜900μm、好ましくは100〜800μm程度がよい。クロスポビドンの量は、特に限定されないが、通常はベンズイミダゾール系化合物1重量部に対して0.1〜100重量部であり、好ましくは1〜50重量部、更に好ましくは、3〜20重量部とするのがよい。なお、前述の通りクロスポビドン顆粒を核物質とすることもできるが、その場合には、本工程は省略することができる。
前記(2)における吸着顆粒から主薬吸着顆粒を製造する際には、水酸化ナトリウムを先にコーティングした後に主薬成分をコーティングしてもよいし、水酸化ナトリウムと主薬成分とを同時にコーティングしてもよい。例えば、エタノールまたは水に水酸化ナトリウムを溶解させた溶液を前記吸着顆粒にコーティングし、その後エタノールまたは水に主薬成分(ベンズイミダゾール系化合物)を溶解させたコーティング液をコーティングする。コーティングする手段としては前述の吸着顆粒製造の際と同様にして行う。水酸化ナトリウムの量はベンズイミダゾール系化合物の量に従って調節することができるが、通常は、ベンズイミダゾール系化合物1重量部に対して0.1〜5重量部、好ましくは、0.2〜4、更に好ましくは、0.2〜3重量部とするのがよい。
前記(3)のアンダーコートは、酸に対して不安定な主薬成分がエンテリックコートの際に使用する酸性物質である腸溶性基剤と直接接触するのを防止するためのコーティングである。アンダーコート皮膜は、水溶性皮膜、水不溶性皮膜または水分散性皮膜のいずれでもよい。アンダーコート顆粒を製造する際には、例えば、エタノールまたは水にエチルセルロース、HPC−Lを溶解し、ステアリン酸マグネシウムを加え分散させたコーティング液を前記主薬吸着顆粒にコーティングする。
前記(4)のエンテリックコートは、胃内のpHでは溶けずに腸内のpHで溶ける腸溶性皮膜である。腸溶性皮膜の主成分である腸溶性基剤としては特に限定されないが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HP−55S)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、メタクリル酸コポリマーtypeA(オイドラギットL)又はメタクリル酸コポリマーtypeC(L−55)等が挙げられる。エンテリックコート顆粒を製造する際には、例えば、エタノールまたは水にHP−55S、モノグリセライドを溶解、タルク、酸化チタンを分散させたコーティング液を前記主薬吸着顆粒にコーティングする。
本発明の主薬顆粒およびプラセボ顆粒は、前述の成分の他に通常の製剤化工程において使用される賦形剤、結合剤、コーティング剤、着色剤、香料等を含んでいてもよい。
実施例1−6で得られた主薬顆粒の特徴は、(1)クロスポビドンを含んだ層、及びそのクロスポビドンを含んだ層に隣接して(2)水酸化ナトリウム及びベンズイミダゾール系化合物またはその薬理学上許容される塩を含んだ層を有する医薬組成物であるが、予想外にも、クロスポビドン層及び水酸化ナトリウムとベンズイミダゾール系化合物とを含んだ層とを分けてコーティングするとクロスポビドンの層に水酸化ナトリウムが吸着され、ベンズイミダゾール系化合物のコーティング効率が良くなることを見出した。
本発明にかかる用時分散型製剤は、服用時に水に分散させることによって流動性に富んだ状態になるため、乳幼児、小児であっても容易に服用することができる。また、本発明によると、主薬顆粒に含有される医薬成分の種類に関わらず、適度な粘性と流動性を有する用時分散型製剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1の主薬顆粒の溶出プロファイルを示すグラフである。
図2は、実施例2及び実施例3の主薬顆粒の溶出プロファイルを示すグラフである。
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明がこれらに限定されるわけではない。
[実施例1]
コーティング機には、ワースター型流動層造粒乾燥機(MP−01パウレック社製)を使用した。
(吸着顆粒)
核物質に、エタノールに溶解したHPC−Lと分散したクロスポビドンを吸気温度55℃でコーティングした。その後、棚式乾燥機にて50℃で乾燥した。
(主薬吸着顆粒)
エタノールに溶解した水酸化ナトリウムをコーティング後、エタノールに溶解したベンズイミダゾール化合物とHPC−Lを上記の吸着顆粒に吸気温度55℃でコーティングした。その後、棚式乾燥機にて50℃で乾燥した。
(アンダーコート顆粒)
エタノールにエチルセルロース、HPC−Lを溶解し、ステアリン酸マグネシウムを加え分散させた溶液を吸気温度55℃で上記の主薬吸着顆粒にコーティングした。その後、棚式乾燥機にて45℃で乾燥しアンダーコート顆粒とした。
(エンテリックコート顆粒)
エタノールにHP−55Sとマイバセットを溶解し、タルク、酸化チタンを分散させた溶液を、上記のアンダーコート顆粒に吸気温度55℃でコーティングし腸溶性顆粒とした。
[実施例2〜6](主薬顆粒)
実施例1と同様の操作により、医薬組成物を製造し、主薬顆粒を製造した。製造した主薬顆粒の処方は表1のとおりである。

[実施例7](プラセボ顆粒)
マンニトール、クロスポビドン、クエン酸および軽質無水ケイ酸を混合・解砕した後、精製水で造粒、乾燥した後、整粒して、プラセボ顆粒を得た。これに増粘剤、アスパルテーム及びストロベリー香料を加えて、プラセボ顆粒を含む混合物を得た。表2にその処方を示す。

[実施例8](用時分散型製剤)
実施例1で得た主薬顆粒と、実施例7で得たプラセボ顆粒を含む混合物とを重量比1:3.4にて混合して用時分散型製剤を得た。
[実施例9、10]
マンニトール、クエン酸、PEGを混合・解砕した後、エタノールで造粒、乾燥した後、整粒して、プラセボ顆粒を得た。これにメチルセルロース又はアルギン酸プロピレングリコールエステル、甘味剤及び香料を加えて、プラセボ顆粒を含む混合物を得た。この実施例で得られるプラセボ顆粒は実施例7で得られるプラセボ顆粒とは異なり、増粘剤(メチルセルロース又はアルギン酸プロピレングリコールエステル)をプラセボ顆粒中に含んだものである。その処方を表3に示す。


[実施例11−17](プラセボ顆粒の他の例)
実施例9,10に記載の手順とほぼ同一の手順によって、プラセボ顆粒を含む混合物を得た(実施例11−17)。その処方を表4に示す。

(実験例)
上記の実施例にて製造した主薬顆粒および用時分散型製剤について、溶出試験、安定性試験、物性試験を行った。
(溶出試験)
実施例1および実施例2、3で得られた製剤について、溶出試験を行った。本主薬顆粒は腸溶性顆粒であるため、溶出試験液としては、日本薬局方の崩壊試験に規定されたpHが約6.8である第2液を用いてパドル法(毎分100回転)行った。溶出試験の結果をそれぞれ図1および図2に示す。図1および図2から明らかなように、本発明の医薬組成物を用いた主薬顆粒はいずれも良好な溶出性を有している。
(安定性試験)
前述の実施例で得られた主薬顆粒を所定の条件下で保存した際における主薬成分の分解に基づく不純物量により、各実施例製剤の主薬の安定性についての評価を行った。実施例1で得られた主薬顆粒については5℃及び25℃相対湿度60%でそれぞれ3ヶ月保管した後における全不純物量を測定した。実施例2及び3で得られた主薬顆粒については、初期の全不純物量について測定した。結果を表5に示す。

表5より明らかなように、実施例1で得られた主薬顆粒は、長期保存後であっても主薬成分の分解はほとんどなく、安定性のよい製剤である。また、実施例2及び3で得られた主薬顆粒においても、製造直後の不純物量は非常に少なかった。
(物性試験)
実施例8で得られた用時分散型製剤について、粉体状態での物性値(かさ密度、タップ密度、Carr index、流動性)および水に分散させた状態での粘度を測定した。結果を表6に示す。

表6から明らかなようにスプーン5杯の水(約20ml)を加えることにより良好な分散性と粘度を得ることができた。本発明に係る製剤は、内径5mmのNGチューブ(鼻腔に挿入して薬剤を投与するチューブ)を用いて乳児に投与できる程度の流動性を有しており、主薬顆粒は凝集等することなく、適度に分散していた。また、水に分散した後に顆粒の凝集もなく、良好な用時分散型製剤であった。
(粘度測定)
実施例11、12、13及び17で得られたプラセボ顆粒を含有する混合物2gを精製水10mlに溶解し、レオメーターで動粘度を測定した。結果を表7に示す。

(NGチューブ通過確認試験)
実施例9で得られたプラセボ顆粒2gと平均粒径約470μmの主薬顆粒300mgを水10mlに分散させた後、これをディスポーザブルのシリンジで吸った。このシリンジの先に内径が1mmのNGチューブ(5Fr)を取り付けて、シリンジに圧力をかけた際に、本願発明の用時分散型製剤がNGチューブから流出するかの試験を行った。その結果、本願発明の用時分散型製剤は、NGチューブを通して流出し、良好な流動性を有していることが確認できた。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬成分を含む平均粒子径2mm以下の主薬顆粒、及び増粘剤を含有する用時分散型製剤であって、服用時に水を加えて分散させ、NGチューブを通して投与することが可能な用時分散型製剤。
【請求項2】
前記主薬顆粒が機能性高分子を含有していることを特徴とする、請求項1に記載の用時分散型製剤。
【請求項3】
前記機能性高分子が、胃溶性高分子、腸溶高分子、徐放性高分子のうちから選ばれる少なくとも一つの高分子であることを特徴とする、請求項2に記載の用時分散型性剤。
【請求項4】
前記増粘剤がアルギン酸プロピレングリコールエステル、メチルセルロース、ハイドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリカルボキシメチルセルロースナトリウム及びハイドロキシプロピルセルロースの中から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の用時分散型製剤。
【請求項5】
更に、医薬成分を含まないプラセボ顆粒を含有することを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の用時分散型製剤。
【請求項6】
服用に際して水に分散させた状態での粘度が、10〜1500mPa・sである、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の用時分散型製剤。
【請求項7】
医薬成分がプロトンポンプインヒビターであることを特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の用時分散型製剤。
【請求項8】
前記プロトンポンプインヒビターが、ラベプラゾール、オメプラゾール、エスメプラゾール、ランソプラゾール及びパントプラゾールの中から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする、請求項7に記載の用時分散型製剤。

【国際公開番号】WO2005/011637
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512619(P2005−512619)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011515
【国際出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】