説明

田植機

【課題】油圧ポンプ・油圧モータ式の油圧変速機構と、エンジンからの動力及び油圧変速機構の変速出力を一方向の回転力に合成する遊星ギヤ機構とを備え、遊星ギヤ機構における一方向の回転力にて後輪と植付部とを連動して駆動させる構成の田植機において、油圧変速機構の負荷状態に関係なく、軽い操作力で油圧変速機構を容易に変速操作できるようにする。
【解決手段】油圧変速機構の変速出力が逆転方向最大の状態で遊星ギヤ機構における一方向の回転力が0となり、油圧変速機構の変速出力が0の状態で遊星ギヤ機構における一方向の回転力が最高回転状態となるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば苗載台及び苗植付爪を備えて連続的に苗植作業を行う田植機に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の田植機においては、例えば特許文献1に記載のように、油圧変速機構の出力とギヤ伝動出力とを遊星ギヤ機構のデフ作用により合成出力してエンジン出力を変速伝達させ、遊星ギヤ機構からの合成出力が停止(ゼロ)を挟んで正逆転させるように速度設定して、高い動力伝達効率並びにゼロ発進可能な無段変速を得る技術を採用している。
【特許文献1】特開2003−42261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前記特許文献1の構成では、同願図26に示す如く、遊星ギヤ機構からの合成出力が逆転側にある場合、遊星ギヤからの油圧伝達動力がポンプ軸に戻って油圧ポンプを回して油圧変速機構の変速操作力を軽減させるものの、出力効率が悪い。また同願図27に示す如き、遊星ギヤからの油圧伝達動力が0となる中速時、或いは同願図28に示す如き、油圧変速機構から遊星ギヤへ動力を伝達させる高速時には出力効率を良好とさせるが変速操作力は大となる。さらに同願図29において、油圧変速操作アーム(油圧変速機構を変速操作するための操作手段)を0から+1に操作する場合の操作力は−1から0に操作する場合に比べ重く、高速となる程大きな操作力を必要とするという問題があった。
【0004】
そこで、本願発明は、上記の問題を解消した田植機を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この技術的課題を達成するため、請求項1の発明は、前輪及び後輪を有し且つエンジンを搭載した走行車と、前記走行車に連結した植付部と、前記エンジンからの動力を変速して出力する油圧ポンプ・油圧モータ式の油圧変速機構と、前記エンジンからの動力及び前記油圧変速機構の変速出力を一方向の回転力に合成する遊星ギヤ機構と、走行出力軸及びPTO出力軸を有するミッションケースとを備え、前記遊星ギヤ機構における一方向の回転力を、前記走行出力軸と前記PTO出力軸とに伝達して、前記走行出力軸にて前記後輪を駆動し、前記PTO出力軸にて前記植付部を駆動するように構成してなる田植機であって、前記油圧変速機構の変速出力が逆転方向最大の状態で前記遊星ギヤ機構における一方向の回転力が0となり、前記油圧変速機構の変速出力が0の状態で前記遊星ギヤ機構における一方向の回転力が最高回転状態となるように構成したというものである。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載した田植機において、前記遊星ギヤ機構よりも下流側に、前記遊星ギヤ機構における一方向の回転力を前進、中立、後進の出力に切り換えて前記走行出力軸に伝達する変速ギヤ機構を備えているというものである。
【発明の効果】
【0007】
本願発明によると、油圧変速機構の変速出力が逆転方向最大の状態で遊星ギヤ機構における一方向の回転力が0となり、前記油圧変速機構の変速出力が0の状態で前記遊星ギヤ機構における一方向の回転力が最高回転状態となるように構成している。前記油圧変速機構の変速出力が逆転方向最大から0(ゼロ)の範囲というのは、上記課題で説明したように、前記油圧変速機構を変速操作するための操作手段の操作力が軽い範囲に相当する。本願発明では、かかる範囲に対応して、遊星ギヤ機構の合成出力が0(ゼロ)から最高回転状態に変更される構成になっているから、前記油圧変速機構の負荷状態に関係なく、軽い操作力で前記油圧変速機構を容易に変速操作でき、ゼロ発進可能な無段変速と高い伝達効率を容易に確保できるという効果を奏する。
【0008】
特に、前記遊星ギヤ機構における一方向の回転力が最高回転状態のときは、エンジンからの動力が最大効率でミッションケースに伝達されるから、後輪と植付部とが連動して駆動する田植機において、代掻き後の圃場を移動する田植作業時の走破性や作業能率を向上できるという効果も奏する。
【0009】
また、請求項2の発明によると、前記遊星ギヤ機構よりも下流側に、前記遊星ギヤ機構における一方向の回転力を前進、中立、後進の出力に切り換えて前記走行出力軸に伝達する変速ギヤ機構を備えているから、前記エンジンからの動力及び前記油圧変速機構の変速出力を、前記遊星ギヤ機構にて一方向の回転力に合成する構成を採用した田植機でありながら、必要であれば前記変速ギヤ機構の作用にて、田植機の前後進方向を簡単に切り換えでき、田植機の走行機能の向上に寄与するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳述する。図1は全体の側面図、図2は同平面図、図3は車体フレームの側面図、図4は同平面図を示し、図中1は作業者が搭乗する走行車であり、エンジン2を車体フレーム3に搭載させ、ミッションケース4側方にフロントアクスルケース5を介して水田走行用前輪6を支持させると共に、前記ミッションケース4後方のリヤアクスルケース7に水田走行用後輪8を支持させる。そして前記エンジン2等を覆うボンネット9両側に予備苗載台10を取付けると共に、作業者が搭乗する車体カバー11によって前記ミッションケース4等を覆い、前記車体カバー11後側上方にシートフレーム12を介して運転席13を取付け、その運転席13の前方で前記ボンネット9後部に操向ハンドル14を設ける。
【0011】
また、図中15は5条植え用の苗載台16並びに複数の苗植付爪17などを具備する植付部であり、前高後低の合成樹脂製の前傾式苗載台16を下部レール18及びガイドレール19を介して植付ケース20に左右往復摺動自在に支持させると共に、一方向に等速回転させるロータリケース21を前記植付ケース20に支持させ、該ケース21の回転軸芯を中心に対称位置に一対の爪ケース22・22を配設し、その爪ケース22・22先端に苗植付爪17・17を取付ける。
【0012】
また、前記植付ケース20前側のヒッチブラケット23をトップリンク24及びロワーリンク25を含む昇降リンク機構26を介し走行車1後側に連結させ、前記リンク機構26を介して植付部15を昇降させる油圧昇降シリンダ27をロワーリンク25に連結させ、前記前後輪6・8を走行駆動して移動すると同時に、左右に往復摺動させる苗載台16から一株分の苗を植付爪17によって取出し、連続的に苗を植える田植作業を行うように構成する。
【0013】
また、図中28は主変速レバー、29は植付部15の昇降・植付クラッチの入切・マーカ操作を行う植付操作レバー、30はブレーキペダル、31は変速ペダル、32はデフロックペダル、33は感度調節レバー、34は植付部15を任意高さ位置に停止させるストップレバー、35はユニットクラッチレバー35であり、操向ハンドル14位置近傍に変速及び昇降レバー28・29やブレーキ及び変速ペダル30・31を配設すると共に、運転席13位置近傍に感度調節及びストップ及びユニットクラッチの各レバー33・34・35を配設している。
【0014】
さらに、図中36は1条分均平用センタフロート、37は2条分均平用サイドフロート、38は肥料ホッパ39内の肥料を送風機40の送風力でフレキシブル形搬送ホース41を介しフロート36・37の側条作溝器42に排出させる5条用側条施肥機である。
【0015】
図3乃至図5に示す如く、前記車体フレーム3は前部フレーム43と中間フレーム44と後部フレーム45とに3分割させ、左右一対の前部フレーム43にエンジン2を、左右一対の中間フレーム44にフロントアクスルケース5を、左右一対の後部フレーム45にリヤアクスルケース7及びエンジン2に燃料を供給する燃料タンク46などを設けるもので、前部フレーム43の前側と中間に前フレーム47とベースフレーム48を連結させて平面視4角枠状に形成し、固定ブラケット49とベースフレーム48に防振ゴムを介しエンジン2を上載させる。
【0016】
また図10にも示す如く、前記後部フレーム45の中間立上り部50間をパイプフレーム51と門形フレーム52とで略平行に連結させると共に、リヤアクスルケース7に左右下端を固設する門形フレーム53の後端を一体連結させ、前記の左右の立上り部50間に燃料タンク46を配設する。
【0017】
さらに、前部フレーム43後端と後部フレーム45前端に左右中間フレーム44の前後端をボルト54を介して取外し自在に固定させると共に、左右中間フレーム44の下面にボルト55を介して左右フロントアクスルケース5を取外し自在に固定させ、前記ミッションケース4に左右フロントアクスルケース5を接続固定させる。
【0018】
図6乃至図10に示す如く、前記ミッションケース4の前面左側にパワーステアリングケース56を設け、かつケース4の右側に無段油圧変速機構57を設け、油圧変速機構57の変速入力用ポンプ軸58を車体前方向に突出させ、エンジン2下側で前後方向の伝達軸59にポンプ軸58を連結させると共に、エンジン2の出力軸60に伝達ベルト61を介して前記伝達軸59を連結させ、エンジン2出力を油圧変速機構57に伝達する。
【0019】
また、前記ミッションケース4とリヤアクスルケース7を車体の前後方向の中心ライン上でパイプ状の連結フレーム62によって一体連結させ、ミッションケース4後方に走行出力軸63及びPTO出力軸64を突出させ、リヤアクスルケース7前方に突出させるリヤ入力軸65にリヤ伝達軸66を介し前記走行出力軸63を連結させ、走行出力軸63から左右の後輪8に動力を伝える。またリヤアクスルケース7上部の軸受67に設ける仲介軸68に自在継手軸69を介して前記PTO出力軸64を連結させ、前記植付ケース20の入力軸に自在継手軸を介して中介軸68を連結させ、PTO出力軸64から植付部15に動力を伝える。
【0020】
さらに、図11乃至図16に示す如く、前記ミッションケース4は、本体胴部70と、前蓋部71と、後蓋部72を備え、前記胴部70の前後に各蓋部71・72を着脱自在にボルト固定させ、密閉箱形に形成すると共に、前記胴部70の内部を前後に分割する仕切り壁部73を設ける。また、前蓋部71前面に前記油圧変速機構57を取付け、ミッションケース4内に突出させるポンプ軸58に小径の伝達ギヤ74を係合軸支させ、伝達ギヤ74を前蓋部71にベアリング軸受し、後蓋部72後面に固定させるチャージポンプ75に伝達ギヤ74の動力をパイプ軸76を介して伝える。
【0021】
また、前記ミッションケース4内に突出させる油圧変速機構57のモータ軸77にサンギヤ78を係合軸支させ、サンギヤ78を前蓋部71にベアリング軸受すると共に、前記の小径の伝達ギヤ74に大径のキャリヤギヤ79を常に噛合させ、サンギヤ78のボス部にキャリヤギヤ79を遊転軸支させるもので、キャリヤギヤ79に3枚のプラネタリギヤ80を軸81を介して回転自在に設け、サンギヤ78にプラネタリギヤ80を噛合させると共に、プラネタリギヤ80に噛合させるリングギヤ82を設け、各ギヤ78・80・82によって遊星ギヤ機構83を形成する。
【0022】
また、前記サンギヤ78と後蓋部72に合成出力軸84の前後を回転自在に軸支させ、前記リングギヤ82を合成出力軸84に係合軸支させるもので、油圧変速機構57の油圧ポンプ85及び油圧モータ86の無段油圧変速出力である正逆回転出力と、伝達ギヤ74及びキャリヤギヤ79の減速回転出力(一方向の一定回転)とを、遊星ギヤ機構83のデフ作用によって合成し、ゼロ乃至最大速の一方向の回転力として合成出力軸84に伝える。
【0023】
さらに、前記合成出力軸84に前進ギヤ87と後進ギヤ88を遊転軸支させ、合成出力軸84に各ギヤ87・88をスライダ89によって選択的に係合させ、前進または中立または後進の出力に切換えると共に、仕切り壁部73と後蓋部72に前記走行出力軸63をベアリング軸受する。また、差動ギヤ90を介して左右の前車軸91に動力を伝えるフロント出力軸92と、PTO変速ギヤ93を係合軸支させるカウンタ軸94を設け、前記の走行及びフロント出力軸63・92に出力ギヤ95・96を介して後進ギヤ88の後進動力を伝え、前後輪6・8を後進駆動させると共に、走行出力軸63に移動ギヤ97及び植付ギヤ98を遊転軸支させ、副変速スライダ99によって各ギヤ97・98を走行出力軸63に選択的に係合させる。
【0024】
また、カウンタ軸94の高速用ギヤ100a・100bを介して前進ギヤ87に移動ギヤ97を常に噛合させると共に、カウンタ軸94の低速用のPTO変速ギヤ93に植付ギヤ98を常に噛合させ、各ギヤ100a・93・98を介して前進ギヤ87の動力を前記各出力軸63・92に伝え、前後輪6・8を苗の植付け作業速度で前進駆動する。また、移動ギヤ97と植付ギヤ98の両方が遊転状態となり、植付爪17などを作業者が手で回転させて詰った苗の除去などを行えるように、PTO出力軸64の手動回転を可能にすると共に、前進ギヤ87の動力を各ギヤ100a・100bを介して各出力軸63・92に伝え、圃場間の路上移動などの高速の移動速度で前後輪6・8を前進駆動する。
【0025】
さらに、図11のように、PTO変速軸101及びPTO変速機構102を介してPTO変速ギヤ93の動力をPTO出力軸64に伝え、株間変速自在に植付部15を駆動すると共に、ミッションケース4に内設させるチェン103を介してPTO出力軸64に施肥出力軸104を連結させ、植付部15と同調させて施肥機38を駆動する。また、図13のように、ミッションケース4にオイルゲージ105を設けると共に、図14のように、前記各スライダ89・99を同一のシフトフォーク106に係止させ、変速レバー28の5位置切換によって前後進及び副変速(低高速)の切換を行う。また、図16、図17のように、油圧ポンプ85の斜板107に制御軸108を介して油圧変速操作アーム109を連結させ、該アーム109にロッド110を介して変速ペダル31を連結させると共に、ペダル31の足踏み解除によってペダル31を自動的に停止(速度ゼロ)位置に復帰動作させるバネ111を前記アーム109に連結させ、オイルダンパ112を前記アーム109に連結させ、踏み込んでいたペダル31から足を離したとき、オイルダンパ112の抵抗とバネ111の復動力によりペダル31が緩やかな略一定速度で戻って除々に低速になる動作を行わせる。なお、オイルダンパ112に代え、ガススプリングなどによって定速作動部材を形成してもよい。
【0026】
さらに、図19のように、前記ペダル31から足を離している状態でバネ111によってペダル31が停止(速度ゼロ)位置に戻っているとき、サンギヤ78は最高回転で時計回りに逆転してプラネタリギヤ80を反時計回りに自転させる動作を行わせると同時に、また伝達ギヤ74によってキャリヤギヤ79を回転させることにより、プラネタリギヤ80を時計方向に公転させて反時計回りに自転させる動作を行わせ、リングギヤ82の回転をゼロにし、合成出力軸84を停止維持する。また、ペダル31をバネ111に抗して足で踏んだとき、サンギヤ78は停止し、伝達ギヤ74によってキャリヤギヤ79を回転させ、プラネタリギヤ80を時計方向に自転させ乍ら時計方向に公転させ、伝達ギヤ74のギヤ動力により合成出力軸84を回転させるもので、図18のように、エンジン2動力を伝達ギヤ74と油圧変速機構57とに伝えて遊星ギヤ機構83により合成して出力させ、ミッションケース4で前後進切換とPTO変速を行い、後進、低速前進(圃場植付走行)、高速前進(路上移動走行)の各動作を行わせる。
【0027】
そして、例えば、従来油圧変速機構57にあって出力動力P2が入力動力P1の略70%となるのに対し、図20に示す如く、低速で走行時にはギヤ伝達動力P3の一部を油圧伝達動力P4としてポンプ軸58に戻して出力動力P2を入力動力P1の略80%に高める。また図21のように前記油圧変速機構57の油圧伝達動力をゼロ(P4=0)とする高速で走行時には油圧損失を無くして出力動力P2を入力動力P1の略95%以上に高めた高効率の回転を可能とさせるもので、例えば、図22(1)のように、油圧変速操作アーム109の角度を−1乃至0に変化させることにより、モータ軸77が−1000乃至0回転になるようにし、図22(2)のように、前記アーム109の角度に関係なくギヤ74側を1000回転させた場合、図23のように、前記アーム109の角度に対して合成出力軸84が0乃至1000回転になるように、ギヤ74・79及び遊星ギヤ機構83を組成する。
【0028】
また、前記アーム109の全制御範囲を−1乃至0としたとき、図17に示す如く、前記アーム109の低速(ゼロ速度)側及び高速側の制御動作をボルト型低速及び高速ストッパ113・114によって規制している。
【0029】
上記からも明らかなように、エンジン2の駆動力を伝達する油圧変速機構57と遊星ギヤ機構83との合成出力を形成する複合変速機構115を設けると共に、油圧変速機構57の逆転出力により複合変速機構115の合成出力軸84を一方向に回転させたことによって、操作力の重い変速操作アーム109の0から+1側より操作力の軽い−1から0側の範囲で、合成部側から油圧変速機構57の油圧ポンプ85に動力を伝達させる状態とさせて、油圧変速機構57の負荷に関係なく軽い操作力で油圧変速機構57を容易に変速操作させて、ゼロ発進可能な無段変速と高い伝達効率を容易に確保することができる。
【0030】
また、合成出力軸84の最高回転状態で油圧変速機構57の出力軸回転数を略0とさせたことによって、合成出力軸84の最高回転状態のときエンジン2からの駆動力を最大効率でミッションケース4に伝えて、走破性を高めるなどして作業性を向上させることができる。
【0031】
図11、図12、図16、図24、図25にも示す如く、前記合成出力軸84のリングギヤ82と前進ギヤ87間にボールジョイント式主クラッチ116を介設させるもので、合成出力軸84にスプライン嵌合させるスリーブ117にリングギヤ82を回転自在に支持させ、スリーブ117外周のボール溝118に突入させるボール119をリングギヤ82のボス部82aに埋設させ、図24に示す如く、シフトフォーク120でスリーブ117上をスライドさせるクラッチ体121でボール119を押圧してボール119をボール溝118に突入させるとき、主クラッチ116を入とさせてリングギヤ82の回転を合成出力軸84に伝えると共に、図25に示す如く、シフトフォーク120でクラッチ体121をクラッチバネ122に抗しスライドさせボール119を押圧解除させるとき、回転遠心作用でボール119をボール溝118より離脱させ主クラッチ116を切とさせて、リングギヤ82から合成出力軸84への動力伝達を遮断させるように構成している。
【0032】
図14、図24、図25に示す如く、前記シフトフォーク106によって操作されるスライダ89・99の後進位置のとき(図24の最大右位置)、合成出力軸84と後進ギヤ88の各スプライン84a・88aとにスライダ89を、また植付ギヤ98のスプライン98aにスライダ99をそれぞれスプライン嵌合させると共に、スライダ89・99を後進位置から中立位置に切換えるとき(図24の実線位置)、合成出力軸84のスプライン84aにスライダ89を、また植付ギヤ98のスプライン98aにスライダ99にそれぞれスプライン嵌合させるもので、スライダ99の後進から中立位置への切換えにあっては前進移動時にスライダ99をスプライン嵌合させる走行出力軸63のスプライン63aとスライダ99とのスプライン嵌合(かみ合せ)を回避させるため、スライダ99と干渉するスプライン63aの重複部分を平滑面の円周ガイド部63bに形成し、スライダ89・99の後進から中立位置への切換えを容易とさせるように構成している。
【0033】
図26に示す如く、前進移動時にスプライン嵌合させるスライダ99と走行出力軸63との間にガタをもたせるもので、走行出力軸63のスプライン63aの歯厚aよりスライダ99のスプライン穴99aの歯厚股ぎ巾bを大に形成すると共に、スプライン63aの歯先端部を尖らせてスプライン位相のずれを解消させる面取り部63bに形成して、スライダ99と走行出力軸63のスプライン嵌合時のかみ合せを容易とさせるように構成している。
【0034】
上記からも明らかなように、エンジン2の駆動力を伝達する油圧変速機構57と遊星ギヤ機構83との合成出力を形成する複合変速機構115と、合成出力を多段に変速する合成出力変速機構であるミッションケース4の変速ギヤ機構4aとを設けると共に、複合変速機構115と変速ギヤ機構4a間にクラッチ116を介設させたことによって、変速操作時にクラッチ116を切とすることにより変速ギヤ87・88を枢支する軸を自由回転状態とさせて、スムーズな変速を可能とさせると共に、変速状態(前進・中立・後進)の如何にかかわらず確実な伝達駆動力の遮断を行って、変速精度を向上させることができる。
【0035】
また、一体連結させる2つのスプライン嵌合部材であるスリーブ89・99の切換で変速を行う変速切換機構を備え、スリーブ99のスプラインのかみ合せを回避させる遊嵌部である円周ガイド部63bをスプライン部材である走行出力軸63のスプライン63aに設けたことによって、例えば後進から中立などに変速切換時にスリーブ99とこれにかみ合うスプライン63aとの位相がずれている場合にも、位相に関係のないスムーズな変速切換を容易に可能とさせて変速操作性を向上させることができる。
【0036】
図11、図27に示す如く、前記カウンタ軸94のPTO変速ギヤ93は50、60、70、80、90株用の株間変速ギヤ93a・93b・93c・93d・93eを有すると共に、PTO変速軸101には各ギヤ93a・93b・93c・93d・93eに常に噛合う株間ギヤ123a・123b・123c・123d・123eを有し、PTO変速軸101はガイド124を介し筒軸中心に変速ロッド125を軸芯方向にスライド自在に挿通させ、各ギヤ123a〜123eと変速軸101とをそれぞれ係合連結させるボール126(ギヤ1つに3個)を変速軸101のボール溝127に埋設させ、変速ロッド125に形成させる大径クラッチ体128を移動させクラッチ体128でボール126を押圧し各ギヤ123a〜123eのうちの1つのギヤのボール係合溝129に係入させるとき、ギヤ123a或いは123b或いは123c或いは123d或いは123eと変速軸101を連結させて、所定の株間速度で変速軸101を回転させるように構成している。
【0037】
また、前記変速ロッド125の前延設端に複数のディテント溝130を形成させると共に、該溝130に係合させるディテントボール131を圧縮バネ132を介してミッションケース4に内設させてディテント部133を形成させ、変速ロッド125の位置決めをディテント溝130とボール131の係合によって行うもので、変速軸124と同軸上にディテント部133を直接的に設けたことによって、部品点数の少ないシンプル構造のもので確実な変速ロッド125の位置固定を図ることができる。
【0038】
さらに、前記株間ギヤ123a〜123eより外側の変速軸101と変速ロッド125との間には、オーバストローク防止用ボール134をギヤカラー135及び株間伝動ギヤ136を介し封入させ、変速ロッド126の移動が所定以上となるオーバストローク状態となるときクラッチ体128をボール134に当接させて、変速ロッド126のオーバストロークを防止するように構成している。この場合専用のオーバストローク止め部材など別途設けることなく、変速軸101にコンパクトに組込んで構造のシンプル化や低コスト化を図ることができる。
【0039】
図28に示す如く、前記ミッションケース4前蓋部71の遊星ギヤ機構83の周囲を、前蓋部71の周側壁71aと内側壁から立設させるリブ137とにより囲んで、遊星ギヤ機構83によるミッションケース4内のオイルの撹拌を小さく抑えて、オイル温が上昇するのを抑制させヒートバランスを良好とさせるように構成している。
【0040】
図29に示す如く、ミッションケース4後側上部のエルボパイプ138に運転席13の右下方に配置させるブリーザ139を可撓性樹脂パイプ140を介し連結させるもので、門形フレーム52の右縦フレーム部にブリーザ139を連結させて、ミッションケース4上面よりも上方で車体カバー11のステップ(足元部)11aよりも上方位置にブリーザ139を配置させることによって、ミッションケース4内のオイルのブリーザ139よりの油洩れを防止すると共に、ステップ11a上の泥水のブリーザ139よりの侵入を確実に防止するように構成している。なお、ブリーザ139の取付けは門形フレーム52・右後部フレーム45や他の部材など何れに取付けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】田植機の全体側面図。
【図2】田植機の全体平面図。
【図3】走行車体の側面図。
【図4】走行車体の平面図。
【図5】車体フレームの側面図。
【図6】駆動部の側面説明図。
【図7】駆動部の平面説明図。
【図8】サイドクラッチ操作系の側面説明図。
【図9】サイドクラッチ操作系の平面説明図。
【図10】車体の斜視説明図。
【図11】ミッションケースの断面図。
【図12】同走行駆動部の説明図。
【図13】遊星ギヤ機構の説明図。
【図14】ミッションケースの部分図。
【図15】遊星ギヤ機構の断面図。
【図16】ミッションケースのギヤ配列説明図。
【図17】油圧変速操作アーム部の側面図。
【図18】エンジンの出力説明図。
【図19】遊星ギヤ機構の回転説明図。
【図20】低速走行のエンジン出力説明図。
【図21】高速走行のエンジン出力説明図。
【図22】出力説明図。
【図23】合成出力軸の出力説明図。
【図24】クラッチ部の説明図。
【図25】クラッチ部の説明図。
【図26】スプライン部の説明図。
【図27】変速軸部の説明図。
【図28】前蓋部の説明図。
【図29】ブリーザ部の配置説明図。
【符号の説明】
【0042】
1 走行車
2 エンジン
4 ミッションケース
4a 変速ギヤ機構
6 前輪
8 後輪
15 植付部
57 油圧変速機構
63 走行出力軸
64 PTO出力軸
83 遊星ギヤ機構
84 合成出力軸
85 油圧ポンプ
86 油圧モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪及び後輪を有し且つエンジンを搭載した走行車と、前記走行車に連結した植付部と、前記エンジンからの動力を変速して出力する油圧ポンプ・油圧モータ式の油圧変速機構と、前記エンジンからの動力及び前記油圧変速機構の変速出力を一方向の回転力に合成する遊星ギヤ機構と、走行出力軸及びPTO出力軸を有するミッションケースとを備え、
前記遊星ギヤ機構における一方向の回転力を、前記走行出力軸と前記PTO出力軸とに伝達して、前記走行出力軸にて前記後輪を駆動し、前記PTO出力軸にて前記植付部を駆動するように構成してなる田植機であって、
前記油圧変速機構の変速出力が逆転方向最大の状態で前記遊星ギヤ機構における一方向の回転力が0となり、前記油圧変速機構の変速出力が0の状態で前記遊星ギヤ機構における一方向の回転力が最高回転状態となるように構成したことを特徴とする田植機。
【請求項2】
前記遊星ギヤ機構よりも下流側に、前記遊星ギヤ機構における一方向の回転力を前進、中立、後進の出力に切り換えて前記走行出力軸に伝達する変速ギヤ機構を備えていることを特徴とする請求項1に記載した田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2007−218435(P2007−218435A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125673(P2007−125673)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【分割の表示】特願2002−8255(P2002−8255)の分割
【原出願日】平成14年1月17日(2002.1.17)
【出願人】(000006851)ヤンマー農機株式会社 (132)