説明

甲殻類の疾病防除剤およびこれを含有する飼料

【課題】甲殻類が生来備えている生体防御能を増強させ、甲殻類急性ウイルス血症をはじめとする各種疾病による被害を軽減する効果のある疾病防除剤を提供する。
【課題を解決するための手段】植物に由来するレクチンを含有する、甲殻類急性ウイルス血症をはじめとする各種疾病による被害を軽減する効果のある疾病防除剤を提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甲殻類が生来備えている生体防御能を増強させ、産業上重大な脅威となっている甲殻類急性ウイルス血症をはじめとする各種疾病による被害を軽減する効果のある甲殻類の疾病を防除するための組成物および当該組成物を用いた甲殻類の疾病を防除する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クルマエビ、ウシエビ等をはじめとするエビ類の養殖は、東南アジアや中南米を中心として驚異的に増大しているが、過密養殖や養殖場の環境汚染による飼育環境悪化が原因となって、ウイルス病や細菌病等の疾病が蔓延し、顕著な斃死を招いている。
【0003】
従来、このような甲殻類の疾病に関しては抗生物質や抗ウイルス剤といった薬剤を用いて処理されていた。しかし、これら薬剤の使用により薬剤耐性菌や薬剤耐性ウイルスが生じ得ること、また生物体内への薬剤残留の恐れもあり、その使用は現在制限されている。
【0004】
近年、薬剤を使用せずに抗ウイルス性効果を得る防除剤が開発されている(特許文献1−2)。しかし、これらの防除剤は特定の病原ウイルス種に対してのみ有効であって、別種の病原ウイルス種への効果は期待できず、またその薬理作用から、耐性ウイルスの出現が懸念される。さらに、動植物由来のオリゴ糖を含有する甲殻類の感染症予防治療剤およびこれを含有する飼料が開発されている(特許文献3−4)。しかし、これらの治療剤は、動植物由来の各種精製物を利用するために製造コストがかかる。
【0005】
したがって、甲殻類の養殖場または種苗生産施設では、従来の方法とは異なる安全、安価で確実な効果が期待できる斃死軽減方法の早急な開発を切望しているのが現状である。
【0006】
植物は、伝統的に漢方等で利用されるものも多く、様々の薬用および免疫賦活化機能等の健康機能成分が含有されると考えられる。例えば、植物種子に多く含有されるレクチンは、細胞膜複合糖質(例えば、糖タンパク質、糖脂質)の糖鎖に結合することによって、細胞凝集、糖複合体の沈降、分裂誘発、機能活性化、細胞傷害等の作用を有するタンパク質であり、マイトジェン機能(T細胞やB細胞の細胞分裂活性化機能)を有すること、および病害微生物を凝集する作用効果を有することが明らかにされている(非特許文献1−3)。しかしながら、現在までに、植物由来のレクチンが、甲殻類の疾病防除に有効であること、ならびに甲殻類の生体防御機能を高める効果を有するという報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−206067号公報
【特許文献2】特開2008-169131号公報
【特許文献3】特開平10-45600号公報
【特許文献4】特開平10-45605号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Vania M.M. Meloら, 「Plant Science」, 2005年, 第169巻, p.629-639
【非特許文献2】Ana Paula de A. Boletiら, 「Journal of Agricultural and Food Chemistry」, 2007年, 第55巻, p.2653-2658
【非特許文献3】Li Huangaら, 「Immunology letters」, 2008年, 第121巻, p.148-156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、甲殻類が生来備えている生体防御能を増強させ、産業上重大な脅威となっている甲殻類急性ウイルス血症をはじめとする各種疾病による被害を軽減する効果のある、甲殻類の疾病を防除するための組成物および当該組成物を用いた甲殻類の疾病を防除する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、植物、特にゴーヤ、に由来するレクチンを含有する組成物が、甲殻類が生来備えている生体防御能を増強させ、甲殻類急性ウイルス血症をはじめとする各種疾病の防除に有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンを含有する、甲殻類の疾病を防除するための組成物。
[2] 植物がゴーヤである、[1]の組成物。
[3] 甲殻類の生体防御機能を増強することができる、[1]または[2]の組成物。
[4] 甲殻類の疾病が、甲殻類急性ウイルス血症である、[1]〜[3]のいずれかの組成物。
[5] 甲殻類用飼料または注射剤の形態である、[1]〜[4]のいずれかの組成物。
[6] [1]〜[5]のいずれかの組成物を甲殻類に投与することを特徴とする、甲殻類の疾病を防除する方法。
[7] [1]〜[5]のいずれかの組成物を甲殻類に投与することにより、甲殻類の生体防御機能を増強することを特徴とする、[6]の方法。
[8] 甲殻類の疾病が、甲殻類急性ウイルス血症である、[6]または[7]の方法。
[9] 甲殻類がクルマエビ科である、[1]〜[5]のいずれかの組成物、あるいは[6]〜[8]のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、甲殻類が生来備えている生体防御能を増強させ、産業上重大な脅威となっている甲殻類急性ウイルス血症をはじめとする各種疾病による被害を軽減する効果のある甲殻類の疾病を防除するための組成物および当該組成物を用いた甲殻類の疾病を防除する方法を提供することができ、その結果として養殖場または種苗生産施設における生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、粗精製ゴーヤレクチン投与(注射)による甲殻類急性ウイルス血症防除効果を示す特性図である。
【図2】図2は、精製ゴーヤレクチン投与(注射)による甲殻類急性ウイルス血症防除効果を示す特性図である。
【図3】図3(A)は、ゴーヤレクチンを添加した甲殻類用飼料の作製のための模式的なスキームを示す。図3(B)は作製されたゴーヤレクチンを添加した甲殻類用飼料の一実施形態を示す写真図である。
【図4】図4はゴーヤ種子粉末添加飼料の投与(経口)による甲殻類急性ウイルス血症防御効果を示す特性図である。(A)1%濃度のウイルス接種;(B)2%濃度のウイルス接種
【図5】図5は精製ゴーヤレクチン添加飼料の経口投与による甲殻類急性ウイルス血症防御効果を示す特性図である。
【図6】図6は精製ゴーヤレクチン添加飼料の経口投与によるクルマエビの血球数(×106 細胞/ml)の経時的変化を示すグラフ図である(p<0.05, 0.01)。棒グラフにそれぞれ付されたアルファベットは、同一処理日数における同一アルファベットを付した処理区と比較した場合に有意差がないことを示す。
【図7】図7は精製ゴーヤレクチン添加飼料の経口投与によるクルマエビの血球組成の経時的変化を示すグラフ図である(p<0.05, 0.01)。(A):Aリージョン;(B):Bリージョン。棒グラフにそれぞれ付されたアルファベットは、同一処理日数における同一アルファベットを付した処理区と比較した場合に有意差がないことを示す。
【図8】図8は精製ゴーヤレクチン添加飼料の経口投与によるクルマエビのフェノールオキシダーゼ活性の経時的変化を示すグラフ図である(p<0.05, 0.01)。棒グラフにそれぞれ付されたアルファベットは、同一処理日数における同一アルファベットを付した処理区と比較した場合に有意差がないことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の組成物は、植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンを含有する。
【0015】
本発明において「植物」とは、トウアズキ、ピーナッツ、タチナタマメ、ドリコスマメ、ダイズ、バンデリアマメ、レンズマメ、ミヤコグサ、イヌエンジュ、インゲン、リママメ、エンドウ、シカクマメ、エンジュ、ハリエニシダ、ソラマメ、ムラサキモクワンジュ、マユミ、セイヨウニワトコ、ニワトコ、キカラスウリ、トウゴマ、ホソバデイゴ、ユキノハナ、アマリリス、ラッパズイセン、コムギ、ヨウシュチョウセンアサガオ、トマト、ジャガイモ、イラクサ、ヨウシュヤマゴボウ、アマランサス、ジャックフルーツ、アメリカハリグワ、フジ、ヘアリーベッチ、バナナ、ニンニク、キクイモ、ゴーヤなど(特にこれらに限定されない)を指す。好ましくは、「植物」とはゴーヤである。本発明において用いるゴーヤの種類は特に限定されない。
【0016】
また本発明において「植物」とは、植物体の葉、茎、根、果実、球根、種子またはこれらの1つもしくは複数の組み合わせを指す。レクチンは植物体の葉、茎、根、果実、球根、種子などに存在しており、抽出に際してはこれらの1つまたは複数を組み合わせて利用することができるが、一般にレクチンは種子内に多量に含まれていることから種子を用いることが好ましい。種子は完熟のものであっても、未熟のものであっても良いが、好ましくは完熟の種子を利用する。また、植物は乾燥しているものを利用することが好ましい。
【0017】
本発明において用いる「植物粉末」、「粗精製植物レクチン」および「精製植物レクチン」は公知の手法、例えば、特許第3849945号、特開2006-126025号公報などに記載の方法に基づいて、以下の手法により調製することができる。
【0018】
「植物粉末」は、植物をコーヒーミル、超音波処理、フレンチプレス、石臼、乳鉢による粉砕、ホモジナイザーによる破砕、ガラスビーズによる破砕、コーヒーミルなどの公知の方法により所望の大きさになるまで粉砕することによって得ることができる。
【0019】
「粗精製植物レクチン」は、上記植物粉末を、タンパク質抽出に一般的に用いられる抽出用水溶液(例えば、蒸留水、Tris緩衝液、リン酸緩衝液、Tricine緩衝液、Hepes緩衝液、MOPS緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、MES緩衝液、PIPES緩衝液など、特にこれらに限定されない)を用いて抽出し、得られた抽出液をエタノール沈殿に付し、沈殿物を乾燥させ、生理食塩水中に加えた後遠心分離して、上澄み液を回収することによって得ることができる。抽出液はエタノール沈殿に付す前に、必要に応じて一または複数回の濾過および/または遠心分離の工程に付しても良い。得られた粗精製植物レクチンには植物レクチンと共に夾雑タンパク質、糖などが含まれているが、求められる植物レクチン活性は当該粗精製物にも十分にある。
【0020】
「精製植物レクチン」は、上記粗精製植物レクチンから、公知の手法(特許第3849945号、特開2006-126025号公報、J. Toyamaら、「Asian Journal of Plant Sciences」, 2008年, 第7(7)巻, p.647-653)に基づいて以下の手法により調製することができる。
【0021】
すなわち、上記粗精製植物レクチンを、糖結合のアフィニティーカラムに供し、レクチンを吸着させ、夾雑物を洗浄後、高濃度の糖溶液等を用いてレクチンを溶出させる。アフィニティーカラムに結合させる糖は、精製するレクチンの糖特異性に応じ選択する。例えば、ゴーヤの場合はガラクトースを結合させたアフィニティーカラムにより効率的にレクチンを精製することができる。また、必要に応じ、ゲルろ過等の手法を追加すれば精製度をさらに向上させることができる。
【0022】
粗精製植物レクチンおよび精製植物レクチンの調製に際しては、上記手法に代えて、または加えて、タンパク質精製に用いられる公知の方法、例えば、硫安塩析、有機溶媒(エタノール、メタノール、アセトン等)による沈殿分離、イオン交換クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、基質または抗体などを利用したアフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー、精密ろ過、限外ろ過、逆浸透ろ過等の濾過処理など、を1つまたは複数組み合わせて用いて精製することが可能である。
【0023】
植物粉末、粗精製植物レクチンおよび精製植物レクチンに含まれる植物レクチンは、糖と親和性のあるタンパク質であり、分子量は植物種により異なり、概ね8,000〜170,000の範囲内にある。植物レクチンの多くは血球を凝集することができる。ゴーヤレクチンは、ヒトH抗原糖鎖に親和性を有し、分子量が100,000〜170,000の範囲内にあり、血球を凝集することができる。
【0024】
本発明において得られた植物粉末、粗精製植物レクチンおよび精製植物レクチンは用途に応じて、適当な溶媒に溶解または懸濁した状態としても良いし、一般的な乾燥法(例えば、自然乾燥、熱乾燥、凍結乾燥等)を用いて乾燥し、乾燥粉末の状態としても良い。
【0025】
本発明の組成物には、上記植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンに加えて、適当なキャリア、希釈剤、エマルジョン、賦形剤、増量剤、結合剤、浸潤剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、着色料、香味剤、安定化剤、水溶性溶媒(水、低級アルコール、ポリオール等)、疎水性溶媒(高級脂肪酸エステル類、親油性アルコールなどの等)などの添加剤を含めても良い。
【0026】
本発明の組成物における、植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンの含有量は、投与対象、当該組成物の種類や形状、疾病の種類や重篤度などに応じて適宜決定することができ、組成物1mLあたり0.0001mg〜100mgの範囲から適宜選択される量をそれぞれ含めることができる。
【0027】
本発明の組成物は、投与方法に応じて適当な形態に調製することができ、例えば、経口投与剤として、粉末状、顆粒状、シート状、ペースト状、液体状(溶液、懸濁液、混合液等)、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などが挙げられ、非経口投与剤として注射剤、吸入薬、軟膏剤、貼付剤、吸収剤などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、本発明の組成物は、注射剤または経口投与剤の形態である。
【0028】
注射剤は、公知の手法を用いて調製することが可能であり、上記植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンを一般的な注射用溶媒(例えば、注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、ドウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられるがこれらに限定されない)に溶解または懸濁することによって製造することができる。必要に応じて、等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、または乳化剤等を加えても良い。また、注射剤は、使用直前に植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンの凍結乾燥物から、上記注射用溶媒を用いて液剤を再調製することによって調製されても良い。
【0029】
経口投与剤は、公知の手法を用いて調製することが可能であり、上記植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンと、必要に応じて上記添加剤とからなる混合物を、乾燥、造粒、圧縮、成型等の公知の方法で成形し、必要に応じてコーティング等の処理を施すことによって製造することができる。特に経口投与剤は、甲殻類用飼料として調製することが好ましい。
【0030】
本発明の組成物を含有する甲殻類用飼料は、一般的な飼料製造方法を用いて製造することができる。すなわち、植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンを基礎飼料材料に添加混合した後成型・乾燥してドライペットとするか、あるいは基礎飼料材料に植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンを添加混合した後適量の水を加えて成型し、モイストペレットとしても良い。基礎飼料材料としては、魚粉、イカミール、オキアミミール、穀類を主体とし、これにコレステロール、レシチン、植物性油粕類、各種粘結剤(CMC、アルギン酸ナトリウム、グアガム等)、ビタミン混合物、ミネラル混合物等及び生餌との併用等、甲殻類の飼料材料として公知のものを用いることができ、特に制限されるものではない。植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンの基礎飼料材料への添加は、基礎飼料材料の蒸煮前または蒸煮後に行うことができるが、植物レクチンの失活を回避するために基礎飼料材料の蒸煮後に添加することが好ましい。飼料には必要に応じて、一般に使用される賦形剤、例えば酵母粉末、小麦粉、脱脂米糠、大豆粕、炭酸カルシウム、無水ケイ酸等を配合してもよい。また、ビタミンEなどのビタミン類、カルシウム、リン、亜鉛、セレン等の各種ミネラル類、メチオニン、リジン、トリプトファン等のアミノ酸類、プロテアーゼ、リパーゼ等の酵素類、嗜好性改善効果のあるイカエキス、オキアミエキス、フィッシュソリュブル、酵母エキス等をさらに添加しても良い。当業者であれば当該飼料を、水中で十分な保形性を保ち、有効成分が甲殻類に確実に捕食されるよう適宜調製・成形することができると思われる。
【0031】
上記注射剤および甲殻類用飼料における、植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンの含有量は、ウサギ、ウシ、ヒトなど各種動物の赤血球または、これらをシアリダーゼやトリプシン等の酵素で処理した赤血球を用い、レクチンの赤血球凝集力価によって表すことができる。植物由来のレクチンは、赤血球膜表面上の凝集原に結合し、赤血球を凝集させる。植物レクチンが凝集することができる赤血球の種類や力価は植物レクチンの種類により異なる。例えば、ゴーヤ由来のレクチンは、ヒト赤血球のA抗原、B抗原及びH抗原から成る赤血球膜表面上の凝集原のうち、H抗原に対して特異的に結合し、赤血球を凝集させる。レクチンの赤血球凝集力価は公知の手法(例えば、特許第3849945号、特開2006-126025号公報)に基づいて決定することができる。
【0032】
上記注射剤および甲殻類用飼料における、植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンの含有量は、用いた植物の種類によって異なる。例えば、植物がゴーヤである場合、注射剤であれば、上記赤血球凝集力価の総力価にして、粗精製ゴーヤレクチンを4〜1024、好ましくは8〜512、さらに好ましくは64、精製ゴーヤレクチンを3.2〜640、好ましくは6.4〜640、さらに好ましくは6.4の範囲でそれぞれ含めることができる。ここで注射剤の総力価とは、上記赤血球凝集力価(1mLあたりの値)に注射される溶液量を乗じて求めることができる。また、注射剤には少なくとも上記範囲の総力価を有するゴーヤ種子粉末を含めても良い。他の植物を用いた場合であっても、注射剤には少なくとも上記範囲の総力価に相当する量の植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンを含めることができる。
【0033】
また、例えば、植物がゴーヤである場合、甲殻類用飼料であれば、飼料1kgあたり、上記赤血球凝集力価の総力価にして、ゴーヤ粉末を51200〜512000、粗精製ゴーヤレクチンを2130〜213000、精製ゴーヤレクチンを2130〜213000の範囲でそれぞれ含めることができる。ここで甲殻類用飼料の総力価とは、上記赤血球凝集力価(1mLあたりの値)に甲殻類の1日の飼料摂取量を乗じて求めることができる。甲殻類の1日の飼料摂取量は50〜500mgの範囲より適宜選択することができる。他の植物を用いた場合であっても、甲殻類用飼料には少なくとも上記範囲の総力価に相当する量の植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンを含めることができる。
【0034】
本発明の組成物の投与条件は、投与対象、当該組成物の種類や形状、疾病の種類や重篤度などに応じて適宜決定することができる。例えば、本発明の組成物の投与は注射、液浸、噴霧または経口投与により行うことができる。好ましくは本発明の組成物の投与は、上記注射剤を筋肉内、腹腔内等、好ましくは第二腹節へ注射することによって、または上記甲殻類用飼料により経口的に、投与する。本発明の組成物の投与量は、上記注射剤であれば0.01〜1.5mLの範囲で適宜決定することができ、上記甲殻類用飼料であれば50〜500mgの範囲で適宜決定することができる。動物1匹当たり1日に投与すべき植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンの量は、用いた植物の種類によって異なる。例えば、植物がゴーヤである場合、上記赤血球凝集力価の総力価にして、動物1匹当たり1日に3.2〜16、好ましくは6.4相当量のゴーヤ種子粉末、粗精製ゴーヤレクチンおよび/または精製ゴーヤレクチンを投与できれば良い。他の植物を用いた場合であっても、動物1匹当たり1日に少なくとも上記範囲の総力価に相当する量の植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンを投与できれば良い。本発明の組成物の投与は、1日に1回のみ行ってもよいが、間隔を空けて2回以上繰り返し行ってもよいし、動物により摂取されることによって1日を通して断続的に行ってもよい。
【0035】
本発明の組成物は、甲殻類に投与することにより、甲殻類の疾病の防除に高い効果を発揮する。
【0036】
本発明において組成物の投与対象となる甲殻類は、任意の甲殻類(Crustacea)であってよく、例えばエビ類、カニ類、シャコ類、ザリガニ類、オキアミ類、ミジンコ類などが挙げられる。これら甲殻類の特に好適な例としては、限定するものではないが、十脚目の甲殻類、例えばクルマエビ科、オキエビ科、サクラエビ科、タラバエビ科、アカザエビ科、イセエビ科、セミエビ科、アメリカザリガニ科などに属する生物、十脚目アサヒガニ科、クモガニ科、クリガニ科、ワタリガニ科、イワガニ科、サワガニ科に属する生物などが挙げられる。投与対象として好適な甲殻類のより具体的な例としては、限定するものではないが、クルマエビ科(Penaeidae)の生物、例えばFarfantepenaeus、Fenneropenaeus、Litopenaeus、Marsupenaeus、Melicertus、Metapenaeopsis、Metapenaeus、Penaeus、Trachypenaeus、Xiphopenaeus属等に属するエビが挙げられる。投与対象として好適なクルマエビ科のうち、例えば、食用エビとしては、クルマエビ(Marsupenaeus japonicus)、ミナミクルマエビ(Melicertus canaliculatus)、ウシエビ(ブラックタイガー)(Penaeus monodon)、コウライエビ(Penaeus chinensis)、クマエビ(Penaeus semisulcatus)、フトミゾエビ(Penaeus latisulcatus)、インドエビ(Fenneropenaeus indicus)、ヨシエビ(Metapenaeus ensis)、トサエビ(Metapenaeus intermedius)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
「甲殻類の疾病」には、病原性細菌およびウイルスによって引き起こされる感染症が含まれ、例えば、ビブリオ病、殻病、鰓着生菌症、ラゲニジウム症、ハロクラスチダ症、ハリフトロス症、フサリウム症、アファノミセス症、急性ウイルス血症(PAV)、中腸腺壊死症(BMN)、タウラ症候群(TSV)、伝染性皮下造血器壊死症(IHHNV)、イエローヘッド病(YHV)などが挙げられるが、これらに限定されない。特に好ましくは、急性ウイルス血症(PAV)である。「急性ウイルス血症(PAV)」とは、ホワイトスポットシンドロームウイルス(WSSV)によって引き起こされる甲殻類の感染症(ホワイトスポットシンドローム、白斑病等とも呼ばれる)を意味する。この疾患には、典型的には体表に白い斑点が現れ、極めて高率で死に至るという特徴がある。
【0038】
本発明における「甲殻類の疾病の防除」とは、生体内に侵入した病原性細菌またはウイルスを排除しおよび/またはその増殖を抑制し、その結果、甲殻類の疾病の発症を阻止するかまたはその発症率を有意に減少させることをいう。特に、本発明の組成物は甲殻類の有する生体防御機能を増強することによって、甲殻類の疾病を防除する。「生体防御機能」とは、甲殻類が生来備える免疫システムを指す。甲殻類の免疫システムは、脊椎動物と同様に細胞性因子と体液性因子に分けられる。細胞性因子としては、血球による貪食・包囲化及びノジュール形成等があり、体液性因子としては、フェノールオキシダーゼ前駆体(proPO)活性化をはじめとして、リゾチーム、レクチンおよび補体関連因子がある。甲殻類は病原性細菌またはウイルスの感染に際し、これらの細胞性因子と体液性因子が相互に協力することにより生体防御機能を発揮するものと考えられる。
【0039】
本発明の組成物の投与によって得られる甲殻類の疾病の防除効果は、典型的には、病原性細菌またはウイルス存在下での生存率の上昇(死亡率の低下)によって示される。生存率は、ウイルス曝露後所定の日数において生存している甲殻類の個体数を、ウイルス曝露前の全個体数で除することによって得ることができる。例えば、本発明の組成物を投与された甲殻類の病原性細菌またはウイルス存在下での生存率は、本発明の組成物を投与されていない甲殻類のそれと比べて、およそ1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍またはそれ以上高くなり得る。
【0040】
また、本発明の組成物の投与によって得られる甲殻類の疾病の防除効果は、本発明の組成物を投与された甲殻類の生体防御機能の活性化によって示される。「生体防御機能の活性化」は、総血球数の増加、血球組成の変化(例えば、細胞が小型で細胞質の顆粒が少ない血球(例えば透明細胞など)や細胞が大型で細胞質の顆粒が多い血球(例えば、顆粒球、半顆粒球など)の増加)、血球の貪食活性の上昇、およびフェノールオキシダーゼ活性の上昇によって示される。血球の貪食活性については、甲殻類から血液を無菌的に取り出し、試験管内でラッテクスビーズと混合したのちに、スライドグラス上に塗抹してビーズを貪食した細胞の数および貪食されたビーズの数から貪食活性を算出する。フェノールオキシダーゼ活性については、採血した甲殻類血液をホモジナイズしたのち、L-DOPA (3,4-dihydroxy-L-phenylalanine)を含む緩衝液に添加して静置し、波長640nmにおける吸光度を測定して、メラニン産生の程度を測定する(T. Itami ら、「Aquaculture」, 1998年, 第164巻, p.277-288)。例えば、本発明の組成物を投与された甲殻類の総血球数は、本発明の組成物を投与されていない甲殻類のそれと比べて、およそ1.2倍、1.5倍またはそれ以上に増加し得る。また、本発明の組成物を投与された甲殻類における上記所定の血球数は、本発明の組成物を投与されていない甲殻類のそれと比べて、およそ1.2倍、1.5倍、2倍またはそれ以上に増加し得る。また、本発明の組成物を投与された甲殻類における血球の貪食活性は、本発明の組成物を投与されていない甲殻類のそれと比べて、およそ1.3倍、1.5倍またはそれ以上に増加し得る。さらに、本発明の組成物を投与された甲殻類におけるフェノールオキシダーゼ活性は、本発明の組成物を投与されていない甲殻類のそれと比べて、およそ2倍、3倍、4倍、5倍またはそれ以上に上昇し得る。
【0041】
本発明の組成物の投与によって得られる甲殻類の疾病の防除効果は、一部または完全に、甲殻類が生来有する生体防御機能に依拠するために、その効果は特定の病原性細菌またはウイルスに対する効果に限定されず、様々な病原性細菌またはウイルスに対して有効であり得る。また、本発明の組成物の有するそのような特徴により、薬剤耐性細菌またはウイルスの発生を回避することが可能である。さらに、本発明の組成物が有効成分として含むレクチンは、植物由来であることから薬剤残留の問題も回避することが可能である。
【0042】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0043】
実施例1. 粗精製ゴーヤレクチン投与(注射)による急性ウイルス血症(以下「PAV」と記載する)防除効果
粗精製ゴーヤレクチン溶液を公知の手法(特許第3849945号、特開2006-126025号公報)に基づいて調製し、赤血球凝集力価(以下「力価」と記載する)調整を行った。粗精製ゴーヤレクチンは以下の組成を有するクルマエビ用生理食塩水に加えた。

【0044】
力価調整した粗精製ゴーヤレクチン溶液(力価8,64,512)の0.1mLをクルマエビ(1区15尾)に注射後、ホワイトスポットシンドロームウイルス(以下、「WSSV」と記載する)による浸漬攻撃を行った。すなわち、飼育海水中にウイルス量が1014 copies/μLとなるようにWSSVを調整し、このウイルス懸濁液にクルマエビを4時間浸漬したのち、飼育水槽に戻した。対照区にはウイルスを含まない飼育海水に4時間浸漬した区を用いた。その後2週間のクルマエビの生存率を調査した。
【0045】
結果を図1に示す。WSSVによる浸漬攻撃の11日後における、クルマエビの生残率は対照区で50%であったのに対して、粗精製ゴーヤレクチン溶液接種区では67〜93%と高い生存率を示した。特に、力価64の濃度の粗精製ゴーヤレクチン溶液を接種したクルマエビにおいては、93%と非常に高い生残率を示した。
【0046】
この結果は、粗精製ゴーヤレクチン溶液の注射投与が高いPAV防除効果を有することを示す。
【0047】
次に、精製ゴーヤレクチン溶液を公知の手法(特許第3849945号、特開2006-126025号公報、J. Toyamaら、「Asian Journal of Plant Sciences」, 2008年, 第7(7)巻, p.647-653)に基づいて調製し、力価調整を行った。
【0048】
精製ゴーヤレクチン溶液(力価6.4,64,640)の0.1mLをクルマエビ(1区15尾)に注射後にWSSVによる浸漬攻撃を行い、その後2週間の生存率を調査した。
【0049】
結果を図2に示す。クルマエビの生残率は対照区で27%であったのに対して、力価6.4および640の精製ゴーヤレクチン溶液接種区では高い生存率を示した。特に、力価6.4の濃度の粗精製ゴーヤレクチン溶液を接種したクルマエビにおいては、50%と高い生残率を示した。
【0050】
この結果は、精製ゴーヤレクチン溶液の注射投与が高いPAV防除効果を有することを示す。
【0051】
実施例2. ゴーヤレクチン添加甲殻類用飼料の作製
ゴーヤレクチンを含有する甲殻類用飼料を作製した。図3(A)にその作製工程を模式的に示す。ゴーヤレクチンの失活を防ぐために通常、基礎飼料材料の蒸煮後にこれにゴーヤ種子粉末、粗精製ゴーヤレクチン、または精製ゴーヤレクチンを添加した。ただし、基礎飼料材料にゴーヤ種子粉末を添加した後に蒸煮して作製した飼料も作製した(「5倍区蒸煮」と記載する)。成形後の飼料を図3(B)に示す。ゴーヤ種子粉末、粗精製ゴーヤレクチン、または精製ゴーヤレクチンの基本添加量は、上記の粗精製ゴーヤレクチン投与(注射)実験の結果において効果の見られた総力価6.4(=力価64×注射量0.1mL)相当量を1日の飼料摂取量(約300mg)に含む量とした(すなわち、総力価21000/kg飼料)。
【0052】
作製した飼料におけるゴーヤレクチン活性を以下の表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
作製した飼料は、概ね期待されたゴーヤレクチン活性を保持していた。また、ゴーヤ種子粉末含む基礎飼料材料を蒸煮して作製した飼料(表中、「5倍区蒸煮」として示す)も若干の活性が残存していた。各飼料は、水中での沈降性、保形性およびエビの嗜好性において良好であった。
これらの飼料を、以下の経口投与実験に用いた。
【0055】
実施例3. ゴーヤ種子粉末添加飼料の投与(経口)によるPAV防御効果
ゴーヤ種子粉末を添加した飼料の経口投与実験を行った。実験は、始めに7日間、クルマエビに所定の飼料を投与し、8日目に1%または2%濃度のウイルスを接種した。その後も同じ飼料を投与し続け、ウイルス接種後10日間の生存率を観察した。実験は、表1中ゴーヤ種子粉末1倍区、5倍区および5倍区(添加後蒸煮)で示される各飼料を投与したレクチン添加区とレクチン無添加の対照区により行った。対照区はゴーヤ種子粉末をカゼインで代替した。
【0056】
結果を図4に示す。1%濃度のウイルス接種では、1倍区、5倍区および5倍区(添加後蒸煮)ならびに対照区においてクルマエビの生存率に明確な差は認められなかった(図4(A))。一方、2%濃度のウイルス接種では接種6日後において、対照区のクルマエビが全滅したのに対し、1倍区、5倍区および5倍区(添加後蒸煮)のクルマエビの生残率はそれぞれ60%、44%および30%であった(図4(B))。この結果より、ゴーヤ種子粉末添加飼料の経口投与によるPAV防除効果が確認された。
【0057】
実施例4. 精製ゴーヤレクチン添加飼料の投与(経口)によるPAV防御効果
精製ゴーヤレクチンを添加した飼料の経口投与実験を行った。実験は、始めに7日間、クルマエビに所定の飼料を投与し、8日目にWSSVによる浸漬攻撃を上記方法で行った。その後も同じ飼料を投与し続け、ウイルス攻撃後10日間の生存率を観察した。クルマエビは1試験区当たり12-13尾とし各試験区は2反復とした。実験は、表1中精製ゴーヤレクチン0.1倍区、1倍区、10倍区で示される各飼料を投与したレクチン添加区とレクチン無添加の対照区により行った。
【0058】
結果を図5に示す。ウイルス攻撃後10日目のクルマエビ生残率は、対照区で4%であったのに対して、精製ゴーヤレクチン添加区では10倍区が28%、0.1倍区と1倍区では48%と高かった。この結果より、精製ゴーヤレクチン添加飼料の経口投与によるPAV防除効果が確認された。
【0059】
実施例5. 精製ゴーヤレクチン投与(注射)による生体防御関連因子の動態観察
上記実施例にて示したとおり、ゴーヤレクチンは、クルマエビへの投与によりPAV防除効果が認められた。そこで、その作用機作を明らかにする目的で、精製ゴーヤレクチン溶液をクルマエビに投与(0.1mL注射)し、投与後1、3、5、7、10日目の総血球数、血球のフローサイトグラム、フェノールオキシダーゼ(PO)活性および貪食活性を測定した。本実施例に用いた精製ゴーヤレクチン溶液は、上記実施例1の実験においてWSSVに対する防御効果が最も高かった力価6.4のものである。対照区にはクルマエビ用生理食塩水のみを接種した。
結果を以下の表2−5に示す。
【0060】
下記表2に示すとおり、精製ゴーヤレクチン溶液注射後1および3日目において、精製ゴーヤレクチン投与区は対照区に比べ、総血球数の増加が観察された。
【0061】
【表2】

【0062】
また下記表3に示すとおり、精製ゴーヤレクチン溶液注射後1および3日目におけるフローサイトグラムより、細胞が小型で細胞質の顆粒が少ない血球(「Aリージョン」と称する)および細胞が大型で細胞質の顆粒が多い血球(「Bリージョン」と称する)の増加が観察された。
【0063】
【表3】

【0064】
さらに、下記表4および表5に示すとおり、精製ゴーヤレクチン溶液注射後3および5日におけるフェノールオキシダーゼ活性(「PO活性」と記載する)(表4)ならびに、注射後1および10日目における血球の貪食活性(表5)が対照区に比べそれぞれ有意に高いことが観察された。
【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
以上の結果より、精製ゴーヤレクチン溶液の注射投与はクルマエビの総血球数や血球組成に変化を与え、貪食活性、PO活性の上昇により、当該クルマエビが生来備える生体防御能力を向上できることが示された。
【0068】
実施例6. 精製ゴーヤレクチン投与(経口)による生体防御関連因子の動態観察
精製ゴーヤレクチン添加飼料投与後のクルマエビにおける血球数、フローサイトグラムおよびPO活性を経時的に測定した。すなわち、精製ゴーヤレクチン添加飼料をクルマエビに経口投与し、投与後1、3、5、7、10および15日目に5尾ずつ採取してそれぞれの、血球数、フローサイトグラムおよびPO活性を測定した。実験は、表1中精製ゴーヤレクチン0.1倍区、1倍区、10倍区で示される各飼料を投与したレクチン添加区とレクチン無添加の対照区により行った。
結果を図6−8に示す。
【0069】
精製ゴーヤレクチン添加飼料投与後のクルマエビにおける総血球数は対照区に比べ上昇した(図6)。
【0070】
精製ゴーヤレクチン添加飼料投与後のクルマエビにおける血球のフローサイトグラムは、AリージョンおよびBリージョンともに対照区より高い傾向が観察された(図7)。
【0071】
精製ゴーヤレクチン添加飼料投与後のクルマエビにおけるPO活性は試験期間を通じて対照区より高い値を示した(図8)。
【0072】
以上の結果より、精製ゴーヤレクチン添加飼料の経口投与は、注射投与と同様にクルマエビの総血球数や血球組成に変化を与え、PO活性の上昇により、当該クルマエビが生来備える生体防御能力を向上できることが示された。この結果は、精製ゴーヤレクチン添加飼料の投与が、クルマエビの生体防御能力を向上するのに有効であることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の植物由来成分を含む防除剤は、養殖産業において、甚大な被害をもたらす甲殻類の疾病、特に甲殻類ウイルス血症に対する効果的な治療および/または予防手段として使用することができる。また、本発明の植物由来成分を含む防除剤は、甲殻類の生体防御能力を向上させることができる。これらの特徴から、本発明は甲殻類感染症の新たな予防治療剤として期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物粉末、粗精製植物レクチンおよび/または精製植物レクチンを含有する、甲殻類の疾病を防除するための組成物。
【請求項2】
植物がゴーヤである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
甲殻類の生体防御機能を増強することができる、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
甲殻類の疾病が、甲殻類急性ウイルス血症である、請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
甲殻類用飼料または注射剤の形態である、請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物を甲殻類に投与することを特徴とする、甲殻類の疾病を防除する方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物を甲殻類に投与することにより、甲殻類の生体防御機能を増強することを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
甲殻類の疾病が、甲殻類急性ウイルス血症である、請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
甲殻類がクルマエビ科である、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物、あるいは請求項6〜8のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−241192(P2011−241192A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116158(P2010−116158)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、「地域イノベーション創出総合支援事業重点地域研究開発推進プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】