説明

甲殻類由来と微生物菌体由来のグルコサミンの識別方法

【課題】
本発明における課題は、精度よく、グルコサミンが甲殻類由来か又は微生物菌体由来かを識別することである。
【解決手段】
グルコサミン又はその塩を構成する炭素、窒素及び酸素の少なくとも何れか一つの安定同位体比を測定し、国際標準試料における対応する元素の安定同位体比に対する割合から算出される、炭素安定同位体比δ13Cの値が−15(‰)未満、又は、窒素安定同位体比δ15Nの値が−3.5(‰)以上であれば甲殻類由来のグルコサミン、該炭素安定同位体比δ13Cの値が−15(‰)以上、又は、窒素安定同位体比δ15Nの値が−3.5(‰)未満であれば微生物菌体由来のグルコサミンとする甲殻類由来と微生物菌体由来のグルコサミン識別方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコサミンを、甲殻類由来のグルコサミンか又は微生物菌体由来のグルコサミンかを識別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコサミン(2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコース)は、動物の結合組織や軟骨組織に多く分布し、各器官の強度、柔軟性、弾力性の維持に寄与している。グルコサミンは、生体内でN−アセチルグルコサミンやN−アセチルガラクトサミンに変換された後、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸などのグリコサミノグリカンの構成成分となる。近年、グルコサミンの有する変形性関節症への予防・治療効果や抗炎症作用等に関して数多くの研究報告がなされ、サプリメントとしてのグルコサミン製品の消費量が年々増加している。
【0003】
グルコサミンの工業的な生産方法としては、かに・えび等の甲殻類の殻から抽出したキチン質を塩酸で加水分解して得る方法が現在の主流である。一方、甲殻類を原料とするグルコサミンについては、甲殻類アレルギーの懸念がある。グルコサミンの生産工程において、甲殻類アレルギーのアレルゲンとなるたんぱく質はほとんど分解すると考えられているが、甲殻類アレルギーを有する者にとっては、やはり甲殻類由来のグルコサミンの摂取には慎重にならざるを得ない。また、かに又はえび由来のグルコサミン製品については、食品衛生法による「かに」「えび」の表示が義務づけられている。
グルコサミンの工業的な生産方法としては、アルコール発酵又はクエン酸発酵の際に使用された微生物菌体、特に、細胞壁に含まれるキチン質を分解・精製することによる方法(特許文献1等)が知られており、一部が実用化されている。この微生物由来のグルコサミンは甲殻類を原料としないため、人が摂取しても甲殻類アレルギーを引き起こす心配が無いという利点を有する。
【0004】
上記の通り、現在の市場には大きく分けて2種類の原材料が異なるグルコサミン製品が流通している。これらグルコサミン製品については、一旦精製されると、グルコサミンの外観、物性、微量含有成分等からその原材料を判別することは難しく、現在のところ、グルコサミン原末やグルコサミン含有製品から甲殻類由来のグルコサミンか、微生物菌体由来のグルコサミンかを識別する方法は知られていない。
安定同位体比を用いる識別法としては、食品の製造原料を特定する方法(特許文献2)、農産物の植物種、及び栽培地域を特定する方法(特許文献3)等が知られている。前者は予め安定同位体比が異なることが知られているC3植物及びC4植物中のδ13Cの相違を利用するものであり、後者はδ13C、δD、δ18Oのうち、2者を組合わせて、予め構築されたデータベースに基づいて、農産物の植物種、及び栽培地域を特定しようとするものである。
グルコサミンの安定同位体比に関する報告は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−507233
【特許文献2】特開2003−194778
【特許文献3】特開2005−130755
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
グルコサミン製品において、甲殻類由来のグルコサミンが使用されているか又は、微生物菌体由来のグルコサミンが使用されているかを識別できるようにすることは、原材料表示の真偽の確認等に非常に有用であり、本発明は、実用的な該識別法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、グルコサミンを構成する元素のうち、炭素又は/及び窒素の安定同位体比δ13C値又は/及びδ15N値、又は酸素の安定同位体比δ18Oを指標とすることにより、甲殻類由来のグルコサミンであるか微生物菌体由来のグルコサミンであるかを識別することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、下記(1)〜(6)の発明に関する。
(1) グルコサミン又はその塩を構成する炭素、窒素及び酸素の少なくとも何れか一つの安定同位体比を測定し、国際標準試料における対応する元素の安定同位体比に対する割合から算出される、炭素安定同位体比δ13Cの値が−15(‰)未満、又は、窒素安定同位体比δ15Nの値が−3.5(‰)以上、又は、酸素安定同位体比δ18Oの値が33(‰)以上であれば甲殻類由来のグルコサミン、該炭素安定同位体比δ13Cの値が−15(‰)以上、又は、窒素安定同位体比δ15Nの値が−3.5(‰)未満、又は、酸素安定同位体比δ18Oの値が33(‰)未満であれば微生物菌体由来のグルコサミンとする甲殻類由来と微生物菌体由来のグルコサミン識別方法。
(2) グルコサミン又はその塩を構成する炭素及び窒素の少なくとも何れか一方又は両者の安定同位体比を測定し、該炭素安定同位体比δ13Cの値が−15(‰)未満、又は、該窒素安定同位体比δ15Nの値が−3.5(‰)以上であれば甲殻類由来のグルコサミン、該炭素安定同位体比δ13Cの値が−15(‰)以上、又は、該窒素安定同位体比δ15Nの値が−3.5(‰)未満であれば微生物菌体由来のグルコサミンとする上記(1)に記載の甲殻類由来と微生物菌体由来のグルコサミン識別方法。
(3) 甲殻類がエビ及びカニの何れか一方若しくは両者である上記(1)又は(2)に記載の甲殻類由来と微生物菌体由来のグルコサミン識別方法。
(4) 微生物菌体が真菌に属する微生物菌体である上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の甲殻類由来と微生物菌体由来のグルコサミン識別方法。
(5) グルコサミン又はその塩を構成する酸素の安定同位体比を測定し、該酸素安定同位体比δ18Oの値が33(‰)以上であれば甲殻類由来のグルコサミン、該酸素安定同位体比δ18Oの値が33(‰)未満であれば微生物菌体由来のグルコサミンとする上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の甲殻類由来と微生物菌体由来のグルコサミン識別方法。
(6) 該炭素安定同位体比δ13Cの値が−30から−15(‰)未満であれば甲殻類由来のグルコサミン、該炭素安定同位体比δ13Cの値が−15以上−10(‰)以下であれば微生物菌体由来のグルコサミンとする上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の甲殻類由来と微生物菌体由来のグルコサミン識別方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、グルコサミン又はその塩が、微生物菌体由来のグルコサミンか又は甲殻類由来のグルコサミンかを、容易に且つ高い精度で識別することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の識別方法は、グルコサミン原末又はグルコサミン製品に含まれるグルコサミン又はその塩を構成する炭素、窒素及び酸素の安定同位体比を測定する工程を含み、得られた安定同位体比の、国際標準試料における対応元素の安定同位体比に対する割合から得られたδ値を用いて、指標値に対する大小で、甲殻類由来か又は微生物菌体由来かの識別をするものである。
分析対象のグルコサミン試料の炭素、窒素及び酸素の安定同位体比は、元素分析計を備えた安定同位体比質量分析計(IRMS)を用いることにより容易に得ることができる。
本発明の識別方法におけるグルコサミンの塩としては、例えば、グルコサミンの塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、蟻酸塩、酢酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、フマル酸塩及びリンゴ酸塩等を挙げることができるが、これらに限定されない。以下、本明細書において「グルコサミン」とはグルコサミン及びその塩の両方を意味するものとする。最も一般的にはグルコサミンの塩酸塩である。
【0011】
甲殻類を原料として製造されるグルコサミン(本明細書において「甲殻類由来のグルコサミン」と言う。)は、甲殻類の外骨格等から、希塩酸水溶液によりカルシウムを除き、次いで希水酸化ナトリウム水溶液によりタンパク質を除いて、キチンを得た後、得られたキチンを高濃度の塩酸等の強酸処理により加水分解し、脱アセチル化を行いながら単糖にし、活性炭による脱色、濃縮、再結晶等の精製工程を経ることにより、製造される。
甲殻類としては、大量に入手でき、安価であることから、通常カニ又はエビが使用される。
【0012】
一方、微生物菌体を利用して製造されるグルコサミン(本明細書において「微生物菌体由来のグルコサミン」又は「微生物由来のグルコサミン」と言う。)は、例えば、アルコール発酵、クエン酸発酵に使用されたバイオマスから、必要に応じて、タンパク質及びグルカン等を取り除く前処理をした後、バイオマスに含まれるキチン質を強酸により加水分解し、脱色、濃縮、再結晶等の精製工程を経て、製造することができる。
グルコサミン原料として通常使用される微生物菌体(以下単に菌体ともいう)は、一般的には、発酵工業例えば、アルコール製造やクエン酸製造に利用される微生物の菌体であり、通常、工業的には真菌が用いられている。また、遺伝子組み換えなどでは大腸菌などの細菌を使用する方法も知られている。
【0013】
本発明で分析試料として使用される菌体由来のグルコサミンは、原材料として用いた菌体の種類に関係なく使用することができる。工業的に発酵に使用される代表的な菌としては、真菌及び上記細菌などを挙げることが出来る。本発明の具体例においては真菌の発酵で得られる微生物菌体由来のグルコサミンが使用される。上記発酵に使用される好ましい真菌としては、キチン質を細胞壁に多く含有する糸状菌及び酵母が好ましい。好ましい糸状菌の具体例としては、アスペルギルス属、ペニシリウム属及びムコール属が挙げられ、好ましい酵母の具体例としては、サッカロマイセス属及びカンジダ属が挙げられる。より好ましい真菌としては、クロコウジカビ(黒麹菌、Aspergillus nigerとも言う)、アスペルギルステレウス(Aspergillus terreus)、コウジカビ(Aspergillus oryzae)等のアスペルギルス属に属する微生物菌体である。
該微生物菌体の発酵に使用される培地としては、工業用に使用される培地であれば何れでも良い。通常デンプン等の糖を含む培地が使用される。通常最も多く使用されているのはコーン、蔗糖等のC4植物からの糖を含む培地であり、最も使用されているのがコーン培地である。
菌体由来のグルコサミンを構成する元素の同位体比のδ値は、微生物種というよりは培地の影響が大きいと考えられるが、摂取した微生物菌体中でどのような濃縮が行われるか未解明のため定かでは無い。現在まで、微生物菌体における安定同位体比δ13C又はδ15N等の報告は見当たらない。
【0014】
本発明は、グルコサミン構成元素のうち、炭素、窒素及び酸素の安定同位体比δ13C、δ15N及びδ18O少なくとも何れか一つ、より好ましくは、炭素安定同位体比δ13C及び窒素安定同位体比δ15Nのいずれか一方又は両方を指標として、グルコサミンが、甲殻類由来のものか、又は、微生物菌体由来のものかを識別するものである。
【0015】
本発明における炭素安定同位体比(δ13C)、窒素安定同位体比(δ15N)及び酸素安定同位体比(δ18O)は、一般的によく知られているように、標準試料における対応する元素の安定同位体比に対する割合から、それぞれ下記式(1)、(2)及び(3)により、それぞれ求められる。
(1)δ13C={(13C/12C)試料/(13C/12C)標準−1}×1000(‰)
(2)δ15N={(15N/14N)試料/(15N/14N)標準−1}×1000(‰)
(3)δ18O={(18O/16O)試料/(18O/16O)標準−1}×1000(‰)
但し、(13C/12C)試料は試料の12Cに対する13Cの同位体比を、(13C/12C)標準は標準試料の12Cに対する13Cの同位体比を、(15N/14N)試料は試料の14Nに対する15Nの同位体比を、(15N/14N)標準は標準試料の14Nに対する15Nの同位体比を、(18O/16O)試料は試料の16Oに対する18Oの同位体比を、(18O/16O)標準は標準試料の16Oに対する18Oの同位体比をそれぞれ示す。
標準試料としては通常国際標準試料が使用される。
炭素の国際標準試料は米国サウスカロライナ州のPeeDee層から出土したヤイシ類の化石であり、窒素の国際標準試料は大気中の窒素であり、酸素及び水素は標準平均海水である。
【0016】
現在まで、グルコサミン構成元素の安定同位体比δ13C、δ15N、δ18O及びδDのいずれについても報告されていない。
本発明者らは、グルコサミンのこれらの安定同位体比δ13C、δ15N、δ18O及びδDの値により、甲殻類由来のグルコサミンと微生物菌体由来のグルコサミンの識別の可能性を検討するため、それぞれの安定同位体比を測定し、国際標準試料の各元素のそれらの値に対する割合を算出し、グルコサミンの構成元素の安定同位体比δ13C、δ15N、δ18O及びδDの値を算出した。
δDの値は算出したが、甲殻類から取り出したキチンを加水分解してグルコサミン又はその塩とする工程があるため、水素原子として、加水分解工程で使用された水の水素原子が入り、本発明の目的とする識別には適さないと考えられることから、指標から外した。
その結果、安定同位体比δ13C、δ15N及びδ18O、好ましくはδ13C及びδ15Nにより、より好ましくはδ13Cの値は、一つの指標値を設けることで、甲殻類由来のグルコサミンと微生物菌体由来のグルコサミンの両者を識別できることを見出したものである。
【0017】
即ち、本発明者らの検討によれば、試料として用いた甲殻類(エビ及カニ)由来のグルコサミンでは、何れも炭素安定同位体比δ13Cの値は、−15(‰)未満であり、より具体的には−15未満から−30(‰)程度であり、更に具体的には−20〜−25(‰)の間の値を示し、微生物菌体由来では、−15(‰)以上であり、より具体的には−15〜−10(‰)程度であり、更に具体的には−11〜−13(‰)の間の値を示した。エビ又は/及びカニの種類又は産地等により上記δ13Cの値が多少ばらつくことが当然考えられるが、上記の通り、甲殻類(エビ及カニ)由来と微生物菌体由来では、大きく値が開いていることから、δ13Cの指標値を−15(‰)として、−15(‰)未満のものは甲殻類のグルコサミン、−15(‰)以上のものは微生物菌体由来のグルコサミンとすることにより、両者を明確に識別することができると考えられる。
更に、δ13Cの値が−30から−15(‰)未満であれば甲殻類のグルコサミンとし、−15以上−10(‰)以下であれば微生物菌体由来のグルコサミンとすることによって、より明確に両者を識別することができると考えられる。
【0018】
また、窒素安定同位体比δ15Nにおいては、甲殻類(エビ及カニ)由来のグルコサミンでは、略−2〜−3(‰)であり、微生物菌体由来のグルコサミンでは、略−4〜−5であることから、δ15Nの指標値を−3.5(‰)として、−3.5(‰)以上であれば甲殻類由来のグルコサミン、−3.5(‰)未満であれば微生物菌体由来のグルコサミンと略識別できると考えられる。しかし、δ15Nの場合、両者の差がそれほど顕著でないことから、甲殻類の産地又は種類により、上記指標値を下回ることが考えられるため、δ15Nの値単独では精度のよい識別は難しい可能性がある。従って、上記のδ13Cの値又は/及び次に記載する酸素安定同位体比δ18Oを併用して、識別するのが好ましい。
【0019】
また、酸素安定同位体比δ18Oにおいては、甲殻類(エビ及カニ)由来のグルコサミンでは、略33〜35(‰)であり、微生物菌体由来のグルコサミンでは、略31〜32であり、δ18Oの指標値を33(‰)として、33(‰)以上であれば甲殻類由来のグルコサミン、33(‰)未満であれば微生物菌体由来のグルコサミンと略識別できると考えられる。しかしながら、甲殻類の産地又は種類により、上記指標値を下回ることが考えられることから、δ18Oの値単独では精度のよい識別は難しい可能性がある。従って、上記の炭素安定同位体比δ13Cの値又は/及び窒素安定同位体比δ15Nの値を併用して、識別するのが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下に本発明の実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。これらは例示的なものであり、本発明は以下の実施例等に制限されるものではない。
【0021】
甲殻類由来のグルコサミン及び微生物由来のグルコサミンとして下記表1の試料1〜5のグルコサミン塩酸塩を用いて、各元素の安定同位体比の測定、及び、国際標準試料における対応元素の安定同位体比に対する割合から各元素のδ値の算出を行った。
【0022】
1.炭素及び窒素の安定同位体分析
試料1〜3のグルコサミンは甲殻類を原料とするものであり、試料4及び5のグルコサミンは、バイオアルコール製造に使用された菌体(黒麹菌、培地:トウモロコシ培地)から製造されたものである。
【0023】
【表1】

【0024】
元素分析計(Flash2000 Organic Elemental Analyzer、Thermo Fisher Scientific社製)を接続した質量分析計(DELTA V Advantage、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、試料1〜5のグルコサミンにつき、炭素及び窒素の安定同位体比の測定を同時に行った。
秤量したグルコサミン試料をスズカプセルに包み、元素分析計で燃焼及び分離して得た二酸化炭素及び窒素ガスを、オンラインで接続された安定同位体比質量分析計(IRMS)に導入し、分析を行った。
その測定条件を下記表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
各試料の13C/12C値及び15N/14N値を標準試料の値と比較し、前記式(1)及び(2)により、δ13C及びδ15Nを算出した。炭素の標準試料としては米国サウスカロライナ州のPeeDee層から出土したヤイシ類の化石を使用し、窒素の標準試料としては大気中の窒素を使用した。
各試料のδ13C及びδ15Nの測定結果を下記表3に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
δ13Cを測定した結果、エビ又はカニ由来のグルコサミンのδ13Cは−20〜−25‰程度であり、菌体から得られたグルコサミンのδ13Cは−11.5〜−12.2‰程度であった。
また、δ15Nを測定した結果、エビ又はカニ由来のグルコサミンのδ15Nは−1.8〜−2.7‰程度であり、菌体から得られたグルコサミンのδ15Nは−4.8〜−5.0‰程度であった。
【0029】
2.水素及び酸素安定同位体比の分析・測定
熱分解元素分析計(Thermal Conversion Elemental Analyzer、Thermo Fisher Scientific社製)を接続した質量分析計(DELTA V Advantage、Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、乾燥・粉砕した試料1〜5を銀カプセルに包み、熱分解元素分析計で分解・分離して得た水素ガス・一酸化炭素ガスをオンラインで接続された安定同位体比質量分析計(IRMS)に導入し、水素及び酸素安定同位体比の分析・測定を行った。
得られた結果は標準試料における対応する元素の安定同位体比に対する割合から水素安定同位体比δD及び酸素安定同位体比δ18Oを算出した。
元素の安定同位体比は国際標準試料からの千分偏差で表した。水素及び酸素安定同位体の標準試料は標準平均海水である。
その結果を表4に示す。
【0030】
【表4】

【0031】
本発明の識別方法は、前記の通り、グルコサミンを構成する炭素、窒素及び酸素の安定同位体比の少なくともいずれか一方、好ましくは炭素安定同位体比δ13C値単独、又は、必要に応じて、δ15N値又は/及びδ18O値(好ましくはδ15N値)の双方又は3者を指標として、グルコサミンが甲殻類由来か又は微生物菌体由来かを識別するものである。好ましい態様の一つとして、炭素及び窒素の安定同位体比の双方を指標とすることにより、より精度の高い識別を行うことができる可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明により、精度よく、グルコサミンが甲殻類由来か又は微生物菌体由来かを識別できることから、商品表示における真偽を容易に確認出来、甲殻類アレルギーの人が甲殻類由来のグルコサミンの摂取を避けることが可能であり、産業上非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコサミン又はその塩を構成する炭素、窒素及び酸素の少なくとも何れか一つの安定同位体比を測定し、国際標準試料における対応する元素の安定同位体比に対する割合から算出される、炭素安定同位体比δ13Cの値が−15(‰)未満、又は、窒素安定同位体比δ15Nの値が−3.5(‰)以上、又は、酸素安定同位体比δ18Oの値が33(‰)以上であれば甲殻類由来のグルコサミン、該炭素安定同位体比δ13Cの値が−15(‰)以上、又は、窒素安定同位体比δ15Nの値が−3.5(‰)未満、又は、酸素安定同位体比δ18Oの値が33(‰)未満であれば微生物菌体由来のグルコサミンとする甲殻類由来と微生物菌体由来のグルコサミン識別方法。
【請求項2】
グルコサミン又はその塩を構成する炭素及び窒素の少なくとも何れか一方又は両者の安定同位体比を測定し、該炭素安定同位体比δ13Cの値が−15(‰)未満、又は、該窒素安定同位体比δ15Nの値が−3.5(‰)以上であれば甲殻類由来のグルコサミン、該炭素安定同位体比δ13Cの値が−15(‰)以上、又は、該窒素安定同位体比δ15Nの値が−3.5(‰)未満であれば微生物菌体由来のグルコサミンとする請求項1に記載の甲殻類由来と微生物菌体由来のグルコサミン識別方法。
【請求項3】
甲殻類がエビ及びカニの何れか一方若しくは両者である請求項1又は2に記載の甲殻類由来と微生物菌体由来のグルコサミン識別方法。
【請求項4】
微生物菌体が真菌に属する微生物菌体である請求項1〜3のいずれか一項に記載の甲殻類由来と微生物菌体由来のグルコサミン識別方法。
【請求項5】
グルコサミン又はその塩を構成する酸素の安定同位体比を測定し、該酸素安定同位体比δ18Oの値が33(‰)以上であれば甲殻類由来のグルコサミン、該酸素安定同位体比δ18Oの値が33(‰)未満であれば微生物菌体由来のグルコサミンとする請求項1〜4のいずれか一項に記載の甲殻類由来と微生物菌体由来のグルコサミン識別方法。
【請求項6】
該炭素安定同位体比δ13Cの値が−30から−15(‰)未満であれば甲殻類由来のグルコサミン、該炭素安定同位体比δ13Cの値が−15以上−10(‰)以下であれば微生物菌体由来のグルコサミンとする請求項1〜5のいずれか一項に甲殻類由来と微生物菌体由来のグルコサミン識別方法。

【公開番号】特開2012−251899(P2012−251899A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125275(P2011−125275)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(505420736)プロテインケミカル株式会社 (2)
【出願人】(595087325)財団法人日本分析センター (1)
【Fターム(参考)】