説明

畜産廃水の処理方法

【課題】 畜産廃水中の汚濁物質を容易に凝集させることができ、しかも既存の廃水処理装置を使用できる畜産廃水の処理方法を提供する。
【解決手段】 本発明の畜産廃水の処理方法は、畜産施設より発生する汚濁物質を含む畜産廃水に、無機塩とカチオン系及び/又は両性系の高分子凝集剤とを含有する凝集用溶液を添加して廃水処理する方法であり、凝集用溶液中の無機塩含有量が、高分子凝集剤量の1質量%以上であり、高分子凝集剤が、特定の単位を有し、4質量%食塩水に濃度0.5質量%で含有させた際の溶液の粘度が30mPa・s以上になるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜産施設から発生する汚濁物質(例えば、家畜糞尿等)を含む畜産廃水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、牛、豚、馬、鶏等の家畜を飼育する畜産施設では、家畜から出る糞尿を敷きわら、籾殻等に吸収させ堆肥化することで有効活用してきた。しかし、近年、酪農の大規模化や、いわゆる野積み、素掘り等の処理に対する規制が厳しくなってきているため、家畜糞尿の効率的な処理方法の開発が急務となっている。
そこで、家畜糞尿の処理方法としては、高分子凝集剤を用いた廃水処理法を適用することが知られている。そのなかで近年増えている廃水処理法は、例えば、家畜の原糞尿(汚濁物質)中の大きな固形分をセパレーターで取り除いた液に、カチオン性または両性の高分子凝集剤を含む水溶液を添加して固形分を凝集させ、固形分を脱水分離した後、残った濾液を曝気槽に送り、活性汚泥処理する方法である。その際、曝気槽から排出される余剰汚泥は、セパレーターで分離された原糞尿と混合した後に高分子凝集剤で凝集分離する。そして、凝集分離により得られた固形分は、発酵処理されて堆肥化される。
【0003】
上記廃水処理法では、廃液を全量曝気槽で処理する場合に比べ固形分が除去されるため、曝気槽の負荷増大を抑えることができる一方で、原糞尿を多く含む畜産廃水をそのまま凝集処理しなければならないため、凝集処理が難しく、かつ処理水の濁度やCOD値が低下しにくいという問題があった。これは、ひとつには原糞尿を多く含む廃水は有機分が多く、アニオン荷電が多いため、アニオン荷電を中和するカチオン性または両性の凝集剤が多量に吸着されるためである。また、畜産廃水は、高塩濃度でかつpHが高いため、凝集剤の吸着速度が遅くなり、凝集剤の反応性が低下するためである。特に、反応性の低下は分子量の高い高分子凝集剤においては顕著である。
この対策として、特許文献1では高分子凝集剤を分割添加する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2004−202401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の処理方法は複雑であるため、既存の廃水処理装置を使用できないという問題があった。
凝集剤の反応性を高めるためには、畜産廃水に添加する高分子凝集剤水溶液の液粘度を下げる方法が考えられるが、高分子凝集剤を含み、高粘度化しやすい高分子凝集剤水溶液の粘度を下げるためには、希薄溶液にしなければならない。ところが、希薄な高分子凝集剤水溶液を用いると、高分子凝集剤水溶液の量が多くなるため、廃水処理装置を大きくしなければならないし、必要とする水の量が多くなるという問題があり、現実的ではない。
また、高分子凝集剤の分子量を下げることにより高分子凝集剤水溶液の粘度を下げることもできるが、その場合には、固形分の脱水性が低下するので、実用的ではない。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、畜産廃水中の汚濁物質を容易に凝集させることができ、しかも既存の廃水処理装置を使用できる畜産廃水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の高分子凝集剤に特定の塩類を共存させることにより、畜産廃水中の汚濁物質を容易に凝集できることを見出し、以下の畜産廃水の処理方法を発明した。
すなわち、本発明の畜産廃水の処理方法は、畜産施設より発生する汚濁物質を含む畜産廃水に、無機塩とカチオン系及び/又は両性系の高分子凝集剤とを含有する凝集用溶液を添加して廃水処理する畜産廃水の処理方法であって、
凝集用溶液中の無機塩含有量が、高分子凝集剤量の1質量%以上であり、
高分子凝集剤が、下記構造式(1)で示される単位を有し、4質量%食塩水に濃度0.5質量%で含有させた際の溶液の粘度が30mPa・s以上になるものであることを特徴とする。
【0006】
【化1】

【0007】
構造式(1)中、Rは水素またはメチル基を示し、R,Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基またはアルコキシル基を示し、Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシル基、ベンジル基のいずれかを示し、Aは酸素またはNH、Bは炭素数1〜4のアルキレン基を示し、Xは、Cl、Br、1/2SO2− を示す。
【発明の効果】
【0008】
本発明の畜産廃水の処理方法によれば、畜産廃水中の汚濁物質を容易に凝集させることができ、しかも既存の廃水処理装置を使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の畜産廃水の処理方法は、畜産施設より発生する汚濁物質を含む畜産廃水に、無機塩と高分子凝集剤とを含有する凝集用溶液を添加して廃水処理する方法である。
【0010】
凝集用溶液に含まれる無機塩としては、硫酸塩が好ましく、さらには、硫酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩がより好ましく、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムが特に好ましい。
凝集用溶液中の無機塩の含有量は、凝集用溶液中の高分子凝集剤量の1質量%以上であり、1〜50質量%であることが好ましい。無機塩含有量が高分子凝集剤量の1質量%未満では、凝集用溶液の粘度を低下させることが困難である。
【0011】
凝集用溶液に含まれる高分子凝集剤は、カチオン系凝集剤及び/又は両性系凝集剤であって、上記構造式(1)で示される単位を有しているビニル系ポリマーである。高分子凝集剤における構造式(1)で示される単位の含量は5〜100モル%であることが好ましく、50〜100モル%であることがより好ましい。また、高分子凝集剤は、上記構造式(1)で示されたそれぞれ異なる2種以上の単位を有するビニル系ポリマーであってもよい。
【0012】
構造式(1)中、Rは水素またはメチル基である。
,Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基)またはアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基)である。
は水素、炭素数1〜3のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基)、ベンジル基のいずれかである。
また、Aは酸素またはNH、Bは炭素数1〜4のアルキレン基(メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基)を示す。
構造式(1)で示される単位の具体例としては、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
構造式(1)で示される単位を有していることにより、高分子はカチオン性を示し、汚泥粒子のアニオン性電荷を中和すると共に、表面に吸着架橋し分散粒子を凝集させることができる。さらに畜産廃水のようなpHの高い汚泥においても構造式(1)のカチオン基はその解離度が低下しないので好ましい。また他のカチオン性を示す単位に比べ安価で性能的にも好ましい。
【0013】
また、高分子凝集剤は、上記構造式(1)に示される単位以外の単位として、(メタ)アクリルアミド単位、(メタ)アクリル酸(塩)単位を有してもよく、さらに微量の架橋成分を有していてもよい。
【0014】
高分子凝集剤は、4質量%食塩水に濃度0.5質量%で含有させた際の溶液の粘度が30mPa・s以上になるものであり、40mPa・s以上になるものが好ましい。4質量%食塩水に濃度0.5質量%で含有させた際の溶液の粘度が30mPa・s以上になるもの、すなわち、分子量が高いものであることにより、凝集力を向上させることができる。なお、溶液の粘度はポリマーの分子量に相関し、溶液の粘度が高い程、分子量が高くなる(あるいは、溶液の粘度が低い程、分子量が低くなる)関係にある。
【0015】
高分子凝集剤は、周知の重合方法、例えば、水溶液重合、懸濁重合、乳化重合、光重合等により得られる。また、高分子凝集剤の形態としては、例えば、粉末、溶液、エマルジョン、ディスパージョンなどのいずれであっても構わない。
【0016】
凝集用溶液に含まれる高分子凝集剤は1種類であってもよいが、分子量、カチオン量等がそれぞれ異なる2種類以上であってもよい。さらに、必要に応じて、ノニオン性、アニオン性の凝集剤や無機凝集剤を併用しても構わない。
【0017】
凝集用溶液中の高分子凝集剤濃度は0.05〜0.5質量%であることが好ましく、0.1〜0.3質量%であることが好ましい。
【0018】
凝集用溶液の調製方法としては特に限定されず、例えば、無機塩を高分子凝集剤の溶液に添加してもよいし、無機塩の水溶液に高分子凝集剤を溶解してもよいし、高分子凝集剤の溶液に無機塩を固体のまままたは無機塩の水溶液を添加してもよい。
【0019】
上記凝集用溶液が添加される畜産廃水は、畜産施設より発生する汚濁物質のみを含む廃水であってもよいし、該凝集処理の後工程の曝気槽から引き抜かれた余剰汚泥と前記汚濁物質とを含んだ廃水であってもよい。汚濁物質と余剰汚泥とを含む場合には、汚濁物質と余剰汚泥との質量比が5:5〜10:0であることが好ましい。
畜産施設より発生する汚濁物質としては、牛、豚、馬、鶏等の家畜の糞尿が挙げられる。
また、畜産廃水に上記凝集用溶液を添加する方法としては特に制限されず、周知の方法を採用できる。
【0020】
上記凝集用溶液を畜産廃水に添加することにより、汚濁物質が凝集して固形分(フロック)が形成する。この固形分を、各種の分離装置により分離した後、ウェット状態の固形分を脱水する。脱水に使用する脱水装置としては、例えば、プレス脱水、遠心デカンター、スクリュープレス、多重円盤式脱水機、ロータリープレスフィルター、真空脱水機などが挙げられる。
また、固形分を分離して残存した濾液を、曝気槽に送り、活性汚泥処理し、汚泥を分離除去して処理水を得る。
以上のように畜産廃水を廃水処理することにより、乾燥固形分と処理水とを得る。
【0021】
上述した畜産廃水の処理方法では、凝集用溶液中に特定の高分子凝集剤の他に塩類が含まれているため、希薄にせずに凝集用溶液の粘度を下げることができる。また、ここで選択された無機塩類は高分子凝集剤の反応性を阻害しない。その結果、凝集速度を向上させることができるため、畜産廃水中の汚濁物質を容易に凝集させることができ、固形分分離後の濾液の濁度およびCOD値を小さくすることができる。しかも、この処理方法では、凝集用溶液を希薄にする必要がないから、既存の廃水処理装置を使用できる。
さらに、この処理方法では、添加した高分子凝集剤が有効に使用されるためその使用量を削減することができる。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明をより具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0023】
<高分子凝集剤溶液>
以下の例で使用した高分子凝集剤は下記の通りである。
高分子凝集剤溶液A:高分子凝集剤濃度0.15質量%
高分子凝集剤;アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド/アクリルアミド=80/20(モル比)共重合体
4質量%食塩水中のポリマー濃度0.5質量%溶液の粘度;80mPa・s
高分子凝集剤溶液B:高分子凝集剤濃度0.15質量%
高分子凝集剤;アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド/アクリルアミド=80/20(モル比)共重合体
4質量%食塩水中のポリマー濃度0.5質量%溶液の粘度;17mPa・s
高分子凝集剤溶液C:高分子凝集剤濃度0.15質量%
高分子凝集剤;アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド/アクリルアミド=80/20(モル比)共重合体
4質量%食塩水中のポリマー濃度0.5質量%溶液の粘度;35mPa・s なお、4質量%食塩水中のポリマー濃度0.5質量%溶液の粘度は、高分子凝集剤2.5g、食塩20gを純水に溶解し、合計500gの水溶液を調製し、その水溶液を25℃でB型回転粘度計(60rpm)で測定することにより求めた。
【0024】
(実施例1)
高分子凝集剤溶液Aに、高分子凝集剤量の20質量%の硫酸アンモニウムを添加して、凝集用溶液を調製した。次いで、T畜産廃水(総固形分8.73質量%)300mlをビーカーに取り、そのビーカーに凝集用溶液を高分子凝集剤添加量が畜産廃水に対して600ppmになるよう添加した。その後、ビーカー内の畜産廃水をスパチュラで30秒間、100回転撹拌して処理したところ、直径5〜10mmのフロックを形成した。そして、処理後の畜産廃水を48メッシュの濾布で濾過したところ、10秒間で110mlの濾液が得られた。濾液には、ほとんど濁りがなかった。また、濾布上の固形分を掌圧で圧搾して水を絞った後の、固形分の濾布からの剥離性は良好であった。
【0025】
(比較例1)
高分子凝集剤溶液Aに硫酸アンモニウムを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして畜産廃水を処理したところ、2分間撹拌し続けても、フロックを形成せず、濾過しても固形分と水とを分離できなかった。
【0026】
(比較例2)
高分子凝集剤溶液Aの代わりに、高分子凝集剤溶液Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして畜産廃水を処理したところ、30秒間の撹拌でフロックを形成したが、フロック径は1mm以下と小さかった。そのため、48メッシュの濾布で濾過しても濾液は10秒で50ml以下しか得られず、しかも濾液は濁っていた。
【0027】
(実施例2)
高分子凝集剤溶液Aに高分子凝集剤量の30質量%の硫酸アンモニウムを添加して凝集用溶液を調製し、その凝集用溶液をP畜産廃水(総固形分6.91質量%)に添加した。凝集用溶液の添加量700ppmで30秒間の攪拌により、直径3〜4mmのフロックを形成した。48メッシュの濾布で濾過し、濾布からの剥離性の良い固形分と濁りのない濾液とに分離できた。濾液量は10秒間で125mlであった。
【0028】
(実施例3)
硫酸アンモニウムの代わりに硫酸ナトリウムを用いたこと以外は実施例2と同様にして畜産廃水を処理したところ、実施例2と同様に添加量700ppmで30秒間の攪拌により直径3〜4mmのフロックを形成した。そして、濾布で濾過したところ、濾布からの剥離性の良い固形分と濁りのない濾液とに分離できた。濾液量は10秒間で125mlであった。
【0029】
(比較例3)
硫酸アンモニウムを添加しなかったこと以外は実施例2と同様にして畜産廃水を処理した。その結果、凝集はみられたが、フロックは不明瞭で水ぶくれ状態であり、濾過できなかった。また、凝集用溶液の添加量を800ppmまで増やしても状況は改善されなかった。
【0030】
(実施例4)
高分子凝集剤溶液Cに高分子凝集剤量の3質量%の硫酸アンモニウムを添加して凝集用溶液を調製し、その凝集用溶液をY農場廃水(総固形分質量5%)に添加した。凝集用溶液の添加量350ppmで30秒間の攪拌により、直径3〜4mmのフロックを形成した。48メッシュの濾布で濾過し、濾布からの剥離性の良い固形分と濁りのない濾液とに分離できた。濾液量は10秒間で120mlであった。
【0031】
(比較例4)
硫酸アンモニウムの添加をしない以外は実施例4と同様に処理を行ったところ凝集はみられたが、フロックは不明瞭で水ぶくれ状態であり、濾過が極めて遅く、かつ濾物の濾布からの剥離性が極めて悪かった。また、凝集用溶液の添加量を1000ppmまで増やしても状況は改善されなかった。
【0032】
無機塩と特定の高分子凝集剤とを含有する凝集用溶液を畜産廃水に添加した実施例1〜4の処理方法では、畜産廃水中の汚濁物質を容易に凝集させることができた。
これに対し、凝集用溶液に無機塩を添加しなかった比較例1,3,4の処理方法では、畜産廃水中の汚濁物質の凝集は困難であった。
また、4質量%食塩水に濃度0.5質量%で含有させた際の溶液の粘度が30mPa・s未満になる高分子凝集剤を用いた比較例2の処理方法では、汚濁物質の凝集が不充分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
畜産施設より発生する汚濁物質を含む畜産廃水に、無機塩とカチオン系及び/又は両性系の高分子凝集剤とを含有する凝集用溶液を添加して廃水処理する畜産廃水の処理方法であって、
凝集用溶液中の無機塩含有量が、高分子凝集剤量の1質量%以上であり、
高分子凝集剤が、下記構造式(1)で示される単位を有し、4質量%食塩水に濃度0.5質量%で含有させた際の溶液の粘度が30mPa・s以上になるものであることを特徴とする畜産廃水の処理方法。
【化1】

構造式(1)中、Rは水素またはメチル基を示し、R,Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基またはアルコキシル基を示し、Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシル基、ベンジル基のいずれかを示し、Aは酸素またはNH、Bは炭素数1〜4のアルキレン基を示し、Xは、Cl、Br、1/2SO2− を示す。

【公開番号】特開2006−289316(P2006−289316A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117037(P2005−117037)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】