説明

畜産廃水の処理方法

【課題】 畜産廃水中の汚濁物質を容易に凝集させることができ、しかも既存の廃水処理装置を使用できる畜産廃水の処理方法を提供する。
【解決手段】 本発明の畜産廃水の処理方法は、畜産施設より発生する汚濁物質を含む畜産廃水をセパレーターで除去した後に高分子凝集剤を添加する凝集剤添加工程を有する畜産廃水の処理方法において、凝集剤添加工程の前に、畜産廃水に含まれる汚濁物質中の粗粒分を10〜60質量%に調節する粗粒分調節工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜産施設から発生する汚濁物質(例えば、家畜糞尿等)を含む畜産廃水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、牛、豚、馬、鶏等の家畜を飼育する畜産施設では、家畜から出る糞尿を敷きわら、籾殻等に吸収させ堆肥化することで有効活用してきた。しかし、近年、酪農の大規模化や、いわゆる野積み、素掘り等の処理に対する規制が厳しくなってきているため、家畜糞尿の効率的な処理方法の開発が急務となっている。
そこで、家畜糞尿の処理方法としては、高分子凝集剤を用いた廃水処理法を適用することが知られている。そのなかで近年増えている廃水処理法は、例えば、家畜の原糞尿(汚濁物質)中の大きな固形分をセパレーターで取り除いた液に、カチオン性または両性の高分子凝集剤を含む水溶液を添加して固形分を凝集させ、固形分を脱水分離した後、残った濾液を曝気槽に送り、活性汚泥処理する方法である。その際、曝気槽から排出される余剰汚泥は、セパレーターで分離された原糞尿と混合した後に高分子凝集剤で凝集分離する。そして、凝集分離により得られた固形分は、発酵処理されて堆肥化される。
【0003】
上記廃水処理法では、廃液を全量曝気槽で処理する場合に比べ固形分が除去されるため、曝気槽の負荷増大を抑えることができる一方で、原糞尿を多く含む畜産廃水をそのまま凝集処理しなければならないため、凝集処理が難しく、かつ処理水の濁度やCOD値が低下しにくいという問題があった。これは、ひとつには原糞尿を多く含む廃水は有機分が多く、アニオン荷電が多いため、アニオン荷電を中和するカチオン性または両性の凝集剤が多量に吸着されるためである。また、畜産廃水は、高塩濃度でかつpHが高いため、凝集剤の吸着速度が遅くなり、凝集剤の反応性が低下するためである。特に、反応性の低下は分子量の高い高分子凝集剤においては顕著である。
この対策として、特許文献1では高分子凝集剤を分割添加する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2004−202401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の処理方法は複雑であるため、既存の廃水処理装置を使用できないという問題があった。
凝集剤の反応性を高めるためには、畜産廃水に添加する高分子凝集剤水溶液の液粘度を下げる方法が考えられるが、高分子凝集剤を含み、高粘度化しやすい高分子凝集剤水溶液の粘度を下げるためには、希薄溶液にしなければならない。ところが、希薄な高分子凝集剤水溶液を用いると、高分子凝集剤水溶液の量が多くなるため、廃水処理装置を大きくしなければならないし、必要とする水の量が多くなるという問題があり、現実的ではない。
また、高分子凝集剤の分子量を下げることにより高分子凝集剤水溶液の粘度を下げることもできるが、その場合には、固形分の脱水性が低下するので、実用的ではない。
本発明は、前記事情を鑑みてなされたものであり、畜産廃水中の汚濁物質を容易に凝集させることができ、しかも既存の廃水処理装置を使用できる畜産廃水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、畜産廃水中の汚濁物質に含まれる粗粒分の量を調節することにより、畜産廃水中の汚濁物質を容易に凝集できることを見出し、以下の畜産廃水の処理方法を発明した。
すなわち、本発明の畜産廃水の処理方法は、畜産施設より発生する汚濁物質を含む畜産廃水をセパレーターで除去した後に高分子凝集剤を添加する凝集剤添加工程を有する畜産廃水の処理方法において、
凝集剤添加工程の前に、畜産廃水に含まれる汚濁物質中の粗粒分を10〜60質量%に調節する粗粒分調節工程を有することを特徴とする。
本発明の畜産廃水の処理方法においては、粗粒分調節工程にて、畜産廃水に凝集核成分を添加することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の畜産廃水の処理方法によれば、畜産廃水中の汚濁物質を容易に凝集させることができ、しかも既存の廃水処理装置を使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の畜産廃水の処理方法は、畜産施設より発生する汚濁物質を含む畜産廃水をセパレーターで除去した後に高分子凝集剤を添加する凝集剤添加工程を有して廃水処理する方法であり、凝集剤添加工程の前に、畜産廃水に含まれる汚濁物質中の粗粒分の量を調節する粗粒分調節工程を有する方法である。
【0008】
粗粒分調節工程では、汚濁物質中の粗粒分を10〜60質量%、好ましくは20〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%に調節する。汚濁物質中の粗粒分を10%未満に調節すると、畜産廃水中の汚濁物質の凝集が困難になり、60質量%超に調節すると、処理後の固形分が多くなる上に、高分子凝集剤の使用量が多くなるため、処理効率が低下する。
ここで、粗粒分とは、汚濁物質を100メッシュの網で濾過し、洗浄した後に網上に残存した残存物の、汚濁物質の総固形分に対する質量%のことである。
【0009】
汚濁物質中の粗粒分の含有量を前記範囲に調節する方法としては、セパレーターの目開きを調節する方法も考えられるが、本発明ではセパレーターで粗粒分を除去した後に粗粒分を添加して調節する方法が好ましい。
【0010】
畜産廃水中の粗粒分の添加方法としては特に制限されないが、汚濁物質の凝集により粗粒分が容易に増加することから、畜産廃水に凝集核成分を添加する方法が好ましい。その際、凝集核成分としては、汚濁物質凝集における核になる微粒子であればよく、中でも、生分解性を有し、かつ植物の生育を阻害せずに、発酵堆肥化するものが好ましい。
また、より好ましい凝集核成分として、植物由来物質を微細化した粒子が挙げられる。植物由来物質を微細化した粒子としては、例えば、木くず、おがくず、故紙、籾殻や、草、落ち葉、畳などを微細化したもの、腐葉土などが挙げられる。
さらに、凝集核成分としては、例えば、貝殻やかに等の甲羅などを粉砕したもの、発酵を阻害しないカオリン等の無機分、さらに汚泥、セパレータで除去された固形分なども使用できる。
【0011】
上記粗粒分調節工程後、凝集剤添加工程を行う。凝集剤添加工程にて、畜産廃水に添加される高分子凝集剤としては、有機分の高い畜産廃水の処理に適していることから、カチオン性または両性のものが好ましく、下記構造式(1)〜(3)のカチオン性単位を有するポリマーが好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
【化3】

【0015】
構造式(1)中、Rは水素またはメチル基を示す。
,Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基)またはアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基)を示す。
は水素、炭素数1〜3のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基)、ベンジル基のいずれかを示す。
また、Aは酸素またはNH、Bは炭素数1〜4のアルキレン基(メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基)を示す。
また、構造式(1)〜(3)中のXは、Cl、Br、1/2SO2−を示す。
構造式(1)で示される単位の具体例としては、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
【0016】
構造式(1)で示されるカチオン性単位を有するポリマーでは、構造式(1)で示されるカチオン性単位以外の単位として、例えば、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。ポリマー中に構造式(1)で示されるカチオン性単位が1種含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。また、微量の架橋成分が含まれていてもよい。
構造式(2)または(3)で示されるカチオン性単位を有する高分子はポリアミジンであり、構造式(2)および(3)の単位は40モル以上であることが好ましい。構造式(2)および(3)以外の単位としては、例えば、ビニルアミン単位、アクリロニトリル単位、ビニルホルムアミド単位などが挙げられる。
【0017】
また、高分子凝集剤としては、水抜け性のよい固形分が得られることから、4質量%食塩水に濃度0.5質量%で含有させた際の溶液の粘度が5mPa・s以上になるものが好ましい。ここで、高分子凝集剤の溶液粘度は高分子凝集剤の分子量に相関するので、上記粘度では分子量が高いことを示している。
【0018】
高分子凝集剤は、周知の重合方法、例えば、水溶液重合、懸濁重合、乳化重合、光重合等により得られる。また、これらポリマーの形態としては、例えば、粉末、溶液、エマルジョン、ディスパージョンなどのいずれであっても構わない。
【0019】
畜産廃水に添加される高分子凝集剤は1種類であってもよいが、分子量、カチオン量等がそれぞれ異なる2種類以上であってもよい。さらに、必要に応じて、ノニオン性、アニオン性の凝集剤や無機凝集剤を併用しても構わない。
【0020】
また、高分子凝集剤は水溶液化して畜産廃水に添加することが好ましい。高分子凝集剤を含む水溶液(以下、高分子凝集剤水溶液と略す。)中の高分子凝集剤濃度は0.05〜0.5質量%であることが好ましく、0.1〜0.3質量%であることが好ましい。
上記高分子凝集剤水溶液を畜産廃水に添加する方法としては特に制限されず、周知の方法を採用できる。
【0021】
上記高分子凝集剤を畜産廃水に添加することにより、汚濁物質が凝集して固形分(フロック)が形成する。そして、固形分を各種の分離装置により分離した後、ウェット状態の固形分を脱水する。脱水に使用する脱水装置としては、例えば、プレス脱水、遠心デカンター、スクリュープレス、多重円盤式脱水機、ロータリープレスフィルター、真空脱水機などが挙げられる。
また、固形分を分離して残存した濾液を、曝気槽に送り、活性汚泥処理し、汚泥を分離除去して処理水を得る。
以上のように畜産廃水を廃水処理することにより、乾燥固形分と処理水とを得る。
【0022】
上述した畜産廃水の処理方法では、汚濁物質中の粗粒分が特定範囲に調節された畜産廃水に高分子凝集剤を添加するため、畜産廃水中の汚濁物質を容易に凝集させることができ、固形分分離後の濾液の濁度およびCOD値を小さくすることができる。これは、畜産廃水が粗粒分を適度に含むことにより、高分子凝集剤を添加した際に粗粒分が凝集の核になり、その周りに微細な汚濁物質が付着するので、フロック粒子が円滑に粗大化するためであると考えられる。
しかも、この処理方法では、高分子凝集剤水溶液を希薄にする必要がないから、既存の廃水処理装置を使用できる。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の例において、「%」は特に断りのない限り「質量%」のことである。
【0024】
以下の例において使用した高分子凝集剤は、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド/アクリルアミド=80/20(モル比)共重合体であり、4質量%食塩水中のポリマー濃度0.5質量%溶液の粘度が80mPa・sのものである。
なお、高分子凝集剤水溶液の粘度は、次のようにして求めた。すなわち、4質量%食塩水中のポリマー濃度0.5質量%溶液の粘度は、高分子凝集剤2.5g、食塩20gを純水に溶解し、合計500gの水溶液を調製し、その水溶液を25℃でB型回転粘度計(60rpm)で測定することにより求めた。
【0025】
<畜産廃水の総固形分(TS分)および粗粒分の測定方法>
畜産廃水についてはあらかじめ総固形分(TS分)および粗粒分を測定した。
総固形分の測定では、畜産廃水100mlを秤量後、蒸発乾固し、さらに105〜110℃で2時間乾燥して乾燥固形分を得た。そして、先に秤量した畜産廃水に対する乾燥固形分の百分率(%)を求めた。
また、粗粒分の測定では、まず、畜産廃水100mlを秤量し、100メッシュのふるいで濾過し、濾過物を水で洗浄した。次いで、ふるい上に残った残存物を坩堝に入れ、105〜110℃で12時間乾燥後、冷却して、乾燥固形分を得た。次いで、先に秤量した畜産廃水に対する乾燥固形分の百分率(%)を求め、さらに、この乾燥固形分の百分率をTS分(%)で除して、求められた値の百分率を粗粒分とした。
【0026】
(比較例1)
A畜産の廃水であって、TS分;3.7%、粗粒分;4.5%のものをビーカーに採り、そのビーカーに、ポリマー2.5gを475gの純水に溶解させた0.1%高分子凝集剤水溶液を、高分子凝集剤添加量が畜産廃水に対して600ppmになるよう添加し、30秒間に100回の割合でスパチュラにより撹拌した。その結果、30秒後にフロックを形成したものの、フロックは不明瞭であり、濾過しても目漏れが多く、濾液は懸濁していた。
なお、処理条件および評価結果については表1に示す。表1中、フロック形成時間とは、攪拌開始からフロックが形成されるまでの時間のことである。また、濾過物剥離性における「○」は、濾過後に剥離性が良好であったことを意味し、「×」は、剥離不能であったことを意味する。
【0027】
【表1】

【0028】
(実施例1)
比較例1の畜産廃水におがくずを、畜産廃水中に1.5%添加した。おがくず添加後の畜産廃水のTS分は5.2%、粗粒分は32%であった。この粗粒分32%の畜産廃水に、比較例1と同様の条件で高分子凝集剤を添加したところ、攪拌開始から20秒後にフロックを形成した。しかも、このフロックは、濾過後の剥離性が良好であり、濾液の濁りが少なかった。
【0029】
(実施例2、比較例2)
比較例2はA畜産の廃水の代わりに、表1に示すBファームの廃水に高分子凝集剤を添加したこと以外は実施例1と同様にして処理した。なお、実施例2については、比較例2の廃水におがくずを、畜産廃水中に1.0%添加することで、TS分;3.8%、粗粒分;32.0%の廃水とした。
畜産廃水中の粗粒分が特定範囲になるように調節された実施例2では、フロック形成時間が短く、濾液の濁りが少なかった。これに対し、畜産廃水中の粗粒分が特定範囲になるように調節されなかった比較例2では、フロックが形成せず、濾液が濁っていた。
【0030】
(比較例3及び4、実施例3及び4)
比較例3はA畜産の廃水の代わりに、C畜産の廃水に高分子凝集剤を、表2に示すように添加したこと以外は実施例1と同様にして処理した。実施例3については、比較例3の廃水におがくずを、畜産廃水中に0.3%添加することで、TS分;3.6%、粗粒分;15%の廃水とした。実施例4については、比較例3の廃水におがくずを、畜産廃水中に3.5%添加することで、TS分;6.8%、粗粒分;55%の廃水とした。比較例4については、比較例3の廃水におがくずを、畜産廃水中に6.9%添加することで、TS分;10.2%、粗粒分;77%の廃水とした。
畜産廃水中の粗粒分が特定範囲になるように調節された実施例3及び4では、フロック形成時間が短く、濾液の濁りが少なかった。これに対し、畜産廃水中の粗粒分が特定範囲になるように調節されなかった比較例3及び4では、フロックが形成せず、濾液が濁っていた。
【0031】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
畜産施設より発生する汚濁物質を含む畜産廃水をセパレーターで固形分を除去した後に高分子凝集剤を添加する凝集剤添加工程を有する畜産廃水の処理方法において、
凝集剤添加工程の前に、畜産廃水に含まれる汚濁物質中の粗粒分を10〜60質量%に調節する粗粒分調節工程を有することを特徴とする畜産廃水の処理方法。
【請求項2】
粗粒分調節工程にて、畜産廃水に凝集核成分を添加することを特徴とする請求項1に記載の畜産廃水の処理方法。




【公開番号】特開2006−297229(P2006−297229A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120186(P2005−120186)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】