説明

畜産系廃液の脱色方法及び装置

【課題】畜産系廃液等の廃液中の着色物質の除去を比較的短時間で効率的に行うことができると共に消費するエネルギーを低く抑えることができる畜産系廃液の脱色方法を提供する。
【解決手段】畜産系廃液に含まれる着色物質の除去及び分解を行うことにより該廃液の脱色を行う方法であって、畜産系廃液に鉄系凝集剤を添加し、懸濁物質の凝集及び溶解性の着色物質の凝析を行って一次脱色処理を行い、この処理液を沈降分離や濾過等の固液分離法で処理して清澄になったものを、自然光を含む紫外線または紫外線と光触媒によって二次脱色処理する畜産系廃液の脱色方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜産系廃液の脱色方法及び装置に関するものである。更に詳しくは、畜産系廃液の着色物質の除去を比較的短時間で効率的に行うことができると共に消費するエネルギーを低く抑えることができるものに関する。
【背景技術】
【0002】
畜産系廃液は家畜排泄物とその洗浄排水などからなり、多量の有機物を含む環境負荷の大きい廃液である。そのため、畜産系廃液は不純物の除去等の処理をした後、環境中へ排出するようになっている。また、その処理方法としては、例えば活性汚泥処理、あるいはそれから派生した様々な処理方法が広く普及している。
【0003】
活性汚泥処理ではBOD、SSの除去が可能であるが、排水の着色の除去は困難であった。すなわち、畜産系廃液の着色成分は厳密には分かっていないが、人の排泄物の着色成分は胆汁色素由来成分で、家畜についても類似成分であると考えられる。そして、それらが空気酸化や活性汚泥微生物による改質を受け、多様な有機高分子や低分子となり、排水に溶解残存した状態と思われる。
【0004】
このような、畜産系廃液の着色成分は活性汚泥微生物による分解を受けにくいため、活性汚泥処理を行った処理水は褐色であり、外観上、処理済みの水とは認識されにくいという問題がある。この問題を解決するために、例えば凝集沈殿法、吸着分離法、膜分離法、オゾン酸化法、紫外線による分解あるいは紫外線と光触媒による分解法などの各種技術が提案されている。しかし、前記いずれの方法も利点と欠点を併せ持つため、廃液の着色物質を除去する手段として実用化された例は少ない。
【0005】
例えば、凝集沈殿法は、薬品の添加のみを基本としているため設置費用は比較的安価であり管理も簡便であるが、脱色処理は不完全である。つまり、凝集剤の添加による脱色処理では、不溶化しない着色物質(成分)の除去が困難であり、それらが残存してしまう。さらに、凝集沈殿法単独では多量の凝集剤を使用することになり、これにより発生するスラッジの処理の問題もあり、凝集剤の使用量を削減するために他の脱色方法との併用技術の開発が必要不可欠であった。
【0006】
吸着分離法は、吸着剤が高価であるためにコストが高く、膜分離法は、ろ過膜の閉塞や濃縮廃液の処理の問題がある。オゾン酸化法は、装置が大型となり多大な労力が必要であり、費用や維持管理を考慮すれば個々の畜産農家で行うことは実際上困難である。
また、紫外線分解や紫外線と光触媒(酸化チタン等)を併用した脱色技術は、装置は簡便であるが、そもそも濃厚な着色排水や懸濁物質含有排水の場合、光が透過しにくいため光分解に要する時間がきわめて長いという問題があった。さらに、長時間の処理を行うことで紫外線の照射のための電力消費量も大きくなりコストが高くなる問題もあった。
【0007】
光分解を利用したもので畜産系廃液の脱色時間を短くする試みとしては、例えば特許文献1に開示された「畜産系廃液の処理方法」がある。この方法では、排水のpHを制御して酸化剤と光触媒の共存下で畜産系廃液の分解脱色の短時間処理を試みており、pHを制御しない場合よりも脱色速度を向上させている点において優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−263667
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1に開示された処理方法には次のような課題があった。
すなわち、光分解時に廃液のpH制御を行うだけでは、着色物質を短時間で分解するために多量のエネルギーを必要とする点が大きな課題として残されていた。
【0010】
本発明者は、前記課題を解決する研究を行う中で、脱色工程においてエネルギーの消費量を低減するため、前処理として着色廃液の凝析脱色処理(分散質着色粒子同士が吸着集合して沈降する現象を利用した脱色処理方法)を行い、あらかじめ着色廃液中の光分解の対象となる着色物質を低減して吸光度を低くした状態で光分解を行うことに着目し、鋭意研究を重ねた。そして、凝析性の着色物質及び非凝析性の着色物質の双方で光分解の効率を高める好適なpHが存在することを見出し、これらを利用した光分解を行うことで光分解速度を増加させることができる本発明を完成させたものである。
【0011】
本発明は、例えば畜産系廃液等の廃液中の着色物質の除去を比較的短時間で効率的に行うことができると共に消費するエネルギーを低く抑えることができる畜産系廃液の脱色方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
【0013】
(1)本発明は、
畜産系廃液に含まれる着色物質の除去及び分解を行うことにより該廃液の脱色を行う方法であって、
畜産系廃液に鉄系凝集剤を添加し、懸濁物質の凝集及び溶解性の着色物質の凝析を行って一次脱色処理を行い、該処理液を沈降分離や濾過等の固液分離法で処理して清澄になったものを、自然光を含む紫外線または紫外線と光触媒によって二次脱色処理することを含む、
畜産系廃液の脱色方法である。
【0014】
(2)本発明は、
畜産系廃液に含まれる着色物質の除去及び分解を行うことにより該廃液の脱色を行う方法であって、
畜産系廃液に鉄系凝集剤を添加しpHを4.0〜6.0の範囲に調整して一次脱色処理を行い、その処理液から分離した上澄液のpHを2.0〜4.0の範囲に調整し自然光を含む紫外線または紫外線と光触媒によって二次脱色処理を行うことを含む、
畜産系廃液の脱色方法である。
【0015】
(3)本発明は、
畜産系廃液に含まれる着色物質の除去及び分解を行うことにより該廃液の脱色を行う方法であって、
畜産系廃液に鉄系凝集剤を所要の割合で混合して撹拌処理し、該処理液のpHを4.0〜6.0に調整して一次脱色処理を行う工程、
一次脱色処理で得られた処理液を上澄液と汚泥に分離する工程、
前記分離した上澄液にpH調整剤を加えて撹拌処理し、該処理液のpHを2.0〜4.0に調整する工程、
前記pH2.0〜4.0に調整された処理液に光触媒を所要の割合で混合し紫外線の照射下で着色物質の光分解を行う二次脱色処理を行う工程、
を含んでいる、
畜産系廃液の脱色方法である。
【0016】
(4)本発明は、
畜産系廃液に含まれる着色物質の除去及び分解を行うことができる装置であって、
pH制御手段を備えており、畜産系廃液を生物処理や物理化学処理した処理液に鉄系凝集剤を所要の割合で混合して撹拌処理し、該処理液のpHを4.0〜6.0に調整する一次撹拌槽、
一次撹拌槽で撹拌した処理液を上澄液と汚泥に分離する一次分離槽、
pH制御手段を備えており、前記一次分離槽で分離した上澄液にpH調整剤を加えて撹拌処理し、該処理液のpHを2.0〜4.0に調整する二次撹拌槽、
二次撹拌槽でpH2.0〜4.0に調整された処理液に光触媒を所要の割合で混合し紫外線の照射下で着色物質の光分解を行う二次処理槽、
pH制御手段を備えており、二次処理槽で脱色された処理液にpH調整剤を加えて撹拌処理し、該処理液を中和する中和槽、
を備えている、
畜産系廃液脱色装置である。
【0017】
〔作用〕
本発明の作用は次のとおりである。
畜産系廃液を脱色の前処理として鉄系凝集剤を添加して、沈殿分離を行う。そして、その後比較的短時間内に上澄液の着色成分を紫外線(自然光を含む)と光触媒で分解処理、もしくは紫外線のみを使用して分解処理する。
前処理によって被分解物である着色物質が減少することから、後工程の光分解による脱色処理に要する時間が大幅に減少する。
【0018】
また、前処理として処理液に鉄系凝集剤を添加する際、処理液のpHを調整してpH4〜6とし、着色物質において不溶化した物質の脱色を最適化する。さらに、後工程でもpHを2〜4に調整して分解処理することにより、溶解性の着色物質の脱色を最適化し、結果として高い脱色率が得られる。
【0019】
これらのことから、前記前処理とその後の光分解を組み合わせることによって、今まで困難とされた濃厚な着色排水の光分解による脱色処理が可能になる。
なお、本発明に含まれる技術を整理すると、(1)前処理として鉄系凝集剤を使用して着色成分を凝析分離する場合、脱色能を高める最適なpHが存在すること、(2)凝析脱色後に残存する色は光分解を組み合わせることでほぼ無色にできること、(3)最適pHで前処理を行って、被光分解物質をある程度凝析分離除去して低減し、その後得られる非凝析性着色成分を含有する処理液を光分解することで、前処理しなかった場合と比較して、分解に必要な時間とエネルギーを削減できること、(4)非凝析性の着色成分を光分解する場合、最適なpHが存在し、pH制御を行うことで分解速度を増加させることができること、等である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の効果は次のとおりである。
(a)畜産系廃液の脱色処理において、従来のように分解反応時のpHを制御した光分解処理のみでは多量のエネルギーを必要としたが、鉄系凝集剤による凝析脱色処理を前処理として組み合わせることで、光分解処理を含む脱色処理に要する時間とエネルギーを削減することができる。
【0021】
(b)処理液に鉄系凝集剤を添加しpHを4.0〜6.0の範囲に調整して一次脱色処理を行い、その処理液から分離した上澄液のpHを2.0〜4.0の範囲に調整し自然光を含む紫外線または紫外線と光触媒によって二次脱色処理を行うことで、光分解処理を含む脱色処理に要する時間とエネルギーをさらに削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る畜産系廃液脱色装置の一実施の形態を示す説明図。
【図2】畜産系廃液(塩化鉄添加による一次処理なし)のpHが吸光度及び光分解に及ぼす影響を示すグラフ。
【図3】各試料の凝析による脱色後の吸光度を示し、(a)は反応後の吸光度、(b)は反応後にpH7に中和した時の吸光度を示すグラフ。
【図4】畜産系廃液(塩化鉄添加による一次処理あり)のpHが吸光度及び光分解に及ぼす影響を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を図面に示した実施の形態に基づき詳細に説明する。
図1を参照する。
【0024】
畜産系廃液脱色装置Dは、畜産系廃液に含まれる着色物質の除去及び分解を行うことができる装置である。
畜産系廃液脱色装置Dは一次撹拌槽1を備えており、一次撹拌槽1は撹拌機10及びpH制御装置11を備えている。
一次撹拌槽1の後方には一次分離槽2が設けられている。一次分離槽2は、いわゆる沈殿槽である。
【0025】
一次分離槽2の後方には貯留槽3が設けられている。
貯留槽3の後方には二次撹拌槽4が設けられており、二次撹拌槽4は撹拌機40及びpH制御装置41を備えている。
二次撹拌槽4の後方には二次処理槽5が設けられており、二次処理槽5は撹拌機50を備えている。
二次処理槽5の後方には中和槽6が設けられており、中和槽6は撹拌機60とpH制御装置61を備えている。
【0026】
次に、本発明に係る畜産系廃液の脱色方法について説明する。
まず、本発明に係る畜産系廃液の脱色方法の実施において必要な基礎的要件の根拠となった実験について説明する。
【0027】
(A)畜産系廃液のpHが廃液の吸光度及び光分解に及ぼす影響について
なお、畜産系廃液は次のものを使用した。
畜産系廃液・・・吸光度(420nm):0.209 pH:5.56
【0028】
図2を参照する。
畜産系廃液を遠心分離機で遠心分離(12000rpm、5min、20℃)した処理液で、pHが1.47,2.04,2.55,3.22,4.06,4.92,5.46,6.8の八種類の試料をつくり、各試料に対しブラックライトによる紫外線(1.66mW/cm2)を照射し、光分解による脱色処理を行った。
【0029】
そして、脱色処理の開始時点、6時間経過後及び24時間経過後に各試料からサンプリングを行い、それぞれの吸光度を測定した。なお、吸光度の測定は、紫外・可視・近赤外分光法を採用し各試料に波長420nmの光を照射することにより行った。
【0030】
(結果と考察)
図2から分かるとおり、pHが4.06,4.92,5.46,6.8の各試料の24時間経過後の吸光度は、開始時点と比較して70〜80%程度となった。また、より酸性が強い試料、つまりpHが1.47,2.04,2.55,3.22の各試料については、24時間経過後の吸光度は、開始時点と比較して20〜50%程度となった。中でも、pH2.04〜3.22の値は24時間後の効果が顕著に表れた。試料によるばらつき等を加味するとpH2.0〜4.0が適していると見られる。
すなわち、畜産系廃液の膜分離活性汚泥処理液の吸光度は、pHに大きく影響を受け、同じ処理条件下では酸性が強くなるにつれて徐々に低くなる傾向があることが分かった。
【0031】
(B)畜産系廃液のpHが廃液の塩化鉄脱色処理に及ぼす影響について
なお、畜産系廃液及び塩化鉄は次のものを使用した。
畜産系廃液・・・吸光度(420nm):0.219 pH:5.42
塩化鉄・・・・・塩化鉄(III)・6水和物
【0032】
図3を参照する。
畜産系廃液の遠心分離(12000rpm、5min、20℃)した処理液に塩化鉄(III)・6水和物を添加し、その濃度が0.1g/L,0.25g/L,0.5g/Lの三種類の試料をつくった。
各試料を小分けし、分けたものにpH調整剤を添加してpH2.0,3.0,4.0,5.0,6.0,7.0に調整し、各pHの条件下における各試料の凝析による脱色を行った。
【0033】
(結果と考察)
図3(a)から分かるとおり、各試料共に傾向としてpH4.0〜6.0において吸光度が低くなり、より良好に脱色されることが認められた。つまり、最も脱色能の高いpH範囲は4.0〜6.0であることが認められ、塩化鉄濃度の異なる各試料でほぼ同様の結果が得られた。
また、各試料においては、塩化鉄の濃度が0.5g/LでpH2.0,3.0の試料を除き、塩化鉄の濃度が高くなるほど吸光度が低くなる傾向があることが認められ、前記各試料中、塩化鉄脱色処理の最適条件は、塩化鉄濃度0.5g/L、pH4.0〜5.0であることが分かった。
さらに、図3(b)からは、pHを中性にすることで処理液の吸光度は高くなる傾向が確認された。なお、塩化鉄0.5g/L、pH2.0〜3.0の条件下で反応させたものについては、pHを中性にすることで廃水の吸光度が低下するという、これまでとは異なる結果が得られた。
【0034】
(C)畜産系廃液(塩化鉄添加による一次処理有り・なし)のpHが吸光度及び光分解に及ぼす影響について
図4及び表1、表2、表3、表4を参照する。
【0035】
畜産系廃液及び光触媒は次のものを使用した。
畜産系廃液・・・吸光度(420nm):0.333〜0.334 pH:6.13〜6.25
光触媒・・・・酸化チタン(IV)、アナターゼ型 (和光純薬工業株式会社)
【0036】
(1)畜産系廃液に塩化鉄(III)濃度が0.5g/Lになるように添加してpHを5.0に調製後、撹拌しながら1時間反応させた。反応後、遠心分離(12000rpm、5min、20℃)し、分離後、吸光度(420nm)を測定した。
【0037】
(2)前記(1)で調整した、塩化鉄による処理水を100mlずつ分注し、pH調整剤としてHCl、NaOHを使用し、pHを3.0、4.0、5.0(未調整)、7.0に調整して同じく四種類の試料(試料1〜4)をつくった。調整に使用したHCl、NaOH量を計り、各試料からその量だけ引き抜き、液量を100mlとした。
【0038】
(3)畜産系廃液(原水)を100mlずつ分注し、pH調整剤としてHCl、NaOHを使用し、pHを3.0、4.0、5.0、7.0に調整して四種類の試料(試料5〜8)をつくった。なお、pH調整に使用したHCl、NaOH量を計り、各試料からその量だけ引き抜き、液量を100mlとした。
【0039】
(4)プラスチック容器に入れた各試料に0.2gの酸化チタンを添加し、酸化チタンの濃度が2.0g/Lになるようにした。そして、蒸発を防ぐためにシャーレの蓋をつけ、スターラーで酸化チタンを分散させながら紫外線(B.L.光強度:0.95〜1.05mW/cm2)を照射し、光分解を行った。
【0040】
(5)そして、脱色処理の開始時点、1時間経過後、6時間経過後、12時間経過後、24時間経過後、30時間経過後及び36時間経過後に各試料から1.5mlずつサンプリングを行い、遠心分離(12000rpm、5min、20℃)後、吸光度(420nm)を測定した。なお、各サンプルは吸光度測定後、容器に戻して再び反応させるようにした。
【0041】
(6)48時間経過後、各試料をサンプリングし、遠心分離(12000rpm、5min、20℃)後、最終的な各試料の吸光度(420nm)を測定した(表1、表3参照)。
【0042】
(7)さらに各試料のpHを7.0に調整し、同様の操作で吸光度を測定した(表2、表4参照)。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
(結果と考察)
図4から分かるとおり、塩化鉄による前処理を行った各試料は、光分解による脱色処理の開始時点から吸光度が比較的低かったこともあり、低いままで推移し、pH3.0(試料1)及びpH4.0(試料2)の各試料については脱色能が十分に高いことが分かった。特に、pH3に設定した試料1は、30時間経過後以降は吸光度がほとんど限界にまで低下し、ほぼ無色透明になった。
【0048】
また、前処理を行わない各試料5〜8は、脱色処理の開始時点では比較的高い吸光度を示し、pH4.0(試料2)、5.0(試料3)、7.0(試料4)の各試料については時間の経過と共に若干の低下が認められる程度であったが、pH3.0に設定した試料1については他と比較して急激な低下を示し、48時間経過後には前記前処理を行ったpH3.0に設定した試料1と同じようにほぼ無色透明になった。
これにより、前処理として畜産系廃液の塩化鉄脱色処理を行った処理液の光分解及び前処理を行わない処理液の光分解を行うにあたって、最も高い脱色能が得られるpH値は、いずれもpH3.0(試料1,5)であることが分かった。
【0049】
これらの結果から、畜産系廃液の脱色処理にあたって、塩化鉄などの鉄系凝集剤を用いた処理ではpH5.0前後で行い、その後の光分解はpH3.0で行うのが好適であることが分かった。なお、中性であるpH7.0前後では脱色効率が悪かったため、実際に装置化する場合は、放流のための最終処理工程にpH調整機構を備える必要があることも分かった。
【0050】
放流のための最終処理工程では、吸光度が0.1程度であっても放流に実状支障はないが、今回、目標とする放流の基準(内部基準)を0.010に設定した。
塩化鉄による前処理をしない試料5は、最終的にpHを中性にした際の吸光度は.0.021,0.022と(表4参照)、放流のための目標基準(内部基準:0.010)をクリアできなかったが、前処理をした試料1は、吸光度が0.005,0.006と(表2参照)、目標基準をクリアしており、前処理の有用性が認められた。
【実施例】
【0051】
次に、畜産系廃液脱色装置Dを使用した脱色手段を説明する。
(1)被処理液
一次撹拌槽1に、畜産系廃液を導入する。廃液は全体茶褐色を呈しており、わた状の浮遊物がある。
(2)塩化鉄(鉄系凝集剤)の添加
一次撹拌槽1において撹拌機10で畜産廃液を撹拌しながら工業用塩化鉄(III)を添加し撹拌する。このとき塩化鉄の濃度は0.5g/Lに設定する。凝集によって生成された不溶性高分子状物質は沈殿する。
塩化鉄を添加した後、処理液のpHをpH5.0に調整する。このとき、pH3.0程度からpH5.0に変化するに従い、沈殿物質の色がより濃いものとなる。
【0052】
(3)固液分離
一次撹拌槽1内の(畜産廃液)処理液を一次分離槽2へ送り、処理液中の浮遊物の大部分を沈殿させて除去した後、処理液を貯留槽3へ送る。ここでの吸光度は低下して薄黄色となる。
(4)pH調整
貯留槽3内の処理液を二次撹拌槽4へ送り、塩酸(HCl)を添加して撹拌し、pHを3.0に調整すると、処理液の見た目の色はさらに薄くなり吸光度も低くなる。
【0053】
(5)光触媒の添加
二次撹拌槽4内の処理液を二次処理槽5へ送り、光触媒である酸化チタンを処理液に添加する。酸化チタンの濃度は2.0g/Lとする。
(6)紫外線の照射
二次処理槽5内の前記処理液にブラックライトによる照射を24時間行う。処理液中には、酸化チタンの沈殿が見られるが、処理液はほとんど無色透明となる。
尚、紫外線を作り出す光源は、ブラックライト、蛍光灯、水銀灯、キセノンアーク灯等を使用してもよい。
【0054】
(7)放流規制に伴うpH調整
24時間の照射終了後、酸化チタンを取り除くために処理液を中和槽6へ送り、撹拌を行い、水酸化ナトリウム(NaOH)を用いてpHを7.0に調整した後、放流する。
【0055】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。
【符号の説明】
【0056】
D 畜産系廃液脱色装置
1 一次撹拌槽
10 撹拌機
11 pH制御装置
2 一次分離槽
3 貯留槽
4 二次撹拌槽
40 撹拌機
41 pH制御装置
5 二次処理槽
50 撹拌機
6 中和槽
60 撹拌機
61 pH制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
畜産系廃液に含まれる着色物質の除去及び分解を行うことにより該廃液の脱色を行う方法であって、
畜産系廃液に鉄系凝集剤を添加し、懸濁物質の凝集及び溶解性の着色物質の凝析を行って一次脱色処理を行い、該処理液を沈降分離や濾過等の固液分離法で処理して清澄になったものを、自然光を含む紫外線または紫外線と光触媒によって二次脱色処理することを含む、
畜産系廃液の脱色方法。
【請求項2】
畜産系廃液に含まれる着色物質の除去及び分解を行うことにより該廃液の脱色を行う方法であって、
畜産系廃液に鉄系凝集剤を添加しpHを4.0〜6.0の範囲に調整して一次脱色処理を行い、その処理液から分離した上澄液のpHを2.0〜4.0の範囲に調整し自然光を含む紫外線または紫外線と光触媒によって二次脱色処理を行うことを含む、
畜産系廃液の脱色方法。
【請求項3】
畜産系廃液に含まれる着色物質の除去及び分解を行うことにより該廃液の脱色を行う方法であって、
畜産系廃液に鉄系凝集剤を所要の割合で混合して撹拌処理し、該処理液のpHを4.0〜6.0に調整して一次脱色処理を行う工程、
一次脱色処理で得られた処理液を上澄液と汚泥に分離する工程、
前記分離した上澄液にpH調整剤を加えて撹拌処理し、該処理液のpHを2.0〜4.0に調整する工程、
前記pH2.0〜4.0に調整された処理液に光触媒を所要の割合で混合し紫外線の照射下で着色物質の光分解を行う二次脱色処理を行う工程、
を含んでいる、
畜産系廃液の脱色方法。
【請求項4】
畜産系廃液に含まれる着色物質の除去及び分解を行うことができる装置であって、
pH制御手段(11)を備えており、畜産系廃液を生物処理や物理化学処理した処理液に鉄系凝集剤を所要の割合で混合して撹拌処理し、該処理液のpHを4.0〜6.0に調整する一次撹拌槽(1)、
一次撹拌槽(1)で撹拌した処理液を上澄液と汚泥に分離する一次分離槽(2)、
pH制御手段(41)を備えており、前記一次分離槽(2)で分離した上澄液にpH調整剤を加えて撹拌処理し、該処理液のpHを2.0〜4.0に調整する二次撹拌槽(4)、
二次撹拌槽(4)でpH2.0〜4.0に調整された処理液に光触媒を所要の割合で混合し紫外線の照射下で着色物質の光分解を行う二次処理槽(5)、
pH制御手段(61)を備えており、二次処理槽(5)で脱色された処理液にpH調整剤を加えて撹拌処理し、該処理液を中和する中和槽(6)、
を備えている、
畜産系廃液脱色装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−201279(P2010−201279A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29029(P2009−29029)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【出願人】(000003171)株式会社戸上電機製作所 (29)
【Fターム(参考)】