疎水性基を有する環状グルカン誘導体およびその製造方法
【課題】 医薬、試薬、界面活性剤、化粧品用組成物、食品用組成物および磁気記録媒体用フィルムなどの用途に有用な、油類への溶解度が良好で、優れた界面活性特性を有し、分子認識ホスト分子として優れた性質を有する高重合度環状グルカンを基本骨格とした新しい環状グルカン誘導体およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 疎水性基が高重合度環状グルカンに結合した新規な環状グルカン誘導体を提供することにより、本発明の上記課題を解決した。
【解決手段】 疎水性基が高重合度環状グルカンに結合した新規な環状グルカン誘導体を提供することにより、本発明の上記課題を解決した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高重合度環状グルカンの側鎖に疎水性基を有する環状グルカン誘導体、およびその製造方法に関する。本発明はまた、この環状グルカン誘導体を含む医薬、界面活性剤、化粧品用組成物、食品用組成物および磁気記録媒体用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
既存の環状構造を有するグルカンとして、α−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造のみを有するグルカンである、シクロデキストリン類が知られている。これらシクロデキストリン類は、一般に澱粉にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase)を作用させて合成され、その重合度は通常6から8である。Kobayashi(1993)Denpun Kagaku: vol.40 103−116は、これ以上の重合度を有するα−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造のみを有するグルカンが、CGTaseにより合成されることを報告しているが、最も大きなものでも重合度は13である。このようなシクロデキストリン類は、環状分子特性を利用して低分子活性物質を包接できる点でよく知られている。しかし、シクロデキストリン類は、一般に油類の炭化水素系溶媒に溶解せず、界面活性剤、分散液形態の医薬、化粧品用組成物および食品用組成物への使用が制限されるというのが現状である。
【0003】
これらの化合物の特性を変更するため、重合度6〜8のシクロデキストリンの水酸基をアルキル基またはフッ化アルキル基で置換することが知られている(例えば、特許文献1および2参照)。しかし、この低重合度のシクロデキストリン類はそもそも、水溶液中における立体構造の自由度が極めて低く、平面的な環状構造しかとれないため、環内に包接できる分子は限られ、分散液形態の医薬および化粧品用組成物への適用は、限界がある。
【0004】
このように、油類への溶解度が良好で、優れた界面活性特性を有し、しかも包接される化合物の構造にあわせて環状立体構造を変化させ、低分子量から高分子量の多種多様な化合物の包接を可能にする分子認識ホスト分子として優れた性質を有する高重合度環状グルカンを基本骨格とした新しい環状グルカン誘導体はいまだに存在せず、医薬、化学、食品、保健、およびエレクトロニクスの業界において非常に重要であり、その開発は渇望されている。
【特許文献1】日本国特許第2749565号公報
【特許文献2】特開平9−241303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、医薬、試薬、界面活性剤、化粧品用組成物、食品用組成物および磁気記録媒体用フィルムなどの用途に有用な、油類への溶解度が良好で、優れた界面活性特性を有し、しかも包接される化合物の構造にあわせて環状立体構造を変化させ、低分子量から高分子量の多種多様な化合物の包接を可能にする分子認識ホスト分子として優れた性質を有する高重合度環状グルカンを基本骨格とした新しい環状グルカン誘導体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、高重合度環状グルカンのアルコール性水酸基をトシル基で置換でき、このトシル基が脂肪酸ナトリウムと交換できることを発見し、これを利用して高重合度環状グルカンに側鎖として疎水性基を導入した本発明の環状グルカン誘導体を提供することにより、上記課題を解決した。
【0007】
本発明者らはまた、上記環状グルカン誘導体が水の表面張力を有意に低下させることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明者らはさらに、上記環状グルカン誘導体を含む組成物が、医薬、界面活性剤、化粧品用組成物、食品用組成物および磁気記録媒体用フィルムとして有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明者はまた、上記環状グルカン誘導体を含む組成物を利用する、新しい診断、治療、鑑別方法を見出し、本発明を完成した。
【0010】
このように、本発明では以下を提供する。
(1)重合度14以上の環状グルカンからなる主鎖と、疎水性基からなる1または2以上の側鎖とを有し、該側鎖が連結基を介して該主鎖に結合している環状グルカン誘導体。
(2)上記疎水性基が、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のアルキル基、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のフッ化アルキル基、あるいはトシル基である、項(1)に記載の環状グルカン誘導体。
(3)上記疎水性基が、少なくとも50%のフッ素置換率を有するC3〜C20の直鎖のフルオロヒドロアルキル基、またはC3〜C20の直鎖のペルフルオロアルキル基である、項(1)に記載の環状グルカン誘導体。
(4) 前記親水性部位が、重合度14以上の環状グルカンのみからなる、請求項1に記載の環状グルカン誘導体。
(5)上記環状グルカンが、α−1,4−グルコシド結合により構成される重合度14以上の環状構造を分子内に1つ有するグルカンであって、該グルカンが、
(i)α−1,4−グルコシド結合のみで構成される環状構造に加えて非環状構造を有するグルカン、
(ii)α−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合とで構成される環状構造に加えて非環状構造を有するグルカン、
(iii)α−1,4−グルコシド結合のみで構成される環状構造のみを有するグルカン、および
(iv)α−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合とで構成される環状構造のみを有するグルカン、
からなる群より選択される、項(1)に記載の環状グルカン誘導体。
(6)上記側鎖が、アミド結合、エーテル結合、またはエステル結合により環状グルカンに結合している、項(1)に記載の環状グルカン誘導体。
(7)上記環状グルカンが有するアルコール性水酸基のうちの少なくとも1つが、エステル結合によってフッ素置換または無置換の脂肪酸に結合している、項(1)に記載の環状グルカン誘導体。
(8)以下の構造式で表される環状グルカン誘導体:
【0011】
【化2】
【0012】
ここで、n個のモノマーユニットは、それぞれ独立しており、n個のR1は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表し、n個のR2は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表し、n個のR3は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表し、ただし、1分子中に少なくとも1つの−L−R4が存在し;
R4は、それぞれ独立して、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のアルキル基、またはC3〜C20の直鎖または分枝鎖のフッ化アルキル基であり;
Lは、それぞれ独立して、−NHCO−、−O−、−S−、−OSO2−、−SCO−または−OCO−であり;
R5は、それぞれ独立して、水酸基またはトシル基であり;
nは、14〜5000である、環状グルカン誘導体。
(9)項(8)に記載の環状グルカン誘導体であって、n個のR2およびn個のR3のすべてが水酸基である、誘導体。
(10)環状グルカン誘導体の製造方法であって、
重合度14以上の環状グルカンにトシル基を導入してトシル化誘導体を得る工程、および
該トシル化誘導体に置換もしくは無置換の脂肪酸エステルを反応させて、エステル誘導体を得る工程、
を包含する方法。
(11)以下の工程: a)直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれらを含む糖類に、D酵素を反応させて、高重合度環状グルカンを得る工程;
b)アルカリ水溶液中で、該高重合度環状グルカンと、塩化p−トルエンスルホニルとを、該高重合度環状グルカンが有するアルコール性水酸基のうちの少なくとも1つと該塩化p−トルエンスルホニルとが反応し得る条件下で、接触させて、トシル基が高重合度環状グルカンに結合したトシル基含有環状グルカン誘導体を得る工程;
c)該トシル基含有環状グルカン誘導体と、フッ素置換または無置換の脂肪酸ナトリウムとを、該トシル基と該脂肪酸ナトリウムとが交換反応し得る条件下で、接触させて、疎水性基が結合した環状グルカン誘導体を得る工程、
を包含する、環状グルカン誘導体の製造方法。
(12)上記工程b)において、上記高重合度環状グルカンと、上記塩化p−トルエンスルホニルとを、該高重合度環状グルカンの全アルコール性水酸基のうち少なくとも3%以上がトシル基で置換される反応条件下で接触させる、項(11)に記載の方法。
(13)上記工程c)において、上記トシル基含有環状グルカン誘導体と、上記脂肪酸ナトリウムとを、上記トシル基と上記脂肪酸ナトリウムとの交換率が少なくとも50%となる反応条件下で接触させる、項(11)に記載の方法。
(14)項(1)に記載の環状グルカン誘導体またはそれらの混合物を含む、医薬。
(15)項(1)に記載の環状グルカン誘導体またはそれらの混合物を含む、界面活性剤。
(16)項(1)に記載の環状グルカン誘導体またはそれらの混合物を含む、化粧品用組成物。
(17)項(1)に記載の環状グルカン誘導体またはそれらの混合物を含む、磁気記録媒体用フィルム。
(18)非磁性支持体上に1層以上の磁性体層を備えた磁気記録媒体において、該磁性体層、または該磁性体層上に設けた保護層の表面に、項(17)に記載のフィルムを形成させた、磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、油類への溶解度が良好で、優れた界面活性特性を有し、しかも包接される化合物の構造にあわせて環状立体構造を変化させ、低分子量から高分子量の多種多様な化合物の包接を可能にする分子認識ホスト分子として優れた性質を有する高重合度環状グルカンを基本骨格とした新しい環状グルカン誘導体およびその製造方法を提供することができる。
【0014】
本発明の疎水性基が高重合度環状グルカンに結合した環状グルカン誘導体を含む組成物は、医薬、界面活性剤、化粧品用組成物、食品用組成物および磁気記録媒体用フィルムとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
【0016】
(用語)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0017】
本明細書において「グルカン」とは、D−グルコースから成る多糖類の総称を意味する。本発明の「グルカン」には、澱粉、グリコーゲン、ラミナラン、セルロース、リケニン、デキストラン、ニゲランなどの貯蔵多糖類、構造多糖類、代謝の副産物が含まれる。
【0018】
本明細書において「高重合度環状グルカン」とは、従来の重合度6〜8の環状グルカンであるα−、β−、またはγ−シクロデキストリンより重合度が高く、α−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカンを意味する。本発明において、好ましい高重合度環状グルカンは、α−1,4−グルコシド結合により構成される重合度14以上の環状構造を分子内に1つ有するグルカンであり、代表例として、(i)α−1,4−グルコシド結合のみで構成される環状構造に加えて非環状構造を有するグルカン、(ii)α−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合とで構成される環状構造に加えて非環状構造を有するグルカン、(iii)α−1,4−グルコシド結合のみで構成される環状構造のみを有するグルカン、または(iv)α−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合とで構成される環状構造のみを有するグルカンなどが挙げられる。
【0019】
本明細書において「モノマーユニット」または「グルコースモノマーユニット」とは、高重合度環状グルカンを構成する、グルコースまたはグルコース誘導体からなるモノマーユニットを意味する。
【0020】
本明細書において、「重合度14以上の環状グルカンを含む親水性部位」とは、高重合度環状グルカンに、必要に応じて疎水性基以外の置換基が導入された部分構造を意味する。すなわち、本発明の環状グルカン誘導体の疎水性基からなる側鎖以外の部分を意味する。この親水性部位において、環状グルカンに必要に応じて導入される置換基の例としては、親水性のレセプター、リガンド、色素などが挙げられるが、これらに限定されない。レセプターの例には、例えば抗体、酵素、Fabフラグメント類、レクチンなどの受容体タンパク質、核酸などが含まれる。リガンドの例には、例えば抗原、酵素基質、ホルモン類、ハプテン類、ビタミン類、アルカロイド類、核酸、単糖類、多糖類などが含まれる。これらの置換基は、公知の方法により環状グルカンの任意の位置に導入される。
【0021】
本明細書において「疎水性基」とは、上記高重合度環状グルカンの側鎖として導入した場合に、その化合物が水の表面張力を低下させ界面活性を発現するような官能基全てを意味する。本発明の疎水性基として、トシル基、アルキル、置換されたアルキル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、炭素環基および置換された炭素環基などが挙げられるが、これらに限定されない。これら官能基は、以下の(有機化学)の節で詳細に定義される。
【0022】
本明細書において「環状グルカン誘導体」とは、上で定義した疎水性基が、上で定義した高重合度環状グルカンあるいは重合度14以上の環状グルカンを含む親水性部位に結合して得られる化合物全てを意味する。本発明の「環状グルカン誘導体」との用語は、本明細書において「エステル交換後の高重合度環状グルカン」との用語と互換可能に使用される。
【0023】
本明細書において「トシル基含有環状グルカン誘導体」とは、上で定義した疎水性基の群のうちのトシル基が高重合度環状グルカンに結合して得られる化合物全てを意味する。本発明の「トシル基含有環状グルカン誘導体」との用語は、本明細書において「トシル化高重合度環状グルカン」との用語と互換可能に使用される。
【0024】
本明細書において「(疎水性基が高重合度環状グルカンに)結合した」とは、アミド結合、エーテル結合およびエステル結合からなる群から選択される誘導体化を意味する。これらの誘導体化は、用途に応じて、当業者により適宜選択され得る。必要に応じて、誘導体化の方法の1つとして、通常、澱粉の修飾に用いられる方法が用いられる(生物化学実験法19,「澱粉・関連糖質実験法」:中村ら、学会出版センター、1986年 273〜303頁)。
【0025】
本明細書において「フッ素置換率」との用語は、フッ素置換前のアルキル基の全水素原子数に対するフッ素原子で置換された割合(百分率)を意味する。
【0026】
(有機化学)
本明細書において「アルコール」とは、脂肪族炭化水素の1または2以上の水素原子をヒドロキシル基で置換した有機化合物をいう。
【0027】
本明細書において「アルキル」とは、メタン、エタン、プロパンのような脂肪族炭化水素(アルカン)から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にCnH2n+1−で表される(ここで、nは正の整数である)。アルキルは、直鎖または分枝鎖であり得る。本明細書において「置換されたアルキル」とは、以下に規定する置換基によってアルキルのHが置換されたアルキルをいう。本発明の環状グルカン誘導体の疎水性基の具体例は、C3〜C4アルキル、C3〜C5アルキル、C3〜C6アルキル、C3〜C7アルキル、C3〜C8アルキル、C3〜C9アルキル、C3〜C10アルキル、C3〜C11アルキルまたはC3〜C12アルキル、C3〜C13アルキル、C3〜C14アルキル、C3〜C15アルキル、C3〜C16アルキル、C3〜C17アルキル、C3〜C18アルキル、C3〜C19アルキル、C3〜C20アルキル、C3〜C4置換されたアルキル、C3〜C5置換されたアルキル、C3〜C6置換されたアルキル、C3〜C7置換されたアルキル、C3〜C8置換されたアルキル、C3〜C9置換されたアルキル、C3〜C10置換されたアルキル、C3〜C11置換されたアルキルまたはC3〜C12置換されたアルキル、C3〜C13置換されたアルキル、C3〜C14置換されたアルキル、C3〜C15置換されたアルキル、C3〜C16置換されたアルキル、C3〜C17置換されたアルキル、C3〜C18置換されたアルキル、C3〜C19置換されたアルキル、C3〜C20置換されたアルキルであり得る。ここで、例えばC3〜C10アルキルとは、炭素原子を3〜10個有する直鎖または分枝状のアルキルを意味し、n−プロピル(CH3CH2CH2−)、イソプロピル((CH3)2CH−)、n−ブチル(CH3CH2CH2CH2−)、n−ペンチル(CH3CH2CH2CH2CH2−)、n−ヘキシル(CH3CH2CH2CH2CH2CH2−)、n−ヘプチル(CH3CH2CH2CH2CH2CH2CH2−)、n−オクチル(CH3CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2−)、n−ノニル(CH3CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2−)、n−デシル(CH3CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2−)、−C(CH3)2CH2CH2CH(CH3)2、−CH2CH(CH3)2などが例示される。また、例えば、C3〜C10置換されたアルキルとは、C3〜C10アルキルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
【0028】
本明細書において「フッ化アルキル(基)」とは、上で定義したアルキル基内の少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基を意味し、特にアルキル基を構成する水素原子全てがフッ素原子で置換されたアルキル基を「ペルフルオロアルキル基」または「パーフルオロアルキル基」といい、これに対して、一部の水素原子がフッ素原子で置換され、水素原子が残存するアルキル基を「フルオロヒドロアルキル基」または「ヒドロフルオロアルキル基」という。
【0029】
本明細書において「シクロアルキル」とは、環式構造を有するアルキルをいう。「置換されたシクロアルキル」とは、以下に規定する置換基によってシクロアルキルのHが置換されたシクロアルキルをいう。本発明の環状グルカン誘導体の疎水性基の具体例としては、C3〜C4シクロアルキル、C3〜C5シクロアルキル、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C7シクロアルキル、C3〜C8シクロアルキル、C3〜C9シクロアルキル、C3〜C10シクロアルキル、C3〜C11シクロアルキル、C3〜C12シクロアルキル、C3〜C13シクロアルキル、C3〜C14シクロアルキル、C3〜C15シクロアルキル、C3〜C16シクロアルキル、C3〜C17シクロアルキル、C3〜C18シクロアルキル、C3〜C19シクロアルキル、C3〜C20シクロアルキル、C3〜C4置換されたシクロアルキル、C3〜C5置換されたシクロアルキル、C3〜C6置換されたシクロアルキル、C3〜C7置換されたシクロアルキル、C3〜C8置換されたシクロアルキル、C3〜C9置換されたシクロアルキル、C3〜C10置換されたシクロアルキル、C3〜C11置換されたシクロアルキルまたはC3〜C12置換されたシクロアルキル、C3〜C13置換されたシクロアルキル、C3〜C14置換されたシクロアルキル、C3〜C15置換されたシクロアルキル、C3〜C16置換されたシクロアルキル、C3〜C17置換されたシクロアルキル、C3〜C18置換されたシクロアルキル、C3〜C19置換されたシクロアルキル、C3〜C20置換されたシクロアルキルであり得る。例えば、シクロアルキルとしては、シクロプロピル、シクロヘキシルなどが例示される。
【0030】
本明細書において「アルケニル」とは、エチレン、プロピレンのような、分子内に二重結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にCnH2n−1−で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルケニル」とは、以下に規定する置換基によってアルケニルのHが置換されたアルケニルをいう。本発明の環状グルカン誘導体の疎水性基の具体例としては、C3〜C4アルケニル、C3〜C5アルケニル、C3〜C6アルケニル、C3〜C7アルケニル、C3〜C8アルケニル、C3〜C9アルケニル、C3〜C10アルケニル、C3〜C11アルケニル、C3〜C12アルケニル、C3〜C13アルケニル、C3〜C14アルケニル、C3〜C15アルケニル、C3〜C16アルケニル、C3〜C17アルケニル、C3〜C18アルケニル、C3〜C19アルケニル、C3〜C20アルケニル、C3〜C4置換されたアルケニル、C3〜C5置換されたアルケニル、C3〜C6置換されたアルケニル、C3〜C7置換されたアルケニル、C3〜C8置換されたアルケニル、C3〜C9置換されたアルケニル、C3〜C10置換されたアルケニル、C3〜C11置換されたアルケニル、C3〜C12置換されたアルケニル、C3〜C13置換されたアルケニル、C3〜C14置換されたアルケニル、C3〜C15置換されたアルケニル、C3〜C16置換されたアルケニル、C3〜C17置換されたアルケニル、C3〜C18置換されたアルケニル、C3〜C19置換されたアルケニル、C3〜C20置換されたアルケニルであり得る。ここで、例えばC3〜C10アルキルとは、炭素原子を3〜10個含む直鎖または分枝状のアルケニルを意味し、アリル(CH2=CHCH2−)、CH3CH=CH−などが例示される。また、例えば、C3〜C10置換されたアルケニルとは、C3〜C10アルケニルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
【0031】
本明細書において「シクロアルケニル」とは、環式構造を有するアルケニルをいう。「置換されたシクロアルケニル」とは、以下に規定する置換基によってシクロアルケニルのHが置換されたシクロアルケニルをいう。本発明の環状グルカン誘導体の疎水性基の具体例としては、C3〜C4シクロアルケニル、C3〜C5シクロアルケニル、C3〜C6シクロアルケニル、C3〜C7シクロアルケニル、C3〜C8シクロアルケニル、C3〜C9シクロアルケニル、C3〜C10シクロアルケニル、C3〜C11シクロアルケニル、C3〜C12シクロアルケニル、C3〜C13シクロアルケニル、C3〜C14シクロアルケニル、C3〜C15シクロアルケニル、C3〜C16シクロアルケニル、C3〜C17シクロアルケニル、C3〜C18シクロアルケニル、C3〜C19シクロアルケニル、C3〜C20シクロアルケニル、C3〜C4置換されたシクロアルケニル、C3〜C5置換されたシクロアルケニル、C3〜C6置換されたシクロアルケニル、C3〜C7置換されたシクロアルケニル、C3〜C8置換されたシクロアルケニル、C3〜C9置換されたシクロアルケニル、C3〜C10置換されたシクロアルケニル、C3〜C11置換されたシクロアルケニルまたはC3〜C12置換されたシクロアルケニル、C3〜C13置換されたシクロアルケニル、C3〜C14置換されたシクロアルケニル、C3〜C15置換されたシクロアルケニル、C3〜C16置換されたシクロアルケニル、C3〜C17置換されたシクロアルケニル、C3〜C18置換されたシクロアルケニル、C3〜C19置換されたシクロアルケニル、C3〜C20置換されたシクロアルケニル、であり得る。例えば、好ましいシクロアルケニルとしては、1−シクロペンテニル、2−シクロヘキセニルなどが例示される。
【0032】
本明細書において「アルキニル」とは、アセチレンのような、分子内に三重結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にCnH2n−3−で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルキニル」とは、以下に規定する置換基によってアルキニルのHが置換されたアルキニルをいう。本発明の環状グルカン誘導体の疎水性基の具体例としては、C3〜C4アルキニル、C3〜C5アルキニル、C3〜C6アルキニル、C3〜C7アルキニル、C3〜C8アルキニル、C3〜C9アルキニル、C3〜C10アルキニル、C3〜C11アルキニル、C3〜C12アルキニル、C3〜C13アルキニル、C3〜C14アルキニル、C3〜C15アルキニル、C3〜C16アルキニル、C3〜C17アルキニル、C3〜C18アルキニル、C3〜C19アルキニル、C3〜C20アルキニル、C3〜C4置換されたアルキニル、C3〜C5置換されたアルキニル、C3〜C6置換されたアルキニル、C3〜C7置換されたアルキニル、C3〜C8置換されたアルキニル、C3〜C9置換されたアルキニル、C3〜C10置換されたアルキニル、C3〜C11置換されたアルキニル、C3〜C12置換されたアルキニル、C3〜C13置換されたアルキニル、C3〜C14置換されたアルキニル、C3〜C15置換されたアルキニル、C3〜C16置換されたアルキニル、C3〜C17置換されたアルキニル、C3〜C18置換されたアルキニル、C3〜C19置換されたアルキニル、C3〜C20置換されたアルキニルであり得る。ここで、例えば、C2〜C10アルキニルとは、例えば炭素原子を2〜10個含む直鎖または分枝状のアルキニルを意味し、エチニル(CH≡C−)、1−プロピニル(CH3C≡C−)などが例示される。また、例えば、C2〜C10置換されたアルキニルとは、C2〜C10アルキニルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
【0033】
本明細書において「アルコキシ」とは、アルコール類のヒドロキシ基の水素原子が失われて生ずる1価の基をいい、一般にCnH2n+1O−で表される(ここで、nは1以上の整数である)。「置換されたアルコキシ」とは、以下に規定する置換基によってアルコキシのHが置換されたアルコキシをいう。本発明の環状グルカン誘導体の疎水性基の具体例としては、C3〜C4アルコキシ、C3〜C5アルコキシ、C3〜C6アルコキシ、C3〜C7アルコキシ、C3〜C8アルコキシ、C3〜C9アルコキシ、C3〜C10アルコキシ、C3〜C11アルコキシ、C3〜C12アルコキシ、C3〜C13アルコキシ、C3〜C14アルコキシ、C3〜C15アルコキシ、C3〜C16アルコキシ、C3〜C17アルコキシ、C3〜C18アルコキシ、C3〜C19アルコキシ、C3〜C20アルコキシ、C3〜C4置換されたアルコキシ、C3〜C5置換されたアルコキシ、C3〜C6置換されたアルコキシ、C3〜C7置換されたアルコキシ、C3〜C8置換されたアルコキシ、C3〜C9置換されたアルコキシ、C3〜C10置換されたアルコキシ、C3〜C11置換されたアルコキシ、C3〜C12置換されたアルコキシ、C3〜C13置換されたアルコキシ、C3〜C14置換されたアルコキシ、C3〜C15置換されたアルコキシ、C3〜C16置換されたアルコキシ、C3〜C17置換されたアルコキシ、C3〜C18置換されたアルコキシ、C3〜C19置換されたアルコキシ、C3〜C20置換されたアルコキシであり得る。
【0034】
本明細書において「炭素環基」とは、炭素のみを含む環状構造を含む基であって、前記の「シクロアルキル」、「置換されたシクロアルキル」、「シクロアルケニル」、「置換されたシクロアルケニル」以外の基をいう。炭素環基は芳香族系または非芳香族系であり得、そして単環式または多環式であり得る。「置換された炭素環基」とは、以下に規定する置換基によって炭素環基のHが置換された炭素環基をいう。具体例としては、C3〜C4炭素環基、C3〜C5炭素環基、C3〜C6炭素環基、C3〜C7炭素環基、C3〜C8炭素環基、C3〜C9炭素環基、C3〜C10炭素環基、C3〜C11炭素環基、C3〜C12炭素環基、C3〜C4置換された炭素環基、C3〜C5置換された炭素環基、C3〜C6置換された炭素環基、C3〜C7置換された炭素環基、C3〜C8置換された炭素環基、C3〜C9置換された炭素環基、C3〜C10置換された炭素環基、C3〜C11置換された炭素環基またはC3〜C12置換された炭素環基であり得る。炭素環基はまた、C4〜C7炭素環基またはC4〜C7置換された炭素環基であり得る。炭素環基としては、フェニル基から水素原子が1個欠失したものが例示される。ここで、水素の欠失位置は、化学的に可能な任意の位置であり得、芳香環上であってもよく、非芳香環上であってもよい。
【0035】
本明細書において「ハロゲン」とは、周期表7B族に属するフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などの元素の1価の基をいう。
【0036】
本明細書において「水酸基」とは、−OHで表される基をいう。本明細書において、「水酸基」との用語は、「ヒドロキシ」または「ヒドロキシル」との用語と互換可能に使用され得る。
【0037】
本明細書において「アミド」とは、アンモニアの水素を酸基(アシル基)で置換した基であり、好ましくは、−CONH2で表される。
【0038】
本明細書において「アリール」とは、芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1個離脱して生ずる基をいい、本明細書において、炭素環基に包含される。
【0039】
本明細書においては、特に言及がない限り、置換は、ある有機化合物または置換基中の1または2以上の水素原子を他の原子または原子団で置き換えることをいう。水素原子を1つ除去して1価の置換基に置換することも可能であり、そして水素原子を2つ除去して2価の置換基に置換することも可能である。
【0040】
本発明の環状グルカン誘導体の疎水性基が置換基Rによって置換されている場合、そのような置換基Rは、単数または複数存在し、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、アルコキシおよび炭素環基からなる群より選択される。好ましくは、Rは、それぞれ独立して、水素、ハロゲンおよびアルキルからなる群より選択され得る。より好ましくは、置換基Rは、フッ素である。
【0041】
(好ましい実施形態の説明)
以下に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0042】
1つの局面において、本発明は、疎水性基が高重合度環状グルカンに結合した環状グルカン誘導体を提供する。このような疎水性基の導入により、本発明の環状グルカン誘導体の油類への溶解度が向上し、優れた界面活性特性を得ることができる。本発明の環状グルカン誘導体は、シクロデキストリン類に比べはるかに高重合度の環状グルカン部位を有するため、包接される化合物の構造にあわせて環状立体構造を変化させ、低分子量から高分子量の多種多様な化合物の包接を可能にする分子認識ホスト分子として優れた性質を持ち合わせることができる。これにより、本発明の環状グルカン誘導体は、医薬、界面活性剤、化粧品用組成物、食品用組成物および磁気記録媒体用フィルムなどの用途に有用となる。
【0043】
以下に、本発明の環状グルカン誘導体を製造する際の原料である、高重合度環状グルカンの構造、性質および製造方法について、説明する。
【0044】
本発明で使用する高重合度環状グルカンは、少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカンであり、具体的には、例えば、図1に模式的に示される種々のグルカンが挙げられる。図1において、水平の直線および曲線は、α−1,4−グルコシド結合でつながったグルカンの鎖を示し、垂直の矢印は、α−1,6−グルコシド結合を示す(以下の模式図における水平の直線および曲線、ならびに垂直の矢印も同様である)。
【0045】
上記のように、本発明で使用する高重合度環状グルカンには、環状構造のみを有するグルカンと、さらに環状構造に加えて非環状構造を有するグルカンとが含まれる。そしてこの環状構造には、α−1,4−グルコシド結合のみで構成される場合と、α−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合で構成される場合とがある。少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合を環状構造内部もしくは非環状構造部分に有するグルカンは、アミロペクチンのような分枝構造を有するグルカンを基質とした場合に生じる。
【0046】
環状構造のみを有するグルカンは、環状構造に加えて非環状構造を有するグルカンをα−1,4−グルコシド結合及びα−1,6−グルコシド結合を非還元性末端から切断するグルコアミラーゼ処理して得られる。あるいは直鎖状のα−1,4−グルカンまたは分枝構造を有するグルカンを基質として用いて、直接得られる。
【0047】
本発明で使用する高重合度環状グルカンは、以下の性質を有する。
(1)非還元性末端のα−1,4−グルコシド結合およびα−1,6−グルコシド結合を加水分解するエキソ型アミラーゼであるグルコアミラーゼ(東洋紡(株))を作用させると、それ以上分解されない成分(グルコアミラーゼ耐性成分)が残る。その成分は、脱リン酸化酵素(シグマ社)を作用させた後にさらにグルコアミラーゼを作用させても分解されない。
(2)上記グルコアミラーゼ耐性成分は、澱粉中のα−1,6−グルコシド結合を加水分解するイソアミラーゼ(株式会社林原生化学研究所)により、分解され、グルコアミラーゼの作用を受けるようになる場合がある。
(3)上記グルコアミラーゼ耐性成分は、エンド型アミラーゼであるα−アミラーゼにより分解される。
【0048】
本発明で使用する高重合度環状グルカンのうち、α−1,6−グルコシド結合を有せず、少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合のみで構成される環状構造のみを有するグルカン(以下、本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンという)は、以下の性質を有する。
(1)還元性末端、非還元性末端が、いずれも検出できない。
(2)非還元性末端のα−1,4−グルコシド結合を加水分解するエキソ型アミラーゼであるβ−アミラーゼ(生化学工業株式会社)およびグルコアミラーゼ(東洋紡(株))では分解されない。
(3)澱粉中のα−1,6−グルコシド結合を加水分解するイソアミラーゼ(株式会社林原生化学研究所)とプルラナーゼ(株式会社林原生化学研究所)の併用、もしくはイソアミラーゼとプルラナーゼとβ−アミラーゼの併用でも分解されない。
(4)澱粉分子内部のα−1,4−グルコシド結合を加水分解するエンド型アミラーゼであるα−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社)により完全に分解される。
(5)細菌糖化型α−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社)で加水分解し、HPLCで分析すると、グルコース、マルトース、及び若干量のマルトトリオースのみが得られる。すなわち、α−1,4−グルコシド結合以外の結合は存在しない。
【0049】
本発明で使用する高重合度環状グルカンのうち、少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合と少なくとも1つのα−1,6−グルコシド結合とにより構成される環状構造のみを有するグルカン(以下、本発明のα−1,6−グルコシド結合を有する環状グルカンという)は、以下の性質を有する。
(1)還元性末端、非還元性末端が、いずれも検出できない。
(2)非還元性末端のα−1,4−グルコシド結合を加水分解するエキソ型アミラーゼであるβ−アミラーゼ(生化学工業株式会社)およびグルコアミラーゼ(東洋紡(株))では分解されない。
(3)澱粉中のα−1,6−グルコシド結合を加水分解するイソアミラーゼ(株式会社林原生化学研究所)により、分解され、グルコアミラーゼの作用を受けるようになる。
(4)澱粉中のα−1,4−グルコシド結合を加水分解するエンド型α−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製)により、分解され、グルコアミラーゼの作用を受けるようになる。また、同エンド型α−アミラーゼを、α−1,6−グルコシド結合を有する環状グルカンに作用させた場合の最小リミットデキストリンは、イソマルトシルマルトース(IMM)であることが知られている(Yamamoto,T.Handbook of amylase and related enzymes, Pergamon press, p40−45(1988))。上記本発明のα−1,6−グルコシド結合を有する環状グルカンをエンド型αーアミラーゼで処理することによって、IMMが検出される。
【0050】
本発明で使用する高重合度環状グルカンの環状構造を構成するグルコースの数は、少なくとも14個であり、好ましくは17個以上、より好ましくは22個以上、さらにより好ましくは50個以上であり、上限は、約5000個である。α−1,6−グルコシド結合を有する場合、その数は少なくとも1個あればよく、通常1〜500個、好ましくは1〜100個である。
【0051】
上記還元性末端の定量は、Hizukuriら(1981)Carbohydr.Res:94:205−213の改変パークジョンソン法により、非還元性末端の定量はHizukuriら(1978)Carbohydr.Res:63:261−264の迅速スミス分解法により行い得る。
【0052】
上記エキソ型アミラーゼであるβ−アミラーゼおよびグルコアミラーゼ、あるいは、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、あるいは、エンド型アミラーゼであるα−アミラーゼによる分解は、例えば、本発明で使用する高重合度環状グルカンを、0.1%(w/v)となるように蒸留水に溶解後、100μlをとり、上記分解酵素をそれぞれ適当量加え、30−45℃で数時間反応させる。この反応物を、DIONEX社の糖分析システム(送液システム:DX300、検出器:PAD−2、カラム:CarboPacPA100)にかけ、分析し得る。溶出は、例えば、流速:1ml/min,NaOH濃度:150mM,酢酸ナトリウム濃度:0分−50mM、2分−50mM、37分−350mM、45分−850mM、47分−850mMの条件で行い、重合度および生じる糖を分析し得る。
【0053】
本発明で使用する高重合度環状グルカンからの上記グルコアミラーゼ耐性成分の検出は、次のように行い得る。例えば、本発明の高重合度環状グルカン100mgを5mlの蒸留水に溶解させ、グルコアミラーゼを終濃度10単位/mlとなるように添加し、40℃で一夜反応させる。この反応物を100℃で10分間加熱し、不溶物を遠心分離により除去した後、10倍量のエタノールを添加し、残存する多糖を遠心分離による沈澱として回収する。沈澱をさらに1mlの蒸留水に溶解し、グルコアミラーゼを終濃度50単位/mlとなるように添加し、40℃で1時間反応させ、100℃で10分間加熱し、不溶物を遠心分離により除去する。これに10倍量エタノールを添加し沈澱を得る。本発明のグルカンの原料が一部リン酸基により修飾されている澱粉などの原料の場合は、得られた沈澱を10mM 炭酸緩衝液(pH9.4、10mMのMgCl2および0.3mMのZnCl2を含む)に溶解し、20単位の脱リン酸化酵素(ウシ由来、Sigma製)を添加し、40℃で24時間反応させた後、10倍量エタノールを添加し、沈澱を回収する。再度蒸留水に溶解し、グルコアミラーゼを終濃度50単位/mlとなるように添加し、40℃で1時間反応させ、10倍量のエタノールを添加し、グルコアミラーゼ耐性成分を沈澱として得ることができる。
【0054】
本発明の高重合度環状グルカン中の非環状構造部分、α−1,6−グルコシド結合を有する環状構造部分、およびα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状構造部分の定量は、以下のように行い得る。試料高重合度環状グルカン10mgを1mlのDMSOに溶解した後、100mMの酢酸ナトリウム緩衝液8mlを用いてすばやく希釈する。この希釈液を900μlずつ4試料採り、それぞれの試料に、100μlの蒸留水、グルコアミラーゼ液、枝切り酵素とグルコアミラーゼとの混合液、およびエンド型α−アミラーゼとグルコアミラーゼとの混合液をそれぞれ加えて、40℃で4時間反応させる。反応終了後、生じたグルコースを、市販のグルコース定量キットを用いて測定することにより、試料グルカン中の非環状構造部分、α−1,6−グルコシド結合を有する環状構造部分、およびα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状構造部分を計算により求めることができる。詳細は、実施例で説明する。
【0055】
本発明で使用する高重合度環状グルカンの環状構造部分の重合度は、クロマトグラフィーを用いて測定し得る。一般的に、環状多糖は同じ重合度の直鎖多糖とはクロマトグラフィーにおける挙動が異なることが知られており、この性質を用いて、環状であることの証明、及び環状多糖の重合度の決定が行われ得る。例えば、D酵素を用いて反応させて得られた本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンを上記のDIONEX社の糖分析システムで分離し、シングルピークの画分を取得し得る。得られた画分を、例えば、0.1NのHClで100℃、30分間処理し、この環状構造部分を部分的に加水分解したのち、分解により生じた種々の重合度の直鎖のグルカンをDIONEX社の糖分析システムを用いて分析し、重合度を決定し得る。詳細な分析方法は、実施例で述べる。
【0056】
本発明で使用する高重合度環状グルカンは、直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれらを含む糖類と、少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカンを生成し得る酵素とを反応させて得られる。このような活性を有する酵素であれば、いかなる酵素も使用し得る。本発明においては、D酵素を用いることが好ましい。
【0057】
D酵素は最初、馬鈴薯から発見されたが、種々の植物、および大腸菌などの微生物に存在していることがわかっている。この大腸菌などの微生物の酵素はアミロマルターゼあるいは4−α−グルカノトランスフェラーゼと称される。従って、D酵素はその起源は問わず、これら酵素をコードする遺伝子を大腸菌などの宿主をもちいて発現せしめたものであっても使用し得る。ここでは、馬鈴薯および大腸菌からのD酵素の精製方法を例として開示するが、これに限られない。
【0058】
馬鈴薯から、D酵素を精製する方法は、Takahaら、J.Biol.Chem. vol.268,1391−1396(1993)に記載されている。まず、馬鈴薯塊茎を5mMのメルカプトエタノールを含む適当な緩衝液中でホモジナイズし、遠心分離して、0.45μmのメンブレンを通した後、Q−Sepharoseカラムにかけ、例えば、5mM 2−メルカプトエタノールを含む20mMTris−HCl(pH7.5)(緩衝液A)に150mM NaClを含む緩衝液で洗浄する。D酵素は、450mMのNaClを含む緩衝液Aに溶出する。これを、緩衝液Aに対して透析し、500mM 硫酸アンモニウムを含む溶液をPhenyl Toyopearl 650M(Tosoh)カラムにロードし、緩衝液A中の硫酸アンモニウム濃度を500mMから0mMに変化させることにより溶出を行い、D酵素活性画分を集め、緩衝液Aに対して透析を行う。透析内液を緩衝液Aで平衡化したPL−SAXカラム(Polymer Laboratory U.K.)にロードし、緩衝液A中のNaCl濃度を150mM−400mMに変化させて溶出し、D酵素活性画分を集める。上記の方法で馬鈴薯からD酵素を精製し得る。酵素活性の測定は、実施例において詳述する。
【0059】
前出のTakahaら、J.Biol.Chem.vol.268,1391−1396 (1993)には、馬鈴薯D酵素のcDNA配列(同1394頁、Fig.3)、D酵素の組換プラスミドの作成(同1392頁)、該組換えプラスミドの大腸菌における発現、および組換え大腸菌からのD酵素の精製が開示されており、組換え法で作成されるD酵素も当然に使用され得る。大腸菌からD酵素を精製する方法は、例えば、まず、D酵素の生産株である大腸菌TG−1株をLB液体培地を用いて37℃で対数増殖期まで培養後、マルトースを終濃度1%(w/v)となるように添加し、さらに37℃で2時間培養する。遠心分離で集めた菌体を、上記緩衝液Aに懸濁して超音波処理、遠心分離を行い、菌体抽出液を得る。次に、例えば、緩衝液Aで平衡化したQ−Sepharose Fast Flow(Pharmacia)カラムにロードし、緩衝液A中のNaCl濃度を0mMから500mMに変化させて溶出を行い、D酵素活性画分を集める。活性画分に、終濃度1Mになるように硫酸アンモニウムを加えて放置し、遠心分離で不溶性の沈澱を除去し、上清を1Mの硫酸アンモニウムを含む緩衝液Aで平衡化したPhenyl Toyopearl 650M(Tosoh)カラムにロードする。緩衝液A中の硫酸アンモニウム濃度を1Mから0mMに変化させることにより溶出を行い、D酵素活性画分を集める。この画分を、緩衝液Aに対して透析後、透析内液を緩衝液Aで平衡化したResource Qカラム(Pharmacia)にロードし、緩衝液Aの中のNaCl濃度を0mMから500mMに変化させることにより溶出を行い、D酵素を精製する。
【0060】
D酵素は、上記のようにして精製され得るが、澱粉分子内のα−1,4−グルコシド結合に作用するエンド型のアミラーゼ類が検出されなければ、上記いずれの精製段階の粗酵素であっても、本発明で使用する高重合度環状グルカンの合成に使用し得る。
【0061】
また、本発明に用いる酵素は、精製酵素、粗酵素を問わず、固定化されたものでも反応に使用し得、反応の形式は、バッチ式でも連続式でもよい。固定化の方法としては、担体結合法、(たとえば、共有結合法、イオン結合法、あるいは物理的吸着法)、架橋法あるいは包括法(格子型あるいはマイクロカプセル型)が使用され得る。
【0062】
本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンのみを得たい場合には、アミロース、澱粉枝切り物、ホスホリラーゼによる酵素合成アミロース、マルトオリゴ糖などのα−1,4−グルコシド結合のみからなる直鎖のα−1,4−グルカンに、本発明の高重合度環状グルカンに使用し得る上記酵素、例えばD酵素を作用させて製造し得る。
【0063】
また、アミロペクチン、グリコーゲン、澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、可溶性澱粉、デキストリン、澱粉加水分解物、ホスホリラーゼによる酵素合成アミロペクチンなどのα−1,6−分岐構造を有する糖類を原料にする場合で、本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンのみを得たい場合には、本発明の高重合度環状グルカンに使用し得る上記酵素、例えば、D酵素を直接原料に反応させて製造し得る。あるいは、α−1,6−グルコシド結合を切断するが、α−1,4−グルコシド結合を切断しない酵素、例えばイソアミラーゼ、プルラナーゼの存在下または非存在下で、上記糖類を本発明の高重合度環状グルカンに使用し得る上記酵素、例えばD酵素と反応させて製造し得る。
【0064】
例えば、図2に示すように、還元末端(11)を有するアミロース(12)とD酵素とを反応させて、上記α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)を作成した後、グルコアミラーゼを添加して、非環状グルカンを非還元末端から順次加水分解する。次にエタノールを加えて環状グルカンを沈澱として回収したのち凍結乾燥し、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)を得る。
【0065】
あるいは、還元末端(11)を有するアミロペクチン(14)とα−1,6−グルコシド結合を切断するイソアミラーゼとD酵素とを同時に反応させて、上記α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)を作成した後、グルコアミラーゼを添加して非還元末端から順次加水分解を行う。次にエタノールを加えて環状グルカンを沈澱として回収したのち凍結乾燥し、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)を得る。
【0066】
あるいは、還元末端(11)を有するアミロペクチン(14)にD酵素を反応させることにより、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)と、α−1,4−グルコシド結合のみにより構成される環状構造と非環状構造部分とを有するグルカン(18)と、少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合および少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカン(15)とを調製した後、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼを反応させる。さらに、プルラナーゼを反応させ得る。次いで、エタノールを添加して、環状グルカンを沈殿させ、この沈殿を回収した後凍結乾燥することにより、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)を得る。
【0067】
さらに、本発明の少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカン(以下、本発明のα−1,6−グルコシド結合を有するグルカンという)は、アミロペクチン、グリコーゲン、澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、可溶性澱粉、デキストリン、澱粉加水分解物、ホスホリラーゼによる酵素合成アミロペクチンなどのα−1,6−分岐構造を有する原料に、本発明のグルカンに使用し得る上記酵素、例えばD酵素を作用させて製造し得る。
【0068】
例えば、図3に示すように、還元末端(11)を有するアミロペクチン(14)にD酵素を反応させて、上記の少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカン(15)と、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)と、α−1,4−グルコシド結合のみにより構成される環状構造と非環状構造部分とを有するグルカン(18)とを作製した後、ゲル濾過クロマトグラフィーにより、上記の少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合とにより構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカン(15)を分離し得る。このグルカン(15)に、グルコアミラーゼを添加して非環状構造部分を非還元末端から順次加水分解する。加水分解後に、エタノールを加えて環状グルカンを沈澱として回収したのち凍結乾燥し、少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合を有する環状構造のみで形成されるグルカン(16)を得る。
【0069】
本発明に用いられ得る直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれを有する糖類としては、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオースなどのマルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、可溶性澱粉、デキストリン、澱粉枝きり物、澱粉部分加水分解物、ホスホリラーゼによる酵素合成澱粉、およびこれらの誘導体などが挙げられる。これらは、単独でもよく、あるいは組み合わせても使用し得る。ここで、澱粉枝きり物とは、澱粉にあるα−1,4−グルコシド結合以外の結合を酵素的に全部あるいは一部を切断して得られる物をいう。また、澱粉部分加水分解物とは、澱粉にあるα−1,4−グルコシド結合の一部を酵素的に、もしくは化学的に切断して得られるものをいい、例えば、重合度が100程度以上のアミロペクチン、重合度が22程度以上のアミロースなどが原料として用いられ得る。
【0070】
また、本発明に用いられ得る直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれを有する糖類と、少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカンを生成し得る酵素との反応は、ホスホリラーゼおよびグルコース−1−リン酸の存在下で行い得る。ホスホリラーゼは、グルコース−1−リン酸が過剰に存在する場合には、α−1,4−グルカン鎖の伸張反応を触媒する。このため、上記原料のα−1,4−グルカン鎖が、上記酵素の環状化反応を受けるには充分な長さを有していない場合には、ホスホリラーゼおよびグルコース−1−リン酸を共存させることにより、本発明のグルカンの収量を増加させることが可能である。
【0071】
さらに、原料には、上記澱粉あるいは澱粉の部分分解物の誘導体も用い得る。例えば、上記澱粉のアルコール性の水酸基の少なくとも1つが、イオン結合、エーテル化(カルボキシメチル化、ヒドリキシアルキル化等)、エステル化(リン酸化、アセチル化、硫酸化等)、架橋化またはグラフト化された誘導体なども用いられ得る。さらに、これらの2種以上の混合物も原料として用い得る。
【0072】
上記原料と本発明に使用し得る酵素との反応は、本発明の高重合度環状グルカンが生成するpH、温度などの条件であれば、いずれをも使用し得る。
【0073】
D酵素を例にとれば、反応のpHは、通常、3から10、反応速度、効率、酵素の安定性などの点から、好ましくは4から9、さらに好ましくは、6から8である。温度は、約10℃から90℃、反応速度、効率、酵素の安定性などの点から、好ましくは約20℃から60℃、さらに好ましくは、30℃から40℃の範囲である。耐熱性の微生物などから得られる酵素を用いる場合は、50℃から90℃の高温で使用し得る。上記原料の濃度(基質濃度)も、使用する基質の重合度、反応条件を考慮して決定し得る。通常、0.1%から30%程度、反応速度、効率、基質溶液の取り扱い易さなどの点から、好ましくは0.1%から10%、さらに好ましくは溶解度などを考慮すると0.5%から5%である。使用する酵素の量は、反応時間、基質の濃度との関係で、決定され、通常は、約1時間から48時間で反応が終了するように酵素量を選ぶのが好ましく、基質1gあたり、通常50〜10,000単位、好ましくは70〜2,500単位、より好ましくは400〜2,000単位である。
【0074】
本発明の高重合度環状グルカンは、それ自体は公知の手法を適用して分離、精製し得る。例えば、本発明の高重合度環状グルカンは、上記の反応が終了した後、溶媒による沈澱、膜による分離、クロマトグラフィーによる分離などにより、分離、精製され得る。好ましくは、反応液を加熱して、あるいはそのまま精製する。本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンは、エキソ型のβ−アミラーゼあるいはグルコアミラーゼを添加して、残存する直鎖のα−1,4−グルカンを分解して得られる。澱粉などの分枝多糖を原料として用いた場合には、エキソ型のβ−アミラーゼあるいはグルコアミラーゼと、α−1,6−グルコシド結合を切断する酵素とを併用して、環状α−1,4−グルカンのみが残るように反応させる。その後、溶媒を用いる沈澱、膜分離、クロマト分離などの分離、精製手段が適用され得る。
【0075】
このようにして得られた高重合度環状グルカンは、そのまま親水性部位として用いてもよく、必要に応じて、さらに親水性置換基を導入して親水性部位として用いてもよい。親水性置換基を導入する場合、その置換基が導入される位置は高重合度環状グルカンの任意の位置であり得る。例えば、環状グルカンを構成するグルコースモノマーユニットのいずれかの2位、3位または6位の水酸基のうちの1つに対して親水性置換基を導入することが可能である。2位、3位または6位の水酸基のうちの2つに対して親水性置換基を導入してもよく、2位、3位および6位のすべての水酸基に対して親水性置換基を導入してもよい。
【0076】
ただし、環状グルカンを構成するすべてのグルコース単位の2位、3位および6位のすべての水酸基に親水性置換基を導入すると、疎水性基を導入することがなくなる。従って、親水性置換基は、疎水性基の導入が予定される位置以外の位置において導入される。
【0077】
このようにして得られる、高重合度環状グルカンを含む親水性部位に疎水性基を化学的に結合させることにより、本発明の環状グルカン誘導体が得られる。本発明の環状グルカン誘導体は、好ましくは、例えば、具体的に以下の構造式:
【0078】
【化3】
【0079】
で表すことができる。
ここで、上記式においてn個のモノマーはそれぞれ互いに独立して選択される。すなわち、単一種類のグルコース誘導体モノマーがn個重合されていることを必要とするものではない。1種類のモノマーがn個重合されたホモポリマー構造であってもよいが、2種類のモノマーが共重合した構造であってもよい。あるいは、3種類以上のモノマーが共重合した構造であってもよい。
【0080】
n個のR1は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表し、n個のR2は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表し、n個のR3は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表す。ただし、1分子中に少なくとも1つの−L−R4が存在する。存在する基−L−R4の数は、1つの実施形態では、1分子中に2以上であり、好ましくは、5以上であり、より好ましくは、10以上である。基−L−R4の数は、高重合度環状グルカンの全水酸基に対する比率として、全水酸基の1%以上であることが好ましく、全水酸基の2%以上であることがより好ましく、全水酸基の3%以上であることがさらに好ましい。また、全水酸基の50%以下であることが好ましく、全水酸基の20%以下であることがより好ましく、全水酸基の10%以下であることがさらに好ましい。
【0081】
R4は、それぞれ独立して、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のアルキル基、またはC3〜C20の直鎖または分枝鎖のフッ化アルキル基である。
【0082】
Lは、それぞれ独立して、−NHCO−、−O−、−S−、−OSO2−、−SCO−または−OCO−である。
【0083】
R5は、それぞれ独立して、水酸基またはトシル基である。
【0084】
nは、14〜5000である。
【0085】
1つの実施形態では、この化合物は、以下の式の化合物であり得る:
【0086】
【化4】
【0087】
ここで、Lは連結基を表し、具体例としては例えば、Lは−NHCO−、−O−、−S−、−OSO2−、−SCO−または−OCO−などであり、R4は疎水性基を表し、具体例としては例えば、R4はC3〜C20の直鎖または分枝鎖のアルキル基、またはC3〜C20の直鎖または分枝鎖のフッ化アルキル基であり、R5は、水酸基またはトシル基であり、nは14〜5000である。mのnに対する割合は、好ましくは1〜50%、より好ましくは2〜20%、さらに好ましくは3〜10%である。
【0088】
好ましい実施形態において、高重合度環状グルカンに結合される疎水性基として、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のアルキル基、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のフッ化アルキル基、あるいはそれらの混合物が使用される。これにより、確実に良好な界面活性を得ることができる。さらに、アルキル基またはフッ化アルキル基を高重合度環状グルカンに結合させる場合、結合の際の立体的障害を考慮すると、これらアルキル基またはフッ化アルキル基は、鎖長とは無関係に、直鎖であることが好ましい。
【0089】
より好ましい実施形態において、高重合度環状グルカンに結合される疎水性基として、少なくとも50%のフッ素置換率を有するC3〜C20の直鎖のフルオロヒドロアルキル基またはC3〜C20の直鎖のペルフルオロアルキル基が使用される。これにより、特に優れた界面活性を得ることができる。
【0090】
また好ましい実施形態において、高重合度環状グルカンへの疎水性基の結合は、アミド結合、エーテル結合およびエステル結合からなる群から選択される。このように、比較的安定した化学結合を採用することにより、医薬、試薬、界面活性剤、化粧品用組成物、食品用組成物および磁気記録媒体用フィルムなどの用途における使用の間、途中で結合が分解することなく、安定した状態で本発明の環状グルカン誘導体の機能および活性を持続させることができる。上記結合の中でも、特に上記高重合度環状グルカンが有するアルコール性水酸基のうちの少なくとも1つが、フッ素置換または無置換の脂肪酸とのエステル結合によって誘導体化されていることが好ましい。
【0091】
(側鎖の導入方法)
本発明の高重合度環状グルカン誘導体は、グルコースの水酸基、例えば、上述した方法で得られた高重合度環状グルカンにトシル基を導入し、導入されたトシル基を(置換もしくは無置換)脂肪酸エステルでエステル交換することにより得られる。
【0092】
本発明の1局面において、本発明の疎水性基が高重合度環状グルカンに結合した環状グルカン誘導体は、アルカリ水溶液中で、前述の方法によって合成された高重合度環状グルカンと、塩化p−トルエンスルホニルとを、高重合度環状グルカンが有する少なくとも1個のアルコール性水酸基と塩化p−トルエンスルホニルとが反応し得る条件下で、接触させて、トシル基が高重合度環状グルカンに結合したトシル基含有環状グルカン誘導体を得(以下、この工程を高重合度環状グルカンのトシル化という;図11のスキーム1および2参照)、このトシル基含有環状グルカン誘導体と、フッ素置換または無置換の脂肪酸ナトリウムとを、トシル基と該脂肪酸ナトリウムとが交換反応し得る条件下で、接触させる(以下、この工程をトシル基と脂肪酸ナトリウムとのエステル交換反応という;図14のスキーム3および4参照)ことによって得ることができる。
【0093】
上記高重合度環状グルカンのトシル化は、より具体的に、以下のようにして行われる。まず、前述の方法で得られた高重合度環状グルカンをNaOH水溶液などのアルカリ水溶液に溶解させ、その水溶液に塩化p−トルエンスルホニル(略称:p−TsCl)を添加する。このとき、p−TsClは、アルカリ水溶液に溶解しないため、高重合度環状グルカンの環内の疎水性環境に包接されたp−TsClのみが反応に関わると考えられる。従って、撹拌状態が包接錯体の形成に影響を及ぼすため、反応の進行に大きく影響を与えると考えられる。また反応の進行に影響を及ぼす他の因子としては、撹拌温度、撹拌時間および反応溶液の濃度が挙げられる。この反応溶液濃度が反応の進行に影響を及ぼす理由としては、アルカリ水溶液がトシル化反応の際に発生するHClをトラップして反応を促進することが挙げられる。当業者は、このような撹拌状態、撹拌温度、撹拌時間および反応溶液の濃度を自在に変化させることで、用途に応じた所望のトシル化度を得ることができる。目的のトシル化高重合度環状グルカンの精製は、目的物を含むアルカリ水溶液を希塩酸で中和し、トシル化反応の副生成物であるNaCl塩をゲル濾過クロマトグラフィーまたは透析により除去し、水をエバポレーションで減圧除去し、真空乾燥することによって行われる。
【0094】
トシル化の確認は、トシル基特有のS=O基に基づく吸収に着目し、UVスペクトル法によって行うことができる(図12)。また、このトシル化度、つまり高重合度環状グルカンの全水酸基のうちトシル基で置換された割合は、1H−NMRスペクトル法により容易に算出することができる。図13のトシル化した高重合度環状グルカンの1H−NMRスペクトル図の(a+b)のプロトン積分計算値とdのプロトン積分計算値との比率により算出することができる。
【0095】
上で得られたトシル化高重合度環状グルカンのトシル基と脂肪酸ナトリウムとのエステル交換反応は、より具体的に以下のようにして行われる。トシル化高重合度環状グルカンを適切な溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド(略称:DMSO))に溶解し、その溶液に脂肪酸ナトリウムまたはフッ化脂肪酸ナトリウムを添加し、約70〜90℃の温度で、窒素気流下において、数時間撹拌することによって行われる。エステル交換後の最終目的物の精製は、まず、反応溶液にアセトンなどの溶媒を添加し、最終目的物を沈殿させ、この沈殿物を水に溶解し、適度な時間にわたり透析することにより、未反応物の脂肪酸ナトリウム塩またはフッ化脂肪酸ナトリウム塩および副生成物のp−トルエンスルホン酸ナトリウム(略称:TsNa)を除去し、凍結乾燥することによって行われる。
【0096】
エステル交換の確認は、脂肪酸のアルキル基特有のCH伸縮振動およびエステル基特有のC=O伸縮振動に着目し、IRスペクトル法によって行うことができる(図15)。また、このエステル交換度、つまり高重合度環状グルカンの全水酸基のうち脂肪酸またはフッ化脂肪酸で置換された割合は、1H−NMRスペクトル法により容易に算出することができる。図16のエステル交換後の高重合度環状グルカンの1H−NMRスペクトル図の(d+e)のプロトン積分計算値とcのプロトン積分計算値との比率により算出することができる。
【0097】
トシル化後の高重合度環状グルカンおよびエステル交換後の高重合度環状グルカンについての界面活性については、これらをそれぞれ超純水に分散または溶解させ、Wilhelmy plate法を用いた表面張力測定により評価することができる(図17)。
【0098】
エステル交換後の高重合度環状グルカンの水中における分散体についての物性については、動的光散乱により調べることができる(図18)。
【0099】
また、エステル交換後の高重合度環状グルカンの水中における分散体の視覚的観察は、透過型電子顕微鏡を用いて行うことができる(図19)。
【0100】
(界面活性剤)
本発明の環状グルカン誘導体は、親水性の環状グルカン部分と疎水性の側鎖とを有するため、環状グルカンとしての性能を維持しながら、さらに界面活性剤としての性能を発揮し得る。界面活性剤としての性能の観点から、環状グルカン誘導体のグルカンの重合度は、14〜5000が好ましく、17〜100がより好ましい。さらに好ましくは22〜50である。また、疎水性基の数としては、環状グルカン誘導体に存在するグルコース残基のうち、1〜50%に疎水性基が導入されていることが好ましく、2〜20%がより好ましく、3〜10%がさらに好ましい。疎水性基の種類としては、アルキル基または置換されたアルキル基が好ましく、アルキルまたはパーフルオロアルキルがより好ましい。直鎖のアルキル基または直鎖のパーフルオロアルキル基がさらに好ましい。アルキル基または置換されたアルキル基の鎖長は、C3〜C20が好ましく、より好ましくはC3〜C12であり、さらに好ましくはC3〜C8である。
【0101】
本発明の環状グルカン誘導体は、単独でそのまま界面活性剤として用いてもよく、また他の界面活性剤と組み合わせてもよい。
【0102】
本発明の環状グルカン誘導体からなる界面活性剤には、例えば、以下の特徴的な利点がある。
【0103】
1)親水部の分子量が大きい界面活性剤であるため、数分子でミセルを形成できる。一方で、ミセルの大きさが直径数百nmにもなる、巨大なミセルを形成することもできる。これはナノ粒子としての利用、乳化剤としての利用が考えられる。
【0104】
2)本発明の環状グルカンは、置換基を導入できる水酸基が多いため、導入できる疎水基の数が多い。このため、疎水基の置換度を変えるだけで、親水性基と疎水性基のバランス(HLB値)の幅が広い、一連の界面活性剤が得られる。
【0105】
3)親水部の分子量が大きい界面活性剤であり、親水部にさらに親水性基を導入しても、界面活性剤としての性質を維持できる。そのため、親水性基として、レセプター、リガンドなどを導入することにより、分子認識能を持つ界面活性剤が得られる。この界面活性剤をミセルあるいは泡として溶媒中に分散させて用いることで、レセプターやリガンドに結合する物質が存在する位置に集積させることができる。この性質は、例えば検査技術、診断技術として応用できる。
【0106】
4)本発明の環状グルカン誘導体は、包接される化合物の構造にあわせて環状立体構造を変化させ、低分子量から高分子量の多種多様な化合物の包接を可能にするという分子認識能を持つ。このため、包接能を持つ界面活性剤が得られる。さらに、本発明の環状グルカン誘導体をLB膜にすることにより特定の物質を認識する素子を作ることができる。
【0107】
5)本発明の環状グルカン誘導体をαーアミラーゼなどの酵素で分解し、親水部を破壊することにより界面活性剤の機能の制御(乳化・ミセル状態のコントロール)が可能となる。
【0108】
6)上記のことはまた、生分解性の界面活性剤が合成可能なことを意味する。これは、環境上好ましい性質である。というのも、界面活性剤は難分解性なものが多く、環境上問題となることが多いからである。この性質は一方で、医薬・化粧品として利用する上でも好ましい性質である。
【0109】
(医薬・化粧品など、およびそれを用いる治療、予防など)
別の局面において、本発明は、医薬(例えば、ワクチン等の医薬品、健康食品、残さタンパク質又は脂質は抗原性を低減した医薬品)および化粧品に関する。この医薬および化粧品は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
【0110】
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバントが挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、本発明の医薬は、単離された多能性幹細胞、またはその改変体もしくは誘導体を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。
【0111】
本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、そして以下が挙げられる:リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))。
【0112】
例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。
【0113】
本発明の医薬は、経口的または非経口的に投与され得る。あるいは、本発明の医薬は、静脈内または皮下で投与され得る。全身投与されるとき、本発明において使用される医薬は、発熱物質を含まない、薬学的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能な組成物の調製は、pH、等張性、安定性などを考慮することにより、当業者は、容易に行うことができる。本明細書において、投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)であり得る。そのような投与のための処方物は、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。
【0114】
本発明の医薬は、必要に応じて生理学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤(日本薬局方第14版またはその最新版、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990などを参照)と、所望の程度の純度を有する本発明の環状グルカン誘導体を含む組成物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で調製され保存され得る。
【0115】
本発明の処置方法において使用される環状グルカン誘導体を含む組成物の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被検体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0116】
本発明が化粧品として使用されるときもまた、当局の規定する規制を遵守しながら化粧品を調製することができる。
【0117】
(保健・食品)
本発明はまた、保健・食品分野においても利用することができる。このような場合、上述の経口医薬として用いられる場合の留意点を必要に応じて考慮すべきである。特に、特定保健食品のような機能性食品・健康食品などとして使用される場合には、医薬に準じた扱いを行うことが好ましい。
【0118】
(磁気記録媒体)
本発明はさらに、近年の磁気記録媒体の記録密度の増加に対応して、磁気ディスクの最外層に適用される潤滑剤としても利用することができる。磁気記録媒体は電子計算機、ワードプロセッサ等の外部メモリーとして用いられ、ハードディスク装置やフロッピー(登録商標)ディスク等が挙げられる。ディスクの大きさとしては、その用途により1〜14インチのものがある。ハードディスク装置の場合は、1枚または数枚のディスクを重ねることで大きな記録容量を確保している。こうしたディスクは、支持体である基板(Al、Cu等の金属の合金、ガラス等のセラミックス、または、ポリカーボネート、ポリスチレン等の有機高分子材料)、磁性体層(Fe,Co,Ni等を中心とした合金、または、その酸化物)、保護層(カーボン、SiC、SiO2等)、そして、本発明のフッ素化合物を含有した膜で構成されている。必要に応じて基板と磁性体層との間、または、磁性体層と保護層との間に、これらの密着性等を改善する目的で新たな層(例えばNi、Cr、およびZn系の錯体、酸化物、リン系の金属錯体等)を設ける場合がある。
【0119】
磁気記録媒体の保護層の上に形成される本発明の膜は、膜厚30nm以下が望ましい。これは厚すぎるとヘッドとディスクの間に働く静止摩擦係数が大きくなる恐れがあるからである。また、1nm未満では十分な効果が得られない。
【0120】
このような薄膜を形成するには、膜形成材料を直接塗布するのではなく、適当な溶剤に溶解し、それを浸漬塗布などによって形成する方法が、膜の厚さを制御し易いので好ましい。また、用いた溶剤の沸点や気化熱により後処理の方法は異なるが常温、または、若干の加温、あるいは常圧、減圧下で乾燥し、溶剤を除去する必要がある。この時、気化熱の大きな溶剤を用いると、空気中の水分を当該膜中に取り込む恐れがあるので、溶剤としては気化熱の小さなものが望ましい。
【実施例】
【0121】
以下に、本発明の疎水性基が高重合度環状グルカンに結合した環状グルカン誘導体について、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0122】
(実施例1:D酵素の調製)
Takahaら、J.Biol.Chem.vol.268,1391−1396(1993)に記載されている方法でD酵素を精製した。まず、馬鈴薯塊茎を5mMの2−メルカプトエタノールを含む20mMTris−HCl(pH7.5)緩衝液(緩衝液A)中でホモジナイズし、遠心分離して、0.45μmのメンブレンを通した後、Q−Sepharoseカラム(16X100mm ファルマシア)にかけ、150mM NaClを含む緩衝液Aで洗浄した。D酵素は、450mMのNaClを含む緩衝液Aに溶出した。溶出後、緩衝液Aに対して透析し、最終濃度が500mMとなるように硫酸アンモニウムを加えた。この溶液をPhenyl Toyopearl 650M(Tosoh)カラム(10X100mm)にロードし、緩衝液A中の硫酸アンモニウム濃度を500mMから0mMに変化させることにより溶出を行った。D酵素活性画分を集め、緩衝液Aに対して透析を行い、透析液をAmicon Centricon 30マイクロコンセントレーターを用いて濃縮し、PL−SAX HPLCカラム(Polymer Laboratory U.K.)にかけ、緩衝液A中150−400mMのNaCl直線濃度勾配をかけて溶出し、活性画分を集めて上記Amicon Centricon 30マイクロコンセントレーターで濃縮した。
【0123】
酵素活性の測定は、100mM Tris−HCl(pH7.0)、5mM 2−メルカプトエタノール、1%(w/v)マルトトリオース、および酵素を含む100μlの反応混合液を37℃、10分間、反応させ、反応液を沸騰水中で3分間加熱して、反応を停止し、反応により遊離したグルコースをグルコースオキシダーゼを用いる方法(Barhamら(1972)Analyst97:142)により定量した。1分間に1μmolのグルコースを生じる酵素量を1単位とした。
【0124】
(実施例2:本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンの調製)
市販のアミロース(平均分子量30,000)500mgを1N−NaOH 10mlに完全に溶解させた後、1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.5)10ml、蒸留水20ml、1N−塩酸10mlを順に加えアミロース溶液をつくった。このアミロース溶液に馬鈴薯由来D酵素200単位を加えて30℃において24時間反応させた。
【0125】
反応液を遠心分離後、上清を100℃、5分間処理し、再び遠心分離して変性した酵素蛋白質を除いた。上清にβアミラーゼ約100単位およびグルコアミラーゼ100単位を加えて50℃において3時間反応させた後、10倍量のエタノールを加えて、沈澱させた。この沈澱を凍結乾燥し、粉末約400mgを得た。
【0126】
(実施例3:本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンの調製)
市販の可溶性澱粉500mgを1N−NaOH 10mlに完全に溶解させた後、1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.5)10ml、蒸留水20ml、1N−塩酸10mlを順に加え澱粉溶液をつくった。この澱粉溶液に市販のイソアミラーゼ10単位と馬鈴薯由来D酵素200単位とを加えて30℃において24時間反応させた。
【0127】
反応液を遠心分離後、上清を100℃、5分間処理し、再び遠心分離して変性した酵素蛋白質を除いた。上清にβアミラーゼ約100単位およびグルコアミラーゼ100単位を加えて50℃において3時間反応させた後、10倍量のエタノールを加えて、環状アミロースを沈澱させた。この沈澱を凍結乾燥し、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの粉末約150mgを得た。
【0128】
(実施例4:本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンの調製)
市販のアミロース(平均分子量320,000)20mgをDMSO1mlに完全に溶解させた後、実施例1で精製したD酵素68単位を含む20mMクエン酸緩衝液(pH.7.0)9mlを添加し、30℃で10分、20分、30分、2時間、6時間、および18時間反応させた。反応液を100℃で10分間加熱した後、遠心分離により変性した酵素タンパク質を除いた。上清1mlに5単位のグルコアミラーゼを添加し40度で4時間反応させ非環状のアミロースを除いた。再び反応液を100℃で10分間加熱したのち、遠心分離により変性した酵素タンパクを除き、その上清250μlに10倍量のエタノールを加えて環状グルカンを沈殿させた。
【0129】
(実施例5:α−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンであることの確認)
(1)還元性末端、非還元性末端の定量
実施例2で得られた粉末の還元性末端の定量は、Hizukuriら(1981)Carbohydr.Res:94:205−213のパークジョンソン変法により行った。非還元性末端の定量は、Hizukuriら(1978)Carbohydr.Res:63:261−264の迅速スミス分解法により行った。その結果、還元性末端、非還元性末端は、両者とも検出できなかった。
【0130】
(2)エキソ型酵素およびα−1,6−グルコシド結合分解酵素による消化
実施例2で得られた粉末を、0.1%(w/v)となるように蒸留水に溶解後、本物質水溶液100μlに、以下に示した澱粉分解酵素それぞれ1単位を加え40℃で2時間反応させた。この反応物をDIONEX社の糖分析システム(送液システム:DX300、検出器:PAD−2、カラム:CarboPacPA100)により分析した。溶出は流速:1ml/min,NaOH濃度:150mM,酢酸ナトリウム濃度:0分−50mM、2分−50mM、37分−350mM(Gradient curve No.3)、45分−850mM(Gradient curve No.7)、47分−850mMの条件で行った。その結果を図4に示す。
【0131】
図4に示したように、実施例2で得られた粉末は、澱粉分子の非還元性末端のα−1,4−グルコシド結合を加水分解するエキソ型アミラーゼであるβ−アミラーゼ(生化学工業株式会社)およびグルコアミラーゼ(Toyobo Co.,Ltd.)では分解されなかった。また、澱粉中のα−1,6−グルコシド結合を加水分解するイソアミラーゼ(株式会社林原生化学研究所)とプルラナーゼ(株式会社林原生化学研究所)の併用、もしくはイソアミラーゼとプルラナーゼとβ−アミラーゼとの併用でも分解されなかった。しかしこの粉末は、澱粉分子内部のα−1,4−グルコシド結合を加水分解するエンド型アミラーゼであるα−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社)により完全に分解された。
【0132】
(3)エンド型酵素による消化
実施例2で得られた粉末を0.1%(w/v)となるように蒸留水に溶解後、この水溶液100μlに、細菌糖化型α−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社)1単位を加え、40℃で2時間反応させた。この反応物をHPLCで分析したところ、グルコース、マルトース、および若干量のマルトトリオースのみが得られた。このことから、上記実施例2で得られた粉末には、α−1,4−グルコシド結合以外の結合は存在しないことが証明され、得られた粉末が、α−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンであることがわかった。
【0133】
同様の確認を行った結果、実施例3および4で得られた粉末も、α−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンであることがわかった。
【0134】
(実施例6:α−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンの重合度の測定)
一般的に、環状多糖は同じ重合度の直鎖多糖と種々のクロマトグラフィーにおける挙動が異なることが知られている。この性質を用いて、環状であることの証明および環状多糖の重合度の決定を行った。
【0135】
(1)特定の重合度を有するα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの精製 実施例2で得られた物質は種々の重合度のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの混合物であると考えられるので、上記特定の重合度を有する環状グルカンの精製を行った。
【0136】
図5−1には、実施例2で得られた物質100μgを、DIONEX社の糖分析システム(装置および溶出条件は前記と同じ)により分析した際の溶出パターンを示す。図5−2には、同じ溶出条件における、直鎖α−1,4−グルカンの溶出パターンを示す。
【0137】
この図5−1に示される検出可能な最も早く溶出されたピークをA、それに続くピークをそれぞれB、C、D・・・Lとし、このうちGからLのピークを分取し、精製した。
【0138】
(2)酸加水分解物の分析
分取したGからLのピークをそれぞれ0.1NのHClで100℃、30分間、加水分解した。この条件は部分加水分解の条件である。分解物をDIONEX社の糖分析システム(装置および溶出条件は実施例5と同じ)で分析した。図6に、これらの結果を示す。
【0139】
上記ピークGの画分は、酸による部分加水分解を受け、グルコースおよび重合度2から23の直鎖α−1,4−グルカンに分解された。
【0140】
酸分解前のピークGは、直鎖のα−1,4−グルカンの重合度20の辺りに溶出されており、分解物の方が分解前の物より高重合度の位置に溶出されるという現象が見いだされた。この現象はそのほかのHからLのピークにおいても見いだされ、このことは、GからLのピークがα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンであることを示唆していると考えられる。
【0141】
前述の部分加水分解の実験において検出された最も重合度の大きな直鎖のα−1,4−グルカンが、それぞれのピークのα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの重合度をあらわすと考えられる。従って、ピークのG、H、I、J、K、Lの重合度は、順にそれぞれ、23、24、25、26、27および28であることが解った。また、この結果から推定すると、最小の重合度のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンであるピークAの重合度は、17であると考えられる。
【0142】
他方、より高重合度のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの重合度は、ゲル濾過クロマトグラフィーにより分析し得る。実施例4において、それぞれの反応時間に得られた、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの粉末を250ulの蒸留水に溶解し、その全量をSuperose6(φ1cm×30cm、ファルマシア製)とSuperose30(φ1cm×30cm、ファルマシア製)を連結したカラムにロードし、150mM酢酸ナトリウム水溶液を用いて溶出させた。
【0143】
その結果、図7に示したように、D酵素の反応時間が10分のサンプルでは、生成されたα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの平均分子量は約70,000であった。D酵素の反応時間が長くなるにつれ、生成されているα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの分子量は低下している。しかし、反応時間6時間以降は、平均分子量が約15,000から変化しておらず、これ以上の低分子化は起こらなかった。なお、環状グルカンの分子量は、酵素合成アミロースをスタンダードとして用いて算出した値である。
【0144】
このように、D酵素により生成されるα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの重合度は、基質として用いるアミロースの重合度、D酵素量、反応時間により、17から数百の範囲で任意にコントロールが可能であることがわかった。
【0145】
(実施例7:本発明のグルカンの調製)
市販のワキシーコーンスターチ40mgを2mlのDMSO(ジメチルスルフォキシド)に懸濁した後、実施例1で精製したD酵素680単位を含む20mMクエン酸緩衝液(pH7.0)18mlを添加し、30℃で40時間反応させた。
【0146】
反応液を100℃で10分間加熱した後、遠心分離により変性した酵素タンパクを除去した。上清に10倍量のエタノールを添加し、グルカンを沈澱させた。次いで、得られた沈殿を凍結乾燥し、本発明のグルカンの粉末約40mgを得た。この粉末は、本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有するグルカンと、本発明のα−1,6−グルコシド結合を有するグルカンと、本発明のα−1,4−グルコシド結合のみで構成された環状構造と非環状構造部分とを有するグルカンとの混合物であった。
【0147】
(実施例8:本発明の少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合を環状構造部分または非環状構造部分に有するグルカンの調製)
実施例7で得た沈澱をゲル濾過クロマトグラフィーで分画した。沈澱を250μlの蒸留水に溶解し、Superose6(φ1cm×30cm、ファルマシア製)とSuperdex30(φ1cm×30cm、ファルマシア製)を連結したカラムにその全量をロードした。次いで、150mM酢酸ナトリウム水溶液を用いて溶出を行った。図8に示すように、ボイドボリュームに溶出されていたアミロペクチンはD酵素の反応により低分子化され、平均分子量が約30,000であるピークIおよび平均分子量が約3,000であるピークIIの2種類の成分が生成した。このうち分子量約3000であるピークIIは、主としてα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンであった。一方、平均分子量が約30,000であるピークIは、α−1,6−グルコシド結合を有するグルカンであった。ピークIの画分を分取し、これに10倍量のエタノールを加えてα−1,6−グルコシド結合を有するグルカンを沈澱させた。沈澱は遠心分離して回収後、凍結乾燥した。このようにしてα−1,6−グルコシド結合を有するグルカン20mgを得た。なお、環状グルカンの分子量は、酵素合成アミロースをスタンダードとして用いて算出した値である。
【0148】
(実施例9:本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンの調製)
5mMのアデノシンモノフォストフェートを含む100mMクエン酸緩衝液(pH7.0)10mlにマルトヘキサオース20mgおよびグルコース1リン酸200mgを溶解させ、さらに、実施例1で調製したD酵素20単位とホスホリラーゼa(Sigma)1mgとを加えて30℃で2時間反応させた。
【0149】
反応液を遠心分離後、上清を100℃で5分間処理し、再び遠心分離して変性した酵素タンパク質を除いた。上清にグルコアミラーゼ50単位を加えて、直鎖状のアミロースをグルコースまで分解した後、10倍量のエタノールを加えて、環状アミロースを沈殿させた。この沈殿には、約30mgのα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンが含まれていた。さらに、ゲル濾過クロマトグラフィーを行うことにより、この沈殿中に存在するグルコース1リン酸を除去した。
【0150】
(実施例10:実施例8の物質が少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合を有する環状構造部分を含むことの確認)
グルコアミラーゼは、澱粉などのグルカンの非還元末端から順次α−1,4−グルコシド結合を加水分解する酵素である。速度は遅いが、非還元末端からα−1,6−グルコシド結合を加水分解し得ることが知られている。図9に示したように、環状構造を有しないアミロースおよびアミロペクチンは、グルコアミラーゼにより完全にグルコース(17)にまで分解される。しかし、分子内に環状構造を有するグルカン(15)および(13)は、その非環状構造部分のみがグルコアミラーゼにより分解され、環状構造部分は、グルコアミラーゼでは分解を受けない物質(以下、グルコアミラーゼ耐性成分という)として残る。さらに、このグルコアミラーゼ耐性成分は、澱粉枝切り酵素に対する感受性によって、α−1,6−グルコシド結合を有する環状グルカン(16)とα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)とに分類することができる。即ち、枝切り酵素およびグルコアミラーゼの併用によって分解されないグルコアミラーゼ耐性成分は、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)であると考えられる。一方、枝切り酵素およびグルコアミラーゼの併用によって分解されるグルコアミラーゼ耐性成分は、α−1,6−グルコシド結合を有する環状グルカン(16)であると考えられる。しかし、枝切り酵素およびグルコアミラーゼの併用によって分解されない、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)は、エンド型α−アミラーゼとグルコアミラーゼを併用することにより完全にグルコースまで分解され得る。これらの性質を利用することにより、試料グルカンの中の非環状構造部分、α−1,6−グルコシド結合を有する環状構造部分、およびα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状構造部分を定量することが可能となる。
【0151】
この方法を用いて、実施例8で得られたグルカンおよびアミロペクチンの環状構造の定量を行った。表1に、この方法を用いて、実施例8で得られたグルカンおよびアミロペクチンの環状構造の定量を行った結果を示す。
【0152】
【表1】
【0153】
実施例8で得られた物質10mgまたはアミロペクチン10mgを、1mlのDMSOに溶解した後、100mMの酢酸ナトリウム緩衝液8mlを用いて、すばやく希釈した。この希釈液を900μlずつ4本のチューブに分注した。次いで、それぞれのチューブに(1)蒸留水、(2)グルコアミラーゼ液、(3)枝切り酵素とグルコアミラーゼの混合液、および(4)エンド型α−アミラーゼとグルコアミラーゼの混合液をそれぞれ100μl加えて40℃、4時間反応させた。反応終了後、生成したグルコースを市販のグルコース定量キットを用いて測定した。そして、試料グルカン中の非環状構造部分、α−1,6−グルコシド結合を有する環状構造部分およびα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状構造部分を、それぞれ以下の計算式により求めた。
【0154】
【数1】
【0155】
ここで、c、x、y、およびzはそれぞれ、(1)、(2)、(3)、および(4)の反応液から生じたグルコース量である。この結果から、実施例8で得られた物質は、少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合を含む環状構造を有するグルカンを含んでいることがわかった。
【0156】
(実施例11:実施例8の物質の環状構造部分の重合度の測定)
実施例8で得た物質10mgを1mlのDMSOに溶解させた後、1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)1ml、蒸留水8ml、および200単位のグルコアミラーゼを添加し、40℃で1時間反応させた。100℃で10分間加熱した後、変性した酵素を遠心分離によって除去した。上清に10倍のエタノールを添加して多糖を沈澱させた後、沈殿を乾燥した。得られた多糖を1mlの蒸留水に溶解させた。この溶液に50単位のグルコアミラーゼを添加し、40℃で1時間反応させた。反応液を100℃で10分間加熱した後、変性した酵素を遠心分離により除去した。上清に10倍量のエタノールを添加し、生じた沈澱を乾燥させて、グルコアミラーゼ耐性成分(環状構造部分)の粉末1.1mgを得た。
【0157】
上記のようにして得られたグルコアミラーゼ耐性成分を、0.4%(w/v)になるように蒸留水に溶解した後、Dionex社の糖分析システム(送液システム:DX300、検出器:PAD−2、カラム:CarboPacPA100)を用いて分析した。溶出は、流速:1ml/min、NaOH濃度:150mM、酢酸ナトリウム濃度:0分−50mM、2分−50mM、37分−350mM(Gradient curve No.3)、45分−850mM(Gradient curve No.7)、47分−850mMの条件で行った。
【0158】
重合度を比較するためのマーカーとして、直鎖のα−1,4−グルカン、および、実施例2で得られたα−1,4−グルコシド結合のみを有するグルカンも同じ条件で分析した。
【0159】
図10に示したように、得られたグルコアミラーゼ耐性成分では、直鎖のα−1,4−グルカンおよびα−1,4−グルコシド結合のみを有するグルカンにおいて得られたようにきれいな分離パターンが得られなかった。これは、このグルコアミラーゼ耐性成分が様々な個数のα−1,6−グルコシド結合を含んでいることを示唆している。しかし、最も小さいと考えられるピーク(矢印)が、直鎖のα−1,4−グルカンの重合度15の位置に対応すること、および実施例6で示したように、環状構造を有するグルカンは同じ重合度の直鎖状グルカンよりも速く溶出されることを考えると、最も小さいと考えられる、少なくとも1つのα−1,6結合を有する環状構造部分の重合度は、少なくとも15であると考えられた。
【0160】
(実施例12:Thermus aquaticus ATCC33923株由来アミロマルターゼの調製)
Teradaら、Appl.Environ.Microbiol. vol.65,910−915(1999)の方法に従って、Thermus aquaticus ATCC33923株由来アミロマルターゼを調製した。Thermus aquaticus ATCC33923株由来アミロマルターゼの大腸菌におけ発現プラスミドpFQG8で形質転換された大腸菌TG−1株を終濃度100μg/mlのアンピシリンを含む1リットルのLB培地(1%トリプトン、0.5%イーストエキストラクト、1%NaCl、pH7.5)で37℃で18時間培養し、遠心分離を行い集菌した。得られた菌体を300mlの10mMKH2PO4−Na2HPO4(pH7.5)(緩衝液B)で2
回洗浄し、次いで60mlの緩衝液Bに分散させた。超音波により菌体を破砕した。この菌体破砕液を70℃、30分加熱し、遠心分離した上清をThermus aquaticus ATCC33923株由来アミロマルターゼ液とした。
【0161】
アミロマルターゼの活性は、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)中で、10%(w/v)マルトトリオースにアミロマルターゼを70℃で10分間作用させたときに生じるグルコースを定量することにより測定した。1分間に1μmolのグルコースを遊離する酵素量を1ユニットとし、活性のユニットを算出した。
【0162】
(実施例13:Thermus aquaticus ATCC33923株由来アミロマルターゼによるα−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンの調製)
市販のアミロース(平均分子量30,000)125gを1N−NaOH 1リットルに完全に溶解アミロース溶液をつくった。このアミロース溶液を25リットルの水に添加し、HClによりpHを5.5に調整後、Thermus aquaticus ATCC33923株由来アミロマルターゼ920単位を加え、60℃、4時間反応させた。HClにより反応液のpHを3に調整し、90℃、30分間加熱することにより反応を停止した。NaOHにより反応液のpHを5に調整後、βアミラーゼ8,000単位加えて50℃、15時間反応させた。反応液を0.45μmのフィルターによりろ過した透過液に、終濃度75%(v/v)となるようにエタノールを加えることにより、高重合度環状グルカンを沈殿としてろ過により回収した。得られた沈殿を水に溶解し、凍結乾燥により乾燥させ、α−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカン約40gを得た。こうして得られた高重合度環状グルカンを、実施例4に示したDIONEX社製の糖分析システムで分析したところ、重合度22以上の高重合度環状グルカンの混合物であった。この高重合度環状グルカンを1%(w/v)となるように蒸留水に溶解後、終濃度40%(v/v)となるようにエタノールを加え、重合度約50以上の高重合度環状グルカンを沈殿としてろ過により除いた。このろ液に終濃度75%(v/v)となるようにエタノールを加え、ろ過により沈殿を回収した。得られた沈殿を水に溶解後、凍結乾燥により乾燥させ、重合度22〜50の高重合度環状グルカン約30gを得た。
【0163】
(実施例14:本発明のトシル基が高重合度環状グルカンに結合したトシル基含有環状グルカン誘導体の調製)
実施例13と同様の方法で得られたα−1,4−グルコシド結合のみを有する重合度22〜50の高重合度環状グルカン(略称:CA)1gをナス型フラスコに仕込み、ここに0.4N NaOH水溶液20mlを加え、溶解し、撹拌しながらその水溶液に塩化p−トルエンスルホニル(略称:p−TsCl)1gを添加した(図11のスキーム1および2を参照)。0℃で2時間撹拌した後、濾過によって未反応のp−TsClを除去し、水溶液をHCl水溶液で中和した。このトシル化反応の副生成物であるNaCl塩を一晩かけて透析により除去し、水を凍結乾燥して白色固体を得た(1.0g、収率84%)。
【0164】
UVスペクトル法により、トシル基特有のS=O基に基づく吸収が存在することからトシル化が進行したことを確認した(図12)。また、図13のトシル化した高重合度環状グルカンの1H−NMRスペクトル図の(a+b)のプロトン積分計算値とdのプロトン
積分計算値との比率から、トシル化度、つまり高重合度環状グルカンの全水酸基のうちトシル基で置換された割合を、約4.9%と算出した。
【0165】
(実施例15:置換度の異なるトシル基含有環状グルカン誘導体の調製)
実施例14のトシル化の反応条件で、反応温度、時間、攪拌速度を変えて行った。結果を表2に示す。このように、反応条件を変えることにより、トシル基の置換度を変えることができた。
【表2】
(実施例16:本発明のアルキル基が高重合度環状グルカンに結合したアルキル基含有環状グルカン誘導体の調製)
実施例14で得られたトシル化高重合度環状グルカンのトシル基と脂肪酸ナトリウムとのエステル交換反応を、以下のようにして行った(図14のスキーム3および4を参照)。まず、トシル化高重合度環状グルカン(CA−tosylate) 1gおよびラウリン酸ナトリウム 1gを、DMSOに溶解し、80℃の温度で、窒素気流下において、5時間撹拌した。次いで、この反応溶液に激しく攪拌したアセトンを添加して生じた沈殿を濾過した後、水に溶解し、一晩にわたり透析することにより、未反応物のラウリン酸ナトリウム塩および副生成物のp−トルエンスルホン酸ナトリウムを除去し、凍結乾燥して白色固体を得た(0.4g、収率80%)。
【0166】
この白色固体のIRスペクトル測定(KBr法)により、脂肪酸のアルキル基特有のCH伸縮振動およびエステル基特有のC=O伸縮振動に基づくピークが出現したことから、エステル交換反応が進行したことを確認した(図15)。また、図16のエステル交換後の高重合度環状グルカン(CA−laurate)の1H−NMRスペクトル図の(d+e)のプロトン積分計算値とcのプロトン積分計算値との比率から、エステル交換度、つまり高重合度環状グルカンの全水酸基のうち脂肪酸で置換された割合を、3.3%と算出した。
【0167】
トシル化前の高重合度環状グルカン(CA)、トシル化後の高重合度環状グルカン(CA−tosylate)およびエステル交換後のラウリル化高重合度環状グルカン(CA−laurate)をそれぞれ超純水に分散または溶解させ、Wilhelmy plate法を用いた表面張力測定を行った(図17)。図17より、トシル化前の高重合度環状グルカン(CA)は、濃度が上昇しても水の表面張力が全く変化しないのに対し、エステル交換後のラウリル化高重合度環状グルカン(CA−laurate)の場合、濃度上昇と共に表面張力が大きく低下することがわかった。この結果より、エステル交換後のラウリル化高重合度環状グルカン(CA−laurate)は、優れた界面活性を有することが示唆された。また、トシル化後の高重合度環状グルカン(CA−tosylate)は、エステル交換後のラウリル化高重合度環状グルカン(CA−laurate)に比べ表面張力の低下は小さいが、界面活性を有することが示唆された。
【0168】
エステル交換後のラウリル化高重合度環状グルカン(CA−laurate) 0.4重量%溶液の水中における分散体(0.6mM)の物性を、動的光散乱により調べた結果を図18に示す。図18より、6〜20nmの直径を有するミセル様分子集合体の存在を確認した。
【0169】
また、エステル交換後のラウリル化高重合度環状グルカン0.4重量%溶液の水中における分散体について、透過型電子顕微鏡(フリーズレプリカ法)を用いて視覚的観察を行った(図19)。その結果、動的光散乱のデータを符合するサイズの粒子の存在を複数確認した。
【0170】
エステル交換後のラウリル化高重合度環状グルカン4.0重量%溶液の水中における分散体について、透過型電子顕微鏡を用いて視覚的観察を行った(図20)。その結果、直径70〜200nmの球状のミセルが確認された。
【0171】
(実施例17:本発明のアルキル基が高重合度環状グルカンに結合したアルキル基含有環状グルカン誘導体の調製)
実施例16のラウリン酸ナトリウムの代わりにミリスチン酸ナトリウムを用いること以外、実施例16と同様の方法によって、ミリスチン酸基を含有する環状グルカンが得られた。
【0172】
(実施例18:本発明のフッ化アルキル基が高重合度環状グルカンに結合したフッ化アルキル基含有環状グルカン誘導体の調製方法)
実施例16のラウリン酸ナトリウムの代わりにペルフルオロ酪酸ナトリウムを用いること以外、実施例16と同様の方法によって、本発明のフッ化アルキル基含有環状グルカン誘導体が得られた。
【0173】
(実施例19:本発明のアルキル基含有環状グルカン誘導体とゲスト化合物との複合体形成)
CA−laurateを0.4重量%の濃度で水に分散させた溶液に、ヨウ素溶液(0.1重量%KI、0.01重量%I2、0.004N HCl)を滴下したところ、茶褐色の溶液が得られた。このことは、ヨウ素がCA−laurateのCA部分に包接されたことを示しており、CA−laurateがゲスト化合物との複合体形成能を有していることを示していた。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明によれば、油類への溶解度が良好で、優れた界面活性特性を有し、しかも包接される化合物の構造にあわせて環状立体構造を変化させ、低分子量から高分子量の多種多様な化合物の包接を可能にする分子認識ホスト分子として優れた性質を有する高重合度環状グルカンを基本骨格とした新しい環状グルカン誘導体およびその製造方法を提供することができる。
【0175】
本発明の疎水性基が高重合度環状グルカンに結合した環状グルカン誘導体を含む組成物は、医薬、界面活性剤、化粧品用組成物、食品用組成物および磁気記録媒体用フィルムとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】本発明で使用される高重合度環状グルカンの模式図である。
【図2】アミロースまたはアミロペクチンにD酵素を作用させ、α−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンを得る一連の過程を示す模式図である。
【図3】アミロペクチンにD酵素を反応させ、少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合を持つ環状構造のみで形成されるグルカンを得る一連の過程を示す模式図である。
【図4】本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンを種々の糖分解酵素で消化したときの溶出パターンである。
【図5】5−1は、実施例2で得られたα−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンの溶出パターンであり、5−2は、直鎖のα−1,4−グルカンの溶出パターンである。各ピーク状の数字は、重合度を示す。
【図6】各ピークG−Lの部分加水分解および非分解物の溶出パターンである。各ピーク状の数字は、重合度を示す。
【図7】実施例4で得られたα−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンのゲル濾過による溶出パターンである。
【図8】D酵素を作用させる前、および、作用させた後のワキシーコーンスターチのゲル濾過による溶出パターンである。
【図9】実施例8で得られたグルカン中の非環状構造部分、少なくとも1つのα−1,6−グルコシド結合を有する環状構造部分、およびα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状構造部分を定量する過程を示す模式図である。
【図10】実施例8で得られた少なくとも1つのα−1,6−グルコシド結合を有するグルカンの環状構造部分、直鎖のα−1,4−グルカン、および実施例2で得られたα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの溶出パターンである。各ピーク状の数字は、重合度を示す。
【図11】本発明のトシル化高重合度環状グルカン(CA−tosylate)の合成模式図(スキーム1)および合成スキーム(スキーム2)を示す。
【図12】本発明のCAおよびCA−tosylateのUVスペクトル図を示す。
【図13】本発明のCA−tosylateの1H−NMRスペクトル図を示す。
【図14】本発明のラウリル化高重合度環状グルカン(CA−laurate)の合成模式図(スキーム3)および合成スキーム(スキーム4)を示す。
【図15】本発明のCA−tosylateおよびCA−laurateのIRスペクトル図を示す。
【図16】本発明のCA−laurateの1H−NMRスペクトル図を示す。
【図17】本発明のCA、CA−tosylateおよびCA−laurateのそれぞれの水溶液についての表面張力測定データの比較を示す。
【図18】本発明のCA−laurateの水中における分散体(0.6mM)の動的光散乱データを示す。
【図19】本発明のCA−laurateの水中における分散体(0.4重量%)の透過型電子顕微鏡(フリーズレプリカ法)写真を示す。
【図20】本発明のCA−laurateの水中における分散体(4.0重量%)の透過型電子顕微鏡写真を示す。
【符号の説明】
【0177】
11 還元末端
12 アミロース
13 α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン
14 アミロペクチン
15 少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカン
16 少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合により構成される環状構造のみで形成されるグルカン
17 グルコース
18 α−1,4−グルコシド結合のみにより構成される環状構造と非環状構造部分とを有するグルカン
【技術分野】
【0001】
本発明は、高重合度環状グルカンの側鎖に疎水性基を有する環状グルカン誘導体、およびその製造方法に関する。本発明はまた、この環状グルカン誘導体を含む医薬、界面活性剤、化粧品用組成物、食品用組成物および磁気記録媒体用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
既存の環状構造を有するグルカンとして、α−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造のみを有するグルカンである、シクロデキストリン類が知られている。これらシクロデキストリン類は、一般に澱粉にシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase)を作用させて合成され、その重合度は通常6から8である。Kobayashi(1993)Denpun Kagaku: vol.40 103−116は、これ以上の重合度を有するα−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造のみを有するグルカンが、CGTaseにより合成されることを報告しているが、最も大きなものでも重合度は13である。このようなシクロデキストリン類は、環状分子特性を利用して低分子活性物質を包接できる点でよく知られている。しかし、シクロデキストリン類は、一般に油類の炭化水素系溶媒に溶解せず、界面活性剤、分散液形態の医薬、化粧品用組成物および食品用組成物への使用が制限されるというのが現状である。
【0003】
これらの化合物の特性を変更するため、重合度6〜8のシクロデキストリンの水酸基をアルキル基またはフッ化アルキル基で置換することが知られている(例えば、特許文献1および2参照)。しかし、この低重合度のシクロデキストリン類はそもそも、水溶液中における立体構造の自由度が極めて低く、平面的な環状構造しかとれないため、環内に包接できる分子は限られ、分散液形態の医薬および化粧品用組成物への適用は、限界がある。
【0004】
このように、油類への溶解度が良好で、優れた界面活性特性を有し、しかも包接される化合物の構造にあわせて環状立体構造を変化させ、低分子量から高分子量の多種多様な化合物の包接を可能にする分子認識ホスト分子として優れた性質を有する高重合度環状グルカンを基本骨格とした新しい環状グルカン誘導体はいまだに存在せず、医薬、化学、食品、保健、およびエレクトロニクスの業界において非常に重要であり、その開発は渇望されている。
【特許文献1】日本国特許第2749565号公報
【特許文献2】特開平9−241303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、医薬、試薬、界面活性剤、化粧品用組成物、食品用組成物および磁気記録媒体用フィルムなどの用途に有用な、油類への溶解度が良好で、優れた界面活性特性を有し、しかも包接される化合物の構造にあわせて環状立体構造を変化させ、低分子量から高分子量の多種多様な化合物の包接を可能にする分子認識ホスト分子として優れた性質を有する高重合度環状グルカンを基本骨格とした新しい環状グルカン誘導体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、高重合度環状グルカンのアルコール性水酸基をトシル基で置換でき、このトシル基が脂肪酸ナトリウムと交換できることを発見し、これを利用して高重合度環状グルカンに側鎖として疎水性基を導入した本発明の環状グルカン誘導体を提供することにより、上記課題を解決した。
【0007】
本発明者らはまた、上記環状グルカン誘導体が水の表面張力を有意に低下させることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明者らはさらに、上記環状グルカン誘導体を含む組成物が、医薬、界面活性剤、化粧品用組成物、食品用組成物および磁気記録媒体用フィルムとして有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明者はまた、上記環状グルカン誘導体を含む組成物を利用する、新しい診断、治療、鑑別方法を見出し、本発明を完成した。
【0010】
このように、本発明では以下を提供する。
(1)重合度14以上の環状グルカンからなる主鎖と、疎水性基からなる1または2以上の側鎖とを有し、該側鎖が連結基を介して該主鎖に結合している環状グルカン誘導体。
(2)上記疎水性基が、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のアルキル基、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のフッ化アルキル基、あるいはトシル基である、項(1)に記載の環状グルカン誘導体。
(3)上記疎水性基が、少なくとも50%のフッ素置換率を有するC3〜C20の直鎖のフルオロヒドロアルキル基、またはC3〜C20の直鎖のペルフルオロアルキル基である、項(1)に記載の環状グルカン誘導体。
(4) 前記親水性部位が、重合度14以上の環状グルカンのみからなる、請求項1に記載の環状グルカン誘導体。
(5)上記環状グルカンが、α−1,4−グルコシド結合により構成される重合度14以上の環状構造を分子内に1つ有するグルカンであって、該グルカンが、
(i)α−1,4−グルコシド結合のみで構成される環状構造に加えて非環状構造を有するグルカン、
(ii)α−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合とで構成される環状構造に加えて非環状構造を有するグルカン、
(iii)α−1,4−グルコシド結合のみで構成される環状構造のみを有するグルカン、および
(iv)α−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合とで構成される環状構造のみを有するグルカン、
からなる群より選択される、項(1)に記載の環状グルカン誘導体。
(6)上記側鎖が、アミド結合、エーテル結合、またはエステル結合により環状グルカンに結合している、項(1)に記載の環状グルカン誘導体。
(7)上記環状グルカンが有するアルコール性水酸基のうちの少なくとも1つが、エステル結合によってフッ素置換または無置換の脂肪酸に結合している、項(1)に記載の環状グルカン誘導体。
(8)以下の構造式で表される環状グルカン誘導体:
【0011】
【化2】
【0012】
ここで、n個のモノマーユニットは、それぞれ独立しており、n個のR1は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表し、n個のR2は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表し、n個のR3は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表し、ただし、1分子中に少なくとも1つの−L−R4が存在し;
R4は、それぞれ独立して、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のアルキル基、またはC3〜C20の直鎖または分枝鎖のフッ化アルキル基であり;
Lは、それぞれ独立して、−NHCO−、−O−、−S−、−OSO2−、−SCO−または−OCO−であり;
R5は、それぞれ独立して、水酸基またはトシル基であり;
nは、14〜5000である、環状グルカン誘導体。
(9)項(8)に記載の環状グルカン誘導体であって、n個のR2およびn個のR3のすべてが水酸基である、誘導体。
(10)環状グルカン誘導体の製造方法であって、
重合度14以上の環状グルカンにトシル基を導入してトシル化誘導体を得る工程、および
該トシル化誘導体に置換もしくは無置換の脂肪酸エステルを反応させて、エステル誘導体を得る工程、
を包含する方法。
(11)以下の工程: a)直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれらを含む糖類に、D酵素を反応させて、高重合度環状グルカンを得る工程;
b)アルカリ水溶液中で、該高重合度環状グルカンと、塩化p−トルエンスルホニルとを、該高重合度環状グルカンが有するアルコール性水酸基のうちの少なくとも1つと該塩化p−トルエンスルホニルとが反応し得る条件下で、接触させて、トシル基が高重合度環状グルカンに結合したトシル基含有環状グルカン誘導体を得る工程;
c)該トシル基含有環状グルカン誘導体と、フッ素置換または無置換の脂肪酸ナトリウムとを、該トシル基と該脂肪酸ナトリウムとが交換反応し得る条件下で、接触させて、疎水性基が結合した環状グルカン誘導体を得る工程、
を包含する、環状グルカン誘導体の製造方法。
(12)上記工程b)において、上記高重合度環状グルカンと、上記塩化p−トルエンスルホニルとを、該高重合度環状グルカンの全アルコール性水酸基のうち少なくとも3%以上がトシル基で置換される反応条件下で接触させる、項(11)に記載の方法。
(13)上記工程c)において、上記トシル基含有環状グルカン誘導体と、上記脂肪酸ナトリウムとを、上記トシル基と上記脂肪酸ナトリウムとの交換率が少なくとも50%となる反応条件下で接触させる、項(11)に記載の方法。
(14)項(1)に記載の環状グルカン誘導体またはそれらの混合物を含む、医薬。
(15)項(1)に記載の環状グルカン誘導体またはそれらの混合物を含む、界面活性剤。
(16)項(1)に記載の環状グルカン誘導体またはそれらの混合物を含む、化粧品用組成物。
(17)項(1)に記載の環状グルカン誘導体またはそれらの混合物を含む、磁気記録媒体用フィルム。
(18)非磁性支持体上に1層以上の磁性体層を備えた磁気記録媒体において、該磁性体層、または該磁性体層上に設けた保護層の表面に、項(17)に記載のフィルムを形成させた、磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、油類への溶解度が良好で、優れた界面活性特性を有し、しかも包接される化合物の構造にあわせて環状立体構造を変化させ、低分子量から高分子量の多種多様な化合物の包接を可能にする分子認識ホスト分子として優れた性質を有する高重合度環状グルカンを基本骨格とした新しい環状グルカン誘導体およびその製造方法を提供することができる。
【0014】
本発明の疎水性基が高重合度環状グルカンに結合した環状グルカン誘導体を含む組成物は、医薬、界面活性剤、化粧品用組成物、食品用組成物および磁気記録媒体用フィルムとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
【0016】
(用語)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0017】
本明細書において「グルカン」とは、D−グルコースから成る多糖類の総称を意味する。本発明の「グルカン」には、澱粉、グリコーゲン、ラミナラン、セルロース、リケニン、デキストラン、ニゲランなどの貯蔵多糖類、構造多糖類、代謝の副産物が含まれる。
【0018】
本明細書において「高重合度環状グルカン」とは、従来の重合度6〜8の環状グルカンであるα−、β−、またはγ−シクロデキストリンより重合度が高く、α−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカンを意味する。本発明において、好ましい高重合度環状グルカンは、α−1,4−グルコシド結合により構成される重合度14以上の環状構造を分子内に1つ有するグルカンであり、代表例として、(i)α−1,4−グルコシド結合のみで構成される環状構造に加えて非環状構造を有するグルカン、(ii)α−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合とで構成される環状構造に加えて非環状構造を有するグルカン、(iii)α−1,4−グルコシド結合のみで構成される環状構造のみを有するグルカン、または(iv)α−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合とで構成される環状構造のみを有するグルカンなどが挙げられる。
【0019】
本明細書において「モノマーユニット」または「グルコースモノマーユニット」とは、高重合度環状グルカンを構成する、グルコースまたはグルコース誘導体からなるモノマーユニットを意味する。
【0020】
本明細書において、「重合度14以上の環状グルカンを含む親水性部位」とは、高重合度環状グルカンに、必要に応じて疎水性基以外の置換基が導入された部分構造を意味する。すなわち、本発明の環状グルカン誘導体の疎水性基からなる側鎖以外の部分を意味する。この親水性部位において、環状グルカンに必要に応じて導入される置換基の例としては、親水性のレセプター、リガンド、色素などが挙げられるが、これらに限定されない。レセプターの例には、例えば抗体、酵素、Fabフラグメント類、レクチンなどの受容体タンパク質、核酸などが含まれる。リガンドの例には、例えば抗原、酵素基質、ホルモン類、ハプテン類、ビタミン類、アルカロイド類、核酸、単糖類、多糖類などが含まれる。これらの置換基は、公知の方法により環状グルカンの任意の位置に導入される。
【0021】
本明細書において「疎水性基」とは、上記高重合度環状グルカンの側鎖として導入した場合に、その化合物が水の表面張力を低下させ界面活性を発現するような官能基全てを意味する。本発明の疎水性基として、トシル基、アルキル、置換されたアルキル、シクロアルキル、置換されたシクロアルキル、アルケニル、置換されたアルケニル、シクロアルケニル、置換されたシクロアルケニル、アルキニル、置換されたアルキニル、アルコキシ、置換されたアルコキシ、炭素環基および置換された炭素環基などが挙げられるが、これらに限定されない。これら官能基は、以下の(有機化学)の節で詳細に定義される。
【0022】
本明細書において「環状グルカン誘導体」とは、上で定義した疎水性基が、上で定義した高重合度環状グルカンあるいは重合度14以上の環状グルカンを含む親水性部位に結合して得られる化合物全てを意味する。本発明の「環状グルカン誘導体」との用語は、本明細書において「エステル交換後の高重合度環状グルカン」との用語と互換可能に使用される。
【0023】
本明細書において「トシル基含有環状グルカン誘導体」とは、上で定義した疎水性基の群のうちのトシル基が高重合度環状グルカンに結合して得られる化合物全てを意味する。本発明の「トシル基含有環状グルカン誘導体」との用語は、本明細書において「トシル化高重合度環状グルカン」との用語と互換可能に使用される。
【0024】
本明細書において「(疎水性基が高重合度環状グルカンに)結合した」とは、アミド結合、エーテル結合およびエステル結合からなる群から選択される誘導体化を意味する。これらの誘導体化は、用途に応じて、当業者により適宜選択され得る。必要に応じて、誘導体化の方法の1つとして、通常、澱粉の修飾に用いられる方法が用いられる(生物化学実験法19,「澱粉・関連糖質実験法」:中村ら、学会出版センター、1986年 273〜303頁)。
【0025】
本明細書において「フッ素置換率」との用語は、フッ素置換前のアルキル基の全水素原子数に対するフッ素原子で置換された割合(百分率)を意味する。
【0026】
(有機化学)
本明細書において「アルコール」とは、脂肪族炭化水素の1または2以上の水素原子をヒドロキシル基で置換した有機化合物をいう。
【0027】
本明細書において「アルキル」とは、メタン、エタン、プロパンのような脂肪族炭化水素(アルカン)から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にCnH2n+1−で表される(ここで、nは正の整数である)。アルキルは、直鎖または分枝鎖であり得る。本明細書において「置換されたアルキル」とは、以下に規定する置換基によってアルキルのHが置換されたアルキルをいう。本発明の環状グルカン誘導体の疎水性基の具体例は、C3〜C4アルキル、C3〜C5アルキル、C3〜C6アルキル、C3〜C7アルキル、C3〜C8アルキル、C3〜C9アルキル、C3〜C10アルキル、C3〜C11アルキルまたはC3〜C12アルキル、C3〜C13アルキル、C3〜C14アルキル、C3〜C15アルキル、C3〜C16アルキル、C3〜C17アルキル、C3〜C18アルキル、C3〜C19アルキル、C3〜C20アルキル、C3〜C4置換されたアルキル、C3〜C5置換されたアルキル、C3〜C6置換されたアルキル、C3〜C7置換されたアルキル、C3〜C8置換されたアルキル、C3〜C9置換されたアルキル、C3〜C10置換されたアルキル、C3〜C11置換されたアルキルまたはC3〜C12置換されたアルキル、C3〜C13置換されたアルキル、C3〜C14置換されたアルキル、C3〜C15置換されたアルキル、C3〜C16置換されたアルキル、C3〜C17置換されたアルキル、C3〜C18置換されたアルキル、C3〜C19置換されたアルキル、C3〜C20置換されたアルキルであり得る。ここで、例えばC3〜C10アルキルとは、炭素原子を3〜10個有する直鎖または分枝状のアルキルを意味し、n−プロピル(CH3CH2CH2−)、イソプロピル((CH3)2CH−)、n−ブチル(CH3CH2CH2CH2−)、n−ペンチル(CH3CH2CH2CH2CH2−)、n−ヘキシル(CH3CH2CH2CH2CH2CH2−)、n−ヘプチル(CH3CH2CH2CH2CH2CH2CH2−)、n−オクチル(CH3CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2−)、n−ノニル(CH3CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2−)、n−デシル(CH3CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2CH2−)、−C(CH3)2CH2CH2CH(CH3)2、−CH2CH(CH3)2などが例示される。また、例えば、C3〜C10置換されたアルキルとは、C3〜C10アルキルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
【0028】
本明細書において「フッ化アルキル(基)」とは、上で定義したアルキル基内の少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基を意味し、特にアルキル基を構成する水素原子全てがフッ素原子で置換されたアルキル基を「ペルフルオロアルキル基」または「パーフルオロアルキル基」といい、これに対して、一部の水素原子がフッ素原子で置換され、水素原子が残存するアルキル基を「フルオロヒドロアルキル基」または「ヒドロフルオロアルキル基」という。
【0029】
本明細書において「シクロアルキル」とは、環式構造を有するアルキルをいう。「置換されたシクロアルキル」とは、以下に規定する置換基によってシクロアルキルのHが置換されたシクロアルキルをいう。本発明の環状グルカン誘導体の疎水性基の具体例としては、C3〜C4シクロアルキル、C3〜C5シクロアルキル、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C7シクロアルキル、C3〜C8シクロアルキル、C3〜C9シクロアルキル、C3〜C10シクロアルキル、C3〜C11シクロアルキル、C3〜C12シクロアルキル、C3〜C13シクロアルキル、C3〜C14シクロアルキル、C3〜C15シクロアルキル、C3〜C16シクロアルキル、C3〜C17シクロアルキル、C3〜C18シクロアルキル、C3〜C19シクロアルキル、C3〜C20シクロアルキル、C3〜C4置換されたシクロアルキル、C3〜C5置換されたシクロアルキル、C3〜C6置換されたシクロアルキル、C3〜C7置換されたシクロアルキル、C3〜C8置換されたシクロアルキル、C3〜C9置換されたシクロアルキル、C3〜C10置換されたシクロアルキル、C3〜C11置換されたシクロアルキルまたはC3〜C12置換されたシクロアルキル、C3〜C13置換されたシクロアルキル、C3〜C14置換されたシクロアルキル、C3〜C15置換されたシクロアルキル、C3〜C16置換されたシクロアルキル、C3〜C17置換されたシクロアルキル、C3〜C18置換されたシクロアルキル、C3〜C19置換されたシクロアルキル、C3〜C20置換されたシクロアルキルであり得る。例えば、シクロアルキルとしては、シクロプロピル、シクロヘキシルなどが例示される。
【0030】
本明細書において「アルケニル」とは、エチレン、プロピレンのような、分子内に二重結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にCnH2n−1−で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルケニル」とは、以下に規定する置換基によってアルケニルのHが置換されたアルケニルをいう。本発明の環状グルカン誘導体の疎水性基の具体例としては、C3〜C4アルケニル、C3〜C5アルケニル、C3〜C6アルケニル、C3〜C7アルケニル、C3〜C8アルケニル、C3〜C9アルケニル、C3〜C10アルケニル、C3〜C11アルケニル、C3〜C12アルケニル、C3〜C13アルケニル、C3〜C14アルケニル、C3〜C15アルケニル、C3〜C16アルケニル、C3〜C17アルケニル、C3〜C18アルケニル、C3〜C19アルケニル、C3〜C20アルケニル、C3〜C4置換されたアルケニル、C3〜C5置換されたアルケニル、C3〜C6置換されたアルケニル、C3〜C7置換されたアルケニル、C3〜C8置換されたアルケニル、C3〜C9置換されたアルケニル、C3〜C10置換されたアルケニル、C3〜C11置換されたアルケニル、C3〜C12置換されたアルケニル、C3〜C13置換されたアルケニル、C3〜C14置換されたアルケニル、C3〜C15置換されたアルケニル、C3〜C16置換されたアルケニル、C3〜C17置換されたアルケニル、C3〜C18置換されたアルケニル、C3〜C19置換されたアルケニル、C3〜C20置換されたアルケニルであり得る。ここで、例えばC3〜C10アルキルとは、炭素原子を3〜10個含む直鎖または分枝状のアルケニルを意味し、アリル(CH2=CHCH2−)、CH3CH=CH−などが例示される。また、例えば、C3〜C10置換されたアルケニルとは、C3〜C10アルケニルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
【0031】
本明細書において「シクロアルケニル」とは、環式構造を有するアルケニルをいう。「置換されたシクロアルケニル」とは、以下に規定する置換基によってシクロアルケニルのHが置換されたシクロアルケニルをいう。本発明の環状グルカン誘導体の疎水性基の具体例としては、C3〜C4シクロアルケニル、C3〜C5シクロアルケニル、C3〜C6シクロアルケニル、C3〜C7シクロアルケニル、C3〜C8シクロアルケニル、C3〜C9シクロアルケニル、C3〜C10シクロアルケニル、C3〜C11シクロアルケニル、C3〜C12シクロアルケニル、C3〜C13シクロアルケニル、C3〜C14シクロアルケニル、C3〜C15シクロアルケニル、C3〜C16シクロアルケニル、C3〜C17シクロアルケニル、C3〜C18シクロアルケニル、C3〜C19シクロアルケニル、C3〜C20シクロアルケニル、C3〜C4置換されたシクロアルケニル、C3〜C5置換されたシクロアルケニル、C3〜C6置換されたシクロアルケニル、C3〜C7置換されたシクロアルケニル、C3〜C8置換されたシクロアルケニル、C3〜C9置換されたシクロアルケニル、C3〜C10置換されたシクロアルケニル、C3〜C11置換されたシクロアルケニルまたはC3〜C12置換されたシクロアルケニル、C3〜C13置換されたシクロアルケニル、C3〜C14置換されたシクロアルケニル、C3〜C15置換されたシクロアルケニル、C3〜C16置換されたシクロアルケニル、C3〜C17置換されたシクロアルケニル、C3〜C18置換されたシクロアルケニル、C3〜C19置換されたシクロアルケニル、C3〜C20置換されたシクロアルケニル、であり得る。例えば、好ましいシクロアルケニルとしては、1−シクロペンテニル、2−シクロヘキセニルなどが例示される。
【0032】
本明細書において「アルキニル」とは、アセチレンのような、分子内に三重結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にCnH2n−3−で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルキニル」とは、以下に規定する置換基によってアルキニルのHが置換されたアルキニルをいう。本発明の環状グルカン誘導体の疎水性基の具体例としては、C3〜C4アルキニル、C3〜C5アルキニル、C3〜C6アルキニル、C3〜C7アルキニル、C3〜C8アルキニル、C3〜C9アルキニル、C3〜C10アルキニル、C3〜C11アルキニル、C3〜C12アルキニル、C3〜C13アルキニル、C3〜C14アルキニル、C3〜C15アルキニル、C3〜C16アルキニル、C3〜C17アルキニル、C3〜C18アルキニル、C3〜C19アルキニル、C3〜C20アルキニル、C3〜C4置換されたアルキニル、C3〜C5置換されたアルキニル、C3〜C6置換されたアルキニル、C3〜C7置換されたアルキニル、C3〜C8置換されたアルキニル、C3〜C9置換されたアルキニル、C3〜C10置換されたアルキニル、C3〜C11置換されたアルキニル、C3〜C12置換されたアルキニル、C3〜C13置換されたアルキニル、C3〜C14置換されたアルキニル、C3〜C15置換されたアルキニル、C3〜C16置換されたアルキニル、C3〜C17置換されたアルキニル、C3〜C18置換されたアルキニル、C3〜C19置換されたアルキニル、C3〜C20置換されたアルキニルであり得る。ここで、例えば、C2〜C10アルキニルとは、例えば炭素原子を2〜10個含む直鎖または分枝状のアルキニルを意味し、エチニル(CH≡C−)、1−プロピニル(CH3C≡C−)などが例示される。また、例えば、C2〜C10置換されたアルキニルとは、C2〜C10アルキニルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
【0033】
本明細書において「アルコキシ」とは、アルコール類のヒドロキシ基の水素原子が失われて生ずる1価の基をいい、一般にCnH2n+1O−で表される(ここで、nは1以上の整数である)。「置換されたアルコキシ」とは、以下に規定する置換基によってアルコキシのHが置換されたアルコキシをいう。本発明の環状グルカン誘導体の疎水性基の具体例としては、C3〜C4アルコキシ、C3〜C5アルコキシ、C3〜C6アルコキシ、C3〜C7アルコキシ、C3〜C8アルコキシ、C3〜C9アルコキシ、C3〜C10アルコキシ、C3〜C11アルコキシ、C3〜C12アルコキシ、C3〜C13アルコキシ、C3〜C14アルコキシ、C3〜C15アルコキシ、C3〜C16アルコキシ、C3〜C17アルコキシ、C3〜C18アルコキシ、C3〜C19アルコキシ、C3〜C20アルコキシ、C3〜C4置換されたアルコキシ、C3〜C5置換されたアルコキシ、C3〜C6置換されたアルコキシ、C3〜C7置換されたアルコキシ、C3〜C8置換されたアルコキシ、C3〜C9置換されたアルコキシ、C3〜C10置換されたアルコキシ、C3〜C11置換されたアルコキシ、C3〜C12置換されたアルコキシ、C3〜C13置換されたアルコキシ、C3〜C14置換されたアルコキシ、C3〜C15置換されたアルコキシ、C3〜C16置換されたアルコキシ、C3〜C17置換されたアルコキシ、C3〜C18置換されたアルコキシ、C3〜C19置換されたアルコキシ、C3〜C20置換されたアルコキシであり得る。
【0034】
本明細書において「炭素環基」とは、炭素のみを含む環状構造を含む基であって、前記の「シクロアルキル」、「置換されたシクロアルキル」、「シクロアルケニル」、「置換されたシクロアルケニル」以外の基をいう。炭素環基は芳香族系または非芳香族系であり得、そして単環式または多環式であり得る。「置換された炭素環基」とは、以下に規定する置換基によって炭素環基のHが置換された炭素環基をいう。具体例としては、C3〜C4炭素環基、C3〜C5炭素環基、C3〜C6炭素環基、C3〜C7炭素環基、C3〜C8炭素環基、C3〜C9炭素環基、C3〜C10炭素環基、C3〜C11炭素環基、C3〜C12炭素環基、C3〜C4置換された炭素環基、C3〜C5置換された炭素環基、C3〜C6置換された炭素環基、C3〜C7置換された炭素環基、C3〜C8置換された炭素環基、C3〜C9置換された炭素環基、C3〜C10置換された炭素環基、C3〜C11置換された炭素環基またはC3〜C12置換された炭素環基であり得る。炭素環基はまた、C4〜C7炭素環基またはC4〜C7置換された炭素環基であり得る。炭素環基としては、フェニル基から水素原子が1個欠失したものが例示される。ここで、水素の欠失位置は、化学的に可能な任意の位置であり得、芳香環上であってもよく、非芳香環上であってもよい。
【0035】
本明細書において「ハロゲン」とは、周期表7B族に属するフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などの元素の1価の基をいう。
【0036】
本明細書において「水酸基」とは、−OHで表される基をいう。本明細書において、「水酸基」との用語は、「ヒドロキシ」または「ヒドロキシル」との用語と互換可能に使用され得る。
【0037】
本明細書において「アミド」とは、アンモニアの水素を酸基(アシル基)で置換した基であり、好ましくは、−CONH2で表される。
【0038】
本明細書において「アリール」とは、芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1個離脱して生ずる基をいい、本明細書において、炭素環基に包含される。
【0039】
本明細書においては、特に言及がない限り、置換は、ある有機化合物または置換基中の1または2以上の水素原子を他の原子または原子団で置き換えることをいう。水素原子を1つ除去して1価の置換基に置換することも可能であり、そして水素原子を2つ除去して2価の置換基に置換することも可能である。
【0040】
本発明の環状グルカン誘導体の疎水性基が置換基Rによって置換されている場合、そのような置換基Rは、単数または複数存在し、それぞれ独立して、水素、ハロゲン、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、アルコキシおよび炭素環基からなる群より選択される。好ましくは、Rは、それぞれ独立して、水素、ハロゲンおよびアルキルからなる群より選択され得る。より好ましくは、置換基Rは、フッ素である。
【0041】
(好ましい実施形態の説明)
以下に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0042】
1つの局面において、本発明は、疎水性基が高重合度環状グルカンに結合した環状グルカン誘導体を提供する。このような疎水性基の導入により、本発明の環状グルカン誘導体の油類への溶解度が向上し、優れた界面活性特性を得ることができる。本発明の環状グルカン誘導体は、シクロデキストリン類に比べはるかに高重合度の環状グルカン部位を有するため、包接される化合物の構造にあわせて環状立体構造を変化させ、低分子量から高分子量の多種多様な化合物の包接を可能にする分子認識ホスト分子として優れた性質を持ち合わせることができる。これにより、本発明の環状グルカン誘導体は、医薬、界面活性剤、化粧品用組成物、食品用組成物および磁気記録媒体用フィルムなどの用途に有用となる。
【0043】
以下に、本発明の環状グルカン誘導体を製造する際の原料である、高重合度環状グルカンの構造、性質および製造方法について、説明する。
【0044】
本発明で使用する高重合度環状グルカンは、少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカンであり、具体的には、例えば、図1に模式的に示される種々のグルカンが挙げられる。図1において、水平の直線および曲線は、α−1,4−グルコシド結合でつながったグルカンの鎖を示し、垂直の矢印は、α−1,6−グルコシド結合を示す(以下の模式図における水平の直線および曲線、ならびに垂直の矢印も同様である)。
【0045】
上記のように、本発明で使用する高重合度環状グルカンには、環状構造のみを有するグルカンと、さらに環状構造に加えて非環状構造を有するグルカンとが含まれる。そしてこの環状構造には、α−1,4−グルコシド結合のみで構成される場合と、α−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合で構成される場合とがある。少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合を環状構造内部もしくは非環状構造部分に有するグルカンは、アミロペクチンのような分枝構造を有するグルカンを基質とした場合に生じる。
【0046】
環状構造のみを有するグルカンは、環状構造に加えて非環状構造を有するグルカンをα−1,4−グルコシド結合及びα−1,6−グルコシド結合を非還元性末端から切断するグルコアミラーゼ処理して得られる。あるいは直鎖状のα−1,4−グルカンまたは分枝構造を有するグルカンを基質として用いて、直接得られる。
【0047】
本発明で使用する高重合度環状グルカンは、以下の性質を有する。
(1)非還元性末端のα−1,4−グルコシド結合およびα−1,6−グルコシド結合を加水分解するエキソ型アミラーゼであるグルコアミラーゼ(東洋紡(株))を作用させると、それ以上分解されない成分(グルコアミラーゼ耐性成分)が残る。その成分は、脱リン酸化酵素(シグマ社)を作用させた後にさらにグルコアミラーゼを作用させても分解されない。
(2)上記グルコアミラーゼ耐性成分は、澱粉中のα−1,6−グルコシド結合を加水分解するイソアミラーゼ(株式会社林原生化学研究所)により、分解され、グルコアミラーゼの作用を受けるようになる場合がある。
(3)上記グルコアミラーゼ耐性成分は、エンド型アミラーゼであるα−アミラーゼにより分解される。
【0048】
本発明で使用する高重合度環状グルカンのうち、α−1,6−グルコシド結合を有せず、少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合のみで構成される環状構造のみを有するグルカン(以下、本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンという)は、以下の性質を有する。
(1)還元性末端、非還元性末端が、いずれも検出できない。
(2)非還元性末端のα−1,4−グルコシド結合を加水分解するエキソ型アミラーゼであるβ−アミラーゼ(生化学工業株式会社)およびグルコアミラーゼ(東洋紡(株))では分解されない。
(3)澱粉中のα−1,6−グルコシド結合を加水分解するイソアミラーゼ(株式会社林原生化学研究所)とプルラナーゼ(株式会社林原生化学研究所)の併用、もしくはイソアミラーゼとプルラナーゼとβ−アミラーゼの併用でも分解されない。
(4)澱粉分子内部のα−1,4−グルコシド結合を加水分解するエンド型アミラーゼであるα−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社)により完全に分解される。
(5)細菌糖化型α−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社)で加水分解し、HPLCで分析すると、グルコース、マルトース、及び若干量のマルトトリオースのみが得られる。すなわち、α−1,4−グルコシド結合以外の結合は存在しない。
【0049】
本発明で使用する高重合度環状グルカンのうち、少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合と少なくとも1つのα−1,6−グルコシド結合とにより構成される環状構造のみを有するグルカン(以下、本発明のα−1,6−グルコシド結合を有する環状グルカンという)は、以下の性質を有する。
(1)還元性末端、非還元性末端が、いずれも検出できない。
(2)非還元性末端のα−1,4−グルコシド結合を加水分解するエキソ型アミラーゼであるβ−アミラーゼ(生化学工業株式会社)およびグルコアミラーゼ(東洋紡(株))では分解されない。
(3)澱粉中のα−1,6−グルコシド結合を加水分解するイソアミラーゼ(株式会社林原生化学研究所)により、分解され、グルコアミラーゼの作用を受けるようになる。
(4)澱粉中のα−1,4−グルコシド結合を加水分解するエンド型α−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製)により、分解され、グルコアミラーゼの作用を受けるようになる。また、同エンド型α−アミラーゼを、α−1,6−グルコシド結合を有する環状グルカンに作用させた場合の最小リミットデキストリンは、イソマルトシルマルトース(IMM)であることが知られている(Yamamoto,T.Handbook of amylase and related enzymes, Pergamon press, p40−45(1988))。上記本発明のα−1,6−グルコシド結合を有する環状グルカンをエンド型αーアミラーゼで処理することによって、IMMが検出される。
【0050】
本発明で使用する高重合度環状グルカンの環状構造を構成するグルコースの数は、少なくとも14個であり、好ましくは17個以上、より好ましくは22個以上、さらにより好ましくは50個以上であり、上限は、約5000個である。α−1,6−グルコシド結合を有する場合、その数は少なくとも1個あればよく、通常1〜500個、好ましくは1〜100個である。
【0051】
上記還元性末端の定量は、Hizukuriら(1981)Carbohydr.Res:94:205−213の改変パークジョンソン法により、非還元性末端の定量はHizukuriら(1978)Carbohydr.Res:63:261−264の迅速スミス分解法により行い得る。
【0052】
上記エキソ型アミラーゼであるβ−アミラーゼおよびグルコアミラーゼ、あるいは、イソアミラーゼ、プルラナーゼ、あるいは、エンド型アミラーゼであるα−アミラーゼによる分解は、例えば、本発明で使用する高重合度環状グルカンを、0.1%(w/v)となるように蒸留水に溶解後、100μlをとり、上記分解酵素をそれぞれ適当量加え、30−45℃で数時間反応させる。この反応物を、DIONEX社の糖分析システム(送液システム:DX300、検出器:PAD−2、カラム:CarboPacPA100)にかけ、分析し得る。溶出は、例えば、流速:1ml/min,NaOH濃度:150mM,酢酸ナトリウム濃度:0分−50mM、2分−50mM、37分−350mM、45分−850mM、47分−850mMの条件で行い、重合度および生じる糖を分析し得る。
【0053】
本発明で使用する高重合度環状グルカンからの上記グルコアミラーゼ耐性成分の検出は、次のように行い得る。例えば、本発明の高重合度環状グルカン100mgを5mlの蒸留水に溶解させ、グルコアミラーゼを終濃度10単位/mlとなるように添加し、40℃で一夜反応させる。この反応物を100℃で10分間加熱し、不溶物を遠心分離により除去した後、10倍量のエタノールを添加し、残存する多糖を遠心分離による沈澱として回収する。沈澱をさらに1mlの蒸留水に溶解し、グルコアミラーゼを終濃度50単位/mlとなるように添加し、40℃で1時間反応させ、100℃で10分間加熱し、不溶物を遠心分離により除去する。これに10倍量エタノールを添加し沈澱を得る。本発明のグルカンの原料が一部リン酸基により修飾されている澱粉などの原料の場合は、得られた沈澱を10mM 炭酸緩衝液(pH9.4、10mMのMgCl2および0.3mMのZnCl2を含む)に溶解し、20単位の脱リン酸化酵素(ウシ由来、Sigma製)を添加し、40℃で24時間反応させた後、10倍量エタノールを添加し、沈澱を回収する。再度蒸留水に溶解し、グルコアミラーゼを終濃度50単位/mlとなるように添加し、40℃で1時間反応させ、10倍量のエタノールを添加し、グルコアミラーゼ耐性成分を沈澱として得ることができる。
【0054】
本発明の高重合度環状グルカン中の非環状構造部分、α−1,6−グルコシド結合を有する環状構造部分、およびα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状構造部分の定量は、以下のように行い得る。試料高重合度環状グルカン10mgを1mlのDMSOに溶解した後、100mMの酢酸ナトリウム緩衝液8mlを用いてすばやく希釈する。この希釈液を900μlずつ4試料採り、それぞれの試料に、100μlの蒸留水、グルコアミラーゼ液、枝切り酵素とグルコアミラーゼとの混合液、およびエンド型α−アミラーゼとグルコアミラーゼとの混合液をそれぞれ加えて、40℃で4時間反応させる。反応終了後、生じたグルコースを、市販のグルコース定量キットを用いて測定することにより、試料グルカン中の非環状構造部分、α−1,6−グルコシド結合を有する環状構造部分、およびα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状構造部分を計算により求めることができる。詳細は、実施例で説明する。
【0055】
本発明で使用する高重合度環状グルカンの環状構造部分の重合度は、クロマトグラフィーを用いて測定し得る。一般的に、環状多糖は同じ重合度の直鎖多糖とはクロマトグラフィーにおける挙動が異なることが知られており、この性質を用いて、環状であることの証明、及び環状多糖の重合度の決定が行われ得る。例えば、D酵素を用いて反応させて得られた本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンを上記のDIONEX社の糖分析システムで分離し、シングルピークの画分を取得し得る。得られた画分を、例えば、0.1NのHClで100℃、30分間処理し、この環状構造部分を部分的に加水分解したのち、分解により生じた種々の重合度の直鎖のグルカンをDIONEX社の糖分析システムを用いて分析し、重合度を決定し得る。詳細な分析方法は、実施例で述べる。
【0056】
本発明で使用する高重合度環状グルカンは、直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれらを含む糖類と、少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカンを生成し得る酵素とを反応させて得られる。このような活性を有する酵素であれば、いかなる酵素も使用し得る。本発明においては、D酵素を用いることが好ましい。
【0057】
D酵素は最初、馬鈴薯から発見されたが、種々の植物、および大腸菌などの微生物に存在していることがわかっている。この大腸菌などの微生物の酵素はアミロマルターゼあるいは4−α−グルカノトランスフェラーゼと称される。従って、D酵素はその起源は問わず、これら酵素をコードする遺伝子を大腸菌などの宿主をもちいて発現せしめたものであっても使用し得る。ここでは、馬鈴薯および大腸菌からのD酵素の精製方法を例として開示するが、これに限られない。
【0058】
馬鈴薯から、D酵素を精製する方法は、Takahaら、J.Biol.Chem. vol.268,1391−1396(1993)に記載されている。まず、馬鈴薯塊茎を5mMのメルカプトエタノールを含む適当な緩衝液中でホモジナイズし、遠心分離して、0.45μmのメンブレンを通した後、Q−Sepharoseカラムにかけ、例えば、5mM 2−メルカプトエタノールを含む20mMTris−HCl(pH7.5)(緩衝液A)に150mM NaClを含む緩衝液で洗浄する。D酵素は、450mMのNaClを含む緩衝液Aに溶出する。これを、緩衝液Aに対して透析し、500mM 硫酸アンモニウムを含む溶液をPhenyl Toyopearl 650M(Tosoh)カラムにロードし、緩衝液A中の硫酸アンモニウム濃度を500mMから0mMに変化させることにより溶出を行い、D酵素活性画分を集め、緩衝液Aに対して透析を行う。透析内液を緩衝液Aで平衡化したPL−SAXカラム(Polymer Laboratory U.K.)にロードし、緩衝液A中のNaCl濃度を150mM−400mMに変化させて溶出し、D酵素活性画分を集める。上記の方法で馬鈴薯からD酵素を精製し得る。酵素活性の測定は、実施例において詳述する。
【0059】
前出のTakahaら、J.Biol.Chem.vol.268,1391−1396 (1993)には、馬鈴薯D酵素のcDNA配列(同1394頁、Fig.3)、D酵素の組換プラスミドの作成(同1392頁)、該組換えプラスミドの大腸菌における発現、および組換え大腸菌からのD酵素の精製が開示されており、組換え法で作成されるD酵素も当然に使用され得る。大腸菌からD酵素を精製する方法は、例えば、まず、D酵素の生産株である大腸菌TG−1株をLB液体培地を用いて37℃で対数増殖期まで培養後、マルトースを終濃度1%(w/v)となるように添加し、さらに37℃で2時間培養する。遠心分離で集めた菌体を、上記緩衝液Aに懸濁して超音波処理、遠心分離を行い、菌体抽出液を得る。次に、例えば、緩衝液Aで平衡化したQ−Sepharose Fast Flow(Pharmacia)カラムにロードし、緩衝液A中のNaCl濃度を0mMから500mMに変化させて溶出を行い、D酵素活性画分を集める。活性画分に、終濃度1Mになるように硫酸アンモニウムを加えて放置し、遠心分離で不溶性の沈澱を除去し、上清を1Mの硫酸アンモニウムを含む緩衝液Aで平衡化したPhenyl Toyopearl 650M(Tosoh)カラムにロードする。緩衝液A中の硫酸アンモニウム濃度を1Mから0mMに変化させることにより溶出を行い、D酵素活性画分を集める。この画分を、緩衝液Aに対して透析後、透析内液を緩衝液Aで平衡化したResource Qカラム(Pharmacia)にロードし、緩衝液Aの中のNaCl濃度を0mMから500mMに変化させることにより溶出を行い、D酵素を精製する。
【0060】
D酵素は、上記のようにして精製され得るが、澱粉分子内のα−1,4−グルコシド結合に作用するエンド型のアミラーゼ類が検出されなければ、上記いずれの精製段階の粗酵素であっても、本発明で使用する高重合度環状グルカンの合成に使用し得る。
【0061】
また、本発明に用いる酵素は、精製酵素、粗酵素を問わず、固定化されたものでも反応に使用し得、反応の形式は、バッチ式でも連続式でもよい。固定化の方法としては、担体結合法、(たとえば、共有結合法、イオン結合法、あるいは物理的吸着法)、架橋法あるいは包括法(格子型あるいはマイクロカプセル型)が使用され得る。
【0062】
本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンのみを得たい場合には、アミロース、澱粉枝切り物、ホスホリラーゼによる酵素合成アミロース、マルトオリゴ糖などのα−1,4−グルコシド結合のみからなる直鎖のα−1,4−グルカンに、本発明の高重合度環状グルカンに使用し得る上記酵素、例えばD酵素を作用させて製造し得る。
【0063】
また、アミロペクチン、グリコーゲン、澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、可溶性澱粉、デキストリン、澱粉加水分解物、ホスホリラーゼによる酵素合成アミロペクチンなどのα−1,6−分岐構造を有する糖類を原料にする場合で、本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンのみを得たい場合には、本発明の高重合度環状グルカンに使用し得る上記酵素、例えば、D酵素を直接原料に反応させて製造し得る。あるいは、α−1,6−グルコシド結合を切断するが、α−1,4−グルコシド結合を切断しない酵素、例えばイソアミラーゼ、プルラナーゼの存在下または非存在下で、上記糖類を本発明の高重合度環状グルカンに使用し得る上記酵素、例えばD酵素と反応させて製造し得る。
【0064】
例えば、図2に示すように、還元末端(11)を有するアミロース(12)とD酵素とを反応させて、上記α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)を作成した後、グルコアミラーゼを添加して、非環状グルカンを非還元末端から順次加水分解する。次にエタノールを加えて環状グルカンを沈澱として回収したのち凍結乾燥し、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)を得る。
【0065】
あるいは、還元末端(11)を有するアミロペクチン(14)とα−1,6−グルコシド結合を切断するイソアミラーゼとD酵素とを同時に反応させて、上記α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)を作成した後、グルコアミラーゼを添加して非還元末端から順次加水分解を行う。次にエタノールを加えて環状グルカンを沈澱として回収したのち凍結乾燥し、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)を得る。
【0066】
あるいは、還元末端(11)を有するアミロペクチン(14)にD酵素を反応させることにより、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)と、α−1,4−グルコシド結合のみにより構成される環状構造と非環状構造部分とを有するグルカン(18)と、少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合および少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカン(15)とを調製した後、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼを反応させる。さらに、プルラナーゼを反応させ得る。次いで、エタノールを添加して、環状グルカンを沈殿させ、この沈殿を回収した後凍結乾燥することにより、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)を得る。
【0067】
さらに、本発明の少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカン(以下、本発明のα−1,6−グルコシド結合を有するグルカンという)は、アミロペクチン、グリコーゲン、澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、可溶性澱粉、デキストリン、澱粉加水分解物、ホスホリラーゼによる酵素合成アミロペクチンなどのα−1,6−分岐構造を有する原料に、本発明のグルカンに使用し得る上記酵素、例えばD酵素を作用させて製造し得る。
【0068】
例えば、図3に示すように、還元末端(11)を有するアミロペクチン(14)にD酵素を反応させて、上記の少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカン(15)と、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)と、α−1,4−グルコシド結合のみにより構成される環状構造と非環状構造部分とを有するグルカン(18)とを作製した後、ゲル濾過クロマトグラフィーにより、上記の少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合とにより構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカン(15)を分離し得る。このグルカン(15)に、グルコアミラーゼを添加して非環状構造部分を非還元末端から順次加水分解する。加水分解後に、エタノールを加えて環状グルカンを沈澱として回収したのち凍結乾燥し、少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合を有する環状構造のみで形成されるグルカン(16)を得る。
【0069】
本発明に用いられ得る直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれを有する糖類としては、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオースなどのマルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、澱粉、ワキシー澱粉、ハイアミロース澱粉、可溶性澱粉、デキストリン、澱粉枝きり物、澱粉部分加水分解物、ホスホリラーゼによる酵素合成澱粉、およびこれらの誘導体などが挙げられる。これらは、単独でもよく、あるいは組み合わせても使用し得る。ここで、澱粉枝きり物とは、澱粉にあるα−1,4−グルコシド結合以外の結合を酵素的に全部あるいは一部を切断して得られる物をいう。また、澱粉部分加水分解物とは、澱粉にあるα−1,4−グルコシド結合の一部を酵素的に、もしくは化学的に切断して得られるものをいい、例えば、重合度が100程度以上のアミロペクチン、重合度が22程度以上のアミロースなどが原料として用いられ得る。
【0070】
また、本発明に用いられ得る直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれを有する糖類と、少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカンを生成し得る酵素との反応は、ホスホリラーゼおよびグルコース−1−リン酸の存在下で行い得る。ホスホリラーゼは、グルコース−1−リン酸が過剰に存在する場合には、α−1,4−グルカン鎖の伸張反応を触媒する。このため、上記原料のα−1,4−グルカン鎖が、上記酵素の環状化反応を受けるには充分な長さを有していない場合には、ホスホリラーゼおよびグルコース−1−リン酸を共存させることにより、本発明のグルカンの収量を増加させることが可能である。
【0071】
さらに、原料には、上記澱粉あるいは澱粉の部分分解物の誘導体も用い得る。例えば、上記澱粉のアルコール性の水酸基の少なくとも1つが、イオン結合、エーテル化(カルボキシメチル化、ヒドリキシアルキル化等)、エステル化(リン酸化、アセチル化、硫酸化等)、架橋化またはグラフト化された誘導体なども用いられ得る。さらに、これらの2種以上の混合物も原料として用い得る。
【0072】
上記原料と本発明に使用し得る酵素との反応は、本発明の高重合度環状グルカンが生成するpH、温度などの条件であれば、いずれをも使用し得る。
【0073】
D酵素を例にとれば、反応のpHは、通常、3から10、反応速度、効率、酵素の安定性などの点から、好ましくは4から9、さらに好ましくは、6から8である。温度は、約10℃から90℃、反応速度、効率、酵素の安定性などの点から、好ましくは約20℃から60℃、さらに好ましくは、30℃から40℃の範囲である。耐熱性の微生物などから得られる酵素を用いる場合は、50℃から90℃の高温で使用し得る。上記原料の濃度(基質濃度)も、使用する基質の重合度、反応条件を考慮して決定し得る。通常、0.1%から30%程度、反応速度、効率、基質溶液の取り扱い易さなどの点から、好ましくは0.1%から10%、さらに好ましくは溶解度などを考慮すると0.5%から5%である。使用する酵素の量は、反応時間、基質の濃度との関係で、決定され、通常は、約1時間から48時間で反応が終了するように酵素量を選ぶのが好ましく、基質1gあたり、通常50〜10,000単位、好ましくは70〜2,500単位、より好ましくは400〜2,000単位である。
【0074】
本発明の高重合度環状グルカンは、それ自体は公知の手法を適用して分離、精製し得る。例えば、本発明の高重合度環状グルカンは、上記の反応が終了した後、溶媒による沈澱、膜による分離、クロマトグラフィーによる分離などにより、分離、精製され得る。好ましくは、反応液を加熱して、あるいはそのまま精製する。本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンは、エキソ型のβ−アミラーゼあるいはグルコアミラーゼを添加して、残存する直鎖のα−1,4−グルカンを分解して得られる。澱粉などの分枝多糖を原料として用いた場合には、エキソ型のβ−アミラーゼあるいはグルコアミラーゼと、α−1,6−グルコシド結合を切断する酵素とを併用して、環状α−1,4−グルカンのみが残るように反応させる。その後、溶媒を用いる沈澱、膜分離、クロマト分離などの分離、精製手段が適用され得る。
【0075】
このようにして得られた高重合度環状グルカンは、そのまま親水性部位として用いてもよく、必要に応じて、さらに親水性置換基を導入して親水性部位として用いてもよい。親水性置換基を導入する場合、その置換基が導入される位置は高重合度環状グルカンの任意の位置であり得る。例えば、環状グルカンを構成するグルコースモノマーユニットのいずれかの2位、3位または6位の水酸基のうちの1つに対して親水性置換基を導入することが可能である。2位、3位または6位の水酸基のうちの2つに対して親水性置換基を導入してもよく、2位、3位および6位のすべての水酸基に対して親水性置換基を導入してもよい。
【0076】
ただし、環状グルカンを構成するすべてのグルコース単位の2位、3位および6位のすべての水酸基に親水性置換基を導入すると、疎水性基を導入することがなくなる。従って、親水性置換基は、疎水性基の導入が予定される位置以外の位置において導入される。
【0077】
このようにして得られる、高重合度環状グルカンを含む親水性部位に疎水性基を化学的に結合させることにより、本発明の環状グルカン誘導体が得られる。本発明の環状グルカン誘導体は、好ましくは、例えば、具体的に以下の構造式:
【0078】
【化3】
【0079】
で表すことができる。
ここで、上記式においてn個のモノマーはそれぞれ互いに独立して選択される。すなわち、単一種類のグルコース誘導体モノマーがn個重合されていることを必要とするものではない。1種類のモノマーがn個重合されたホモポリマー構造であってもよいが、2種類のモノマーが共重合した構造であってもよい。あるいは、3種類以上のモノマーが共重合した構造であってもよい。
【0080】
n個のR1は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表し、n個のR2は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表し、n個のR3は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表す。ただし、1分子中に少なくとも1つの−L−R4が存在する。存在する基−L−R4の数は、1つの実施形態では、1分子中に2以上であり、好ましくは、5以上であり、より好ましくは、10以上である。基−L−R4の数は、高重合度環状グルカンの全水酸基に対する比率として、全水酸基の1%以上であることが好ましく、全水酸基の2%以上であることがより好ましく、全水酸基の3%以上であることがさらに好ましい。また、全水酸基の50%以下であることが好ましく、全水酸基の20%以下であることがより好ましく、全水酸基の10%以下であることがさらに好ましい。
【0081】
R4は、それぞれ独立して、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のアルキル基、またはC3〜C20の直鎖または分枝鎖のフッ化アルキル基である。
【0082】
Lは、それぞれ独立して、−NHCO−、−O−、−S−、−OSO2−、−SCO−または−OCO−である。
【0083】
R5は、それぞれ独立して、水酸基またはトシル基である。
【0084】
nは、14〜5000である。
【0085】
1つの実施形態では、この化合物は、以下の式の化合物であり得る:
【0086】
【化4】
【0087】
ここで、Lは連結基を表し、具体例としては例えば、Lは−NHCO−、−O−、−S−、−OSO2−、−SCO−または−OCO−などであり、R4は疎水性基を表し、具体例としては例えば、R4はC3〜C20の直鎖または分枝鎖のアルキル基、またはC3〜C20の直鎖または分枝鎖のフッ化アルキル基であり、R5は、水酸基またはトシル基であり、nは14〜5000である。mのnに対する割合は、好ましくは1〜50%、より好ましくは2〜20%、さらに好ましくは3〜10%である。
【0088】
好ましい実施形態において、高重合度環状グルカンに結合される疎水性基として、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のアルキル基、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のフッ化アルキル基、あるいはそれらの混合物が使用される。これにより、確実に良好な界面活性を得ることができる。さらに、アルキル基またはフッ化アルキル基を高重合度環状グルカンに結合させる場合、結合の際の立体的障害を考慮すると、これらアルキル基またはフッ化アルキル基は、鎖長とは無関係に、直鎖であることが好ましい。
【0089】
より好ましい実施形態において、高重合度環状グルカンに結合される疎水性基として、少なくとも50%のフッ素置換率を有するC3〜C20の直鎖のフルオロヒドロアルキル基またはC3〜C20の直鎖のペルフルオロアルキル基が使用される。これにより、特に優れた界面活性を得ることができる。
【0090】
また好ましい実施形態において、高重合度環状グルカンへの疎水性基の結合は、アミド結合、エーテル結合およびエステル結合からなる群から選択される。このように、比較的安定した化学結合を採用することにより、医薬、試薬、界面活性剤、化粧品用組成物、食品用組成物および磁気記録媒体用フィルムなどの用途における使用の間、途中で結合が分解することなく、安定した状態で本発明の環状グルカン誘導体の機能および活性を持続させることができる。上記結合の中でも、特に上記高重合度環状グルカンが有するアルコール性水酸基のうちの少なくとも1つが、フッ素置換または無置換の脂肪酸とのエステル結合によって誘導体化されていることが好ましい。
【0091】
(側鎖の導入方法)
本発明の高重合度環状グルカン誘導体は、グルコースの水酸基、例えば、上述した方法で得られた高重合度環状グルカンにトシル基を導入し、導入されたトシル基を(置換もしくは無置換)脂肪酸エステルでエステル交換することにより得られる。
【0092】
本発明の1局面において、本発明の疎水性基が高重合度環状グルカンに結合した環状グルカン誘導体は、アルカリ水溶液中で、前述の方法によって合成された高重合度環状グルカンと、塩化p−トルエンスルホニルとを、高重合度環状グルカンが有する少なくとも1個のアルコール性水酸基と塩化p−トルエンスルホニルとが反応し得る条件下で、接触させて、トシル基が高重合度環状グルカンに結合したトシル基含有環状グルカン誘導体を得(以下、この工程を高重合度環状グルカンのトシル化という;図11のスキーム1および2参照)、このトシル基含有環状グルカン誘導体と、フッ素置換または無置換の脂肪酸ナトリウムとを、トシル基と該脂肪酸ナトリウムとが交換反応し得る条件下で、接触させる(以下、この工程をトシル基と脂肪酸ナトリウムとのエステル交換反応という;図14のスキーム3および4参照)ことによって得ることができる。
【0093】
上記高重合度環状グルカンのトシル化は、より具体的に、以下のようにして行われる。まず、前述の方法で得られた高重合度環状グルカンをNaOH水溶液などのアルカリ水溶液に溶解させ、その水溶液に塩化p−トルエンスルホニル(略称:p−TsCl)を添加する。このとき、p−TsClは、アルカリ水溶液に溶解しないため、高重合度環状グルカンの環内の疎水性環境に包接されたp−TsClのみが反応に関わると考えられる。従って、撹拌状態が包接錯体の形成に影響を及ぼすため、反応の進行に大きく影響を与えると考えられる。また反応の進行に影響を及ぼす他の因子としては、撹拌温度、撹拌時間および反応溶液の濃度が挙げられる。この反応溶液濃度が反応の進行に影響を及ぼす理由としては、アルカリ水溶液がトシル化反応の際に発生するHClをトラップして反応を促進することが挙げられる。当業者は、このような撹拌状態、撹拌温度、撹拌時間および反応溶液の濃度を自在に変化させることで、用途に応じた所望のトシル化度を得ることができる。目的のトシル化高重合度環状グルカンの精製は、目的物を含むアルカリ水溶液を希塩酸で中和し、トシル化反応の副生成物であるNaCl塩をゲル濾過クロマトグラフィーまたは透析により除去し、水をエバポレーションで減圧除去し、真空乾燥することによって行われる。
【0094】
トシル化の確認は、トシル基特有のS=O基に基づく吸収に着目し、UVスペクトル法によって行うことができる(図12)。また、このトシル化度、つまり高重合度環状グルカンの全水酸基のうちトシル基で置換された割合は、1H−NMRスペクトル法により容易に算出することができる。図13のトシル化した高重合度環状グルカンの1H−NMRスペクトル図の(a+b)のプロトン積分計算値とdのプロトン積分計算値との比率により算出することができる。
【0095】
上で得られたトシル化高重合度環状グルカンのトシル基と脂肪酸ナトリウムとのエステル交換反応は、より具体的に以下のようにして行われる。トシル化高重合度環状グルカンを適切な溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド(略称:DMSO))に溶解し、その溶液に脂肪酸ナトリウムまたはフッ化脂肪酸ナトリウムを添加し、約70〜90℃の温度で、窒素気流下において、数時間撹拌することによって行われる。エステル交換後の最終目的物の精製は、まず、反応溶液にアセトンなどの溶媒を添加し、最終目的物を沈殿させ、この沈殿物を水に溶解し、適度な時間にわたり透析することにより、未反応物の脂肪酸ナトリウム塩またはフッ化脂肪酸ナトリウム塩および副生成物のp−トルエンスルホン酸ナトリウム(略称:TsNa)を除去し、凍結乾燥することによって行われる。
【0096】
エステル交換の確認は、脂肪酸のアルキル基特有のCH伸縮振動およびエステル基特有のC=O伸縮振動に着目し、IRスペクトル法によって行うことができる(図15)。また、このエステル交換度、つまり高重合度環状グルカンの全水酸基のうち脂肪酸またはフッ化脂肪酸で置換された割合は、1H−NMRスペクトル法により容易に算出することができる。図16のエステル交換後の高重合度環状グルカンの1H−NMRスペクトル図の(d+e)のプロトン積分計算値とcのプロトン積分計算値との比率により算出することができる。
【0097】
トシル化後の高重合度環状グルカンおよびエステル交換後の高重合度環状グルカンについての界面活性については、これらをそれぞれ超純水に分散または溶解させ、Wilhelmy plate法を用いた表面張力測定により評価することができる(図17)。
【0098】
エステル交換後の高重合度環状グルカンの水中における分散体についての物性については、動的光散乱により調べることができる(図18)。
【0099】
また、エステル交換後の高重合度環状グルカンの水中における分散体の視覚的観察は、透過型電子顕微鏡を用いて行うことができる(図19)。
【0100】
(界面活性剤)
本発明の環状グルカン誘導体は、親水性の環状グルカン部分と疎水性の側鎖とを有するため、環状グルカンとしての性能を維持しながら、さらに界面活性剤としての性能を発揮し得る。界面活性剤としての性能の観点から、環状グルカン誘導体のグルカンの重合度は、14〜5000が好ましく、17〜100がより好ましい。さらに好ましくは22〜50である。また、疎水性基の数としては、環状グルカン誘導体に存在するグルコース残基のうち、1〜50%に疎水性基が導入されていることが好ましく、2〜20%がより好ましく、3〜10%がさらに好ましい。疎水性基の種類としては、アルキル基または置換されたアルキル基が好ましく、アルキルまたはパーフルオロアルキルがより好ましい。直鎖のアルキル基または直鎖のパーフルオロアルキル基がさらに好ましい。アルキル基または置換されたアルキル基の鎖長は、C3〜C20が好ましく、より好ましくはC3〜C12であり、さらに好ましくはC3〜C8である。
【0101】
本発明の環状グルカン誘導体は、単独でそのまま界面活性剤として用いてもよく、また他の界面活性剤と組み合わせてもよい。
【0102】
本発明の環状グルカン誘導体からなる界面活性剤には、例えば、以下の特徴的な利点がある。
【0103】
1)親水部の分子量が大きい界面活性剤であるため、数分子でミセルを形成できる。一方で、ミセルの大きさが直径数百nmにもなる、巨大なミセルを形成することもできる。これはナノ粒子としての利用、乳化剤としての利用が考えられる。
【0104】
2)本発明の環状グルカンは、置換基を導入できる水酸基が多いため、導入できる疎水基の数が多い。このため、疎水基の置換度を変えるだけで、親水性基と疎水性基のバランス(HLB値)の幅が広い、一連の界面活性剤が得られる。
【0105】
3)親水部の分子量が大きい界面活性剤であり、親水部にさらに親水性基を導入しても、界面活性剤としての性質を維持できる。そのため、親水性基として、レセプター、リガンドなどを導入することにより、分子認識能を持つ界面活性剤が得られる。この界面活性剤をミセルあるいは泡として溶媒中に分散させて用いることで、レセプターやリガンドに結合する物質が存在する位置に集積させることができる。この性質は、例えば検査技術、診断技術として応用できる。
【0106】
4)本発明の環状グルカン誘導体は、包接される化合物の構造にあわせて環状立体構造を変化させ、低分子量から高分子量の多種多様な化合物の包接を可能にするという分子認識能を持つ。このため、包接能を持つ界面活性剤が得られる。さらに、本発明の環状グルカン誘導体をLB膜にすることにより特定の物質を認識する素子を作ることができる。
【0107】
5)本発明の環状グルカン誘導体をαーアミラーゼなどの酵素で分解し、親水部を破壊することにより界面活性剤の機能の制御(乳化・ミセル状態のコントロール)が可能となる。
【0108】
6)上記のことはまた、生分解性の界面活性剤が合成可能なことを意味する。これは、環境上好ましい性質である。というのも、界面活性剤は難分解性なものが多く、環境上問題となることが多いからである。この性質は一方で、医薬・化粧品として利用する上でも好ましい性質である。
【0109】
(医薬・化粧品など、およびそれを用いる治療、予防など)
別の局面において、本発明は、医薬(例えば、ワクチン等の医薬品、健康食品、残さタンパク質又は脂質は抗原性を低減した医薬品)および化粧品に関する。この医薬および化粧品は、薬学的に受容可能なキャリアなどをさらに含み得る。本発明の医薬に含まれる薬学的に受容可能なキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
【0110】
そのような適切な処方材料または薬学的に受容可能なキャリアとしては、抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または薬学的アジュバントが挙げられるがそれらに限定されない。代表的には、本発明の医薬は、単離された多能性幹細胞、またはその改変体もしくは誘導体を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに含む組成物の形態で投与される。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。
【0111】
本明細書で使用される受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、そして以下が挙げられる:リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;アスコルビン酸、α−トコフェロール;低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))。
【0112】
例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。
【0113】
本発明の医薬は、経口的または非経口的に投与され得る。あるいは、本発明の医薬は、静脈内または皮下で投与され得る。全身投与されるとき、本発明において使用される医薬は、発熱物質を含まない、薬学的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能な組成物の調製は、pH、等張性、安定性などを考慮することにより、当業者は、容易に行うことができる。本明細書において、投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)であり得る。そのような投与のための処方物は、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。
【0114】
本発明の医薬は、必要に応じて生理学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤(日本薬局方第14版またはその最新版、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990などを参照)と、所望の程度の純度を有する本発明の環状グルカン誘導体を含む組成物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で調製され保存され得る。
【0115】
本発明の処置方法において使用される環状グルカン誘導体を含む組成物の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。本発明の処置方法を被検体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0116】
本発明が化粧品として使用されるときもまた、当局の規定する規制を遵守しながら化粧品を調製することができる。
【0117】
(保健・食品)
本発明はまた、保健・食品分野においても利用することができる。このような場合、上述の経口医薬として用いられる場合の留意点を必要に応じて考慮すべきである。特に、特定保健食品のような機能性食品・健康食品などとして使用される場合には、医薬に準じた扱いを行うことが好ましい。
【0118】
(磁気記録媒体)
本発明はさらに、近年の磁気記録媒体の記録密度の増加に対応して、磁気ディスクの最外層に適用される潤滑剤としても利用することができる。磁気記録媒体は電子計算機、ワードプロセッサ等の外部メモリーとして用いられ、ハードディスク装置やフロッピー(登録商標)ディスク等が挙げられる。ディスクの大きさとしては、その用途により1〜14インチのものがある。ハードディスク装置の場合は、1枚または数枚のディスクを重ねることで大きな記録容量を確保している。こうしたディスクは、支持体である基板(Al、Cu等の金属の合金、ガラス等のセラミックス、または、ポリカーボネート、ポリスチレン等の有機高分子材料)、磁性体層(Fe,Co,Ni等を中心とした合金、または、その酸化物)、保護層(カーボン、SiC、SiO2等)、そして、本発明のフッ素化合物を含有した膜で構成されている。必要に応じて基板と磁性体層との間、または、磁性体層と保護層との間に、これらの密着性等を改善する目的で新たな層(例えばNi、Cr、およびZn系の錯体、酸化物、リン系の金属錯体等)を設ける場合がある。
【0119】
磁気記録媒体の保護層の上に形成される本発明の膜は、膜厚30nm以下が望ましい。これは厚すぎるとヘッドとディスクの間に働く静止摩擦係数が大きくなる恐れがあるからである。また、1nm未満では十分な効果が得られない。
【0120】
このような薄膜を形成するには、膜形成材料を直接塗布するのではなく、適当な溶剤に溶解し、それを浸漬塗布などによって形成する方法が、膜の厚さを制御し易いので好ましい。また、用いた溶剤の沸点や気化熱により後処理の方法は異なるが常温、または、若干の加温、あるいは常圧、減圧下で乾燥し、溶剤を除去する必要がある。この時、気化熱の大きな溶剤を用いると、空気中の水分を当該膜中に取り込む恐れがあるので、溶剤としては気化熱の小さなものが望ましい。
【実施例】
【0121】
以下に、本発明の疎水性基が高重合度環状グルカンに結合した環状グルカン誘導体について、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0122】
(実施例1:D酵素の調製)
Takahaら、J.Biol.Chem.vol.268,1391−1396(1993)に記載されている方法でD酵素を精製した。まず、馬鈴薯塊茎を5mMの2−メルカプトエタノールを含む20mMTris−HCl(pH7.5)緩衝液(緩衝液A)中でホモジナイズし、遠心分離して、0.45μmのメンブレンを通した後、Q−Sepharoseカラム(16X100mm ファルマシア)にかけ、150mM NaClを含む緩衝液Aで洗浄した。D酵素は、450mMのNaClを含む緩衝液Aに溶出した。溶出後、緩衝液Aに対して透析し、最終濃度が500mMとなるように硫酸アンモニウムを加えた。この溶液をPhenyl Toyopearl 650M(Tosoh)カラム(10X100mm)にロードし、緩衝液A中の硫酸アンモニウム濃度を500mMから0mMに変化させることにより溶出を行った。D酵素活性画分を集め、緩衝液Aに対して透析を行い、透析液をAmicon Centricon 30マイクロコンセントレーターを用いて濃縮し、PL−SAX HPLCカラム(Polymer Laboratory U.K.)にかけ、緩衝液A中150−400mMのNaCl直線濃度勾配をかけて溶出し、活性画分を集めて上記Amicon Centricon 30マイクロコンセントレーターで濃縮した。
【0123】
酵素活性の測定は、100mM Tris−HCl(pH7.0)、5mM 2−メルカプトエタノール、1%(w/v)マルトトリオース、および酵素を含む100μlの反応混合液を37℃、10分間、反応させ、反応液を沸騰水中で3分間加熱して、反応を停止し、反応により遊離したグルコースをグルコースオキシダーゼを用いる方法(Barhamら(1972)Analyst97:142)により定量した。1分間に1μmolのグルコースを生じる酵素量を1単位とした。
【0124】
(実施例2:本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンの調製)
市販のアミロース(平均分子量30,000)500mgを1N−NaOH 10mlに完全に溶解させた後、1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.5)10ml、蒸留水20ml、1N−塩酸10mlを順に加えアミロース溶液をつくった。このアミロース溶液に馬鈴薯由来D酵素200単位を加えて30℃において24時間反応させた。
【0125】
反応液を遠心分離後、上清を100℃、5分間処理し、再び遠心分離して変性した酵素蛋白質を除いた。上清にβアミラーゼ約100単位およびグルコアミラーゼ100単位を加えて50℃において3時間反応させた後、10倍量のエタノールを加えて、沈澱させた。この沈澱を凍結乾燥し、粉末約400mgを得た。
【0126】
(実施例3:本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンの調製)
市販の可溶性澱粉500mgを1N−NaOH 10mlに完全に溶解させた後、1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.5)10ml、蒸留水20ml、1N−塩酸10mlを順に加え澱粉溶液をつくった。この澱粉溶液に市販のイソアミラーゼ10単位と馬鈴薯由来D酵素200単位とを加えて30℃において24時間反応させた。
【0127】
反応液を遠心分離後、上清を100℃、5分間処理し、再び遠心分離して変性した酵素蛋白質を除いた。上清にβアミラーゼ約100単位およびグルコアミラーゼ100単位を加えて50℃において3時間反応させた後、10倍量のエタノールを加えて、環状アミロースを沈澱させた。この沈澱を凍結乾燥し、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの粉末約150mgを得た。
【0128】
(実施例4:本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンの調製)
市販のアミロース(平均分子量320,000)20mgをDMSO1mlに完全に溶解させた後、実施例1で精製したD酵素68単位を含む20mMクエン酸緩衝液(pH.7.0)9mlを添加し、30℃で10分、20分、30分、2時間、6時間、および18時間反応させた。反応液を100℃で10分間加熱した後、遠心分離により変性した酵素タンパク質を除いた。上清1mlに5単位のグルコアミラーゼを添加し40度で4時間反応させ非環状のアミロースを除いた。再び反応液を100℃で10分間加熱したのち、遠心分離により変性した酵素タンパクを除き、その上清250μlに10倍量のエタノールを加えて環状グルカンを沈殿させた。
【0129】
(実施例5:α−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンであることの確認)
(1)還元性末端、非還元性末端の定量
実施例2で得られた粉末の還元性末端の定量は、Hizukuriら(1981)Carbohydr.Res:94:205−213のパークジョンソン変法により行った。非還元性末端の定量は、Hizukuriら(1978)Carbohydr.Res:63:261−264の迅速スミス分解法により行った。その結果、還元性末端、非還元性末端は、両者とも検出できなかった。
【0130】
(2)エキソ型酵素およびα−1,6−グルコシド結合分解酵素による消化
実施例2で得られた粉末を、0.1%(w/v)となるように蒸留水に溶解後、本物質水溶液100μlに、以下に示した澱粉分解酵素それぞれ1単位を加え40℃で2時間反応させた。この反応物をDIONEX社の糖分析システム(送液システム:DX300、検出器:PAD−2、カラム:CarboPacPA100)により分析した。溶出は流速:1ml/min,NaOH濃度:150mM,酢酸ナトリウム濃度:0分−50mM、2分−50mM、37分−350mM(Gradient curve No.3)、45分−850mM(Gradient curve No.7)、47分−850mMの条件で行った。その結果を図4に示す。
【0131】
図4に示したように、実施例2で得られた粉末は、澱粉分子の非還元性末端のα−1,4−グルコシド結合を加水分解するエキソ型アミラーゼであるβ−アミラーゼ(生化学工業株式会社)およびグルコアミラーゼ(Toyobo Co.,Ltd.)では分解されなかった。また、澱粉中のα−1,6−グルコシド結合を加水分解するイソアミラーゼ(株式会社林原生化学研究所)とプルラナーゼ(株式会社林原生化学研究所)の併用、もしくはイソアミラーゼとプルラナーゼとβ−アミラーゼとの併用でも分解されなかった。しかしこの粉末は、澱粉分子内部のα−1,4−グルコシド結合を加水分解するエンド型アミラーゼであるα−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社)により完全に分解された。
【0132】
(3)エンド型酵素による消化
実施例2で得られた粉末を0.1%(w/v)となるように蒸留水に溶解後、この水溶液100μlに、細菌糖化型α−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社)1単位を加え、40℃で2時間反応させた。この反応物をHPLCで分析したところ、グルコース、マルトース、および若干量のマルトトリオースのみが得られた。このことから、上記実施例2で得られた粉末には、α−1,4−グルコシド結合以外の結合は存在しないことが証明され、得られた粉末が、α−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンであることがわかった。
【0133】
同様の確認を行った結果、実施例3および4で得られた粉末も、α−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンであることがわかった。
【0134】
(実施例6:α−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンの重合度の測定)
一般的に、環状多糖は同じ重合度の直鎖多糖と種々のクロマトグラフィーにおける挙動が異なることが知られている。この性質を用いて、環状であることの証明および環状多糖の重合度の決定を行った。
【0135】
(1)特定の重合度を有するα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの精製 実施例2で得られた物質は種々の重合度のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの混合物であると考えられるので、上記特定の重合度を有する環状グルカンの精製を行った。
【0136】
図5−1には、実施例2で得られた物質100μgを、DIONEX社の糖分析システム(装置および溶出条件は前記と同じ)により分析した際の溶出パターンを示す。図5−2には、同じ溶出条件における、直鎖α−1,4−グルカンの溶出パターンを示す。
【0137】
この図5−1に示される検出可能な最も早く溶出されたピークをA、それに続くピークをそれぞれB、C、D・・・Lとし、このうちGからLのピークを分取し、精製した。
【0138】
(2)酸加水分解物の分析
分取したGからLのピークをそれぞれ0.1NのHClで100℃、30分間、加水分解した。この条件は部分加水分解の条件である。分解物をDIONEX社の糖分析システム(装置および溶出条件は実施例5と同じ)で分析した。図6に、これらの結果を示す。
【0139】
上記ピークGの画分は、酸による部分加水分解を受け、グルコースおよび重合度2から23の直鎖α−1,4−グルカンに分解された。
【0140】
酸分解前のピークGは、直鎖のα−1,4−グルカンの重合度20の辺りに溶出されており、分解物の方が分解前の物より高重合度の位置に溶出されるという現象が見いだされた。この現象はそのほかのHからLのピークにおいても見いだされ、このことは、GからLのピークがα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンであることを示唆していると考えられる。
【0141】
前述の部分加水分解の実験において検出された最も重合度の大きな直鎖のα−1,4−グルカンが、それぞれのピークのα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの重合度をあらわすと考えられる。従って、ピークのG、H、I、J、K、Lの重合度は、順にそれぞれ、23、24、25、26、27および28であることが解った。また、この結果から推定すると、最小の重合度のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンであるピークAの重合度は、17であると考えられる。
【0142】
他方、より高重合度のα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの重合度は、ゲル濾過クロマトグラフィーにより分析し得る。実施例4において、それぞれの反応時間に得られた、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの粉末を250ulの蒸留水に溶解し、その全量をSuperose6(φ1cm×30cm、ファルマシア製)とSuperose30(φ1cm×30cm、ファルマシア製)を連結したカラムにロードし、150mM酢酸ナトリウム水溶液を用いて溶出させた。
【0143】
その結果、図7に示したように、D酵素の反応時間が10分のサンプルでは、生成されたα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの平均分子量は約70,000であった。D酵素の反応時間が長くなるにつれ、生成されているα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの分子量は低下している。しかし、反応時間6時間以降は、平均分子量が約15,000から変化しておらず、これ以上の低分子化は起こらなかった。なお、環状グルカンの分子量は、酵素合成アミロースをスタンダードとして用いて算出した値である。
【0144】
このように、D酵素により生成されるα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの重合度は、基質として用いるアミロースの重合度、D酵素量、反応時間により、17から数百の範囲で任意にコントロールが可能であることがわかった。
【0145】
(実施例7:本発明のグルカンの調製)
市販のワキシーコーンスターチ40mgを2mlのDMSO(ジメチルスルフォキシド)に懸濁した後、実施例1で精製したD酵素680単位を含む20mMクエン酸緩衝液(pH7.0)18mlを添加し、30℃で40時間反応させた。
【0146】
反応液を100℃で10分間加熱した後、遠心分離により変性した酵素タンパクを除去した。上清に10倍量のエタノールを添加し、グルカンを沈澱させた。次いで、得られた沈殿を凍結乾燥し、本発明のグルカンの粉末約40mgを得た。この粉末は、本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有するグルカンと、本発明のα−1,6−グルコシド結合を有するグルカンと、本発明のα−1,4−グルコシド結合のみで構成された環状構造と非環状構造部分とを有するグルカンとの混合物であった。
【0147】
(実施例8:本発明の少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合を環状構造部分または非環状構造部分に有するグルカンの調製)
実施例7で得た沈澱をゲル濾過クロマトグラフィーで分画した。沈澱を250μlの蒸留水に溶解し、Superose6(φ1cm×30cm、ファルマシア製)とSuperdex30(φ1cm×30cm、ファルマシア製)を連結したカラムにその全量をロードした。次いで、150mM酢酸ナトリウム水溶液を用いて溶出を行った。図8に示すように、ボイドボリュームに溶出されていたアミロペクチンはD酵素の反応により低分子化され、平均分子量が約30,000であるピークIおよび平均分子量が約3,000であるピークIIの2種類の成分が生成した。このうち分子量約3000であるピークIIは、主としてα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンであった。一方、平均分子量が約30,000であるピークIは、α−1,6−グルコシド結合を有するグルカンであった。ピークIの画分を分取し、これに10倍量のエタノールを加えてα−1,6−グルコシド結合を有するグルカンを沈澱させた。沈澱は遠心分離して回収後、凍結乾燥した。このようにしてα−1,6−グルコシド結合を有するグルカン20mgを得た。なお、環状グルカンの分子量は、酵素合成アミロースをスタンダードとして用いて算出した値である。
【0148】
(実施例9:本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンの調製)
5mMのアデノシンモノフォストフェートを含む100mMクエン酸緩衝液(pH7.0)10mlにマルトヘキサオース20mgおよびグルコース1リン酸200mgを溶解させ、さらに、実施例1で調製したD酵素20単位とホスホリラーゼa(Sigma)1mgとを加えて30℃で2時間反応させた。
【0149】
反応液を遠心分離後、上清を100℃で5分間処理し、再び遠心分離して変性した酵素タンパク質を除いた。上清にグルコアミラーゼ50単位を加えて、直鎖状のアミロースをグルコースまで分解した後、10倍量のエタノールを加えて、環状アミロースを沈殿させた。この沈殿には、約30mgのα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンが含まれていた。さらに、ゲル濾過クロマトグラフィーを行うことにより、この沈殿中に存在するグルコース1リン酸を除去した。
【0150】
(実施例10:実施例8の物質が少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合を有する環状構造部分を含むことの確認)
グルコアミラーゼは、澱粉などのグルカンの非還元末端から順次α−1,4−グルコシド結合を加水分解する酵素である。速度は遅いが、非還元末端からα−1,6−グルコシド結合を加水分解し得ることが知られている。図9に示したように、環状構造を有しないアミロースおよびアミロペクチンは、グルコアミラーゼにより完全にグルコース(17)にまで分解される。しかし、分子内に環状構造を有するグルカン(15)および(13)は、その非環状構造部分のみがグルコアミラーゼにより分解され、環状構造部分は、グルコアミラーゼでは分解を受けない物質(以下、グルコアミラーゼ耐性成分という)として残る。さらに、このグルコアミラーゼ耐性成分は、澱粉枝切り酵素に対する感受性によって、α−1,6−グルコシド結合を有する環状グルカン(16)とα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)とに分類することができる。即ち、枝切り酵素およびグルコアミラーゼの併用によって分解されないグルコアミラーゼ耐性成分は、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)であると考えられる。一方、枝切り酵素およびグルコアミラーゼの併用によって分解されるグルコアミラーゼ耐性成分は、α−1,6−グルコシド結合を有する環状グルカン(16)であると考えられる。しかし、枝切り酵素およびグルコアミラーゼの併用によって分解されない、α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン(13)は、エンド型α−アミラーゼとグルコアミラーゼを併用することにより完全にグルコースまで分解され得る。これらの性質を利用することにより、試料グルカンの中の非環状構造部分、α−1,6−グルコシド結合を有する環状構造部分、およびα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状構造部分を定量することが可能となる。
【0151】
この方法を用いて、実施例8で得られたグルカンおよびアミロペクチンの環状構造の定量を行った。表1に、この方法を用いて、実施例8で得られたグルカンおよびアミロペクチンの環状構造の定量を行った結果を示す。
【0152】
【表1】
【0153】
実施例8で得られた物質10mgまたはアミロペクチン10mgを、1mlのDMSOに溶解した後、100mMの酢酸ナトリウム緩衝液8mlを用いて、すばやく希釈した。この希釈液を900μlずつ4本のチューブに分注した。次いで、それぞれのチューブに(1)蒸留水、(2)グルコアミラーゼ液、(3)枝切り酵素とグルコアミラーゼの混合液、および(4)エンド型α−アミラーゼとグルコアミラーゼの混合液をそれぞれ100μl加えて40℃、4時間反応させた。反応終了後、生成したグルコースを市販のグルコース定量キットを用いて測定した。そして、試料グルカン中の非環状構造部分、α−1,6−グルコシド結合を有する環状構造部分およびα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状構造部分を、それぞれ以下の計算式により求めた。
【0154】
【数1】
【0155】
ここで、c、x、y、およびzはそれぞれ、(1)、(2)、(3)、および(4)の反応液から生じたグルコース量である。この結果から、実施例8で得られた物質は、少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合を含む環状構造を有するグルカンを含んでいることがわかった。
【0156】
(実施例11:実施例8の物質の環状構造部分の重合度の測定)
実施例8で得た物質10mgを1mlのDMSOに溶解させた後、1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)1ml、蒸留水8ml、および200単位のグルコアミラーゼを添加し、40℃で1時間反応させた。100℃で10分間加熱した後、変性した酵素を遠心分離によって除去した。上清に10倍のエタノールを添加して多糖を沈澱させた後、沈殿を乾燥した。得られた多糖を1mlの蒸留水に溶解させた。この溶液に50単位のグルコアミラーゼを添加し、40℃で1時間反応させた。反応液を100℃で10分間加熱した後、変性した酵素を遠心分離により除去した。上清に10倍量のエタノールを添加し、生じた沈澱を乾燥させて、グルコアミラーゼ耐性成分(環状構造部分)の粉末1.1mgを得た。
【0157】
上記のようにして得られたグルコアミラーゼ耐性成分を、0.4%(w/v)になるように蒸留水に溶解した後、Dionex社の糖分析システム(送液システム:DX300、検出器:PAD−2、カラム:CarboPacPA100)を用いて分析した。溶出は、流速:1ml/min、NaOH濃度:150mM、酢酸ナトリウム濃度:0分−50mM、2分−50mM、37分−350mM(Gradient curve No.3)、45分−850mM(Gradient curve No.7)、47分−850mMの条件で行った。
【0158】
重合度を比較するためのマーカーとして、直鎖のα−1,4−グルカン、および、実施例2で得られたα−1,4−グルコシド結合のみを有するグルカンも同じ条件で分析した。
【0159】
図10に示したように、得られたグルコアミラーゼ耐性成分では、直鎖のα−1,4−グルカンおよびα−1,4−グルコシド結合のみを有するグルカンにおいて得られたようにきれいな分離パターンが得られなかった。これは、このグルコアミラーゼ耐性成分が様々な個数のα−1,6−グルコシド結合を含んでいることを示唆している。しかし、最も小さいと考えられるピーク(矢印)が、直鎖のα−1,4−グルカンの重合度15の位置に対応すること、および実施例6で示したように、環状構造を有するグルカンは同じ重合度の直鎖状グルカンよりも速く溶出されることを考えると、最も小さいと考えられる、少なくとも1つのα−1,6結合を有する環状構造部分の重合度は、少なくとも15であると考えられた。
【0160】
(実施例12:Thermus aquaticus ATCC33923株由来アミロマルターゼの調製)
Teradaら、Appl.Environ.Microbiol. vol.65,910−915(1999)の方法に従って、Thermus aquaticus ATCC33923株由来アミロマルターゼを調製した。Thermus aquaticus ATCC33923株由来アミロマルターゼの大腸菌におけ発現プラスミドpFQG8で形質転換された大腸菌TG−1株を終濃度100μg/mlのアンピシリンを含む1リットルのLB培地(1%トリプトン、0.5%イーストエキストラクト、1%NaCl、pH7.5)で37℃で18時間培養し、遠心分離を行い集菌した。得られた菌体を300mlの10mMKH2PO4−Na2HPO4(pH7.5)(緩衝液B)で2
回洗浄し、次いで60mlの緩衝液Bに分散させた。超音波により菌体を破砕した。この菌体破砕液を70℃、30分加熱し、遠心分離した上清をThermus aquaticus ATCC33923株由来アミロマルターゼ液とした。
【0161】
アミロマルターゼの活性は、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)中で、10%(w/v)マルトトリオースにアミロマルターゼを70℃で10分間作用させたときに生じるグルコースを定量することにより測定した。1分間に1μmolのグルコースを遊離する酵素量を1ユニットとし、活性のユニットを算出した。
【0162】
(実施例13:Thermus aquaticus ATCC33923株由来アミロマルターゼによるα−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンの調製)
市販のアミロース(平均分子量30,000)125gを1N−NaOH 1リットルに完全に溶解アミロース溶液をつくった。このアミロース溶液を25リットルの水に添加し、HClによりpHを5.5に調整後、Thermus aquaticus ATCC33923株由来アミロマルターゼ920単位を加え、60℃、4時間反応させた。HClにより反応液のpHを3に調整し、90℃、30分間加熱することにより反応を停止した。NaOHにより反応液のpHを5に調整後、βアミラーゼ8,000単位加えて50℃、15時間反応させた。反応液を0.45μmのフィルターによりろ過した透過液に、終濃度75%(v/v)となるようにエタノールを加えることにより、高重合度環状グルカンを沈殿としてろ過により回収した。得られた沈殿を水に溶解し、凍結乾燥により乾燥させ、α−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカン約40gを得た。こうして得られた高重合度環状グルカンを、実施例4に示したDIONEX社製の糖分析システムで分析したところ、重合度22以上の高重合度環状グルカンの混合物であった。この高重合度環状グルカンを1%(w/v)となるように蒸留水に溶解後、終濃度40%(v/v)となるようにエタノールを加え、重合度約50以上の高重合度環状グルカンを沈殿としてろ過により除いた。このろ液に終濃度75%(v/v)となるようにエタノールを加え、ろ過により沈殿を回収した。得られた沈殿を水に溶解後、凍結乾燥により乾燥させ、重合度22〜50の高重合度環状グルカン約30gを得た。
【0163】
(実施例14:本発明のトシル基が高重合度環状グルカンに結合したトシル基含有環状グルカン誘導体の調製)
実施例13と同様の方法で得られたα−1,4−グルコシド結合のみを有する重合度22〜50の高重合度環状グルカン(略称:CA)1gをナス型フラスコに仕込み、ここに0.4N NaOH水溶液20mlを加え、溶解し、撹拌しながらその水溶液に塩化p−トルエンスルホニル(略称:p−TsCl)1gを添加した(図11のスキーム1および2を参照)。0℃で2時間撹拌した後、濾過によって未反応のp−TsClを除去し、水溶液をHCl水溶液で中和した。このトシル化反応の副生成物であるNaCl塩を一晩かけて透析により除去し、水を凍結乾燥して白色固体を得た(1.0g、収率84%)。
【0164】
UVスペクトル法により、トシル基特有のS=O基に基づく吸収が存在することからトシル化が進行したことを確認した(図12)。また、図13のトシル化した高重合度環状グルカンの1H−NMRスペクトル図の(a+b)のプロトン積分計算値とdのプロトン
積分計算値との比率から、トシル化度、つまり高重合度環状グルカンの全水酸基のうちトシル基で置換された割合を、約4.9%と算出した。
【0165】
(実施例15:置換度の異なるトシル基含有環状グルカン誘導体の調製)
実施例14のトシル化の反応条件で、反応温度、時間、攪拌速度を変えて行った。結果を表2に示す。このように、反応条件を変えることにより、トシル基の置換度を変えることができた。
【表2】
(実施例16:本発明のアルキル基が高重合度環状グルカンに結合したアルキル基含有環状グルカン誘導体の調製)
実施例14で得られたトシル化高重合度環状グルカンのトシル基と脂肪酸ナトリウムとのエステル交換反応を、以下のようにして行った(図14のスキーム3および4を参照)。まず、トシル化高重合度環状グルカン(CA−tosylate) 1gおよびラウリン酸ナトリウム 1gを、DMSOに溶解し、80℃の温度で、窒素気流下において、5時間撹拌した。次いで、この反応溶液に激しく攪拌したアセトンを添加して生じた沈殿を濾過した後、水に溶解し、一晩にわたり透析することにより、未反応物のラウリン酸ナトリウム塩および副生成物のp−トルエンスルホン酸ナトリウムを除去し、凍結乾燥して白色固体を得た(0.4g、収率80%)。
【0166】
この白色固体のIRスペクトル測定(KBr法)により、脂肪酸のアルキル基特有のCH伸縮振動およびエステル基特有のC=O伸縮振動に基づくピークが出現したことから、エステル交換反応が進行したことを確認した(図15)。また、図16のエステル交換後の高重合度環状グルカン(CA−laurate)の1H−NMRスペクトル図の(d+e)のプロトン積分計算値とcのプロトン積分計算値との比率から、エステル交換度、つまり高重合度環状グルカンの全水酸基のうち脂肪酸で置換された割合を、3.3%と算出した。
【0167】
トシル化前の高重合度環状グルカン(CA)、トシル化後の高重合度環状グルカン(CA−tosylate)およびエステル交換後のラウリル化高重合度環状グルカン(CA−laurate)をそれぞれ超純水に分散または溶解させ、Wilhelmy plate法を用いた表面張力測定を行った(図17)。図17より、トシル化前の高重合度環状グルカン(CA)は、濃度が上昇しても水の表面張力が全く変化しないのに対し、エステル交換後のラウリル化高重合度環状グルカン(CA−laurate)の場合、濃度上昇と共に表面張力が大きく低下することがわかった。この結果より、エステル交換後のラウリル化高重合度環状グルカン(CA−laurate)は、優れた界面活性を有することが示唆された。また、トシル化後の高重合度環状グルカン(CA−tosylate)は、エステル交換後のラウリル化高重合度環状グルカン(CA−laurate)に比べ表面張力の低下は小さいが、界面活性を有することが示唆された。
【0168】
エステル交換後のラウリル化高重合度環状グルカン(CA−laurate) 0.4重量%溶液の水中における分散体(0.6mM)の物性を、動的光散乱により調べた結果を図18に示す。図18より、6〜20nmの直径を有するミセル様分子集合体の存在を確認した。
【0169】
また、エステル交換後のラウリル化高重合度環状グルカン0.4重量%溶液の水中における分散体について、透過型電子顕微鏡(フリーズレプリカ法)を用いて視覚的観察を行った(図19)。その結果、動的光散乱のデータを符合するサイズの粒子の存在を複数確認した。
【0170】
エステル交換後のラウリル化高重合度環状グルカン4.0重量%溶液の水中における分散体について、透過型電子顕微鏡を用いて視覚的観察を行った(図20)。その結果、直径70〜200nmの球状のミセルが確認された。
【0171】
(実施例17:本発明のアルキル基が高重合度環状グルカンに結合したアルキル基含有環状グルカン誘導体の調製)
実施例16のラウリン酸ナトリウムの代わりにミリスチン酸ナトリウムを用いること以外、実施例16と同様の方法によって、ミリスチン酸基を含有する環状グルカンが得られた。
【0172】
(実施例18:本発明のフッ化アルキル基が高重合度環状グルカンに結合したフッ化アルキル基含有環状グルカン誘導体の調製方法)
実施例16のラウリン酸ナトリウムの代わりにペルフルオロ酪酸ナトリウムを用いること以外、実施例16と同様の方法によって、本発明のフッ化アルキル基含有環状グルカン誘導体が得られた。
【0173】
(実施例19:本発明のアルキル基含有環状グルカン誘導体とゲスト化合物との複合体形成)
CA−laurateを0.4重量%の濃度で水に分散させた溶液に、ヨウ素溶液(0.1重量%KI、0.01重量%I2、0.004N HCl)を滴下したところ、茶褐色の溶液が得られた。このことは、ヨウ素がCA−laurateのCA部分に包接されたことを示しており、CA−laurateがゲスト化合物との複合体形成能を有していることを示していた。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明によれば、油類への溶解度が良好で、優れた界面活性特性を有し、しかも包接される化合物の構造にあわせて環状立体構造を変化させ、低分子量から高分子量の多種多様な化合物の包接を可能にする分子認識ホスト分子として優れた性質を有する高重合度環状グルカンを基本骨格とした新しい環状グルカン誘導体およびその製造方法を提供することができる。
【0175】
本発明の疎水性基が高重合度環状グルカンに結合した環状グルカン誘導体を含む組成物は、医薬、界面活性剤、化粧品用組成物、食品用組成物および磁気記録媒体用フィルムとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】本発明で使用される高重合度環状グルカンの模式図である。
【図2】アミロースまたはアミロペクチンにD酵素を作用させ、α−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンを得る一連の過程を示す模式図である。
【図3】アミロペクチンにD酵素を反応させ、少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合を持つ環状構造のみで形成されるグルカンを得る一連の過程を示す模式図である。
【図4】本発明のα−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンを種々の糖分解酵素で消化したときの溶出パターンである。
【図5】5−1は、実施例2で得られたα−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンの溶出パターンであり、5−2は、直鎖のα−1,4−グルカンの溶出パターンである。各ピーク状の数字は、重合度を示す。
【図6】各ピークG−Lの部分加水分解および非分解物の溶出パターンである。各ピーク状の数字は、重合度を示す。
【図7】実施例4で得られたα−1,4−グルコシド結合のみを有する高重合度環状グルカンのゲル濾過による溶出パターンである。
【図8】D酵素を作用させる前、および、作用させた後のワキシーコーンスターチのゲル濾過による溶出パターンである。
【図9】実施例8で得られたグルカン中の非環状構造部分、少なくとも1つのα−1,6−グルコシド結合を有する環状構造部分、およびα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状構造部分を定量する過程を示す模式図である。
【図10】実施例8で得られた少なくとも1つのα−1,6−グルコシド結合を有するグルカンの環状構造部分、直鎖のα−1,4−グルカン、および実施例2で得られたα−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカンの溶出パターンである。各ピーク状の数字は、重合度を示す。
【図11】本発明のトシル化高重合度環状グルカン(CA−tosylate)の合成模式図(スキーム1)および合成スキーム(スキーム2)を示す。
【図12】本発明のCAおよびCA−tosylateのUVスペクトル図を示す。
【図13】本発明のCA−tosylateの1H−NMRスペクトル図を示す。
【図14】本発明のラウリル化高重合度環状グルカン(CA−laurate)の合成模式図(スキーム3)および合成スキーム(スキーム4)を示す。
【図15】本発明のCA−tosylateおよびCA−laurateのIRスペクトル図を示す。
【図16】本発明のCA−laurateの1H−NMRスペクトル図を示す。
【図17】本発明のCA、CA−tosylateおよびCA−laurateのそれぞれの水溶液についての表面張力測定データの比較を示す。
【図18】本発明のCA−laurateの水中における分散体(0.6mM)の動的光散乱データを示す。
【図19】本発明のCA−laurateの水中における分散体(0.4重量%)の透過型電子顕微鏡(フリーズレプリカ法)写真を示す。
【図20】本発明のCA−laurateの水中における分散体(4.0重量%)の透過型電子顕微鏡写真を示す。
【符号の説明】
【0177】
11 還元末端
12 アミロース
13 α−1,4−グルコシド結合のみを有する環状グルカン
14 アミロペクチン
15 少なくとも14個のα−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合により構成される環状構造を分子内に1つ有するグルカン
16 少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合により構成される環状構造のみで形成されるグルカン
17 グルコース
18 α−1,4−グルコシド結合のみにより構成される環状構造と非環状構造部分とを有するグルカン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度14以上の環状グルカンを含む親水性部位と、疎水性基からなる1または2以上の側鎖とを有し、該側鎖が連結基を介して該主鎖に結合している環状グルカン誘導体。
【請求項2】
前記疎水性基が、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のアルキル基、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のフッ化アルキル基、あるいはトシル基である、請求項1に記載の環状グルカン誘導体。
【請求項3】
前記疎水性基が、少なくとも50%のフッ素置換率を有するC3〜C20の直鎖のフルオロヒドロアルキル基、またはC3〜C20の直鎖のペルフルオロアルキル基である、請求項1に記載の環状グルカン誘導体。
【請求項4】
前記親水性部位が、重合度14以上の環状グルカンのみからなる、請求項1に記載の環状グルカン誘導体。
【請求項5】
前記環状グルカンが、α−1,4−グルコシド結合により構成される重合度14以上の環状構造を分子内に1つ有するグルカンであって、該グルカンが、
(i)α−1,4−グルコシド結合のみで構成される環状構造に加えて非環状構造を有するグルカン、
(ii)α−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合とで構成される環状構造に加えて非環状構造を有するグルカン、
(iii)α−1,4−グルコシド結合のみで構成される環状構造のみを有するグルカン、および
(iv)α−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合とで構成される環状構造のみを有するグルカン、
からなる群より選択される、請求項1に記載の環状グルカン誘導体。
【請求項6】
前記側鎖が、アミド結合、エーテル結合、またはエステル結合により環状グルカンに結合している、請求項1に記載の環状グルカン誘導体。
【請求項7】
前記環状グルカンが有するアルコール性水酸基のうちの少なくとも1つが、エステル結合によってフッ素置換または無置換の脂肪酸に結合している、請求項1に記載の環状グルカン誘導体。
【請求項8】
以下の構造式で表される環状グルカン誘導体:
【化1】
ここで、n個のモノマーユニットは、それぞれ独立しており、n個のR1は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表し、n個のR2は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表し、n個のR3は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表し、ただし、1分子中に少なくとも1つの−L−R4が存在し;
R4は、それぞれ独立して、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のアルキル基、またはC3〜C20の直鎖または分枝鎖のフッ化アルキル基であり;
Lは、それぞれ独立して、−NHCO−、−O−、−S−、−OSO2−、−SCO−または−OCO−であり;
R5は、それぞれ独立して、水酸基またはトシル基であり;
nは、14〜5000である、環状グルカン誘導体。
【請求項9】
請求項8に記載の環状グルカン誘導体であって、n個のR2およびn個のR3のすべてが水酸基である、誘導体。
【請求項10】
環状グルカン誘導体の製造方法であって、
重合度14以上の環状グルカンにトシル基を導入してトシル化誘導体を得る工程、および
該トシル化誘導体に置換もしくは無置換の脂肪酸エステルを反応させて、エステル誘導体を得る工程、
を包含する方法。
【請求項11】
以下の工程:
a)直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれらを含む糖類に、D酵素を反応させて、高重合度環状グルカンを得る工程;
b)アルカリ水溶液中で、該高重合度環状グルカンと、塩化p−トルエンスルホニルとを、該高重合度環状グルカンが有するアルコール性水酸基のうちの少なくとも1つと該塩化p−トルエンスルホニルとが反応し得る条件下で、接触させて、トシル基が高重合度環状グルカンに結合したトシル基含有環状グルカン誘導体を得る工程;
c)該トシル基含有環状グルカン誘導体と、フッ素置換または無置換の脂肪酸ナトリウムとを、該トシル基と該脂肪酸ナトリウムとが交換反応し得る条件下で、接触させて、疎水性基が結合した環状グルカン誘導体を得る工程、
を包含する、環状グルカン誘導体の製造方法。
【請求項12】
前記工程b)において、前記高重合度環状グルカンと、前記塩化p−トルエンスルホニルとを、該高重合度環状グルカンの全アルコール性水酸基のうち少なくとも3%以上がトシル基で置換される反応条件下で接触させる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記工程c)において、前記トシル基含有環状グルカン誘導体と、前記脂肪酸ナトリウムとを、前記トシル基と前記脂肪酸ナトリウムとの交換率が少なくとも50%となる反応条件下で接触させる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の環状グルカン誘導体またはそれらの混合物を含む、医薬。
【請求項15】
請求項1に記載の環状グルカン誘導体またはそれらの混合物を含む、界面活性剤。
【請求項16】
請求項1に記載の環状グルカン誘導体またはそれらの混合物を含む、化粧品用組成物。
【請求項17】
請求項1に記載の環状グルカン誘導体またはそれらの混合物を含む、磁気記録媒体用フィルム。
【請求項18】
非磁性支持体上に1層以上の磁性体層を備えた磁気記録媒体において、該磁性体層、または該磁性体層上に設けた保護層の表面に、請求項17に記載のフィルムを形成させた、磁気記録媒体。
【請求項1】
重合度14以上の環状グルカンを含む親水性部位と、疎水性基からなる1または2以上の側鎖とを有し、該側鎖が連結基を介して該主鎖に結合している環状グルカン誘導体。
【請求項2】
前記疎水性基が、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のアルキル基、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のフッ化アルキル基、あるいはトシル基である、請求項1に記載の環状グルカン誘導体。
【請求項3】
前記疎水性基が、少なくとも50%のフッ素置換率を有するC3〜C20の直鎖のフルオロヒドロアルキル基、またはC3〜C20の直鎖のペルフルオロアルキル基である、請求項1に記載の環状グルカン誘導体。
【請求項4】
前記親水性部位が、重合度14以上の環状グルカンのみからなる、請求項1に記載の環状グルカン誘導体。
【請求項5】
前記環状グルカンが、α−1,4−グルコシド結合により構成される重合度14以上の環状構造を分子内に1つ有するグルカンであって、該グルカンが、
(i)α−1,4−グルコシド結合のみで構成される環状構造に加えて非環状構造を有するグルカン、
(ii)α−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合とで構成される環状構造に加えて非環状構造を有するグルカン、
(iii)α−1,4−グルコシド結合のみで構成される環状構造のみを有するグルカン、および
(iv)α−1,4−グルコシド結合と少なくとも1個のα−1,6−グルコシド結合とで構成される環状構造のみを有するグルカン、
からなる群より選択される、請求項1に記載の環状グルカン誘導体。
【請求項6】
前記側鎖が、アミド結合、エーテル結合、またはエステル結合により環状グルカンに結合している、請求項1に記載の環状グルカン誘導体。
【請求項7】
前記環状グルカンが有するアルコール性水酸基のうちの少なくとも1つが、エステル結合によってフッ素置換または無置換の脂肪酸に結合している、請求項1に記載の環状グルカン誘導体。
【請求項8】
以下の構造式で表される環状グルカン誘導体:
【化1】
ここで、n個のモノマーユニットは、それぞれ独立しており、n個のR1は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表し、n個のR2は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表し、n個のR3は、それぞれ独立して−L−R4またはR5を表し、ただし、1分子中に少なくとも1つの−L−R4が存在し;
R4は、それぞれ独立して、C3〜C20の直鎖または分枝鎖のアルキル基、またはC3〜C20の直鎖または分枝鎖のフッ化アルキル基であり;
Lは、それぞれ独立して、−NHCO−、−O−、−S−、−OSO2−、−SCO−または−OCO−であり;
R5は、それぞれ独立して、水酸基またはトシル基であり;
nは、14〜5000である、環状グルカン誘導体。
【請求項9】
請求項8に記載の環状グルカン誘導体であって、n個のR2およびn個のR3のすべてが水酸基である、誘導体。
【請求項10】
環状グルカン誘導体の製造方法であって、
重合度14以上の環状グルカンにトシル基を導入してトシル化誘導体を得る工程、および
該トシル化誘導体に置換もしくは無置換の脂肪酸エステルを反応させて、エステル誘導体を得る工程、
を包含する方法。
【請求項11】
以下の工程:
a)直鎖のα−1,4−グルカンまたはこれらを含む糖類に、D酵素を反応させて、高重合度環状グルカンを得る工程;
b)アルカリ水溶液中で、該高重合度環状グルカンと、塩化p−トルエンスルホニルとを、該高重合度環状グルカンが有するアルコール性水酸基のうちの少なくとも1つと該塩化p−トルエンスルホニルとが反応し得る条件下で、接触させて、トシル基が高重合度環状グルカンに結合したトシル基含有環状グルカン誘導体を得る工程;
c)該トシル基含有環状グルカン誘導体と、フッ素置換または無置換の脂肪酸ナトリウムとを、該トシル基と該脂肪酸ナトリウムとが交換反応し得る条件下で、接触させて、疎水性基が結合した環状グルカン誘導体を得る工程、
を包含する、環状グルカン誘導体の製造方法。
【請求項12】
前記工程b)において、前記高重合度環状グルカンと、前記塩化p−トルエンスルホニルとを、該高重合度環状グルカンの全アルコール性水酸基のうち少なくとも3%以上がトシル基で置換される反応条件下で接触させる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記工程c)において、前記トシル基含有環状グルカン誘導体と、前記脂肪酸ナトリウムとを、前記トシル基と前記脂肪酸ナトリウムとの交換率が少なくとも50%となる反応条件下で接触させる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の環状グルカン誘導体またはそれらの混合物を含む、医薬。
【請求項15】
請求項1に記載の環状グルカン誘導体またはそれらの混合物を含む、界面活性剤。
【請求項16】
請求項1に記載の環状グルカン誘導体またはそれらの混合物を含む、化粧品用組成物。
【請求項17】
請求項1に記載の環状グルカン誘導体またはそれらの混合物を含む、磁気記録媒体用フィルム。
【請求項18】
非磁性支持体上に1層以上の磁性体層を備えた磁気記録媒体において、該磁性体層、または該磁性体層上に設けた保護層の表面に、請求項17に記載のフィルムを形成させた、磁気記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2006−83380(P2006−83380A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240509(P2005−240509)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】
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