説明

癌の処置のための粘液腫ウイルス変異体

【課題】癌細胞を抑制するための方法を提供すること。
【解決手段】上記方法は、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する粘液腫ウイルスの有効量を該細胞に投与する工程を包含する。一局面において、上記粘液腫ウイルスは、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される上記粘液腫ウイルスタンパク質の活性を実質的に有さない。別の局面において、上記細胞は哺乳動物癌細胞である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
癌を処置するための特定の遺伝学的に改変された粘液腫ウイルスの使用は、特許文献1に開示される(Robarts Research Institute)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】国際公開第04/078206号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(要旨)
本発明は、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する粘液腫ウイルス(MV)に関する。このようなウイルスは、癌細胞を抑制するための方法および医薬の製造において使用され、この方法は、この細胞に有効量の粘液腫ウイルスを投与する工程を包含する。これらのウイルスはまた、癌を有するヒト被験体を処置するための方法および医薬の製造において使用され、この方法は、患者に有効量の粘液腫ウイルスを投与する工程を包含する。本発明はまた、このような粘液腫ウイルスと薬学的に受容可能なキャリアとを含む薬学的組成物、ならびに癌患者を処置するためのこのような粘液腫ウイルスと説明書とを含むキットを提供する。
例えば、本発明は、以下の項目を提供する:
(項目1)
癌細胞を抑制するための方法であって、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する粘液腫ウイルスの有効量を該細胞に投与する工程を包含する、方法。
(項目2)
上記粘液腫ウイルスが、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される上記粘液腫ウイルスタンパク質の活性を実質的に有さない、項目1に記載の方法。
(項目3)
上記細胞が哺乳動物癌細胞である、項目1に記載の方法。
(項目4)
上記細胞がヒト癌細胞である、項目3に記載の方法。
(項目5)
上記細胞がグリオーム細胞である、項目4に記載の方法。
(項目6)
癌を有するヒト被験体を処置するための方法であって、該患者に、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する粘液腫ウイルスの有効量を投与する工程を包含する、方法。
(項目7)
上記粘液腫ウイルスが、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される上記粘液腫ウイルスタンパク質の活性を実質的に有さない、項目6に記載の方法。
(項目8)
上記癌がグリオームである、項目6に記載の方法。
(項目9)
癌細胞を抑制するための粘液腫ウイルスの有効量の使用であって、該粘液腫ウイルスが、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する、使用。
(項目10)
癌細胞を抑制するための医薬の製造における粘液腫ウイルスの有効量の使用であって、該粘液腫ウイルスが、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する、使用。
(項目11)
上記粘液腫ウイルスが、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される上記粘液腫ウイルスタンパク質の活性を実質的に有さない、項目9または10に記載の使用。
(項目12)
上記細胞が哺乳動物癌細胞である、項目9または10に記載の使用。
(項目13)
上記細胞がヒト癌細胞である、項目12に記載の使用。
(項目14)
上記細胞がグリオーム細胞である、項目13に記載の使用。
(項目15)
癌を有するヒト被験体を処置するための粘液腫ウイルスの有効量の使用であって、該粘液腫ウイルスが、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する、使用。
(項目16)
癌を有するヒト被験体を処置するための医薬の製造における粘液腫ウイルスの有効量の使用であって、該粘液腫ウイルスが、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する、使用。
(項目17)
上記粘液腫ウイルスが、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される上記粘液腫ウイルスタンパク質の活性を実質的に有さない、項目15または16に記載の使用。
(項目18)
上記癌がグリオームである、項目15または16に記載の使用。
(項目19)
癌の処置に使用するための粘液腫ウイルスと薬学的に受容可能なキャリアとを含む薬学的組成物であって、該粘液腫ウイルスが、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する、薬学的組成物。
(項目20)
上記粘液腫ウイルスが、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される上記粘液腫ウイルスタンパク質の活性を実質的に有さない、項目19に記載の薬学的組成物。
(項目21)
上記癌がグリオームである、項目19に記載の薬学的組成物。
(項目22)
癌を有する患者を処置するための粘液腫ウイルスと説明書とを含むキットであって、該粘液腫ウイルスが、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する、キット。
(項目23)
上記粘液腫ウイルスが、M11L、M063、M136、M−T4およびM−T7からなる群より選択される上記粘液腫ウイルスタンパク質の活性を実質的に有さない、項目22に記載のキット。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】ヒトグリオーム細胞において内因的に活性化されたAktレベル。
【図2】ヒトグリオーム細胞株における種々のvMyx−hrKOおよびコントロールのウイルス複製効率。
【図3】分泌された初期および後期のウイルス遺伝子発現は、一部のvMyx−hrKOが初期遺伝子発現から後期遺伝子発現に移行できないことを示す。
【図4】選択した一段階増殖曲線(single step growth curve)。
【図5】細胞ベースの細胞毒性アッセイ。
【発明を実施するための形態】
【0005】
(発明の詳細な説明)
国際公開第04/078206号(Robarts Research Institute)は、癌を処置するための特定の遺伝学的に改変された粘液腫ウイルスの使用を開示する。本発明は、このような使用のためにより特異的に改変された粘液腫ウイルスを提供することによって、進歩を示す。本明細書に開示された技術は、概して本発明の粘液腫ウイルスに適用可能であり、国際公開第04/078206号の内容は参考として本明細書に援用される。
【0006】
本明細書で使用される、所定の粘液腫ウイルスタンパク質「の活性に欠損を有する」とは、上記ウイルスが、野生型粘液腫ウイルスよりも低い問題の活性を有することを意味する。所定のウイルスタンパク質の「活性を実質的に有さない」とは、上記ウイルスが、このような活性の検出可能なレベルを有さないことを意味する。所定のウイルスタンパク質の活性を実質的に有さない粘液腫ウイルスの例として、このようなタンパク質の遺伝子が欠失されたかその他の方法でノックアウトされた変異体が挙げられる。
【0007】
本発明にしたがって、任意の種類の癌または癌細胞株が、抑制または処置され得る。本発明の一実施形態において、この癌細胞は哺乳動物癌細胞である。より特定の実施形態において、この癌細胞はヒト癌細胞である。このようなヒト癌細胞の例としては、グリオームが挙げられる。
【0008】
ネズミの脳に移植されたヒトグリオームへ腫瘍内に注射した場合、野生型粘液腫ウイルス(vMyxgfp)が、増殖性の長期間続く(long−lived)感染を生成し得、移植された腫瘍組織を破壊および排除し得ることが示されている(Lunら、2005 Cancer Research 65:9982−9990)。さらに、NCI−60参照収集物(reference collection)のスクリーニングによって、MVが、試験したヒト腫瘍細胞のうちの大半(15/21)に増殖的に感染することが示された(Sypulaら、2004 Gene Ther.Mol.Biol.8:103〜114)。癌細胞におけるMV親和性の理解を進展させるために、野生型MVの寛容性(permissiveness)について予め試験した一連のヒトグリオーム細胞(U87、U118、U251、U343、U73)をスクリーニングした。これらの知見は、特異的な宿主範囲(host range)の遺伝子(ウサギ細胞でのMV親和性を規定するのに役割を有するとして同定された)が欠失された数種のMVウイルスの感染および複製を試験することにより、以下の実施例に広がった。これらのウイルスは、集合的に、宿主範囲ノックアウト(host range knockout)(vMyx−hrKO)と称される。種々のvMyx−hrKOがヒトグリオーム細胞において複製および拡散する能力に変動が観察された。vMyxT2(U251)、vMyxT4KO(U87、U118、U251およびU373)およびvMyxT5KO(U251、U373)は、特定のヒトグリオームにおいて幾分制限を示した。対照的に、vMyx63KOおよびvMyxl35KOは、数種のグリオームにおいてより効率的に複製および殺傷するようだった。
【0009】
本発明は、以下の実施例を参照することによってより良く理解される。これらの実施例は、本明細書に記載された本発明を説明するが、限定はしない。
【実施例】
【0010】
(実施例1)
50マイクログラムの全細胞溶解物を、トレオニン308の位置でリン酸化されたAkt(P−Akt T308)およびセリン473の位置でリン酸化されたAkt(P−Akt S473)または総Aktに対する抗体でプローブした。活性化Aktのレベルに基づいて、U87およびU343は感染可能であることが予測され、U118、U251およびU373はMV感染に対してより耐性であることが予測された(図1)。
【0011】
(実施例2)
ウイルスストックを、種々のグリオーム細胞およびコントロールBGMKまたはRK13細胞で滴定した。グリオームから得られたウイルス力価をコントロールレベルと比較し、ウイルス複製効率の値を見積もった。これらの結果に基づいて、グリオームは、いずれも、ウイルスの増殖をコントロール株で観察されたレベルまで支持しなかった。しかしながら、一部のウイルス(vMyx135KO、vMyx63KOおよびvMyx136KO)は、他のノックアウトよりも効率的だった。さらに、一部のグリオーム株はより多くの複製を支持した(U87、U343およびU373)。(図2)。
【0012】
(実施例3)
種々のヒトグリオームを一連のvMyx−hrKOに感染させた。20時間後(hpi)、感染させた上清を収集し、10×に濃縮した。15μリットルの濃縮した上清を、12% SDS−PAGEゲル上で分離し、抗−Serp1(mAB;後期MV遺伝子産物)でプローブした。ブロットをストリップし、抗−M−T7(pAB;初期MV遺伝子産物)を用いて初期遺伝子発現についてプローブした。この結果は、数種のvMyx−hrKO(vMyxT2KO、vMyxT4KOおよびvMyxT5KOを含む)が、初期遺伝子発現から後期遺伝子発現への移行を制限されることを示唆する。そして、2つのグリオーム株(U87およびU37)において、vMyxT4KOは、初期遺伝子発現さえも生じなかった(図3)。
【0013】
(実施例4)
細胞を、48ウェルデッシュに播種し、感染した細胞を示された時間に収集した。ウイルスを、収集した細胞ペレットから放出させ、BGMK細胞に戻して滴定した。試験したウイルスの複製が存在したが、最も良好な増幅は、U87細胞およびU343細胞で生じているようだった(図4)。
【0014】
(実施例5)
種々のvMyx−hrKOおよびコントロールウイルスがヒトグリオームのパネルにおいて殺傷作用を有する能力を、細胞毒性アッセイによって試験した。適切な細胞を96ウェルデッシュに播種し、24時間後に種々のMOIにおいてウイルスによって感染させた。感染から72時間後に、感染した細胞をWTS試薬(Roche)で処理し、細胞生存度を測定した。色の変化を、4時間にわたり60分ごとに450nmで測定した。未感染のコントロールウェルを、通常の増殖を決定するために使用し、ブランクのウェルを、バックグラウンドコントロールとして役立てた(図5)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌細胞を抑制するための組成物であって、M063粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する粘液腫ウイルスの有効量を含む、組成物。
【請求項2】
前記粘液腫ウイルスが、前記M063粘液腫ウイルスタンパク質の活性を実質的に有さない、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記細胞が哺乳動物癌細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記細胞がヒト癌細胞である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記細胞がグリオーム細胞である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
癌を有するヒト被験体を処置するための組成物であって、M063粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する粘液腫ウイルスの有効量を含む、組成物。
【請求項7】
前記粘液腫ウイルスが、前記M063粘液腫ウイルスタンパク質の活性を実質的に有さない、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記癌がグリオームである、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
癌細胞を抑制するための医薬の製造における粘液腫ウイルスの有効量の使用であって、該粘液腫ウイルスが、M063粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する、使用。
【請求項10】
前記粘液腫ウイルスが、前記M063粘液腫ウイルスタンパク質の活性を実質的に有さない、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記細胞が哺乳動物癌細胞である、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
前記細胞がヒト癌細胞である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記細胞がグリオーム細胞である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
癌を有するヒト被験体を処置するための医薬の製造における粘液腫ウイルスの有効量の使用であって、該粘液腫ウイルスが、M063粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する、使用。
【請求項15】
前記粘液腫ウイルスが、前記M063粘液腫ウイルスタンパク質の活性を実質的に有さない、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
前記癌がグリオームである、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
癌の処置に使用するための粘液腫ウイルスと薬学的に受容可能なキャリアとを含む薬学的組成物であって、該粘液腫ウイルスが、M063粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する、薬学的組成物。
【請求項18】
前記粘液腫ウイルスが、前記M063粘液腫ウイルスタンパク質の活性を実質的に有さない、請求項17に記載の薬学的組成物。
【請求項19】
前記癌がグリオームである、請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
癌を有する患者を処置するための粘液腫ウイルスと説明書とを含むキットであって、該粘液腫ウイルスが、M063粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する、キット。
【請求項21】
前記粘液腫ウイルスが、前記M063粘液腫ウイルスタンパク質の活性を実質的に有さない、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
M063粘液腫ウイルスタンパク質の活性に欠損を有する、単離された粘液腫ウイルス。
【請求項23】
請求項22に記載の単離された粘液腫ウイルスであって、該粘液腫ウイルスが前記粘液腫ウイルスタンパク質の活性を実質的に有さない、粘液腫ウイルス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−100370(P2013−100370A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2013−40387(P2013−40387)
【出願日】平成25年3月1日(2013.3.1)
【分割の表示】特願2009−513472(P2009−513472)の分割
【原出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(505310530)ロバーツ リサーチ インスティテュート (6)
【Fターム(参考)】