説明

発色性記録材料

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、発色性記録材料に関する。さらに詳しくは、可視光線乃至近赤外線に吸収を発現し、かくして、機器による情報の読み取りに有用である発色性記録材料に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、それ自体は無色である染料と酸性物質とからなる発色性記録材料は、感熱記録材料として、広く実用化されている。
【0003】しかし、近年、電子技術及び情報管理システムの発展に伴って、可視光線の長波長域から近赤外域にわたる長波長域の電磁波に感応する記録読み取り装置が実用化されるにいたっているが、従来、一般に用いられているフタリド系化合物を発色性染料とする発色性記録材料は、かかる長波長域に実用的な吸収を持たない。
【0004】即ち、従来、知られているフタリド系化合物の吸収波長を近赤外域まで長波長側に移動させるためには、化合物上の置換基効果の利用のみならず、π電子共役系を延長させる手法も採用されているが、それによれば化合物が高分子量化してその製造が容易でないうえに、近赤外域における吸収はなお十分ではない。また、発色画像が不安定であって、退色しやすく、耐光性に乏しい。
【0005】そこで、近年、長波長域の電磁波を吸収する色素を形成する発色性染料が種々提案されている。特開昭62−142681号公報および特開昭62−181361号公報には、フェニレンジアミン誘導体又はナフチレンジアミン誘導体と酸性物質という2要素を含有する発色性記録材料が提案されている。
【0006】しかしながら、本発明者らが行った実験によれば、上記公報に記載された実施例の追試によって、近赤外域における十分な発色および780nmにおける読み取りを達成するには困難であった。更に、特開昭63−256486号公報には、フェニレンジアミン誘導体又はナフチレンジアミン誘導体と、酸化剤としてキノイド型電子受容性化合物というような2要素を含む発色性記録材料が提案されている。しかしながら、本発明者らの実験によれば、同公報に記載された実施例の追試により作成した、フェニレンジアミン誘導体又はナフチレンジアミン誘導体とキノイド型電子受容性化合物とを含有する記録紙の中には、加熱しても十分な発色を達成できないものがあった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、発色性記録材料を提供することにある。本発明の他の目的は、発色操作直後に実用上十分な強度の発色を与え、しかも、可視光域から近赤外域に至る長波長域に吸収を有する発色性記録材料を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、(a)一般式(I)
【0009】
【化2】


【0010】
【化3】


および(b)芳香族カルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸、有機スルホン酸および酸性樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性物質を含有することを特徴とする発色性記録材料によって達成される。
【0011】本発明による発色性記録材料は、上記(a)及び(b)の2成分を含有してなる。これらの2成分を接触させることによって、可視光域乃至近赤外域に極めて強い吸収強度と堅牢性を有する染料を得ることができる。従って、本発明は、半導体レーザーでに感応する実用的な発色性記録材料を提供するものである。
【0012】本発明において用いられるキノンジイミン誘導体(a)は、前記一般式(I)で表される。但し、上記式(イ)で表されるフルオラン化合物は除外される。
【0013】式(I)において、AおよびBは互に独立にアリール基、アルキル基またはアラルキル基を示す。アリール基およびアラルキル基のアリール基部分は、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アミノ基、アルキル置換アミノ基、アリール置換アミノ基、アシルアミノ基、ピロリジノ基、ピペリジノ基及びカルバモイル基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を有していてもよい。
【0014】また、式(I)において、R1、R2、R3およびR4は同一もしくは異なり、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子であるかあるいはR1とR2もしくはR3とR4は互いに結合して下記式−CR5=CR6−CR7=CR8−で表わされる基を表わすことができる。R5、R6、R7およびR8は同一もしくは異なり、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子である。
【0015】R1、R2、R3およびR4の全てが水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子である場合、式(I)の化合物はキノンジイミン類である。R1とR2あるいはR3とR4のいずれか一方の組が基−CR5=CR6−CR7=CR8−を表わす場合、式(I)の化合物はナフトキノンジイミン類である。また、R1とR2およびR3とR4の両方の組が共に基−CR5=CR6−CR7=CR8−を表わす場合、式(I)の化合物はアントラキノンジイミン類である。
【0016】式(I)のキノンジイミン誘導体(a)としては、例えば、N,N’−ジフェニル−p−キノンジイミン、N−(4−ヒドロキシフェニル)−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N−(4−メトキシフェニル)−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N−(4−エトキシフェニル)−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N−(3−ヒドロキシフェニル)−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N−(3−メトキシフェニル)−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N−(4−t−ブチルカルボニルオキシフェニル)−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N−(4−アミノフェニル)−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N−(4−アリニノフェニル)−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N−(4−(3−メトキシフェニルアミノ)フェニル−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N−(1−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N−(2−メチル−4−メトキシフェニル)−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N−(2,3−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N−(4−t−ブチルカルボキシフェニル)−N’−エチル−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N−(4−フルオロフェニル)−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N−(4−クロロフェニル)−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N−(4−ブロモフェニル)−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N−(4−ニトロフェニル)−N’−フェニル−p−キノンジイミン、N,N’−ジフェニル−1,4−ナフトキノンジイミン、N,N’−ジフェニル−1,4−アントラキノンジイミン、N,N’−ジフェニル−2,3,5,6−テトラクロロ−p−ベンゾキノンジイミン、N,N’−ジフェニル−2,3−ジクロロ−p−ベンゾキノン、N,N’−ジフェニル−2,5−ジクロロ−p−ベンゾキノン、N,N’−ジフェニル−2,5−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン、N,N’−ジフェニル−2−クロロ−p−ベンゾキノン、N,N’−ジフェニル−2−メチル−p−ベンゾキノン、N,N’−ジフェニル−2−エチル−p−ベンゾキノン、N,N’−ジフェニル−2,3−ジメチル−p−ベンゾキノン、N,N’−ジフェニル−2,5−ジメチル−p−ベンゾキノン、N,N’−ジフェニル−2,3−ジエチル−p−ベンゾキノン、N,N’−ジフェニル−2,5−ジエチル−p−ベンゾキノン、2,N,N’−トリフェニル−p−ベンゾキノン、2,5,N,N’−テトラフェニル−p−ベンゾキノン、N,N’−ジフェニル−2−ベンジル−p−ベンゾキノン、N,N’−ジフェニル−2,3−ベンジル−p−ベンゾキノン、N,N’−ジフェニル−2,5−ベンジル−p−ベンゾキノン、N,N’−ジフェニル−2−ヒドロキシ−p−ベンゾキノン、N,N’−ジフェニル−2,5−ジヒドロキシ−p−ベンゾキノン等を挙げることができる。
【0017】本発明において、酸性物質(b)としては、芳香族カルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸、有機スルホン酸および酸性樹脂である有機化合物が用いられる。これらの有機化合物としては、例えば、安息香酸、ナフトエ酸等の芳香族カルボン酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸及びフェノール樹脂等の酸性樹脂を好ましいものとして挙げることができる。
【0018】
【0019】酸性物質(b)としては、上記の如き化合物を単独であるいは2種以上組合わせて使用することができる。
【0020】また、本発明における発色性記録材料は、酸化剤を含んでいてもよい。用いる酸化剤は有機および無機のいずれであってもよい。有機酸化剤としては、例えばキノイド型電子受容性化合物、有機ハロゲン化合物、フォスフィンオキサイド、スルフォキサイド、ジスルフィド、N−オキサイド、ラジカル化合物、及び、その他の有機酸化物等を例示することができ、無機酸化剤としては、酸素、ハロゲン、金属酸化物、ハロゲン化物、有機酸金属塩を好適なものとして例示することができる。
【0021】従来の通常の感熱記録材料は、よく知られているように、発色染料とビスフェノールAのような顕色剤その他必要に応じて用いられる添加剤と共にバインダーを含む水分散液を調製し、これを紙のような基材上に塗布し、乾燥して調製される。本発明による発色性記録材料は、感熱記録材料として用いる場合、上記と同様に、前記キノンジイミン誘導体と酸化剤と酸性物質およびその他必要に応じて用いられる添加剤と共にバインダーを含む水分散液を調製し、これを紙のような基材上に塗布し、乾燥して調製される。
【0022】上記バインダーとしては、従来より感熱記録材料の調製に用いられているものを好適に用いることができる。かかるバインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタアクリル酸、ポリメタクリル酸エステル等を好ましいものとして挙げることができる。
【0023】本発明の発色性記録材料において、前記キノンジイミン誘導体(a)と酸性物質(b)すなわち顕色剤は、キノンジイミン誘導体/酸性物質モル比が好ましくは0.01〜100、より好ましくは0.05〜20の範囲で用いられる。
【0024】本発明の発色性記録材料は、さらに蛍光染料や顔料を含有することができる。蛍光染料としては、例えば、ジアミノスチルベン系、ベンズイミダゾール系、ベンジジン系、イミダゾロン系等を挙げることができる。また、顔料としては、例えば二酸化チタン、クレー、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、ポリスチレン樹脂等を挙げることができる。
【0025】更に、本発明の発色性記録材料は、増感剤を含有することもできる。増感剤としては、例えば、ステアリン酸アミドのような高級脂肪酸アミド、ベンズアミド、ステアリン酸アニリド、シセト酢酸アニリド、チオアセトアニリド、フタル酸ジメチル、蓚酸ジベンジル、テレフタル酸ジベンジル、イソフタル酸ジベンジル、4,4’−ジメトキシフェニルスルホン等を挙げることができる。また、本発明の記録材料はステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、カルカルナウバワックス、パラフィンワックス等の粘着防止剤を含有するかまたはオーバーコートすることができる。
【0026】感圧記録紙としては、従来の方法に基づき、例えば発色性染料の溶液を内包するミクロカプセルを下面に塗布担持している上葉紙を、顕色剤を上面に塗布担持している下葉紙とからなるユニットであることができ、あるいは、ミクロカプセルと顕色剤とが同一の紙面に塗布されているものであることもできる。
【0027】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0028】実施例1N,N’−ジフェニル−p−キノンジイミン0.10g、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸0.2178g、ステアリン酸アミド0.10g、ステアリン酸亜鉛0.10g、10%ポリビニルアルコール水溶液0.75g、及び水1.75gを遊星型微粒粉砕機(FRITSCH社)にて10分間処理して、塗布液を得た。
【0029】次いで、得られた液体をバーコーター(テスター産業、P11210)を用いて上質紙に塗布し、風乾した後、感熱紙発色試験装置(大倉電機(株)製TH−PMD)を用いて、加熱発色させた。発色前後の反射率はUV測定装置((株)島津製作所UV−3101)を用いて、300〜1300nmにおいて測定した。
【0030】図1に発色前後の吸収曲線を示す。
【0031】また、NEC社プリンター(PC−PR102TL)のサーマルヘッドを用いてバーコードを印字させた。このバーコードを半導体レーザー(780nm)バーコードリーダー(Symbol Technologies Inc., LS8200)及びLEDバーコードリーダー(メカノシステムズ、M10)の両方で読み取ることができた。
【0032】
【発明の効果】本発明の発色性記録材料は、キノンジイミン誘導体と酸性物質を含み、発色操作後に実用上十分な発色を与え、しかも、可視光域から近赤外域に至る長波長域に吸収を有するので、機器による情報の読み取りに有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の発色性記録材料についての発色前後の吸収曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (a)一般式(I)
【化1】


および(b)芳香族カルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸、有機スルホン酸および酸性樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性物質を含有することを特徴とする発色性記録材料。

【図1】
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【特許番号】特許第3040527号(P3040527)
【登録日】平成12年3月3日(2000.3.3)
【発行日】平成12年5月15日(2000.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−116680
【出願日】平成3年4月22日(1991.4.22)
【公開番号】特開平4−320883
【公開日】平成4年11月11日(1992.11.11)
【審査請求日】平成10年2月9日(1998.2.9)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【参考文献】
【文献】特開 昭63−256486(JP,A)
【文献】特開 平4−115987(JP,A)
【文献】特開 平4−142974(JP,A)
【文献】特表 平3−500395(JP,A)