説明

発電機の出力制御装置

【課題】風力発電システム普及の妨げの一要因となっているコストが高いという問題を、有効電力制御と直流回路電圧一定制御を同時におこなうことによって出力変動平滑化をおこない、インバータ容量と損失を低減し廉価な風力発電システムを提供する。
【解決手段】巻線形誘導発電機1を用いた風力発電システム15において、一次側に接続されているインバータ6aと二次側に接続されているとインバータ7a間の直流回路部分に電力貯蔵装置4aを設置し、インバータ6aにおいて有効電力制御と直流回路部分の電圧一定制御を同時に行うことにより出力変動平滑化をおこなう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電機を用いた風力発電システムに係り、発電機の出力制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
風力発電システムは発電機を可変速制御することによって風力エネルギーを高効率で電気エネルギーへ変換できる。このため、インバータ装置によって可変速制御を可能にした風力発電システムが最近多く導入されている。このシステムにおいては電力系統の電力品質を維持する力率制御が可能であり、発電機として同期発電機または巻線形誘導発電機のいずれかが採用されている。我国の大形風力発電は風況の良好な北海道、東北、九州などに偏在し、電力会社の総電源容量に対して風力発電容量の占める割合が増えている。この結果、風速変動によって生じる風力発電システムの出力変動が電力系統の周波数変動を引き起こし、この周波数変動が許容限界に達している。このため今後の風力発電受入に対しては電力貯蔵装置である蓄電池システムなどを併設して出力変動を平滑化することが求められている。このため多くの利点をもつ電気二重層キャパシタ(EDLC: Electric Double-Layer Capacitor)などを適用した電力貯蔵装置が提案されている。(例えば、非特許文献1,2参照)しかしながら、このシステムは高価であるので今後風力発電の普及促進には廉価であることが重要な条件になる。
【0003】
以下、図3により巻線形誘導発電機を用いた風力発電システムに、電力貯蔵装置4bから構成された出力制御装置を適用した従来技術について説明する。風力発電装置5は巻線形誘導発電機1、風車2およびその出力Pを可変速、力率制御するためのインバータ7bと直流回路部分を定電圧制御する為のインバータ6bから構成されている。
【0004】
ここで、この風力発電装置5の出力PGと電力貯蔵装置4bから構成される出力平滑化システムの出力PBとの和を合成出力PSと定義すると以下の関係式が成立する。
【数1】

ただし、PSは制御目標値でPGの一次遅れローパスフィルタ出力。Tはフィルタ時定数、Sはラプラス演算子。
また、合成出力を制御目標値に制御できると考えると次の関係式が成立する。
【数2】

数式2に数式1を代入することで、次の式が求められる。
【数3】

ただし、PBは制御目標値。
よって、図3の従来の風力発電システムの出力制御は、出力平滑化システムの出力PBが数式3の制御目標値に等しくなるように充放電制御することによって出力変動平滑化を行っている。
【非特許文献1】金城達人・千住智信・上里勝実・藤田秀紀:「EDLC装置による風力発電機の出力電力平準化」電学論B,Vol.124,No.8,pp1059-1065(2004-8)
【非特許文献2】穴戸誠二・高橋理音・村田利昭・田村淳二・杉政昌俊・小村昭義・二見 基生・一瀬雅哉・井出一正:「EDLC蓄電装置を用いた水素製造装置併設型風力発電システムの安定化」電学論B,Vol.128,No.1,pp17-24(2008-1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明で対象としたのは風力発電システムにおける発電機の出力制御装置である。今後の風力発電受入に対しては電力貯蔵装置である蓄電池システムなどを併設して出力変動を平滑化することが求められている。このため多くの利点をもつ電気二重層キャパシタ(EDLC: Electric Double-Layer Capacitor)などを適用した電力貯蔵装置が提案されている。(例えば、非特許文献1,2参照)しかしながら、このシステムは高価であるので今後風力発電の普及促進には廉価であることが重要な条件になる。
【0006】
本発明は風力発電システム普及の妨げの一要因となっているコストが高いという問題を、有効電力制御と直流回路電圧一定制御を同時におこなうことによって出力変動平滑化をおこない、インバータ容量と損失を低減し廉価な風力発電システムにおける発電機の出力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する為の請求項1に係る発明は、発電機と2台のインバータを備えてそれぞれのインバータを発電機の一次側、二次側に接続し,一次側インバータと二次側インバータの直流回路を直結して可変速制御と力率制御を行う発電システムにおいて、当該直流回路に電気二重層キャパシタや蓄電池などの電力貯蔵装置を設置して風力発電システムが出力する電力の変動を平滑化することを特徴とした発電機の出力制御装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は発電機を用いた風力発電システムの一次側と二次側に装備されているインバータ間の直流回路部分にEDLC装置等の電力貯蔵装置を設置し、有効電力制御と直流回路部分の電圧一定制御を同時におこなって出力変動を平滑化することにより、一次側に接続されたインバータを電力貯蔵装置用のインバータで兼ねることができる。そのため、従来システムの直流回路部分における一次側に接続されたインバータを削減する事ができ、従来システムに比べてシステム全体のインバータ容量が発電機定格容量の25%程度低減できる。よってシステムの価格を廉価とすることが可能となるので、風力発電システムの普及に寄与することができる。また、大規模ウィンドパークにおいて従来の出力変動平滑化システムは通常、複数の風力発電システムを平滑化対象として設置されると考えられる。よって出力変動平滑化システムが故障した場合、これが平滑化対象としているすべての風力発電システムの運転が不可能となる。これに対して本発明のシステムでは故障した風力発電システムだけの停止ですむので、装置故障に対して稼働率が高くなる特徴がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る出力変動平滑化装置およびその制御方法の実施形態を図1および図2により説明する。
【0010】
本発明の風力発電システムの実施形態を巻線形誘導発電機を採用したシステムを例として説明する。風力発電システム15は巻線形誘導発電機1、風車2およびインバータ6a、インバータ7a間に配置した電力貯蔵装置4aによって構成される。
【0011】
ここで、巻線形誘導発電機1の一次側有効電力P1 (入力側が正)と二次側有効電力P2 (出力側が正)に対して、-P1+P2 を近似的に平滑化される前の風力発電システムの出力と考える。これに対する一次遅れのローパスフィルタ出力を風力発電システム出力の制御目標値PG* とする。すると次の関係式で表されることになる。
【数4】

また、インバータ6aの有効電力P3 と巻線形誘導発電機1の一次側有効電力P1 、および風力発電システム出力PG との間においては、風力発電システム出力を制御目標値PG*に制御できると考えると次式に示す関係式が成立する。
【数5】

ここで数式4、数式5から次式に示すインバータ6aの有効電力の制御目標値P3*が得られる。
【数6】

よって、インバータ6aの制御回路において有効電力P3 を誘導発電機の一次有効電力と二次有効電力とによって(6)式の制御目標値に制御し、直流回路電圧Edc1を一定制御することによって出力変動平滑化が行われる。つまり、インバータ6aの有効電力を制御することによって直流回路の電圧Edc1を一定制御することが可能となる。
【0012】
ここで、d-q軸回転座標系によってインバータ6aの系統側有効電力P3と無効電力Q3 を表すと次式となる。ただし、q軸はd軸に対して 90°遅れであり、a/b/c相からd/q軸への変換係数は2/3である。変換位相は系統側電圧のd軸成分が零になるようにとった。
【数7】

【数8】

ただし、v3qは系統線間電圧の実効値、i3q、i3d はそれぞれd/q軸電流値。
この数式7、数式8によるP3 、Q3 を得るための制御目標値をそれぞれP3* 、Q3* とすると、数式7、数式8からd/q軸電流の制御目標値i3q*、i3d*は次式で表される。
【数9】

【数10】

【0013】
また、インバータ6aの発生電圧vid、viq と系統側の電圧v3d、v3q との間では次式が成立する。
【数11】

【数12】

ただし、r3 、l3 は系統とインバータ6a との間の抵抗とインダクタンス、ωは電力系統角周波数。
【0014】
次に、数式6〜数式12より構成したインバータ6aの制御回路図(図2)により制御について説明する。10は有効電力の制御目標値P3*を演算するための制御目標演算部で、数式6に基づいて演算する。減算11及びローパスフィルタの一次遅れ特性12で風力発電システム15の制御目標値PG*を得る。その後、減算13による演算で制御目標値P3*を生成する。減算14は目標値P3*とI3 、V3 から演算されたP3との差を求める。
【0015】
20はq軸目標電流i3q*を演算するためのq軸目標電流演算部で、この演算部20は数式9に基づいて演算する。減算14からの信号をPI制御21、除算22及び係数演算23を介してq軸目標電流値i3q*を演算する。q軸目標電流値i3q*は減算24で電流i3qとの偏差が求められ、PI制御26でPI演算が実行される。
【0016】
30は目標電圧演算部であり、インバータ6aとインバータ7aの間に設置された電力貯蔵装置4aの出力電圧一を定に保つ為の制御に関する。図4は本発明の電力貯蔵装置4aの構成図である。定電圧制御の目標値はEdc1を目標とする電圧に制御することである。その為に巻線形誘導発電機1の二次側有効電力P2(流出方向が正)とインバータ6aの有効電力P3(系統からインバータ方向が正)との和(P2+P3 )の符号が正の場合に電力貯蔵装置4aを充電制御し、これが負の場合に放電制御することによって出力変動平滑化が行われる制御を行っている。つまり、インバータ6aと7aとの間の直流回路と電力貯蔵装置4aとをDC/DCコンバータを介して接続して、インバータ6aと7aの有効電力の和の符号によって電力貯蔵装置4aを充放電制御する。
【0017】
50は無効電力の制御目標演算部で、減算51ではQ3との差演算を実行する。
【0018】
60はd軸目標電流i3d*を演算するためのd軸目標電流演算部で、この演算部60は数式10に基づいて演算する。減算51からの差信号をPI制御61、除算62及び係数演算63を介してd軸目標電流値i3d*を演算する。d軸目標電流値i3d*は減算64で電流i3d*との偏差が求められ、PI制御65でPI演算が実行される。
【0019】
軸電圧演算部40では、PI制御26から出力された信号とPI制御65から出力された信号に基づいてインバータ6aの発生d軸、q軸電圧vid 、viqを演算し、二相三相座標変換部8を介してインバータ6a用PWM制御回路9に出力してゲート信号を生成し、その信号をインバータ6aのスイッチング素子のゲート(図示しない)に印加して巻線形誘導発電機1の励磁電圧を制御する。
【実施例】
【0020】
次に、実測風速データを用いたシミュレーションを本発明の風力発電システムと従来システムに適用し、本発明の有効性を確認した。
シミュレーション条件
(1)使用ソフト:PSCAD/EMTDC(V4.2)
(2)風速データ:図5(最小/最大、5.2m/s/11.4m/s)
(3)シミュレーションに用いた巻線形誘導発電機の定数を表1に示す。
【表1】

【0021】
シミュレーション結果について以下に述べる。図6は本発明の結果、図7は従来システムの結果を示す。表示データは巻線形誘導発電機出力PT 、風力発電システム出力の有効電力PG と無効電力QG 、巻線形誘導発電機一次側有効電力P1(入力側が正)と二次側有効電力P2(出力側が正)とから近似的に求めた平滑化される前の風力発電システム出力 (-P1+P2 )である。
【0022】
図6本発明における結果において、出力PT の最小/最大は107kW/1376kW であり、平滑化される前の風力発電システム出力(-P1+P2 )の最小/最大は442kW/720kWである。この図に示すPG* は (-P1+P2 )を入力とした一次遅れのローパスフィルタ(時定数T =3秒)の出力である。風力発電システム出力PG はPG* に殆ど等しく、その最小/最大は523kW/666kWであり精度よく平滑化されることが確認される。
【0023】
図5の従来システムにおける結果は出力PT が(最小/最大、107kW/1377kW)、風力発電システムの出力PG が(最小/最大、435kW/712kW)であり、合成出力PS とその制御目標値PS* は殆ど等しくその最小・最大は524kW/660kWである。
【0024】
以上から、本発明のPG 、-P1+P2 と従来システムのPS 、PG とはそれぞれほぼ等しいことが分かる。よって、提案システムの平滑化性能は従来とほぼ同等である。
【0025】
従来システムのインバータ6bの容量は発電機定格容量の25%程度である。従来システムに対して上記と同じ風速変化条件でシミュレーションした結果、出力変動平滑化システムの有効電力(図3のPB )の絶対値の最大値は本発明におけるインバータ6aの有効電力(図1のP3 )の絶対値の最大値とほほ同じであった。(図示しない)よって、図1に示す本発明のシステムでは、従来システムにおける電力貯蔵装置4bを巻線形誘導発電機の一次側に接続するインバータ6aの位置に設置することにより、インバータ6bを削減する事ができるため、従来システムとほぼ同等の平滑化性能を有したままでインバータ6bの容量(発電機定格容量の約25%程度)の分だけ削減することができる。
【0026】
次に図5のデータに対して、本発明と従来システムのインバータ損失の大きさをシミュレーションした。結果を図8に示す。この結果から、本発明の有効電力、無効電力および出力変動平滑化の制御系に流れる有効電力の大きさが従来システムの有効電力の大きさより小さくなり、効率がさらに良くなるシステムとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態を示す風力発電システムの構成図。
【図2】本発明のインバータ6aの制御回路図。
【図3】従来システムの実施形態を示す風力発電システムの構成図。
【図4】本発明の電力貯蔵装置の構成。
【図5】風速データ(実測値)。
【図6】本発明のシミュレーション結果図。
【図7】従来システムのシミュレーション結果図。
【図8】本発明と従来システムの有効電力の比較シミュレーション結果図。
【符号の説明】
【0028】
1 巻線型誘導発電機
2 風車
3 変圧器
4a 電力貯蔵装置
4b 電力貯蔵装置
5 風力発電装置
6a インバータ
6b インバータ
7a インバータ
7b インバータ
8 座標変換部
9 PWM制御回路
10 制御目標演算部
15 風力発電システム
20 目標電流演算部
30 目標電圧演算部
40 軸電圧演算部
50 制御目標演算部
60 目標電流演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電機と2台のインバータを備えてそれぞれのインバータを発電機の一次側と、二次側に接続し、一次側に接続したインバータと二次側に接続したインバータの直流回路を直結して可変速制御と力率制御を行う発電機の出力制御装置において、当該直流回路に電気二重層キャパシタや蓄電池などの電力貯蔵装置を設置して風力発電システムが出力する電力の変動を平滑化することを特徴とした発電機の出力制御装置
【請求項2】
前記一次側に接続したインバータの有効電力を発電機の一次有効電力と二次有効電力とによって制御して出力変動平滑化を行うことを特徴とした発電機の出力制御装置
【請求項3】
前記2台のインバータ間の直流回路と電力貯蔵装置とをDC/DCコンバータを介して接続して、一次側に接続したインバータと二次側に接続したインバータの有効電力の和の符号によって電力貯蔵装置を充放電制御することを特徴とした発電機の出力制御装置
【請求項4】
前記一次側に接続したインバータの有効電力を制御することによって前記2台のインバータ間の直流回路を電圧一定制御することを特徴とした発電機の出力制御装置
【請求項5】
発電機が巻線形誘導発電機または同期発電機である請求項1記載の出力制御装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−45934(P2010−45934A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209431(P2008−209431)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月19日発行 「平成20年電気学会全国大会講演論文集(CD)」に発表
【出願人】(000002842)株式会社高岳製作所 (72)
【Fターム(参考)】