説明

皮革様シート及び皮革様シートの製造方法

【課題】速乾性に優れた皮革様シートを提供することを目的とする。
【解決手段】極細繊維の絡合不織布と高分子弾性体とを含み、高分子弾性体は、表層に偏在して前記極細繊維を拘束しており、上面視した場合に、シボ状に、高分子弾性体に拘束されていない極細繊維が面方向に配向して露出していることを特徴とする皮革様シートを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮革様シートおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、表面に意匠性に富むシボ状の模様が付与された、いわゆる半銀面調の皮革様シートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然皮革に似せた皮革様シートが種々提案されている。具体的には、例えば、ポリウレタン樹脂が付与された極細繊維からなる絡合不織布の表面に、いわゆる銀面調の皮膜を形成した皮革様シートが知られている。このような銀面調の皮膜は、例えば、ポリウレタン樹脂を付与した絡合不織布の表面にポリウレタン溶液を塗布して湿式凝固させて形成されたり、ポリウレタン樹脂を付与した絡合不織布の表面に、離型紙上に予め形成されたポリウレタンフィルムを転写して形成されている(例えば特許文献1〜3)。
【0003】
上述したような銀面様の皮膜を有する皮革様シートは通気性が得られないという欠点があった。このような欠点を解決すべく、特許文献4は、柔軟性、風合い、通気性、透湿性等に優れた皮革様シートとして、基材の少なくとも片側にミクロジョイント構造からなる被覆層を有する皮革様シートを開示している。このようなミクロジョイント構造からなる被覆層は予め基材の少なくとも片面に塗布または転写により形成された連続膜を機械的及び/又は化学的に微小に分割することにより形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭63−5518号公報
【特許文献2】特開平4−185777号公報
【特許文献3】特許3187357号
【特許文献4】特開平9−188975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塗布または転写により形成された銀面様の皮膜を有する皮革様シートは、プラスチック感、ゴム感が強く、天然皮革との風合いの差が明らかにあった。また、吸水性や透湿性に乏しかった。さらに、特許文献4に開示されたような皮革様シートは、ミクロジョイント構造の存在により透湿性はある程度優れていると思われる。しかしながら、ミクロジョイント構造は、単純に湿気を透過させるだけの構造であるために、水分が付着した場合に水分が裏側まで浸透しやすいという問題があった。
【0006】
表面側から裏面側に水が浸透しやすい皮革様シートを、例えば、靴の表材として用いた場合、その表面に付着した水分は内部にしみ込んだ後、裏側にまで透過して、乾燥せずに長時間留まり続けて、靴の着用者に長時間不快感を覚えさせる。このような場合に皮革様シートに単に撥水剤を塗布するような処理をしても、表面における撥水性は改善されるものの、吸収されてしまった水分は裏面側にまで透過してしまう。
【0007】
本発明は、水分の表面側から裏面側への耐浸透性と速乾性とに優れた皮革様シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る皮革様シートは、極細繊維の絡合不織布と高分子弾性体とを含み、高分子弾性体は、表層に偏在して極細繊維を拘束しており、上面視した場合に、シボ状に、前記高分子弾性体に拘束されていない前記極細繊維が面方向に配向して露出していることを特徴とする。このような皮革様シートは、例えば、図1に示すような、皮革様シートの表面近傍にシボ状の模様の高分子弾性体が極細繊維を断続的に拘束した状態の表層を有し、このような表層を有するために意匠性に優れている。また、表層のシボ状の模様を形成する極細繊維が露出した領域から侵入した水分は、高分子弾性体に拘束されず、面方向に配向する内層の極細繊維の毛細管現象により速やかに満遍なく広げられることにより、水分が速く蒸発して乾燥する。従って、裏面側には水分が浸透しにくくなる。
【0009】
また、表層と厚み方向に隣接する内層に存在する極細繊維は、高分子弾性体に拘束されていないことが好ましい。このような場合には、内層の極細繊維は高分子弾性体により拘束されていないために水分に対する濡れ性が表層よりも低くなり撥水性が高くなるために、内層に水分が浸透しにくくなる。
【0010】
また、極細繊維が長繊維であることが、極細繊維が平面方向に配向しやすくなるために毛細管現象がより生じやすくなる点から好ましい。
【0011】
また、表層の厚みが0.1〜50μmの範囲であることが表面側から裏面側への水分の耐浸透性にさらに優れる点から好ましい。
【0012】
また、高分子弾性体全量の20質量%以上が表層に存在することが表面側から裏面側への水分の耐浸透性にさらに優れる点から好ましい。また、絡合不織布の重量に対する高分子弾性体の割合は0.1〜60質量%の範囲であることが好ましい。
【0013】
また、高分子弾性体が撥水性高分子弾性体であることが、表面の撥水性に優れる点から好ましい。このような撥水性高分子弾性体としては、フッ素系撥水剤を含有する高分子弾性体が挙げられる。
【0014】
また、極細繊維がポリエステル系繊維であることが撥水性に優れている点から好ましい。
【0015】
また、本発明に係る皮革様シートの製造方法は、(1)海島型繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程と、(2)長繊維ウェブに絡合処理を施すことにより絡合ウェブを製造する工程と、(3)絡合ウェブ中の海島型繊維を極細繊維に変換することにより、極細繊維からなる絡合不織布を製造する工程と、(4)絡合不織布に高分子弾性体を形成するための樹脂液を付与した後、絡合不織布の表面から加熱することにより高分子弾性体が表層に偏在するように樹脂液を乾燥させる工程と、(5)絡合不織布をその表層の極細繊維を融着させる条件で加熱プレスする工程と、(6)高分子弾性体を含む表層にシボ状の亀裂を生じさせる工程と、を備える。このような製造方法によれば、とくに、工程(4)において、表面から水分を徐々に乾燥させて樹脂液を表層へマイグレーションさせることにより、高分子弾性体を表層に偏在させることができる。高分子弾性体は撥水性高分子弾性体を含むことが、表面の撥水性に優れる点から好ましい。
【0016】
また、工程(4)が、工程(5)の前と工程(5)の後に設けられ、工程(5)の前に、絡合不織布を染色する工程(7)をさらに備えることが好ましい。このような工程により、製造時に絡合不織布の染料の高分子弾性体への移行昇華を抑制することができる。それにより、染色堅牢度の高い皮革様シートが得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、速乾性に優れた皮革様シートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本実施形態の皮革様シート10の断面の様子を説明するための図面代用写真である。
【図2】図2は、本実施形態の皮革様シート10の上面の様子を説明するための図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る皮革様シートの一実施形態である皮革様シート10について詳しく説明する。
【0020】
図1の図面代用写真に示すように、皮革様シート10は極細繊維1aからなる絡合不織布1と高分子弾性体2とを含む。高分子弾性体2は絡合不織布1の表層Sに偏在して極細繊維1aからなる繊維束を拘束している。また、表層Sに厚み方向に隣接する内層Mの極細繊維1aは拘束されていないか、ごく一部分が拘束されているのみである。そして、図2の図面代用写真に示すように、皮革様シート10を上面視した場合、シボ状に高分子弾性体2に拘束されていない極細繊維1aが露出している。露出している極細繊維1aは、皮革様シート10に対して、実質的に面方向に配向している。また、露出していない極細繊維1aは、高分子弾性体2に拘束されている。
【0021】
表層Sの極細繊維1aは繊維束として存在していてもよい。高分子弾性体2に拘束されている繊維束の内部には高分子弾性体2が充填されている。また、表層Sの高分子弾性体2に拘束されている繊維束の外周の大部分は高分子弾性体2で覆われていることが好ましい。さらに、表層Sの極細繊維1a同士は部分的に融着されていてもよい。一方、内層Mが高分子弾性体2を含む場合には、繊維束同士は高分子弾性体2により部分的に接着されているが、繊維束の内部には高分子弾性体が充填されておらず、また、繊維束の外周は高分子弾性体によりごく一部の表面が覆われているのみであることが好ましい。
【0022】
このような皮革様シート10が、表面側から裏面側への水分の耐浸透性と速乾性とに優れている理由を説明する。
図2に示すように、皮革様シート10の表面には、高分子弾性体2に拘束された極細繊維1aと、高分子弾性体2に拘束されていないシボ状に露出した極細繊維1aとが存在する。図2に示すように、極細繊維1aのシボ状に露出した領域から水分が吸収された場合、高分子弾性体に拘束されずに面方向に配向している極細繊維の1aの毛細管現象により、吸収された水分がシボ状の模様に沿って面方向に満遍なく広がった後、蒸発する。
【0023】
内層Mの極細繊維1aが高分子弾性体2により拘束されていない場合には、内層Mの水に対する濡れ性は表層Sの濡れ性よりも低くなる。そのために内層Mの撥水性が高くなるために水分がさらに浸透しにくくなる。従って、吸収された水分は内層Mに浸透する前にシボ状に露出した極細繊維1aの毛細管現象により面方向に広がり、裏面側には浸透しにくくなる。そして、吸水された水分は広い面積に広がることにより蒸発しやすくなる。皮革様シート10は、このような作用により表面側から裏面側への水分の耐浸透性と速乾性とを両立して備えることができる。
【0024】
皮革様シートの構成について詳しく説明する。
皮革様シートに含まれる絡合不織布は極細繊維からなる。
極細繊維を形成するポリマーは極細繊維を形成しうるポリマーであれば特に限定なく用いられうる。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリトリメチレンテレフタレート(PTT),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエステル弾性体等のポリエステル系樹脂またはそれらの変性物;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド610,ポリアミド12,芳香族ポリアミド,半芳香族ポリアミド,ポリアミド弾性体等のポリアミド系樹脂またはそれらの変性物;ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系ポリウレタンなどのポリウレタン系樹脂等が挙げられる。これらの中では、PET,PTT,PBT,これらの変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂は、熱処理により収縮しやすいために充実感のある風合いを付与することができ、また、撥水性、耐磨耗性,耐光性,形態安定性などの実用的性能に優れた皮革様シートが得られる点から好ましい。また、ポリアミド6,ポリアミド66等のポリアミド系樹脂はポリエステル系樹脂に比べて吸湿性があってしなやかな極細長繊維が得られるために、膨らみ感のある柔らかな風合いを有する皮革様シートが得られる点から好ましい。
【0025】
極細繊維の平均繊度は0.001〜2dtex、さらには0.002〜0.2dtexの範囲であることが好ましい。また、極細繊維は複数の極細繊維からなる繊維束として存在していることが、絡合不織布の表層の緻密性を向上させる点から好ましい。このような繊維束の平均繊度は0.5〜10dtex、さらには0.7〜5dtexの範囲であることが好ましい。なお、繊維束中の極細繊維の本数は特に限定されないが、工業的な生産性の観点からは5〜1000本程度の範囲であることが好ましい。
【0026】
極細繊維の長さとしては、意図的に切断されていない長繊維であっても、例えば、3〜80mm程度の長さに切断された短繊維のステープルであってもよい。なお、高い毛細管現象を得る、または、実用上高い機械的特性を得る観点からは、長繊維が好ましい。長繊維の繊維長は100mm以上であることが好ましく、製造可能である限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。
【0027】
表層の厚みは、0.1〜50μm、さらには、1〜30μmであることが好ましい。表層の厚みが厚すぎる場合には風合い表面タッチが硬くなり、薄すぎる場合には、表面の耐磨耗性が弱くなる傾向がある。また、皮革様シートの厚み全体に対する表層の厚みの割合は0.1〜10%、さらには1〜5%であることが好ましい。
【0028】
また、絡合不織布の目付としては、140〜3000g/m2、さらには200〜2000g/m2であることが好ましい。
【0029】
上述したようにシボ状に露出した極細繊維は、皮革様シートに対して、実質的に面方向に配向している。また、面方向に配向した極細繊維の向きは、一方向に配向していることがさらに好ましい。具体的には、例えば、厚み方向に切断した断面において、配向比が1.5〜50、さらには1.5〜20の範囲であることが好ましい。ここで、配向比とは、互いに直交する2方向で切断した場合の断面において観察される極細繊維の断面の数の比を意味する。具体的には、例えば、皮革様シート10の互いに直行する断面(例えば、全巾方向(XMD方向)とXMD方向と直交するマシン方向(MD方向))を観察した場合、一方の断面における極細繊維の断面の数(X)と他方の断面における極細繊維の断面の数(Y)との比(X/Y、但しX>Y)を意味する配向比が上述したような範囲の場合には、極細繊維が面方向の一方向に高く配向しているといえる。一方向への配向性が高い場合には、より毛細管現象が起こりやすくなるとともに、均一で平滑な表面が得られる。
なお、断面における極細繊維の断面の数は、厚み方向に切断された皮革様シートの切断面をSEMにより撮影することにより計数できる。なお、試験片の作成方法は、例えば、皮革様シートの表面を所定の条件で熱プレス処理した後、表面付近の毛羽配向を固定したのち、片刃カミソリを使用し、該繊維配向が崩れないように表面から一気に切断する。撮影範囲は、表面から20μm程度の深さ付近が好ましい。
【0030】
絡合不織布の表層には、高分子弾性体が偏在している。高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン弾性体、アクリロニトリル系高分子弾性体、オレフィン系高分子弾性体、ポリエステル弾性体、(メタ)アクリル系高分子弾性体などが挙げられる。これらの中では、ポリウレタン弾性体、及び、(メタ)アクリル系高分子弾性体がとくに好ましい。
【0031】
また、高分子弾性体は、25℃における水に対する撥水度が50%以上、さらには70%以上の撥水性高分子弾性体を含むことが好ましい。このような撥水性高分子弾性体の具体例としては、例えば、含フッ素樹脂等のフッ素系撥水剤、含シリコン樹脂等のシリコーン系撥水剤、パラフィン系撥水剤、セラミック系撥水剤等を含有する高分子弾性体が挙げられる。
【0032】
高分子弾性体の含有割合としては、絡合不織布の重量に対して、0.1〜60質量%、さらには0.5〜60質量%、とくには2〜30質量%であることが好ましい。高分子弾性体の含有割合が高すぎる場合には風合いが固くなり、少なすぎる場合には表面の耐磨耗性が弱く低くなる傾向がある。また、高分子弾性体全量の5〜100質量%、さらには20〜70質量%が表層に存在することが好ましい。このように高分子弾性体を表層に偏在させることにより、内層に存在する極細繊維を拘束することなく、形態安定性を保持することができる。
【0033】
表層の空隙率としては1〜80%、さらには10〜50%であることが吸水性に優れる点から好ましい。また、内層の空隙率に対する表層の空隙率の割合は、80%以下、さらには50%以下であることが好ましい。このような場合には、表面に付着した水分を速やかに吸収した後、面内に速やかに拡散させて蒸発させる効果がとくに高い傾向がある。
【0034】
また、皮革様シートの厚みとしては0.1mm〜6mm、さらには、0.3mm〜3.0mmであることが好ましい。
【0035】
次に、本実施形態の皮革様シートの製造方法の一例について詳しく説明する。
本実施形態の皮革様シートの製造方法においては、はじめに海島型繊維からなる長繊維ウェブを製造する(工程(1))。
【0036】
海島型繊維は少なくとも2種類のポリマーからなる多成分系複合繊維であり、海成分ポリマーからなるマトリクス中に島成分ポリマーが分散した断面を有する。海島型繊維は、海成分ポリマーを溶剤または分解剤により抽出除去または分解除去することにより、島成分ポリマーからなる極細繊維が複数本集まった繊維束に変換される。島成分ポリマーは海成分ポリマーとは非相溶であり、また、抽出除去性または分解除去性が異なる。
【0037】
島成分ポリマーの具体例としては、前述したポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂およびポリウレタン系樹脂の変性物等が好ましく用いられる。なお、これらの中では、表面物性、風合い、および極細繊維の融着性に優れる点から、変性ポリエステル系樹脂が、とくに、イソフタル酸変性ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0038】
島成分ポリマーは、160℃以上、さらには、180〜330℃の範囲に融点ピークを有する結晶性ポリマーであることが好ましい。なお、融点ピークは、示差走査熱量計(DSC)ではじめにポリマーを融解及び固化させた後、さらに定速で昇温させて融解させたときに測定される吸熱ピークのトップ温度である。
【0039】
また、島成分ポリマーから形成される極細繊維は、DSCではじめに定速で昇温させてポリマーを融解させたときに現れる、融点ピークよりも低い吸熱ピーク(以下、副吸熱ピークとも称する)を有することがさらに好ましい。副吸熱ピークを有する場合には、島成分ポリマーの融点ピーク温度よりも低い副吸熱ピーク温度以上に昇温することにより、極細繊維が軟化する。従って、後述する絡合不織布の表層を加熱プレスする工程(工程(5))において、表面を構成する極細繊維同士のみを部分的に融着することにより島成分ポリマーに由来する繊維銀面を形成させることができる。それにより、平滑な表面を容易に形成することができる。このような島成分ポリマーから形成される極細繊維としては、変性ポリエステル系樹脂からなる部分配向糸(Partially oriented yarn, POY)であることが後述する副吸熱ピークを維持し易い点からとくに好ましい。
【0040】
島成分ポリマーの副吸熱ピーク温度は、融点ピーク温度よりも30℃以上、さらには50℃以上低いことが、風合いを損なうことなく極細繊維同士を融着処理しやすい点から好ましい。副吸熱ピーク温度の下限は特に限定されず、例えば、融点よりも160℃以上低くてもよい。
【0041】
海成分ポリマーとしては、溶剤に対する溶解性または分解剤による分解性が島成分ポリマーよりも大きいポリマーが選ばれる。また、島成分ポリマーとの親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分ポリマーより小さいポリマーが海島型繊維の紡糸安定性に優れている点から好ましい。このような条件を満たす海成分ポリマーの具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン系共重合体、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、スチレン−エチレン系共重合体、スチレン−アクリル系共重合体、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。これらの中では、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂(水溶性PVA)が有機溶剤を用いることなく水系媒体により溶解除去が可能であるために環境負荷が低い点から好ましい。本実施形態においては、代表的に、水溶性PVAを用いた場合について詳しく説明する。
【0042】
水溶性PVAのケン化度は90〜99.99モル%、さらには93〜99.98モル%、とくには94〜99.97モル%、ことには96〜99.96モル%であることが好ましい。ケン化度が90モル%以上である場合には、熱分解やゲル化を抑制した溶融紡糸が可能であり、また、水溶性や生分解性にも優れている。また、ケン化度が99.99モル%よりも大きい水溶性PVAは工業的な生産性に劣る傾向がある。
【0043】
海島型繊維の平均断面積はとくに限定されないが、30〜800μm2の範囲であることが好ましい。また、海島型繊維の断面における、海成分ポリマーと島成分ポリマーとの平均面積比は5/95〜70/30、さらには15/85〜50/50であることが好ましい。
【0044】
このような海島型繊維は海成分ポリマーと島成分ポリマーとを複合紡糸用口金から溶融押出する溶融紡糸により製造することができる。複合紡糸用口金の口金温度は海島型繊維を構成するポリマーのそれぞれの融点よりも高い溶融紡糸可能な温度であれば特に限定されないが、通常、180〜350℃の範囲が選ばれる。
【0045】
口金から吐出された溶融状態の海島型繊維は、冷却装置により冷却され、さらに、エアジェットノズルなどの吸引装置により目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引取速度に相当する速度の高速気流により牽引細化される。そして牽引細化された長繊維を移動式ネットなどの捕集面上に堆積させることにより実質的に無延伸の長繊維ウェブが得られる。なお、必要に応じて、形態を安定化させるために長繊維ウェブをさらにプレスすること等により部分的に圧着してもよい。このようにして得られる長繊維ウェブの目付はとくに限定されないが、例えば、10〜1000g/m2の範囲であることが好ましい。
【0046】
本実施形態の皮革様シートの製造方法においては、次に、工程(1)で得られた長繊維ウェブに絡合処理を施すことにより絡合ウェブを製造する(工程(2))。
【0047】
長繊維ウェブの絡合処理の具体例としては、例えば、工程(1)で得られた長繊維ウェブをクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、その両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチする。
【0048】
パンチング密度は、300〜5000パンチ/cm2、さらには500〜3500パンチ/cm2の範囲であることが好ましい。このようなパンチング密度の場合には、充分な絡合が得られ、また、ニードルによる海島型繊維の損傷を抑制することができる。
【0049】
また、長繊維ウェブには海島型繊維の紡糸工程から絡合処理までのいずれかの段階において、油剤や帯電防止剤を付与してもよい。さらに、必要に応じて、長繊維ウェブを70〜150℃程度の温水に浸漬する収縮処理を行うことにより、長繊維ウェブの絡合状態を予め緻密にしておいてもよい。また、ニードルパンチの後、熱プレス処理することによりさらに繊維密度を緻密にして形態安定性を付与してもよい。ただし、後述するように、本実施形態においては、極細繊維を形成する島成分ポリマーの副吸熱ピーク以上の温度で且つ融点ピーク未満の温度で熱プレスすることにより繊維銀面を形成させることが好ましいために、副吸熱ピークが消失しないような低温で熱プレスすることが好ましい。
【0050】
このような海島型繊維の長繊維同士を三次元的に絡合する絡合処理により、絡合ウェブが得られる。このような絡合ウェブの目付としては100〜2000g/m2程度の範囲であることが好ましい。また、繊維密度としては、絡合ウェブの厚さ方向に平行な断面において、海島型繊維の横断面が平均600〜4000個/mm2程度の範囲で存在することが好ましい。
【0051】
本実施形態の皮革様シートの製造方法においては、次に、工程(2)で得られた絡合ウェブ中の海島型繊維を極細繊維に変換することにより、極細繊維からなる絡合不織布を製造する(工程(3))。具体的には、例えば、絡合ウェブ中の海島型繊維から海成分ポリマーを除去することにより、極細繊維の繊維束からなる絡合不織布を製造する。
【0052】
絡合ウェブ中の海島型繊維から海成分ポリマーを除去する方法としては、海成分ポリマーのみを選択的に除去しうる溶剤または分解剤で絡合ウェブを処理するような従来から知られた極細繊維の形成方法が特に限定なく用いられうる。具体的には、例えば、海成分ポリマーとして水溶性PVAを用いる場合には溶剤として熱水が用いられ、海成分ポリマーとして易アルカリ分解性の変性ポリエステルを用いる場合には、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤が用いられる。
【0053】
海成分ポリマーとして水溶性PVAを用いる場合においては、85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理することにより、水溶性PVAの除去率が95〜100質量%程度になるまで抽出除去することが好ましい。なお、ディップニップ処理を繰り返すことにより、効率的に抽出除去できる。水溶性PVAを用いた場合には、有機溶媒を用いずに海成分ポリマーを選択的に除去することができるために、環境負荷が低く、また、VOCの発生を抑制できる点から好ましい。
【0054】
絡合ウェブ中の海島型繊維を極細繊維に変換する前後、または極細繊維に変換する際には、繊維密度を高めるために湿熱収縮処理を行ってもよい。このような湿熱収縮処理により形態保持性が向上し、また、機械的特性も向上する。
【0055】
湿熱収縮処理を行う場合、絡合ウェブを次のような条件で処理することが好ましい。具体的には、例えば、絡合ウェブに海成分ポリマーの量に対して30〜200質量%程度の水分を付与した後、相対湿度が70%以上、好ましくは90%以上であり、60〜130℃の加熱水蒸気雰囲気下で60〜600秒間加熱処理する。このような条件で湿熱収縮処理することにより、島成分ポリマーからなる長繊維の収縮力で変形して水蒸気で可塑化された海成分ポリマーが圧搾されるために容易に緻密化する。そして、引き続き、収縮処理された絡合ウェブを85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理することにより海成分ポリマーが溶解除去される。なお、必要に応じて、海成分ポリマーの除去率を上げるために、さらに、80〜98℃の温水で、水流速度2〜100m/分、処理時間1〜20分の条件で水流抽出処理してもよい。
【0056】
極細繊維に変換する際に湿熱収縮処理を行う場合、絡合ウェブを次のような条件で処理することが好ましい。具体的には、例えば、絡合ウェブを65〜90℃の熱水中に3〜300秒間浸漬する。このような処理により、海島型繊維が収縮することにより海成分ポリマーが圧搾される。そして、引き続き、85〜100℃、好ましくは90〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理する。このような処理により、圧搾された海成分ポリマーが繊維からさらに溶出する。海成分ポリマーの除去及び収縮により、より緻密化された絡合不織布が得られる。
【0057】
上述したような湿熱収縮処理により、収縮処理前の面積に対する面積収縮率が25%以上、さらには30〜75%になるように高密度化される。なお、面積収縮率は、下記式(1)
[(湿熱収縮処理前の面積−湿熱収縮処理後の面積)/湿熱収縮処理前の面積]×100・・・(1)
により計算される。
【0058】
このようにして得られる極細繊維からなる絡合不織布の目付としては、140〜3000g/m2、さらには200〜2000g/m2であることが好ましい。
【0059】
このような絡合不織布の湿潤時の剥離強力としては、4kg/25mm以上、さらには、4〜15kg/25mmであることが好ましい。剥離強力がこのような範囲である場合には耐摩耗性、形態保持性及び充実感に優れた皮革様シートが得られる。
【0060】
絡合不織布は必要に応じて公知の染色方法により染色されてもよい。染料としては、分散染料等が用いられる。
【0061】
本実施形態の皮革様シートの製造方法においては、絡合不織布に高分子弾性体を形成するための樹脂液を付与した後、絡合不織布の表面から加熱することにより高分子弾性体が表層に偏在するように樹脂液を乾燥させる(工程(4))。
【0062】
本工程は、高分子弾性体を形成するための水溶液、水分散体またはエマルジョン等の樹脂液を絡合不織布に含浸させた後、表面から加熱することにより高分子弾性体を表層にマイグレーションさせながら凝固させる工程である。高分子弾性体を形成するための樹脂液を絡合不織布に含浸させる方法は特に限定されない。具体的には、例えば、絡合不織布を樹脂液に浸漬して樹脂液を含浸させる方法や、絡合不織布の表面及び/又は裏面から樹脂液を塗布する方法等が挙げられる。樹脂液中の高分子弾性体の濃度は0.1〜60質量%程度であることが好ましい。
【0063】
高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン弾性体、アクリロニトリル系高分子弾性体、オレフィン系高分子弾性体、ポリエステル弾性体、(メタ)アクリル系高分子弾性体などが挙げられる。これらの中では、ポリウレタン弾性体、及び、(メタ)アクリル系高分子弾性体がとくに好ましい。
【0064】
ポリウレタン弾性体としては、高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート、及び、必要に応じて鎖伸長剤を所望の割合で、溶融重合法、塊状重合法、溶液重合法などにより重合して得られる公知の熱可塑性ポリウレタンが好ましい。
【0065】
また、高分子弾性体に撥水性を付与するために、樹脂液中に撥水剤を配合することが好ましい。このような撥水剤の具体例としては、例えば、含フッ素樹脂等のフッ素系撥水剤、含シリコン樹脂等のシリコーン系撥水剤、パラフィン系撥水剤、セラミック系撥水剤等が挙げられる。
【0066】
また、樹脂液中には、本発明の効果を損なわない範囲で、抗菌剤、防臭剤、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥油剤、増粘剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料、顔料などの着色剤を配合してもよい。
【0067】
絡合不織布に含浸された樹脂液から高分子弾性体を凝固させる方法としては、樹脂液が含浸された絡合不織布の表面から、例えば、好ましくは100〜150℃、さらに好ましくは110〜150℃で、0.5〜30分間加熱する方法が挙げられる。このような方法により樹脂液中の溶媒が絡合不織布の表面から徐々に蒸発するのに伴い、内層の樹脂液が表層に移行(マイグレーション)することにより表層で凝固する。このような加熱は、乾燥装置中などにおいて熱風を表面に吹き付けることにより行うことが好ましい。なお、乾燥される表面は、片面のみでも両面であってもよい。このようにして、内層の樹脂液を表層に移行させながら高分子弾性体を凝固させることにより、表層に高分子弾性体を偏在させ、内層には高分子弾性体を疎に存在させ、または全く存在させないことができる。なお、両面から加熱した場合には、両表面の表層に高分子弾性体がマイグレーションにより偏在することになる。このような場合には、後述する加熱プレスする工程(5)の後に厚み方向に2枚に分割(スライス処理)することにより2枚の皮革様シートが得られる。
【0068】
本工程(4)は、後述する絡合不織布の表層の極細繊維を融着させる加熱プレスする工程(5)の前に行っても、工程(5)の後に行っても、工程(5)の前と工程(5)の後とに分けて行ってもよい。なお、工程(5)の前に、絡合不織布を染色している場合には、プレスする工程(5)の後に高分子弾性体の全部または一部を付与することが好ましい。染色された絡合不織布に加熱プレスした場合、熱により、染料が昇華して、高分子弾性体に移行して高分子弾性体の外観を損なうおそれがある。このような場合には、プレスする工程(5)の後に高分子弾性体を付与することにより、染料の高分子弾性体への移行昇華を抑制することができる。
【0069】
本実施形態の皮革様シートの製造方法においては、工程(3)で得られた絡合不織布をその表層の極細繊維を融着させる条件で加熱プレスする(工程(5))。
【0070】
本工程においては、表層の極細繊維を融着させる条件で加熱プレスすることにより、表層の極細繊維が融着し、いわゆる、繊維銀面が形成される。また、繊維の配向方向を固定する。なお、極細繊維の配向比が高ければ高いほど、極細繊維同士が融着して平滑な繊維銀面が形成されやすくなるために好ましい。
【0071】
表層の極細繊維を融着させる条件で加熱プレスする方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。
【0072】
上述したように、例えば、極細繊維が副吸熱ピークを有するポリエステル系繊維である場合には、副吸熱ピーク温度以上の温度で、融点未満の温度で熱プレスを行う。このような条件で熱プレスを行うことにより、表層の極細繊維を軟化させて融着させることができる。
【0073】
また、上述したように、本工程(4)と上述した工程(3)との間の工程で、絡合不織布に高分子弾性体を付与した場合、海島型繊維の溶融紡糸温度よりも大幅に低く(例えば、50℃以上低く)、高分子弾性体の融点以下の温度で加熱プレスすることにより、表層の極細繊維を軟化させて融着させることができる。この場合には、高分子弾性体が表層に偏在しているために、内層の極細繊維の融着をより有効に抑制することができる。なお、加熱プレス温度が高分子弾性体の融点以上の場合は、高分子弾性体が溶融することによりプレス機に接着することによる生産性不良の問題も生じる場合がある。具体的な条件の一例としては、例えば、130℃以上の表面温度を有する加熱ロールを用いて1〜1000N/mm程度の線圧で熱プレスするような条件が挙げられる。なお、熱プレス温度が高すぎる場合には、表層だけでなく内層の極細繊維同士も融着するおそれがある。なお、融着は、極細繊維同士が完全に融着している状態のみではなく、その表面で部分的に融着している場合も含む。
【0074】
本実施形態の皮革様シートの製造方法においては、最後に、高分子弾性体を含む表層にシボ状の亀裂を生じさせる(工程(6))。
【0075】
高分子弾性体を含む表層にシボ状の亀裂を生じさせる方法の具体例としては、例えば、機械もみ処理装置や温水もみ処理装置を用いたもみ加工があげられる。これらの中では、温水を使用しない、ロープ状または拡布状で行う染色機を利用した処理装置や一般的に用いられる機械もみ処理装置で処理することが好ましい。
【0076】
以上のようにして、本実施形態の皮革様シートが得られる。
次に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例の内容により、何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0077】
[実施例1]
海成分ポリマーである変性PVAと島成分ポリマーである変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−トとを、海成分/島成分が25/75(質量比)となるように260℃の溶融複合紡糸用口金(島数:25島/繊維)から吐出した。なお、島成分から得られる極細繊維は、融点ピーク温度 238℃、副吸熱ピーク温度 115℃の部分配向糸である。そして、紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度2.1デシテックスの海島型繊維をネット上に堆積したスパンボンドシートを得た。
次に、表面温度42℃の金属ロールでネット上のスパンボンドシートを軽く押さえることにより表面の毛羽立ちを抑えた。そしてスパンボンドシートをネットから剥離した。次に、表面温度55℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間で200N/mmの線圧でスパンボンドシートを熱プレスすることにより、表層の海島型繊維が格子状に仮融着された目付31g/m2の長繊維ウェブを得た。そして、得られた長繊維ウェブに油剤および帯電防止剤を付与した。
【0078】
次に、得られた長繊維ウェブをクロスラッピングにより8枚重ねて総目付が250g/m2の重ね合わせウェブを作製し、さらに針折れ防止油剤をスプレーした。そして、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、重ね合わせウェブを針深度8.3mmで両面から交互に3300パンチ/cm2でニードルパンチすることにより絡合ウェブを得た。なお、ニードルパンチ処理による面積収縮率は68%であった。また、得られた絡合ウェブの目付は320g/m2であった。
【0079】
次に、絡合ウェブを70℃の熱水中に14秒間浸漬することによる収縮処理を行った。そして、95℃の熱水中でディップニップ処理を繰り返すことにより海成分ポリマーである変性PVAを溶解除去した。変性PVAを溶解除去することにより、平均繊度0.08デシテックスの25本の極細繊維からなる繊維束が3次元的に交絡した絡合不織布を得た。なお、収縮処理による面積収縮率は52%であった。また、絡合不織布の目付は480g/m2、見掛け密度は0.52g/cm3、剥離強力は4.2kg/25mmであった。
【0080】
次に、バフィングにより絡合不織布の厚みを0.82mmに調整した。そして、絡合不織布に固形分濃度 0.1質量%の水系ポリウレタンエマルジョンを含浸させた。そして、表面側から150℃の熱風で乾燥させることによりポリウレタンを表層にマイグレーションさせて凝固させた。なお、ポリウレタンとしては、ソフトセグメントがポリへキシレンカーボネートジオールとポリメチルペンタンジオールの70:30の混合物からなり、ハードセグメントが主として水添メチレンジイソシアネートからなる、融点180〜190℃、損失弾性率のピーク温度−15℃、130℃での熱水膨潤率が35%のポリウレタンを用いた。また、付与された高分子弾性体の量は、絡合不織布の重量に対して0.2質量%であった。さらに、5%owfの分散染料により茶色に染色した。
【0081】
次に、得られた絡合不織布の表面を172℃、9Kg/cm2の条件で表面に凹凸を有するエンボスロールを用いて熱プレス処理することにより、表層の極細繊維のみを融着させて起毛繊維の配向を固定した。
【0082】
そして、高分子弾性体エマルジョン(成瀬化学製 PE381 ポリエステル系エマルジョン 固形分濃度56%)とフッ素系撥水剤(日華化学(株)製NKガード S02)と水とを17/5/78の割合で混合した樹脂液に、熱プレス処理された絡合不織布を含浸した。そして、110℃の熱風で表面側から乾燥させることによりフッ素系撥水剤を含む撥水性高分子弾性体を表層にマイグレーションさせて凝固させた。なお、付与された撥水性高分子弾性体の量は、絡合不織布の重量に対して1.68質量%であった。このようにして、皮革様シート前駆体を得た。
【0083】
そして、得られた人工皮革用基材の表面に60℃の温度をかけながら機械的なもみ加工を施すことにより、表面を割ってシボ状のクラックを形成した。このようにして厚み1.0mmの皮革様シートAを得た。得られた皮革様シートAは表面にシボ状の模様を有しており、光学顕微鏡でシボ状部分を観察したところ、高分子弾性体に拘束されていない極細繊維が露出しており、露出している極細繊維が面方向で一方向に配向していた。また、厚み方向の断面を走査型電子顕微鏡で観察した。このときの画像を図1に示す。図1の画像に示すように、厚み方向の断面において、高分子弾性体が絡合不織布の表層に偏在して極細繊維を拘束しており、内層の極細繊維は高分子弾性体に拘束されていなかった。また、表層の厚みは約20μmであった。また、画像解析により、高分子弾性体全量の約30質量%が表層に存在することを確認した。
【0084】
そして、極細繊維の融点ピーク温度及び副吸熱ピーク温度、皮革様シートAの速乾性、撥水度、透気度、吸水率、耐磨耗性、及び風合いを次のようにして評価した。
【0085】
[極細繊維の融点ピーク温度及び副吸熱ピーク温度]
示差走査熱量計(TA3000、メトラー社製)のサンプルホルダーに極細繊維を入れ、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で室温から300〜350℃まで昇温(1st Run)した後、直ちに室温まで冷却し、再度直ちに昇温速度10℃/分で300〜350℃まで昇温した(2nd Run)。2nd Runで得られた吸熱ピークのピークトップ温度を融点ピーク温度とした。また、1st Runで得られた吸熱ピークの内、上記融点ピークよりも低温側のピークのピークトップ温度を副吸熱ピーク温度とした。
【0086】
[速乾性]
50mm×50mmの寸法にカットした皮革様シートAに水1ccを吸水させた。そして、温度27℃、湿度52%の温調室に放置して経時的に重量を測定し、吸水される前の重量になるまでの時間(分)を測定した。
【0087】
[撥水度]
45度に傾斜させた皮革様シートAの表面側または裏面側の表面にAATCC(American Association of Textile Chemists and Colorists)に準拠したスプレーテスター(撥水度試験機、口径0.9mmの孔を19個有するスプレーノズル)を用いて、スプレー状に水温27±2℃に調整した水滴を落下させ表面の濡れ状態を判定した。なお、判定基準を以下に示す。
100:表面に付着湿潤を示さない
90:表面にわずかに付着湿潤を示した
80:表面に部分的湿潤を示した
70:表面に湿潤を示した
50:表面全体に湿潤を示した
0:表面全体が完全に湿潤した
【0088】
[透気度]
ガーレ式デンソメーター(空気通過面積=6.42cm2)を用いて、JIS L1096Bに準拠して皮革様シートAの透気度を測定した。
【0089】
[吸水率]
タテ4cm×ヨコ10cmにカットした皮革様シートAの重量を測定した。そして、皮革様シートAをステンレス製金網(2メッシュ)で挟んだ状態で20℃に調整した水に浸漬し、24hr放置した後の試験片の重量を測定した。そして、以下の式により吸水率を算出した。なお、測定はn=2で行った。
吸水率(%)=(浸漬後重量W2(g)−浸漬前重量W1(g))/W1×100
[耐磨耗性]
直径13cmの円状にカットした皮革様シートAをテーバーアブレージョンテスター(TABER INSTRUMENT Corp製)のターンテーブル上にセットした。そして、2個の摩耗輪(H−22、CS−10(ダイトエレクトロン社製))で1000回摩耗させた。なお、荷重は250gにセットした。そして、このときの皮革様シートAの摩耗減量及び、表面の状態変化を判定した。なお、表面の状態変化は以下の基準に従って判定した。
1級:外観変化が認められない
2級:仕上げ層が除去されコート層が露出している
3級:仕上げ層が除去されコート層が半分以上露出している
4級:不織布層が露出している
5級:不織布層が半分以上露出している
[風合い]
20cm角にカットした皮革様シートAを人工皮革分野の5人のパネリストが触った。そして、このとき感じた風合いを以下の基準で判定し、多数決で判定した。
A:天然皮革並の柔軟かつ充実感のある風合い、スポーツ靴のアッパー用素材に最適。
B:柔軟性はあるものの充実感のない風合いであるが、スポーツ靴のアッパー用素材に使用可能。
C:硬くスポーツ靴のアッパー用素材には不適。
結果を表1に示す。
【表1】

【0090】
[実施例2]
フッ素系撥水剤を含む撥水性高分子弾性体の樹脂液を用いる代わりに、撥水剤を含まない成瀬化学 PE381の高分子弾性体の樹脂液を用いた以外は実施例1と同様にして皮革様シートBを得た。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0091】
[実施例3]
高分子弾性体エマルジョン(成瀬化学製 PE381)とフッ素系撥水剤(日華化学(株)製NKガード S02)と水とを17/5/78の割合の代わりに、5/5/90の割合で混合した水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして皮革様シートCを得た。このとき表層の厚みは約10μmであった。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0092】
[比較例1]
固形分濃度0.1質量%の水系ポリウレタンエマルジョン及び、フッ素系撥水剤を含む高分子弾性体エマルジョンのそれぞれに感熱ゲル化剤を添加して乾燥させることにより、樹脂液のマイグレーションを抑制した以外は、実施例1と同様にして皮革様シートαを得た。得られた皮革様シートαは、表面にシボ状の模様を有しており、光学顕微鏡でシボ状の模様部分を観察したところ、高分子弾性体に拘束されていない内層の極細繊維が露出しており、露出している極細繊維が面方向に配向していた。また、厚み方向の断面を走査型電子顕微鏡で観察した。このとき、厚み方向の断面において、高分子弾性体は絡合不織布の全体に満遍なく存在しており、表層に偏在していなかった。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0093】
[比較例2]
モミ加工を施さなかった以外は、実施例1と同様にして皮革様シートβを得た。得られた皮革様シートβは、表面が平滑であり、シボ状の模様を有していなかった。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【0094】
[比較例3]
172℃、9Kg/cm2の条件で表面に凹凸を有するエンボスロールを用いて熱プレス処理しなかった以外は、実施例1と同様にして皮革様シートγを得た。得られた皮革様シートγは、表面にシボ状の模様を有しており、光学顕微鏡でシボ状の模様部分を観察したところ、高分子弾性体に拘束されていない内層の極細繊維が露出していたが、露出している極細繊維が面方向に配向しておらず、立毛していた。そして、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
【符号の説明】
【0095】
1 極細繊維1aからなる絡合不織布
1a 極細繊維
2 高分子弾性体
10 皮革様シート
S 絡合不織布1の表層
M 絡合不織布1の内層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維の絡合不織布と高分子弾性体とを含み、
前記高分子弾性体は、表層に偏在して前記極細繊維を拘束しており、
上面視した場合に、シボ状に、前記高分子弾性体に拘束されていない前記極細繊維が面方向に配向して露出していることを特徴とする皮革様シート。
【請求項2】
厚み方向に前記表層と隣接する内層に存在する前記極細繊維は、高分子弾性体に拘束されていない請求項1に記載の皮革様シート。
【請求項3】
前記極細繊維が長繊維である請求項1または2に記載の皮革様シート。
【請求項4】
前記表層の厚みが0.1〜50μmの範囲である請求項1〜3の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項5】
前記高分子弾性体全量の10質量%以上が前記表層に存在する請求項1〜4の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項6】
前記絡合不織布の重量に対する前記高分子弾性体の割合が0.1〜60質量%の範囲である請求項1〜5の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項7】
前記高分子弾性体がフッ素系撥水剤を含有する高分子弾性体である請求項1〜6に記載の皮革様シート。
【請求項8】
前記極細繊維がポリエステル系繊維である請求項1〜7の何れか1項に記載の皮革様シート。
【請求項9】
(1)海島型繊維からなる長繊維ウェブを製造する工程と、
(2)前記長繊維ウェブに絡合処理を施すことにより絡合ウェブを製造する工程と、
(3)前記絡合ウェブ中の海島型繊維を極細繊維に変換することにより、極細繊維からなる絡合不織布を製造する工程と、
(4)前記絡合不織布に高分子弾性体を形成するための樹脂液を付与した後、前記絡合不織布の表面から加熱することにより前記高分子弾性体が表層に偏在するように樹脂液を乾燥させる工程と、
(5)前記絡合不織布をその表層の極細繊維を融着させる条件で加熱プレスする工程と、
(6)前記高分子弾性体を含む表層にシボ状の亀裂を生じさせる工程と、
を備えることを特徴とする皮革様シートの製造方法。
【請求項10】
前記工程(4)が、前記工程(5)の前と前記工程(5)の後に少なくとも2回設けられ、
前記工程(5)の前に、前記絡合不織布を染色する工程(7)をさらに備える請求項9に記載の皮革様シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−36523(P2012−36523A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176567(P2010−176567)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】