説明

真空ポンプ

【課題】ポンプ内部の温度をポンプ全体に亘ってより高温の一定温度(均一化)に維持して、ポンプ内部に生成物が発生して堆積することを簡易に防止する。
【解決手段】複数のポンプ室50a〜50fと、吸気側に位置するポンプ室に連通する吸気口52aと、吐出側に位置するポンプ室に連通する排気口52bとを有するポンプケーシング54と、両端を軸受で回転自在に支承されてポンプケーシングの長さ方向に沿って延びる回転軸58と、各ポンプ室内にそれぞれ収容され、回転軸に連結されて該回転軸の回転に伴って回転する複数のロータ60a〜60fとを有し、ポンプケーシング54は、回転軸と平行に該ポンプケーシングの長さ方向のほぼ全長に亘って延びる第1伝熱部材72と、第1伝熱部材72の排気口52b側の端部に近接した位置に位置して該ポンプケーシングの幅方向に延びる第2伝熱部材74とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体、液晶、太陽電池、LED等の製造工程の一つであるCVDやエッチングといったプロセスで使用される真空ポンプであって、ポンプ内部に昇華性ガスや腐食性ガスが流入するプロセスで使用される真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
真空ポンプを使用して真空チャンバ内に導入したプロセスガスを真空排気する場合、真空ポンプの真空チャンバに接続される吸気口付近は、真空チャンバの内部と同じ真空状態となり、真空ポンプの排気口付近は、大気に開放されてほぼ大気圧となる。また、真空ポンプの駆動に伴って真空チャンバ等の内部のプロセスガスを真空排気する際、排気するプロセスガスの圧縮工程でポンプ内部に圧縮熱が発生する。
【0003】
特に、多段真空ポンプを使用して真空チャンバ等の内部を真空排気する場合は、1段目よりも2段目、2段目よりも3段目と、段数が増加するに従ってポンプ室の内部圧力が段階的に増加し、また、各段のポンプ室内で気体が圧縮されて圧縮熱が発生する。このため、気体(プロセスガス)は、各段のポンプ室内を段階的に加圧されながら移送され、この移送に伴って気体の温度も段階的に上昇する。しかも、同じポンプ室であっても、ポンプ室の吐出側に位置する気体の方が吸込側に位置する気体よりも圧力及び温度が高くなる。このように、多段真空ポンプを使用して真空チャンバ等の内部を真空排気する場合は、多段真空ポンプの吸気口に近い、低圧領域で低温となり、排気口に近い、大気圧近傍の高圧領域で局部的に高温となり易い。
【0004】
ここに、例えば真空チャンバ内の排気に使用して、真空ポンプの内部に昇華性物質を含むプロセスガスが流入する場合、ポンプ内部の温度が昇華性物質の昇華曲線よりも低いと、ポンプ内部に流入したプロセスガスに含まれる昇華性物質が気体から固体となってポンプ内部に析出しポンプ停止の原因となる。
【0005】
一方、ポンプ内部が局所的に高温となると、ポンプ内部に流入したクリーニングガスやエッチングガスによってポンプ内部が腐食されることがある。
【0006】
なお、凝縮性気体や昇華性気体等の気体の排気に適するようにポンプ室の温度を高めに維持しつつ、潤滑油室の潤滑油の温度を低めに維持するのに有利で、潤滑油の蒸気化を抑えるため、相対的に温度が高めのポンプ室と相対的に温度が低めの潤滑油室との間に中空状をなす断熱用の中間室と、冷媒を通過させる冷却通路とを形成するようにしたドライポンプが提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、出願人は、耐食性や強度等を犠牲にすることなく、吸気側と吐出側の温度差を小さくして、ロータどうしやロータとケーシングとのクリアランスを精度良く管理して高い排気性能を得るため、軸体部(ロータ軸)の内部に軸方向に延びる軸孔を形成し、該軸孔内に、軸体部の材料より熱伝導率が高い材料、例えばアルミニウムからなる芯部を一体に埋設した回転式気体機械用ロータを提案している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−105829号公報
【特許文献2】特開平11−230060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来例は、そのいずれもがポンプ内部をポンプ全体に亘ってより高温に維持することで、ポンプ内に流入するプロセスガスに含まれる昇華性物質等に起因してポンプ内部に生成物が析出するのを防止しつつ、ポンプ内部が局所的に腐食温度以上の高温となることを防止するようにしたものではない。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みて為されたもので、ポンプ内部が局所的に腐食温度以上の高温となることを防止しつつ、ポンプ内部の温度をポンプ全体に亘ってより高温の一定温度(均一化)に維持して、ポンプ内部に生成物が発生して堆積することを、ヒータ等を使用することなく簡易に防止できるようにした真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、互いに連通して長さ方向に沿って延びる複数のポンプ室と、吸気側に位置するポンプ室に連通する吸気口と、吐出側に位置するポンプ室に連通する排気口とを有するポンプケーシングと、両端を軸受で回転自在に支承されて前記ポンプケーシングの長さ方向に沿って延びる回転軸と、前記各ポンプ室内にそれぞれ収容され、前記回転軸に連結されて該回転軸の回転に伴って回転する複数のロータとを有し、前記ポンプケーシングは、前記回転軸と平行に該ポンプケーシングの長さ方向のほぼ全長に亘って延びる第1伝熱部材と、前記第1伝熱部材の前記排気口側の端部に近接した位置に位置して該ポンプケーシングの幅方向に延びる第2伝熱部材とを有することを特徴とする真空ポンプである。
【0012】
多段ポンプの各ポンプ室にあっては、排気口側に位置するポンプ室ほど、内部温度が順次高温となり、第1段のポンプ室が最も低温で、最終段付近のポンプ室が最も高温となる。また、同じポンプ室であっても、出口側に位置する領域の方が入口側に位置する領域よりも高温となる。このため、回転軸と平行にポンプケーシングの長さ方向のほぼ全長に亘って延びるようにポンプケーシングに配置した第1伝熱部材と、第1伝熱部材の排気口側の端部に近接した位置に位置してポンプケーシングの幅方向に延びるようにポンプケーシングに配置した第2伝熱部材を介して、ポンプ室を区画するポンプケーシングの熱を、ポンプケーシングの長さ方向及び幅方向の全域に亘って、より均一に分散させながら、高温側から低温側に効率良く熱を伝達することで、ポンプ内部が局所的に腐食温度以上の高温となることを防止しつつ、ポンプ内部の温度をポンプ全体に亘ってより高温の一定温度(均一化)に維持することができる。伝熱部材は、例えばアルミニウム、アルミニウム合金または銅等の伝熱性の良好な材料で構成される。
【0013】
請求項2に記載の発明は、互いに連通して長さ方向に沿って延びる複数のポンプ室と、吸気側に位置するポンプ室に連通する吸気口と、吐出側に位置するポンプ室に連通する排気口とを有するポンプケーシングと、両端を軸受で回転自在に支承されて前記ポンプケーシングの長さ方向に沿って延びる回転軸と、前記各ポンプ室内にそれぞれ収容され、前記回転軸に連結されて該回転軸の回転に伴って回転する複数のロータとを有し、前記ポンプケーシングには、前記排気口に連通するポンプ室の反ポンプ室側に隣接して該ポンプ室に連通する中間室が形成され、この中間室の内部には、該中間室内に導入されたプロセスガスの前記回転軸周りに沿った流路を形成する仕切板が設けられていることを特徴とする真空ポンプである。仕切板は、ポンプケーシングと一体に設けられても、ポンプケーシングと別部材として設けられてもよい。
【0014】
前述のように、多段ポンプにあっては、最終段付近のポンプ室が最も高温となり、また、同じ最終段付近のポンプ室であっても、出口側に位置する領域の方が入口側に位置する領域よりも高温となる。このため、最終段のポンプ室から吐き出される高温のプロセスガスの一部を中間室内に導き、中間室内を循環させて最終段のポンプ室の入口側を高温のプロセスガスで加熱した後にプロセスガスを排気することで、ヒータ等を取り付けることなく、最終段のポンプ室の入口側を高温にすることができ、ポンプ内部の生成物の析出を抑えることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、互いに連通して長さ方向に沿って延びる複数のポンプ室と、吸気側に位置するポンプ室に連通する吸気口と、吐出側に位置するポンプ室に連通する排気口とを有するポンプケーシングと、両端を軸受で回転自在に支承されて前記ポンプケーシングの長さ方向に沿って延びる回転軸と、前記各ポンプ室内にそれぞれ収容され、前記回転軸に連結されて該回転軸の回転に伴って回転する複数のロータとを有し、前記ポンプケーシングの端面には、該端面に隣接して配置されるサイドパネルとを仕切る端壁が設けられていることを特徴とする真空ポンプである。
【0016】
このように、ポンプケーシングの端面に、該端面に隣接して配置されるサイドパネルとを仕切る端壁を設けて、ポンプ室内に配置されるロータの全てをポンプケーシングで覆うことで、例えば軸受を冷却する潤滑油等の伝熱で冷えたサイドパネルにより、ポンプケーシング内のポンプ室及びプロセスガスが冷却されて、生成物がポンプ内部に析出することを抑制できる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、前記ポンプケーシングの外胴は、内部にガス通路を備えた二重壁構造を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の真空ポンプである。
【0018】
このように、ポンプケーシングの外胴を、内部にガス通路を有する二重壁構造とすることで、このガス通路に沿って流れる高温のプロセスガスを通して、ポンプ室の内部と外部とをより確実に遮断し、これによって、ポンプ内部が低温となって、昇華性物質が気体から固体となってポンプ内部(ポンプケーシング内周面)に付着してしまうことを防止することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、前記ポンプケーシングは、該ポンプケーシングの外周部を包囲する保温ジャケットを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の真空ポンプである。
【0020】
これにより、ポンプ室の内部をポンプケーシングの外周部を包囲する保温ジャケットで保温することで、ポンプ内部が低温となって、昇華性物質が気体から固体となってポンプ内部(ポンプケーシング内周面)に付着してしまうことを防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ヒータ等の部品を使用することなく、ポンプ内部の温度をポンプ全体に亘ってより高温の一定温度(均一化)に維持して、ポンプ内部の生成物の析出や腐食を抑制し、これによって、プロセスの信頼性を高めることができるようにした真空ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態の真空ポンプを示す縦断正面図である。
【図2】図1に示す真空ポンプに備えられているメインポンプの第1段ポンプ室の縦断側面図である。
【図3】図1に示す真空ポンプに備えられているメインポンプのポンプケーシングを示す斜視図である。
【図4】図1に示す真空ポンプに備えられているメインポンプのポンプケーシングの図2に示すX−X線断面図である。
【図5】図1に示す真空ポンプに備えられているメインポンプのポンプケーシングの第1段ポンプ室を断面で示す斜視図である。
【図6】図1に示す真空ポンプに備えられているメインポンプのポンプケーシングの排気口側に位置する側壁をモータ側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る真空ポンプ10の縦断正面図を示す。図1に示すように、真空ポンプ10は、真空側に配置されるブースタポンプ12と大気側に配置されるメインポンプ14とを有しており、ブースタポンプ12とメインポンプ14は、連絡配管16で互いに接続されている。この例にあっては、メインポンプ14として、6段のルーツ式真空ポンプが使用され、単段のルーツ式真空ポンプからなるブースタポンプ12と組合せて使用するように構成されている。
【0024】
ブースタポンプ12は、内部にポンプ室18を区画形成する略円筒状の外胴20を有するポンプケーシング22と、モータ24の駆動に伴って互いに同期して逆方向に回転する一対の回転軸26とを有している。ポンプ室18内には、互いに隣接する位置に、所定のクリアランスをもって、例えば2葉のロータからなる一対のロータ28がそれぞれ回転自在に収容され、この各ロータ28は、回転軸26にそれぞれ固着されている。ポンプケーシング22の外胴20には、処理対象の真空チャンバ等から延びる吐出管(図示せず)に接続される吸気口20aと、連絡配管16に接続される排気口20bが設けられている。これによって、一対のロータ28の互いに同期した逆方向の回転に伴って、吸気口20aからポンプ室18内にプロセスガスを流入させ、圧縮させて排気口20bから外部に移送するようになっている。なお、図1には、回転軸26及び該回転軸26の駆動機構等の一方のみが図示されているが、紙面と反対側にもほぼ同様な構成が備えられている。
【0025】
この例において、ポンプケーシング22の外胴20の吸気口20a及び排気口20bを除く領域の外周部は、略円筒状の保温ジャケット30で一体的に包囲されている。これによって、ポンプ室18の内部と外部とが保温ジャケット30で遮断されてポンプ室18内が保温されるようになっている。
【0026】
ポンプケーシング22の両側方には、サイドパネル32a,32bがそれぞれ配置され、この各サイドパネル32a,32bにそれぞれ取り付けた軸受ハウジング34a,34b内に収容した軸受36a,36bを介して、回転軸26がその両端において回転自在に支承されている。更に、サイドパネル32a,32bの側方に位置して、内部に潤滑油を溜める潤滑油ハウジング40a,40bが配置され、一方の潤滑油ハウジング40bにモータ24のモータハウジングが連結されている。
【0027】
サイドパネル32a,32bには、サイドパネル32a,32bの回転軸26の挿通部にNガス等のパージガスを供給して、ポンプ室18内に流入したプロセスガスが軸受36a,36bの方向に流出することを防止するためのパージガス通路42a,42bがそれぞれ設けられている。
【0028】
ブースタポンプ12は、一般に真空度が高く(圧力が低く)、圧縮熱があまり発生しないので発熱に乏しい。このため、ブースタポンプ12の外部または内部にヒータ等の加熱手段を設けて、ブースタポンプ12を積極的に加熱することが望ましい。更に、ポンプケーシング22の外胴20の吸気口20a及び排気口20bを除く領域を保温ジャケット30で包囲することで、ポンプ室18内の温度が外気によって低下してしまうことを防止することができる。
【0029】
メインポンプ14は、この例では、6段のルーツ式真空ポンプで構成されており、内部に第1〜第6の合計6段のポンプ室50a〜50fを区画形成する略円筒状の外胴52を有するポンプケーシング54と、モータ56の駆動に伴って互いに同期して逆方向に回転する一対の回転軸58を有している。第1段ポンプ室50aの内部には、図2に示すように、例えば3葉ロータからなる一対のロータ60aがそれぞれ回転自在に収容されている。同様に、第2段ポンプ室50bの内部には、例えば3葉ロータからなる一対のロータ60bが、第3段ポンプ室50cの内部には、例えば3葉ロータからなる一対のロータ60cが、第4段ポンプ室50dの内部には、例えば3葉ロータからなる一対のロータ60dが、第5段ポンプ室50eの内部には、例えば3葉ロータからなる一対のロータ60eが、第6段ポンプ室50fの内部には、例えば3葉ロータからなる一対のロータ60fがそれぞれ収容されている。そして、直線状に並ぶ一方のロータ60a〜60fは一方の回転軸58に、他方のロータ60a〜60fは他方の回転軸58にそれぞれ固着されている。
【0030】
ポンプケーシング54は、外胴52の端部を閉塞する一対の端壁62a,62bと、外胴52の内部を仕切る5枚の仕切壁64a〜64eとを有しており、一方の端壁62aと第1仕切壁64aとの間に第1段ポンプ室50aが、第1仕切壁64aと第2仕切壁64bとの間に第2段ポンプ室50bが、第2仕切壁64bと第3仕切壁64cとの間に第3段ポンプ室50cが、第3仕切壁64cと第4仕切壁64dとの間に第4段ポンプ室50dが、第4仕切壁64dと第5仕切壁64eとの間に第5段ポンプ室50eが、第5仕切壁64eと他方の端壁62bとの間に第6段ポンプ室50fがそれぞれ形成されている。
【0031】
第1段ポンプ室50aは、図2に示すように、一対のロータ60aの互いに同期した逆方向の回転に伴って、この入口側(図示では上側、以下同じ)から第1段ポンプ室50aの内部にプロセスガスを流入させて圧縮し、出口側(図示では下側、以下同じ)から第1段ポンプ室50aの外部にプロセスガスを移送するようになっている。このことは、第2段〜第6段ポンプ室50b〜50fにあってもほぼ同様である。
【0032】
ポンプケーシング54の外胴52には、連絡配管16に接続されて第1段ポンプ室50aの入口側(上側)に連通する吸気口52aと、第6段ポンプ室(最終段ポンプ室)50fの出口側(下側)に連通する排気口52bが設けられている。更に、ポンプケーシング54の外胴52は、内壁66と該内壁66と所定間隔離間して配置される外壁68とを備えた二重壁構造を有しており、内壁66と外壁68との間にガス通路70a〜70eが形成されている。つまり、第1段ポンプ室50aの周囲に第1ガス通路70aが、第2段ポンプ室50bの周囲に第2ガス通路70bが、第3段ポンプ室50cの周囲に第3ガス通路70cが、第4段ポンプ室50dの周囲に第4ガス通路70dが、第5段ポンプ室50eの周囲に第5ガス通路70eがそれぞれ形成されている。第5ガス通路70eは、さらに第6段ポンプ室50fの周囲に拡張している。
【0033】
これらの各ガス通路70a〜70eの一方は、各ポンプ室50a〜50eの出口側(下側)で各ポンプ室50a〜50eの内部にそれぞれ連通し、各ガス通路70a〜70eの他方は、各ポンプ室50b〜50fの入口側(上側)で各ポンプ室50b〜50fの内部にそれぞれ連通している。これによって、図2に示すように、吸引口52aを通して入口側から第1段ポンプ室50a内に流入したプロセスガスは、第1段ポンプ室50aの内部を通過した後、第1段ポンプ室50aの出口側(下側)から第1ガス通路70a内に流入し、該第1ガス通路70aに沿って上方に流れた後、第2段ポンプ室50bの入口側(上側)に達する。そして、入口側から第2段ポンプ室50b内に流入したプロセスガスは、第2段ポンプ室50bの内部を通過した後、第2段ポンプ室50bの出口側から第2ガス通路70b内に流入し、該第2ガス通路70bに沿って上方に流れた後、第3段ポンプ室50cの入口側に達する。このようにして、プロセスガスは、更に第3段〜第6段ポンプ室50c〜50f内を順次通過した後、第6段ポンプ室50fの出口側から排気口52bを通して外部に排気される。
【0034】
ポンプケーシング54の各ポンプ室50a〜50eの出口側に位置する下部には、ポンプケーシング54の幅方向にほぼ中央に位置して、回転軸58と平行にポンプケーシング54の長さ方向のほぼ全長に亘って延びる、例えば棒状体からなる1本の縦伝熱部材(第1伝熱部材)72がポンプケーシング54の内部に埋設され吸引口52a側端部をポンプケーシング54の外部に露出させて配置されている。更に、縦伝熱部材72の排気口52b側の端部に近接した位置、この例では、第4段ポンプ室50dと第5段ポンプ室50eとを仕切る第4仕切壁64d、及び第5段ポンプ室50eと第6段ポンプ室50fを仕切る第5仕切壁64eの内部に、ポンプ室50d〜50fの出口側の下部に位置して、ポンプケーシング54の幅方向のほぼ全長に亘って延びる、例えば棒状体からなる横伝熱部材(第2伝熱部材)74が両端をポンプケーシング54の外部に露出させて埋設されている。
【0035】
縦伝熱部材72及び横伝熱部材74は、伝熱性が良好な、例えばアルミニウム、アルミニウム合金または銅等から切削加工された別体でもよいし、耐食材料で製作されたポンプケーシング54に、アルミ鋳物等で一体に成形してもよい。
【0036】
多段ポンプの各ポンプ室にあっては、排気口側に位置するポンプ室ほど、内部温度が順次高温となる。つまり、この例にあっては、第1段ポンプ室50aが最も低温で、最終段付近の第5段ポンプ室50e乃至第6段ポンプ室50fが最も高温となる。また、同じポンプ室であっても、入口側に位置する領域(上側)よりも出口側に位置する領域(下側)の方が高温となる。つまり、この例にあっては、第5段ポンプ室50eの出口側(下側)乃至第6段ポンプ室50fの出口側(下側)が最も高温となる。
【0037】
この例によれば、第4仕切壁64d及び第5仕切壁64eの内部に配置した横伝熱部材74によって、主に最も高温となる箇所、つまり第5段ポンプ室50eの出口側(下側)乃至第6段ポンプ室50fの出口側(下側)の温度をポンプケーシング54の幅方向に均一に分散させ、更に回転軸58と平行にポンプケーシング54の長さ方向のほぼ全長に亘って延びるように配置した縦伝熱部材72によって、主に高温側の温度を低温側に伝えることによって、ポンプ内部が局所的に腐食温度以上の高温となることを防止しつつ、ポンプ内部の温度をポンプ全体に亘ってより高温の一定温度(均一化)に維持することができる。つまり、このようにポンプケーシング54の内部に縦伝熱部材72及び横伝熱部材74を配置することによって、ポンプケーシング54の温度を、その長さ方向と幅方向の全域に亘って、生成物析出温度以上(例えば110℃以上)で、かつポンプ腐食温度以下(例えば200℃以下)の必要温度範囲内に収めることができる。
【0038】
また、ポンプケーシング54の外胴52を、内部にガス通路70a〜70eを有する二重壁構造とすることで、このガス通路70a〜70eに沿って流れる高温のプロセスガスを通して、ポンプ室50a〜50fの内部と外部とをより確実に遮断し、これによって、ポンプ内部が低温となって、プロセスガスに含まれる昇華性物質等が気体から固体となってポンプ内部(ポンプケーシング内周面)に付着してしまうことを防止することができる。特に、高温のプロセスガスがガス通路70a〜70eに沿って各ポンプ室50a〜50eの出口側(下側)から次の段の入口側(上側)に向かって流れるようにすることで、この高温のプロセスガスでポンプ室50a〜50fを有効に加熱することができる。
【0039】
この例では、ポンプケーシング54の外胴52の吸気口52a及び排気口52bを除く領域の外周部を略円筒状の保温ジャケット80で一体的に包囲している。これによって、ポンプ室50a〜50fの内部と外部とを保温ジャケット80によっても遮断して、ポンプ室50a〜50fの保温効果を高めることができる。
【0040】
ポンプケーシング54の端壁62a,62bの側方には、サイドパネル82a,82bがそれぞれ配置され、このサイドパネル82a,82bにそれぞれ取り付けた軸受ハウジング84a,84b内に収容した軸受86a,86bを介して、回転軸58がその両端において回転自在に支承されている。更に、サイドパネル82a,82bの側方に位置して、内部に潤滑油を溜める潤滑油ハウジング90a,90bが配置され、一方の潤滑油ハウジング90bにモータ56のモータハウジングが連結されている。サイドパネル82a,82bには、サイドパネル82a,82bの回転軸58の挿通部にNガス等のパージガスを供給して、ポンプ室50a〜50f内に流入したプロセスガスが軸受86a,86bの方向に流出することを防止するためのパージガス通路92a,92bが設けられている。
【0041】
この例では、ポンプケーシング54の第1段ポンプ室50a側に位置する端壁62aが、第1段ポンプ室50a内に収容されるロータ60aと該ロータ60aの側方に配置されるサイドパネル82aとの間に位置し、ポンプケーシング54の第6段ポンプ室50f側に位置する端壁62bが、第6段ポンプ室50f内に収容されるロータ60fと該ロータ60fの側方に配置されるサイドパネル82bとの間に位置して、ポンプ室50a〜50f内に配置されるロータ60a〜60fの全てをポンプケーシング54で覆うことができるように構成されている。これにより、例えば軸受86a,86bを冷却する潤滑油等の伝熱で冷えたサイドパネル82a,82bにより、ポンプケーシング54内のポンプ室50a〜50f及びプロセスガスが冷却されて、生成物がポンプ内部に析出することを抑制できる。
【0042】
更に、この例では、ポンプケーシング54の第6段ポンプ室(最終段ポンプ室)50f側に位置する端壁62bと該端壁62bの側方に配置されるサイドパネル82bとの間に中間室94が形成されている。端壁62bの幅方向のほぼ中央には、図4及び図6に示すように、第6段ポンプ室(最終段ポンプ室)50fの出口側(下側)に位置して、排気穴96が設けられている。また、図6に示すように、排気穴96の側方に位置して、逆流穴98が設けられ、更に、排気穴96と逆流穴98との間に位置して、回転軸58から中間室94の底面まで延びて排気穴96から排気されたプロセスガスの逆流穴98への短絡を防止する仕切板100が設けられている。これにより、図6に示すように、中間室94の内部に、排気穴96から上方に向かって回転軸58の上方に達し、しかる後に回転軸58の周囲に沿って下降するガス流路102が形成されるようになっている。
【0043】
なお、この例では、仕切板100をポンプケーシング54と別体の板体で構成し、この板体からなる仕切板100をポンプケーシング54に固定するようにした例を示しているが、ポンプケーシング54と仕切板100とを一体成形するようにしてもよい。
【0044】
前述のように、多段ポンプにあっては、最終段付近のポンプ室が最も高温となり、また、同じ最終段付近のポンプ室であっても、出口側に位置する領域の方が入口側に位置する領域よりも高温となる。このため、この例では、第6段ポンプ室(最終段ポンプ室)50fから吐き出される高温のプロセスガスの一部を、排気穴96を通して中間室94の内部に導き、ガス流路102に沿って中間室94内を循環させて、第6段ポンプ室50fの入口側を端壁62bを介して高温のプロセスガスで加熱し、しかる後、高温のプロセスガスを逆流穴98を通して排気口52bから排気することで、第6段ポンプ室(最終段ポンプ室)50fの内部の温度をより高温にすることができる。
【0045】
上述のように構成された真空ポンプ10にあっては、ブースタポンプ12のモータ24及びメインポンプ14のモータ56を駆動して、真空チャンバ等の内部に導入されたプロセスガスをブースタポンプ12及びメインポンプ14で真空排気する。
【0046】
この時、真空ポンプ10の内部をポンプ全体に亘ってより高温に維持することで、ポンプ内に流入するプロセスガスに含まれる昇華性物質等に起因してポンプ内部に生成物が析出するのを防止しつつ、ポンプ内部が局所的に腐食温度以上の高温となることを防止することができる。
【0047】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において、クロー式、スクリュー式を含めた種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0048】
10 真空ポンプ
12 ブースタポンプ
14 メインポンプ
16 連絡配管
18 ポンプ室
20 外胴
20a 吸気口
20b 排気口
22 ポンプケーシング
24 モータ
26 回転軸
28 ロータ
30 保温ジャケット
32a,32b サイドパネル
36a,36b 軸受
40a,40b 潤滑油ハウジング
42a,42b パージガス通路
50a〜50f ポンプ室
52 外胴
52a 吸気口
52b 排気口
54 ポンプケーシング
56 モータ
58 回転軸
60a〜60f ロータ
62a,62b 端壁
64a〜64e 仕切壁
66 内壁
68 外壁
70a〜70e ガス通路
72 縦伝熱部材(第1伝熱部材)
74 横伝熱部材(第2伝熱部材)
80 保温ジャケット
82a,82b サイドパネル
86a,86b 軸受
90a,90b 潤滑油ハウジング
92a,92b パージガス通路
94 中間室
96 排気穴
98 逆流穴
100 仕切板
102 ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに連通して長さ方向に沿って延びる複数のポンプ室と、吸気側に位置するポンプ室に連通する吸気口と、吐出側に位置するポンプ室に連通する排気口とを有するポンプケーシングと、
両端を軸受で回転自在に支承されて前記ポンプケーシングの長さ方向に沿って延びる回転軸と、
前記各ポンプ室内にそれぞれ収容され、前記回転軸に連結されて該回転軸の回転に伴って回転する複数のロータとを有し、
前記ポンプケーシングは、
前記回転軸と平行に該ポンプケーシングの長さ方向のほぼ全長に亘って延びる第1伝熱部材と、
前記第1伝熱部材の前記排気口側の端部に近接した位置に位置して該ポンプケーシングの幅方向に延びる第2伝熱部材とを有することを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
互いに連通して長さ方向に沿って延びる複数のポンプ室と、吸気側に位置するポンプ室に連通する吸気口と、吐出側に位置するポンプ室に連通する排気口とを有するポンプケーシングと、
両端を軸受で回転自在に支承されて前記ポンプケーシングの長さ方向に沿って延びる回転軸と、
前記各ポンプ室内にそれぞれ収容され、前記回転軸に連結されて該回転軸の回転に伴って回転する複数のロータとを有し、
前記ポンプケーシングには、前記排気口に連通するポンプ室の反ポンプ室側に隣接して該ポンプ室に連通する中間室が形成され、この中間室の内部には、該中間室内に導入されたプロセスガスの前記回転軸周りに沿った流路を形成する仕切板が設けられていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項3】
互いに連通して長さ方向に沿って延びる複数のポンプ室と、吸気側に位置するポンプ室に連通する吸気口と、吐出側に位置するポンプ室に連通する排気口とを有するポンプケーシングと、
両端を軸受で回転自在に支承されて前記ポンプケーシングの長さ方向に沿って延びる回転軸と、
前記各ポンプ室内にそれぞれ収容され、前記回転軸に連結されて該回転軸の回転に伴って回転する複数のロータとを有し、
前記ポンプケーシングの端面には、該端面に隣接して配置されるサイドパネルとを仕切る端壁が設けられていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項4】
前記ポンプケーシングの外胴は、内部にガス通路を備えた二重壁構造を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記ポンプケーシングは、該ポンプケーシングの外周部を包囲する保温ジャケットを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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